東電値上げに企業反発 生産移管・自家発電で離反も
経常益1.5%押し下げ
東京電力による企業向け料金の引き上げは企業収益に重くのしかかる。デフレが続くなか、企業はコストの増加分を消費者に転嫁しにくい。SMBC日興証券の試算によると、今回の東電の値上げは、全上場企業の経常利益を1.5%押し下げる要因になる。産業界の反発は強く、一部の企業は自家発電の増設や独立系電力事業者への乗り換えで「東電離れ」を検討し始めた。
自動車業界では乗用車の平均的な工場では年間10億円前後の電気料金がかかるとされ、東電管内では1工場あたり年間1億~2億円のコスト増になる。東電管内には日産自動車や富士重工業、ホンダなどが工場を持つ。
群馬県などに工場を持つ富士重は年間の電力コストが工場や事務所を含めた会社全体で数億円増えるという。同社は群馬の2工場で自家発電設備を導入し、使用電力の半分を賄っている。今夏には本工場(太田市)にも導入する。
ホンダも埼玉県に建設中の新工場に大規模な太陽光発電設備を設置する。自家発電は東電からの買電に比べ割高だが、節電努力との組み合わせでコスト増を抑制する。
東電よりも割安
化粧品のコーセーは主力の群馬工場(群馬県伊勢崎市)に、7月をメドに数億円を投じて自家発電装置を導入。ピークの使用電力の約半分を賄う。今回の値上げで東電からの購入より自家発電の方が割安になるという。
値上げを嫌い、東電管外への生産移管を検討する企業もある。
電炉大手の東京製鉄はH形鋼を生産する宇都宮工場(宇都宮市)で、夜間の電気料金が2011年12月時点と比べ約4割上昇する見通し。東鉄は「夜間電力の使用などで協力してきたにもかかわらず、一律の大幅な値上げは非常に遺憾」とし、仮にこの幅の値上げが実行されれば、生産の一部を西日本に移管することも検討する。
経営体力の弱い中小企業は値上げの影響を大きく受ける。製造工程に電炉を使う鋳物の事業者はコストに占める電力の割合が5%前後と高い。埼玉県川口市などの鋳物事業者137社で組織する川口鋳物工業協同組合では「電気代が上昇すれば、廃業を迫られるケースも出てくるかもしれない」(岡田光雄事務局長)と懸念している。
「これだけ値上げするのなら、独立系事業会社からの購買拡大に向けて交渉のピッチを上げる」(大手百貨店)と「東電離れ」を宣言する企業もある。
今回の値上げで電力小売りの新規参入組の特定規模電気事業者(PPS)との取引を増やす企業が増えるとみられる。東電は00年以降の電力自由化で、管内の約410万キロワット(1万5千件)をPPSに奪われた。今後、PPSへの移行が加速する可能性がある。
他電力と契約も
関西電力など他電力会社の参入事例は東電管内ではまだ起きていないが、価格差が固定化すれば「東電以外と契約する企業が出てくるだろう」(電力大手)という見方もある。
収益の圧迫は設備投資の抑制につながる。東日本旅客鉄道(JR東日本)は使用電力の約4割を東電などから購入しているもよう。同社の動力費は12年3月期見込みで610億円。電力値上げはコスト増に直結する。非鉄では三菱マテリアルが埼玉県内などに拠点を持つセメント事業で影響が出そうだ。
原子力発電所の停止で燃料費が上昇している関電や東北電力は今のところ値上げを検討していない。すべての原発が停止している東北電は「復興にマイナスの影響を与えるため可能な限り値上げを回避したい」としている。しかし原発停止が長引けば状況が変わる可能性はある。
「他電力も追随値上げするとの連想が働けば企業の海外移転が進む」(みずほ総合研究所の山本康雄シニアエコノミスト)との指摘もある。