2008/10/14(火)
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 20:41:02.90 ID:ccDkvwF40
ジュン 「うわっ!?だ、誰だよお前!?」
雪華綺晶「はっ!?わ、私は何を……」
ジュン 「うわっ!?だ、誰だよお前!?」
雪華綺晶「はっ!?わ、私は何を……」
3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 20:42:32.81 ID:ccDkvwF40
「私は今一体何を………?」
真紅達が雪華綺晶を捜してnのフィールドに出払った隙を狙い、
真紅達のマスターの心を奪いに来たのだけれど。
机に座っている真紅達のマスターの背中を見た途端。
「体が勝手に………六番目のお姉様の習性かしら……」
今雪華綺晶が器にしている雛苺の身体に染み付いた習性が、
雪華綺晶の支配を振り払って表に出てきてしまったらしい。
「これはいけませんわ………私の精神が六番目のお姉様に干渉されるなんて」
これでは色々と支障が出てきてしまいそうだ。
けれど、精神ではなく身体の干渉能力など雪華綺晶の専門外のこと。
「………どうしたものでしょう」
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 20:44:01.02 ID:ccDkvwF40
「……おい、だから誰なんだよお前」
真紅達のマスターの声に、状況を思い出す。
(……そうでした。彼を夢に引きずり込まなくては。
多少身体に影響されたところで、人間を夢の世界に引き込むことぐらいは問題ないでしょう)
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 20:44:30.83 ID:ccDkvwF40
「おい、お前な…。真紅達に用か?あいつらなら今いないぞ」
「貴方は、とても、苦しい所にいますね……」
「……はあ?」
「一人で、道を歩こうとして。前だけを、見ていて。泥の海を渡ろうとしていることに、気付いていない」
「……お前、人の話を」
「必死に歩き続けている。その道の先に、行けるはずもないのに。その道の先には、泥しかないのに」
「………………」
「どれだけ歩んでも、どれだけ泳いでも、貴方の行く先は泥の海。行き着く先などありはしない………」
「………………なあ、おい」
「いずれ足場を失って、その力を尽きさせて。貴方は泥に溺れ、泥に沈む」
「………おーい」
「そんな道を貴方は行くのですか?何も知らず、行くのですか?貴方はまず、知るべきことが……」
「なあ、お前は何を楽しそうに僕の体の登り降りをしてるんだ」
「はっ!?」
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 20:46:21.45 ID:ccDkvwF40
(なんということ……身体が奇怪な動きをするせいで話術どころではありませんわ………)
「考えにふけっている所悪いんだけどその登り降りをやめてくれ」
(これはいけません……無理矢理引き込んでも意味がありませんし……)
「おい。体のバランスが崩れるだろ。上行ったり下行ったりすんな」
(………今日のところはひきあげて身体を制御できるようになってから………)
「ああもういい加減にじっとしてろ!」
「きゃっ!?」
「動くな。落ち着け。とりあえずここでいいな?」
持ち上げられて、移動させられたのは、彼の膝の上。
「あ…………はい……」
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 20:49:40.62 ID:ccDkvwF40
(………どうやらここでならこの身体も落ち着くようです。これなら……)
「で?お前はいったい何しに来たんだ。つーかお前は誰だ」
(……けれど、これまでの失態で私の威厳がかなり落ち込んでいます……)
「おい、答えろって」
(………この状況では、彼への影響力も……低く……)
「………おい、どうした」
(……………状況に……合わせた………挽回策を…………)
「……………って、お前……」
(………………挽回……策を…………)
「………………」
(………………)
「………………」
(………………)
「………………」
「……………………くぅ………」
「なんでいきなり寝てんだよ!?」
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 20:52:02.43 ID:ccDkvwF40
「……………すぅ……」
膝の上で、というか、胸に寄りかかって寝入ってしまった白い少女に、ジュンはため息をつく。
「……なんていうか。やっぱりローゼンメイデンってこういうのなんだな……」
少女は自分をローゼンメイデンだとは言っていないが、おそらくはそうだろう。
生きた人形など、そうそういるものでもない。
「この突拍子の無さというか気ままさというか………」
真剣そうな話をしていたときは、最初に水銀燈に会った時のような身体がすくむような感覚もあったが、
ジュンの体で遊んだりいきなり寝入るところは雛苺にそっくりだ。
「………雛苺、か……」
行方不明になっている小さなドールのことを思う。
彼女は、今、どうしているのだろうか。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 20:55:00.84 ID:ccDkvwF40
「……………それにしても、こいつ。どうしたらいいんだ」
穏やかな、少女の寝顔を見る。
起こすのも、なんだか悪い気がする。
「…………ああ、くそ。分かったよ」
一人呟いて、少女を胸に抱いたまま、勉強の続きを始める。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 20:58:14.42 ID:ccDkvwF40
『あら、お帰りなさい真紅ちゃん、翠星石ちゃん』
「………………、?」
「……ん?起きたか」
「………私は何を………?」
「……寝てたんだよ」
「………寝て、いた?……私が?」
「お前以外にいないだろ」
「…………………」
「で、また聞くけど。お前は何しに……」
―――階段を上ってくる、小さな足音。
「―――――!」
「うわっ!?」
「………出直しますわ」
「は……?」
「……さようなら」
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:01:09.41 ID:ccDkvwF40
「ジュン?入るわよ」
「………あれ、……?」
「どうしたの?」
「いや、なんだっけな……」
「………何か、あったのかしら。誰かが、来たとか」
「いや、別に。ずっと勉強してたけど」
「……そう」
「………なんかすっきりしないな。疲れたのかな………?」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:04:05.66 ID:ccDkvwF40
少年の記憶に干渉し、自分のことを思い出せないようにして。
雪華綺晶は、自分の世界に戻る。
「…………………私が、眠っていた……?」
姉達と違い、睡眠を必要としない雪華綺晶が?
「………よりにもよって、『彼』の目の前で……?」
姉達のマスターであり、標的である少年に、隙を晒してしまった。
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:07:07.84 ID:ccDkvwF40
「……やはり、この身体の影響でしょうね」
雛苺は、彼にとても懐いていた。
その彼に抱かれて、身体が自然と眠りについてしまったのだろう。
「これはいけませんね。……彼に抱かれるのは危険です。それに……」
問題はそれだけではない。
「彼を話術に嵌めようと思考に集中すると、身体が勝手に動き出してしまいます。
さて、どうしたものでしょうか」
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:10:03.24 ID:ccDkvwF40
今日もまた、ひたすら机に向かっている。
真紅達は今日も出かけている。
「………あれ……?」
何か思い出しそうになったような。
「………ていうか、なんか忘れてるような……」
「―――こんばんは」
「え? …………あ、お前」
白い少女。
そういえば、昨日も来ていた。
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:13:05.01 ID:ccDkvwF40
「昨夜は見苦しいところをお見せしました。今日こそ、貴方とちゃんとお話をしたいのですが」
「話? お前僕に用があったのか。いったい何なんだ………って、昨日みたいにならないだろうな」
身体をよじ登られていてはそれが気になって話にならないし、
眠られては話すらできない。
「ええ。昨夜は申し訳ありませんでした。今夜は、ちゃんとお話をしましょう。
それについて、なのですけど、お願いがあるのです」
「なんだよ」
「私の手を、握っていて頂けませんか」
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:16:01.10 ID:ccDkvwF40
不可解そうな顔をした少年に、雪華綺晶は偽りではない理由を述べる。
「私、話に集中しようとすると身体が知らない内に動いてしまって。
落ち着きがないのは分かっているのですけれど、どうしようもなくて。
でも、やはり動きながらの話では貴方が集中できないでしょう?
ですから、私の動きを抑えてもらおうと思いまして」
「それで、手を握ってろ、って?」
「はい。昨夜みたいに腕に抱かれると、また眠ってしまうかもしれませんし。
手を握って、私を抑えていただければ、ちゃんとお話が出来ると思うんです」
「……そうか」
一応は納得したらしい少年を見て、雪華綺晶は心の内でほくそえむ。
(身体を触れさせていれば、向き合うだけより精神干渉がやりやすくなりますし、ね)
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:19:04.01 ID:ccDkvwF40
「―――では、お願いします」
「………ううん」
「あら、何を躊躇っていらっしゃるんですの?
………恥ずかしいのですか?私は人形ですよ?」
「な、は、恥ずかしいとかそんなんじゃ……!ああ、ほら!握ってやるよ!」
「くすくす……お願いします」
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:22:00.28 ID:ccDkvwF40
少年の手と、触れ合って。
「昨夜も言ったことの、繰り返しではあるのですけれど………」
少年と、触れ続けて。
「貴方は今、とても必死に、前に進もうとしていますけれど………」
少年を、感じていて。
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:22:54.81 ID:ccDkvwF40
少年と、触れ合っている、
「……貴方の行く先は、果たして、輝く道、なので………、………?」
その、感覚。
「………………?」
懐かしい、ような。
大切な、ような。
「……………………?」
それ、は―――――
( 『 ――ああ、私の愛しい娘……雪華綺晶―― 』 )
「……………っ!!!?」
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:26:27.45 ID:ccDkvwF40
「……どうしたんだ、お前……?」
何か信じられないものを見たかのような顔をしている、白い少女に聞く。
少女は、ジュンの言葉など聞いていない。
「………またか?昨日と同じパターンか?」
ジュンの手を握りながら、少女は静かに語っていたのだが、
ほとんど語らないうちに少女は眉根を寄せ、握り合っている二人の手を見つめ、黙ってしまった。
そしてなぜかジュンの手を、感触を確かめるように胸の前に両手で抱き寄せた。
ジュンが慌てて手を引こうとしても少女は離さず、何かを考えていて、
そして、いきなり驚いたように動きを止めた。
「………おい、大丈夫か」
「…………………」
返答は、ない。
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:29:15.46 ID:ccDkvwF40
「……なんなんだよ、お前は………」
どうせ聞こえてないんだろうと思いながらも、一応聞く。
そして、少女はやはり答えない。
「…………はあ……」
ため息をついて、少女が次の行動に移るのを待とうかと考えて。
「……貴方は、一体何なのですか」
少女が、いきなり聞いてくる。
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:32:00.26 ID:ccDkvwF40
「……は?」
「貴方は、一体、何をしたのですか。
私は、一体、何を感じているのですか。
………なぜ、貴方から、お父様を………」
戸惑うような、恐れるような、揺らいだ問い。
その少女の唐突な変調に、ジュンもまた戸惑う。
「……何、って。いや、お前こそ何を………」
「………………」
何も言わずに、少女はうつむき、
ゆっくりと、首を振って。
視線を、ジュンの目に合わせて―――――
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:35:05.29 ID:ccDkvwF40
「…………ん……?」
「…………寝ちゃってたか」
「駄目だな僕。全然進んでない。………ちゃんとやらないと」
「………んー…?」
「………なんか忘れてるような……」
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:38:01.19 ID:ccDkvwF40
「………あれは、何だったのでしょうか………」
「……なぜ、お父様を、思い出したのでしょう……」
「……彼は、お父様に似てなどいないのに」
「……………………」
「…………あれは、何だったのでしょう…………」
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:41:08.62 ID:ccDkvwF40
「…………ん?……ああ、お前」
「…………………」
「また来たのか。…………どうしたんだよ」
「……………………」
「な、なんだよ………」
「………………………」
「お、おい」
………よじっ………ぽふ。
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:41:53.00 ID:ccDkvwF40
「………なんだ、どうしたんだ、お前。いきなり膝の上に……」
………ぎゅっ……
「……お、おい……?」
…………………
「………………どうしたんだ……?」
「…………………………………これは、何なのでしょう………?」
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:45:17.25 ID:ccDkvwF40
「……………ええと」
ジュンの胸に抱きつき動かなくなってしまった少女に、ジュンはどうすればいいか分からない。
「…………………」
少女は、抱きついたまま黙っている。
「……………………」
ジュンも、なんとなく黙ってしまう。
55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:48:03.26 ID:ccDkvwF40
「…………………」
「……………………」
「…………………」
「……………………」
「…………………」
「……………………」
「…………………手……」
「……………………え?………うわっ!」
いつの間にか、少女の身体と頭に腕と手を添えていたことに気付く。
おそらく少女が落ちないようについ体が動いていたのだろうが、
結果として少女を全身で抱くような体勢になっている。
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:51:08.72 ID:ccDkvwF40
「ごっごめん!」
手を離すが、
「…………離さないでください……」
「え?」
「……考えたいのです。その為に、感じたいのです。だから………」
顔を上げることなく、少女が懇願する。
「……………………」
ジュンは、少し、動きを止めて。
………ジュンの腕が、少女を抱く。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:54:01.26 ID:ccDkvwF40
何をすることもなく、緩やかに、時間は流れて。
静かに、少女が体を離す。
「………ん?もういいのか」
「………………」
「………おい?」
「………………分かり、ません………」
「え……?」
少女は、呆けたような頼りなさで、歩き出す。
「お、おい」
「………………」
少女は、窓硝子に触れ、
「あ………」
そして窓硝子の中に消えた。
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:57:00.93 ID:ccDkvwF40
少女が消えた、窓を見ながら。
「………大丈夫か、あいつ」
ジュンは、心配げに呟く。
「…………すごくふらふらしてたし……」
そして、気付く。
「……ていうか、僕はあいつの名前も知らないな」
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:00:04.93 ID:ccDkvwF40
『ただいまですぅ』
『あらおかえりなさぁい』
翠星石とのりの声が聞こえた。たぶん、真紅も帰ってきただろう。
(あいつのこと聞いてみようか……?)
そう考えるが、
(でもあいつ、真紅達と会いたくなさそうだよな)
これまでの記憶を思い出すに、あの少女が来るのは真紅達がいない時で、
そして真紅達が帰ってきた頃にいなくなる。
ジュンにだけ用があり、真紅達は避けているようだ。
(どうしようか)
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:03:05.99 ID:ccDkvwF40
「ジュン、まーた机にへばりついてるですかぁ?そのままだと机と合体して机人間になるですよ」
「……このぐらいでそんな新生物が生まれるなら予備校とかはさぞ奇怪な光景になるだろうな」
「机とか本とかばっか相手にしてて人間の言葉を忘れたりするかもですしぃ、何より気が滅入るですよ」
「いや別に」
「滅入るんです!だから、しょうがねーですけど、そう、しょーがねーですから、
特別にお前に翠星石を抱っこさせてやるです。そーすればお前の気も……」
「つまりお前も抱っこされたいわけか」
「さ、ささ、されたいわけじゃねーです!お前が人間やめないように仕方なくですね!」
「はいはい」
まだ何かわめいている翠星石を抱き上げながら。
(……まあ、明日も来るだろ。その時にいろいろと聞こう)
70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:06:01.52 ID:ccDkvwF40
「分かりません………何なのでしょうか」
「彼に、触れていると…………やはりお父様を思い出します」
「なぜでしょうか」
「………分かりません」
「……………………」
「…………………また、行けば、分かるかもしれません」
73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:09:04.40 ID:ccDkvwF40
「………ん、来たか」
………よじっ、
「……ああ、はいはい。わかったわかった」
ぐいっ、ぽふ。
「あ………」
「これでいいんだろ?」
「………はい」
……………ぎゅ……
77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:14:54.09 ID:ccDkvwF40
「…………………」
「そしてやっぱり黙るのか………。
…………なあ」
「……なんでしょう」
「僕はお前の名前も知らないんだが」
「……………」
ふと、考えて。
「………雪華綺晶、です」
「雪華綺晶、か」
「はい」
「長いな」
「気のせいです」
「そうか?」
「はい」
「そうか」
80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:19:07.72 ID:ccDkvwF40
「なあ、雪華綺晶」
「はい」
「…………なんか嬉しそうだな」
「え?」
「雪華綺晶」
「はい」
「……名前呼ばれるの嬉しいのか?」
「え……?」
「なんていうか、雰囲気がほころぶような気がする」
「……そうですか?」
「ああ」
「………………何なのでしょう」
85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:23:21.77 ID:ccDkvwF40
『ただいま』
『かしらー!』
『あらお帰りなさぁい真紅ちゃん金糸雀ちゃん』
「帰ってきたか。今日は早いな。………ん?翠星石はまだなのか?」
「交代制にしたようですね」
「あれ、お前あいつらが何やってるのか知ってるのか」
「では、おやすみなさい」
「無視か。……ああ、おやすみ」
89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:26:53.70 ID:ccDkvwF40
「入るわよ、ジュン」
「ん」
「………………」
「………………」
「………………」
「ほれたかいたかーい」
「いきなり何をするの!?」
「なんか本を読むふりしながら構ってほしそうな顔してたから」
「そんなことはないのだわ!」
「痛てっ、痛っ!やめろ、その髪やめろ!」
92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:29:46.31 ID:ccDkvwF40
「下ろしなさい!」
「わかったわかった」
「待ちなさい。床まで下ろす必要はないのだわ」
「お前もか」
「何の話よ」
「人形は抱っこが好きだなって話」
94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:34:22.11 ID:ccDkvwF40
「……ああ、翠星石が自慢げに話してたわね」
「それだけじゃないけど」
「え?」
「こっちの話」
「気になるわね。………まあ、親しい人に抱かれることを喜ぶのは、当たり前でしょう」
「当たり前か」
「当たり前よ。人も人形も、一人では生きていけないのだから」
「じゃあお前も今嬉しいのか」
「無粋ね」
「痛たぶごはあっ!?」
96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:37:15.50 ID:ccDkvwF40
日付は、変わって。
「…………今夜も、行かなくては、ですのに」
「………………」
「………交代制は、厄介ですね」
「……………………」
「……………五番目のお姉様。邪魔ですわ」
「…………………………」
「………ああ、今度は三番目のお姉様が…………」
「………………………………」
「……今夜も。行かなくては、ですのに」
97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:37:28.93 ID:+QhGesiH0
いいなぁ
ほのぼのって
98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:42:34.88 ID:ccDkvwF40
「ジュン。ほら、翠星石が夜食のスコーンを焼いてやったです。感謝して食うですよ」
「……ん?ああ、サンキュ…………って多いわ!なんだこの山盛りは!」
「なっ!せっかく翠星石が用意してやったっていうのに、文句言いやがるですか!
まったく、チビなくせにわがままなやつですぅ。
そんなだからチビなんです!」
「それとこれと関係あるか!こんな山盛りの菓子食いきれるか!」
「こんなとはなんです!せっかく翠星石が張り切っ………!」
「はりき?」
「な、なんでもねーです!いいから食うですよ!食って食ってチビを卒業するです!」
「卒業ってな………」
99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:46:10.20 ID:ccDkvwF40
とりあえず夜食はありがたくもらって勉強を再開する。
「………………」
「……………………」
翠星石は、ベッドに座って、ジュンの様子を眺めている。
「………………」
「……………………」
「………………」
「…………………?」
「………………」
「……………さっきから何を気にしてるです?」
「え?」
「さっきからちらちらと窓見てるです」
「…あ」
そんなつもりはなかったが、どうやら無意識のうちに待っていたらしい。
窓硝子から、雪華綺晶が現れるのを。
「……いや、なんでもない。ちょっと外の天気が気になって」
「………天気ですかぁ?」
なんとなく、ごまかす。
100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:47:09.02 ID:gUvChYmc0
何か危険なにほいが・・・
102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:49:46.25 ID:ccDkvwF40
(…………来ないな)
教科書に目をやりながら、考える。
(………翠星石が居たら、来ないのか?)
ノートに問題を写しながら、考える。
(あいつ、やっぱ真紅や翠星石に会いたくないのか)
問題を解こうとして。
(……ああ、くそ。なんか集中できない)
104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:54:06.18 ID:ccDkvwF40
時折、桜田家の様子を覗いて。
「…………まだ、居ますわ……」
翠星石の姿を確認して、肩を落とす。
「……行かなくては、ですのに………」
ひとり、呟く。
107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:57:41.01 ID:ccDkvwF40
「………そう、行かなくては……」
覗き、呟く。
「……行って、彼に、抱いてもらって………」
呟いて。
その、自分の言葉に。
「……………『抱いてもらって』?」
気付く。
110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:02:10.65 ID:ccDkvwF40
「………私は、何を。何を、考えて」
雪華綺晶は、少年の心を奪うために、少年のところに行っていたはずなのに。
「……『抱いて、もらって』? 私は、何を」
いつの間にか。少年を襲う意識すら、失くして。
「………私は、いったい」
雪華綺晶は、少年の腕の中で、何をしようとしていたのか?
115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:08:10.47 ID:ccDkvwF40
「………違い、ます」
自らの思考を、遮断する。
「私は、よく分からないことを、はっきりさせようとした」
自分の行動を、合理的に、考える。
最初の目的から、考える。
「そう、変な感覚があったから。その感覚を、調べるために」
それは、調査であって。確認であって。
「………それ以外の目的では、決して、ありません」
117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:10:22.46 ID:ccDkvwF40
調査以外の目的では、ない。
間違いない。
絶対に、そうだ。
「間違い、ありませんわ。それ以外には、ないです」
それなのに。
「間違い、ないの。……本当に、それだけ」
その、はずなのに。
「……………それ、だけ、です」
胸が、もやもやするのは、何なの、だろうか。
120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:13:03.63 ID:ccDkvwF40
何か、物足りない。
何か、し足りない。
何か、そう、何か。
何かが、欲しい。
それは、例えば。
彼の腕の中で、感じたような――――
「――――違います!!!」
122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:17:04.62 ID:ccDkvwF40
考えてしまいそうになったことを、振り払う。
「違います!違いますわ!!
私は、そんなもの、求めていない……!」
忌むように。
「私は、雪華綺晶。ローゼンメイデン、第七ドール。
アリスになるために生まれてきた、七姉妹の末妹」
恐れるように。
「アリスになること以外、求めてなどいません……!」
雪華綺晶は、叫ぶ。
125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:20:31.33 ID:ccDkvwF40
「………そう、ですわ」
はっ、と、気付く。
「私が、そんなもの、求めるわけがありません。
『これ』は、私のものではありません」
まるで、天啓を得たように。
「そう、これは」
雪華綺晶は、呟く。
「……雛苺の、身体のせいですわ」
131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:26:29.93 ID:ccDkvwF40
今まさに、雪華綺晶が自らの器としている、その身体。
雪華綺晶の姉の一人、雛苺の身体が、雪華綺晶をおかしくさせていたのだろう。
「身体だけでなく、心まで干渉されるなんて、失態ですわ。
さすがにこれは、この身体を諦めた方がいいかもしれません」
雛苺が少年を慕う気持ちが、雛苺の身体に宿った雪華綺晶の心に干渉していたということ。
「器を失うのは惜しいですが……」
これ以上この身体に拘って、心を侵食されては元も子もない。
「この身体は、諦めましょう」
雛苺の身体を、雪華綺晶の精神から、切り離す。
135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:29:57.96 ID:ccDkvwF40
ごとり、と、雛苺の身体が、転がる。
とりあえず、雛苺の身体は保管しておくことにして。
「……これでもう、心配はありませんわ。
今後の方策も考えなくてはなりませんが、今はまず、精神の調整を行いましょう」
これでもう、妙な感覚に悩まされることも無い。
これで、いい。
137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:33:55.93 ID:ccDkvwF40
ととと、と。
翠星石が階段を降りていく音がする。
(……翠星石、出かけるのか)
真紅はまだ帰ってきていない。
金糸雀もいない。
静かなものだ。
(ってことは………)
窓を、見る。
ごく普通に、外の景色が見えるが、
(……そろそろ来るかな)
なんだか今日は、勉強に手がつかなかった。
ずっと、教科書を前にしていたのだが、
あいつが来るのか来ないのか気になって、集中できなかった。
139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:39:39.53 ID:ccDkvwF40
(……あいつが来たら、どうしようかな)
勉強に集中できないし、なんだか暇なので、考える。
(………いや、べつにどうするもこうするもないな。
あいつが僕の膝に乗ってきて、僕はそれを抱いて勉強するだけか)
ふと、笑いがこみ上げる。
(ていうかあいつ、本当に何しに来てるんだ。
話があるとか言ってたけど最近全然そんなこと言わないしな)
(いつ来るんだろうな)
ジュンは、窓を眺めている。
(今日はどれぐらい居るんだろうな)
なんとなく、表情は緩んでいる。
(なあ、雪華綺晶)
ジュンは、待っている。
140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:45:08.02 ID:ccDkvwF40
「なんだか昨日からジュンの様子が変です」
翠星石が、心配げに呟く。
「ジュンが?……そうね。なんだか落ち着きがないわね」
「そうです。それに、なんだかちらちらと窓の方見て、何か探してるみたいです」
「探してる?」
「探してる、っていうか、待ってる、って感じ、かもしれないです」
「………待ってる、ね……」
141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:48:36.16 ID:ccDkvwF40
「………………」
また、窓を見る。
普通に、外の景色。
「……………………」
勉強しようとする。
「…………………………」
また、目は窓に向かっている。
やはり、普通の景色。
「………………」
勉強しようとする。
「………………………………」
いつの間にか、外の景色を目に映している。
「………僕はなにやってんだ」
142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:51:39.96 ID:HFZssFUoO
このすれ違いがたまらんのうwwwww
でも、悲しいのう・・・
143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:52:20.45 ID:ccDkvwF40
結局、昨夜は雪華綺晶は現れなかった。
別に、それは大したことじゃないのだろう。
彼女にも、彼女の生活はあるのだろうから。
だが、連日の来訪を何の前触れもなくやめられると、なんだか気になる。
「……せめて一言言ってくれよ」
ぼやくが、それに答えが返るわけもない。
その日も、勉強には集中できなかった。
その夜も、雪華綺晶は現れなかった。
144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:54:33.36 ID:gUvChYmc0
こぬぁああああゆきぃいいいいいいいいいいいいいい
154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 00:25:13.07 ID:KMDBjCTB0
「ジュン。出かけてくるわね」
「ん……ああ」
声をかけても、返ってくるのは生返事。
「………仕方のない下僕ね」
一昨日あたりから、ジュンの様子はおかしい。
机に向かってはいるのだが、どうも勉強に集中できていないらしい。
たびたび、ちらちらと窓を眺めていて、どうも落ち着きがない。
その割に、部屋にいることが多く、そしてパソコンをいじったりはしていない。
その明らかに妙な様子に、真紅はジュンに直接尋ねてみたが、
ジュンは曖昧に言葉を濁し、明確な答えは返ってこなかった。
明らかに何かがあるが、それが何かが分からない。
「………もどかしいのだわ」
155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 00:31:50.52 ID:KMDBjCTB0
そうは思うが、恐らく今ジュンが抱えている問題は真紅にどうにかできることではないと思う。
ジュンは、何か明確なものを待っている。
迷っているとか、持て余しているとか、そういった様子ではなく、
何かを待っている、そんな様子。
「…………ふう」
ジュンのことは確かに気になるが、そこまで深刻だったり緊急だったりはしないようだ。
今は、別のことを優先させてもいいだろう。
ジュンの部屋を出て、物置へ。
鏡に触れ、nのフィールドへ。
雛苺の身体を奪った、白薔薇を探しに。
157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 00:40:21.91 ID:KMDBjCTB0
「金糸雀。どう?」
交代場所に来ていた金糸雀に聞く。
「真紅。……いつもどおり、かしら」
「……何も見つからなかったのね」
「ええ。白薔薇の花びら一枚見当たらないわ」
「そう。……とにかく、交代よ。貴女は休んで」
「分かったかしら。じゃあ、カナは戻るかしら」
金糸雀の背を見送って。
「……白薔薇。あの子は何を企んでいるのかしら」
巡回を始めながら、考える。
158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 00:43:46.85 ID:KMDBjCTB0
雛苺の身体を奪って。
その後、何の行動もない。
雛苺の身体を奪われてから、真紅達はnのフィールドを巡回して、
白薔薇を探しているが、手がかり一つ掴めない。
白薔薇が何をしようとしているのかすら、分からない。
160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 00:50:42.90 ID:KMDBjCTB0
いくつもの世界を、巡る。
「………白薔薇の痕跡のようなものが、あればいいのだけれど」
いくつもの扉を、抜ける。
「………やっぱり、そう簡単には、いかないわね」
時間は過ぎる。
「………今日も、駄目、なのかしらね」
交代時間は、近い。
「………手がかりぐらい、あってほしいものだけれど」
息をついて、諦め気味に、次の扉を開いて、
「………え?」
目が、合った。
「……白薔薇………!?」
手がかりどころではなく。 白薔薇が、そこに居た。
194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 09:17:25.94 ID:KMDBjCTB0
これまで、何の音沙汰もなかった『敵』が、いきなり目の前に現れた。
驚愕しつつも、即座に戦闘態勢に入る。
即座には、白薔薇は襲ってこない。
「……貴女」
とりあえず、口を開くが、驚愕のせいで言葉がなかなか出てこない。
白薔薇は、何も言わず、真紅を見ている。
とにかく、落ち着いて、思考をまとめる。
「………今度は、私、かしら」
雛苺を襲い、雛苺の身体を奪って。
その次に、真紅の前に現れたのだから、
白薔薇の次の標的は、真紅なのだろう。
白薔薇は、何も言わない。
195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 09:20:35.22 ID:KMDBjCTB0
「………?」
対峙、したまま。
白薔薇は、何の動きも見せない。
さすがに、怪訝に思う。
「……貴女、何のつもり?」
白薔薇は、真紅を見ている。
196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 09:26:18.18 ID:KMDBjCTB0
焦れる。
「貴女。雛苺を襲ったでしょう。アリスゲームを、したいのでしょう。
今度は、私と戦いに、来たのでしょう」
問うが、
何の反応も、返ってこない。
「………貴女。一体……」
「 お姉様 」
白薔薇が、口を開いた。
199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 09:32:00.51 ID:KMDBjCTB0
「聞きたいことが、あるのです」
白薔薇は、言う。
「……何かしら」
答えながらも、
白薔薇の様子を見て、真紅は怪訝に思う。
雛苺の身体を奪ったときのような、
余裕のようなものが、感じられない。
なんだか、覇気がないというか、無理をしているような、感じ。
眉を寄せた真紅の視線を受けながら、
白薔薇は、問う。
「………『抱っこ』って、なんですの?」
202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 09:38:36.52 ID:KMDBjCTB0
「……え?」
意味の分からない質問に、真紅はとっさには答えられない。
白薔薇は、問いを続ける。
「お姉様や、翠星石や、雛苺は、彼、いえ、人間に抱かれることを、好んでいます。
それは、なぜ、ですの」
「抱っこって……貴女、何の話を」
白薔薇は、真紅達にとって、危険な存在のはずなのだが。
その白薔薇から、どうも妙な質問をされている。
204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 09:42:35.35 ID:KMDBjCTB0
「人間に、抱かれることに、何の意味があるんですの。
共に在りたいと願うだけなら、そんなことをする必要はないでしょう」
白薔薇は、淡々と、質問を続ける。
「だから、貴女、何の話を」
真紅の戸惑いの声を遮って。
「答えて、ください。お姉様」
白薔薇は、やはりどこか、追い詰められたような余裕の無さで、求めてくる。
「……………」
その白薔薇の様子に。
真紅は、答えてあげなくてはならないような気に、なった。
205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 09:46:58.47 ID:KMDBjCTB0
「……貴女は、私達が、人間の腕に抱かれて喜ぶ理由を知りたいのね」
「……ええ」
「……当たり前の、ことよ」
真紅は、言う。
「 その人の温もりを、感じられるからよ 」
207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 09:52:47.86 ID:KMDBjCTB0
「その人の、肌に触れて。
その人の、腕に抱かれて。
親しい人が、すぐ傍にいる。親しい人が、私に触れている。
それを、感じられる。
その人の温もりで、感じられる。
これ以上ないくらいに、穏やかで、優しい、幸福でしょう」
真紅は、白薔薇の目を見て、言う。
「難しいことなんて、ないわ。
ただ、温かくて、幸せだから、抱いてほしいのよ」
209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 09:55:24.31 ID:KMDBjCTB0
真紅は、言うべきことは言った。
白薔薇の、反応を待つ。
「……………」
白薔薇は、何も言わない。
真紅は、白薔薇を、見る。
「……………」
211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 10:03:34.25 ID:KMDBjCTB0
「………どうしたの、貴女」
あまりにも反応がない。
とりあえず、真紅は聞いてみるが。
「………………」
やはり、反応はない。
「貴女、…………え?」
問いを重ねようとするが。
白薔薇は、真紅に背を向けて。
「ま、待ちなさい……!」
別の世界に、消えた。
212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 10:06:15.11 ID:KMDBjCTB0
白薔薇を追おうとするが。
「………駄目、ね」
時間が、限界だった。
ドールは、媒体なしで長時間nのフィールドにはいられない。
今白薔薇を追ったら、真紅は力尽きてしまう。
「狙っていたのかしら。……きっとそうね」
白薔薇の現れたタイミング。去ったタイミング。
それは、この状況を狙っていたのだろう。
「やっぱり、油断できない子だわ。
………けれど」
けれど、白薔薇の去る姿を思い出すと。
「……何か、追い詰められているようだったわね」
213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 10:09:27.62 ID:KMDBjCTB0
「……これ、は。………この、感覚は」
世界を巡りながら。
世界を渡りながら。
「……幸せ?幸せ、だった、のですか」
雪華綺晶は、苦しむ。
214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 10:13:10.22 ID:KMDBjCTB0
雛苺の、身体を捨てて。
雛苺の、影響から、逃れて。
妙な感覚に、悩まされることもないはずだったのに。
雛苺の身体を捨てても。
雪華綺晶の心は、晴れなかった。
それどころか。
精神を調整するために、ずっと自分の世界に居て、
その間、ずっと。
何かを求める心は、大きくなるばかりだった。
216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 10:16:25.02 ID:KMDBjCTB0
『 何なのですか、これは 』
分からない。
『 雛苺の身体は、捨てたのに 』
分からない。
『 なぜ、なぜ。こんな、にも。
苦しい、の、ですか 』
分から、ない。
217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 10:18:48.32 ID:KMDBjCTB0
『 こんなの、おかしい 』
『 おかしいです。おかしいですわ 』
『 なぜ。なぜ 』
『 なぜ、こんな、ことに 』
『 ……… 』
『 ………彼に、抱かれたから……? 』
220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 10:21:59.73 ID:KMDBjCTB0
彼に、抱かれて。
雪華綺晶は、おかしくなった。
きっと、そう。
けれど。
なぜ、おかしくなったのだろうか。
何が、おかしくなったのだろうか。
分からなかった。
分からなかったから。
真紅に、聞いて。
自分がおかしくなった原因を、知ろうとした。
―――聞かなければ、よかった。
222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 10:26:31.53 ID:KMDBjCTB0
自分の世界で。
雪華綺晶は、うずくまる。
「………幸せ……」
真紅の言葉を、考える。
「……私は、彼に、抱かれて………幸せ、だった……?」
自分の心を、考える。
「……これ、は、………求めて……いるの……?」
けれど。けれど。
「……そんなはず、ありません………」
そんなことは、あっては、いけない。
224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 10:30:38.68 ID:KMDBjCTB0
「……そんなこと、駄目、です………」
雪華綺晶は、アリスになるのだから。
「………幸せ、なんて……」
アリスになること以外。
お父様に愛されること以外に、目をやっては、いけない。
「……違う。違うんです。
……私は、幸せなんかじゃ、なかった。
………あれは、幸せなんかじゃ、ないんです……!」
225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 10:34:37.51 ID:KMDBjCTB0
アリスになること以外に、求めてはいけない。
雪華綺晶が、そんなことを、求めるはずがない。
だから。
「こんなことは、おしまいに、します」
ずっと、止まっていた。
ずっと、悩んでいた。
でも、そんなことに意味はない。
今、雪華綺晶が、やるべきことは。
「彼を、奪う。
彼の心を、私の力に。
彼を喰らって、私はアリスに近付きます――!」
232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:07:12.84 ID:KMDBjCTB0
教科書を前にして、ため息をつく。
「……いまいち集中できないな」
教科書から目を離して、窓を見る。
「……これはやっぱあいつのせいか」
雪華綺晶は、もう三日ほど来ていない。
もう、来ないのかもしれない。
「……まあ、別に、気にすることじゃないか」
もしかしたら、雪華綺晶はジュンにもう用がなくなったのかもしれないし。
「勉強だ、勉強。勉強しろ僕」
236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:12:50.99 ID:KMDBjCTB0
「ジュン、入るわよ」
真紅が、部屋に入ってきた。
「ん。……あれ、そういや今日は出かけてないんだな」
翠星石と金糸雀も一階で騒いでいるようだし。
「ええ、ちょっと気になることがあるのだわ」
「気になること?」
「大したことではないわ」
「そうか」
237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:13:17.92 ID:KMDBjCTB0
真紅は、ベッドの上で本を読んでいる。
勉強も、なんとかできるようになってきた。
黙々と、勉強を続ける。
239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:14:54.01 ID:KMDBjCTB0
一区切り、付けて。
「……あ」
何気なしに窓を見て、思い出す。
(そういえば、真紅達にあいつのこと聞いてないな)
雪華綺晶が真紅達に会いたくなさそうだったので言わなかったのだが、
雪華綺晶が来なくなってしまった今なら、聞いてもいいのではないだろうか。
(あいつが今、どうしてるのか、やっぱ気になるし)
「なあ、真紅」
「何かしら」
「聞きたいんだけどさ、お前らの仲間っていうか姉妹?でさ……」
雪華綺晶っているだろ?
と、聞こうとして。
何気なしに、見ていた、窓から。
「………え?」
無数の、白い、茨。
242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:19:22.22 ID:KMDBjCTB0
「――ジュン!」
少年を捕らえようとした茨は、真紅の薔薇の花弁になぎ払われる。
急襲のつもりだったが、真紅は備えていたのか、慌てることなく迅速に対応した。
「白薔薇……!」
真紅が、こちらを睨む。
それは、どうでもいい。
「………雪華綺晶?」
少年が、困惑した視線を、送ってくる。
それは、気にしない、ようにする。
243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:21:11.03 ID:KMDBjCTB0
今の雪華綺晶の乱れた精神では、
少年の心を操り、雪華綺晶に都合のいいように夢の世界に引き込むことは難しい。
だから仕方なく、無理矢理夢の世界に引きずり込んで、心を喰らうことにした。
効率は悪いし、得られる力も少なくなるが、
そんなことに構っていられるほど、雪華綺晶に、余裕は、ない。
244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:26:07.72 ID:KMDBjCTB0
「雪華綺晶?なんだ、どうしたんだ、お前」
少年の言葉に、耳は貸さない。
少年を捕らえるために、茨を動かす。
「ジュン、貴方、この子のこと……!?」
茨を花弁で叩き落しながら、真紅は少年に問うている。
「……お姉様。邪魔ですわ」
茨を、真紅にも向ける。
「くっ……!」
真紅の花弁が舞う。
雪華綺晶の茨は、真紅にも、少年にも、届かない。
245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:31:40.29 ID:KMDBjCTB0
「おい、雪華綺晶…!」
少年は、状況を把握できていない。
こちらに、歩み寄ろうとする。
が、
「ジュン!駄目よ!」
真紅の言葉で、少年は止まる。
「…真紅、なんなんだよ、どういうことだ、これ……!」
意味が分からない、といったように、少年は叫ぶ。
それに、真紅は。
「貴方が、なんでこの子を知っているか知らないけれど……!」
茨を防ぎながら、少年に、言う。
「この子は、雛苺を襲って、雛苺の身体を奪った『敵』よ……!」
248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:35:44.73 ID:KMDBjCTB0
真紅は、本当のことを、言っただけ。
だから、雪華綺晶は、そんなことには、構わない。
気にすることも、ない。
「………雛苺、を……?」
気にすることなど、ない。
少年の、雪華綺晶を見る目が、変わっても。
「……雛苺を、襲った……?」
気にすることなんて、ない。
250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:40:40.93 ID:KMDBjCTB0
「どういうことだよ、真紅!雛苺は、ウチからいなくなっただけじゃ……!」
「違うわ。雛苺は――」
「――ええ、私が、頂きました」
雪華綺晶は、哂う。
「雛苺は、私が、食べてしまいましたわ」
少年に、向けて。
251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:46:08.41 ID:KMDBjCTB0
「食べた、って、お前……!?」
少年は、信じられない、といった表情。
それに、事実を突きつける。
「器が、欲しかったんです。
私は、身体を持たないもので。
アリスゲームを制するために、身体があった方が良かったのです。
―――例えば、現実世界にいる、ドールのマスターに干渉するために」
「………マスターに、干渉する……?」
少年が、何かに気付いたように、表情を、変える。
「……じゃあ、お前、僕のところに来てたのは……!」
雪華綺晶は、哂う。
「ええ。貴方を、貴方の心を、奪うためです。
それ以外の理由は、ありませんわ」
253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:52:23.76 ID:ZSD8NyutO
きらきーは心では泣いてるんですね、分かります
254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:03:28.70 ID:KMDBjCTB0
今度こそ。
少年の目が。
雪華綺晶を見る目が、変わった。
「……お前。お前、あれは、全部、芝居か」
騙されたと、憤る目。
敵を、見る、目。
それを、受けて。
「ええ。貴方を操るための、芝居、ですわ」
雪華綺晶は、哂う。
255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:06:52.00 ID:KMDBjCTB0
「お前……!くそっ!ふざけんな……!」
少年の目にはもはや、親しみも、優しさも、ない。
それが分かっても、雪華綺晶は、哂う。
「貴方を操る。それ以外の目的なんて、あるわけが、ないでしょう」
哂う。
「お前、な………!よくも、騙し………、……?」
少年の、言葉が、不自然に、止まるが。
そんなことには、構わない。
「私は、アリスになるのです。それ以外の、目的なんて、ありません」
哂う。
256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:08:00.16 ID:KMDBjCTB0
「……………お前、」
少年が、何か、変な表情をするが、構わない。
真紅に、顔を向ける。
「お姉様。早くどいてくださいな。私は、早く、アリスになりたいのです」
哂う。
「……貴女………?」
真紅まで、変な表情をしている。
何なのだろうか。
「あら、どうしたのですか?挙動がおかしいですわ、お姉様」
哂う。
私は、ワラっている。
それなのに。
少年が、言う。
「……お前、なんで、泣いてるんだ」
257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:12:14.49 ID:KMDBjCTB0
雪華綺晶は、ずっと、嘲笑の表情だった。
哂っている、表情だった。
ジュンを見て、ずっと、ワラっていた。
けれど。
今、彼女の左目からは。
一筋の、涙が。
静かに、流れていた。
258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:17:17.29 ID:KMDBjCTB0
「…………え……?」
何を、言われたのか、分からない。
そんな、表情で。
雪華綺晶は、自分の、頬に触れて。
「…………………!?」
自分の指が、濡れたのを見て。
言葉を、失っていた。
259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:21:15.71 ID:KMDBjCTB0
「……雪華綺晶、お前……?」
ジュンが、状況が分からないなりに、声をかけようとして。
ばっ、と。
雪華綺晶が、身を翻す。
「あっ…!おい……!」
そして、窓硝子の中に、消える。
「待、て……っ!」
「ジュン!?」
真紅の声を、無視して。
ジュンは、雪華綺晶を、追う。
261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:27:40.53 ID:KMDBjCTB0
「ぅ、う……!うう………!」
雪華綺晶は、駆ける。
nのフィールドを、駆ける。
「いや……、なに、これ……」
目から、溢れてくるものが、止まらない。
視界は、ずっと、にじんでいる。
「こんなの、知りません……何、なんなのです、か」
雪華綺晶は、涙など、流したことが、ない。
だから、これは、きっと、違う。
違うのだ。
これは、雪華綺晶の涙などでは、ない。
262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:30:27.56 ID:KMDBjCTB0
「……雛苺、です………」
今、雪華綺晶は、雛苺の身体を使っている。
一度は離れていたが、少年を襲撃するために、また宿ったのだ。
「これは、雛苺の涙……」
そう。きっと、この涙は、雛苺の身体が、流しているものだ。
雪華綺晶のものではない。
そんなはずが、ない。
264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:33:06.54 ID:KMDBjCTB0
急ぎ、雛苺の身体を切り離す。
そこに。
「おい、雪華綺晶!待てって……!」
少年が、追ってきた。
その後ろには、真紅。
「……来ない、で………!」
先ほどまで、少年を捕らえようとしていたのに。
今は、少年から、逃げている。
265 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:37:24.73 ID:KMDBjCTB0
雪華綺晶が、逃げる。
「くそっ!待てって!」
ジュンは、追う。
なぜ追っているのかなど、考えもしない。
ただ、追う。
274 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:58:45.40 ID:2ZlVHpwo0
(´;ω;`)ブワッ
275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 13:00:59.73 ID:KMDBjCTB0
「……嫌……!返します、『これ』は、返すから……!」
雪華綺晶の体から、何かが、出てきて。
こちらに、投げるように、雪華綺晶はそれを捨てる。
「追って、来ないで……!」
雛苺の身体を捨てて、雪華綺晶は、逃げる。
277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 13:01:28.30 ID:KMDBjCTB0
目の前に飛んできた、雛苺の身体を受け止めて。
「……!……真紅!頼んだ!」
その身体は真紅に預けて、ジュンは雪華綺晶を、追う。
「ちょっと!ジュン!?」
真紅が止めようとするが、それを振り払い、追う。
278 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 13:05:46.16 ID:KMDBjCTB0
「ううう……!ううううう………!」
雛苺の身体は、捨てた。
捨てたのに。
「なぜ、なぜ、止まらないのですか………!」
頬を濡らすものは、止まらない。
「う、う……ううう………!」
涙、だけではない。
ずっと、目に、焼きついているものがある。
胸を、突き刺すものがある。
「嫌……いやあ……!」
少年の、目。
敵を見る、目。
その、光景が。
ずっと、雪華綺晶を、苛んでいた。
279 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 13:08:06.36 ID:KMDBjCTB0
「雪華綺晶!」
少年の、声。
追って、来ている。
「いや………来ないで…!」
振り返りは、しない。
見たく、ない。
見られたく、ない。
あの、目は。 もう、嫌。
281 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 13:15:10.98 ID:KMDBjCTB0
こちらの呼びかけにも、雪華綺晶は振り返らない。
「このっ……!」
全力で追っているのだが、雪華綺晶との距離は少しずつ開いている。
焦り、急ぐが、
雪華綺晶が、無数の茨を、周囲に伸ばす。
「なっ…!?」
茨が、世界を走り。
亀裂のように、その棘を伸ばし。
それは、本当に、亀裂となって。
びしり、と。
世界が、軋んで。
「―――ジュン!」
世界が、砕かれる。
282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 13:15:18.78 ID:2ZlVHpwo0
クソッ! マテッテ! イヤ…コナイデ…!
ヘ(; `Д)ノ ヘ( ;o;)ノ
三 ( ┐ノ 三 ( ┐ノ
三 / 三 /
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
283 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 13:18:54.81 ID:KMDBjCTB0
真紅に、引っ張られて、別の世界に移動させられた。
目の前で。扉の向こうで、世界が、壊れた。
「………………」
世界の壊れるさまは、恐ろしい、ものがあるが。
「なんとか間に合ったわね……。……全く、危ない所だったわ。
もう少しで壊れる世界に飲み込まれて、一緒に消えてしまうところだったわよ」
ジュンの目には、違うものが、焼きついていた。
「恐ろしいわね。あの子、雪華綺晶、だったかしら。
ジュン。不用意に追いかけては駄目よ。どんな罠があるか………ジュン?聞いてるの?」
最後。
世界が壊れる、直前で。
一度だけ。
雪華綺晶が、振り返った。
その、顔。
その、表情は。
284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 13:19:19.69 ID:KMDBjCTB0
「ジュン?」
「………真紅。雪華綺晶を追うぞ」
「……ちょっと。今言ったばかりのこと……」
「罠とかじゃない。あれは、そんなんじゃ、ない」
最後に、雪華綺晶が見せた表情。
涙を流している、だけではなかった。
つらそうに。悲しそうに。
胸が締め付けられる表情に、歪んでいた。
「あんな泣き顔をしてるやつを、……放っておけるか」
285 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 13:20:53.66 ID:er9af5D3O
ジュンかっこいい氏ね
286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 13:21:28.94 ID:mKKEzi780
さすがJUM氏ね
332 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 18:10:37.23 ID:KMDBjCTB0
自分の世界に、帰って。
雪華綺晶は、涙を流し続ける。
「う、う………」
分かってしまった。
もう、認めるしかなかった。
「うう、ううう………」
彼に、怒りを向けられて。
雪華綺晶は。
雪華綺晶の心は、軋んで、しまった。
「うー…………!」
雪華綺晶は。
彼に、そんな目で、見て欲しくなかったのだ。
333 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 18:15:57.30 ID:KMDBjCTB0
雪華綺晶は、彼に、求めていた。
優しい、視線を。
穏やかな、時間を。
そして、何よりも、温もりを。
「…………いた、い………」
胸が、心が、突き刺される。
「……痛い、です…………」
彼のあの目が。
優しさも、温もりもない、あの目が。
「…………いたい………!」
雪華綺晶の心を、どこまでも、えぐる。
335 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 18:22:12.67 ID:KMDBjCTB0
夢の世界を渡りながら。
ジュンは、真紅に聞く。
「……これで見つかるのか?」
「これしかないのだわ。もう、あの子は見失ってしまったし。
しらみつぶしに世界を巡って、あの子を探すしか手はないのよ」
「……きりがないな」
「そうね。じゃあ、やめる?」
「まさか」
「………まあ、あの子も自分の世界は持っているんじゃないかしら。
いくつも世界を渡っていれば、その内あの子の世界に辿り着くかもしれないわ」
「そうか」
「………どれだけ探せばいいかなんて、わからないわよ。
全ての世界を回ることなんて、永遠の命があっても無理な話よ」
「………探さないわけには、いかないだろ」
「……仕方ないわね。付き合うわ」
「ありがとな、真紅」
「いいのよ」
337 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 18:30:32.94 ID:KMDBjCTB0
雪華綺晶の世界でも、ジュンがいるところでもない世界で。
「…………………」
「……………………」
「………………………」
「…………………お父様……?」
「…………………………」
「…………………どこ、ですか………?」
「……………………………」
「………………………………」
「……………お父様………?」
―――紫のドレスの少女が、歩き出す。
339 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 18:44:46.69 ID:KMDBjCTB0
水晶の城の、広間の隅で。
膝を抱えて、雪華綺晶は考える。
「………ごめんなさい、お父様……」
雪華綺晶は、お父様の最後のドール。
お父様の、最後の希望。
物質に依存して、アリスたり得ない六人の姉とは違う、特別なドール。
精神世界にのみ存在する、物質に汚されないドール。
「………それなのに……」
物質の器を、手に入れて。
物質世界の人間と、触れ合って。
物質の穢れを、自ら、その身に受けてしまった。
「……雪華綺晶は、穢れてしまいました………」
姉達と、同じように。
物質世界に、依存してしまった。
お父様が雪華綺晶を精神体として作った意味を、
雪華綺晶は自ら踏みにじってしまっていた。
341 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 18:49:32.10 ID:KMDBjCTB0
精神世界に存在する雪華綺晶に、触れられる存在は、本来、いない。
だから、雪華綺晶に触れたことがあるのは、
雪華綺晶を作った、お父様ただ一人だった。
ただ一度だけの、お父様の温もりが、恋しくて。
だから、雪華綺晶は、お父様の温もりを求めて、アリスを望んでいた。
それこそが、アリスたるに相応しい、純粋な存在だったのだろう。
けれど、雪華綺晶はお父様以外に、触れてしまった。
お父様以外の温もりを、知ってしまった。
お父様だけだと思っていた雪華綺晶の幸福は、
お父様以外にもあるのだと、知ってしまった。
もう、雪華綺晶は、アリスに相応しくない。
「………私は、駄目な、娘ですわ…………」
雪華綺晶は。
膝を抱えたまま、涙する。
342 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 18:55:31.22 ID:KMDBjCTB0
「……なーんで翠星石がそいつを探さないといけないんですか。
そんなやつほっとけばいいです。雛苺も戻ってきたんですし」
「あら、いいのよ、家に帰っても。
ただ、ジュンも私もnのフィールドを巡るのに忙しいから、あまり帰れないけれど」
「う……」
「ヒナもいくのー」
「なっ!ちび苺まで探すですか!?ローザミスティカを戻して起きたばっかなんですから
安静にしてやがれです!」
「ヒナは大丈夫なの。大丈夫じゃないのは、雪華綺晶なの」
「はあ?なんで雪華綺晶が大丈夫じゃないです。別に怪我したわけでもないですよね」
「雪華綺晶はね、こわいけれど、とても、かなしいの」
343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 18:56:50.60 ID:KMDBjCTB0
「かなしい?なんですかそれは」
「ヒナはね、雪華綺晶に食べられたとき、少しだけ雪華綺晶の中にいたの。
だから、分かるんだよ。
雪華綺晶は、ずっと、ずっと、かなしくて、さみしかったの」
「……どういうこと、雛苺」
「雪華綺晶は、だれかと、話すこともなくて。マスターと、ふれあうこともなくて。
ヒナたちみたいに、眠ることもできなくて。
ずっと、ずっと。
ヒナたちより、ずっと、ながい間、ひとりだったの」
「……眠ることもできない、ですって……?じゃあ、あの子は、いったい何百年……」
「それは、わからないけど。でも、とても、かなしい時間だったのは、分かったの。
雪華綺晶には、ヒナのトモエみたいなひとは、いなかったから」
「……………」
「でも、でもね」
「……なんですか、チビ苺」
「きっとジュンは、雪華綺晶の、トモエなのよ」
348 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:09:21.73 ID:ZSD8NyutO
ローザミスティカを戻すって可能なのか?作中で前例ないからなんとも言えないけど・・・
351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:11:03.48 ID:nB84Tv8L0
>>348彼方から呼ぶ声が届く事もあるのよ
ジュンは私にそれを二度も教えてくれた
離れていても必ずまた会える
私たちは永遠の姉妹なのだから
って真紅が言ってた
357 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:21:19.07 ID:ZSD8NyutO
>>351あのセリフそーゆー意味なのか?確かにそうもとれるが
349 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:10:15.10 ID:KMDBjCTB0
「あーもう!わかったです!翠星石も探してやるです!
じゃあどうするですか!?」
「そうね。しらみつぶしに、世界を回るしかないわ。
昨日までやっていたことと同じね」
「まったく、きりがねーですよ」
「でも、今はジュンも、雛苺もいるわ。金糸雀にも手伝ってもらう。
昨日までより、人手は多いのだわ」
「……まあ、そうですね。わかったです。
やるだけやってやるですよ」
350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:10:47.51 ID:KMDBjCTB0
紫の少女が、さまよう。
「……………………お父、様……」
「………お父様…………………?」
「……………………お父様………」
「……………………………………」
「……………どこ………………?」
「……………………………………」
「……………………………………」
「……………………………………」
「………ふぇ…………」
353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:17:14.94 ID:KMDBjCTB0
水晶の城で、白い少女が嗚咽を漏らす。
自らの意義を失い。
未来も見えず。
少女は、ただ、うずくまる。
354 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:17:40.00 ID:KMDBjCTB0
「……ジュン。適度に休みなさい」
「…まだ大丈夫だ」
「一日中nのフィールドにいるじゃないの。弱った状態でここにいるのは危険よ」
「いや、大丈夫……」
「貴方が夢の世界に呑まれたら、私達も、泣くわよ」
「………ああ、わかった。一度、帰る」
「そうなさい」
「……悪いな、付き合わせて」
「いいのよ。あの子は、私達の妹でもあるのだから」
356 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:20:23.97 ID:KMDBjCTB0
「……………………え、ぅ………」
「……………………………………」
「……どこ………お父様…………」
「……………………………………」
「……………ひぐっ………………」
「………………………お父様……」
「……………………………………」
「………………………………えぐっ…」
358 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:21:20.74 ID:KMDBjCTB0
水晶の、広間で。
雪華綺晶は、自分を、抱きしめる。
父の、願いを踏みにじって。
少年の、温もりを失って。
私は、どこへ、行くのだろう。
分からない。
分からない。
いいえ、きっと。
――― 私はもう、どこへも、行けない。
白い、茨が。
雪華綺晶の世界を、覆い尽くす。
360 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:21:45.79 ID:KMDBjCTB0
雪華綺晶を探して、二日目。
今日の成果も、皆無。
「………くそ」
「ぼやくんじゃないのよ、ジュン。一日二日で見つけられたら、その方が驚くべきことよ」
「……分かってる」
分かってはいるのだが、やはり、焦れる。
早く、雪華綺晶を見つけて、なんとかしてやりたい。
「ジュン、そろそろ時間なのだわ」
「……ああ。戻って休むよ」
「じゃあ、開くわね」
真紅が扉を開き、桜田家へ帰る。
それを追って、ジュンも扉を通ろうとして。
「………………ぇぅ……………」
誰かの、泣くような声を聞いた。
361 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:22:19.47 ID:KMDBjCTB0
「え………?」
扉から、離れて、声のした方に近付く。
そこには。
「………ひぐっ………………ふえぇ……」
紫のドレスを着た少女が、泣きながら、とぼとぼと歩いていた。
363 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:27:31.01 ID:KMDBjCTB0
「………雪華、綺晶……?」
ドレスは、違う。
けれど、その少女は、雪華綺晶によく似ていた。
「………ふぇ……?」
こちらの声に、少女が、振り返る。
その顔も、よく似ている。
しかし、雪華綺晶は右目の部分が白薔薇で隠されているのに対して、
その少女は、左目を眼帯で隠している。
364 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:29:15.29 ID:mKKEzi780
ばら・・しぃ?
370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:32:29.20 ID:KMDBjCTB0
やはり、雪華綺晶では、ない。
ないのだが。
「……ああ、くそ、何泣いてるんだよお前」
雪華綺晶に似た少女が、雪華綺晶のように泣いている。
放っておけるわけがなかった。
372 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:33:26.05 ID:KMDBjCTB0
「……う……?」
紫の少女は、近付いてくるジュンを呆然と見ている。
何か、不思議なものを見るような目。
まるで、はじめて見る生物を眺めているような。
「……で、どうしたんだ、お前」
少しかがんで、視線を少女に合わせる。
「……………?」
少女は、首をかしげ、ジュンを見る。
言葉が通じてるのかも疑問だ。
377 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:37:37.88 ID:KMDBjCTB0
コミュニケーションがとれない。
少女の顔は、涙に濡れたまま。
「ああ、くそ」
わしっ、と少女の頭を掴む。
「………?」
少女が、また首をかしげるが、それには構わず。
わしゃわしゃと。
少し乱暴に頭を撫でてやる。
378 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:38:07.25 ID:KMDBjCTB0
「…………あ………」
ジュンの手の動きに。
少女は、ジュンの顔を見る。
「ほら、泣き止め。何があったかは知らないけど泣き止め。
……って、泣き止んではいるのか。じゃあとりあえずその泣き顔をどうにか……」
ひしっ、と。
「……え」
少女が、ジュンの胸にすがりつく。
「お、おい……」
少女は。
「…………うぇぇ……」
ジュンの胸の中で、泣き始めた。
382 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:39:42.85 ID:KMDBjCTB0
「………あちゃー」
なんだかやっちまった的な感覚を受けながら、胸にすがる少女を見やり、
「……仕方ないな」
ため息をついて。
泣き続ける少女の頭を、撫でる。
とりあえず、泣き止むまでは、こうしてやろう。
386 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:47:29.26 ID:KMDBjCTB0
いくらか、時間が過ぎて。
「……ジュン、なんで戻ってこないの……って、雪華綺晶?」
ジュンにすがり付いている少女を見て、真紅が驚く。
「いや、違うぞ。雪華綺晶じゃない。なんか似てるけどな」
もうかなり落ち着いている少女の頭を撫でながら、言う。
「……誰、なの?ドールでしょう?でも、第七ドールは雪華綺晶のはずよ」
「そういやそうだな。……なあ、お前、名前、なんていうんだ?」
少女に、問う。
「…………名前……?」
少女は顔を上げ、聞いてくる。
涙に濡れてはいるが、もう泣いてはいないようだ。
「お前の名前だよ。ほら、お前、なんて呼ばれてるんだ?」
「私は……薔薇水晶です…………お義父さま」
「そうか、薔薇水晶か。…………はい?」
391 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:52:39.43 ID:KMDBjCTB0
「お、お義父さまって、え?」
「お義父さま」
ぎゅっ
「ジュン……貴方……」
「いや待てよ。お前今どんな誤解して……」
「か、かかか、隠し子ですぅ!?ジュンのくせにいっぱしに隠し子作っていやがったですか!?」
「翠星石!?お前いつの間に!」
「ドールと隠し子作るなんてなかなかやるかしらー」
「金糸雀もかっ!てか違う!僕に子供なんて!」
「……お義父さま……?……どうしたんですか……?」
「うわあああ!」
397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:58:04.92 ID:KMDBjCTB0
とりあえず落ち着いて、家に戻る。
家に戻ったときも、のりと雛苺によって同じことが繰り返されたが。
とりあえず落ち着く。
「……つまり、お父さんが帰ってこないのか」
こくん、と薔薇水晶がうなずく。
薔薇水晶の話を聞くに、
どうやら彼女を作った人形師が、出かけたまま帰ってこなくなってしまったらしい。
あまりにも帰ってこないので、
心配なのと寂しいので探しにでてきたのだが、
全然見つからなくて、
途方に暮れて泣いていたらしい。
401 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 20:02:53.86 ID:KMDBjCTB0
「……しかし、お義父さまってな…」
ジュンに慰められたとき、薔薇水晶はジュンを『お義父さま』と認識したらしい。
そしてその認識を改める気もなさそうだ。
『刷り込み』みたいなものだろうか。
「まあ、それはいい。いや、あんまし良くないけど、まあいい。
とにかく、薔薇水晶は『お父様』を探してるんだな?」
こくん、とまた薔薇水晶はうなずく。
「で、そのお父様はnのフィールドに入ったきり戻ってこないと」
こくん。
「分かった。
じゃあ、一緒に探そう」
404 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 20:07:26.24 ID:KMDBjCTB0
「………?」
薔薇水晶が、首をかしげる。
「僕も、探してるやつがいるんだ。
そいつも、nのフィールドのどこかにいるはずだから。
一緒にお前のお父様も探せる」
「……お義父さまも、探してるの……?」
「ああ。どうせ、しらみ潰しに探すんだ。
やることは一緒だし。
……お前、一人だと寂しいんだろ」
「………ありがとう。お義父さま」
408 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 20:11:53.76 ID:KMDBjCTB0
休憩時間を終えて。
また、nのフィールドに入る。
「……お義父さまが探してるのって、誰…?」
「雪華綺晶、ってやつだ」
「……どんなひと?」
「顔はお前に似てるな。後は、まあ、なんていうか。
……なんて言えばいいんだろうな」
「………お義父さまはなんで、そのひとを探してるの……?」
「……なんで、か……。……なんでだろうな」
「………?」
「……なんか、ほっとけないんだよ」
「………そう……」
414 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 20:17:28.89 ID:KMDBjCTB0
ひたすら、世界を巡る。
金糸雀は、マスターがnのフィールドにいないので長時間は無理、
ということで帰っていて、雛苺は眠りについている。
ジュンと、薔薇水晶、真紅、翠星石での捜索。
ジュンは、薔薇水晶の力で世界を移動できるので、真紅にも単独で探してもらうようにした。
ジュンは、ぽつぽつと薔薇水晶と話しながら、世界を巡る。
415 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 20:19:20.15 ID:KMDBjCTB0
巡り、巡る。
探し続けて。
そして。
「ジュン!ちょっと来るです!」
421 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 20:25:21.02 ID:KMDBjCTB0
翠星石が、見つけたもの。
それは。
「……雪華綺晶の、茨だな」
とある世界の、扉の一つ。
開いた扉を埋め尽くす、白い、茨。
「たぶん、この扉の向こうが、雪華綺晶の世界です。
でも、他の世界との繋がりを、絶ってしまってるです」
翠星石の言うとおり、茨が完全に扉を塞ぎ、扉の先へ行くことはできない。
「翠星石の如雨露や、真紅の花びらじゃ、これは開けられないです。
硬いですし、棘だらけで触れません」
425 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 20:30:46.67 ID:KMDBjCTB0
「……開けられない、か。
くそっ、やっと見つけたのに」
目の前に、雪華綺晶に繋がる道があるのに、
その道を、進めない。
「どうすれば……」
考える、ジュン。
その服の裾。
くい、くい、と。
「……ん?なんだ、薔薇水晶」
「……これ、邪魔なの?」
「ああ、ものすごい邪魔だ。でも、どけられないっていう……」
「………じゃあ、薔薇水晶が、開ける」
ざくん、と。
薔薇水晶の持つ、水晶の剣が、茨の壁を断ち斬った。
430 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 20:35:21.20 ID:KMDBjCTB0
「………おお」
予想だにしない、薔薇水晶の力。
というか、外見や性格に似合わない攻撃的な能力。
どうやら、薔薇水晶は意外と強力な能力を持っているらしい。
「……これでいい?……お義父さま」
薔薇水晶が、聞いてくる。
「……ああ。よくやった。薔薇水晶」
「…………………」
言葉にはしないが、褒められて嬉しそうだ。
「……さて、行こうか」
扉を、くぐる。
654 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:03:43.96 ID:c2VpDRbn0
―――自分の世界に、誰か、入ってきた。
それに気付いても、反応はしなかった。
痛くて。苦しくて。情けなくて。
何かをする気力なんて、ない。
思考だけが、わずかに動いて、
誰が入ってきたのか、それをぼんやりと考えて。
―――その候補は、数えるほどしかいないことに気付く。
びくっ、と、その事実に恐怖し。
とにかく。逃げようとして。
顔を上げたときには、遅かった。
「―――なにやってんだ、雪華綺晶」
657 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:07:29.90 ID:c2VpDRbn0
( ―――――――――!)
とにかく、逃げようとする。
けれど、
「こら、逃げるな。ていうか、逃がさないからな」
手を掴まれて。
離れ、られない。
(……いや、いや………!)
離れ、たい。
離して。
「ああ、くそ、泣くな。頼むから泣くなよ」
手を、引っ張られ。
力無い体が、引き寄せられる。
「………だから、泣くなって」
温もりが、身体を、包む。
661 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:12:27.47 ID:c2VpDRbn0
(嫌、です。嫌。これは、いや)
逃れようとする。
「おい、こら、落ち着けって!」
(怖い。こわい。こんなの、)
逃れられない。
「泣くな。暴れるな。……逃げるなよ」
(これは、駄目。こんなの、こんなの)
力の限り、離れようとする。
「雪華綺晶!おい、落ち着け……!」
(こんなに、温かかったら。雪華綺晶は)
力の限り、逃げようとする。
「雪華綺晶…!!」
(雪華綺晶は、崩れて―――!)
「………お義母さま。……なぜ、泣いているの?」
662 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:14:07.85 ID:RVd4ExOV0
……なん……だと?
663 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:14:21.54 ID:dYR6bN7n0
なん・・・だと・・・?
666 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:17:13.73 ID:c2VpDRbn0
「………え……?」
場違いな、声。
不思議げな、言葉。
「……お義父さまに抱かれて、なんで、泣くの……?」
きょとん、と。
首をかしげて、言ってくる。
「………あ。薔薇水晶が、お義父さまに会えたときと、一緒……?」
無表情ながらも、嬉しげに言ってくる。
「……嬉しいんだよね……!」
意味が分からない。
667 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:22:58.56 ID:c2VpDRbn0
「……あー、薔薇水晶」
いきなり妙なことを言い出した義理の娘?に聞いてみる。
「お義母さまってなんだ」
「え……?……お義母さま」
雪華綺晶を指差す。
雪華綺晶も、なんだかあっけにとられている。
「待て。いや待て。どういうことだ。いや、お前そっくりだけど、まさか」
実は雪華綺晶の娘だったのか。
混乱しながら聞くが。
薔薇水晶は、首をかしげて。
「………お義父さまのいい人。……お義母さま」
「待てそこ」
薔薇水晶の頭のなかでは、なにやら独自の人物相関図が形成されたらしい。
673 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:28:07.58 ID:c2VpDRbn0
「……違うの?」
「いや、いい人ってな……」
「…………違うの?」
返答に困る。
別に、恋人とかそういうのでは、ないのだが。
「……お義父さまの、大切な人、じゃないの?」
よく分からなそうに首をかしげている薔薇水晶。
「………いや、大切っていうか、なんていうか………あー」
自分でもよく分かっていない。
「……ほっとけない、っていうのは、大切、ってことか………?」
つい考え込んでしまう。
「……?……お義母さまは?」
考えこんだジュンから、雪華綺晶に質問の対象を変える。
「……え。………あ、……私は………」
いきなり話を向けられた雪華綺晶も、うろたえている。
675 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:32:19.05 ID:c2VpDRbn0
「……お義母さまは、お義父さまのこと、大切じゃないの?」
何の含みもない、純粋な瞳で、紫の少女が聞いてくる。
「……私、は……」
彼が、大切?
それは。
そんなことは。
「………そんなことは、だめ、なのです……」
681 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:37:24.45 ID:c2VpDRbn0
「……駄目?」
紫の少女が、首をかしげる。
「駄目、なのです。それは、いけません」
彼女に、言い聞かせるように。
自分に、言い聞かせるように。
雪華綺晶は、言葉を絞り出す。
「それは、駄目。私は、アリスになるのですから。
彼が、大切だなんて、そんなことは。
―――私の、大切な人は、お父様です」
そう。
雪華綺晶は、お父様のための存在。
だから、お父様以外なんて……
雪華綺晶の答えに。
紫の少女はやはり、首をかしげる。
「……よく分からないけど。大切な人って、何人もいたらだめなの?」
683 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:41:37.56 ID:c2VpDRbn0
「………え?」
「薔薇水晶には、お父様も、お義父さまもいるよ?
……お義母さまだって、いるよ?
それは、だめなの?」
心底、分からないふうに、紫の少女、薔薇水晶は、聞いてくる。
「……お義母さまのお父様と、お義父さま。
両方大切に思うのは、いけないことなの……?」
「……両、方……?」
そんな発想は、今まで、なかった。
雪華綺晶は、ずっと、お父様だけを見ていたから。
大切なものが、いくつもあるなんて、考えたこともなかった。
「………お父様、以外……」
そんな選択が、あるのだろうか。
「……私、は………」
690 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:48:55.10 ID:c2VpDRbn0
「………雪華綺晶、とりあえず落ち着いたか」
「……あ………」
少年の声に、自分の状態を認識する。
雪華綺晶は、少年の胸に抱かれたまま。
………やはり、とても、温かい。
「………はい。落ち着いたので、離してもらえませんか」
そういえば、自分は激しく取り乱していた。
この体勢はそれを抑えるためのものだが、
薔薇水晶の不意の言葉に呆気に取られ、今は収まっている。
この体勢でいる必要性はないはず。
だが。
「逃げられると嫌だから。離さない」
少年は、にべもない。
離そうとする気配はまったくない。
仕方なく、ひとつ息をついて。
「………分かりました。とりあえずは、このままで、いいですわ」
696 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:53:36.56 ID:c2VpDRbn0
「…………くそ、再構成に時間が掛かったな」
男は、苛立たしげに、呟く。
「まったく、なんだあの速度は。崩壊というよりも破壊だったが……」
床に突っ伏した状態から起き上がりながら、体を点検する。
「………支障はないな。破損の状況から見るに、僕に対する攻撃というわけでもなさそうだが……」
しばらく納得できない風の表情で考え込んでいたが、振り払うように首を振る。
「まあいい。実害はない。そんなことより、ずいぶん長く家を空けてしまったし、何よりあの子を……」
周りを見渡し、誰もいない、店を見る。
「……………おい、薔薇水晶?」
698 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:57:03.24 ID:c2VpDRbn0
「……あの」
「ん?」
「……やはり、私が貴方になんらかの感情を抱くのは、駄目だと思うんです」
「……なんでだ?」
「大切な人が、何人いたって、いいのでしょうけれど。
でも、私の場合は、違うんです」
「違う?何が」
「私は、お父様のための存在だから。アリスにならなくてはいけないから。
その為に障害になるならば、貴方を、その、大切に思うのは、あってはならないんです」
「………………」
「私は、純粋な少女でなくては。穢れなく、完全な少女でなくてはならないんです。
そのためには、お父様以外に関わっては……」
「なあ、お前のお父様、ローゼンって、どういうやつなんだ?」
700 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:59:34.17 ID:c2VpDRbn0
「え?」
「お前らってさ、ローゼンのことすごく好きみたいだけど。
ローゼンっていうのは、そんなにいい奴なのか」
「……当然ですわ。お父様は、素晴らしい方です。大きな、方です」
「優しいのか」
「優しいですわ」
「すごく、優しいか」
「とても、優しいですわ」
「……それだと、おかしいことになると思うんだけど」
「え……?」
「そんな優しいやつが、自分の為に娘を苦しませるのか?」
702 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:02:22.74 ID:c2VpDRbn0
「……自分の為に、苦しませる、ですか」
「だってそうだろ。お前らがアリスになるのは、ローゼンの望みだからだろ。
ローゼンのそのわがままのために、お前らが苦しんでるんだろ?」
「私は、苦しんでなど……!」
「泣いてただろ、お前」
「あ………」
「明らかに、苦しんでるだろ、お前。
あんな風に泣くぐらい、苦しんでただろ」
703 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:04:03.45 ID:c2VpDRbn0
「………………私、は」
最初に、泣いてしまったのは、少年に嫌われたから。
でも、その後で、少年から離れようとしたのは、アリスでありたかったから。
「お前が、アリスになるために苦しんでるのは、確かだ。
それは、絶対に、否定できない」
「…………………」
「そうなると、やっぱりおかしい。
ローゼンが優しいやつなら、自分の娘を自分のわがままで苦しめたりしないだろ」
「……それは………」
「それを、おかしくないようにするなら、
ローゼンが実は全然優しくない、自分勝手な糞野郎だったりするか……」
「そんなことは……!」
「お前らが、ローゼンの気持ちを、全然分かってなかったりするかだ」
706 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:08:08.87 ID:c2VpDRbn0
「………私達が、お父様の気持ちを……?」
「ローゼンが、優しいやつなら。自分の娘に苦しんでほしくなんかないだろ。
でも、お前はローゼンの望みのためとか言って、苦しんでる。
それは、ローゼンの望んだことなのか?」
「………………」
「ローゼンがどんなやつかなんて、僕は知らない。
でも、お前らが好きなやつなんだろ?
お前らが好きなローゼンは、そんなことを望むやつなのか?」
709 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:14:11.90 ID:c2VpDRbn0
少年の、言葉に。
雪華綺晶は、分からなくなってしまう。
お父様は、自分達に何を望んだのか。
自分は、何をすればいいのか。
「………お父様の求めるものは、アリス……」
アリスを求める父。
父の為に、アリスを目指す娘。
けれど。
「……お父様は、とても優しい人………」
アリスになるために、涙を流したら。
お父様は、喜ぶのだろうか?
「……分かり、ません……」
雪華綺晶には、父が、分からない。
711 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:21:56.10 ID:c2VpDRbn0
雪華綺晶は、何も言わなくなってしまった。
ジュンの言ったことを、考えているらしい。
(……部外者が言い過ぎたかな)
アリスとかアリスゲームとか、全てはローゼンとドール達の問題だ。
ジュンには正直、関係のないことだと思う。
(でも、気になったこと言っただけだし)
最初に真紅にアリスゲームのことを聞いたときも、ひどい話だと思った。
そのゲームをやらせているお父様とやらは、よほどひどいやつなのだろうと。
だが、真紅や雪華綺晶によれば、お父様は素晴らしい方らしい。
それってなんか変じゃないか、と思っていたのだ。
714 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:27:14.91 ID:c2VpDRbn0
「……あの」
雪華綺晶が、見上げてくる。
「ん?」
「……一度、貴方は帰ってくれませんか」
「………………なんで」
「私は、どうするべきなのか、考えようと思います。
貴方のことを、どうするべきなのか。
その考えが、決まるまで、貴方には、離れていてほしいんです。
貴方の温もりに触れていていいのか、まだ、分からないから」
つまり、お父様のために他の全てを捨てる、という選択をしたときのために、
ジュンにはできるだけ関わらないでおこう、ということか。
715 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:27:39.82 ID:c2VpDRbn0
「…………分かった」
なんだかすっきりしないものはあるが。
どうするかを決めるのは、雪華綺晶だ。
「どうするか決まったら、お伝えします。
どんな、答えでも」
雪華綺晶が、ジュンから離れる。
ジュンも、止めない。
「では」
「……ああ」
716 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:27:50.69 ID:PvZ3mEpd0
ローゼンの8巻の内容をこういう感じにしてほしかったな
717 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:32:44.83 ID:c2VpDRbn0
広間を、出ようとして、
「……あ、薔薇水晶、帰るぞ」
薔薇水晶を呼ぶが。
「……お義母さまの傍にいる」
薔薇水晶は、雪華綺晶に寄り添い、離れようとしない。
「え?……どうしたんだ?」
さっきまでジュンにべったりだったのだが。
どういうことかとのジュンの質問に。
「……お義母さま、一人だと、寂しいでしょ……?」
当たり前、と言わんばかりに、薔薇水晶は答える。
「………ああ、そうか」
薔薇水晶も、父が帰ってこなくなって一人で寂しい思いをしたのだ。
それを、雪華綺晶には味わってほしくないらしい。
719 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:38:25.21 ID:c2VpDRbn0
「………どうする?」
雪華綺晶に、聞く。
薔薇水晶の気持ちは微笑ましいが、
雪華綺晶が一人になりたいというのなら、薔薇水晶は連れて帰るべきだ。
ジュンの視線に、雪華綺晶は少し考えて、
「……支障はないですわ。ドールに、温もりはありませんし」
薔薇水晶の手を取って、言う。
「………この子の気持ちを無下にするのも、忍びないですわ」
720 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:41:07.79 ID:c2VpDRbn0
「……あ。ジュン、帰るですか?」
城の外で待っていた翠星石が、顔を上げる。
「ああ。とりあえず話はついたから」
「……上手くいったです?」
「今は待ち、だな。とりあえず、帰ろう。……あれ、真紅は?」
「……そーいえば呼んでなかったですね。
ここへの扉を見つけてすぐジュンを呼んで、そのままここに来ちゃったですから」
「あー……怒ってるな。間違いなく」
「………やっぱ帰るのやめるです」
「……そうもいかないんだよな。僕もそろそろ眠いし」
「……うう。翠星石もです。……しかたねーですね……」
「諦めて帰ろう」
「ですぅ」
724 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:52:43.15 ID:c2VpDRbn0
少年が帰ったのを、感じる。
今、城には雪華綺晶と薔薇水晶だけ。
「……では、どうしましょうか」
考えなくてはいけない。
これから、どうするか。
「お父様のこと。私達のこと」
よく、考えてみれば。
雪華綺晶は、いや、きっとドール達全ては。
お父様の気持ちを、ほとんど知らないのだ。
それは、お父様のための存在である自分達のことも、
理解していないということ。
「………どうしましょうか」
725 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:54:02.25 ID:c2VpDRbn0
「………ふぁう」
思考が、変な声で遮られる。
「……薔薇水晶さん。眠いのですか」
薔薇水晶が、小さなあくびをしていた。
「……うん」
「貴女も、睡眠を必要とするのですね。
無理する必要はありませんわ。お休みなさい」
ふるふる、と、薔薇水晶は首を振る。
「……お義母さまと一緒」
「けれど、眠いのでしょう?」
「………お義母さまと一緒」
その、妥協する気のなさそうな返事に。
「……仕方ありませんね。一緒に寝ましょうか」
雪華綺晶は、苦笑する。
727 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:01:35.77 ID:c2VpDRbn0
雪華綺晶は睡眠を必要としないが、
雪華綺晶の世界は城の形態のため、一応寝室は存在する。
「どうぞ、物質ではないので、汚れたりはしていません。
安心して、横になりなさい」
「……うん」
白いベッドに、二人で横になる。
薔薇水晶は、本当に眠そうだ。
それでも、雪華綺晶のドレスの裾は離そうとしない。
「……薔薇水晶さん。逃げたりはしませんわ。
だから安心なさい」
「………うん」
裾から手は離したが、
「…………お義母さま……」
もぞ、と、すり寄ってくる。
「……仕方のない子ですね」
薔薇水晶の求めに答えて。
薔薇水晶を、抱きしめる。
733 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:08:09.96 ID:c2VpDRbn0
「…………すぅ」
穏やかに寝入った、薔薇水晶の寝顔を見る。
(………まさか、こんなことになるとは、思いませんでしたわ)
雪華綺晶は、薔薇水晶をずっと前から知っている。
かつて、器を求めて試行錯誤していた頃。
父には遠く及ばないものの高い技術力を持つ人形師が、
ローゼンメイデンに匹敵するドールを作ろうとしているところに干渉し、
自分の操りやすい身体を作らせ、奪おうとしたことがある。
結局その人形師の理想と雪華綺晶の求めたもののズレが大きすぎて、
姿を似せる程度しか干渉できず、器として奪うことも出来なかったが。
まさか、その人形とこんな風に触れあうことになるとは。
「…………不思議ですわね」
735 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:13:31.39 ID:c2VpDRbn0
「…………んぅ……?」
もぞり、と薔薇水晶が動く。
雪華綺晶の呟きに反応してしまったらしい。
「あら、ごめんなさいね」
薔薇水晶の髪を、静かに撫でる。
「………………」
続けていると、また穏やかに眠りはじめた。
その姿を見て。
「…………………くす」
自分が、微笑んでいるのに気付く。
「……こういうものも、はじめてですわね……」
悪い気分では、ない。
737 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:20:38.23 ID:c2VpDRbn0
そして、考える。
(……私は今、幸せなのでしょうね)
可愛らしい、娘と一緒に、
穏やかな、時間を過ごしている。
(……これは、いけないことなのでしょうか)
アリスになることを目指すなら、これは不要なこと。
こんなことをしていないで、ドールのマスターを喰らうべき。
(……お父様なら、どうするべきだと、言われるのでしょう)
お父様は、アリスを求めている。
そんな不要なことをするなと、言うだろうか。
(………けれど、この時間は)
とても、離しがたい。
739 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:24:37.79 ID:c2VpDRbn0
アリスになれと、そう言う父は想像できる。
けれど、
その為に苦しめ、と言う父は、想像できない。
(………結局は、そういうことでしょうか)
薔薇水晶の寝顔を、眺める。
とても、可愛らしい。
(きっと、この気持ちは、娘を見る気持ち)
自分に懐いている、子供を見る気持ち。
(それなら、きっと、お父様も)
742 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:26:26.93 ID:c2VpDRbn0
さらさらとした、娘の髪を撫でる。
穏やかな寝顔に、微笑む。
優しく、抱きしめて。
―――白い少女も、眠りについた。
746 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:36:13.92 ID:5rcRqGnNO
あぁ…なんだろうすごいなごむ…
747 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:37:11.21 ID:c2VpDRbn0
「やっぱり、どんな状況でも事態の情報は伝えるべきだと思うのだわ。
特に、今回は火急というわけでもなかったのでしょう。
時間はあったのだから、せめて一言私にも……」
「悪かった。悪かったって。もう何十回目だその小言……」
「小言?小言ですって?これは正当な抗議よ。
私が一体何時間nのフィールドを探し回ったと……」
「………真紅はしつこいですぅ」
「なんですって!大体ああなったのはそもそも貴女が……!」
「しまったです!矛先がこっちに向いたですぅ!」
「逃げるんじゃないのだわ翠星石!私の話をちゃんと聞きなさい!」
749 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:39:03.93 ID:c2VpDRbn0
「……ふう、助かった」
翠星石を追って走り去っていく真紅の背中に、隠れて安堵の息をつく。
昨夜一人だけ放置されていたことに、真紅は怒髪天を衝く勢いだ。
事実真紅の怒髪はジュンと翠星石に牙を向いている。
「……まあ、それは置いておいて」
全身の痛みを忘れようと頭を振り、窓を眺める。
「あいつ、どうするのかな」
白い少女のことを考える。
そして。
「……僕は、どうしてほしいんだろうな」
753 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:43:41.74 ID:c2VpDRbn0
正直、ジュンは自分が雪華綺晶のことをどう思っているのか、よく分からない。
「ほっとけない、っていうのは間違いないんだけど」
それは、薔薇水晶が言ったように、大切な人、ということだろうか。
「……泣いていてほしくない、っていうのも確かだな」
でもそれは、きっと他の誰に対しても持つ思いだろう。
「後は、そうだな……」
少し、考えて。
「……あいつを抱いてると、なんかなごむな」
それは特別なのかどうなのか。
「……やっぱよく分からないな」
756 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:49:29.06 ID:c2VpDRbn0
「薔薇水晶さん。行きましょうか」
「うん」
娘の手を引いて、自分の世界を出る。
二人で、nのフィールドをゆく。
758 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:52:07.19 ID:c2VpDRbn0
世界を、渡りぬけながら。
「お義母さま」
「なんですか?」
「お義父さまは、お義母さまの、大切な人?」
薔薇水晶が、聞いてくる。
「……そうですね、」
雪華綺晶が、答えようとして。
「……あ。」
不意に、薔薇水晶が虚空を見る。
764 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:55:49.58 ID:c2VpDRbn0
「どうしたの、薔薇水晶さん」
「お父様が、呼んでる」
すごく、嬉しそうだ。
だが、
「あ……」
ちらちらと、雪華綺晶に視線をやる。
なんだか、困っているようだ。
その姿に、雪華綺晶は笑みをこぼす。
「いいのよ、薔薇水晶さん。行ってらっしゃいな。
私は、一人で行ってくるから」
雪華綺晶の言葉に背中を押され、
「……うん」
薔薇水晶は、飛び去っていく。
その背中を見送って。
「……では、私も行きますわ」
少年の、もとへ。
769 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:00:47.11 ID:c2VpDRbn0
「お父様……!」
鏡から、飛び出す。
そこは小さな店。
「薔薇水晶」
長身の男が、薔薇水晶を抱きとめる。
「お父様、よか、よかった。どこ、いってたの……」
男の胸の中で、薔薇水晶が喜びの涙を流す。
「ああ、すまなかった。心配をかけたようだな。
本当に、すまなかった」
男は、薔薇水晶を強く抱きしめる。
771 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:04:07.58 ID:c2VpDRbn0
「ふ、ぇ。……よかった」
男の腕の中で、安心したように、薔薇水晶はつぶやく。
「心配をかけた。薔薇水晶」
男は、薔薇水晶が落ち着いたのを見て取って、
「ところで、だ。薔薇水晶」
「…はい……?」
「お前、なんでローゼンのドールと一緒にいた?」
厳しい声で、問う。
777 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:10:01.46 ID:c2VpDRbn0
「………お父様?」
薔薇水晶には、男の言っていることが分からない。
「……ああ、そうか。お前にはまだ教えていなかったな。
ローゼンのことも、お前を作った目的も」
自分の拙速を恥じるように、男は少しの間目を閉じる。
「…………?」
「……言い直そうか。さっきまで一緒にいたやつがいるだろう。
そいつとは何で一緒に行動してたんだ」
「……お父様を探してて、見つからなくて、ええと、お義父さまに会って……」
思い出しながら離す薔薇水晶の言葉は、いまいち要領を得ない。
「………?まあ、とにかく、僕を探してるときに会ったってことか」
「あ……はい」
782 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:17:55.30 ID:c2VpDRbn0
「……あれは、七番目だな。初めて見たが……薔薇水晶に似ていた。
どういうことだ。………………あいつ。精神体だったな」
ぶつぶつと、男は考え込む。
「……お父様……?」
薔薇水晶の呼びかけに、男は応えない。
「………くそっ!そういうことか!僕を利用しようとしたな……!」
苛立った声を上げる。
「………お父様…?」
「………そうなると、あいつは、精神干渉能力があるわけか……。
精神属性の高い能力か。薔薇水晶とは極めて相性がいい」
「……お父様?」
「……腹も立つしな。最初の標的は、あいつにしよう」
哂って。
「薔薇水晶。あいつを、壊して来るんだ」
794 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:23:57.40 ID:c2VpDRbn0
「……え………?」
「まだ話していなかったが、僕の目的は、あいつらを作った人形師を越えることなんだ。
僕が作ったお前が、ローゼンが作ったあいつらを壊せば、僕があいつを越えた証明になる。
だから、お前にあいつらを壊してほしい」
「……壊、す……?」
「そうだ。簡単なことだ。あいつらはお前よりずっと出力も低いし、能力も大したことない。
七番目だけは分からないが、おそらく精神干渉系の能力。
精神干渉を受けない性質のお前なら、手こずることもないだろう。
七番目が、腕試しには一番いいかもしれん。
まあ、腕試しなんて必要もないと思うが」
798 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:26:55.92 ID:c2VpDRbn0
「…………………」
「手始めに、さっきまで一緒にいたあいつ。
あいつを壊して、あいつの中にあるローザミスティカを奪ってくるんだ。
そうすれば、お前は力を手に入れて、一段と高次の存在になる」
「…………………」
「やってくれるな?」
「…………………」
「……薔薇水晶?」
「……………嫌……」
799 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:27:02.69 ID:k+FPrDmxO
お父様空気読めし
801 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:28:43.82 ID:FOsJEGXE0
やめてくれ・・・
803 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:29:05.16 ID:c2VpDRbn0
「……なんだって?」
「……嫌。…嫌です」
「お、おい、薔薇水しょ……」
「絶対に嫌……!!」
「おい!?ま、待て……!」
808 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:32:45.02 ID:c2VpDRbn0
こんこん、と、ノックのような音。
「ん?」
窓を見れば。
外の風景は見えず、代わりに見えるのは、白い人影。
「……雪華綺晶」
くす、と。
窓硝子の向こうから、少女が微笑みかけてくる。
813 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:38:35.53 ID:c2VpDRbn0
雪華綺晶に手を引かれて、nのフィールドへ。
「ごめんなさい。私は今、身体がないから」
雪華綺晶は本来、nのフィールドにしか存在できない。
現実世界には指の一本も出すことは出来ない。
だから、話したり触れ合ったりするためには、ジュンもnのフィールドに入る必要がある。
「いいよ。………それで、決まった?」
雪華綺晶の表情を見て、なんとなく答えは分かったのだが、
ちゃんと雪華綺晶に確認を取る。
「ええ。私は……」
そこに。
「お義母さま!!」
どんっ、と、飛び込んできた小さな人影。
817 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:43:15.15 ID:c2VpDRbn0
飛んできた勢いに押されて、雪華綺晶が倒れこむ。
「きゃっ………、……薔薇水晶さん?」
雪華綺晶は、自分に抱きついている娘に呼びかける。
「……えっぐ……えう………お義母さまぁ……」
薔薇水晶は、泣いている。
「……どうしたのですか?貴女のお父様のところに行ったのでは……」
とりあえずあやしながら、事情を聞いてみる。
「……お父様が、お父様が………」
ぽつり、ぽつりと、薔薇水晶は話し始める。
821 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:49:00.69 ID:c2VpDRbn0
薔薇水晶の話は、とても断片的で把握しづらかったが、
雪華綺晶は理解したようだ。
「……そう。あの人に、私を壊せ、と言われたのですね」
「……ふぇっ………でも、私……そんなの……」
「分かっていますわ。だから、ほら。泣かないで」
「……………お義母さまぁ……!」
「あらあら。余計に涙が増えてしまいましたわ」
824 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:52:52.34 ID:04ktD99z0
ばらしーがお父様以外を選んだ!!
825 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:53:35.44 ID:c2VpDRbn0
雪華綺晶が、薔薇水晶をあやしている。
その光景。
はじめて見る、優しい表情。
それはとても、女性的で―――
「……どうかしました?」
「あ、いや、なんでもない」
ジュンは、慌てて目を逸らす。
「………?」
雪華綺晶が怪訝そうに視線を送ってくるが、黙ってやり過ごす。
(………なんだ今の。なんかすごくどきっとしたけど)
826 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:56:08.22 ID:c2VpDRbn0
「……それで、そのお父様の命令が嫌だったから、ここに来たのね?」
優しく、雪華綺晶が聞く。
「………私、…お義父さまの家の子になる………」
「あらあら」
「……ほんとだもん………」
「あらあら」
832 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:00:44.52 ID:c2VpDRbn0
なんだかやけに微笑ましい光景はさておいて。
「……で、僕はいまいちよく分かってないんだけど。
なんでそいつは雪華綺晶を壊そうとしてるんだ?」
薔薇水晶をあやしながら、雪華綺晶が答える。
「この子の作り手は、お父様に対抗意識を持っているんです。
私達を壊すことで、お父様を越えたことを証明したいのでしょうけれど……」
くす、と、薔薇水晶を見て笑い。
「この子は、私と貴方に懐いてしまいましたので、それができなくなってしまったようで……」
「なるほど。どうやったかは知らんが、僕の薔薇水晶に干渉したわけか」
怒りに染まった、声がした。
835 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:03:56.66 ID:c2VpDRbn0
「え……」
ジュンが、声のした方に振り向くより速く。
「……がっ…!?」
雪華綺晶が、薔薇水晶から引き離される。
「お父様……!?」
薔薇水晶が悲鳴を上げるが、
雪華綺晶の首を掴みあげる男は、ただ雪華綺晶を睨んでいる。
840 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:09:28.48 ID:c2VpDRbn0
「薔薇水晶は、精神的属性を受け入れないようになっているはずなんだが。
それでも干渉が可能だとはな。さすがはローゼンのドールだ」
憤怒をその声ににじませながら、男はひとりごちる。
「だが、僕の薔薇水晶に手を出した罪は重い。
こんなつもりはなかったが、この際、僕直々に貴様を壊してやる」
雪華綺晶を自分の顔に引き寄せ、視線を合わせながら、恫喝する。
「お父様、やめて……!」
薔薇水晶の懇願にも、
「薔薇水晶。少し待っていろ。こいつを壊して、その後お前を直してやるからな」
男は、その手を緩ませない。
843 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:12:57.33 ID:UBA+N0dGO
えんじゅてめえぇぇぇぇえ!!
845 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:13:35.20 ID:c2VpDRbn0
「……槐。私は、その子に、手を出してなどいませんわ」
首を絞められながらも、淡々と、雪華綺晶が言う。
「ぬかせ。僕がいない隙を狙って干渉したんだろうが。
僕の目的をこの子が知る前に、掌握するために」
男、槐は、取り合わない。
「私は、あくまで、普通にその子と接して……」
「黙れ」
「がっ……!?」
ばきり、と、雪華綺晶の全身が軋む。
「貴様の言葉などに用はない。
黙って、壊れろ」
不可視の力が、雪華綺晶を、軋ませる。
846 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:15:28.21 ID:c2VpDRbn0
雪華綺晶の、軋みに。
「あ……」
呆然と、事態を見ていただけのジュンが、正気に戻る。
「や、やめ……」
びぎっ、と軋む。
「やめろ!!!!」
飛び出して。
850 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:20:37.23 ID:c2VpDRbn0
「……ああ?」
槐が、鬱陶しげに目をやる。
「ドールのマスターか。はっ!ただの人間が、何ができるんだ?」
雪華綺晶を締め上げている腕とは別のもう片方の腕で、
ジュンの顔面を掴む。
「わっ……!」
もがく。
が、槐の腕は、とてつもなく、硬く、剛い。
「邪魔だ」
「ぐあああ!!!?」
激痛が、全身を走る。
851 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:21:35.91 ID:RVd4ExOV0
なんという超人
857 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:25:08.80 ID:c2VpDRbn0
顔面を掴まれたままもがくジュンを嘲るように見て。
槐は、雪華綺晶に向き直る。
その、冷たい目に。
今度こそ、壊される。
雪華綺晶にも、ジュンにも、それが分かった。
「じゃあな。
僕の薔薇水晶に手を出したことを悔やみながら、
永遠に眠」
どごう!!!!!
水晶の柱が、槐を打ち砕いた。
861 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:28:37.93 ID:c2VpDRbn0
「………お義母さまを、いじめないで」
無表情な少女が、呟く。
「………お義父さまを、いじめないで」
怒りをその目に宿らせながら。
「………お父様の、ばかあああああああ!!!!!!!!!」
水晶の柱を、ぶち放つ。
863 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:29:17.73 ID:7WxrRZHBO
エンジュざまぁ
864 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:29:19.39 ID:eNms1iVxI
うっひょーい
868 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:32:13.77 ID:c2VpDRbn0
槐が、宙を舞う。
「………うおお」
槐が、空を舞う。
「…………薔薇水晶さん……」
ていうかもはやあれは肉塊と化してないか。
「ばかああああああああ!!!!!!!」
「………やりすぎじゃね?」
「……まあ、きっと大丈夫ですわ」
874 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:34:20.76 ID:m6NqiFr40
肉塊てwwwwJUM冷静すぎww
875 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:36:54.84 ID:c2VpDRbn0
「はあ、はあ、はあ……」
薔薇水晶の息が上がっている。
いつも小さな声でしゃべっている子が、全力で叫んでいたのだから当然だ。
「……大丈夫か、薔薇水晶……」
槐のことは見なかったことにして、薔薇水晶に声をかけるが、
「くっ……薔薇水晶……なぜだ……」
肉の塊になっていたはずの槐が、起き上がる。
化け物じみているとは思っていたが、これほどとは。
「……お義母さまを、いじめないで」
薔薇水晶が、槐を睨む。
879 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:41:41.77 ID:c2VpDRbn0
「ば、薔薇水晶。今のは酷いんじゃないのか。
僕は確かに不死ではあるが、痛みは一応感じる身体であってな……」
「お義母さまをいじめたお父様が、悪い」
きっぱりと、薔薇水晶は槐の抗議を突っぱねる。
「……さっきから、お義母さまってなんなんだ、薔薇水晶。
一体そいつに何をされて……」
「私は何もしていないと言っているでしょう。
貴方が彼女を一人にするから悪いのですよ」
雪華綺晶が、堂々と、槐に諭す。
886 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:44:39.56 ID:c2VpDRbn0
「……どういうことだ」
「貴方がいきなりいなくなるから。
この子は寂しくてたまらなかったのです。
そこに彼と私がいたから、私達に甘えた。
当然のことではないですか」
「………………」
「私達やその子に責任を求めるのは見当違いですわ。
貴方が全て悪いのですから」
896 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:49:13.27 ID:c2VpDRbn0
「……確かに、薔薇水晶に寂しい思いをさせたのは悪いと思ってる。
だがな、僕だって好きで薔薇水晶から離れたわけじゃないんだ」
「あら、じゃあ、どうしてですの」
「nのフィールドでインスピレーションを求めて、歩いていたときに、
なぜか世界がいきなり壊れたんだ。
あまりにいきなりだったから、僕も少し崩壊に巻き込まれた。
身体を修復するのに時間が掛かったんだよ」
「……世界が、壊れた?」
「そうだ。亀裂みたいな白い茨が世界に侵食して、いきなり世界が壊れたんだ」
「…………………………」
907 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:54:13.79 ID:c2VpDRbn0
思い出すのは、雪華綺晶がジュンから逃げていたときのこと。
雪華綺晶はジュンから逃げるために、世界ひとつまるごと破壊して逃げた。
(どう考えてもあの時のだな)
薔薇水晶が一人になってしまった原因は、あれだったらしい。
(これは困った。こいつに責任を全て押し付けられる状況じゃあ……)
「そんなことは関係ありませんわ。彼女を一人にした貴方が悪いのです。
父親なら、どんなことがあっても娘を泣かせるべきではありませんわ」
(平然と流した!!)
912 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:00:22.61 ID:c2VpDRbn0
「く……だが、だがな……」
納得できなさそうな槐を無視して、
「薔薇水晶さん。これは全部お父様の勘違いだったらしいわ。
きっと、私を壊せ、っていう命令も、勘違いですよ」
薔薇水晶に、言う。
「……そう……なの?」
薔薇水晶が、槐を見る。
「お、おい!違うぞ!僕はお前らを壊して……!」
「これ以上娘さんに嫌われたいのですか?」
「…………!!」
小声で、槐の反論を潰して。
雪華綺晶は、薔薇水晶に微笑む。
「だから、貴女は、私たちと争う理由も、お父様と喧嘩する理由もないのですよ」
915 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:04:08.47 ID:FOsJEGXE0
カカア天下・・・w
917 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:04:37.51 ID:c2VpDRbn0
雪華綺晶に身動きを封じられ、渋々と槐は帰ろうとする。
「………薔薇水晶?」
「……今日は、お義母さまと一緒にいる」
やっぱりまだちょっと怒っているらしい。
肩を落として、槐は帰っていった。
「………迷惑なやつだったな」
責任の一端は自分達にあるのが後ろめたいが、黙っておこう。
また怒られても嫌だし。
「迷惑な方も、帰られましたし。話の続きを、いたしましょう」
雪華綺晶が、微笑んでくる。
919 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:09:19.51 ID:c2VpDRbn0
そういえば、大事な話の途中だった。
「……そうだったな。それで、どうするんだ?」
「私は、幸せに、なろうと思います」
雪華綺晶は、微笑む。
「お父様は、とても優しい方だから。
私達の涙なんて、見たくないはずだから。
………これは、私の推測に、過ぎないですけれど。
それでも、私は。
お父様は優しい方だって、信じています。
だから。」
ジュンを見つめて。
「貴方の温もりを、感じさせてください」
923 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:10:49.53 ID:c2VpDRbn0
雪華綺晶の、願いに。
「そうか」
抱きしめることで、応える。
「……やはり、温かいですわ」
雪華綺晶が、嬉しげに、つぶやく。
925 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:11:42.45 ID:PhN0sMKq0
プロポーズだと・・・あががががあがっがががががっがあ
931 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:14:55.95 ID:0rHlAW9SO
( ゚д゚)槐がかわいそうに…
ならないな( ゚д゚ )
932 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:15:09.92 ID:c2VpDRbn0
「……やっぱ、いいよな、これ」
雪華綺晶も幸せそうだが、ジュンもなんとなく幸せだ。
「なんていうかずっとこうしていたい感じだ」
だが、ジュンの言葉に、雪華綺晶が顔を曇らせる。
「……それは、できないんですわ」
「え?」
「私は、もう器がないから。
貴方の世界に、私は行くことが出来ない。
貴方がこちらに来たときだけしか、触れ合えません」
「……そう、だな。それは、ちょっと残念か」
ジュンにも、現実世界での生活がある。
今でこそ引きこもりだが、復帰に向けて頑張っているのだ。
そう長い時間、こちらにはいられない。
937 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:17:59.06 ID:c2VpDRbn0
くい、と。
「ん?」
薔薇水晶が、見上げている。
「……お義母さまは、身体が、ほしいの?」
「……薔薇水晶?」
ジュンは、薔薇水晶が何に興味を持ったのか、分からなかったが。
「……あ」
雪華綺晶は、気付いたらしい。
「………薔薇水晶さん。頼んでもらえるかしら」
薔薇水晶は、嬉々として、答える。
「うん!」
949 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:24:49.28 ID:c2VpDRbn0
そして。
「やっほー真紅ちゃん翠星石ちゃん雛苺ちゃんきゃああかあああああわああああいいいいいいいいい!!!!!」
「ぎゃあああ!!!離せですデカ人間!!!!!」
「熱い!熱いのだわ離しなさい!」
「マサチューセツウなのー!」
「違うわ雛苺!マサチューセツーかしらーって間違え」
「きゃああああやっぱりカナがいちばんかわあああいいいいいいい!!!!!」
「マサチューセッツー!!!!!!」
「うるさい帰れ」
「やージュンジュン。今日も元気に引きこもってるー?」
「だまれ帰れ」
961 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:31:30.61 ID:c2VpDRbn0
「……あれ?ジュンジュン。その子は?……まさか、新しい子?」
「抱かせないからな」
「ええええええ!!!!!?かわいいよう抱かせてようわたしにもー」
「断る」
「ジュンジュンばっかずるいー」
「断る」
「………ん………?」
「ああ、もう。あんたのせいで雪華綺晶が起きただろ。
謝罪として帰れ」
「もー。やってほしいことがあるの。ちょっとこれ見てー」
「また添削か。はいはい……」
「…………ん……」
雪華綺晶は、みつのノートを見る、ジュンの顔を眺める。
968 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:35:52.42 ID:c2VpDRbn0
雪華綺晶の身体の問題は、薔薇水晶が解決した。
彼女の父である槐は、超一流の人形師であり。
雪華綺晶が器とするに足る人形を作れる希少な存在だった。
槐は当然薔薇水晶の申し出に渋っていたが。
「……あっちのお義父さまの家の子になる………」
薔薇水晶には勝てなかった。
そうして、雪華綺晶は、現実世界で生きる、器を手に入れた。
972 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:39:33.32 ID:c2VpDRbn0
むくりと、雪華綺晶は、ジュンの胸から顔を上げる。
そろそろ交代ですぅ という声は聞こえないふりをする。
ぼんやりと、彼の温もりを感じていると、新たに部屋に入ってくる姿を認める。
とてとて、と、走ってきたその紫の少女は、
ジュンの服の裾を引っ張り、頭を撫でてもらっている。
その頬は、嬉しそうに形を崩している。
973 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:40:04.90 ID:FOsJEGXE0
さすが槐の扱い方を心得てるなw
979 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:45:51.38 ID:c2VpDRbn0
薔薇水晶は、ジュンの膝の上の雪華綺晶に、向き直る。
甘えを込めた視線に、雪華綺晶は優しく微笑み、薔薇水晶の髪を撫でる。
薔薇水晶は、誰が見ても幸せそうな表情で、喜ぶ。
「……幸せそうね、薔薇水晶さん」
雪華綺晶の言葉に。
「……お義母さまは?幸せ?」
薔薇水晶が、無邪気に返す。
それに、雪華綺晶は。
「……………ふふっ」
幸せそうに、微笑む。
~ Fin ~
980 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:46:10.21 ID:6gCxhow/0
乙!
981 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:46:19.37 ID:bti8712m0
乙! 眼帯組実はそこまで好きじゃなかったけど>>1のおかげで好きになれた!!
985 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:47:24.79 ID:2/XLkIa1O
乙!なんだかラストはほんわかした
-------------
当ブログについて
※蘭86さんありがとうです。
読み物:ローゼン
お絵かき掲示板
「私は今一体何を………?」
真紅達が雪華綺晶を捜してnのフィールドに出払った隙を狙い、
真紅達のマスターの心を奪いに来たのだけれど。
机に座っている真紅達のマスターの背中を見た途端。
「体が勝手に………六番目のお姉様の習性かしら……」
今雪華綺晶が器にしている雛苺の身体に染み付いた習性が、
雪華綺晶の支配を振り払って表に出てきてしまったらしい。
「これはいけませんわ………私の精神が六番目のお姉様に干渉されるなんて」
これでは色々と支障が出てきてしまいそうだ。
けれど、精神ではなく身体の干渉能力など雪華綺晶の専門外のこと。
「………どうしたものでしょう」
4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 20:44:01.02 ID:ccDkvwF40
「……おい、だから誰なんだよお前」
真紅達のマスターの声に、状況を思い出す。
(……そうでした。彼を夢に引きずり込まなくては。
多少身体に影響されたところで、人間を夢の世界に引き込むことぐらいは問題ないでしょう)
5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 20:44:30.83 ID:ccDkvwF40
「おい、お前な…。真紅達に用か?あいつらなら今いないぞ」
「貴方は、とても、苦しい所にいますね……」
「……はあ?」
「一人で、道を歩こうとして。前だけを、見ていて。泥の海を渡ろうとしていることに、気付いていない」
「……お前、人の話を」
「必死に歩き続けている。その道の先に、行けるはずもないのに。その道の先には、泥しかないのに」
「………………」
「どれだけ歩んでも、どれだけ泳いでも、貴方の行く先は泥の海。行き着く先などありはしない………」
「………………なあ、おい」
「いずれ足場を失って、その力を尽きさせて。貴方は泥に溺れ、泥に沈む」
「………おーい」
「そんな道を貴方は行くのですか?何も知らず、行くのですか?貴方はまず、知るべきことが……」
「なあ、お前は何を楽しそうに僕の体の登り降りをしてるんだ」
「はっ!?」
7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 20:46:21.45 ID:ccDkvwF40
(なんということ……身体が奇怪な動きをするせいで話術どころではありませんわ………)
「考えにふけっている所悪いんだけどその登り降りをやめてくれ」
(これはいけません……無理矢理引き込んでも意味がありませんし……)
「おい。体のバランスが崩れるだろ。上行ったり下行ったりすんな」
(………今日のところはひきあげて身体を制御できるようになってから………)
「ああもういい加減にじっとしてろ!」
「きゃっ!?」
「動くな。落ち着け。とりあえずここでいいな?」
持ち上げられて、移動させられたのは、彼の膝の上。
「あ…………はい……」
9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 20:49:40.62 ID:ccDkvwF40
(………どうやらここでならこの身体も落ち着くようです。これなら……)
「で?お前はいったい何しに来たんだ。つーかお前は誰だ」
(……けれど、これまでの失態で私の威厳がかなり落ち込んでいます……)
「おい、答えろって」
(………この状況では、彼への影響力も……低く……)
「………おい、どうした」
(……………状況に……合わせた………挽回策を…………)
「……………って、お前……」
(………………挽回……策を…………)
「………………」
(………………)
「………………」
(………………)
「………………」
「……………………くぅ………」
「なんでいきなり寝てんだよ!?」
11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 20:52:02.43 ID:ccDkvwF40
「……………すぅ……」
膝の上で、というか、胸に寄りかかって寝入ってしまった白い少女に、ジュンはため息をつく。
「……なんていうか。やっぱりローゼンメイデンってこういうのなんだな……」
少女は自分をローゼンメイデンだとは言っていないが、おそらくはそうだろう。
生きた人形など、そうそういるものでもない。
「この突拍子の無さというか気ままさというか………」
真剣そうな話をしていたときは、最初に水銀燈に会った時のような身体がすくむような感覚もあったが、
ジュンの体で遊んだりいきなり寝入るところは雛苺にそっくりだ。
「………雛苺、か……」
行方不明になっている小さなドールのことを思う。
彼女は、今、どうしているのだろうか。
15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 20:55:00.84 ID:ccDkvwF40
「……………それにしても、こいつ。どうしたらいいんだ」
穏やかな、少女の寝顔を見る。
起こすのも、なんだか悪い気がする。
「…………ああ、くそ。分かったよ」
一人呟いて、少女を胸に抱いたまま、勉強の続きを始める。
17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 20:58:14.42 ID:ccDkvwF40
『あら、お帰りなさい真紅ちゃん、翠星石ちゃん』
「………………、?」
「……ん?起きたか」
「………私は何を………?」
「……寝てたんだよ」
「………寝て、いた?……私が?」
「お前以外にいないだろ」
「…………………」
「で、また聞くけど。お前は何しに……」
―――階段を上ってくる、小さな足音。
「―――――!」
「うわっ!?」
「………出直しますわ」
「は……?」
「……さようなら」
19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:01:09.41 ID:ccDkvwF40
「ジュン?入るわよ」
「………あれ、……?」
「どうしたの?」
「いや、なんだっけな……」
「………何か、あったのかしら。誰かが、来たとか」
「いや、別に。ずっと勉強してたけど」
「……そう」
「………なんかすっきりしないな。疲れたのかな………?」
20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:04:05.66 ID:ccDkvwF40
少年の記憶に干渉し、自分のことを思い出せないようにして。
雪華綺晶は、自分の世界に戻る。
「…………………私が、眠っていた……?」
姉達と違い、睡眠を必要としない雪華綺晶が?
「………よりにもよって、『彼』の目の前で……?」
姉達のマスターであり、標的である少年に、隙を晒してしまった。
21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:07:07.84 ID:ccDkvwF40
「……やはり、この身体の影響でしょうね」
雛苺は、彼にとても懐いていた。
その彼に抱かれて、身体が自然と眠りについてしまったのだろう。
「これはいけませんね。……彼に抱かれるのは危険です。それに……」
問題はそれだけではない。
「彼を話術に嵌めようと思考に集中すると、身体が勝手に動き出してしまいます。
さて、どうしたものでしょうか」
23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:10:03.24 ID:ccDkvwF40
今日もまた、ひたすら机に向かっている。
真紅達は今日も出かけている。
「………あれ……?」
何か思い出しそうになったような。
「………ていうか、なんか忘れてるような……」
「―――こんばんは」
「え? …………あ、お前」
白い少女。
そういえば、昨日も来ていた。
26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:13:05.01 ID:ccDkvwF40
「昨夜は見苦しいところをお見せしました。今日こそ、貴方とちゃんとお話をしたいのですが」
「話? お前僕に用があったのか。いったい何なんだ………って、昨日みたいにならないだろうな」
身体をよじ登られていてはそれが気になって話にならないし、
眠られては話すらできない。
「ええ。昨夜は申し訳ありませんでした。今夜は、ちゃんとお話をしましょう。
それについて、なのですけど、お願いがあるのです」
「なんだよ」
「私の手を、握っていて頂けませんか」
30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:16:01.10 ID:ccDkvwF40
不可解そうな顔をした少年に、雪華綺晶は偽りではない理由を述べる。
「私、話に集中しようとすると身体が知らない内に動いてしまって。
落ち着きがないのは分かっているのですけれど、どうしようもなくて。
でも、やはり動きながらの話では貴方が集中できないでしょう?
ですから、私の動きを抑えてもらおうと思いまして」
「それで、手を握ってろ、って?」
「はい。昨夜みたいに腕に抱かれると、また眠ってしまうかもしれませんし。
手を握って、私を抑えていただければ、ちゃんとお話が出来ると思うんです」
「……そうか」
一応は納得したらしい少年を見て、雪華綺晶は心の内でほくそえむ。
(身体を触れさせていれば、向き合うだけより精神干渉がやりやすくなりますし、ね)
31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:19:04.01 ID:ccDkvwF40
「―――では、お願いします」
「………ううん」
「あら、何を躊躇っていらっしゃるんですの?
………恥ずかしいのですか?私は人形ですよ?」
「な、は、恥ずかしいとかそんなんじゃ……!ああ、ほら!握ってやるよ!」
「くすくす……お願いします」
34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:22:00.28 ID:ccDkvwF40
少年の手と、触れ合って。
「昨夜も言ったことの、繰り返しではあるのですけれど………」
少年と、触れ続けて。
「貴方は今、とても必死に、前に進もうとしていますけれど………」
少年を、感じていて。
35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:22:54.81 ID:ccDkvwF40
少年と、触れ合っている、
「……貴方の行く先は、果たして、輝く道、なので………、………?」
その、感覚。
「………………?」
懐かしい、ような。
大切な、ような。
「……………………?」
それ、は―――――
( 『 ――ああ、私の愛しい娘……雪華綺晶―― 』 )
「……………っ!!!?」
39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:26:27.45 ID:ccDkvwF40
「……どうしたんだ、お前……?」
何か信じられないものを見たかのような顔をしている、白い少女に聞く。
少女は、ジュンの言葉など聞いていない。
「………またか?昨日と同じパターンか?」
ジュンの手を握りながら、少女は静かに語っていたのだが、
ほとんど語らないうちに少女は眉根を寄せ、握り合っている二人の手を見つめ、黙ってしまった。
そしてなぜかジュンの手を、感触を確かめるように胸の前に両手で抱き寄せた。
ジュンが慌てて手を引こうとしても少女は離さず、何かを考えていて、
そして、いきなり驚いたように動きを止めた。
「………おい、大丈夫か」
「…………………」
返答は、ない。
40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:29:15.46 ID:ccDkvwF40
「……なんなんだよ、お前は………」
どうせ聞こえてないんだろうと思いながらも、一応聞く。
そして、少女はやはり答えない。
「…………はあ……」
ため息をついて、少女が次の行動に移るのを待とうかと考えて。
「……貴方は、一体何なのですか」
少女が、いきなり聞いてくる。
42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:32:00.26 ID:ccDkvwF40
「……は?」
「貴方は、一体、何をしたのですか。
私は、一体、何を感じているのですか。
………なぜ、貴方から、お父様を………」
戸惑うような、恐れるような、揺らいだ問い。
その少女の唐突な変調に、ジュンもまた戸惑う。
「……何、って。いや、お前こそ何を………」
「………………」
何も言わずに、少女はうつむき、
ゆっくりと、首を振って。
視線を、ジュンの目に合わせて―――――
44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:35:05.29 ID:ccDkvwF40
「…………ん……?」
「…………寝ちゃってたか」
「駄目だな僕。全然進んでない。………ちゃんとやらないと」
「………んー…?」
「………なんか忘れてるような……」
47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:38:01.19 ID:ccDkvwF40
「………あれは、何だったのでしょうか………」
「……なぜ、お父様を、思い出したのでしょう……」
「……彼は、お父様に似てなどいないのに」
「……………………」
「…………あれは、何だったのでしょう…………」
49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:41:08.62 ID:ccDkvwF40
「…………ん?……ああ、お前」
「…………………」
「また来たのか。…………どうしたんだよ」
「……………………」
「な、なんだよ………」
「………………………」
「お、おい」
………よじっ………ぽふ。
50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:41:53.00 ID:ccDkvwF40
「………なんだ、どうしたんだ、お前。いきなり膝の上に……」
………ぎゅっ……
「……お、おい……?」
…………………
「………………どうしたんだ……?」
「…………………………………これは、何なのでしょう………?」
53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:45:17.25 ID:ccDkvwF40
「……………ええと」
ジュンの胸に抱きつき動かなくなってしまった少女に、ジュンはどうすればいいか分からない。
「…………………」
少女は、抱きついたまま黙っている。
「……………………」
ジュンも、なんとなく黙ってしまう。
55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:48:03.26 ID:ccDkvwF40
「…………………」
「……………………」
「…………………」
「……………………」
「…………………」
「……………………」
「…………………手……」
「……………………え?………うわっ!」
いつの間にか、少女の身体と頭に腕と手を添えていたことに気付く。
おそらく少女が落ちないようについ体が動いていたのだろうが、
結果として少女を全身で抱くような体勢になっている。
57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:51:08.72 ID:ccDkvwF40
「ごっごめん!」
手を離すが、
「…………離さないでください……」
「え?」
「……考えたいのです。その為に、感じたいのです。だから………」
顔を上げることなく、少女が懇願する。
「……………………」
ジュンは、少し、動きを止めて。
………ジュンの腕が、少女を抱く。
60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:54:01.26 ID:ccDkvwF40
何をすることもなく、緩やかに、時間は流れて。
静かに、少女が体を離す。
「………ん?もういいのか」
「………………」
「………おい?」
「………………分かり、ません………」
「え……?」
少女は、呆けたような頼りなさで、歩き出す。
「お、おい」
「………………」
少女は、窓硝子に触れ、
「あ………」
そして窓硝子の中に消えた。
64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 21:57:00.93 ID:ccDkvwF40
少女が消えた、窓を見ながら。
「………大丈夫か、あいつ」
ジュンは、心配げに呟く。
「…………すごくふらふらしてたし……」
そして、気付く。
「……ていうか、僕はあいつの名前も知らないな」
65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:00:04.93 ID:ccDkvwF40
『ただいまですぅ』
『あらおかえりなさぁい』
翠星石とのりの声が聞こえた。たぶん、真紅も帰ってきただろう。
(あいつのこと聞いてみようか……?)
そう考えるが、
(でもあいつ、真紅達と会いたくなさそうだよな)
これまでの記憶を思い出すに、あの少女が来るのは真紅達がいない時で、
そして真紅達が帰ってきた頃にいなくなる。
ジュンにだけ用があり、真紅達は避けているようだ。
(どうしようか)
68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:03:05.99 ID:ccDkvwF40
「ジュン、まーた机にへばりついてるですかぁ?そのままだと机と合体して机人間になるですよ」
「……このぐらいでそんな新生物が生まれるなら予備校とかはさぞ奇怪な光景になるだろうな」
「机とか本とかばっか相手にしてて人間の言葉を忘れたりするかもですしぃ、何より気が滅入るですよ」
「いや別に」
「滅入るんです!だから、しょうがねーですけど、そう、しょーがねーですから、
特別にお前に翠星石を抱っこさせてやるです。そーすればお前の気も……」
「つまりお前も抱っこされたいわけか」
「さ、ささ、されたいわけじゃねーです!お前が人間やめないように仕方なくですね!」
「はいはい」
まだ何かわめいている翠星石を抱き上げながら。
(……まあ、明日も来るだろ。その時にいろいろと聞こう)
70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:06:01.52 ID:ccDkvwF40
「分かりません………何なのでしょうか」
「彼に、触れていると…………やはりお父様を思い出します」
「なぜでしょうか」
「………分かりません」
「……………………」
「…………………また、行けば、分かるかもしれません」
73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:09:04.40 ID:ccDkvwF40
「………ん、来たか」
………よじっ、
「……ああ、はいはい。わかったわかった」
ぐいっ、ぽふ。
「あ………」
「これでいいんだろ?」
「………はい」
……………ぎゅ……
77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:14:54.09 ID:ccDkvwF40
「…………………」
「そしてやっぱり黙るのか………。
…………なあ」
「……なんでしょう」
「僕はお前の名前も知らないんだが」
「……………」
ふと、考えて。
「………雪華綺晶、です」
「雪華綺晶、か」
「はい」
「長いな」
「気のせいです」
「そうか?」
「はい」
「そうか」
80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:19:07.72 ID:ccDkvwF40
「なあ、雪華綺晶」
「はい」
「…………なんか嬉しそうだな」
「え?」
「雪華綺晶」
「はい」
「……名前呼ばれるの嬉しいのか?」
「え……?」
「なんていうか、雰囲気がほころぶような気がする」
「……そうですか?」
「ああ」
「………………何なのでしょう」
85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:23:21.77 ID:ccDkvwF40
『ただいま』
『かしらー!』
『あらお帰りなさぁい真紅ちゃん金糸雀ちゃん』
「帰ってきたか。今日は早いな。………ん?翠星石はまだなのか?」
「交代制にしたようですね」
「あれ、お前あいつらが何やってるのか知ってるのか」
「では、おやすみなさい」
「無視か。……ああ、おやすみ」
89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:26:53.70 ID:ccDkvwF40
「入るわよ、ジュン」
「ん」
「………………」
「………………」
「………………」
「ほれたかいたかーい」
「いきなり何をするの!?」
「なんか本を読むふりしながら構ってほしそうな顔してたから」
「そんなことはないのだわ!」
「痛てっ、痛っ!やめろ、その髪やめろ!」
92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:29:46.31 ID:ccDkvwF40
「下ろしなさい!」
「わかったわかった」
「待ちなさい。床まで下ろす必要はないのだわ」
「お前もか」
「何の話よ」
「人形は抱っこが好きだなって話」
94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:34:22.11 ID:ccDkvwF40
「……ああ、翠星石が自慢げに話してたわね」
「それだけじゃないけど」
「え?」
「こっちの話」
「気になるわね。………まあ、親しい人に抱かれることを喜ぶのは、当たり前でしょう」
「当たり前か」
「当たり前よ。人も人形も、一人では生きていけないのだから」
「じゃあお前も今嬉しいのか」
「無粋ね」
「痛たぶごはあっ!?」
96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:37:15.50 ID:ccDkvwF40
日付は、変わって。
「…………今夜も、行かなくては、ですのに」
「………………」
「………交代制は、厄介ですね」
「……………………」
「……………五番目のお姉様。邪魔ですわ」
「…………………………」
「………ああ、今度は三番目のお姉様が…………」
「………………………………」
「……今夜も。行かなくては、ですのに」
97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:37:28.93 ID:+QhGesiH0
いいなぁ
ほのぼのって
98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:42:34.88 ID:ccDkvwF40
「ジュン。ほら、翠星石が夜食のスコーンを焼いてやったです。感謝して食うですよ」
「……ん?ああ、サンキュ…………って多いわ!なんだこの山盛りは!」
「なっ!せっかく翠星石が用意してやったっていうのに、文句言いやがるですか!
まったく、チビなくせにわがままなやつですぅ。
そんなだからチビなんです!」
「それとこれと関係あるか!こんな山盛りの菓子食いきれるか!」
「こんなとはなんです!せっかく翠星石が張り切っ………!」
「はりき?」
「な、なんでもねーです!いいから食うですよ!食って食ってチビを卒業するです!」
「卒業ってな………」
99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:46:10.20 ID:ccDkvwF40
とりあえず夜食はありがたくもらって勉強を再開する。
「………………」
「……………………」
翠星石は、ベッドに座って、ジュンの様子を眺めている。
「………………」
「……………………」
「………………」
「…………………?」
「………………」
「……………さっきから何を気にしてるです?」
「え?」
「さっきからちらちらと窓見てるです」
「…あ」
そんなつもりはなかったが、どうやら無意識のうちに待っていたらしい。
窓硝子から、雪華綺晶が現れるのを。
「……いや、なんでもない。ちょっと外の天気が気になって」
「………天気ですかぁ?」
なんとなく、ごまかす。
100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:47:09.02 ID:gUvChYmc0
何か危険なにほいが・・・
102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:49:46.25 ID:ccDkvwF40
(…………来ないな)
教科書に目をやりながら、考える。
(………翠星石が居たら、来ないのか?)
ノートに問題を写しながら、考える。
(あいつ、やっぱ真紅や翠星石に会いたくないのか)
問題を解こうとして。
(……ああ、くそ。なんか集中できない)
104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:54:06.18 ID:ccDkvwF40
時折、桜田家の様子を覗いて。
「…………まだ、居ますわ……」
翠星石の姿を確認して、肩を落とす。
「……行かなくては、ですのに………」
ひとり、呟く。
107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:57:41.01 ID:ccDkvwF40
「………そう、行かなくては……」
覗き、呟く。
「……行って、彼に、抱いてもらって………」
呟いて。
その、自分の言葉に。
「……………『抱いてもらって』?」
気付く。
110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:02:10.65 ID:ccDkvwF40
「………私は、何を。何を、考えて」
雪華綺晶は、少年の心を奪うために、少年のところに行っていたはずなのに。
「……『抱いて、もらって』? 私は、何を」
いつの間にか。少年を襲う意識すら、失くして。
「………私は、いったい」
雪華綺晶は、少年の腕の中で、何をしようとしていたのか?
115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:08:10.47 ID:ccDkvwF40
「………違い、ます」
自らの思考を、遮断する。
「私は、よく分からないことを、はっきりさせようとした」
自分の行動を、合理的に、考える。
最初の目的から、考える。
「そう、変な感覚があったから。その感覚を、調べるために」
それは、調査であって。確認であって。
「………それ以外の目的では、決して、ありません」
117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:10:22.46 ID:ccDkvwF40
調査以外の目的では、ない。
間違いない。
絶対に、そうだ。
「間違い、ありませんわ。それ以外には、ないです」
それなのに。
「間違い、ないの。……本当に、それだけ」
その、はずなのに。
「……………それ、だけ、です」
胸が、もやもやするのは、何なの、だろうか。
120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:13:03.63 ID:ccDkvwF40
何か、物足りない。
何か、し足りない。
何か、そう、何か。
何かが、欲しい。
それは、例えば。
彼の腕の中で、感じたような――――
「――――違います!!!」
122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:17:04.62 ID:ccDkvwF40
考えてしまいそうになったことを、振り払う。
「違います!違いますわ!!
私は、そんなもの、求めていない……!」
忌むように。
「私は、雪華綺晶。ローゼンメイデン、第七ドール。
アリスになるために生まれてきた、七姉妹の末妹」
恐れるように。
「アリスになること以外、求めてなどいません……!」
雪華綺晶は、叫ぶ。
125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:20:31.33 ID:ccDkvwF40
「………そう、ですわ」
はっ、と、気付く。
「私が、そんなもの、求めるわけがありません。
『これ』は、私のものではありません」
まるで、天啓を得たように。
「そう、これは」
雪華綺晶は、呟く。
「……雛苺の、身体のせいですわ」
131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:26:29.93 ID:ccDkvwF40
今まさに、雪華綺晶が自らの器としている、その身体。
雪華綺晶の姉の一人、雛苺の身体が、雪華綺晶をおかしくさせていたのだろう。
「身体だけでなく、心まで干渉されるなんて、失態ですわ。
さすがにこれは、この身体を諦めた方がいいかもしれません」
雛苺が少年を慕う気持ちが、雛苺の身体に宿った雪華綺晶の心に干渉していたということ。
「器を失うのは惜しいですが……」
これ以上この身体に拘って、心を侵食されては元も子もない。
「この身体は、諦めましょう」
雛苺の身体を、雪華綺晶の精神から、切り離す。
135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:29:57.96 ID:ccDkvwF40
ごとり、と、雛苺の身体が、転がる。
とりあえず、雛苺の身体は保管しておくことにして。
「……これでもう、心配はありませんわ。
今後の方策も考えなくてはなりませんが、今はまず、精神の調整を行いましょう」
これでもう、妙な感覚に悩まされることも無い。
これで、いい。
137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:33:55.93 ID:ccDkvwF40
ととと、と。
翠星石が階段を降りていく音がする。
(……翠星石、出かけるのか)
真紅はまだ帰ってきていない。
金糸雀もいない。
静かなものだ。
(ってことは………)
窓を、見る。
ごく普通に、外の景色が見えるが、
(……そろそろ来るかな)
なんだか今日は、勉強に手がつかなかった。
ずっと、教科書を前にしていたのだが、
あいつが来るのか来ないのか気になって、集中できなかった。
139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:39:39.53 ID:ccDkvwF40
(……あいつが来たら、どうしようかな)
勉強に集中できないし、なんだか暇なので、考える。
(………いや、べつにどうするもこうするもないな。
あいつが僕の膝に乗ってきて、僕はそれを抱いて勉強するだけか)
ふと、笑いがこみ上げる。
(ていうかあいつ、本当に何しに来てるんだ。
話があるとか言ってたけど最近全然そんなこと言わないしな)
(いつ来るんだろうな)
ジュンは、窓を眺めている。
(今日はどれぐらい居るんだろうな)
なんとなく、表情は緩んでいる。
(なあ、雪華綺晶)
ジュンは、待っている。
140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:45:08.02 ID:ccDkvwF40
「なんだか昨日からジュンの様子が変です」
翠星石が、心配げに呟く。
「ジュンが?……そうね。なんだか落ち着きがないわね」
「そうです。それに、なんだかちらちらと窓の方見て、何か探してるみたいです」
「探してる?」
「探してる、っていうか、待ってる、って感じ、かもしれないです」
「………待ってる、ね……」
141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:48:36.16 ID:ccDkvwF40
「………………」
また、窓を見る。
普通に、外の景色。
「……………………」
勉強しようとする。
「…………………………」
また、目は窓に向かっている。
やはり、普通の景色。
「………………」
勉強しようとする。
「………………………………」
いつの間にか、外の景色を目に映している。
「………僕はなにやってんだ」
142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:51:39.96 ID:HFZssFUoO
このすれ違いがたまらんのうwwwww
でも、悲しいのう・・・
143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:52:20.45 ID:ccDkvwF40
結局、昨夜は雪華綺晶は現れなかった。
別に、それは大したことじゃないのだろう。
彼女にも、彼女の生活はあるのだろうから。
だが、連日の来訪を何の前触れもなくやめられると、なんだか気になる。
「……せめて一言言ってくれよ」
ぼやくが、それに答えが返るわけもない。
その日も、勉強には集中できなかった。
その夜も、雪華綺晶は現れなかった。
144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:54:33.36 ID:gUvChYmc0
こぬぁああああゆきぃいいいいいいいいいいいいいい
154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 00:25:13.07 ID:KMDBjCTB0
「ジュン。出かけてくるわね」
「ん……ああ」
声をかけても、返ってくるのは生返事。
「………仕方のない下僕ね」
一昨日あたりから、ジュンの様子はおかしい。
机に向かってはいるのだが、どうも勉強に集中できていないらしい。
たびたび、ちらちらと窓を眺めていて、どうも落ち着きがない。
その割に、部屋にいることが多く、そしてパソコンをいじったりはしていない。
その明らかに妙な様子に、真紅はジュンに直接尋ねてみたが、
ジュンは曖昧に言葉を濁し、明確な答えは返ってこなかった。
明らかに何かがあるが、それが何かが分からない。
「………もどかしいのだわ」
155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 00:31:50.52 ID:KMDBjCTB0
そうは思うが、恐らく今ジュンが抱えている問題は真紅にどうにかできることではないと思う。
ジュンは、何か明確なものを待っている。
迷っているとか、持て余しているとか、そういった様子ではなく、
何かを待っている、そんな様子。
「…………ふう」
ジュンのことは確かに気になるが、そこまで深刻だったり緊急だったりはしないようだ。
今は、別のことを優先させてもいいだろう。
ジュンの部屋を出て、物置へ。
鏡に触れ、nのフィールドへ。
雛苺の身体を奪った、白薔薇を探しに。
157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 00:40:21.91 ID:KMDBjCTB0
「金糸雀。どう?」
交代場所に来ていた金糸雀に聞く。
「真紅。……いつもどおり、かしら」
「……何も見つからなかったのね」
「ええ。白薔薇の花びら一枚見当たらないわ」
「そう。……とにかく、交代よ。貴女は休んで」
「分かったかしら。じゃあ、カナは戻るかしら」
金糸雀の背を見送って。
「……白薔薇。あの子は何を企んでいるのかしら」
巡回を始めながら、考える。
158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 00:43:46.85 ID:KMDBjCTB0
雛苺の身体を奪って。
その後、何の行動もない。
雛苺の身体を奪われてから、真紅達はnのフィールドを巡回して、
白薔薇を探しているが、手がかり一つ掴めない。
白薔薇が何をしようとしているのかすら、分からない。
160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 00:50:42.90 ID:KMDBjCTB0
いくつもの世界を、巡る。
「………白薔薇の痕跡のようなものが、あればいいのだけれど」
いくつもの扉を、抜ける。
「………やっぱり、そう簡単には、いかないわね」
時間は過ぎる。
「………今日も、駄目、なのかしらね」
交代時間は、近い。
「………手がかりぐらい、あってほしいものだけれど」
息をついて、諦め気味に、次の扉を開いて、
「………え?」
目が、合った。
「……白薔薇………!?」
手がかりどころではなく。 白薔薇が、そこに居た。
194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 09:17:25.94 ID:KMDBjCTB0
これまで、何の音沙汰もなかった『敵』が、いきなり目の前に現れた。
驚愕しつつも、即座に戦闘態勢に入る。
即座には、白薔薇は襲ってこない。
「……貴女」
とりあえず、口を開くが、驚愕のせいで言葉がなかなか出てこない。
白薔薇は、何も言わず、真紅を見ている。
とにかく、落ち着いて、思考をまとめる。
「………今度は、私、かしら」
雛苺を襲い、雛苺の身体を奪って。
その次に、真紅の前に現れたのだから、
白薔薇の次の標的は、真紅なのだろう。
白薔薇は、何も言わない。
195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 09:20:35.22 ID:KMDBjCTB0
「………?」
対峙、したまま。
白薔薇は、何の動きも見せない。
さすがに、怪訝に思う。
「……貴女、何のつもり?」
白薔薇は、真紅を見ている。
196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 09:26:18.18 ID:KMDBjCTB0
焦れる。
「貴女。雛苺を襲ったでしょう。アリスゲームを、したいのでしょう。
今度は、私と戦いに、来たのでしょう」
問うが、
何の反応も、返ってこない。
「………貴女。一体……」
「 お姉様 」
白薔薇が、口を開いた。
199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 09:32:00.51 ID:KMDBjCTB0
「聞きたいことが、あるのです」
白薔薇は、言う。
「……何かしら」
答えながらも、
白薔薇の様子を見て、真紅は怪訝に思う。
雛苺の身体を奪ったときのような、
余裕のようなものが、感じられない。
なんだか、覇気がないというか、無理をしているような、感じ。
眉を寄せた真紅の視線を受けながら、
白薔薇は、問う。
「………『抱っこ』って、なんですの?」
202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 09:38:36.52 ID:KMDBjCTB0
「……え?」
意味の分からない質問に、真紅はとっさには答えられない。
白薔薇は、問いを続ける。
「お姉様や、翠星石や、雛苺は、彼、いえ、人間に抱かれることを、好んでいます。
それは、なぜ、ですの」
「抱っこって……貴女、何の話を」
白薔薇は、真紅達にとって、危険な存在のはずなのだが。
その白薔薇から、どうも妙な質問をされている。
204 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 09:42:35.35 ID:KMDBjCTB0
「人間に、抱かれることに、何の意味があるんですの。
共に在りたいと願うだけなら、そんなことをする必要はないでしょう」
白薔薇は、淡々と、質問を続ける。
「だから、貴女、何の話を」
真紅の戸惑いの声を遮って。
「答えて、ください。お姉様」
白薔薇は、やはりどこか、追い詰められたような余裕の無さで、求めてくる。
「……………」
その白薔薇の様子に。
真紅は、答えてあげなくてはならないような気に、なった。
205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 09:46:58.47 ID:KMDBjCTB0
「……貴女は、私達が、人間の腕に抱かれて喜ぶ理由を知りたいのね」
「……ええ」
「……当たり前の、ことよ」
真紅は、言う。
「 その人の温もりを、感じられるからよ 」
207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 09:52:47.86 ID:KMDBjCTB0
「その人の、肌に触れて。
その人の、腕に抱かれて。
親しい人が、すぐ傍にいる。親しい人が、私に触れている。
それを、感じられる。
その人の温もりで、感じられる。
これ以上ないくらいに、穏やかで、優しい、幸福でしょう」
真紅は、白薔薇の目を見て、言う。
「難しいことなんて、ないわ。
ただ、温かくて、幸せだから、抱いてほしいのよ」
209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 09:55:24.31 ID:KMDBjCTB0
真紅は、言うべきことは言った。
白薔薇の、反応を待つ。
「……………」
白薔薇は、何も言わない。
真紅は、白薔薇を、見る。
「……………」
211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 10:03:34.25 ID:KMDBjCTB0
「………どうしたの、貴女」
あまりにも反応がない。
とりあえず、真紅は聞いてみるが。
「………………」
やはり、反応はない。
「貴女、…………え?」
問いを重ねようとするが。
白薔薇は、真紅に背を向けて。
「ま、待ちなさい……!」
別の世界に、消えた。
212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 10:06:15.11 ID:KMDBjCTB0
白薔薇を追おうとするが。
「………駄目、ね」
時間が、限界だった。
ドールは、媒体なしで長時間nのフィールドにはいられない。
今白薔薇を追ったら、真紅は力尽きてしまう。
「狙っていたのかしら。……きっとそうね」
白薔薇の現れたタイミング。去ったタイミング。
それは、この状況を狙っていたのだろう。
「やっぱり、油断できない子だわ。
………けれど」
けれど、白薔薇の去る姿を思い出すと。
「……何か、追い詰められているようだったわね」
213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 10:09:27.62 ID:KMDBjCTB0
「……これ、は。………この、感覚は」
世界を巡りながら。
世界を渡りながら。
「……幸せ?幸せ、だった、のですか」
雪華綺晶は、苦しむ。
214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 10:13:10.22 ID:KMDBjCTB0
雛苺の、身体を捨てて。
雛苺の、影響から、逃れて。
妙な感覚に、悩まされることもないはずだったのに。
雛苺の身体を捨てても。
雪華綺晶の心は、晴れなかった。
それどころか。
精神を調整するために、ずっと自分の世界に居て、
その間、ずっと。
何かを求める心は、大きくなるばかりだった。
216 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 10:16:25.02 ID:KMDBjCTB0
『 何なのですか、これは 』
分からない。
『 雛苺の身体は、捨てたのに 』
分からない。
『 なぜ、なぜ。こんな、にも。
苦しい、の、ですか 』
分から、ない。
217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 10:18:48.32 ID:KMDBjCTB0
『 こんなの、おかしい 』
『 おかしいです。おかしいですわ 』
『 なぜ。なぜ 』
『 なぜ、こんな、ことに 』
『 ……… 』
『 ………彼に、抱かれたから……? 』
220 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 10:21:59.73 ID:KMDBjCTB0
彼に、抱かれて。
雪華綺晶は、おかしくなった。
きっと、そう。
けれど。
なぜ、おかしくなったのだろうか。
何が、おかしくなったのだろうか。
分からなかった。
分からなかったから。
真紅に、聞いて。
自分がおかしくなった原因を、知ろうとした。
―――聞かなければ、よかった。
222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 10:26:31.53 ID:KMDBjCTB0
自分の世界で。
雪華綺晶は、うずくまる。
「………幸せ……」
真紅の言葉を、考える。
「……私は、彼に、抱かれて………幸せ、だった……?」
自分の心を、考える。
「……これ、は、………求めて……いるの……?」
けれど。けれど。
「……そんなはず、ありません………」
そんなことは、あっては、いけない。
224 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 10:30:38.68 ID:KMDBjCTB0
「……そんなこと、駄目、です………」
雪華綺晶は、アリスになるのだから。
「………幸せ、なんて……」
アリスになること以外。
お父様に愛されること以外に、目をやっては、いけない。
「……違う。違うんです。
……私は、幸せなんかじゃ、なかった。
………あれは、幸せなんかじゃ、ないんです……!」
225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 10:34:37.51 ID:KMDBjCTB0
アリスになること以外に、求めてはいけない。
雪華綺晶が、そんなことを、求めるはずがない。
だから。
「こんなことは、おしまいに、します」
ずっと、止まっていた。
ずっと、悩んでいた。
でも、そんなことに意味はない。
今、雪華綺晶が、やるべきことは。
「彼を、奪う。
彼の心を、私の力に。
彼を喰らって、私はアリスに近付きます――!」
232 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:07:12.84 ID:KMDBjCTB0
教科書を前にして、ため息をつく。
「……いまいち集中できないな」
教科書から目を離して、窓を見る。
「……これはやっぱあいつのせいか」
雪華綺晶は、もう三日ほど来ていない。
もう、来ないのかもしれない。
「……まあ、別に、気にすることじゃないか」
もしかしたら、雪華綺晶はジュンにもう用がなくなったのかもしれないし。
「勉強だ、勉強。勉強しろ僕」
236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:12:50.99 ID:KMDBjCTB0
「ジュン、入るわよ」
真紅が、部屋に入ってきた。
「ん。……あれ、そういや今日は出かけてないんだな」
翠星石と金糸雀も一階で騒いでいるようだし。
「ええ、ちょっと気になることがあるのだわ」
「気になること?」
「大したことではないわ」
「そうか」
237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:13:17.92 ID:KMDBjCTB0
真紅は、ベッドの上で本を読んでいる。
勉強も、なんとかできるようになってきた。
黙々と、勉強を続ける。
239 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:14:54.01 ID:KMDBjCTB0
一区切り、付けて。
「……あ」
何気なしに窓を見て、思い出す。
(そういえば、真紅達にあいつのこと聞いてないな)
雪華綺晶が真紅達に会いたくなさそうだったので言わなかったのだが、
雪華綺晶が来なくなってしまった今なら、聞いてもいいのではないだろうか。
(あいつが今、どうしてるのか、やっぱ気になるし)
「なあ、真紅」
「何かしら」
「聞きたいんだけどさ、お前らの仲間っていうか姉妹?でさ……」
雪華綺晶っているだろ?
と、聞こうとして。
何気なしに、見ていた、窓から。
「………え?」
無数の、白い、茨。
242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:19:22.22 ID:KMDBjCTB0
「――ジュン!」
少年を捕らえようとした茨は、真紅の薔薇の花弁になぎ払われる。
急襲のつもりだったが、真紅は備えていたのか、慌てることなく迅速に対応した。
「白薔薇……!」
真紅が、こちらを睨む。
それは、どうでもいい。
「………雪華綺晶?」
少年が、困惑した視線を、送ってくる。
それは、気にしない、ようにする。
243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:21:11.03 ID:KMDBjCTB0
今の雪華綺晶の乱れた精神では、
少年の心を操り、雪華綺晶に都合のいいように夢の世界に引き込むことは難しい。
だから仕方なく、無理矢理夢の世界に引きずり込んで、心を喰らうことにした。
効率は悪いし、得られる力も少なくなるが、
そんなことに構っていられるほど、雪華綺晶に、余裕は、ない。
244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:26:07.72 ID:KMDBjCTB0
「雪華綺晶?なんだ、どうしたんだ、お前」
少年の言葉に、耳は貸さない。
少年を捕らえるために、茨を動かす。
「ジュン、貴方、この子のこと……!?」
茨を花弁で叩き落しながら、真紅は少年に問うている。
「……お姉様。邪魔ですわ」
茨を、真紅にも向ける。
「くっ……!」
真紅の花弁が舞う。
雪華綺晶の茨は、真紅にも、少年にも、届かない。
245 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:31:40.29 ID:KMDBjCTB0
「おい、雪華綺晶…!」
少年は、状況を把握できていない。
こちらに、歩み寄ろうとする。
が、
「ジュン!駄目よ!」
真紅の言葉で、少年は止まる。
「…真紅、なんなんだよ、どういうことだ、これ……!」
意味が分からない、といったように、少年は叫ぶ。
それに、真紅は。
「貴方が、なんでこの子を知っているか知らないけれど……!」
茨を防ぎながら、少年に、言う。
「この子は、雛苺を襲って、雛苺の身体を奪った『敵』よ……!」
248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:35:44.73 ID:KMDBjCTB0
真紅は、本当のことを、言っただけ。
だから、雪華綺晶は、そんなことには、構わない。
気にすることも、ない。
「………雛苺、を……?」
気にすることなど、ない。
少年の、雪華綺晶を見る目が、変わっても。
「……雛苺を、襲った……?」
気にすることなんて、ない。
250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:40:40.93 ID:KMDBjCTB0
「どういうことだよ、真紅!雛苺は、ウチからいなくなっただけじゃ……!」
「違うわ。雛苺は――」
「――ええ、私が、頂きました」
雪華綺晶は、哂う。
「雛苺は、私が、食べてしまいましたわ」
少年に、向けて。
251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:46:08.41 ID:KMDBjCTB0
「食べた、って、お前……!?」
少年は、信じられない、といった表情。
それに、事実を突きつける。
「器が、欲しかったんです。
私は、身体を持たないもので。
アリスゲームを制するために、身体があった方が良かったのです。
―――例えば、現実世界にいる、ドールのマスターに干渉するために」
「………マスターに、干渉する……?」
少年が、何かに気付いたように、表情を、変える。
「……じゃあ、お前、僕のところに来てたのは……!」
雪華綺晶は、哂う。
「ええ。貴方を、貴方の心を、奪うためです。
それ以外の理由は、ありませんわ」
253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 11:52:23.76 ID:ZSD8NyutO
きらきーは心では泣いてるんですね、分かります
254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:03:28.70 ID:KMDBjCTB0
今度こそ。
少年の目が。
雪華綺晶を見る目が、変わった。
「……お前。お前、あれは、全部、芝居か」
騙されたと、憤る目。
敵を、見る、目。
それを、受けて。
「ええ。貴方を操るための、芝居、ですわ」
雪華綺晶は、哂う。
255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:06:52.00 ID:KMDBjCTB0
「お前……!くそっ!ふざけんな……!」
少年の目にはもはや、親しみも、優しさも、ない。
それが分かっても、雪華綺晶は、哂う。
「貴方を操る。それ以外の目的なんて、あるわけが、ないでしょう」
哂う。
「お前、な………!よくも、騙し………、……?」
少年の、言葉が、不自然に、止まるが。
そんなことには、構わない。
「私は、アリスになるのです。それ以外の、目的なんて、ありません」
哂う。
256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:08:00.16 ID:KMDBjCTB0
「……………お前、」
少年が、何か、変な表情をするが、構わない。
真紅に、顔を向ける。
「お姉様。早くどいてくださいな。私は、早く、アリスになりたいのです」
哂う。
「……貴女………?」
真紅まで、変な表情をしている。
何なのだろうか。
「あら、どうしたのですか?挙動がおかしいですわ、お姉様」
哂う。
私は、ワラっている。
それなのに。
少年が、言う。
「……お前、なんで、泣いてるんだ」
257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:12:14.49 ID:KMDBjCTB0
雪華綺晶は、ずっと、嘲笑の表情だった。
哂っている、表情だった。
ジュンを見て、ずっと、ワラっていた。
けれど。
今、彼女の左目からは。
一筋の、涙が。
静かに、流れていた。
258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:17:17.29 ID:KMDBjCTB0
「…………え……?」
何を、言われたのか、分からない。
そんな、表情で。
雪華綺晶は、自分の、頬に触れて。
「…………………!?」
自分の指が、濡れたのを見て。
言葉を、失っていた。
259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:21:15.71 ID:KMDBjCTB0
「……雪華綺晶、お前……?」
ジュンが、状況が分からないなりに、声をかけようとして。
ばっ、と。
雪華綺晶が、身を翻す。
「あっ…!おい……!」
そして、窓硝子の中に、消える。
「待、て……っ!」
「ジュン!?」
真紅の声を、無視して。
ジュンは、雪華綺晶を、追う。
261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:27:40.53 ID:KMDBjCTB0
「ぅ、う……!うう………!」
雪華綺晶は、駆ける。
nのフィールドを、駆ける。
「いや……、なに、これ……」
目から、溢れてくるものが、止まらない。
視界は、ずっと、にじんでいる。
「こんなの、知りません……何、なんなのです、か」
雪華綺晶は、涙など、流したことが、ない。
だから、これは、きっと、違う。
違うのだ。
これは、雪華綺晶の涙などでは、ない。
262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:30:27.56 ID:KMDBjCTB0
「……雛苺、です………」
今、雪華綺晶は、雛苺の身体を使っている。
一度は離れていたが、少年を襲撃するために、また宿ったのだ。
「これは、雛苺の涙……」
そう。きっと、この涙は、雛苺の身体が、流しているものだ。
雪華綺晶のものではない。
そんなはずが、ない。
264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:33:06.54 ID:KMDBjCTB0
急ぎ、雛苺の身体を切り離す。
そこに。
「おい、雪華綺晶!待てって……!」
少年が、追ってきた。
その後ろには、真紅。
「……来ない、で………!」
先ほどまで、少年を捕らえようとしていたのに。
今は、少年から、逃げている。
265 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:37:24.73 ID:KMDBjCTB0
雪華綺晶が、逃げる。
「くそっ!待てって!」
ジュンは、追う。
なぜ追っているのかなど、考えもしない。
ただ、追う。
274 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 12:58:45.40 ID:2ZlVHpwo0
(´;ω;`)ブワッ
275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 13:00:59.73 ID:KMDBjCTB0
「……嫌……!返します、『これ』は、返すから……!」
雪華綺晶の体から、何かが、出てきて。
こちらに、投げるように、雪華綺晶はそれを捨てる。
「追って、来ないで……!」
雛苺の身体を捨てて、雪華綺晶は、逃げる。
277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 13:01:28.30 ID:KMDBjCTB0
目の前に飛んできた、雛苺の身体を受け止めて。
「……!……真紅!頼んだ!」
その身体は真紅に預けて、ジュンは雪華綺晶を、追う。
「ちょっと!ジュン!?」
真紅が止めようとするが、それを振り払い、追う。
278 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 13:05:46.16 ID:KMDBjCTB0
「ううう……!ううううう………!」
雛苺の身体は、捨てた。
捨てたのに。
「なぜ、なぜ、止まらないのですか………!」
頬を濡らすものは、止まらない。
「う、う……ううう………!」
涙、だけではない。
ずっと、目に、焼きついているものがある。
胸を、突き刺すものがある。
「嫌……いやあ……!」
少年の、目。
敵を見る、目。
その、光景が。
ずっと、雪華綺晶を、苛んでいた。
279 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 13:08:06.36 ID:KMDBjCTB0
「雪華綺晶!」
少年の、声。
追って、来ている。
「いや………来ないで…!」
振り返りは、しない。
見たく、ない。
見られたく、ない。
あの、目は。 もう、嫌。
281 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 13:15:10.98 ID:KMDBjCTB0
こちらの呼びかけにも、雪華綺晶は振り返らない。
「このっ……!」
全力で追っているのだが、雪華綺晶との距離は少しずつ開いている。
焦り、急ぐが、
雪華綺晶が、無数の茨を、周囲に伸ばす。
「なっ…!?」
茨が、世界を走り。
亀裂のように、その棘を伸ばし。
それは、本当に、亀裂となって。
びしり、と。
世界が、軋んで。
「―――ジュン!」
世界が、砕かれる。
282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 13:15:18.78 ID:2ZlVHpwo0
クソッ! マテッテ! イヤ…コナイデ…!
ヘ(; `Д)ノ ヘ( ;o;)ノ
三 ( ┐ノ 三 ( ┐ノ
三 / 三 /
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
283 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 13:18:54.81 ID:KMDBjCTB0
真紅に、引っ張られて、別の世界に移動させられた。
目の前で。扉の向こうで、世界が、壊れた。
「………………」
世界の壊れるさまは、恐ろしい、ものがあるが。
「なんとか間に合ったわね……。……全く、危ない所だったわ。
もう少しで壊れる世界に飲み込まれて、一緒に消えてしまうところだったわよ」
ジュンの目には、違うものが、焼きついていた。
「恐ろしいわね。あの子、雪華綺晶、だったかしら。
ジュン。不用意に追いかけては駄目よ。どんな罠があるか………ジュン?聞いてるの?」
最後。
世界が壊れる、直前で。
一度だけ。
雪華綺晶が、振り返った。
その、顔。
その、表情は。
284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 13:19:19.69 ID:KMDBjCTB0
「ジュン?」
「………真紅。雪華綺晶を追うぞ」
「……ちょっと。今言ったばかりのこと……」
「罠とかじゃない。あれは、そんなんじゃ、ない」
最後に、雪華綺晶が見せた表情。
涙を流している、だけではなかった。
つらそうに。悲しそうに。
胸が締め付けられる表情に、歪んでいた。
「あんな泣き顔をしてるやつを、……放っておけるか」
285 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 13:20:53.66 ID:er9af5D3O
ジュンかっこいい氏ね
286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 13:21:28.94 ID:mKKEzi780
さすがJUM氏ね
332 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 18:10:37.23 ID:KMDBjCTB0
自分の世界に、帰って。
雪華綺晶は、涙を流し続ける。
「う、う………」
分かってしまった。
もう、認めるしかなかった。
「うう、ううう………」
彼に、怒りを向けられて。
雪華綺晶は。
雪華綺晶の心は、軋んで、しまった。
「うー…………!」
雪華綺晶は。
彼に、そんな目で、見て欲しくなかったのだ。
333 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 18:15:57.30 ID:KMDBjCTB0
雪華綺晶は、彼に、求めていた。
優しい、視線を。
穏やかな、時間を。
そして、何よりも、温もりを。
「…………いた、い………」
胸が、心が、突き刺される。
「……痛い、です…………」
彼のあの目が。
優しさも、温もりもない、あの目が。
「…………いたい………!」
雪華綺晶の心を、どこまでも、えぐる。
335 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 18:22:12.67 ID:KMDBjCTB0
夢の世界を渡りながら。
ジュンは、真紅に聞く。
「……これで見つかるのか?」
「これしかないのだわ。もう、あの子は見失ってしまったし。
しらみつぶしに世界を巡って、あの子を探すしか手はないのよ」
「……きりがないな」
「そうね。じゃあ、やめる?」
「まさか」
「………まあ、あの子も自分の世界は持っているんじゃないかしら。
いくつも世界を渡っていれば、その内あの子の世界に辿り着くかもしれないわ」
「そうか」
「………どれだけ探せばいいかなんて、わからないわよ。
全ての世界を回ることなんて、永遠の命があっても無理な話よ」
「………探さないわけには、いかないだろ」
「……仕方ないわね。付き合うわ」
「ありがとな、真紅」
「いいのよ」
337 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 18:30:32.94 ID:KMDBjCTB0
雪華綺晶の世界でも、ジュンがいるところでもない世界で。
「…………………」
「……………………」
「………………………」
「…………………お父様……?」
「…………………………」
「…………………どこ、ですか………?」
「……………………………」
「………………………………」
「……………お父様………?」
―――紫のドレスの少女が、歩き出す。
339 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 18:44:46.69 ID:KMDBjCTB0
水晶の城の、広間の隅で。
膝を抱えて、雪華綺晶は考える。
「………ごめんなさい、お父様……」
雪華綺晶は、お父様の最後のドール。
お父様の、最後の希望。
物質に依存して、アリスたり得ない六人の姉とは違う、特別なドール。
精神世界にのみ存在する、物質に汚されないドール。
「………それなのに……」
物質の器を、手に入れて。
物質世界の人間と、触れ合って。
物質の穢れを、自ら、その身に受けてしまった。
「……雪華綺晶は、穢れてしまいました………」
姉達と、同じように。
物質世界に、依存してしまった。
お父様が雪華綺晶を精神体として作った意味を、
雪華綺晶は自ら踏みにじってしまっていた。
341 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 18:49:32.10 ID:KMDBjCTB0
精神世界に存在する雪華綺晶に、触れられる存在は、本来、いない。
だから、雪華綺晶に触れたことがあるのは、
雪華綺晶を作った、お父様ただ一人だった。
ただ一度だけの、お父様の温もりが、恋しくて。
だから、雪華綺晶は、お父様の温もりを求めて、アリスを望んでいた。
それこそが、アリスたるに相応しい、純粋な存在だったのだろう。
けれど、雪華綺晶はお父様以外に、触れてしまった。
お父様以外の温もりを、知ってしまった。
お父様だけだと思っていた雪華綺晶の幸福は、
お父様以外にもあるのだと、知ってしまった。
もう、雪華綺晶は、アリスに相応しくない。
「………私は、駄目な、娘ですわ…………」
雪華綺晶は。
膝を抱えたまま、涙する。
342 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 18:55:31.22 ID:KMDBjCTB0
「……なーんで翠星石がそいつを探さないといけないんですか。
そんなやつほっとけばいいです。雛苺も戻ってきたんですし」
「あら、いいのよ、家に帰っても。
ただ、ジュンも私もnのフィールドを巡るのに忙しいから、あまり帰れないけれど」
「う……」
「ヒナもいくのー」
「なっ!ちび苺まで探すですか!?ローザミスティカを戻して起きたばっかなんですから
安静にしてやがれです!」
「ヒナは大丈夫なの。大丈夫じゃないのは、雪華綺晶なの」
「はあ?なんで雪華綺晶が大丈夫じゃないです。別に怪我したわけでもないですよね」
「雪華綺晶はね、こわいけれど、とても、かなしいの」
343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 18:56:50.60 ID:KMDBjCTB0
「かなしい?なんですかそれは」
「ヒナはね、雪華綺晶に食べられたとき、少しだけ雪華綺晶の中にいたの。
だから、分かるんだよ。
雪華綺晶は、ずっと、ずっと、かなしくて、さみしかったの」
「……どういうこと、雛苺」
「雪華綺晶は、だれかと、話すこともなくて。マスターと、ふれあうこともなくて。
ヒナたちみたいに、眠ることもできなくて。
ずっと、ずっと。
ヒナたちより、ずっと、ながい間、ひとりだったの」
「……眠ることもできない、ですって……?じゃあ、あの子は、いったい何百年……」
「それは、わからないけど。でも、とても、かなしい時間だったのは、分かったの。
雪華綺晶には、ヒナのトモエみたいなひとは、いなかったから」
「……………」
「でも、でもね」
「……なんですか、チビ苺」
「きっとジュンは、雪華綺晶の、トモエなのよ」
348 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:09:21.73 ID:ZSD8NyutO
ローザミスティカを戻すって可能なのか?作中で前例ないからなんとも言えないけど・・・
351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:11:03.48 ID:nB84Tv8L0
>>348彼方から呼ぶ声が届く事もあるのよ
ジュンは私にそれを二度も教えてくれた
離れていても必ずまた会える
私たちは永遠の姉妹なのだから
って真紅が言ってた
357 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:21:19.07 ID:ZSD8NyutO
>>351あのセリフそーゆー意味なのか?確かにそうもとれるが
349 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:10:15.10 ID:KMDBjCTB0
「あーもう!わかったです!翠星石も探してやるです!
じゃあどうするですか!?」
「そうね。しらみつぶしに、世界を回るしかないわ。
昨日までやっていたことと同じね」
「まったく、きりがねーですよ」
「でも、今はジュンも、雛苺もいるわ。金糸雀にも手伝ってもらう。
昨日までより、人手は多いのだわ」
「……まあ、そうですね。わかったです。
やるだけやってやるですよ」
350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:10:47.51 ID:KMDBjCTB0
紫の少女が、さまよう。
「……………………お父、様……」
「………お父様…………………?」
「……………………お父様………」
「……………………………………」
「……………どこ………………?」
「……………………………………」
「……………………………………」
「……………………………………」
「………ふぇ…………」
353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:17:14.94 ID:KMDBjCTB0
水晶の城で、白い少女が嗚咽を漏らす。
自らの意義を失い。
未来も見えず。
少女は、ただ、うずくまる。
354 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:17:40.00 ID:KMDBjCTB0
「……ジュン。適度に休みなさい」
「…まだ大丈夫だ」
「一日中nのフィールドにいるじゃないの。弱った状態でここにいるのは危険よ」
「いや、大丈夫……」
「貴方が夢の世界に呑まれたら、私達も、泣くわよ」
「………ああ、わかった。一度、帰る」
「そうなさい」
「……悪いな、付き合わせて」
「いいのよ。あの子は、私達の妹でもあるのだから」
356 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:20:23.97 ID:KMDBjCTB0
「……………………え、ぅ………」
「……………………………………」
「……どこ………お父様…………」
「……………………………………」
「……………ひぐっ………………」
「………………………お父様……」
「……………………………………」
「………………………………えぐっ…」
358 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:21:20.74 ID:KMDBjCTB0
水晶の、広間で。
雪華綺晶は、自分を、抱きしめる。
父の、願いを踏みにじって。
少年の、温もりを失って。
私は、どこへ、行くのだろう。
分からない。
分からない。
いいえ、きっと。
――― 私はもう、どこへも、行けない。
白い、茨が。
雪華綺晶の世界を、覆い尽くす。
360 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:21:45.79 ID:KMDBjCTB0
雪華綺晶を探して、二日目。
今日の成果も、皆無。
「………くそ」
「ぼやくんじゃないのよ、ジュン。一日二日で見つけられたら、その方が驚くべきことよ」
「……分かってる」
分かってはいるのだが、やはり、焦れる。
早く、雪華綺晶を見つけて、なんとかしてやりたい。
「ジュン、そろそろ時間なのだわ」
「……ああ。戻って休むよ」
「じゃあ、開くわね」
真紅が扉を開き、桜田家へ帰る。
それを追って、ジュンも扉を通ろうとして。
「………………ぇぅ……………」
誰かの、泣くような声を聞いた。
361 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:22:19.47 ID:KMDBjCTB0
「え………?」
扉から、離れて、声のした方に近付く。
そこには。
「………ひぐっ………………ふえぇ……」
紫のドレスを着た少女が、泣きながら、とぼとぼと歩いていた。
363 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:27:31.01 ID:KMDBjCTB0
「………雪華、綺晶……?」
ドレスは、違う。
けれど、その少女は、雪華綺晶によく似ていた。
「………ふぇ……?」
こちらの声に、少女が、振り返る。
その顔も、よく似ている。
しかし、雪華綺晶は右目の部分が白薔薇で隠されているのに対して、
その少女は、左目を眼帯で隠している。
364 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:29:15.29 ID:mKKEzi780
ばら・・しぃ?
370 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:32:29.20 ID:KMDBjCTB0
やはり、雪華綺晶では、ない。
ないのだが。
「……ああ、くそ、何泣いてるんだよお前」
雪華綺晶に似た少女が、雪華綺晶のように泣いている。
放っておけるわけがなかった。
372 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:33:26.05 ID:KMDBjCTB0
「……う……?」
紫の少女は、近付いてくるジュンを呆然と見ている。
何か、不思議なものを見るような目。
まるで、はじめて見る生物を眺めているような。
「……で、どうしたんだ、お前」
少しかがんで、視線を少女に合わせる。
「……………?」
少女は、首をかしげ、ジュンを見る。
言葉が通じてるのかも疑問だ。
377 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:37:37.88 ID:KMDBjCTB0
コミュニケーションがとれない。
少女の顔は、涙に濡れたまま。
「ああ、くそ」
わしっ、と少女の頭を掴む。
「………?」
少女が、また首をかしげるが、それには構わず。
わしゃわしゃと。
少し乱暴に頭を撫でてやる。
378 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:38:07.25 ID:KMDBjCTB0
「…………あ………」
ジュンの手の動きに。
少女は、ジュンの顔を見る。
「ほら、泣き止め。何があったかは知らないけど泣き止め。
……って、泣き止んではいるのか。じゃあとりあえずその泣き顔をどうにか……」
ひしっ、と。
「……え」
少女が、ジュンの胸にすがりつく。
「お、おい……」
少女は。
「…………うぇぇ……」
ジュンの胸の中で、泣き始めた。
382 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:39:42.85 ID:KMDBjCTB0
「………あちゃー」
なんだかやっちまった的な感覚を受けながら、胸にすがる少女を見やり、
「……仕方ないな」
ため息をついて。
泣き続ける少女の頭を、撫でる。
とりあえず、泣き止むまでは、こうしてやろう。
386 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:47:29.26 ID:KMDBjCTB0
いくらか、時間が過ぎて。
「……ジュン、なんで戻ってこないの……って、雪華綺晶?」
ジュンにすがり付いている少女を見て、真紅が驚く。
「いや、違うぞ。雪華綺晶じゃない。なんか似てるけどな」
もうかなり落ち着いている少女の頭を撫でながら、言う。
「……誰、なの?ドールでしょう?でも、第七ドールは雪華綺晶のはずよ」
「そういやそうだな。……なあ、お前、名前、なんていうんだ?」
少女に、問う。
「…………名前……?」
少女は顔を上げ、聞いてくる。
涙に濡れてはいるが、もう泣いてはいないようだ。
「お前の名前だよ。ほら、お前、なんて呼ばれてるんだ?」
「私は……薔薇水晶です…………お義父さま」
「そうか、薔薇水晶か。…………はい?」
391 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:52:39.43 ID:KMDBjCTB0
「お、お義父さまって、え?」
「お義父さま」
ぎゅっ
「ジュン……貴方……」
「いや待てよ。お前今どんな誤解して……」
「か、かかか、隠し子ですぅ!?ジュンのくせにいっぱしに隠し子作っていやがったですか!?」
「翠星石!?お前いつの間に!」
「ドールと隠し子作るなんてなかなかやるかしらー」
「金糸雀もかっ!てか違う!僕に子供なんて!」
「……お義父さま……?……どうしたんですか……?」
「うわあああ!」
397 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 19:58:04.92 ID:KMDBjCTB0
とりあえず落ち着いて、家に戻る。
家に戻ったときも、のりと雛苺によって同じことが繰り返されたが。
とりあえず落ち着く。
「……つまり、お父さんが帰ってこないのか」
こくん、と薔薇水晶がうなずく。
薔薇水晶の話を聞くに、
どうやら彼女を作った人形師が、出かけたまま帰ってこなくなってしまったらしい。
あまりにも帰ってこないので、
心配なのと寂しいので探しにでてきたのだが、
全然見つからなくて、
途方に暮れて泣いていたらしい。
401 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 20:02:53.86 ID:KMDBjCTB0
「……しかし、お義父さまってな…」
ジュンに慰められたとき、薔薇水晶はジュンを『お義父さま』と認識したらしい。
そしてその認識を改める気もなさそうだ。
『刷り込み』みたいなものだろうか。
「まあ、それはいい。いや、あんまし良くないけど、まあいい。
とにかく、薔薇水晶は『お父様』を探してるんだな?」
こくん、とまた薔薇水晶はうなずく。
「で、そのお父様はnのフィールドに入ったきり戻ってこないと」
こくん。
「分かった。
じゃあ、一緒に探そう」
404 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 20:07:26.24 ID:KMDBjCTB0
「………?」
薔薇水晶が、首をかしげる。
「僕も、探してるやつがいるんだ。
そいつも、nのフィールドのどこかにいるはずだから。
一緒にお前のお父様も探せる」
「……お義父さまも、探してるの……?」
「ああ。どうせ、しらみ潰しに探すんだ。
やることは一緒だし。
……お前、一人だと寂しいんだろ」
「………ありがとう。お義父さま」
408 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 20:11:53.76 ID:KMDBjCTB0
休憩時間を終えて。
また、nのフィールドに入る。
「……お義父さまが探してるのって、誰…?」
「雪華綺晶、ってやつだ」
「……どんなひと?」
「顔はお前に似てるな。後は、まあ、なんていうか。
……なんて言えばいいんだろうな」
「………お義父さまはなんで、そのひとを探してるの……?」
「……なんで、か……。……なんでだろうな」
「………?」
「……なんか、ほっとけないんだよ」
「………そう……」
414 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 20:17:28.89 ID:KMDBjCTB0
ひたすら、世界を巡る。
金糸雀は、マスターがnのフィールドにいないので長時間は無理、
ということで帰っていて、雛苺は眠りについている。
ジュンと、薔薇水晶、真紅、翠星石での捜索。
ジュンは、薔薇水晶の力で世界を移動できるので、真紅にも単独で探してもらうようにした。
ジュンは、ぽつぽつと薔薇水晶と話しながら、世界を巡る。
415 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 20:19:20.15 ID:KMDBjCTB0
巡り、巡る。
探し続けて。
そして。
「ジュン!ちょっと来るです!」
421 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 20:25:21.02 ID:KMDBjCTB0
翠星石が、見つけたもの。
それは。
「……雪華綺晶の、茨だな」
とある世界の、扉の一つ。
開いた扉を埋め尽くす、白い、茨。
「たぶん、この扉の向こうが、雪華綺晶の世界です。
でも、他の世界との繋がりを、絶ってしまってるです」
翠星石の言うとおり、茨が完全に扉を塞ぎ、扉の先へ行くことはできない。
「翠星石の如雨露や、真紅の花びらじゃ、これは開けられないです。
硬いですし、棘だらけで触れません」
425 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 20:30:46.67 ID:KMDBjCTB0
「……開けられない、か。
くそっ、やっと見つけたのに」
目の前に、雪華綺晶に繋がる道があるのに、
その道を、進めない。
「どうすれば……」
考える、ジュン。
その服の裾。
くい、くい、と。
「……ん?なんだ、薔薇水晶」
「……これ、邪魔なの?」
「ああ、ものすごい邪魔だ。でも、どけられないっていう……」
「………じゃあ、薔薇水晶が、開ける」
ざくん、と。
薔薇水晶の持つ、水晶の剣が、茨の壁を断ち斬った。
430 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 20:35:21.20 ID:KMDBjCTB0
「………おお」
予想だにしない、薔薇水晶の力。
というか、外見や性格に似合わない攻撃的な能力。
どうやら、薔薇水晶は意外と強力な能力を持っているらしい。
「……これでいい?……お義父さま」
薔薇水晶が、聞いてくる。
「……ああ。よくやった。薔薇水晶」
「…………………」
言葉にはしないが、褒められて嬉しそうだ。
「……さて、行こうか」
扉を、くぐる。
654 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:03:43.96 ID:c2VpDRbn0
―――自分の世界に、誰か、入ってきた。
それに気付いても、反応はしなかった。
痛くて。苦しくて。情けなくて。
何かをする気力なんて、ない。
思考だけが、わずかに動いて、
誰が入ってきたのか、それをぼんやりと考えて。
―――その候補は、数えるほどしかいないことに気付く。
びくっ、と、その事実に恐怖し。
とにかく。逃げようとして。
顔を上げたときには、遅かった。
「―――なにやってんだ、雪華綺晶」
657 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:07:29.90 ID:c2VpDRbn0
( ―――――――――!)
とにかく、逃げようとする。
けれど、
「こら、逃げるな。ていうか、逃がさないからな」
手を掴まれて。
離れ、られない。
(……いや、いや………!)
離れ、たい。
離して。
「ああ、くそ、泣くな。頼むから泣くなよ」
手を、引っ張られ。
力無い体が、引き寄せられる。
「………だから、泣くなって」
温もりが、身体を、包む。
661 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:12:27.47 ID:c2VpDRbn0
(嫌、です。嫌。これは、いや)
逃れようとする。
「おい、こら、落ち着けって!」
(怖い。こわい。こんなの、)
逃れられない。
「泣くな。暴れるな。……逃げるなよ」
(これは、駄目。こんなの、こんなの)
力の限り、離れようとする。
「雪華綺晶!おい、落ち着け……!」
(こんなに、温かかったら。雪華綺晶は)
力の限り、逃げようとする。
「雪華綺晶…!!」
(雪華綺晶は、崩れて―――!)
「………お義母さま。……なぜ、泣いているの?」
662 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:14:07.85 ID:RVd4ExOV0
……なん……だと?
663 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:14:21.54 ID:dYR6bN7n0
なん・・・だと・・・?
666 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:17:13.73 ID:c2VpDRbn0
「………え……?」
場違いな、声。
不思議げな、言葉。
「……お義父さまに抱かれて、なんで、泣くの……?」
きょとん、と。
首をかしげて、言ってくる。
「………あ。薔薇水晶が、お義父さまに会えたときと、一緒……?」
無表情ながらも、嬉しげに言ってくる。
「……嬉しいんだよね……!」
意味が分からない。
667 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:22:58.56 ID:c2VpDRbn0
「……あー、薔薇水晶」
いきなり妙なことを言い出した義理の娘?に聞いてみる。
「お義母さまってなんだ」
「え……?……お義母さま」
雪華綺晶を指差す。
雪華綺晶も、なんだかあっけにとられている。
「待て。いや待て。どういうことだ。いや、お前そっくりだけど、まさか」
実は雪華綺晶の娘だったのか。
混乱しながら聞くが。
薔薇水晶は、首をかしげて。
「………お義父さまのいい人。……お義母さま」
「待てそこ」
薔薇水晶の頭のなかでは、なにやら独自の人物相関図が形成されたらしい。
673 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:28:07.58 ID:c2VpDRbn0
「……違うの?」
「いや、いい人ってな……」
「…………違うの?」
返答に困る。
別に、恋人とかそういうのでは、ないのだが。
「……お義父さまの、大切な人、じゃないの?」
よく分からなそうに首をかしげている薔薇水晶。
「………いや、大切っていうか、なんていうか………あー」
自分でもよく分かっていない。
「……ほっとけない、っていうのは、大切、ってことか………?」
つい考え込んでしまう。
「……?……お義母さまは?」
考えこんだジュンから、雪華綺晶に質問の対象を変える。
「……え。………あ、……私は………」
いきなり話を向けられた雪華綺晶も、うろたえている。
675 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:32:19.05 ID:c2VpDRbn0
「……お義母さまは、お義父さまのこと、大切じゃないの?」
何の含みもない、純粋な瞳で、紫の少女が聞いてくる。
「……私、は……」
彼が、大切?
それは。
そんなことは。
「………そんなことは、だめ、なのです……」
681 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:37:24.45 ID:c2VpDRbn0
「……駄目?」
紫の少女が、首をかしげる。
「駄目、なのです。それは、いけません」
彼女に、言い聞かせるように。
自分に、言い聞かせるように。
雪華綺晶は、言葉を絞り出す。
「それは、駄目。私は、アリスになるのですから。
彼が、大切だなんて、そんなことは。
―――私の、大切な人は、お父様です」
そう。
雪華綺晶は、お父様のための存在。
だから、お父様以外なんて……
雪華綺晶の答えに。
紫の少女はやはり、首をかしげる。
「……よく分からないけど。大切な人って、何人もいたらだめなの?」
683 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:41:37.56 ID:c2VpDRbn0
「………え?」
「薔薇水晶には、お父様も、お義父さまもいるよ?
……お義母さまだって、いるよ?
それは、だめなの?」
心底、分からないふうに、紫の少女、薔薇水晶は、聞いてくる。
「……お義母さまのお父様と、お義父さま。
両方大切に思うのは、いけないことなの……?」
「……両、方……?」
そんな発想は、今まで、なかった。
雪華綺晶は、ずっと、お父様だけを見ていたから。
大切なものが、いくつもあるなんて、考えたこともなかった。
「………お父様、以外……」
そんな選択が、あるのだろうか。
「……私、は………」
690 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:48:55.10 ID:c2VpDRbn0
「………雪華綺晶、とりあえず落ち着いたか」
「……あ………」
少年の声に、自分の状態を認識する。
雪華綺晶は、少年の胸に抱かれたまま。
………やはり、とても、温かい。
「………はい。落ち着いたので、離してもらえませんか」
そういえば、自分は激しく取り乱していた。
この体勢はそれを抑えるためのものだが、
薔薇水晶の不意の言葉に呆気に取られ、今は収まっている。
この体勢でいる必要性はないはず。
だが。
「逃げられると嫌だから。離さない」
少年は、にべもない。
離そうとする気配はまったくない。
仕方なく、ひとつ息をついて。
「………分かりました。とりあえずは、このままで、いいですわ」
696 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:53:36.56 ID:c2VpDRbn0
「…………くそ、再構成に時間が掛かったな」
男は、苛立たしげに、呟く。
「まったく、なんだあの速度は。崩壊というよりも破壊だったが……」
床に突っ伏した状態から起き上がりながら、体を点検する。
「………支障はないな。破損の状況から見るに、僕に対する攻撃というわけでもなさそうだが……」
しばらく納得できない風の表情で考え込んでいたが、振り払うように首を振る。
「まあいい。実害はない。そんなことより、ずいぶん長く家を空けてしまったし、何よりあの子を……」
周りを見渡し、誰もいない、店を見る。
「……………おい、薔薇水晶?」
698 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:57:03.24 ID:c2VpDRbn0
「……あの」
「ん?」
「……やはり、私が貴方になんらかの感情を抱くのは、駄目だと思うんです」
「……なんでだ?」
「大切な人が、何人いたって、いいのでしょうけれど。
でも、私の場合は、違うんです」
「違う?何が」
「私は、お父様のための存在だから。アリスにならなくてはいけないから。
その為に障害になるならば、貴方を、その、大切に思うのは、あってはならないんです」
「………………」
「私は、純粋な少女でなくては。穢れなく、完全な少女でなくてはならないんです。
そのためには、お父様以外に関わっては……」
「なあ、お前のお父様、ローゼンって、どういうやつなんだ?」
700 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 17:59:34.17 ID:c2VpDRbn0
「え?」
「お前らってさ、ローゼンのことすごく好きみたいだけど。
ローゼンっていうのは、そんなにいい奴なのか」
「……当然ですわ。お父様は、素晴らしい方です。大きな、方です」
「優しいのか」
「優しいですわ」
「すごく、優しいか」
「とても、優しいですわ」
「……それだと、おかしいことになると思うんだけど」
「え……?」
「そんな優しいやつが、自分の為に娘を苦しませるのか?」
702 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:02:22.74 ID:c2VpDRbn0
「……自分の為に、苦しませる、ですか」
「だってそうだろ。お前らがアリスになるのは、ローゼンの望みだからだろ。
ローゼンのそのわがままのために、お前らが苦しんでるんだろ?」
「私は、苦しんでなど……!」
「泣いてただろ、お前」
「あ………」
「明らかに、苦しんでるだろ、お前。
あんな風に泣くぐらい、苦しんでただろ」
703 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:04:03.45 ID:c2VpDRbn0
「………………私、は」
最初に、泣いてしまったのは、少年に嫌われたから。
でも、その後で、少年から離れようとしたのは、アリスでありたかったから。
「お前が、アリスになるために苦しんでるのは、確かだ。
それは、絶対に、否定できない」
「…………………」
「そうなると、やっぱりおかしい。
ローゼンが優しいやつなら、自分の娘を自分のわがままで苦しめたりしないだろ」
「……それは………」
「それを、おかしくないようにするなら、
ローゼンが実は全然優しくない、自分勝手な糞野郎だったりするか……」
「そんなことは……!」
「お前らが、ローゼンの気持ちを、全然分かってなかったりするかだ」
706 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:08:08.87 ID:c2VpDRbn0
「………私達が、お父様の気持ちを……?」
「ローゼンが、優しいやつなら。自分の娘に苦しんでほしくなんかないだろ。
でも、お前はローゼンの望みのためとか言って、苦しんでる。
それは、ローゼンの望んだことなのか?」
「………………」
「ローゼンがどんなやつかなんて、僕は知らない。
でも、お前らが好きなやつなんだろ?
お前らが好きなローゼンは、そんなことを望むやつなのか?」
709 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:14:11.90 ID:c2VpDRbn0
少年の、言葉に。
雪華綺晶は、分からなくなってしまう。
お父様は、自分達に何を望んだのか。
自分は、何をすればいいのか。
「………お父様の求めるものは、アリス……」
アリスを求める父。
父の為に、アリスを目指す娘。
けれど。
「……お父様は、とても優しい人………」
アリスになるために、涙を流したら。
お父様は、喜ぶのだろうか?
「……分かり、ません……」
雪華綺晶には、父が、分からない。
711 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:21:56.10 ID:c2VpDRbn0
雪華綺晶は、何も言わなくなってしまった。
ジュンの言ったことを、考えているらしい。
(……部外者が言い過ぎたかな)
アリスとかアリスゲームとか、全てはローゼンとドール達の問題だ。
ジュンには正直、関係のないことだと思う。
(でも、気になったこと言っただけだし)
最初に真紅にアリスゲームのことを聞いたときも、ひどい話だと思った。
そのゲームをやらせているお父様とやらは、よほどひどいやつなのだろうと。
だが、真紅や雪華綺晶によれば、お父様は素晴らしい方らしい。
それってなんか変じゃないか、と思っていたのだ。
714 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:27:14.91 ID:c2VpDRbn0
「……あの」
雪華綺晶が、見上げてくる。
「ん?」
「……一度、貴方は帰ってくれませんか」
「………………なんで」
「私は、どうするべきなのか、考えようと思います。
貴方のことを、どうするべきなのか。
その考えが、決まるまで、貴方には、離れていてほしいんです。
貴方の温もりに触れていていいのか、まだ、分からないから」
つまり、お父様のために他の全てを捨てる、という選択をしたときのために、
ジュンにはできるだけ関わらないでおこう、ということか。
715 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:27:39.82 ID:c2VpDRbn0
「…………分かった」
なんだかすっきりしないものはあるが。
どうするかを決めるのは、雪華綺晶だ。
「どうするか決まったら、お伝えします。
どんな、答えでも」
雪華綺晶が、ジュンから離れる。
ジュンも、止めない。
「では」
「……ああ」
716 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:27:50.69 ID:PvZ3mEpd0
ローゼンの8巻の内容をこういう感じにしてほしかったな
717 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:32:44.83 ID:c2VpDRbn0
広間を、出ようとして、
「……あ、薔薇水晶、帰るぞ」
薔薇水晶を呼ぶが。
「……お義母さまの傍にいる」
薔薇水晶は、雪華綺晶に寄り添い、離れようとしない。
「え?……どうしたんだ?」
さっきまでジュンにべったりだったのだが。
どういうことかとのジュンの質問に。
「……お義母さま、一人だと、寂しいでしょ……?」
当たり前、と言わんばかりに、薔薇水晶は答える。
「………ああ、そうか」
薔薇水晶も、父が帰ってこなくなって一人で寂しい思いをしたのだ。
それを、雪華綺晶には味わってほしくないらしい。
719 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:38:25.21 ID:c2VpDRbn0
「………どうする?」
雪華綺晶に、聞く。
薔薇水晶の気持ちは微笑ましいが、
雪華綺晶が一人になりたいというのなら、薔薇水晶は連れて帰るべきだ。
ジュンの視線に、雪華綺晶は少し考えて、
「……支障はないですわ。ドールに、温もりはありませんし」
薔薇水晶の手を取って、言う。
「………この子の気持ちを無下にするのも、忍びないですわ」
720 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:41:07.79 ID:c2VpDRbn0
「……あ。ジュン、帰るですか?」
城の外で待っていた翠星石が、顔を上げる。
「ああ。とりあえず話はついたから」
「……上手くいったです?」
「今は待ち、だな。とりあえず、帰ろう。……あれ、真紅は?」
「……そーいえば呼んでなかったですね。
ここへの扉を見つけてすぐジュンを呼んで、そのままここに来ちゃったですから」
「あー……怒ってるな。間違いなく」
「………やっぱ帰るのやめるです」
「……そうもいかないんだよな。僕もそろそろ眠いし」
「……うう。翠星石もです。……しかたねーですね……」
「諦めて帰ろう」
「ですぅ」
724 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:52:43.15 ID:c2VpDRbn0
少年が帰ったのを、感じる。
今、城には雪華綺晶と薔薇水晶だけ。
「……では、どうしましょうか」
考えなくてはいけない。
これから、どうするか。
「お父様のこと。私達のこと」
よく、考えてみれば。
雪華綺晶は、いや、きっとドール達全ては。
お父様の気持ちを、ほとんど知らないのだ。
それは、お父様のための存在である自分達のことも、
理解していないということ。
「………どうしましょうか」
725 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 18:54:02.25 ID:c2VpDRbn0
「………ふぁう」
思考が、変な声で遮られる。
「……薔薇水晶さん。眠いのですか」
薔薇水晶が、小さなあくびをしていた。
「……うん」
「貴女も、睡眠を必要とするのですね。
無理する必要はありませんわ。お休みなさい」
ふるふる、と、薔薇水晶は首を振る。
「……お義母さまと一緒」
「けれど、眠いのでしょう?」
「………お義母さまと一緒」
その、妥協する気のなさそうな返事に。
「……仕方ありませんね。一緒に寝ましょうか」
雪華綺晶は、苦笑する。
727 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:01:35.77 ID:c2VpDRbn0
雪華綺晶は睡眠を必要としないが、
雪華綺晶の世界は城の形態のため、一応寝室は存在する。
「どうぞ、物質ではないので、汚れたりはしていません。
安心して、横になりなさい」
「……うん」
白いベッドに、二人で横になる。
薔薇水晶は、本当に眠そうだ。
それでも、雪華綺晶のドレスの裾は離そうとしない。
「……薔薇水晶さん。逃げたりはしませんわ。
だから安心なさい」
「………うん」
裾から手は離したが、
「…………お義母さま……」
もぞ、と、すり寄ってくる。
「……仕方のない子ですね」
薔薇水晶の求めに答えて。
薔薇水晶を、抱きしめる。
733 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:08:09.96 ID:c2VpDRbn0
「…………すぅ」
穏やかに寝入った、薔薇水晶の寝顔を見る。
(………まさか、こんなことになるとは、思いませんでしたわ)
雪華綺晶は、薔薇水晶をずっと前から知っている。
かつて、器を求めて試行錯誤していた頃。
父には遠く及ばないものの高い技術力を持つ人形師が、
ローゼンメイデンに匹敵するドールを作ろうとしているところに干渉し、
自分の操りやすい身体を作らせ、奪おうとしたことがある。
結局その人形師の理想と雪華綺晶の求めたもののズレが大きすぎて、
姿を似せる程度しか干渉できず、器として奪うことも出来なかったが。
まさか、その人形とこんな風に触れあうことになるとは。
「…………不思議ですわね」
735 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:13:31.39 ID:c2VpDRbn0
「…………んぅ……?」
もぞり、と薔薇水晶が動く。
雪華綺晶の呟きに反応してしまったらしい。
「あら、ごめんなさいね」
薔薇水晶の髪を、静かに撫でる。
「………………」
続けていると、また穏やかに眠りはじめた。
その姿を見て。
「…………………くす」
自分が、微笑んでいるのに気付く。
「……こういうものも、はじめてですわね……」
悪い気分では、ない。
737 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:20:38.23 ID:c2VpDRbn0
そして、考える。
(……私は今、幸せなのでしょうね)
可愛らしい、娘と一緒に、
穏やかな、時間を過ごしている。
(……これは、いけないことなのでしょうか)
アリスになることを目指すなら、これは不要なこと。
こんなことをしていないで、ドールのマスターを喰らうべき。
(……お父様なら、どうするべきだと、言われるのでしょう)
お父様は、アリスを求めている。
そんな不要なことをするなと、言うだろうか。
(………けれど、この時間は)
とても、離しがたい。
739 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:24:37.79 ID:c2VpDRbn0
アリスになれと、そう言う父は想像できる。
けれど、
その為に苦しめ、と言う父は、想像できない。
(………結局は、そういうことでしょうか)
薔薇水晶の寝顔を、眺める。
とても、可愛らしい。
(きっと、この気持ちは、娘を見る気持ち)
自分に懐いている、子供を見る気持ち。
(それなら、きっと、お父様も)
742 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:26:26.93 ID:c2VpDRbn0
さらさらとした、娘の髪を撫でる。
穏やかな寝顔に、微笑む。
優しく、抱きしめて。
―――白い少女も、眠りについた。
746 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:36:13.92 ID:5rcRqGnNO
あぁ…なんだろうすごいなごむ…
747 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:37:11.21 ID:c2VpDRbn0
「やっぱり、どんな状況でも事態の情報は伝えるべきだと思うのだわ。
特に、今回は火急というわけでもなかったのでしょう。
時間はあったのだから、せめて一言私にも……」
「悪かった。悪かったって。もう何十回目だその小言……」
「小言?小言ですって?これは正当な抗議よ。
私が一体何時間nのフィールドを探し回ったと……」
「………真紅はしつこいですぅ」
「なんですって!大体ああなったのはそもそも貴女が……!」
「しまったです!矛先がこっちに向いたですぅ!」
「逃げるんじゃないのだわ翠星石!私の話をちゃんと聞きなさい!」
749 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:39:03.93 ID:c2VpDRbn0
「……ふう、助かった」
翠星石を追って走り去っていく真紅の背中に、隠れて安堵の息をつく。
昨夜一人だけ放置されていたことに、真紅は怒髪天を衝く勢いだ。
事実真紅の怒髪はジュンと翠星石に牙を向いている。
「……まあ、それは置いておいて」
全身の痛みを忘れようと頭を振り、窓を眺める。
「あいつ、どうするのかな」
白い少女のことを考える。
そして。
「……僕は、どうしてほしいんだろうな」
753 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:43:41.74 ID:c2VpDRbn0
正直、ジュンは自分が雪華綺晶のことをどう思っているのか、よく分からない。
「ほっとけない、っていうのは間違いないんだけど」
それは、薔薇水晶が言ったように、大切な人、ということだろうか。
「……泣いていてほしくない、っていうのも確かだな」
でもそれは、きっと他の誰に対しても持つ思いだろう。
「後は、そうだな……」
少し、考えて。
「……あいつを抱いてると、なんかなごむな」
それは特別なのかどうなのか。
「……やっぱよく分からないな」
756 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:49:29.06 ID:c2VpDRbn0
「薔薇水晶さん。行きましょうか」
「うん」
娘の手を引いて、自分の世界を出る。
二人で、nのフィールドをゆく。
758 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:52:07.19 ID:c2VpDRbn0
世界を、渡りぬけながら。
「お義母さま」
「なんですか?」
「お義父さまは、お義母さまの、大切な人?」
薔薇水晶が、聞いてくる。
「……そうですね、」
雪華綺晶が、答えようとして。
「……あ。」
不意に、薔薇水晶が虚空を見る。
764 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 19:55:49.58 ID:c2VpDRbn0
「どうしたの、薔薇水晶さん」
「お父様が、呼んでる」
すごく、嬉しそうだ。
だが、
「あ……」
ちらちらと、雪華綺晶に視線をやる。
なんだか、困っているようだ。
その姿に、雪華綺晶は笑みをこぼす。
「いいのよ、薔薇水晶さん。行ってらっしゃいな。
私は、一人で行ってくるから」
雪華綺晶の言葉に背中を押され、
「……うん」
薔薇水晶は、飛び去っていく。
その背中を見送って。
「……では、私も行きますわ」
少年の、もとへ。
769 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:00:47.11 ID:c2VpDRbn0
「お父様……!」
鏡から、飛び出す。
そこは小さな店。
「薔薇水晶」
長身の男が、薔薇水晶を抱きとめる。
「お父様、よか、よかった。どこ、いってたの……」
男の胸の中で、薔薇水晶が喜びの涙を流す。
「ああ、すまなかった。心配をかけたようだな。
本当に、すまなかった」
男は、薔薇水晶を強く抱きしめる。
771 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:04:07.58 ID:c2VpDRbn0
「ふ、ぇ。……よかった」
男の腕の中で、安心したように、薔薇水晶はつぶやく。
「心配をかけた。薔薇水晶」
男は、薔薇水晶が落ち着いたのを見て取って、
「ところで、だ。薔薇水晶」
「…はい……?」
「お前、なんでローゼンのドールと一緒にいた?」
厳しい声で、問う。
777 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:10:01.46 ID:c2VpDRbn0
「………お父様?」
薔薇水晶には、男の言っていることが分からない。
「……ああ、そうか。お前にはまだ教えていなかったな。
ローゼンのことも、お前を作った目的も」
自分の拙速を恥じるように、男は少しの間目を閉じる。
「…………?」
「……言い直そうか。さっきまで一緒にいたやつがいるだろう。
そいつとは何で一緒に行動してたんだ」
「……お父様を探してて、見つからなくて、ええと、お義父さまに会って……」
思い出しながら離す薔薇水晶の言葉は、いまいち要領を得ない。
「………?まあ、とにかく、僕を探してるときに会ったってことか」
「あ……はい」
782 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:17:55.30 ID:c2VpDRbn0
「……あれは、七番目だな。初めて見たが……薔薇水晶に似ていた。
どういうことだ。………………あいつ。精神体だったな」
ぶつぶつと、男は考え込む。
「……お父様……?」
薔薇水晶の呼びかけに、男は応えない。
「………くそっ!そういうことか!僕を利用しようとしたな……!」
苛立った声を上げる。
「………お父様…?」
「………そうなると、あいつは、精神干渉能力があるわけか……。
精神属性の高い能力か。薔薇水晶とは極めて相性がいい」
「……お父様?」
「……腹も立つしな。最初の標的は、あいつにしよう」
哂って。
「薔薇水晶。あいつを、壊して来るんだ」
794 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:23:57.40 ID:c2VpDRbn0
「……え………?」
「まだ話していなかったが、僕の目的は、あいつらを作った人形師を越えることなんだ。
僕が作ったお前が、ローゼンが作ったあいつらを壊せば、僕があいつを越えた証明になる。
だから、お前にあいつらを壊してほしい」
「……壊、す……?」
「そうだ。簡単なことだ。あいつらはお前よりずっと出力も低いし、能力も大したことない。
七番目だけは分からないが、おそらく精神干渉系の能力。
精神干渉を受けない性質のお前なら、手こずることもないだろう。
七番目が、腕試しには一番いいかもしれん。
まあ、腕試しなんて必要もないと思うが」
798 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:26:55.92 ID:c2VpDRbn0
「…………………」
「手始めに、さっきまで一緒にいたあいつ。
あいつを壊して、あいつの中にあるローザミスティカを奪ってくるんだ。
そうすれば、お前は力を手に入れて、一段と高次の存在になる」
「…………………」
「やってくれるな?」
「…………………」
「……薔薇水晶?」
「……………嫌……」
799 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:27:02.69 ID:k+FPrDmxO
お父様空気読めし
801 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:28:43.82 ID:FOsJEGXE0
やめてくれ・・・
803 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:29:05.16 ID:c2VpDRbn0
「……なんだって?」
「……嫌。…嫌です」
「お、おい、薔薇水しょ……」
「絶対に嫌……!!」
「おい!?ま、待て……!」
808 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:32:45.02 ID:c2VpDRbn0
こんこん、と、ノックのような音。
「ん?」
窓を見れば。
外の風景は見えず、代わりに見えるのは、白い人影。
「……雪華綺晶」
くす、と。
窓硝子の向こうから、少女が微笑みかけてくる。
813 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:38:35.53 ID:c2VpDRbn0
雪華綺晶に手を引かれて、nのフィールドへ。
「ごめんなさい。私は今、身体がないから」
雪華綺晶は本来、nのフィールドにしか存在できない。
現実世界には指の一本も出すことは出来ない。
だから、話したり触れ合ったりするためには、ジュンもnのフィールドに入る必要がある。
「いいよ。………それで、決まった?」
雪華綺晶の表情を見て、なんとなく答えは分かったのだが、
ちゃんと雪華綺晶に確認を取る。
「ええ。私は……」
そこに。
「お義母さま!!」
どんっ、と、飛び込んできた小さな人影。
817 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:43:15.15 ID:c2VpDRbn0
飛んできた勢いに押されて、雪華綺晶が倒れこむ。
「きゃっ………、……薔薇水晶さん?」
雪華綺晶は、自分に抱きついている娘に呼びかける。
「……えっぐ……えう………お義母さまぁ……」
薔薇水晶は、泣いている。
「……どうしたのですか?貴女のお父様のところに行ったのでは……」
とりあえずあやしながら、事情を聞いてみる。
「……お父様が、お父様が………」
ぽつり、ぽつりと、薔薇水晶は話し始める。
821 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:49:00.69 ID:c2VpDRbn0
薔薇水晶の話は、とても断片的で把握しづらかったが、
雪華綺晶は理解したようだ。
「……そう。あの人に、私を壊せ、と言われたのですね」
「……ふぇっ………でも、私……そんなの……」
「分かっていますわ。だから、ほら。泣かないで」
「……………お義母さまぁ……!」
「あらあら。余計に涙が増えてしまいましたわ」
824 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:52:52.34 ID:04ktD99z0
ばらしーがお父様以外を選んだ!!
825 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:53:35.44 ID:c2VpDRbn0
雪華綺晶が、薔薇水晶をあやしている。
その光景。
はじめて見る、優しい表情。
それはとても、女性的で―――
「……どうかしました?」
「あ、いや、なんでもない」
ジュンは、慌てて目を逸らす。
「………?」
雪華綺晶が怪訝そうに視線を送ってくるが、黙ってやり過ごす。
(………なんだ今の。なんかすごくどきっとしたけど)
826 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 20:56:08.22 ID:c2VpDRbn0
「……それで、そのお父様の命令が嫌だったから、ここに来たのね?」
優しく、雪華綺晶が聞く。
「………私、…お義父さまの家の子になる………」
「あらあら」
「……ほんとだもん………」
「あらあら」
832 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:00:44.52 ID:c2VpDRbn0
なんだかやけに微笑ましい光景はさておいて。
「……で、僕はいまいちよく分かってないんだけど。
なんでそいつは雪華綺晶を壊そうとしてるんだ?」
薔薇水晶をあやしながら、雪華綺晶が答える。
「この子の作り手は、お父様に対抗意識を持っているんです。
私達を壊すことで、お父様を越えたことを証明したいのでしょうけれど……」
くす、と、薔薇水晶を見て笑い。
「この子は、私と貴方に懐いてしまいましたので、それができなくなってしまったようで……」
「なるほど。どうやったかは知らんが、僕の薔薇水晶に干渉したわけか」
怒りに染まった、声がした。
835 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:03:56.66 ID:c2VpDRbn0
「え……」
ジュンが、声のした方に振り向くより速く。
「……がっ…!?」
雪華綺晶が、薔薇水晶から引き離される。
「お父様……!?」
薔薇水晶が悲鳴を上げるが、
雪華綺晶の首を掴みあげる男は、ただ雪華綺晶を睨んでいる。
840 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:09:28.48 ID:c2VpDRbn0
「薔薇水晶は、精神的属性を受け入れないようになっているはずなんだが。
それでも干渉が可能だとはな。さすがはローゼンのドールだ」
憤怒をその声ににじませながら、男はひとりごちる。
「だが、僕の薔薇水晶に手を出した罪は重い。
こんなつもりはなかったが、この際、僕直々に貴様を壊してやる」
雪華綺晶を自分の顔に引き寄せ、視線を合わせながら、恫喝する。
「お父様、やめて……!」
薔薇水晶の懇願にも、
「薔薇水晶。少し待っていろ。こいつを壊して、その後お前を直してやるからな」
男は、その手を緩ませない。
843 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:12:57.33 ID:UBA+N0dGO
えんじゅてめえぇぇぇぇえ!!
845 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:13:35.20 ID:c2VpDRbn0
「……槐。私は、その子に、手を出してなどいませんわ」
首を絞められながらも、淡々と、雪華綺晶が言う。
「ぬかせ。僕がいない隙を狙って干渉したんだろうが。
僕の目的をこの子が知る前に、掌握するために」
男、槐は、取り合わない。
「私は、あくまで、普通にその子と接して……」
「黙れ」
「がっ……!?」
ばきり、と、雪華綺晶の全身が軋む。
「貴様の言葉などに用はない。
黙って、壊れろ」
不可視の力が、雪華綺晶を、軋ませる。
846 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:15:28.21 ID:c2VpDRbn0
雪華綺晶の、軋みに。
「あ……」
呆然と、事態を見ていただけのジュンが、正気に戻る。
「や、やめ……」
びぎっ、と軋む。
「やめろ!!!!」
飛び出して。
850 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:20:37.23 ID:c2VpDRbn0
「……ああ?」
槐が、鬱陶しげに目をやる。
「ドールのマスターか。はっ!ただの人間が、何ができるんだ?」
雪華綺晶を締め上げている腕とは別のもう片方の腕で、
ジュンの顔面を掴む。
「わっ……!」
もがく。
が、槐の腕は、とてつもなく、硬く、剛い。
「邪魔だ」
「ぐあああ!!!?」
激痛が、全身を走る。
851 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:21:35.91 ID:RVd4ExOV0
なんという超人
857 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:25:08.80 ID:c2VpDRbn0
顔面を掴まれたままもがくジュンを嘲るように見て。
槐は、雪華綺晶に向き直る。
その、冷たい目に。
今度こそ、壊される。
雪華綺晶にも、ジュンにも、それが分かった。
「じゃあな。
僕の薔薇水晶に手を出したことを悔やみながら、
永遠に眠」
どごう!!!!!
水晶の柱が、槐を打ち砕いた。
861 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:28:37.93 ID:c2VpDRbn0
「………お義母さまを、いじめないで」
無表情な少女が、呟く。
「………お義父さまを、いじめないで」
怒りをその目に宿らせながら。
「………お父様の、ばかあああああああ!!!!!!!!!」
水晶の柱を、ぶち放つ。
863 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:29:17.73 ID:7WxrRZHBO
エンジュざまぁ
864 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:29:19.39 ID:eNms1iVxI
うっひょーい
868 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:32:13.77 ID:c2VpDRbn0
槐が、宙を舞う。
「………うおお」
槐が、空を舞う。
「…………薔薇水晶さん……」
ていうかもはやあれは肉塊と化してないか。
「ばかああああああああ!!!!!!!」
「………やりすぎじゃね?」
「……まあ、きっと大丈夫ですわ」
874 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:34:20.76 ID:m6NqiFr40
肉塊てwwwwJUM冷静すぎww
875 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:36:54.84 ID:c2VpDRbn0
「はあ、はあ、はあ……」
薔薇水晶の息が上がっている。
いつも小さな声でしゃべっている子が、全力で叫んでいたのだから当然だ。
「……大丈夫か、薔薇水晶……」
槐のことは見なかったことにして、薔薇水晶に声をかけるが、
「くっ……薔薇水晶……なぜだ……」
肉の塊になっていたはずの槐が、起き上がる。
化け物じみているとは思っていたが、これほどとは。
「……お義母さまを、いじめないで」
薔薇水晶が、槐を睨む。
879 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:41:41.77 ID:c2VpDRbn0
「ば、薔薇水晶。今のは酷いんじゃないのか。
僕は確かに不死ではあるが、痛みは一応感じる身体であってな……」
「お義母さまをいじめたお父様が、悪い」
きっぱりと、薔薇水晶は槐の抗議を突っぱねる。
「……さっきから、お義母さまってなんなんだ、薔薇水晶。
一体そいつに何をされて……」
「私は何もしていないと言っているでしょう。
貴方が彼女を一人にするから悪いのですよ」
雪華綺晶が、堂々と、槐に諭す。
886 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:44:39.56 ID:c2VpDRbn0
「……どういうことだ」
「貴方がいきなりいなくなるから。
この子は寂しくてたまらなかったのです。
そこに彼と私がいたから、私達に甘えた。
当然のことではないですか」
「………………」
「私達やその子に責任を求めるのは見当違いですわ。
貴方が全て悪いのですから」
896 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:49:13.27 ID:c2VpDRbn0
「……確かに、薔薇水晶に寂しい思いをさせたのは悪いと思ってる。
だがな、僕だって好きで薔薇水晶から離れたわけじゃないんだ」
「あら、じゃあ、どうしてですの」
「nのフィールドでインスピレーションを求めて、歩いていたときに、
なぜか世界がいきなり壊れたんだ。
あまりにいきなりだったから、僕も少し崩壊に巻き込まれた。
身体を修復するのに時間が掛かったんだよ」
「……世界が、壊れた?」
「そうだ。亀裂みたいな白い茨が世界に侵食して、いきなり世界が壊れたんだ」
「…………………………」
907 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 21:54:13.79 ID:c2VpDRbn0
思い出すのは、雪華綺晶がジュンから逃げていたときのこと。
雪華綺晶はジュンから逃げるために、世界ひとつまるごと破壊して逃げた。
(どう考えてもあの時のだな)
薔薇水晶が一人になってしまった原因は、あれだったらしい。
(これは困った。こいつに責任を全て押し付けられる状況じゃあ……)
「そんなことは関係ありませんわ。彼女を一人にした貴方が悪いのです。
父親なら、どんなことがあっても娘を泣かせるべきではありませんわ」
(平然と流した!!)
912 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:00:22.61 ID:c2VpDRbn0
「く……だが、だがな……」
納得できなさそうな槐を無視して、
「薔薇水晶さん。これは全部お父様の勘違いだったらしいわ。
きっと、私を壊せ、っていう命令も、勘違いですよ」
薔薇水晶に、言う。
「……そう……なの?」
薔薇水晶が、槐を見る。
「お、おい!違うぞ!僕はお前らを壊して……!」
「これ以上娘さんに嫌われたいのですか?」
「…………!!」
小声で、槐の反論を潰して。
雪華綺晶は、薔薇水晶に微笑む。
「だから、貴女は、私たちと争う理由も、お父様と喧嘩する理由もないのですよ」
915 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:04:08.47 ID:FOsJEGXE0
カカア天下・・・w
917 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:04:37.51 ID:c2VpDRbn0
雪華綺晶に身動きを封じられ、渋々と槐は帰ろうとする。
「………薔薇水晶?」
「……今日は、お義母さまと一緒にいる」
やっぱりまだちょっと怒っているらしい。
肩を落として、槐は帰っていった。
「………迷惑なやつだったな」
責任の一端は自分達にあるのが後ろめたいが、黙っておこう。
また怒られても嫌だし。
「迷惑な方も、帰られましたし。話の続きを、いたしましょう」
雪華綺晶が、微笑んでくる。
919 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:09:19.51 ID:c2VpDRbn0
そういえば、大事な話の途中だった。
「……そうだったな。それで、どうするんだ?」
「私は、幸せに、なろうと思います」
雪華綺晶は、微笑む。
「お父様は、とても優しい方だから。
私達の涙なんて、見たくないはずだから。
………これは、私の推測に、過ぎないですけれど。
それでも、私は。
お父様は優しい方だって、信じています。
だから。」
ジュンを見つめて。
「貴方の温もりを、感じさせてください」
923 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:10:49.53 ID:c2VpDRbn0
雪華綺晶の、願いに。
「そうか」
抱きしめることで、応える。
「……やはり、温かいですわ」
雪華綺晶が、嬉しげに、つぶやく。
925 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:11:42.45 ID:PhN0sMKq0
プロポーズだと・・・あががががあがっがががががっがあ
931 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:14:55.95 ID:0rHlAW9SO
( ゚д゚)槐がかわいそうに…
ならないな( ゚д゚ )
932 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:15:09.92 ID:c2VpDRbn0
「……やっぱ、いいよな、これ」
雪華綺晶も幸せそうだが、ジュンもなんとなく幸せだ。
「なんていうかずっとこうしていたい感じだ」
だが、ジュンの言葉に、雪華綺晶が顔を曇らせる。
「……それは、できないんですわ」
「え?」
「私は、もう器がないから。
貴方の世界に、私は行くことが出来ない。
貴方がこちらに来たときだけしか、触れ合えません」
「……そう、だな。それは、ちょっと残念か」
ジュンにも、現実世界での生活がある。
今でこそ引きこもりだが、復帰に向けて頑張っているのだ。
そう長い時間、こちらにはいられない。
937 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:17:59.06 ID:c2VpDRbn0
くい、と。
「ん?」
薔薇水晶が、見上げている。
「……お義母さまは、身体が、ほしいの?」
「……薔薇水晶?」
ジュンは、薔薇水晶が何に興味を持ったのか、分からなかったが。
「……あ」
雪華綺晶は、気付いたらしい。
「………薔薇水晶さん。頼んでもらえるかしら」
薔薇水晶は、嬉々として、答える。
「うん!」
949 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:24:49.28 ID:c2VpDRbn0
そして。
「やっほー真紅ちゃん翠星石ちゃん雛苺ちゃんきゃああかあああああわああああいいいいいいいいい!!!!!」
「ぎゃあああ!!!離せですデカ人間!!!!!」
「熱い!熱いのだわ離しなさい!」
「マサチューセツウなのー!」
「違うわ雛苺!マサチューセツーかしらーって間違え」
「きゃああああやっぱりカナがいちばんかわあああいいいいいいい!!!!!」
「マサチューセッツー!!!!!!」
「うるさい帰れ」
「やージュンジュン。今日も元気に引きこもってるー?」
「だまれ帰れ」
961 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:31:30.61 ID:c2VpDRbn0
「……あれ?ジュンジュン。その子は?……まさか、新しい子?」
「抱かせないからな」
「ええええええ!!!!!?かわいいよう抱かせてようわたしにもー」
「断る」
「ジュンジュンばっかずるいー」
「断る」
「………ん………?」
「ああ、もう。あんたのせいで雪華綺晶が起きただろ。
謝罪として帰れ」
「もー。やってほしいことがあるの。ちょっとこれ見てー」
「また添削か。はいはい……」
「…………ん……」
雪華綺晶は、みつのノートを見る、ジュンの顔を眺める。
968 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:35:52.42 ID:c2VpDRbn0
雪華綺晶の身体の問題は、薔薇水晶が解決した。
彼女の父である槐は、超一流の人形師であり。
雪華綺晶が器とするに足る人形を作れる希少な存在だった。
槐は当然薔薇水晶の申し出に渋っていたが。
「……あっちのお義父さまの家の子になる………」
薔薇水晶には勝てなかった。
そうして、雪華綺晶は、現実世界で生きる、器を手に入れた。
972 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:39:33.32 ID:c2VpDRbn0
むくりと、雪華綺晶は、ジュンの胸から顔を上げる。
そろそろ交代ですぅ という声は聞こえないふりをする。
ぼんやりと、彼の温もりを感じていると、新たに部屋に入ってくる姿を認める。
とてとて、と、走ってきたその紫の少女は、
ジュンの服の裾を引っ張り、頭を撫でてもらっている。
その頬は、嬉しそうに形を崩している。
973 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:40:04.90 ID:FOsJEGXE0
さすが槐の扱い方を心得てるなw
979 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:45:51.38 ID:c2VpDRbn0
薔薇水晶は、ジュンの膝の上の雪華綺晶に、向き直る。
甘えを込めた視線に、雪華綺晶は優しく微笑み、薔薇水晶の髪を撫でる。
薔薇水晶は、誰が見ても幸せそうな表情で、喜ぶ。
「……幸せそうね、薔薇水晶さん」
雪華綺晶の言葉に。
「……お義母さまは?幸せ?」
薔薇水晶が、無邪気に返す。
それに、雪華綺晶は。
「……………ふふっ」
幸せそうに、微笑む。
~ Fin ~
980 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:46:10.21 ID:6gCxhow/0
乙!
981 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:46:19.37 ID:bti8712m0
乙! 眼帯組実はそこまで好きじゃなかったけど>>1のおかげで好きになれた!!
985 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/08(水) 22:47:24.79 ID:2/XLkIa1O
乙!なんだかラストはほんわかした
-------------
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この記事へのコメント
-
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/14(火) 22:33: :editスレタイの破壊力が強いな
-
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/14(火) 22:34: :editイイハナシダナー
-
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/14(火) 22:43: :edit再掲かと思ったらスレ見てたんだった
これで一気にきらきー好きになりました -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/14(火) 22:53: :edit前の作品も思ったけど、途中で突然雰囲気変わるのは
何とかならんのかな。
考えながら書く癖やめたら、もっといい作品が出来ると
思うんだけどな -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/14(火) 23:03: :edit途中まではよかったのになー
-
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/14(火) 23:15: :editみっちゃんの気持ちがよく解った…、
私も、抱っこしたい… いいなぁ、可愛いなぁ。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/14(火) 23:17: :editくっ、この俺がきらきーに惹かれている…だと?
-
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/14(火) 23:21: :edit雪華綺晶で和むことになるとはw
乙! -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/14(火) 23:23: :edit>>282
バカヤロウwww
序盤はわくわくして萌えた
中盤はちょっと・・・
終盤は萌えた -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/14(火) 23:23: :edit来ると思ってたよ
それにしても雪華綺晶は可愛い
怖いけど -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/14(火) 23:32: :editきらきーとばらしーの可愛さにおっきおっき
-
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/14(火) 23:32: :editamazonwwwwwwwwwwwwwww
マジ吹いたチックショーーーー!!! -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/14(火) 23:35: :editばらきら系では一番キタ
蒼い子… -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/14(火) 23:53: :edit良かった・・・。
きらきーはSSだと可愛くなるよな。ばらすぃーと同じく一途な子・・。
残念だったのは、薔薇水晶の口調が違った事かな。まぁいいけど。 -
ゆっくり時間をかけて読みたい話。
-
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 00:02: :edit久しぶりにむちゃくちゃ長いSSだったな・・・
しかしまさかきらきーに萌えるとは・・・この世は広い。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 00:09: :edit序盤は面白かったんだけど、
アリスゲームを全否定してすぐ納得するきらきー、
エンジュの命令に迷う素振りも見せないで逆らったばらしーに違和感を感じた……
まぁ、そんなの気にして読んでるのは俺だけだよな。
発想は面白かった、きらきーかわいいよきらきー -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 00:19: :editキラキーの喋り方がブーム君みたいでしt(ry
-
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 00:42: :editばらしーがちょっと幼すぎる気がしたが、まぁいいか
-
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 00:49: :edit水銀燈がアリスになる話の人か。さすがというかなんというか
きらきーとばらしーのふれあいに鼻血が出そうです -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 00:51: :editタモリ吹いたwww
-
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 00:58: :edit真紅ヒナ翠きらきーばらしー…
なんという大奥桜田家
そしてぼっち銀ちゃん… -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 01:04: :edit銀と蒼が出ないのはシナリオが原作準拠だからしかたない
それにしても
前作メインの水銀燈と
前作最デレキャラの蒼星石が居なくて、
前作で最も印象的で良キャラだった金糸雀の影が薄い・・・
前作から見て結果的にバランスが取れてるようにも見える -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 01:12: :editちくしょうなごんじまった・・・
まぁ乙!! -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 01:18: :editえがった・・・
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名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 01:32: :edit俺の言いたかったことをJUMが言ってくれたSSは初めてだ
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名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 01:41: :editげろ甘じゃん。にやにやが止まんない
キュンとしたところで寝るか。 -
名前: 通常のナナシ #JalddpaA: 2008/10/15(水) 01:46: :editこんなほんわかなのに、きらきーに勃起してしまった俺は汚れてる
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名前: 通常のナナシ #0EE.DRoc: 2008/10/15(水) 02:08: :editいいよいいよー
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名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 02:14: :editばらしーエンジュは出さないで原作設定で書いて欲しかったかも
でも面白かった!乙 -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 02:15: :edit最初は原作準拠かと思ってたけど、ばらしーが出てきたあたりから微妙になった。個人的にはヒナの復活もエンジュも無用だったし、JUMときらきがイチャつくだけでよかったかも。萌えたけど。
とりあえず、JUM氏ね -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 02:29: :editタイトルだけで萌えた
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名前: #-: 2008/10/15(水) 03:28: :editきらきーばらしー好きになりました
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名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 03:31: :editでも槐も人魚牛なんだし自らの手でドールを壊すなんてことはしないと思うのは俺だけ
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名前: 平常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 07:38: :editああ、きらきー書きたくなる。
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名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 08:13: :edit※34
モー!
ピチピチッ! -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 08:34: :edit凄く和んだ
のにAmazonwwwwwwwwwww -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 09:37: :edit米34
この人の前作では槐は人形を自分で壊すのは気が進まない、って言ってたし
本来はそうなんじゃね
今回はばらしーを手篭めにされてブチギレただけで -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 09:42: :editきらきーもばらしーもおそろしく可愛らしいけど翠もなにげに可愛い
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名前: #-: 2008/10/15(水) 09:46: :editなかなかやるのーほめてつかわす
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名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 11:10: :edit珍しく大団円だ!と思って蒼い子がまだ復活してないことに気付いて泣いた
銀様は健在なはずなのに全く登場できないことに気付いてさらに泣いた -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 11:57: :edit( ゚∀゚)o彡きらきー!きらきー!
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名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 13:10: :editこれはJUM氏ねと言わざるをえない
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名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 13:36: :editやっぱり載ったか
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名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 15:10: :edit結構練られた話だと思った。
ばらしーの誕生の話も槐の行動の複線になってるし、
きらきーの最終的な決断もばらしーと槐の似た親子の関係を見て
決まったってのが上手いと思った。
きらきーとばらしーを同時に出すってのは中々難しいけどそれが無理なく出来てるのが凄い。
話の筋が通ってるから読んでて楽しめた。
8巻がこれで大団円も良かったんじゃないかと思ったけど米41で泣いた。 -
名前: #-: 2008/10/15(水) 15:25: :edit「、」が多くね?
読み辛くて萎えた -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 17:22: :edit米34の「人魚牛」に何か特別な読み方があると思って、調べてしまったwww
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名前: 通常のナナシ #2/N4W5Sc: 2008/10/15(水) 17:54: :editこのスレって確かキモイケータイがなんか暴れてたよなw
いやーでもいい話だったな -
名前: ニコニコ名無しさん #-: 2008/10/15(水) 19:27: :edit萌えた 全力で萌えた
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名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 19:41: :edit蒼星会の俺がばらしーに不覚にもっ…
しかしamazonwwwwwww -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 22:24: :edit米22
蒼のことも思い出してあげて下さい -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/16(木) 00:06: :editこれで雪華綺晶が好きになってしまった。
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名前: 通常のナナシ #24FJNFM2: 2008/10/16(木) 01:03: :editこれはばらきらが好きになるな
そしてちょっと泣いた -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/16(木) 04:20: :editほんわかした・・・が
amazonにやられたwwwww -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/16(木) 12:56: :edit今回のamazonの破壊力は異常
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名前: 通常のナナシ #qCgYqcXs: 2008/10/16(木) 12:57: :editきらきー嫌いだったけど
これ読んで少し好きになりました
乙 -
名前: VIPPERな名無しさん #-: 2008/10/16(木) 19:28: :edit和みムードかと思ったらいきなりシリアスになって「ん?」って感じはしたけど結構うまくまとまってたな
ばらきらは結構好きだから楽しめた。ありがとう -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/17(金) 21:57: :editスレタイで既に萌える
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名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/19(日) 01:53: :editスレタイだけで破壊力あったが、これは乙と言わざるをえない
少しきらきーとばらしーがかわいく思えてきた -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/20(月) 18:34: :editすばらしぃー
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名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/21(火) 22:35: :edit※60
不覚にも -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/26(日) 08:58: :editこんな可愛いきらきーが不人気な訳無い!
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名前: ファン #-: 2008/11/03(月) 12:36: :edit僕きらきーが一番好きなのでこのスレでさらに好きになりました。
ほかのドールもみんな平等な人気をだしてほしいです。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2008/11/17(月) 12:40: :edit素晴らしい。きらきーかわいいよきらきー
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名前: VIPPERな名無しさん #-: 2008/12/11(木) 14:51: :edit萌えた。萌えたよ
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名前: VIPPERな名無しさん #-: 2008/12/13(土) 13:32: :editきらきーもばらしーも好きなんだけど
きらばらはちょっと苦手なんだよなぁ
ストーリー自体は上手いと思う
8巻はこの内容の方がよかったと(ry -
名前: VIPPERな名無しさん #-: 2008/12/15(月) 08:21: :editこうして見るときらきーも他のドールと遜色ない萌えキャラだな。
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名前: #-: 2009/02/15(日) 15:22: :edit>(平然と流した!)
NICEだぜJUM! -
名前: VIPPERな名無しさん #-: 2009/02/20(金) 00:34: :editよいwwwwよいぞwwww
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名前: 通常のナナシ #-: 2009/08/07(金) 11:17: :editこ~いうのもいいもんだね~~~~
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名前: 通常のナナシ #-: 2009/08/31(月) 22:00: :edit良い話だったのにamazonで吹いたwwwwwwwwwww
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名前: 通常のナナシ #-: 2009/11/15(日) 01:10: :edit話の雰囲気がしにがみのバラッドを連想させた
ほのぼの -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/02/13(土) 03:34: :edit銀様・・・蒼い子・・・orz
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/05/27(木) 01:46: :editなんて台無しなamazonwwwwwwwww
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名前: 通常のナナシ #1YzhQR7M: 2010/06/16(水) 11:10: :edit話事体は良かったのに「、」が多すぎて厨二臭いお
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/09/03(金) 19:59: :edit米75
間を作ってる「、」がなかったらまた違う雰囲気の話になる気がする
俺はこの人の話の雰囲気好き -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/03(日) 22:07: :editきらきー寂しすぎ泣いた
ローゼン以来名前呼ばれたことすら無かったんだよな… -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/09(土) 20:31: :edit「きっとジュンは、雪華綺晶の、トモエなのよ」
雛名言すぎる;; -
名前: 通常のナナシ #-: 2011/10/17(月) 03:38: :edit真紅のさり気ない良妻っぽさ
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名前: 桃種 #-: 2013/02/08(金) 15:20: :editすばら真紅なのだわ!
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名前: 通常のナナシ #-: 2013/02/18(月) 14:27: :edit懐かしい…
このSSで雪華綺晶が好きになったんだよ…今でも覚えてる… -
名前: 通常のナナシ #-: 2013/03/03(日) 22:14: :editこれは良SS!!
文句の付け様の無い名作!!
しかし最後のAmazonのせいで腹筋が壊れたぞオイどうしてくれるwwwwwwwww
俺の妹がこんなに可愛いわけがない 黒猫 白猫Ver.