帰山人の珈琲漫考

暗褐色の小噺 2

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2022 [2022年12月23日 01時00分]
人生で大切なことはコーヒーと無関係である。だから、暗褐色の小噺
 暗褐色の小噺2-1
 
【暗褐色の小噺】
「こちらのお店は自家焙煎ですか?」
「はい、そうですよ」
「焙煎機が見えませんね」
「この店にはありません」
「え?」
「焙煎しているのは地球の裏側にある私の自宅ですよ。だって自家焙煎だもの」
〔Twitter 2022.12.17〕
 
【暗褐色の小噺】
「こちらのお店は自家焙煎ですか?」
「はい、そうですよ」
「マスターが焙煎しているのですか?」
「いいえ、違います」
「え?」
「私が焙煎したコーヒーではあなたにとって他家焙煎でしょ? お客であるあなたが焙煎するんですよ」
〔Twitter 2022.12.17〕
 
【暗褐色の小噺】
「ダイレクトトレードのコーヒーありますか?」
「はい、扱ってますよ」
「そのコーヒーをください」
「では、こちらが航空券その他一式になります」
「え?」
「直接取引ですから買い付けはお客様自身でお願いします」
〔Twitter 2022.12.17〕
 
【暗褐色の小噺】
「コーヒーのトレーサビリティを掲げていますね」
「はい、お客さまにもご理解いただいています」
「持ち帰りでコーヒーください」
「では、スマホの位置情報を共有願います」
「え?」
「コーヒー流通の追跡可能性を徹底するためです」
〔Twitter 2022.12.17〕
 
 暗褐色の小噺2
それがどうした? 暗褐色の小噺。
 
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暗褐色の小噺

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2022 [2022年12月13日 01時00分]
【帰山人のコーヒーQ&A】
コーヒーのコクって何ですか?
マイルドじゃない感じをコクと呼びます。そうネスレ日本が位置付けているのですから異論は認めません。
〔Twitter 2022.11.07〕
 暗褐色の小噺 (1)
 
【暗褐色の小噺】
「オススメは?」
「紅茶だね。ウチは珈琲屋だけど紅茶もこだわって、リーフでしか淹れないしリーフでしか売らない」
「ティーバッグは?」
「ダメ。味がどうこうより手間を惜しんじゃダメだよ」
「コレは何ですか?」
「あぁ、新発売のドリップバッグだよ、この珈琲はウマイよぉ」
〔Twitter 2022.12.02〕
 
【暗褐色の小噺】
「コーヒーのカッピングのコツを教えてください」
「口を酸(す)っぱくして言うが、苦杯を嘗(な)めても、酸(す)いも甘いも噛(か)み分けて、塩(しょ)っぱい顔をするな。口がうまけりゃ、甘い汁を吸えるから」
「ハイ。では、お願いします」
「は? もう、全部教えたよ」
〔Twitter 2022.12.02〕
 
【暗褐色の小噺】
「このコーヒーお代はけっこう、快気祝いだ」
「そんな、水臭い…」
「いや、浄水器通しているよ」
「とにかく、病み上がりは気を抜かないで…」
「おいっ! 充分蒸らしてガス抜いてるぞ」
「そんなに熱くならなくても…」
「当然だ。最も味がなじむ温度、って書いてあるだろ!」
〔Twitter 2022.12.02〕
 
 暗褐色の小噺 (2)
 
【暗褐色の小噺】
「このナチュラルってのが一番フツー?」
「いえ、かなり不自然な風味です」
「じゃ、気取ってないのは?」
「ウォッシュトですね。ウォッシュト・アップ、つまり廃れて人気(にんき)がないものです」
「何か変ね」
「当店はビタースマイル0(ゼロ)円を掲げています」(苦笑)
〔本稿 新作〕
 
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珈琲呟語 5

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2022 [2022年12月10日 23時00分]
珈琲呟語(こーひーげんご)。TwitterやFacebookでつぶやいたコーヒー関連のもの、ここ約1ヵ月間分から少し拾う。
 
 珈琲呟語5 (1)
コーヒーの熱狂的マニア(髙津晶史氏)の部分を観た。 「なるほどなぁ、出る方も撮る方も、こう演(や)るのかぁ」という意味合いで、なかなか学ぶところが多かった。同時に、コーヒーの世界が遥か遠くへ消えていく感じも味わえた。 〔2022.11.04〕
相変わらず手厳しい。オレでもここまで言えない(笑)
番組は作られる|まめ蔵 店主のブログ 〔2022.11.07〕
 
 珈琲呟語5 (2)
コクウ珈琲の季節のコーヒーがクリスマスブレンドになっていた。このエチオピアベースのブレンドの芳香で季節の移ろいを感じるのです。 〔2022.11.06〕
 
見どころ 1 香味をとる探知モードから破顔する幸福モードへと変わる旦部幸博の表情(1時間22分過ぎから)
見どころ 2 コーヒー飲用の国内地域性を述べるに家計統計を正しく解く君島佐和子の誠実(1時間56分過ぎから)
なお限定公開。 〔2022.11.07/立命館ポンテ・ガストロノミコ YouTube
 
《世間ではコーヒー焙煎は10年間修行しなければならないと言われている》…初耳。根拠があるとも思えない。 〔2022.11.10/『琉球新報 DIGITAL』2022.11.09報 永田英之の言について〕
 
え? 「ブラックなコーヒー屋」って「ミルク入れや砂糖入れやアレンジものを容認や支持するふりをして、その実は何も足さないコーヒーを強要する商売」のことじゃないの? などと想って過ごすブラックフライデー 〔2022.11.18〕
 
コーヒーの生豆取引、相場下落に加えて在庫増加に転じたようだが、古い豆の再認証モノやデフォルト切れ放出のクズモノが出回ることを考えると、コロナ禍以前と同品質の現物がそうそう安く入手できるとは思えない。高価で低品質も困るが、低品質のまま安価でも困るのよ。 〔2022.11.22〕
 
 珈琲呟語5 (3)
…てなホンジュラスコーヒーのブログ記事を書いたら、その引用でも登場したCONACAFE・IHCAFEによるジェンダーポリシー提唱の話題が流れてきた。タイムリーだなw 〔2022.11.25〕
 
TV番組制作会社から問合せメールがあったので、何かと思ったら《巨大迷路に関して》だった。メディアから私への問い合わせは、珈琲関連よりも巨大迷路関連の方が多い。迷い多き人生なので、それで好い(笑) 〔2022.11.25〕
 
 珈琲呟語5 (4)
あっ! 家飲みのコーヒーが足りない!…と夜中にテキトーな豆をテキトーな量と火力で焙煎したときに限ってウマソーに仕上がる件(ホーム・コーヒー・ロースティングあるある)
※画像は焙煎直後のマンピー(マンデリン・ピーベリー100%) 〔2022.11.27〕
 
【本日限定の小ネタ サッカーとコーヒー】
タリーズが昨年末に発売した「コスタリカ マイクロロット」タラス地区ドータ農協の販売地域限定(中部)Lot.31の生産者は、アレックス・マドリガル Alexander Mauricio Madrigal Ureña。そう、サッカーの元コスタリカ代表(DF)だ。
まぁ、アレックス・マドリガルは2002日韓W杯では最終の代表選考で落ちてしまったのだが、同年キリンチャレンジカップでは横浜で日本代表と戦ってDF松田直樹とユニフォーム交換した来日経験がある。(コーヒー好きならばこれくらいは知っておいて欲しい?) 〔2022.11.27〕
 
 珈琲呟語5 (5)
信仰なきアドベントの始まり シュトレン(カフェ・バッハ製) 珈琲(自家焙煎のマンピー) 〔2022.11.27〕
 
崔洋一(1949-2022)が推したコーヒー
http://100coffee100.sakura.ne.jp/yuusuryi/wen_chun.html 〔2022.11.28/崔洋一 2022.11.27歿〕
 
アサヒの「モンスターコーヒー」の時もだが、エナジードリンク化コーヒーが出ると、カフェイン否定の健康バカの眠気を殺してしまい、コーヒー業界全体は迷惑する、そこがスッキリしない。
“眠気を殺す”缶コーヒー「KILLER COFFEE(キラーコーヒー)」新発売! 〔2022.11.28〕
 
私はコーヒーベルトを回帰線(23度26分)間と捉えているので、沖縄界隈のコーヒー栽培はベルト外とする。尚、国内栽培の最北でもない。カリフォルニア州ベンチュラのコーヒー栽培地は北緯34度超(ざっと山口市や和歌山市くらい)にある。 〔2022.11.28〕
そもそもコーヒーベルトは主要な産業栽培地が分布する範囲を示したものであって、ベルトが示す緯度内を(あたかも全てで)栽培適地とするかのような物言いは笑止千万。商魂の煽動に惑わされてはならない。 〔2022.11.29〕
 
28日朝のNHKおはよう日本を見逃し配信で観ていたら、ハニー精製のコーヒーを《コスタリカで主流となっている製法でつくられていて》と言い切っていたが大丈夫か? 主流といえるのか? 今、コスタリカのコーヒー総生産量に占めるハニー精製の割合はどれくらいなのだろう? わかる方、教えてください。 〔2022.11.29〕
 
某コーヒー陣営が「珈琲が飲めない方の実に99.9%近くが自陣の珈琲を美味しいと飲む」旨を述べている。珈琲飲めない人1000人のうちココだけは999人近くが飲める珈琲を供しているコトになる。にわかには信じ難い。(まぁ私は洗わずに焙煎した珈琲でも飲めるので、どうでもイイんだけれども…) 〔2022.11.30〕
 
 珈琲呟語5 (6)
今焼いた連続2釜 〔2022.12.06〕
 
 珈琲呟語5 (7)
好きではないが先端を行くため…この正直さが大事。 〔2022.12.07〕
 
《生理学的には、根をつめて思考をつづけると頭脳は約五分間で弛緩する、つまり小休止してしまうというが、喜重さんを眺めていると、八、九時間は平気にみえる。わたしは二時間くらい経つと苛々してくる。コーヒーを飲みに行きましょうよ、といおうとする。それより一瞬早いタイミングで「コーヒーを喫みに行きたいんでしょう」と彼は立ちあがる。吉田喜重とは、そういう人だ。》(山田正弘 「吉田喜重に関する断章」 より/『世界の映画作家 10』 1971) 〔2022.12.09/吉田喜重 2022.12.08歿〕
 
 珈琲呟語5 (8)
♪ うさぎ追いし名古屋だ ♪ 白川公園(ブロンズアート)~若宮八幡宮(チェンソーアート)~三輪神社(石像ほか多数) そして大須の三輪神社の南250mにある松屋コーヒー本店では歳末特売中! ※この全てが1km範囲にあります。卯年の初詣にもどうぞ。 〔2022.12.09〕
 
 珈琲呟語5 (9)
原料生豆がピーベリー(丸豆)のロットでもフラットビーン(平豆)が混じっています。この丸豆ロットは欠点豆除外後の量で約2%が平豆でした。で、この後どうするのかといえば、戻して一緒に焙煎するんだけどねw 〔2022.12.10〕
 
TwitterやFacebookでつぶやいたコーヒー関連のもの、読み返すと粗雑なかたりもあるが、ここ約1ヵ月間分から少し拾った。珈琲呟語(こーひーげんご)。
 
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集う楽しさ

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2022 [2022年12月05日 01時00分]
2022年12月4日、日本コーヒー文化学会(JCS)による催事をオンライン(YouTube)で視聴した。この第29回年次集会の開会の辞で、井谷善惠(第4代会長)はこう言った。
 
《…日本コーヒー文化学会は創立30周年を迎えようしております。(略) 次に繋げるために皆(みんな)で何か明るく楽しいことを考えていきたいと思っております。中には「こんなこと言ってもなんか夢物語で終わるんじゃないか」とか「不可能じゃないか」とか考えられる方もあるかもしれませんけれども、やっぱり私たちこのコロナというものを体験してつくづく思ったことは、‘集(つど)う楽しさ’であったと思います。そういうためにもですね、皆さまのお力を借りて、創立30周年という吉所(きっしょ)の年にですね、明るく楽しいことを考えていきたいと思っております…》 (井谷善惠 開会挨拶)
 
辞を聴いて、暗く憂うことから目を逸らすかのように《明るく楽しいことを考えていきたい》とばかり唱えるような会からは退会して好かった、とつくづく思った。私がコロナ禍というものを体験して感じたことは、‘集(つど)わない楽しさ’である。
催事の講演2題と座談会は、昨年8月に歿した小林章夫第2代会長/1949-2021)を偲んでの内容だった。講演「ロンドン コーヒー A to Z」(井谷善惠)、講演「近代市民社会を築いた社会装置 小林章夫先生の描くコーヒーハウス、クラブ、パブ」(山内秀文)、座談会「イギリスのコーヒー文化と社会 小林先生を偲んで」(井谷善惠・山内秀文・飯田敏博・小山伸二)である。
 集う楽しさ
 
視聴を通じて新たな知見を得たところはほとんどないが、山内秀文による講演で私が興味を惹かれたところを以下に記す。
 
《…こんなところでこんなこと言うのはアレかもしれないですけれども、実はですね、コーヒーっていうのは家(うち)で飲んでもいいんですけれども、コーヒーっていうもの、それからアルコール飲料もそうなんですけれども、嗜好飲料のことをずっと授業で考えてまして、「本来1人で飲むものではない」っていうことです。たぶん、アルコール飲料を見つけてあるいはコーヒーみたいな覚醒飲料を見つけた途端に、「1人で飲むんじゃなくっていろんな人と一緒に飲む」。なんとなくそれの方がイメージが湧くと思います。1人で楽しむものでは本来ないです。ですから、例えばアルコール飲料にしても発見されてすぐに宴会みたいなものに使われる。あるいは、その地域の人たちあるいは共同体の人たちの中でそれを飲み回す。煙草もそうですよね、本当はね。インディオの中で回し吸いをしていた。だから、コーヒーっていうのは本来的に言えば 絶対〔1人で〕飲むな、そんなことは間違いだとは言いませんけれども、本来的にいえば皆(みんな)で飲む。だから、必ずカフェみたいなあるいはコーヒーハウスみたいなものがまとわりついてくる。居酒屋もそうです。宴会もそうです。というような感じで、嗜好飲料というものの本来的な意味合いというのは、「皆で楽しむ、そういった場にあるべきものだ」というふう私は思う。っていうか、研究すると僕はそうなると思います。まあちょっと変なことを言っちゃいましたけれども…》 (山内秀文 前掲講演)
 
山内秀文曰く、コーヒーは「本来1人で飲むものではない」し、「皆で楽しむ、そういった場にあるべきものだ」と。そうだろうか? 私は、半分納得で半分不服である。コーヒーの歴史を《研究すると》、つまり「コーヒー飲用の過去はどのようであったのか?」と考えるならば、なるほど「1人で飲むんじゃなくっていろんな人と一緒に飲む」ものだった。そう捉えることを了承する。だが、「コーヒー飲用の実相はどのようであるべきか?」と考えるとき、「本来1人で飲むものではない」などと私は思わない。これはコーヒーに限らない。《嗜好飲料というものの本来的な意味合いというのは、「皆で楽しむ、そういった場にあるべきものだ」》という山内さんの想念は、カフェや居酒屋といった場の機能論の内へと嗜好飲料の存在意義を押し込めている。しかし、想念には想念で返すならば、《嗜好飲料というものの本来的な意味合いというのは》、‘本来’的にこうある‘べき’などと押し込めない融通無碍、その信もなく芯もない相対性にある、そう私は思う。コーヒーは、過去の社会に見出されて取り入れられてきたものである。また、今後の社会のあり方をコーヒーに見出すことは絶対に間違いだ、とまでは言わない。それでも、もしも山内さんが「コーヒー飲用の実相はどのようであるべきか?」という観想も含めて「本来1人で飲むものではない」と主張するのであれば、私は不承である。コーヒーには、どのように飲まれてきたのかという歴史的事象はあっても、どのように飲まれるべきかという社会的教旨は要らない。
 
集ってコーヒーを飲んで、集ってコーヒーを語る。それが愉悦となることは否定しない。その愉悦を何度となく私も感じている。しかし、その‘集う楽しさ’を感ずる以前に、人や社会のあり様として強いるかのように無思慮あるいは野放図に‘集う楽しさ’が唱えられるのであれば、私はそれを是認しない。石を投げて、背を向けよう。1人でコーヒーを飲んで、1人で楽しもう。その時、‘集う楽しさ’と‘集わない楽しさ’についても、コーヒーを絡めて考えて楽しもう。今般の催事を視聴して、そう想った。
 
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おいしいコーヒーが飲めますように

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2022 [2022年12月02日 01時00分]
『おいしいごはんが食べられますように』(高瀬準子:著 講談社:刊 2022/『群像』2022年1月号 初出/第167回芥川龍之介賞受賞)を読んだ。この小説には、‘ごはん’だけでなく‘コーヒー’も登場するが、言葉として表れるだけで飲用の場面は描かれない。以下、抄出(頁数字は単行本による)。
 
《定時を過ぎて、一息いれようと給湯室へコーヒーを淹れに行った二谷さんを飲みに誘った。二十時過ぎに二人で上がる。ばらばらに出て店で合流しますかと言うと、二谷さんは「なんで。一緒に行けばいいじゃん」と眉をひそめた。》 (p.43)
《エアコンの効いた部屋から外に出ると、ほんの数分でじんわりと汗をかき始める。太陽はそろそろ沈もうとしているが、真昼の余韻から発せられる熱だけでも十分だった。二谷はコーヒーを買うつもりで行った自販機で、つい炭酸水を買ってしまう。ペットボトルを握り締めた手のひらだけが暑さから逃れられている。》 (p.76)
《ポケットの中でスマホが振動し、取り出して見ると、大学の文学副専攻ゼミのグループラインにメッセージが届いていた。(略) 〈二谷から大学の時にすすめられた本、今更読んだわ〉 テーブルの上にコーヒーと本を並べた写真が添付されている。 〈いや読むのに何年かかってんだよ笑〉 〈でもわかるー。本って読もうと思った数年後に読めるようになったりするよね〉 ぽん、ぽん、とやりとりが続く。》 (p.119-120)
 おいしいコーヒーが飲めますように (1)
  
小説『おいしいごはんが食べられますように』は、‘おいしい’に混迷がある。その混迷は登場人物だけでなく、おそらく著者(高瀬準子)自身も呑み込まれている。《やっぱりみんなで食べるごはんが一番おいしいですよね》(p.7)とか《二谷さんと食べるごはんは、おいしい》(p.141)とかいう言葉は、物的に‘おいしいごはん’を示していない。つまり、「おいしいごはんを食べる」と「ごはんをおいしく食べる」とは似て非なるものだが、その異なる意味合いを混迷させたまま登場人物も著者も‘おいしい’を漠然と語るのである。『おいしいごはんが食べられますように』は、おいしいごはんを食べる(食べたい)/食べない(食べたくない)話なのか、それとも、ごはんをおいしく食べる(食べたい)/食べない(食べたくない)話なのか、最後まで判らない。良し悪しは別としても、この‘おいしい’の混迷が小説の‘不気味’(ぶきみ)を象徴している。
 
ここで、‘ごはん’を‘コーヒー’へと置き換えてみよう。おいしいコーヒーを飲む(飲みたい)/飲まない(飲みたくない)という事象と、コーヒーをおいしく飲む(飲みたい)/飲まない(飲みたくない)という事象。当然に、この2つの事象も似て非なるものである。しかし、小説『おいしいごはんが食べられますように』の場合と同様に、世間で語られるコーヒーの‘おいしい’にもやはり混迷がある。仮に、『おいしいコーヒーが飲めますように』という題名の小説があったとする。読んでみると、「やっぱりみんなで飲むコーヒーが一番おいしいですよね」とか「○○さんと飲むコーヒーは、おいしい」という文言が出てきたとする。さあ、もう‘不気味’である。個個(ここ)の捉える物的な‘おいしい’コーヒーと群群(むらむら)とした皮相の‘おいしい’コーヒーとが混迷したまま物語が進むのである。
 おいしいコーヒーが飲めますように (2) おいしいコーヒーが飲めますように (3)
 
現に『おいしいごはんが食べられますように』を読んでも、そこに登場する飲食物がちっとも美味(おい)しそうではなくむしろ全て不味(まず)そうに私は感じた。仮に『おいしいコーヒーが飲めますように』という小説があったとしても、また同じように感ずるだろう。否、架空の小説ではなくとも、コーヒーにおける‘おいしい’の混迷は世に蔓延しているのである。実に‘不気味’である。
 
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コスタリカの誘惑

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2022 [2022年11月26日 01時00分]
山本奈衣瑠は、ヤマト運輸のテレビCM「いつものカフェ」篇(2020年11月24日公開)では「J-CAFE」(実は café 1886 at Bosch/東京都渋谷区渋谷)でコーヒーを買っていたが、片岡物産のテレビCM「私はモンカフェ。」篇(2022年10月20日公開)では「RIVERSIDE CLUB」(旧:The Workers coffee/bar/東京都目黒区青葉台)でコーヒーを淹れていた。いずれも、トランジットジェネラルオフィスが運営するカフェを映すCMであるが、そんなコトはどうでもイイ。
 コスタリカの誘惑 (1) コスタリカの誘惑 (2)
「あなたはカフェ? 私はモンカフェ」と自問自答(?)する山本奈衣瑠だが、これが大橋巨泉(1934-2016)ならば「れぎゅられの かっぷにどりて ぐらてんし かおりなじわい なんとぺきぱら さすがモンカフェ ぺきぱらだねぇ」と自画自讃(?)するのである。片岡物産のコーヒーブランド「モンカフェ」は、いわゆる‘個包装1杯淹(だ)てドリップコーヒー’として先駆の商品であり、同社が独自に開発して1984年に発売を開始した。但し、当初はいわゆる‘3in1コーヒー’であるスティックタイプのインスタント商品(1978年発売)で先行していた自社ブランド「アストリア」を「モンカフェ」にも冠していたが、そんなコトはどうでもイイ。
 
‘個包装1杯淹てドリップコーヒー’の類として最近では‘ドリップバッグコーヒー’があまた濫作されているが、その昔、大橋巨泉がテレビCMで「ぺきぱらだねぇ」と言っていた1980年代半ば頃の「モンカフェ」に競合相手はいなかった。…ハズが、仮想の世界ではそうはいかない。1985年に別の‘個包装1杯淹てドリップコーヒー’のテレビCMがあったのである。
 コスタリカの誘惑 (3) コスタリカの誘惑 (4)
その激烈なるコーヒー商品「GLORIA SPIRITUAL BREND」(グロリア スピリチュアルブレンド)のテレビCMは、ユーミソが作詞・作曲して自身で歌う〈コスタリカの誘惑〉が流れて、ユーミソが出演して「もうインスタントはいらない」と言い放つ。このテレビCMは、「ビンテージCM集(架空)」(清水ミチコ:演 藤井隆:プロデュース)の一部として、2020年5月25日にYouTube「清水ミチコのシミチコチャンネル」で公開された。何せ、スピリチュアルな上に‘Blend’ではなくて‘Brend’なのであるが、そんなコトはどうでもイイ。
 
‘ぺきぱら’だったハズの「モンカフェ」の牙城に迫る競合ブランド「グロリア」、そのテレビCMでは「♪ 煮詰まるだけの恋は まるで COFFEE MAKER」という〈コスタリカの誘惑〉の1フレーズだけが流れていた。しかし、この後にユーミソ曰く、《YOUTUBEにあげたら、「本当に歌があったら聴きたい」との声をいただき、なるほど!とあとづけ製作中です》(清水ミチコ 「ヒマの効用」/SHIMIZU MICHIKO WEB 4325.net ブログ 2020.08.17)となり、2021年1月2日に「清水ミチコ BEST LIVE 2021 ~GoTo 武道館 with シミズ~」でフルヴァージョンが歌われて、この収録映像が2022年11月5日にYouTube「清水ミチコのシミチコチャンネル」で公開された。何故か、テレビCMでは‘Yuminso’表記だったものがコンサートMVでは‘Yumingso’へと変わっていたが、そんなコトはどうでもイイ。〈コスタリカの誘惑〉の歌詞を、以下に掲げる。
 
錆びついた月の夜に 遠吠えが 聞こえる 孤独な狼が 闇を裂いた
 君と出会った 夏が去って もうどれくらい過ぎただろうか
 どんなに 遠く離れても 今はただ 会いたい
コスターリカ(行きの) フライトで(会った) 彼の名は ホセ・サンチョス
 もう離さないと誓った 別の誰かがいたのに 
 二人は からめた指見つめた
 煮詰まるだけの恋は まるで COFFEE MAKER
灼熱のリズム それは 琥珀色に焦がす 眠りを邪魔する 甘いアロマ
 君と笑った 夏が溶けて 思い出になり消えてしまう前
 ホントの気持ち 伝えに来た 愛を ただ信じた
ニカラグアと(細い) パナマのあいだに(地形) はさまれた コスタリカ
 街で2人を 見かけたわ 幸せになれたのね
 まぶしく光った 指のリング
 挽きくだかれた恋は まるで COFFEE MILL
 煮詰まるだけの恋は まるで COFFEE MAKER
 (〈コスタリカの誘惑〉full ver./ユーミソ:詞・曲・歌)
 コスタリカの誘惑 (5) コスタリカの誘惑 (6)
 
コスタリカの誘惑〉は、「♪ 煮詰まるだけの恋は まるで COFFEE MAKER」であり、「♪ 挽きくだかれた恋は まるで COFFEE MILL」であると、人心をコーヒー機器に擬えて歌う。〈コスタリカの誘惑〉は、「♪ ニカラグアと(細い) パナマのあいだに(地形) はさまれたコスタリカ」と、コーヒー生産国の地勢を適確に歌う。〈コスタリカの誘惑〉は、史上最好のコーヒーソングである。
 
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ホンジュラスの光と影

ジャンル:グルメ / テーマ:コーヒー / カテゴリ:珈琲の記:2022 [2022年11月24日 01時00分]
コーヒーを識(し)るとき、「○○を知るための○○章」でお馴染みのシリーズ本‘エリア・スタディーズ’が効(き)くことは、少なからずある。その中でも、2022年夏の新刊『現代ホンジュラスを知るための55章』(中原篤史:編著 明石書店:刊)は、コーヒーを識るに効き目が最強である。以下、同書で木下雅夫が執筆を担った第22章「ホンジュラスとコーヒー 中米「コーヒー大国」の光と影」より一部を抄出。
 ホンジュラスの光と影 (1)
 
《中南米が対外債務を抱え「失われた10年」と呼ばれた1980年代、ホンジュラスでおいしいコーヒーを飲むのは容易ではなかった。筆者の下宿先では、近所の食料雑貨店で購入した1オンス入りの小袋を薬缶に入れ、布袋でこして飲んでいた。苦く、焦げ臭いコーヒー。コーヒー豆生産国だが、上質の豆は輸出に回るため、国内市場に出回らないのだとまことしやかにささやかれていた。(略) 2010年以降、中米5ヵ国中でのホンジュラスコーヒーの生産増加には目を見張るものがある。2010年に収穫面積で、翌11年に収穫量でグアテマラを抜いて中米1位の生産国となった。》 (木下雅夫 「ホンジュラスとコーヒー 中米「コーヒー大国」の光と影」/前掲 『現代ホンジュラスを知るための55章』 p.135)
 
《コーヒー政策は立案を全国コーヒー委員会(CONACAFE)が、実施をホンジュラスコーヒー庁(IHCAFE)が担っている。2003年の「コーヒー栽培に関する技術革新、競争力および社会経済的変革のための政策的枠組み」では、新たな技術的模範と環境保全、社会的包摂、公平・公正、国際市場の動向への意識が示された。(略) ホンジュラス農牧省は、コーヒーの輸出額を2009年から5年間、年率5%で成長させる目標を立てたが、現実は目標を上回る年率9・5%を達成した。これは国際価格の高騰を追い風に受けたものだが、輸出先の5割以上がドイツを筆頭とする欧州諸国で、輸出量の2割近くを占める公正貿易(フェアトレード)品や有機コーヒーなど、より付加価値の高い豆が価格をけん引していることも見逃せない。また、2004年からコーヒー庁主催のカップ・オブ・エクセレンスがおこなわれており、入賞したコーヒー豆は競売にかけられる。(略) 品評会での入賞は、その生産者の人生を変えかねない出来事なのだ。(略) 現在、女性は生産者全体の2割を占め、2020年に全国コーヒー委員会が「コーヒー小区ジェンダー政策」を承認して、ホンジュラスはコーヒー部門でジェンダー政策を承認した中南米最初の国となった。同年、世界コーヒー研究機関(ワールドコーヒーリサーチ)(WCR)は、サンタ・バルバラに試験農場を開設し、遺伝的脆弱性を持つ中南米アラビカ種の品種改良のため、野生種との交配を進めている。ホンジュラスコーヒーは順風満帆なのだろうか?》 (前掲 同 pp.137-140)
 
《ホンジュラスには零細な農民が多い。彼らの2割は識字が不十分と言われ、自給的・生存維持的な基礎穀物生産を基本に、平地のバナナ、山間部のコーヒーなど、細々とした商品作物生産や賃労働で現金収入を補ってきた。筆者がかつてコパン県の山間部で会った零細農は、輸送手段を持たず、荷袋に半分ほどのコーヒー豆を、集落唯一の雑貨店の経営者で、コーヒー園主でもある仲買人に売りに来たが、電卓で提示された買取額を見ようともしなかった。品評会に出すには、690kg以上の同一ロットを準備しなければならない。零細農に「奇跡」は遠い。その一方、カトラッチャ珈琲焙煎所の今井英里氏によれば、サンタ・バルバラやマルカラなど、コーヒー豆名産地として知られる地域では、近年、医者や銀行員などの都市民がコーヒー園経営に参入しているという。コーヒーの香りは甘い。だが、その味は酸っぱくほろ苦いのである。》 (前掲 同 p.140)
 
 ホンジュラスの光と影 (2)
『現代ホンジュラスを知るための55章』は、輓近のホンジュラスのコーヒーを識るに好い。抄出した部分以外にも、コーヒーそのものに焦点を置いた第54章「ホンジュラスコーヒーの人気 高品質なコーヒー作りに努力する生産者」(高橋祥子)がある。また、コーヒーが他の第1次産品や輸出農産物に対照される第21章「ホンジュラス農業の現在 二重構造は解消されたか?」(木下雅夫)も実に興味深い。さらに、ホンジュラスの歴史・政治・経済・社会の‘光と影’が説かれる同書の全55章を通じて読めば、それらがホンジュラスのコーヒーの‘光と影’に密接に結びついていることも解かる。《ホンジュラスコーヒーは順風満帆なのだろうか?》…そうは思えない。 《コーヒーの香りは甘い》…そうとも限らない。《だが、その味は酸っぱくほろ苦いのである》…その通りだと思う。それでも、いや、だからこそ、『現代ホンジュラスを知るための55章』は、コーヒーを識る本として最好の部類にある。
 
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kisanjin

Author:kisanjin
鳥目散 帰山人
(とりめちる きさんじん)

無類の珈琲狂にて
名もカフェインより号す。
沈黙を破り
漫々と世を語らん。
ご笑読あれ。

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