なに事ももてなしたるをこそよきにすめれ
和歌山地裁の無罪判決
資産家の死亡事件に対する注目の裁判は、間接証拠による殺人の証明が不十分であり、本人による覚醒剤の過剰摂取という可能性もあると判断して、裁判員たちが無罪と評決したようです。簡単に言えば、動機や機会という点で疑わしいところはあるが、どのような手段で殺したのかという点での十分な証明が欠けていたということなのでしょう。これに対して、本人が誤って過剰摂取したのならば、その現場に、接種に使用した器具や覚醒剤が入っていた袋なりが残っているはずではないかという疑問を抱きます。そうしたものがないならば、杉下右京やコロンボでなくても、辻褄が合わないと考えるでしょう。刑事裁判の場は、結局、真実の探求が肝心で、様々な可能性を潰していって、被告による犯罪であることが確実かどうかを判断するものだと思います。素人目にも辻褄が合わないケースを想定して、真実の探求を止めてしまうと、外部から侵入した形跡がない状況でも、今回の被告のように、無罪になってしまうでしょう。家に中に2人しかいない状況で、不審死があっても、証拠を隠滅されて具体的な殺害方法を検察側が特定できず、無罪判決が出るとすれば、完全犯罪の方法は、かなり広がることになります。恐らく検察側が控訴するでしょうから、大阪高裁では、真実の探求を深めてほしいと思います。亡くなった資産家の無念を晴らすためにも、辻褄が合わない想定は排除して、合理的疑いなるものを、さらに精査するよう願います。
学士院会員
学士院の新会員6人(全員男性)が発表されました。いずれも立派な業績を上げた方ですので、異議はないのですが、学士院の女性会員は、驚くほど少ないことに気が付きます。会員リストから拾ってみると、大塚栄子さん(核酸化学)、川合真紀さん(物理化学)、中西準子さん(環境リスク管理学)、西澤直子さん(植物栄養学)の4人です。会員(任期は終身)の定員は150人で、現在の会員数は137人となっていましたので、女性比率は、僅か2.9%ということです。ほぼ男性の学者クラブなのです。過去の学術業績に基づく選考なので、女性の会員が増えるのはこれからなのかもしれませんが、かりにも特別職の国家公務員(非常勤)の選任なので、これほどまでに著しい男女格差は、放置できないと思います。まずは、現員と定員の差を利用して、女性研究者を各部に追加することを考えたらどうでしょうか?当面、女性比率10%を目標にしたらよいと思います。学士院は、ノベール賞、文化勲章の受賞者を始めとする碩学泰斗の組織ですから、それにふさわしい学術業績という基準を大きく損なうような選考をする必要はありません。ただ、女性研究者が、日本学士院に増えなければ、日本という国が、学術の世界においてさえ、未だに男女差別を脱却できない遅れた国だと誤解されかねないことを憂慮します。学士院の会員各位に、ぜひお考えいただきたいと思います。
倫理資本主義
マルクス・ガブリエル「倫理資本主義の時代」(ハヤカワ新書)は、「資本主義のインフラを使って道徳的に正しい行動から経済的利益を生み出し、社会を大きく改善することができる、またそうすべきだという主張を展開」するものです。強欲で収奪的な行動よりも、持続可能性を考慮した行動の方が、大きな利益に繋がるというわけです。日本にも、三方よしの経営など、著者の主張に近い共生の哲学が商家に伝わっています。著者の主張のポイントは、資本主義自体を否定せず、むしろ擁護していることす。原点として拠り所にしているのは、国富論とともに道徳感情論を著したアダム・スミスです。また、ホモ・サピエンスという種が協力を優先することで繁栄を築いている動物だという真理も、彼の論拠になっています。日本人の多くは、経済活動に倫理的要素を加えることで、持続可能な繁栄を追求することにより、社会が安定的に発展するという考え方に、大きな違和感を持たないと思います。ただ、著者が、応用編に記している、企業に倫理部門を作る、子どもに選挙権を付与する、次世代のAI倫理を企業活動に導入するという提案については、様々な異論がありそうです。著者は、子どもの選挙権は、誕生時から付与し、3~4歳までは、保護者によって代理行使させると述べています。このような案に賛成する人は少ないでしょう。なぜなら、子どもが主体的に物事を判断できるような知性を備える年齢になるまでは、選挙権を付与することが適当だとは考えられないからです。また、自立した人間として、社会的な責任を完全に負うことができないなら、選挙権だけを与えるのは論理的におかしいでしょう。議論を喚起する目的で、あえて、このような提案をしているものと受け取ります。未来を担う子どもの視点を政策に取り入れるべきだという発想には賛同します。
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