法則の抽出
【はじめに】
『コーヒー抽出の法則』(田口護・山田康一:著/NHK出版:刊)というコーヒー本が出た(2019年2月20日発行)。《この本で伝えることは、すべての抽出のベースとなる技術と、味をコントロールするための法則の基本である》(p.4)という…それでは、『コーヒー抽出の法則』を抽出してみよう。
【序章 抽出の前に】
『コーヒー抽出の法則』は、「café Bach」(カフェ・バッハ)とバッハグループを率いる田口護氏がNHK出版を版元とした2冊目の共著本である。1冊目は旦部幸博氏とタッグを組んだ『コーヒー おいしさの方程式』(2014)であり、取材と文は嶋中労氏が担当した。今般の2冊目の共著者はカフェ・バッハ内の山田康一氏であり、取材と文は太田美由紀氏が担当した。この『コーヒー抽出の法則』にも旦部幸博氏が‘科学監修’として参じてはいるが、実践の技術者と理論の科学者が‘嶋中節(ぶし)’に乗って火花を散らした『コーヒー おいしさの方程式』とは語調も文体も全く異なる。『コーヒー抽出の法則』は、取り上げる分野を主に抽出と限っただけではなく、‘読み物’として静穏かつ詰屈なものになっている。
【第1章 抽出の仕組み】
『コーヒー抽出の法則』は、《この一冊を何度も読み返し、理解を深め、自分のものにすることができれば、コーヒーの味を極めることもそう遠い話ではない。それは、あなたがコーヒーの抽出の経験がなく、一からはじめるとしても、である》(p.108)と謳う。だが、田口護氏による版元違いの旧著『カフェ・バッハ ペーパードリップの抽出技術』(田口護:著/旭屋出版:刊 2015)のカバーには《コーヒーの抽出を、これから始める人のために》と記されていた。では、コーヒーの抽出を学ぶ者はどちらから読めば好いのか? 総じて言えば、どちらでも好い。2冊の本は、判型も価格も、そして「カフェ・バッハ流の抽出技術を概括する教本」としての精度にも、大きな差がないからである。
【第2章 味を決める法則】
私は、旦部幸博氏が著した『コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか』(講談社:刊 2016)を楽しめる向きにはNHK出版の『コーヒー抽出の法則』を推し、科学による解き明かしを嫌って文章より写真を見て楽しむ向きには旭屋出版の『カフェ・バッハ ペーパードリップの抽出技術』を薦めておこう。但し、『コーヒー抽出の法則』と『カフェ・バッハ ペーパードリップの抽出技術』とでは、三洋産業のスリーフォーというペーパードリッパーで淹れる「カフェ・バッハ流の抽出技術を概括する教本」として大差ないのであって、カフェ・バッハとは違う器具や異なる技術を用いる場合には留意しておくべき点がある。
【第3章 様々な器具での抽出】
例えば、コーノ(珈琲サイフオン)の名門やハリオ(HARIO)のV60などの一つ穴円錐型ドリッパーでコーヒーを淹れたい者は、「抽出器具と味の関係」の適性を説く図が2冊の本で全く異なって示されていることを承知されたい。どちらが正しいのか? それが問題なのではない。《すべての抽出のベースとなる技術と、味をコントロールするための法則の基本》が三洋産業のスリーフォードリッパーで淹れることを基準にしている限り、違う器具や異なる技術を用いる場合の言及で確度や精度が鈍ることは当然である。つまり、『コーヒー抽出の法則』に示された「味を決める法則」はカフェ・バッハ流の抽出技術に拠ったものであり、その信奉と選択の是非は読み手に委ねられているのである。
【おわりに】
『コーヒー抽出の法則』は、《私が目指すのは、半生をかけて私が手にした技術や法則をもってあの世に行くことではない》(p.5)という田口護氏が、《あの世に行く》前に山田康一氏を共著者として「カフェ・バッハ」の承継を掲げたコーヒー本である。《私が目指した当初の目的は達成されただろうか》(p.109)、今はまだ判らない。なぜならば、『コーヒー抽出の法則』では山田康一氏の声がまだ聴こえてこないからである。今の私が解せるところは、《この本で伝えることは、すべての抽出のベースとなる技術と、味をコントロールするための法則の基本である》(p.4)という表現を、「この本が伝えることは、蓋然性の高い抽出のベースとなる‘法則’と、味をコントロールするための‘技術’の基本である」と正すことにある。そのように『コーヒー抽出の法則』を抽出してみた。
『コーヒー抽出の法則』(田口護・山田康一:著/NHK出版:刊)というコーヒー本が出た(2019年2月20日発行)。《この本で伝えることは、すべての抽出のベースとなる技術と、味をコントロールするための法則の基本である》(p.4)という…それでは、『コーヒー抽出の法則』を抽出してみよう。
【序章 抽出の前に】
『コーヒー抽出の法則』は、「café Bach」(カフェ・バッハ)とバッハグループを率いる田口護氏がNHK出版を版元とした2冊目の共著本である。1冊目は旦部幸博氏とタッグを組んだ『コーヒー おいしさの方程式』(2014)であり、取材と文は嶋中労氏が担当した。今般の2冊目の共著者はカフェ・バッハ内の山田康一氏であり、取材と文は太田美由紀氏が担当した。この『コーヒー抽出の法則』にも旦部幸博氏が‘科学監修’として参じてはいるが、実践の技術者と理論の科学者が‘嶋中節(ぶし)’に乗って火花を散らした『コーヒー おいしさの方程式』とは語調も文体も全く異なる。『コーヒー抽出の法則』は、取り上げる分野を主に抽出と限っただけではなく、‘読み物’として静穏かつ詰屈なものになっている。
【第1章 抽出の仕組み】
『コーヒー抽出の法則』は、《この一冊を何度も読み返し、理解を深め、自分のものにすることができれば、コーヒーの味を極めることもそう遠い話ではない。それは、あなたがコーヒーの抽出の経験がなく、一からはじめるとしても、である》(p.108)と謳う。だが、田口護氏による版元違いの旧著『カフェ・バッハ ペーパードリップの抽出技術』(田口護:著/旭屋出版:刊 2015)のカバーには《コーヒーの抽出を、これから始める人のために》と記されていた。では、コーヒーの抽出を学ぶ者はどちらから読めば好いのか? 総じて言えば、どちらでも好い。2冊の本は、判型も価格も、そして「カフェ・バッハ流の抽出技術を概括する教本」としての精度にも、大きな差がないからである。
【第2章 味を決める法則】
私は、旦部幸博氏が著した『コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか』(講談社:刊 2016)を楽しめる向きにはNHK出版の『コーヒー抽出の法則』を推し、科学による解き明かしを嫌って文章より写真を見て楽しむ向きには旭屋出版の『カフェ・バッハ ペーパードリップの抽出技術』を薦めておこう。但し、『コーヒー抽出の法則』と『カフェ・バッハ ペーパードリップの抽出技術』とでは、三洋産業のスリーフォーというペーパードリッパーで淹れる「カフェ・バッハ流の抽出技術を概括する教本」として大差ないのであって、カフェ・バッハとは違う器具や異なる技術を用いる場合には留意しておくべき点がある。
【第3章 様々な器具での抽出】
例えば、コーノ(珈琲サイフオン)の名門やハリオ(HARIO)のV60などの一つ穴円錐型ドリッパーでコーヒーを淹れたい者は、「抽出器具と味の関係」の適性を説く図が2冊の本で全く異なって示されていることを承知されたい。どちらが正しいのか? それが問題なのではない。《すべての抽出のベースとなる技術と、味をコントロールするための法則の基本》が三洋産業のスリーフォードリッパーで淹れることを基準にしている限り、違う器具や異なる技術を用いる場合の言及で確度や精度が鈍ることは当然である。つまり、『コーヒー抽出の法則』に示された「味を決める法則」はカフェ・バッハ流の抽出技術に拠ったものであり、その信奉と選択の是非は読み手に委ねられているのである。
【おわりに】
『コーヒー抽出の法則』は、《私が目指すのは、半生をかけて私が手にした技術や法則をもってあの世に行くことではない》(p.5)という田口護氏が、《あの世に行く》前に山田康一氏を共著者として「カフェ・バッハ」の承継を掲げたコーヒー本である。《私が目指した当初の目的は達成されただろうか》(p.109)、今はまだ判らない。なぜならば、『コーヒー抽出の法則』では山田康一氏の声がまだ聴こえてこないからである。今の私が解せるところは、《この本で伝えることは、すべての抽出のベースとなる技術と、味をコントロールするための法則の基本である》(p.4)という表現を、「この本が伝えることは、蓋然性の高い抽出のベースとなる‘法則’と、味をコントロールするための‘技術’の基本である」と正すことにある。そのように『コーヒー抽出の法則』を抽出してみた。
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