育てなくても構わない?
酒井穣氏の「『日本で最も人材を育成する会社』のテキスト」(光文社新書)という本のタイトルは、定価(本体740円+税)と相まって、書店で本をあさっている人を思わず買う気にさせる巧みさを感じさせる。今回は、その本の中で、「誰を育てるのか」という章を参照しながら考えてみたい。マネジメントの立場からは、育成ターゲットの選定ということだが、本当に人間の将来性を見定める正しい方法があるのか、組織としての正しい育成戦略はどう形成すればよいのか、考えれば考えるほど難しい。
酒井氏によれば、一般的に組織の構成員の内訳は、学ぶことに喜びを感じる積極的学習者10%、学びは個人的な目的達成手段と考える消極的学習者60%、言われたことだけを過去の習慣通りにこなしたい学習拒否者30%であるという。マネジメントの課題としては、消極的学習者から積極的学習者に転換する人を増やす、学習拒否者を減らすということになる。前者の課題には組織の資源を投入する意義があるが、後者については疑問が呈されている。実際、大多数の経営者は、伸びる可能性が高い人間にこそ金をかけるべきと判断するだろう。ただ、私の経験では、大学事務局は30%以上の学習拒否者を抱え続けているように感じる。もちろん、定年による入れ替えで徐々にその割合は変化しているだろうが、求められている変化のスピードには遠く及ばないだろう。したがって、大学事務局に関しては、これまで学習拒否者だったから仕方ないと割り切らずに、行動による学習者への意識改革を仕掛けていくしかなかろう。さもなければ、事務職員が二極化して、非常に風通しの悪い嫌な職場になりそうで危険が一杯だと思う。
人材のポテンシャルを見抜くポイントとして、酒井氏が挙げているものの中で、私が大学事務局の現場に適合すると思うものは、次のとおりである。
まず、顧客志向の信念である。事務職員に最も期待されるのは、正確な情報の把握とそれを基にした的確な行動であるが、常に相手の意図を読むこと、先の状況を読むことが必要である。顧客といっても、学生諸君やご父母にとどまらず、教員から政府機関まで含めて、経営体としての大学を取り巻く関係機関・関係者を想定することになる。自分から頭を働かせ、先を見越して体を動かす人は、他人よりも遠くまで行くことができる人である。
« 学習教材5.人事評価制度を有効に使う(続き) | トップページ | 育てなくても構わない?(続き) »
コメント