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蒼星石が誕生日を祝うお話

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2008/10/13(月)
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 22:02:55.18 ID:ww4puU470
もう、どれ程の時が経ったのだろうか……
僕は僕自身を探して、この果ての無い白い世界を彷徨っている。
初めてこの「9秒前の白」に来たのが昨日なのか、それとも一年ほど前なのか
もしかしたら、すでに遥か昔の出来事なのかもしれない。

やはり、見つけることは不可能なのであろうか
この白い世界をどこまで探しても、僕に関するものは見つける事が出来ない。
時折、訪問者……迷子に会わせてくれるだけだ。
なぜ僕はここに着たのか、それすら思い出せないけれど。
後悔はしていない……何故かは分からないけれど僕には分かるんだ。
これは僕が自ら選んだ道である事。
この道を選んだ代償として、とても大切なものを手に入れた事。
そして、きっと僕の帰りを待ってくれている人が居る事……

けれど、僕はもう疲れてしまった……
生けるもの、日の光、風、音、そして時間の概念さえも無いこの空間をさまよう事に。
……僕を呼んでくれている人は、本当に居るのだろうか。
僕はそれに気付けないだけなのだろうか。
分からない……あれ……何だろう、眠くなってきた……
……おかしいな……こんなの……初めてだ……







※関連
翠星石が家出をするお話


2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 22:07:27.99 ID:ww4puU470



ガチャ

広い部屋に、無機質な音が響く。
アンティークな家具が並び、そのどれもが埃一つ無く美しい光沢を放っている。
その中の一つ、子供ならば軽々入れそうな大きなカバン。
そのカバンを中から開けて、キョロキョロと辺りの様子を伺っている人影があった。
「ここは……僕は一体……」
カバンの中から這い出たその人影は、わずかな光を差し込んでいる大きな窓へと足を向ける。
まだ太陽も出ていない……地平線の辺りが僅かに白んでいるだけの空。
そのわずかな光が、小さな人影を映し出した。
青を基調にデザインされたドレス……履いているズボン、茶髪のショートヘアで、一見ボーイッシュにも見えるが
美しいオッドアイと端整な顔つきが、その人間……いや、人形が女性を象ったものだと語ってる。
その人形は次に、心地よいリズムを刻んでいる柱時計に目をやった。
時計は5時30分を過ぎた辺りを指している。
「そうか……あの時の夢を……」
少し俯いたその人形は、部屋の隅にある大きなベッドに目を移した。
「僕は、戻って来れたんですよね。マスター」
不安そうにそう言って、数秒間そのベッドを見つめると。
その人形は踵を返してカバンに戻っていく。





3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 22:11:16.67 ID:ww4puU470

「どうかしたのかね、蒼星石」
突如、闇の中から低い声が響いた。
蒼星石と呼ばれた人形は、ビクリと体を反応させながら声の方向に振り向いた。
「いえ……すみません、起こしましたか」
「構わんよ、もう直に朝だ」
上半身を起こしながらそう答えた老人……蒼星石のマスターである、結菱一葉は、
ベッドの横に備え付けられている車椅子を広げて、器用に体を移して行く。
慌てて一葉に駆け寄る蒼星石を、一葉は手を掲げて制止した。
「大丈夫だ、これくらいは一人で出来る」
「マスター……」
「それより、何かあったのかね」
「いえ……」
「そうか」
俯いて答えた蒼星石を尻目に。
一葉は、蒼星石が眠っていたカバンまで車椅子を進めた。
上半身を乗り出して中から黒いシルクハットを取り出すと、蒼星石に手招きをする。
「何時も大事にしているこの帽子を忘れるほど、動揺していたのにかね」




4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 22:15:24.24 ID:ww4puU470


「いえ、9秒前の白を漂っていた頃の夢を見たので少し……
 けれど、もう大丈夫です。マスター」
帽子を頭に被せてもらい、整えながら蒼星石は答えた。
「そうか、君にとっては一番辛かった時の」
「とても現実味がある夢だったので……」
「けれど、もう帰ってきた。君は見つけたのだよ、君自身を」
「はい」
「君には本当に感謝している、私の復讐を止め
 私自身の呪縛から解放してくれたのだからね」
「いえ……僕こそマスターには感謝をしています、
 それに、マスターを救う事で僕自身も、自分を見出す事ができたのですから」
暗闇で相手の表情ははっきりとは分からないが、
蒼星石は一葉が微笑みかけてくれている、そんな気がした。

柱時計に目を移した一葉は、時計を見つめながら言った。
「まだ朝食までは時間があるな、
 蒼星石、外の風にでも当たりにいかないかね」
「はい、マスター」
微笑んでそう答えた蒼星石は、車椅子の後ろに回ると。
ゆっくりと車椅子を押して歩き始めた。




5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 22:20:19.82 ID:ww4puU470


まだ薄暗い屋敷の庭園へと出た二人は、ゆっくりと色とりどりの花を眺めながら進んでいく。
空を見上げると、若干の星を見ることも出来た。
「ここの庭園も、君と翠星石が来てから美しくよみがえった」
「……この庭園の設計も素晴らしいと思います。
 見るものを楽しませるように作られていますし、手入れをしていて楽しいですから」
ゆっくりと車椅子を押しながら蒼星石は答えた。
「……もうすぐ、半年かね」
「えっ」
「君が自分自身を見つけ、この世界に再び戻ってきてから……」
「はい……そうですね」

そう……僕が自分の体に戻る事が出来たのは今から半年前、
真紅、翠星石、雛苺がマスターと力を合わせ、水銀燈からローザミスティカを奪還した事から始まる。
水銀燈は半壊し、追い詰められて撤退する際に僕のローザミスティカを囮に使ったそうだ。
そして僕は彼女たちのマスターの力を借りて、この世界に戻って来た……
それ以来、マスターのところで一応の平穏を享受して生活している。
なんだろうか、若干の違和感を感じる……頭が痛い。




6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 22:26:27.43 ID:ww4puU470

「蒼星石、どうかしたのかね」
「……いえ、何でもありません」
一葉の心配そうな声を聞いて、蒼星石は慌てて答えた。
「足の不自由な老人の相手を毎日しているのだ、
 少し疲れたんじゃないかね。
 今日は君の姉のところにいって、少し息抜きをしてくるといい」
「マスター……やめてください。
 僕はここに居る事を苦に思ったことなんて一度もありません。僕は……マスターと一緒に居たいんです」
少し怒った様に、蒼星石は一葉をまっすぐ見つめる。
そんな蒼星石を見て、一葉は少し嬉しそうに答えた。
「すまなかった、気をつけるよ。
 ん……ここで少し止まってくれないか」
「はい」

そこは庭園の中ほど、少し開けた場所。
周りを真紅の薔薇に囲まれた、一葉が気に入っている場所であった。 
そこで一旦歩みを止めて、車椅子の横に立った蒼星石は辺りを見渡した。
徐々に太陽も昇ってきて、辺りも明るくなってきている。
六月の半ば……そろそろ温かくなってきて、直にこの美しい薔薇の開花時期も終わってしまうだろう。




7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 22:30:57.03 ID:ww4puU470


二人の間を風が通り過ぎる。
初夏とはいえ、早朝の風を冷たく感じた蒼星石は身震いをした。
「……寒いのかね」
「いえ……大丈夫です」
「そうか……」
一葉はいきなり蒼星石を抱きかかえると、膝の上にのせ。
ひざ掛けをかけてやった。
「マ、マスター!」
「私も寒いのだ、こうさせてくれないか」
「……はい」
少し顔を伏せ、頬を赤らめながら蒼星石は答えた。

「私はね……蒼星石」
「はい」
「君が私を苦しみから解放してくれて、
 その代償として君を失った……ほんの数ヶ月の出来事であったが。
 とても長く感じたよ……」
「……」
「二葉を失い、私自身を殺して、あの人が生きていると知って復讐に燃える……
 考えてみれば、私は安らぎというものを余り感じた事がないんだ」
「はい……」




8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 22:37:11.07 ID:ww4puU470
「私は最初、復讐の道具として君と翠星石の事を見てしまっていた……。
 だが、私は確かに今、安らぎと言うものを感じている。
 すまなかった、そして本当に感謝しているよ……ありがとう、蒼星石」
それを聞いた蒼星石は、嬉しそうに顔を下に向ける。
数秒の沈黙、心地よい風が二人を通り抜けると、蒼星石は呟くように静寂を破った。
「マスター……僕たちローゼンメイデンは、マスターを人工精霊に選んで貰っています。
 そしてレンピカはマスターを選んだ。
 きっと貴方は最初から気付いていたんだ、貴方の本当の願いに……」
「……」
「そして、それは僕自身の願いでもあるんです。
 この時代のマスターが貴方で本当によかった、
 僕も感謝しているんです……ありがとうございます、マスター」
一葉の顔をみて、微笑みながら蒼星石は言った。
その顔をみて、一葉も微笑み返した。
その後も他愛の無い会話をして、二人は薔薇屋敷へと戻っていく……




9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 22:43:27.07 ID:ww4puU470
ゆっくりと一葉の車椅子を押しながら、蒼星石は考えた。

安らぎ……アリスゲームという宿命を課せられた僕たちローゼンメイデンにも、
それを感じる事は許されるのであろうか。
そして、それをマスター……接する人々に、与える事が出来ているのであろうか。
今確かに、僕はその感情を感じることが出来る……
『ローゼンメイデンに関わった人間は、不幸が襲い掛かる』
今まで様々なマスターと会ってきて、僕が感じるようになった事だ。
けれど、考えてみれば当たり前の事なのかも知れない。
マスターの力を吸って、アリスゲームという戦いの場に引きずり込んでしまう……
そうやって僕たち、ローゼンメイデンは戦ってきたんだ。
僕は今、心のそこから願うよ……どうか、マスターの安らぎを奪うような事がおきません様に。
そして、我侭が許されるならば……ずっと、マスターと一緒に……





10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 22:56:35.83 ID:ww4puU470
「そろそろ使用人が来る……君は何時も通り、私の部屋に戻っていてくれないか」
時計を見ると、一葉はそう言った。
足の不自由な老人……当たり前だが、一人でこの広い屋敷の家事をこなす事は不可能だ。
だから、この家では毎日一人の使用人を雇っている。
食事から掃除、洗濯と一通りの仕事はその人がやってくれるのである。
「はい、マスター」
「朝食の準備が出来たら呼びに行こう、それまで待って居てくれ」
頷いて、その場から離れようとした蒼星石の耳に、ゴンゴンと何かを叩く音が聞こえる。
一葉も聞こえたようで、その方向をみて苦笑をしていた。
蒼星石もその方向を見ると、思わず同じように苦笑をする。
「こら~、笑ってないでさっさと開けるですよ!
 手伝い人間に見つかるですっ」
そこには、窓を叩きながら大声を出している翠星石の姿があった。




11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 23:03:00.89 ID:ww4puU470


「全く、開けるのが遅いですよ。危うく手伝い人間に見つかるところだったです」
「君が悪いよ、この時間は見つかるかもしれないから気をつけて。って言ってあったよね」
一葉の部屋に戻った二人は、
朝食の準備が出来るのを待っていた。
「だって……しょうがないじゃないですか、来たくなっちゃったのですから」
「また、ジュン君と喧嘩かい」
「ち、違うですよっ。そんなしょっちゅう喧嘩ばっかりしないです」
「へぇ、そうかな」
「そうですよっ……そんな事より、今日は来週の例の件について話し合いに来たのですっ」
「……今話すの?」
蒼星石は少し戸惑いながら言った。

「そのために翠星石は、こんな朝早くから来たのですよ」
「やっぱり後にしよう、マスターが朝食に呼びに来てくれる時に聞かれるかもしれない」
「え~、もうあんまり時間は無いのですよ。大丈夫です、きっと聞かれないです」
翠星石は、目を輝かせながら蒼星石を見つめている。
そんな相手を見て、溜息をつきながら蒼星石は言った。
「翠星石……別に君のお祝いじゃないんだよ。君がそんなにワクワクしても……」
「何を言ってるのですか、おじじの誕生日を祝うのですよ。
 人間の誕生日を祝ってやるだなんて……初めてですけど、失敗するわけにはいかないのです」
蒼星石の言葉を遮って、翠星石は大きな声でそう言った。




12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 23:09:04.08 ID:ww4puU470

「声がでかいよ……それに、君にとってはジュン君の誕生日のための予行練習なんじゃないのかい」
「そ、そんな事……ありますけどぉ。それでもおじじには世話になっているですからね。
 お祝いの手を抜く気は無いですよっ」
「それならいいんだけど……とにかくこの話はまた後で」
「うぅ、分かったです。けど蒼星石ってば、言いだしっぺの癖にノリが悪いですよ」
「僕だって凄い楽しみだよ。でも、それを表に出していたらマスターに気付かれるから……」

コンコン

木のドアをノックする音を聞いて、蒼星石は慌てて口を閉ざす。
「二人とも、朝食の準備が出来たようだ。
 使用人には近づかないように言ってある、広間で食事にしよう」
「はい、マスター」
「分かったですよ、待ちくたびれてペコペコですぅ」
慌てた蒼星石を横目でニヤニヤ見ながら、翠星石は軽い足取りでドアへと向かっていく。
それをムスッとした顔で睨みながら、蒼星石は後を追った。





13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 23:15:00.81 ID:ww4puU470



「それでジュンってば酷いんです。ちょっとチビ苺をからかっただけなのに、一緒に追い出したんですよっ」
「ほぅ……」
「それは君も悪いよ、ジュン君は静かなのが好きだって。日頃から言ってるじゃないか」
「なっ、蒼星石までひどいですぅ。おじじはそんな事言わないですよねっ」
身を乗り出して一葉に迫った翠星石に、一葉は困った表情になりながら言った。
「……あの位の年になると、独りになりたい時も出てくるものなのだよ。
 最も、彼は賑やかなのが嫌いだとは思えないがね」
「……そんなもんですかねぇ」
乗り出していた身を椅子に戻した翠星石は、
パンを千切って口の中に放り込み、ミルクを口に含んで一葉を見つめる。
広めの丸テーブルの上には、コッペパン、スープ、スクランブルエッグ、ベーコン等。
洋食の朝食メニューが並んでいる。
「おじじにも、ジュン位の年の時があったんですよねぇ」
ぼーっと一葉を見つめながら、翠星石は言った。
「翠星石っ」
突然大きな声を出して、蒼星石は翠星石を睨みつける。
「あっ、なんでも無いですぅ、今のは取り消すですよっ」
慌てて目の前で手を振る翠星石に、一葉は口を開いた。
「かまわんよ……そうだな、確かに私にも彼ぐらいの年はあった……
 まだ、二葉と彼女が近くに居た頃だ」
翠星石は、少し気まずそうに一葉に言った。
「……ごめんなさいですぅ」




14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 23:18:11.62 ID:ww4puU470


「構わない、と言っただろう。
 私はもう誰も恨んではいない。ただ少しだけ、私にとってあの頃の記憶は眩しいがね……」
「マスター……」
「あの頃の私と二葉は本当に仲が良かった、そして同時に良きライバルでもあったな。
 私の足もまだ悪くは無かった……世界がとても輝いて見えたよ、早く大人になりたいと、そう思っていた」
「ジュンとは違うんですねぇ」
「いや、私と彼はさほど違わんよ」
翠星石は、一葉の話を聞きながら首を傾げる。
「彼は少しだけ、ほんの少しだけ外の世界を早く知ってしまっただけだ、何も違う事は無い。
 彼は今、もう一度外の世界に目を向けようと。頑張っているんだったね」
「です。学校の本とやらを読みながら、よく唸っているですよ」
「私にも覚えがある……閉ざされてしまった扉も、少しの勇気があれば。
 再び開くことは出来る、彼はその勇気を持っているという事だ」
「分かったような分からないような……でも、ジュンは学校なんてところに行く必要はないのです。
 ずっと翠星石たちの下僕でいればいいのですから」
少し膨れながら、翠星石は言った。





15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 23:23:18.56 ID:ww4puU470

「それは、君の我侭じゃないか」蒼星石は冷たく言い放つ。
「蒼星石には分からんのですっ!どうせ学校って所にいってもまたすぐ戻ってくるですよ……」
「それだってジュン君が選ぶことだろっ」
「落ち着きなさい二人とも……蒼星石の言うとおり、それは彼自身が決めることだ。
 勿論、翠星石の言うように君たちのところに戻るのも何も悪くない、選択肢の一つだがね」
少し熱くなっている二人をなだめるように、一葉は言った。
「……大声を出して悪かったです」
「僕こそ、君の気持ちを考えて無かったね……」
目線を少しずらしながらも、二人は謝罪の言葉を述べる。
その様子を見ながら、一葉は苦笑して言った。
「どうも辛気臭い話にしてしまったようだ……すまなかった。
 今日は天気もいい、また庭園の手入れをお願いしてもいいかね」
「はい、マスター」
「……しゃーないですねぇ」
「ありがとう」
一葉はどこか幸せそうに、二人の事を見つめていた。




16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 23:26:24.33 ID:ww4puU470


「ん~、本当にいい天気です」
伸びをしながら、翠星石は言った。
「そうだね、今日は暑くなりそうだ」
蒼星石はシルクハットを深く被りなおしながら相槌を打つ。
「さあ、張り切ってやるですよっ」
「あぁ」
お互いに顔を見合わせると、少し微笑んで二人は庭に出た。
朝食後、暫くして庭に出た二人は。
約束どおり庭園の手入れの準備に入っている。
徐々に太陽が昇っていく空を眩しそうに見上げた一葉は、
日陰で二人を見守りながら、膝に乗せてある数冊の本に目を通し始めた。

「翠星石、こんな具合でどうかな」
「中々バランスよく剪定できてるですよ」
少し遠めに見ながら、翠星石は言った。
「そっか、この木はもう大丈夫だね」
「ですね、今度はあっちの花壇の雑草を取るですよ」
「うん」
脚立から降りると、自分の体よりも大きなその脚立を持ち上げて翠星石の後を追った。
とりあえず邪魔にならない場所に脚立を立てかけると。
翠星石の隣に座って雑草抜きに参加をする。
「ねぇ、翠星石」
「なんですか」
蒼星石は少し手を止めて、一葉を横目で見た。




17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 23:32:26.68 ID:ww4puU470

読書に集中していて、こちらの方を見ていないことを確認する。
「さっきの話……マスターの誕生日だけどさ。
 やっぱり僕だけじゃプレゼントが決まらないんだ」
翠星石は頷く。
「誕生日……マスターの生まれた日のお祝い。
 何をプレゼントすれば喜んでもらえるのか、どう祝ったらいいのか。
 僕たちは何も分からないよね」
「……そうですねぇ」
「だからさ、やっぱりこの事は相談するのがいいと思うんだ」
「相談ですか」
「そう、だから……今日は君のマスターの家にお邪魔をしてもいいかな」
「ええっ!」
驚いた顔で蒼星石を見ながら、翠星石は少し大きな声を上げた。
「声がでかいよ」
「ごめんです……でも珍しいですねぇ、蒼星石がジュンの家に行くって言うなんて」
「そうかな、確かに久しぶりかもしれないね」
「久しぶりです、普段は誘っても来ようとしないですのに」
「そうかな」
「そうですよ。でも、真紅や雛苺も喜ぶですっ」
「……何で君が嬉しそうな顔をしているのさ」
「そりゃあ、嬉しいからですよ」
少し照れくさそうに作業を進める蒼星石を、翠星石は嬉しそうに見つめていた。




18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 23:38:57.70 ID:ww4puU470

「そろそろ今日は終わらせるですよっ」
額の汗を拭いながら翠星石は言う。
「そうだね……今日もありがとう。翠星石」
「別にいいですよ。翠星石も好きでやってることです」
太陽は空高く上り、辺りを眩い日差しが照らしている。
手際よく道具を片付けた二人は、一葉の元へ駆け寄った。

「終わったですよ、おじじっ」
「あぁ、二人ともご苦労だったね。
 暑かっただろう、中に冷たい飲み物を用意させてある」
「ありがとうございます、マスター。
 あの、ちょっといいですか」
「……ん、なんだね」
「今日はちょっと、翠星石のマスターの家に行ってきてもいいですか」
少し節目がちに、蒼星石は言った。
それを聞いた一葉は、少し驚いた顔をしたが。
すぐに嬉しそうに頷いて言った。
「あぁ、勿論だ。すぐに行くのかね」
「中で少し休んだらいくですよ、晩御飯もジュンの家で食べさせるです」
「ちょ、ちょっと翠星石」
「そうか、今日はゆっくりしてくるといい」
「マスター、夕食前には帰って……」
慌てて取り繕う蒼星石を尻目に、翠星石は一葉の車椅子を押して足早に家の中に入っていく。
「さあ、早く冷たいジュースを飲ませるですよっ」
「翠星石っ、もっとゆっくり押さなきゃダメだよ」
蒼星石は、そんな二人の後を慌てて追って家の中に入った。




19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 23:46:10.63 ID:ww4puU470


「翠星石、nのフィールドを使って行けばいいじゃないか」
「どうせ近いですし、いちいちあんな場所使わなくても飛んでいけばいいんです」
二人は快晴の空を飛びながら、桜田家へと向かっている。
「君はマスターの家の窓をよく割っていたそうだけど、
 まさか、自分のマスターの家の窓とかも……」
「そ、そんな事しないですよ。
 それに割ったって真紅が直してくれるんです」
それを聞いた蒼星石は、呆れ顔で翠星石の顔をみた。
「なっ、何ですかその目は。
 ほら、そんな事より見えてきたですよっ」
翠星石が指を伸ばしたその先、閑静な住宅地の中にある一つの一軒家が見える。
徐々に高度を降ろしていって、その家の庭に降り立った二人は。
カバンを引きずりながら窓の前へと進んでいく。
「帰ったですよ、開けるですー」
コンコン、と窓を叩くと。
数秒後、勢い良くカーテンが開けられる。




20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/04(土) 23:50:25.14 ID:ww4puU470

そこには雛苺の姿があった。
「あーっ、蒼星石なのっ」
雛苺はそう言うと必死に背伸びをし、窓の鍵を外す。
「わーい、久しぶりね。蒼星石っ」
窓を開け、そういって抱きついてくる雛苺を嫌がる素振りも見せずに、蒼星石は立ち尽くしている。
「久しぶりだね、雛苺」
「暑っ苦しいです、離れるですよチビ苺っ」
翠星石はそう言って雛苺を引き剥がそうとしていると、部屋の中から別の声が響いた。
「五月蝿いわよ、全く何をやっているの」
蒼星石は声の方向へ目を向ける、そこには真っ赤なドレスを着たドール……真紅が立っていた。
「久しぶりだね、真紅」
「えぇ、本当に久しぶりね。今日はゆっくりしていけるの」
「ああ、お邪魔させてもらえるかな」
「もちろんよ、歓迎させてもらうわ」
そう言って微笑んだ真紅に、蒼星石は微笑んで言った。
「ありがとう」
「さぁ、こんな所で喋ってないでさっさと入るですよっ」
そう言うと、嬉しそうに蒼星石の背中を押して翠星石は部屋の中に入っていった。




25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 00:02:03.68 ID:KdbG5AL00

「お久しぶりねっ、蒼星石」
エアコンの良く効いた涼しい室内に、賑やかな声が響いた。
「やぁ、金糸雀。君も来ていたんだね」
「なんでお前が居るんですかっ」
翠星石はジト目で金糸雀を見つめる。
「みっちゃんがお仕事中は一人だから……」
「別にいいじゃないか。僕も久々に会えてよかったよ」
少し寂しそうな金糸雀に、蒼星石言った。
「別にダメって言ってるわけじゃないですよ」
「ヒナは遊んでもらえて嬉しいのよ」
「もう少し静かに遊んでくれたら、尚いいのだけれど」
真紅は紅茶を口に含みながら言う。
「真紅、何かいい事があったの」
首をかしげながら、雛苺は尋ねた。
「あら、どうして」
「なんだか嬉しそうなの」
「そうかしら……そうね、この場に姉妹が5人揃った。
 そしてこうやって争うことなく話すことが出来ているわ。
 こんな日が来るなんて、想像もしていなかった事だから」
部屋には5体のドールが円を作るように座っている。
「そういえば、こんなに姉妹が揃うなんて珍しいですね」
「カナは何だかんだで初めてな気がするかしら」
「……」
 蒼星石は、少し難しそうな顔をして黙っていた。




30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 00:08:55.25 ID:KdbG5AL00
「蒼星石、どうしたのですか」
そんな蒼星石に、翠星石は心配そうに尋ねる。
「いや……ごめん、ちょっと考え事をね。
 僕も姉妹5人で会うのなんて初めてだ、なんだか嬉しいよ」
「……蒼星石?」
「そういえば、君たちのマスター……ジュン君は留守かい」
未だ心配そうな翠星石を横目に、蒼星石はそう言った。
「ジュンなら、二階の自分の部屋に居るわ。
 用があるのなら呼んで来るわよ」
真紅がそう言って立ち上がると、蒼星石は首を振って答えた。
「いや、いいんだ。実は今日、ジュン君にちょっと用があってね。
 自分で聞きに行くよ」
そう言うと、蒼星石は立ち上がった。
「あ、翠星石も行くですぅ」
「あら、そうなの。分かったわ」
足早に部屋を出て行く蒼星石の後を、慌てるように翠星石は追いかけていった。

「蒼星石、どうしたのですか」
「ん?」
「さっきは少し、様子がおかしかったですよ」
「そうかな……いや、きっと勘違いなんだ。気にしないで」
少し険しい表情をしながら、蒼星石は言った。
「……ならいいですけど」
階段を上りながら、翠星石は首をかしげた。




32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 00:15:10.28 ID:KdbG5AL00

「ジュン君の部屋はどれかな」
二階に着いた蒼星石は、翠星石に向き直って言った。
「こっちですよっ」
少し駆け足気味に一つの扉の前に向かった翠星石は、ドアを勢いよく叩いた。
「ジュン、ちょっと用事があるです。開けるですよー」
数秒間の静寂が廊下を包む。
「……寝てるのかな」
「そんなはずは……おーい、チビ人間、開けるですっ」
そういって再度ドアを叩こうとした握りこぶしは、いきなり開いたドアによって空振りをした。
「うるさいなぁ、聞こえてるっての」
開いたドアの向こうで、こちらを見下ろしながらジュンが立っている。
「だったら返事くらいするですよっ」
ジュンの顔を見上げ、頬を膨らませながら翠星石は抗議をした。
「……はいはい、悪かったよ」
そういって、ジュンは蒼星石へと視線を移す。
「なんだ……来てたのか、もしかして僕に用があるのって」
「久しぶりだね、お邪魔してるよ。ジュン君」
「あぁ……久しぶり」
ジュンは少しだけ気まずそうに、そう答えた。
「さぁ、こんな場所で立ち話してないでさっさと部屋に入れろですっ」
翠星石はそう言うと、蒼星石の手を引いて部屋の中に入ってく。
「ったく、とりあえず紅茶でも淹れてくるよ」
そう言うと、ジュンは一人で階段を降りていった。





33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 00:20:21.33 ID:KdbG5AL00
「……お邪魔だったかな」
「ん?どうしてですか」
「ジュン君、少し気まずそうだったし」
「気にする事無いです、ジュンと蒼星石はあまり話したこと無いですし。
 巴とだって最初はあんな感じだったらしいですよ」
「巴……たしか、雛苺の元マスターだったよね」
「ですですっ、ジュンも根はいい奴ですし。
 蒼星石も私の妹なのですから、すぐに仲良くなれるですよっ」
「そうかな……そうだといいな」

「へぇ、このダージリン。美味しいね」
カップを傾け、紅茶を口に含んだ蒼星石は。少し驚いた様にそう言った。
「別に……姉ちゃんが買ってきた茶葉だし」
少し視線を逸らしながら、ジュンは言う。
「でも、淹れ方が上手くないとこの味は出ないよ」
「まぁ、いつも真紅に淹れさせられているですからね」
「う、うるさいなぁ」
「本当の事ですよ」
三人は、ジュンが淹れてきた紅茶を飲みながら話している。




34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 00:24:10.60 ID:KdbG5AL00
「それで、僕に用事って何なんだ」
紅茶を口に含みながら、ジュンは言った。
「ほら、蒼星石が言うですよ」
「うん……実は来週、僕のマスターの誕生日が来るんだ」
「へぇ……結菱さんの」
「僕と翠星石でお祝いしようって事になったんだけど。
 今まで人の誕生日をお祝いした事がないから、何をプレゼントすればいいのか。
 どうお祝いしたらいいのか……」
「まさか……僕に聞きたい事って」
少し青ざめながら、ジュンは言った。
「そうです、さっさと誕生日のアドバイスをするですよ」
「ちょっと待てよっ、そんなの僕だって分からないって。
 結菱さんとは年が離れてるし、僕だって他人のお祝いなんてここ数年……」
「何を言ってるですか。14年も人間をやっててそんな事も知らんのですかっ」
「……何でもいいんだ、些細な事でも構わないから。教えてくれないかな」
蒼星石は、まっすぐジュンを見つめた。
「僕の分かる範囲なら、いいけどさ……」
溜息をつきながら、ジュンは答えた。





35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 00:29:56.96 ID:KdbG5AL00


「なるほど……プレゼントにはそんなに大きなお金をかけなくてもいいんだね。よかった」
少し表情を緩ませながら、蒼星石は胸をなでおろした。
「あぁ、様は気持ちが入っているものがいいらしいぞ。
 後は誕生日に年の数だけケーキに蝋燭を挿したりするんだ」
「あっ、それは聞いたことあるですっ」
「でもマスターの年の数だけ蝋燭を挿したら……」
「普通より少し大きいサイズのものがあって、それを使えば一本十歳分としてカウントできる……
 だったと思うよ」
「なるほど」
人工精霊に記憶させているのだろうか、
蒼星石の手のひらの上で、蒼い発光体がチカチカと輝いている。
「けど、思ったより当たり前な事しか知らないんですねぇ」
「だから言っただろ、大して分からないって」
ジュンは不満そうに口を尖らせて言った。
「マスターの欲しがりそうなもの……分からないかな」
蒼星石は、少し節目がちに尋ねた。
「結菱さんの欲しがりそうなもの……悪いけど分からないや。
 さっきも言ったけど。年も離れているし、第一そんなに結菱さんの事しらないからな」




36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 00:34:25.20 ID:KdbG5AL00


「そうか……」
「……思ったんだけど、結菱さんの夢の中に入れば欲しいものくらい分かるんじゃないのか」
「ジュン君は、自分の考えている事を覗かれてまで、プレゼントを決めて欲しいって思うかい」
ジュンは翠星石を見つめると、険しい表情になって答えた。
「ごめん、思わないな……」
「なっ、何でこっちを見て言うのですかっ」
「そういう事だよ……ジュン君、今日は本当にありがとう」
「いや、大して力に慣れなくてごめん……。
 なんか力になれることがあったら言ってくれよ、買出し程度なら手伝ってやるから」
「いや、助かったよ」
「あ……あの人に聞けばもっと分かるかもしれないな」
ジュンはふと思い出したようにそう呟いた。
「のりですか?」
「いや、姉ちゃんだって、たぶん僕と大して変わらないよ。
 ……まぁ、僕よりは知っているだろうけどさ」
僅かに嫌そうな顔をしたジュンに、翠星石は尋ねた。
「じゃあ誰です?」
「……草笛みつさん、金糸雀のマスターだよ」




37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 00:39:09.23 ID:KdbG5AL00


「なるほど、そうねっ。
 確かにみっちゃんなら詳しく知っていそうかしら」
金糸雀は腕を組んで、自慢げに言い放った。
「今日、聞きに言ってもいいかな」
「みっちゃんは帰ってくるのが夜遅いから……それでもいいのなら」
「うん、じゃあお願いするよ」
「分かったかしら、今日は一緒に帰りましょ」
一階のリビングに降りた三人は、雛苺と遊んでいた金糸雀に相談していた。
「全く、ジュンはそんな事もアドバイスできなかったの?」
真紅は呆れ顔でジュンを見つめている。
「うるさいなぁ、どうだっていいだろ」
「真紅、そんなに責めちゃだめかしら、ジュンは引き篭もりだから仕方がないもの。
 みっちゃんならその点は問題無いかしらっ」
金糸雀は悪びれる様子も無く言い放つ。
「お前……今禁句をいったなっ」
金糸雀を目の位置までヒョイと持ち上げると、ジュンは睨みつけた。
「は、離すかしらっ。暴力反対よっ」
「たんじょうびのお祝い、ヒナも参加したいのっ」
雛苺は目を輝かせて言った。
「ダメよ雛苺、蒼星石のマスターに気を使わせてしまうだけだわ。
 ここは螺旋を巻いたマスターと巻かれたドール……
 三人だけにお祝いをさせてあげましょう」
真紅は雛苺をなだめるように言った。




38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 00:43:26.42 ID:KdbG5AL00
「うー、分かったの。
 あっ、でも巴とジュンとのりにも誕生日ってあるよねっ」
少し残念そうな顔をした雛苺だが、すぐに顔をあげて尋ねる。
「えぇ、そうね。そのときはお祝いしてあげましょう」
「べ、別にそんな事してもらわなくてもいいよ」
「ねぇジュン、ジュンの誕生日っていつなの」
ジュンに飛び掛りながら、雛苺は言った。
「くっつくなよ、いつだっていいだろっ」
少し顔を赤らめながら、ジュンは雛苺を引き剥がそうとしている。

「チビ苺ったら浅はかです、もうすでに翠星石はのりからその情報をゲット済みですっ」
蒼星石の耳元で、笑いを堪えるように翠星石は呟いた。
「ふふ……翠星石。君は今幸せかい」
「なっ、何を言い出すですか。いきなり」
「ジュン君は凄いね、みんな彼を慕っている。
 こんなに沢山の姉妹と一度に笑い合えるだなんて、夢にも思って無かったよ」
「……そうですよ、だって。ジュンは私のマスターなのですからっ」
翠星石はジュンを見ながらそう言った。
蒼星石は、そんな翠星石じっと見つめている。




40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 00:48:35.84 ID:KdbG5AL00

「だけど……私達はアリスゲームの事を忘れた訳ではないですよ」
「えっ」
「私は確かに……誰かを犠牲にしてまでアリスになりたい、お父様に合いたいとは思わないです。
 そして、チビ苺は知らんですけど……真紅や金糸雀はアリスを諦めているわけではなさそうです」
「……そうなんだ」
「でもあれですよ。仲間の振りをしているとか、そういう事では無いと思うです」
「……」
「きっといつかアリスは生まれます、誰がどんな形でなるかは分からないですけど。
 だけど今はその時じゃない。だからこそ翠星石は、今という時を大切にしたいのですよ。
 ですから……そんな不安そうな顔をしないで欲しいのです」
蒼星石の方に向き直り、翠星石は言った。
「……君にはお見通しか、心配かけさせちゃったみたいだね、ごめん。
 確かにみんながどう思っているのかは少し気になるけれど、僕は翠星石の考え方に近いかな」
「そうなのですか」
「うん……僕は一度自分の為……そしてマスターの為に舞台を降りた身だし。
 マスターをこれ以上アリスゲームには巻き込みたく無いんだ」

そう、僕は一度アリスゲームの舞台を降りたんだ……そしてジュン君の力を借りて戻ってきた。
だから僕は……

そこまで思考すると、蒼星石の頭にズキッと鋭い頭痛が走った。
「ぐっ」
「蒼星石?」
苦痛で顔が歪んでいる蒼星石をみて、翠星石は顔を覗き込んでくる。
「ごめん、なんでもない」
「大丈夫ですか、何かあったら言うですよっ」
「本当に大丈夫だよ」
なるべく翠星石の顔を見ないように、蒼星石は答えた。




41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 00:51:58.47 ID:KdbG5AL00

「ただいまぁ~」
「あ~、のりが帰ってきたの」
玄関からの聞こえる声に、雛苺はすぐさま反応して。玄関へと駆けていった。
「のりとも久々に会うですよね」
「うん、そうだね」
「今日、金糸雀の家に行くんだろ」
こっちを見ないまま、ジュンは言った。
「そのつもりだよ」
「じゃあ、ここで晩飯でも食べていけよ」
「えっ……いいのかい」
「今更人形一体分増えたって変わらないって。
 姉ちゃんも喜ぶだろうし」
「そうよ、遠慮なんてしなくてもいいわ」
「……何でお前が言うんだよ」
「あら、下僕の家は私の家でもあるのよ?」
「なっ、事欠いてまたお前は……」
些細な事でいがみ合う二人をみて少し微笑みながら、蒼星石は言った。
「じゃあ、お邪魔させてもらおうかな」




42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 00:55:56.11 ID:KdbG5AL00
「それじゃあ、カナはそろそろ帰るのかしらっ」
そう言って立ち上がった金糸雀は、時計に目を移す。
時計は丁度八時過ぎを指し示している。
「え~、もう帰っちゃうの」
雛苺は頬を膨らませた。
「あら、そうねぇ。もうこんな時間だもの」
雛苺を膝の上に乗せてテレビを見ていたのりは、
少し残念そうにそう言う。
「家に帰ったら、みっちゃんさんは居るの?」
「たぶんまだ帰ってきてないかしら、けど9時くらいには帰ってくると思うわ。
 蒼星石、それでも平気かしら?」
「うん、マスターには電話をしてもらったし。
 でも本当にいいのかい、君の家に泊めてもらって」
「平気よっ、むしろみっちゃんは喜ぶかしら」
「蒼星石、やっぱり翠星石も行くですよ」
「いや、僕一人で平気だよ。
 二人で押しかけるのも尚悪いし、明日ちゃんと話しの内容を教えにくるから」
「うぅ……分かったです」





43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 01:00:15.34 ID:KdbG5AL00

壁に立てかけてあった傘を手に取ると、金糸雀は窓の方へと歩いていく。
乗ってきたカバンを引きずりながら、蒼星石はその後を追った。
ジュンは窓の鍵を外して開けると、振り返って二人に言った。
「じゃあお前ら、気をつけて帰れよ。
 特に金糸雀、蒼星石を連れて風に流されるんじゃないぞ」
「むっ、そんなドジを踏まないかしらっ」
「だといいけど」
ジュンはジト目で金糸雀をみる。
各々が別れの挨拶を告げると、金糸雀は傘を開いた。
「蒼星石、そろそろ行くかしら」
「うん、それじゃあ。お邪魔しました」
風に乗って飛び立った金糸雀の後を、蒼星石が追うように飛び立っていった。

チカチカと瞬きながら飛行する黄色い発光体を追いながら、
二人は月明かりの下を飛んでいる。
「今日はいい天気だね」
「そうね、お月様が明るいのかしら。
 ……いい風も吹いていてきもちいいし」
両手で傘を掴んで前を見たまま、金糸雀は答える。
「そういえば、金糸雀と二人だけっていうのは初めてだね」
「そうかしら、そういえばそうかも知れないわね」
「……こんな遅くに外出する事も、久しぶりだな」
「あら、そうなの?カナはもう慣れたのかしらっ」
金糸雀はそう言ってこちらを向くと、微笑んだ。
「……金糸雀、一つ……ぶしつけな事を聞いてもいいかい」
「なにかしら?」





46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 01:05:19.29 ID:KdbG5AL00

「君は、マスターが毎晩遅くまで仕事をしていて寂しくないのかい」
こちらを向いて、金糸雀は数回目を瞬いた。
「本当にぶしつけかしらっ」
「……ごめん」
「そうね、寂しくないとは言えないかしら。
 みっちゃんは朝早くお仕事に行って、夜遅くまで帰ってこない。
 たまの休日だって「きゅうじつしゅっきん」ってやつでお仕事にいくかしら」
「じゃあ……」
「けど、カナは幸せだし。みっちゃんが大好きかしらっ。
 だって、休日は遊んでくれるし。毎日カナの為にお弁当作ってくれるし。
 お洋服だって作っくれたり、買ってくれたり。それにそれに━━」
金糸雀は目を輝かせ、満面の笑みを浮かべながら嬉しそうに話していく。
初めて見る金糸雀のそんな顔に、蒼星石は少し見とれていた。
「━━みっちゃんは夢を追いかけて毎日頑張っているわ。
 カナはそんなみっちゃんの邪魔をしたくないのかしらっ。
 だから今のままでいいし、我侭を言う気もないわ」
「そうなんだ……君も強いね」
「えっ……それほどでもかしら。
 もしかしたら単なる強がりなのかもしれないし」
少し嬉しそうに、金糸雀はそう言うと視線を前に戻した。
眼下には星屑を散りばめた様に、美しいネオンが広がっている。
「さあ、あれがみっちゃんのマンションよ。
 高度を下げるかしらっ」
ピチカート!と叫ぶと黄色い発光体は高度を下げていく。
それを追うように金糸雀と蒼星石も高度を下げていった。




47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 01:06:41.16 ID:eYPa67If0
あ、翠星石が家出するやつ書いた人?




49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 01:11:01.81 ID:KdbG5AL00
>>47
なっ、何で分かったんですか!
はい、もう随分前に……




50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 01:11:58.13 ID:eYPa67If0
>>49
タイトルとか似てたからw




48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 01:08:54.80 ID:KdbG5AL00
「ピチカート、ご苦労さま。
 カナのポーチに戻るかしら、見つかっちゃうわ」
そう呟くと、黄色い発光体は金糸雀が肩にかけているポーチに入っていく。
「賢い子だね」
「ふふっ、カナに似て知的なのかしら」
「え……今なんて?」
「真面目に聞き返さないで欲しいのかしら……蒼星石って結構クールかしら」
頬を膨らませて、金糸雀は蒼星石をジト目でみる。

二人は徐々に降下していき、
金糸雀と蒼星石はとあるマンションのベランダに、ふわりと降り立った。
「ただいま~かしら~」
窓を開けて小さい声で囁きながら、金糸雀は部屋に入っていく。
その後を、物音を立てないように、蒼星石はカバン持ち上げて後を追う。
部屋の中は闇に包まれており、数メートル先が見えない。
目が慣れるまでは入れないな。と思い、蒼星石は窓の前で立ち尽くしていた。
「真っ暗だね」
「この辺に部屋の電気のリモコンが……」
そういった瞬間、パッと部屋に明かりが灯る。




51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 01:13:51.76 ID:KdbG5AL00
「バァーーーーー!」
「っぎゃああああああああああああ」
白い布を被った人間が、金糸雀に覆いかぶさるように立っている。
その前で金糸雀は腰を抜かして尻餅をついていた。
そんな様子を、蒼星石はあっけに取られながら見つめている。
「あははは、ごめんねカナ。驚いた?」
白い布を被った人間は腹を抱えて笑っている。
「み、みっちゃんっ。帰ってたの?」
「うん、今日は少し早めに仕事が片付いてね。
 今さっき帰ってきたの。
 ん~……腰を抜かしているカナも可愛いわぁ!」
そう言って人間は、金糸雀を抱き寄せると頬擦りをしている。
「ねぇカナっ、この布さわり心地いいでしょっ?
 次の洋服の生地にしようと思って買ってきたの。ちょっと高かったんだけどー」
「みっちゃん、ほっぺが熱いかしらっ。
 それに今日は蒼星石もいるしっ。や、やめるかしら~」
「え、蒼星石?」
頬擦りを止めると、そのまま部屋を見渡した人間は、蒼星石と目が合った。
「お邪魔してます」
苦笑いをしながら、蒼星石は言った。
「も、もしかして……」
「そうよ、ローゼンメイデン第4ドール、カナの妹かしら」
そう言った瞬間、カナを素早く丁寧に床に降ろすと。
目にも留まらぬ速さで蒼星石に抱きついて来た。
「キャーーーーッ。
 この子もかわいいっ、可愛すぎるからっ」
「や、やめてくださいっ」
瞬時に反応した蒼星石は、抱きつかれるも相手の顔との間に手を入れて。
嫌そうな顔をしながら手をつっぱり、背を仰け反らせる。




52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 01:16:59.01 ID:KdbG5AL00
「金糸雀っ、この人をなんとかして」
蒼星石は必死な形相で金糸雀に助けを請う。
「み、みっちゃん。やめるかしらっ。
 蒼星石は本気で嫌がってるわ」
「え~……いいじゃない、ちょっとだけ。ちょっとだけだからさぁ」
金糸雀は二人の下に駆け寄ると、引き剥がそうとする。
蒼星石が金糸雀のマスターから開放されるのは、それから数分後の事であった。


「いやぁ、ゴメンね蒼星石ちゃん。
 嫌がってるのに自制がきかないのは私の悪い癖だわ。
 改めて初めまして、カナのマスターの草笛みつです」
礼儀正しく正座をして、深々と頭を下げながらみつは言った。
「……ローゼンメイデン第4ドール、蒼星石です」
十分な距離をとりながら、蒼星石も頭を下げる。
どうやら警戒しているようだ。
「……蒼星石も、もう警戒しなくて大丈夫かしら。
 みっちゃんは相手が嫌がってると分かってる事はもうやらないわ」
「ならいいんだけど……」
「いやぁ~、こりゃあ第一印象わるそうだね」
困ったように頭を掻きながら、みつは言った。
「そうだっ、お詫びに紅茶でもいれよっか」
「あっ、手伝うかしら」
「ありがとっ、じゃあその棚にクッキーがあるからお皿にだして」
「了解かしらっ」
きびきびと動く二人を見ながら、蒼星石は深く息を吐き出した。




53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 01:22:16.38 ID:KdbG5AL00



「はい、家にある最高級のダージリンよっ」
みつは蒼星石の前にカップを差し出した。
「ありがとうございます」
「どうぞ、クッキーも食べるかしらっ」
「ありがとう」
蒼星石は紅茶を口に含むと、クッキーを頬張った。
「まぁ、家で最高級といっても。そんなに高いものじゃないけどね」
少し苦笑いしながらみつは紅茶を飲む。
「それで、今日は何か用事があった来たんじゃないの?」
「そうだけど……もうすぐ九時半かしら。
 蒼星石は眠くない?」
「うん、平気だよ。今日は……誕生日のことについて教えて欲しいんです」
「誕生日?」
「はい、実は……」



「なるほどねぇ、ジュンジュンに教わった内容よりも詳しく……」
「はい、出来ればもっと具体的にお願いします」
「みっちゃん、教えてあげて欲しいのかしら」

「……ごめん、それは無理よ」

「えっ、今なんて……」
蒼星石は少し驚いたように聞きなおした。




54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 01:26:46.70 ID:KdbG5AL00
「ごめんね、言い方が悪かったかな。
 ジュンジュンが言った事が、誕生日の形式としては全てと言っていいとおもうな」
「そ、そんなっ。みっちゃんはイベント事は得意だって」
「カナ、誕生日に決まっている事なんてないのよ。
 ようは気持ちの問題。そうね、あえてジュンジュンの説明に付け加えるとしたら。
 プレゼントはお金はかけなくてもいいけれど、気持ちが入ってなければダメよ?
 逆に高価な物を買っても、相手の事を思っていないものなんてあげてはダメ」
「……」
蒼星石はみつをジッと見つめて話を聞いていた。
「ケーキだって蝋燭は一本でもいいの。
 むしろレディに対して蝋燭を一杯並べるなんて失礼だからね。
 あと蒼星石ちゃん」
「はい」
「マスターへのプレゼントを教えて欲しいって言ってたけど。
 それは誰にも分からないわよ。
 それが分かるのは、たぶん貴女だけ……。
 決まっている事なんて無いの、ちょっと難しいかもしれないけど、
 蒼星石ちゃんが考えて、お祝いしてあげる事に意味があるんじゃないかな」 
「……」
「ごめんね、お説教臭くなっちゃったかな」
「いえ……とても為になりました。
 以前の僕ならきっと出来なかったけれど、今の僕ならきっと……
 本当にありがとうございます」
蒼星石は力強い目でみつを見つめると、少し微笑んだ。
「……良かった、やっと笑ってくれたわねっ」
「えっ……」
「いやぁ、もうすっかり嫌われちゃったかとみっちゃん少し悲しかったんだから」
蒼星石は、みつを見つめると、もう一度微笑んだ。
「さすがみっちゃんかしら、カナは感動したかしらっ」
「えへへ~、ありがとっ。カナ」




55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 01:30:46.82 ID:KdbG5AL00
じゃれ合っている二人を見て蒼星石は思った。
そう、翠星石達だけではなく、草笛さんと金糸雀も。
おそらく水銀燈でさえ想う人間が居て、想ってくれる人間が居る。
お父様は好きだし、会いたい……けれど、
マスターも同じくらい大切だ、どちらかを選ぶことなんてもう僕には出来ないんだ。
ごめんなさい、お父様。
僕はドールとマスター達の関係を打ち砕いてまで、お父様に会うことは出来ません。
ローザミスティカを七つ集める事によってアリスが生まれる……
けれどきっとそれは、ドールの破壊以外の方法でも出来ると思うんです。
いや、きっと方法を見つけてみせる。
少し遠回りになったり、寄り道をしたりしてしまうかも知れません。
けれど僕は……きっとお父様に会いに行きます。
だから少しだけ……少しだけ今は寄り道をさせて下さい。
許してくださいますか……お父様。


「蒼星石ちゃん、考え事してる暇なんて無いわよっ。
 さあ、貴女の誕生日のプレゼントのプランとか。
 どう祝おうと思っているのか、教えてくれない?
 それについてのアドバイス位ならするからさっ」
「するかしらー」
二人は蒼星石の顔を覗き込みながら微笑んでいる。
「そうですね……プレゼントは━━」






56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 01:35:14.15 ID:KdbG5AL00




「膝掛けですか」
首をかしげながら、翠星石は尋ねた。
「うん、マスターが何時も使っているものだからね」
草笛家に泊まった蒼星石は翌日、再び桜田家を訪れている。
「いいわね、とても素敵だと思うわ」
「ねぇねぇ、膝掛けってなんなの?」
「言葉の通り、膝にかける布だよ」
ぶっきらぼうに答えるジュンに、未だ雛苺は首を傾けている。
「そんな説明じゃ分からんですよ」
「本当は冬に使うものなんだけどね。
 膝の上に布をかけてるんだ。そうすると、
 温かいし、気持ちが落ち着いたりするんだ。
 マスターは車椅子でずっと座ってるし、かけていると落ち着くらしいよ」
蒼星石は思い出すように雛苺に説明をする。
「へ~、雛も欲しいのっ」
「要らないよ、もうすぐ夏だって時に……」
ジュンは顔をしかめながら言う。
「あら、いいじゃないの。どうせクーラーとやらで涼しいのだから」
「ですです、本当に時代は便利になったもんです」
「お前らなぁ……」




57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 01:38:14.92 ID:KdbG5AL00

「おまたせみんなぁ~、ケーキの準備が出来たわよぉ」
声の方向を向くと、のりがテーブルにショートケーキを並び終えて。
紅茶を淹れている。
「はーいです」
「わーいっ」
「二人とも待つかしらっ」
三体の人形は素早くテーブルの方へと走っていく。
「さあ、私達も行きましょう」
真紅は立ち上がると、そう言ってゆっくりと歩いていく。
「うん」
「僕はパス、あのテーブルは六人掛けだろ」
「あら平気よ、雛ちゃんは私の膝の上に座ってもらえばいいものっ」
のりは陽気にそう答えると、雛苺を膝の上に乗せた。
「わぁー、いつもよりたかいの~」
雛苺の機嫌も上々である。
「姉ちゃん、行儀が悪いぞ」
「あら、そんな無粋な事を言うものではないわ、ティータイムは楽しむべきものよ」
「僕もたまにはいいと思うな」
「何喋ってるですかっ、早く来ないと先に食べるですよ」
翠星石がフォークを手にとってこちらを睨んでいる。
「……はいはい、分かったよ」
ジュンは諦めたように溜息をついた。




58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 01:41:58.72 ID:KdbG5AL00
「さっき聞こえたんだけど、膝かけにするんでしょ?」
のりは蒼星石を見つめながら言った。
「はい……やはり季節外れだと思いますか」
「いいえ、とっても素敵だと思うわよ。
 もしかして、膝掛けを一から作るとか?」
「いえ……そうすることも考えたんですが。
 マスターの誕生日はもうすぐだから……  
 金糸雀のマスターに適当なものを買ってもらうことにしました」
「蒼星石ってば、お金は要らないって言ってるのに。
 何でかお金の紙を何枚かみっちゃんに渡してたのかしらっ」
「そっかぁ」
のりはフォークを銜えたまま何かを考えているようだ。
「……蒼星石はお金を持ってるのか?」
驚いた表情で、蒼星石をみながらジュンは言った。
「うん、以前マスターの家の家事をやってたら、マスターがくれたんだ。
 おこずかいだって、僕でも服装を着替えれば外出できるだろうからって」
「結菱さん、何を考えてるんだ……もし大騒ぎになったりしたらどうするんだろ」

「そうだわっ」
突如、のりは大きな声を出して蒼星石を見つめる。
「出来るわよ、数日でも。相手に気持ちを形にして伝えることが」
「えっ、一体……」
「それはね、刺繍よっ」




59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 01:47:40.11 ID:KdbG5AL00

数秒間の静寂がリビングを包む。
「あぁ、なるほどね」
早くもケーキを食べ終わっていたジュンは、紅茶を飲みながらそう呟いた。
「ししゅう……?」
「布にね、糸で絵を描くのよ。
 少し難しいけれど、結菱さんの名前くらいなら出来るはずだわっ。
 だってここに、頼もしい先生がいるもの」
目を輝かせながら、のりは言った。
「……おい、まてよ。もしかして」
恐る恐るノリの顔を見ながら、ジュンは言った。
「あら、それはいい考えね」
「布にお絵かき楽しそうなのっ」
「……むぅ」
翠星石はそう唸ると蒼星石の方をみた。
「なるほど……でも、そこまで手伝ってもらうのは悪いよ」
「気を使う必要は無いわ、ジュンは貴女が思っているほど嫌がっても無いわよ」
「何でお前がそんな事決めるんだよっ」
「あら、嫌なの?」
抗議の声を上げるジュンを、真紅はジッと見つめた。
「……誰もそんな事言ってないだろ、それくらいなら手伝うよ」
頭を掻きながら、ジュンは言った。
「ありがとう、ジュン君」
「別にいいって、僕も暇つぶしになるし」




60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 01:52:56.91 ID:KdbG5AL00

「そういえば、翠星石は何をプレゼントするつもりなの?」
真紅は、紅茶を飲みながら言った。
「へ?翠星石ですか?」
最後に食べるつもりなのだろうか、ショートケーキの苺を端に避けながら。翠星石は顔を上げる。
みんなの視線が集まっていた。
「べ、別に普通です。そんなに改まって言う事じゃないですよっ」
「なら早く言うかしらっ」
急かす金糸雀を、翠星石は少し睨んだ。
「……花にしようかな、って思っていましたけど」
少し俯いて、小さい声で翠星石は答える。
「花って、お前が庭で育てているやつか」
「そうです」
「あら、素敵じゃない」
のりは顔の前で手を合わせながら言った。
「ですけど、蒼星石のプレゼントと見比べるとやっぱり……。
 翠星石はお金も持っていないですし、そんな素敵なものは買えないですよ……」
「翠星石ちゃん……プレゼントって言うのはね、気持ちが大切なのよ」
「そんな事を言っても、やっぱり物には敵わんですよっ。
 何時も使うものとお花じゃ……」
「……僕はそんな事ないと思うけどな」
「えっ?」
突如口を開いたジュンを、翠星石は見つめる。




62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 02:03:08.20 ID:KdbG5AL00
「物が何だっていうんだよ、金を持ってないお前が無理して喜びそうな物を買ったとして。
 対抗心を燃やして買ったそれに、気持ちが入ってるのか?」
「……」
「そんなものより、お前が一から育てている花を貰った方が僕は嬉しいと思うけど」
そう言うと、ジュンは紅茶を一口飲んだ。
「ジュンの言うとおりだわ、貴女には貴女のやり方があるんじゃなくて?」
「……うるさいですっ、チビ人間。お前にそんなこと言われなくても最初から分かってたですよ」
ジュンを指差しながら翠星石は言った。
「なっ、この性悪人形。せっかく人がアドバイスをしたって言うのに」
「知らんですぅ、当たり前の事を言っただけなのに偉そうにしないで欲しいのです」
「何だとぉ」
拳を震わせて怒りをあらわにしているジュンを横目に、翠星石は席を立った。
「ちょっと花の手入れをしてくるです、この残った苺は哀れなチビ人間にくれてやるですよ」
そう言うと少し嬉しそうに、軽い足取りで翠星石は部屋を後にした。
「おい、ちょっと待てっ」
「翠星石が苺を残すなんて珍しいの」
「ジュンが要らないのならカナが貰うかしら」
「あっ、かなりあったらずるいっ」
「ふふっ、翠星石は相変わらず素直じゃないんだね」
苺を奪い合っている雛苺と金糸雀を横目に、蒼星石は言った。
「そうね、そしてその意図に気付かない鈍い子も居るようだけど」
真紅はそう言うと、溜息をつく。
「何なんだよ、あいつは……」
ジュンは不満そうにそう呟きながら、半開きになった扉を見つめていた。




63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 02:10:38.39 ID:KdbG5AL00
パラッ

広い部屋に、紙がめくられる小さい音が数分毎に響いている。
窓際で、車椅子に座って本を読んでいた一葉は顔を上げた。
辺りは段々と暗くなってきて、この場所で読書を続けるは難しいだろう。
少々疲れた目を手で揉み解すと、時計に目を向けた。
もうすでに7時を回っている。
「蒼星石は、今日も泊まるのだろうか」
一葉は考えて居た事をつい口にしてしまう。
そんな自分に溜息をつくと、一葉はもう冷めてしまっている紅茶を口にした。

何時も足の不自由な自分の相手をしていて、あまり外の世界に触れようとしない。
蒼星石が少し心配だったのは事実だ、桜田家に出かけると聞いたときは素直に喜んだのだ。
だがしかし、出かけたその日に外泊をして。
今日も帰ってくる気配が無い、一葉は若干の不安を覚えざるを得なかった。
「私は醜いな、自分で勧めておいて。やはり寂しいという感情を感じてしまう」
少しずつ暗くなっていく空を見つめて、一葉は呟いた。
「だがこれでいいのだ、蒼星石には私に縛られて欲しくない」
そう言った次の瞬間、視線を感じて一葉は扉の方を振り向いた。
「……蒼星石、かえっているのかね」
静寂の中、一葉の声だけが響く。
不審に思った一葉は、扉の方へと車椅子を向けた。
扉を開けた一葉は廊下へ出ると、左右を見渡す。
人が居た形跡はおろか、気配を感じる事も出来ない。
「……おかしいな、私の勘違いだろうか」
そう言って部屋の中に戻ると、コンコンとガラスを叩く音が聞こえた。
そちらに目を向けると、蒼星石が窓の外で立っている。




64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 02:15:40.68 ID:KdbG5AL00

「戻りました、遅くなってすみません。マスター」
「いや、構わないさ。楽しめたかね」
「はい、とても」
一葉に窓を開けてもらい、部屋に入った蒼星石は微笑みながら答える。
「蒼星石、この屋敷には帰ってきたばかりかね」
「……はい、どうかしたのですか」
首をかしげながら蒼星石はたずねる。
「いや、誰かの視線を感じたものだからね……だが、私の気のせいのようだ」
「視線……」
「思い当たるところでもあるのかい」
「マスター、その視線は何か探られているような……寒気を感じるような視線ではありませんでしたか」
「ふむ……悪いがそこまでは分からなかったな」
「実は僕も、翠星石のマスターの家で嫌な視線を感じたんです」
「……彼の家で?」
「はい、最初は姉妹の誰かが久々に来た僕に警戒したのか。
 それとも気のせいなのかと思ったのですけど……」
「考えすぎだ、例の水銀燈というドールが犯人だとしても。
 彼の家で君を観察する事は難しいはずだ」
「……」
「他のドールもわざわざ私を観察しにくる意味が無いだろう」
「そうなのでしょうか」
「恐らく、単に二人の勘違いが一致してしまっただけだよ。
 悪い方向に考えるのは辞めよう」
「はい、マスター」
少し不安そうな顔をしたが、蒼星石は頷いた。




65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 02:18:12.07 ID:KdbG5AL00

「さあ、夕食にしよう。使用人が作っていったものがある」
「あのっ、マスター」
「なんだね」
扉へと車椅子を向けていた一葉は、蒼星石に向き直って言った。
「明日から昼間は、少しジュン君の家にお邪魔する事になったのですが。
 よろしいですか」
少し気まずそうに、蒼星石は尋ねる。
「……あぁ、構わんよ。私に許可を得る必要も無い、楽しんでくるといい」
数秒間の沈黙。
蒼星石の言葉を聞いたとき、ズキッと心に痛みが走ったが。
一葉は微笑みながら言った。
「ありがとうございます、マスター」
蒼星石は嬉しそうにそう言うと、一葉の車椅子を押して部屋を出て行く。
一葉は車椅子を押してもらいながら、少しだけ険しい顔をする。
蒼星石はその表情に気付く事は無かった。




67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 02:25:16.56 ID:KdbG5AL00



「お邪魔するかしら~」
窓を開け放ち、仁王立ちをしながら金糸雀は言った。
ジュンの部屋に賑やかな声が響く。
「あ、いらっしゃいなの」
雛苺は顔を上げて、笑顔を見せた。
「だからそこは違うって……ああ、もういいよ。
 お前は教えたクロスステッチやってろよ」
「ちょっとジュン……貴方、教え方が投げやりになってない?
 きちんと教えて頂戴」
「お前は教えたってアウトラインステッチなんて出来てないじゃないか」
「そんな何とかステッチとか言われても分からないもの」
真紅はそう言うと、ジュンを睨みつける。
「うっ……分かったよ。もう一度見てろ、こうやるんだよ」
「まぁ、上手にやるのね」
「……お前、覚える気があるのか」
「あら、失礼ね。ちゃんとあるわよ」
「ちょっとジュン、こっちも分からんです。
 真紅ばっかり見てないで教えるですよっ」
翠星石はムスッとしながら言った。
「分かったよ、すぐ行くから待ってろ」
ジュンは蒼星石に目をやった、困った顔をしながらこちらを見ている。
「ジュン、早く来るですよっ」
「分かったよ」
頭を掻きながら、ジュンは翠星石の元へと向かった。
「みんな、何をやってるのかしら」
金糸雀は部屋を見渡す、四体のドールが布と針をもってなにやら悪戦苦闘している。




68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 02:29:46.48 ID:KdbG5AL00
「えへへ、ししゅうって言うのよ」
「ししゅう……あぁ。昨日のりが言ってたやつかしら」
「僕がマスターの膝掛けに名前を入れる練習をしてたんだけど。
 面白そうだって事になって、みんなでジュン君に教わってるんだ」
「布にお絵かき、楽しいの」
そう言うと、嬉々として布に針を刺していく雛苺。
金糸雀が雛苺の刺繍枠を覗き込んでみると。糸が規則性も無く縫い付けられている。
「雛苺、それは一体何を刺繍しているのかしら」
「あっ、まだ見ちゃダメなの」
頬を膨らませて雛苺は金糸雀を見た。
「わ、悪かったかしら。
 ……蒼星石は、練習しないの?」
手が止まっている蒼星石を見ると、金糸雀は尋ねた。
「あぁ……ちょっと分からないところがあってさ。
 ジュン君に聞きたいんだけど、真紅と翠星石が」
蒼星石はそう言って苦笑いをしている。
金糸雀が目を移すと、ジュンは翠星石と真紅間を忙しそうに行き来している。
「全く、真紅と翠星石は何をやっているのかしら」
「金糸雀、その紙袋はなんだい」
蒼星石は、金糸雀が持ってきた紙袋に目を移して言った。
「あっ、そうだったかしら。
 みっちゃんが買ってきた膝掛け。もってきたのよっ」
「えっ……わざわざありがとう、金糸雀」
「どういたしましてかしら、早速取り出しましょ」
そう言って二人は、包んである包装を破らないよう。
丁寧に取り出していく。




69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 02:32:15.04 ID:KdbG5AL00
取り出されたそれは、美しいミルク色のシルクで出来た膝掛けであった。
「わぁ~、綺麗なのぉ」
「……これ、僕のお金で買えたのかい」
「みっちゃんは物を安く買うことも得意なのかしらっ」
「これに刺繍を入れるのか」
金糸雀たちの騒ぎに気付いたのか、ジュンがやってきて言った。
「うん、上手く出来るといいけれど」
不安そうに蒼星石は言う。
「……大丈夫だよ、僕が教えてやるから」
そう言ってジュンは蒼星石が縫っていた刺繍枠を覗き込む。
「ここのラインはもっと整えて、ここの角も……」

「う~ん、ジュ……」
「待ちなさい翠星石、私が教えてあげるわ」
翠星石の言葉を遮って、真紅は言った。
「何を言ってるです。真紅じゃ分からないですよ」
そう言ってジュンの方を向いた翠星石は、目を見開いた。
「そうね、分からないかもしれないわ。けれど……」
「……そうですね、お互い相談しながらやるですよっ」
二人は顔を見合わせると、微笑んで頷いた。
「それで、ここの部分なんですけど」
「あら、丁度さっきジュンに教わったわ。そこは━━」
真紅の説明を聞きながら、翠星石は横目で蒼星石の方を見た。
そこにはジュンの説明を懸命に聞きながら、布と格闘している蒼星石の姿があった。




97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 16:06:13.36 ID:KdbG5AL00

広い庭園、辺り一面が真っ赤な夕日に照らされて輝いている。
そのあまりにも眩い光で、一葉は目を覚ました。
「……こんな所で寝てしまっていたのか、私は」
眩い光に細くなっている目を擦りながら、一葉は懐中時計を覗き込んだ。
時計の針は6時を指している。
「蒼星石は、もう帰ってきているだろうか」
ついそう呟いてしまった自分に、少し驚いて
自嘲の笑みを浮かべると、ゆっくりと車椅子を屋敷へと向けた。
玄関にたどり着くと、大きな扉を開けて中に入っていく。
薄暗い廊下をゆっくりと進んでいたが、床が軋む様な微かな物音を聞いて一葉は車椅子を止めた。
「……使用人はもうすでに帰っているはずだが、蒼星石だろうか」
一葉は顔をしかめながらそう言うと。
物音のした方向へと車椅子を向けて進んでいき、とある扉の前で車椅子を止めた。
頑丈な木の扉を手の甲で二回ノックする……しかし、中から反応は無い。
「蒼星石、帰っているのかね」
少し大きめの声でたずねてみるが、やはり中からの返事は無かった。
不審に思った一葉は、ドアノブに手をかけると
中の様子を伺うように、静かにドアを開けて部屋の中を覗き込んだ。




99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 16:12:24.96 ID:KdbG5AL00
「なっ……」
予想外の来客に、一葉は眼を見開いて言葉を詰まらせた。

部屋の中には漆黒のドレスに身を包み、退屈そうに椅子に座って足をふら付かせているドール……
ローゼンメイデン第一ドール、水銀燈の姿が見えた。
こちらを横目で一瞥した水銀燈は、興味も無さそうに視線を前に戻した。
少し戸惑ったが、意を決したように一葉は部屋へと入っていく。
それに気付いたのか、水銀燈は舌打ちを打つと立ち上がって、窓に向かって歩いていった。
「まってくれ」
一葉の低い声が部屋に響く。
「……何よ」
水銀燈は窓の前で立ち止まると、視線だけを少しこちらに向けて言った。
「何の用で、ここに来たのかね」
「あら、何で貴方にそんな事を言わなくてはいけないのかしら」
相手を小馬鹿にするかの様に水銀燈は笑っている。
「君の様子を見る限り、私に用事があるというわけでもなさそうだ
 ……ならば、蒼星石に用があると言う事か」
「こんな所に来て、貴方に用事がないとすればそうなるかしらね。
 だとしたら、何だって言うの」
お互いに睨み合ったまま、部屋を静寂が包む。




101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 16:19:25.65 ID:KdbG5AL00

その静寂を先に破ったのは、一葉であった。
「単刀直入に言おう、もうここには来ないで欲しい。
 蒼星石にも関わらないでくれ」
相手を睨みながら、低い声で一葉は言った。
「……はぁ?何で貴方にそんな事を言われなきゃいけないの」
「アリスゲームをするつもりなのだろう」
「アリスゲーム?違うわね、私は貸していたものを返して貰いに来ただけよ」
「貸していたもの?」
「そう……私のローザミスティカをね」
笑みを浮かべながら、水銀燈は答える。
「君の物だと……そう言うのかね」
「当たり前じゃない、あれは私が勝ち取った物だもの。貴方も知っているでしょう」
「横取りする事をそう言うのであれば、きっとそうなんだろう」
「あら、横取りを卑怯だと言うのならば。徒党を組んで一人を襲うのは卑怯じゃないって言うの」
「しかしあの子らは、君のローザミスティカを奪おうとはしなかったではないか」
「さぁ、それはどうかしらね。あの場で私が撤退をしなかったとしたら、奪っていたかも知れないわ。
 ……それに何より、あいつらは私を壊そうとしていたのは事実よ」
そう言って羽を広げた水銀燈に、一葉は眼を見開いた。
水銀燈の右の羽……もはや羽とは呼べないそれは、
背中の翼が生えていただろう場所から少しの骨組みを覗かせるだけである。
根元の部分にも痛々しくひびが広がっていた。




102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 16:22:41.05 ID:KdbG5AL00

「半年前はこんな程度ではなかったわ、
 メイメイと私の媒介が居なかったら、今でも自由に動けなかったかもしれないわね」
「……そんな目にあっても、まだアリスゲームをすると言うのかね」
「言っているでしょう?これはアリスゲームなんかじゃないわ。
 私が勝つって決まっているゲームなのだし」
「君が勝つ?何故そういい切れるんだ」
「……いいわ、貴方に言っても結果は変わらないのだし、教えてあげる。
 私はね、一時的にとはいえあの子のローザミスティカを持っていたのよ」
「……」
「あの子の力を奪って、知っているのよ。
 あの子の闘い方、その時の癖、その他も色々ね」
クスッと笑うように水銀燈は言った。
「なっ……」
「あはは、驚いてるわね。
 怖がらなくてもいいわよ、貴方は殺さないであげるわ」
「……なぜだ、何故君はそんな事を私に話すのかね」
「言ったでしょう?貴方に言ったって結果は変わらないもの。
 ……これ以上貴方と無駄におしゃべりする気は無いわ、蒼星石の居場所も大体予想がついているし」
相手を睨んでいた視線を外して、窓に手をかけながら水銀燈は言った。




103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 16:27:46.72 ID:KdbG5AL00

「……最近私と蒼星石を監視していたのは、やはり君だったのか」
「はぁ?監視?」
驚いて視線をこちらに向けながら水銀燈は言った。
「君ではないと言うのかね」
「おあいにく様、私は今日まで自分の回復に専念してきたの。
 それに蒼星石はともかく、貴方まで監視して何の得があるというのかしら」
「……」
「ふふっ、でも今日は面白いことが分かったわね。
 ドールに見捨てられたマスターがいる事、
 それにローゼンメイデンを監視している存在……真紅たちの誰かでしょうけど」
「何だと……」
水銀燈の言葉を聞いた一葉は、怒りに顔を歪ませて言った。
「あら、何か間違えている事を言ったかしら。
 貴方はここに入るとき『蒼星石、もう帰ったのか』って言ったじゃない。
 恐らく真紅達の所にでもいるのでしょう?
 こんな時間まで、媒介の貴方に気にかけることも無く。
 でも蒼星石の気持ちも分かるわよね、だって貴方……ジャンクだもの」




104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 16:32:30.61 ID:KdbG5AL00
一葉の足を見ながら、水銀燈は高笑いをした。
「くっ……出ていけっ!もう二度と私の前に顔を見せるなっ」
そんな水銀燈に、一葉は前のめりになって怒声を浴びせる。
その拍子に、膝掛けがはらりと床に落ちた。
「こわーい、言われなくても出て行ってあげるわよ、こんな所。
 蒼星石によろしく伝えておいてね。帰ってくれば、だけど」
そう言うと水銀燈は窓を開き、片翼を広げて飛び立っていった。


怒りに手を震わせながら、一葉は俯いた。
こんなに腹が立つのは、水銀燈の言った事を自分も考えてしまっているからだ。
そんな事を蒼星石が思うはずが無い、あの子は少し用事があるだけだと言っていたではないか。
そう自分に言い聞かせてはいるが、やはり心のどこかでそんな事を考えてしまう。
だが一葉が一番腹立たしいのは、蒼星石を信じる事が出来ないで居る自分自身に対してであった。
「ふふっ、私がこんなにも孤独に弱いとは思わなかったよ。
 今までずっと、一人で生きてきたというのに……」




105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 16:36:42.27 ID:KdbG5AL00

次の瞬間、コンコンと窓を叩く音が部屋に響いた。
驚いて一葉は顔を上げる、テラスには蒼星石が両手でカバンを持って立っていた。
「遅くなってすみません、少し用事が長引いてしまって」
そう言ってカバンを引きずりながら、蒼星石は部屋に入ってきた。
「……いや、構わんよ。今日も楽しんできたのかね」
一葉は平常心を保つよう自分に言い聞かせながら、蒼星石の問いに微笑んで答えた。
「はい……マスター、何かあったのですか?」
少し心配そうな顔をして、蒼星石はこちらを心配そうに見ている。
「別に何も変わったことは無かったが、如何してかね?」
「いえ……」
そういって一葉に近づくと、床に落ちてしまっている膝掛けを持ち上げて埃を払い落とし、
一葉の膝に丁寧にかけた。
「マスターが膝掛けを落としてしまっているなんて、珍しいと思ったので……」
膝掛けを落としてしまっていたことに気付いていなかった一葉は少し驚くが。
すぐにいつもと同じように微笑んで、蒼星石に言った。
「……いや、気にするほどの事ではない。さあ、夕食にしよう」
「……はい、マスター」





106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 16:39:32.30 ID:KdbG5AL00


蒼星石は火にかけられている小さい鍋をかき混ぜながら、先ほどの事を考えていた。
マスターの様子が少し変だった、やはり自分が外出している間に何かがあったのだろうか。
そして、それを自分に伝える事が出来ない……伝えたくない事が?
分からない……自分が知らない一葉の人間関係での出来事なのだろうか。
「だとしたら僕が口を挟むことじゃない、僕に出来るはマスターを支える事だけだ」
けれど……アリスゲームに関する事だとしたら……?

グツグツと鍋の中のスープが沸騰する音で、蒼星石は現実に引き戻された。
「あ……いけないっ」
慌てて火を止めると、蒼星石は溜息をついた。
「何をやってるんだ……僕は」
スープを皿に移すと、冷ますまでの間に使用人が作った他の料理をも温める。
温まった料理を台車に載せると、一葉が待つであろう広間へと台車を押していった。
「僕は……ジュン君の家に行っていていいのだろうか」
台車を慎重に押しながら、蒼星石はそう呟いた。




107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 16:43:31.93 ID:KdbG5AL00


「お待たせしました、マスター」
「いや……ありがとう、蒼星石」
テーブルの上には、使用人が作っていった夕食が並んでいる。
「では、頂くとしようか」
「はい……いただきます」
広い部屋に、食器の擦れる音だけが響いている。
スープをすくい、口に移しながら蒼星石は一葉の方をちらりと見た。
パンを千切り口に放っている一葉は、どこか遠くを見つめている。
やはりいつもと様子が違う、そう思った蒼星石は。
意を決したように手を止めて、相手を見つめる。
相手に何かあったのかを問いただそうとした瞬間、それよりわずかに早く一葉が口を開いた。
「蒼星石、彼の家は……ジュン君の家は、楽しいかね」
「えっ」
不意の質問に蒼星石は少し驚いたが、すぐに答えた。
「……はい、翠星石が居ますし、真紅たちも居ますから」
「そうか。聞かせてくれないか、君が彼の家でどんな事を思い、どんな事をしているのか」
「えっ……はいっ、分かりました」




109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 16:55:39.93 ID:0rs9UwSTO
家出の人か
ということはあの続きになるのか?




114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 17:26:52.11 ID:30XQX8KyO
>>109
今回のお話との接点はないけれど、一応繋がっている世界のつもりです。




113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 17:18:58.54 ID:KdbG5AL00

蒼星石は少し戸惑いながらも話した。
翠星石と雛苺がケンカをしたり、真紅が案外不器用だったり、のりの料理の腕が素晴らしい事、
そして一見頼り無さそうなジュンも、意外にもしっかりしていた事。
一葉へのプレゼントを作っていることは、ジュンに裁縫を教わっていると誤魔化しながらも。
蒼星石は次第に夢中になって話していく。
一葉が蒼星石の私用について聞いてくることは余り無い。
深く詮索する事もないし、蒼星石の言う事について反対する事も余り無い。
そんな一葉が、自分の事を知りたいと言ってくれている。
蒼星石は、それが無性に嬉しかった。

楽しそうに話す蒼星石をみて、一葉は相槌をうちながら微笑んでいる。
しかし次第に表情は硬くなって、真剣な顔で蒼星石を見つめていた。
「━━━それで翠星石は言ったんです、ジュン君に……」
そんな一葉の様子に気付いた蒼星石は、我に返って言葉を詰まらせる。
「すみません、つまらなかったですか」
「……」
「マスター、今日は少し変ですよ。やはり僕が帰る前に、何かあったんじゃ……」




115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 17:28:13.88 ID:KdbG5AL00
「蒼星石」
蒼星石の言葉を遮るかのように、一葉は口を開いた。
「これから私が言う事を、落ち着いて聞いて欲しい……」
無表情でそう呟く一葉に、蒼星石の顔には不安の色が浮かんだ。
「……はい」



「私と君との間で結ばれている薔薇の誓い……それを、解いてくれないか」



「えっ……?」
蒼星石は目を見開いて、一葉を見つめる。
「言っている意味が分かりません、一体どういう……」
「そのままの意味だよ、君のマスターを辞めたいんだ」
「マスター!」
蒼星石は大きな声を上げて、思わず椅子の上に立ち上がった。
その勢いで、フォークやナイフが床に落ちる。
広い部屋に、金属音が鳴り響いた。
「……そんな馬鹿げた冗談、やめてくださいっ」
蒼星石は、必死の形相で一葉を見つめている。
信じたくなかった、信じられなかった。
きっと次の瞬間は、一葉は笑って嘘だと言ってくれる、そう思いたかった。




118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 17:31:34.52 ID:KdbG5AL00

「私は今まで、君に嘘を言った事はない筈だ……」
そんな蒼星石の気持ちを裏切るように、一葉は吐き捨てた。
「何故ですか……」
蒼星石は、未だに信じられないといった表情でそう言った。
「君の察している通りだ、君が帰る前に私の親戚から電話があってね。
 一緒に住まないか、と誘われているんだよ」
「……」
「私もこの足だろう、毎日使用人を雇っていれば金もかかる。
 それに君が居るから夜は遅くまでは頼まないようにしている。
 君には分からないだろうが、色々な不自由があるんだよ。
 だから、親戚の一家が此処に引っ越してきて、一緒に暮らす事になったんだ」
二人の間を、静寂が包む。
蒼星石は力なく椅子に座り込むと、俯いてしまった。
「……分かりました、貴方との誓いは解きます」
数秒後、蒼星石は、震える声でそういった。
「でも……僕は貴方の傍に居たい。螺旋は巻かなくてもいいです。
 どうか僕を人形として、貴方の傍に……」




121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 17:36:52.53 ID:KdbG5AL00

「駄目だ、それも出来ない。
 只でさえ最近近所には変な噂が立っている、この屋敷の主は狂っている。等の噂がね。
 まぁ無理も無い、足の不自由な老人が、人形と戯れているのだ」
「マスター……?」
信じられない、といった顔で蒼星石は一葉を見つめている。
「親戚の前でも君を出す事は出来ないだろう?
 世間一般的にみれば、君のような人形を所有している事は気味が悪がられるんだ。
 君は姉のところにでも行けばいいじゃないか」
「……」
「……まだ分からないのか。
 仕方が無い、はっきり言おう……君には復讐を止めてもらった恩もある。
 だから今まで君に対して私はなにも言わなかったんだ。
 だが……邪魔なんだよ、君は私の幸せにとってね」
次の瞬間、ガタッと木の椅子が音を立てて倒れた。




124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 17:42:12.54 ID:KdbG5AL00

音の方向を見ると、蒼星石が無表情で立っている。
「よく分かりました、結菱さん」
「分かってくれたか」
「はい、早速僕はこの家から出て行こうと思います」
「……悪いが、そうしてくれ」
ゆっくりと扉へと歩いていく蒼星石を、一葉は横目で見送っている。
扉の前、蒼星石はこちらを振り向くと、深々と頭を下げながら言った。
「今までお世話になりました、どうかお幸せに」
そう言って顔を上げた蒼星石の両目からは、大粒の涙が流れていた。


蒼星石が去り、広い部屋には一葉一人が残された。
一葉はもはや冷めてしまっているスープを一口、口に含む。
「……これで、良かったのだ」
そういった次の瞬間、溜め込んでいたものを噴出すかの様に、一葉の両目からは涙が溢れ出てくる。
「ぐっ……おおおっ……」
出そうになる声を、必死に手を口に当てて抑えこむ。
まだ蒼星石は屋敷の中に居るかもしれない、絶対に聞かれるわけには行かないのだから。
一葉は必死に声を殺して泣き続けた、涙が枯れ果てるまで……
 



126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 17:47:22.33 ID:KdbG5AL00


蒼星石は、夜の空をカバンに乗って飛び続けている。
先ほどの言葉が、頭の中に浮かび上がっては消えていく。
自分は、一葉にとって負担だったのだ。
何故だろう、何故もっと早く気付けなかったのだろうか。
後悔の念が蒼星石の心を支配している。
どれ程飛び続けただろうか、我に返った蒼星石はカバンの上から眼下を見下ろした。
桜田家の屋根が見える……やはり行き場の無くなった蒼星石がくることが出来るのは、此処しか無かったのだ。
静かに庭に降り立った蒼星石は、窓に近づいてノックをしようとするが、寸前で手を止めた。
やはりこの家でも、僕は負担になってしまう、迷惑をかけてしまう、そう思ったからである。
この場から離れよう、そう思った瞬間、リビングのカーテンと窓が賑やかな声と共に開かれた。
「それじゃあカナはそろそろ帰るかしら、また来るかしらっ、皆々様っ」
「ばいばーいなのっ」
「風に流されるんじゃねぇですよ」
「気をつけて帰るのよ……あら?」
窓の外、暗闇に蒼星石の姿を見つけた真紅は、目を見開いた。
「ちょっとどきなさい、金糸雀っ」
「えっ……うわっ」
真紅に突き飛ばされた金糸雀は、前のめりに地面に倒れる。
「蒼星石……こんな夜中にどうしたというの」
「やあ真紅……少しだけ、お邪魔させてもらえないかな」
「真紅、どうしたのですか……蒼星石っ」
翠星石も、驚いた顔で駆け寄ってくる。
「とりあえず、部屋に入って頂戴。話は中で聞くわ」
真紅は蒼星石の手を強く握ると、半ば強引に蒼星石を部屋へと連れて行った。




127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 17:52:56.46 ID:KdbG5AL00
「なるほど……そんな事があったのね」
真紅は少し悲しそうに、そう呟いた。
「蒼星石、かわいそうなのぉ」
「……」
ジュンとのりは、険しい顔で蒼星石を見つめている。
「そ、そんなの酷いかしらっ、あんまりよっ」
「……許せないです、あのクソじじい!」
翠星石は涙を流しながら立ち上がると、扉へと歩き出した。
それを遮るかのように、蒼星石は立ちふさがる。

「……どこに行くんだい」
「決まってるです、あのじじいに会ってきて。ガツンと言ってやるんですっ」
「辞めてよ、そういうの……」
「やめないですよ蒼星石っ、そこをどくですっ」
無理に通ろうとする翠星石の胸倉を掴むと、蒼星石は叫んだ。
「やめてって言ってるだろ!これは僕とマスターで話して決めたことだっ」
「そ、蒼星石……」
翠星石は悲しそうに、蒼星石を見つめる。




128 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 17:55:50.00 ID:KdbG5AL00

「僕はマスターの負担だったんだよ、
 だから、せめてこれ以上マスターの幸せを邪魔したくないんだ……」
蒼星石は自分が悔しいのか、悲しいのか分からなかった。
手の力を緩めると、蒼星石は俯いてしまう。
そんな蒼星石を、翠星石は優しく抱きしめた。
「蒼星石……悲しかったら、泣いてもいいのですよ。
 悔しかったら、叫んでもいいんです」
「……ダメだよ、僕たちはドールだ。
 マスターの決めたことに逆らうなんて」
「違うです、それは違うですよ。
 だって、私達は生きているです。嬉しいと感じる事や楽しいと感じる事。
 悲しみや、寂しさだって感じる事が出来るです……」
「……」
「それに蒼星石は、マスターの命令に逆らって。
 おじじの心に鋏をたてた事があるじゃないですか」
クスッと笑いながら、翠星石は言った。
「自分に嘘をついちゃダメです。
 お前を心配している私達の前で位、自分をさらけ出してください。
 お前が涙を流すその分だけ、あのおじじの事を大切に思っていたって事なのですから……」
 
次の瞬間蒼星石は、顔をゆがめて翠星石を強く抱きしめた。
そして、胸に顔を埋めるとせきを切ったように泣き出した。
「うっ……ぐっ……うわぁぁぁぁぁぁ」
翠星石は、そんな蒼星石の頭に手を置いて優しく撫でてやっている。
その泣き声は、夜の住宅地に何時までも、悲しく響いていた。




130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 18:01:57.50 ID:KdbG5AL00

ガチャ

狭い部屋に、無機質な音が響く。
辺りを見渡すと、最近少し見慣れてきた部屋……
カバンが三つ、壁に立てかけられて置いてあり、部屋の隅にはベッドがある。
「お前が一番遅く起きるなんて、珍しいな」
こちらに背を向け、机に座ってパソコンを弄りながらジュンは言った。
「えっ……」
突然の声に驚いて、ジュンを方を見ながら蒼星石は声を上げる。
「もうみんなとっくに起きて、朝飯食べ終わってるぞ」
「……そう」
時計に目を移すと、すでに9時を回っている。
蒼星石はカバンから這い出ると、並んでいるカバンに自分のを加えてその隣に座り込んだ。
そして膝を抱えて、自分の足元をじっと見据えている。
「あのさ……此処で生活していく事なら、別に気にしなくてもいいぞ。
 呪い人形が三体から四体に増えたところで、大して変わらないからな」
パソコンから目を離さずに、ジュンは言った。
「……ありがとう」
「だから別に気にしなくていいって言ってるだろ」
「うん……ありがとう」
蒼星石は、俯いて答えた。




131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 18:05:59.49 ID:KdbG5AL00

ジュンは振り返ってそんな蒼星石をみると、溜息を一つ吐いて机の引き出しの中から何かを取り出した。
そして蒼星石の目の前に歩み寄ると、目の前にそれを差し出して言った。
「なぁ、この膝掛け。どうするんだ」
「これは……ジュン君にあげるよ、もう使えない物だし」
「……悪いけど、僕はこんなもの要らないぞ。
 これから夏だし、僕はこういうものは使わないしな」
「じゃあ、雛苺にプレゼントするよ。
 この前欲しがっていたしね」
「……お前は、これからどうするつもりなんだ」
「これから……」
「お前さえ良ければ、本当にこの家に居付いてもいいんだぞ。
 さっきも言ったけど、呪い人形が三体から四体に増えようと変わらないしな。
 それにお前は、あの連中の中ではまともっぽいし」
「ありがとう、ジュン君……でも僕は、それは出来ないよ。
 もうこの時代での僕の役目は終わったんだと思う、今夜にでも眠りにつくつもりなんだ」
「眠りに……?」
「うん、次のマスターに出会うまでの永い眠りに」
「……」
「ここに来たのも、いきなり居なくなって心配させないように。
 彼女たちに挨拶をしに来ただけなんだ」
「そうか……」
「うん、僕はこの時代で。
 もう新しいマスターを探す気にはなれないから」





134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 18:10:19.28 ID:KdbG5AL00
コンコン、とジュンの部屋の扉をノックする音が響いた。
「ジュン、私よ。開けて頂戴」
廊下から、真紅の声が聞こえてくる。
「……分かったよ」
ジュンは返事をすると、ゆっくりと立ち上がって扉を開けた。
開いた扉から部屋に入ってきた真紅は、険しい表情をしている。
「今の話、聞かれちゃったかな」
「ごめんなさい、立ち聞きするつもりは無かったのだけれど」
「ううん、いいんだ。さっき言った通り。
 僕は今日中に眠りにつくよ」
「ねぇ、蒼星石」
「なんだい」
「……貴女は、それでいいの?」
真紅は蒼星石をまっすぐ見つめて言った。
「えっ……」
「それで後悔しないで、次のマスターのところへ行けるの」
「変な事を言うんだね、後悔も何もこれはマスターの言った事だよ」
少し真紅を睨むように、蒼星石は言った。
「貴女は、結菱さんが言った事を鵜呑みにしてしまうの」
「何が言いたいのかな」
「別に、昨日の話を聞いていて違和感をいくつか感じただけよ」
「違和感?」





135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 18:14:38.38 ID:KdbG5AL00

「えぇ……蒼星石、貴女は結菱さんとの契約の解除はすんでいて?」
「契約……あっ」
蒼星石は思い出す、昨日はあの会話の後にすぐ飛び出してしまった。
蒼星石の指輪は、未だに一葉の薬指にある。
「それなりに目立つ薔薇の指輪を、そのままにして出て行かせてしまうなんて。
 なんで結菱さんは許したのかしら」
「……単に忘れていただけだと思うよ、僕も今まで忘れていたのだし」
「違和感はそれだけではないわ……ジュン」
真紅はそう言ってジュンの方を向いた。
「ん……あぁ。
 でも真紅、これはまだ調べてる途中だし。
 今いってもぬか喜びさせるだけかも……」
「あら、まだ調べられてなかったの?」




136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 18:18:38.60 ID:KdbG5AL00

「何の事だい」
「蒼星石、今ジュンが調べている事が正しいとすれば。
 貴女はきっと後悔する事になるわ。
 だからお願い、少しの間……私達に時間を頂戴」
「……」
「貴女のマスターも、貴女だって。
 軽い気持ちでこの結論に至ったんじゃないのは分かるわ。
 けれど、それが致し方ない理由があっての結論だったなら……。
 お願い、一日だけでも構わないから」
「分かった……真紅。
 その違和感の結論が出るまでは、僕は待つよ」
蒼星石は、俯きながら答えた。
「ありがとう……蒼星石」
そんな蒼星石を、真紅は悲しそうに見つめていた。




138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 18:23:04.48 ID:KdbG5AL00

大きな窓から差し込んだ光が、一葉の顔を射した。
その光を感じて、一葉はもうすでに朝を迎えることを理解する。
一葉の目の前にはもうすっかり冷めてしまったスープ、硬くなったパン等。
昨日の夕食の料理がそのまま残されている。
先ほどまで五月蝿く鳴っていたチャイムの音もすでに止んでいる。
使用人も諦めて帰ったのだろう。
一葉はただじっと窓を見つめて、うな垂れていた。
何をする気も起きなかった。
昨日自分は、今の自分にとって一番大切な存在を傷つけてしまったのだ。
何故、こんな事になったのだろうか。
一葉は記憶を張り巡らせる。

その次の瞬間、けたたましい音と共に大きなガラス窓が吹き飛んだ。
思わず手で顔を覆った一葉は、目を細めながらガラスの方向を睨む。
「何故かしら……蒼星石が居ないようだけど」
強い風が部屋の中を駆け巡る。
その風の中を、無数の黒い羽が飛び交っていた。
「やはり来たか……水銀燈」
その無数の羽の中の一本、鋭い黒い羽が一葉の顔の横を掠めた。
しかし一葉は怯える様子もなく水銀燈を睨みつけている。
「どういうことなのかしら、離れた場所にドールが固まっている。
 恐らく蒼星石も真紅たちの所ね。
 あなた、昨日の事を蒼星石に話さなかったの?」




139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 18:26:42.73 ID:KdbG5AL00
「あぁ……お前の考えている事など容易に想像がつく」
「へぇ~、私の考えている事が?」
「何故お前が昨日、私にあんな事を話したのか……少し考えさせられたよ」
「……」
「お前の狙いは蒼星石だ、そして蒼星石の性格を考えた上で昨日の事を考えれば簡単だった」
「あなた……もしかして」
「そうだ、もう蒼星石はこの家に帰ってくることは無い。
 そしてお前がローザミスティカを手にすることも無い」
水銀燈はつまらなそうな顔で、一葉の顔を見つめている。
「昨日の事を蒼星石に話していれば、確かに今は蒼星石と共にお前を迎えているだろう。
 例え勝ち目の無い戦いだとしても、あの子は逃げる事は無い。
 そして同時に翠星石たちに助けを求める事も無いだろう。
 どんなに不利な状況でも、あの子は一騎打ちを避けるようなことは無いからな」
「お馬鹿さんね、そんなのこれからでもあの子が一人になる瞬間を狙えば……」
「それも無いな、翠星石から君の力については多少聞いている。
 君は契約をしていなくても近くの人間から力を奪うことが出来るらしいな。
 だからこそ君は相手の媒介が居るときにしかドールを襲わない。
 君自身が、君の力を使うことが出来ないからだ」
水銀燈は舌打ちを打つと、一葉をにらみ付けた。
「蒼星石は、翠星石達と一緒に居る限りは君という脅威、
 それに加えてドールたちを観察している何者かの脅威からは逃れる事ができる」
「蒼星石を私から守るための唯一の手段が、契約の解消……別れだと、そういうの?」
「……そうだ」
「……下らない事をしてくれたわね、せめて貴方の目の前でジャンクにしてあげようと思っていたのに」
「諦める事だな、お前に蒼星石を倒させはしない」
一葉は力強く水銀燈を睨みつけ、言い放った。




140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 18:30:51.00 ID:KdbG5AL00
「……そうね、確かに今あの子を襲う事は難しい、不可能といってもいいかもしれないわ。
 だけど、それは貴方が協力してくれれば簡単な事じゃなくて?」
水銀燈は微笑みながら、一葉に一歩一歩近づいていく。
「君達を作った人間……ローゼンは、君たちに人間を傷つけるなと言っていたそうじゃないか」
一葉は水銀燈をにらみつけたまま、そう言った。
「あら、それも翠星石の告げ口?
 馬鹿じゃないの、私はアリスに成る為に手段は選ばない。
 貴方も知っているんじゃなくて?私が以前人間を殺そうとしていた事を」
「ふっ……まぁ、そんな所だと思っていたさ。
 覚悟は出来ている、例え私の命が絶たれようとも。
 蒼星石を呼ぶことは無いぞ」
少しも恐怖を見せること無く一葉は言い切った。
「面白くなぁい、つまらないわ……そう言うのっ」
水銀燈は一本の羽を勢いよく飛ばした、それは一葉の右肩に突き刺さる。
「っ!」
一葉は痛みに顔を歪めるが、水銀燈から視線を外す事はなかった。
「もう……私にも後が無いのよ、呼びなさい。蒼星石を」
水銀燈は鋭い眼光で一葉を睨みつける。
「断る」
一葉は短く言い切った。
もう一本の羽が左ひざに突き刺さる。
床には鮮血が数滴飛び散った。




141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 18:35:52.07 ID:KdbG5AL00

「つまらない意地を張っていると、取り返しのつかないことになるわよ」
「君こそ、私を殺す覚悟も無いのにこんな事をしていて意味があるのかね」
「はぁ?何ですって……」
「その震えている手が何よりの証拠だ……」
一葉はまっすぐ水銀燈を見据えていった。
一葉の言ったとおり、水銀燈は手は緊張の余り震えている。
「……さっき言ったでしょう、もう私には後が無いの。
 ここで蒼星石を倒さない限り、私も終わりなのだから」
「なぜそんな事を言い切れるのだ」
「力が……必要なのよ」
「力……?」
「アリスになるにも、ジャンクになってしまった私自身の為にも、
 そして……あの子の為にも」
「……」
「真紅たちはすでに徒党を組んでいて倒す事は至難の業。
 仲間割れも期待できない……
 金糸雀も狙いやすそうだけど、片翼を失っている今の私では恐らく勝てないわ。
 ……私が生き残るには、蒼星石を倒すしかないのよ。
 覚悟ならするわ、どんな覚悟でも。
 私は……すでに穢れているのだから」
そう言うと、水銀燈は相手を射殺すような眼光で一葉を見つめる。
そんな水銀燈をみると、一葉はなぜか微笑みながら呟いた。
「蒼星石……本当にすまなかったな」
 




143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 18:38:51.00 ID:KdbG5AL00

コンコン

扉が開いているジュンの部屋、翠星石はその扉を手の甲で二回叩きながら言った。
「少し……いいですか」
中には蒼星石が一人、壁にもたれかかって呆けていた。
「……翠星石?うん、いいよ」
蒼星石は頷いて扉の方へ視線を向ける。
こちらに歩いてくる相手の顔を見て、蒼星石は目を見開いた。
翠星石の両目は、真っ赤に充血して腫れていた。
「……また、泣いて居たのかい」
「……」
「真紅から聞いたの?僕がもう眠りに就く気だって事」
翠星石は、静かに頷いて蒼星石の隣に腰をかける。
「止めたって無駄だよ」
「止めないですよ、蒼星石が決めた事なのですから」
「……そう」
蒼星石は視線を窓へと向けた。
「最初は一緒に眠りに就くことも考えたですが……真紅に怒られちゃったです」
「うん」
「本当に……おせっかいで、出来すぎた妹です」
「そうだね」
蒼星石は、翠星石にもたれ掛かりながら言った。
「……少し、このままで居させて」
「……いいですよ」
窓から入る光が、二人を優しく包んでいる。




144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 18:41:38.95 ID:0rs9UwSTO
翠の子・・・




145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 19:00:53.47 ID:KdbG5AL00
「昔はよく、こうやって居たよね」
「ですね」
「……」
「ねぇ、蒼星石」翠星石は口を開いた。
「なんだい」
「ジュンが何かを調べ終わるまで、眠りには就かないのですよね」
「うん、そのつもりだよ」
「……これ、このままでもいいのですか」
蒼星石は無造作に放り投げられていた膝掛けを手に取ると、
蒼星石の前に差し出した。
そこにはジュンが下書で書いてくれた『結菱一葉』の4文字が見える。
「翠星石には信じられないのです、おじじがあんな事を言うなんて。
 きっと、何か訳があると思うんです」
「……」
「蒼星石だって、本当はおじじの親戚がどうとか。信じてるわけじゃ無いですよね」
「……うん」
蒼星石は、小さく頷いた。
「でも、マスターは僕と離れる事を選んだ。
 もしかしたら、本当に負担だったのかもしれない、
 もしくは僕の事を思っての行動だったのかもしれない。
 どちらにせよ、マスターは僕と離れる事を選んだんだ。
 僕はその意思に従おうと思う」





146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 19:05:41.65 ID:KdbG5AL00

「……蒼星石の気持ちは、どうなのですか」
「離れたくないに、決まってるじゃないか」
「その気持ちは、伝えたのですか」
「勿論……でも、マスターは僕が人形として近くに居る事も許してはくれなかった」
「……そうですか」
「ジュン君がどんな答えを出してこようと、僕が眠りに就くということを変えるつもりは無いよ」
「やっぱり……頑固ですね」
「そうかな」
「だったら、やっぱりこれは完成させるべきなのです」
「え……?」
「蒼星石の心には、まだ迷いがあるですよ……これを完成させて、気持ちの整理をするです。
 きっと……おじじだって喜んでくれるです。
 誕生日のプレゼントを渡してから眠ったって、いいじゃないですか」
翠星石は満面の笑みを浮かべながら、蒼星石を見つめて言った。
蒼星石は迷うように相手の目を見つめる。
視線を合わせたまま、二人の間を静寂が包む。
「そうかな……そうだね……きっと、喜んでくれる」
やがて相手から目線を外して俯くと、呟くように蒼星石は言った。
そして翠星石の手から膝掛けを受け取ると、大切そうに抱えて立ち上がった。
「……ありがとう、翠星石」
振り返ると微笑みながら、蒼星石は言った。
翠星石は、そんな蒼星石をみて僅かに頷いた。




147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 19:09:49.01 ID:KdbG5AL00

「ちょ、ヒナ。あんまり押さない……うわあっ」
バタン、と何かが倒れる音を聞いて。
二人は開いてるドアの方向を向いた。
そこには少しだけ顔をだして、片目でこちらを伺っている雛苺と、
その前で見事に転倒している金糸雀の姿が見えた。
「お、お前らっ。盗み聞きですかっ」
「か、カナは辞めようって言ったかしらっ。雛苺が」
言い争っている二人を横目に、雛苺は恐る恐る扉の影から出ると。
ゆっくりと蒼星石の元へと歩み寄っていく。
「ちょっとチビチビッ。
 一体何のつもりですか」
そう言うと、翠星石は雛苺の前に立ち塞がった。
睨みつけられた雛苺は、ビクリと体を反応させるも。
蒼星石の事を見ながら言った。
「……蒼星石に、渡したい物があるの」
「翠星石たちの話を盗み聞きしてまで渡したいもの━━」
「だって!」
翠星石の言葉を遮るように、雛苺は叫んだ。
「真紅がさっき言ってたんだもん……
 蒼星石はもうすぐに眠りにつくって、大好きなマスターとお別れしなきゃいけないんだって……」
両目に涙を湛え、翠星石を見上げて雛苺は言った。
「チビ苺……」
「蒼星石が寝ちゃう前に、渡したい物があるんだもんっ」
「もう……好きにしろですっ」
そう言うと、翠星石は足早に部屋を後にした。




149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 19:13:27.57 ID:KdbG5AL00
そんな翠星石を目で追っていた雛苺に、蒼星石は話しかける。
「渡したいものって……ないだい。雛苺」
「あっ……あのね。これ……」
雛苺は手を後ろにして隠していた布切れを、蒼星石に差し出した。
それをみた蒼星石は、首をかしげて尋ねる。
「これは……何を刺繍したのかな」
蒼星石は微笑みながら、雛苺を見た。
雛苺が渡した布切れとは、つい先日ジュンの下で練習に使っていた。
その布切れである。
「……ジュンを縫ったの」
「へぇ……これを、僕にくれるのかい」
雛苺は小さく頷いた。
「ヒナはね……時々、眠るのが怖くなるの」
「え?」
「ヒナも、大好きな巴や、コリンヌ……他にも沢山の人とお別れしてきたわ。
 ……お別れって、いつでも突然やってくるの」
「……うん、そうだね」
「ヒナはお別れが怖いわ……眠ってしまったら、もう起きれないかもしれない。
 もう真紅達にも会えないかもしれないの」
「……」
「でも、ジュンのお家に来てヒナは分かったわ、自分がお馬鹿さんだったんだなって。
 だって、ヒナを起こしてくれる人は沢山いるんだもの。
 真紅や翠星石、金糸雀にのりにジュン、巴だってヒナを起こしてくれるわ」
雛苺は少し微笑みながらそう言った。




150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 19:18:20.61 ID:KdbG5AL00
「きっとヒナも、いつかジュン達とお別れの時が来るわ。
 とっても怖いの、怖いけど……
 でも、きっとまた真紅や翠星石が、ヒナを起こしてくれるの。
 ヒナが泣いていたら、一緒に泣いたり、励ましたりしてくれるの」
「雛苺……」
「蒼星石が起きれなかったとしても、きっとヒナが起こしてあげるわ。
 だから……このししゅうをみて、ヒナ達の事を忘れないで」
雛苺はそう言って微笑んだ。
その両目には、涙が微かに溜まっている。
金糸雀と蒼星石は、驚いた顔で雛苺を見つめていた。
「うん……大切にするね、雛苺」
「えへへ、かなりあもありがとなのっ」
「へ?」
金糸雀はいきなり話を振られて、驚いた顔をしている。
「泣いてるヒナをかなりあがここまで引っ張って来てくれてなくちゃ。
 きっと蒼星石に渡せなくて後悔してたの」
「べ、別にカナは蒼星石の様子が気になって、
 一人じゃ寂しいから引っ張って来ただけかしら」
「それでもいいのっ。ありがと~かなりあ~」
「わ、分かったから離れるかしら~」
照れ隠しなのか、雛苺は金糸雀に抱きついてじゃれている。
そんな二人を見つめながら、蒼星石は微笑んでいた。




151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 19:21:34.15 ID:KdbG5AL00

小さな部屋を、真っ赤な夕日が照らしている。
赤く染まったその部屋で、蒼星石は一人静かに布と格闘していた。
昼に翠星石達と話してから、ずっと蒼星石は部屋に篭って刺繍を施している。
未だにあまり使い慣れていない日本の漢字を刺繍していた蒼星石は。
一文字一文字に必要以上の時間が掛かっていた。
けれど、やっとの事で残りの一文字に取り掛かり始めていた。

「何やってるんだ?蒼星石」

いきなり背後から声が聞こえる。
突然の事に驚いた蒼星石は、手元を誤って指を刺してしまった。
「いたっ」
「わ、悪い。大丈夫か?」
蒼星石は指を押さえながら声の方に振り向いた。
そこには出かけていたのだろう、リュックを手に持って少し悪びれているジュンの姿があった。
「ジュン君何時の間に……全然気がつかなかったよ」
「何にそんなに集中してたんだ……膝掛け?」
「うん、やっぱりこれをマスターにプレゼントしてから眠りにつこうかとおもってね」
「そうか……指は大丈夫か?血が……」
「ふふ、変な事を言うんだね。僕は人形だよ」
そういうと、蒼星石はジュンを指差す様に人差し指を見せる。
そこには小さな後がついているだけであった。
「あ……そうか。ごめん」
「気にする事は無いよ、この程度ならレンピカがすぐ修復してくれる」
「……一葉さんの誕生日って」
「明日だよ」
ジュンの言葉を遮るように、蒼星石は言った。




152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 19:27:28.06 ID:KdbG5AL00
「ところで、朝に言ってた違和感の正体は分かったかい」
「ん……あぁ、やっぱり僕と真紅の思った通りだったよ」
「……詳しく聞かせて貰えるかな」
蒼星石がジュンを見上げていった。
「ちょっとまって、蒼星石」
そう言って部屋に入ってきた真紅は、翠星石を連れてきていた。
「この子にも、聞く権利があるでしょう」
「……」
翠星石は押し黙って、真紅の後ろにくっついている。
「少し落ち着いて話しましょう、ジュン。
 紅茶を淹れてきて頂戴」
「真紅、僕は……」
「いいでしょう?時間が無いわけではないのだし。
 これは大切な話なのだから」
「……分かったよ」
溜息をつきながら、蒼星石は答えた。


数分後、紅茶を淹れて戻ってきたジュンを交えて四人は話していた。
「そういえば真紅、昼間は姿が見えなかったけど」
蒼星石は紅茶を口に含むと、真紅にたずねた。
「……今日はジュンと一緒に図書館へ行っていたの。
 リュックの中に入ってね」
「僕だけで十分だって言ったんだけど、聞かなくてさ」
ジュンは口を尖らせて言った。
「あら、私だって気になったんだもの。仕方がないじゃない」
「図書館で何やってたですか」
翠星石は真紅をみて尋ねた。




153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 19:33:04.62 ID:KdbG5AL00
「……昔の新聞を調べてたのよ」
「昔の新聞?」
「あぁ……結構前に、僕たちで薔薇屋敷に乗り込んだときの事を覚えているか」
ジュンは翠星石を見ながら話し始めた。
「そもそも僕たちは結菱さんの夢でみた舟を手がかりに。
 ダイナ号へ行き着いて、名前を知り、近所のあの屋敷へたどり着いたんだけど」
「また随分前の話ですね」
「その時に、結菱さんの事、沈没の事件のことは出来る限り調べたんだ。
 それで、どこかで読んだ気がするんだ。
 もう、結菱家の残りは一葉さん一人だって」
「えっ」
翠星石は、目を見開いてジュンを見つめた。
「そう、それでジュンに『ぱそこん』とやらで調べるように言ったんだけど。
 その時の記事を見つけることが出来なかった様なの」
「仕方が無いだろ、その時のリンクが死んでたりして。
 前みたいに探せなかったんだから」
「それで図書館に行って、沈没船の記事が載っている古い新聞を捜したんだね」
蒼星石は、無表情で答えた。
「……そうだ、それでしっかり裏付けも取れた。
 確かに一葉さんは親戚は居ない。親に兄弟も居ないし、二葉さんは亡くなっている。
 親しい親戚なんて居ないはずなんだ」
ジュンはそういい切った。
「そう、つまりは親戚と一緒に暮らすと言う話は嘘なの。
 きっと何か事情があってこんな事を……」
そこまで言った真紅は、翠星石と蒼星石をみて言葉を詰まらせる。
「二人とも、どうかしたの……もしかして」
真紅は少し俯きながら言った。




155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 19:36:39.34 ID:KdbG5AL00
「えっ……どういう事だよ、嬉しくないのか?」
ジュンは驚いたような顔で蒼星石を見つめる。
「……私達は、なんとなく分かっていたのです」
「確証は持てなかったけど、マスターがいきなりあんな事言うなんて。
 何か理由がある、親戚は口実だって思ってたんだ……」
「……じゃあ」
「うん、僕はやっぱり眠りに就くことにする。
 明日このプレゼントをマスターに渡したらね」
「……何故私達が矛盾があると言ったとき、眠りに就く事を伸ばしたの?
 私達に気を使っていたのなら、そんなのは……」
少し不機嫌そうに真紅は言った。
「……何でだろう。
 僕にも分からない……でも、知りたかったんだと思う」
「……」
「だって、それが嘘だとしたならば。
 マスターは何らかの理由で、嘘をついてまで僕と離れたかったってことだから……」
「そんな……」
ジュンはガックリと肩を落として俯いた。
「本当にありがとう二人とも、これで僕は心残りなく眠りに就ける」
「あなたはそれで、いいのね?」
「うん……いいんだ」
蒼星石ははっきりと頷いて答えた。
「そう、分かったわ」
真紅はそう言って立ち上がると、
振り返る事無く部屋を出て行った。




156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 19:41:35.65 ID:KdbG5AL00
そんな真紅を見つめながら、翠星石は呟いた。
「……真紅のやつ、泣いていたです」
「えっ……」
「ジュン、何をやっているですか。追いかけるですよっ」
翠星石はジュンをにらみつけて言った。
「私達ローゼンメイデンは、誰でも少なからず別れを経験しているです。
 マスターの意思だけで別れを告げられる気持ちが、あの子にも分かるのですよ」
「そっか、あいつも……悪い、ちょっと行って来る」
ジュンは立ち上がると、足早に部屋を出て行った。
そんなジュンの背を見送りながら、蒼星石は俯いた。
「二人には、悪い事をしちゃったかな」
「平気ですよ、二人だって分かってくれるです。
 それよりも、プレゼントは完成しましたか」
「いや、後一文字だけ」
「そうですか……見ててやるですから、早く完成させるですよ」
「うん、そうだね」
少しの罪悪感を感じつつも、蒼星石は再び刺繍に取り掛かった。
そんな蒼星石を、翠星石は優しく見つめていた。
膝掛けに結菱一葉の文字が揃うのは、それから一時間ほどたった午後7時ごろである。




167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 21:01:01.12 ID:KdbG5AL00


「それじゃあ、そろそろカナは帰るかしら」
そう言って立ち上がった金糸雀は、リビングを見渡した。
夕食を食べ終わった面々は、全員がリビングに揃っており。
大きな声を上げて立ち上がった金糸雀の方を見つめていた。
「あら、もう九時なのね」
のりは時計を見て、驚いたようにいう。
窓に向かって歩いていた金糸雀は、途中で立ち止まると。
踵を返して蒼星石の目の前に歩み寄った。
「この時代では……お別れね、蒼星石」
「そうだね……金糸雀。
 本当にありがとう、色々と感謝しているよ」
「気にする事無いかしらっ、だって……私達は姉妹なんだもの」
うっすらと涙を浮かべながら、金糸雀は言った。
「金糸雀、もしも次に会った時は……」
「分かっているかしら、アリスゲームをすることになるかもしれない。でしょ?」
「……」
「そんなのはその時にならないと分からないかしらっ。
 またその時にお話しましょ」
「うん……」
「それじゃあ……カナは行くわ。
 また会いましょ!皆々様っ」
そう叫ぶと、金糸雀は窓に駆け寄り窓を開く、
そして振り向かずに夜の闇に飛び出していった。




168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 21:06:07.00 ID:KdbG5AL00

「帰るなら、静かに帰れよな」
そう言ってジュンは窓を閉める。
「まったく、五月蝿いやつです。姉だとは思えねぇですよ」
「そうね、何よあの挨拶は。私達の返事も聞かないで飛び出すだなんて」
雛苺は、涙を拭いながら窓を見つめている。
二人を静かに見守っていた面々は、
思い思いの行動をして気を紛らわせていた。




169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 21:10:35.96 ID:KdbG5AL00

そんなジュン達をみて、のりは明るく言った。
「さあ、みんなももう寝る時間よっ。いい子は寝なきゃだめよ」
「あら……そうね。さあ、みんなジュンの部屋に行きましょう」
「了解です」
「はいなの……」
「うん……そうだ、ジュン君」
「ん?どうした」
「あの膝掛けの出来栄えは……どうかな」
「あぁ……さっき見たけど、初めてとは思えないほど上手く出来ていたよ。
 あれなら結菱さんだって、喜んでくれるさ」
「……そっか、ありがとう。ジュン君」
「別に……僕だって暇つぶしでやっただけだし」
「ううん、君の才能は本当に凄いと思う。自分に自信をもっていいと思うよ」
「……褒めたって何もでないぞ」
「思ったことを言っただけさ」
少し顔を赤らめているジュンに、蒼星石は微笑んで答えた。
「なにやってるですか蒼星石。置いて行くですよっ」
扉の前で腕を組んで待っている翠星石は、こっちを向いて叫んでいる。
「それじゃあ……おやすみなさい。ジュン君」
「ああ……おやすみ」
「元気で……」
蒼星石はそう呟くと、翠星石の元へと駆け寄って行った。




170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 21:16:17.25 ID:KdbG5AL00

「蒼星石、今日は一緒に寝よう?」
雛苺は上目遣いで蒼星石を見つめた。
ジュンの部屋までやってきた四体の人形は、各々のカバンを広げて寝る準備をしている。
「何を言ってるですか、カバンの中に二人なんて窮屈すぎるです」
「だってぇ……」
「ごめん雛苺。今日はこの時代での最後の夜だから……ゆっくり眠りたいんだ」
「ぶぅー」
雛苺は頬を膨らませてカバンに入り込んだ。
「蒼星石、明日は何時ごろに眠る予定なの?」
「……朝ごはんを食べたら、マスターのところに行って。そのまま眠りに就く予定だよ」
「じゃあ、まだ明日の朝は会えるのねっ」
雛苺は目を輝かせて言った。
「うん、そうなるね」
その言葉を聞いて、翠星石の表情も少し明るくなる。
「さあ、もう九時を過ぎてしまっているわ。早く寝ましょう」
真紅は静かにカバンに入り込むと、蓋に手をかけて言った。
「そうだね……」
「もう、真紅ったらせっかちです」
「おやすみなさい、なの」
「おやすみなさい」
雛苺と真紅は、それぞれカバンの蓋を静かに閉めた。




172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 21:20:27.27 ID:KdbG5AL00

「私達も、眠りますか」
「うん……翠星石」
「何です?」
「ありがとう、君には本当に感謝しているよ」
翠星石の目をまっすぐ見つめながら、蒼星石は言った。
「……何ですか急に改まって、そんなの明日の朝にでも沢山聞いてやるです」
「思えば、君には色々と酷い事をしてしまった……」
「蒼星石?」
「明日、マスターの誕生日のプレゼントを渡す事が出来るのも、
 安らかな時間を持つことが出来たのも、全部翠星石達のおかげだ……」
「……」
「次の時代で会うときは、きっと僕は今より強くなっていてみせる。
 自分を見失わず、君とも別々の道を歩みながら闘っていけるようになっていたい」
「きっと出来るですよ……次の時代で会うときを、楽しみにしているです」
翠星石は微笑みながらそう言った。
「……ありがとう、それじゃあオヤスミ。翠星石」
微笑み返すと、蒼星石はそういってカバンを閉じた。
「おやすみなさい……きっとまた会うですよ、蒼星石」
翠星石がそう言ってカバンを閉じると、部屋を静寂が包んだ。




173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 21:24:08.73 ID:0rs9UwSTO
切ない・・・




174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 21:25:05.90 ID:KdbG5AL00


暗闇の中、蒼星石はカバンを開けて辺りを見渡した。
部屋にはジュンの寝息のみが響いている。
蒼星石はジュンの枕元にある時計へ目を移した、その電子時計は午前2時ごろを指している。
なるべく物音を立てぬよう、蒼星石は静かに鞄から這い出た。
「やはり、行ってしまうのね」
突然暗闇から声が響く。
蒼星石はその声にあまり驚かず、声が聞こえた方向を見た。
「……やっぱり君は気付いていたんだね、真紅」
蒼星石が向いた先、真紅が鞄を開け、中で座ったままこちらを見つめている。
「朝まで待つことは出来ないの?この子達が悲しむわ……」
「それは出来ないよ……僕はマスターが目を覚ます前にこれを置いて。眠りに就くつもりだ」
「……」
「それに……湿っぽいお別れなんて僕は嫌いだ。もう、誰かの泣き顔なんて僕は見たくない」
「あら、私には見つかってしまっているわ。私だって、貴女に泣いて縋るかもしれないわよ」
「……そうだね、そしたらみんなも起きるし、僕はここを離れづらくなるかもしれない」
蒼星石は微笑んでそう言った。




175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 21:33:48.71 ID:KdbG5AL00

「ねぇ、蒼星石」
「なんだい」
「……ごめんなさい」
「えっ?」
「貴女に一言謝りたかった。
 私の勝手な思い込みで、貴女の眠りに就くまでの時間を延ばしてしまった。
 そして、その覚悟をした貴女に、酷い態度を取ってしまったわ」
「大丈夫、僕はそんなこと気にしていないよ。
 むしろ僕は嬉しかったんだ、君たちが僕の事を、想ってくれている事が分かったしね」
「……ありがとう、呼び止めてしまって御免なさい。
 また、次の時代で会いましょう」
「うん……真紅。翠星石達のこと、お願いね」
蒼星石は微笑んでそう言うと、真紅は静かに頷いた。
蒼星石は鞄を両手で持つと、窓の方へと歩いて行く。
そして窓を開けると、鞄を開けてそこに乗り込んだ。
「蒼星石」
飛び立とうとした蒼星石を、真紅が呼び止める。
「……いい夢を」
そう言った真紅の両目には、涙が溜まっているのが見えた。
蒼星石は微笑んで頷くと、鞄に乗り込んで深夜の空に飛び立った。
もう振り返ることも無く、蒼星石はまっすぐ、自らのマスターの家を目指して飛び続ける。




177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 21:40:26.97 ID:KdbG5AL00

ほどなくして薔薇屋敷に到着した蒼星石は、空の上から薔薇屋敷を見下ろしていた。
「こんな深夜にマスターの家を見るのは初めてだけど……真っ暗だと少し不気味だな」
何時もとは違う顔を見せる庭園を見下ろしながら、蒼星石は少し笑って言った。
徐々に高度を下げて一葉の部屋の窓に近づいて行く蒼星石は、何か違和感を感じて鞄を止めた。
暗闇でよく見えないが、一階の部屋の窓が開いているようだ。
カーテンが夜風になびいているのが見える。
「閉め忘れかな……」
几帳面な一葉にしては珍しい、とその窓に近づいた蒼星石は目を見開いた。
ガラスが割れている。
破片は中へと飛び散っていて、その窓の骨組みだけが寂しく月明かりに照らされていた。
「マスターっ」
そう叫ぶと蒼星石はその窓へ鞄ごと飛び込んだ。
辺りを見渡すが、中は暗闇で誰の気配を感じる事も出来ない。
蒼星石は恐る恐る、鞄から降りて電灯のスイッチの元へ歩いていく。
一歩足を進めるたびに、ガラスを踏み砕く音が暗闇に響いた。
やっとの思いでスイッチの場所までたどり着くと、ゆっくりと灯を点けた。


「嘘だ……」




178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 21:46:45.69 ID:KdbG5AL00

部屋を見渡した蒼星石は、目を見開いてそう呟いた。
部屋にはガラス片や黒い羽が至る所に散乱していて、中央にはズタズタになって横転している車椅子が見える。
「マスター……」
おぼつかない足取りで、車椅子へ近づいた蒼星石は。
辺りのカーペットの模様が少し変わっている事に気が付いた。
まるで黒の絵の具を飛び散らせたかのように、黒い筋や点のシミが至る所に見える。
「これは……血の跡……そ、そんなはず……」
それを見て数歩後ずさった蒼星石は、勢いよく走り出すと部屋の扉を乱暴に開いて廊下へ飛び出した。
「マスターっ、何処ですか、返事をしてください」
そう叫びながら蒼星石は走り、次々へと扉を開いては中を確認していく。
一葉の姿は無かった、まだ死んでいると決まっているわけではない。そう考えたのである。
一葉の寝室、広間、キッチン、風呂場……蒼星石は叫びながら、屋敷の部屋を一通り見て回るが。
手がかり一つ掴む事は出来ない、息を切らして戻ってきたのは、やはり最初の部屋であった。
「マスター……何処へ、いってしまったのですか」
車椅子へと歩み寄ると、膝から崩れ落ちて車椅子へともたれ掛かった。
「僕があの時出て行かなければ……僕のせいで」
そこまで言った蒼星石の目に、一つの黒い羽が目に留まった。
「黒い羽……まさかっ」
その黒い羽を持ち上げてじっと見つめると、蒼星石は辺りを見渡した。
「水銀燈……まさか君が……まだ動けないはずじゃ」




180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 21:52:56.66 ID:KdbG5AL00


蒼星石が一葉に別れを告げられた時、アリスゲームが関係していると考えなかったわけではない。
だがしかし、水銀燈が絡んでいるとは夢にも思って居なかった。
約半年前、水銀燈は半壊の状態にまで陥った筈なのである。
そんな水銀燈が、媒介も居ない状態で完治をするにはまだまだ時間がある。
他のドールならば人間に危害が加えることはない、一葉はこれ以上危険が迫る事は無い。
そう考えていたのだった。

蒼星石が荒れた部屋の中央にたたずんでいると、視界の端に僅かな光が映りこんだ。
無意識にそちらの方へ視線を向けると、廊下に紫色の僅かな光が見えた。
「あれは……メイメイっ。レンピカ!追うんだ」
そう叫ぶと、蒼星石はその光を追って部屋を飛び出した。
廊下に出た蒼星石は、メイメイが進んだであろう方向を睨むが。
もうそこには何も居なかった。




181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/05(日) 22:00:13.87 ID:KdbG5AL00


「この家でnのフィールドに繋がるだろう物は……寝室の鏡だけだ。いくよ、レンピカ」
そう言うと同時に、蒼星石は走り出した。蒼い発光体がその後を懸命に追っていく。
寝室の扉の前にたどり着くと、蒼星石は中の様子を伺うようにゆっくりと扉を開いた。
そこには水面のように波紋を描いている鏡、そしてその前では
まるで蒼星石が来るのを待っていたかのように紫色の発光体が漂っている。
こちらの姿を確認すると、紫色の発光体はnのフィールドへと姿を消した。
「……行こう、レンピカ。
 例え罠だとしても、もう引き下がる事は出来ない」
蒼い発光体は慌てるように蒼星石の目の前でチカチカと光った。
「真紅たちに応援を……?
 ……いや、ダメだよレンピカ。そんなの待っている時間は無い。
 それに……」
そこまで言うと、蒼星石はゆっくりと鏡の中に入っていく。
蒼い発光体は、迷うように八の時を数回描くと。蒼星石の後を追って鏡に入っていった。




248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:01:58.97 ID:E8P/mkr20
nのフィールドへと入った蒼星石は、辺りを見渡した。
辺りは暗闇に包まれている。
前方に目を凝らすと、紫色の発光体が逃げるかのように離れていくのが見えた。
蒼星石はそれを鋭い眼光で睨みながら、後を必死に追いかけた。

どれ程の時間追っていただろうか、恐らく数分間、
辺りは未だに暗いが、眼下にはまるで黒い雲の上に居るような、
おうとつがある地面が広がっている。
そして紫色の発光体が進んでいる先、そこに何かが放置されているのが見えた。
蒼星石は目を細める。
徐々にはっきりと見えてくるそのモノは……何時も見慣れた大切な人の、変わり果てた姿であった。
一葉の体には数本の羽が突き刺さっており、辺りには羽が散乱していた。
服は所々が破れて、赤黒く染まっている。
そして力なく、その場に横たわっていた。
「マスターっ」
蒼星石はそう叫ぶと、必死に一葉の元に飛んでいった。
鉄のような匂いが鼻をつく。
間近で見た一葉の顔には傷一つ無く、まるでただ眠っているだけのようにも見えた。

「マスター……どうしてこんな事に……ごめんなさい、ごめんなさい……」
そう言うと、目の端に涙を浮かべて一葉の体を抱きしめた。




250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:06:39.85 ID:E8P/mkr20

「うっ……」

顔を埋めていた蒼星石の耳に、呻く様な声が聞こえた。
「マスター!」
蒼星石は慌てて手を離すと、顔を覗き込む。
一葉の目がゆっくりと開いて、蒼星石の姿を捉えた。
「蒼星石……私は幻覚でも見ているのか」
「マスター……僕です、幻覚ではないですよ……。
 本当によかった……すぐにここを出ましょう」
「まさか……何故ここに来たのだ。
 早く逃げなさいっ」
一葉は苦痛に顔を歪めながら、蒼星石を睨んで言った。
「逃げる……マスター、何を」


「こんばんは、蒼星石。お久しぶりねぇ」


蒼星石の背後から、突然声が響いた。
「レンピカ!」
そう叫ぶと蒼星石の手元には鋏が召喚され、それを声のした方向へ素早く向ける。
鋏の切っ先の数メートル先、そこには水銀燈が微笑んでこちらを見ていた。
「……水銀燈、一体どういうつもりだ。何故僕ではなくマスターを狙った」
相手を射殺すような鋭い目で睨みつけながら、蒼星石は言う。
「あら、貴女は何にも知らないのね。
 私だって貴女一人を狙えるのなら、そうしているわ」
水銀燈は相手を小馬鹿にするかのように吐き捨てた。




251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:11:29.94 ID:E8P/mkr20

「だからと言ってマスターを傷つけるだなんて……
 お父様の言いつけも守れない、君は本当にジャンクだね」
「……何とでも言いなさい、あなたはそのマスターの意図も理解できないでここに来てしまった。
 その人間の努力も全ては水の泡ね」
「蒼星石……何故戻ってきたのだ……逃げなさい、水銀燈と闘ってはいけない」
一葉は力なく言った。
「マスター……それでは、あの時の言葉は……」
蒼星石は少し悲しそうに、一葉を見つめた。
「理解したところで遅いわ、もうすでに賽は投げられたのだから。
 さあ、アリスゲームをはじめましょう。蒼星石」
「片翼が無いその体で、僕と闘おうというのかい」
水銀燈に視線を戻すと、蒼星石は笑うように言った。
「あら、貴女程度ならば片翼で十分よ」
「……僕は手加減しないよ、君の残った翼も。叩き切ってあげよう」
「御託はいいわ……やれるものならやってみなさい」
「……あぁ、そうだね。君に打ち勝って、僕はマスターを助ける」
鋏を握る手に力を込めると、蒼星石は水銀燈を憎しみの目で睨みつけた。

「闘ってはダメだ、蒼星石……」
一葉は必死に手を伸ばして言った。
だが蒼星石にはその言葉は届かない、暗闇に一葉の言葉がむなしく響いていた。




253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:15:24.49 ID:E8P/mkr20


「はあっ」
地面を強く蹴ると、蒼星石は水銀燈との距離を一瞬で縮める。
そして両手で持った大きな鋏を、左から右へと振り切った。
水銀燈はそんな蒼星石を微笑んで見つめながら、半歩後ろに下がって上半身を後ろに少し仰け反らせる。
水銀燈の目前数センチの場所を、風を切る音を立てながら鋏の刃が通り抜けた。
「やぁっ」
掛け声と同時に流れるような動作で、蒼星石は鋏を切り上げた。
水銀燈は空に飛び上がってそれを回避する。
そして同時に左の翼から数本の羽がナイフの様に放たれた。
鋏を振る反動で避けれないと判断した蒼星石は、左手でその羽を払いのける。
「いきなり怖いわねぇ、当たったら痛そうだわぁ」
クスクスと笑いながら、水銀燈は蒼星石を見下ろした。
「くっ……」
蒼星石は痛みに顔を歪める、羽を払いのけた右の手のひらには傷が出来ていて。
払い損ねた一本の羽が、右足に突き刺さっていた。
足に刺さったそれを引き抜くと、蒼星石は鋏を構えなおす。




254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:20:08.99 ID:E8P/mkr20

蒼星石は横目で一葉を方を見た、一葉は不安に押しつぶされそうな顔でこちらを見ている。
その一葉の左手の指輪は、弱弱しく輝いていた。
「余所見が出来るなんて、随分余裕ねぇ」
その声に視線を戻した蒼星石の目前には、水銀燈の黒い足が迫っていた。
バキッっと大きな音を立てて、蒼星石は数メートル吹き飛ぶ。
「ぐぁっ……」
「蒼星石っ」
一葉の悲痛な叫びがnのフィールドに響く。
痛みで思わず顔を抑えながら体制を立て直した蒼星石に、水銀燈は追撃の黒い羽を放っていた。
蒼星石はそれを横に飛んで避けると、鋏を握って水銀燈との距離を縮めるべく地面を蹴った。
「負けるわけには……いかないんだっ」
水銀燈はそんな蒼星石を、笑みを浮かべて見つめていた……




255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:25:51.27 ID:E8P/mkr20

「うわぁっ」
蒼星石は数本の黒い羽を体に受けて、後ろに倒れこんだ。
「あははは、おかしいったら無いわ。
 あまりに一方的過ぎてつまらないわよ、蒼星石」
水銀燈は蒼星石の眼前に立って、不敵に微笑んでいる。
蒼星石は体を起こすと水銀燈と距離を取って、鋏を構えなおした。
アリスゲームが始まってから数分間……その体には無数の傷が出来ていて、ドレスもズタズタになって来ている。
特に右足は水銀燈の重点的な攻撃を受けて、すでに感覚が鈍くなって来ていた。
肩で呼吸をしながら、蒼星石は考える。
何かがおかしい、こちらの攻撃が全く当たらない。
相手はまるでに動きを読んでいるかのように避け、僅かな隙を的確に突いてきている。
いくらフェイントを交えても、水銀燈は慌てることなくそれを避けている。
「ふふっ……納得がいかないようね。蒼星石」
笑うように言った水銀燈に、蒼星石は目を見開いた。
「水銀燈……やっぱり君は何かを……」
「いいわ、教えてあげる……私は貴女の次の行動が。分かるのよ」
「……」
「全て分かるわけじゃないけれど、何通りか予想がつく。と言った方が正しいかもしれないわね。
 私は知っているのよ、貴女の闘うときの癖、どういった事を考えているか……とかね」
「……僕は冗談は好きじゃないよ」
「冗談な訳ないじゃない、私は貴女の事を知ったのよ。ローザミスティカを奪った……あの時にね」
「なっ……」
蒼星石は驚きの表情で水銀燈を見つめた。




256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:33:31.86 ID:E8P/mkr20

「ふふっ、驚いているようね。最初からこのゲームの勝者は決まっていたのよ。蒼星石」
「そうか、だからマスターは僕に逃げろって……」
「あははっ、今頃気付いたの?けれどもう遅いわ。貴女の右足も壊れかけてるし、それに……」
「けど僕は……諦めない、このゲームを途中でやめる訳には……」
「それに、貴女はこの事を言ってもアリスゲームを辞める事は無いのだから。
 ……ふふっ、貴女のそう言うところ好きよ。私は」
大きく深呼吸をすると、蒼星石は鋏を構えなおす。
「僕は君に打ち勝って見せる、マスターのため……何より僕の為に」
「かかってきなさい蒼星石、私も油断はしないわよ」
そう言った二人は、どこか悲しそうに笑っていた。




258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:40:28.30 ID:E8P/mkr20

一葉は涙を流しながら、二人の戦いを見つめていた。
もはや体中の痛みも、約一日近く何も口にしていない喉の渇きさえも、今の一葉に感じる事が出来なかった。
只々、自分の無力さに自己嫌悪を起こし。後悔をしている。
「何故……こうなってしまったんだ」
震える腕で涙を拭いながら、一葉は二人の戦いから目を離さない。
「あれが……最善の選択肢ではなかったのか」
「私は蒼星石を守ることが……出来ないのか」
時折聞こえてくる蒼星石の叫び声を聞く度に、
胸が張り裂けそうになる。
一葉の頭には、以前の光景が浮かび上がっていた。

動かなくなった蒼星石、蒼星石を抱いて泣いている翠星石。
片腕が無い真紅、怯える雛苺。
不敵な笑みを浮かべる水銀燈……そして。
ドールズの前に立ちはだかり、水銀燈に拳を上げて叫ぶ少年……。
それまでドールズの後ろに隠れていた少年が、あの水銀燈に向かって叫ぶその姿は。
とても勇敢で、眩しく見えた。




259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:46:35.63 ID:E8P/mkr20

「私は……彼のように、一緒には戦えないのか」
こぼれる涙をそのままに、一葉は呟いた。
「私には……見ていることしか……」
次の瞬間一葉の形相が一変すると、近くにあった水銀燈の羽を掴みあげて。
自分の足に振り下ろした。
「こんな足でさえ無かったら……無かったらっ」
手のひら、そして右足の太ももから鮮血が飛び散る。
何故だろうか、手のひらも右足も痛みも、余り感じる事は無い。
「私はただ、蒼星石を……あの子を守りたかっただけだというのにっ」
「二葉やあの人だけでなく、蒼星石でさえ……私から奪おうというのか……」


『何故貴方は、一緒に戦えないと思うのですか』


突然の耳元から声が聞こえて、一葉は目を見開いて辺りを見渡した。




260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 22:51:36.67 ID:E8P/mkr20

水銀燈と蒼星石意外には何も姿を見ることが出来ない。
「だ、誰だっ」
一葉は叫ぶように言った。

『何故ドールズや他のドールマスターは、ここでは重力から逃れる事ができるのですか』

「何を言っているんだっ」

『何故アストラルの世界であるこの空間で、貴方は自らの自由を縛っているのですか』

「……」

『ねぇ……どうして?……うふふっ』
透き通るような声でそう笑うと、その声は聞こえなくなった。
一葉は辺りを見渡すが、その姿を見ることも、気配を感じる事も出来なかった。




261 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:02:00.20 ID:E8P/mkr20
「ぐあああぁぁっ」
耳を劈くような蒼星石の叫び声で、一葉は二人に視線を戻した。
蒼星石は膝を突いて右目を抑えて叫んでいる。
「あははははっ、無様ね蒼星石。
 双子の証であるオッドアイの片方を傷つけてしまうなんて」
「蒼星石っ」
一葉は必死に叫ぶが、その声は蒼星石に届かない。
「……うああああっ、水銀燈っ」
蒼星石立ち上がりながら、力任せに鋏を振った。
水銀燈はその攻撃を難なく避けると、無数の羽を蒼星石に浴びせる。
「うああっ」
蒼星石は風圧と羽によって数メートル飛ばされて、尻餅をついた。
蒼星石の右目……美しい緑色の瞳は、痛々しそうに大きくヒビが入っている。
奇しくも蒼星石が尻餅をついたその場所は、一葉からも数メートル……目の前であった。
「さあ、終わりにしましょう?蒼星石。
 マスターのすぐ傍で逝けるだなんて……本望でしょ」
水銀燈は大きく左の翼を広げると、蒼星石を睨みつけた。
「くっ……うぐっ」
必死に立ち上がろうとする蒼星石だが、体に力が入らないのか。
もがくばかりで避ける事が出来ない。
「や……やめろ」
一葉は搾り出すような声でそう言うと、腕を突っ張って上体を起こす。
蒼星石は必死の形相で立ち上がろうとしているが、
右の足で踏ん張ることが出来ず、再び倒れこんでしまった。




263 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:06:43.25 ID:E8P/mkr20
蒼星石は倒れたまま、一葉の方へ視線を向けた。
「御免なさい……マスター。僕は……貴方の言いつけを守れませんでした……」
手を伸ばしながら、諦めたように蒼星石は呟いた。
「諦めてはダメだ蒼星石……私を一人にしないでくれ」
「マスター……僕が只の人形になったとしたら……傍に置いてくださいますか?」
「……あぁ、いつかそうなったとしたら。私の傍に居て欲しい……
 だがそれは今じゃないっ。お願いだ、諦めないでくれっ」
「本当によかった……マスター、最後に……」
蒼星石は嬉しそうに笑っていった。
「お誕生日……おめでとうございます」
一葉は目を見開いた。
「プレゼントが……屋敷の僕の鞄の中に」
一葉は涙を流して蒼星石を見つめている。
そして理解した。
ここ数日蒼星石が家を空けることが多かったのは、自分のためであった事。
ここ何十年も、他人に祝ってもらっていなかった誕生日。
もはや自分でさえ忘れていたその誕生日の為に、蒼星石は準備をしてくれていたのだ。
なんて自分は小さな人間なのだろう、何故蒼星石を信じてやる事が出来なかったのだろう。
何故、相談する事が出来なかったのだろう。
この子も変わった……説得をすれば、説明をすれば、一人で水銀燈に挑む事も無かったかもしれないのに。




264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:15:28.67 ID:E8P/mkr20
「最後のお別れは終わったかしら?
 それじゃあ……さようなら、蒼星石」
水銀燈はそう言うと、力を溜めていた左の翼から無数の羽を蒼星石に向けて飛ばした。
その羽のどれもが炎を帯びている。
次の瞬間、一葉の頭に先ほどの言葉が木霊した。

『何故アストラルの世界であるこの空間で、貴方は自らの自由を縛っているのですか』

「やめろおぉぉ」
一葉はそう叫ぶと、歯を食いしばって足に力を入れる。
『自分が守ってやりたい』ただ純粋に、そう思った。
体が傷だらけなのも、足に先ほど傷を作ったことも気にならなかった。





「なっ……」
水銀燈は目を見開いて一葉を見下ろした。
気がつけば一葉は、無数の羽が届く前に蒼星石を抱きかかえて、その攻撃が届くべき場所から離れていた。
「マ、マスター……」
蒼星石も驚いた顔で一葉の顔を見上げる。
立ち上がりながら水銀燈を睨みつける一葉の左手では。
指輪が眩いほどの光を放っていた。




265 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:16:25.71 ID:osCskraZO
じじい進化




266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:23:01.20 ID:E8P/mkr20

「なんのつもりかしら人間、アリスゲームの邪魔をしようというの?
 それならば、私も容赦しないわよ」
「……これ以上、蒼星石を傷つける事は許さない」
「何ですって……?アリスゲームを侮辱すると言うのかしら。
 でもそれは私だけじゃないわ、蒼星石をも侮辱する事になるのよ」
「アリスゲームが君達の運命なのは知っている。
 闘うな……とは言えない、私は言える権利など持ってはいない」
「……何がいいたいのよ」
「私は誓ったのだよ『蒼星石のローザミスティカを守る』と」
「マスター……?」
蒼星石は一葉を見上げる、一葉の腕に包まれているせいだろうか。
なぜかとても安心できた。
「まだ闘うというのなら……私と蒼星石の二人で相手をしよう。
 もうこれ以上この子を傷つけさせはしない……私はこの子の、マスターなのだから」
一葉はまっすぐと、力強い目で水銀燈を見つめた。
ふら付く事も、恐怖に震えることも無い。
「……そう、つまらない。本当につまらないわ。
 なら二人とも……一緒に壊れなさいっ」
水銀燈は怒りの形相で羽を広げて、無数の羽を飛ばした。
その怒り任せの攻撃を、一葉は素早く横に駆けて回避した。
「マスターっ、僕はもう平気です。降ろしてくださいっ」
「蒼星石……本当にすまなかった。私は君を信じる事ができて居なかった様だ」
「……」
「なぜ、共に闘うと言うことが選べなかったのだろうか」
「マスター……」
抱かれていた蒼星石は、一葉の服をギュっと掴むと。顔を埋めて小さく呟いた。
「……ありがとう、ございます」
「今、なんて……」
一葉がそう聞き返した瞬間、蒼星石は強く一葉の胸を蹴って飛び出した。




267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:27:18.67 ID:E8P/mkr20

「うわっ」
飛び出した蒼星石と、尻餅をついた一葉の間に無数の羽が突き刺さった。
水銀燈は舌打ちを打つと、再び羽を広げて力を込め始める。
「マスター、そこで見ていてください」
「何を言ってるのだ、私も……」
「貴方が見てくれているだけで……応援してくれるだけで、僕は強くなれます」
「しかし……」
「僕を、信じてください」
蒼星石はそう言うと、水銀燈から目を離さずに微笑んだ。
「……あぁ、分かった」
一葉は頷くと、一歩後ろへと下がる。

不思議だ、際限なく力が湧いてくる。
今までが嘘のように、体が軽い。
これがマスターの力なのだろうか、真紅が言う、絆の力なのだろうか。
蒼星石は右足に目をやった。
感覚が鈍い……力が湧いてきているとはいえ、もう僕にはたたかう力は余り残されていないだろう。
「次が……最後の攻撃になる」
そう呟くと、蒼星石は鋏を持つ手に力を込める。




268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:31:56.66 ID:E8P/mkr20
「さあ、その痛んだ足で何処まで避けられるかしら。
 踊ってもらうわよ……そして貴女がジャンクになったら、次はその人間の番よっ」
そう言うと笑いながら、水銀燈は無数の羽根を飛ばしてきた。
そのどれもが燃えていて、今までよりもスピードも速い。
これを何時までもかわし続けるのは不可能だろう。
蒼星石は意を決したように、地面を蹴った。
姿勢を低くして、紙一重で羽を避けながら水銀燈との距離をぐんぐんと縮める。
「これでっ、最後だ!」
蒼星石は鋏を両手で持って、左へと大きく振りかぶる。
「無駄よっ、貴女の攻撃なんて当たらないわっ」
そう言うと水銀燈は後ろに飛びながら高度を上げた。
「うあぁぁぁ」
蒼星石は掛け声と共に、なんと鋏を水銀燈へ放り投げた。
巨大な鋏は、一直線に水銀燈へと肉薄していく。
「なっ……くそっ」
予想外の攻撃に戸惑うが、水銀燈はそれを素早く横へ飛んで避けた。
間一髪避ける事には成功したが、水銀燈は混乱した。
蒼星石には特別な能力は余り無い。
唯一にして最大の武器……それが鋏なのだ。
それを手放すとは……この攻撃に懸けたであろうか。
いや、事実避けられること位は予想がつくだろう。
いつも冷静な蒼星石がそんなミスをするはずが無い。
ならば一体どうして……
そう考えながら、水銀燈は遠ざかっていく鋏を見つめた。





269 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:34:10.52 ID:E8P/mkr20

その僅かな隙が、水銀燈の最初で最後の、隙であった。
「やぁぁぁぁ」
掛け声を耳にして、水銀燈は攻撃手段が無いはずの蒼星石へと視線を戻した。
水銀燈の視界には、右拳を握り締めて大きく振りかぶっている蒼星石の姿が見えた。
次の瞬間、頬に凄まじい衝撃を受けて。水銀燈は地面に叩き落される。
「きゃあっ」
頬の衝撃、地面に叩きつけられた衝撃で呼吸が数秒間出来なくなる。
「かはっ……」
悶絶している水銀燈に、蒼星石は馬乗りになると。
左手で水銀燈の首を押さえつけて、右手を鋏の飛んでいった方向へと手を伸ばした。
「レンピカっ!」
水銀燈をにらみつけたままそう叫ぶと、蒼い発光体が一際眩く輝いて右手の周りを素早く飛び回る。
すると、巨大な鋏が右手へと再召喚された。
「があっ」
水銀燈は首を押さえられた苦しさからか、両手で蒼星石の左腕を掴んで睨みつけた。
そして左の羽を動かそうとした瞬間。
蒼星石は大きく振り上げていた鋏を素早く振り下ろした。

バキッ

「きゃああああああああっっ」
水銀燈の断末魔がnのフィールドへと響き渡った。




271 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:39:14.69 ID:E8P/mkr20

蒼星石の巨大な鋏が、水銀燈の大きな左翼を叩き折っていた。
水銀燈は口をパクパクさせながら、目にはうっすら涙を浮かべている。
「勝負ありだ……水銀燈」
そう言うと蒼星石は再度鋏を大きく振り上げた。
水銀燈はその光景を、抵抗はせず、声も出さずに震えながら見上げていた。
蒼星石はそんな水銀燈を見下ろしていると、振り下ろすことなく動きを止めた。
数秒間その場で動きを静止していると、鋏を消して水銀燈の首から手を離した。
「蒼星石っ」
一葉が駆け寄ってくる、蒼星石はそちらの方向を見ると、水銀燈の上から体を離した。
「マスター……心配をおかけしました」
「大丈夫か……蒼星石」
「はいっ、マスターのおかげです」
「待ちなさいっ、蒼星石……」
水銀燈は激痛に顔を歪めながら、蒼星石を睨みつけた。
「私を壊しなさいっ……」
「……断る」
そんな水銀燈を睨み返すと、蒼星石は言い放った。
「何ですって……ふざけるなっ。
 アリスゲームを……私を侮辱するんじゃないわよっ」
「……」
「貴女は私を壊した……私の最後の武器を壊したのよっ。
 私を壊してローザミスティカを奪って行きなさいよっ」
「……僕はここで君を壊したら、後戻りできなくなってしまう」
「はぁ……?」
「君を壊してローザミスティカを手に入れたら……止まれなくなってしまう。
 他の姉妹とマスターの間を引き裂いてでも、ローザミスティカを手に入れなくてはならなくなってしまう」




272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:43:07.71 ID:E8P/mkr20

「……当たり前でしょ、それがアリスゲーム。私達の運命なのよ」
「……そうだとしても、それは今の時代ではやりたくない」
「何言ってるのよ、そんなことを言っていたら。何時までたっても終わらない……。
 お父様は苦しみ続けるのよ」
「真紅が……翠星石が、他の道を探して頑張っているんだ」
「……それを待てというの?」
「僕は待つつもりだよ、この時代だけは」
「……私は、どうすればいいのよ」
「アリスゲームをするつもりならば、傷を癒すといい。
 その翼ならば……運がよければまた使えるようになるはずだ」
「……本当に私を壊すつもりは無いみたいね、侮辱されたものだわ」
水銀燈は痛みで顔を引きつりながらも、恨むように蒼星石を見つめながら僅かに笑った。
「……僕にはその権利があるよ。君に勝ったのだから」
そう言うと、蒼星石は冷たく笑った。
「帰りましょう、マスター」
「……あぁ」
そう言うと、二人は横たわっている水銀燈に背を向けて歩き出した。
「覚えていなさい蒼星石、いつか必ず……私を生かした事を後悔させてあげるわ」
そう叫んでいる水銀燈の声を耳にしながら、一葉と蒼星石はその場を後にした。




273 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:46:05.36 ID:E8P/mkr20

暗闇に包まれた寝室、その寝室に置かれた一際大きな鏡が眩く輝いた。
その中から傷だらけの一葉と、蒼星石が飛び出してくる。
ドゴッと音を立てて、一葉は崩れ落ちた。
「マ、マスター大丈夫ですか」
「いたた……ははっ、こちらの世界では足は使えないのだったな」
「今、スペアの車椅子を……」
そういって蒼星石はベッドに駆け寄ると、端に備えられている予備の車椅子を引いてきた。
「ありがとう……蒼星石」
蒼星石の肩を借りながら、一葉は車椅子へと座った。
「マスター……日が昇ったら、病院へ行きましょう」
「あぁ……そうだな」
一葉は自分の体を見渡すと、あらゆるところに浅い切り傷が確認できる。
興奮状態から冷めたせいだろうか、急に痛みを感じ始めた。
「水銀燈……酷い事を」
「……いや、もし水銀燈が私を殺すつもりだとしたならば。私は生きては居なかった」
「えっ……」
「彼女も、人間を傷つけるのは本意では無かったようだ。
 その証拠に、私についている傷はどれも浅い……
 君に向けられていた攻撃とは比べ物にならないほど、手加減をされていたと言うことだ」
「でも、無防備なマスターに攻撃をするだなんて……」
「彼女にも、闘う理由があるということだよ」
「闘う理由……」
蒼星石は俯むきながら呟いた。




275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/06(月) 23:49:36.31 ID:osCskraZO
切なくなってきた




277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 00:00:38.99 ID:FGN4MuDB0

「蒼星石」
「……はい、何でしょうか」
「一言君に謝らせてくれ、本当にすまなかった……」
「マスター、もういいんです」
「あの嘘で、私は君を深く傷つけたはずだ……
 どのような理由があろうと、簡単に許される事ではない……」
「マスター……」
「これからも私と……もう長くないだろうが、一緒に居てくれないか」
「……また、誓ってくれませんか」
「ん?」
「僕と貴方の間で交わされた、最初の誓いを……」
蒼星石は真剣な顔で、一葉を見つめて言った。
「あぁ……私は誓おう、君のローザミスティカを護ると」
それに答えるよう、一葉もまた相手をまっすぐ見つめてそう答えた。
二人は目を合わせると、幸せそうに微笑んだ。
「……ありがとう、マスター。
 僕もマスターを護ります。ずっと、一緒に……。
 そうだ、マスターに渡したいものがあるんです」
「渡したいもの……」
「誕生日の、プレゼントです……
 少し待っててください、鞄の中に置いてきてしまって」
そう言って部屋を飛び出すと、鞄のある部屋へと駆けて行った。
部屋に入ると、未だにガラスの破片と羽で散らかっている部屋の中央に、自分の鞄が見える。
その鞄に駆け寄ると、中から綺麗に包装された紙包みを取り出した。
それを両手で大切に抱え込むと、踵を返して駆け出した。




279 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 00:03:57.04 ID:FGN4MuDB0

考えてみれば、蒼星石が人間にプレゼントを渡すという事は初めてであった。
不安と期待で胸が熱くなって行くのが分かる。
寝室に戻ると、窓際に移動して空を見上げていた一葉に駆け寄って紙包みを差し出した。
右足の痛みも、気にならないほどに緊張をしながら。
「マスター……お誕生日、おめでとうございます。
 ケーキも何も用意できていませんが……」
一葉はそれを、微笑みながら受け取った。
「ありがとう……早速あけても、いいかね」
「……はい」
それを聞くと、一葉は包装紙を破らぬように丁寧に剥がしていく。
やがて、美しいシルクの膝掛けが姿を現した。
「こ、これは……」
「……」
膝掛けの端には『結菱一葉』の文字が刺繍されている。
「これは、蒼星石が……」
「はい、ジュン君に教わりながら……」
それを聞くと、一葉は涙を流しながら俯いた。
「マ、マスター。お気に召しませんでしたかっ」
「いや……最高のプレゼントだ。ありがとう……ありがとう」
そう言って、一葉は蒼星石を抱きしめた。
強く、もう離さないと言っているかのように。
「マスター……」
蒼星石も同じように、一葉の背中に腕を回した。





280 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 00:07:35.49 ID:FGN4MuDB0
蒼星石は考えた。
安らぎ……アリスゲームという宿命を課せられた僕たちローゼンメイデンでも、
それを感じる事が出来る。
マスターや接する人々にだって与える事は出来る。
何故なら……僕たちには心がある、想う事だって出来るのだから。
翠星石達やジュン君、金糸雀とみつさん。
彼女達に負けないくらいの絆を、僕とマスターだって持っていたんだ。
簡単なことだったんだ、マスターだけじゃない。
僕だって、マスターに別れを告げられても。食い下がる事だって出来たのだから。
マスターが嘘をついていることは直ぐに分かった……
恐らく、アリスゲームが絡んでいる事も直ぐに気付けたんだ。
僕もまた、マスターから逃げてしまっていた。
信じることができて居なかったんだと思う。
これからはもっと我侭を言ってみよう。
まっすぐぶつかってみよう……
マスターと僕は、絆で結ばれているのだから。

……9秒前の白から帰って来ることが出来て、本当に良かった。
ごめんなさい、お父様。
僕はアリスゲームという宿命よりも、マスターとの今の時を……大切にしたいです。




282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 00:13:18.96 ID:FGN4MuDB0

パキッ

何かが砕けるような、そんな音が大きな部屋に響いた。
「何の音だ……」
その音に気がついた一葉は、蒼星石を離して辺りを見渡した。

メキッ

不安を煽るような、似たような音が部屋に響く。
「いたっ」
蒼星石は、自らの右目に違和感を感じて手で押さえた。
水銀燈に傷つけられた瞳が、痛んでいるのだろうか。
ふと、押さえつけた手のひらに、何かが生えているような、そんな感触が伝わってくる。

パキッ メキッ

「ぐあぁぁぁぁぁっ」
次の瞬間、信じられないような激痛が蒼星石の右目を突き抜けた。
蒼星石は足から崩れ落ちて、一葉にもたれかかる。
「如何したのだ、蒼星石。大丈夫かっ」
一葉は強く蒼星石の肩を掴み、顔を覗き込んだ。

メコッ ギギギギギギギ

「あああああああああああああああっ」
蒼星石が、身の毛のよだつような叫び声をあげた。
そして、まるで無理やり何かをこじ開ける様な……そんな音が部屋へと響き渡る。




283 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 00:20:15.83 ID:FGN4MuDB0

一葉は、自らの目を疑った。
白い茨……無数の白い茨が、蒼星石の右目から生えてきている。
「そ、蒼星石っ。蒼星石!」
蒼星石は、自らの身に何がおきているのか。理解できないで居た。
右目の違和感、突然の激痛。
その激痛に、目を押さえて叫ぶ事しか出来ない蒼星石が、辛うじて理解した事。
一葉が不安そうな顔でこちらをのぞき込んでいる。
そして……自らの目から出た『それ』が、一葉を貫き、捕らえようとしている事。
「蒼星石っ、一体何がっ……」
「うあああっ」
蒼星石は体に残った僅かな力を使って、一葉を突き飛ばした。
「うわっ」
一葉は車椅子ごと転倒して、蒼星石から引き剥がされた。
「蒼星石ッ」
「ぐるなっ」
蒼星石の苦しそうな声が、部屋に響き渡る。
「ぐああっ、来ないでください……ますたー。
 すいせいせきたちに……れんらく……をっ」
そう搾り出すように言うと、蒼星石は床に倒れこんでしまった。
その蒼星石の瞳に写っているのは、自らの体から出た茨が、自らを覆って絡み取っていく光景。
そして激痛に意識を失う直前に、透き通るような声を聞いた。

『うふふっ、やっと捕まえました……もう』

       『ニガサナイ』




284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 00:26:47.03 ID:FGN4MuDB0





あたり一面、漆黒の闇に包まれた世界。
そこに漂っていた蒼星石は、ふと気がついて瞳を開いた。
頭が痛い……体が上手く動かない。
頭を抑えようと手を掲げた時、蒼星石は違和感を覚えた。
「右目が……見えていない」
そう呟くと、蒼星石の脳裏に全ての出来事が蘇って来る。
「うっ……マスターっ!」
思い通りに動かない体にムチをうって、蒼星石は上体を起こす。
辺りを見渡すと、蒼星石は目を見開いた。
自らの横、直ぐの場所で一葉は眠っている。
「マスター、起きてくださいっ」
蒼星石は一葉を揺すって起こそうとする。
だがしかし、一葉は一向に目を覚ます気配が無い。
呼吸はある、死んでいるわけでは無さそうだ。

「無駄です、蒼薔薇のお姉さま」

蒼星石の真後ろ、近い距離から突然声が響いた。
「レンピカッ!」
その声に驚いた蒼星石は、自らの人工精霊の名前を呼ぶと声のした方向を睨みつけた。
先ほど辺りを見渡したとき、誰も居なかったはずのその場所には、
淡いピンクのドレスに身を包み、右目のアイホールからは白い薔薇が生えている人間……いや、ドールが無表情で立っていた。
そして、蒼星石は直ぐに違和感に気付いた……何時も自分の側に居るはずの人工精霊、レンピカが居ない。




285 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 00:29:12.59 ID:er9af5D3O
まさかのきらきー・・
あと1レスで終わると思った俺は浅はかだった・・・




286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 00:30:08.42 ID:FGN4MuDB0

「レンピカ!」
再度叫ぶが、やはり蒼い発光体の姿は見えない。
「おはようございます、蒼薔薇のお姉さま。
 久しく操る、体の調子は如何ですか?」
蒼星石の混乱には触れず、ニタッと笑いながらそのドールは言い放った。
「久しく操る……君は何を言っているんだ」
蒼星石は動揺を隠そうと、必死に相手を睨みながら答えた。
「……夢の庭師と言われたお姉さま。
 けれど、夢と現の区別もつかないのですか」
「夢と現……」
そう呟いた瞬間、蒼星石は目を見開いて相手を睨んだ。
「ま、まさかっ……」
「そうです、蒼薔薇のお姉さま。
 お姉さまはアリスゲームの舞台から降りているのです。
 黒薔薇のお姉さまにローザミスティカを奪われて……9秒前の白を漂っていたのです」
顔で笑みを作りながら、ドールは言った。
蒼星石は徐々に蘇って来る記憶をたどっていく……。
そして理解した、9秒前の白から帰ってくる経緯……
どのようにして帰ったか、最初に会ったのは誰なのか。
あいまいな記憶でしか残っていない、正確な記憶は思い出すことすら出来ない。
自分の胸に手を当てると、ローザミスティカが無いことに気付いた。




288 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 00:33:19.97 ID:FGN4MuDB0

「君は……一体」
「私は薔薇乙女……第七ドール」
「第七……」
「あなたの末の妹、雪華綺晶」
「雪華綺晶……」
蒼星石は黙って俯くと、一葉へと視線を移した。
「マスターに何をした……何故、どうやって僕をこの体に戻したんだ」
「あぁ、『ソレ』ですか」
まるで物でも見るかのように、雪華綺晶は一葉を見て言った。
「なっ」
「貴女のマスターには少し協力をして頂きました……。
 9秒前の白を漂っている貴女を呼び寄せて、体に戻すために……」
「……だったらあんな夢を見せる必要は」
「けれど、貴女は体に戻る事を拒絶しました」
「えっ……」
「貴女は許せなかったのでしょう……アリスゲームの舞台を降りた自分が。
 再びこの世界に戻ってくる事を……」
「……」
「だから、夢を見ていただきました、貴女のマスターとの偽りの夢を。
 偽りの記憶をつくり、貴女の思考も縛って……。
 そして貴女の考え方は変わった、9秒前の白から戻る事を抵抗しないように。
 ……貴女は、アリスゲームよりもマスターとの生活を選んだのです……」
「けれど、ローザミスティカが無ければ僕は動けないはずだ」
「ふふっ、貴女が体に入ってさえくれれば、私が『お姉さま』を体に縛り付ける事が出来ます」
「縛り付ける……」
蒼星石はそう呟くと、ふと右の瞳に手をかぶせた。




290 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 00:39:01.74 ID:FGN4MuDB0

「お姉さまのマスターは……今も夢を見ています、蒼薔薇のお姉さまと同じ夢を。
 貴女の見ていた、夢の続きを」
「ならば、もうマスターは関係無いはずだ」
「関係ない……いえ、ありますわ。お姉さま。
 私が……アリスになる為に」
「……どういう意味だ」
「ふふっ……そしてお姉さまを起こしたのは、
 アリスゲームという舞台の上で、私と一緒に踊ってもらうため」
その言葉を聞いた蒼星石は、眼光を鋭くして相手を睨みつける。
「僕が君に……協力をすると思うのかい」
「ダメなのですか……」
「言うまでも無い、マスターを助けて。
 僕はまた眠りにつかせて貰う」
そう言って、蒼星石は身構えた。
そんな蒼星石を見ながらも、未だに雪華綺晶は笑っている。
「お姉さま、私と一緒に来ていただけないのなら。
 この先に関係が無いのは、お姉さまです」
そういって雪華綺晶は右手を蒼星石の方へ掲げた。




291 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 00:41:32.16 ID:FGN4MuDB0

次の瞬間、蒼星石の右目に激痛が走る。
「ぐぁっ……」
堪らず蒼星石は、膝を突いて右目を抑えた。
再び蒼星石の右目からは、白い茨が生えてきている。
「うああっ」
「可哀想なお姉さま……痛いのですか……。
 やがてその瞳が砕けて。貴女は物言わぬ人形へと戻るでしょう……」
雪華綺晶は蒼星石の元へ歩いてきて、顔を覗き込むと。
優しく顔を撫でながらそう言った。
「お姉さま……私と一緒に、もう一度、アリスゲームの舞台へ……」
そう言って禍々しく笑っている雪華綺晶を見つめて、蒼星石は考えた。
自分が壊れるのも、物言わぬ人形になるのも構わない……。
けれど、マスターは……マスターだけは何とか助けなければいけない。
アリスゲームへ巻き込んでしまったのは紛れも無い、自分自身なのだから……



━━━━━━━━━━





296 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 01:01:59.90 ID:FGN4MuDB0

「くっ、もっと強く瞬いてっ……スィドリーム。
 霧がどんどん濃くなる……」
白い霧が立ち込めるnのフィールド。
翠星石は、緑色の発光体を必死に追うように進んでいる。
そんな翠星石の耳に、かすかな物音が聞こえた。
「波の音……無意識の海の近く……?」
そう呟いた翠星石は、必死にスィドリームを追いかける。
「待って……ス……ィ……」
自らの人工精霊を見失いそうになった翠星石は、腕を伸ばして言った。
「これじゃあまるで……ミルクの中を泳いでいるみたい……」
そう言った翠星石の前方から、突然声が聞こえる。
「ミルク……ミルクをかき混ぜて、クリームの出来上がり……」
突然の声に驚いた翠星石は、立ち止まって眼を細めた。
「誰……?誰ですっ……?」
「泳げば泳ぐほど、それは重く……手足に纏わりついて」
徐々に霧が晴れていく。
「クリームに溺れて見る夢は……」
「この声……まさか……」
「きっととても、甘いのだろうね……」
霧が晴れて、前方の視界が開けた翠星石は、目を見開いて叫んだ。
「蒼星石……!!」
翠星石の視線の先には、鋏を持って、金色の右の瞳で翠星石を見つめる。
蒼星石の姿があった……





298 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 01:05:28.09 ID:FGN4MuDB0

翠星石……ごめんね。
許してもらえるとは思っていない、分かって貰えるとも思ってはいない。
僕は、また君に鋏を向ける事になってしまった……
けれど、僕はマスターを助けたい。
僕がマスターをアリスゲームに巻き込んでしまった……、
『ローゼンメイデンに関わった人間は、不幸が襲い掛かる』
その不幸の連鎖を、ここで断ち切りたいんだ。

……僕とマスターが見たあの夢は、偽りだったのかもしれない。
けれど、僕があの夢で思ったこと、マスターと話した事は本物だ、偽りだなんて言わせない。
マスターとずっと一緒にいたい……もうその望みは叶わないけれど。
雪華綺晶の隙をついて、マスターを助け出す。
その望みが叶うまでは、僕は何を犠牲にしてでも生き残らなければいけない……
だから……ごめんね、翠星石
僕は再び、君と戦わなければならないんだ……



    アリスゲームという運命を、断ち切る為に━━


      
     蒼星石が誕生日をお祝いしたお話 終わり





299 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 01:09:06.23 ID:er9af5D3O
終わっただと・・・?




300 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 01:13:28.86 ID:FGN4MuDB0
終わりました……
保守してくださった方、支援してくださった方、アドバイスをくれた方。
本当にありがとうございます!

さるさんが強敵でしたが、何とか全て投下することが出来ました。
今回の作品は……前作よりも色々学ぶことが多かったとなぁと思います。
最後の説明が、ちゃんと伝わっているか不安だな……

今回のお話は蒼星石、一葉が見た夢のお話です。
だから……蒼星石、一葉以外の視点の描写は極力書かないようにしました。
感想、注意、アドバイス等があったらいただけると作者は喜びます!




302 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 01:18:20.15 ID:Vx+y2l8RO
丁寧で無理の無い描写がいいな
蒼星石らしい話だったし面白かったよ

お疲れ様




305 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 01:48:02.04 ID:ykMWAw03O
>>300
原作に繋げるとは…
素晴らしいです




313 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/10/07(火) 06:05:25.59 ID:we0J6U63O
お疲れ―
最後のどんでん返しに良い意味でびっくりしたんだぜ







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コメント
この記事へのコメント
  1. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 09:31: :edit
    あわないけど おめでとう
  2. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 10:05: :edit
    ぽっぽぽぽー
  3. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 10:16: :edit
    正直なにが面白いのか分からない

    無駄に長いし
  4. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 10:18: :edit
    ホームレスじゃない銀様もいいものだ

    蒼い子……
  5. 名前: VIPPERな名無しさん #-: 2008/10/13(月) 10:56: :edit
    蒼星石と聞いて変態スレを期待したのは俺だけじゃないハズ
  6. 名前: 名無し #-: 2008/10/13(月) 10:57: :edit
    銀様かわいそう・・結局だれにも理解されないんだよな
  7. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 11:05: :edit
    米3
    だから好みは人それぞれだと何回言えば・・・

    面白かった
    全く結末が予想できなかった

  8. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 11:12: :edit
    ※7
    俺は自分が思ったことを書いただけ

    好みは人それぞれなんだから面白くなかったって人もいていいだろ
  9. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 11:28: :edit
    半分までリアルタイムで追ってたけどハッピーエンドになるのかと思ってた。
    蒼星石好きな自分涙目
  10. 名前: 通常のナナシ #RSx9Hk0E: 2008/10/13(月) 11:32: :edit
    これを読むのはゆとりには少し厳しいかもね
    地文無しの変態SSが来るまで待ちな
  11. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 11:50: :edit
    ※10

    きっもwww
  12. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 11:58: :edit
    米10
    きめえwwwwwwww
  13. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 12:04: :edit
    ※8
    ならそれをここに書き込まず黙ってブラウザ閉じてろ
  14. 名前: VIPPERな名無しさん #-: 2008/10/13(月) 12:06: :edit
    おまいらもちつけWWWWW
  15. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 12:40: :edit
    ゆとりに反応しすぎだろう
  16. 名前: VIPPERな名無しさん #-: 2008/10/13(月) 12:55: :edit
    米10の人気に嫉妬しそうです><
  17. 名前: 通常のナナシ #wLMIWoss: 2008/10/13(月) 13:32: :edit
    まて、米10を叩いてるのはゆとりのみじゃないのか?
  18. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 13:42: :edit
    ※13
    何故それを書き込んではいけないんだ?
    それも感想のうちの一つだろ
    ここでは批判的意見は書き込んだらダメなのか?

    言っとくが俺は※8じゃないしこの作品も面白かったと思ってる
  19. 名前: 名無し #-: 2008/10/13(月) 13:57: :edit
    中には先にコメント見てから本文読むやつもいるんだ
    肯定的なコメントはもちろん、批判的なコメントもあったほうが見てておもしろい

    何より面白いのは批判コメにいちいち反応するやつがいること
  20. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 14:06: :edit
    文はいいとして
    もっと見やすくしてくれてもいいんじゃあないか

    字が密集してて目がいたい

  21. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 14:22: :edit
    楽しめない奴可哀想

    原作につなげたのはびっくりしたな、しかし
  22. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 14:25: :edit
    ゆとりを叩くと人気者になれるんだな
  23. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 14:27: :edit
    米欄が荒れてるのはどうでもいいとして、面白かった。
    この作者好きだな。
  24. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 14:29: :edit
    批判が荒らし呼ばわりされるこんな世の中じゃ
  25. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 15:04: :edit
    話はとても面白かった
    けど米欄で萎えた
  26. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 15:39: :edit
    自分米7なんだけど
    米3の「無駄に長い」ってところに米したんだ
    荒れる原因になってすまん

    ちなみに米13は俺じゃない


  27. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 15:42: :edit
    許さない
  28. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 15:45: :edit
    今日誕生日な俺は蒼星石が俺を祝ってくれるのかと一瞬思た
  29. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 15:51: :edit
    ※28
    奇遇だな、オレも今日誕生日だよ
  30. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 16:49: :edit
    纏めとかやっぱうまいなー
    楽しかった
  31. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 17:53: :edit
    みんながケンカしないように早く変態ssを載せるんだ
  32. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 17:59: :edit
    俺、人のオナニー見るの好きなんだ
  33. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 18:02: :edit
    俺ゆとりだけどなかなか良かった。
    ちょっと涙目…
  34. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 18:22: :edit
    ※28、29
    おめでとう
  35. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 18:24: :edit
    普通に泣いたんだけど・・・
    批判はいいが言い方ってもんを考えないからゆとりって言われるんだよ
    「つまんない」
    「なにが面白いの」
    じゃなく
    ここが面白くなかったとかあるじゃん

    何の参考にもならない批判はやめとけ
  36. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 18:36: :edit
    確かにねー
  37. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 18:40: :edit
    さて、良作が来てしまったな、しかもローゼンの・・・。

    さぁスカトローゼン始まるよっ。
  38. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 18:55: :edit
    幸せな蒼が見れてよかった


    ............あれ?
  39. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 19:18: :edit
    ※35
    そこまで言うならどこが面白かったかも書けよw
  40. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 19:28: :edit
    確かにー
  41. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 19:55: :edit
    米35
    言いだしっぺの法則
  42. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 20:32: :edit
    何か荒れてるな
    そんな時は次に来るスカトローゼンを待つのが一番だな
  43. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 20:32: :edit
    何この小学生のノリ
  44. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 21:17: :edit
    次は確実にぶっ飛んだ変態系が来る
  45. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 21:48: :edit
    他の米にいちいち反応し過ぎなんだよ
    ここは、この作品についてコメントする場だろ??
    いつからコメントにコメントする場になったんだよ


    オマエモナーって言われそうだが
  46. 名前: VIPPERな名無しさん #-: 2008/10/13(月) 22:57: :edit
    それがゆとりです
  47. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/13(月) 23:32: :edit
    ※28、29
    おめでとう

    素直におもしろかったと思う
    原作は全く知らんが
    1つ1つのシーンがイメージ出来たぜ
  48. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/14(火) 00:47: :edit
    蒼い子の心の動きが良く書けてると思う。
    真紅派なのに目から汁が…。
    ローゼンの小説版より良かったよ。
    こんなものがロハで読めるなんて良い時代になったよなぁ…。
  49. 名前: 蒸発した名無し #-: 2008/10/14(火) 09:35: :edit
    ハッピーエンドを期待してたんだけどなぁ
  50. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/14(火) 14:02: :edit
    米48はさすがにキモいわ・・・
  51. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/14(火) 14:31: :edit
    綺麗にまとまったと思ったら夢オチか・・・
    素早く駆けるスーパーおじじにちょっと感動したのに
  52. 名前:   #-: 2008/10/14(火) 16:01: :edit
    きらきー怖い
  53. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/14(火) 21:28: :edit
    じじい進化シーンをデジモンのbrave heart聴きながら読むと鳥肌もの
  54. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/15(水) 10:19: :edit
    米欄荒れすぎワロタwww
    めくそ鼻くそだな
  55. 名前: 通常のナナシ #mQop/nM.: 2008/10/16(木) 17:23: :edit
    ※28、29おめでとう

    おもしろかったな。
     最初はほのぼのハッピーエンドかと思ったけど、まさかラストきらきーとは…意外だったわ。
     まとめるのうまかったと思うよ。

  56. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/10/18(土) 20:56: :edit
    ハッピーエンドで良かったのに…
  57. 名前: 通常のナナシ #-: 2008/12/08(月) 01:47: :edit
    感動してたのにじじい進化で吹いたwwww
  58. 名前: VIPPERな名無しさん #-: 2008/12/10(水) 23:33: :edit
    うおう・・・ハッピーエンドかと思ったら・・・

    でもクオリティ高いね。すごい
  59. 名前: 通常のナナシ #-: 2009/01/11(日) 00:44: :edit
    佳境に入ってから一切>>1以外のレス載ってないのに
    なんで「ジジイ進化」だけ載せてんだよw
  60. 名前: 通常のナナシ #-: 2009/04/26(日) 01:52: :edit
    うぎゃがあaああああああああああああやめろおおおおああyaidytitiwtぢおqw
    ふざけんなふざなけんsじゃなあいいうっきぢsぎさあああああああああああ
    蒼星石が大変なら俺が助ければいいじゃないかそれで解決じゃないか違うか違わないだろもんsぎゃ嗚呼らああああああすうううううううううううう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
  61. 名前: 通常のナナシ #-: 2009/05/24(日) 02:19: :edit
    ここから「ずぅっと、一緒ですよッ」につながるってことか
    姉妹にはずっと幸せでいてもらいたいもんだな、特にこの双子には
    作者乙
  62. 名前: 通常のナナシ #-: 2009/06/13(土) 23:04: :edit
    泣いてたのに>>265で吹いてしまった自分は殴り倒したい
    蒼い子には幸せになってほしいなだがなぁ……
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俺の妹がこんなに可愛いわけがない 黒猫 白猫Ver.
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