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2024年6月

2024年6月30日 (日)

水の音に流泉の曲をあやつる

パリ五輪のバスケットボール

 女子は、東京に続いてメダルを狙う戦いになります。グループリーグは、アメリカ、ベルギー、ドイツと同じ組ですが、ベルギーとドイツには勝って、決勝で、世界一のアメリカと対戦する形になれば理想的です。ランキングは9位なので、あくまでチャレンジャーとして臨むことになります。男子は、グループリーグでは、フランス、ドイツなどと当たります。最後の1チームは7月になって決まります。日本のランキングは、26位なので、1勝が目標になるでしょう。歴代最強のチームになりましたが、それでも世界の壁は厚いのです。サッカーで言えば、ワールドカップに初出場した当時のような状態でしょう。Bリーグが急成長している中、世界とどこまで戦えるのか、楽しみにしたいと思います。3年前の東京では、3連敗でしたので、一つ勝つことが、日本の夜明けになるでしょう。バスケには強烈な追い風が吹いているので、湘北の対山王工業戦のように、みなが強気でぶつかってほしいと思います。

 

理系学部の新設支援

 文科省は、3000億円の基金を用いて、96の大学・高専の理系分野を拡充するとのことです。2023年度の選定された111校と併せて、49大学が理系学部を新設することになります。情報系、環境系が大半を占めますが、これで、全大学の2割ほどが公募で選定されたことになります。心配なのは、教員の質の確保、志願者の確保です。18歳人口が減り続ける中で、これから新設する学部が、どれほどの質の人材を供給しうるのか、不安もあります。そもそも、予算欲しさに手を上げた大学もあるので、学部設置計画が絵に描いた餅になる恐れもあります。国策で学部設置を推進しているために、設置審査が甘くなりそうなので、粗製濫造による弊害も必至でしょう。この流れに乗らないと大学としての存続に関わるとして、無理を承知で申請している私学については、きちんと選別しているのか気になります。選定された私学が、設置審査を通らないというような阿呆らしい話がないことを祈りましょう。

 

いじめ事件の報告書の流出

 旭川市教育委員会の調査報告書が、黒塗りされずにネットに流出しているとの報道がありました。簡単に探せる状態ではないようですが、流出させた人たちは、黒塗りばかりで真実を公表しない教育委員会に対して、強い不満を持っているのでしょう。そもそも、全文が公表されないのでは、きちんとした調査と分析が行われたのかを、適切に評価することもできません。学校及び教育委員会の立場を優先し、加害者を過度に庇おうとする姿勢が目立った教育委員会には、真実の探求という面で、もともと信頼感は低いと言わざるを得ません。良くあることですが、内部文書を流出させた犯人探しも盛んになりそうです。いじめ事件の報告書に関して、公文書である以上、きちんと全文を公表させるよう、文科省にもしっかりしてほしいところです。事実関係を調査した結果が、真実と違うというならば、裁判で争えばよいだけです。誰が何をしたのか、事実を探求して、責任の所在を明らかにし、教訓として生かすのが、調査の意味でしょう。いじめ事件に関わった教員や生徒へのケアは、その後の話です。調査の段階で忖度するのはおかしいと思います。今回の流出行為には、社会的な意義が認められるので、支持したいと思います。再調査結果も間もなく公表されそうですが、いじめを自殺の関係を否定し続けてきた教育委員会及び学校の責任は、非常に重いと思います。教育者として許されるものではありません。教育現場の劣化は、底なし状態です。

 

2024年6月29日 (土)

松の響きに秋風楽をたぐふ

死を選ぶ権利

 安楽死を選ぶ権利を認める国は、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグ、スイス、カナダなどがあります。アメリカでもカリフォルニア州で認められています。医師自身による積極的安楽死と医師が薬を渡して本人が服用する医師幇助自殺の形態があります。最近では、フランスで安楽死を求める動きがあります。死を選ぶことを権利と認めるのは、宗教的なハードルがありそうですが、日本では、基本的に、自殺が絶対悪だとは考えられていないので、安楽死に道を開く可能性はあると思います。ただし、条件や執行については、慎重な検討が必要です。長い介護の末に、介護者による殺人が起こるというようなことは、減らせるはずです。世界一の長寿国ならではの安楽死の必要性があると思います。

 

選挙公報

 都知事選の候補者たちの主張を見ると、一定の傾向が浮かんできます。第1に、外国人排斥の民族主義的な主張があります。ウルトラ右翼(極右)と言って良いでしょう。第2に、都知事という職には不向きなワン・イシューの候補者たちがいます。そういう党派があることを初めて知りましたというようなケースです。第3に、主義主張の内容が不明で、自己PRのための場を借りている人たちです。文章に中身はないので、公約になっていません。第4に、減税や手厚い給付を売りにする候補者たちです。選挙民は甘い話に弱いので、実現可能性はともかく、バラマキを公約にする人たちです。ご本人たちに、悪気はないのかも知れません。第5に、候補者ではなく、党派の主張を国民に対して売り込むための大量立候補です。N国党は、番号付きの主張を候補者の欄に張り付けていますが、要は、立候補していない立花さんを目立たせるための選挙になっています。ポスター掲示板を貸すというアイデアは、悪目立ちしてマイナス効果しかなかったと感じます。第6に、ワクチン反対というような危険な主張が一部にみられることです。前面には出していませんが、コロナ禍で運動していた人たちの流れが続いているということが分かります。最後に、明らかな泡沫候補ではない方々の主張には、それほど大きな違いがないということです。誰がなっても、急に出生率が改善するはずもなく、防災対策が格段に進捗するわけでもないので、致命的な失政が認められない中では、現職に有利な状況と言えるでしょう。こんな選挙公報では、投票率は下がるのではないかと思います。選挙に関心を持てない人が多くなるのも、仕方がないからです。

 

サッカー欧州選手権

 Abemaで放送があります。深夜に観るのは厳しいので、ダイジェスト版で、楽しませてもらっています。グループリーグでは、意外に接戦が多く、2点差以上の試合は数えるほどです。優勝に関しては、フランスが最有力ですが、一発勝負のトーナメントになれば、番狂わせもあり得ます。スペイン、ドイツ、ベルギー、イングランドにもチャンスがありそうです。印象的なのは、VARによる判定が極めて厳密になっていることです。エリア内のハンドは、見逃してくれる可能性はなくなりました。また、オフサイドの判定が、体のごく一部でもラインを越えていればダメになって、ゴールの取り消しが増えました。スタジアムに多数の応援団が駆け付けているのも、移動が便利な欧州ならではです。グループリーグで大健闘しているのは、オーストリアです。オランダ、ポーランドを破りました。フランスには0-1で負けましたが、グループ1位通過です。加えて、ランキング6位のポルトガルに対して歴史的な勝利を飾ったのは、ジョージアです。今大会随一の番狂わせです。ベスト16では、フランスとベルギーが対戦するので、注目しましょう。

 

2024年6月28日 (金)

源都督の行ひをならふ

ファミリー農園の夏

 夏至も過ぎて、15㎡の小さな区画では、キュウリがどんどん獲れています。直ぐに大きくなるので、要注意です。ブロッコリーは、カメムシの被害があり、側花蕾を少し収穫して、間もなく終了です。カボチャは、受粉がうまく行かず、思いのほか、収穫量は低くなりそうです。早く植えた枝豆の半分を収穫しました。残りは2週間後くらいです。スイートコーンは、順調に生育しています。発芽から85日目に収穫するとなれば、7月3日がターゲットになります。ニンジンは、6月末には収穫です。トマトやナスの本格的な収穫は、7月以降です。その他、甘唐辛子、オクラは、まだ株が小さい状態です。8月末までには、春夏の栽培は終了して、秋の栽培期間に入ります。7月からは、そのための苗の育成も始めることになります。同じファミリー農園で栽培をしている方々の多くは、トマト、ジャガイモ(収穫済み)、ナス、キュウリなどを栽培されています。少量多品種に取り組んでおられる方が多いようです。主な借主さんは、定年後の男性、子どもが小さい女性です。

 

引退した力士たち

 大相撲の幕内力士は、年寄にならなければ、引退して一般人になります。しばらく、年寄をやってから、引退する人もいます。年寄になるためには、親方株を入手することが必要で、譲渡してもらうか、借りることになります。不思議な伝統ですが、相撲協会の人件費抑制策で、親方株は数が決まっており、協会管理になっていないために、個人の資産(親方がなくなっても、実質的に遺族が所有)のような形になっています。様々な事情で、親方になれない、ならない人は、セカンドキャリアを開拓することになります。最近では、千代大龍関は、高級焼肉店を、松鳳山関は、もう少しカジュアルな焼肉店を開業しました。豊ノ島や逸ノ城は、タレント業をしているようです。栃ノ心関は、故郷のジョージアの銘醸ワインの輸入販売などを手掛けています。照強関は、故郷の淡路島で会社を設立して。家族で商売を始めています。彼らは、断髪式という興行を行って、退職金のような資金を手にしていますが、相撲一筋で30代半ばまで過ごしてきた人たちですから、ビジネスを安定させるまでは、大変でしょう。千代大龍関(明月院さん)、松鳳山関(松谷さん)は、照強関の断髪式に顔を見せていました。二人は元気そうでしたが、相撲協会は、幕下以下の力士を含めて、セカンドキャリアについてきちんと支援する体制を作るべきだと思います。タニマチさんたちからの厚い支援が得られる力士の生活とは、大きな違いがあります。引退と同時に、離婚というようなケースさえもあります。大相撲の伝統の継承には、セカンドキャリアの安定は欠かせないと思います。

 

東京女子医科大学の入試

 推薦入試で、寄付金額を合否の材料にしていた模様です。文科省から報告を求められているので、間もなく事実関係は明らかになるでしょう。入試に絡めて寄付金を受けるのは不可だとされていますが、根拠は文科省の通知に過ぎないので、法令違反にはなりません。不祥事から私学助成を受けられないので、開き直って、受験生から高額寄付を集める気なのでしょう。格好さえつける気がなくなった私学に対して、文科省がどのような対応をするのか、注目です。こんな大学に通う学生が可哀そうです。

 

2024年6月27日 (木)

かつらの風、葉をゆらす夕

老後の家

 元沢賀南子「老後の家がありません」(中央公論新社)は、単身の女性(フリーランス)が終の棲家を確保するため奮闘する話ですが、最終的に安住できる家にはたどり着いていません。それでも、幾つか役に立ちそうな知見が得られています。年齢制限がないので、URを借りるという最後の砦的な手段がある。郊外の古い物件なら安いものがあるが、こまめに情報をチェックして先着しないとダメ。購入するなら、中古のリフォーム済みがお勧め。著者は、占い師の方に「川、墓、寺社、総合病院の1キロ圏内は不可」と言われて、それに従っていますが、水災の危険がある川のそばを避けるのは良いとして、その他の助言は、気分の問題だけで、根拠薄弱です。著者が挙げている物件の条件は、尤もなものが多いのですが、全てを満たして予算内に収まるものが見つかるのかは不明です。妥協はしないということなので、首都圏を離れることになるかもしれません。無理筋挑戦編では、静岡、群馬、山梨にも遠征して、内見していますが、移住に伴うリスクに加えて、月々の維持費が高いというケースもあります。管理が不十分な物件は所詮ダメです。著者は、箱根と東京の二拠点生活に心が動いているようです。移動の足が確保できれば、お試し移住も良いでしょう。

 

10000倍賢いASIの危うさ

 基本的に、AIの暴走はないということですが、悪用されるという問題は、避けられないでしょう。ソフトバンクの孫さんが言うようなASIが開発されれば、生物多様性を脅かし、地球環境を破壊する元凶であるホモサピエンスの数を減らすという合理的な判断が行われる恐れはないのでしょうか?人口が増え過ぎれば、エネルギーと食糧の生産で、環境負荷が限界値を超えることにもなります。ある意味で、人口抑制は、文明崩壊、人類消滅の危機を回避する方法でもあるのです。その観点からは、ASIが、人類を適正規模まで間引くことが、結局は人類を滅亡から救い、地球を救うことになるという当然の結論に辿り着くのは不思議ではありません。Netflixのアトラスという作品にも、AIの暴走(人類滅亡を救うための大量殺戮を行う)との戦いが描かれますが、AI=テロリスト=悪のやっていることが、本当は人類を救うことになるのかもしれません。作品では、AIが、人型ロボットとイコールになっていましたが、どこかのサーバーにプログラムを複製することも可能だったはずで、AIとの戦いは、そう簡単に決着するとは思えません。また、特定の人間と同期したAI(ガンダムスーツのようなロボットとして動く)が、絶対善だとも思えません。彼らが暴走する可能性もあるでしょう。ヒトラーもどきの狂人が、勝手に大量殺戮をするのを許すわけにはいきませんが、防げるのでしょうか?

 

西山朋佳女流3冠

 NHK杯将棋トーナメントで、人気棋士の木村一基9段に勝利しました。やや劣勢の時間が長く続きましたが、木村9段が自陣を固める手を選んだ瞬間に、チャンスをつかんで、攻め切りました。もともと終盤力には定評がありますが、受けが強い木村9段を圧倒した迫力のある攻めでした。次戦は、藤井7冠が相手です。注目が集まりますが、ご褒美対局だと思って、楽しんでほしいと思います。棋士編入試験の受験も可能性が高まってきました。奨励会の3段リーグで、次点になったほど棋士に近づいた西山女流3冠ですから、資格が獲れたら、挑戦してほしいと思います。少し年長の福間女流5冠と切磋琢磨する中で、充実期を迎えていると感じます。

 

2024年6月26日 (水)

岡の屋にゆきかふ船をながむ

マンション高騰時代

 牧野知弘「なぜマンションは高騰しているのか」(祥伝社)は、最近のマンション市場の傾向について、批判的な分析を行っています。1億円超えの物件が増えて、一般消費者の手の届かないものになっていることに、強い危機意識を持っているのです。新築のタワーマンションの角部屋が香港資本の投資会社によって買い占められている状況も紹介されています。著者は、タワマンは終の棲家にはならない、投資物件と認識すべきだと指摘しています。また、一般の国民は、中古物件を買うしかない時代になったとも述べています。ただ、中古市場への供給は、それなりに期待できるとして、賢く割安に住宅を手に入れるチャンスが増えると肯定的に捉えています。著者の分析で注目すべきだと感じたのは、街間格差です。例えば、神奈川県では、横須賀市や小田原市は人口減少が続き、藤沢市や茅ケ崎市は逆に人気エリアになっているというようなことです。千葉県のベッドタウンであった我孫子市、松戸市、船橋市などの駅までバス便の2DKのマンションは、価格が数百万程度にまで低下しています。最後に、マンションの資産価値を維持する鍵は、管理会社のグレードだとしています。加えて、管理組合を構成する住民の価値が重要だとしています。効果的な修理・修繕や設備更新の判断を行うのは、住民たち自身だからです。そして、街に対するプライドが形成されることが、結局、マンションの価値を高める最大のポイントだとしているのです。住宅購入を考えている人には、いい勉強になる本です。

 

中国の就職氷河期

 中国では、この6月に卒業する大学生の内定率が、5割を切っているとの報道がありました。高学歴化による大卒の増加及び民間企業の採用抑制が原因ですが、若年雇用の受け皿だったIT、不動産、学習塾といった業種の採用に異変が起きています。学生の側は、安定志向で、国有企業への就職希望が増えているとのことです。日本でも、バブル崩壊後に就職氷河期がありました。似たような状況かと思います。それにしても、7月の統計では、若年失業率が20%近くにまで上昇する可能性があります。やむなくギグワーカーとして働く若者も増えており、中国経済の失速で、経済格差が拡大し、学歴に見合った職に就けない人たちがメンツを失えば、社会の不安定要素になりかねません。

 

中村部屋の力士の鍛え方

 大相撲の世界は、スポーツ科学の進歩とは無縁でしたが、ようやく中村部屋によって、新しい稽古・トレーニングプログラムが試行されています。そのスケジュールは、朝食からスタートします。稽古が先で、朝昼兼用の食事まで空腹状態だった伝統的なスタイルからの変更です。稽古は、遅く9時30分頃から始まります。四股や鉄砲といった伝統的な稽古にも、相撲に必要な筋肉を効果的に付けるために工夫を凝らしているようです。相撲は、有利な体勢を作った力士が勝ちやすいスポーツですから、そのための技術的な稽古も集中的に行っているようです。稽古が終われば、疲労回復効果がある酸素カプセルに入ります。昼食休憩後、午後には、部屋の中で筋力トレーニングを行います。この時間に行うことで、効果が高いことが科学的に分かっているためです。親方トークの中でも、他の競技におけるトレーニング方法を教えてもらいに出向いたりしていることが紹介されましたが、中村親方は最新の知識や手法の吸収には特に貪欲だと思います。やっと、科学的なトレーニングに基づく力士養成が始まりました。中村部屋の幕下以下の力士の成長を見守りたいと思います。

 

2024年6月25日 (火)

口業ををさめつべし

伊藤匠叡王の誕生

 藤井8冠時代が、ついに終了しました。叡王のタイトル奪取は、三軒茶屋出身の伊藤7段の歴史的快挙です。師匠の宮田先生、おめでとうございます。戦型は角換わりで、伊藤7段は右玉に構える工夫を見せました。中盤までは、先手の藤井8冠が評価値でリードしていました。角で飛車を取ったところで、伊藤7段が放った7六歩が状況を一変させる勝負手になりました。藤井8冠は、残り時間の相当部分を使って、銀をよける手を指しましたが、ここでは3四金が正着でした。Abema解説の増田8段も、その手は棋士の心理としては指せないだろうと述べていましたので、仕方がなかったのかもしれません。藤井8冠も、人間だったということです。チャンスが来てからの伊藤7段は、藤井8冠の仕掛ける数々の罠を見破りながら、1分将棋になっても正確な棋譜を重ねて行きました。最終盤では、藤井8冠がラッシュをかけましたが、伊藤7段が一つもミスをしないので、ついに勝ち筋を見つけることができませんでした。タイトル戦でコテンパンにやられてきた伊藤7段の逆襲で、藤井8冠のタイトル独占が終わり、今後は、別の棋士にもチャンスが出て来そうです。銀河戦では丸山9段に、NHKトーナメントでは佐々木勇気8段に、決勝で負けていたことを考慮すれば、重圧のかかる一局では、藤井8冠にも若干の隙が出ることもあるようです。最強棋士であっても、年間を通じて常に好調を維持することも難しいと思います。最終局での伊藤叡王の誕生は、将棋界にとっては、次の扉が開かれた瞬間でした。恐らく、藤井・伊藤の両雄の対決は、今後も長く続いていくでしょう。7冠になった藤井さんもリベンジに燃えるはずですから、次の対決が楽しみです。

 

空き家ビジネスへの支援

 国交省が、空き家の売買や賃貸借の手数料の上限を上げるなどの施策で、空き家の活用を支援しようとしています。特に、親から相続した活用が難しい地方の空き家を、不動産業者の仲介によって、何とかしようという目論見です。ただ、人口減少の時代に、空き家が増えるのは、当然のことで、結局、活用の見込みがなければ、建物は解体して、空き地にするしかなさそうです。簡単に言えば、全国の家は計算上余っているのです。活用されない空き家は見切って解体を促進して、空き地が多くなった集落は、農地として再利用するか、最終的に自然に返すというようなアプローチが必要ではないでしょうか?空き家問題は、撤退戦の難しさを象徴していると思います。経済成長モデルの思考法では、解決できないでしょう。

 

ツール・ド・フランス2023

 Netflixで昨年のツールのドキュメンタリー・シリーズを観ました。感じたのは、スポーツの当事者たちの言葉をうまく伝えていることです。選手や監督コーチたちの言葉自体に、なかなか日本では見られない含蓄があることに、大いに興味を惹かれます。直前にエース級の選手を事故で失ったチーム、エースとして期待された選手が不調で別の選手に役割を交代させようとするチーム、総合優勝が間違いない状況になったがドーピング疑惑に悩まされているチーム、休日に選手がビールを飲んでいたと批判されたチーム、区間優勝を手にできずに苦悩する古豪のチームなどなど、21ステージの戦いだけではない部分をうまく取り上げています。ドーピングについては、過去の苦い経験から、かなり厳格な検査が義務付けられており、ほぼないとは思いますが、タイムトライアルで一人だけタイムが飛び抜けているような場合には、ファンを含めて皆が疑心暗鬼になります。各ステージでの優勝者もさることながら、アシスト役にも注目が集まります。総合優勝で後れを取ったエースが、風よけになって引っ張る姿も感動的です。これが最後のツールだと決めて出場したが、途中で、事故により骨折して、2024年に、有終の美を飾る区間優勝という目標に再チャレンジするという選手もいます。シリーズの最後では、引退するフランスのティボ・ピノ選手が、故郷の第20ステージで、フランスの大応援団の中を単独トップで激走する姿を描いていました。ラストで、力尽きて優勝できませんでしたが、自転車好きのフランス人の記憶に素晴らしい爪痕を残しました。総合優勝だけが目標で、他はどうでもいいというチームもありますが、ツールは、様々な人生が交錯する誰もが輝ける舞台だから、面白いのです。成功だけでなく、挑戦と失敗も人生なのです。今年の夏は、ツールとオリンピックでフランスは、例年にも増して熱くなるでしょう。

 

2024年6月24日 (月)

冬は雪をあわれぶ

学歴詐称

 人間が学歴詐称する理由は、自分を価値ある人間と見せたい、就職その他で有利になりたいなどの心理が働いているためだと思いますが、生成AIに聞いてみると、バレたときのリスクが大きいので、損な行為だとされています。フェイクニュースが氾濫している今日、政治家が嘘をついても、選挙民から支持が得られれば、大きな傷になることは、あまり心配する必要はなさそうです。選挙民も、真実から懸け離れた自分に都合の良い「事実」を独自の価値観で評価しているためです。小池都知事が、カイロ大学を首席で卒業したという「事実」は、真実から懸け離れているとしても、既成の「事実」になってしまっているようです。アラビア語の読み書きが小学生低学年程度の人間が、カイロ大学で単位を取得して、卒業することは、不可能でしょうが、選挙民は、嘘つきだから投票しないということでもなさそうです。恐らく、中身がペラペラの東京大改革3.0というような公約も、語呂合わせ以上のものではありませんが、嘘をつかれても、騙されていても、他に投票したい人がいなければ、入れてしまうでしょう。もはや、都民は、よその国のポピュリズムを笑えません。

 

NPBの低打率

 シーズン途中ですが、3割打者は、セパ併せて3人だけです。生成AIによれば、投手の技術的向上、飛ばないボール、低反発のバット、好打者の高齢化、野球人口の減少などの複合的な原因があるそうです。NPBの観客は得点が入った方が盛り上がりますから、NPBの経営を考えれば、現状は危機だと捉えるべきでしょう。交流戦が終わって、好成績を残したチームが浮上してきそうですが、心配なのは、昨年日本一に輝いたばかりの阪神です。主力打者が成績不振で、戦力も揃わず、大きく勝率を落としています。最終的には、一番上にいるとは思いますが、6月中には、怪我人の穴を埋め、打線を固定して、戦うように戦力を整えてほしいと思います。雰囲気が悪くなると、ファンも「〇〇やめろ」などと暴走しかねないのが、怖いところです。パリーグは、柳田選手が離脱しても、戦力差があるので、ソフトバンクが優勝するでしょう。大谷選手の移籍以後、ドジャースの試合をBSで見ることが多くなって、NPBへの社会的関心が薄れ、コンテンツとしての陰が薄くなっているのは、気がかりです。

 

新任教師の自殺

 福岡県春日市で、24歳の新任の小学校教師が、2019年に、着任から半年後、校内で自殺したという悲しい事件がありました、遺族が、県と市を相手取って、長時間労働及び指導教師によるパワハラによる自殺だとして、損害賠償訴訟を提起しています。裁判はこれからですが、こうした悲劇が起きていること自体、小学校=ブラック職場というイメージが刷り込まれてしまいます。歴史上、最も、学校という職場、教師という職業が、忌避される時代になったことを実感します。裁判の中で、自殺に至るまでの経緯が明らかになり、責任の所在が明らかになることを期待します。また、長時間労働やパワハラ(いじめ?)の原因分析に立って、職場環境の改善につなげてほしいと願います。こうした事件が起きれば、小学校教師への志願者がますます減ることになりそうです。教職調整額を10%にしようが、なってはいけない職業というイメージは拭い難いものになってきました。状況は最悪です。

 

2024年6月23日 (日)

うつせみの世を悲しむほど聞こゆ

うたコン

 NHKホールで、公開収録を観る機会がありました。正確には分かりませんが、少なくとも1500人ほどの観客が入っています。アニメ+ディズニーの歌が特集されていました。特集テーマや出演者は、事前に公表されていないので、抽選に当たったら、アニソンだったという感じです。うたコンは、基本的に生の歌番組で、リハはあるものの、一発勝負の面白さがあります。年末の大事業である紅白のミニ版とも言えます。番組制作の舞台そのものを見ることができるという点が、参加の醍醐味です。もちろん、歌手の実力を歌唱で知る機会にもなります。島津亜矢さんは、オペラも歌えるくらいの声量があります。Fruits Zipperのようなアイドル・ユニットには、全国的なプロモーションの意味が大きいでしょう。ベテラン声優の山寺宏一さんのステージは、ミュージカルの一場面のようで非常に中身がありました。May Jさんは、出産を経て、再び活動を活発化させようとしている時期で、人生の歩みが歌唱に表れていました。番組全体としては、幕の内弁当のような取り合わせが楽しめました。司会の谷原さんは、朝から晩まで仕事で、マメな働き者です。最後に登場したマカロニえんぴつは、本格的なロックのアニソンなので場違いな印象もありつつ、演奏力の高さを十分発揮していました。こういう技術力のあるグループが珍しくなくなった点は、日本の若者音楽文化の確かな進歩だと感じます。スポーツ分野のように、海外に進出して若い音楽家が稼げるようになることを期待したいと思います。

 

安倍派の政治資金規正法違反事件

 会計責任者の刑事裁判の中で、重要な証言が出始めています。特に、安倍元総理の判断で一旦中断した還流を、彼の逝去後に再開した経緯について、幹部4人(塩谷、西村、下村、世耕の各議員)が協議して、再開の方針決定がなされたという点は、重大です。この4人は、自分は、還流再開について、指示も了承もしていないと、全く異なる説明を繰り返しています。国民から見れば、会計責任者の証言は極めて自然で、事務担当者が派閥幹部に了承も取らずに、勝手に還流を再開したというような話は、信じることができません。従って、会計責任者だけに刑事責任を負わせるのは不当だと思います。4人の幹部の責任を問えない検察、日本国には失望を禁じえません。

 

水産物の密漁

 日本ではかなり深刻な状況です。鮑、ナマコのほか、シラスウナギなどの密漁は、資源の枯渇を招く可能性が指摘されています。農水省も罰則強化などの対策を講じていますが、実際に検挙された数は、1500件程度で、氷山の一角でしょう。最近、テレビの情報番組で、湘南ハマグリの密漁で、地元のサーファーが検挙されたケースが取り上げられていました。大ぶりのブランドはまぐりを、サーフィンのついでに、軽い気持ちでスーツに隠して持ち帰っていたようです。プロ的な密猟者は、海を監視して、現場で、徹底的に取り締まるしかありません。ただ、素人が軽い気持ちで、密漁する(=犯罪)ことがないように、海で遊ぶ人たちには、啓発することが重要です。逆に、密漁する人間を監視するくらいの役割を担ってほしいところです。

 

2024年6月22日 (土)

死出の山路を契る

下水道の資金不足

 使用料で、更新資金が捻出できない状況が、事業の8割に及んでいるとの記事を、日経新聞で見ました。資金不足に陥れば、自治体からの支出で賄うしかなくなります。地方債の活用もありますが、781団体では、使用料が債務の返済額を下回っている状況で、新規の建設に回せる金はないとのことです。市民にはあまり目立たないので、実質的に自治体の隠れ借金の一種になっているようですが、人口減少期においては自然に改善することにはならないので、忌々しきことです。

 

AIによる電力需要の上昇

 国際エネルギー機関によれば、ChatGPTは、Google検索に比べて、10倍の電力を消費するとのことです。アメリカでは、石炭火力の廃止を先送りして、電力需要に対応する方針が決定されたようです。より多くのデータセンターの稼働も、電力需要の増加に影響を与えています。CO₂排出量の削減は、諸事情によって先送りされる傾向にあります。人類の文明が消滅に向かうとすれば、エネルギーや食糧の枯渇による紛争だと思いますが、進みつつある気候変動は、すでに現実的な脅威です。人類は、地球の生物多様性に最悪の影響を与えてきました。世界の人口が100億になろうとも、自分たち人類だけは、この先も生き残れると思うのは、間違いでしょう。どこかで、限りない欲望のコントロールが必要です。マッド・マックスの世界が、SFの絵空事とは言えなくなってきました。確かにAIは役に立ちますが、悪用される恐れもあり、エネルギー消費の拡大で、人類への脅威になりかねません。格差を助長する面もあります。文明史的な視点で、AIとの付き合い方を考える必要があると思います。

 

イランの地下世界

 若宮總「イランの地下世界」(角川新書)は、イランの市民レベルの生活実態や本音を知る手掛かりを与えてくれます。著者の分析では、イスラム国家イランの中で、宗教性も政治性も低い国民が大半を占めており、続いて宗教性が高く政治性が低い集団がおり、その次が、政治性が高く宗教性が低い集団(イスラム・ヤクザ)で「保守派」と呼ばれており、宗教性も政治性も高い人たちは非常に少ないとのことです。宗教としてのイスラムが政治の道具になってしまっているからです。著者によれば、法学者による統治は、「能力は皆無だが、権力欲だけは一倍強い人間による統治」になってしまっているとのことです。政教一致さえなければ、イランはとてもいい国になるでしょう。イラン国民はアラブ人(特にサウジアラビア)が嫌いという原因も、宗派の違いとばかりではないようです。古代ペルシアからの文化的な伝統に強い誇りを持っているのです。イランの35歳以下の若者の失業率は、14.4%と高く、経済制裁の影響が深刻です。金がなく、結婚もできず、親と同居を余儀なくされる若者には閉塞感が漂います。最も興味深いと感じたのは、イラン人には、疑う力が備わっていることです。政府が自作自演の事件を敵の攻撃だと宣伝しても、彼らを騙すことはできないというのです。節穴が多い日本人よりも、よほど洗練された真実を見抜く眼を持っているのです。したがって、御用メディアには洗脳されません。著者は、親イランなのかと言えば、かなり辛辣な指摘もしています。特に、遵法精神の低さについて、イラン流の反骨精神(他人に縛られたくない)、メンツ至上主義(遵法は二の次)、歪んだ義理人情(法の形骸化)が原因だとしています。その結果、大きな独裁者の出現を許すのが、イラン社会だというのです。法学者による独裁にも、国民の気質という基盤があるというわけです。なお、イランの諜報機関は、海外にも体制批判者に目を光らせているので、真実を語れば、ブラックリストに載ることになりそうです。著者も、変名で作品を発表しています。そういえば、1991年、筑波大学の五十嵐助教授は、構内で刺殺されました。「悪魔の詩」という作品(著者ラシディ氏に対して、ホメイニ師は1989年に死刑を宣告)を翻訳したために、狙われたようですが、捜査は暗礁に乗り上げ、事件は迷宮入りしました。イランには別の意味での地下=闇があります。

 

2024年6月21日 (金)

夏は郭公を聞く

棋聖戦第2局

 後手の山崎8段が向かい飛車に構えて、休戦含みの作戦を展開しましたが、藤井8冠は、冷静に囲いを組み立てて、作戦勝ち模様になりました。そこから、終局まで、いわゆる藤井曲線で、山崎8段の苦心の差し回しに対応して、着実にリードを拡大して行きました。終わってみれば、藤井8冠の指し手が完璧で、山崎8段には、ほとんど勝利のチャンスはなかったと思います。失着らしい指し手がないにも拘らず、山崎8段が見せ場さえ作れなかったのは、藤井8冠が恐ろしく強すぎたということになります。8二角打ちで、ほぼ勝負がつきました。詰みまでの手順をみれば、攻守に渡って全てを読み切っていたことがかります。この人に勝つのは、本当に大変です。山崎8段は追い込まれましたが、開き直って、タイトル戦を楽しんでください。第4局の淡路島に辿り着けるでしょうか?

 

2011年女子ワールドカップ決勝戦

 なでしこ及び澤穂希選手のベストゲームとして知られますが、NHKBSでの再放送で、やや客観的に試合を観る機会がありました。実力的には、好選手が揃っていたアメリカが攻撃力で数段上で、それはシュート数の差に表れていました。なでしこは、球際の強度を上げて、何とかシュートが枠に飛ばないように、全員が体を張っていました。延長の最終盤に、岩清水選手が一発退場になりましたが、彼女がモーガン選手を反則覚悟で止めなかったら、決められていたかも知れません。優勝の瞬間はピッチにいられませんでしたが、アメリカの強力なアタッカー陣と渡り合って、互角の勝負に持ち込んだ陰の功労者だと思います。泥くさい守備の繰り返しと、相手のラインの背後を突くしつこい攻撃で、押され気味ながらも、接戦に持ち込むことができたと思います。みなが最後まで動きを止めずに、諦めることなくやり続けたのは、立派でした。延長までに失点した2点は、防ぎようのないものでした。特に、アメリカのエースのワンバック選手の完璧なヘッドで延長の均衡が破られても、よく心が折れなかったものです。宮間選手のCKから澤選手が右足アウトサイドで忍者のような同点ゴールを上げましたが、極限の集中力と職人芸的なすり合わせの技術の成果だったと思います。ワンバック選手は、なでしこの打ち合わせの様子を見て、宮間選手がCKを澤選手に蹴ることを察知して、澤選手にマンマークもつけ、自らゴールマウスを固めていましたが、それでも、防げなかったのです。このようなゴールシーンは、その後も男子を含めて目にしませんが、それほど難易度の高い奇跡のゴールだったということでしょう。澤選手は、得点王、MVP、バロンドールに輝きますが、宮間選手という業師の存在を忘れてはならないと思います。彼女は、アメリカの名GKソロ選手の逆を突く、左足アウトサイドのシュートを後半の終盤に決めています。先行されては追いつく展開で、PK戦に進むのですが、そこからはGK海堀選手の一人舞台でした。1人目の強烈なシュートを右足で防いだところから、ゾーンに入っていたと思います。宮間選手、阪口選手が決めた後、4人目の最年少の熊谷選手が左上隅に決めて、男女を通じてアジア初のワールドカップ優勝を手にしました。エースの澤選手は、不思議な話ですが、PKは苦手のようです。今や、伝説になっている2011年の試合ですが、当時のなでしこの守備の強靭さを再確認しました。

 

2024年6月20日 (木)

春は藤波を見る

スーパーのレジの無人化

 日常的に利用しているスーパーのレジが無人化されました。人出不足を補うための合理化ですが、高齢者のデジタルリテラシーの訓練の場にもなっているように感じます。慣れれば、スムーズにバーコードを機会に読み取らせることができるようになるでしょう。まだ、不慣れな人がいるために、週末には、機械が空くのを待つ列が長く伸びる時間帯もあります。それも、徐々に短くなっていくでしょう。心配なのは、従来、レジの人に財布を渡して、支払いを手伝ってもらっていた人がどうなるのかという問題です。無人レジにも、店の人が監視役で常駐しているので、手伝ってもらうのでしょうか?スーパーのカードを作って、ポイントを貯めながら、カードで支払いができるように支援してもらっていれば良いのですが、そうしたことが自分でできない人たちは、損することになってしまいます。

 

本庶佑教授

 2018年にノーベル医学生理学賞を受賞された本庶佑先生が、日経新聞の私の履歴書に連載されています。後に総長をされる山村雄一学部長にスカウトされて、大阪大学に行かれた時のエピソード(これも後に総長をされる岸本忠三教授の強力な推薦による)を興味深く読ませていただきましたが、大阪大学で研究室を立ち上げる際に、大学から借金をして、後に外部から獲得した研究費で返済したというような話を披露されていました。当時としては、何ら問題のない手法だったはずですが、今ならば、研究費不正を疑われかねない危うさがあります。なぜなら、獲得した研究費は、研究期間が定められており、研究開始以前に支出には当てられないからです。本庶先生の研究実績が飛躍的に伸びて行く時期でしたから、大阪大学による資金の融通は、むしろ当然の判断だったと思いますが、こうしたことが研究費不正という範疇でとらえられるようになった時代は、優れた研究者を苦しめていないでしょうか?角を矯めて牛を殺すようなルールは、本末転倒なので、見直しが必要だと感じます。

 

太陽光発電の義務化

 2025年4月以降、都内の新築の戸建て住宅には、太陽光発電の設備が必須になります。日経新聞によれば、100万円ほどの追加負担になるとのことですが、電気代が減少する効果が見込めるので、11年あまりで資金を回収できる計算になるのだそうです。誰も損をしないのだから、義務化は良いことだらけなのでしょうか?経済的に合理的ならば、消費者の選択に任せておいても良さそうです。あえて義務化することで一番得をするのは、太陽光発電の設備を販売している業者さんでしょう。彼らにとっては、特需になります。メンテナンスやパネルの交換などの業務も残ります。また、パネル自体は、世界の8割が中国製なので、都内の需要が拡大すれば、中国のメ―カーにとって、相当なビジネスチャンスになります。要は、義務化で儲かる人たちが、都政を押したと理解すればよいと思います。懸念するのは、大量に廃棄されるパネルのリサイクル事業がうまく行くのかという問題です。太陽光発電もパネル以外の曲げたれる電池(ペロブスカイト型)が拡大していくでしょうから、技術開発の動向にも注目です。

 

2024年6月19日 (水)

観念のたよりなきにしもあらず

The First Slam Dunk

 国内興行収益が155億円超ですから、東映としては大ヒット映画です。酷評している人もいますが、山王工業戦でキーとなった幾つかの感動的なエピソードがカットされているからです。Netflixで観られるようになったので、遅ればせながら鑑賞しました。バスケットボールの選手の動きは、アニメとしてかなり完成度が高い迫力に満ちたものでした。確かに、原作とは別物の宮城リョータを主人公にした青春ドラマになっています。家族の支えだった兄の死、母子家庭の苦労、転校による環境の変化、オートバイ事故による大怪我、兄に及ばない潜在能力、虚勢で隠し切れない不安など、葛藤と苦難を乗り越えた先にあった山王工業戦でした。亡くなった兄に代わってインターハイに出るという夢をかなえて、さらにバスケットボールを究めようとしている男のストイックな物語になっています。ラストシーンでは、山王出身の沢北と湘北出身の宮城が、アメリカの大学チーム同士の試合でマッチアップするというエピソードが盛り込まれています。このシーンは非常に重要です。沢北は敗戦から大切な何かを学び、宮城は勝利によって覚醒したということでしょう。NBAへの夢さえも繋がっていく未来を予感させる終わり方は、あくまで原作のスラムダンクが登場人物たちにとって第1章に過ぎないことを暗示していると思います。赤城、三井、流川、桜木らの第2章も見て見たいと感じました。それにしても、宮城を主人公に持ってきたのは、意外でした。彼には、第3章あたりで、故郷に帰って、琉球ゴールデンキングスでプレーしてほしいと願っておきます。

 

校長の力

 工藤勇一「校長の力」(中公新書ラクレ)には、全国の校長先生たちへの叱咤激励と変革を実行するためのヒントが書かれています。麹町中学校で、校長として、当たり前になっていたやり方を大胆に見直して、中間・期末テストを廃止したり、宿題を出さなくしたり、固定担任制をやめたり、様々な改革を実行した教育者として有名です。今は、私学に移っていますが、講演や助言などで、全国の校長さんたちを陰で支えているようです。書かされていることの中で、幾つか興味深いと感じた点を紹介したいと思います。まず、「仲が良いチームだからうまく行った」は大間違いというフレーズです。著者が推進しているのは、和を重んじないマネジメントなのです。日本人の集団を率いる際に、この方針は、非常に勇気がいります。それをやり切るくらいでないと、彼のような改革は実行できないでしょう。次に、岡本薫さんという元文科省の公務員(異端児)の講演から感銘を受けたとしている点です。目的と手段を峻別して、混同しないという示唆から、著者は、自分の頭が整理されたとしています。岡本さんは、早くに亡くなりましたが、著者のような教育のリーダーに精神が受け継がれていることを知りました。異端というのは、部下たちとの和を以って尊しとするようなタイプではなかったことが影響していました。専らインフルエンサータイプだったのでしょう。最後に、ヤングアメリカンズという歌と踊りのワークショップを展開する団体について、高く評価していることです。筑波大学の付属学校でも、同じように生徒を巻き込んでイベントを開催したことがありますが、多くの生徒が日頃の学校生活では見せない自発性を発揮することに驚かされます。眠っている力が湧いてくるような印象です。著者の目の付け所は、流石だと感じます。いずれ校長になろうとしている方には、お勧めの本です。

 

都知事選による自己PR

 ポスターの掲示板がいつもの場所に設置されていますが、1人の知事を選ぶ選挙に、50人近くの立候補が予想されているようです。この国の民主主義はどこか狂ってきているのではないでしょうか?供託金300万円(投票率1割以下で没収)が、広告宣伝費と認識されている模様です。候補者のポスターの代わりに、自分の好きなポスターを張る権利を売るような政党も現れています。この際、供託金を10倍にしたらどうでしょうか?珍妙な行動に出て、参議院の議席獲得あたりを狙う諸派の政党もあります。知事選も広告宣伝の場なのでしょうが、おかげで、バカでかい掲示板や読まれない広報紙のゴミが増えます。

 

2024年6月18日 (火)

名を音羽山といふ

国際卓越研究大学

 東北大学が第1号として正式に選定されました。今年度から、100億円程度の資金が交付されるようです。研究者の処遇改善、支援スタックの大幅増強、博士課程学生の拡大と支援強化などに使用するとのことです。また、学部入試を総合型選抜に移行するなど、教育改革も進められます。学部留学生比率を2%→20%にする、論文数を6700本→24000本にする、民間研究資金の受け入れを86億円→959億円にするなど、意欲的な目標が並んでいます。尤も、達成は25年後だそうです。その間、大学ファンドから支援を受け続けられるとすれば、悪くありません。しかし、結果にコミットしているわけですから、達成する見込みがなくなれば、途中でも支援が打ち切られるでしょう。特に、注目したいのは、民間からの資金の受け入れの飛躍的な伸びを目標としている点です。東北大学以外も第2号、第3号と選定されるでしょうから、国内外の民間資金を巡る大競争が展開されることになります。ただ、企業の研究開発に関する投資方針が大きく転換しないと、達成は容易ではなさそうです。大胆に見える計画は、誰にでも立てられますが、25年もの年月をかけて、それを実現することは、何倍も大変なことです。これまでも大学改革は、大半が計画倒れに終わってきました。東北大学には、ぜひ良いスタートを切ってほしいと願います。

 

地主・家主への税務調査

 地主と家主7月号は、税務調査への対応策が特集テーマです。特に、所得や相続額が大きい者(財務債務調書を提出)は、税務調査の対象になりやすいため、こうした特集が組まれたものと思います。実地調査(令和4年度)が行われた場合、相続税で85.8%、所得税で83%、法人税で75.8%で、申告の誤り(非違)が見つかっています。税理士さんからは、実地調査に来させないようにすることが重要とのアドバイスもあります。しかし、調査官も仕事ですから、追徴課税で実績を上げようとするので、目を付けられたら逃れられないでしょう。来訪があれば、直近3年間の帳簿や領収証が調査されます。2日間、昼休憩をはさんで各6時間ほど2人で調査を行うのが一般的です。質問に答えているうちに、ボロが出るということが多いので、始めから税理士さんに依頼するか、実地調査の話が来たら、税理士さんに助太刀をお願いするのが、お勧めのようです。申告時に税理士さんの意見書が添付されていれば、実地調査の前に、税理士さんに意見を述べる機会を与えなければならないので、実地調査を免れる可能性が少し高くなるとのことです。この特集では、税理士さんに依頼する価値が強調されています。税務調査の対象になりやすいのは、申告内容が税務署の持つ情報と乖離がある場合、法人化3~5年後の場合、黒字法人の場合であるとされています。黒字がターゲットになるのは、追徴課税ができるからです。不備が指摘されてしまったら、修正申告しますが、納得いかない場合は、更正を請求します。当然、税理士さんに依頼することになるでしょう。なお、重加算税を取られれば、脱税した人間として記録に残るので要注意です。相続税の実地調査については、申告から3年が目安だそうです。ただし、絶対ではありません。大きな資産を保有している人なら、当然、税理士さんに依頼しているでしょうから、そういう人には、特に新鮮味がないアドバイスかも知れません。

 

遊休地ビジネス

 地主と家主7月号には、最新トレンドとして、貸し会議室(オフィスビル内)、トレーラーハウス(4年で減価償却、節税)、スマート自販機(無人店舗)のほか、コインランドリーが掲載されています。コインランドリーは、過去20年で店舗数は2倍になりましたが、まだ洗濯労働市場の2%しかカバーしていないため、まだ市場として伸びると言われています。アルカリイオン電解水を使うことで、洗剤不使用でも、同様の洗浄力が担保できる設備が開発され、星野リゾートなどで採用されているという紹介記事が出ていました。環境負荷が低いこと、化学物質アレルギーが防げることなど、メリットがあります。コインランドリー業界でも、付加価値を訴求できる会社が伸びて行くものと思います。

 

2024年6月17日 (月)

南にかけひあり

筑波大学蹴球部

 J1で首位争いをしている町田に、PK戦の末、勝利しました。内野選手の同点ゴールは、流石の一撃でした。学生でU23に選抜されているだけのことはあります。町田にも勝てるチャンスは十分ありましたが、当日は、彼らの日ではなかったようです。怪我人も4人出て、うち2人が重症とのことで、今後のリーグ戦の戦いが苦しくなるかもしれません。筑波大学の選手たちが、特に故意に汚いプレーをしたわけでもないので、上から目線で咎め立てするのはおかしいと思います。あえて注文を付けるなら、審判に対してでしょう。ただ、審判も、両軍に対し公平なジャッジをしていたと思います。天皇杯で、カテゴリーが異なるチームに挑んでいるわけですから、強度を上げて向かっていくのは当然のことです。後半の終盤に、怪我人が出て、交代枠がゼロだったために、10人での戦いを余儀なくされたのは、不運でした。こうした事態を予測して、枠を残しておくことが今後の教訓になるでしょう。格下の大学チームがJ1のチームに稀に勝つのが、天皇杯の面白さです。J1で昇格組の町田が首位争いをしているのと、似たようなことです。筑波大学蹴球部の天皇杯における快進撃を期待しましょう。Jのチームが、怪我を恐れて腰を引いた戦いをすれば、厳しい結果になると思います。

 

中教審の審議のまとめ

 世間の評判も良くないようですが、審議会の報告書としての質にもかなりの疑問があります。コメントは次の通りです。文科省によるパブコメを行われています。内容が大きく変わることはないでしょうが、世論の内容を文科省が知る機会にはなるでしょう。

  • 教職調整額の制度を温存すれば、時間外勤務を抑制できないのではないか?
  • 働かせ放題では、コスト意識の欠如、管理職のマネジメント不足という課題を克服できないとする意見も紹介されている(P50)。
  • 教師の勤務は、勤務時間内外を問わず包括的に評価すべきというロジックは、他の専門業務と比較して、本当に妥当なのか?⇒勤務時間外の行動をどう評価しているというのか?所詮、把握は不可能で、賃金と結びつけるのは非合理なことではないか?裁量労働制のような働き方を想定しているのかもしれないが、教師は、学校の現場で仕事をすることがメインで、裁量労働には当てはまらない。
  • 超勤をやった分だけ手当を払うという仕組みに切り替えられない理由は何か?
  • 国立・私立の教師との違いがあるとする理由は、単なるこじつけではないか?⇒多様な児童生徒がいること、定期的な人事異動があること、業務の裁量の幅が大きいことなど、本質的な働き方の違いを説明する内容とは言えない。要は、説明になっていない。国立・私立で行えている勤務時間の管理が、公立で行えない理屈はない。教師という枠で勤務の特殊性を正統化するなら、設置者での区別はロジックが極めて怪しくなる(P51)。
  • 諸外国の例を、これもあり、あれもあると言うようにはぐらかして、都合の良い範囲で紹介しているが、データとして、どういう傾向なのか、きちんとした分析はない。要は、教職調整額のような制度は存在しないのではないか?一般的には、他の労働者と同様に勤務時間管理をして、超過勤務手当を割り増しで支払っている国が多いのではないか?
  • なぜ日本の教員は労働時間が長いのか?大胆な削減案を示さないなら、現場は変わらないのではないか?
  • 授業時間の削減まで提起しているが、その前に見直しすべき点があるのではないか?優先度が低い業務を特定して、一律に教員の関与を外すことはできないのか?踏み込みが浅いと、現実にならない希望を書いただけになる。
  • 要は、文科省が旗を振っても、成果が出ていないのは、どこにボトルネックがあるのか?根本原因の探求無くして、一般論で、関係者が協力しましょうと書くだけでは、目ぼしい成果が出るはずもない。
  • 教員の業務量を減らすためには、別途の予算が必要ではないか?
  • 全校への教員業務支援費の予算措置で、どれほどの超過勤務を削減できるのか、規模のデータが示されていない。単に、やっている振りをしているようにしか受け取れない。中教審はデータチェックもしないのか?
  • 学校外への委託、事務職員への業務移転についても、規模の議論が抜けている。予算措置の成果目標として、超過勤務時間をどれほど削減するのか、明確にすべきである。
  • 教員負担を根本的に減らすための新モデルの設計なしに、現行制度の調整で、現状変更が可能なのか?
  • 始めから、あくまで現行制度内の調整で、事を納めようとしているのではないか?教師不足などの現象は、現行のモデルが時代遅れになっていることを意味している。そのことに向き合っていない改革案は、成立しない。
  • 工業化を支える人材から、知識社会を支える人材へのシフトで、教師の役割は高度化しているが、子どもに教える者としての権威も揺らいでいる。超過勤務の削減、待遇アップだけで、職業としての教師の魅力が復活するとは思えない。中教審は、現行のモデルに拘り過ぎている。

 

2024年6月16日 (日)

琴、琵琶おのおの一張を立つ

ナバロンの要塞

 1961年公開のイギリス映画です。スケールの大きな戦争アクション映画の傑作です。精鋭が集められて、不可能とも思える危険なミッションに挑み、敵との駆け引きを経て、犠牲を出しながら、ついに任務を遂行して、友軍の兵士2000人の命を助けるというストーリーです。その後も、個性派のプロが集められて、難しいミッションに挑むという映画は、数多く作られていますが、この映画は、その原型になったと思います。主演のグレゴリー・ペックはクールなインテリで、ロッククライミングの名手であり、指揮官として非情な面もあります。因縁の相手であるアンソニー・クインは、器の大きい熱血漢ですが、一筋縄ではいかない不屈の骨太の男です。肝心の爆破のプロには、名優デビッド・ニーブンが扮します。彼は、イギリス風のユーモア担当でもあります。この三人を起用したことが、この映画の成功に繋がっています。ドイツの哨戒艇への奇襲、嵐の中の上陸、パルチザンとの連携、ドイツ軍の追跡と捕囚、山岳地帯への逃亡と銃撃戦、裏切り者への対処、怪我人へのニセ情報の伝達、陽動作戦による敵基地への侵入、銃撃戦での犠牲、大砲破壊のために仕掛けた罠、渋いカップルの誕生というエピソードの連鎖は、観客を飽きさせません。今なら、誘導ミサイルによって、ナバロンの大砲は破壊できるでしょうが、本作品には、人間の集団が、いかにして様々な困難を乗り越えて、ミッションを完遂したかというプロジェクトXのような爽快感があります。自白剤を用いる相手にニセ情報を攫ませて、陽動作戦に成功するという手法は、当時としては、斬新でした。敵を騙すために、味方にニセ情報を与えて、敵に捕まえさせるというのは、詐欺師顔まけです。戦争の本質が一種のゲームのように感じられて、始めて観たときには大いに感心したことを思い出します。

 

年金の繰り下げ需給

 厚生年金では、2021年度現在で、2%の人しか行っていません。扶養家族がいる場合の加算が受けられなくなるという問題が、一つの原因です。ただ、繰り下げた場合には、長生きしないと損をするという計算を見せられれば、躊躇するのは当然のことです。給与所得がある人の場合は、受給額をカットする制度があるので、カットされた分は、繰り下げても増額にはなりません。厚労省は、75歳以上の年金額を増やせるメリットを強調していますが、国が推奨することが反って不信感を持たれて、逆効果になっている可能性があります。しかも、年金がないと暮らしていけない65歳以上が大半で、繰り下げる余裕がないと感じているのではないでしょうか?人間、いつまで生きられるか、分からないので、早くもらえるものをもらって、今を楽しく生きることを選択するのは、極めて合理的です。繰り下げは、広がらないと思います。

 

ドジャースによる出禁

 日テレとフジが、大谷翔平選手に関する無軌道な報道の責任を取らされて、ドジャースから、出禁という処分を受けました。大谷選手の過去の映像も使えなくなって、テレビ局としては、シオシオノパーという感じです。社内では責任追及が始まっていることでしょう。幾つか首が飛んでもおかしくありません。水原一平通訳による違法賭博と巨額資金の窃盗事件の報道に際して、被害者だった大谷選手も違法行為にかかわった可能性があるかのようなコメントを、コメンテーターを使って、しつこく流していたことには、報道機関として、危うさと無責任さを感じていました。大谷選手の人柄を見れば、違法行為に手を染めるような人間ではないと信じていましたが、捜査によって事実関係が明らかになり、そのことは証明されました。その後、彼のハワイの邸宅について、不必要なのぞき見趣味の報道も行われましたが、犯罪組織に狙われる恐れを含めて、過度な個人情報の暴露には、完全に行き過ぎがあると感じていました。注目度の高い大谷選手という有名人のことなら、何でも根掘り葉掘り報じても構わないと勘違いしていたと思います。大谷選手という素材を使って、視聴率を上げることだけに暴走した末路は、情報からのシャットアウト=出禁でした。私たちは、別の局の番組で大谷選手の動静はフォローできますが、日テレ、フジの情報番組は、彼のインタビューの映像などが見られないので、間違いなく視聴率を落とすことでしょう。会社として、報道姿勢を猛省すべきですし、どのようにドジャース(大谷選手)と関係修復を図るのか、注目しましょう。

 

2024年6月15日 (土)

和歌、管弦、往生要集ごときの抄物

海外移住

 大石奈々「流出する日本人」(中公新書)は、海外移住の光と影をコンパクトに概観する内容です。海外在留邦人数のランキングを見ると、アメリカが最大で32%を占め、次いで中国と豪州が8%弱、カナダ・タイ・英国が5~6%といった具合です。最近の海外移住は、高賃金が目的とばかりは、言えないようです。デジタル・ノマドという新しい働き方が出現したり、富裕層が節税目的に海外移住したりするケースも目立ちます。また、研究者たちは、日本に適当な職がないことが移住の理由になっています。女性が全体の6割を占めますが、国際結婚が、その理由です。子どもの教育を目的とする移住もあります。グローバルな環境で教育を受けさせたいと親が考えているケースです。著者は、永住権がない場合のリスク、悪徳業者の存在、物価の高騰によるリスク(生活困窮者の存在)、医療問題、差別による壁、国際結婚のリスク、退職移住のリスクなどについて、詳しく紹介しています。著者は、海外移住に関しては、中立的な立場のようですが、世界で行われているようなディアスポラ戦略を勧めています。例えば、帰国による頭脳循環の促進、母国への投資促進、元国民やその子孫たちへの権利付与、国境を越えたコミュニティとの連携強化、複数国籍の容認などです。今後、海外で稼ぐことを目的とする移住者は増えるでしょうが、一方向の富や人材の流出に繋がらないような政策が求められると思います。若年層にとって、日本という国が魅力的なものにならないと、優秀な上澄み層がいなくなってしまう恐れもあると感じます。

 

給食費無償

 全国の完全給食を実施している自治体の3割で、小中学校の給食費の無償化が進んでいるという文科省の調査結果が出ました。この数年間でかなり進んだということです。保護者の負担をなくすことで、子育てしやすい自治体というアピールになるからでしょう。ただ、公費の負担額には、かなり差があり、近頃の食材費の高騰に対応できているのか、不安になります。20年ほど前には、給食の内容は、自分たちが子どものころを比較して、随分、リッチになったという印象を持ちましたが、昨今は、その当時と比較して、質で見劣りするのではないかと感じています。現場の方々は、苦心して、栄養バランスを考えた献立を用意しているのでしょうが、無償化することで、経費を抑え込むことになれば、本末転倒です。平気で給食費を払わない親もいるようですから、無償化は苦肉の策なのかもしれません。

 

もの言えば唇寒し

 日経新聞に、エール大学のシニアフェローのローチ教授のインタビュー記事が載っていました。3月に、中国発展ハイレベルフォーラムに出席して、「何のための会議なのだろうか」と失望を感じたとのことです。会議は、かつての面影を失い、経済見通しについて否定的なことは一切言えない、質問の機会もないという状況でした。ローチ教授は、アメリカでは数少ない中国寄りの経済学者で、アメリカの中国嫌いを強く批判してもいますが、中国の現状には深い憂慮を感じています。まだ、未来に希望をかけているようですが、私は、中国共産党の統治が続く限り、このあたりが限界だと感じています。活発な討論の文化無くして、中国の発展は望めないでしょう。政府に都合の悪いことは、口にしてはいけないというようでは、中国人民はいずれ窒息してしまいます。中国にビジネスで出張する企業人も、本当のことを言うと拘束されかねません。2020年代になって、本当に嫌な国になったものです。

 

2024年6月14日 (金)

黒き皮籠三合を置けり

デンマークのエフタ―スコーレ

 サンダール「デンマーク流ティーンの育て方」(集英社新書)には、14歳から18歳までの生徒を対象にしたデンマーク独自の寄宿学校(エフタ―スコーレ)が紹介されています。そこでは、全学生の40%が、1~3年間、大人の予行演習のような生活を経験しています。教師は、授業以外の時間についても、生徒の監督指導に当たるので、教師と生徒の間には、親密で個人的な絆が生まれるとされています。年間の費用は、スコーレによって異なりますが、約16000ドル(約256万円)とかなり高額です。経済的に負担が難しい若者については、自治体からの全額補助もあるようです。さすが、デンマークは福祉国家なのです。韓国には、デンマークのエフタ―スコーレをモデルにした学校(グムトル)が設立されています。著者は、子育てに関して6+4のキーフレーズとして提示しています。遊ぶ、ありのままを見る、視点を変える、共感力、叩かない、仲間と心地よくつながるという従来の6つに加えて、信頼、人格形成、自分らしさ、責任をともなう自由の4つです。エフタ―スコーレは、人格形成に大きな意味を持ちます。若者の人間教育に関しては、デンマークから学ぶことが、色々とありそうです。日本には、大人の予行演習をする場がほとんどないからです。

 

サッカー日本代表アジア2次予選

 ミャンマーに5-0、シリアに5-0で、強さが際立っています。2チーム分の選手がトップレベルにある層の厚さも、頼もしく思います。余裕のある戦いぶりで、選手や戦術を試してもいました。アジアカップで力が発揮できなかったのが嘘のようです。客観的に見て、ワールドカップ出場は、ほぼ確実だと感じていますが、どんな状況でも負けないというタフネスがあるかという点では、そういう厳しい経験をする機会がなかったので、分からないと思います。U23の方が、先に、パリ五輪でのメダル獲得に向けて、試練を乗り越えることになると思いますが、日本代表がワールドカップでのベスト4以上を狙うとなれば、攻守に渡って、強みを消された時の対応に課題がありそうです。何とか、優勝経験のある強敵と試合をする機会を得て、チームとしての習熟度を上げてほしいと思います。

 

景観への配慮でマンション解体

 国立市の積水ハウスが開発したマンションが、引き渡し直前に、解体されることになりました。市民から、富士山の景観への影響があるとして、設計見直しをして、ようやく竣工に漕ぎ着けた物件だそうですが、最終段階での撤退という判断には、驚かされました。別に何か問題が発生したのかとも勘繰りたくなりますが、あくまで周辺への配慮が不十分だったことが解体の理由とされています。日照ならば、具体的な不利益なので理解できますが、景観は、開発規制の段階で配慮されているはずで、建築許可が下りていれば、ある地点から富士山が見えにくくなったというような点まで、問題にされることはないと理解していました。今回の解体は、開発業者側の判断ですが、景観への配慮が、国立市のようなところでは、それほど重いものになったと受け止めて良いのでしょうか?多くの開発事業者は、この件を前例にはしたくないと考えているはずです。景観の保全論争に一石を投じる積水ハウスさんの判断でした。

 

2024年6月13日 (木)

前に法花経を置けり

選択的夫婦別姓

 経団連が、早期実現に向けて動き始めました。多くの企業では、ビジネス上、旧姓の使用を認めていますが、通称と戸籍とのズレは、トラブルのもとになります。実際に、ビジネス上の不都合が起きているために、今回の政府・与党への働きかけに至ったということです。夫婦別姓の選択を認めることで、誰も損をしないと思いますが、イエのかたちが、変化することへの不安を感じる人がいるのも事実でしょう。家族で姓が違うのは、何となく気持ちが悪いという感覚でしょうか?選択制なので、自分の判断で選ぶことを認めるだけなのですから、他人の家族が別姓になることを許さないというのもおかしな話です。例えば、女性が旧姓を使い続けると家族や社会にどんな不都合が起きるのでしょうか?また、選択を不可にすることでどんな公益を守りたいのでしょうか?経団連までが、選択的夫婦別姓の早期実現を要望しているのは、世間の感覚から遅れてしまっている議員さんが相当数いそうな国会への警鐘になると思います。実現後は、旧姓に戻したい人も認めるようにしたら良いでしょう。同じ墓に入りたくない人が増えているので、高齢になってから別姓を選択する人もいるでしょう。

 

学校教育の荒廃

 神野直彦「増補教育再生の条件」(岩波書店)には、「学校教育の使命は人間的欲求を抑圧し、人間の非人間的使用に忍従する人間を形成することにある。」と、身も蓋もない殺伐とした表現が出てきます。種々の形で表れている学校教育の荒廃は、その使命の達成に失敗したことを意味するとの見立てです。その通りかもしれません。著者が勧めているのは、オスカル・オルソン氏による真の人間性の発達を目指す教育で、基本的には、生涯に渡る自己教育活動の推進です。自由な個人の集まりによる、学習サークルで学び合うことが大切だとされています。その観点から、学校教育を再生することが可能でしょうか?勉強から学びへのシフトチェンジは、教師から、教える者としての権威の鎧を奪うことになります。現実に、学校教育の場で起こっていることですが、小学校教員の人材不足の原因にもなっていると思います。児童生徒の学びを導く役割は、単に授業案に従って教え込むよりも、難しいことで、教員にとっては、明確な手ごたえがないままに、暗中模索を繰り返す苦しさがあると思います。工業化を支えた学校モデルが通用しなくなり、かと言って知識社会に適合した学校モデルは未だ開発途上で、当面、学校教育の荒廃は避けられないのかもしれません。

 

教師の仕事のスリム化

 日野英之「教師の仕事をスリム化する3つの原理」(学事出版)は、指導主事をしている著者が、教師の立場で仕事をどう精選したらよいのか、ヒントを提供するものです。著者によれば、モヤモヤゾーンに様々な仕事があるとしています。例えば、校門での挨拶当番、休日の地域行事への参加、PTA活動への顔出し、学級通信の作成、印刷業務、勤務時間外の会議、会議資料の製本、体育館・理科室の整理、行事ごとの打ち上げ幹事、各種研究会への参加、詳しすぎる指導案の作成、部活動の指導、電話の取次ぎなどです。モヤモヤの仕事に関わっているのは、「子どものために頑張ろう」という魔法の言葉、学年ごとのブラックボックス、実直で真面目な教師ほど仕事を増やす性分が、原因だと分析されています。そこで、著者は、モヤモヤゾーンにある次に該当するものは、思い切って手放すことを勧めています。第1に、勤務時間外の本来の業務でもなく、教師としてぜひやりたいという気が起こるものでもないもの、第2に、教師以外でもできるもの、第3に、単なる学校の慣習・文化に過ぎないものです。多くの場合は、ケースバイケースでの判断になりそうですが、悩んでいる教師の方にとっては、拠り所になると思います。教員の勤務時間が異常に長くなっている現状を変えようと思えば、具体的に、これはやらないという基準を示すべきだと思います。大量の印刷などを外部委託すれば、費用も生じます。そうした予算の確保も必要です。特に、保護者の理解が欠かせません。これまではやってもらっていたという思いで、学校批判にならないように、きちんと説明を用意して、すべての批判には、文科省や中教審が泥をかぶるべきでしょう。著者は、ワクワクするという類型で、教師の篤志による業務を設定していますが、この部分が肥大化すれば、モヤモヤと似た問題になりそうです。本来のコア業務かどうかで区分することで、勤務時間中に行う精選した業務に絞って議論を進めた方が良いと思います。例えば、子どもの生命にかかわるようなケースなら、超過勤務命令を出して、それに従事させればいいだけです。教師が自己判断する必要はありません。

 

2024年6月12日 (水)

阿弥陀の絵像を安置する

献金被害と司法

 統一教会への献金の返金を求めないという念書の効力について、地裁、高裁は、念書は有効で、勧誘にも違法性がないとして、統一教会側の主張を認めましたが、最高裁で弁論が行われたことから、その判決が注目されています。念書を書いた女性は、1億円ほどの献金を行ったようです。当時、認知症が進行していた可能性もあります。典型的なカルト教団としての統一教会の性格をきちんと理解すれば、司法が公共の福祉を守るために何をすればよいかは明らかでしょう。2020年代になって、統一教会に対する理解が甘くなったということでしょうか?名称を変更しようが、教祖が交代しようが、もともとの性格は変わっていません。司法がカルト教団による巧みな収奪に、お墨付きを与えることがないよう、最高裁の判断に期待しましょう。

 

保護司の犠牲

 大津市で、保護司の方が殺害され、就労指導をしていた相手が逮捕されるという事件が起こりました。支援していた相手に保護司が殺されたとすれば、制度の根幹にかかわる問題だと思います。保護司は、非常勤の国家公務員ではありますが、報酬もなく、ほぼ民間のボランティアとして、公益的な活動をしているだけですから、根拠なき恨みを買って殺害されるというリスクを負ってまで、役割を引き受ける人は、更に少なくなるでしょう。実際、年々、成り手不足で数が減少しているとのことです。私が家族であれば、種々のリスクを考えて引き留めると思います。保護司のような制度は、世界にはない(フィリピンは日本を参考に制度化)ということなので、存続の可否を含めて、制度自体の見直しをしたらどうでしょうか?逮捕された人間が、「保護」されていないと不満を述べていたようですから、そういう自立心の乏しい甘い考えを持った者には、保護司の制度は誤解を招いてしまう恐れがあるとも思います。保護司は、保護者ではないはずです。

 

不安定なフランス

 フランスの欧州議会選挙で、極右の国民連合が、31.4%の得票を獲得して、「第一党」となりました。別の極右と合わせれば、4割が極右への投票です。マクロン大統領は、急遽、国民議会を解散して、6~7月に総選挙が実施されます。この選挙で、同じような結果となれば、極右の首相が誕生する可能性もあり、「危険な賭け」だと評価されています。フランスでは、大統領と首相の政治母体が異なるコアビタシオンが起こったことはありますが、政治的な不安定さは否めません。特に、移民、環境に関する政策では、大きな溝があるため、混乱は必至です。ウクライナ支援についても、継続が困難になるかもしれません。欧州の多元主義、非差別、寛容の社会が、内側から崩壊し始めています。恐らく、EUに対する懐疑、移民の受け入れへの不安、インフレによる生活難などの不満が、極右への投票に流れているものと思います。より根本的には、社会における格差が拡大しすぎていることが、左派ではなく、極右への支持の拡大の原動力になっているものと考えらえます。フランスの国民議会の選挙結果によっては、欧州の極右化がスピードアップしそうです。

 

2024年6月11日 (火)

その西に閼伽棚を作る

住宅地のBBQ

 マンションの道路を挟んだ対面のビルの屋上に、立派なBBQの設備が持ち込まれ、6月初旬の夕べに初めて実際に煙と臭いが、こちらに流れてきました。見れば、外国人らしい人たちです。世田谷区の住宅地のような場所で、戸外で肉を焼くということは、周囲への迷惑をかけないことを心掛けるなら、通常考えられませんが、ついに、こうした場所にも、別の文化を持つ外国人が住む時代になりました。当面、管理組合の理事会で、対応策を考えてもらうことになりましたが、まずは、手紙を出すくらいでしょう。お互いに気持ちよく暮らすための常識が共有できない人が済むことを前提にするなら、条例で禁止事項を定めるなど、法規制をかけるしかなくなります。そんな未来が近くなっていると感じます。多数の外国人が流入する地域や団地では、もともとの住民たちとの間に様々な軋轢が生まれているというニュースをしばしば目にしますが、そうしたことがどこでも起こりうる時代になったということでしょう。

 

中教審と現場のズレ

 中教審特別部会による審議のまとめの評判は芳しくありません。定額で勤務時間を無制限に伸ばせるというシステムを変更しないという方針への批判の声が大きいのです。また、超過勤務の縮減に関する方策が、結局、現場任せで、実効性が感じられない点も、大きな不満を生んでいるようです。教職調整額を、4%から10%以上に引き上げれば、現場の教員から喜んでもらえると考えたのでしょうか?10%に相当する時間の範囲に、実際の超過勤務を抑えるという目論見も見て取れます。しかし、机上のプランを立てようが、現場の実態は変わらないのではないでしょうか?中教審も文科省も、ブラックと言われる現場を変える方策を持ち合わせていないことが分かります。ゆとり教育の際に、学習内容を精選したように、教員の業務を精選する(やらないことを決める)ことが、必要だと思います。現場の教員は、やればやるだけ仕事が増えて、どこかで手抜きをしないと潰れてしまう状況に追い込まれています。理想に燃えて現場に入った人でさえも、最後は、やる気さえ失うでしょう。肝心の業務の精選について、大胆な提言をまとめられないなら、現場からは見放されると思います。

 

定期購読の解約

 木曜日発売の週刊文春の定期購読をしていましたが、配達が土曜日や金曜日の夕方まで遅れるようになり、やむなく解約することにしました。週刊文春自体は、今後も、読み続けるつもりで、コンビニで購入することになります。ラスト1マイルの配達が、どうして急に遅れるようになったのかは不明ですが、請け負っている以上、1分でも早く届けるのが務めだと思います。週刊誌は、生鮮食料品のようなもので、鮮度が命です。地方への配達なら時間がかかるのは分かりますが、コンビニで木曜日の朝から販売しているものが、定期購読の場合は、金曜日の夕方以降にしか読めないのでは、話になりません。よほど、人出不足なのでしょうか?膨大な量の荷物を個人宅にきちんと配達しているヤマト運輸さんのような会社の有難味が分かります。

 

2024年6月10日 (月)

積むところわづかに二両

型式認証制度

 自動車生産における点検で、トヨタを始め、幅広い不正が発覚して、一部の車種の生産が停止されています。型式指定制度は、国交省の審査を経て、指定された型式の自動車について、新規検査時の現車提示が省略される制度です。大量生産を合理的に進めるための制度ですが、今回のように、メーカー内の検査で不正が行われてしまえば、制度自体が維持できなくなります。確かに、重大な事態ですが、メーカー側の説明では、不正の結果、リコールが必要になるような欠陥車が市場に出ていたわけではないとのことです。不正のニュースは国内外に流れて行きますから、日本車への信頼を揺るがすことにもなりかねません。型式指定に関しては、生産現場の実情も踏まえて、規制のあり方に関して合理的な見直しをするきっかけにしてほしいと思います。

 

恐るべき緑

 ラバトゥッツ「恐るべき緑」(白水社)は、少なくとも日本ではあまり知られていない科学者の評伝というスタイルを取っています。科学的事実については、フィクションを交えることなく、歴史的事実に関しては、小説的な想像力で物語を構築しているようです。ややシニカルな文体と小説の作法が独特です。どこからが著者の想像力で補われたのかは、読者には分かりません。取り上げられているのは、毒ガス兵器を発明した者、ブラックホールの存在を示唆した者、代数幾何学に革新をもたらした者、量子力学の開拓者たちです。エピローグでは、40歳で数学研究から身を引いて隠遁生活を送る夜の庭師の話が語られます。科学の進歩は、天才によってもたらされますが、その頭脳は、狂気と紙一重の領域に踏み込むことを余儀なくされます。その人生は、どこか悲劇の要素に包まれます。標題の緑は、成長する生命を意味しているようです。科学や研究者を暗喩しているのかもしれません。著者はチリ人で、オランダ、アルゼンチン、チリで育ちました。この作品は、国際ブッカー賞の候補作にも選ばれており、小説の新しいスタイルを切り拓いたものだと感じます。日本では、こうした小説は目にしません。

 

秋の菜園計画

 8月までには、春夏の作物を収穫し終わり、9月からは、秋のシーズンに入ります。既に、種イモなどの購入が始まっています。私の9区画の計画は、ジャガイモが3区画、タマネギが2区画、ソラマメ、カブ、エンドウが各1区画、ロマリア+キャベツで1区画です。ジャガイモの脇で、ニラ、ミズナ、ニンジンを、エンドウの脇でチンゲンサイを育てようと考えています。春夏で、狭い場所を有効活用して、多収穫を目指す方法を試してきたので、秋も、それに取り組んでいくつもりです。ジャガイモとタマネギは、保存がきくので、大量に栽培したいと考えています。8月までは、春夏の育成・収穫に集中します。今は、ブロッコリー、キュウリが獲れ始めています。

 

2024年6月 9日 (日)

やすく外へ移さむがためなり

難民2400万人時代

 日経新聞に、2023年末現在で、母国を離れて欧米へ逃れる人々の波が、世界規模の人口大移動を起こしているという記事がありました。歴史的な民族大移動です。移動の理由は、貧困・格差、人権抑圧、戦争などですが、民主主義国の保護を求める人は、10年前と比較して3.5倍に増えました。2023年の流入は、アメリカが219万人と最大で、同期の流出は、ベネズエラが118万人、アフガニスタンが32万人、キューバが31万人、ニカラグアが27万人、イラクが22万人、コロンビアが22万人、ホンジュラスが20万人、ハイチが19万人と続きます。バイデン政権は、メキシコからの越境者が、1日平均2500人を越えたら難民申請の受理を停止する(即時送還になる)という大統領令を発しました。難民の流入による経済的なメリットもありますが、社会的な負担も増すので、欧米各国では世論の反発を無視できなくなっています。それでも、一時的に抑え込んだとしても、民族大移動は止まらないのではないでしょうか?今後は、中国やロシアからの脱出も増えてくるでしょう。強権国は人材を流出させて、長期的に、国力の低下を招くというシナリオになりそうです。

 

無形民俗文化財の継承

 地域に根差した無形民俗文化財は、観光の集客の目玉になりますが、地域の人口減少と高齢化によって、担い手不足が深刻です。そのために、企業やボランティアを活用して、マンパワーを確保する試みが行われているという記事が、日経新聞に載っていました。地域の文化財を地域外の人間で支えるということは、本来、御法度でしょうが、背に腹は代えられない事情も理解できます。ただ、地域あっての無形民俗文化財なので、地域の生活が様変わりしてしまえば、継承していく意義が薄れます。無形文化財の保存の中核を担う人材が高齢化して行けば、例えば、いくら神輿の担ぎ手がいても、祭り自体の維持はできなくなるのです。結局、継承保存される無形民俗文化財は、地域に人材がいることが前提なのです。限界集落では、どこかで諦めるしかないと思います。民俗なのですから、暮らしのスタイルの変化で、消滅することもやむを得ません。もともと、そういう存在なのです。いつか失われることを前提に、早く記録保存して、デジタルアーカイブに残しておくべきでしょう。

 

永遠の積極財政派

 岸田政権は、財政再建を取るのか、積極財政を取るのか、よく分かりません。自民党内でも、両陣営が綱引きを繰り広げています。低金利時代が続いて、財政支出のコストが抑制されてきましたが、金利上昇による今後の国債の利払いの増加にどう対処するのか、不安を感じないのでしょうか?長くアベノミクスを続けてましたが、力強い経済成長もインフレ目標の達成も実現しませんでした。積極財政派が、プライマリー・バランスの黒字化を先送りし続けようとするのは、後の世代に付けを回しているだけだと感じます。世代間の不公平には、若年層に不満のマグマが溜まっているのではないでしょうか?しかも、出生率が低下し、若い人口は減り続けています。民間による需要が拡大するまでという理屈で、永遠に積極財政を打つわけにはいきません。積極的に行動するという意味では、再生不能になっている地域からは撤退して、地方都市への集住を促進するというような、始末を先にしていくような施策を展開すべきではないでしょうか?能登の復興などは、そのチャンスですが、持続可能性が乏しい集落を存続させるために、インフラ整備の予算を投入するような「積極財政」なら、反対せざるを得ません。人口減少時代の政治の役割は、どこを伸ばすかではなく、どこを切るかです。当然、痛みを伴います。歳出圧力を高めるだけの議論は、もう卒業しなければならないはずです。先始末という意味での積極性を示すことが、政権与党の役割だと感じます。

 

2024年6月 8日 (土)

地を占めて作らず

出生率1.20

 結論から言えば、異次元の子育て支援策で、出生率が向上する保障はありません。出産・子育ての主たる障害となっているのは、経済的な負担、仕事との両立の難しさであり、それを改善するものではないからです。また、経済的な問題で結婚ができない人は、対策の外に置かれています。本来は、ここに潜在的な出生率の改善の可能性があるにも拘らずです。厚労省がエンジェルプランを始めてから30年で、これまでの関連予算は66兆円にも上ります。しかし、出生率は下がる一方で、人口推計の予測と比較しても、10年先の低い数字になってしまいました。1.20が発表されると同時に、改正子育て支援法が成立したというのは、皮肉な話です。結局、これまでの子育て支援策は、出生率の改善という目標の達成に関しては、悲しいほどの失敗で、時間も無駄になりました。それでも、誰も責任を取りません。それにも拘らず、またまた異次元という国民負担増を伴うプログラムを実施しようとしています。出生率の改善という観点で、効果が上がらなければ、どう責任を取りますか?官房長官が国家の危機だとまでいうのならば、第1子の時に女性が取得したら第2子では男性に約1年の育児休業を強制的に取得させる、育児休業の間の生活費はそれまでの給与の80%程度まで保障するというような北欧型の施策を行ったらどうでしょうか?失敗しても責任は取らず、効果の薄い施策で国民負担増を強いるなら、内閣支持率の低下はやむを得ないと感じます。この国のかたちを変える気がなければ、出生率の改善は未来永劫起こらないでしょう。失敗を続ける国は、国民からも世界からも見捨てられると思います。

 

異次元緩和の評価

 西野智彦「ドキュメント異次元緩和」(岩波新書)は、異形の金融緩和を実施することで、アベノミクスの一翼を担い続けた黒田東彦総裁時代の日銀の政策を読み解くために、関係者からの聞き取りで事実を丹念に収集したジャーナリストならではの作品です。残念ながら研究者にはこうした芸当はできません。また、経済専門記者でも、ここまで深く幅広く、相手との信頼関係を築きながら、核心的な情報を拾うことができる人は稀です。著者は、あくまで重要な事実を埋もれさせないために、歴史の記録者として、客観的な視座で、淡々と筆を進めていますが、最後に、7ページほどの私見を述べています。この部分は、熟読を要します。結局、黒田緩和の薬効は、円安・株高に尽きるという評価です。加えて、安倍政権の長期化という政治経済的な成功も一種の薬効としています(ただし外圧となって日銀に跳ね返ると予測)。また、金融正常化のプロセスは、植田体制を超えて、後の世代にまで引き継がれるかもしれないとしています。その担い手には、大きな試練が圧し掛かります。最後に、黒田総裁自身が、日経新聞の「私の履歴書」で示した自己総括には、拙速にして失当という厳しい表現が使われています。日銀の政策を長くウォッチしているジャーナリストとしては、当初の緩和の公約が果たされることなく、副作用に繋がる日銀のバランスシートの歪みが残されている中で、戦果を自慢げに語る人間には、辟易としていることが分かります。倫理的に許されることではなく、まったく同感です。既に、円安が国民生活を苦しめていますが、歴史は、必ず黒田緩和を厳しく断罪するものと思います。アベノミクスは、成長戦略の面では失敗だったことが既に明らかですが、黒田緩和の副作用が明るみに出て、総合的にマイナス評価となれば、安倍政権は、日本経済の更なる凋落の原因を作ってしまったと評価される日が来るかもしれません。岩波新書の西野氏及び軽部謙介氏の作品は、日本経済の今を理解するための必読書です。海外読者のために英語版も欲しいところです。

 

棋聖戦第1局

 後手の藤井8冠が、典型的な藤井曲線の展開で、危なげなく勝利をつかみました。相掛かりの出だしでしたが、山崎8段の工夫の駒組にも、隙を見せることなく、見せ場さえ作らせない完勝でした。山崎8段としては、8八銀が壁になったまま終盤を迎えたこと、7五歩と位を取った手が逆に咎められたことが、誤算だったと思います。藤井8冠としては、銀を引いてから、6三に打った角が3筋からの攻撃に非常によく働き、優勢を築きました。山崎8段に1七角と打たせてからは、着実にリードを広げて行きました。山崎8段は、勝負手を放って、粘ろうとしましたが、駒損で戦力差が開くばかりでした。藤井8冠が、何とか勝負に持ち込もうとする山崎8段の意図を読み切って、最善の備えをしていたために、大差がついたと思います。本当に強い棋士の勝ち方です。3八飛打ちで、ほぼ勝負が決しましたが、その後も、馬の効きを止めるなど、細かい点にも手を抜かずに、山崎8段を投了に追い込みました。観ている側からも、先手で終盤の競り合いに活路を見出そうとしていた山崎8段には、手も足も出ないようなダメージが残る敗戦だと感じます。第2局までに、山崎8段がどう立て直すかが焦点になります。とにかくベストを尽くしてください。

 

2024年6月 7日 (金)

広さはわづかに方丈

クマの領分

 人口減少が続けば、次第に、空き家が増えて、クマが人間の領分に侵入しても、気づかれなくなることが当たり前になるでしょう。危険生物が出没すると、別に仕事を持っている猟友会の人たちに出動してもらうことになりますが、ある町では、出動手当てが安すぎることから、役割を返上する動きが出てきました。ボランティアのようなかたちで、頻繁にクマ退治に出動させられるのでは、本来の仕事に支障が出て来ます。山に餌がなくなれば、クマは人家のある町にも出てきます。その都度、山に追い返すことが必要になるなら、恒常的なクマやイノシシの担当を行政に置くべきでしょう。また、クマの領分には、人間が立ち入らないことも徹底したらどうでしょうか?クマの餌になる山野草を人間が収穫してしまえば、クマは街に出ざるを得なくなります。春のお楽しみは減りますが、人間の領分を守ったらどうでしょうか?

 

フリースクール通学への支援

 不登校の児童・生徒が、フリースクールなどを学びの場とすると、例えば、東京都内ならば、平均月4万3000円の家計への負担があります。学校に通学する場合にはかからない経費です。2024年度から、東京都は、上限2万円の補助制度を始めます。日経新聞でも、報道がありましたが、1500人ほどが対象になる見込みです。東京都は、これに必要な予算額3億6000万円を予算計上していますが、財政力が低い自治体にとっては、容易ではないと思います。フリースクール通学への支援を拡大するためには、国による支援制度の設計が必要だと感じます。居住している場所によって、支援が受けられないのは、不公平だからです。公立学校に充てる予算の中から、不登校の児童・生徒の割合に応じて、補助のための予算を確保したらどうでしょうか?公立学校ならタダにするが、フリースクールならご勝手にというのは、時代の変化に対応できなくなっている文科省の政策構想力の劣化を表現しているように感じます。文科省は、頭が固いからダメでしょうと言われ続けて良いのでしょうか?

 

同性婚の憲法論

 LGBTQの人たちへの差別解消に必要性に対する認識は深まっていると思いますが、同性婚を法的に認めるという判断には、憲法24条の壁が存在します。千葉勝美「同性婚と司法」(岩波新書)には、同性婚も憲法24条の婚姻に含まれるという解釈論が提案されています。憲法の文言を見れば、婚姻は「両性」の合意に基づいて成立する、「夫婦」が同等の権利を有するという記されており、憲法制定当時の異性による婚姻という「常識」が反映した、既に克服されたと考えられる古い家族概念に縛られた表現が見られます。憲法改正が頻繁に行われていれば、こうした誤解を招く文言は、改められていたものと推測しますが、文理解釈で、同性婚を憲法24条の外側に置くのは、特定の人への差別を憲法が認めてしまうことになるので不都合だと思います。「常識」の変化に合わせて解釈によって合理的な結論を導くことは、憲法学者に求められる仕事です。著者は、そういう観点から、「憲法の変遷」という法理論を用いて、著者は、両性⇒当事者、夫婦⇒双方と読み替えることで、憲法24条が同性婚を排除していないと解釈しています。仮に近未来に憲法改正への取り組みがなされるならば、文言の改正ですっきりした方が良さそうですが、あらゆる改正に否定的な人も少なくないため、著者の提案に賛同したいと思います。

 

2024年6月 6日 (木)

すみかは折々に狭し

明瀬山引退披露断髪式

 6月初旬に、国技館で行われました。いわゆる花相撲はなく、木瀬部屋、埼玉栄・日大出身の幕下力士トーナメントがありました。佐々木山さんが優勝しましたが、賞金を獲得したのかは不明です。。最後の土俵では、息子さんとの取り組みがありました。家族のことについては、秘密ではないかも知れませんが、公表はしていなかったと思います。奥さんが国技館に車で送り迎えしていたので、出・入待ちをしているファンには分かっていました。明瀬山関は、現役時代の独特の体型を保っていたように感じます。髪結い実演、祝い太鼓の後、栄相撲部の山田監督から祝辞があり、300人による断髪が行われました。記念Tシャツのデザインをした能町みね子さん(パンの山というニックネームの名付け親)も、鋏を入れていました。明瀬山関の挨拶では、後輩の大関豪栄道関が引退してくれたために、枠が空いて奇跡的に昇進が叶ったというエピソードが語られました。番付運がなかったと諦めていた時の朗報でした。豪栄道関は、大関陥落で引退と決めていたようですが、明瀬山関にとっては、大関からの電話が奇跡のように感じたそうです。ゆるキャラのような力士でしたが、キャラが立っているので、最高位が幕内12枚目でも、なかなか盛大な断髪式でした。

 

岐阜市の観光

 金華山の城(再建)は、下からも見上げることができ、道三公から信長公に渡り、天下布武の拠点になった難攻不落の名城です。そもそも、急傾斜なので攻め上る気にさえなりません。大半の観光客は、ロープウェイで上がります。山上には、なぜかリス園があり、朝から多数の観光客に餌をもらったリスたちが昼寝をしています。城までは、急傾斜の石段を登ります。足弱の方には、厳しい傾斜です。城の最上部まで上り詰めれば、素晴らしい絶景が待っています。鵜飼が見られる長良川を中心に、遠くまで周辺が一望できます。ロープウェイで下山すれば、岐阜公園ですが、確か、ゼットンという公園カフェ・レストランの企画開発を行う会社が公園の再開発プランを手掛けているはずですので、今後、さらに魅力が増すでしょう。駅に戻る方向に、しばらく歩けば、伊奈波神社があります。ご祭神は、景行天皇の兄(垂仁天皇の子)ですので、1世紀の創建ではないでしょうか?拝殿までは、緩いが長い坂と石段を登ります。現在の地に祀られたのは、道三公の時代のようです。パワースポット好きな方には、境内の黒龍大神がお勧めです。力を授かってください。夕食は、JR駅ビルにある岐阜料理の店(円相くらうど)で、地酒(恵那山、白川郷、Wダブリューなど)と小鮎の天ぷら、岐阜もの八寸、けいちゃん焼き、どて煮などを楽しみました。岐阜県の観光地では、高山が有名ですが、岐阜も単なる県庁所在地ではなく、かなり集客力のある観光都市だと思います。なお、JR岐阜駅ビルで購入した養老軒のフルーツ大福と生どら焼きは、手土産としての価値が非常に高いものでした。お勧めです。

 

なでしこの不安材料

 パリ五輪に向けて強化の時期ですが、メダル獲得には、澤穂希選手のような絶対的なエースが存在しない点に不安が残ります。ないものねだりですが、最近NHKBSで放送されたワールドカップドイツ大会のドイツ戦を見ても、澤選手の攻守にわたる活躍がいかにチームを牽引していたか、改めて認識しました。しかも、故意ではなかったとしても、彼女は、顎に肘打ちを食らい、股間を蹴られて動けなくなり治療も受けていました。相当な痛みだったはずです。決勝点を決めた丸山選手へのラストパスは、そうしたダメージを超えて、絶妙の美しいループで丸山選手がひた走るスペースに出したものです。見上げた根性なのです。ヤマトなでしこながら、大和魂の見本のような戦う選手です。16歳で出場したスウェーデン大会でも、年少者というよりも、主力の一人でした。メダル獲得には、闘争心でチームを牽引する存在が必要です。

 

2024年6月 5日 (水)

末葉の宿りをむすべる事あり

Bリーグ決勝

 プレーオフを隈なく見たわけではありませんが、広島の優勝は、組織的な守備の勝利でした。守り勝つという戦略は、抜群の能力を持つ選手がいない場合に、最も効果的な方法です。守る方が、攻めるよりも、成果を上げやすいのです。広島はチームとして、戦略をうまく実行することができて、下克上を成功させました。勝ったチームが強いとも言えますが、個々の能力で見れば、広島よりもレベルが高いチームはあるでしょう。観客側としては、両チームとも80点越えの得点を上げる接戦を見たいと思います。得点シーンが盛り上がるカギです。バスケット人気は高まってきていますが、得点が多く入る試合が増えなければ、大衆受けはしないでしょう。さらに、プレーオフは、3試合ではなく5試合マッチにして、決勝は、7試合マッチにすべきでしょう。決勝の3戦目は横浜アリーナでチケット完売になったのですから、試合数が増えれば、さらに収益が上がるはずです。シーズン7位の広島の優勝で、来期の優勝を狙えるチームが増えました。Bリーグにとって、良いことです。ただ、勝率上位の宇都宮、A東京、三遠などが早々に姿を消したのは、少し拍子抜けでした。本当に実力のあるチームはまだないということでしょうか?3試合制の問題かもしれません。

 

力士の引退

 5月場所が終わり、力士の引退発表がありました。目立つのは、旧宮城野部屋からの引退の多さです。暴行事件の加害者は追放になりましたが、被害者たちは、部屋の廃止で、強制的に伊勢ケ浜部屋に移籍させられました。生活の変化や運営への戸惑いがあったと思います。複数の力士が引退という究極の選択に至ったのは、結局、思慮に欠けた相撲協会の責任です。幕下以下の力士の育成ルールについては、改善すべき点が多数あると思います。私が提案するとすれば、まず、幕下昇進に年齢制限(例えば26歳)を設けることです。制限年齢までに、一度でも幕下へ昇進できない力士は、自動的に引退とするわけです。その後、希望すれば、相撲協会の費用で、セカンドライフのための職業訓練を行うようにします。力士を続けている人の中には、チャンコ番がメインの仕事になっている人もいます。もちろん相撲も取っていますが、彼らは、部屋に置かれた職員として、相撲協会の費用で勤務し続けられるように制度を変更します。部屋には、スポーツトレーナーなどの専門職員も配置するようにします。もちろん、力士出身者も資格を取れば可です。力士数が減少していることに鑑みて、幕下力士は、1場所9番の相撲を取ることにします。同時に、幕下力士にも、給与を支払うことにします。プロ力士として、一人前と認めるのです。付け人という任務からも外します。さらに、力士数の少ない小部屋を統合して、部屋数を半分程度にします。部屋は法人化して、後援者らから出資をしてもらいます。当面、師匠が経営の実権を握るかたちで、経営と指導の一致を図ります。ただ、長期的には、経営と指導は分離した方が、プロの相撲力士の養成にはより効率的ではないかと思います。経営は、力士出身でなくても十分可能です。むしろ、その方が、経営者として優れた人材が得られるでしょう。親方は、専ら力士への指導力で評価を得るべきなのです。もちろん、親方株の制度は、大幅に見直すことになります。サッカーのように級ごとのライセンス制を構築すべきだと思います。親方株があれば、実質的に働かなくても、給与をもらえるなどということはあり得ません。大相撲の力士という職業は、プロスポーツ選手として、一言で言えば、全く魅力が乏しい、貧相な存在です。幕下のプロ化による待遇改善、セカンドライフへの支援などの仕組みを早く検討すべきだと思います。大相撲の未来には、力士の人材不足という避けがたい危機が迫っています。

 

叡王戦第4局

 後手の藤井聡太8冠が、タイトル戦で初めてカド番に追い込まれた一局だったので、注目されました。結果は、中盤から有利を築いた藤井8冠が、終盤も安定した差し回しで、伊藤7段に反撃のチャンスを与えずに押し切りました。角換わりの標準陣形から後手の藤井8冠は、手待ちをしながら、金冠で右玉に構えました。あらかじめ想定した構えかもしれません。伊藤7段は、穴熊ですが、囲いは不十分です。藤井8冠の6五歩に対する対応で、伊藤7段に誤算あったようです。藤井8冠が6四に据えた角が、その後、7五馬になった時点で、角の働きの違いで両者にかなりの差ができました。終盤は、裸状態になった穴熊に対して、小駒を使った着実な攻めで、伊藤7段を投了に追い込みました。カド番でも普段と変わりない指しまわしで、メンタル面でも平常心の強さを発揮したと感じます。最終局は、6月下旬になりますが、後手で第4局を勝った藤井8冠がやや優位に立ったと思います。やはり凄い棋士だと感じます。

 

2024年6月 4日 (火)

捨てがたきよすがもなし

One Love

 ボブ・マーリーさんの伝記映画です。ジャマイカのレゲエ音楽家ですが、政治的に深い分断が起きていた当時、国民の和解と統合に、尽力した稀有な存在でした。ラスタファリズムというジャマイカ独特のキリスト教思想が、彼の行動と音楽の基盤になっています。彼のレゲエの多くは、宗教音楽でもあるのです。歌詞は非常に力強い楽天的なメッセージに溢れています。かつて渋谷公会堂でのコンサートに行きました。”Get Up,Stand Up” ”I Shot The Sheriff” ”Exodus” “Jamming” ”No Woman,No Cry”などの曲は、その際にも、演奏されていました。特に、ライブでは、彼らの演奏力、表現力が引き立っていました。映画の中にも出てきますが、私が見た彼らのコンサートは、ショウとして洗練されたものでした。ある程度、大衆受けのために妥協した形だったのかもしれません。それにしても、実際に見たコンサートの中で、極めて秀逸な内容だったと記憶しています。今回、この映画を観ることで、その記憶が増幅されたと感じます。映画には、商業的な成功のための変節や彼の不倫などで、妻(コーラスを担当)が苦悩を抱えていたことも描かれます。信頼していた仲間の裏切りもありました。アルバム”EXODUS”後の成功の代償です。この作品は、家族の視点に基づく伝記映画なのです。従って、彼の偉大さだけでなく、矛盾を抱えた一人の男という人間らしさに、力点が置かれています。母子をトレンチタウンに捨てて去って行った父親(白人)に対する思いも、しばしば描かれます。最終的には、父親や彼を銃撃した犯人を含めて、全てを許すという境地に至っていたようです。ボブ・マーリーさんは、その後、病気のために、36歳の若さで亡くなりました。この映画は、妻と子どもたちによって制作されました。彼のような音楽家はもうでないのではないかと思います。ボブ・マーリーさんに関心のある人は、必見です。

 

那須雪崩事故

 宇都宮地裁で、引率教員ら3人への実刑判決が出されました。判決は、雪崩発生の予見性を認め、重大な危険を看過し、相当に緊張感を欠いたずさんな状況の中で、漫然と実施されたと強く批判しています。2017年3月の事故ですから、7年が経過し、同級生たちは社会人として独り立ちしている頃です。遺族の方々には、子どもを亡くした喪失感が再び襲ったことでしょう。生徒7人と教員1人が死亡したという事故ですから、極めて特殊なケースであり、実刑判決が出るのも頷けますが、そもそも教員に高度な指導力を期待するのは無理があるでしょう。登山に関する知識経験が不十分な人間が、非常に危険な活動に関して安全対策をする責任を負わされるなら、よほど地震がある人でなければ、部活動の指導者を敬遠することになります。この判決は、結局、専門性の乏しい教員が指導しなければならないなら、部活動は立ち行かなくなるという事実を現場に突き付けたものだと思います。重大な責任を伴う指導には、きちんとした専門家を然るべき待遇で迎える必要があるでしょう。それができなければ、その部活動を維持することはできません。教員に過度な負担を強いることがないよう、システムの転換が必要だと思います。

 

衣服の廃棄禁止

 新しいアパレル業界への規制として、フランスからEU全体に広がりました。NHKのフロンティアという番組でも、チリのアタカマ砂漠に捨てられた衣服の膨大な山を紹介していました。チリでは、古着の束を輸入して、その中から商品を選別して販売するビジネスが盛んで、売り物にならない衣服は、合法・非合法を問わず廃棄されてしまうのです。背景には、衣服の生産過剰があります。これまでの大量消費は、大量生産が前提なのです。規制によって、初期の生産自体を7割程度に抑える、オンデマンドによる即時供給を可能にするなどの改革が進みつつあります。難しいとされた混紡素材の再利用を可能にする技術開発にも目途が立ちました。また、微生物によるタンパク質合成の日本発の技術をアパレル素材の開発に生かそうとしているパリコレ(オートクチュール)の出品者、中里唯馬さんの実践も、フロンティアで紹介されていました。アパレル産業は、大きな変革の時期を迎えています。恐らく、パリ五輪でも、こうした潮流の変化を感じさせる発信がなされるものと思います。それにしても、世界のCO₂排出に関して、アパレル関係が、運輸部門などを抑えて3番目の巨大な存在だったことを初めて知りました。それで、EUにおける規制が進んだ背景がよく理解できます。日本国内も無縁ではいられないでしょう。

 

2024年6月 3日 (月)

家を出て世をそむけり

AIに学習させるのは自由か?

 著作権法では、原則、無償で学習させることを可能としています。内閣府の検討会では、他の知財についても、原則として、規制の対象外だと整理しました。AIを使って創作した作品についても、通常通りに権利が発生するとしています。いずれも、ケースバイケースで、より詳細な検討を要すると感じます。AIのやっかいな点は、半永久的に学習成果を創作に生かすことが可能であることです。人間が学習したとしても、寿命が尽きれば、そこでお終いですが、AIは、死にません。文章も、音楽も、美術作品も、過去の作品を参考にしながら、どのような出力も可能なのです。学習が自由だというのは、まだ生成AIの初期段階だから許されるかも知れませんが、このまま、情報蓄積が進むと、人間以上の創作力を発揮してしまうかもしれません。ソニー・ミュージックは、同社のコンテンツをAIによる学習から除外するように開発者に対して要請しています。学習させたければ、許諾を得てほしいということです。背景には、アーティストたちに不当な学習への不安が高まっていることがあるようです。このように、海外の作品(権利保護対象に限らない)についても、すべて無償で学習できる、人間がAIを使って創作しても権利が得られるというルールが、普遍的に通用するかどうかは、かなり疑問です。国際条約の整備が必要だと思います。

 

戦時経済への復帰

 フランスは、武器の生産を強化して、輸出産業にする方向に政策の舵を切っているという記事が、日経新聞に出ていました。なるほど、ロシアのウクライナ侵攻、イスラエルとハマスの戦闘などを見れば、武器の備えが必要だという感覚も芽生えます。自由貿易が過去のものになり、半ばブロック経済に立ち返るような流れが感じられます。北朝鮮の核・ミサイル開発は止める術もなく、中国は、台湾への武力侵攻の意思を隠そうとしていません。平和の恩恵を受けて、それが当たり前だと受け止めて生きてきましたが、この先には、否応なく戦争と向き合い時代が待っているかも知れません。一切の憲法改正に反対するなら、戦争から我が国を守る術をきちんと論じてほしいと思います。ウクライナは国際的な支援を受けていますが、彼らのために、援軍を出している国はありません。結局、自国は自国民で守るしかないのです。その事実から目を背けることはできません。フランスの、戦時経済への転換は重く受け止める必要があると思います。

 

白い拷問

 ナルゲス・モハンマディ「白い拷問」(講談社)は、イランにおける自由を求める女性に対する差別的な抑圧の状況が描かれています。イランほどの古くからの文明国が、シーア派の宗教指導者による独裁体制を長らく許容していること自体、不可思議です。著者は、女性に対する人権抑圧は、社会全体を掌握・支配する手段として行われていると述べています。この作品には、彼女自身と13人の証言が収録されています。白い拷問とは、イスラム政権による殴打・尋問・独房拘禁であり、囚人の外部刺激を奪って、認知機能を低下させて、プロパガンダを信じやすくする効果があります。カルト宗教でも似たような手法が用いられます。白い拷問を受けた人には、心に後遺症が生じて、フラッシュバックに苦しむとのことです。この作品は、女性を黙らせるために、刑務所がどこまでやるのか、理解するための手助けになります。女性の地位を低くしておくための社会的な仕掛けを理解することは、日本におけるジェンダーギャップを考える際の参照基準にもなります。

 

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