逝きし世の面影

政治、経済、社会、宗教などを脈絡無く語る

家計から見る経済学

2009年01月30日 | 経済

『人々の暮らしに思いを馳せる心』

この十年余りの歳月。政府が長期経済計画『生活大国五ヵ年計画』(1992年)から『構造改革の為の経済社会計画』(1995年)へと変更されたあたりから,日本の経済政策,経済分析。経済論議は現実の一般庶民からかけ離れたところに行ってしまっていた。

この時期から、政府やマスコミ論調から『労働時間の短縮』等の人々の暮らしや生活に重点を置いた目標や表現が消え、その代わりに『経済活力』や『規制緩和』や『構造改革』等の言葉が頻繁に使われだす。

『日本経済の長期好景気とは何だったのか』?

2002年2月から回復へと向かい始め6年間(69ヶ月間)に及ぶ、神武景気、岩戸景気、いざなぎ景気以上の長期にわたる好景気とはどのようなものだったのだろうか。?
(内閣府は2002年1月が近年で景気が最も悪かった景気の谷と判断している)

史上最長の好景気、5年と3・4半期の凡そ6年間に、国内総生産の増加額は24兆円(増加率4,9%)であった。
これを年に換算すると、平均年間増加額が4兆円(増加率0・8%)。
これは、いざなぎ景気が年間18・4%、バブル景気年間7・3%と比べれば如何に少ないかが分かる。
景気拡張期としては最も小さいもので、年間だと殆んど目に見えないほどの増加で普通の日本人が『景気が良くなった』と言う実感が無いのは当然であったのです。

『未だ名前も付けられていない最長の好景気の不思議』

この史上最長の好景気の名前の候補が『しみったれ景気』とか、『まぼろし景気』とか、『蜃気楼景気』とか、『ワーキングプア景気』とかと、およそ好景気の名前とは縁遠い命名が揶揄されているのは当然だったのです。

『輸出頼りの景気回復』

この間日本経済に対する総需要は539兆円から601兆円へ62兆円(11・5%)に増えているが、増加分は国内需要22兆円(4・5%、1・05倍)に対して輸出が40兆円だった。
需要の増加の65%は輸出で占められていたのです。
因みに需要に占める輸出の比率は10%(2002年10%、2007年16%)
需要に占める国内需要の比率は84%~90%の高率であるが、その増加の割合が6年間でわずかに1・05倍とほとんど変わらなかった。

世間では『構造改革』で景気が良くなったと言われていたが、輸出増は中国等の高度成長の結果、『海外景気が好調』だったための『輸出頼み』で中身は全く好景気とは縁遠い。
小泉改革のお陰などは全くの戯言である。

『実感が無いのは当然』

2002年に底を打った景気が『家計、暮らし』と言う視点から見ると、この間少しも良くなっていなかった。
むしろ悪くなってさえいる。

『賃金が下がり続けている。』

国税庁の民間給与実態調査によると、1997年調査の平均給与467万円をピークに以降、毎年下がり続けて、2006年には435万円となっている。
景気が最悪であったとされる2001年1月は454万円だった平均給与がそれ以降も減り続けているのです。
大半の家計にとっては景気は悪くなり続けているのが、実感だったのです。

『雇用が不安定化している』

就業者の総数が2001年が6412万人、2006年が6382万人で30万人ほど減っている。
その中身も正規雇用者は大幅に減り、非正規社員が全体の34%、女性や若年層に限ると50%超、半分以上の高率です。

『貧困化が進んでいる』

賃金が下がり、安定した働き口が減り、加えて年金、介護などの社会保障の引き上げ、医療費の増加と、増税(各種控除の廃止、縮小、定率減税の廃止など)で生活は苦しくなるばかり。
2001年に17%だった『貯金ゼロ所帯』が2006年調査では23%に膨らんでいる。
生活保護所帯も2001年80万所帯が2006年度には100万所帯を超えてしまった。

『家計とは反対に大企業は史上最大の大増益』

景気が回復するにつれ、企業収益は増えるけれども賃金は下がったまま。
今回の景気回復期では景気の谷(2001年)に比べ計上利益は1・9倍に膨らんで、過去の景気回復期に比べても最大の膨らみ方をしている。

戦後ずっと、景気回復期には、需要が増える(輸出や公共事業が増える)と、それによって企業の売り上げが増える。→生産活動が活発化。→企業の利益が増える。→景気が回復に向かう。→企業が雇用を増やす。→賃金を上げる。→家計の所得が増える。→消費が増える。→消費が増えると企業の売り上げが増える。→生産活動がさらに活発化する。→企業の利益がさらに増える。→家計の所得がさらに増え。→消費がさらに増える。
というふうに、景気は一度回復に向かい始めると本格的な回復へと自立的に動いていくことになる。
これが、これまでの景気回復であった。

それが今回の戦後最長の景気回復では当てはまらない。
企業の利益は家計の所得には全く向かわない。企業の利益は株主配当や内部留保にまわし従業員には還元しない。
ですから暮らしは良くならず景気は本格回復できない。
何時まで経っても輸出頼みの景気回復となっているので、アメリカの金融危機で海外の景気が悪くなると、現在の様に、国内景気がたちまち悪くなる。
現在の日本の経済危機は、今まで20年間続けてきた『構造改革』によるもので、『起こって当たり前』の当然の事柄であり『当然の結果』であった。

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2 コメント

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格差拡大景気 (志村建世)
2009-01-30 16:17:48
「史上最長好景気」の実態は、経済足踏みの中で格差の拡大だけが続いた6年間だったわけですね。好景気は大企業と投資家の独占物だった。
 簡明にまとまった解説を、ありがとうございました。私のブログでも、紹介させていただくかもしれません。
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コメント有り難うございます (ブログ主)
2009-01-31 16:52:40
20年目前の中曽根康弘あたりから始まり、10年前から本格的に日本に導入されだした(新自由主義)ブローバル経済の実体が、日本において徐々に明らかになりつつありましたが、ここにきて一挙に負の側面が暴かれ凄まじいことになっています。
しかし、何故、こんな酷い事になったのでしょうか。?
何故、色々批判は有った筈なのに、こうなるまで10年間も放置していたのでしょうか。?
政府や財界の責任者は、誰も現在の事態を予想しなかったのでしょうか。?
不思議でなりません。
20年前の中曽根あたりから『こうすれば、こうなる』と現在の悲惨な事態は有る程度は予想された事柄です。
経済が需要と供給、生産と消費の両輪で成り立っている事ぐらい誰でも、中学生でも分る筈です。
責任ある経済学者や政府が『分らなかった』では済まされません。
特に、経済をサプライサイドだけの問題と捉え、『徹底的に生産側を合理化して安くて良い物を作りさえすれば需要は自動的に付いて来る』なんて事は手品や魔術での無い限り、絶対に起こるはずが無い。
10年間も日本の経営者や政府が一生懸命にやった構造改革、リストラや賃下げ等の雇用条件の悪化や社会保障の縮小は、暮らしを直撃して『消費』を冷やし結果的に景気回復を妨げた。
ところがみんな(日本政府、財界、連合幹部など一部労働団体)は正反対の起きる筈の無い楽観的な自分勝手な見通しを立てていた。
これではブッシュ政権が『アメリカ軍はバクダット入城でイラク人から花束で迎えられる』と考えてイラク進攻したのと五十歩百歩の自分勝手の能天気なお気楽さ。
今の事態は『成るべくして成った』当然の結果ですね。


与謝野馨経済財政担当相が戦後最長の景気拡大を『ダラダラ陽炎景気』と名づけた様です。
エコノミスト等は『リストラ景気』とか『格差型景気』とか『無実感景気』等の名があがっている。
気分が滅入る縁起の悪い名称の数々で、何とも不景気な話です。
「戦後最長の好景気」その実体は自爆攻撃に似た売国的な『新自由主義景気』であり『ブローバル景気』でもあった。
それならいっそヤケクソで『長期不景気景気』(なんじゃそら)と命名してみる。
何か、もう少し良い名前はないでしょうか。?
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