Here I am, Here we are ― 「ハヤテのごとく!」同人編総括【ナギ編】
冬コミです!
サークル「むんくろ」の新刊に「きんいろモザイク」に関するコラムを寄稿しております! よろしくお願いします!
さてさて久々のハヤテ記事でございます。
ついに同人編が終了ということで、総括という名の終盤の感想です。まずは【ナギ編】です。【ルカ編】も多分あります。たぶん。
お嬢さまは、かつて完膚なきまでに敗北した。
このカラーを見たのがいつのことだったか、もはや思い出せませんけど。これはナギが現実を知り、同人誌と出会って立ち直り、けれど道を踏み外した末に至ったひとつの結末。同人誌を売るために様々な策略を巡らせ、大切なことを見失っていたナギの、再起への道程。
千桜に連れられ訪れた東京ビッグサイトで、ナギはルカにリベンジを誓いました。2ヶ月後の夏コミで必ずルカを越えてみせると。
夏コミへ向けての同人誌のアイデアは、西沢さんのアドバイスを参考にしながら生まれたもの。この世から消えてしまいたくなるような挫折を味わい、それでもそれを受け入れて頑張る少女の物語。死んでしまい、あと49日で成仏する幽霊となった少女が、50日後にあるアニメの最終回を見るためにがんばるお話。
「そのアニメを好きという彼女の切実な願いが…最後にきっと奇跡を起こす!! そういう物語…!!」
願いとは、すなわち本気の想い。
これはすなわち、ナギが初めて参加した同人誌即売会で言っていた言葉と繋がります。
情熱。
自分が好きなものに対して、どれだけ本気になれるか。人生を賭けられるか。そうした熱い想いはきっと伝わるのだという思いがナギの根底にあって、だからこそ同人誌即売会でナギは奮い立った。
「情熱は伝わる。必死の想いは伝わる…!」
これは、そうであってほしいという願い。
この願いは、きっとまんがに限った話ではありません。ハヤテを賭けたルカとの同人誌対決。そこでナギの情熱が伝わるのか。まんがに対して、そしてハヤテに対しての情熱を込めた同人誌を作り上げるため、ナギは頑張らなくてはならないのです。
北海道に行ったり京都に行ったりしながら、ようやくナギは同人誌の構想をまとめます。そうして渾身のネームが出来上がり、これでハヤテを自分の実力で取り戻せると思っていた矢先。ナギはルカを後ろからそっと抱くハヤテの姿を目撃します。それはどれほどの衝撃だったのか。
決着はもうついているのかもしれない。
ハヤテの台詞の真意はいずれ明らかになるわけですが、ナギは当然そんなことは知らず。更にハヤテは、ルカのためにしてあげたいことがあるからと執事をお休みしている。ハヤテを賭けた勝負に臨む大切な時期に。そうなれば思考がネガティブスパイラルに陥るのも無理はなく。
「過去でも未来でも、僕が君を守るよ」
そんなかつてのハヤテの言葉が、空虚に通りすぎていく。ハヤテがルカを好きならば、私の頑張りは誰も喜ばない。勝つ見込みも、意味もない。
だからナギはそこで立ち止まり、諦めてしまう。脳裏にちらつくハヤテがルカを抱きしめているシーンを拭い去り、乗り越える強さはナギにはなかった。まだ、この時は。
……ハヤテのナギへの想い、GW編ラストでアテネに語ったようなことというのは、実はナギは知らないんですよね。だからナギはハヤテがいなくなるとどうしようもなく不安になるし、また戻ってくることを信じられない。
ハヤテが執事であるというのはナギのひとつの拠り所で、現状それが二人の関係性だから、ナギはそこにしか頼れない。執事という関係性が揺らぐような事態になるとどうしても「ハヤテが私の側にいるのは(私が好きだからではなく)私の執事だからだし、大切に想ってくれているのも(一人の女としてではなく)主としてなのだ」と思ってしまう。
現時点のナギから見てハヤテは
(1)借金があるから → 執事をやっている
(2)執事をやっているから → 私の側にいる + 他の人と付き合わない
わけで。ナギは不安になったとき、ハヤテとの今の関係性は左辺の前提があるからこそだと思ってしまう。今回の勝負で負けると(1)が成立しなくなり、すると(2)もなくなり、ルカと結婚し去ってしまうと思っている。
これらの問題について、劇場版は(1)を否定する話だったわけですが、(2)は現状では肯定されています。だから今回を乗り越えたとしても、いずれナギは向き合わなければならないのでしょう。ハヤテが誰かを好きになるのなら、その相手は誰なのか。ブリトニーちゃんは、どちらを選ぶのか。
マリアさんは言いました。ナギは「これと決めたらアクセル全開、けど途中で大破して全部台無し」を繰り返す子。そしてナギがくじけた時に慰めるのは自分の役割だと。勝負を投げ出すナギを見て、今回もマリアさんはいつものことだと慰めようとします。それを止めたのは千桜でした。
ルカに勝つためのアイデアとして、37巻1話で「主人公補正」の話をしたナギ達。その話を取り上げた上で、千桜は言います。
「主人公っていうのはなぁ、どんな逆境に襲われ、ひざは折れ、拳は砕けようとも――絶対に、あきらめたりはしないんだ!!」
主人公たる条件は、諦めないこと。
京都でナギは言いました。これまで努力して何かを勝ち取る必要がなかった。だからどう頑張っていいのかわからない。
何かを必死で成し遂げるということの難しさに、ナギは初めて向き合っています。思えば同人誌対決が決まってからも、ナギのやる気は長くは続きませんでした。どれだけ追い込まれても、努力の仕方がわからない。
「これは誰かに強制された勝負じゃない!! お前が言い出し、お前がやると決めた勝負だろ!!」
伊勢の神様は、一人では頑張れない時に、それでも頑張るから見守っててください、と祈る神様だといいます。
けれどナギは一人じゃない。支えてくれる人がいる。ナギを奮い立たせ、もし道を踏み外しかけているなら、引き戻してくれる仲間がいる。
「そんなものさえ投げ出す奴に主人公補正なんかあるか!! 勝負目前に疲れたからって簡単にあきらめる奴が…!! 一体、何に…!! なれるっていうんだ!!」
特別な何かになりたいのだと、少女は言った。
三千院家に生まれて今の自分がある。お金には困らず、一流の教育を受けてきたナギは、努力するまでもなく望んだものは手に入った。それがひどく退屈だった。自分にしか成し遂げられないことなど何もなかった。
だからこそ、三千院ナギは。
自分で選び、掴み取った何かになりたかった。
自分の力で人を魅了していた、あのルカのように。
だからナギは自分の力で逆境を乗り越えなければならない。神様のようだと憧れた人すらも越えて、自分の力で「何か」を成し遂げるために。求めているものは、きっとそこにあると思うから。
その日ナギは、マリアさんの予想を越えた。今までマリアさんが見てきた展開の繰り返しから、千桜が引っ張り上げた。この瞬間こそが、同人編におけるナギの「成長」の瞬間だったのでしょう。同時にこの瞬間は、マリアさんの物語の始まりでもあるわけですが、それについてはまた別の機会に。
31巻6話と39巻9話のタイトルはどちらも「特別な何か」。
これがミスによるタイトルかぶりなのか意図的なものなのかは分かりませんが、31巻6話で「普通の人とは違う」という意味での「特別」になりたがっていたナギが、39巻9話で「特別」を自分の力で掴み取ろうとするのは良い流れです。諦めずに戦い抜いたこの瞬間、ナギはようやく「人生の主人公」になれたのでしょう。
千桜が声を張り上げ、ナギがそれに応えて同人誌を完成させるまでのシーンこそ、この同人編のナギパートの真髄。ナギの挫折と、それを乗り越えた成長。かけがえのない仲間を得て、マリアさんの手を離れて歩き出す「自立」の物語。それがナギにとっての同人編だったと言えるでしょう。
BGMは某クラナドなアフターより、「時を刻む唄」だそうですよ。
そうして出来上がった、自分のすべての力を出し切った同人誌。
「霊魂30days炎」。
アニメ3期でタイトルだけは出ていましたが、ついにそのタイトルが登場です。困難から逃げずにやりきった満足感を携えて、ナギは決戦の舞台、東京ビッグサイトへと赴きます。泣いても笑っても、この勝負が終われば、どちらかがハヤテを失うことになる。
緊張とともに開場する夏コミ。そんなナギの前に表れたのは真泉でした。あの同人誌即売会の舞台で、流行を押さえていないとルカの同人誌を批判した真泉。熱い魂がこもっていれば面白いまんがは描けるのだとナギは反論し、それを証明するために二人の同人誌対決が決まった。このやり取りこそが、ナギが同人の世界に足を踏み入れるきっかけでもありました。結局真泉が新刊を落とし、同人誌対決はお流れになったわけですが……。
そんな真泉はナギの同人誌を読んで、一言。
「相変わらず、下手くそなまんがだ。だがいいまんがだ。面白い」
それは真泉がナギを認めた瞬間。たった200円のコピー本に込めたナギの熱い魂が伝わった。ナギはあの日の自分の言葉を、情熱が伝わるということを自分の手で証明してみせたのです。
あとはもう、夢中だった。ただただ本が売れるのが嬉しかった。
自分のすべての想いを込めた同人誌を手にとって、読んでもらえる嬉しさ。あの日ルカの同人誌を買ってもらったときに感じた喜びの、その何倍もの喜びを噛み締めながら。
ルカが立っていたあのステージとは違うけれど。
今のナギにとってここは、間違いなく輝くステージだった。
すべてが報われる瞬間、いつまでも続け。
ナギはついに、求めていた何かを手に入れたのです。
だから。
訪れた「負け」という現実を、それでも受け入れた。
かけがえのない存在であるハヤテを失うという受け入れがたい事実を、自分のすべてを出し切った全力の勝負の果てに、ナギは受け入れた。
この勝負の結果を、求めていた何かを手に入れたこの輝くステージを、冒涜するわけにはいかなかったから。
「おめでとうルカ。勝ったのはお前だ。」
この台詞を言えることが、ナギの成長の何よりの証明。
かけがえのないことを学ばせてくれたライバルに感謝して。
「ありがとう。ハヤテのこと…よろしくな。」
かけがえのない存在である、ハヤテを託した。
あとはまあエピローグというか。実はルカの本が一冊残っていたのでナギの勝ちとなり、ルカは敗因を言います。
「想いの…差かな? 一冊分だけ、ナギの情熱が私を上回ったってことよ。」
情熱とは、あの日ナギが同人誌即売会で言った言葉。自信をなくしていたルカは、同人誌を褒めてくれたナギのその言葉に救われたのでした。この展開を踏まえて【ナギ編】として締めくくるならば、ナギの「必死の想い」がルカに伝わったということなのでしょう。
ルカは同人活動を休止し、10年間はアイドル活動に専念するといいます。
だから10年後、売れっ子漫画家になって待ってて、と。
ナギはその言葉を聞いて、叫びます。
「待ってなんかやらない!! ここから十年、私は今回のような努力を重ね、足橋先生以上の漫画家になってお前なんか――!!」
「背中も見えないほど…!! 引き離してやる!!」
それはあの日ビッグサイトで「突き放してやる!!」と言ったルカへの意趣返しか。そう言ってナギは、アイドルに専念すると言ったルカを激励します。
その後、MAXコーヒーを飲みながら三人は約束を交わします。このMAXコーヒーは21巻1話で描かれていたもの。ずっと二人を手伝い支えてきた千桜にとっても、一生縁のない話だと思っていた「みんなで何かする」という出来事を体験できた、思い出深い大切なイベントだったと言えるでしょう。
誰にとっても、仲間とともに駆け抜けた、大切な夏。
10年後、ナギとルカが再び全力で勝負し、千桜がそれを手伝う。
未来への大切な約束が、交わされた日でした。
そして最後に。
ルカとのやり取りを終え、落ち込んでいるハヤテの前に表れた息の根コロリちゃん。知らない方は「それが声優!」を読みましょう。
そんなコロリちゃんは、ハヤテにとっておきのプレゼントを渡します。それはクチャッとしたらくがきの描かれた、1枚のサイン色紙。将来一兆部売る伝説の漫画家が、はじめて描いたサイン色紙。
今は何の価値もない落書きであるそれをハヤテに渡し。
いつかそれを必ず輝かせてみせることを、心の中で誓ったナギは。
夢へと向かい、一歩ずつ進んでいく。
同人編総括【ナギ編】でした。めっちゃ長い記事になってしまった。
こうして振り返ってみればナギの成長パートとかめっちゃ面白いんですが、そこに辿り着くまでがとにかく長かったなあと。この記事書くのに27巻から振り返ってるんだぜ……。
でも終盤はとても良かったし、ナギの同人への挑戦の締めくくりとして、あのラストは完璧だったと思います。
次は同人誌編総括【ルカ編】ですが、このパターンはうちのブログ的には後編がアップされないフラグ。1月中に書けたら、いいな……。
サークル「むんくろ」の新刊に「きんいろモザイク」に関するコラムを寄稿しております! よろしくお願いします!
さてさて久々のハヤテ記事でございます。
ついに同人編が終了ということで、総括という名の終盤の感想です。まずは【ナギ編】です。【ルカ編】も多分あります。たぶん。
情熱は伝わる
お嬢さまは、かつて完膚なきまでに敗北した。
このカラーを見たのがいつのことだったか、もはや思い出せませんけど。これはナギが現実を知り、同人誌と出会って立ち直り、けれど道を踏み外した末に至ったひとつの結末。同人誌を売るために様々な策略を巡らせ、大切なことを見失っていたナギの、再起への道程。
千桜に連れられ訪れた東京ビッグサイトで、ナギはルカにリベンジを誓いました。2ヶ月後の夏コミで必ずルカを越えてみせると。
夏コミへ向けての同人誌のアイデアは、西沢さんのアドバイスを参考にしながら生まれたもの。この世から消えてしまいたくなるような挫折を味わい、それでもそれを受け入れて頑張る少女の物語。死んでしまい、あと49日で成仏する幽霊となった少女が、50日後にあるアニメの最終回を見るためにがんばるお話。
「そのアニメを好きという彼女の切実な願いが…最後にきっと奇跡を起こす!! そういう物語…!!」
願いとは、すなわち本気の想い。
これはすなわち、ナギが初めて参加した同人誌即売会で言っていた言葉と繋がります。
情熱。
自分が好きなものに対して、どれだけ本気になれるか。人生を賭けられるか。そうした熱い想いはきっと伝わるのだという思いがナギの根底にあって、だからこそ同人誌即売会でナギは奮い立った。
「情熱は伝わる。必死の想いは伝わる…!」
これは、そうであってほしいという願い。
この願いは、きっとまんがに限った話ではありません。ハヤテを賭けたルカとの同人誌対決。そこでナギの情熱が伝わるのか。まんがに対して、そしてハヤテに対しての情熱を込めた同人誌を作り上げるため、ナギは頑張らなくてはならないのです。
勝負の意味
北海道に行ったり京都に行ったりしながら、ようやくナギは同人誌の構想をまとめます。そうして渾身のネームが出来上がり、これでハヤテを自分の実力で取り戻せると思っていた矢先。ナギはルカを後ろからそっと抱くハヤテの姿を目撃します。それはどれほどの衝撃だったのか。
決着はもうついているのかもしれない。
ハヤテの台詞の真意はいずれ明らかになるわけですが、ナギは当然そんなことは知らず。更にハヤテは、ルカのためにしてあげたいことがあるからと執事をお休みしている。ハヤテを賭けた勝負に臨む大切な時期に。そうなれば思考がネガティブスパイラルに陥るのも無理はなく。
「過去でも未来でも、僕が君を守るよ」
そんなかつてのハヤテの言葉が、空虚に通りすぎていく。ハヤテがルカを好きならば、私の頑張りは誰も喜ばない。勝つ見込みも、意味もない。
だからナギはそこで立ち止まり、諦めてしまう。脳裏にちらつくハヤテがルカを抱きしめているシーンを拭い去り、乗り越える強さはナギにはなかった。まだ、この時は。
……ハヤテのナギへの想い、GW編ラストでアテネに語ったようなことというのは、実はナギは知らないんですよね。だからナギはハヤテがいなくなるとどうしようもなく不安になるし、また戻ってくることを信じられない。
ハヤテが執事であるというのはナギのひとつの拠り所で、現状それが二人の関係性だから、ナギはそこにしか頼れない。執事という関係性が揺らぐような事態になるとどうしても「ハヤテが私の側にいるのは(私が好きだからではなく)私の執事だからだし、大切に想ってくれているのも(一人の女としてではなく)主としてなのだ」と思ってしまう。
現時点のナギから見てハヤテは
(1)借金があるから → 執事をやっている
(2)執事をやっているから → 私の側にいる + 他の人と付き合わない
わけで。ナギは不安になったとき、ハヤテとの今の関係性は左辺の前提があるからこそだと思ってしまう。今回の勝負で負けると(1)が成立しなくなり、すると(2)もなくなり、ルカと結婚し去ってしまうと思っている。
これらの問題について、劇場版は(1)を否定する話だったわけですが、(2)は現状では肯定されています。だから今回を乗り越えたとしても、いずれナギは向き合わなければならないのでしょう。ハヤテが誰かを好きになるのなら、その相手は誰なのか。ブリトニーちゃんは、どちらを選ぶのか。
ナギが主人公になる日
マリアさんは言いました。ナギは「これと決めたらアクセル全開、けど途中で大破して全部台無し」を繰り返す子。そしてナギがくじけた時に慰めるのは自分の役割だと。勝負を投げ出すナギを見て、今回もマリアさんはいつものことだと慰めようとします。それを止めたのは千桜でした。
ルカに勝つためのアイデアとして、37巻1話で「主人公補正」の話をしたナギ達。その話を取り上げた上で、千桜は言います。
「主人公っていうのはなぁ、どんな逆境に襲われ、ひざは折れ、拳は砕けようとも――絶対に、あきらめたりはしないんだ!!」
主人公たる条件は、諦めないこと。
京都でナギは言いました。これまで努力して何かを勝ち取る必要がなかった。だからどう頑張っていいのかわからない。
何かを必死で成し遂げるということの難しさに、ナギは初めて向き合っています。思えば同人誌対決が決まってからも、ナギのやる気は長くは続きませんでした。どれだけ追い込まれても、努力の仕方がわからない。
「これは誰かに強制された勝負じゃない!! お前が言い出し、お前がやると決めた勝負だろ!!」
伊勢の神様は、一人では頑張れない時に、それでも頑張るから見守っててください、と祈る神様だといいます。
けれどナギは一人じゃない。支えてくれる人がいる。ナギを奮い立たせ、もし道を踏み外しかけているなら、引き戻してくれる仲間がいる。
「そんなものさえ投げ出す奴に主人公補正なんかあるか!! 勝負目前に疲れたからって簡単にあきらめる奴が…!! 一体、何に…!! なれるっていうんだ!!」
特別な何かになりたいのだと、少女は言った。
三千院家に生まれて今の自分がある。お金には困らず、一流の教育を受けてきたナギは、努力するまでもなく望んだものは手に入った。それがひどく退屈だった。自分にしか成し遂げられないことなど何もなかった。
だからこそ、三千院ナギは。
自分で選び、掴み取った何かになりたかった。
自分の力で人を魅了していた、あのルカのように。
だからナギは自分の力で逆境を乗り越えなければならない。神様のようだと憧れた人すらも越えて、自分の力で「何か」を成し遂げるために。求めているものは、きっとそこにあると思うから。
その日ナギは、マリアさんの予想を越えた。今までマリアさんが見てきた展開の繰り返しから、千桜が引っ張り上げた。この瞬間こそが、同人編におけるナギの「成長」の瞬間だったのでしょう。同時にこの瞬間は、マリアさんの物語の始まりでもあるわけですが、それについてはまた別の機会に。
31巻6話と39巻9話のタイトルはどちらも「特別な何か」。
これがミスによるタイトルかぶりなのか意図的なものなのかは分かりませんが、31巻6話で「普通の人とは違う」という意味での「特別」になりたがっていたナギが、39巻9話で「特別」を自分の力で掴み取ろうとするのは良い流れです。諦めずに戦い抜いたこの瞬間、ナギはようやく「人生の主人公」になれたのでしょう。
千桜が声を張り上げ、ナギがそれに応えて同人誌を完成させるまでのシーンこそ、この同人編のナギパートの真髄。ナギの挫折と、それを乗り越えた成長。かけがえのない仲間を得て、マリアさんの手を離れて歩き出す「自立」の物語。それがナギにとっての同人編だったと言えるでしょう。
BGMは某クラナドなアフターより、「時を刻む唄」だそうですよ。
求めていたもの
そうして出来上がった、自分のすべての力を出し切った同人誌。
「霊魂30days炎」。
アニメ3期でタイトルだけは出ていましたが、ついにそのタイトルが登場です。困難から逃げずにやりきった満足感を携えて、ナギは決戦の舞台、東京ビッグサイトへと赴きます。泣いても笑っても、この勝負が終われば、どちらかがハヤテを失うことになる。
緊張とともに開場する夏コミ。そんなナギの前に表れたのは真泉でした。あの同人誌即売会の舞台で、流行を押さえていないとルカの同人誌を批判した真泉。熱い魂がこもっていれば面白いまんがは描けるのだとナギは反論し、それを証明するために二人の同人誌対決が決まった。このやり取りこそが、ナギが同人の世界に足を踏み入れるきっかけでもありました。結局真泉が新刊を落とし、同人誌対決はお流れになったわけですが……。
そんな真泉はナギの同人誌を読んで、一言。
「相変わらず、下手くそなまんがだ。だがいいまんがだ。面白い」
それは真泉がナギを認めた瞬間。たった200円のコピー本に込めたナギの熱い魂が伝わった。ナギはあの日の自分の言葉を、情熱が伝わるということを自分の手で証明してみせたのです。
あとはもう、夢中だった。ただただ本が売れるのが嬉しかった。
自分のすべての想いを込めた同人誌を手にとって、読んでもらえる嬉しさ。あの日ルカの同人誌を買ってもらったときに感じた喜びの、その何倍もの喜びを噛み締めながら。
ルカが立っていたあのステージとは違うけれど。
今のナギにとってここは、間違いなく輝くステージだった。
すべてが報われる瞬間、いつまでも続け。
ナギはついに、求めていた何かを手に入れたのです。
だから。
訪れた「負け」という現実を、それでも受け入れた。
かけがえのない存在であるハヤテを失うという受け入れがたい事実を、自分のすべてを出し切った全力の勝負の果てに、ナギは受け入れた。
この勝負の結果を、求めていた何かを手に入れたこの輝くステージを、冒涜するわけにはいかなかったから。
「おめでとうルカ。勝ったのはお前だ。」
この台詞を言えることが、ナギの成長の何よりの証明。
かけがえのないことを学ばせてくれたライバルに感謝して。
「ありがとう。ハヤテのこと…よろしくな。」
かけがえのない存在である、ハヤテを託した。
未来への約束
あとはまあエピローグというか。実はルカの本が一冊残っていたのでナギの勝ちとなり、ルカは敗因を言います。
「想いの…差かな? 一冊分だけ、ナギの情熱が私を上回ったってことよ。」
情熱とは、あの日ナギが同人誌即売会で言った言葉。自信をなくしていたルカは、同人誌を褒めてくれたナギのその言葉に救われたのでした。この展開を踏まえて【ナギ編】として締めくくるならば、ナギの「必死の想い」がルカに伝わったということなのでしょう。
ルカは同人活動を休止し、10年間はアイドル活動に専念するといいます。
だから10年後、売れっ子漫画家になって待ってて、と。
ナギはその言葉を聞いて、叫びます。
「待ってなんかやらない!! ここから十年、私は今回のような努力を重ね、足橋先生以上の漫画家になってお前なんか――!!」
「背中も見えないほど…!! 引き離してやる!!」
それはあの日ビッグサイトで「突き放してやる!!」と言ったルカへの意趣返しか。そう言ってナギは、アイドルに専念すると言ったルカを激励します。
その後、MAXコーヒーを飲みながら三人は約束を交わします。このMAXコーヒーは21巻1話で描かれていたもの。ずっと二人を手伝い支えてきた千桜にとっても、一生縁のない話だと思っていた「みんなで何かする」という出来事を体験できた、思い出深い大切なイベントだったと言えるでしょう。
誰にとっても、仲間とともに駆け抜けた、大切な夏。
10年後、ナギとルカが再び全力で勝負し、千桜がそれを手伝う。
未来への大切な約束が、交わされた日でした。
そして最後に。
ルカとのやり取りを終え、落ち込んでいるハヤテの前に表れた息の根コロリちゃん。知らない方は「それが声優!」を読みましょう。
そんなコロリちゃんは、ハヤテにとっておきのプレゼントを渡します。それはクチャッとしたらくがきの描かれた、1枚のサイン色紙。将来一兆部売る伝説の漫画家が、はじめて描いたサイン色紙。
今は何の価値もない落書きであるそれをハヤテに渡し。
いつかそれを必ず輝かせてみせることを、心の中で誓ったナギは。
夢へと向かい、一歩ずつ進んでいく。
あとがき
同人編総括【ナギ編】でした。めっちゃ長い記事になってしまった。
こうして振り返ってみればナギの成長パートとかめっちゃ面白いんですが、そこに辿り着くまでがとにかく長かったなあと。この記事書くのに27巻から振り返ってるんだぜ……。
でも終盤はとても良かったし、ナギの同人への挑戦の締めくくりとして、あのラストは完璧だったと思います。
次は同人誌編総括【ルカ編】ですが、このパターンはうちのブログ的には後編がアップされないフラグ。1月中に書けたら、いいな……。
ハヤテのごとく! 39 キャラ入りスケルトントランプ付き初回限定版 (小学館プラス・アンコミックスシリーズ)
posted with amazlet at 13.12.26
畑 健二郎
小学館 (2013-12-18)
小学館 (2013-12-18)
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