最終123番目のドラフト指名 プロに旅立つ能登の球児の思い
最後の最後、最高の瞬間が訪れた。
10月24日のプロ野球ドラフト会議では、育成枠も含め123人の選手が指名された。最終123番目に指名されたのが、石川県立門前(もんぜん)高(同県輪島市)野球部の右腕・塩士暖(しおじ・だん)投手(3年)。ソフトバンクから育成13位での指名だった。
「今までで一番うれしい名前の呼ばれ方でした」
市内の自宅で家族だんらんのひととき、いきなり激しい揺れを感じた。元日の午後4時過ぎだ。
震度5強の後、震度7の揺れに襲われた。部屋着のまま家を飛び出したが、経験したことのない揺れに立っていられなかった。
「地面にはいつくばって収まるのを待ちました」
大津波警報が発表されたため、家族と近所の小学校へ逃げた。
道中、体が不自由な高齢女性を見つけ、知り合いの中学生と交代しながらおぶって小学校の3階まで避難した。
門前高の野球部では「町おこし軍団」と銘打って、日ごろから雪かきなど地域のボランティア活動に取り組んできた。地域の高齢者とも普段から交流し、試合の応援にも来てもらっていた。
そんな日常だったから、地域の困っている人を放っておけるはずはなかった。「津波が来るかもしれない状況で、手伝わないと『やばい』って無意識に思って。一生懸命背負った」
自宅は基礎部分が壊れて「全壊」判定となり、見慣れた景色が一変した。通学路の道路は隆起してがたがたになり、多くの家屋が倒壊した。
家族とともに約2週間、避難所で過ごし、それからは家族と離れ、自宅から90キロ余り離れた金沢市内の後輩宅へ身を寄せた。家族を能登に残すことに葛藤はあった。
それでも、思い切り野球がしたかった。門前高で指導アドバイザーを務める星稜高(石川県)元野球部監督の山下智茂さん(79)のもと、避難した部員20人らと金沢市内での「自主練習」に励んだ。
4月に入り、家族のもとへ戻った。新…
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