« 2024年2月 | トップページ | 2024年4月 »

2024年3月

2024年3月29日 (金)

朝顔の露に異ならず

生成AIを利用した楽曲制作*

 鼻歌程度をもとにして、生成AIの活用により新しい音楽の制作が可能になるサービスがYouTubeで公開されるとのことです。音楽知識がない人間も、簡単に楽曲制作が行えるので、こうしたサービスを利用した音楽がヒットする日も近いのではないでしょうか?この場合、鼻歌程度を入力した人間に著作権を認めることになるのかは、創作性の点で微妙です。既存の楽曲の一部を継ぎ接ぎして、自分が創作したように装うことも可能だからです。また、こうしたサービスに使用する生成AIが学習した音楽の著作権者への利益の還元も問題になるでしょう。この点については、政府も、適切な還元が必要との認識を示していますが、還元の中身については未解決の課題です。恐らく、音楽とAIの両方で最先端を走るアメリカなどが事実上の標準を形成するのではないかと期待されます。素人が作曲家のように楽曲制作ができるというのは、私たちが若い頃には夢のような話で、このサービスを利用したい人は膨大な数に上ると思います。

 

異次元緩和からの脱却*

 日銀の異次元緩和からの脱却宣言は、円安が進んでいる以外は、うまく行ったようです。日米の金利差が大きい状態が維持されると読んで、円安が進むことは、ある意味で仕方のないことです。その作用として、輸入品の物価高騰が懸念材料になります。中小企業や非正規の賃金が物価以上に上がることを見越して、マイナス金利を終了し、0.1%というわずかな金利のある状態に戻したのですが、少数の反対意見があったように、経済が好循環に向かうかどうかは、まだ確定的ではありません。春闘の結果が好ましかったというタイミングでの、見切り発車という感じです。変動型の住宅ローンの金利が上がらないとすれば、社会的に騒ぎになって日銀が再び政策変更を余儀なくされることはないでしょう。アメリカ経済の好調、中国からの資金シフトで、日経平均は上昇しており、この調子が維持できれば、僅かな金利のある世界で安定するのではないかと思います。

 

大相撲に蔓延する暴力*

 今度は、春日野部屋で、暴力事件があり、加害者と被害者が3月場所を休場していましたが、被害者(栃神山さん)の方は、急に引退ということになってしまったようです。ネットニュースでは、報道がありますが、相撲協会からは、事件について発表がないので、詳細は不明です。北青鵬事件で報告を怠った宮城野部屋は閉鎖の方針なので、不明朗な隠ぺい工作が伺える春日野部屋も同様になるのでしょうか?もしも、そうではないのなら、両者にどういう事情の違いがあるのか、明らかにすべきでしょう。これまでの相撲協会の対応は、極めて場当たり的で、差別的でもあります。執行部の中に、宮城野親方を追い出そうと画策している人がいるように見えます。部屋を解体して、相撲協会から出て行くように仕向けているのでしょうか?春日野部屋の暴力事件に関して、見て見ぬふりをするならば、相撲協会が世間の信用を得ることは難しいと思います。また、どの部屋の力士についても、同じように暴力を受けないことを保障すべきで、指導する親方の怠慢については、きちんと正すべきでしょう。また、大相撲中継をしているNHKさんには、報道機関としての責任を果たすことを求めたいと思います。傍観者では困ります。

 

U23サッカー日本代表*

 対ウクライナ戦は、2-0で勝利しました。主力の松木、藤田両選手が出場したので、守備が安定し、サイドチェンジも有効で縦パスも入り、攻撃が機能しました。前半から荒木選手が積極的にシュートを打っていました。ウクライナは堅守速攻で対抗しましたが、やや危ない場面は2~3回ほどで、完封したという印象です。対マリ戦から修正したというよりは、戦術が相手に嵌ったことと、起用された選手たちの個の能力が高かったということでしょう。1点目はセットプレーからの得点でしたが、アジアでの戦いに向けては、大変好ましい成果でした。2点目は、チャンスに3人がゴール前に詰めたことが結果に結びつきました。田中選手のシュートも見事でした。この世代の選手たちは、海外組も多く、高いレベルでもまれている経験値があるので、飛び抜けたエースは不在ですが、連携の練度が上がればチーム力は相当高いと思います。まずは、アジアを制してパリへ行きましょう。

 

投資と新NISA*

 ある経済評論家さんは、新NISAが始まったからと言って、投資で豊かになろうという幻想は持つべきではないとしています。そうは言っても、その枠を使えば、20.315%の課税がされないわけですから、少しでも余裕資金がある人は、新NISAを使うべきだと思います。昔から、投資知識がない人までが株式投資を始めるようなら、市場が過熱状態に至っており、早晩バブルが弾けると言われています。その意味では、下がることがあるので要注意という趣旨なのでしょう。ただ、こういうアドバイスに従って、投資信託すらもやらない人は、結局、リスクを取って少しでも稼ぐという行為に全く向いていない人だと思います。それはそれで構わないのですが、人生が一度きりである以上、打席で一度もバットを振らないのは、勿体ないと感じます。

 

理系学部増員*

 2024年度から4年間で、理系学部を1万1000人増員する計画を文科省が承認したのだそうです。3000億円の基金が設定されているので、その金を当てにして、私学が理系学部への転換を進めたということです。人材需要とのマッチングが気になりますが、理系学部と言っても、電気や機械というような典型的な理工系ではなく、情報、建築デザイン、環境などの文系寄りの学問分野が中心になっています。再編に伴う教育人材の遣り繰りができそうな分野に店を張り出したわけです。理系学部という何でもありに近い定義では、真の人材需要に応える供給サイドの人材養成の的確なシフトには、程遠いのではないでしょうか?なんちゃって理系学部が増設されても、3000億円の国費に見合う価値があるのか、甚だ疑問です。

 

紅麹の悲劇*

 小林製薬が製造したサプリメントの服用による腎疾患が広がっています。入院患者が26人という発表があり、死者まで出ました。この紅麹を原料とする他社の食品・飲料でも市場からの自主回収が進んでいます。医薬品メーカーが、健康への障害をもたらす製品を市場に出してしまっていることには、ショックを受けました。しかも、発表の段階で、障害の原因物質の同定やメカニズムの解明にも至っていないということも、医薬品メーカーとしての信頼を揺るがしています。専門家による解説を聴けば、紅麹自体が障害の原因ではないとのことですが、真の原因に関する解明が遅れているために、世の中に対して、紅麹が入っているものはすべて危険だという印象を与えてしまっています。紅麹を摂取したから入院したのだという誤解が広がってしまうことを防ぐべきだと感じます。そのためには、こういう危機に当たって、原因物質の特定という仕事を、国及び大学の研究機関で迅速に行えるようなシステムが必要ではないでしょうか?その結果をもとに、政府から科学的な説明を行うことが望ましいと思います。

 

香港への国家条例施行*

 国際金融都市に相応しいとは思えない人民統制の危険な道具が、香港にも適用開始になりました。中国本土においては、アステラス製薬の社員が、嫌疑内容不明のまま、スパイ容疑で拘束されたままです。中国当局が、外資離れを食い止めようと躍起になっても、こんな予測不能の状態では、安心して渡航すらできません。香港でも同じことが起きるでしょう。ビジネス以外でも、中国人の神戸学院大学教授が帰国した後、消息不明になっています。アメリカ政府系のラジオ局は、香港から撤退しました。記者は国外に退避しています。国家安全の定義が中国当局の思惑で決まるわけですから、危なくて、香港への観光旅行や留学もできなくなりました。こんな条例がないと国家安全が守れないくらいなら、外国からの渡航を制限する鎖国でもしたらよかろうにと思います。まさに日没するところのビッグブラザーが統制する国家になってきました。共産党による統制を強化しなければならない危機感があるのでしょう。

 

火山学の衰退*

 国内の活火山111に対して、専門家は113人で、文科省が1億円の補助金を用意して、大学でのリカレント教育をテコ入れするのだそうです。火山学の専門家が減少しているのは、大学を含めて高度な専門家の人材需要が減っているからです。国立大学の法人化以降、大学の火山観測所は、次第に人員整理が進んできました。地震観測所も同じですが、大学キャンパスに研究者が移動し、現地の出先は無人化が進みました。現地での火山観測・監視の役割は、主として気象庁が担っています。地元で長年頼りにされていた名物的な大学教授は定年になり、後継者は地元にいなくなりました。国立大学では、運営費交付金が増えないために、コスパが悪い観測施設を維持する経費の優先度は低くなる一方です。国が、火山の観測・研究・監視などの業務を重視するのであれば、専門の組織を設けて、長期的な視点で高度な専門人材の養成確保を行うべきだと思います。人材不足になったのは、主として需要側の事情なので、文科省の1億円で事態が変わるとは到底思えません。

 

2024年3月26日 (火)

昔ありし家はまれなり

サッカー日本代表対北朝鮮戦*

 国立競技場での第1戦は、1-0での勝利に終わりました。前半2分に、ゴール前の連携から、田中選手のゴールが生まれ、3~4点取って楽勝するかと思いました。実際、前半は、相手にシュートを許さず、圧倒的に優位な戦いでした。2点目のチャンスが幾つかありましたが、相手のGKの好プレーなどに阻まれました。後半は、一転して、攻め込まれるシーンが多くなりました。あわや同点かというシュートはポストに当たって助かりました。北朝鮮に再三ゴール前にクロスを上げられて、しばしば肝を冷やしました。ようやく28分に谷口選手を入れて、中央を強化したことで、劣勢は解消されました。右サイドの橋岡選手の起用とともに、森保采配が的確でした。まとめれば、ゼロに抑えて勝ったのは収穫だが、2点目を取れなかったことに課題を残したということです。特に、左右の攻撃の軸であった三苫・伊東の両選手がいない状態では、決定機を生み出すことが難しいという印象です。第2戦は、平壌開催がキャンセルになったので、また中東でやるのでしょうか?負けることはなさそうですが、2点以上の差をつけて、安心して観られるようにしてもらいたいと思います。

 

U23サッカー日本代表*

 京都での親善試合で、マリに1-3で負けました。これが日本のベストだとしたら、パリに行けたとしても、メダル獲得には程遠い状態です。序盤でリスタートから得点できましたが、マリは、コンパクトな布陣を維持することで、日本の攻撃のスピードにも慣れて、逆襲からチャンスを作っていきました。同点になったのは、日本のパスミスがきっかけですが、マリの前線からのプレスが機能したとも言えます。身体能力ばかりが注目されがちですが、欧州での経験を積んでいる選手たちは、きちんと戦術を理解し、組織的な規律も身に着けています。後半は、開始直後からマリが優勢でした。2点目は、GKが死角から打たれたミドルシュートをはじいたところを詰められました。ゴール前を固めようとしたために、右サイドからフリーでシュートされたことに問題があります。マリは、ミドルシュートの精度が日本よりも上でした。その後、日本も、交代で入った選手たちを中心に攻め込む場面がありましたが、コンパクトな布陣の突破に手を焼いて、決定機を作ることはできませんでした。終了間際には、左サイドをドリブルで突破されて、きれいなラストパスから、フリーでシュートを打たれて簡単に決められました。日本がやりたいような攻撃の形です。総括すれば、日本代表の課題は、攻撃の際に選手間の距離が遠すぎて連携が機能しないこと、やや遠目からのシュートへの意識が足りないこと、サイドを突破した際にゴール前に詰める選手の数が足りないことです。攻撃のスイッチを入れるための縦パスを供給できる選手を中盤に配置して、3~4人で手数を掛けずにシュートまで行く形を作る必要があると思います。技術レベルが高い選手が揃っているので、浅いラインを突破する連携の練度を上げれば、本番ではマリのような手強いチームにも勝てると思います。

 

韓国の医学部増員*

 地方の医師不足という課題への対応として、政府主導で、大学の医学部の入学定員を3058人から5058人に増やす措置が取られました。医療の質が低下するとして、大学関係者らから多くの反発が起きています。増員分の82%は地方大学に配分されています。医師養成の段階から地方重視に転換しようという試みです。ソウル大学、延世大学の医学部は、教授が一斉に辞表を提出する方針で合意しています。5月の新入生募集要項の発表時期を睨んで、政府と医療関係者との対立をどのような形で解決するのか、注目されます。日本では、こうしたことは起きないと思いますが、医学部の入学定員は、医療関係者にとって、非常に大きな関心事項です。増員分の地方大学への重点配分が、既存の医学部の力関係のバランスを変化させることになるので、医学部間の利害が激しく対立しているものと思います。韓国政府も随分と思い切った政策を実行しようとしているものです。こうした騒動で、若い医師やその卵たちが不利な扱いを受けぬことを、祈りたいと思います。

 

神戸大学バドミントンサークル*

 合宿中の北陸地方の旅館で器物損壊などの事件を起こしたことで、旅館から賠償を求められるとともに、SNSで愚行が拡散されたために大学が謝罪する事態になっています。神戸大学という学問の府に在籍する大人が、こうした事件を引き起こしたことに、世間の人たちは呆れて、卒業生は恥ずかしい思いをしていることでしょう。若い人に、酒が入って、気分が高揚すると、しばしば、暴走行為が起きてしまいます。私自身が、そうした現場にいたことはありませんが、若い国家公務員たちが、泊りがけの懇親会や合宿研修などの際に、大暴れして、施設を壊したり、備品を持ち去ったりというような蛮行を行ったという問題事例は何度か聞いたことがあります。もちろん、後で注意処分を受け、かなりの額の賠償金を自分たちで支払ったはずです。こうした事件が起きるのは、一種の集団心理で、一部の人間が暴走し始めるのを、同調者が煽って、後先の事を考えずに、ノリで馬鹿げた破壊行為に走ってしまうためです。止めに入るリーダー的な人間がいなかったのが致命的です。バカなことをした学生たちの方を持つわけではありませんが、これまでも日本人の集団の暴走行為の例は山ほどあるので、心から反省して、迷惑をかけた人たちに謝罪して、旅館にはきちんと弁償して、大学からの処分を受けて、人生の糧にしてほしいと思います。こういうことがあると、別団体の体育会バトミントン部にお門違いの抗議をしたり、大学職員にくどくどと文句を言ったりする迷惑な人たちがいますが、損害を受けてもいない無関係な人間が、とやかく言うのは間違っていると思います。まだ学生なのですから、やり直す機会を認めてあげるべきです。

 

フラッシュ・ウォー*

 NHKBSの同名の番組を観ました。ウクライナ戦争でも、ロシアは、攻撃目標を自立的に判断して攻撃するドローンを使用しています。空だけでなく、陸や海でもドローンの利用が盛んです。しかも、遠隔操縦型からAIを利用した自立型のロボット兵器への転換期で、その開発競争が激しくなっているのです。アメリカが先頭を走っているようですので、次に本格的な戦闘が起これば、前線に投入される可能性があります。イスラエルも自立型のドローンを実戦配備しているようです。日本の状況は分かりませんが、少なくとも開発競争への参入を考えているはずです。ロボット兵器による戦争は、悪夢でもあります。悪用されれば、簡単に大量殺戮が可能になってしまいます。一度開発された危険な武器は、実質的に世界に広がり、使用の歯止めをするのが難しくなるでしょう。大学で学術研究として行われているAIやロボットの開発は、軍事転用可能な技術になりうるので、軍事研究との境界がますます曖昧になりそうです。私は、大学の研究に不必要な制約をかけることには反対ですが、日本は、殺人兵器に使える技術にはとりわけ敏感ですから、早めに国民的議論を進めておくべきかと思います。大学で研究できることにしても、機微な技術なので、その情報管理には細心の注意を払うことを求めるべきでしょう。

 

春夏の野菜づくり計画*

 世田谷区ファミリー農園を借りられたので、春夏の野菜作りを始めています。既に、種から苗を育成中なのは、かぼちゃ、ミニトマト、ブロッコリ―、キュウリ、ナスです。小松菜、ニンジン、大根は、トンネル栽培で、種まきをして、栽培が始まりました。しばしば強風が吹いて、マルチを張り直したり、トンネルを修繕したりしています。他に、枝豆、トウモロコシの栽培も予定しています。今春は、梅の開花も早く、暖かくなったという印象がありましたが、その後、寒さがぶり返して、桜の開花も遅れ気味です。早く安定した春らしい陽気が待たれます。

 

大相撲三月場所*

 尊富士関が13勝2敗で優勝しました。大卒ではありますが、所要10場所での幕内優勝は快挙です。それにしても、千秋楽に出場したのには、驚きました。歩けるからと言って、靭帯が伸びていたのですから、相撲を取るのは無理な体でした。普通の人なら回復までに2か月はかかります。本来、プロなのですから、不十分な体で出場するのは、他のスポーツ同様に不可とすべきです。これで、彼の力士寿命が少し縮まったと思います。私は、近々、大尊時代が来ると考えているので、大相撲の看板になる力士を潰す恐れのある強行出場は、部屋の師匠や相撲協会として止めるべきだと思います。右足を浮かし気味で取り組んでいましたので、押し倒しで勝ったとは言え、さらに怪我が悪化したものと思います。優勝は快挙ですが、これを美談にしてはいけません。やはり大相撲という競技は、時代に取り残されているとしか言えません。他の力士にも怪我が完治せずに出場しているケースが良くあります。怪我の個所がさらに悪化する、怪我を庇うために別の個所を痛めるというような負の連鎖が起きています。スポーツ医学の知見を取り入れることなく、昔ながらの根性論で力士の健康を害しているのは、愚かなことだと思います。何も変えられないなら、力士以外の背景を持つ人を役員に入れるべきです。なお、くれぐれも尊富士関が初優勝の「記憶」だけに残ることがないように、最先端の治療とリハビリができる大学病院を選んでほしいと思います。

 

水原一平氏の解雇*

 ソウルシリーズの最中に、ドジャースから解雇されました。違法賭博、窃盗などの疑惑がありますが、いずれ捜査で明らかになるでしょう。大谷翔平さんの専属通訳として有名になりましたが、ギャンブル依存症で身を持ち崩しました。これまでの貢献をすべて溝に捨てることになるわけですから、非常に怖い心の病です。誰からも敬愛されている大谷翔平さんが、この件で、人間不信に陥らぬよう、周囲が適切にサポートしてほしいと思います。ますます野球に打ち込むことになりそうですので、プロとしての活躍には心配がないとは思いますが、これまでのように他人を信用できなくなるかもしれません。こういう大事な時に、最愛の奥様がそばにいてくれるのは、心強く、彼は運が良い男だと感じます。二人の絆は一層強まることでしょう。水原一平さんも、根っからの悪人には見えません。ただ、ギャンブルに依存するという致命的な心の弱さがあっただけだと思います。正直に罪を認めて、やり直しの人生を歩んでほしいと思います。なお、この件で、テレビ局が、たらればの報道を続けているのには閉口しました。当事者に独自の取材ができていない段階では、推測に基づくコメントは行うべきではありません。つまらぬことを口走っている人間は、一切信頼すべきではないと思います。大谷翔平さんを勝手に持ちあげておいて、違法賭博に関与したかのような仮定を置いた報道を行うのは、誹謗中傷への加担です。私は、始めから、送金を含めて翔平さんの関与は、一切ありえないと思っていました。彼の記者発表は、予想通りの内容でした。無責任な発信をしていた報道機関やコメンテーターは、しっかり覚えておきましょう。

 

国立劇場の再整備*

 2回の入札不調を経て、伝統芸能の殿堂の建て替え計画が、一旦停止した状態になっています。歌舞伎、文楽、演芸の関係者が、まだ6~7年以上はかかりそうだと自嘲気味に言うのは、竣工の目途が立っていないからです。3回目の入札に向けて、芸文進では、価格面を含めて検討しているとのことですが、既存の校倉造りのようなフォルムを残すリノベーション案を勧める専門家もいます。いずれにせよ、PFIでの再開発計画自体に、民間の眼から見て受注の魅力がないというならば、再び不調になり時間が浪費されるので、そうした事態は絶対に避けるべきだと思います。国立という看板は、伝統芸能の関係者にとって重いものがあり、極めて重要な拠点ですので、一年でも早く、新劇場のこけら落としができるよう、芸文進関係者には最大限の努力をしてもらいたいと思います。もう時間の浪費は許されません。

 

2024年3月23日 (土)

よどみに浮かぶうたかた

二子玉川の開発*

 東急会長の野本弘文さんが日経新聞の私の履歴書で、「二子玉川第2期」の開発の思い出を語っておられます。第2期は、オフィスが主体で、反対論もあった中、「日本一働きたい街 二子玉川」をヴィジョンに、社長として指揮を執って進めた結果が、今日の二子玉川の姿となっています。楽天の三木谷社長を口説き落として、ライズのオフィス棟へ本社の入居を決めてもらったことが成功にカギになりました。景勝・遊興の地⇒住宅地であった二子玉川に、働く場という要素を加えることは、固定観念を覆す必要があったと思います。田園都市線沿線に棲んでいる身としては、渋谷へ行く回数が減って、二子玉川で用事を済ませることが多くなりました。東急さんのお陰です。

 

子どものゲーム課金*

 親のスマホで、子どもがゲームをして、高額な課金の請求を受けるという事例が増えています。国民生活センターの注意喚起をもとに、テレビでも報道され、日経新聞も取り上げていました。保護者の同意がない未成年の契約は取り消しが可能ですが、親のスマホの場合は、適用が難しいので、子どもが勝手にゲームで課金していた場合は、基本的に支払いは免れないでしょう。こうしたトラブルを防ぐには、親として、子どもの行動を制限するしかありません。それでも、子どもが何らかの方法で、親の制限を回避してしまう可能性もあります。恐らく、解決策は、ゲームのサービスを提供する側に、ゲームをしているのが契約者本人であることを、一定期間(例えば7日間)が経過する、あるいは一定額の課金を超えた段階で、確認する義務を負わせることでしょう。課金額が膨らむのを防ぐ効果が期待できます。海外拠点の会社についても、消費者保護の観点から同様の義務を負わせればよいのですが、執行が難しい面があるので、基本的に消費者側が利用を避けることを推奨するくらいでしょうか?

 

大学進学の海外志向*

 インターナショナルスクールへの入学者のうち、日本人の割合が増えていることは、既に知られていますが、海外大学への進学は、私学の一部で確実に広がっています。海外志向は、低年齢化しています。アメリカの有名私立大学は学寮費を含む学納金が年間1000万円にも達するので、誰もが選択できるわけではありません。家計負担が可能な富裕層が、日本の大学経由での留学から、中抜きをして、いきなり海外大学への進学を考えるようになったのは、子どもへの教育投資の効率を重視しているものと思います。特に、日本という国に留まることのリスクを感じているのでしょう。大学において英語で様々な科目の授業を受けるためには、文化の理解を含めて準備が必要で、準備のための学校選択が低年齢化するのも理解できます。結局、人材育成には投資が必要で、家計の負担能力によって、教育格差が拡大するという構図が顕著になっています。日本の主要な大学の教育水準が低いとは思いませんが、グローバルなビジネス環境に個人として参入したいならば、先細りの日本という国を離れるのは早い方が良いという判断は正しいでしょう。自分がもしも15歳くらいで、適切な情報を与えられていれば、海外大学を志向するかもしれません。ただし、家計負担には全く自信がありません。

 

尊富士関*

 新入幕で11連勝を達成して、大鵬関の記録に並びました。相撲どころ青森県の五所川原市の出身で、稽古に厳しい定評がある伊勢ケ浜部屋所属です。日大時代は、怪我勝ちで、タイトル獲得などには無縁でした。序の口、序二段と連続優勝して、三段目、幕下でも大勝ちを続け、新十両でも優勝、約1年で新入幕を果たしました。今場所は、立ち合いから真っ向勝負で対戦相手を圧倒してしまう内容です。既に三役クラスの実力がついていると思います。格上の大の里関、琴ノ若関にも勝ったので、新入幕優勝が近づいています。実現すれば凄いことです。多くの関取を排出している石川県の出身で、日体大OBの大の里関と二人で、今後の大相撲を牽引する役割を果たしてくれるでしょう。大の里関は、大学時代から数々のタイトルを獲得して、幕下10枚目付け出しでのデビューでした。超がつくエリートですが、いつもファンサービスが丁寧で、誰からも好感を持たれています。尊富士関は、序の口からのスタートで、一気に番付を駆けあがりました。体つきはマッチョタイプで、受け答えにも裏表がないので、人気急上昇は間違いありません。この二人が、大関、横綱になる日が待ち遠しいと思います。大相撲の歴史を見ると、二人の力士が競うように昇進していく時代に、相撲人気が盛り上がってきました。大尊(おおたけ)時代の到来に期待しましょう。さらに、肩の手術をした伯桜鵬関も必ず頭角を現してくるでしょう。新時代は、もうそこに来ています。

 

国立大学法人化20年*

 法改正を担った大臣からは、法人化は正しかったが、国立大学側が自由を生かし切っていない、創意工夫が足りないという見方が示されています。国からの運営費交付金を始めとする財政支援が不十分だという指摘については、法人化したから、この程度で済んだのだとの抗弁がなされています。確かに、法人化によって、経営の自由度は相対的には上がりました。ただ、文科省からの人材は、相変わらず国立大学の事務局の主要な幹部の地位を得ています。予算面で文科省の支援がなければ、経営が成り立ちませんし、法人評価を通じて、経営に目を光らせる仕組みもあるので、国立大学が文科省から自由になっているとはいえません。法人化で国立大学の教職員が国家公務員の枠から外れることで、財務省から優遇を引き出すというつもりで、カードを切ったはずだったのですが、運営費交付金という一番使い勝手の良い予算は一貫して増やしてもらえませんでした。COEなどの5年限りの競争的資金を用いて、大学の教育研究を改革するという取り組みも、補助金が切れた段階で、大学が独自に継続するための予算確保は現実的に不可能でした。今は、そうしたカンフル剤も打てなくなっています。鳴り物入りで始まった大学ファンドは、国立大学法人法のガバナンスを実質的に改変する取り組みで、学問の府としての大学の性格を転換するような壮大な実験になりそうです。すべての大学人が、大学ファンドが想定している目標の達成には、良くても半信半疑だろうと思います。法人化後の20年は、日本という国の衰退の歴史と重なっており、一概に、法人化だけを問題にするのはフェアではないと思いますが、この間、博士課程への進学が減少し、大学の世界ランキングは相対的に低下し続け、論文指標に見る研究力は著しく低下しています。法人化後、国からの資金供給が抑制されるようになってからも、大学ランキングを上げる(トップ100に10校という目標)ことが可能であるかのように装っていたのは、世界の現実から目を背けた恥ずかしい認識不足であったとしか言えません。結果として、文科省の描いた理想は、文科省自身の力不足もあり実現しませんでした。尤も、行財政改革に協力することで、国立大学に、これからも必要な予算がもらえるという幻想に縋っただけかもしれません。法人化とは、国立大学の教職員を非公務員とすることで、国の負担を軽減する仕掛けだったと思います。本質的には、それ以上ではなかったと感じます。

 

叡王戦挑戦者決定戦*

 伊藤匠7段が永瀬9段に勝って、藤井8冠への挑戦者となりました。これで、永瀬9段との対戦成績を、5勝1敗として、圧倒しています。研究力の高い二人の戦いは、角換わりの戦型となり、先手の永瀬9段が飛車を捕獲して、押し気味に進めました。2一飛と打ち込んだのに対して、伊藤7段が2二角と打って守ったところが、勝敗の分岐点になりました。永瀬9段が、2五桂の代わりに、6二角と打っていれば絶妙手で、勝勢になったようです。その後、粘りに定評がある永瀬9段が入玉狙いに出ますが、伊藤7段が1分将棋になっても冷静に対応して、寄せと相入玉での点数勝ちの両様の構えで、永瀬9段にも手段が突きて、無念の投了となりました。これで、今期、伊藤7段は、竜王戦、棋王戦、叡王戦と3タイトルでの挑戦者となりました。まだ、藤井8冠には、真っ向勝負を挑んでいるためか、わずかな差でタイトル戦での勝利を逃していますが、永瀬9段などの実力者を破って挑戦者になっているので、いつか、彼の努力がタイトル奪取という実を結ぶのではないかと思います。

 

笑点の新レギュラー*

 3月末で、木久扇師匠が引退するので、その後任が間もなく発表されることになります。緘口令が敷かれているので、誰になるのかは関係者以外は知りません。宮治師匠や一之輔師匠の例のように、出演者の交代によって若返りに成功して、広い世代の番組の視聴率が上がるという流れを作ることが目的ですから、既にこの番組に出演したことがある落語家が有力だと思います。若手大喜利に出演していた落語家さんでは、40代の蝶花楼桃花師匠(女流を入れるなら最適任)、柳家わさび師匠(今のメンバーにはいない陰キャの代表格)あたりになるでしょう。メンバーの年齢バランスを考慮するなら、番組を考案した立川談志師匠の直系で芸が完成されている立川志らく師匠(60歳)を持ってきてもおかしくないと思います。今後数年で、好楽師匠や小遊三師匠も交代することになるでしょうが、その時は、すっかり若返ることになるので、40代ばかりを集中的に起用するのは、世代交代後の年齢バランスを想定する意味で、避ける方が賢明かもしれません。

 

学校教員への奨学金返還免除*

 文科省は、2024年度から、教職大学院を修了して学校教員になる人に対して、貸与した奨学金の返還を免除する措置を作るという方針のようです。2023年度実績では、750人ほどの規模になるそうです。かつて存在した大学を含む学校教員への就職者への返還免除制度は、不公平だとして廃止になった経緯があります。新しい制度の対象範囲については、文科省が調整することになるでしょうが、かりに教員不足が目立つ小中学校に限るとしても、インパクトは大きいと思います。また、学部卒に対しても同様の免除措置を求める声も高まっていくでしょう。継続審議のようですが、そこまで拡大すれば所要の財源の規模が全く違ってくるので、容易には踏み切れないでしょう。一部の業種への就職者だけに返還免除があるというのは、苦労しながら返還している人には、到底納得が得られそうもないと感じます。中教審では、教員不足を何とかしたいという共通認識があったのでしょうが、教員の確保だけが重要であるという理屈は、社会的には全く通りません。不公平だと物議を醸すこと必至の返還免除ではなく、返還を支援するための優遇措置にすべきではないかと思います。

 

性犯罪歴確認制度*

 日本版DDS制度に関する法案が閣議決定されました。照会できる犯罪は、拘禁刑で刑執行後20年、罰金刑で10年となっています。執行猶予付きの判決の場合は、判決後10年です。こういう罪を犯した人間は、性癖が治ることはなく、期限を設けなくても良いという意見もあるでしょう。多くの子どもを扱う職場である保育所、幼稚園から高校段階までの学校、児童養護施設、児童相談所などは、確認義務を負います。学童保育施設、認可外保育所、学習塾、スポーツクラブなどは、確認は任意ですが、確認している事業者には認定制度を設けるとのことです。犯罪事実確認書の実務は、子ども家庭庁が行います。法律の公布後2年6か月以内に施行されるということなので、今国会で法律が成立しても、制度が動くのは2026年秋以降になりそうです。当然ですが、情報の不正取得や漏洩には罰則が適用されます。それにしても、重大な性犯罪に手を染めた人間については、一般国民も正当な理由があれば情報入手を可能にすべきではないかと思います。例えば、賃貸契約の際にオーナー側が確認することなどが考えられます。本当に子どもを守るには、それくらいは当たり前の社会にすることが必要でしょう。性犯罪歴を知られない自由を尊重するか、子どもの生命・身体の安全を重視するか、ようやくバランスが後者に傾いてきたのは、良い傾向だと思います。

 

2024年3月20日 (水)

仏は如何なるものにか候ふらん

JR北海道*

 国交省が、3年間で1092億円の支援を行い、経営改善を進めるとのことです。赤字8路線について改善策を3年間でJR北海道がまとめることも求めています。日経新聞でも、小さな記事でしかありませんが、設備投資を行って人件費を削減することで路線が維持できるのでしょうか?NHKBSの六角精児さんや中井精也さんの番組で、各地の鉄道を楽しませてもらっていますが、北海道に関しては、利用客の減少で廃線に追い込まれていく路線が目立ちます。寂しい限りですが、経営体として考えれば、仕方のないことです。経常的な赤字を埋めるために国費を使うことは不可ですので、地域の足については自治体を中心に考えてもらうしかありません。

 

家主と外国人*

 在留外国人は、過去最高の322万人に達しています。永住者が88万人、技能実習が36万人、技術等の専門業務が35万人、留学が31万人などとなっています。国別では、多い方から、中国、ベトナム、韓国、フィリピン、ブラジルと続きます。今後の伸びが期待される国としては、ネパール、インドネシアが挙がっています。家主さんにとって、外国人は、有望な顧客たりうる存在です。重要なことは、外国人向けのノウハウを持つ家賃保証会社を利用することです。馴染みのない敷金について理解を得るのは難しい面もあります。初期費用を抑えることが入居のポイントになります。トラブルを避けるために、騒音、ゴミ、多人数同居については、入居前になるべく母国語で理解を得ておくこと(翻訳ツールを活用)が必須です。費用を抑えたい人は、一般的な不人気物件にも入居してくれます。留学生には、支払い能力が高い外国人もいます。彼らは、新規の高額な物件にも入居します。物件それぞれに、外国人は有望な顧客たりうる可能性があるのです。特に、有力なSNSによる広告、口コミをうまく活用することが大切だとされています。

 

不動産登記の義務化*

 2024年4月から、相続した不動産の3年以内の登記が義務付けられます。以前に相続した不動産についても適用になります。3年以内に登記しないと10万円以下の過料に処せられる可能性があります。相続人間で遺産分割した場合は、その時点から3年以内となります。相続登記を支援する制度として、所有不動産記録証明(所有不動産が不明な場合)、相続人申告(相続人がすぐに確定できない場合等)、戸籍収集の負担軽減(最寄り市町村で他市町村が管理する戸籍をまとめて請求可能)が、順次、スタートします。尤も、相続登記が行われない多くのケースは、相続人間で争いがあることが原因でしょう。そうならないように、事前に親が相続対策をしていくことが求められます。不動産登記が実態を反映したものになれば、社会的なメリットが大きいと思います。

 

佐々木勇気8段*

 NHK杯将棋トーナメントで、先手で角換わりを採用して、研究成果を駆使して、藤井8冠を破って優勝しました。ほとんど時間を使わずに指し続けて、押し気味に展開しましたが、3一桂成とした段階で、評価値が逆転して、藤井8冠が勝勢になりました。ここから、時間があれば、藤井8冠が勝ち筋を見出したものと思います。恒に最善手を指すことが多い藤井8冠にとっては、自分から勝ちを逃した悔しい負けではないでしょうか?佐々木勇気8段は、昨年は藤井8冠に決勝で負けていたので、今回の優勝は、昨年のリベンジであり、第一人者に一矢を報いたという意味で、非常に有意義な優勝だったと思います。おめでとうございます。次はタイトル戦での藤井8冠への挑戦に期待します。彼は、1994年ジュネーブ生まれですが、彼の父上が東京大学の研究者としてCERNで素粒子物理学の国際実験に従事していた際に、私は、ジュネーブ代表部の担当書記官として交流がありました。息子である勇気さんの今後の活躍をお祈りします。

 

棋王戦第4局*

 後手の藤井聡太8冠が伊藤匠7段に勝って、3勝1分けでタイトル防衛に成功しました。序盤は伊藤7段が2歩得になりましたが、玉型の差で藤井8冠が作戦勝ち状態になったようです。打たされた2六銀が働かない形になって、伊藤7段は苦しくなりました。さらに、5五歩から伊藤7段の角の位置を動かして、8筋からの攻めの形ができました。伊藤7段も勝負手を繰り出して必死に藤井玉に迫りますが、藤井8冠の的確な玉捌きで差が縮まりませんでした。終盤の角2枚を使った藤井8冠の勝利への仕上げも見事でした。これで、藤井8冠の2023年度の将棋がすべて終わり、勝率8割5分以上の成績が残りました。すべてのタイトル戦を戦いながら、これほどの勝率を上げたことは、偉大過ぎるとしか言えません。NHK杯決勝では佐々木勇気8段の作戦に苦杯を舐めましたが、その悔しさを吹き飛ばしたものと思います。2024年度も、藤井8冠が将棋界の中心であることは間違いありません。

 

小倉智昭さん*

 日経新聞のコラムに、膀胱がんの治療に関して、回り道をした話を語っておられます。始めに全摘を勧められたが、情報を集めて、未承認薬の効果があると聞かされて、投与を受けていたうちに、命取りになるほど症状が悪化して、始めに診てもらった医師から紹介された大学病院で全摘手術を行ったということです。要は、情報番組のキャスターを長く続けていた小倉さんでも、間違った情報に振り回されて、お金と時間を無駄にして、大切な命を危険に晒したという経験談です。幸いなことに、手遅れにならずに彼の命はつながりましたが、なまじ多様な情報が手に入るばかりに、それに振り回されてしまうというケースがあることには、よくよく注意が必要だと思います。

 

宗教の起源*

 ダンバー「宗教の起源」(白揚社)は、人類がなぜ神を必要としたのかという問題に人類学者が向き合った名著です。宗教に関して理解したいと思う人は、始めに読むべき本だと思います。神秘主義者の心の中はどうなっているのか、信仰はなぜ救済に結びつくのか、宗教団体はなぜしばしば分裂するのか、宗教は脳の中でどういう役割を果たしているのか、儀式にはどんな意味があるのか、原始宗教はどのようなものだと考えられるのか、信者はなぜカリスマ指導者についていくのかなど、興味深い問いに対して、著者は、最新の学問の成果を駆使して応えています。私には、いちいち納得できる解説でした。著者は、宗教の進化を、共同体が拡大する中で生じた社会的結合の問題に対して、共同体レベルで見出した解決策だとしています。その進化を支えているのは、神秘志向であるというのが、著者の第1の主張です。神秘志向は、現生人類のみが持つ、高次元のメンタライジング能力とトランス状態をもたらすエンドルフィンの働きによってもたらされます。また、宗教は、古い核のまわりに新しい層が加わるかたちで進化するというのが、第2の著者の主張です。古代の没入型宗教が、今も教義宗教の土台となっているというのです。例えば、歌唱や舞踊、断食や祝宴の儀式は、エンドルフィン系を活性化させるために、有効な手段です。日本人が、神道と仏教を行き来して生活しているのも、そのためだとしています。明治の廃仏毀釈は、宗教に関する誤解に基づく間違った政策でした。神仏習合で構わないのです。宗教は、人間に深く根差した特性であり、私たちは、結局、宗教から離れられないというのが著者の結論です。私も、そう思います。ただ、宗教には、人を幸福にするものと不幸にするものがあるので、気を付けなければなりません。宗教を選ぶ前に、自分自身の状態を知るためにも、ダンバー先生の本を読んだら良いでしょう。

 

トケマッチ事件*

 高級時計を預ければ、毎月定額を受け取れるという触れ込みで、相当多数の顧客から、数百万円する時計を集めて、それらを売りさばいて海外に逃亡したという事件がありました。いずれ、身柄が確保されて、日本に移送ということになるとは思いますが、時計の所有者が被った損害は回復不能だと思います。高級時計をレンタルする人がどれほどいるのか、想像力を働かせてみれば、こうしたビジネスが成立するのかどうか判断ができそうです。しかし、高級時計の所有者が騙されるくらいですから、巧みなセールストークと会社を閉じるまでの定額の振り込みで、よほど信用を得ていたものと思います。それにしても、時計は宝飾品と同じで、簡単に携行可能であるとともに、世界で売りさばくことも容易ですから、単なるビジネスの取引相手を信用して、預けてしまうというのは危険すぎると思います。

 

コンビニ殺人の動機*

 札幌でのコンビニ殺人の40代の犯人の動機が、女性店員に相手してもらえなかったことを恨んだというニュースが流れていました。これが真実だとすれば、驚くべき犯行動機です。コンビニで会計をするわずかな時間の女性との接点が、犯人には極めて重要だったのでしょうか?コンビニ以外の女性との接点がなかったということなのでしょうか?犯人の孤独が掘り下げられれば、彼の行動が少しは理解できるかもしれません。それにしても、殺人を計画実行するほどの恨みに膨らんだのはなぜでしょうか?誰か目当ての女性店員さんがいたとして、彼女との妄想上の仲を妨害されたと思い込んで、他の店員さんたちを殺害しようとしたのかもしれません。彼の頭の中での妄想が殺人の動機だとすれば、まずは治療が必要だと感じます。この事件から教訓を得るとすれば、孤独⇒妄想⇒犯罪という連鎖が起きないように、孤独な人間への社会的なケアを日本の新しい課題と認識すべきではないかと思います。

 

2024年3月17日 (日)

違順に使わるる事

GIGAスクールの格差*

 文科省は、小中学校の端末の調達や教員研修の責任主体を市町村から都道府県に変更するとのことです。2020年度に、国費で全国の小中学校での1人1台を実現したわけですが、その更新時期が2025年度に来ることが大きなポイントになっていると思います。都道府県ごとに、仕様を統一して、共同調達する方が、価格交渉力や事務負担の面で、優位性があるのは事実です。また、整備した端末の小学校での利用状況が、山口県の87.0%から岩手県の39.8%まで、大きな開きが生じていることも考慮されているのでしょう。市町村単位で見れば、さらに格差は大きくなるはずです。ただ、最先端の取り組みをしてきた市町村にとっては、実施体制が都道府県単位になることで、独自の取り組みがしにくくなる恐れがあります。首長のリーダーシップで、デジタル教育を特長にしてきた自治体にとっては、今回の変更は、反って、出る杭を打たれる懸念があります。取り組みに濃淡があるのは、結局、デジタル機器の導入が学力向上にどのような効果があるか、教員の間に共通認識がないからではないでしょうか?義務教育が目指すべき学力観が古いままでは、デジタル教育が全国に浸透していくのは難しいと思います。

 

地籍調査*

 土地の境界確定には、所有者による現地調査の立ち合いや図面での確認が必要です。こうした協力が得られない場合は、境界が未確定になってしまうため、国交省は、客観的な資料に基づいて作成した境界案の送付から、20日間が過ぎても、所有者からの返答がない場合には、「みなし確認」があったとして、登記に反映できるように制度改正を行う予定です。ようやく一歩前進ですが、石川県輪島市の地籍調査の進捗率は1%に過ぎないと聞いて、驚きました。地殻変動で測量をやり直す必要もあり、相当なエネルギーを注ぎこまない限り、復興の足かせになることは避けられません。思わぬところに落とし穴があるものです。

 

アメリカ庶民の怒り*

 共和党の大統領候補になったトランプ氏は、庶民の怒りを支持に結びつけるのが大変上手です。ワシントンのエリート層への敵意は相当なものです。就任初日に「ならず者」官僚を解雇すると宣言しています。10万人分の首都の連邦政府職員のポストを、外に移転するとも示唆しています。こういう過激さが受けているわけです。日経新聞の記事を見て、注目したのは、高等教育への信頼感が、共和党支持層から急速に後退していることです。2015年と23年の比較で、56%から19%に急降下しているのです。ポイントは、リベラルな教育への懸念のようです。LGBTQ教育を「強要」した学校には補助金をカットするとしています。また、独自のインターネット大学「アメリカン・アカデミー」(授業料が無償)の設立も打ち出しています。財源をエリート私学への課税で賄うというのも、社会のエリート層への敵意丸出しです。トランプ氏の掲げる政策は、日本にいる人間には突飛な印象を与えますが、アメリカの共和党支持層には、的確に応えている内容なのです。そうした最強の同盟国の世論こそ恐ろしいと感じます。

 

大相撲3月場所序盤戦*

 横綱・大関陣の不調で、優勝争いは混戦状態になっています。照ノ富士関と霧島関が4敗、豊昇龍関、貴景勝関、琴ノ若関が2敗もしています。このような状況は予想外でしたが、大阪府出身の宇良関の連日の活躍で、会場自体は大変盛り上がっていると思います。勝ち越せば、技能賞は確実です。6戦全勝しているのは、大の里関、尊富士関(新入幕)の2人で、1敗力士は、阿炎関と湘南乃海関の2人となっています。優勝ラインは、恐らく12勝3敗くらいだと思いますので、この4人以外にもチャンスはあります。平幕優勝の可能性もあるでしょう。大の里関、尊富士関は、実力急上昇中の力士ですから、上位力士との対決でも相当いい相撲が取れるはずです。彼らが優勝に絡んでくれば、終盤戦は大いに盛り上がるものと思います。取り組み中の怪我で休場してしまった島津海関、金峰山関、剣翔関の状態が心配です。5月場所に出場できるように、早く治してください。ただし、無理に出場して力士寿命を縮めることが無いよう、新しい公傷制度の創設を相撲協会に望みます。プロスポーツでは、怪我の予防や治療に関して、より科学的な対策を充実させていますが、大相撲だけは周回遅れになっているのが残念です。

 

無料塾*

 おおたとしまさ「ルポ無料塾」(集英社新書)は、相対的貧困家庭の割合が増加している中で、多様な形態で運営されている無料塾を取材し、恵まれない子どもへの教育支援の在り方を多角的に考察しています。無料塾の取り組みを好意的に紹介しつつも、無料塾はパンドラの箱だという言い方もしています。無料塾の経営主体には、個人、NPO、大手教育系企業、自治体(学校併設)などがあります。公立中学校の生徒の7割が有料の塾を利用していることに鑑みれば、本来、学校が果たすべき役割とは何かという課題に向き合わざるを得ないと思います。ただ、学校の方も手一杯の所があり、教育格差の解消に向けたアクションを追加することは実際問題として不可能でしょう。無料塾が有料塾の廉価版になってはいけないとか、受験競争で勝てればいいわけではないとか、善意に頼って社会的課題を解決するのはおかしいなどという議論もあるようです。そうした意見が学識・有識者によって述べられています。ただ、無料塾が子どもの進学の手助けになり、本人の自立への支援になっているなら、単純に結構なことだと思います。単に受験指導のみならず、学校や家庭での生活面を含めて、親身に相談に乗ってくれる場があることは、子どもにとって非常に重要です。相対的貧困家庭の子どもには、無料塾が駆け込み寺になっているのではないでしょうか?もちろん、無料塾は万能ではありません。社会福祉の網の目からこぼれ落ちている人たちへ差し伸べられている一本の糸という感じでしょう。その糸で、子どもの幸福な人生が開けて行くなら、素晴らしい貢献だと思います。

 

台湾のこころ*

 家永真幸「台湾のアイデンティティ」(文春新書)は、私たちが台湾を理解するために必要な知識がコンパクトにまとめられている良い教材だと思います。日本統治下の皇民化運動、中華民国(国民党)による政治的抑圧、台湾独立運動、美麗島事件以降の民主化運動、民進党政権の誕生という歴史の流れを紹介しつつ、台湾の人びとの民意は、統一でも独立でもなく、現状維持を望んでいることを明らかにしています。台湾の人びとの62.8%は、自身を台湾人だとしており、中国人だとする2.5%、どちらでもあるとする30.5%を大きく上回っています。台湾人の比率は、一貫して上昇しているのです。日本統治時代への評価には、論争があります。台南市の烏山頭ダムのほとりに、八田與一(輸送艦に乗船中に戦死)という水利技術者の銅像が、彼を慕う従業員らによって設置されています。彼自身は、真面目で正直な技師であり、その性格が高く評価されたにすぎず、彼への思慕によって植民地支配を美化するのは間違っていると指摘されています。日本統治時代について、私たちも正確な認識を持つ必要がありそうです。もう一つ有名なのは、高雄市の安倍元総理の銅像です。著者は、安倍氏の人気を、台湾を国際関係の一つの主体、構成員として扱ったためではないかとしています。安倍元総理については、国内には毀誉褒貶がありますが、台湾の人たちには、極めて好意的に見られていたことも、頭に入れておく必要があると思います。震災時における台湾の人びとからの厚い支援の背景には、安倍氏への思慕があると感じます。

 

同性婚訴訟*

 3月14日、札幌高裁で、同性婚が認められていない現状は、違憲だとの判決が出されました。法の下の平等を定める憲法14条1項に照らして、同性愛者が制度的な保障を享受できず、著しい不利益を受けているとしています。また、婚姻の自由について定める憲法24条に照らして、同性間の婚姻も同じ程度に保障するものだとして、同性婚を許さず、これに代わる措置を一切規定していないのは、合理性を欠いている(国会の立法裁量の範囲を超えている)としています。要は、憲法14条1項、24条1項、24条2項の3点で違憲という明確な判断を示したのです。もともと、同性婚を制度化しても、誰も損をしないにも拘らず、いつまでも差別的に放置してきた怠慢が、ようやく白日の下に晒されたというべきでしょう。判決の付言にあるように、同性婚を認めることは、国民に意見の統一を求めることを意味しません。同性婚を認知することは、同性愛者に特権を与えるものではないのです。個人の尊厳を尊重する立場から、早急な法整備を行うべきだと思います。このところリーダーシップに疑問符がついている岸田総理は、法務省に検討するように指示したらいかがでしょうか?国民の総理を見る目が違ってくるでしょう。

 

能登半島地震と賃貸物件*

 地主と家主4月号には、石川県や富山県の物件のオーナーさんの経験談が紹介されています。それによると、発災4日後には七尾市の現地確認に赴き、入居者さんに水などの支援物資を届けて喜ばれたとのことです。現在、現地のリフォーム業者さんには修繕依頼が殺到しており、大きな被害がなかった賃貸物件は空室がない状態になっているようです。地震保険で賄えない修繕費は、日本政策金融公庫の震災向け特別融資枠の利用申請を行う予定だそうです。富山県の方は、軽微な被害で済んだようですが、教訓として、駐車場の液状化、擁壁の倒壊、電気温水器の転倒について、事前の予防措置が重要だとのことです。保険の対象外でもあり、リスク管理の観点から、地震に備えて今からでも対処していくべきだとしています。いずれも貴重な助言だと思います。

 

法人化の判断基準*

 地主と家主4月号は、法人化が特集テーマになっています。それによれば、不動産所得の場合は、課税所得が800万円を超えたら、法人化を検討すべきだとされています。ただ、サラリーマンの副業の場合は、総所得に課される税率なども関わってきます。法人税の税率は、年間800万円以下の部分については、15%なので、確かに魅力があります。法人化のメリットは、税金面で役員報酬の給与所得控除額が認められるなど納税額を節約できること、通信費、社宅の家賃、出張手当、車の減価償却費など経費計上項目が多いこと、相続対策に活用しやすいことが挙げられます。その反面、会社設立に手間がかかること、運営維持費の負担があること(税理士報酬、法人住民税負担など)が挙がっています。法人化によるメリットを生かしているオーナーさんの実例として、建て替え工事を契機に建物所有方式に変更して相続対策をしたという方、借入返済が終わった物件を法人に移転し個人所得を下げて、さらに法人所有の物件を増やした方、不動産所得1000万を超えたので法人化し、その後、物件を増やして法人税率が上がるタイミングで2社目を設立するなどにより子ども3人への相続対策をしている方、5000万円あった不動産所得を分散し、さらに新築マンションを購入するなどにより建物所有方式で法人の物件を増やして、事業承継に備えている方が紹介されています。紹介されている例は、規模の大きな土地資産を活用している方ばかりですが、ポイントは、納税額の圧縮と将来起こる相続への対策だと感じます。節税しながら相続税の支払いに備えるとともに、相続における親族の争いを避けるという意味もあります。資産家には庶民とは別の意味の苦労もあるようです。

 

2024年3月14日 (木)

所願皆妄想なり

負けない藤井8冠*

 NHK杯将棋トーナメントの準決勝で、藤井8冠と羽生9段が対決しました。黄金カードです。先手の羽生9段が右四間飛車を採用して押し気味に推移しました。終盤に、飛車を見捨てて6三桂と打っていれば、勝勢となったようです。感想戦で、これを指摘していたのが藤井8冠でした。実践は、羽生9段が飛車を逃がしたので、再び難解な局面になりました。その後、羽生9段が2一角と打ったのが、結果的に敗着となりました。先手玉が受けなしになった時点で、羽生9段が8一飛から最後の追い込みをかけて行きましたが、藤井8冠は的確な合い駒と玉の逃げの選択で、金を温存しながら、詰みを免れました。一つ間違えれば負けとなる危ない局面でしたが、藤井8冠の読みの正確さには常に驚かされます。両者の攻防は、素人には完全に理解するのは無理ですが、将棋の神髄を拝見したという印象でした。Abemaの地域対抗戦では、中部1-4九州の劣勢の場面に登場した藤井8冠が、4連勝して、中部の逆転勝ちの立役者となりました。その戦いの中で、深浦9段に絶体絶命のピンチに追い込まれていました。終盤、19手、25手の詰みが生じていましたが、持ち時間が極端に短いために、深浦9段でも読み切れませんでした。評価値では、深浦9段の勝勢が続き、流石の藤井8冠もダメかと思いましたが、勝負手を繰り出して、局面を紛れさせることで、最後は、深浦9段のミスを誘うことに成功し、大逆転を成し遂げました。研究が深く、読みの速さに定評がある藤井8冠ですが、恐ろしい勝負師でもあります。新人王の上野4段との記念対局では、後手で正確に受けて続けて、上野4段の攻撃を紙一重でかわします。自陣の安全を見切ってからは、6六桂の絶妙手から攻撃に出て、美しく勝負を決めました。かりに次の一手問題にしたら、素人には正解を見出すことは大変難しいと思います。相手の攻めを堂々と受け止めて、一旦攻撃に出れば鮮やかに勝つというのは、横綱相撲そのものです。とにかく、負けない藤井8冠には恐れ入るしかありません。

 

氷山の一角*

 日産自動車が、下請け法違反で、36社の下請け業者に対して、30億円の減額分を支払いました。公正取引委員会の勧告に従った措置ですが、関係者からは、他社を含めて氷山の一角に過ぎないとの声が上がっています。業界では、発注⇒納品⇒代金の値引き要請⇒下請けが泣き寝入りというサイクルが当たり前の実態があると言います。下請け側は、取り引き対象から外されることを懸念して、値引きの不当性を訴えることもできない状況なのです。今回の勧告に至った経緯に関与した下請け業者さんの今後が心配になります。賃金アップによる好循環は、重要な社会的課題だと言われていますが、中小企業までに及び難い構造があるのです。自社は大幅賃上げを達成していると公表しつつ、裏に回れば、下請けに圧力をかけてコスト削減に励んでしまうのでは、とても好循環は生まれないでしょう。「やっちゃえニッサン」という標語が、何とも皮肉に響きます。

 

望まれぬ2択*

 アメリカの次期大統領選挙は、トランプ対バイデンの構図になりますが、ロイターの調査結果によれば、7割の有権者が新しい候補者を望んでいるということです。77歳対81歳という対決には、関心を持てないのは当たり前です。アメリカの活力はどこに行ったのでしょうか?頼りにしている最強の同盟国なので困ったことですが、当事者ではない私たちには、どうしようもありません。7割が不毛な選択に飽き足りないとしているのなら、共和党と民主党以外の知名度のある候補者に勝てるチャンスがあるのではないでしょうか?そういうダイナミズムがあるアメリカであってほしいと思います。

 

家族法制の改正*

 法制審議会での3年の検討を経て、民法改正法案が国会に提出されました。共同親権の導入、法定養育費の創設、養育費の優先的な差し押さえなどが主要な改正点です。裁判所は、子の利益の観点から、親権者を決定することになります。虐待やDVなどのリスクがある場合は単独親権とするとともに、共同親権の場合でも「急迫の事情」があれば単独で親権を行使することも可能になります。共同か単独かの決定や「急迫の事情」については、具体的な判断基準が求められます。国会でも議論されるでしょうが、結局は、立法趣旨を踏まえて、裁判所が運用についてケースバイケースで判断していく中で、基準らしきものが定まっていくことになると思います。離婚後に共同親権を理由に、DVの加害者側が被害者側に付きまとうことをどう防ぐのかも、重要な課題です。要は、家庭裁判所の機能強化が求められます。父母の協議が整わないと言っても、無闇と共同親権にするわけにはいかないはずです。家庭裁判所が、少なくとも行政機関並みに利害調整を柔軟に行うことができるのか、かなり疑問に感じます。そこが改善されなければ、改正法は、絵に描いた餅に終わるのではないでしょうか?

 

津波移転跡地*

 日経新聞に、東日本大震災の被災地で、住民が高台移転した跡地の3割が利用できずに、自治体が負担している維持費が嵩んでいる状況だとの記事がありました。災害危険区域なので、工場や店舗などの事業所を誘致する予定ですが、仙台などのアクセスが良い立地でなければ開発が進まないのは、自明のことでしょう。国費を財源に宅地を買収したために、対象外の山林などが跡地に点在しているために、利用が進まない面もあると言います。未利用地が多いのは、南三陸町、陸前高田市です。利用が見込まれない土地については、自治体にとって負の財産になっています。高台移転を進めるために、跡地の購入をせざるを得なかったのでしょうが、もともと無理のある話だと思います。移転のために高台に整備した土地も、相当な割合が未利用になっていることは公知の事実です。今さら責任追及をするつもりはありませんが、復興計画のどこに問題があったのか、客観的に検証すべきではないでしょうか?

 

ヨーロッパの教養人*

 カルロ・ロヴェッリ「規則より思いやりが大事な場所で」(NHK出版)は、理論物理学者のエッセイ集ですが、ヨーロッパの教養人とはどういう人間か、理解させてくれる作品です。最近、博多女子中学校が生徒の願書提出が2時間ほど遅れて、生徒の公立高校への受験ができなくなったという事件がありましたが、この著書のタイトルにあるように、高校側が思いやりを優先させてくれれば、生徒や保護者が辛い思いをせずに済んだのではと思います。尤も、規則に縛られた学校には、教育上の成果は期待できないでしょう。この本で興味を惹かれたのは、次のようなフレーズです。「詩と科学はいずれも、世界について考える新しい方法を作り出し、世界をよりよく理解しようとする精神の発露なのだ。」「(砂粒を数えるもの)には、挑戦的な理性の叫びー自分が無智だということを知りながら、それでも他の者に知をゆだねることを拒む理性の叫びーがある。」(ボローニャ大学での若き日の経験を踏まえて、)「大学は夢を育む場所でもある。若々しい勇気を持って、前に進むために、この世界を変えて行くために、知識そのものを疑う場なのである。」「哲学に耳を閉ざした科学は、浅薄になって枯れていく。同時代の科学知識にいっさい関心を持たない哲学は、愚鈍で不毛だ。」「何が善で何が悪なのかを知っている、という人は好きではない。~そしてわたしは、自分が好ましく思い尊敬している人のようになりたいのであって、自分が好まない人のようにはなりたくないから、神は信じない。」もとのエッセイは、新聞各紙のコラムに載ったものです。理論物理学者は数式で世界を理解しようとする専門家ですが、著者は、ルネッサンス時代のレオナルド・ダ・ヴィンチのような総合的な教養人だと思います。同類の人を日本で探そうとしても、なかなか思いつきません。

 

無縁老人*

 石井光太「無縁老人」(潮出版社)は、高齢者福祉をテーマにしていますが、高齢化が進む日本という国の社会的課題を網羅するルポになっていると思います。刑務所が終の棲家になるという現象は、累犯をどう防ぐかという課題を突き付けています。自己責任という言葉で思考を停止するのではなく、早い段階での支援により累犯を食い止めるという施策が求められるでしょう。受刑者1人にかかる経費は、年間300万とも言われています。釜ヶ崎は、かつて日雇い労働者の集まる街でしたが、現在、高齢化率が40%を超えて、生活保護受給率も約40%に達しています。そんな街で、クラフトビールの醸造所を始めた人がいます。製造や販売に街の人を巻き込むことで、ビジネスは軌道に乗り、雇用を生み出し、街の活性化に一役買っています。大阪市は年間34000件の火葬を行っていますが、そのうち2600以上が引き取り手のない遺骨になっています。無縁仏は年々増加しているのです。大阪市では、1年経過後は、慰霊祭を行って、まとめて無縁堂に納骨されますが、その直前の期間は、親族以外にも遺骨の引き取りを認めています。高齢者と障碍者をデイサービスで受け入れるというやり方は、共生型サービスと言われますが、その嚆矢となったのが、富山県の「このゆびとーまれ」という施設で、富山県が1998年に年間360万円の補助金を出す制度を作り、その後、富山型デイサービスは、全国に広がります。ただ、多様な人を受け入れることで、サービスの質を維持することに課題があるようです。将来的には、過疎化が進む地方では、民間事業として行うことの限界も指摘されています。世界に類を見ない高齢化は貧困問題の深刻化とも重なり合っています。課題に向き合う取り組みと併せて、特に若い人たちには、今、この国で起きていることに関心を持ってほしいと思います。

 

福島国際研究教育機関(F-REI)*

 世界に冠たる創造的復興の中核拠点として、2023年4月に、浪江町に誕生した組織です。研究、教育、革新(イノベーション)が目的で、①ロボット、②農林水産業、③エネルギー、④放射線科学・創薬医療、放射線の産業利用、⑤原子力災害の5つの分野で研究開発が行われるようです。研究自体は、浪江町で行うのではなく、外部委託で行われます。現在12のグループが立ち上がっており、最大50にまで拡大するとのことです。当面は、JSTのように委託という形態で、日本全体の研究拠点を活用して、最先端の科学技術開発を行うという仕組みでしょう。実験室を含む施設が完成した暁には、浪江町に世界から選ばれた研究者たちが居住して研究開発に勤しむことになりますが、どれほどの頭脳が集積できるのかは、保証の限りではありません。ゼロから創設する研究開発拠点に、世界的に名声のある人は来ません。JRで仙台から浪江までは、約93キロあり、最短でも1時間20分ほどを要します。研究のための機器や消耗品の調達にも、手間と時間を要するでしょう。また、生活の便は、仙台や東京に比べて相当悪いと思います。浪江町の東日本大震災前の人口は、約21500人で、一部避難指示解除以来、戻ってきた住民約2000人が、現在、居住しているとのことです。研究開発拠点が稼働することによって、人口がもとに戻るとは考えにくいと思います。こういう復興予算の使い方に、被災地の人たちから賛同が得られているのでしょうか?

 

アカデミー賞*

 日本は、視覚効果賞と長編アニメ作品賞のダブル受賞に湧きました。ともに、北米での興行成績も良く、映画の質の面でも高く評価されたことは、誠にめでたいことだと思います。ゴジラの方は、特撮とCGを組み合わせることで、迫力のある映像が生み出されていること、低予算でハリウッド作品に劣らない映像の質を実現したことが評価されているようです。ジブリ作品の方は、アニメの巨匠である宮崎駿監督へのハリウッドからの敬意の表現だと思います。授賞式の映像を見て残念だったのは、栄誉を受けるべき宮崎監督が出席できなかったことのほか、山崎監督の英語のスピーチがよく聞き取れなかったことです。彼がハリウッドで仕事をするのは、スタッフとの意思疎通の面で難しそうです。お隣の韓国との違いが強く印象に残ります。彼らは、監督も俳優も、英語のコミュニケーション能力が高いのです。スポーツや芸術などの分野で国際的に活躍する日本人を見ると、勇気づけられますが、映画関係者もハリウッドで仕事をすることを目指してもらいたいと思います。アニメに関しても、ハリウッドの3Dと日本の2Dでは、別カテゴリーと考えられます。マンガ文化で引き続きリードしていければ、日本流の職人芸の世界は維持できるとは思いますが、アニメーターさんを始めとする人材の養成確保がカギになりそうです。待遇改善のためにも、海外でより大きな収益を上げることが必須です。

 

2024年3月11日 (月)

色好まざらんには如かじ

椿三十郎*

 1962年の黒澤明作品です。「用心棒」で、暴力に支配された悪の街を滅亡させた桑畑三十郎が流浪して、ある藩の若侍たちに加勢して悪を滅ぼすという話です。この作品でも、本名は明かされません。この作品でも、彼が何ゆえに若侍たちに加勢するのかは、不明です。金も名誉も求めていないのです。悪とのゲームを楽しんでいるようです。作品全体が、喜劇になっていて、城代やその奥方と娘、敵方の捕虜(押入れの男⇒会話を聴いて椿三十郎の本質を理解している)、9人の若侍のみならず、敵方の大目付ら悪の首魁までもが、どこか抜けているのです。一網打尽にするつもりが簡単に囲みを解いたり、若侍らの一味の数を大きく見誤ったり、単純な陽動作戦に引っかかったり、ニセ情報ですべての兵を動かしたり、騙されて合図の椿の花を自分たちで小川に流したりと、失敗の連続で、結局、権力闘争のゲームに負けてしまいます。最後の三十郎(三船敏郎さん)と室戸(仲代達矢さん)の決闘のシーンの血飛沫(ただし白黒)の印象が強いのですが、作品全体はユーモア時代劇と言って差し支えなさそうです。用心棒に比べれば、軽さが目立ちます。三十郎が、自ら捕虜にした若侍4人を助けるために、やむなく大量殺戮する場面は、殺陣の見どころです。しかし、口封じのために全員を殺すというのはやり過ぎ感があり、彼だけが縛られて生き残っているという筋にも無理があるのではないか、冷静に考えればおかしいと気づきそうです。鋭そうに見える室戸も、実は阿呆だということなのでしょうか?

 

所有するということ*

 鷲田清一「所有論」(講談社)は、哲学者の仕事らしい作品で、単純に著者の結論を知りたいという人には向かない本です。ロックに始まり、レヴィナス、ヒューム、ヘーゲルによる思惟を踏まえて、所有という概念と連動している占有、所持、財産、固有、譲渡、人格、主体、自由などの概念を論じながら、考えることを進めて行きます。大学では役に立つ成果だけを教えたらどうかという議論がありますが、哲学者のしていることは、無駄のように見えても、最も学問らしい学問なのです。この570ページにも及ぶ大著は、人間の現実の生活に役に立つわけではありませんが、哲学者の思惟のプロセスを知ることで、所有という概念について考えるとすれば、どういうアプローチと論点があるのか、私たちが考える旅に出る際の地図を提供してくれているものだと思います。私が最も興味を惹かれたのは、<受託>という考え方です。預かっているという意味は、例えば、文化財として重要な絵画を自分の棺桶に入れてくれというのは、所有の意味を誤解しているということになるでしょう。知識は、長い歴史の中での人類の営みを踏まえて、生み出されるもので、知財権という形で権利とされますが、著者は、未来世代への義務と責任と捉え直すことの重要性について述べています。そして、所有権には、個人の自由を奪い、破壊する恐れもある「危うさ」があると指摘しています。哲学者による地図のようなものを頼りに、実務的な議論が展開されて、社会システムの変革に役立てるというようなシナリオがありうるのではないでしょうか?私有財産の保障は重要ですが、その行き過ぎが既に社会的な対立・紛争の種になっており、格差が危険水域に達しているように感じられてなりません。

 

大阪府の高校授業料無償*

 2024年度から、公私立高校の授業料負担をなしにする施策が始まります。年間63万円を標準授業料とし、それ以上の学納金を設定する場合は、学校の負担になります。近隣5府県の私学にも参加を呼びかけましたが、大阪府の私学の大半が参加するのに対して、近隣の私学は約7割が不参加の方針です。キャップ制による授業料の実質的な公定への反発に加えて、大阪府民の生徒とそれ以外の生徒との不公平感を重く見た結果です。大阪府では、この支援措置によって、私学への進学がますます増加することを考慮して、定員割れで改善の見込みのない公立を募集停止にする措置が進められます。公立を閉鎖して、私学を受け皿にすることで、大阪府の財政負担は増えないのかもしれませんが、私学の授業料を固定することは難しいので、標準授業料への上昇圧力は避けられないでしょう。私学の収入のほとんどは、学納金で、要は、家計からの負担です。別に財布があるわけではないのです。公立を縮小して、私学へ生徒を移動させるのは、私学経営者からは歓迎される施策ですが、その結果、生徒や保護者の満足度が高まるのかは、やってみないと分かりません。無償化という実験が始まりますが、制度の実施によって、府民、生徒と保護者、私学関係者らが、現在よりも大きな便益を得られるのか、注目したいと思います。

 

非正規労働者*

 森・本田・緒方・上田・連合総研編「非正規という働き方と暮らしの実像」(旬報社)は、非正規に関する労働組合の役割を問うものです。興味深いと感じたのは、非正規の人たちの不満、無期転換を希望しない理由です。不満に関しては、男女とも、ボーナスが少ない、賃金が低い、仕事の経験を積んでも賃金が増えないということです。無期転換しない理由では、男女とも、責任が重くなる、今の働き方に不満はない、労働時間・労働日を選んで働きたい、賃金が上がらないとなっています。男性と比較して女性で目立つのは、家事や育児・介護の時間が必要という理由です。家事負担が女性にばかり重くなっている状況が、非正規という働き方に繋がっているのです。ワークライフバランスの実現に向けて、必要だとされる法制は、フルタイムとパートタイムを行き来できる、正社員と同じ日数の有給がもらえる、就煮の最低限の労働時間が保障されるというものです。また、シフト制労働に関して、EU・ドイツ・フランスの立法例が紹介されています。労働時間が過少、労働予見可能性の欠如が問題になって、導入されているのです。賃金と物価の好循環が社会的な課題になっていますが、非正規という働き方にも、特に賃金の面で恩恵が波及しないと、経済格差とインフレで、社会的不安が増大していくでしょう。フルタイムとパートタイムを行き来する働き方を、早く法制面で実現すべきだと感じます。

 

人口と未来*

 モーランド「人口は未来を語る」(NHK出版)は、日本という国の不都合な真実を抉っているという面で、極めて刺激的です。日本は、セックスレスで最先端を行く国です。また、かなり以前から、低出生率の罠(出生率の低下⇒景気低迷)に落ち込んでいる国です。著者は、世界の「日本化」を懸念しています。高齢者の急増についても、日本の「老害」という言葉が世界で使われるかもしれないとしています。とにかく、日本は、世界の未来を占う実験室なのです。著者が指摘している「世代間政治」の始まりは、間違いなく、重要性を増していきます。日本の若者はシニアを尊敬するように教え込まれているので、反乱のような動きにはなっていませんが、今後の利益調整のポイントは、世代間の公平になるでしょう。著者は、日本の空き家問題にも注目しています。市街地さえも過疎化していると見ているのです。ロンドンでは、2011年に、市民の3分の1以上が外国生まれになっています。欧州の大都市では、似たような現象が起きています。著者は、「犠牲となる選択はなにか」という問いを発しています。犠牲にするのは、経済力・民族性(移民反対)・エゴイズム(家族より個人優先)の少なくとも一つです。日本は、経済力を犠牲にしています。恐らく、経済力が持たなくなっているので、近未来に民族性を犠牲にするしかないでしょう。移民を入れて、純日本人が子どもを作らない状況を続ければ、移民の子孫の割合が相対的に増えて行くことになります。嫌なら、出生率を上げるしかありません。今は日本に人材を供給してくれている国も、いずれは経済的に発展して、出生率が下がり、人材輸出が細るでしょう。半永久的に移民に頼ることはできないのです。計算上は、日本という国土から、日本人がいなくなる時がきます。それは、日本という国家の終焉に他なりません。

 

雪山の絆*

 1972年のアンデス山脈に墜落した飛行機から生還した人たちの苦闘を描いたスペイン出身のバヨナ監督の作品です。アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされました。事故から36年後に発表された生還者の一人による著書が原作です。Netflixで観ました。70日以上にわたるサバイバル生活には、雪崩や寒気などによる仲間の犠牲がありました。究極の選択として、餓死を免れるために死者の肉を食べるという行為がありました。死を覚悟した仲間は、死んだら自分の肉を食べてくれと言います。皆がキリスト教徒でありながら、自分は仲間の行為の中に神を見出すという非常に重いセリフが出てきます。危険を冒して登山をする、誰の肉か分からぬようにして切り分けて配るという行為に、他者への献身=至上の愛を感じるということです。仏教では、捨身飼虎という言葉があり、自分の肉を飢えた者に与える行為が尊いとされています。死んだ人の肉をいただくというのは、心理的抵抗があるのは当然ですが、他に手段がない極限の状況では、餓死を防ぐため倫理的にも許される行為だと思います。自分が死んだ場合、生き残った人間に自分の肉を食べてもらうことを良しともするでしょう。人肉食という重いテーマを背負った作品ではありますが、極限環境でのサバイバルのための戦い全てに重点が置かれており、その試練に結束して挑んだ人たち(大半がラグビーチームのメンバー)の勇気と連帯に心を揺さぶられます。生還した16人のみならず、救助されるまでに命を落として16人を生かすために役に立った人たちも勇者です。

 

大相撲3月場所*

 宮城野部屋が閉鎖になるという話題で騒動になっています。相撲協会からは記者会見などの公式の説明はなく、ファンとしては、これまでの事実関係の全体像が分からず、なぜ部屋を閉鎖にしなければならないのか、まったく理解ができずにいます。相撲協会のガバナンス不全は極まっていると感じます。重大な情報が不規則にリークされ、決定のプロセスに関して責任と権限の所在さえ分からず、今や組織の体を為していないと思います。トップである理事長がきちんと説明すべきですが、通り一遍の挨拶に出てくるだけで、何の役にも立ちません。理事長にして危機感が全くないのなら、組織の末期症状です。もはや救いようがないとさえ感じます。NHKも報道機関として、相撲協会に対して、きちんと説明を求めるべきですが、池上彰さんのような質問はせずに、漫然と相撲中継を行っています。公共放送の誇りはどうしたのか、情けない思いがします。このような状況が続けば、5月場所に国技館へ観戦に行くこともやめておくつもりです。チケット完売で、相撲協会が何をしてもファンは気にしないと考えているようなので、真面目にやっている力士には気の毒ですが、見切りをつけて、別のスポーツに関心を移すそうかと思っています。大阪場所の相撲自体への興味はかなり薄れてしまいました。優勝争いは、横綱照ノ富士関が中心だと思います。初日は錦木関にもろ差しを許して完敗しましたが、5日目までの取り組みが重要でしょう。先場所よりも安定した内容になるのではないかと思います。4人の大関陣の中から、連覇を狙う横綱への対抗馬が出てくることを期待しましょう。琴ノ若関は、好調を維持している印象です。将来を担う若手力士として注目したいのは、熱海富士関、大の里関、尊富士関です。彼らは、大勝ちしてもおかしくないでしょう。その他、ややベテランの方になりますが、若元春関、高安関も、優勝に絡んでくる可能性があると思います。新旧交代期ですが、年長力士の奮闘にも声援を送りたいと思います。どの力士にも、大きな怪我がないことを祈ります。

 

生活保護申請の増加*

 2023年の申請は、前年比で7.6%の増加で、25万5079件に上りました。現役世代の申請が増えている点、物価高の影響が表れています。貯蓄が底をついて申請に至った人が増えているのです。増加は4年連続ですから、経済的に困窮している層には、デフレ経済からの転換が重くのしかかっていることが分かります。企業業績の好調や史上最高値を更新中の株高による恩恵が、底辺で暮らしている人たちには、ほとんど及んでいません。これからも、このような傾向は続くものと思います。ニッポンの衰退を端的に表す統計データの一つではないでしょうか?今後はインフレが進んで行くと予測されますので、支給額も上げざるを得ず、社会的な負担は増加していくでしょう。

 

特定技能の受け入れ枠拡大*

 政府は、2024年度からの5年間で、人手不足を背景に、2.4倍の82万人に拡大する方針です。内訳は、国交省関係(運送・鉄道を追加)で18.2万人、経産省関係(鉄鋼・繊維を追加)で17.3万人、農水省関係(林業・木材加工を追加)で29.3万人、厚労省関係で17.2万人となっています。2023年度までの実際の受け入れ数は、国交省関係で3.4万人、経産省関係で3.9万人、農水省関係で9.7万人、厚労省関係で3万人の合計20万人ですから、受け入れ枠を拡大したとしても、実際に技能実習が急拡大するとは思えません。結局、待遇改善が決め手になるのでしょうが、人材需要側がそうした余力を持ち合わせているのかが疑問です。外国人を低賃金で働かせるための仕組みとして利用されているので、逃亡者が出ているような職場では、待遇改善への取り組みを期待するのは難しいのではないでしょうか?2.4倍の受け入れ枠は、取らぬ狸の皮算用になりそうな気がします。特に農水省関係に人材を集めるのはますます困難になるのではないでしょうか?

 

2024年3月 8日 (金)

月を翫ぶに良夜とす

管理状態の悪い空き家*

 日経新聞によれば、埼玉県は、解体や利活用で状態の悪い空き家を解消したという割合が30.3%で、最も対策が進んでいる都道府県になりました。中でも条例を定めた2010年からの所沢市の取り組みが出色です。結局、自治体のやる気次第で、何とでもなるのではないでしょうか?確かに、所沢市でも、2022年度は、139件の所有者への助言に対して、問題解決したのは100件ですので、すべてがうまく行くわけではありません。しかし、139件もの働きかけを行っているということが並ではないのです。千葉県香取市は、2022年度末までに危険な空き家への改善命令を39件発出しましたが、全国トップの実績です。実務担当者の努力の成果だと思います。マンパワー不足は、どこの自治体でも悩みですが、それを言い訳にせず、やるべきことをやっていくしかないのです。管理状態の悪い空き家が多い大阪府、北海道、愛知県などは、実務を進めるためのシステムを整えて、実績を積み重ねてほしいと思います。

 

就活解禁*

 3月1日から採用広報が解禁になりましたが、既に、2月1日現在で、学生の71.3%が本選考を受けています。内定率も33.8%で、採用側が早期に人材確保に動いています。売り手市場です。就活する学生にとっては、好環境ですが、実際に社会人として働く1年以上前に採用内定することが、好ましいことなのか、非常に疑問です。日本の社会システムの最も不都合な部分の一つですが、改まる気配もありません。内定したのなら、次の年の卒業を待たずに、企業で働かせたらどうでしょうか?学生にとっても、以後の大学での学びにモチベーションも持てないでしょう。タレントの東貴博さんが、駒澤大学を卒業に必要な単位を履修し終わって3年で中退しましたが、非常に合理的な選択です。真面目にやれば3年間で十分学び終える程度の知識技能しか提供できないなら、大学は3年で修了させればよいのです。今の大学には、内定をもらった学生にとっては、4年次目を過ごす意味がなくなっていると思います。

 

支援金の上乗せ*

 石川県珠洲市など6市町村で住宅が全半壊した世帯には、支援金を最大600万円に倍増することになっています。厚労省の説明は、高齢化比率が高い地域であること、家屋を建設できる土地が少ない制約があることを上げています。日経新聞などは、根拠や公平性が乏しいとして批判しています。現役世帯も含むとしているので、高齢者だけを手厚くするわけでもなく、自宅の再建なので用地はあるわけですから、合理的な説明になっていないのは事実です。600万円というのは、もともと野党が言い出したことで、政府が被災者支援に冷たいと非難されることを避けたのだろうと思いますが、確かに賢明な策ではないと思います。同じ地震で苦しんでいる他地域の被災者には、単なる差別としか映りません。自助を阻害するという副作用もあります。高齢者世帯は、住宅を再建する経済力がないケースが多いでしょう。国費があるなら、むしろ、公営の共同住宅を建設することに力を入れるべきだと感じます。現役世帯にまで支給を拡大したのは、どうにも合理的な説明がつきません。そういう金があるならば、和倉温泉のホテル群の再建への支援に回した方が地域のためになります。

 

大学の特許収入*

 日経新聞に、上位10大学の特許収入を比較すると、日米格差が50倍になるとの紹介がありました。原因は、ビジネス化するための知財戦略がないこと、学内の支援体制が弱いこと、企業によって活用される特許が少ないことなどです。大学も手を拱いているわけではなく、2000年代以降、取り組みを強化してきたのです。ただ、特許によるビジネスは単純ではなく、技術を独占するための知財戦略が欠かせません。そうしたことを大学だけで行うのは、実際には不可能です。企業との連携がポイントになりますが、企業としては、大学の頭脳を共同研究で活用するにしても、特許の取得は自分たちでやる方が効率的なのです。大学が取得する特許は、企業が本当に大きなビジネスにしたいもの以外のものになりがちです。ここに、特許収入が上がりにくい背景があると考えられます。実際、大学の特許で企業に活用されているものは、20%未満に過ぎないとの指摘もあります。アメリカの大学にしても、特許収入の大半は、少数の大ホームランとも言える特許によって得られているのです。コツコツとヒットを積み上げるようなやり方で成功しているわけではないのです。独創性の高い先端研究に専念することができる環境が与えられないと、大胆なチャレンジをする研究者も出てこないでしょう。アメリカのやり方を良いとこどりで移植しようとしても、難しいのです。

 

定年再雇用の賃金訴訟*

 自動車学校の教員が、60歳になった翌月から、勤務内容が変わらないのに、基本給が大幅にカットされたことを不当だとして、訴訟を行っています。地裁、高裁では勝訴しましたが、最高裁では、高裁差戻になって、再び高裁での裁判中だそうです。最高裁は、嘱託職員は正社員とは異なるとして、不合理な待遇格差に当たるかは、基本給の在り方や労使交渉の経緯などを検討する必要があるとしています。賃金に関する調査によれば、60歳以降は、2割ほど低いというデータがあります。確かに、経営側には、人件費を抑制したいという事情があり、待遇格差は仕方がない面もあります。ただ、この自動車学校の例は、格差が大きすぎるので、これを正統化するならば、60歳以上の再雇用の待遇は、生活保障という意味では全く期待できない程度で構わないと認めることになります。給与が半額しか出せないならば、勤務内容も半分にすべきでしょう。裁判の結果は、非正規社員等の待遇にも影響があると思います。

 

棋王戦第3局*

 先手の藤井8冠が拮抗した戦局を、飛車を切って打開しました。飛車を金+香車と交換したことで、評価値に明確な差がつきました。その後は、伊藤7段の懸命の粘りにも、攻防共に的確な指し手を続けて、投了に追い込みました。ある意味では、伊藤7段が最善手を続けても、相手にミスがない限り勝利に至ることはない状況でした。そのミスをしないのが藤井8冠ですから、勝敗の分岐点は、飛車で金を取った決断の一手にあったと言えるでしょう。時間の使い方も、藤井8冠は巧みになりました。最終盤にも、伊藤7段が1分将棋になる頃にも、20分ほどの持ち時間が残っています。こうした逆転の可能性がほとんどゼロになっていくのです。2連敗になった伊藤7段に残されたチャンスは、あと一つです。第4局での巻き返しを祈ります。何か秘策はないものでしょうか?

 

外国人留学生の学納金*

 文科省は、国立大学の外国人留学生の学納金について、上限規制を撤廃します。現在、日本人と同額に設定されますが、今後は、例えば3倍にすることも可能になります。値上げをすることによって得られる資金を、留学生のための学寮の整備、各種の支援の充実などに使うことになるでしょう。ただし、国立大学の学納金は、国際的には高い方です。今は円安なので、割安感があるのは事実ですが、上限が撤廃されても、大幅な値上げには踏み切れないと思います。日本の大学が選ばれる理由の一つが、割安な学納金だからです。恐らく、東大が計画している5年制課程(文理融合)などでは、特別な価格付けが可能になるでしょう。ただ、実施に当たっては、他の学部等への影響(法人化後、東大は学納金を据え置いている)も考慮するものと思います。国際競争力がある大学ならば、外国人留学生の負担増を求めることが可能ですが、競争力を高めるために値上げするというのは不思議な理屈です。要は、日本国が、国立大学の国際競争力を高めるための資金を、十分に供給できなくなったという寂しい事情の裏返しに過ぎないと感じます。

 

輪島塗への試練*

 能登地震によって輪島塗の工房が被災して、職人さんたちの多くが輪島を離れていると聞きます。輪島塗には、100の工程があり、完成までに少なくとも5人の専門職が従事する必要があります。この30年間で、従事者が6割も減少しており、残っている1000人強のうち、3分の2が60歳以上だとのことです。関連企業も、13社が火災で消失、約50社が全半壊という損害を受けているので、輪島塗は存続の危機にあると言っても良いでしょう。輪島塗の漆器を日常的に使っている家庭は少なくなっており、価値の高い伝統工芸品ながら、需要が先細りになっているのではないでしょうか?能登の復興計画の中に、輪島塗の産業としての存続を、明確に位置付けてほしいとか思います。特に、生産と人材養成の拠点の整備が必要だと感じます。

 

東京マラソンの公害*

 お台場がゴールだった時代に、走らせてもらった経験があります。コースが変更になって、参加者にとっては付加価値が増したと思います。海外からの参加者の枠も増えて、インバウンドの誘致という意味でも、意義のある大会になっています。世界最高を狙うような選手たちも参加しているので、見る方にも楽しみが増えました。それらは、良いことですが、交通規制に関しては、大きな課題があると感じました。繁華街の道路が横断できない問題です。外国人観光客が、地下通路まで数百メートル迂回させられていました。参加者が多く、走力にも大差があるので、長時間の交通規制が必要なのです。日本人の多くは、大人しく従っていますが、我慢にも限界があるので、東京マラソンの社会的費用について分析して、コストを最小化する対策を検討すべきではないでしょうか?

 

2024年3月 5日 (火)

自讃の事七つあり

政治倫理審査会*

 公開の範囲を巡って、与野党の駆け引きが行われました。これほどの問題であるにも拘らず、地上波の放送さえできないというなら、日本の民主主義の恥だと感じます。自民党への支持率が更に落ちても仕方がないでしょう。ただ、自民党や岸田総理への支持率が低下する中、野党への期待が盛り上がらないのは、情けない話です。政権交代の受け皿がないのでは、国会の存在意義が失われているということです。かつての民主党政権による体たらくが、未だに強く苦い記憶として残っているからでしょう。衆議院の小選挙区制への転換は、政権交代の可能性を高めることが重要な狙いでしたが、現状を見る限り、完全に失敗しています。政党交付金によって企業献金をやめる話も、派閥による集金と議員へのキックバックで、完全に尻抜けになっています。このように、国権の最高機関が、国民を裏切っている状況では、国民の多くは政治に失望しても仕方がありません。残念ながら、我が国の衰退を象徴しているのが政治です。なお、政倫審の場で、国民に対して堂々と弁明しようとしない議員は、資格なしとして議員辞職してもらわなければなりません。これほどの問題であるにも拘らず、国民に非公開で済ませようというのは、ありえないことです。そんな議員は要りません。結局、NHKで放送までされましたが、国民が知りたいと思う事実関係は明らかになりませんでした。すべてが茶番です。

 

終活*

 明石久美監修「人の迷惑をかけない終活」(オレンジページ)の示唆に従って、終活を始めようと思います。要は、死後の実務処理のための情報の整理と集約です。最低限残しておくべき情報としては、戸籍謄本に記されているような基本情報、親族家系図と連絡先、医療健康に関する情報、終末期医療に関する希望、財産に関する情報、保険に関する情報、不動産に関する情報、葬儀とお墓に関する希望と情報、訃報の連絡先(連絡しない相手を含む)、契約に関する情報(解約手続きを含む)、遺言書に関する情報です。このほか、デジタル遺品に関して、機器に関する情報(パスワード、契約先、メアド)、取引先に関する情報(アカウント、ID、パスワードなどの情報、解約の手続を行うべき相手)を残しておく必要があります。生前に自分で解約したくない場合に、遺族が困らぬようにするのです。また、行動としての終活のポイントは、モノや契約先の精選、断捨離です。金融機関、ペット、不用品などです。認知症になるリスクへの準備も考えておくべきです。デジタル遺産として、暗号資産、電子マネー、マイレージなどがあります。各種ポイントは、原則相続できないので、使い切ってしまうべきです。一度、情報を整理しておくと、更新するだけなので、早めに着手することが肝要だと思います。75歳以上の方で、終活をしているのは30.4%です。エンディングノートを利用しているのは、全体で8%に過ぎないとのことです。

 

国境*

 クロフォード「国境と人類」(河出書房新社)には、スコットランドの歴史家が世界の様々な国境を旅して、国境とは何かについて考えたことが綴られています。最も興味深いのは、イスラエル建国とその後のパレスチナを巡る戦争の歴史です。分離壁によって、イスラエルは欲しい土地を確保して、欲しくない人間(パレスチナ人)は排除しています。ガザ地区の悲劇は、そうしたパレスチナの歴史が背景になっています。土地を奪った側と奪われた側が対立抗争を繰り広げているわけです。ガザ地区への侵攻の結末が、再び国境の移動になるかもしれません。もう一つ、国境について考えさせられるのは、エクアドルの若い母親がアリゾナ州のソノラ砂漠で命を落としたエピソードです。2000年以降、600万人以上が過酷な地を横断して、3500人が遺体となって見つかりました。未発見の遺体の数は不明です。動物によって、遺体は消費されてしまうからです。不法越境者は、警備の強化や壁の建設で、ますます命がけの越境を強いられているようです。親ガチャならぬ国ガチャで恵まれなかった人たちが、国境を越えて移動しようとするのは、考えてみれば、自然なことです。特に、親族が先に移動に成功していれば、自分も後に続こうとするでしょう。国家である以上国境の管理をしないわけにはいきませんが、外から移動してこようとする人間を徹底的に排除しようとするのは、蜘蛛の糸のカンダダと同じなのです。天国の門をくぐることは難しいと思います。

 

ウズラのタマゴ*

 福岡県の学校給食で出された「みそおでん」に入っていた、ウズラのタマゴをのどに詰まらせて、小学校1年生男子が、命を落としたというニュースを見ました。不思議に思うのは、市教育委員会では、ウズラのタマゴを給食から排除する方針を検討しているだという点です。ウズラのタマゴが危険だというのは、本当なのでしょうか?どんな食品でも、丸呑みしようとすれば、喉に詰まる場合があるでしょう。給食は、昔から、よく噛んで食べることになっています。不幸な事故で、ショックを受けているのだろうとは思いますが、食材からリスクをゼロにしようとするのは、結局、給食をやめることにもなりかねません。あえて、対策を考えるならば、喉から吸引するための道具(例えば、掃除機のようなもの)を学校の備品にして、教員に使用方法を徹底するくらいでしょうか?

 

劇症型溶連菌*

 通称、人食いバクテリアです。致死率は3割ほどで、非常に危険です。2023年の統計では、941人が感染しました。2024年になっても、さらに増加傾向で、要注意です。海外から、感染力の高い強毒性の株が持ち込まれて、リスクが高まりました。高齢者の患者さんが、大半だそうです。足が腫れて、40度ほどの熱が出たら、即、救急車を呼んで診断を受けるべきだとのことです。劇症化するメカニズムは解明されていませんが、短時間で命の危険に至る、恐ろしい感染症です。感染は、怪我や水虫の傷口から起こるケースが多く、飛沫や接触によって伝染します。足を清潔に保つ、マスクや手指の消毒をするなどによって、予防に心がけましょう。日本でも、予防や治療に関する臨床研究が早く進むことを期待します。

 

宮城野親方を守ろう*

 相撲協会の処分は、一貫性がないように感じます。宮城野親方(元白鵬関)に対して、師匠(指導者)の役割を取り上げてしまったのは、明らかにやり過ぎです。師匠代行に指名された玉垣親方(元智乃花)は、教員経験もあり適任だとは思いますが、弟子たちの多くは、宮城野親方を選んで入門しており、北青鵬関さえいなくなれば、宮城野親方のもとで再出発することを強く望んでいるのではないでしょうか?玉垣親方は、あくまで相談役にして、宮城野部屋と相撲協会の繋ぎ役、宮城野親方のお目付け役として働いてもらえば良かったと思います。宮城野親方は、少年を対象にした相撲の普及、世界からの力士の発掘などに、尽力してきました。知名度も抜群です。彼の行動がすべて正しいとは言いませんが、大相撲の発展には欠かせない人材だと思います。そうしたことを無視して、気に入らない奴は排除するというような愚かしいやり方は、相撲協会自身の首を絞めることにもなりかねません。大局判断ができる器の大きな人間が、理事の中にいてほしかったと感じます。相撲部屋という存在は、既に時代遅れで抜本的な改革が必要だと思います。最近も、陸奥部屋、九重部屋で、不祥事がありました。佐渡ヶ嶽部屋も、やめた力士から、不衛生な食事を食べさせられたなどとして、親方が訴えられています。課題を先送りして、不祥事はすべて個人の責任としてしまうのでは、大相撲の未来は明るいとは言えません。相撲ファンとしては、相撲協会の執行部が経営上合理的な判断ができるようになるまで、宮城野親方を守らざるを得ません。彼を失って、大相撲の未来は考えられないからです。コンプライアンス委員会が宮城野部屋の存廃を決められるかのように伝わっているのは、相撲協会のガバナンスが乱れている一つのエピソードで、非常に気になります。そもそも、職員の超過勤務の賃金支払いについて、労基署から指導を受けていましたが、相撲協会の執行部自身が、長年、法令違反を続けていたのですから、親方衆に対して、急に厳しい処分ができる立場にあるのか、極めて疑問に思います。

 

中小私学の構造転換*

 文科省は、地方の中小私学の構造転換を財政面で支援するようです。45校に、教育プログラム開発に要する年間1000~2500万円を支援するとのことです。本当に改革しないと生き残れないとすれば、私学経営者が、文科省の支援を当てにするのは、愚ではないでしょうか?これまでも、当然のことながら、多くの私学は、志願者確保のために、新規の学部・学科を創設するなど、構造転換を図ってきています。今さら、手を打つのが遅れている私学に、補助金を出す必要はないと思います。簡単に言えば、今頃になって構造転換などと言っている私学は淘汰されても仕方がないのです。地方の私学の経営が苦しくなっているのは、背景となる18歳人口の減少が原因です。構造転換すれば、経営が劇的に改善することはないでしょう。要するに、補助金は無駄金にしかなりません。

 

建設業の労働環境改善*

 国交省は、長時間勤務を是正するための関連法改正を行うとのことです。主な内容は、工期ダンピングを禁止する、受注者によるリスク情報の提示を義務化する(価格転嫁を容易にする)、技能労働者の労務費の基準を策定する、人員配置規制を緩和するというような点です。要は、2024年4月からの時間外労働の上限規制を踏まえて、片方で長時間労働の歯止めを行い、もう片方で適正な労務費の確保を促進する(受注者への価格転嫁を含む)ということでしょう。結構なことですが、大阪万博のような期限のあるパビリオン建設に、工期の無理な短縮を求めたり、長時間労働規制の例外を認めたりすることにないように、願いたいものです。

 

西遊記*

 NHKで最美公路の旅番組を放送していました。軍事施設があるために、外国のメディアには公開されていませんでしたが、観光開発が進んでいることもあって、特別に許可を得て撮影された作品です。確かに、世界遺産級の景観が次々と出てくる素晴らしい観光資源だと感じました。その中で、西遊記の舞台になっている山岳地帯があり、思い立って、岩波文庫の西遊記全10巻を読み始めました。改めて、そんな話だったのかと知ったのは、悟空は釈迦如来によって五行山に500年間も閉じ込められたこと、いずれも妖魔であった孫悟空・猪八戒(悟能)・沙悟浄は観音菩薩に諭されて三蔵の供となったこと、三蔵が乗っている馬はもともと龍であったこと、三蔵は何度も誘拐され妖怪たちに食べられそうになること、悟空や八戒らはしばしば傍若無人に行動し三蔵を怒らせること、悟空は三蔵から一旦は追放されたことなどです。悟空は禁忌を破ることを何とも思っていない、八戒は性欲と食欲を抑えられないなど、仏に仕える身としては人格が破綻しており、三蔵の供としてはいかがな人材かと思います。しかし、大長編の物語には、騒動を起こすキャラが必要なのです。経典を取りに西へ向かう三蔵の旅が、文字通り山あり谷ありになるのが西遊記なのです。それにしても行けども行けども妖怪だらけです。

 

2024年3月 2日 (土)

柳筥に据うる物

北青鵬関の追放*

 同部屋力士への暴力事件などを理由に引退勧告を受けた北青鵬関は、勧告を受ける前に、宮城野親方を通じて、自ら引退を届けました。事実上の追放です。数々の悪行は以前から噂にはなっていたので、まさに身から出た錆です。素行が改まることもなかったので、部屋としても、相撲協会としても、庇えなくなったのでしょう。力士として、大関になりうる素質を感じていたので、心の部分で大きな欠陥を直せなかったことは、残念なことです。宮城野親方(元横綱白鵬関)も、協会への報告や再発防止策に行き届かぬ点があったとして、2階級降格という厳しい処分を受けました。部屋の力士の管理も、当面は、宮城野親方に代わり、伊勢ケ浜一門の責任となります。言わば、師匠として再教育を命じられたことになります。元横綱でモンゴルの英雄にとっては、大きな挫折でしょう。宮城野親方は、相撲の取り組みに関して技術的なポイントを的確に解説することができる人で、優勝45回の大横綱ということもあり、潜在的な理事長候補の一人だったので、無念としか言いようがありません。相撲部屋の力士の管理は、力士の数が増えてくれば、主宰者の親方一人だけでは無理で、部屋付きの親方、マネージャー、女将さん、年長の力士(兄弟子)などが、心のケアを含めて、力を合わせて行っているのですが、宮城野部屋は、そうした陰の力が不足していた面があると思います。腹を割って相談できる先輩親方もいなかったのでしょう。大きな痛手ですが、真摯に反省して、今後の指導に生かして欲しいと思います。このところ、別の部屋でも、いじめ、未成年の飲酒などの事案が問題になっており、親方への処分も行われています。コンプライアンスが求められる中、集団生活の難しさが浮き彫りになっていると思います。相撲協会として、部屋というシステムに関して、時代に合った経営の方式を検討すべきではないでしょうか?なお、コンプライアンス委員会が、玉垣親方に、「もう宮城野部屋がないものとして考え、行動制してくれ」と伝えたそうですが、コンプライアンス委員会に、そんな権限はないはずですし、無関係の力士たちに行動制限を科するのは間違っていると思います。相撲協会は、ファンに対して、広報担当を通じてきちんと説明すべきです。

 

棋王戦第2局*

 第1局が持将棋で、藤井聡太8冠は後手番となりました。珠洲市の瓦礫の中から掘り出された将棋駒を使用しての対戦です。互角の展開から、藤井8冠が攻防に働くように6三桂と打ったところから、差がついていったようです。その後、角を逃げずに7六歩と打って、伊藤匠7段がどの手を選んでも、さらに藤井8冠の優位が拡大する形になりました。伊藤7段が、79手目に5三金としていれば、逆転のチャンスがあったようですが、嫌な筋があるとして見送った模様です。両者の実力は拮抗しており、勝負は紙一重で決まっているのです。勝利をつかんだ藤井8冠は、これで先勝したことになります。伊藤7段は、なかなか勝利が遠い状況ですが、一つ勝って流れを攫めば棋王戦の展開が変わってくると思います。

 

新大久保*

 室橋裕和「ルポ新大久保」(角川文庫)は、コリアンタウンとして知られる新大久保が、ベトナム人、ネパール人など多民族の混在する街になっている状況を描いています。外国人の生活には欠かせないものが何でもある街なのです。面白いのは、送金会社が多いこと、行政書士に外国人相手のビジネスチャンスが多いこと、外国人専門の家賃保証会社があることです。日本人の住民や商店街の人たちは、観光客が押し寄せることを歓迎する声、外国人に街を乗っ取られることを懸念する声がありますが、苦情やトラブルを乗り越えて、共存の基盤が形成されてきました。新大久保は、もともと、歌舞伎町の発展と高度成長期が、アジア系の外国人を呼び込んだ街でしたが、今や、住む、学ぶ、働く、遊ぶ、祈る場所として、雑多な外国人が集まる街になっています。特定の国からの人たちが多い街は他にもありますが、これほど多民族によって構成されている街は、他にはないでしょう。ある意味で、東京の未来を象徴するような無国籍の街が、新大久保なのです。社会学的にも興味深い研究対象だと思います。

 

なでしこ、パリへ*

 対北朝鮮戦第二戦は、なでしこらしい戦いができました。結果は、2-1ですが、サッカーの質という面では、ほぼ完勝と言って良いと思います。北朝鮮の戦法は、ミドルシュートを積極的に打っていくほか、ゴール前に放り込んで競り合いの中から、泥臭いゴールを狙うというものでした。個人技重視の古いスタイルのサッカーですが、体力の優位性を主張するやり方で、第一戦からあまり変わりません。こうした戦術に対応するために、システムを変更したのが、なでしこの巻き返しのポイントでした。左サイドを選手起用で活性化できたことで、攻撃に幅ができました。第二戦は、池田監督が頭脳戦で勝利を導いたということになります。得点シーンでは、田中選手の体を捻ってのヘディング、清水選手の股抜きからの正確なセンタリングが技術的に光りました。勝利の陰の立役者は、GKの山下選手です。彼女の身体能力の高さは、なでしこの大きな支えです。主力の3人(宮沢、遠藤、猶本の各選手)が怪我で、苦しいアジア予選でしたが、とにかくパリへの出場権を獲得できたので、安堵しました。パリでは、メダルを期待しましょう。今度こそ、主将の熊谷選手に、嬉し涙を流してほしいと願います。

 

宝塚歌劇団の迷走*

 1月下旬に、劇団幹部や上級生からのパワハラが7件についてはあったという内容の書面が、遺族側に届いたとのことです。そういうことなら、歌劇団の経営責任者が、きちんと訂正の記者会見を行うべきでしょう。結局、全面否定していたくせに、よく調べてみればそれが維持できなくなって、嫌々ながら小出しに認めるという、極めて見っともない屈辱的な状況に陥っています。親会社さんもご苦労です。俳優さんが自殺に追い込まれたという重大な事態に、始めからきちんと向き合ってこなかったツケが来ています。歌劇団を守ろうという気があるならば、徹底的に真実を追及して、全ての問題をあぶりだす必要があったはずです。臭いものに蓋をして乗り切れると考えてしまったのでしょう。それが失敗の品質です。初期対応で、経営者の判断が妥当性を欠いた事案として、長く反面教材になると思います。未だに、いじめの主犯格は何ら責任を認めていないようですから、宝塚ファンが、そんな「スター」にいつまでついていくのか、見ものです。

 

正直不動産2*

 NHK放送博物館にて、展覧会を開催するなど、NHKは随分と力を入れています。3月17日までです。基本的には、山下智久さん、福原遥さんを見るためのドラマですが、2では、不動産業界の悪徳ライバルとの対決が、縦糸になっています。相手があまりにもダークなので、営業での正常な競争というよりも、悪徳業者によって起こってしまった問題の解決に奔走する内容が多くなっています。例えば、空き家の売却、狭小住宅の売却、家賃保証会社の審査、家賃滞納、ワンルーム投資などに関して、ピンチに陥った顧客に対して、主人公らがいかに人助けするかという筋になっています。多くは、感謝はされても、短期的な儲けになりません。確かに回り道ですが、長期的には、彼の信用が利益を生むということになりそうです。ドラマなので、相当深刻な事態も、説得に成功する、別の買い手が見つかるなどによって、短期的な解決に成功するわけですが、2では、不動産業界のブラックな側面がより鮮明に浮き彫りになっています。主人公が正直な不動産屋として、結局、地域の人たちから厚く信頼され、私生活では良きパートナーにも恵まれるという話なのですが、一方で悪徳不動産屋も景気が良さそうです。最後は、NHKらしく勧善懲悪になるのでしょうか?さらに、欲を言えば、主人公たちに、オーナーさん側に立って、不人気な物件をどうにかして価値のあるものに変える手助けもしてもらえると良いと思います。街づくりへの貢献がおまけになれば、大変好ましいでしょう。

 

日本製部品*

 グーグルのヴィジョンプロに部品のうち、価格の42%が日本製だったと記事を読みました。部品のシェアで、勧告、台湾、中国、アメリカを上回ってトップだった言うことです。光学系分野の強みが明らかになったことは、日本の技術力の一端を示したもので、喜ばしいことです。しかし、考えてみれば、部品は部品です。販売価格の3分の1に過ぎません。結局、製品にまとめ上げて市場に出す力のある企業は、日本にはないというのが現実です。部品メーカーで良いのでしょうか?

 

暴力とポピュリズム*

 中野博文「暴力とポピュリズムのアメリカ史」(岩波新書)は、アメリカの民間ミリシアという不思議な存在について、歴史的経緯を含めて貴重な情報を与えてくれます。民間ミリシアの多くは民主党を敵視する極右団体です。1992年は、その創設運動が始まりましたが、「陰謀」を進めている民主党のクリントン政権に対抗するために、各地で組織されて行きました。その後、96年までに800団体に達しましたが、オクラホマの連邦政府ビル爆破事件やブッシュ政権(テロ阻止のために監視を強化)の誕生で、ミリシア運動は衰退に向かいます。それが、2009年のオバマ政権の誕生をきっかけに、実に2年で8倍に急増します。トランプ大統領は、民間ミリシアを激励する態度を取り、連邦議会襲撃事件において、行動のために待機せよとまで扇動しました。武装した民間人の自警活動が許されているのは、犯罪の増加、警察の予算不足に加えて、警察幹部が極右思想を支持しているという背景があるようです。それでは、州法で取り締まりが可能だとしても、州知事、州議会、州裁判所が一致して行動しない限り、意味のある取り締まりは望めません。アメリカという国は、政府からの自由を守るための人民武装が憲法上の権利として保障されているのです。日本人の感覚では、危険としか感じられませんが、ここに、不安定なアメリカ政治が抱える暴力とポピュリズムの源泉があることが分かります。共和党が、極右思想に染まった少数の民間ミリシアに乗っ取られているような状態は、アメリカだけでなく、世界にとって、好ましくないと思います。

 

将棋界の一番長い日*

 2月29日に、静岡市の浮月楼で、A級順位戦の最終局の一斉対局が行われました。その結果、豊島9段が藤井名人への挑戦者に決定し、広瀬9段、斎藤8段がB級1組への降格となりました。降級のお二人は、間違いなく実力者ですから、来期は好成績でA級に返り咲くことを期待しましょう。今期昇級した佐々木勇気8段、中村太地8段は、残留となりました。厳しい戦いの中で、結果を残したお二人には拍手を送りたいと思います。以上、一番長い日は、常に悲喜交々の結果を残します。なお、Abenaでは、藤井8冠が同時並行で指されている5局について解説をしていましたが、極めて的確に一瞬で最善手を示していたのには、驚愕しました。恐ろしい棋士です。B級1組の最終局は、3月7日に行われ、既に昇級を決めている千田8段に加えて、大橋7段か増田7段がA級へ初めて昇級することになります。いずれにせよ、フレッシュな顔ぶれのA級順位戦になりますので、来期どんな戦いが繰り広げられるのか、楽しみにしたいと思います。また、豊島9段には、秘策を練って、藤井8冠の牙城に迫ってほしいと願います。最高峰の将棋を期待します。

 

« 2024年2月 | トップページ | 2024年4月 »

最近のトラックバック

2025年1月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
無料ブログはココログ