帰山人の珈琲漫考

熱い方程式を解く2

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2014 [2014年03月01日 01時00分]
『コーヒー おいしさの方程式』(田口護・旦部幸博:著/NHK出版:刊)は2014年1月16日に発売され、通販WebサイトAmazonの「飲み物」部門ベストセラー上位を獲り続けている(2014年3月1日現在)。このコーヒー本の‘おいしさ’はどこにあるのか? 再び解いてみる。
 熱い方程式を解く2
 
 
【一知半解】
 
《今のままでいったら、自家焙煎も「コーヒー専門店」と同じになってしまうんですよ。ちょうどコーヒー専門店が、インテリアや、サイフォンという抽出法で売ったように、自家焙煎も内容を伴わない形だけのものに変質する危険性を持っているんです。しかし、私が強調したいのは、コーヒー専門店の時は、抽出だったんです。だからまだやり直しがきいた。つまり、その後の「自家焙煎」という形で。しかし、今度ブームとして終ってしまえば、やり直すことはできないんです。国内でやれることは焙煎までですから、それが失われてしまえば、後は産地での農園管理ぐらいのものです。だからこそ、いま自家焙煎を担っている私達の使命は大きいと思います。》 (田口護:談/「田口護の全国自家焙煎行脚」 最終回 カフェ・ド・ランブル/『月刊 喫茶店経営』1987年8月号/柴田書店 )
 
《以上、いろいろと述べてまいりましたが、コーヒーに含まれているのはクロロゲン酸類であり、これらをタンニンと呼ぶのは適当でないということを伝えるために文章の大半を割いたようです。もっとも肝心のクロロゲン酸類の性質について(私の勉強不足のせいも大きいのですが)、ブラックボックスが多いのも確かです。ですが、ほんの少し考えてみただけでも、クロロゲン酸類はコーヒーの味や濁りなどにそれ自身で大きく影響する他、焙煎による化学変化を介し、非常に複雑かつ重要な影響を与える化合物だということも、また確かです。(略) 非常に面白い化合物だけに、これからもいろいろ調べていきたいと思っています。》 (旦部幸博:談/「タンニンとクロロゲン酸類」/『コーヒー文化研究』第6号/日本コーヒー文化学会/1999年12月)
 
《その最低限の共通項だけど、とにかく商品、この場合はコーヒーだと断言してもいいと思うけれど、それの練りこみが絶対に必要なんだということを、くどいくらいに言っておきたい。(略) 頑張っている店は、本当に頑張っているわけですよ。グリーンをハンドピックし、自家焙煎し、そのあとでまたハンドピックするとかね。(略) つまり、それを怠ると、店の状況が悪くなったときに、検証することができないわけです。どこが果して悪いのか、その病根が見つからない。(略) やっぱり、人間としての生きざまというのかな、そういう部分で、俺はこうだ、俺の店はこうなんだ、俺のコーヒーはこういうものなんだ、というものを持っていないと辛いですよ。》 (小林充:談/座談会「思い出に残る老舗繁盛店」/『月刊 喫茶店経営』1985年9月号/柴田書店)
 
 
【曲解】
 
田口 護(たぐち・まもる) Bタイプ
1938年 札幌市生まれ。國學院大学(日本史学)卒。山谷でカフェを営むオヤジ。日本コーヒー文化学会を見切り、日本スペシャルティコーヒー協会の会長を獲った。理性派の左翼。
 
旦部 幸博(たんべ・ゆきひろ) Cタイプ
1969年 長崎県生まれ。京都大学大学院(薬学)修了。滋賀医科大学で学究するオヤジ。日本コーヒー文化学会を堪忍(タンニン)できず見限り、田口護に与した。知性派の中道。
 
嶋中 労(しまなか・ろう) Dタイプ
1952年 川越市生まれ。慶應義塾大学(独文学)卒。本名 小林充。『喫茶店経営』第4代編集長、ジューサーで『居酒屋』に移され、辞めてライターになったオヤジ。野性派の右翼。
 
《外国から見るとわれわれは、「コーヒーおたく」「コーヒーフェチ」という名にふさわしい物狂いなのかもしれない。しかしこうした酔狂な人間がいるからこそ文化に幅と奥行きが生まれてくるのもまた事実で、私たちは“酔狂人”であることに大いなる誇りをもったほうがいい。》 (『コーヒー おいしさの方程式』p.153)
 
 
【俗解】
 
《ましてや品種がどうしたテロワールがこうした、スペシャルティコーヒーが滑った転んだなどという話は、千に一人も知りはしない。また関心もない。未開拓な市場を前に業界人だけが妙に色めきたっているだけだ。》 (『コーヒー おいしさの方程式』p.18)
《背景には´60年代から続く国際コーヒー協定による輸出割当の問題や、米ソ冷戦下における“ツーリストコーヒー”の問題、加えてアメリカ国内におけるコーヒー消費の急激な落ち込みといった問題がある。》 (『コーヒー おいしさの方程式』p.26)
《最近、日本でもフィリピン産やマレーシア産のリベリカ種が少量ながら出回るようになってきている。味覚評価には賛否両論あるが、個性派のコーヒーであることはたしかだろう。》 (『コーヒー おいしさの方程式』p.32)
《「テロワール」とか「ミクロクリマ」といったもっともらしい用語を当てはめてみたら、何やら仕立て下ろしの背広のように見えたので、新しがり屋が好んで吹聴して回っただけの話かもしれないのだ。》 (『コーヒー おいしさの方程式』p.38)
《コロンビアでも同じで、大粒のスプレモだけだと量が足りないからエキセルソも2割方いっしょに混ぜ、「なんとか農協産」のQグレード・スペシャルなどといった名目で売ってしまう。》 (『コーヒー おいしさの方程式』p.42)
《背景にあるのは、「何をどうしたら高く売れるコーヒーになるか」という設問を常に生産者が念頭においている、というプラグマティックな現実だ。》 (『コーヒー おいしさの方程式』p.58)
《アメリカ人はとかく酸味や香りを重視して、苦味をなおざりにする風がある。私などは良質な苦味こそコーヒーの最大の魅力だと思っているのだが、いかがなものだろう。》 (『コーヒー おいしさの方程式』p.68)
《生豆をエイジングし枯れ豆の味を賞翫するという一派が、細々とではあるがこの日本に棲息しているだけでも、そのことを私は多としたい。》 (『コーヒー おいしさの方程式』p.89)
《日本独自の進化を「ガラパゴス化」と揶揄するムキがないではないが、それがかえって外国人の目には“クール”と映ったりする。ガラパゴス化もどうして捨てたものではないのである。》 (『コーヒー おいしさの方程式』pp.139-140)
 
 
【不可解】
 
バッハコーヒー・田口護と科学者で人気ブログ「百珈苑」を主宰する旦部幸博がタッグを組み、「おいしいコーヒーとは何か」を解き明かす渾身のコーヒー論》(『コーヒー おいしさの方程式』腰巻)は、《コーヒーの香味を自由自在にコントロールする》ことを実際に可能にするのであろうか? 『コーヒー おいしさの方程式』には、「はじめに」はあるが「おわりに」がない。つまり、本書自体が、《非常に面白い化合物だけに、これからもいろいろ調べて》いくべき途上にあることを示して、さらに「熱い方程式」の出題を匂わせる。その香味、実に‘おいしい’。
 
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コメント

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シマナカロウ URL [2014年03月01日 12時50分]

帰山人様
懐かしい記事を読ませてもらいました。へーえ、こんなこと言ってたんだ。けっこうまともなこと言ってるジャン、なんて思ったりして(笑)。

それにしてもタグタンが理性派と知性派で、ボクが野性派とはどういうことよ。せめて「理知派の右翼」と呼んでくださいな。もっとも左側から見たら中道でも何でも、みんな右側に見えるけどね。

to:シマナカロウさん
帰山人 URL [2014年03月01日 20時15分]

歴代編集長5人による座談会記事は、懐かしいのと同時に、ロウ師だけが‘ジャーナリスト’である天稟を示しています。他の誰よりも一番威張って偉そうなこと言っていましたね…
‘野性派’発言については、ご自分で「脳味噌まで筋肉になってしまっている」と仰せになっているワケで、あまりカッカカッカする必要は無いと思うし…

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鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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