2010/10/17(日)
353 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:09:34.33 ID:ygle3h.o
その2です。
その2です。
353 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:09:34.33 ID:ygle3h.o
………………同日 夕方
シスター 「今日はありがとね、男」
男 「ううん。僕も楽しかったし」 ニコッ 「やっぱり姉さんはすごいなって、再確認できたから」
シスター 「あ……」 カァァ 「もっ、もうっ、男ったら……」
男 「へへ、ごめん。……でも、本心だから」
シスター 「ん……」 ニコッ 「ありがと」
男 「………………」
シスター 「………………」
男 「……それじゃ、僕、一度寮に帰るね」 スッ 「すぐに迎えに来るから」
シスター 「……ん」 モジモジ 「……あ、あのね、男」
男 「? どうしたの?」
シスター 「やっぱり……白井さんたちとはすぐに仲直りした方がいいと思うの」
男 「………………」 フルフル 「……またすぐに会ったら、きっと僕はもっと白井さんを傷つけてしまうから」
シスター 「男……」
男 「それに、今はやっぱり、風紀委員のみんなと白井さんを許せそうにないから……」
男 「………………」 フッ 「……僕のことはいいよ。今日は楽しもうね。じゃ、またっ!」 ダッ
シスター 「あっ……!」 ノシ 「車に気をつけるのよーーーー!」
354 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:19:50.91 ID:ygle3h.o
………………寮前
男 「ふぅ……」 トトト…… 「……本当は、白井さんと行くはずだったんだけどな」
男 「!」 ハッ 「ぼ、僕は何を考えてるんだよっ。姉さんと行くのも楽しみじゃないか」
男 「………………」 (僕は……)
―――――― 『……僕は……白井さんのことが、好きです』
―――――― 『わたくしも、貴方のことが大好きですから』
男 「僕、は……」
―――――― 『もちろん。一緒に……歌ってくれますか?』
―――――― 『もちろんですの。……男さんの幸せを運ぶ手伝いができるのなら、わたくしも嬉しいですから』
男 「僕が、守りたかったもの、は……」
―――――― 『……白井さん……ありがとう。僕の大好きなひと』
―――――― 『……どういたしまして、ですの。わたくしの最愛の方』
男 「……それでも……僕は……」
?? 「――安心しました」
男 「ッ……!?」 バッ 「誰!?」
355 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:22:30.49 ID:ygle3h.o
?? 「誰、って、声で気づいてはくれないんですね。少しショックです」
男 「佐天、さん……?」 ギリッ 「ネム、ディズ……!?」
佐天 「どうも、ご無沙汰です」 ペコリ 「……私が何のためにここに来たか分かります?」
男 「……てっきり、来るのは御坂さんあたりだと思ってましたけどね」 プイッ 「安心したというのは何です?」
佐天 「……御坂さんは……」 フルフル 「……ダメです。今は連絡が取れませんから」
佐天 「……だったら、親友のピンチを救えるのはこの佐天涙子しかいませんから」
男 「ピンチ?」 ハッ 「女の子同士は随分と結束が強いようですね。意味が分かりませんけど」
佐天 「そんな態度を取る時点で、理由なんて分かり切ってるもんだと思うけど」
佐天 「当事者よりは冷静に話をするつもりですよ? 私は」
佐天 「……まぁ、少なくとも、悩んではいてくれているようなので安心しました、という意味です」
ネム 「……涙子から全部聞いたわよ」
ディズ 「あんたねぇ……!」
男 「………………」 フッ 「……はは、まさかお前たちまで僕を信じてくれないとはな」
ディズ 「嘘をついて誤魔化して、そうやって白井を傷つけたあんたの何を信じればいいのよ!?」 ガーッ!!
男 「っ……」 ギリッ 「白井さんたちだって……僕に内緒で勝手なことをしただろう!?」
356 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:25:08.78 ID:ygle3h.o
ネム 「風紀委員として当然のことをしたまでだと思うけど?」
佐天 「……それに、白井さんはできるだけ男さんに傷ついてほしくなくて……」
佐天 「だから男さんに何も言わずに調査をしたんじゃないんですか?」
男 「っ……!」 グッ…… 「そ、そんなのっ……僕だってそうだッ!」
佐天 「………………」 フゥ 「……結局、お互いのことを思いやってやったことなんですよ」
佐天 「けど、それがすれ違って、結局お互いを傷つけあってしまっただけのことです」
佐天 「だったらまだ、修復は可能でしょう? 今から、みんなに謝りに行きましょう」
男 「………………」
佐天 「……ねぇ、男さん。私、実はかなり友達想いな人間なんですよ。だから――」
ググッッ……
佐天 「――これ以上私の友達を傷つけるつもりなら、私は殴ってでもあなたの正気を取り戻させる」
男 「………………」 ギリッ 「……――みろ、」
佐天 「……?」
男 「殴りたいのなら……罵りたいのなら……勝手にしてください。けれど僕はそれを受けはしない」
男 「全ていなし、かわし、受け流します。それでもいいのなら、ご随意に」
357 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:26:12.06 ID:ygle3h.o
佐天 「っ……」
男 「僕を悪者にしたいのなら……勝手にしろって言ってるんですよッ!」
佐天 「きゃっ……」 ペタン
ネム 「涙子!」 ニャッ 「大丈夫……?」 スリスリ
ディズ 「ちょっと男! あんたそれでも風紀委員!?」
男 「僕はもう風紀委員じゃないよ。腕章も捨てた」
ザッ
男 「……驚かせてごめんなさい、佐天さん」
佐天 「……何、で……?」 ヒグッ 「……何で? 何で、こんなことになっちゃうんですか?」
男 「………………」
――――……ポロッ……ポタッ……ポタッポタッ……
佐天 「何で……?」 エグッ 「男さん……あなたは、ヒーローなのに……っ」
男 「………………」 ギリッ 「……僕はヒーローなんかじゃないです」
男 「助けてほしいのは、僕だ……。助けてよ、御坂さん。助けてよ、上条くん……」
佐天 「……っ」 キッ 「……ヒーローのくせに……ヒーローに頼るんですね……!」
358 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:27:26.51 ID:ygle3h.o
佐天 「男さんは……誰も彼もを幸せにしたかったんじゃないんですか……?」
佐天 「幸せな唄を、全ての人に聴かせたいって……」
佐天 「自分の能力で世界を幸せにしたいって……そう思ってたんじゃないんですか……?」
男 「……そうだよ。僕は、ずっとそう思ってた……」
佐天 「だったら……」 ギリッ 「……だったら恋人くらいは! 仲間くらいは! 友達くらいは! 幸せにしてくださいよ!」
――ダッ……
ネム 「あっ……涙子っ……!」 タッ
ディズ 「………………」 クルッ 「……よく頭を冷やしなさい、バカ男!」 バサッ
男 「………………」 ハハ…… 「僕は……」
男 「……早く、お祭りに、行かなくちゃ」 フラフラ…… 「姉さんが、待ってる……」
359 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:33:15.42 ID:ygle3h.o
………………祭り会場
男 「………………」
シスター 「わぁぁぁああああ~~~……」 パァア
シスター 「すごいすごいすごいわっ! これが日本のお祭りなのねっ」 ニコッ
男 「あ、ああ……うん、そうだよ」
シスター 「? どうしたの、上の空で?」 ギュッ
男 「あ……ううん。何でもないよ」 ギュッ
男 「……何か食べたい物とかある?」 スッ 「今日は僕が奢るよ」
シスター 「えっ? そ、そんなのダメだよっ。お姉ちゃんが――」
男 「いつもお世話になってるお礼だよ」 ジッ 「……ダメ?」
シスター 「うぅ……その上目遣いは反則だよ」 ポッ 「ええっとね……じゃあ、男のオススメが食べたいな」
男 「オススメ……秋祭りだからさすがにかき氷はないし……」
男 「あ、そうだ」 ニヤッ 「姉さんにきっと似合う食べ物があったよ」
シスター 「似合う? 美味しいとかじゃなくて?」
男 「美味しいことは美味しいよ。大部分が空気だけどね」
トトト……
男 「すみません、綿飴ひとつください」
360 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:34:38.32 ID:ygle3h.o
………………
シスター 「………………」 チマチマモクモク 「……はむはむ」
男 「うん。予想通り可愛いというか可愛らしいというか姉さん本当に18歳?」
シスター 「はむっ……!」 ピョンピョン!! 「失礼だよ男! わたしはれっきとした18歳のレディだよっ」
男 「若いなぁっていう褒め言葉だよ?」
シスター 「えっ……///」 ニヘラ 「そ、そうなの? もう、男は仕方がないんだから」
男 (単純すぎる……)
シスター 「……とはいえ、わたしはもっとすごい若作りを知ってるけどね」
男 「? 若作り?」
シスター 「うん。その鹿角の指輪を贈ってくれたわたしの上司」
シスター 「もういい歳なのに、いまだに “少女” なんて名乗ってるんだから」
男 「それは何というか……イタそうな感じの方だね」
シスター 「はは……わたしの後輩の女の子にセクハラまがいの嫌がらせしてるみたいだしね……」
シスター 「……でも、とってもいい人なんだよ。いつもわたしのことを気にかけてくれてるし」
シスター 「今もきっと、本国でわたしのことを心配してくれているだろうから……」
361 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:35:41.35 ID:ygle3h.o
男 「………………」 フッ 「……本当にいい人なんだね、その上司さん」
シスター 「うん。頼れるわたしたちのリーダーだよ」 ハムハム
シスター 「……うぅ、お腹に溜まらないよう」 グー 「あぅ……///」
男 「はは、姉さんは本当に子どもだなぁ」 クスッ
シスター 「あぅぅ……お姉ちゃんを笑うなぁ……!」
男 「冗談だよ。それじゃ、綿飴を食べ終わったら、何かお腹に溜まる物でも食べようか」
シスター 「はむっ!」 コクッ
男 (なにこの姉メチャクチャかわいい)
シスター 「あ、そうだっ」 スッ 「はい、男もお食べ。……あーん」
男 「わっ……さ、さすがにそれは恥ずかしいというか……」
シスター 「………………」 ウルッ
男 「――あーん!」 ハムッ
シスター 「ふふ……美味しい?」
男 「うん……」 ハムハム 「久々に食べたけど、本当に砂糖と空気だよね、綿飴って」
?? 「――あっ……!?」
男 「ん……?」 クルッ
362 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:57:05.92 ID:ygle3h.o
男 「ッ……!?」
?? 「男、さん……?」
男 「白井、さん……」
初春 「ほぇ? 白井さんどうしたんですか……って、男さん!?」
佐天 「………………」 ジトッ
固法 「………………」 ジッ 「……なるほど、ね」
男 「っ……皆さんもいらしてたんですね……」 バッ
シスター 「? どうかしたの、男?」
男 「……姉さんはいいの。僕の後ろにいて」
白井 「………………」 ズキッ 「……っ」
白井 「………………」
男 「………………」
プイッ
男 「……姉さん、行こう」 ツ……
シスター 「あっ……お、男?」 トト…… 「すみません、皆さん。また今度」 ペコリ
白井 「あっ……」 スッ ―― ピタッ 「………………」
白井 「………………」 (ダメ、ですの。きっと今は、伸ばした手は、届かない……)
白井 (………………) ズキッ 「……男さん……」
363 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:58:44.81 ID:ygle3h.o
………………
シスター 「ふぁー、食べた食べた……お腹いっぱいだわ」
男 「……うん」 ニコッ 「どう? 日本のお祭りは楽しい?」
シスター 「ええ、とっても」 ニコッ 「ねえ、ちょっと疲れちゃった。休まない?」
男 「そうだね。ずっと歩き通しだったし」
シスター 「……こっちがいいわ。行きましょう」 ギュッ……グイッ
男 「? う、うん……」 (姉さん、人混みがあんまり得意じゃないのかな?)
シスター 「………………」 トトト…… 「……ねぇ、男、」
男 「うん?」
シスター 「男は、わたしの味方よね?」
男 「えっ? そんなの当たり前でしょ?」
シスター 「何があっても、わたしを守ってくれるわよね?」
男 「………………」 ギュッ 「……もちろん。僕が姉さんを絶対に守るよ」
シスター 「ん」 ギュッ 「……ありがと」
男 「うん……」 (……? 姉さん、どうしたんだろ?)
364 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:59:39.03 ID:ygle3h.o
………………雑木林
シスター 「………………」
男 (……姉さん、どうしたんだろ?) 「……姉さん、気分でも悪い? 大丈夫?)
シスター 「……ええ」 ニコッ 「ごめんなさい。大丈夫よ」
シスター 「たくさん人がいて……少し酔ってしまったみたい」
男 「そっか……」 ギュッ 「大丈夫だよ。僕が、ついてるから」
シスター 「うん……ありがと、男」
男 「………………」
シスター 「………………」
リンリン……ジージー……
シスター 「……虫の声……綺麗ね」
男 「あ、うん。日本にいるとあまり気にならなくなるけど、やっぱり綺麗だと思うよ」
シスター 「そう……。わたしの住んでいた場所は、虫が住めるような暖かい場所じゃなかったから」
男 「そうなんだ」
シスター 「ええ。だからうらやましいわ。もう十月だというのに、こんなに暖かいこの国の気候が」 ギュッ
365 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:00:32.74 ID:ygle3h.o
男 「………………」 (そうだよ……)
――ギュッ
男 (姉さんだって、ただひとりこの学園都市に残されて不安なんだ……)
男 (あんな風に毅然と聖書を読み上げて、シスター然としているけど、心の中は不安でいっぱいなんだ)
男 「……姉さん」
シスター 「うん?」
男 「姉さんの故郷のお話、聞かせてほしいな」
シスター 「え……?」
男 「教えてよ。姉さんの故郷……ロシアのことを」 ニコッ
シスター 「………………」 フッ 「……あなたは本当に優しい子ね」 ナデナデ
男 「あっ……」 カァア 「こっ、子ども扱いしないでよ……」
シスター 「ふふ。冗談よ」 スッ 「そうね……じゃあ、まず何からお話しようかしら」
…………
……………………
366 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:01:43.82 ID:ygle3h.o
………………
シスター 「……はふぅ」 フゥ 「たくさんお話して疲れちゃったわ」
男 「へへ……色々と教えてくれてありがとう」
シスター 「ううん。こちらこそ、聞いてくれてありがとう」
男 「……とりあえず話を聞いた限り、」
男 「姉さんの職場の “サーちゃん” っていう人は、上司さんを殺しにかかってもいいと思う」
シスター 「あなた、可愛い顔して言うことは本当にえげつないわよね……」
シスター 「まぁそもそも、刺そうがバールでぶん殴ろうが、あの人は何のダメージも受けないんだけどね」
男 「本当に何者なんだその上司は……」
男 「っていうか姉さんも変なコスプレ衣装を送ってあげるのやめなよ」
シスター 「……まぁ、サーちゃんも満更じゃなさそうだし?」
男 「満更じゃなかったらバールでぶん殴ったりしないと思うんだけどなぁ」
シスター 「ふふ……」
――チッ……チッ……カチッ!! ……
シスター 「っ……」 ギリッ 「……もう、こんな時間になってしまったのね……」
367 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:06:32.35 ID:ygle3h.o
男 「? 時間って、どうかしたの?」
シスター 「………………」
男 「姉さん?」
シスター 「………………」 スッ 「……ねぇ、男」
男 「……? なぁに?」
シスター 「……知ってるかしら? このお祭り、主賓として貝積継敏が招かれているの」
男 「へぁ……?」 キョトン 「貝積継敏って……あの統括理事の?」
シスター 「ええ」
男 「と、唐突な話題だね。それがどうしたの?」
シスター 「貝積継敏は優秀な学者でありながら、利権や利益を求める統括理事会の中では比較的善人に当たると言われているわ」
シスター 「このお祭りも元々は彼が主催しているチャリティー企画の派生だしね。だから主賓なのだけど」
男 「え……えーと、それがどうしたの?」
シスター 「彼は親船最中とは違う。彼女のように苛烈に善を行き、結果として自らの身を縮めてしまうような愚は犯さない」
シスター 「それでも小さい善の根を張り、その影響力を段々と世界へと広げている」
シスター 「……もちろん軍事を司るどこかのパワードスーツ男に比べれば、それはあまりにも小さなものなのだけど」
男 「だ、だから、その貝積継敏氏がどうし――」
シスター 「――だからこそ、わたしは貝積継敏を殺さなければならないの」
368 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:08:20.58 ID:ygle3h.o
男 「は――?」
シスター 「………………」
男 「ご、ごめん、姉さん……今、何て言ったの?」
シスター 「………………」
男 「ね、姉さん! ちょっとよく聞こえなかったから、もう一度言ってよ」
シスター 「聞こえたままのことよ。学園都市統括理事のひとり、貝積継敏を殺さなければならない」
シスター 「……わたしはそう言ったの」
男 「はは……それは、何の冗談?」
シスター 「ふふ……冗談に聞こえたのならそうなのかもしれないわね?
男 「………………」 ギリッ 「……それは、テロってこと?」
シスター 「ええ。ある勢力の重鎮を殺そうと言うのだから、一般的な殺人ではあり得ないわね」
シスター 「テロといっても間違いではないわ」
男 「な、何で……?」
シスター 「………………」 スッ 「――――……すため……」
男 「へ……?」
シスター 「………………」 フッ
シスター 「…………――戦争を、起こすためよ」 ニコッ
369 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:10:37.69 ID:ygle3h.o
男 「!? せ、戦争……!?」
シスター 「あなただって知らないわけじゃないでしょ? 学園都市が今、戦争の危機に直面していることくらい」
男 「そ、それは……だって、あのローマ正教の攻撃があったから……」
男 「もちろん、知ってるけど……」 ギュッ 「姉さんはそれと何の関係もないでしょ?」
シスター 「………………」 ニコッ 「……本当にそう思う?」
男 「っ……!?」 ゾクッ (なっ……何だ!?)
シスター 「わたしはロシア成教の人間なの。十字教徒なのよ?」
男 「で、でもっ――」
シスター 「――――わたしは学園都市とローマ正教との戦争を望んでいるわ」
男 「ッ……!?」
シスター 「ここまで言えばさすがに分かった? わたしは、ロシア成教に遣わされてここにいるの」
シスター 「学園都市で内部工作を行ない、学園都市を戦争へと導くためにね」
男 「だ、だって! ロシア成教とローマ正教は……」
シスター 「まだ公開されていることではないけれど、昨日未明、ローマ正教とロシア成教との間に同盟が結ばれたわ」
男 「そ、そんな……そんなの……」
370 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:12:37.98 ID:ygle3h.o
男 「………………」
シスター 「……戦争へ進むための一番の邪魔は貝積継敏なのよ」
シスター 「他の統括理事は、戦争を望む者か、もしくはどうでもいいと思う者に分かれるわ」
シスター 「だけど、貝積継敏だけは違う。彼は表向きは無関心を装いながら、秘密裏に各勢力との交渉を進めている」
シスター 「もちろんトップとじゃない。もっとずっと下……現場の人間たちとね」
シスター 「彼の影響力はもう無視できないものとなっているわ」
シスター 「だけど、それは裏を返せば彼さえいなくなれば、世相は順調に戦争に向かっていくということに他ならない」
シスター 「そのきっかけとして、わたしは貝積継敏を殺す」
シスター 「……もちろん、今さら貝積継敏が何をしようと、世界が戦争へ向けて動いていることは事実」
シスター 「彼が生きていようがいまいが、結局戦争は起きる」
シスター 「でもわたしはもう待てない。早く戦争になってほしいの」
男 「な……何で!? 何でそんなに戦争を望むの!?」
シスター 「………………」 ボソッ 「……弟のためよ」
男 「えっ……?」 ゾクッ 「弟って……亡くなった……?」
シスター 「………………」 ニコッ 「……ええ」
371 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:15:30.24 ID:ygle3h.o
シスター 「……弟の話はしていなかったわね」
シスター 「わたしの弟はね、去年亡くなったの。死因は……」
ギリッ
シスター 「……―― “原因不明の発熱”」
男 「原因不明の発熱……?」
シスター 「ロシア政府の医術をもってしても、ロシア成教の御業の全てをもってしても、」
シスター 「……恢復どころか、原因の解明もできなかったわ……っ!」
シスター 「どんどんやつれていく弟に、わたしは誰彼構わず助けを求めたわ」
シスター 「けれど、全部無駄だった……」 ギロッ 「学園都市も、その一つ……ッ!」
男 「!? 学園都市……?」
シスター 「わたしは学園都市に助けを求めたわ。世界最高の医者とされる 『冥土帰し』 を寄越してくれと」
シスター 「……けれど、無駄だった」 ギリッ 「学園都市は、『冥土帰し』 はッ! 弟の治療を断ったッ!」
シスター 「そして弟は、死んだのよ……ッ」
男 「なッ!? そ、そんなわけない! あのひとが誰かの救済を断るなんて……そんなのッ!」
シスター 「だったら何故弟は死んだの!? 何で 『冥土帰し』 は力を貸してくれなかったの!?」
男 「そ……それは……」
372 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:16:56.87 ID:ygle3h.o
シスター 「だからわたしは誓ったの……」 ギリッ 「弟を殺した学園都市の閉鎖性をぶっ壊すってね」
シスター 「もし学園都市の最新医術が…… 『冥土帰し』 の最高の医術が学園都市の外にも広まっていたら、」
シスター 「そうしたら、弟は死ななくても良かったかもしれない……きっと、今も元気に生きていたのよ」
シスター 「だからわたしは、戦争を望む。そのために貝積継敏を殺す」
シスター 「……もうこれ以上、弟のような不幸を作りたくないから。誰にもわたしのような悲しみを背負って欲しくないから」
男 「………………」 ギリッ 「……姉さん……」
――――――……ガサッ
男 「!?」 クルッ
?? 「おや、随分と面白い光景が広がっているものだけど」
男 「な……何で……?」 ギッ 「何で……雲川先輩が、ここに……?」
雲川 「おや? お前がここに呼んだのではないのか?」
男 「そ、そんなこと、僕は……」 ハッ 「ま、さか……」
シスター 「――ええ」 ニコッ 「彼女をここに呼んだのはわたしよ」
雲川 「ふん。私の連絡先を知っている人間に興味が湧いて来てみれば……」
雲川 「これはまた随分と可愛らしい呼び出し主だけど」
373 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:19:09.64 ID:ygle3h.o
シスター 「それはどうも」 トトト…… 「でも、馬鹿正直に来てくれると思っていました」
シスター 「あなたがそういう方であると、事前のプロファイリングで知っていましたから」
雲川 「可愛い顔をして言うことはなかなか怖いけど」
雲川 「それで? 私に一体何の用だ?」
シスター 「ええ、まぁ……」 フッ 「――……ちょっとだけ死んでもらおうと思いまして」
ニコッ ……――サッ
男 「!? 雲川先輩逃げ――――」 ダッ
シスター 「ごめんね、男。ちょっと遅いわ」
――――……ビジッ!!! バヂッ!
雲川 「っ……!?」 フラッ 「なる、ほど……」 バタン
男 「スタンガン……!? 雲川先輩!!」
クルッ
シスター 「――……ねえ、男」 ニコッ
男 「……っ!」 ビグッ
シスター 「姉さんの邪魔をしないで? ね、おねがい」
374 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:21:54.22 ID:ygle3h.o
シスター 「わたしは、あなたのことも本当の弟だと思ってるのよ?」
男 「姉さん……?」
シスター 「あなたはいつでも、わたしのことを気にかけてくれた」
シスター 「“術式” が働いていたとはいえ、本当にわたしのことを想ってくれていた」
シスター 「だから……」 ニコッ 「――ここで、待っていて」
シスター 「そうすれば、すぐに終わるから。全てを終えて、わたしはすぐにここに戻ってくるから」
シスター 「そうしたら、一緒にロシアに行きましょう?」
シスター 「それで、ずっと一緒に暮らすの。きっと楽しいわ」 ニコッ
男 「………………」
シスター 「ああ、心配ならいらないわ。ロシア成教はあなたを温かく迎える準備があるの」
シスター 「少し検査だとかがあるかもしれないけど、それだけ。本物の能力者だもの。丁重に扱うわ」
シスター 「ロシアは……いいえ、ロシア成教は、あなたを手厚く保護します」
シスター 「男なら、きっとあの方とも、サーちゃんとも仲良くなれると思うの」
シスター 「ロシア語だって、男の能力を使ってネコに通訳してもらえばいいじゃない」
シスター 「だから……」 ニコッ 「……だから、一緒に行こう? ロシアへ」
375 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:39:45.25 ID:ygle3h.o
男 「………………」
シスター 「ねぇ、男? 行きましょう?」 ニコッ 「だってあなたは、わたしの弟だもの。ね?」
男 「………………」
スッ……ギュッ
シスター 「わたしはあなたの姉。あなたはわたしの弟。あなたはわたしが守る」
シスター 「――だから、わたしのことは、あなたが守って」
スッ……ギュッ
男 「……姉さん」
シスター 「ん? なぁに、男」
男 「――――……ん、なさい……」
シスター 「えっ……?」
男 「……ごめん、なさい……」
シスター 「は……?」
男 「……ごめんなさい……」 グッ
男 「……僕は、姉さんの悲鳴に、気づくことができなかったんだね」
男 「姉さんがずっとあげていたSOSに、気づいてあげられなかったんだね」
男 「……ごめんね」
シスター 「お、男? 何を言っているの?」
376 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:40:47.92 ID:ygle3h.o
男 「僕は、白井さんたちの想いを疑い、裏切り、そして、姉さんのあげていた悲鳴に、気づいてあげられなかったんだ」
男 「僕は、勝手に姉さんを助けていると思っていただけなんだ」
シスター 「………………」 スッ 「……あなたは、何を言っているの?」
男 「ごめん。本当に申し訳なくてたまらないけど、それでも責任は果たすよ」
男 「僕はもう逃げないって決めたから。ただ謝るだけで逃げるようなことを、したくないから」
男 「……姉さん。そんなことはやめよう。してはいけないことだよ、それは」
男 「たとえどんな理由があるのだとしても、人の命は、幸せは、奪ってはいけないんだ」
シスター 「……あなたらしい答えね、男」 ニコッ 「そうよね。だってあなたはわたしの弟なんだものね」
男 「うん。だから――」
シスター 「――本当に、厄介。そんなところもあの子そっくりだわ」
男 「えっ……? 姉さん?」
シスター 「ねぇ、覚えてる? あなたがまだ小さい頃、修道院の甘いお菓子を主教様に黙って食べようとしたときのこと」
シスター 「あなたはまだ小さかったっていうのに、こう言ったわね。やめよう、お姉ちゃん、って」
シスター 「あなたはあの頃から、全然変わってないのね」
男 「姉、さん……?」
377 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:41:53.67 ID:ygle3h.o
シスター 「あら。そうよね。あなたがこんなことを覚えているはずがなかったわね」
シスター 「だってあなたはわたしの本当の弟ではないのだものね。わたしとしたことが、うっかりしちゃった」 ニコッ
シスター 「ねぇ? 不思議に思わなかったの? 何で出会って数日で、わたしたちはこんなにも仲がよくなっているの?」
男 「えっ……?」
男 (……そういえば……) ゾクッ (何で僕は、こんなにも、目の前の女性を簡単に姉だと思っているんだろう)
男 (何で僕はこんなにも、この人のことを当たり前のように姉さんと呼んでいるんだろう)
男 「ま、さ、か……」 ゾワッ 「…… 『心理操作』 系の能力……!? 洗脳……!」
シスター 「超能力などと一緒にしないで。これは、そんな生易しい異能ではない、本物の 『魔術』 よ」
ニコッ
シスター 「少し術式が強すぎたみたいね。わたしのことを想うあまり、逆にわたしの凶行を止めようとするとはね」
シスター 「……そしてわたし自身も、少しばかり情を寄せすぎてしまったみたい」
シスター 「不覚だったわ。わざわざ、敵対するような子に、こちらの情報を流してしまうなんて」
シスター 「『姉と弟』 の術式、要改善、と。でもまぁ、関係性の強化はその副産物でしかないわけだし」
シスター 「……そう、計画自体に支障はない。わたしが貝積継敏を殺して、そしておしまい」
男 「姉さん……」
378 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:44:19.30 ID:ygle3h.o
シスター 「だから、ごめんね。男」
――ビヂッッ!!
男 「――しまっ……!?」 (左手……!? さっきのスタンガンか……!?)
シスター 「手袋越しだから大したことはないでしょう?」 バヂバヂ 「科学の使徒には、科学のデバイスで十分」
男 「姉、さん……!」 ――ズザッ
シスター 「おやすみなさい。そして、さようなら」
男 「ね……え…………さ、……ん……………………」
パタッ……
男 「………………」
シスター 「これで三時間は目覚めないはずね」
男 「………………」
シスター 「………………」
シスター 「……さて、あとは術式を完成させるだけ、ね」 チラッ
雲川 「………………」
シスター 「ごめんなさい。あなたに恨みはないのですが……」
スッ
シスター 「――あなたには死んで頂きます。雲川芹亜さん」
379 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:45:02.31 ID:ygle3h.o
………………祭り会場
白井 「………………」
初春 「あ、あうあう……」
白井 「………………」
佐天 「あ、あのあの! こういうときだってありますよ! だから元気出してくださいよ」
白井 「………………」
固法 「まったく……男くんは……」
白井 「………………」
プルプルプル
初&佐&固 (((わーーーー! 泣いちゃう!)))
白井 「………………」 ギリッ 「……――っ、の、」
初&佐&固 (((???)))
白井 「あん、の……甲斐性無しがぁぁぁぁああああああああッッッ!!!」
初&佐&固 (((わっ……!?)))
ドンドンドン!!! ガンガンガン!!!
380 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:45:57.13 ID:ygle3h.o
初春 「し、白井さん!? いきなり暴れ出さないでください!」
白井 「何なんですのあの男は! よく考えたら、わたくし何ひとつ悪いことはしていないではありませんの!」
佐天 「ま、まぁ確かに……」 (女子の同族的同情を度外視しても、なんかあの男さん変だったもんね)
白井 「っなぁぁぁああああ! 思い出したらまた腹が立ってきましたの!」
白井 「初春! 佐天さん! 固法先輩! こうなったら食べて食べて食べまくりますわよ!」
白井 「体重なんて知ったことですか! もうヤケですの!」
ズンズンズン……!!
初春 「あ……し、白井さん、ちょっと待ってくださいよ~」
固法 「………………」 ハァ 「……そうね。そもそも白井さんはいつまでもウジウジ悩んでいるような子じゃないもの」
佐天 「まさか当の本人と会うとは思わなかったけど、良い起爆剤になったってとこですかね」
固法 「……あとは、男くんか」 スッ 「……風紀委員を辞めるなんて、本気じゃ、ないわよねぇ……」
381 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:48:55.21 ID:ygle3h.o
佐天 「………………」 ハァ 「男さんといい、御坂さんといい、一体どうしちゃったんでしょうね?」
固法 「御坂さんの方は連絡が取れないんだっけ? あの子はレベル5だけど……心配ね」
佐天 「はい……」
――ドン
固法 「?」 (背中に誰かぶつかった?)
?? 「あう……。ごめんなさいなんだよ」
固法 (白い服の……シスター?)
佐天 「あれ? あなた確か、この前カミジョーさんたちの病室にいた……」
?? 「あたなは確か、“さてんさん” って呼ばれてたよね」
佐天 「あ、う、うん。よく覚えてたね」
?? 「うん。だってわたしは、一度覚えたことは絶対に忘れないから」
?? 「そっちの人とは初めましてだったね」 スッ
インデックス 「初めまして。わたしは、インデックスっていうんだよ」
382 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:51:40.22 ID:ygle3h.o
………………
男 「………………」
ハッ
男 「っ……姉さん……?」 ビリッ 「くそ……身体中が痺れる……」
ディズ 「男! 気がついたわね」
男 「ディズ!?」
ディズ 「心配だから後をつけていたの! ネムサスはあの女を追ってるわ!」
男 (……相当強力なスタンガンだな。時計も携帯もイカれてないのが不思議なくらいだ)
男 (でもおかしいな。大して時間は経っていない)
男 「あっ……」 スッ (……そうか、この手袋。あの人が用意してくれたものだもんな)
男 (電撃のショックを和らげてくれたのか……)
男 「………………」 ギリッ 「……あの人、か」
男 (姉さんの心の不幸を払うには、あの人に話を聞くことが必要不可欠……)
男 「……けど今は、姉さんを止めなきゃ……!」
男 「ディズ、ネムサスと連絡は取れる?」
ディズ 「難しいわね。離れすぎてるわ」
男 「そうか……」
――――キラッ
男 「ん……?」
383 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:53:57.13 ID:ygle3h.o
………………
白井 「……それで、何でこの方も一緒なんですの?」
インデックス 「ほああいほほはいいんはよ!」 (訳:細かいことはいいんだよ!)
固法 「仕方ないじゃない。この子、なんか一人じゃ危なっかしい感じだし」
白井 「殿方さんはどうされたんですの?」
インデックス 「ほえはんはよ!」 プンプン (訳:それなんだよ!)
インデックス 「ほうは、おうひひはえっへほはいんはよ!!」 (訳:とうま、お家に帰ってこないんだよ!!)
インデックス 「ふふぃんふふはほっはいっひゃうひ!」 (訳:スフィンクスはどっか行っちゃうし!)
インデックス 「ははあおはははへっはははひほひひはほはへへいはんはよ!」 (訳:だからニオイに誘われてここまで来たんだよ!)
白井 「いい加減口に物を運ぶのをおやめなさい!」
インデックス 「むぐ……」 ゴックン 「仕方ないんだよ! ここはごちそうの宝庫かも!」 キラキラキラ……
佐天 「あーもう……」 ヤレヤレ 「ほーら、ほっぺにソースついてるよ」 フキフキ
インデックス 「むにゃー」
佐天 (やだこの子メチャクチャ可愛い)
初春 「よくこんなにお腹に入るもんですねー」 ホァー
白井 「まったく。太っても知りませんわよ?」
384 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:56:16.06 ID:ygle3h.o
インデックス 「むぐ……?」 ゴックン 「……でもわたし、体重がすごく変わったことってあんまりないかも」
白井 「………………」 ピキッ
初春 「し、白井さんだって、痩せてますよ。全然大丈夫ですよっ!」 アセアセ
白井 「むきーーーーーーっ!!」 ガッ!! 「わたくしも食べますの!!」 ハグハグハグ
初春 「わーーー! 白井さん~~~~!」
固法 「まったく……」 ハァ 「……ん?」
雲川 「………………」 タッタッタ……
固法 「あれ……? 一瞬何かおかしいなって思ったんだけど、気のせいだったかしら?」
初春 「はえ? どうしたんですか?」 チラッ
インデックス 「……?」 チラッ
――――ジジッ……
インデックス 「!!!? 魔、術……!?」
雲川 「………………」 タタタタタタ……
インデックス 「お、追いかけなくちゃ!」 ダッ――ガシッ
固法 「ちょっと待ちなさい! 一体どうしたって言うの?」
385 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:58:03.92 ID:ygle3h.o
インデックス 「放すんだよ、みい! わたしはあの人を追いかけなくちゃいけないの!」
固法 「だからどうしてって聞いてるのよ!」
インデックス 「それは……無関係な人には言えないよ!」
固法 「そう……分かったわ」 スッ 「なら、こっちにも考えがある」
インデックス 「な、何をする気なの? 何をされたって、わたしは口を割らないかも!」
固法 「そんな乱暴なことをする必要はないわ。ただ――」
ニッ
固法 「私も一緒に、あの人を追いかけるってだけのことだから」
ギュッ
固法 「さ、はぐれないようにしっかり掴まってるのよ!」
ダッ――!!
インデックス 「わわっ! こっちの服装も考えて欲しい速度なんだよ!」
初春 「固法先輩!?」
固法 「ちょっとこの子と気になる女性を追いかけるわ。さっきあなたも見た、セーラー服に長髪の子よ!」
固法 「あなたたちは後で白井さんの能力で追いかけてちょうだい!」
初春 「わ、分かりました! その人に関して、外見からデータベースに検索をかけてみます!」
固法 「ありがとう! 頼んだわ!」
386 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:14:35.20 ID:ygle3h.o
学生1 「わっ……危ないな!」
学生2 「気をつけろ!」
固法 「うるさいわね! こっちは風紀委員なんだから、どいたどいた!」 ダッ
固法 「……っ、でも見当たらないわね。もしかして見失った……?」
インデックス 「ううん、違うよ、みい」 フルフル 「露天の間を左に曲がったの。わたしたちの追跡に気づいたみたい」
固法 (左方向……?)
ギン!!
雲川 『………………』 タタタタタ……
固法 「……!? 本当にいた!」 ダッ 「……どうして分かったの?」
インデックス 「わたしとしては、何でみいにあっちにいることが分かるのかが不思議かも」
固法 「わたしの能力。レベル3の 『透視能力』 よ」 ニヤッ 「さて、わたしは教えたんだから、あなたも教えてくれるのよね?」
インデックス 「うぐ……みいは策士かも」 ハフゥ 「……魔術的雰囲気……としか言いようがないけど、それでいい?」
固法 「魔術……?」 ハッ 「魔術!? それってあの、ローマ正教の!?」
インデックス 「ううん。この感じからして……もっとスラブ系の……多分、ロシア成教系列だと思う」
固法 「え……?」 アセアセ 「あの……あなたが何を言っているのか、いまいちよく分からないんだけど……」
387 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:15:36.98 ID:ygle3h.o
インデックス 「みい! 前を見て! 今はとにかく、あの人に追いつくことが先決だよ!」
固法 「あ……それもそうね……」 スッ 「スピード、上げるわよ!」 ダッ!!
インデックス 「合点承知なんだよ、みい!」 ダッ!!
固法 (なんだろう、この変な感じ……)
固法 (まるで、『透視能力』 に不全が起きているような感じね)
固法 (前を走るあの人、さっきから視界でブレてばかり……)
固法 (…… 『透視能力』 で見抜けないものを見抜こうとしている……?)
固法 (ううん…… 『透視能力』 で見抜くための演算がまだ成せていないだけ……?)
固法 「ああもう! 一体何だっていうのよ!」
インデックス (……検索……検索……索引読込……読込……閲覧……解析……解析……)
インデックス (……ロシア民話……? 『うるわしのワシリーサ』 ……ううん、少し違うかも)
インデックス (けど、その系列なのは確かなんだよ!)
インデックス 「とうまがいない今、学園都市の平和はこの 『禁書目録』 が守るんだよ!」
388 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:17:11.35 ID:ygle3h.o
………………
雲川 「………………」 ピタッ 「………………」
雲川 「撒けたわね……いえ」
フルフル
雲川 「――撒けたようだけど」
雲川 「………………」
雲川 (しかしまさか 『禁書目録』 がこんな場所にいるとは……)
雲川 (ただし、所詮はただの魔導書庫。実際に魔神の力を振るえるわけではない)
雲川 「くく……」
雲川 「くくくくく……はははははは!!」
………………物陰
ネムサス 「………………」
ネム (……一体何を企んでいるというの……?)
ネム 「………………」
ネムサス (でも、絶対に逃がさないんだから。夜道で猫から逃げられるなんて思わないで)
389 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:18:12.03 ID:ygle3h.o
………………
貝積 「………………」
ワイワイガヤガヤ
貝積 「……まったく。この歳になって、一人で祭りを歩くことになるとはな」
SP 「………………」
貝積 「いや、一人とはほど遠いか。まったく、無駄口を叩くだけ、雲川の方がまだマシというものだ」
貝積 「……まぁ、それが君らの本質であり義務なのだから、当然といえば当然なのだがな」
SP 「………………」
貝積 「……まったく」
ザッ
貝積 「む……?」 ハァ 「なんだ、お前か」
雲川 「………………」 フッ 「この優秀なブレインに対して 「なんだ」 とは、随分なご挨拶だけど」
390 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:22:34.27 ID:ygle3h.o
SP 「………………」 ザッ
貝積 「構わんよ。彼女は私の知り合いだ」
雲川 「素直に頭が上がらぬ相手だと言えばいいけど」
貝積 「……すまないが、席を外してくれないか?」
SP 「しかし――」
貝積 「ならばこう言おう。席を外せ」
SP 「……かしこまりました」 ザッ……
雲川 「よかったのか? 学園都市統括理事ともあろう者が、こんな群衆の中でSPを外したりして」
貝積 「分かっているだろう。私は誰かに恨みを買うほど苛烈ではないし、弱みを知られるほど大人しくはない」
貝積 「……ともあれ、何故ここに来たのかを聞きたい。人の少ない場所へ移動しよう」
雲川 「くくく。情熱的なお誘いだけど」
貝積 「悪いが、」 フッ 「私は妻と娘を愛している」
391 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:23:35.84 ID:ygle3h.o
………………
貝積 「それで、私に一体何の用だろうか?」
雲川 「分かっているだろう? この街に数件のイレギュラーが発生している」
貝積 「当然分かっている。だがそれは私の管轄ではない」
貝積 「統括理事長の勅命が出ている案件もある。ただのお役所仕事である私のポストに出来ることはないよ」
貝積 「そして、親船最中が身体を張ってまで発したオーダーを壊すほど私は無粋ではない」
雲川 「『幻想殺し』 は稀少かつ、代替不可能な能力のはずだけど」
貝積 「それも含めて、統括理事長には何らかのお考えがあるのだろう」
貝積 「親船の行動にリスクが伴うのであれば、統括理事長はどんな手を弄してでもそのオーダーを止めていただろう」
雲川 「フランスか……また随分と騒動の中心地に飛ばされたものだけど」
貝積 「だから言っているだろう。全て含めて統括理事長の術中だ。イレギュラーはない」
392 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:25:29.49 ID:ygle3h.o
雲川 「……侵入者の件については?」
貝積 「統括理事長から関わるなとのご命令があれば我々は従わざるをえない」
貝積 「それに、そんな物騒なことにいち早く反応するのは私ではなく潮岸あたりの仕事だろう」
雲川 「なるほど。お前もよくよく事なかれ主義だけど」
貝積 「そうでもない。それを言うなら現状の腑抜けた親船だ」
貝積 「今回の身を挺した行動が、何らかの契機になればいいのだがな」
貝積 「いや……」 フッ 「本気の彼女ほど怖いものを私は知らんからな。やはり現状がいいのかもしれん」
雲川 「………………」
貝積 「そもそも、事なかれ主義であればこんな人気のない場所に、君を連れてきたりはしない」
雲川 「何の話だ? 妻と子どもを裏切る覚悟でもできたのか?」
貝積 「はは、そこまで危ない橋を渡るほど私は冒険者ではないよ」
貝積 「――それくらい、本物の雲川なら知っているさ。そうではないかね? 偽物くん」
393 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:26:56.24 ID:ygle3h.o
?? 「………………」 ギリッ 「……何故私が偽物だと?」
貝積 「ふむ、引き際を悟る早さまで雲川そっくりだな。大したものだ」
貝積 「大方、私を怪しませないため、そして私から情報を引き出すためだったのだろうが、」
貝積 「生憎と私のブレインはそこまで馬鹿ではない。こんなところでいらぬ情報は流さぬよ」
?? 「……得た情報では、通っている学校からあなたにコンタクトを取ることもしばしばだとか」
貝積 「秘匿回線だよ。外に漏れることはない」
?? 「……なるほど。対象のプロファイリングが十分ではなかったということですか」
――ガチャッ
?? 「ただし、だからといって計画が失敗するというわけではない」
貝積 「なるほど。物騒なものを持ち出すものだ」
?? 「あわよくばあなたから有益な情報を引き出せれば……と思いましたが、さすがは統括理事」
?? 「そこまで甘くはないということですか」
貝積 「私を殺して得をする人間はこの学園都市にそうはいない。君は外部の人間か」
?? 「よくそこまで分かるものですね。その通りです」
カチリ――
?? 「戦争を望む者……とだけ名乗っておきましょうか」 スッ 「さようなら、貝積継敏」
――ッパァン!!
394 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:29:02.12 ID:ygle3h.o
………………
男 「……!? 雲川先輩!」
雲川 「………………」
男 「雲川先輩!」 ユサユサ 「雲川先輩!!」
雲川 「………………」 スー……スー……
男 「よかった……息はしてる」
ディズ 「……この女、さっきからずっと脳波にまるで淀みがないわ。昏睡状態みたいなの」
男 「スタンガンの影響……? いや、それでも外的刺激があれば目覚めるはず」
男 「何だって言うんだ……?」
男 「くそっ……姉さんを止めなくちゃいけないけど、雲川先輩を放っておくわけにもいかないし……」
――キラッ
男 「ん……雲川先輩の首にかかってるこれ……」 スッ 「……姉さんの十字架と同じものだ」
ディズ 「……その十字架、あのシスターがかけていったの。そして……」
男 「……? どうかしたっていうの?」
ディズ 「……男、これから私が話すこと、信じてくれる?」
男 「当たり前だろ。ディズは僕の大切な相棒の一羽なんだから」
ディズ 「……うん。なら話すけど、」
ディズ 「あのシスターが気絶しているその女に十字架をかけた途端――」
ディズ 「――シスターがその女と全く同じ姿に変わったのよ」
395 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:31:25.67 ID:ygle3h.o
――ッパァン!!
?1 「――危ないッッ……!!」
貝積 「っ……!?」
――――――ッドン!!!……ズザッ!!
?? 「なっ……!?」 (外した……!?)
――フニャッ!! バッ!!
?? 「!?」 (猫が銃に取りついて……ッ!!)
ガブッ!!
?? 「痛っ……!」
――カラン
猫 「落ちた……!」 バッ 「拳銃はいただくわよ!」 ガブッ……タタタタ……
?1 「ふぅ……ネムちゃんと合流できて良かったわ。ギリギリセーフっていうところかしら」
ネム 「こちらこそ。固法と合流できて助かったわ」
?? 「猫が喋った……!?」 ビクッ 「ま、まさか……男!?」
固法 「おあいにく様ね。男くんはここにはいないわ」 スッ 「……大丈夫ですか?」
貝積 「き、君は……?」
396 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:32:39.02 ID:ygle3h.o
固法 「風紀委員です。ご無事なようで何よりです。襲撃者は彼女一人。早く逃げることをオススメします」
貝積 「……そうだな。そうさせてもらおう」 スッ 「感謝するよ、風紀委員くん」
?? 「っ……」
固法 「おっと。動かないでください。あなたの手にはもう拳銃はないんですよ?」
?? 「ぐっ……!」
――――ジジッ……ジジジジッ……
固法 「……?」 (何……? 『透視能力』 を使っているわけでもないのに、彼女の姿が歪――」
――――――ジジッ――ザッ!!!
固法 「!!?」 (っ……!?)
?? 「ぐっ……!? 『姉と弟』 の術式が破壊されたですって……!」
固法 「……なるほど。インデックスさんやネムちゃんが言っていたことは本当だったってことね」
ネム 「だから言ったでしょ! あの女、たぬきみたいに化けたんだって!」
?? 「……そういうことですか。『禁書目録』 があなた方に入れ知恵をしたということですね」
固法 「そういえば彼女もそんな風に自分のことを言っていたわね」
固法 「……この目で見てしまったものは仕方がない。魔術っていうものは本当に存在するのね」
固法 「――ねぇ、赤髪のシスターさん?」
397 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:37:56.54 ID:ygle3h.o
………………数分前
男 「へ……? 姉さんが、雲川先輩と同じ格好に……?」
ディズ 「格好なんて生易しいものじゃないわ。全く同じ。姿形や顔まで、そっくりに変わったのよ!」
ディズ 「それこそ、まるで超能力を使ったみたいに……」
男 「超能力……いや、姉さんは外部の人間で、能力開発は受けていない……それに――」
―――― 『超能力などと一緒にしないで。これは、そんな生易しい異能ではない、本物の魔術よ』
男 「……くそっ」 ギリッ 「『魔術』 ……! 学園都市外部の能力開発……」
――ピッ prrrrrr……
男 「……っ、何で出てくれないんだよ……上条くん!」
男 (『魔術』 について、上条くんなら何か知っているかと思ったけど……)
―――― 『もしこの 『禁書目録』 の力を借りたくなったら、いつでも電話するんだよ!』
男 「あっ……!」
ピッ prrrr……ガチャッ
男 「もしもし!?」
?? 『わわっ! いきなり大声で何だっていうんだよ!』
男 「よかった。出てくれた……!」 グッ 「ごめん、一つ聞きたいことがあるんだ!」
男 「頼む! 君しか心当りがいないんだ、インデックスさん!」
398 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:39:39.97 ID:ygle3h.o
………………
インデックス 『なるほど……事情を聞いて、ようやく合点がいったんだよ』
インデックス 『今、みいとねむさすがシスター ――魔術師に飛びかかろうとしてるから、簡潔に話すね」
インデックス 『いま君の前で寝ているくもかわの命に別状はないよ』
インデックス 『君がお姉さんだと思っているシスターは、きっと 『姉と弟』 の民話を元に術式を作り上げたんだね』
男 「…… 『姉と弟』 ?」
インデックス 『ロシア民話のひとつだよ。『兄と妹』 っていう言われ方もすることがあるけど』
インデックス 『その民話に自己流の解釈を加えて、無理矢理にねじまげた術式を構成してるみたい』
男 「ち、ちょっと待って! 全然話についていけないんだけど……」
インデックス 『今は黙って聞いて、ねこあひるのひと。『姉と弟』 っていうお話について簡単に説明するね』
インデックス 『仲の良い姉と弟が、継母の虐待に耐えかねて逃げ出すところから物語は始まるんだよ』
インデックス 『ところが弟がとある泉で水を飲むと、弟は鹿になってしまったの』
インデックス 『姉は弟の世話をしながら森の小屋で暮らすんだけど、あるとき王様に見初められてお妃様になるの』
インデックス 『姉は王様との間に子どもももうけるんだけれど、それをねたんだ継母とその娘に姉が殺されてしまうんだよ』
インデックス 『そして継母は自分の娘に姉の代わりをさせて、王様を誤魔化すの』
インデックス 『姉は幽霊になって子どもの世話をするんだけれど、あるとき王様と出会って生き返るの』
インデックス 『真実を知った王様は継母とその娘を刑に処し、弟は人間の姿に戻りました。めでたしめでたし』
399 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:41:19.93 ID:ygle3h.o
男 「……その昔話がどうかしたの?」
インデックス 『分からない? そのシスターは、そのくもかわっていう人と同じ姿になったんだよ?』
インデックス 『いま話した昔話でそれに合致する部分はない?』
男 「えっ……? あ、まさか……姉の代わりに妃になって、王様を誤魔化した継母の娘のこと?」
インデックス 『その通りなんだよ。シスターは君と姉弟の契りを結ぶことによって自分自身に姉の属性を付加させ、』
インデックス 『その上でその属性を、自分と同じ十字架をかけさせることによって、くもかわにも付加させた』
インデックス 『そしてその “姉” の属性を持つくもかわを “目覚める死” ――』
インデックス 『すなわち仮死状態にすることで、自分自身に “継母の娘” の属性を付与させたんだよ』
インデックス 『“継母の娘” は “姉” の代わりをする……その魔術的意味を術式に組み込み、姿を変えたっていうことだね』
インデックス 『そして “姉” の属性を付与されたくもかわは、魔術が終わるまで目覚めることはないんだよ』
男 「……そんなことで姿を変えることができるの? 魔術って」
インデックス 『もちろんそれだけじゃないんだよ。そして、それこそがこの魔術を破る鍵なんだよ』
インデックス 『君は、昨日シスターから何をもらったって言ってたっけ?』
男 「えっ……? だから、鹿角の指輪――」 ハッ 「……まさか、“鹿になった弟” って……」
インデックス 『もちろん君なんだよ、ねこあひるのひと。そもそも、“弟” の属性を持っているのは君だけかも』
インデックス 『そして今の君は、“鹿” の属性も付与されているんだよ』
インデックス 『“姉” が生き返ること……つまり “継母の娘” の変装が解けることは、』
インデックス 『逆説的に言えば “鹿になった弟” が人間に戻った状態で成されているんだよ』
インデックス 『――つまりこの魔術を解除してくもかわを目覚めさせるには、その指輪を破壊すればいいんだよ!』
400 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:47:32.56 ID:ygle3h.o
………………
シスター 「……なるほど。男は何のためらいもなくわたしのプレゼントを破壊したということね」
クスッ
シスター 「所詮その程度なのね。わたしと弟の関係なんて」
固法 「……インデックスさんは、あなたと男くんの間に魔術的な繋がりがあると言っていたわ」
固法 「それはとても強固なものだとも、言っていた……」
ギロッ
固法 「それをそんな風に笑うのね、あなたは……!」
固法 「本当に分からないの? きっと男くんは、心を痛めながらあなたのプレゼントを壊したのよ……!?」
シスター 「………………」
シスター 「……あいにくと、あなたと押し問答をする気も暇もないの」
シスター 「残念だけれど、わたしは引かせてもらうわ。一度体勢を立て直す必要がありそうだから」
固法 「あら、そんなことを私がさせると思う?」
固法 「――ううん。正しくは、私たちが、かな」
――――――シュン!! ……スタッ タッ
白井 「……その通りですわね、初春」
初春 「ええ、白井さん」
401 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:48:32.77 ID:ygle3h.o
ネム 「あら、私も忘れてもらっちゃ困るわね」
ズボッ……!!
インデックス 「わたしもいるんだよ!」
固法 「危ないからあなたは大人しく繁みに隠れてなさい!」 ズボッ
インデックス 「あう……」
固法 「……さて、シスターさん? 三人と一匹に取り囲まれて、逃げる自信はおありかしら?」
シスター 「………………」
クスッ
白井 「なっ……何が可笑しいんですの!?」
シスター 「そう怒らないでよ。なに? 恋人を盗られたことがそんなに不満?」
白井 「なッ……!!」
固法 「白井さん! 見え見えな挑発に乗らない!」
白井 「うぐっ……分かってますの」
初春 「……許しません」 ギリッ 「男さんの気持ちや、白井さんの想いを踏みにじったあなたを……!!」
初春 「わたしは絶対に許しません……!!」
402 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:51:36.76 ID:ygle3h.o
シスター 「ふふ……だから滑稽だと言うのよ。あなたたちは」
シスター 「科学という常識に囚われすぎ。だからそんな風に、すでに勝ち誇ったような顔ができる」
固法 「……まだ、あなたは負けていないと?」
シスター 「どこに負ける要素があるのか分からないわ。わたしの負けは、わたしが捕まることによるのみ」
シスター 「ねぇ、何であなたたちがそんなに余裕なのか教えてあげましょうか?」
シスター 「第一に、拳銃がすでに奪われていること」
シスター 「第二に、わたしの魔術がすでに解かれていること」
シスター 「第三に、わたしにはもう打つ手が残されていないと思いこんでいること」
ネム 「……っ、今さらあんたに何ができるっていうのよ!」
シスター 「だからその認識が甘いと言うの。魔術を超能力と同じはかりで量っている、その甘さ」
シスター 「ねぇ、風紀委員の皆さん? 魔術師は能力者とは違うんですよ?」 クスッ
シスター 「――使える魔術がひとつとは限らないっていうことに、何故気づかないんですか?」
固法 「は……?」
シスター 「『リンゴの木さん、リンゴの木さん、お助けを。悪いお婆のお鳥が追ってくるよ』」
インデックス 「!? このフレーズは――!」
ペロッ
――ヴン
403 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:54:59.24 ID:ygle3h.o
固法 「なっ……」 初春 「へっ……!?」 白井 「ッ……!!」 ネム 「は……?」
固法 「消え……た……?」
白井 「っ……!? 『空間移動』 能力とでもいうんですの!?」 ダッ
インデックス 「囲いを解いちゃダメ! そのままでいて!」
白井 「えっ――」
ガサガサッ……!!
初春 「!? 今、誰かがあっちの方に逃げていきました!!」
ネム 「な……何だっていうのよ、これは!!」
インデックス 「っ……!」 ダッ!!
固法 「い、インデックスさん!?」
インデックス 「やっぱり、これ以上あなたたちを巻き込めない! これは “こっち” で対処するんだよ!」
白井 「ちょっとお待ちなさい! 一体何が起きたんですの!?」
ネム 「私が追いかけるわ!」 ダッ 「白井たちはあのおっさんに事情でも聞いてなさい!」
初春 「あっ……! ね、ネムちゃんまで!」
インデックス (さっきのフレーズと、手の甲を舐めた仕草から見て間違いないんだよ)
インデックス (空間移動術式なんかじゃない。あのシスターはただ “姿を消した” だけ)
インデックス (それなら、この 『禁書目録』 に相手を捉えられないはずがないんだよ!)
インデックス 「たとえ姿を消そうと、気配を消そうと、関係ない……」
インデックス 「魔術を行使している時点で、このわたしから逃げることなんかできないんだから!」
404 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:05:34.67 ID:ygle3h.o
………………
佐天 「大丈夫ですか?」
雲川 「ああ……少し身体が痺れるが、問題はないようだけど」
男 「………………」 (良かった。僕が指輪を破壊した途端、目が覚めてくれて)
佐天 「もう少しの間安静にしていましょう。私の膝で良ければいくらでも貸しますよ」
雲川 「そうさせてもらおうか。膝枕など初めての経験だしな」
男 「……佐天さんが来てくれて助かりました。まさか僕がそんなことをするわけにもいきませんしね」
佐天 「はは……さすがに犯人のところに私も一緒に行くわけには行きませんからね」
佐天 「でも、こういう形でも役に立てるのなら嬉しいです」
雲川 「おや。私はべつにお前の膝でもいいのだけど。『幸福御手』」
男 「残念ながら、僕から願い下げです」
雲川 「相変わらず顔に似合わず辛辣な奴だけど」
男 「……先輩」
雲川 「ん?」
男 「………………」 ペコリ 「……事件に巻き込んでしまい、申し訳ありません!」
405 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:10:41.99 ID:ygle3h.o
雲川 「………………」 ハフゥ 「……まったく。苛つくくらいの善人だけど」
雲川 「気にしてはいない。むしろ、怪しい連絡に興味本位でヒョコヒョコやって来た私にも問題がある」
雲川 「……それでもお前が気に病むというのなら、」 フッ 「今度フルーツサンドでも奢ってくれればいいけど」
男 「………………」 フッ 「……先輩らしいです。分かりました。約束します」
男 「……佐天さん。ごめんなさい。僕はそろそろ行かなくちゃ」
佐天 「男さん……」
男 「厚顔無恥と笑うのなら笑ってください。罵ってくれても構いません」
男 「僕はもう風紀委員じゃない。けど、守りたい人が、救いたい人が……いるんだ」
佐天 「………………」 フッ 「……行ってらっしゃい、ヒーローさん」
男 「……はい!」 (僕のこと……まだ “ヒーロー” って呼んでくれるんだ……)
ダッ――
雲川 「……ふん。善人め。聞いてるこちらが恥ずかしいセリフを長々と」
ディズ 「それは言わないお約束、よ」 バサッ 「任せたわよ、涙子!」
佐天 「うん」 グッ 「ディズちゃんも気をつけてね!」
佐天 「………………」 フッ 「……良かった。元の男さんに戻って」
ニコッ
佐天 「でもまぁ……私の友達をあんなに悲しませたんだから、」
佐天 「――後でグーパンチ三発は覚悟しておいてくださいね、男さん」
雲川 「……なるほど」 フゥ 「我がことでもあるとはいえ、女とは怖いものだけど」
406 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:16:30.42 ID:ygle3h.o
………………
タタタタタ……
男 (そうだよ……僕は……!)
男 (僕は、いつだって間違えてきたんだよ……!)
男 (今回もまた、間違えてしまった……けれど!)
男 (いつもいつも、そこで止まらなかったから……前に進み続けたからッ!)
男 (だから僕は、今の僕でいられるんだ……)
男 「……責任とか、謝罪とか、そんなのは後でいい……今は……――」
男 「――ただ前に進み、事件を解決するために全力を尽くすだけだッ!!」
男 (ネムサスがパスを残してくれている……それを追えば……!)
男 (だから、そう……) グッ (その後ために必要なことを全てをしておかなければ……!)
男 「ディズ! 君は急いでこの近辺のネコを集めてくれ! できるだけ多く!」
男 「僕の 『幸福御手』 のパスを辿れば、僕に追いつくことができるはずだ!」
ディズ 「………………」 コクン 「……分かったわ。あんたを信じるからね、男!」 ――ビュン!!
男 「……ああ、絶対に応えるよ、その信頼に……!」
スッ……ピッ……prrrrr
男 「それから、もう一つ……」 ギリッ 「“あの人” に、話を聞かなくては……!」
407 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:19:19.90 ID:ygle3h.o
………………放棄された研究所
シスター 「ふぅ。まさかあんな邪魔が入るなんてね。この隠れ家を用意しておいて正解だったわ」
シスター 「……この街の学生を舐めすぎていたってことかしら」
シスター 「いかに大人に搾取されていようと、この街は “学生の街” ということなのね」
シスター 「………………」
シスター 「……忌々しい。所詮大人に利用されるしかできない子どもの分際で」
?? 「――そんなことはないんだよ!」
シスター 「っ…… 『禁書目録』 ! 何故ここが……!?」
インデックス 「簡単なことだよ! その術式で姿を消そうと、魔術の痕跡までは消すことはできないもん!」
インデックス 「それを追うことなんて、『禁書目録』 には造作ないことなんだよ!」
シスター 「っ……どいつもこいつも……化け物やミュータントの分際でッ……!」
インデックス 「あなたは何故そんな酷いことが言えるの! それがロシア成教の教えなの!?」
シスター 「必要悪の魔導書庫が! 何を吠えるというの!」
408 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:20:53.21 ID:ygle3h.o
インデックス 「わたしは知ってるんだよ! この街に住む、たくさんの優しい能力者を!」
インデックス 「ある人は、探し人をしていたわたしに親切にしてくれた」
―――― 『チッ、メンドくせェ』
インデックス 「ある人は、わたしにご飯を食べさせてくれた」
―――― 『シスターシスター、少し食べ過ぎだぞー』
インデックス 「ある人は、わたしの友達になってくれた」
―――― 『あ、あのあの……これ、本当に着るんですか?』
インデックス 「ある人は、助けがほしいときに助けてくれた」
―――― 『早く行きなさいよ。あの連中、私が引き受けるから』
インデックス 「……ある人は、行き倒れたわたしを助けてくれた」
―――― 『もしもし!? もしもし!? 大丈夫ですか!?』
インデックス 「そしてあの人は……わたしを救ってくれた」
―――― 『まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!』
インデックス 「わたしは、そんな沢山のみんなに助けられて、今ここにいることができるんだよ!」
409 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:24:01.42 ID:ygle3h.o
インデックス 「……みんなみんな、何かに必死になって、何かを成そうとしてて……」
インデックス 「それでもわたしを助けてくれた! わたしに優しくしてくれた!」
インデックス 「わたしは神の教えを信じてる! でもそれと同じくらい、」
インデックス 「――この街の子どもたちも信じているんだよっ!!」
シスター 「ぐっ……」 ギリッ 「……うるさいうるさいうるさい!! 魔導書庫風情がほざくなッ!!」
シスター 「わたしは決めたんだよ! 無念のうちに死んでいった弟のために、そんな弟と同じような状況にいる信徒のために!」
シスター 「この街の科学力を戦争によって解放し、最高の医学を全世界に提供するとッ!!」
インデックス 「そんな方法しかないわけないっ! もっと誰もが幸せで、笑顔でいられる方法があるはずだよ!」
インデックス 「信じて! 我らが父を……そして、この街に住まう230万人の子どもたちをっ!」
シスター 「……うるさい……ッ」 ガシッ 「……馬鹿ね、『禁書目録』。こんな場所に一人で来るなんて……」
シスター 「ここは放棄された研究所……凶器ならたくさんあるわ……」
……ブゥン!!
インデックス 「っ……」 ギュッ
――――――ガッ!!
410 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:26:37.15 ID:ygle3h.o
シスター 「っ……!?」 バッ
インデックス 「へ……?」 ソロリ…… 「とう、ま……?」
?? 「ごめん。生憎と僕は上条くんじゃない」
ポイッ……カランカラン……
?? 「けど、君を守るよ。上条くんと約束したからね」
?? 「君がきっと、上条くんの大切なひと、っていうことだろうから」 ニコッ
インデックス 「ねこあひるのひと!!」
男 「遅くなってごめん。ネムサスの脳波のパスを拾うのに時間がかかったんだ」
ネム 「インデックスがこの場所を割り出してから、付近のネコを電波塔にしてパスを出したんだから仕方ないでしょ」
インデックス 「あっ……」 ハッ 「や、やっぱりダメなんだよ、ねこあひるのひと!」
インデックス 「これはわたしたち魔術サイドの問題だもん! 科学サイドの君をこれ以上巻き込むわけにはいかないかも!」
男 「いや、悪いけどそれは君のワガママだ。聞き入れられないよ」
インデックス 「え……?」
男 「さっきも言っただろう。僕は上条くんと約束してしまったんだ。この街をのすべてを守るってね」
男 「ここで僕だけがすごすご引き下がって、君に危ないことをさせたら、彼に怒られちゃうよ」
411 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:27:35.55 ID:ygle3h.o
インデックス 「ねこあひるのひと……」
男 「それに、」 フッ 「これは、僕個人の事情でもあるしね」
男 「――ねぇ、姉さん?」
シスター 「……まだわたしを姉と呼ぶのね、あなたは」
シスター 「たしかに姉弟の契りを利用した魔術はまだ解いていないけど、それももう意味を成すようななものではない」
シスター 「なに? わたしへの嫌がらせのつもりかしら?」
男 「………………」
ニコッ
シスター 「ッ!?」 ザッ 「な、何!? 何なのよその笑顔は!!」
男 「……そんなの決まってるでしょ?」 フッ 「聞き分けがない姉さんに対する、やれやれって笑みだよ」
シスター 「ッ……!?」
男 「姉さん、僕はね、みんなの幸せを願う者なんだ。そうでなければならないんだ」
男 「今回、僕はたくさんの人を傷つけた。白井さん、固法さん、初春さん、佐天さん、風紀委員のみんな……」
男 「それからクラスメイトのみんな、そして……」 チラッ 「ネムサスとデイジィも」
ネム 「………………」
412 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:28:55.33 ID:ygle3h.o
男 「……そうやって、多くの人を傷つけて、でも姉さんを守ってるつもりだった」
男 「けれど、違った。僕は姉さんの魔術にかかって、姉さんを追い込んでいただけだったんだ」
シスター 「っ……あなたは……っ」 ギリッ 「この期に及んでまだそんなことを言うの!?」
男 「僕は風紀委員だったんだ。姉さんも、しっかりと守ってあげなくちゃならなかったんだよ」
男 「けれど僕は、全てを見失って、姉さんにここまでさせてしまった」
――……グッ
男 「だから、せめて姉さんを止めるよ。そして、その不幸を吹き飛ばしてみせる」
男 「……そのために、真実を教えるよ」
シスター 「……真実?」
男 「一年前、姉さんの本当の弟さんが亡くなった、その真実を」
シスター 「!? し、真実なんてない! 全て起こったことのままよ!」
男 「そうだね。けれど、ねじ曲げられたことがあったんだ……僕はそれを、“あの人” から聞いた」
男 「―― 『冥土帰し』 から、ね」
シスター 「なッ……!?」
413 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:29:56.98 ID:ygle3h.o
………………数分前
タタタタタ……
prrrrrrr……ガチャッ
?? 『もしもし?』
男 「良かった……出てくれた!」 タタタ…… 「先生ですよね!?」
?? 『……いきなり叫ばないでくれないか? 耳が痛い』 フゥ
冥土帰し 『まぁ、僕は多分君がいうところの先生だよ。カエル顔のね』
男 「風紀委員の男です! 突然のお電話すみません!」 タタ…… 「どうしても聞きたいことがあって!」
冥土帰し 『? 走っているのかい? 危ないよ?』
男 「大丈夫です! あの、時間がないので単刀直入にお聞きします」
男 「―― 一年前、ロシアのとある少年の治療を断ったというのは本当ですか!?」
冥土帰し 『………………』 フゥ 『……あの時のことか』
男 「!? やっぱり、憶えがあるんですね……!」
冥土帰し 『………………』 コクッ 『……あるよ。あまり思い出したくはないがね』
男 「……何で……!」 ギリッ 「何で治療を断ったりしたんですか!?」
414 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:31:07.55 ID:ygle3h.o
冥土帰し 『………………』 フゥ 『……君には前に一度だけ話したよね?』
男 「……?」
冥土帰し 『「僕はそれが誰であれ生きている人間ならば絶対に助けてみせる」 ってね』
冥土帰し 『そして僕は今までずっと、とある一件以外の全ての患者を救ってきたつもりだ』
冥土帰し 『けれどね、そもそも “医療” という戦場に立たせてもらえないこともある。胸くそ悪いことだがね』
冥土帰し 『……彼の姉から悲痛なメールが届いたとき、僕は何を考えるより先にロシア行きの航空券を手配した』
冥土帰し 『もちろん、彼の治療をしに、ロシアへ向かうためにね』
冥土帰し 『……けれどそこで邪魔が入った』
男 「学園都市の上層部ですか?」
冥土帰し 『いいや。彼らはいい顔こそしなかったものの、僕にはそれを黙らせるだけのツテがあったからね』
冥土帰し 『問題だったのは、ロシアの方さ』
男 「ロシア……?」
冥土帰し 『ロシア成教の司教……忘れもしない。ニコライ=トルストイという司教がね』
冥土帰し 『あろうことか、国家権力さえ動かして、僕の入国を拒んだんだ』
男 「は……?」 ゾクッ 「な、何で……? だって、その人はロシアの人なんでしょ……?」
415 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:33:42.86 ID:ygle3h.o
冥土帰し 『その旨を伝える文面には簡潔にこう書かれていたよ』
冥土帰し 『――ロシア成教の敬虔なる信徒を行き過ぎた自然科学に預けるわけにはいかない、とね』
男 「ッ……!?」
冥土帰し 『……宗教とは、一体何だろうね?』
冥土帰し 『僕は、患者が良好で健やかな生活を取り戻すための手段として、宗教というものを高く評価している』
冥土帰し 『信じるものがあるというのは素敵なことだよ。それが神であれ、科学であれ、ね』
冥土帰し 『……けれど、あの時ばかりは呪ったよ。宗教そのものが悪くないと分かりつつ、僕は十字教を呪った』
冥土帰し 『ニコライ=トルストイは恐らく、そのとき宗派内での大きな契機の中心にいたんだろう』
冥土帰し 『だから科学を排斥し、宗教の優位性を示したかったのだろうね』
冥土帰し 『そして、ロシア成教内での己の地位を固めようとしたんだ』
冥土帰し 『……けれど、そんな一個人の欲望のために、救うべき少年の命は奪われたんだ』
男 「………………」 ギリッ 「……姉さん……」
冥土帰し 『そしてきっと、ロシア成教はそれを学園都市……僕が突っぱねたのだと伝えたのだろう』
冥土帰し 『僕は所詮ただの医者さ』 ギリッ 『…… “医療” という戦場に立てなければ、何もできない……!』
416 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:34:49.19 ID:ygle3h.o
………………
男 「……これが全部だよ。これが真実だよ、姉さん」
シスター 「……――そ、よ」 ガタガタ 「嘘よ……嘘よッ!!」
男 「嘘じゃないんだ! あの人はそんなくだらない嘘をつくようなひとじゃない!」
男 「ニコライ=トルストイという人を知らない? その人が全て知っているよ!」
シスター 「だ、だって……司教様は……学園都市に、断られたからって……」
シスター 「優しい、笑顔で……弟と、わたしに……祝福を……」 ガタガタガタ……
インデックス 「………………」 グスッ 「……酷い人! 聖職者の風上にも置けないんだよ!」
男 「………………」 ギリッ 「……姉さん、先生から、伝言を預かってある」
シスター 「伝言……?」
―――― “……君がどういう状況にあるのか、僕には分からない。何故君が一年前のことを知っていたのかも”
―――― “けれど、もし君が彼の何かに関わっているというのなら……一つだけ頼みがある”
―――― “彼の遺族に会ったなら伝えてくれ――……”
―――― “……――申し訳なかった、と。ごめんなさい、と”
シスター 「………………」 ガタガタガタ…… 「うそ……そんなの……」
男 「……泣いてたよ。あの人」 グスッ 「……力が及ばず、治療できなかったことを、本気で謝ってたよ」
シスター 「……わたし、は……」 ブルブル…… 「わたしは……」
417 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:37:46.67 ID:ygle3h.o
男 「姉さん……もうやめよう?」
男 「こんなことをしても誰も幸せにならないよ」
シスター 「………………」
男 「姉さん!」
シスター 「………………」 フルフル 「……ダメよ……」
男 「!? 何でだよ……」
シスター 「わたしは、あなたを裏切ったのよ……?」
男 「そんなの関係ないよ! 僕は姉さんを救いたいんだ!」
シスター 「何で……何であなたは、そんなに優しくしてくれるの?」
男 「………………」
フッ
男 「……それはこっちの台詞だよ、姉さん」
シスター 「へっ……?」
男 「だって、姉さんは僕を利用できればそれで良かったんだろう?」
男 「それなのに、何で姉さんはわざわざ僕をロシアに行こうって誘ったりしたのさ?」
418 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:43:36.67 ID:ygle3h.o
シスター 「そっ……それは……」
男 「それ以外にだって不思議なことはあるよ。わざわざクラスメイトとの仲直りを勧めてくれたり、」
男 「あまつさえ、敵であるはずの風紀委員との仲直りまで進言してくれた」
男 「それに、貝積氏を殺すために学園都市に残っていたのなら、わざわざ礼拝を開く必要もなかったはずだよ」
男 「……ロシア成教を信じる人たちのためだよね? そのために、姉さんはムリしてひとりで礼拝を開いていたんだよね?」
シスター 「………………」
男 「……姉さん、改めて僕から聞かせてね?」
男 「何で姉さんは、僕に、そしてこの街のみんなに、そんなに優しくしてくれたの?」
シスター 「っ……」
男 「姉さん……姉さん!」 グッ 「今からなら、やり直せるんだよ!」
男 「貝積氏のところへ行ったって無駄だよ! 警備はきっと厳重になってる!」
男 「行ったって姉さんが殺されるだけだ……ッ!」
シスター 「………………」 フッ 「……ごめんね、男」
シスター 「それでも、わたしは……ロシア成教を裏切ることはできない」
シスター 「今からでも、わたしは貝積継敏を殺しに行く」
シスター 「わたしがやらなきゃ、サーシャやワシリーサに……」
シスター 「…… 『殲滅白書』 のみんなに、迷惑がかかってしまうから……」
男 「姉さん……」
シスター 「……ごめんね、男」 ニコッ 「……ありがとう。もう、いいのよ」
419 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:48:21.78 ID:ygle3h.o
男 「………………」 ギリッ 「よくなんか、ない……!」
男 「……僕は、」
ギリッ
男 「僕は……もう、風紀委員じゃない」
男 「仲間を信じることが出来ずに酷いことを言ってしまった」
男 「腕章も、誇りも、責務も、何もかも投げ出して、逃げてしまった」
男 「僕はもう、風紀委員じゃない。姉さんを止める義務も、ひょっとしたら権利すらないのかもしれない」
シスター 「………………」
男 「でも、それでも僕は……」
―――― 『幸福御手』
―――― “幸せを作り、育み、守る者”
男 「僕は、もうすでに、姉さんの弟ですらない、ただの、学園都市の一学生だよ」
男 「それでも、僕は……」 ギリッ 「姉さんを、守りたい……!」
男 「――――今まさに死に向かっている命を見逃すことなんてできないッ!!」
グッ……ググッ……!!!
男 「姉さん。あなたがまだ、一年前の不幸から抜け出せていないというのなら……」
男 「――まずはその不幸を吹き飛ばす!!」
427 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 22:56:02.05 ID:FEKlpVYo
シスター 「………………」 ガシッ 「……そう。なら、わたしは今一度あなたを敵として認識するわ」 スッ
シスター 「そして敵として、あなたを殺さない程度に傷つけ、気絶させて、それから貝積継敏の元へ向かう」
インデックス 「ねこあひるのひとに、十字架の霊装を破壊させないためだね?」
男 「………………」
インデックス 「ねこあひるのひとが死んでしまったら、“弟” の属性を持つひとがいなくなり、魔術が行使できなくなる」
インデックス 「そして、ねこあひるのひとが十字架を破壊しても、それは同じ事」
シスター 「……ええ、その通り。だからわたしは、男、」 ギリッ 「あなたを倒し、前へ進む」
男 「………………」 グッ 「……ああ、望むところだよ。僕は姉さんを守るために立ち向かうだけだ」
男 「貝積氏が姉さんに殺され、そして姉さんが学園都市に殺される……」
男 「そんな最悪の状況を回避するために……!!」
シスター 「………………」 ニコッ 「……とてもいい返事だわ。それでこそ、わたしの弟ね」
シスター 「なら、わたしもその覚悟に報い、名乗りましょう……」
シスター 「――……ロシア成教 『殲滅白書』 がメンバー…… 『懺悔を明日へ繋ぐ者(Paenitentia333)』」
シスター 「この、魔法名にかけて……!」
男 「――……学園都市の学生、『幸福御手(ピースメーカー)』」 スッ 「幸せを守る者として……!」
428 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 22:56:48.50 ID:FEKlpVYo
インデックス 「ねこあひるのひと! あのひとがスタンガンや拳銃を使ったことから考えて、」
インデックス 「きっとあのひとには攻撃性の術式は使えないんだよっ!」
インデックス 「だから何としても……何としてもあのひとを止めてあげてっ!」
男 「ありがとう、インデックスさん……! 行くぞネム!」 ダッ!! (僕はなんとしても、姉さんを……!)
ネム 「ええ……!!」 タッ
シスター 「………………」 フッ 「……ええ、そうね。わたしはサーシャやワシリーサのように攻性に優れてはいないわ」
シスター 「けれどね、『禁書目録』 。ならば何故、わたしが 『殲滅白書』 のメンバーに入っていたと思う?」
インデックス 「えっ……?」
シスター 「――……彼女らにはない特性……スパイとしての能力に長けていたからよ」 スッ
シスター 「さっきあなたも見ていたはずだけど?」
インデックス 「!? まさか……同一民話内で、同じ意味づけを行使するなんてこと、できるはずが……!」
シスター 「『ミルクの川さんミルクの川さん、お助けを。悪いお婆のお鳥が追ってくるよ』」
インデックス 「……!!」 (『強制詠唱』 は……ダメっ! 間に合わない……っ)
ペロッ
――ヴン
男 「は……?」 ――ピタッ 「ね、姉さんが……消えた!?」
ネム 「っ……! さっきと同じ……!?」
429 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 22:57:41.38 ID:FEKlpVYo
インデックス 「慌てないで、ねこあひるのひと! そのひとはただ “姿を消している” だけだから」
男 「“姿を消している” ……? どういうこと?」
インデックス 「『姉と弟』 と同じロシア民話…… 『鵞鳥白鳥』 だね?」
?? 『へぇ……さすがは 『禁書目録』 。何もかもお見通しですか』
男 「姉さん……!?」 キョロキョロ 「今の声……どこから……!?」
インデックス 「一度術式を使っていたから、油断していたかも。物語特有の “繰り返し” で術式を構成しているんだね」
インデックス 「……ねこあひるのひと、 『鵞鳥白鳥』 っていうのは、弟を助ける姉のお話だよ」
インデックス 「悪い婆……この国で言う山姥のようなひとにさらわれた弟を姉が助けるの」
インデックス 「姉弟は婆が遣わせた鳥に追われ、けれど色々な物の助けを借りて、姿を隠して逃げきることができた」
インデックス 「……そんな昔話だよ」
男 「なるほど。今度はその昔話の魔術を使って、姿を隠しているっていうことか」
インデックス 「……ロシア民話に関する、『姉弟』 の術式のエキスパートなんだね、あなたは」
シスター 『ふふ…… 『禁書目録』 そこまで言っていただけるとは、光栄です』
インデックス 「手の甲にリンゴやミルクの成分を塗っておいて、それを舐めることで術式を発動してるんだね」
インデックス 「……すごく上手な隠蔽の仕方かも。敬意すら表したいくらい、見事な簡略化だと思うよ」
430 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 22:58:41.01 ID:FEKlpVYo
ネム 「っ……ダメだわ! 音からもシスターの位置が探れない!」 ニャッ
シスター 『それはそうでしょうね。だってこれは魔術だもの。隠すのは視覚的な情報だけじゃないわ』
インデックス 「その通りなんだよ、ねむさす。あらゆる情報を隠すから、姉は弟を連れて逃げることができたんだから」
インデックス 「分かるでしょ? 声だって、どこから聞こえてるのか分からないようになってる」
シスター 『ふふ……そしてあなたの全知識を総動員しても、わたしの位置を完全に把握することはできないでしょう?』
インデックス 「……何もかもお見通しってわけだね。その通りだよ」
インデックス 「大まかな足取りは追えても、さすがに精査まではできないんだよ」
男 「………………」
シスター 『ふふ……どうする、男? あなたにもわたしの姿がまるで見えないはずだけど?』
男 「……そうだね。姉さんがどこにいるのか全く分からない。声も色々な方向から聞こえてくる気がするよ」
シスター 『ええ……』 ニコッ――
――――ブゥン!!
シスター 「――……そうでしょうね……ッ!!」
男 「ッ……!?」 ザッ!! (背後か――――)
――――ドガッ!!
431 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 22:59:58.07 ID:FEKlpVYo
男 「がッ……!!?」 ガクッ (危なかった……反応が遅れたら、後頭部に直撃するところ、だった……)
シスター 「……反射神経が並はずれていいのね」 ニコッ 「さすがはわたしの弟だわ」
シスター 「けれど、鉄パイプが肩に直撃したでしょう? かなりのダメージなのではないかしら?」
男 「そんなこと……ッ!?」 ビキッ!! 「くっ……それでも……ッ!」 ヨロ……
シスター 「……まったく。諦めが悪いところも、あの子そっくりなんだから」 ギリッ
シスター 「わたしはただ、あなたに眠ってもらえればそれでいいだけ。無駄なことはやめてちょうだい」
シスター 「『プディングの岸さんプディングの岸さん、お助けを。悪いお婆のお鳥が追ってくるよ』」
ペロッ
――ヴン
男 「っ……また消えた……!」
インデックス 「ねこあひるのひと! この魔術を破壊するには、あなたが付けている十字架を壊せばいいかも!」
インデックス 「そうすればあなたに備わっている “弟” の属性が解けて、あのひとは魔術が使えなくなるんだよ!」
男 「インデックスさん……」
―――― 『それね、死んじゃった弟の形見なの』
―――― 『いいの。それは、男に持っていてもらいたいから』
男 「……ッ!」 フルフル 「……ダメだよ。これは壊せない。これだけは、壊してはいけないんだ」
432 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:00:45.96 ID:FEKlpVYo
インデックス 「ねこあひるのひと……」
シスター 『………………』 フッ 『……あなたは甘いわね、男』
男 「………………」 ニコッ 「……そうだよ。僕は姉さんに甘いんだ。弟だからね」
男 「けど、大丈夫だよ、インデックスさん」 グッ 「この魔術を破る算段はついた」
インデックス 「!?」 グッ 「さすがはとうまの友達なんだよ!」
シスター 『……そう。なら、やってみるといいわ!』
男 「………………」 (来る……!!)
男 「……ネム!」
ネム 「分かってるわ!!」
シスター 『どうあがこうと、わたしの姿を捉えることはできないのよ!!』
――――ブゥン!!!
インデックス 「――ねこあひるのひとっ!!」
――――――――……ガッ!!!
433 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:01:40.12 ID:FEKlpVYo
インデックス 「………………」 ペタン 「す……すごいんだよ……」
男 「………………」
シスター 「………………」
シスター 「………………」 ギリッ 「……な、何故……?」
シスター 「どうして……攻撃を受け止めることができたの……!?」
男 「……やっぱり。馬鹿正直にまた背後から攻撃してくると思った」
ググッ……
シスター 「た、たとえ背後から攻撃が来ると分かっていても、タイミングまでは分からないはずよ!?」
男 「……たしかに、気配も何もなく、いきなり鉄パイプが振り下ろされるからね。予知のしようがない」
男 「けれどね、姉さん。その魔術には決定的な穴があるんだよ」
シスター 「穴、ですって……?」
男 「まぁ、本来は穴と呼ぶべきではないんだろうね。だって、それは “逃走用” の魔術でしょ?」
シスター 「……?」
男 「『鵞鳥白鳥』 の物語を聞いて思ったんだ。姉と弟が姿を消すのは、逃げているときのことだよね?」
男 「だったら、“逃げ” から “攻撃” に転じたとき、魔術はどうなるんだろうって思ったんだ」
シスター 「!?」
434 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:02:55.93 ID:FEKlpVYo
男 「……そして、一撃目でその疑問は確信に変わったよ」
男 「――その魔術は、逃げているときにしか使えないんだよね?」
シスター 「………………」
男 「だって、一撃目に僕を殴ろうとしたとき、姉さんは姿を現していたから」
男 「それまでは気配も何も感じられなかったのに、突然鉄パイプの風切り音がして、姉さんが背後に現れた」
男 「……それに、ただ姿を消せるっていう便利な魔術があるのなら、わざわざ雲川先輩を利用するまでもなく、」
男 「その魔術で貝積氏のところへ向かえばよかっただろうしね」
シスター 「……さすがね。男。よくそこまで分かるものだわ」 ギリッ
シスター 「けれど、今のは完全にあなたの不意をついたはず……! それをあなたは受け止めた!」
シスター 「たとえ攻撃の瞬間に姿を現すことが予見できたとしても、受け止められる攻撃ではなかったはずよ!」
男 「……まぁ、ね」 フッ 「彼女の助けがなければ、僕は今、きっとここに倒れ伏しているだろうね」
シスター 「彼女……?」 チラッ 「……!? ま、まさか……」
ネム 「――ふん。わたしのことを忘れていたって顔ね」
シスター 「ね、ネコに一体なにができるっていうの……!?」
男 「色々とできるよ? 普通のネコじゃない、僕の脳波がインプットされている彼女なら、」
男 「――――たとえば、そう。僕との “感覚領域の共有” とかもね」
435 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:03:47.77 ID:FEKlpVYo
インデックス 「“感覚領域の共有” ……?」
シスター 「……!? あなた、まさか……!」 ビグッ 「――ネコの視界を借りたっていうの!?」
男 「よく分かったね。その通りだよ」 ニコッ 「僕とネムは常時強力な脳波のパスで繋がっている」
男 「そして、脳波に関してはほぼ同じ。できるかどうかはイチかバチかだったけど……」
ネム 「……ふん。何年も四六時中一緒にいるのよ? わたしたちにできないことなんてないわ」 ニャッ
ネム 「私は男の背後をずっと見続けていた。あんたがいつ現れてもいいようにね」 ニャー
男 「そしてネムサスの網膜で生成された視覚情報を、『猫鶩ネット』 を通じて僕の脳へと運び、映像とする」
男 「……だから僕は、自分の背後の情報を主観的に読み取り、素早く反応することができたんだ」
インデックス 「す、すごいんだよ! お目々が四つってことなのかも!」
男 「……姉さん、その魔術は破ったよ。これでもまだ諦めない?」
シスター 「……ッ」 バッ 「……それでも……それでもわたしは……!!」
男 「っ……!」 ザッ……!! 「姉さん……!」
シスター 「……最後よ。これで、あなたを倒す……!」
シスター 「『ペチカのおばさんペチカのおばさん、お助けを。悪いお婆のお鳥が追ってくるよ』」
ペロッ
――ヴン
436 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:04:47.37 ID:FEKlpVYo
男 「………………」 ギリッ 「……ネムサス!」
ネム 「………………」 コクッ
男 「……姉さん、僕らにはもう一つ奥の手がある」
シスター 『………………』
男 「それでもまだ、戦うっていうんだね」 フッ 「……なら、やろう、ネム!」
ネム 「ええ!!」
キィ……キィィィィンンン!!!
インデックス 「ねこあひるのひと……」 グッ 「がんばって! 負けないで!」
男 「………………」 ニコッ 「……大丈夫。絶対に負けない!」
シスター 『……これが最後よ』
――――――……カンッ!!
男 「……!?」 ビグッ 「石……? 」 ハッ 「しまっ……!?」
……バッ!!
シスター 「――――これで……!!」
ブゥン!!
437 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:05:25.97 ID:FEKlpVYo
シスター (これなら、絶対に……避けることも、受け止めることも……)
シスター (……ごめんね、男……)
男 「………………」
ニコッ
男 「……なんて、ね」
グルッ……ザッ……!!
――――ガギッ!!
シスター 「は、ぁ……!!?」 (あの状態から避けた!? 今の動きは……!)
男 「――――姉さん、」 ザッ……!!
シスター 「っ……!?」
男 「……これで、終わりにしよう……!!」
……ブゥン!!
――――――ドゴォォオオッ!!!
438 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:06:37.43 ID:FEKlpVYo
シスター 「………………」 フッ 「……ごめん、ね……みんな」
――パタン……
男 「………………」 ハァ、ハァ、…… 「……っ」 ガクッ
インデックス 「ねこあひるのひとっ!!」 トト…… 「大丈夫?」
男 「うん……大丈夫だよ」 ニコッ 「僕の……いや、僕らの勝ちだ」
男 「力を貸してくれてありがとう、インデックスさん。それから、ネム」
インデックス 「うん! どういたしまして、なんだよ!」
ネム 「……ふん」
インデックス 「……でも、最後は驚いたんだよ」 グッ 「ねこあひるのひとの動きが凄まじかったかも」
インデックス 「なんか……まるで、ネコみたいな……」
男 「………………」 フッ 「……まぁ、ね。ネコの動作をトレースしたわけだし。ね、ネムサス」
インデックス 「えっ……?」
ネム 「……私の脳の運動領域のアルゴリズムを利用しただけよ」
ネム 「まぁ、あくまで肉体は人間なわけだから、ネコの動作を取り入れて、少しだけ俊敏性を上げるって程度だけど」
男 「それでもあの一瞬がなかったら僕は負けてたよ」 ニコッ 「だからありがと、ネムサス」
ネム 「っ……」 ポッ 「……べっ、べつに、まだあんたのことを許したわけじゃないんだからねっ」
男 「それは、そうだろうね」 フッ 「……みんなにも、しっかりと謝らなきゃ」
439 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:08:40.62 ID:FEKlpVYo
………………
シスター 「っ……!」
男 「あっ……」 スッ 「起きた? 姉さん」 ニコッ
シスター 「男……」 フッ 「負けちゃったのね、わたし……」
男 「……うん」 コクン
シスター 「……そっかぁ」 ハフゥ
男 「………………」 ギュッ 「……したことがしたことだから、もちろん無罪放免というわけにはいかない」
シスター 「……うん」
男 「姉さんは学園都市当局に預けることになるけど……安心して」
男 「信頼のおけるアンチスキルのひとに、しっかりと姉さんのことをおねがいするから」
男 「……そして、刑期を終えたら……」 ギュッ 「今度こそ、ロシアへ行こう?」
男 「僕はそっちに住むことはできないけど、色々と案内してほしいな」
シスター 「ん……」 ニコッ 「ありがと、男。あなたは、本当に――――」
?? 「――――愚かしい、としか言いようがないと思うけどね?」
インデックス 「!!?(いつの間に……!?)」 バッ 「あ、あなたは……」
ネム 「……?」 ジッ 「……赤い髪、タバコ、長身……神父?」
?? 「……やあ」 フッ 「……それから、そちらの二人は初めましてかな」 ジッ
ステイル 「――イギリス清教 『必要悪の教会』 所属……ステイル=マグヌスだ」
440 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:10:21.28 ID:FEKlpVYo
男 「イギリス清教……!?」 バッ
インデックス 「身構えないで! 大丈夫。『必要悪の教会』 はわたしの所属だから」
男 「インデックスさんの?」 ホッ 「……なんだ。ビックリしちゃったよ」
ステイル 「………………」 フン 「……その安心の意味が、僕にはまったく分からないけどね」
インデックス 「……どういう意味?」
ステイル 「本当に分からないのかい? 僕はそちらのシスターをイギリスへ連れていくつもりなんだけどね」
男 「!? ど、どういうことですか!?」
ステイル 「……学園都市上層部の許可も得てある。ほら」 ピラッ
ステイル 「まぁ、魔術師なんて厄介なもの、こちらに押し付けたいというのが上層部の本音だとは思うけどね」
ステイル 「ともあれ、ロシア成教 『殲滅白書』 のシスター。君にはイギリスで色々と喋ってもらうことになる」
シスター 「………………」 フッ 「……わたしが、祖国を…… 『殲滅白書』 を裏切るとでも?」
ステイル 「………………」 スパ……フゥ 「……まぁ、そう言うだろうとは思っていたさ」
男 「な、なら……――」
ステイル 「――そう。ならば無理矢理にでも聞くしかないな。『必要悪の教会』 らしいやり方、」
ステイル 「すなわち」 ニィ 「拷問なりなんなりを用いてでもね」
441 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:11:15.74 ID:FEKlpVYo
インデックス 「なっ……!?」 キッ 「本気なの!?」
ステイル 「おいおい、ほんの数時間前までロンドン塔にいた僕にそれを訊くのかい?」
ステイル 「ローマ正教とロシア成教が手を結んだことが分かったからね」
ステイル 「イギリス清教としても、手段を選んではいられないんだよ」
男 「っ……」 グッ……!!
ステイル 「おっと、それ以上の無茶はやめた方がいい。身体も限界だろう?」
ステイル 「それに、これは僕ら 『魔術師』 の問題だよ? 君たちには関係のないことのはずだ」
ステイル 「学園都市の許可は出ているといっただろう? ヘタに動けばただでは済まないだろうね」
男 「ぐっ……」 ギリッ
インデックス 「………………」 ボソッ 「……――んな、こと……」
ステイル 「ん?」
インデックス 「……そんなこと、わたしが許さないんだよ!」 タッ……
男 「インデックスさん……!?」
トトトト……バッ!
インデックス 「わたしは、ここから先、一歩もあなたを進ませない!」
442 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:12:19.14 ID:FEKlpVYo
ステイル 「………………」 チッ 「……忌々しい。だから嫌だったんだ……」
インデックス 「………………」 ジッ
ステイル 「……っ」 スッ
――――――ットン!
インデックス 「はぇ……?」
……パタン
ネム 「!? インデックス!?」 ギロッ 「何をしたのよ!?」
ステイル 「ちょっと眠ってもらっただけだ。いちいち騒ぐな」
――――ゾッ
男 「!?」 (な……何だ? この、殺気のようなものは……)
ステイル 「僕はこんなことしたくなかったんだ。万が一にも、彼女を傷つけてしまうようなことは……」 ブルブル
ステイル 「……分かるか、ミュータント? 僕はね、この子にこんなことをしたくなかったんだよ……ッ」
男 「っ……」 (何だ……!? 胸が、圧迫されるような、この感覚は……)
男 (何か……何か分からない、圧倒的なものが……ステイルとかいう人の中から、溢れているような……)
443 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:13:29.51 ID:FEKlpVYo
ステイル 「……と、いうわけだ」 スッ 「そこをどけ。彼女は連れて行く」
男 「っ……!」 (たとえ……何であろうとも……! 僕がすることに変わりはない!!)
男 「……――ない……」
ステイル 「……なんだと?」
男 「聞こえなかったのか?」 ギロッ 「僕はどかないと言ったんだ。イギリス清教の魔術師」
ステイル 「………………」
男 「………………」
ステイル 「………………」 フッ 「……正直な話をしようか」
男 「……?」
ステイル 「僕にとって、イギリス清教の権益とか、敵対するローマとかロシアとか、そんなことはどうでもいい」
ステイル 「いけ好かない最大主教にそこまでの義理立てをする気はないし、意味もない」
ステイル 「……だけどね、僕はひとつだけ誓っているんだ」 ――ギリッ
男 「……っ!?」
ステイル 「僕はね……この子が万が一にも損害を受けるような状況を、絶対に良しとはしない」
ステイル 「彼女の安全を保障する……ただそれだけのために、僕はそのシスターを学園都市から連れ出す」
インデックス 「………………」
444 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:14:28.89 ID:FEKlpVYo
男 「インデックスさんのために……?」
ステイル 「そうだ。だからそこをどけ。殺そうというわけじゃない」
シスター 「……わたしはどんな拷問にも屈しませんけどね」
ステイル 「ならばそれ相応の処置を施すまでだ」
男 「………………」
シスター 「……男、どきなさい。これはもう、わたしたち魔術師の問題よ」
シスター 「わたしは敗北し、イギリス清教に引き渡され、信仰を試される」
シスター 「ただ、それだけのことだから」 ニコッ 「だから、そこをどきなさい」
男 「………………」
ギリッ
男 「……お断り、だ」 スッ 「たとえ、姉さんの言うことであったとしてもね」
シスター 「男!?」
ステイル 「………………」 フゥ 「……なるほど。君はまだ、魔術師の本当の怖さを知らないらしい」
ステイル 「ならばそれを教えてあげるのもまた、“必要悪” としての僕の義務なのかな」
……――ゾッ!!!
男 「ぐっ……!?」
ステイル 「安心しなよ。この子が悲しむから、殺しはしないさ」
445 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:15:37.56 ID:FEKlpVYo
シスター 「いけない……! 男、早く逃げなさい!!」
男 「………………」 ギリッ 「……逃げる、もんかッ!!」
ステイル 「……火傷程度で済めば僥倖だと、そう思うんだね」
スッ……ポイッ――
――――ドッッッッ……!!!!
男 「!? ほ、炎……?」 ゾクッ 「炎の、剣……!?」
ステイル 「君たちが大立ち回りをしている間に、この研究所全体にルーンをばらまかせてもらった」
ステイル 「……なんてことを君に言っても無意味か。ともあれ、見ただけでこれの恐ろしさは分かるよね?」
ステイル 「摂氏三千度の炎剣だ。触ればまぁ、簡単に消し炭になるだろうね」
男 「………………」
ステイル 「……戦意喪失、っていうところかな?」 フッ
ステイル 「ならいいさ。どっちみち、君はただの学生で、僕は戦闘のプロだ。君には何もできない」
ステイル 「あまり気落ちしないことだね。これは仕方のないことだから」
男 「………………」 ギリッ 「……何が、気落ちしないことだね、だ……!」
ステイル 「……?」
男 「……誰が諦めるって言った? 誰が戦意を失ったって言った?」
ギロッ
男 「――誰がここをどくと……誰が姉さんを渡すと、そう言った……!!!」
446 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:16:50.74 ID:FEKlpVYo
ステイル 「……っ」
ステイル 「……ふん、大した心意気だ」 スッ 「なら、少しだけ痛い目を見てもらうことにしようか」
男 「………………」 スッ 「……姉さん、少しだけ、待っていてね」
シスター 「男……ダメ……! ダメよ! あなた、殺されてしまう……!」
男 「死なないよ。死にたくないから。生きて、やらなきゃならないこともあるから」
ネム 「男……」
男 「ネムは姉さんについていてあげて。大丈夫。僕は負けない」 ニコッ
――ザッ……
男 「………………」 スッ 「……行くぞ」
ステイル 「……そう凄絶な顔をしなくてもいい」 ニッ 「君如き、殺し名を名乗る意味もないからね」
男 「……ふん」
――――……ダッ!!!
ステイル 「………………」 ハァ 「……まさかこの炎剣を目の前にしながら、真正面から飛び込んでくるとはね」
ステイル 「それは勇気ではない。蛮勇と呼ぶんだ」 スッ 「……前言撤回だ。殺さない方が難しいかもしれない」
447 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:19:19.32 ID:FEKlpVYo
男 「……っ」 (怯むな! 怖がるな! ただ前へ進むんだ!)
男 「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」
ステイル 「……ふん」
スッ……ゴォォォオオオオッッッ!!!
男 「くっ……!!」 (遊園地の時の炎とは段違いだ……密度が違う……)
男 (当たったらただじゃ済まないな……だけど、今の僕には、) グッ (この “左手” がある……!!)
男 (チャンスは一度きり。けれど、タイミングさえ合わせれば……!!)
――――ザッ!!
ステイル 「……?」
男 「今、だ……ッ!!」
……ブゥン!!
ステイル 「……!?」 (炎剣に拳を合わせるだと!? 死ぬつもりか……!?)
男 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
――――ボッ……カッ……!!!!
ステイル 「なっ……!?」 (炎剣を……ッ!?)
ステイル 「――炎剣を、左手で受け流しただとッ……!!?」
448 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:20:32.57 ID:FEKlpVYo
―――ズザッ!!!
ステイル 「!?」
男 「姉さんは……」
ググッ……ググググッ……!!!
男 「――姉さんは、僕が守るッッッ!!」
――ドゴォォォオオオオッッッ!!!!!
ステイル 「がッ……!!」 ガクッ 「ぐっ……」
――――……バタッ
男 「………………」 ハァ、ハァ、ハァ、…… 「熱っ……」
男 「……やっぱり、摂氏三千度じゃ、一瞬が限界か……」 グッ 「それでも、炎剣の軌道を変えるくらいはできた……」
スッ……
シスター 「お、男……? 今のは……」
男 「……先生がくれたんだ、この手袋」
男 「“急激な外的変化に対して、苛烈に元の状態を保持しようとする性質を持つナノマシン”」
男 「それが繊維の隅から隅までで働いている、特別製の手袋なんだよ」
男 「……僕が無茶をするからって、モニターも兼ねて先生がくれたものなんだ」
男 「だから姉さんのスタンガンを受けても、すぐに目覚めることができたんだよ」
449 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:21:22.80 ID:FEKlpVYo
ステイル 「………………」
ステイル (僕、は……) グッ…… (やはり僕は、弱い……)
ステイル (術式の構成のために全てを投げ出した……だから、打たれ強くもないし、体力もない)
ステイル (だから、この程度のイレギュラーで、もう立てなくなる……)
ステイル (あの時と同じだ。あの時と違うことは、右手が左手に変わったというだけのこと)
ステイル (………………)
―――― 『ステイル~~~!』
ステイル (ッ……!!)
―――― 『すごいんだね、ステイルは!』
ステイル (僕は……だが、)
―――― 『もうっ! タバコは身体に悪いからダメだって言ったでしょ!』
ステイル (こんなところで……こんなことで……)
ステイル (……誓っただろう。僕は、あの子のために生きて、あの子のために死ぬと)
ステイル (僕は……)
グッ……ググッ……!!
ステイル 「――僕は……こんなところで倒れているわけにはいかないんだッ!!」
450 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:22:11.00 ID:FEKlpVYo
ステイル 「………………」 ザッ
男 「ッ……!?」
ステイル 「……申し訳ないね。少しばかり、己の矜持という奴を忘れていたようだ」 フラッ 「っ……」
男 「もうやめろ! あんた……戦えるような状態じゃないだろう!?」
ステイル 「うるさいな。こんな段になって敵の心配か?」
男 「ぐっ……」 スッ 「なら、もう一度あんたを殴り飛ばすまでだ」 グッ
ステイル 「………………」 フッ 「……やれるものならやってみろ」
スッ……
男 「……?」
ステイル 「もう驕らない。僕は、僕の出せる本気を持って、君を殺してでもあの子のために動く」
ステイル 「……君をあのいけ好かない男と同じものとして見ることにするよ。残念ながら、君は右手でなく左手だったけどね」
ステイル 「だから名乗ろう。僕の殺し名……魔法名、」 スッ 「『我が名が最強である理由をここに証明する』 !!」
――――――ゾッ
男 「……!?」 (な、なんだ……? さっきまでとは段違いの、この圧迫感は……!?)
ステイル 「…………――――――――………………」
男 (何だ……? 呪文……?) ダッ (よく分からないけど……あれを続けさせちゃまずい……!!)
451 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:23:46.19 ID:FEKlpVYo
ステイル 「………………」 フン 「……遅いな」
スッ――――
ステイル 「――――来いッ! 『魔女狩りの王』 !!!』
ドッ……!!!!!!!
男 「なっ……!?」 (炎の……巨人!?)
ブゥン!!
男 「くっ……」 ズサッ……!!
男 (あ、危ない……あれはまずい……よく分からないけど、あれは、“違う” ……!!)
ステイル 「………………」 スッ 「……行け、『魔女狩りの王』 。目の前の敵を排除しろ」
――スルッ
男 「っ……!?」 (音もなく瞬間的に移動する……!?)
……ズザッ!!
シスター 「『魔女狩りの王』 ……」 ギリッ 「そんな強大な術式まで持ち出して、恥ずかしくないの!?」
シスター 「相手は魔術師ですらない、ただの子どもなのよ!?」
ステイル 「関係ないな。僕はあの子のために、あの子の害となる可能性すべてを排除するだけだ」
ステイル 「それを邪魔するというのなら……それは僕の敵だ」
452 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:24:53.56 ID:FEKlpVYo
――――ザッ!!
男 「くっ……姉さん……!」 スッ 「少しだけ我慢してね!」
シスター 「お、男!?(お姫様抱っこ!?)」 アタフタ 「わたしのことなんかどうでもいいの! 早く逃げなさいッ!!」
男 「だから嫌だって言ってるでしょ!!」 ダッ!! 「ネム! 逃げるよ!」
ネム 「分かってるわよ!」
ステイル 「……逃がすと思うか?」
――ブゥン!!
男 「くっ……」 ダンッ……!
……ザザッ!!
男 「ぐっ……」 ビキッ!! (さっきまでのダメージが……ッ)
シスター 「逃げられるわけがないのよ! あれは教皇級の魔術とさえも言われているのよ!?」
男 「魔術のことなんか知らないさ!」 ダッ……!! 「けど簡単に諦められるか!」
シスター 「わたしだって詳しくは知らないけれど、あの魔術は格が違うの!」
シスター 「あの炎の巨人は、ルーンという文字が刻まれたカードがある場所なら、どこでも活動できるの」
シスター 「彼はさっき、そのルーンをこの研究所中にばらまいたと言っていたわ」
シスター 「――つまり逃げ場はないってことなのよ!!」
――――スルッ
男 「ぐっ……!?」 (目の前に……!! クソッ!!) ダンッ!!!
――ブゥン!!
――……ズザザッ……!!!
男 (ぐッ……! ネコの動作アルゴリズムを使っても、確実に追いつかれてきている……!)
453 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:25:52.00 ID:FEKlpVYo
………………
男 「………………」 ハァ、ハァ、ハァ…… 「くそっ……」
ゴォォォオオオオ……!!!
ネム 「男……」 ジッ
ステイル 「鬼ごっこは、もうこれくらいでいいのかな?」
シスター 「………………」 スッ 「男……」
男 「………………」
ステイル 「……ふぅ。壁際に追いつめられてなおそういう殊勝な顔ができるのは大したものだと思うけど」
ステイル 「そろそろ分かっただろう? 君ではこの 『魔女狩りの王』 から逃げることさえできないと」
ステイル 「……最後通牒だ。そのシスターをそこに置いて去れ。君とそのネコの命は保障しよう」
男 「………………」 ギリッ 「くっ……」
ステイル 「……悩む必要はないだろう? 君はただの学生だ。彼女を守る義務も何もない」
ステイル 「ほら、早くしろよ。失敗したクッキーみたいに、黒こげになりたくはないだろう?」
男 「…………僕、は――――」
? 「――……あら? 義務ならあるのではありませんこと?」
クスッ
454 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:26:38.62 ID:FEKlpVYo
男 「は、ぇ……?」
――――――シュン!! トッ、トッ、トン!!
? 「あなたには彼女を守る義務がある。そうですわよね? 男さん」 ニコッ
男 「なっ……」
?? 「あら? こんな状況で暢気に呆けちゃって……まったく、呆れちゃうわ」 クスッ
男 「な、何で……?」
??? 「本当に……とぼけたひとですよね、男さんって」 フッ
男 「何で……?」 ウルッ 「何で、ここに……?」
男 「――白井さん、固法さん、初春さん……」
ステイル 「っ……!!」 ザッ 「何者だ!?」
白井 「まったく……無粋なことを訊く殿方もいらっしゃったものですわね」
ニィ
白井 「何者かと問われるのなら、お答え致しましょう」
白井 「――――風紀委員ですの」
ニコッ
455 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:27:42.26 ID:FEKlpVYo
男 「なぜ……ここに……?」
固法 「ディズちゃんにここの場所を教えてもらったのよ」
男 「そ、そうじゃない! 何でここに来たんですか!?」
初春 「そんなの決まってます。仲間がピンチなら、駆けつけるのは当たり前でしょう?」
男 「仲間……?」 フルフル 「だ、だって……僕は、もう……」
白井 「……男さん」 ニコッ 「――忘れ物、ですのよ」 スッ
男 「えっ……」 スッ 「これ……僕の……僕の、腕章……?」
初春 「男さんったら、投げ捨ててそのまま忘れて行ってしまうんですから、天然さんですよね~」
男 「初春さん……だって、僕は、みんなを……――」
固法 「そういう話は後、よ」 ポン 「話なら後で聞くし、聞かせてもあげるから」
男 「固法さん……」 コクン 「……はい!」
固法 「ん。ようやくいい目に戻ったわね。いつも通りのあなただわ」
シスター 「み、皆さん……?」 フルフル 「な、何で……?」
シスター 「わたしは、皆さんを裏切ったんですよ? 皆さんの想いを、踏みにじって……」
白井 「……それでも、あなたは学園都市の人間ですの」 フッ 「だったら守るのが、わたくしたちの義務ですから」
456 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:28:26.13 ID:FEKlpVYo
男 「………………」 スッ……スチャッ (……そう。僕は、たとえ今だけであったとしても……!)
男 (もう一度……もう一度だけ、風紀委員として……ッ!!)
――トン
固法 「……ほら、シャンとなさい。あなたは風紀委員でしょう?」
男 「……はいっ!」
ネム 「……男、あんたは本当に、良い仲間に恵まれてるわね」
男 「そんなこと……」 ニッ 「言われなくたって分かってるさ」
ステイル 「くっ……子どもが何人集まろうと……!!」 スッ――
固法 「………………」 フッ 「……まだ分かっていないようだから、もう一度名乗ろうかしらね」
初春 「はい!」
白井 「了解ですの!」
男 「………………」 グッ 「……了解です!」
――――ザッ!!!!
固&初&白&男 「「「「――――風紀委員です!!」」」」
457 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:29:14.16 ID:FEKlpVYo
ステイル 「……ふん」 スッ――
白井 「――……動かないでくださいまし」
ステイル 「……?」
白井 「おっと、そちらの巨人を動かすのも無しですわよ?」
ステイル 「……君にそんなことを命令する権限があるとでも?」
白井 「警告致しますわ。それ以上こちらに害意を持って動かれるというのなら、」 チャッ
白井 「……こちらの鉄矢をあなたの身体の中に直接ぶち込みますわよ?」
ステイル 「………………」 フン 「……やってみるといい」
……ザッ
白井 「……っ」 ギリッ 「警告は致しましたわよ?」 スッ……シュン!!
ステイル 「………………」
――――スカッ……カランカラン……
白井 「な……!?」
ネム 「神父の身体をすり抜けたですって……!?」
ステイル 「……君たちが現れた時から警戒していたさ」
ステイル 「人や物を自在に飛ばせる能力者が目の前に現れたんだ……対策を取らないわけがないだろう?」
458 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:30:54.24 ID:FEKlpVYo
シスター 「っ……まさか、蜃気楼……!?」
ステイル 「ご明察。僕は炎のエキスパートだよ? それを利用して相手の視覚をねじ曲げることなんて造作ないことさ」
白井 「っ……」
男 「………………」
ステイル 「……さぁ、そろそろ遊びは終わりだ。僕としたことが、殺し名を名乗ったというのに気を抜いていたようだ」
ステイル 「行け、『魔女狩りの王』。あのシスター以外は殺してもいい」
固法 「ぐっ……」 (ダメ……さっきのシスターと同じ…… 『透視能力』 を使っても相手の位置が探れない……!)
固法 (これが、魔術……科学とはその根本を違える存在……!!)
男 「………………」 スッ 「……固法さんは右へ。初春さんは左へ。それぞれ逃げてください」
初春 「へ……?」
男 「それからネム、君は初春さんについてあげてくれ」
ネム 「お、男……?」
男 「それから白井さん……」
白井 「な、何ですの?」
男 「姉さんを連れて、『空間移動』 でこの研究所内を逃げ回ってください」
459 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:32:07.06 ID:FEKlpVYo
白井 「男さん……? 男さんはどうされると言うんですの?」
男 「ここにいます。ここにいて、彼の監視を」
ステイル 「……? 監視? 君は一体何を悠長なことを――――」
男 「――――動くな、魔術師」
―――ゾワッ!!
ステイル 「……!?」 (な、何だ……!? さっきまでと、気迫が全く違う……)
ステイル 「動くな……? どういうことだい?」
男 「分からないか? 深手を負いたいのなら動けと言っているんだ」
ステイル 「……どういう意味だ」
男 「蜃気楼で視覚を誤魔化しているようだけど……それ以外の情報から居場所を割り出されたいのか?」
ステイル 「!?」
男 「位置を割り出したその瞬間に、白井さんの鉄矢が飛ぶぞ?」
ステイル 「ぐっ……」
男 「だからあんたはそこを動くな」
ステイル 「っ…… 『魔女狩りの王』 !!!」
460 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:33:02.42 ID:FEKlpVYo
男 「白井さん!! 固法さん! 初春さん! ネムサス!」
男 「僕に考えがあります! 今は……僕を信じてください!」
白井 「………………」 ニコッ 「……ようやく、わたくしの大好きな男さんになってきましわね」
シスター 「男……!!」
白井 「……さ、行きますわよ?」 スッ……シュン!!
――――ブゥン!! スカッ……
固法 「ふふ……信じるも何も、いま頼りになるのはあなただけみたいだしね……」 ダッ……!!
初春 「大丈夫です! 私は、今の男さんなら信じられますから!」 タッ!!
ネム 「ムリしたら承知しないんだからねっ」 ダッ
ステイル 「っ……散り散りになったか……」
男 「おっと、動くなよ? 位置が割り出せたその瞬間に、串刺しだぞ?」
ステイル 「ふん……分かっているさ」
ステイル 「……だが残念だったね」 スッ 「行け、『魔女狩りの王』」
――――――スルッ
男 「消えた……!?」
461 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:35:12.09 ID:FEKlpVYo
ステイル 「……ルーンが張り巡らせてある場所なら、『魔女狩りの王』 は瞬間的に場所を移動できる」
ステイル 「そして術式には、最も脅威的な存在を自動追尾するように設定してある」
ステイル 「……この場合、間違いなくあの空間移動能力者が追われているだろうね」
男 「っ……!」 ダッ――
ステイル 「――おっと、動くなよ? 君が隙を見せた瞬間、僕は君を炎剣で消し炭にする」
ステイル 「そうしたら、君が空間移動能力者に僕の位置を伝えることはできなくなるはずだ」
男 「ぐっ……」
ステイル 「………………」 フッ 「……面白いね」
男 「………………」 フッ 「……僕が隙を見せて、この部屋のどこかにいるあんたに殺されれば、こちらの負け」
ステイル 「……君が僕の位置を把握し、それを空間移動能力者に伝えたら、僕の負けだ」
男 「そして……あの 『魔女狩りの王』 とやらに白井さんが追いつかれても、僕らの負け」
ステイル 「…… 『魔女狩りの王』 が破壊されても僕の負けだけれど……」
ステイル 「ふん。それはあり得ないよね。ルーンはこの広い研究所に何万枚とばらまいてある」
ステイル 「ルーンがある限り、『魔女狩りの王』 は決して消滅しない」
ステイル 「あの空間移動能力者に、シスターを外へ逃がすように言えばよかったものを。失敗したようだね」
男 「……いや、これでいいんだ」 フッ 「あんたのような危険人物を、外に出すわけにはいかないからな」
ステイル 「……ふん。『魔女狩りの王』 とただの人間……」 フッ 「鬼ごっこなんて、結果は目に見えているけどね」
男 「……はっ、生憎だったな。あんたの魔術の相手は、僕の最愛の恋人……この街で最高のレベル4だ」
男 「白井さんは負けない……あんたのちんけな魔術なんかに、決して負けはしないさ」
462 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:36:21.37 ID:FEKlpVYo
………………研究所廊下
――――シュン……ストットッ……
白井 「………………」 フゥ……
――――スルッ……ゴォォォオオオオオオ!!!
白井 「っ……まるでわたくしと同じ能力でも使っているかのようですわね……!」
スッ……シュン!! ……ジュッ
白井 「やはり……鉄矢を飛ばしても効果無し、ですわね」
白井 「さ、シスターさん。もう一度飛びますわよ?」 スッ
シスター 「無駄、です……」 フルフル 「……あの教皇級の魔術から逃げることなんて……」
白井 「無駄かどうか、やってみないと分かりませんの」
白井 「それに、わたくしは男さんを信じていますから」
シスター 「………………」 フッ 「……あなたは、本物ね。まるで聖女様みたい」
白井 「そ、それは……ちょっと褒めすぎですの」 カァァ 「さっ、飛びますわよ」
シスター 「……すみません。わたしのために……」 ギュッ
白井 「言いっこなしですの」 ニコッ
――シュン!!
ゴォォオオオオオ……!!!
――――――スルッ……
463 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:37:26.95 ID:FEKlpVYo
………………
男 「………………」
ステイル 「………………」
男 「……あんたは、」
ステイル 「……?」
男 「あんたは、何でそこまで、インデックスさんにこだわるの?」
ステイル 「………………」 フン 「……答える義務はないな」
男 「……そりゃそうか」
ステイル 「………………」 ギリッ 「……無駄だと、気づかないか?」
男 「何が?」
ステイル 「こうしている間にも、君の恋人とやらは死の危険に瀕しているんだぞ?」
男 「………………」
ステイル 「シスターを渡せ。そうすれば終わる。君と君の仲間が傷つく必要もない」
男 「………………」
フッ
464 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:38:25.52 ID:FEKlpVYo
………………研究所一室
白井 「………………」 ゼェ、ゼェ、ゼェ……
――――スルッ……ゴォォォオオオオ!!!!
白井 「っ……もう、追いついて、きましたのね……」 スッ
シスター 「白井さん……! もう……もういいんです!」
シスター 「限界でしょう? 諦めて投降してください! 彼はきっと、あなたたちの命は取りません!」
白井 「………………」 フッ 「……何度、言えば、分かって、いただけます、の?」
ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ…………
白井 「わたくし、たちは……風紀委員、ですのよ……」
ニコッ
白井 「この程度の、ことで……」 スッ 「音を上げるほど、ヤワでは、ありませんの……!」
シスター 「白井さん……」 ギュッ
白井 (それに……あと、少しのはず、ですもの……)
……シュン!!
ゴォォォオオオオ!!!
………………――スルッ
465 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:39:14.87 ID:FEKlpVYo
………………
ステイル 「……!?」 ギリッ 「何が可笑しい!!」
男 「あんた、意外と優しいひとなんだね」
ステイル 「なっ……! 何を……!!」
男 「……本当に、姉さんのことで、インデックスさんに累が及ぶのが嫌なだけなんだ」
ステイル 「っ……だったら何だ!?」
男 「べつに。もう少し話せば、良い友達になれるかもな、って思っただけだよ」
ステイル 「くっ……」 ダン!! 「あの男のような気持ち悪いことを言うな!!」
男 「……そういう物音を立てると、僕に位置を把握されちゃうよ?」
ステイル 「っ……」 ギリッ 「何なんだ……何なんだ君は!!」
男 「……さぁ?」 ニコッ
ステイル 「……何故余裕ぶっているのか分からないが、君の恋人、本当に死ぬぞ?」
ステイル 「超能力だって体力を使うだろう? 無限に空間移動ができるわけではないだろう?」
ステイル 「いずれ 『魔女狩りの王』 に追いつかれ……燃やし尽くされて死ぬ」
ステイル 「それでもいいのか!!?」
男 「……だから言ってるでしょ?」 フッ 「そういうことには絶対にならないよ」
男 「僕は……白井さんたちを信じてるから」
466 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:43:04.98 ID:FEKlpVYo
………………研究所廊下
固法 「………………」 タタタタ……
固法 (……白井さん、男くん、頑張って……!)
固法 (わたしたちが全て終えるまで、保ってよ……!)
固法 「……死んだりしたら」 グッ
固法 「――承知しないんだからねっ!」
………………研究所一室
初春 「………………」 カタタタタ……
初春 (……白井さん……おねがいです……あと少し、逃げてください……)
初春 (男さん……大丈夫。今のあなたなら、わたしも信頼することができるから)
初春 (あと少し……あと、少しだから……)
初春 「……白井さん、男さん……あと、もう少しの辛抱です……!!」 カタカタカタカタ……
ネム 「男……」
467 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:43:48.21 ID:FEKlpVYo
………………
ステイル 「“たち” ……?」
男 「……?」
ステイル 「……まさか、他の仲間がルーンを壊して回っているとでも言うのかい?」
男 「………………」
ステイル 「……ふん、その表情では図星のようだね」
男 「っ……」
ステイル 「そう警戒しなくていい。無駄だからね」
男 「……無駄?」
ステイル 「言っただろう? 何万枚とばらまいた、って。たった二人と一匹でその全てを壊しきる気かい?」
ステイル 「その前に君の恋人が 『魔女狩りの王』 に追いつかれて終わりさ」
男 「………………」
ステイル 「……諦めろよ、能力者! 僕はあの子の友達である君たちを、できることなら殺したくはないんだ!」
男 「………………」 フッ 「……あんたはどうやら、悪人になりきれないひとみたいだ」
ステイル 「……!? 何を……?」
男 「……ねぇ? 何で僕が、あんたとずっとお喋りをしていたんだと思う?」
468 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:44:59.05 ID:FEKlpVYo
ステイル 「……? まさか……声から位置情報を……!?」
男 「違うよ。ネコの演算アルゴリズムを使っても、耳は人間のものだ。指向性には優れていない」
ステイル 「な、なら……」
男 「あんたの注意を僕に向けさせるためさ。それ以外にないだろう?」
ステイル 「そ、そんなことをする必要性が、どこに……」
――――カサッ……カサコソッ……
ステイル 「!? な……!」 バッ 「天井裏……!? この物音は……」
男 「さっきからずっとしていたさ。あんたが気づかなかっただけでね」 フッ
男 「――……みんな、ご苦労様。もう大丈夫だ。これで十分、だそうだよ」
ステイル 「なっ……! 何を言っている!? 誰に向かって、何を言ったんだ!!」
男 「もちろん、動いてくれたみんなに、さ」 ニコッ
男 「固法さん、初春さん、白井さん、ネムサス……」
男 「それから、デイジィと……」 ニッ 「――あと、何百匹というネコのみんなにね」
469 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:45:58.01 ID:FEKlpVYo
ステイル 「な……ん、だと……?」
――――シュン!!
白井 「……まったく……遅い、ですのよ……」 フラッ
――――ダキッ
男 「……ごめんね、白井さん」 フッ 「そして、ありがとう」 ギュッ
白井 「ふふっ……今はきちんと、わたくしのことを受け止めてくださいますのね」 ギュッ……
シスター 「男……?」 ハッ 「ここは……元の、部屋……?」
ステイル 「くっ……」 ギリッ 「空間移動能力者と、シスター……!」
ステイル 「この部屋に戻ってきて、それがどうしたというんだ!!」
――――――スルッ……ゴォォォオオオオ!!!!
ステイル 「『魔女狩りの王』 はどこまででも君たちを追う! まだ分からないのか!!」
男 「ああ、もちろん分かってるよ」 ニッ 「けれど、それももうここまでだ」
男 「ごめんね、白井さん……少し、待っててね」
白井 「……はい、ですの」 ……スッ
――――ダッ!!
ステイル 「なっ……バカが!! 『魔女狩りの王』 に突っ込んで……死ぬ気かっ!?」
――――――――ゴォォォオオオオ……!!!!!
男 「……悪いけど、手袋のナノマシンはもう回復しているんだ」 ザッッ!! 「……邪魔だよ」 ブゥン……!!!
ドゴォォオオ!!!
――――――――――――――――――ドッッッバァン!!!
470 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:47:48.63 ID:FEKlpVYo
ステイル 「は……?」 ガクッ 「な、何、が……?」
ビチャッ……ピチャッ……シュウゥゥ……
ステイル 「『魔女狩りの王』 ……?」 ブルッ 「『魔女狩りの王』 !? 『魔女狩りの王』 !!!?」
男 「……――ルーンとやらが何万枚とあるのなら、」
ステイル 「ッ……!?」 ゾクッ
男 「……何百という仲間で、それを制するまでのことだ」
男 「これが僕の答えだ……僕と、仲間の、信頼の力だ……!!」
ステイル 「ま……まさか……」 ギリッ 「何百匹というネコに、ルーンを破壊させたというのか……!?」
男 「その通り。それを可能にするのが、ネコとアヒルとの念話を可能とする僕の能力、『幸福御手』 だよ」
男 「本当は姉さんにもう一度唄を聴かせるために、ディズに集めてもらったんだけどね」
男 「ディズが気合いを入れてノラネコだけじゃなく飼猫まで集めてくれてよかったよ」
ステイル 「っ……」
男 「……一定領域に大量のネコ……」 フッ 「こんな状況なら、『猫鶩ネット』 は完全な念話を可能とする」
ステイル 「き、君は……何でもないフリをして僕と会話をしながら……ッ! 僕の意識を自分に向けながら……!」
ステイル 「この研究所全体に散らばる何百匹というネコ全てを繋げる、大規模なネットワークを維持し続けたというのか!?」
男 「はは……そろそろ、脳の回路が焼き切れそうなくらい、頭が熱いけどね……」
ステイル 「し、しかし! それだけ大量のネコを一度に統率しきることなど……!」
ステイル 「それも、ルーンを探して壊すなんていう命令……僕と会話をしながらやりきったっていうのか!?」
471 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:49:31.74 ID:FEKlpVYo
男 「………………」 フッ 「……まさか。僕はそこまで演算能力に長けてないよ」
男 「ネットワークの維持だけで精一杯。だから、ネコの統率は彼女に任せていたんだよ」
男 「――情報管制に関してはプロ中のプロである、初春さんにね」
ステイル 「……!?」
男 「『猫鶩ネット』 は、一度繋いでしまえば、無条件にネコとアヒル、そして人間と念話ができる」
男 「現状のネコの密度なら、この施設中の全てのネコと人間とは声の媒介がなくとも念話が可能だよ」
男 「初春さんには施設の中央部で、ずっと情報管制をお願いしていたんだ」
ステイル 「何百匹というネコだぞ……!? あの少女はそれを管制しつくしたというのか……!!」
ステイル 「し、しかし……たとえネコの統率が完璧であったとしても、ルーンは見えない場所にも貼ってあった!」
ステイル 「それを探し出すなんてこと、ネコにできるものか……!!」
男 「うん。それはきっと、普通の人間にもムリだよね」
男 「……けれど、こちらには 『透視能力』 を持っている仲間がいたからね」
ステイル 「っ……!?」
男 「固法さんには研究所中を走り回ってもらって、ルーンの分布や隠された場所を初春さんに伝えてもらっていたんだ」
ステイル 「……っ……彼女は、この広大な研究所内全てを見通したというのか……!?」
472 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:50:26.16 ID:FEKlpVYo
男 「固法さんが研究所内全てのルーンの配置を初春さんに伝える……」
男 「そしてそれを元に、周囲の警戒を完全にネムに任せた初春さんが、ネコたちに指示を出す……」
男 「それを受け取ったネコたちが、ディズを隊長として、効率良く動き、ルーンを破壊して回る……」
男 「……僕はずっと、『猫鶩ネット』 を維持しつつ、念話で情報を交換ながら、あんたを引きつけ続け……」
男 「白井さんは、姉さんを連れて逃げながら、最も危険な 『魔女狩りの王』 を引きつけていた……」
男 「……その結果が、これ、」 グッ 「…… 『魔女狩りの王』 、撃破だ」
ステイル 「だ、だが、たとえネコの手が何百とあろうと、この短時間で全てのルーンを破壊し終えるとはとても思えない!!」
ステイル 「ルーン配置の要所を全て潰すくらいのことをしてのけなければ無理だ!」
男 「……そうだね。その通りだよ」 クスッ 「まだ研究所内に残っているルーンは多くはないが、少なくもない」
男 「けれど、この広い研究所内全域で術式を構築しているんだ。いくつかの要所を潰せば 『魔女狩りの王』 は自壊する」
ステイル 「き、君に……そんな魔術的知識があったとでも……?」
男 「まさか、そんなわけないでしょ?」 フッ 「もうひとり、協力者がいたってだけのことさ」
ステイル 「……!?」 ハッ 「ま、まさか……ッ!!」 クルッ――
インデックス 「………………」 フッ 「……そんなの、わたし以外にいないんだよ」 ニコッ
ステイル 「ッ……!!!!」 ギリッ
473 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:51:28.10 ID:FEKlpVYo
インデックス 「あなた、手加減しすぎかも。わたし、実はあの後すぐに目覚めてたんだよ?」
男 「……彼女を想いすぎることが、仇となったようだね」
ステイル 「く……くそっ……!」
インデックス 「……あなたの気持ちは嬉しいかも。けど……」
インデックス 「――わたしは、あなたが思っているよりずっと、強いんだよ!」
ステイル 「っ……!!」
男 「インデックスさんも 『猫鶩ネット』 から、初春さんに情報をくれていたんだ」
男 「破壊すべきルーンの特徴や、あまり重要でないルーンの場所だとかをね」
ステイル 「くそっ……クソっ!!!」
男 「………………」
……――ザッ……!!
ステイル 「!?」 ビグッ
男 「インデックスさんから念話で聞いたよ。魔術を破られると、その反動が術者に返ってくるんでしょ?」
男 「そんな状態で、魔術による蜃気楼を維持し続ける気力はないよね?」
ステイル 「っ……!!」
474 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:52:10.49 ID:FEKlpVYo
男 「……さぁ、終わりにしようか、ステイル=マグヌス!!」
ダッ……!!!
ステイル 「ぐっ……」 フラッ 「……そ、れ、でもっ……! 守りたいものが、あるんだ!!」
スッ……ゴォォォオオオオ!!!
ステイル 「最後の炎剣だ……これで君を……倒すッ!!」
男 「……うん。僕も多分、これが最後の拳だ」
グッ……グググググッ……!!
男 「だけど僕も……僕も負けないッ!!」
………………
ディズ 「男! 行きなさい!!」 ゼェゼェ…… 「絶対に勝ちなさい!!」
………………
固法 「男くん……!!」 ゼェ、ゼェ、ゼェ…… 「勝って……勝つのよ!!」
………………
初春 「男さん……」 ハァ、ハァ、ハァ…… 「勝って……くださいっ……!!」
ネム 「絶対に……勝たなきゃ承知しないんだからね!」
………………
インデックス 「みんなの声援が、頭に響いてくるんだよ……」 グッ 「ねこあひるのひと! 絶対に勝つんだよ!」
シスター 「男……」 ギュッ 「……勝ちなさい。わたしのためではなく……あなたと、あなたの仲間のために!!」」
白井 「………………」 フッ 「……勝って、くださいですの……!!」
白井 「――――わたくしの、最愛のヒーロー様!!」
………………――――――
男 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」 ブゥン――――
ステイル 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」 ザンッ――――
――――――――――ドッ!!!
ドゴォォォオオオオオ!!!!!
475 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:53:18.80 ID:FEKlpVYo
ステイル 「………………」
男 「………………」
――……ガフッ!!
ステイル 「……勘違い、するなよ……?」
男 「………………」
ステイル 「君に、負けたんじゃ、ない……」 ガクッ
ステイル 「“君たち” 、に、……負け、たんだ……」
――バダッ……
男 「………………」
男 「……そんなの、分かってるって……」 フッ
――――バタッ……
白井 「男さん……」 タッ……フラッ 「あっ……」
パタッ……
シスター 「し、白井さん!? 男!!」
男 「………………」
フッ
男 「……良かった」
男 「――――白井さんが……僕の、大好きなひとが……無事、で……」
…………………………………………………………………………………………
476 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:06:27.82 ID:GmDdkNoo
…………………………………………………………………………………………
………………同日 深夜 学園都市第十九学区 広場
宮司 「………………」
フゥ
宮司 「……これはまた、随分と寂れた街並みですねぇ」
宮司 「おおよそ学園都市に似つかわしくない……再開発失敗地域、というわけですか」
宮司 「……まぁ、わざわざ私に 『矢文』 を飛ばし、ここに呼んだ意図は伺えますね」
宮司 「大方が、人気がない場所で戦うため、といったところでしょうか?」
ニヤリ
宮司 「――ねぇ、 『月詠之巫女』 ?」
月子 「っ……」 ……タッ 「……やはり捕捉していたか」
宮司 「もちろんですとも。だからこそ、あなたの誘いにのって、ここに来たのですよ」
宮司 「ここに、あなたがいると分かっていたから」 ニコッ
ザッ……!
宮司 「……?」
?? 「………………」
477 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:07:13.57 ID:GmDdkNoo
宮司 「……蛙の面……?」 フッ 「面白い騎士様ですねぇ」
蛙 「………………」
宮司 「なるほど……何故素顔を隠していらっしゃるのかは分かりませんが、」
宮司 「――あなたが 『ボックス』 の 『通行止め』 ということでよろしいのでしょうか?」
蛙 「……ああ、そうだ」
宮司 「ふぅん……あなたがねぇ」
宮司 「……しかし、蛙の面を着けてくるとは……ふふ、サルタヒコのつもりですか?」
蛙 「サル……? カエルがサルに見えるのか、あんた。目でも悪いのか?」
宮司 「………………」 フゥ 「……なるほど。知識無き者と話すのは疲れますね」
月子 「……不遜な」 ギリッ 「こやつがサルタヒコだとして、貴様はニニギでも騙るつもりか?」
宮司 「ニニギノミコト……いいですね。それくらい強大な存在になりたいものです……」
月子 「ッ……この罰当たりめ……!!」
宮司 「ふっ……カミの力を受け継ぐあなたが、私を罰当たりと糾弾するのですか?」 クスッ
月子 「っ……」 ギロッ
宮司 「おお、怖い怖い……」 ブルッ 「その視線は、まさしくカミとなられる方に相応しい」
478 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:08:18.53 ID:GmDdkNoo
蛙 「………………」 スッ 「……前に出るな」
月子 「む……分かっている」
宮司 「ふむ……まるで本物の騎士……従者のようですねぇ」
蛙 「………………」
宮司 「……さて、『月詠之巫女』 ? 本題に入らせてもらいましょうか」
宮司 「私と一緒に来る気はございますか?」
月子 「………………」 ギリッ 「……あると思うのか貴様は……ッ!!」
宮司 「………………」 フゥ 「……そうですか。それは残念ですね」
宮司 「――ならば、少し痛めつけてでも連れて帰るより仕方がないようです」
月子 「っ……貴様らが……貴様らが……!!」 クワッ!! 「父様と、母様と……神社の皆を……!!」
宮司 「………………」 フッ 「……ええ、そうですよ? ちなみにあなたのお父様を殺したのは私です」
ニコッ
月子 「ッ……!! 貴様……貴様ッッッ!!!!」
スッ……ギュッ
月子 「……っ……」 チラッ
蛙 「………………」 フルフル 「……挑発だ。抑えろ」
月子 「………………」 コクン
479 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:09:19.35 ID:GmDdkNoo
宮司 「……では、致し方ありませんね」
スッ……チャキッ……
月子 「……? その剣は……」
宮司 「ああ、やはりお分かりになりますか。さすが、お目が高い」
月子 「……馬鹿にするな下郎。その程度の、複製とも呼べん剣で何を自慢気に」
宮司 「まぁ、その通りですね」 フッ 「これは、かの剣のレプリカのレプリカのレプリカのレプリカ……」
宮司 「……といったレベルの代物ですから」
月子 「……ふん。当然であろうな。魔導書と同じだ」
月子 「本物に近ければ近いほど、毒素も強まる。故に、常人にはそれくらい薄めたものでないと扱えん」
宮司 「まぁ、だからといって舐めてかかっていいものでもないでしょう?」
月子 「……ふん。かの 『悲劇の英雄』 にでもなったつもりか?」
宮司 「おや、心外ですね。事実、いま私は 『英雄』 になりつつあるのですよ?」
月子 「不遜なことを……!」
宮司 「ならば、試してみますか?」 チャキッ
蛙 「………………」 フルフル 「……悪いが、その機会はない」
宮司 「……? まぁ、いいでしょう」 フッ 「それにしても驚きました」
宮司 「――まさか、『通行止め』 が女性だったとは、思いもよりませんでしたから」
480 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:10:12.03 ID:GmDdkNoo
………………同時刻 近隣の廃ビル
?? 「………………」 チャッ 「……遮蔽物、無し」
?? 「風向き、良好。対象、動く気配無し」
?? 「スコープ、セット……」
フッ
?? 「……世話子と月子、上手い具合に相手を引きつけてくれてるじゃねぇか」
?? 「卑怯と罵るのなら罵ればいい。これが俺のやり方だ」
?? 「……たとえ魔術とかいう正体不明のモンを身につけていたとしたって、」
?? 「純粋な科学の暴力に敵うはずがない……」
?? 「学園都市製、軍用機関銃による狙撃……二百発一斉掃射」
ガチャッ……!!
?? 「……倒れないわけがない。いや、粉々の肉片にならないわけがない」
?? 「………………」 スゥ…… 「……さぁ、やるか。総計170人目の人殺しを……」
?? 「……月子を守るため……そして、月子の居場所を奪った報いだ……」
止 「……ここで 『通行止め』 だよ。お前の人生はな」
――――ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ……………………ッッッ!!!!!
481 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:11:19.15 ID:GmDdkNoo
宮司 「……!?」
――――ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……………………ッッッ!!!!!
世話子 (やった……! さすがは止さん!) グッ (直撃です!)
月子 「………………」
――――ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……………………ッッッ!!!!!
……モクモクモクモク…………
――――ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……………………ッッッ!!!!!
――――――――――ピタッ
…………モクモク…………
世話子 「よし……!」 パッ 「避けた様子はない! これなら……!」
月子 「………………」 ピクッ 「……!?」
月子 「ま、待て! 世話子……!」 ギュッ 「……奴は、まだ……!」
世話子 「えっ……――」
宮司 「――――やれやれ。サブマシンガンの次はガトリングガンですか……」
――――――ザッ
宮司 「まったく、嫌になります……科学の兵器というものは、風情がない」
482 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:13:04.42 ID:GmDdkNoo
世話子 「なっ……!?」
宮司 「おや……?」 ニッ 「どうかされました? せっかく蛙の面をお取りになったというのに、」
宮司 「――まるで、死人を見るかのような目をしていますよ?」
世話子 「っ……」 ゾクッ
月子 「………………」 ギリッ 「……世話子! 作戦通りに、次のすてっぷへ移行だ!」
ギュッ……ダッ!!
宮司 「おやおや……第一段階は失敗、といったところですか」
宮司 「少々驚かされましたが……」 ニヤリ 「所詮は科学の一兵器」
宮司 「私の 『焔薙(ホムラナギ)』 の前には無力です」
宮司 「……ふふ、逃げても無駄ですよ? 『月詠之巫女』」
………………
止 「っ……!? 嘘だろ……?」
止 「傷どころか……服に汚れ一つ付いてないのかよ……!?」
止 「………………」 ギリッ 「……くそっ!」
止 「……大丈夫。まだ手はある」 ガチャッ 「冷静に、次のステップへ移行する……」
ダッ……!!!
止 「……直々に相手をしてやるよ、『通行止め』 がなッ!!」
483 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:14:04.87 ID:GmDdkNoo
………………
宮司 「………………」 タタタタタタ…… 「お待ち下さい、『月詠之巫女』」
月子 「っ……待てと言われて誰が待つものか!」 トトトトト……
宮司 「ふむ……確かにその通りですね」
世話子 「………………」 ハッ、ハッ、ハッ……
月子 「……世話子、大丈夫か?」
世話子 「だ、大丈夫、です……」 タタタタ……
月子 「そこだ……そのビルの角を曲がるぞ」
世話子 「は、はい……!」
宮司 「……まったく。逃げても無駄だと早く気づいてもらいたいところですがね」
ザッ……!!
止 「――よう、初めましてだな」
宮司 「……!?」 (待ち伏せ……?) ザッ……
止 「そしてさようならだ!!」 ガチャッ……!!
――――ドバッ!!! ドバッ!!! ドバッ!!!
484 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:15:16.85 ID:GmDdkNoo
止 「………………」
宮司 「………………」 フッ 「……なるほど。あなたが本物の 『通行止め』 というわけですね?」
世話子 「うそ……」 フルフル 「嘘だ……こんなの……」
月子 「ッ……!!」
止 「……っ……」 ギリッ 「……何の冗談だこれは……!!」
宮司 「……おやおや、人に散弾をぶつけておいて冗談で済ますおつもりですか?」
宮司 「科学の街の子供とは、怖いものですねぇ」
止 「っ……何で……ッ!」 ガチャッ 「何でお前は傷一つ負ってねぇんだよ!!」
宮司 「そして、人様を傷つけることを望むのですか……」
フゥ……
宮司 「度し難いものですねぇ。科学とはここまで子供の心を荒ませますか」
止 「ぐっ……ふざけんのも大概にしろッ!」
止 「一メートル以内の至近から……それも不意をついて、散弾を三発もぶっ放したんだぞ!?」
止 「それなのに何で……何でお前は傷一つ負わずに平然と立っていられるんだよ!!」
宮司 「ふむ……そうですねぇ」 ニッ 「ですがそれを説明する必要があるかどうか、試させてもらってもいいですか?」
485 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:16:18.79 ID:GmDdkNoo
止 「っ……」 バッ
宮司 「……? 飛び退って、距離を取ったつもりですか? たかだか二メートルほど?」
止 「クソッタレが……! 意味不明なことばっかほざくな!」
ガチャッ
止 「時代遅れの骨董品なんか手に持って……そんなの射程はせいぜい一メートルかそこらだろうが!」
宮司 「骨董品、ですか……」 ヤレヤレ 「まぁ、たしかにその通りですね。これは、五百年程前、とある刀匠が作ったものですから」
チャッ……
宮司 「――ならば見せてあげましょう。骨董品の切れ味を」
――――スッ……ザン!!
止 (……? 何もない空を……) ゾワッ (……!? 斬ら、れる……!?)
――ッダン……ズサッ!!
宮司 「おや? よく避けましたね。あなたは勘が鋭いようです」
――――スパッ
止 「……!!?」 ゾクッ 「で、電信柱、が……?」
……ダダン!!!
486 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:17:23.28 ID:GmDdkNoo
世話子 「な……何で……? こんなの……」 ガタガタ 「電信柱が……一刀両断された……?」
世話子 「だ、だって……何メートルも離れてるんだよ!?」
月子 「ッ……」 ギリッ 「貴様……まさか、本当に 『悲劇の英雄』 の術式を……!!」
宮司 「おや、さすがにここまでやれば実感が湧きますか」
ニタリ
宮司 「ええ。成功させたんです。他でもない、この私が。かの英雄の術式の再現を、完全な形で」
宮司 「――即ち、『草薙(クサナギ)』 と 『焔薙(ホムラナギ)』 の術式をね」
止 「『草薙』 ? 『焔薙』 ? ……何だそれは?」
宮司 「おや? もう一度見せてほしいのですか?」 チャッ
月子 「っ……奴が 『草薙』 の術式を完成させているとすれば……ッ」 ギリッ
月子 「離れろトマル!! 奴の剣は、その射程内にある何物をも切断する!」
止 「射程って……あんな刃渡り1000mmかそこらの剣で、何が――」
宮司 「――……ええ、まぁ」 ニヤッ 「言ってしまえば、こういうことができるのですよ」
――――――ザンッッ!!!
止 「……?」 (剣を真横に薙いだ……? ……――ッ!!!?)
487 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:18:07.37 ID:GmDdkNoo
――ズザザザザザ……!!!!
止 「なっ……!!? び、ビルが……」
世話子 「………………」 ペタン
月子 「っ……」 ギリッ
……――ドドドドドドンンンンンッ……!!
止 「ビル、が……」 ガクッ 「……切断、されたっていうのか……?」
世話子 「……ありえない……ありえないです……」 ガタガタガタ……
世話子 「だって……老朽化が進んでいたとはいえ、普通の、何の変哲もないテナントビルですよ……?」
世話子 「それを……真横に切断して、倒壊させたっていうんですか……!?」
止 「……あの剣は建物に触れてすらいない……だというのに、これは……」
宮司 「……おや、まさかここまで驚かれるとは」
宮司 「学園都市の超能力者には、こういった芸当は不可能ということなのでしょうか?」
宮司 「この術式は、射程内にある全てを両断します。それが何であったとしても、一刀の元に両断します」
止 「っ……」 (どう低く見積もったって……コイツは大能力者すら圧倒的に凌駕している……!)
止 (レベル5…… 『超電磁砲』 や 『原子崩し』 クラスの出力がなければ、こんな真似は……)
月子 「………………」 フン 「……恐れるな、トマル、世話子。あんなもの、大したことはない」
488 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:21:00.83 ID:GmDdkNoo
宮司 「ほぅ……? 言ってくれますね、『月詠之巫女』」
月子 「事実を述べたまでだ。力しか誇示するものがない哀れな畜生め」
止 「つ、月子……大したことはないって……アイツは、触れもせずにビルを倒壊させたんだぞ!?」
月子 「……ふん。それがどうした」
止 「ど、どうしたって……――」
月子 「――だからそれがどうしたと問うているのだ」
月子 「建物を一棟破壊した程度が凄まじいのか? お前たち科学はそんなことを四六時中行なっているだろう」
月子 「ただ剣を横に薙いだだけ……それだけで建物が破壊される。なるほど、たしかに凄まじいかもしれん」
月子 「しかし、お前たちはそれを 『科学』 という力で行っているだろう?」
世話子 「月子ちゃん……?」
月子 「呑まれるな。奴の術中に嵌るだけだ」
止 「………………」 フッ 「……そう、だな。ビルの倒壊なんて、ダイナマイトが数百kgあれば事足りる」
止 「……俺としたことが、便利な手品程度に驚かされちまったみたいだ」
世話子 「………………」 コクン 「……そう、ですね。ビルの破壊くらい、わたしにだってできます」
宮司 「ふむ……」 ヤレヤレ 「残念です、『月詠之巫女』 。あなたは心まで科学に汚染されてしまったようですね」
489 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:21:58.35 ID:GmDdkNoo
月子 「くだらぬことを申すな。われは魔術師……日本神道の巫女であることに変わりはない」
月子 「だが、科学を否定する気はない。われは、科学によって守られている “普通” があることを知ったからな」
宮司 「ふん……学園都市に逃げ込んだことにより、大層悪影響が出ているようです」
世話子 「月子ちゃんの変化を悪影響と言うのなら……」 ギリッ
世話子 「あなたの目は節穴です!」
宮司 「おやおや……」
止 「………………」 ガチャッ!! 「…… “弾丸を通常弾へ”」
――――ッパァン!!
止 「………………」
宮司 「………………」 フッ 「……また、突然撃ってくるものですね」 ニコッ
――……ポロッ
止 「……なるほど。彼我の距離は二メートル強……その位置で弾丸を “剣で弾いた” のか」
宮司 「……? ほぅ。冷静に分析をしているということですか。これはすごい」
止 「信じられないが……いや、信じたくはないが……」 ギリッ
止 「先のガトリングガンによる先制も、ショットガンによる不意打ちも……全て……」
止 「――その剣一本で防ぎきったってことか……」
490 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:23:04.58 ID:GmDdkNoo
世話子 「そ、そんなの不可能です! 軍用ガトリングは音速を遥かに凌駕した速度なんですよ!?」
世話子 「それに、至近距離での散弾なんて、それこそ軌道を見切ることすら難しいはずです!」
世話子 「それを全て……一本の剣で弾ききるなんて……」
月子 「……しかし、その無茶を可能とするのが魔術だ。トマルの分析は正しい」
月子 「かの 『悲劇の英雄(ヤマトタケルノミコト)』 が用いたとされる絶対防御術式……」
月子 「…… 『焔薙』 ならばそれも可能なのだ」
止 「だからその 『焔薙』 ってのは……――」
月子 「―― “手に持った武具の射程距離内に入った全ての攻撃を自動防御する”」
月子 「それが 『焔薙』 という魔術だ……」
止 「全ての攻撃を……自動防御する、だと……?」
止 「だからガトリングガンも、ショットガンも……全てを無傷でやり過ごしたというのか……」
世話子 「そ、そんなの……あり得ないよ……」 ガタガタ 「だって、物理的に……人間工学的に……不可能だ……」
月子 「忘れたか、世話子、止? お前たちの言う 『自然科学』 では立ち入れぬ法則があると言っただろう」
月子 「それが魔術だ」 グッ 「だが恐れるな! お前たちの信じる 『科学』 は、いつだってそんな 『魔術』 に光を当ててきた」
月子 「……そうでなければ、魔術はこんなに暗く不毛なものとなってはいない……!!」
月子 「信じろ、お前たちの光を! お前たちが作り上げてきた、科学力という名の圧倒的な光を!!」
491 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:23:57.50 ID:GmDdkNoo
止 「………………」 グッ 「……ああ、分かってるさ。恐れるつもりなんか毛頭ない」
宮司 「ふふ……しかし、恐れなければ何ができるというものでもないでしょう?」
宮司 「私の術式はこの剣を手に持っているというだけでで自動的に起動します。穴はありませんよ?」
止 「方法はある。この 『機械化小銃(スマートライフル)』 ……そして、」
止 「俺の 『斉撃』 なら、『焔薙』 とかいう絶対防御くらい、撃ち貫くことができる!!」
ダッ……!! ガシッ
止 「月子、世話子! パターン、“イレギュラー” だ。体勢を立て直すぞ!」
宮司 「おや……そんなことを私が許すとでも? 『草薙』 で……――」
――――ダンダンダン……!!
宮司 「っ……!」 チッ 「……自動防御の最中は攻撃ができないというこの術式の弱点……」
宮司 「もう見抜かれたということですか……」 ニヤリ 「……やりますね。『通行止め』」
宮司 「……まぁ、そうでなくては面白くありませんか」
ニヤリ
宮司 「鬼ごっこは宗教的な意味合いも多分に含みます。その原型は古く神楽にも通ずると言われます」
宮司 「だから嫌いではありませんが、一つだけ気に入らないのは……」
宮司 「――この私が鬼であるということ、でしょうかねぇ」
――タッ!!
492 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:25:21.47 ID:GmDdkNoo
止 「………………」 タタタタ…… 「月子、もう一つ教えろ。『草薙』 というのは何だ?」
世話子 「あっ……」 ゼェ、ゼェ…… 「それ、私も気になって、ました……」
月子 「ふむ……」 タタタ…… 「お前たちもさっき見ただろう?」
月子 「離れた位置にあるこんくりーとの柱や、建物を切断した術式だ」
止 「やはりか……」 ギリッ 「空を斬っただけの動作で、実際にものが切断されていたからな」
月子 「…… “離れた位置にある存在を、剣を振るうだけで切断する術式“ といったところだ」
月子 「根本は 『焔薙』 と同じ術式だ。『悲劇の英雄』 が用い、敵の術中により迫る炎を切り払ったとされる」
月子 「『焔薙』 が害悪となる炎を薙ぎ払う防御の術式。そして 『草薙』 がその炎を運ぶ草を斬り払う攻撃の術式なのだ」
止 「…… 『焔薙』 ……絶対防御か。もう、科学で計れるような代物じゃないな」
止 「“防ぐ” という意味そのものを体現している……なら、許容量オーバーなんてものは望めないか……」
止 「……月子、『草薙』 の射程距離は分かるか?」
月子 「詳しくは分からぬ……しかし、あの様子ではせいぜいが33尺……10めーとるほどが限界であろう」
止 「……10メートルか……分かった」 ニィ 「……それなら、何とかなる……!!」
――――――ザッ!!
493 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:26:55.08 ID:GmDdkNoo
止 「………………」
ジジ……カチッ……カチャッ
月子 「トマル……?」 ジッ 「何だそれは……?」
止 「光学探知装置だ。不可視光を出し、何者かがその光を遮ったら俺のヘッドセットに信号を送ってくれる」
止 「……さすがは月子だな。息も上がってないのか」 ナデナデ
月子 「なっ……」 カァア 「と、当然である! われは 『神体』 であるからなっ!」
世話子 「………………」 ゼェ、ゼェ、ゼェ……
止 「……世話子を頼む。離れていろ」
止 「俺はこれから擬似的な間接射撃を行う。厳密には正しくはないがな」
月子 「………………」 コクン 「……分かった。トマル、」
止 「あん?」
月子 「……気を、付けるのだぞ?」
止 「はっ……当たり前のことを言うな」
――ダッ
494 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:28:34.38 ID:GmDdkNoo
………………
止 (T字路の直前、左付け根の部分に光学探知装置をセットした……)
止 (俺はT字路の下部、直行する部分から “10メートル以上” 離れた場所で、待機する)
――――ガチャッ!!
止 (カートリッジは変更した……特殊弾頭のセットも終わっている)
止 (あの袴野郎がそこを通ったら、俺はこの引き金を引く)
止 (……それで決着だ。たとえあの野郎が絶対防御能力とやらを持っているのだとしても、負けはしない)
止 (いくら攻撃をあの剣で切り裂いたとしても、それはあの剣の射程内でのこと)
止 (……絶対防御が仇となったな) ギリッ (“攻撃” ……すなわち弾頭自体を切り裂いてから、死ね)
止 (それができる……俺の、『斉撃』 なら…… “特殊弾頭B” ……この小型のナパーム弾頭ならな)
止 (『草薙』 とやらを使わせはしない。曲がり角で体勢を整える前に、この特殊弾頭を撃ち込む……!!)
タタタタタ……ピピッ!!
止 (……! 来たか……ッ!!)
ガゴッ……!!
止 「終わりだ……爆炎にまかれて死ねッ!! 魔術師!」
ガチャッ……ッッッッッドンン!!!!
495 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:29:14.83 ID:GmDdkNoo
宮司 「ッ……!?」 フッ 「……なるほど。今度はナパームですか」
ニィ
止 「……!?」 (あの野郎……笑った……? 気でも違ったのだとしたら哀れなもんだ)
止 (……だが、) フッ 「……悪いな。お前の死に目は見ない。目が焼かれるからな」 プイッ
カッッッ――――――
――――ッッッドオォォオオオオオオン!!! ゴォォオオオオオオ……!!!!
止 (………………) フッ (音からして、直撃か)
チラッ
――ゴォォオオオオオオ……!!!!
止 「ははっ……よく燃えてるな」 クク…… 「摂氏1000度の炎、居心地はどんなもんだ?」
宮司 「――――さぁ? それは実際に入ってみればわかるのでは?」
止 「ッ……!!?」 バッ
――――――――ザンッ!!
止 「炎が……消されていく……!?」
宮司 「いえいえ、そんな便利な能力は私にはありませんよ。ただ、可燃物を切り裂いて炎を散らしているだけのこと」
止 「な……何故……!?」 ギリッ 「何故……何故お前は生きている……!!」
496 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:31:17.28 ID:GmDdkNoo
宮司 「何故……と言われましてもねぇ……」
止 「お前は…… 『草薙』 を使えるような……剣を振るえるような体勢じゃなかったはずだ!!」
止 「自動防御である 『焔薙』 がナパーム弾頭を切り払ったとしたって、爆炎にのみこまれているはず……」
止 「何故……何故だ!!」
宮司 「ふむ…… 『草薙』 については月の姫から聞いたようですが……」
宮司 「――ならば、『草薙』 も 『焔薙』 も元が同じであるということはご存知ではないのですか?」
止 「な……にを……?」
宮司 「『焔薙』 が炎を払う防御術式、そして 『草薙』 が炎を孕む草を払う攻撃術式……」
宮司 「この二つは本来全く同じもの……それを意味づけで分けているだけのこと」
宮司 「しかしそれでは完全ではない。だから私はそれを統合し、完全とした」
宮司 「言ったでしょう? 私はかの 『英雄』 の術式を完全な形で完成させることに成功した、と」
宮司 「つまり、『焔薙』 の効果範囲である “武器の射程” に、“『草薙』 の射程” を加えることにね」
止 「なんだと……?」 ギリッ
止 「絶対防御の効果範囲は、剣の射程に、『草薙』 の射程である10メートルが加えられているということか……」
宮司 「ええ、その通り……」 ニタリ 「私を中心として半径10メートルは、わたしの絶対防御の効果範囲です」
宮司 「体勢を崩していようが何だろうが、自動的に 『草薙』 の射程距離で 『焔薙』 が発動します」
497 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:32:25.01 ID:GmDdkNoo
止 「ッ……」 ギリッ
宮司 「……今の、特殊なナパームのようですね。半径5メートルほどを燃やし尽くす弾頭……」
宮司 「なるほど。学園都市は便利なものを開発するものです」
宮司 「しかし今に限り、その利便性が仇となりましたね」 クスッ
止 (『草薙』 の射程に入った途端に、『焔薙』 が発動……あの野郎から10メートル離れた位置でナパームが爆発……)
止 (そしてナパームはその位置で半径5メートルを焼き尽くしたっていうことか……!) ギリッ
宮司 「本物のナパームクラスの出力があれば、私に火傷くらいは負わせられたかもしれませんけどね」
宮司 「まぁ、その場合はあなたは焼死体となっているでしょうけれど」 クスッ
止 「ぐっ……」 (隙をついたって……不意を打ったって……何をしても、無駄ってことかよ……)
宮司 「……いい加減、諦めてはいただけませんか? 私はただ、月の姫と 『剣』 を手に入れられればそれでいいのです」
宮司 「無益な争いはやめましょう。この戦いはあなたの独断で行っているはずです。益はないでしょう?」
止 「………………」
―――― 『イイなァイイなァイイなァ!!! イイ顔してるぜオマエ!!!』
止 「……はは、」 フッ 「……悪いな。お前ごときで月子を諦められるほど俺はヤワじゃない」
宮司 「……なんです?」
止 「もっと強大で圧倒的で……完璧な悪党と戦ったことがあるってだけのことだ」
498 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:35:43.27 ID:GmDdkNoo
宮司 「………………」
止 「それに、お前は益がないと言ったな? たしかに、俺にとってお前と戦うメリットはない」
止 「……だがな、それでも戦わなきゃならないときがあるんだよ。それが今だ」
宮司 「……正義の味方の真似事ですか?」
止 「胸くそ悪りぃ。どいつもこいつも、人を勝手にヒーロー気取りの野郎にするんじゃねぇよ」
止 「……約束したんだ。アイツを……月子を、“普通” に戻すってな」
止 「俺はもう、誰も失いたくない……正義感からじゃねぇ。ただ、単純な俺のワガママだ」
―――― 『ふふ……リーダーとしての、最後の命令だ……止、あの二人を……守ってくれ』
止 「俺はな……もう、アイツのように、大切な誰かを失いたくないんだよ……!!」
止 「俺は俺のために……ただ俺のワガママを突き通すためだけに……!!」
止 「お前を殺す……ッ!!」
……ザッ……ダッ!!
宮司 「なるほど。面白い覚悟ですね。あくまで自分の善意は否定するのですか」
宮司 「そこまでして自らが悪であると言い続けたい、後ろ暗い過去でもお持ちのようだ」
宮司 「ですが、まぁ覚悟は覚悟です。私もそれ相応の思いでそれを受け止め……そして叩き斬りましょう」
宮司 「――この、『草薙グ剣(クサナグツルギ)』 のレプリカで、ね」
499 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:36:26.27 ID:GmDdkNoo
止 「………………」 (恐れるな……!! たかだか射程が長いというだけの刃物だ……!)
止 (射程が不自然に長いだけの……そして、何もかもを切断するというだけの……ただの剣!)
止 (さっきまでの俺は判断を誤っていた……相手は10メートル圏内の攻撃と絶対防御を持っている)
止 (ならば最前の対抗策は距離を取ることではなく、距離を詰めること……!!)
止 (そして攻撃としての 『草薙』 の発動には、剣を振るモーションが必要不可欠……)
――――ッザンッ!!
止 「ッ……」 ズサッ……!! (そう……こんな風に、相手の動作に合わせて飛び退けば、十分に避けられる……!)
宮司 「………………」
フッ
止 「……!?」 ゾクッ
宮司 「……避けられると、そう思いましたね?」
――――――ゾワッ……!!
宮司 「――それが間違いだと、知ってください」 ピッ――
――――――ッッッドガッ!!!!
止 「がッッ……!!?」 (な……に、が……?)
――――ドガン!!!
止 「ぐはッ……!!」 (壁、まで、吹き……飛ば、された……の、か……?)
グッ……グググッ……
止 (ダメ……だ……背中、叩きつけられて……息が……)
――――――ガクッ
500 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:37:33.19 ID:GmDdkNoo
宮司 「………………」 フゥ 「……たしかに、あなたの予想通り、『草薙』 の発動には剣を動かす必要があります」
宮司 「ですが、その動作は、何も “振るう” だけではありませんよ?」
宮司 「あらゆる剣の動き……たとえば、剣を構え直す動作、などにも 『草薙』 を組み込むことができるのですよ」
宮司 「……まぁ、その場合は切っ先が相手に向いていないですから、必然的に峰打ちとなりますけどね」
宮司 「それでこの威力というのはやや嬉しい誤算ですが……何メートル吹き飛ばされました?」
止 「………………」
宮司 「おや……覚悟の割には呆気ない。もう意識はありませんか」
宮司 「もしくは……」 フゥ 「もう、死んでいるということでしょうか?」
?? 「止さん……!!」
……ザッ!!
宮司 「おや……先ほどの蛙の女性ではありませんか。それから、月の姫も」
世話子 「止さん……!」 ユサユサ 「止さん!! 止さん……!!!」
月子 「トマル!! トマル! しっかりするのだ……!!」
止 「………………」
宮司 「隠れていたのですか? そして、本命が敗れたから思わず出て来たと?」
宮司 「まったく、愚かしい……逃げればいいものを」
501 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:39:31.37 ID:GmDdkNoo
世話子 「……っ」 キッ 「……止さん……」
止 「………………」
宮司 「かなりの衝撃でしたからねぇ。気を失うなという方が無理な話でしょう」
世話子 「………………」 スッ 「……少しだけ、待っていてくださいね。止さん」
止 「………………」
月子 「世話子……?」
世話子 「……へへ」 ニコッ 「月子ちゃんも、ちょっとだけここで待っててね。止さんを頼んだよ?」
月子 「せ、世話子……? お前、一体、何を……」
世話子 「………………」 フッ 「……忘れた、月子ちゃん?」
世話子 「――私もれっきとした、『ボックス』 の一員なんだよ?」
世話子 「……届かなかった止さんの想いは、私が受け継ぐ」
グッ……!!
世話子 「止さんの代わりに……私が月子ちゃんを守る……!! そのためにあなたを殺す!!」
宮司 「……ほぅ?」
502 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:40:33.51 ID:GmDdkNoo
世話子 「私は無能力者――レベル0。何の能力も使えないけど……それでも……」
世話子 「それでも……守りたいものが、あるから……」
―――― 『……謹んで貰い受ける』 『ありがとう』
世話子 「私も、月子ちゃんを……月子ちゃんの笑顔を、守りたいから……!!」
……ダッ!!
宮司 「おやおや……」 フゥ 「リーダーがリーダーなら、その仲間もその仲間、ですか」
宮司 「まるで学習能力がない。彼が距離を詰めようとして失敗したのを見ていたでしょうに」
スッ……
宮司 「ならばあなたのその覚悟もまた、真っ向から斬り捨てさせてもらいましょうか」
――――――ッザン!!
世話子 「………………」 フン 「……この程度ですか」 ボソッ
――ザッ……ササッ……
宮司 「!!?」 (あの身のこなし…… 『通行止め』 よりよほど素早く……そして無駄がない……)
宮司 「しかし……」 ピッ――――
世話子 「……ふん」 ッタン……ザザッ……
宮司 「っ……?」 (また避けられたのですか……)
503 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:41:57.91 ID:GmDdkNoo
宮司 「………………」
宮司 「……あなたは今、『草薙』 の射程内に入っている。それなのに、剣を振っても当てられる気がしない」
宮司 「リーダーよりよほど良い動きをするのですね、あなたは」
世話子 「生憎と、止さんの言葉を借りるのなら 『ボックス』 のリーダーは永久欠番だそうですけどね」
宮司 「その動き……我々の世界にも通じるものがあると見受けますが?」
世話子 「魔術なんてものは知りませんね。けれど昔、少しばかりおイタのしすぎで色々とありまして」 ニコッ
世話子 「――暗殺者なんてものをやっていたことはあります」
宮司 「ほぅ……暗殺者ですか」 フッ 「それは怖い」
世話子 「少しは異名を轟かせたりしたんですよ? まぁ、思い出したくない過去ですけどね」
世話子 「少しスリが上手いだけの子どもだったんですけどね……」
世話子 「ある時、“やらかしてはいけない相手” に対してスリをしてしまいまして」
世話子 「殺されるかとも思ったのですが……そのスリの腕を買われて、暗殺者として訓練されてしまいました」
世話子 「そして学園都市の色々な派閥争いだとかに巻き込まれ……」
世話子 「現在はしがない 『ボックス』 のメンバーですよ。正規メンバーではありませんけどね」
世話子 「………………」 (そんな私を、優しく受け入れてくれた、『ボックス』 のみんな……)
世話子 (シィさん……メイさん……イルちゃん……そして、止さん……)
世話子 (私はみんなに守られて、暗部の下部組織なんかにいるのに、今まで生きながらえることができた……)
世話子 (だから……今は……今は……!!)
世話子 「……今度は、私がその優しさのバトンを……月子ちゃんに渡してあげたい……!!」
世話子 「そのために私はあなたを倒す。忌まわしい暗殺者としての技量、その全てを駆使してでもッ!!」
504 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:42:43.00 ID:GmDdkNoo
………………
月子 「………………」
グッ……
月子 「………………」 ギリッ 「……トマルだけでなく、世話子まで戦っておる」
止 「………………」
月子 「……トマルは、われのせいで、こんなに……」
月子 「こんなに、傷ついてしまった……」
月子 「……われだけが、ただこうして、安穏と眺めておる……」
月子 「われは……」 フルフル 「われは……」
月子 「われは、こうして見ていることしか、できぬのか……?」
スッ……
月子 「……ダメだ。われは…… “そう” したくなかったから、学園都市などに逃げたのだろう?」
月子 「われは、“カミ” でありたくないから、ここまで逃げて、トマルに助けを求めたのだろう?」
月子 「………………」
月子 「……だが……われは……」
月子 「――われは……」
止 「………………」
止 「………………」
505 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:43:32.07 ID:GmDdkNoo
………………
…………ッタンッ!!
宮司 「っ……」 ――ッザン!!
世話子 「そんな大振りの攻撃が当たるものですか!」 ……ズサッ
宮司 「くっ……」 (一歩……また一歩と距離を詰められていますか……)
宮司 (距離を詰められたところで脅威とはなりえない……しかし、)
宮司 (万が一にも剣を取られでもしたら、術式の発動が不可能になる……)
フッ
宮司 「……面白いです。『通行止め』 よりよほど面白い!!」
――――――ピッ
世話子 「っ……」 ザザッ……!! 「そんな子ども騙し! 当たりません!」
宮司 「まるでアメノウズメのような立ち振る舞い……素晴らしい女性ですね! あなたは!」
宮司 「そうです……そうです! だから私はあなたのその動きを評価したいのです!」
宮司 「神楽の雛形とも言える、古代の舞にそっくりなのですよ!! 素晴らしい!!」
世話子 「っ……余裕ですね!!」 ――サッ……シュン!!
宮司 「っ…… 『焔薙』」 ――――ッザン!!
506 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:44:22.16 ID:GmDdkNoo
宮司 「なるほど……暗殺に用いる投擲用のナイフですか」
宮司 「私の 『草薙』 を回避しながら正確無比に心臓を狙い放つとは……素晴らしい技術です」
世話子 「クソくだらない人殺しの手段に他なりませんよ。忌まわしいだけです」
――――サッ……シュシュシュシュンンンッ!!!
世話子 「でも今ばかりはこの技術を教えてくれた連中に感謝します!!」
宮司 「………………」 フッ 「……ですが、その全てを私の 『焔薙』 は防ぎきりますけどね」
……ザザザザンッッッ!!!
世話子 「っ……」 ギリッ 「やはり、どんな角度から、どこを狙って投げても……全てが切断され防がれてしまう……」
宮司 「ふふ……」 スッ…… 「手はもう出し尽くしましたか?」
世話子 「誰がそんなことを……!!」
――――ッッタンッ!!
宮司 「っ……この跳躍力は……ッ!!」 ……ザンッ!!
世話子 「……あなたの動き程度、もう見切っています!!」
ズザッ――……!!
宮司 「ッッ……!!?」 (『草薙』 を避ける動作で、私の至近に……!?)
世話子 (懐に潜り込めた、今なら……ッ!!!)
――――――ガチャッ!!!
宮司 「っ……!?」 (小型の拳銃……どこに隠し持って……!?)
世話子 「………………」 ニコリ 「……袖口に隠すのが、乙女のたしなみというものです」
――――ッダンッダンッダンッダンッダン!!!!!
507 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:45:25.64 ID:GmDdkNoo
世話子 「………………」
宮司 「………………」
世話子 「………………」
ギリッ
世話子 「な……何故……?」
世話子 「全弾を、撃ち尽くしたはず、なのに……」
宮司 「………………」 フッ 「……どうやらあなたはまだ、魔術というものを理解していないらしい」
……パラパラパラパラ……
宮司 「“至近距離から拳銃を撃てば、いくらなんでも当たるだろう”」
宮司 「そんな浅はかな考え、あなた方の常識が通じる 『自然科学』 の人間相手にしか通用しませんよ」
宮司 「私が魔術師であるとあなたも知っていたはずだ。それなのに、そんな常識を私に押し付けてしまった」
宮司 「魔術とは、○○をしたから××となる、というものではないのですよ」
宮司 「因果と結果が逆……すなわち、××であるから○○が実行される、というものなのです」
宮司 「『焔薙』 は武装の射程距離内に入った “攻撃” を切り払う絶対防御である……」
宮司 「……この魔術としての意味づけ、すなわち前提があるから、『焔薙』 は全ての攻撃を防ぐのです」
宮司 「それを見誤った結果が、これですよ」 ニコッ 「『通行止め』 はそれをしっかり理解していたようですがね」
508 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:46:04.40 ID:GmDdkNoo
世話子 「っ……」 ダッ――
宮司 「おっと、もういいでしょう?」
――――――ッザンッ!!
世話子 「あっ……」
……ハラリ――
世話子 「っ……!?」 キッ 「ふ……服を……ッ!!」
宮司 「おやおや、いけませんねぇ。下着などという無粋なものをつけては。嫌な西洋文化です」
世話子 「ぐっ……」
宮司 「あなたの勇ましい舞に免じて、命だけは取りません」
ニタリ
宮司 「ですが、あなたの美しい姿が気に入りました。月の姫と一緒に連れて帰ることに致しましょう」
世話子 「なっ……!!?」
宮司 「あなたには私の子供を孕んでいただきます」
世話子 「……っ」 ゾクッ
宮司 「無能力者……レベル0をひとり持っていくくらい、上層部も何とも思わないでしょうしね」
509 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:46:59.64 ID:GmDdkNoo
世話子 「やっ……いや、だ……そんなの……」
フルフル
世話子 「私は……そんなこと……っ」
宮司 「? 何故嫌がるのです? 私は 『英雄』 の術式を完全な形で再現させた日本神道中最高位の魔術師なのですよ?」
宮司 「対するあなたは能力者の落ちこぼれ……失敗作と言われる無能力者」
世話子 「いやっ……いやっ!」 フルフル 「言わないで……私は……」
宮司 「喜ぶべきでしょう? あなたは欠陥品の分際で 『英雄』 の目に留まったのですよ?」
世話子 「私、は……」 グスッ…… 「私は……失敗作、なんかじゃ……ない……」
宮司 「いいえ、失敗作です。誰にも求められず、誰にも必要とされず、ただ野垂死んでいくだけの、」
宮司 「――――ただの、欠陥品でしょう?」
世話子 「っ……ぁ……」 フルフル 「違う……ちがう……私は……」
世話子 「たすけ、て……誰か……止さん……シィさん……メイさん……」
世話子 「だれか……だれか……」
宮司 「誰も来はしませんよ。誰がただの無能力者であるあなたを助けるものですか」
宮司 「……さぁ、一緒においでなさい。私なら、欠陥品であるあなたを輝かせることができる」
――――――――――ドッッッッッッ!!!!!!!
510 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:49:06.95 ID:GmDdkNoo
宮司 「ッ……!?」 (この、感覚は……!!)
チラッ
?? 「………………」 ブルブル…… 「……――さぬ……」
宮司 「……やはり」 フッ 「力を振るうおつもりですか。『月詠之巫女』」
月子 「――――貴様だけは絶対に許さぬ!!!!!!!」
ドドドドドドドドドドドッッッッッッッ…………!!!!
世話子 「ひっ……!?」 ペタン (な、なに……? 月子ちゃんの周りを、圧倒的な何かが取り巻いている……?)
――ッドン
宮司 「ほぅ……あの小さな体躯の一歩で大地が揺るぎましたね……恐ろしい」
月子 「……貴様は、止を苦しめ、吹き飛ばし、傷つけた……!!」
月子 「貴様は、世話子と戦い、勝利した……!!」
月子 「……それだけならまだいい……戦うつもりで戦い、その結果が現れただけのことだからな」
月子 「しかし貴様は……ッ!! 貴様は世話子を辱め、愚弄し……失敗作と、欠陥品と罵った!!!」
月子 「許さぬ……貴様は絶対に許さぬッッッ!!!!」
世話子 「月子、ちゃん……?」
月子 「……世話子。誇るといい。お前は欠陥品などではない。失敗作などではあり得ない」
ニコッ
月子 「お前は温かく、優しく、人として持つべきを全て持った、素晴らしい人間だ」
世話子 「えっ……?」
511 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:49:59.42 ID:GmDdkNoo
月子 「お前は、頑なにお前たちを拒もうとしたわれに、衣服を買い与えてくれたな」
月子 「お前は、われに温かい茶を、甘い菓子を、出してくれたな」
月子 「お前は、われを風呂にいれようと苦慮してくれたな」
月子 「お前は、われのために、われに届いた手紙を奪い取ったな」
月子 「お前は、われのために、われなどと寝所を共にしてくれたな」
月子 「……お前は、震えるわれを、優しく抱き締めてくれたな」
月子 「お前の身体は温かかったよ」 スッ 「お前が抱き締めてくれて、われは嬉しかったよ」
世話子 「……月子、ちゃん……」 ボロボロ…… 「っ……」
月子 「……お前は欠陥品などではない。お前は、失敗作などではない」
月子 「お前はトマルと共に、われを救おうとしてくれた。われのために、そんなに傷ついた……」
月子 「そんなお前が、欠陥品などであるものか……」
月子 「そんな優しいお前が……温かいお前が……」 ギリッ
宮司 「………………」
月子 「――貴様などに失敗作などと呼ばれる筋合いはないッ!!!」
――――ッゴォォオオオオオオオオ!!!!
512 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:51:05.13 ID:GmDdkNoo
宮司 「………………」
フッ
月子 「……何が可笑しい」
宮司 「……いえいえ。これが可笑しくないわけがないでしょう?」
宮司 「『ボックス』 とは面白い組織ですね。お互いを守るために、全員が戦うのですか」
月子 「ああ、その通りだ。トマル曰く、“ぼっくす” は馴れ合いの組織らしいからな」
月子 「しかし馴れ合いの何が悪い。お互いを想い合い、庇い合い……守り合う。その心地よさを、われは知ったのだ」
宮司 「魔術師の言葉とは…… 『神体』 の言葉とはとても思えませんね」
月子 「安心しろ。自覚はある。だが……それでもいいと、思えるのだ」
宮司 「……あなたはせっかくここまで逃げたというのに……今さらご自分の力に頼ってしまうのですか?」
宮司 「あなたはその力を使いたくないからこそ、我々から逃げたのでしょうに」
月子 「………………」 フッ 「……確かに、貴様の言うとおりだ」
月子 「われは、カミになりたくないから……この化物の力を使いたくないから……」
月子 「だから、学園都市まで必死で逃げた。この力で、もう誰も傷つけたくなかったから」
月子 「……だがな。目の前で大切な者が嬲り物にされているというのに……」
月子 「――貴様などを慮って、力を出し惜しむような情けない真似はせぬ!!」
宮司 「……なるほど」 フッ 「いいでしょう。こちらとしても想定内のことです」
宮司 「あなたのお相手を致しましょう。この、『英雄』 の術式をもってしてね」
月子 「驕るなよ、人の子が。『英雄』 ごときがわれを討ち取るつもりか?」
世話子 「だ、ダメだよ……!」 フルフル 「ダメ……月子ちゃん、あなたに一体何ができるっていうの……?」
513 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:52:43.66 ID:GmDdkNoo
月子 「………………」 フッ 「……下がるのだ、世話子」
月子 「でなければ、われはきっと、お前も巻き込んでしまう」
世話子 「月子ちゃん……?」
月子 「……すまぬ。われは、トマルとお前に、無駄な傷を負わせてしまった」
月子 「この力を恐れ、逃げ、そして父様と母様を失い……危うくお前たちまで失うところだった」
月子 「大丈夫だ。安心しろ、世話子」 スッ……ギュッ
世話子 「あっ……」
月子 「……今だけは、交代してくれ。お前はわれが守る」
月子 「今で、ずっと守ってもらっていたからな。ずっと、抱き締めてもらっていからな」
月子 「今ばかりは、われに守らせてくれ。われに、抱き締めさせてくれ」
世話子 「ダメ……」 グスッ 「……ダメ。だめだよ、月子ちゃん……」
月子 「案ずるな。言ったであろう?」 フッ 「……われは、『化物』 であると」
世話子 「ダメ……だめだよ!」 フルフル 「……そんな、辛そうな顔をして……そんなの……」
月子 「……大丈夫だ。辛いことなど慣れている。だが、これ以上辛いことには耐えられない」
月子 「お前たちが死ぬようなことがあったら、われはきっと、本物の 『化物』 となってしまう」
ザッ……
月子 「だから、今だけは……われに任せてくれ。われは、大丈夫だ」
月子 「われは……お前たちを守るためならば、鬼とも修羅ともなろう。無論、一時の化物にも、なろう」
月子 「………………」 フッ 「……トマルを、頼んだ」
世話子 「………………」 グスッ 「……うん」 コクッ
514 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:53:31.61 ID:GmDdkNoo
………………
月子 「………………」
宮司 「………………」
クスッ
宮司 「……さぁ、見せてください。『神体』 としての力を」
宮司 「西洋の 『聖人』 と同じか、それ以上の力を持つとされる、最凶の力を……!!」
月子 「………………」 スッ 「……驕るな下郎が。簡単に見られると思うな」
月子 「――一撃で死なぬように気をつけろ……!!」
――――――ッドッッッ!!!
宮司 「ッ……!!?」
……カッ――――――ッッッドォオオオオオオン!!!
宮司 「がッ……!!?」 (ぐっ…… 『焔薙』 が……追いつかない……)
月子 「……ふん。その程度か? 『英雄』」 ……スタッ 「われはただ、貴様に突っ込み、蹴りを入れただけであろう?」
宮司 「……簡単に言ってくれますね……」 ガフッ! 「……ガトリングガン以上のスピードでそれをやらかしたというのに」
月子 「すまぬな。われはまだ未熟だ。『神体』 としての力を抑えるには、体技だけで済ますより方法がないのだ」
515 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:54:05.64 ID:GmDdkNoo
………………
世話子 「す、すごい……今の……目で追えなかった……」
世話子 「月子ちゃん……あなたは、本当に……」
グスッ
世話子 「……ごめん、ね」
ポタッ……ポタッ……ポタポタッ……
世話子 「何も、できなくて……」
世話子 「あなたに……そんなに辛そうな顔をさせながら、戦わせてしまって……」
世話子 「ごめんね……」 グスッ 「……ごめんね……!」
世話子 (わたし……本当に卑怯者だ……)
世話子 (戦うこともできず、守るべき女の子に、守ってもらってる……)
世話子 (わたしには……涙を流すことしか、できない……)
止 「………………」
止 「………………」
――――――………………
516 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:55:04.83 ID:GmDdkNoo
………………
宮司 「ふっ……随分な余裕ですね」
月子 「いや、余裕を見せるつもりはない。今の一撃で死ぬことを望んでいたが……」
月子 「さすがにそこまで柔ではないか。仮にも 『悲劇の英雄』 を名乗っているのだったな、貴様は」
宮司 「………………」
月子 「だが、われが未熟であることは変えようもない事実。下手に 『夜統ベル神』 の術式を行使し、」
月子 「――この学園都市全域を壊滅状態に陥らせてもいけないからな」
宮司 「……っ」
月子 「なればこそ……われは今だけ、これを振るおう……」
チャッ……
宮司 「……なるほど。そこで 『剣』 を持ち出すわけですか……」
月子 「ああ。われが最も安定的に行使できる “カミ” の霊装であるからな」
スッ……スルスル……
――――ゾッ!!
517 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:55:48.33 ID:GmDdkNoo
宮司 「っ……!!?」 (なんていう毒素だ……)
月子 「恐れるなよ、『英雄』」 ニヤリ 「貴様が望む物であろう?」
スルスルスル……ハラリ
――――――――――――……
ゾワァァァアッッッ……!!!
宮司 「ぐっ……これは……」 ダラダラ 「……さすがは、本物……これは……」
チャッ……!!
宮司 「っ……!!!!?」 バッ
月子 「………………」 フッ 「……大立ち回りをしてどうした?」
月子 「われは切っ先を貴様に向けただけであろう?」
宮司 「……ええ、その通りです……」 ゼェゼェ…… 「ですが、それだけで死を覚悟させられましたよ……」
月子 「ふん……情けないものだ」 チャキッ
宮司 「……さすがは、『剣』 ――」 ギリッ 「……さすがは、本物の 『十握剣(トツカノツルギ)』 ですね」
月子 「ああ……」
宮司 「『霊荒ラグ神』 が用い、かの 『八岐大蛇』 さえをも斬り殺したとされる、日本神道最高峰の霊装……」
宮司 「そして、当代でそれを唯一扱える…… 『月詠之巫女』 ……」
宮司 「……だから我々は、あなたがほしいのです……」
518 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:56:46.77 ID:GmDdkNoo
月子 「己の利益しか求めぬ、欲深き屑共に渡す身体や剣はない」
チャキッ
月子 「この 『十握剣』 を前にしてもなお退かぬ姿勢は見事だが、自殺行為であるぞ?」
月子 「この霊装を相手に、そんな 『草薙グ剣』 の複製とも呼べぬ玩具で、本気で立ち向かうつりか?」
宮司 「………………」
チャキッ
宮司 「それより他に、私に道はありませんから」
ニヤリ
宮司 「……参ります」
ダッ……!!!
月子 「………………」 フン 「……愚か者が」
月子 「とくとその心に刻みつけろ。そして、恐れ、敬え」
月子 「――これが、太古より人が恐れ、神格化してきた、本物の魔術だ……」
月子 「――――――術式起動、 『天ノ羽羽斬リ(アメノハハキリ)』」
――――ブゥン!!!
宮司 「ッ……!!?」 (これ、は……――――――)
ッッッッゴォォオオオオオオオアァァァァアアアアア!!!!!
宮司 (剣戟などでは、ない……本物の、カミの御業……太古の人々が恐れた……)
宮司 (災害に、他ならない……!!!)
――――ッッッドッッッッバァァァアアアアアアアアンンン!!!!!
519 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:58:16.51 ID:GmDdkNoo
………………
月子 「………………」 フラッ 「ぐっ……」
月子 「……少しばかり、力の制御を誤ったか」
月子 「……見晴らしが随分と良くなったものだ」
フッ
月子 「――まさか、前方のビル群をすべて薙いでしまうとは、われも思わなかった」
月子 「……まぁ、トマルがこの近辺に人はいないと言っていたから大丈夫であろう」
世話子 「………………」 ブルブル 「……い、今、の、は……?」
月子 「………………」 フッ 「……われがやった」
月子 「『天ノ羽羽斬リ』 ……かつて 『霊荒ラグ神』 が持っていたとされる剣の名を冠した術式だ」
月子 「『霊荒ラグ神』 の暴力性……その全てが籠もった、最凶の術式……」
世話子 「………………」
月子 「世話子……」 フッ 「……やはり、怖いか……われが――――――」
世話子 「――やったーーーーーー!!!」
月子 「はっ……?」
世話子 「あのいけ好かない男! 倒したよ月子ちゃん! 倒したんだよ!!」
世話子 「すごいよ! すごいよ月子ちゃん! あんなすごいことができるなんて、ますます見直しちゃった!」
世話子 「ほら、止さん! 気絶なんかしてる場合じゃないですよ!」
520 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:58:47.20 ID:GmDdkNoo
月子 「お……お前は……」 フルフル 「お前は……われが、怖くないのか……?」
世話子 「へっ……? 怖いって、何で?」
月子 「わ、われは……こんな強大で凶悪な魔術を使うことができる、化物なのだぞ?」
月子 「怖くは……ないのか?」
世話子 「………………」 フッ 「……それを言うなら、月子ちゃんは私が恥ずかしくないんですか?」
月子 「は……?」
世話子 「何の能力も使えないレベル0で、月子ちゃんを守ることもできない、グズな私を、恥ずかしいと思いますか?」
月子 「そっ……そんなことあるわけがなかろうがたわけ!!」
月子 「お前はわれの大事な仲間だ! その仲間を愚弄するのは、たとえ本人であったとしても許さぬぞ!!」
世話子 「……じゃあ、私もそれと同じ」
月子 「む……?」
世話子 「月子ちゃん私の大事な仲間。その仲間を化物呼ばわりするのは、たとえ本人であったとしても許さない」
世話子 「……これでいい?」 ニコッ
月子 「世話子……」 グスッ 「……やはり、お前は温かい……」
世話子 「ふふ……知らないようだから教えてあげるけど、月子ちゃんも温かいんだよ?」
世話子 「だから、月子ちゃん……――――――」
――――――……ガザッ……
521 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:59:55.22 ID:GmDdkNoo
月子 「……!!!?」 バッ 「瓦礫の、下……?」
ガザッ……ガゴッ……ガタガタガタッ……――――
――ッドバッ!!
世話子 「……!?」 ハッ 「うそ……な、何で……?」
月子 「くっ……伊達に 『英雄』 などと名乗っているわけではないということか……!!」
宮司 「………………」 フッ 「……そういうことです。瓦礫に潰されて、無傷というわけにはいきませんでしたがね」
宮司 「“これら” の御加護のおかげでしょうかね。助かりました」
スッ……
月子 「……それは、三種の神器……」 ギリッ 「――の、玩具か……」
宮司 「ええ。『八咫鏡』 に 『八尺瓊勾玉』 ……それから、この 『草薙グ剣』」
宮司 「……御伊勢で売っていたキーホルダーですよ。霊装とも呼べないただの土産物ですが……」
宮司 「それでも、“あなたの力” に対しては少しは加護が働くようですね」
月子 「……くだらぬ。運が良かっただけであろう」 スッ 「もう一撃、『天ノ羽羽斬リ』 をお見舞いしてやろうか?」
宮司 「……本気ですか?」 ニコッ 「もう、限界なのではありませんか? 『月詠之巫女』 ?」
522 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:00:44.12 ID:GmDdkNoo
月子 「……限界、とな?」
宮司 「先までと比べるまでもなく疲弊していらっしゃるご様子ですね。フラついていらっしゃいますよ?」
月子 「余計なお世話だ」 チャキッ……フラッ 「ぐっ……」
世話子 「月子ちゃん……!?」
宮司 「ほら、やはり」 フッ 「……そもそも、あなたがその剣を振るっていることそのものが無茶なのですからねぇ」
世話子 「えっ……? だ、だって……月子ちゃんは、あの御神体の管理者だって……」
宮司 「それは神社の娘として生まれたからこその義務ですよ」
宮司 「知りませんか? 神話で 『十握剣』 …… 『天ノ羽羽斬リ』 を振るっていたのは、『霊荒ラグ神』 なのですよ?」
宮司 「…… 『月詠之巫女』 とその身体の構造が似ているのは 『夜統ベル神』 ……」
宮司 「本来なら、その剣を振るい 『天ノ羽羽斬リ』 を使うことなど、『月詠之巫女』 にできるはずがないのですよ」
月子 「………………」
世話子 「じ、じゃあ……どうして……?」
宮司 「……ご存知ですか? この日ノ本の国には、その神話を記した書物が二つあるのですよ」
世話子 「二つ……?」
宮司 「その両方が魔導書の原典として名高いですがねぇ…… 『古之記(イニシエノシルシ)』 と 『日本之書(ヒノモトノショ)』 ですよ」
523 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:01:42.16 ID:GmDdkNoo
世話子 「あっ……学校の授業で、聞いたことがあるような……」
宮司 「……まぁ、一般の人間ならその程度の認識でしょうね」
宮司 「基本的には同じこと……この 『葦原中国』 ――日本にまつわる神々の説話が記されています」
宮司 「ですが、『古之記』 と 『日本之書』 にはいくつかの相違点が見られます」
宮司 「たとえばそう、『因幡之素兎』 。かの行は 『古之記』 においては記述が見られますが、」
宮司 「『日本之書』 では何一つ記述がありません。このように、両魔導書には相違点が見られるのです」
宮司 「……そしてその相違点の一つ…… “『食物神』 の殺害”」
月子 「………………」
宮司 「『月詠之巫女』 、あなたはその記述の相違を利用して、自身に 『霊荒ラグ神』 の属性を付与させている」
宮司 「違いますか?」
月子 「………………」 フン 「……たとえそれが分かったところで、どうなるものでもなかろうが」
月子 「その通りだ。われは、古代の神話において往々にして見受けられる 『神の同一視』 を利用し、」
月子 「……この 『夜統ベル神』 の身体に 『霊荒ラグ神』 の力も宿している」
月子 「『日本之書』 において 『食物神(ウケモチ)』 を殺害するのは 『夜統ベル神』 であるが、」
月子 「『古之記』 では 『食物神(オオゲツヒメ)』 を殺すのは 『霊荒ラグ神』 となっている」
524 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:04:22.02 ID:GmDdkNoo
月子 「この相違点から両神は同一視されることもしばしば……」
月子 「そもそも、『夜統ベル神』 は神話においての記述が少なく、不明瞭な点が多い」
月子 「その上に 『霊荒ラグ神』 の術式を被せることなど、『神体』 であるわれには容易いこと」
宮司 「……ふふ、容易い、ですか」 クスッ 「しかし、その割には無駄が多いようですがね」
月子 「なんだと……?」
宮司 「『神力』 …… 『魔力』 の消費も甚大なようだ。そもそも、二柱のカミを無理に同一視させて振るっている術式ですからねぇ」
宮司 「……あなたは、それを最も安定的に行使できる術式だと言った」
宮司 「しかし、それは間違いですね。二柱のカミの力を振るうことができるその同一視の効果……」
宮司 「それはあなたの 『神体』 としての力を確かに底上げしているかもしれません」
宮司 「――しかしそれと同時に、あなたの 『神体』 としての弱点も大きくしてしまっているのですから」
月子 「………………」 フン 「…… 『遍照ラス神』 の術式でも使うつもりか?」
月子 「たしかにわれは今、二柱のカミの属性をその身に宿している」
月子 「そこに両神の弱点である伊勢の最高神…… 『遍照ラス神』 の術式が割り込めば、われはただではすまぬだろう」
宮司 「おや、そんな悠長でいいのですか? こちらには 『遍照ラス神』 を象徴する三種の神器があるのですよ?」
月子 「黙れたわけが。そんなレプリカとも呼べぬ土産物で何ができる」
525 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:05:54.22 ID:GmDdkNoo
月子 「それに貴様は男であろう? 男に 『遍照ラス神』 の術式は行使できぬ」
月子 「万が一にもできたとして、その身にそぐわぬ魔術の行使は命を削る。貴様も死ぬぞ?」
宮司 「その通りです。私は男。古代において太陽……高位にあったのは常に女性」
宮司 「故に私に 『遍照ラス神』 の術式は使えません」 ニヤッ 「……ですが、それはあなたにも言えること」
月子 「………………」
宮司 「二柱のカミの力を無理矢理その身体に宿し、行使しているだけでも不安定だというのに、」
宮司 「それに加えてあなたは女。しかし 『夜統ベル神』 も 『霊荒ラグ神』 も男神です」
宮司 「……あなたは今、綱渡りのような状態にあるはずですよ?」
月子 「………………」 ギリッ 「……勝手なことを。ならばその綱から落としてみるといい」
チャキッ……!!
月子 「……これで終わらせる。術式起動、――――――」
宮司 「――――おっと、もう一度というのはさすがにこちらも辛い」
スッ……ポッ……ポッ……
月子 「……?」 (土産物を投げた……?)
宮司 「三位一体……本来は十字教での意味ですが、古今東西どの神話においても “3” という数字は大きな意味を持つ」
526 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:06:53.61 ID:GmDdkNoo
宮司 「たとえばバラモンにおける三神、たとえば十字教におけるトリニティ……そして、日本神話における三種の神器」
月子 「……何度言えば分かる? こんな霊装でもない玩具で何が――――」
宮司 「――――魔力はいりません。そこに、三種の神器…… 『遍照ラス神』 を象徴するモノがあれば、それでいい」
――――――ッゴゴゴゴゴゴ……!!
月子 「……!?」
世話子 「光……? まるで、太陽のような……」
宮司 「ぐ……ッ」 ガッ……ガハッ!! 「……っ……さすがに……身体が……」
月子 「……貴様、自殺がしたいのなら余所でやれ。男である貴様に 『遍照ラス神』 の術式は使えぬ」
月子 「意味づけだけでここまでやったのは見事だが、これが限界であろう。身体が吹き飛ぶぞ?」
宮司 「……たしかに、『遍照ラス神』 を再現するのはここまでが限界でしょう……」
宮司 「です、が……」 ニッ 「これなら、どうですか……?」
スッ……
月子 「……五輪塔……?」 ハッ 「ま……まさか貴様……!!?」
宮司 「もう遅いですよ……」 フッ 「私は日本神道の原理主義に属する者。本当ならこんなことはしたくありませんけどね」
――――ダッ!!
宮司 「―――― 『神仏習合』 ……!!!」
――――――……ドッッッッッ……!!!!!
527 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:08:04.92 ID:GmDdkNoo
月子 「がッ……!!?」 ゴハッ……!! 「――――ガァァァアアアアアアアアアアアア!!!!」
世話子 「つ……月子ちゃん……?」 バヂッ!! 「きゃっ……!!?」 ドサッ
世話子 「なっ……何が起こってるの!?」
月子 「ァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
宮司 「………………」 ゴハッ……!! 「っ……今ここに滅びなさい、悪しきカミ……」
――――――ドバァァァァァアアアアッ!!!!
月子 「っ………………」 ……パタッ 「……ぐ……が……」
宮司 「………………」 ゼェ、ゼェ…… 「……膨大な神力が暴走する前に、神力を外へ出し切ったということですか」
宮司 「そのセンス、『神体』 であることを差し引いても素晴らしい。さすがは 『月詠之巫女』 です」
世話子 「つ……月子ちゃん……!!?」 ダッ…… 「月子ちゃん……!? 月子ちゃん!!」
月子 「……ぐ……が……」 ハァ、ハァ、ハァ…… 「……す……まぬ……世話子……」
世話子 「月子ちゃん……」 キッ 「月子ちゃんに何をしたんです!!?」
宮司 「そう睨まないでください。私だって宗派違いの術式を使ったので……」
ガフッ……!!!
宮司 「……見ての通り、結構満身創痍なんですよ?」
528 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:09:08.07 ID:GmDdkNoo
月子 「……貴、様……仮に、も……神道を、信奉する、者で、あるというのに……」 ギリッ
月子 「『遍照ラス神』 を……仏と……同一視、したな……!!」
宮司 「だから言ったでしょう? 私は神道の復古を望む者。原理主義者であると」
宮司 「私だって本当ならこんな術式を使いたくはありませんでしたよ」
宮司 「ですが、あなたの唯一の弱点である 『遍照ラス神』 の術式を行使するには、こうするしかなかったのですよ」
宮司 「…… 『遍照ラス神』 を仏教の存在である 『遍照天(ダイニチニョライ)』 と同一視するしか、ね」
世話子 「仏教……? どういうこと……?」
宮司 「学校で習いませんでしたか? 忌まわしき古代の法、『神仏習合』」
宮司 「仏教を日本に取り入れるために、古来の神々を仏などと同化させたことを言いますが」
宮司 「……一般に最高神とされる 『遍照ラス神』 もその例外ではありません」
宮司 「男である私には 『遍照ラス神』 の術式は使えない……しかし、『遍照天』 ならその限りではない」
宮司 「『神仏習合』 によって 『遍照ラス神』 と 『遍照天』 を同一視し、」
宮司 「『遍照天』 を象徴するこの五輪塔のレプリカを使ってその術式を行使する……」
宮司 「……古来、弟神というのは姉神には絶対に敵わないものなのです」
宮司 「あなたのように弟神二柱の力をその身に宿しているのであればなおのこと」
宮司 「ねえ、『月詠之巫女』 ? 私があなたに対する備えもせずに、ノコノコとやって来ると思っていたのですか?」
529 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:10:28.58 ID:GmDdkNoo
月子 「ぐっ……それ……でも」 ……ヨロ 「……がっ……」 ガクッ
宮司 「無理ですよ。今のあなたは自爆を阻止するために膨大な 『神力』 全てを手放した状態でしょう?」
宮司 「『神体』 としての力はおろか、通常の魔術すら……いえ、身体を動かすことすらままならないはず」
宮司 「無理はなさらないでください。あなたは、我々 『神生ミヲ現ス士』 にとって大切な存在なのですから」
ニタリ
世話子 「っ……近づかないでください」 バッ 「あなたなんかに、月子ちゃんを渡すもんか……」
宮司 「おやおや、下着姿ではしたない」 ニヤッ 「……まだ辱めが足りませんか?」
……スピッ
世話子 「っ……」 …………ハラリ 「……っ……くっ……」 フルフル……
宮司 「……やはり上半身に下着などは不要ですね。その姿の方がお綺麗ですよ?」
世話子 「っ……っく……」 フルフル 「……どきません……それでも……」
宮司 「……なら、今度はショーツですかね。それくらいは着けていても構いませんが、」 クスッ
宮司 「……脱がせてほしいと言うのなら仕方ありません」 スッ――――
月子 「――――やめ、ろ……!!」 ググッ…… 「それ、以上……世話子に、狼藉を……はたらくなッ」
世話子 「月子ちゃん、立っちゃダメ……あなた、もう限界でしょう……!?」
530 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:11:16.21 ID:GmDdkNoo
月子 「っ……それ、でも……ッ」 ガシッ
世話子 「えっ……」
――――――ブゥン!!!
世話子 「きゃっ……!!?」 (月子ちゃん……!?)
――ドサッ……
月子 「ぐっ……」 ――パタリ
世話子 「……つ、月子ちゃん……? な、何で、私を……投げ飛ばしたの……?」
月子 「お前、だけ、でも……ッ……」 グッ 「……お前、だけでも……逃げろ……!!」
宮司 「………………」 フゥ 「……最後の力を振り絞ってやったことが、そんな茶番ですか?」
宮司 「残念ながら私は彼女が大層気に入りました。あなたとともに連れて帰りますよ?」
月子 「貴様……などに……!!」 ギリッ 「貴様などに……世話子は、渡さん……!!」
宮司 「………………」
――――――ドガッ!!
月子 「がッ…………!!?」
宮司 「堕ちたカミが偉そうに言ってくれますね? 『英雄』 に敗北したのです。減らず口は慎みなさい」
531 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:11:46.39 ID:GmDdkNoo
世話子 「やっ……やめて……!!」
世話子 「月子ちゃんに酷いことをしないで……!!」
宮司 「ふふ……ご安心を。我々は彼女の身体を求めています。少し痛い目を見てもらっただけですよ」
宮司 「こうすれば、あなたは逃げるに逃げられないでしょうしねぇ?」
ニヤリ
世話子 「っ……」
月子 「世話子……われの、ことは、いい! 早く……お前だけでも……逃げろ!!」
世話子 「………………」 フルフル 「できない……そんなこと、できないよ……」
宮司 「……ええ、それでいいのです」 ニコッ
――――――ドガッ!!
月子 「がはっ……!!」
世話子 「月子ちゃん!!!」
宮司 「ふふ……ねぇ、『月詠之巫女』 ? ご存知ではなかったですか?」
宮司 「古来より、悪しきカミというものは、『英雄』 に討ち取られる運命にあることを」
532 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:12:22.94 ID:GmDdkNoo
ガッ……グイッ
月子 「う……っ……」
宮司 「おやおや、喋ることもままなりませんか。少し強く蹴りすぎましたかね」
月子 「……や……だ……」
宮司 「はい?」
月子 「いや……だ……」
……ツ
月子 「いや、だ……いやだ……」
……ポタ、ポタ、
宮司 「おやおや、この局面で泣き出しますか。ふふ、それではただの子供と変わりませんね」
宮司 「まったく。これから本物の 『夜統ベル神』 になられるという方が情けない」
月子 「いやだ……いやだ……われは……」
宮司 「泣いたって変わりませんよ。あなたは日本神道のための礎となるのですから」
宮司 「カミの力を受け継ぐあなたが、本物のカミとなる……ふふ、素晴らしいではありませんか」
宮司 「子宮を切除し、あなたは完全な中性となる。すなわちカミと同じ存在となるのですよ」
宮司 「それが我々 『神生ミヲ現ス士』 の目指す、本物の 『神生ミ』 です」
533 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:13:23.13 ID:GmDdkNoo
世話子 「なっ……!? なんてことを考えて……!!」
宮司 「そうすれば先のような弱点も解消され、完全な形で 『剣』 を振るうこともできる」
宮司 「そうなれば、北欧魔神の出来損ないにも遅れをとることはないでしょう」
宮司 「カミの領域に足を踏み入れれば、かの 『禁書目録』 をも圧倒することができるのですよ」
宮司 「そうすれば、この国の宗教の正しい有り様を、取り戻すことも造作ないことなのですよ?」
宮司 「それを厭うとは……まったく、度し難いですね」
月子 「そんなこと、われは知らない……われは、もう、いやなのだ……」
月子 「われは……ただの子どもでありたい……われは、ただの、一人の、女子でありたい、だけ……」
宮司 「運命ですよ。そういう星の下に生まれてしまったんです、あなたは」
宮司 「カミとよく似た身体のつくりをしているのですから、それくらいは受け入れてください」
宮司 「ああ、それとも、“女” を散らす前にカミになるのが嫌ということでしょうか?」
ニタリ
宮司 「それならご安心を。このわたしが責任を持ってあなたの初めてを奪ってさしあげましょう」
月子 「……!」
世話子 「なっ……!! あ、あなたは……!!」
宮司 「妬かないでください。あなたは私の正妻です」 ニコッ
534 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:14:13.22 ID:GmDdkNoo
宮司 「そもそも古来より、巫女とは清浄なる存在でありながら不浄な存在でした」
宮司 「カミに仕える身の上であるからこそ、誰の男根を受け入れても文句を言う者はいない」
グイッ
宮司 「綺麗な顔だ。まったく、カミとして生まれたのがもったいないくらいですね」
ニィィ
月子 「う、ぁ……」
宮司 「巫女は近世まで村落での娼婦のような役割を果たしていましたからねぇ」
宮司 「大丈夫。あなたの “女” は、後でゆっくりとわたしが散らして差し上げます」
月子 「……いや……いや……」
宮司 「さて、満六歳の少女の膣に、成人男性の男根が入るのかどうか……」
宮司 「ま、どうせ切除するものですし、少しくらい乱暴にしてもかまいませんかね」
月子 「いやだ……いやだっ……」
世話子 「ダメ……ダメ……そんなの……酷すぎる……」
月子 「助けて……」
世話子 「誰か……」
月子 「誰か……たすけて――」
――――……ザッ……!!!!!
535 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:14:49.65 ID:GmDdkNoo
月子 「へ……?」
世話子 「……えっ……?」
? 「――――おいおい、そこは “誰か” じゃねぇだろ」 フッ
月子 「!」
世話子 「!?」
宮司 「……?」
? 「しっかりと言おうぜ、」 ニヤッ 「『トマル、たすけて』 ってな」
――……ユラリ、
宮司 「へぇ……まだ立ちますか。何というか、難儀なお方ですね」
止 「……ああ、安心しろ。自覚くらいある」
世話子 「止……さん……?」 グスッ…… 「止さん!」
月子 「トマ、ル……」
止 「おう」 ガヂャッ……!! 「……待たせたな、月子、世話子」
536 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:16:20.64 ID:GmDdkNoo
月子 「……だ、駄目だっ……逃げろ……!」
月子 「逃げろ! 今度こそ死ぬ……死んでしまうぞ!!」
止 「死なねぇよ、安心しろ」 フッ 「大丈夫だ。俺は死なない。まだ、死ぬわけにはいかないからな」
止 「俺を信じろ、月子」
月子 「トマル……」
止 「だからもう一度だけ聞かせてくれ。お前がどうしたいのか、その本心を」
止 「俺にどうしてほしいのか、その言葉を、聞かせてくれ。そうすれば俺は戦える。絶対に勝てる」
月子 「われ、は……」
止 「うん。お前はどうしたい? お前がどうしたい? お前は、どうなりたい?」
止 「お前はこれから、何がしたい?」
月子 「われは……」 グスッ 「カミになど、なりたくない……」
月子 「普通に、学校とやらに、行って、勉強をして、科学のことも、知って……」
月子 「“ともだち” というものも、作って……普通の、遊びを、して……」
月子 「そんな、ただの、ひとりの、ちっぽけな、普通の、人間でありたい……」
月子 「カミになど、なりたくない……!」
――……グスッ
月子 「……だから、トマル、」
月子 「――――――――たすけて……っ」
止 「……ああ、それだけ聞ければ十分だ」 ニッ
止 「その願いは叶う。その想いは届く。そのために、俺は今ここにいる」 スッ 「俺がおまえを守るよ」
止 「――……おまえは俺が、守るから」
537 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:18:54.21 ID:GmDdkNoo
宮司 「……おやおや、科学の尖兵は随分と無責任なことを言いますね」
宮司 「守る? 誰が? 誰を? 誰から?」
宮司 「不完全とはいえカミすらも凌駕する私を? あなたごときが倒すと、そう言うのですか?」
宮司 「ふふ、くだらないですねぇ。本当にくだらない。時間の無駄と申しましょうか」
宮司 「ただの人間風情が、『英雄』 の術式を前に勝負になると思っているのですか?」
止 「………………」 スッ 「……一つだけ覚えておけ、クソペド野郎」
宮司 「はい?」
止 「願いってのはな、カミサマなんかに届きはしないんだよ」
止 「どんなに願ったって、望んだって、カミサマは願いを叶えてくれやしない」
止 「そして、都合のいいヒーローも、こんな闇の底には現れてくれやしない」
止 「けどな、真摯な願いは、想いは、誰に届かずとも、カミサマに届かずとも、傍にいる誰かには届くんだよ」
止 「“アイツら” みたいな本物のヒーローに届かなくとも、傍らにいる奴にだけは、絶対に届くんだ」
止 「そして今、月子の傍には俺がいる。俺はヒーローなんかじゃない。『英雄』 とやらでもない。カミサマなんて代物では有り得ない」
止 「だけど覚えておけ。俺は今ここにいて、月子の言葉を聞いて、立ち上がることができるんだ。俺にだけは、月子の言葉が届いたんだよ」
止 「月子のために、おまえの前に立ちはだかることができるんだよ」
止 「……大それた言い方かもしれないが、これは奇跡だ。だから俺は、月子の起こしたこの奇跡を信じる」
止 「カミサマじゃない、ヒーローでもない、ただの人殺しの俺だけど、それだけは心底信じてるんだよ」
宮司 「………………」
止 「だから俺は、今ここに宣言する」
――ガヂャッ……!!
止 「こっから先は 『通行止め』 だ。ついでに命も置いていけ」
止 「――俺はおまえを、殺す」
538 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:19:46.30 ID:GmDdkNoo
宮司 「……ふん」
ブン……ザザッ……!
月子 「っあ……」
止 「月子ッ……!」
宮司 「情けない声を上げないでください、下賤の輩。邪魔だから放っただけのこと」
宮司 「月の姫、あなたはそこで見ていなさい」
宮司 「『英雄』 に対して牙を剥いた、哀れな 『人間』 の末路をね」
宮司 「そして絶望しなさい。あなたを救える者などいない。あなたを救う者などいない」
宮司 「それをしっかりと認識し、理解し、そして絶望してください」
月子 「………………」 キッ 「……われは、信じる」
宮司 「……?」
月子 「われを信じてくれたトマルを、われも信じる……!」
世話子 「月子ちゃん……」 ギリッ 「……そうだよ……そうだよ! 私たちは、止さんを信じてる!!」
止 「………………」 フッ 「……重い言葉だ。だが、背負ってやるよ」
止 「――それが、俺の人殺しとしての、せめてもの矜持だ」
539 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:21:23.42 ID:GmDdkNoo
世話子 「止さん……」
バサッ……
止 「……お前の身体は、夜空に晒しておくには惜しいくらいに美しい。羽織っておけ」
世話子 「……っ///」 カァア 「……止さんからそんなストレートに褒めてもらったの、初めてな気がします」
止 「ああ……。悪いな。生憎と俺は天の邪鬼なんだ」 ニコッ 「……だが、今だけは言わせてもらう」
世話子 「えっ……?」
止 「……世話子、ありがとう。お前が戦ってくれたから、俺はもう一度戦うチャンスを得ることができた」
世話子 「そんなの……だって、私は、何もできなくて……」
止 「何を言ってやがる。お前のおかげで、ようやくあのクソ野郎をぶちのめす算段がついたっていうのに」
世話子 「え……? 私の、おかげで……?」
止 「……確かにお前はレベル0だ。この学園都市において、おそらくは埋もれてしまうような存在だよ」
止 「だがな、お前の温かさは俺も知っている。その優しさを、俺は知っている」
―――― 『願わくは、『コイツら』 ではなく、『俺たち』 と呼んでくれる日が来ることを』
止 「そう……いつだって、お前は俺を支えてくれていた……」
―――― 『メイさん、止さん、早く……!! 早く乗ってください!!』
―――― 『だから守りたい……メイさんも、シィさんも、イルちゃんも、止さんも……』
―――― 『死も覚悟の上です。言ったはずですよ? 皆さんのために死ねるのなら本望です、と』
止 「……お前はいつだって、俺の力になってくれた」
―――― 『あっ、おかえりなさい、止さん』
止 「お前のその明るい笑顔に、温かい言葉に、優しい心にに、俺は何度救われたと思う?」
世話子 「止さん……」 グスッ 「止さん……!」
止 「だから誇れ。お前は月子と俺にとって、かけがえのない存在なんだ……!!」
540 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:22:07.69 ID:GmDdkNoo
宮司 「………………」
止 「……よくもまぁ、俺の 『ボックス』 の奴らを好き勝手に弄んでくれたな」
止 「覚悟しろよ、魔術師? 俺はお前を殺すと言ったんだ」
宮司 「………………」 フッ 「……できるのなら、ご自由にどうぞ?」
止 「……ああ」
――――――ガヂャッ!!!
止 「そうさせてもらう……ッ!!」
……ダッ!!!!
世話子 「止さん……!」 ギュッ
月子 「トマル……!!」 ギュッ
世話子 「勝って……勝って、ください……! 止さん!!」
月子 「勝て……勝つのだ……!! トマル!!」
タタタタタタタタ……!!!
宮司 「……ふん。相も変わらず学習能力のない。距離を詰めたところでどうしようもないと言っているのに」
宮司 「――――10メートル圏内へ進入。『草薙』 で迎撃します」
ザンッ……!!
541 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:23:15.28 ID:GmDdkNoo
止 「………………」 フッ 「……学習能力がないのはどっちだよ」
――――ギィィィィィィンン!!!!
世話子 「へぁ……?」 クラッ 「……何……? 頭が、重い……?」
止 「――――世話子!! お前の脳髄を貸りるぞッッ!!!」
――――――ッタン……ササッ……
宮司 「……!?」 (何です……? 先より動きが……)
―――ッザンッ!!!
止 「……当たらねぇよ、クソが」 ――ザッ……
宮司 「この動き……」 ギリッ 「……まるで、あの娘のような……」
――ッザン!!
止 「へぇ……」 ――ッタン!! 「よく分かったな」 ――ザザッ……!!
宮司 「っ……これは……どういう……!?」 (あの娘と同じ…… 『草薙』 の射程内にいるのに、当てられる気がしない……!)
世話子 「これは……この、感覚は……」 スッ 「……温かい。止さんの、『通行止め』 のパス……!!」
止 「……悪いな、世話子。お前の脳髄の動作演算アルゴリズムを借りさせてもらっている」
止 「お前の身体じゃないから完全ではないが……筋肉の動作の参考にはなる」 フッ 「これもお前の、誇るべき財産だな」
世話子 「止さん……」
宮司 「ぐっ……どういう仕組みかは知りませんが、彼女の動きをトレースしているということですか……ッ」 ギリッ
542 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:24:08.65 ID:GmDdkNoo
宮司 「ですが、どうあがこうと変わりません! 『草薙』 が当たらなくとも、私には絶対防御術式 『焔薙』 がある!」
宮司 「何をしようと、私に攻撃を与えることはできない!!」
――――――ッッッザン!!!
止 「………………」 フン 「……くだらねぇ」 ……ザザッ!!
――ガチャッ!!
止 「―― “弾丸を散弾へ”」
――――――ドバッ!! ドバッ!!! ドバッ!!!!
宮司 「ッ……」
ガガガガガガ……!!!!
宮司 「何度試せば気が済む……!!」 ギリッ 「『焔薙』 は絶対防御なのだと言ったでしょう!!」
宮司 「さっきと同じです。どんな至近で、たとえ散弾を放ったとしても、私の 『焔薙』 は貫けない!!」
宮司 「剣の射程から 『草薙』 の射程まで、全ての “攻撃” は 『焔薙』 に防がれるのですよ!!」
――――ッザン!!
止 「ぐッ……」
――――――――ッタン!! ズザッ……!!
543 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:24:59.76 ID:GmDdkNoo
宮司 「ようやく隙を見せましたね……!!」
――――ッザン!!!
止 「ッ……!!?」 ギリッ 「クソがッ……!!」
――――ブゥン!!! ……ガシャッ!!
――……ッッズザァァァア!!!
宮司 (避けた……!? 小銃を手放すことで重心を無理矢理に変えたのですか……!!)
宮司 (だが、これで彼に武器は……――)
止 「――――何を呆けてやがる、クソが」
宮司 「!!?」 (ッ……さっきの彼女と同じ……避けると同時に肉薄された……!!)
止 「ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
――ブゥン!!
宮司 「………………」 ニヤッ 「……拳は例外だとでも思いました?」
――――――ザン!! ――ボタッ……
宮司 「はははははははははは!!!! 左手首が飛びましたね! 大変愉快です!!」
宮司 「たとえ拳であろうとも、それが “攻撃” であるのなら、『焔薙』 は全てを切り裂き防ぐのですよ!!」
――――――――――ガチャッ!!!
宮司 「……!!!?」 (袖口に拳銃を……!? しかし…… 『焔薙』 ならば……――)
止 「――……悪いな。お前の高説はもう聞き飽きた」
ッダン!!! ッダン!!! ッダン!!! ッダン!!! ッダン!!! ッダン!!!!!!
544 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:26:19.72 ID:GmDdkNoo
宮司 「………………」
止 「………………」
宮司 「………………」
――――――ゴフッッッ!!!
宮司 「がっ……ぐっ……」 ユラッ…… 「な、何、故……?」
宮司 「――――何故、『焔薙』 、が……発動……しない……?」
止 「……馬鹿が。テメェで言ってたんじゃねぇかよ」 フン 「『焔薙』 の効果範囲は、剣と 『草薙』 の射程内だと」
宮司 「だ……だから……何、だと……?」
止 「――――――……お前、剣の射程がゼロからだとでも思ってたのか?」
宮司 「っ……!!?」
止 「どんな剣の達人だって、零距離で剣を振るうことは出来ない。そもそも、剣の射程は刃渡りの半分ほどからだからだ」
止 「お前の防御術式 『焔薙』 は、“剣の射程と 『草薙』 の射程内の全ての攻撃を切り裂く”」
止 「だがな、そもそも前提として零距離は剣の射程じゃねえ。『草薙』 は剣の射程を10メートルにするだけだから関係ない」
止 「……だから俺は、お前に銃口を押し当てて、零距離から発砲した」
止 「“銃口を押し当てる” こと自体は “攻撃” じゃねぇから、『焔薙』 は発動しない」
止 「俺の左手を落としてご満悦だったお前は隙だらけだから、テメェで剣を振ろうとすらしなかった」
止 「お前は自分の絶対防御を過信していたんだよ。それがお前の敗因だ」
545 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:27:24.65 ID:GmDdkNoo
宮司 「ぐっ……こんな……」 ガクッ 「こんな……科学の……尖兵に……ッ」
宮司 「私が……この、『英雄』 が……敗北、する……など……」
止 「はっ……くだらねぇ」 フン 「お前は 『英雄』 なんかじゃねぇよ」
止 「――――ただのロリペドセクハラ野郎だ」
宮司 「ぐ……ごぁ……」 フラッ……
――――――バダッ……!!
止 「………………」 スッ 「……はは、小指と薬指どころじゃねぇなぁ、これは」
止 「今度は左手ごと失くしちまったか。ザマぁねぇな」
フッ
止 「だがまぁ……これくらいで、守りたい者が守れたのなら、僥倖か」
タタタタタ……ダッ!!
世話子 「止さん!!」 ダキッ!!
止 「のわっ……お、お前……!!」 アタフタ 「こっちは左手吹っ飛ばされてんだぞ!?」
世話子 「止さん……止さん!!」 ギュッ 「私、信じてました! 止さんが、勝ってくれるって!!」
止 「ん……ああ……」 ムギュッ 「……ん? って……お前いま裸みたいなもんなんだから抱きつくなッ!!」
世話子 「えっ……あ……!!」 バッ 「と、止さんのえっち!!」
止 「お、俺のせいになるのか、今の……」 フッ 「……月子、」
月子 「………………」
546 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:28:15.69 ID:GmDdkNoo
月子 「………………」 ポーッ
止 「……月子」
世話子 「……月子ちゃん……」
月子 「……われ、は……」 ポーッ…… 「われ、は……」
月子 「われ、は……救われた、のか……?」
止 「………………」 フッ
ギュッ……
止 「ああ。これでもう、お前を狙う者は来ない」
月子 「われ、は……」 グスッ…… 「“普通“ に……」
止 「……おう。いつでも戻れる。だから、安心して眠れ」
月子 「う……む……」 フッ 「……ありがとう……トマル……世話子……」
zzzzz……
世話子 「ふふ……良かった……」 フラッ 「っ……」
――スッ……
止 「……お前も俺に演算領域を貸して疲れているだろう? 眠れ」 スッ…… 「ありがとう。お前のおかげで勝てた」
世話子 「そんなこと……ありません、よ……」 フッ 「私の、ヒーロー……止さん」
世話子 「早く……その、左手の、止血……を……」 カクッ…… 「………………」 zzzz……
止 「………………」 フッ 「……さて……止血より何より先に、やらなきゃならないことがあるな」
スッ……prrrrr
547 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:30:05.76 ID:GmDdkNoo
prrrr……ピッ
?? 『驚きました。本当に勝ってしまったのですね』
止 「その声の様子だと本当に驚いているみたいだな。失礼な野郎だ」
?? 『はは、そう言わないでください。相手はプロの魔術師、プロの人殺しなんですよ?』
?? 『……何にせよ、勝ったのは喜ばしい。さすがは 『通行止め』 ですね』
止 「白々しいことをぬかすなクソが。叩き潰すぞ」
?? 『怖いですねぇ』 クスッ 『ところで、今度は左手を丸ごと切断されたのでしょう? 大丈夫ですか?』
止 「……どっから見てやがるクソ野郎……。ふん、問題ねぇよ」
?? 『さすがにそのケガの程度では、早く止血しないと死にますよ? っていうか、痛くないんですか?』
止 「俺はレベル4の 『通行止め』 だぞ? テメェの不随意運動くらい完全に制御できる」
?? 『……?』
止 「左腕の痛覚は感じないように完全にシャットダウンしている」
止 「それに加えて、患部の筋肉を強制収縮し、出血を最小限に留めている。あと二時間は問題ないだろう」
?? 『はぁ……』 フゥ 『便利な能力ですねぇ』
止 「違うな。本当に便利な能力ってのは、こんな怪我をしなくともクソ野郎をぶちのめせる能力を言うんだよ」
?? 『なるほど。言われてみれば、その通りかもしれませんね』
548 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:30:46.54 ID:GmDdkNoo
止 「……俺が何でお前に電話をしたか分かるか?」
?? 『? 戦勝報告ですか?』
止 「くだらないことをぬかすな」 ギリッ 「……分かってるんだろう? 交渉だよ」
?? 『おや? まさか日本神道の魔術師を倒したことを対価に新しい条件でもつけるつもりですか?』
止 「………………」
?? 『いけませんねぇ、欲張りは。今回のことはあなたの独断でしょう?』
?? 『それで報酬を求めるというのは、少々いただけませんよねぇ』
止 「……分かっているさ。この戦いそのものは、俺のワガママだ」
?? 『なら……――』
止 「――……だが、この魔術師の命は、どうだ?」
?? 『………………』
止 「聞いたよ。魔術師って奴は、科学サイドの人間が殺してはいけないもんなんだろう?」
宮司 「………………」
止 「……この魔術師は、瀕死だがまだ生きている。それを俺が今から殺したら、」
止 「――さて、上層部が危惧していた、魔術結社との関係性はどうなるんだろうなぁ?」
549 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:31:38.08 ID:GmDdkNoo
?? 『………………』
止 「月子を奪う気満々だった魔術結社が、送り出した魔術師が敗北するなんてイレギュラーを考慮に入れていたはずがない」
止 「……学園都市と魔術結社とが結んだ密約とやらに、魔術師の敗北に関する条項はなかっただろう?」
止 「起こってしまったイレギュラーに対して、魔術結社はどう考えるだろうなぁ?」
止 「月子に関しては、一度きりで諦めるという条項を呑ませてある」
止 「しかし敗北した魔術師に関しては何の取り決めもなしていない。魔術結社は返還を要求するだろう」
止 「……そして事を荒立てたくない学園都市上層部も、そうすることを望むだろう」
止 「だったら、この魔術師を殺されたらまずいだろう?」
止 「ローマ正教だけでなく、『神生ミヲ現ス士』とやらとも戦争をしたいのなら別だがな」
?? 『………………』
止 「……それが嫌なら、俺の要求を飲め。月子と世話子を、表へ戻せ」
?? 『………………』 フッ
?? 『……まったく、本当に、えげつないことを思いつくものです』
?? 『たしかに、その魔術師をあなたに殺される事態は、こちらにとって望ましくないですね』
?? 『――……まぁ、前提として 『神生ミヲ現ス士』 なんていう魔術結社があれば、の話ですけどね』
クスッ
550 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:32:38.95 ID:GmDdkNoo
止 「……!? どういう意味だ……?」
?? 『そのまま受け取っていただいて結構ですよ』
?? 『その魔術結社が存在していれば、確かにあなたの脅迫は厄介だと言ったんです』
止 「『神生ミヲ現ス士』 が存在しないとでも言うのか……?」
止 「すぐに看破されるようなはったりをぬかすな! ならばこの魔術師は何だと言うんだ!!」
?? 『ええ、そうです』 ニコッ 『その魔術師が所属していた 『神生ミヲ現ス士』 は存在していました』
止 「……ッ」 ギリッ 「“いました” 、だと……?」
?? 『まぁ……』 クスッ 『もうすでに壊滅してしまいましたけどね』
止 「……!!? だからくだらないはったりを言うな!!」
止 「この魔術師はレベル5クラスの実力を持っていた! こんな奴がゴロゴロいるような魔術結社を、」
止 「そう簡単に壊滅なんてできるものかッ!!」
?? 『………………』
クスッ
?? 『……だからあなたは常識を知らないというんです』
止 「ッ……!?」
551 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:33:22.02 ID:GmDdkNoo
止 「まさかお前……」 ギリッ 「魔術結社に対して、レベル5を投入したっていうのか……!?」
?? 『そんなわけがないでしょう? 魔術に対してそう簡単に超能力者など投入できるはずがない』
止 「な……ならばどうやって――――」
?? 『――――イギリス清教……』
止 「……? 何だと?」
?? 『知りませんか? 英国独自の体系を持つ十字教の宗派です』
止 「っ……それがどうしたと聞いているんだ!!」
?? 『イギリス清教は……まぁ、その中でも主に 『必要悪の教会』 という組織の話になりますが、』
?? 『……主に、異端者や異教徒、背信者を裁くことを仕事としています』
止 「……?」
?? 『現代において、彼らとてさすがに異教徒であるというだけで攻撃をするようなことはありませんが、』
?? 『……民間人に危害を加える可能性のある危険な魔術的存在について、彼らは容赦なくそれを破壊します』
?? 『そして我々学園都市とイギリス清教とは、成り行き上とはいえ、ほぼ同盟状態となっています』
止 「ッ……まさか……!」
552 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:37:58.78 ID:GmDdkNoo
?? 『お察しの通りです』 クスッ 『イギリス清教 『必要悪の教会』 が先ほど、『神生ミヲ現ス士』 を殲滅してくれました』
?? 『彼らは日本神道の原理主義……宗教による独善を良しとする、大変危険な魔術結社でしたから』
?? 『ねえ、『通行止め』 ? なぜ私があなたのワガママにゴーサインを出したんだと思います?』
止 「何だと……?」
?? 『何の益もなく、あなたを魔術師なんかにぶつけるはずがないでしょう? 時間稼ぎのためですよ』
?? 『――『必要悪の教会』 が、『神生ミヲ現ス士』 を殲滅するまでの、時間稼ぎのため、です』
?? 『殲滅前に 『神体』 が魔術結社に渡ってしまうことだけは避けたかったですからねぇ』
?? 『あなたは本当に良い仕事をしてくれました。感謝しますよ、『通行止め』』
止 「馬鹿な……! あんな魔術師がゴロゴロいるような組織を、そんな短時間で……!!」
?? 『まぁ、あなたの前で寝ている魔術師は、『神生ミヲ現ス士』 の中でもとりわけ強力な使い手だったようですがね』
?? 『……それでも、たしかに凄まじいと思いますよ?』 クスッ
?? 『何せ、“彼女” はたったひとりで 『神生ミヲ現ス士』 を壊滅させたのですから』
止 「……!? な……何を言っている!? たったひとりで、一組織を壊滅させただと……!?」
?? 『ええ。それが “彼女” です。敵でなくてよかったと心底思いますよ』
?? 『……ところで、こんなに暢気に私と話していていいのですか?』
止 「……ッ、何の話だ?」
?? 『言ったでしょう? 『必要悪の教会』 は、危険性のある魔術的存在を放ってはおかないと』
止 「ッ……!? ま、まさか……」 ギリッ 「……その、“彼女” とやらが……――――」
――――――……ザッ……
止 「ッ……!!!?」 バッ
?? 『……さてはて、『通行止め』 ?』 クスッ 『今度こそあなたも、終わりかもしれませんよ?』
――――プツッ
553 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:38:56.99 ID:GmDdkNoo
?? 「………………」
止 「………………」 ギリッ 「……お前が……」
月子 「………………」
?? 「………………」 チラッ 「…… 『月詠之巫女』 というのは、そちらの少女ですね?」
止 「お前が……イギリス清教の 『必要悪の教会』 とやらの人間か?」
?? 「………………」
止 「………………」
?? 「………………」
止 「………………」
スッ……
止 「ッ……」 ザッ……!!
?? 「………………」 フッ 「そう警戒をなさらないでください。あなたを傷つけようというわけではありません」
止 「………………」 ギリッ (何だ……この女……優しい、慈愛に満ち溢れた目をしやがる……!!)
?? 「……まずは自己紹介が先でしたね。非礼をお詫びします」 ペコリ 「初めまして。お察しの通り、私は 『必要悪の教会』 所属、」
?? 「――――神裂火織と申します」
554 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:39:27.93 ID:3ui9.bco
かおりん
555 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:39:33.45 ID:GmDdkNoo
止 「………………」 フン 「……道理をわきまえた常識人のようだな」
止 「『通行止め(ドライブキャンセラー)』 だ。他に名前はない」
神裂 「……あなたも、良識を持った賢しい方のようです。助かります」
神裂 「ところで、本題に入る前に一つよろしいですか?」
止 「………………」 ジッ 「……なんだ?」
神裂 「……せめてそちらの左手、」 スッ 「簡単な応急処置だけでもさせてください」
止 「……何だと?」
神裂 「私の教義に誓って、罠などではありません。ただ、私は傷ついたものを放っておけるほど器用ではないのです」
止 「………………」
神裂 「………………」
止 「……気遣い、感謝する」 スッ 「ありがたく世話になろう」
神裂 「………………」 ホッ 「……良かった。断られたらどうしようと気が気ではありませんでした」
ニコッ
止 「………………」 (コイツが魔術結社を壊滅させた……? 嘘だろう?)
止 (こんな、善意と正義しか感じられない、ヒーローのような女が……)
556 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:40:24.07 ID:GmDdkNoo
………………
神裂 「……どうですか? 魔術的な処置になってしまいましたが、違和感はありませんか?」
止 「いや……」 スッ 「……俺の能力を使わなくとも、出血がなくなったようだ」
止 「ありがとう。助かる」 ペコリ
神裂 「いえいえ。私のワガママのようなものですから、お気になさらずに」
止 「………………」 フン 「……そろそろ本題に入らせてもらおうか」
神裂 「……はい」
止 「アンタが 『神生ミヲ現ス士』 を壊滅させたというのは本当か?」
神裂 「……ええ、その通りです」 スッ 「今さっき、この手で……」
神裂 「あなたの左手を治療をしたのと同じ、この手で」
止 「っ……」 (ダメだ……コイツは嘘をつくような人間じゃない……)
止 (……これは、本気なんだ。本当の、ことなんだ……!!)
止 「……ここに来たお前の目的は何だ?」
神裂 「………………」 ジッ 「……あなたもすでに、分かっているのではないですか?」
止 「ッ……」 バッ 「……俺の察した通りだというのなら……ッ!!」 ザッ……!!
――――――ガチャッ!!!
557 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:41:18.67 ID:GmDdkNoo
神裂 「………………」 フッ 「……その小銃で、私を撃ちますか?」
止 「ッ……!」 ギリッ 「な……何故身構えない! 俺はお前に銃口を向けているんだぞ!?」
神裂 「あなたはまだ撃たない。それが分かっているからです」
止 「ぐっ……」 ジリッ 「……お前は……一体……!!」
神裂 「………………」 チラッ 「――それにまだ、殲滅すべき人間が生きているようですので」
止 「な……にを……――――」 チラッ
宮司 「………………」 スッ 「……おや? ばれていましたか?」
止 「ッ……!?」
神裂 「コソコソと姑息な真似を。『神力』 ……魔力をこっそりと回復にあてていたのですね?」
宮司 「ええ、まぁ……」 ニヤッ 「せめて、そのクソガキだけでも殺しておこうかと思いまして」
フラッ……――――ッザン!!
止 「……!?」 (まずっ……避けられな――――)
――――――――ッッッギィン!!!
止 「なっ……!?」 (何だ……? ワイヤー? これが俺への 『草薙』 を弾いたっていうのか……!?)
宮司 「っ………!」 ギリッ 「魔術師のくせに科学の能力者を庇うのですか!?」
558 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:42:00.10 ID:GmDdkNoo
神裂 「くだらないことを。倒すべきが誰かくらい、私は心得ていますよ」
神裂 「……魔術結社 『神生ミヲ現ス士』 、残党」 スッ 「私は殺生を好みませんが、」
シュシュシュシュシュシュッッッ……!!!!
宮司 「なっ……!?」
止 (神裂の手から、大量のワイヤーが……これは……!?)
神裂 「――人々に害なす者であれば、それもやむなしかと」
宮司 「つ、剣が……動かせな……――――」
神裂 「――――せめて安らかに、あなたの信条の赴く先へ、召されてください」
……ッッッッドン!!!
宮司 「がッ……は……」 ガクッ 「……ぐ…………が……」
――――――――パタリ……
止 「……なんだ……何なんだ……これは……?」
止 (俺が……俺と月子と世話子……三人がかりでようやく倒した魔術師を……)
止 (この女は……神裂は……一瞬で、一撃で、倒しちまいやがったっていうのかよ……!!)
559 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:42:50.56 ID:GmDdkNoo
神裂 「………………」 スッ 「……やはり、人を殺すというのは、嫌なものです」
止 「………………」
神裂 「それを主とする組織に身を置きながら、何を言っているのかというような言葉ですけどね」
止 「……納得したよ。お前が、たったひとりで 『神生ミヲ現ス士』 を殲滅したっていうその言葉」
止 「今のを見ただけで信じられる気分だ」
神裂 「……そうですか」
止 「………………」 ギリッ 「お前は……!!」
――――ガチャッ!!
止 「……お前は……それに加えて……」 ギリッ 「……月子まで、殺そうって言うのか……!?」
神裂 「………………」 ジッ 「……ええ。私は彼女、『月詠之巫女』 を、殺しに参りました」
止 「ッ……!!」
止 「月子が強大な 『神体』 という力を持っているから……だから殺すっていうのか!?」
神裂 「………………」
止 「あの子は好きであんな力を持っているわけじゃない! ただ、持って生まれてしまったというだけだ!」
止 「あの子はあの力を悪用することなんか望んではいない! あの子に危険性はない!」
560 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:43:50.45 ID:GmDdkNoo
止 「だから……だから、見逃してくれよ……!!」
止 「あの子はやっと、あんな力に翻弄される運命から逃れることができたんだよ!!」
神裂 「………………」
フルフル
止 「……!?」
神裂 「……それでも、変わりません。『必要悪の教会』 は、『月詠之巫女』 を危険と判断します」
止 「何故……なぜだ!! 何故あの子を殺そうとする……!!」
神裂 「………………」 スッ 「……未来のためです」
止 「……何だと? 未来?」
神裂 「ええ。今回 『神生ミヲ現ス士』 に対しては先手を打ち、私を投入することで潰すことができました」
神裂 「……しかし、もし次があったら?」
止 「次……だと?」
神裂 「日本神道系魔術結社は 『神生ミヲ現ス士』 だけというわけではありません」
神裂 「今は危険ではない結社や神社が、彼女の力を欲するようになったら?」
神裂 「その時に、また今回のように彼女を守り通すことができますか?」
561 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:44:47.09 ID:GmDdkNoo
止 「……!?」 ギリッ 「そんなこと――」
神裂 「――あなたがさせない、ですか?」
神裂 「しかしあなたには、彼女以外にも背負うものがあるようにお見受けしますが?」
止 「っ……」
神裂 「………………」 フゥ 「……正直な話をしましょうか?」
神裂 「彼女が本当に、正真正銘のカミの力を得たとしたら、私でも勝利は難しいでしょう」
止 「………………」
神裂 「……彼女は本当に希有な力をその身に宿しているのです。それこそ、核弾頭のように、強大な力をね」
神裂 「その力が悪用されれば、多くの罪なき人々が蹂躙され、殺戮され、涙を流すこととなるでしょう」
神裂 「……あなたに、その時の責任が取れますか?」
止 「っ……そんなこと……」
神裂 「……我々魔術師には、その覚悟を示す魔法名というものがあります」
神裂 「私はその魔法名に誓って、そんな未来を排除しなければならないのです」
神裂 「多くの人が苦しむような未来を……私は、徹底的に排除します」
神裂 「……それに、その未来が実現したときに、一番苦しむのは誰だと思います?」
神裂 「――――他でもない、カミとなり、望まぬ悲劇をまき散らす彼女でしょう?」
562 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:45:43.12 ID:GmDdkNoo
止 「っ……」 ギリッ 「じゃあ……月子は……」
神裂 「………………」
止 「月子が生まれてきた意味ってのは何なんだよ!!」
神裂 「………………」
止 「あの子は強大な力を持って生まれて、自由もない生活を強いられて、」
止 「その身体を狙う魔術結社に追われて……それからもようやく解放されて、」
止 「……それなのに、今度は殺されるっていうのかよ……!!」
ギリッ
止 「あの子に、幸福な…… “普通” の生活は与えられないのかよ!!」
神裂 「………………」
止 「お前は……お前は……ただ、“普通” を望むあの子を、あくまで殺すっていうんだな……!!」
神裂 「……最大多数を救うためです。それに、これはイギリス清教から正式に下された命令ですから」
止 「……違う。そんなのは、絶対に違う!」
止 「アイツらだったら……ヒーローなら!! そんなクソッタレなことを許すはずがないッ!!」
神裂 「………………」 ギリッ 「……そう、ですね……きっと、“彼” なら……」
神裂 「“彼” なら……違う答えを、出しているでしょう……」
563 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:47:34.02 ID:GmDdkNoo
止 「っ……それを分かっていながら……ッ!!」
止 「お前は、テメェの中のヒーローが否定するような答えしか抱けないっていうのかよ!!」
神裂 「……私は彼とは違う」
止 「俺だって違う……!!」 ギリッ 「だがな……少なくとも、俺の中のヒーローを否定したりしない!!」
―――― 『お前にだって守りたい奴がいるんだろ!? 笑顔にしたい奴がいるんだろう!?』
止 「アイツだったら……絶対にそんな答えを良しとはしない!!」
止 「俺はヒーローじゃない、ただの人殺しだ。だが、それでも……!!」
止 「―― “最悪の未来” なんていうふざけた幻想で殺される命を、諦めることなんてできるかッ!!」
神裂 「ッ……!?」
止 「………………」 グッ 「俺は……」
―――― 『われは信じるぞ! われの未来を。われの望みを。そして、止のことを!』
止 「俺は……、俺は!!」 ギリッ 「あの子の未来を……お前なんかに潰させやしない!」
神裂 「………………」 スッ 「……いいでしょう。相手になります」
神裂 「ご安心を。命は取りません。派手なケガをさせるつもりもありません」
―――― 『――まずはその幻想をぶち壊す!!!』
止 「………………」 スッ 「……悪いな、借りるぜ、上条」
神裂 「……!?」
止 「……いいだろう、神裂。お前が、クソくだらねぇ未来なんかで、あの子の命を奪おうっていうんなら、」
止 「――――まずはその幻想をぶち殺す!!」
564 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:48:33.69 ID:GmDdkNoo
止 「死ぬんじゃねぇぞ神裂!!」
――――ガチャッ……!!
ッダン!! ッダン!! ッダン!!
神裂 「……ふん」 ッタン……!!
止 「……!?」 (単純な反射神経と脚力で、至近距離からの弾丸を避けたっていうのかよ……!!)
神裂 「………………」 ――シュン!! 「『七閃』 ……!!」
シュルルルルルルッッッ……!!
止 (っ……ワイヤーかッ!!) ――ダッ!!
神裂 「……その程度で避けたつもりなら、甘いとしか評価のしようがありません」
シュルルルルルルッッッ……!!!!
止 「ッ……!?」 (なんだ……生きてやがるのか、あのワイヤー……!?)
神裂 「………………」 ……シュン!!
――――――ドバババババババッ……!!!
止 「は、ぁ……!!」 (ワイヤーの網……!? いや、これはそんな生易しいものじゃ――――)
ドガガガガガガガガガガガガガガッッッ!!!!
止 「ごがッ……!!!」
――――――――……ガクッ
565 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:49:18.59 ID:GmDdkNoo
神裂 「………………」
止 「ぐっ……」 ギリッ 「まだ……」 ヨロ……
神裂 「……無駄です。やめてください」
神裂 「私は今の状態で、『七閃』 ……ワイヤーによる攻撃、その半分の技量も出していません」
神裂 「そしてその先には、私の真説の術式が待っています。あなたに私を倒すことはできません」
止 「ッ……うるせぇ……!!」
神裂 「…… 『死ぬんじゃねぇぞ神裂!!』 ……ですか」
神裂 「私も多くの戦場を経験してきましたが、これから戦おうという相手に対して死ぬなと言う人は初めて見ました」
止 「っ……」 フン 「……殺したくないヤツは殺したくない。ただの人殺しのワガママだよ」
神裂 「不殺の精神などを持って私に挑むということですか?」
止 「お互い様だ。メチャクチャな手加減しやがって。今の立ち合いで十回以上は俺を殺すチャンスがあったはずだ」
神裂 「……言ったでしょう。覚悟を示す魔法名というものがある、と」
神裂 「私はそれを名乗らずに、人を殺すことはありません」
止 「………………」 ギリッ 「……やはりお前は善人だ。だから俺はお前を殺したくない」
566 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:50:51.49 ID:GmDdkNoo
神裂 「………………」 スッ 「……ならば、私はあなたの攻撃手段を潰しましょう」
シュルルルルルルッッ……!!
止 「ッ……!?」 (しまっ……機械化小銃を……!?)
――ドガガガガガガッ!!!
……ガコッ……!!
止 「っ……クソが……!!」 バッ……ザザザッ……!!
神裂 「……どうします? あなたの小銃は破壊しました。もう、あなたに攻撃手段はないはずです」
止 「ッ……言っただろうが! 諦めないってなッ!!」
ダッ……!!
止 「オオオオオオオオオオォォォォォォォオオオオオオオオオオオ!!!!!」
神裂 「……そういうところも “彼” と同じですか」
神裂 「拳も片方しかないというのに……それでもまだ、私に立ち向かうのですね」
神裂 「私が圧倒的な力を持っていることを知りながら、それでもなお、」
神裂 「――右手ひとつで、私に向かってくるのですね」
神裂 「………………」 スッ……
神裂 「……ならば私も、真っ向からそれを迎え撃ちましょう」
………………シュルルルルルルッッッッ!!! ザザザザザザザ……!!!!
568 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:51:34.58 ID:GmDdkNoo
止 「ッ……!?」 (さっき以上の数のワイヤーが……!)
止 「……クソッタレ……それでも俺は……!!」
ダッ……!!
止 (怯むな、恐れるな!! アイツらだったら……恐れず立ち向かう!!)
神裂 「……おやすみなさい、」
神裂 「―――― 『通行止め』」
――――――ガガガガガガガガガガ……!!!
止 「ごッッ……!!?」
ガガガガガガ……!!! ――ッタン……
止 「………………」 ガクッ 「ぐっ……が……」
――――――パタリ
止 「………………」
神裂 「………………」 スッ 「……申し訳ありません」 ペコリ
神裂 「………………」 (私だって、本当はこんなことをしたくない……なんていうのは、卑怯ですよね)
神裂 (私は結局 『必要悪の教会』 の手先……その上に、自分の正義を被せることしかできない)
月子 「………………」 zzzz……
神裂 「……未来のために、多くの、救われぬ者を救うために……あなたを……」
スッ…………
569 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:52:42.33 ID:GmDdkNoo
止 (………………) スッ……ガクッ (……あ……だめ、だ……)
止 (身体が……全然、動かない……)
止 (精神論とか、そういうレベルじゃ、ない……)
止 (圧倒的な力の差……これは、きっとどうしようもないこと、なんだ……)
止 (強さが違うとかじゃない。格が……レベルが……次元が違う……)
止 (勝てるわけがない……こんなのに、勝てるわけがない……)
止 (だってそうだろう? 俺は、能力者以外の相手には、『斉撃』 しか対抗手段がないんだぜ?)
止 (そしてその 『斉撃』 は敗北した……機械化小銃はすでに、バラバラに壊された)
―――― 『それでも……そうじゃねぇだろう!? なぜ戦うのかなんて、単純な “強さ” の問題じゃねぇだろう!?』
止 (……無理だよ、上条。だって、俺は、お前とは違うんだ……)
止 (お前のような、不屈のヒーローじゃねぇんだよ。ただの、人殺しなんだよ……)
―――― 『足掻いて、足掻いて……何かがあって、1が増えて、また1が増えて、そして、3に並ぶことを……』
―――― 『そんな奇跡を……待つことが、できるんだよ……!』
止 (無理だよ、103。俺は、お前のようには戦えないよ……俺には、無理だよ……)
止 (俺は、ただの人殺しなんだよ……お前たちみたいな、ヒーローじゃ、ないんだよ)
止 (きっと……きっと、アイツらなら……ヒーローなら……)
止 (こんな状態でも、立ち上がるんだろうな……立ち上がって、もう一度神裂に立ち向かうんだろうな)
止 (ヒーローなら……きっと……。ヒーローなら、絶対に……立ち上がる)
止 (………………) グッ…… (ヒーローなら……)
ギリッ……!!!
止 (……だったら……!! だったら……ッッ!!)
止 (立てよ、『通行止め』 ……!!)
止 (お前が月子を守りたいという人殺しとしてのワガママを貫きたいというのなら……!!)
止 (……立てよ) グッ……ググッ…… (ヒーローなら立ち上がると言うのなら……!!)
止 (―――― “ヒーローになってでも立ち上がれ” ッッッ!!!!)
570 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:54:05.01 ID:GmDdkNoo
………………
神裂 「………………」
…………ザッ……!!
神裂 「……?」 クルッ
止 「………………」 フラッ…… 「………………」 フラッ……
神裂 「………………」 ギリッ 「……やめてください。もう、立っているだけで限界でしょう?」
止 「……まだだ」 フラッ…… 「まだ、俺は……月子の命を、諦めない……」
神裂 「………………」 ギリリッッ 「あなたは……何も分かっていない……!!」
神裂 「イギリス清教があの子を危険だと判断したんです!」
神裂 「そして学園都市もまた、彼女のような魔術的に危険な存在を野放しにしておく気はない!!」
神裂 「両組織にとって邪魔な存在を、一個人で守れるわけがないでしょう!?」
神裂 「私が彼女を見逃しても、彼女はもっと苦しみながら、両組織に殺されるだけのことです!!」
神裂 「それならば……いっそ私が……ッ」
止 「………………」
ククッ……
神裂 「!? な……何が可笑しいッッ!!?」
止 「……何だよ」 フッ 「やっぱりお前も、本当は月子を殺したくないんじゃないか」
神裂 「ッ……! 言葉のアヤです! 私は、最悪の未来で苦しむ人々を救うために、彼女を……!!」
神裂 「彼女を、殺すと決めたのです……!!」
571 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:55:58.63 ID:GmDdkNoo
止 「……お前、迷ってるだろ?」
神裂 「ッ……」
止 「月子の命と、月子の力によって奪われるかもしれない数多の命を天秤にかけて、迷っている」
止 「……なら……迷うくらいなら……!!」 グッ 「両方とも救う道ってのはないのかよ!!」
神裂 「ぐッ……吠えるな能力者ッ!!」 ギリッ 「そんな道があるというのなら、私に示してみせろ!!」
神裂 「私のような下っ端も倒せないのであれば……そんな道は絶対にあり得ない!!」
止 「……ああ、そうだな」 スッ 「なら、俺は俺のもてる最大の力を持って、お前に立ち向かおう」
神裂 「ッ……」 スッ…… 「ならば、名乗りましょう……私の、覚悟も」
神裂 「……イギリス清教 『必要悪の教会』 所属、天草式十字凄教、元女教皇…… 『聖人』」
神裂 「魔法名は、『救われぬ者に救いの手を』 。……参ります」
止 「……学園都市、特殊チーム 『ボックス』 所属、大能力者 『通行止め』 、通り名は “能力殺し” ……」
止 「……こっから先は、『通行止め』 だ。残念ながらな」
止 「――――だが、だからこそ……新しい道は俺が作る……!!」
572 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:56:36.19 ID:GmDdkNoo
神裂 「……あなたの手に武器はない!」
――――――ダッ……!!
神裂 「この一撃でお終いです……!!」
止 「………………」
―――― 『魔術は普通の人間にしか扱うことが出来ぬのだ。だから能力開発を受けたお前には使うことが出来ない』
―――― 『もしお前がそれでも強引に魔術を行使しようとすれば……拒絶反応が起こり、最悪、身体が弾け飛ぶ』
止 「……ふん……構うものか……」 フッ 「ヒーローなら、それくらいやるだろうからな……」
スッ……
神裂 「……?」 ハッ 「ま、まさか……ッ!!?」
―――― 『まぁ、能力の “れべる” とやらが高い方が、魔術を行使したときのダメージはより大きいかもしれんがな』
止 「ただではすまないかもしれないな……まぁ、今さらな話か……」
神裂 「や……やめなさい……!! あなたは死ぬ気ですか……!?」
止 「……お前は本当に優しいな。覚悟とやらを示した後だってのに、敵の心配かよ」
止 「だが……悪いな。もう、止まれないんだ……」
―――― 『私の術式はこの剣を手に持っているというだけでで自動的に起動します。穴はありませんよ?』
止 「その言葉、信じるぜ? クソ野郎」 スッ―― 「『英雄』 とやらの術式を、俺によこせ……!!」
――――――ガシッ!!!
573 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:57:45.74 ID:GmDdkNoo
バヂヂヂヂヂヂヂヂッッッ…………………………!!!!!!
止 「がッ……!?」 (こ……れは……!!?)
神裂 「っ……人が手に持つと自動的に起動する術式が施された霊装……それを能力者が持ったとすれば……ッ!」
神裂 「放しなさい!! それはあなたに扱えるような代物じゃない!! 拒絶反応で死にますよ!!?」
ヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂ……バヂッ!! ブッッシャァァアアアアア……!!
止 「ぐッ……!!」 (身体中の筋肉が、悲鳴を……いや、違うな……)
止 (身体中が、無理矢理に引き裂かれるようだ……だが……それでも……!!)
止 「オォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
――――ギィィィィィィンン!!!!!!!!
神裂 「なっ……出血が、勢いを減じた……!?」
止 「いつまで、も……!!」 スッ…… 「敵の、心配……してんじゃねぇぞ神裂!!!」
ブゥン……!!!
神裂 「ッ……!!?」 ガッ……ザザザザッ……!!
神裂 (何という威力……本当に 『悲劇の英雄』 の術式を使いこなしているというのですか……!?)
止 「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
――――ダッ!!
574 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:59:26.55 ID:GmDdkNoo
神裂 「馬鹿な……走れるような状態では……」
止 「痛覚は全てシャットアウトしてある!! 出血は、体表近くの筋組織を無理矢理に収縮させて防いでいる!」
止 「そして右手一本で剣を振るうために、全ての筋肉のリミッターを解いている!!」
止 「これが俺の能力……俺の 『通行止め』 の力だッ!!」
神裂 「ッ……無茶苦茶なことを……!!」
シュルルルルルルッッッ……!!!
止 「ワイヤーごとき……!!」 ザザザザンンンッ……!! 「自動防御術式で防げるんだよ!!」
――――――ブッシャァァァアアアア!!!
止 「がっ……」 グッ…… 「何をふぬけたことをしてやがる!! しっかり止血をしろ 『通行止め』 !!」
神裂 「っ……もうやめなさい!! あなたがその剣を振るうたびに、あなたの身体は壊れていく!!」
神裂 「あなたは能力で表面を取り繕い、刹那的に身体を動かしているだけです!!」
神裂 「死ぬ……本当に死んでしまう……ッ!!!」
止 「うるせぇ!! いつまでも人の心配してんじゃねぇって言ってるだろうがッ!!」
――ブゥン!!!
神裂 「ぐッ……!!?」
――――ドガガガガガガッッッ……!!!
575 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 02:00:01.44 ID:GmDdkNoo
神裂 (相手は右手一本の、半死半生の少年……)
神裂 (こちらの攻撃は完全に防がれ、相手の攻撃は受け流すだけで精一杯……)
神裂 (これが気迫の力……死ぬ直前の人間が持ち得る、本物の覚悟の力……!!)
神裂 (しかし、このまま悠長に切り結んでいては、彼が……)
止 「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
ビチャッ……!! ビチャッビチャッ……バシャッ……
神裂 (彼が死んでしまう……それに……)
グッ
神裂 (……これでは、彼の覚悟に対し、あまりにも失礼……)
ザッ……!!
神裂 「ならば……私は……」 チャッ…… 「私の真説を…… 『唯閃』 をもって……」
神裂 「あなたを一刀の元に討ち倒しましょう……!!」
576 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 02:00:45.96 ID:GmDdkNoo
止 「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ブゥン――――――
神裂 「………………」 チャキッ…… 「――――……遅い」
――――ッタン……
神裂 「―――――――― 『唯閃』」
止 「……!!!?」
――――――――――ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッド……!!!!!!
止 (何だ……!? 剣戟が……迫っ――――――)
ドガガガガガガガッッ……!!!!!!!!
止 (っ…… 『焔薙』 の効果が……!!)
ピシッ……ピシピシッ……――――
止 (……!? ま、まさか……剣が……!?)
――――――ピシッ……バギッ!!!
止 (――折、れ――――――………………)
――――――ドガガガガガガガガガッッッッ……!!!!!
止 「ッが……ぁ……」 ガクッ 「これ、が……なるほど……お前の……」
……………………ドサッ……
577 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 02:01:03.92 ID:3ui9.bco
うおああ!
578 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 02:01:28.60 ID:GmDdkNoo
神裂 「………………」
――――スタッ
神裂 「……これが、私の 『唯閃』 です」
止 「………………」
神裂 「………………」 スッ 「……終わりです、『通行止め』」
クルッ……ガシッ
神裂 「!!?」
止 「ま……まだ……だ……」
神裂 「っ……足を……」 ブンブン!! 「決着はつきました。放しなさい、『通行止め』」
止 「まだ……だと……言って、いるんだよ……俺は……」
止 「放す……もの、か……」 ギリッ 「お前、に……月子を……殺させる、もの、か……」
神裂 「っ……往生際の悪い真似を……!!」
神裂 「あなたは私に負けたのです! もう立ち上がる力も無い! ならばそこで――――」
止 「――――俺、は……諦め、ない……」
神裂 「……!!?」
止 「身体、が……動かなく、とも……まだ……脳は、口は……動かせ、る……」
止 「なら……まだ、俺は……諦め……ない……」
止 「意地、汚く……往生際、悪く……アンタに……頼むことが、できる……」
579 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 02:02:05.05 ID:GmDdkNoo
止 「頼、むよ……! 頼む……!」
止 「アンタは……そんなに、強いのに……なんだって、そんな、クソッタレな、ことしか、できないんだよ……」
神裂 「ッ……!?」
止 「そんなに、強いんだろ……そんなすげぇ力を持ってるんだろ……?」
止 「だったら……だったら、守って、くれよ……。あの子、みたいに……苦しんで、苦しんで、苦しんで、」
止 「それでも、まだ……もがき苦しまなきゃ、ならないような奴を、さ……」
止 「救って、やってくれよ……。守って、やって……くれよ……」
止 「なぁ……? アンタの “救われぬ者” って、いうやつには……あの子は入らないっていうのかよ……?」
神裂 「そ……それ、は……」
止 「頼む……頼むよ……」
止 「あの子……を……助けて……やって……くれ……よ……」
――――ガクッ……
止 (ダメ……だ……口が……動かない……)
止 (――――メイ……イル……世話子………………月子……)
止 (ごめん……な……)
…………………………
……………………………………………………………………………………………………………
580 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 02:11:10.23 ID:GmDdkNoo
>>1です。
見ていてくださった方、ありがとうございます。
遅くまでありがとうございます。
今日はここまでです。
これで一応、男と止の本編は終了です。
あとはエピローグになります。
また上がっていたら始まったと思って来ていただけると嬉しいです。
また、今回敵として登場した二人ですが、私なりに彼と彼女の正義を示したつもりです。
もしファンの方が気分を害されていたらすみません。
581 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 02:12:57.23 ID:3ui9.bco
気になるとこで・・・!
乙乙
591 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:44:38.51 ID:vI.l3uko
……………………………………………………………………………………………………………
…………………………
止 (……? 何、だ……? ここは……)
パァァァ……
止 (とても……明るくて……とても、温かい……)
止 (夢……いや……)
止 (俺は……死んだのか……?)
………………ル……
止 (……声……?)
…………マル……
止 (……?)
……トマル……
止 (俺を……呼ぶ、声……)
――――サァァアアアア……
? 『――止』
止 (お前、は……) フッ (……久しぶりだな……)
ニッ
止 (――――よう。シィ……)
592 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:45:13.81 ID:vI.l3uko
シィ 『ふふ……久しぶりといっても、あのときからまだ何日と経っていないんだけどね』
止 (はは……光なんかまといやがって……随分と神々しくなっちまったじゃねぇか)
シィ 『言うなよ。結構恥ずかしいんだよ? これ』
止 (ちがいねぇな……本当に、恥ずかしい格好だ……)
シィ 『………………』
止 (………………)
シィ 『………………』
止 (……なぁ……)
シィ 『ん?』
止 (お前が目の前にいるってことは……俺は、死んだってことなのか……?)
シィ 『………………』 フッ 『さぁて、ね。僕にそんなことを訊かれても困るよ』
シィ 『君は死んでいて、天国とか地獄とかそういう場所にいる僕が迎えに来たのか、』
シィ 『それとも、僕は瀕死の君が見ている幻覚でしかないのか、』
シィ 『はたまた、僕のAIM拡散力場の残滓を君が拾って勝手に像としているのか、』
シィ 『……それは、僕には分からない。僕は死んだ人間だよ?』
シィ 『死んだ者に、物語に介入する権利はないんだよ』
止 (……そう、か……)
シィ 『………………』
フッ
シィ 『……それに、僕に聞くまでもなく、物語はもう決まっているようだしね?』
593 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:45:51.76 ID:vI.l3uko
止 (……何だと……?)
シィ 『君のその顔を見ていれば分かるさ』
止 (………………)
シィ 『……君はもうよく戦った。疲れただろう? もう、休んでいいんだよ――』
シィ 『――――なんてことを僕が言った瞬間に、僕を殴り飛ばしでもしそうな顔をしてるからね』
止 (………………) フッ (……何もかもお見通しか。敵わないな、お前には)
シィ 『ふふ……さ、いつまでも油を売ってないで、戻るんだ、止』
シィ 『君を待っている人がいる。君が守らなければならない人がいる』
シィ 『――メイと、イルと、下部組織の方……そして、僕の知らない少女……』
シィ 『僕はもう死んだ人間だ。だから、僕にはもう何もできない』
止 (………………)
シィ 『だから止、生きろ。生きて、彼女たちを守れ。そして……』
シィ 『――そしていつか、君も彼女たちと一緒に幸せになれ』
止 (……幸せになれ、か……)
フッ
止 (これまた重い言葉を背負わせてくれるもんだ)
シィ 『………………』 クスッ 『……僕の愛した女性にキスをしたんだ、それくらい許されて然るべきだろう?』
止 (っ……悪かったよ)
止 (………………)
シィ 『………………』 フッ 『さようなら、止』
止 (………………) フッ (ああ……また、いずれ……シィ)
…………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………
594 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:46:30.67 ID:vI.l3uko
………………………………………………………………………………………………………………
………………病院
神裂 「………………」
止 「………………」
ピッ……ピッ……ピッ……
神裂 「………………」
――――ピクッ
神裂 「……!?」 スッ 「……聞こえますか? 『通行止め』」
止 「………………」
…………パチッ……
止 「………………」 ジッ 「……神、裂、……?」
神裂 「はい。私です」
止 「……月子と、世話子、は……?」
神裂 「………………」 フゥ 「……全く。生死の境を彷徨っていた人間が、目覚め端に他人の心配ですか」
神裂 「私に聞く前に、足下を見てみなさい」
止 「……?」 ツ…… 「……あ……」
月子 「………………」 スヤスヤ……
世話子 「………………」 zzzz……
595 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:47:03.83 ID:vI.l3uko
止 「……良かった……」 ホッ
神裂 「良くなんかありません。まったく、無茶をして……!!」
止 「……神裂……」
神裂 「……何です?」
止 「………………」 フッ 「……あり、がとう……」
神裂 「………………」
ガクッ
神裂 「……まったく……!! そういうところも “彼” と同じなのですね……」
神裂 「……単刀直入に申し上げましょう」
神裂 「イギリス清教と学園都市は、月子嬢を殺さない方針を固めました」
止 「……お前、が……?」
神裂 「……私個人にできることなどたかが知れています」
神裂 「……ですが、まぁ」 フッ 「双方の組織に脅しをかけるくらいは、できます」
止 「……?」
神裂 「知り合いに、そういうことが大得意な陰陽師がいましてね。彼にも協力していただきました」
596 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:47:41.49 ID:vI.l3uko
神裂 「……まず、学園都市。彼らには正攻法で攻めさせていただきました」
止 「正攻法……?」
神裂 「今回、私が 『神生ミヲ現ス士』 を殲滅したのは、学園都市からの要請があったからです」
神裂 「私はイギリス清教から命を受け、『神生ミヲ現ス士』 を殲滅すべく動きました」
神裂 「――つまり、我々イギリス清教は学園都市に対してひとつ貸しがあるということになります」
止 「………………」
止 「……お前……まさか……」
神裂 「ええ。お察しの通りです」
ニコッ
神裂 「私は、貸しをチャラにしてやるから月子嬢を責任を持って生きさせろと学園都市上層部を脅させてもらいました」
神裂 「さも私が 『必要悪の教会』 を代表しているような素振りでね」
止 「お前……」 フゥ 「……何と、いうか……すごい奴だよ、本当に……」
神裂 「そして、もう一つ、イギリス清教に対しては、少々強引な手を使わせてもらいました」
止 (……こいつは学園都市に対しての脅しを強引とは思わないのだろうか?)
止 (意外と天然なのかもしれないな……)
597 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:48:20.57 ID:vI.l3uko
神裂 「……まず、 『月詠之巫女』 を生存させることに関してのリスクから、説得を試みました」
止 「リスク……?」
神裂 「考えてもみてください。『月詠之巫女』 がカミの力を得たとして、その脅威が一番大きいのは誰でしょう?」
止 「……?」 ハッ 「……なるほど。学園都市か」
神裂 「その通りです。我々イギリス清教は言わずもがな、英国における組織です」
神裂 「日本国でカミという名の魔神が復活したとして、直接的な被害が出る可能性は高くありません」
神裂 「もっとも被害を受ける可能性が高いのは……当然、同じ日本に本拠を置く学園都市でしょう」
神裂 「――ならば 『月詠之巫女』 をイギリス清教が直々に処断する必要があるのかと、問いただしました」
止 「………………」
神裂 「……しかし、最大主教……私たちの上司にあたる老獪なババア――もとい女性ですが、」
止 (相当嫌いみたいだなそいつのこと)
神裂 「……彼女は私の全てを見透かしているのでしょう。関係ないと突っぱねてきましたよ」
神裂 「まぁ、それは予想していたことですけどね」
神裂 「――だからまぁ、強引に脅しをかけました。なら私がイギリス清教を抜けるぞ、と」
止 「……!?」
598 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:48:56.65 ID:vI.l3uko
止 「お、お前……何、考えて……!!」
神裂 「大声を出さないでください。身体に障りますし、お二方が起きてしまいます」
止 「お前……お前がいくら単騎で強かろうと、組織には敵わない……」
止 「イギリス清教は、たったひとりの兵の離反を厭って、方針を変えるような甘い組織ではないだろう?」
神裂 「ええ。綱渡り状態でしたね」 ニコッ 「あんなに恐ろしい最大主教の声を聞いたのは久しぶりです」
神裂 「ですが、驕るつもりはありませんが、私は 『聖人』 です」
神裂 「そしてイギリス清教はそんな強大な戦力を易々と手放せるような悠長な状況にない」
神裂 「……最大主教、悔しそうに歯がみしながら私の要求を飲みましたよ」 クスクス
止 「………………」
止 「……嘘をつくな神裂」
神裂 「………………」 フッ 「嘘、とは何です?」
止 「とぼけるんじゃねぇよクソッタレの善人女」 ギリッ 「……お前……どんな要求を飲まされたんだ?」
神裂 「………………」
ハァ
神裂 「……まるで、異様に勘のいい “彼” と話している気分です。よく分かるものですね」
599 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:49:37.64 ID:vI.l3uko
止 「お前……!!」 ギリッ……!! 「月子のために自分を売りやがったな……!!」
止 「人殺しを易々とやってのけるような組織の長が、たかだか一兵卒の身勝手な要求を飲むはずがない……!」
止 「……お前、その最大主教とかいう奴にどんな条件を飲まされたんだ?」
神裂 「……あなたには関係のないことです。私は、私の教義を全うしただけのこと」
止 「答えろ……!! お前は自分の何を売って、月子を救ったっていうんだ……ッ!!」
神裂 「………………」 フッ 「……いいえ。答えません。あなたに、余計なものを背負わせたくないですから」
止 「っ……んだと?」
神裂 「あなたには他に背負うべきものがあるでしょう? 大丈夫。私は強いですから」
神裂 「あなたに背負っていただかなくとも、自分で歩けるほどには、ね」
止 「お前……」
神裂 「……私のことなどどうでもいいでしょう? 話を続けさせていただきます」
神裂 「もちろん、月子嬢という危険な存在をただ野放しにするわけにはいきません」
神裂 「それは月子嬢が脅威となりえるからというだけでなく、月子嬢自身の保身のためでもあります」
止 「………………」
神裂 「だから、月子嬢には、三つの条件を飲んでいただきました」
600 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:50:38.74 ID:vI.l3uko
神裂 「一つに、霊装 『歩く教会』 を肌身離さず身につけ、一生涯外さないこと」
止 「『歩く教会』 ……?」
神裂 「ケルト十字型の簡易版ですが……身につけた者の特殊な能力を抑え、外部へ洩らさない効果があります」
神裂 「それを常時身につけることにより、彼女の 『神体』 としての能力は身を潜めます」
神裂 「そして二つめ。御神体…… 『十握剣』 をイギリス清教で預かること」
スッ……
止 「それは……月子の……」
神裂 「はい。彼女自身の厳重な封印に加えて、十字教の術式でも封印をしてあります」
神裂 「私はこれをイギリスへ持ち帰り、然るべき場所に封印します」
止 「……しかし……」
神裂 「ええ。その二つの条件は、彼女の自衛能力を著しく削ぐことになります」
神裂 「だからこそ、もう一つの条件があります。それは、学園都市から出ないこと」
止 「………………」 フン 「……なるほどな。学園都市はほぼ全ての魔術師にとっての天敵」
止 「月子が学園都市にいることによって、魔術師が月子に近づくリスクを下げるということか」
神裂 「ええ。学園都市上層部はいい顔をしていませんでしたが、」
神裂 「最終的に折れてくれました。月子嬢がすでに 『ボックス』 の正規メンバーであることも有利に作用したようです」
止 「……月子は 『歩く教会』 とやらを一生涯外さない。それは、あの子にとって苦痛だろう」
神裂 「ええ……ですが、同時に喜ばしことでもあるはずです」
神裂 「ずっと自分を苦しめ嘖み続けてきた力から解放されるということなのですから」
止 「ああ……」
月子 「………………」 スヤスヤ……
止 「どうやら、そのようだな……」 フッ
601 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:51:15.26 ID:vI.l3uko
止 「………………」 スッ…… 「神裂」
神裂 「はい?」
止 「……すまない……」 グッ 「お前は……月子のために、そこまで手を尽くしてくれたんだな……」
止 「……本当に、すまない……!!」 ペコリ
神裂 「あなたが謝ることではありません。言ったでしょう? 私は自分の教義を全うしたまでのことです」
神裂 「むしろ、私はあなたに感謝しているくらいなのですから」
止 「感謝……だと?」
神裂 「……ええ、『通行止め』 。私はあやうく、もう一度同じ過ちを犯してしまうところでした」
神裂 「だから……ありがとうございます」 ペコリ 「私の目を、覚まさせてくれて」
神裂 「……あなたの言うとおりでした。私は、またあのときと、同じ事を……」
神裂 「『救われぬ者に救いの手を』」
止 「………………」
神裂 「何のためにこの魔法名を名乗ったのか……それを、あなたが思い出させてくれたのです」
神裂 「何かを救うために何かを犠牲にするような……そんなことをさせないと誓ったはずなのに……」
神裂 「それなのに私は、彼女を殺そうとしてしまった。彼女の未来を奪おうとしてしまった」
月子 「………………」 スヤスヤ……
602 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:51:56.10 ID:vI.l3uko
神裂 「あなたは私を救ってくれたのです」
止 「……くだらねぇ。俺は俺のワガママを貫くだけの人殺しだ。知ったことじゃねぇな」
止 「……この分は借りておく。いつでも回収に来い」
神裂 「何を言っているのです? 借りができてしまったのは私でしょう?」
止 「……何を馬鹿げたことを言ってやがる。貸したのはお前だ。お前は自分を売ってまで月子を救ってくれた」
神裂 「バカはそちらです。私に月子嬢を救う機会を下さったのはあなたです」
止 「馬鹿が。お前は……お前はとにかく、俺にたくさん貸してるんだ」
神裂 「バカですね。返す言葉もないのではないですか」
神裂 「ですがこちらには借りがもう一つあります。あなたにそんな大怪我を負わせてしまいました」
止 「なっ……お前、それはおかし――――」
神裂 「――――つまり、私はあなたに二つ借りがあるということですね」 ニコッ
止 「ちょっ……お前……お前……なぁ……」
フゥ
止 「……神裂。お前なぁ、善人のくせに悪人の “格好つけ” っていうお株を奪うんじゃねぇよ」
神裂 「どの口がそんなことを言っているのやら」 フゥ 「ヒーローのくせに」
止 「俺はヒーローじゃねぇ。クソッタレの人殺しだ」
神裂 「なら私は善人などではありません。ただの魔術師です」
603 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:52:35.51 ID:vI.l3uko
止 「………………」
神裂 「………………」
フッ……
止 「……お前とはいずれ、こんなくだらない事情を抜きにして話をしてみたいもんだ」
神裂 「おや、嬉しいお誘いですが、恋人さんに怒られそうなので遠慮しておきましょうか」
チラッ
世話子 「………………」 zzzz……
止 「だっ……誰が恋人だ誰が……」 プイッ 「こいつはただの……大切な、仲間だ……」
神裂 「……そうですか。ですが、感謝はしてあげてくださいね?」
止 「……?」
神裂 「あなたが寝ている間……つまり、生死の境を彷徨っている間、ずっと甲斐甲斐しく世話をしていたのですから」
止 「………………」 フン 「……お前に言われなくたって分かっている。俺はこいつに頭が上がらないよ」
神裂 「……それから、月子嬢にも」
止 「月子にも……?」
月子 「………………」 スヤスヤ……
神裂 「……言っておきますが、『通行止め』 。あなた、かなり危険な状態だったんですからね?」
604 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:53:06.27 ID:vI.l3uko
神裂 「魔術の強制行使による拒絶反応。それによる肉体の80パーセントにも及ぶ裂傷……」
神裂 「病院に運ぶ前の応急処置は、私が必死に行いました。『聖人』 の私が全力で恢復魔術を行使し続けました」
神裂 「ですが、それでもあなたの心臓は数度、止りましたよ?」
止 「………………」 フッ 「……改めて言われるとゾッとしないな」
神裂 「笑い事ではありません。こっちはいつ本当に死んでしまうか気が気ではなかったのですよ?」
神裂 「ですが、月子嬢の助力もありましたから、あなたの命を繋げることができました」
神裂 「……神道術式のエキスパートですね、彼女は。自分に魔力が残されていないというのに、」
神裂 「私の天草式の恢復術式を正確に補強する神道術式をいくつも私に教えてくれました」
神裂 「分かりますか? 違う宗派の人間に、自分の宗派の極意とも言える術式を教えたのですよ?」
神裂 「……魔術師にとって、それがどんなに覚悟のいることか……」
月子 「………………」 スヤスヤ……
神裂 「彼女は、そこまでしてあなたの命を救いたかったのですよ」
止 「………………」
止 「……そうか」 フッ 「月子が今まで窮屈に縛られて生きてきた時間も、決して無駄ではなかったということか」
止 「……お前の人生は報われてるよ。良かったな」 ニコッ 「そして、ありがとう」 ナデナデ
月子 「………………」 スヤスヤ……
605 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:53:58.23 ID:vI.l3uko
神裂 「……さて、話を戻しますが、私はあなたに二つの借りがあることになります」
止 「お前……まだそんなくだらない妄言を……」
止 「勝手に借りたことにしてんじゃねぇ。借りてるのは俺だ」
神裂 「――だから、今はひとつだけお返しします」
止 「人の話を聞けコラ。お前が返すものなんか何一つねぇんだよ」
神裂 「もうひとつは、また後ほど、いつでも回収してください」
止 「………………」 (ここまで無視されると口の挟みようがないな……)
止 「……聞くだけは聞いてやる。ありもしない俺の貸しを何で返してくれるってんだ?」
神裂 「………………」 フッ 「学園都市上層部への直接交渉権で、どうですか?」
止 「……!?」 バッ 「――!? 痛ッ……!」
神裂 「独り相撲をしてどうされました?」 ニコッ 「身体に障りますよ?」
止 「お前……直接交渉権なんて、どうやって……――――」
神裂 「――――……考えてもみてください」
神裂 「そもそも 『神体』 ……月子嬢の殺害を私に依頼したのは学園都市です」
神裂 「もちろん 『必要悪の教会』 としての責務もありましたが、」
神裂 「その情報をもたらし、『神生ミヲ現ス士』 の殲滅と月子嬢の殺害を依頼したのは学園都市です」
止 「あ、ああ……まぁ、そうだな……」
606 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:54:27.14 ID:vI.l3uko
神裂 「だというのに、『神体』 を学園都市の人間が守るというのはどういうことでしょう?」
止 「お前、何を言って……」 ハッ 「……まさか、俺のことか?」
神裂 「ええ。学園都市は私にあなたの存在を知らせていませんでした。そして、あなたは私に牙を剥きました」
神裂 「これは明確な学園都市の落ち度です。だから、学園都市上層部にその対価を要求させてもらいました」
ニコッ
止 「お前……お前って……」
―――― 『ええ。それが “彼女” です。敵でなくてよかったと心底思いますよ』
止 「あいつがああ言ってた理由、その本当の意味をようやく理解した気分だ……」
止 「……お前は強いな。本当に、色々な意味で」
神裂 「………………」 フッ 「……強くなど、ありませんよ」
神裂 「私には過ぎた幸運の力しかありません。『聖人』 という、あまりにも大きな力しか、ね」
止 「……くだらねぇ。その力で何かを成し遂げてきたのはお前だろうが」
神裂 「えっ……?」
止 「だったら誇れ。お前が戦ってきたのは、お前が 『聖人』 とやらだからじゃねぇだろうが」
止 「神裂火織っていう魔術師に、偶然 『聖人』 っていう力があった……その方がよほどしっくりくる」
607 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:55:04.79 ID:vI.l3uko
止 「……ともあれこれも借りだ。いくつになるか分からないが、借りておく」
神裂 「あなたも意固地な方ですね」
止 「うるせぇ。もらった分はしっかりと使わせてもらうさ」
スッ……スカッ
止 「んあ……?」
止 「……はは、バカか俺は。左手を吹っ飛ばしたのを忘れていた」
止 「神裂、悪い。携帯電話を取ってもらえないか?」
神裂 「………………」 スッ 「……どうぞ」
止 「ありがとう」 スッ 「……そう悲壮な顔をするな。たかだか左手一本だ」
ピッ……ピピッ……prrrr……ピッ
?? 『……まったく、あなたもよくよく運が良い方ですね』
止 「はは。残念だったなクソ野郎。そっちは大変だったんじゃないか?」
?? 『わざわざ言うまでもないでしょう?』 フゥ 『だから彼女は敵にしたくないと言ったんです』
止 「はっ、いい気味だ」
ニヤリ
止 「――――さて、上層部の使いっ走りよぉ、俺が何を言いたいか、しっかり分かってるよなぁ?」
608 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:56:38.10 ID:vI.l3uko
………………病院別室
男 「………………」
………………ピクッ
?? 「あっ……」 スッ 「男?」
パチッ……
男 「……う……あ……」
――ガバッ
男 「姉さん……!!?」
?? 「きゃっ……!」
男 「ふぁ……?」 チラッ 「あ……あれ……? 姉さん?」
シスター 「も……もう、男ったら……いきなり驚かせないでちょうだい」
男 「あ、ごめん……」 シュン
男 「――って違う! 何で暢気なこと言ってるんだよ!」
シスター 「静かにしなさい、男。ここは病院よ」 メッ
男 「へ……?」 キョロキョロ 「……ホントだ。気づかなかった……」
シスター 「まったく、あなたってば、本当にぬけてるんだから」
609 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:57:03.38 ID:vI.l3uko
シスター 「あれからアンチスキルの方が来て、あなたたちを病院に運んでくれたのよ」
シスター 「外傷も酷かったけれど、それ以上に脳内疲労が異常値を示していたそうよ?」
シスター 「……本当に無茶をしてっ」
男 「ごめん……。でも、必死だったから」 シュン
シスター 「………………」 フッ 「……冗談よ。ありがとう、男」
男 「ううん」 フルフル 「……でも、姉さんは……」
シスター 「……ごめんね、男。せっかく、わたしのために戦ってくれたというのに……」
シスター 「――……やっぱり、わたしはもう学園都市にはいられない」
男 「………………」 コクン 「……それは、きっと、何となく分かってた」
男 「けど……」 キッ 「拷問なんて、そんなことは、絶対に許さない……!!」
シスター 「………………」
ニコッ
シスター 「……大丈夫よ。わたしはもう、大丈夫だから」
男 「大丈夫なんて、そんなわけがない! だって、そんなの……!!」
シスター 「………………」 フルフル 「違うの。違うのよ」
610 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:57:40.81 ID:vI.l3uko
男 「違う、って……?」
?? 「それについては僕から説明しようか」
スッ……
男 「……!?」 バッ 「……ってなんだステイルくんか……」 ホッ
ステイル 「………………」 ギリッ 「……僕としてはもう少し警戒してもらいたいところなんだけどね」
男 「だってステイルくんいい人じゃん」
ステイル 「だから人を勝手に馴れ合いに巻き込むな!! っていうか “くん” って何だ “くん” って!!」
男 「ほらほらステイルくん病院内ではお静かに」
ステイル 「ぐっ……いつか燃やす……! 絶対にいつか燃やす……!!」
コホン
ステイル 「……単刀直入に言わせてもらおう。彼女はイギリス清教で “保護” することとなった」
男 「保護……?」
ステイル 「君が寝ている間に色々と事情が変わってね」
ステイル 「……見せてあげるといい」
シスター 「そうですね……」 ガサゴソ 「男、これを」
611 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:58:36.79 ID:vI.l3uko
男 「……? 何これ?」 スッ 「手紙?」
シスター 「読んでみてそうすれば全部分かるわ」
男 「うん……」 カサカサ 「……ロシア語なんだけど」
シスター 「えっ? だから?」
男 「………………」
ステイル 「………………」 フン 「……これだから一般人は……。仕方ないから僕が要約して説明しよう」
男 「面目次第もございません……」
ステイル 「その手紙はロシア成教 『殲滅白書』 リーダー、ワシリーサから彼女に宛てられて書かれた手紙だ」
ステイル 「君が僕を殴り飛ばしてすぐに教会に届いたらしい」
男 (……あてつけ? 意外と人間味あるんだなぁステイルくんって)
ステイル 「“あなたを学園都市及びイギリス清教に対しての癒着疑惑により裏切り者とみなします”」
男 「へ……?」
ステイル 「“ロシア本土を踏んだ途端に殺されるくらいの覚悟をしてください”」
ステイル 「“なお、あなたには追っ手もかけさせてもらいます”」
ステイル 「“イギリス等に逃げていただいても構いませんが、追っ手は間違いなくあなたを追いつめるでしょう”」
ステイル 「……これが彼女に宛てられた、ワシリーサからの手紙の大まかな内容だ。早い話が絶縁状だね」
612 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:59:37.33 ID:vI.l3uko
男 「なっ……!!」 ギリッ 「『殲滅白書』 とやらは姉さんを切り捨てるっていうの!?」
ステイル 「………………」
男 「そんなの……! ワシリーサって人……良い上司さんなんじゃなかったのかよ……ッ!」
ステイル 「………………」 フゥ 「……これだから君は一般人だと言うんだ」
男 「……へ?」
ステイル 「……君ねぇ、裏切り者と認定された相手に、こんな丁寧に絶縁状を送ると思うかい?」
男 「……どういうこと?」
ステイル 「君は少し物事を額面通り受け入れすぎるきらいがあるようだ」
ステイル 「それはある意味正しい人間性だろうけどね。魔術師と戦うには不適格だと思うよ?」
男 「話を逸らさないでくれ! 一体なんだって言うんだよ」
ステイル 「つまり、この手紙の内容を意訳すると……」
ステイル 「“こちらのことは気にせずイギリス清教に情報を売って保護してもらいなさい”」
ステイル 「――っていうところかな」
男 「はぇ……?」 アタフタ 「ど、どういうこと?」
シスター 「……そういう人なのよ。ワシリーサは」 フッ 「……組織より何より、部下を想うひとだから」
613 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:00:21.22 ID:K7FxMv6o
ステイル 「……それが一部隊をまとめる長のすべきことかどうかは分からないけどね」
ステイル 「しかし今のロシア成教はどうにも妙だ。動きが釈然としない部分が多すぎる」
ステイル 「……そんな怪しい組織よりは部下を取る。それほどおかしいことではないかな」
ステイル 「だから彼女にはその厚意に甘えてもらうことになった」
シスター 「……今のロシア成教は、わたしの目から見てもおかしいもの」
シスター 「まるでローマの言いなり……付き従って、漁夫の利を得ようとしているだけ」
シスター 「本来、『在らざる者』 を狩るべく存在しているわたしたち 『殲滅白書』 にも戦争をさせようとしている」
シスター 「人間相手の戦闘が得意じゃない構成員だってたくさんいるのに……」
シスター 「……わたしはロシア成教のシスター。そして、『殲滅白書』 の魔術師」
シスター 「ロシア成教改革のために、祖国を売ります」 グッ 「……わたしなりに、『殲滅白書』 を守るために」
ステイル 「……立派な考えだと、僕は思うけどね」
男 「………………」
ステイル 「……安心しなよ。彼女には 『必要悪の教会』 に入って、活動もしてもらう」
ステイル 「絶縁状まで出された彼女には、もうロシアに戻る手段も、連絡を取る方法もない」
ステイル 「建前上とはいえ、彼女は今、明確なロシア成教の敵とされているからね」
ステイル 「僕ら 『必要悪の教会』 はそんな彼女を温かく迎え入れるくらいには、教会然としているつもりだよ」
614 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:00:58.94 ID:K7FxMv6o
男 「あ……うん」 ニコッ 「分かってるよ。ステイルくんは優しいもんね」
ステイル 「なっ……」
男 「それに、インデックスさんもその 『必要悪の教会』 のひとなんでしょ? だったら安心だよ」
ステイル 「君は……まったく……本当に……」
ステイル 「君みたいな人間が治安維持の役職についているとはね……まったく、平和な街だよ、ここは」
男 「はは……」 スッ 「ともあれ、姉さんのこと、よろしく頼みます」
ステイル 「よろしくするのは僕じゃない。僕の仲間のシスターたちだ」
ステイル 「……どうせ人の話を聞かないお節介なシスターたちがしっかりと面倒をみてくれるさ」
男 「……?」
シスター 「ほら、わたしのことなんかより……あなた自身に、何か気づくことはない?」
男 「何か気づくこと……?」
男 「……あっ、僕の手袋――――」 ハッ 「っていうか何だこれ!?」
ステイル 「……今気づいたのか……まったく、本当にぬけた奴だな」
男 「えっ……ちょっと待って! 何で?」
男 「何で左手の火傷が跡形もなく消えてるの!?」
615 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:01:53.78 ID:K7FxMv6o
ステイル 「悪いが僕は火に関しては全般的に精通していてね」
ステイル 「――君の火傷、どこもおかしなところがないように完全に消させてもらった。もちろん、魔術でね」
男 「は……はぁ!?」
ステイル 「勘違いするなよ? べつに君のためを思ってやったとかそういうわけじゃない」
ステイル 「ただ単純に、君に、仲間の力を借りたとはいえ、僕を倒した責任を負ってもらっただけのことだ」
男 「……責任?」
ステイル 「……あの火傷、君なりの覚悟のつもりだったんだろう?」
男 「う、うん……あの痛みを忘れないようにって。そうじゃないと、きっと僕は逃げてしまうから」
ステイル 「……そんなところが甘いというんだ。それは風紀委員とやらとしても不適格な覚悟だよ」
男 「……何だって?」
ステイル 「君なりの覚悟の表わしのつもりなんだろうけど、そんなものを持たなきゃならない時点で二流だよ」
ステイル 「本当に守りたいものがあるのなら、そんなものに頼らずに守ってみせろ」
ステイル 「そんな傷なんかに頼らずに戦って、守れ。傷を背負うなんて甘いことを考えるな」
ステイル 「……僕を倒したんだからそれくらいの覚悟は背負ってもらう。だから傷は消した」
男 「………………」
616 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:02:36.74 ID:K7FxMv6o
ステイル 「………………」 フッ 「怒ったかい? なんならもう一回表で僕と――――」
――――ガシッ
ステイル 「なっ……」
男 「ステイルくんは本当に優しいんだねっ!!」 ギュッ 「僕、感動しちゃったよ!」 キラキラキラ……
ステイル 「ひっ……人の手を取るな!! 目をキラキラさせるな! 気持ち悪い!」 バッ
男 「そんな照れなくてもいいじゃないか」 ニコニコ 「それにしても、わざわざそんな気遣いまでしてくれるなんて……」
ステイル 「だっ、だから気遣いなどではなく! ただ単純に、君に対する嫌がらせとしてだなっ!」
男 「だから照れなくてもいいってば。ありがとう、ステイルくん」
ステイル 「れ、礼を言われる筋合いなどないっ!」
男 「いや、お礼を言わせてもらうよ」 フッ 「……君の思いは、たしかに受け取ったよ」
男 「ありがとう。僕もステイルくんのように、守りたいものをただ守るっていう矜持を持てるように頑張るよ」
ステイル 「………………」 フン 「……君になど、できやしないさ」
男 「そうかもしれない。けど、いつかステイルくんに認めてもらえるように頑張るよ」
ステイル 「……君はあのいけ好かない男以上に頭の中がお花畑だな」
男 「そのいけ好かない男っていうのに心当たりがあるような気がするけど、まぁ黙っておこうか」
スッ
ステイル 「……? なんだい?」
男 「握手、だよ。それくらいはいいだろう?」
ステイル 「………………」 スッ 「……勘違いするなよ? これは、君を甘ちゃんだと見下しているからできることなんだ」
男 「分かってるよ」
ギュッ……
617 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:03:06.77 ID:K7FxMv6o
男 「――と見せかけて!」 スタッ……
ナデナデナデ
ステイル 「……!? なっ……何をする!」
シスター 「……?」
男 「あこら逃げるな」 ガシッ
ステイル 「は、放せ! というか何故頭をなでる!?」
男 「いやね、インデックスさんから念話で聞いたんだよ。ステイルくんって実は14歳なんでしょ?」
ステイル 「あの状況でそんな暢気な話をしていたのか!?」
男 「だから、良いことをしてくれたご褒美? なでなで」
ステイル 「や……やめろ! 気持ちの悪いことをするな!」
男 「あれ? ネムやディズは喜ぶよ?」
ステイル 「ネコやアヒルと一緒にするな!」
男 「ついでに白井さんも」
ステイル 「それは君の恋人だからだろう!? 僕にそんな気持ちの悪いことを――――」
――――ガラッ
618 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:06:58.03 ID:K7FxMv6o
ステイル 「……!?」
男 「あ……」
白井 「………………」
初春 「………………」
固法 「………………」
佐天 「………………」
インデックス 「………………」
ネム 「………………」
ディズ 「………………」
……………………
白井 「……失礼致しましたの」
初春 「お、お邪魔しましたー……」 ゴクリ (低身長童顔×長身不良神父……男さんグッジョブ) ハァハァ
ガラガラガラ……
男 「待った! 待って白井さんとみんな! なんか盛大な勘違いオンパレードが発生している模様ですよ!?」
ステイル 「それは僕の台詞だテレパシスト!! 待て! 妙な勘違いをしたまま出ていくな!!」
シスター 「………………」 ハフゥ 「……まったくもう」
619 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:08:01.69 ID:K7FxMv6o
………………
インデックス 「…… 『黄金練成』 のときも思ったけど、あなたって頭撫でられるのが好きなの?」
インデックス 「――同性に」
白井 「………………」 ジトッ
ステイル 「待て。妙な勘違いをするな。これは彼やこの男が勝手にやったことであって僕は被害者だ」
男 「ひどい……僕のこと遊びだったんだね?」
ステイル 「意味不明なことを言うな!!」 ガッ 「っていうか君、性格が変わってないか!?」
男 「………………」 フッ 「……いや、これが僕だよ。本当は、ずっとこうだったんだ」
男 「けど、風紀委員になってから、真面目であろうとして……その結果が、今回だからね」
白井 「………………」
男 「たくさんの人を傷つけちゃった。だから、僕はもう変に肩肘張ったりしない」
男 「ありのままの僕で、ありのままの気持ちで、学園都市を守るよ」
男 「……まぁ、僕はもう、風紀委員ではいられないでしょうけど」
固法 「……あら? 何の話かしら?」
男 「僕はみんなを信じられずに裏切ってしまった……そんな僕に、風紀委員たる資格はないでしょう?」
男 「――だから僕は、風紀委員をやめます」
620 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:08:43.01 ID:K7FxMv6o
シスター 「そ、そんな……男……」 オロオロ 「それはだって、わたしが……」
男 「違うよ、姉さん。僕は姉さんを止めなきゃいけなかったんだ」
男 「それなのに、僕は姉さんを庇い、追いつめてしまった」
男 「……僕が、姉さんのことを疑い、しっかりと調べていたら、姉さんがあんなことをしなくてもよかったのに」
シスター 「そ……そんなの……――」
インデックス 「『姉と弟』 の術式は姉弟の契りを強化する効果も含んでいるんだよ!」
インデックス 「そんな状況で、“弟” であるあなたに “姉” を疑うことなんてできなくて当たり前なんだよ!」
スッ
ステイル 「……これは彼らの問題だ。僕たちが口を出すべきじゃない」
インデックス 「あぅ……」
シスター 「………………」 コクン 「……はい」
白井 「………………」 フッ 「……男さん、それは本気で仰有っていますの?」
男 「………………」 コクッ 「……本気だよ。僕は、してはいけないことをしてしまったんだ」
白井 「そうですの」 ニコッ 「……では、固法先輩、申し訳ありませんが、」
白井 「――わたくしも、風紀委員をやめさせていただかなければなりません」
621 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:09:27.38 ID:K7FxMv6o
男 「へ……? な……何で白井さんが!?」
白井 「当然ですの。あなたの論理を借りるのなら、ね」
白井 「……わたくしもまた、仲間であるあなたを本気で疑うことができなかった」
白井 「だから、あなたに “魔術による暴走” なんて状態に陥らせてしまったんですのよ」
白井 「だったら、わたくしにも非があるということになりませんか?」
男 「そっ……そんなのおかしいよ! 無茶苦茶だ……!」
固法 「ふふ……そうね。なんなら177支部みんなやめちゃう?」
初春 「そうですね~」
男 「ち、ちょっと待ってください! そんなの、絶対におかしいでしょう!?」
白井 「………………」 ニコッ 「……そんなおかしいことを、あなたは仰有っていたんですのよ?」
男 「なっ……」 グッ 「……でも、僕は……」
白井 「……お互い様ですわ。仲間ですもの。誰かが間違えてしまうこともある」
白井 「けれど、その後に手を取り合って、再出発できるのもまた、仲間というものではありませんこと?」
男 「………………」 フゥ 「……敵わないや、白井さんたちには」
622 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:10:43.14 ID:K7FxMv6o
インデックス 「……うぁぁ」 グスッ 「良いお話なんだよっ!」
ステイル 「ふん……甘いとしか言いようがないと思うけどね」
シスター 「男……あなたは本当に……良い仲間に恵まれているわね」
ネム 「当然よ」
ディズ 「……でも、ありがたいわ、本当に」
ステイル 「………………」
フッ
ステイル 「……さて、僕らはそろそろ行くよ。飛行機が出てしまう」
男 「あっ……」 スッ 「姉さん、これを」
シスター 「? これ……あの子の、十字架……?」
男 「……やっぱり返すよ。僕は十字教徒じゃないし、これは姉さんが持っているべきものだから」
シスター 「………………」
男 「……だけど、僕はこれを姉さんに返しても、姉さんの弟でいたい」
シスター 「えっ……?」
男 「ねえ、姉さん……」 ニコッ 「僕は、これからも姉さんのことを、“姉さん” って呼んでいいかな?」
シスター 「………………」 グスッ 「……男……あなたは……」 ポロッ……ポタッ……
男 「……十字架がなくても、宗教が違ったとしても……僕は、姉さんの弟でいたいから」
シスター 「………………」 コクン 「……ありがとう……男……」
男 「ん。姉さん」
623 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:11:27.12 ID:K7FxMv6o
ステイル 「………………」
クイクイ
ステイル 「……? 何だい?」
インデックス 「お礼が言いたくて。ありがと」
ステイル 「何の話だい?」
インデックス 「あのシスターのことで、『必要悪の教会』 に対して、色々と便宜を図ってくれたみたいだから」
ステイル 「………………」
フン
ステイル 「知らないな。どこかのお節介な 『聖人』 がやったんじゃないか?」
インデックス 「とうまも言ってたけど、あなたって本当に素直じゃないんだよ」 ニコッ 「でも、ありがとう」
ステイル 「余計なお世話だ」 プイッ 「……僕にそんな無防備な笑顔を向けるな」 ボソッ
インデックス 「へ……?」
ステイル 「……さぁ、行こうか」
シスター 「……はい」
624 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:11:58.51 ID:K7FxMv6o
男 「……姉さん、また」
シスター 「ええ……また、いずれ」
ギュッ……
ステイル 「………………」
男 「……ステイルくんも、またね」
ステイル 「……ふん。“また” なんてことが来ないことを祈っているよ」
男 「今度学園都市に来たら連絡ちょうだい。鍋でもやろう」
ステイル 「……絶対に嫌だ」
ステイル 「………………」 ボソッ 「……あの子を頼む」 チラッ
男 「へ……?」
インデックス 「……?」
ステイル 「……あの子の居場所であるこの学園都市を……頼む」
男 「………………」 コクッ 「……任せておいて。僕は、風紀委員だから」
ステイル 「……頼りにならない笑みだ。期待しないことにしておくよ」
男 「酷い言い草だなぁ」 フッ 「……じゃあね、姉さん、ステイルくん」
625 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:12:43.23 ID:K7FxMv6o
………………
固法 「……さて、全部丸く収まったところで、決着をつけておきましょうか」
男 「……決着?」
初春 「あれぇ? 分からないんですか男さん?」
佐天 「……本当に分からないんだとしたら重症だよね」
ネム 「そうね……本当にそうね」
ディズ 「あーあ。こんなんが主人で本当に恥ずかしいわ」
インデックス 「???」
男 「ど、どうしたんです? みなさん……顔が、怖いよ?」
バキボキ
男 「ひっ……!?」
佐天 「……男さん、私、風紀委員とは無関係だけど、今回のこと、けっこー怒ってるんですよ?」
男 「えっ……? だ、だってさっき、仲間だから云々っていい感じに決着ついてましたよね!?」
固法 「それは風紀委員としてのお話よ?」 ニヤァ 「……個人的な感情については発散してないわよねぇ」
初春 「その通りです」 ニコッ 「……あのとき、結構怖かったんですからね? 私」
男 「いや、あの、だって……」 キョロキョロ 「――助けて! インデックスさん!」
インデックス 「えっ、わたし?」 キョロキョロ 「……逃げるが勝ちかもっ!」
ビューン……!!
男 「逃げ足が速い!?」 バッ 「くそっ……こうなったらケガが痛いけど僕も――」
――ガシッ
固法 「………………」 ニコッ 「そう簡単に……」
佐天 「逃げられると、」 ニコッ
初春 「思うなよ、です」 ニコッ
男 「ひっ……!?」
626 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:14:06.12 ID:K7FxMv6o
………………
男 「………………」 ガクッ 「……うぅ……」
男 「グーパンチ三発×3……プラスでネコパンチにアヒルキックが無数……」
男 「……みんな、僕のこと怪我人だと思ってないよなぁ」
男 「殴るだけ殴って意気揚々と遊びに行っちゃうし……」
男 「………………」 スッ 「……ところで、白井さんは僕のことを殴らなくていいんです?」
白井 「………………」 フッ 「そう、ですわね……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
男 (あ……ヤバイ。何で僕自分で地雷踏んじゃったんだろ)
男 「あ、あのー……お手柔らかに……」
白井 「いいから早く目を瞑って歯を食いしばれ、ですの」 ニコッ
男 (怖い……メチャクチャ怖い……)
ギュッ
男 「つ、つむりました……」
白井 「よろしい、ですの」
627 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:14:51.02 ID:K7FxMv6o
白井 「………………」 スッ 「……男さん、今回の事件、色々とありましたわね」
男 「あー……うん。その、色々と申し訳なかったというか、本当にごめんなさいなんだけど……」
男 「白井さんにひどいこと色々と言っちゃったし……あの、その……」
白井 「………………」
男 「……僕は、今も白井さんの恋人でいていいんですか?」
白井 「……どういう意味ですの?」
男 「……白井さんをいっぱい傷つけちゃったし……その、恋人として、言ってはいけないようなことも……」
男 「僕は……白井さんを信じることが、できなかったし……その……」
男 「……も、もし……僕のことを嫌いになったのなら、構いません……僕を……振って、くださって、も……」
白井 「………………」 ギリッ 「……それはっ……あなたがわたくしと別れたいということですの?」
男 「えっ……? ち、違うよ! 僕は……僕は……だって、白井さんのことが……好き、だもん」
男 「別れたくなんかない……ずっと、一緒に……添い遂げたい……」
白井 「……そうですの。では、これがわたくしの返答です」
スッ……
男 「………………」 ビグッ
――――――ッ……
628 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:16:54.30 ID:K7FxMv6o
男 「へぁ……?」 (ほ、頬に……柔らかい……あ、これは、憶えが……)
男 「――……はぇぇぇえええええ!?」
白井 「へっ……変な声を上げないでくださいましっ!」
男 「な、殴るんじゃないんです!? 何で代わりにちゅうなんです!?」
白井 「ちゅっ……!? 変な言い方をしないでくださいな! わたくしはただ頬に接吻をしただけで……」
カァア……
白井 「なっ、何を恥ずかしいことを言わせるのですか!!」
男 「そこで僕のせい!? 明らかに僕悪くない感じなのに!?」
白井 「わっ……悪いですのよ!」 クワッ 「こんなに……こんなに、わたくしの気持ちを、掻き乱して……」
白井 「本当に……悪い、殿方ですの……あなたは……」 プイッ
男 「白井さん……」 (おいおいなんだこの可愛過ぎる生物は。銀髪シスターとか目じゃないよこれは……)
………………
インデックス 「へくちっ……!」
初春 「あっ、インデックスちゃん静かに! 覗いてるのがバレちゃいますよ」
佐天 「すごいすごい! やっぱり積極的なのは白井さんの方なんだねー」
固法 「この子たちは……まったく……」
ネム 「……男のヘタレ」
ディズ 「まったく……」
629 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:19:14.68 ID:K7FxMv6o
………………
男 「……じゃあ、僕の方もいいかな?」
白井 「何がですの?」
男 「ほら、白井さん、目を瞑って」
白井 「はぇ……? わ、わたくしが、ですの!?」
男 「うん」 ニコッ
白井 「し、仕方ありませんわね……」 プイッ (男さんから……///) ドキドキ
男 「……白井さん、いつもいつも、迷惑ばかりかけてごめんなさい」
男 「まだ白井さんの恋人でいいなんて、嬉しくて嬉しくて、どうにかなりそうです」
―――― 『白井とはどこまでいったのよ? まさか手も繋いでないなんて言うんじゃないでしょうね?』
男 「………………」 グッ 「だから、僕は、そのお礼がしたいなって思うんだ」
白井 (……男さんから……///) ドキドキ
男 「……ごめんね。先に、謝っておくね」
白井 (……? けど、男さんから……///)
ガシッ……グイッ
白井 「えっ……――――――」
――――――クイッ……
男 「……大好きだよ、白井さん」 スッ
――――――――ッ……
630 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:20:12.10 ID:K7FxMv6o
………………
インデックス 「はぇぇぇえ……」 カァア……
固法 「………………」
佐天 「………………」
初春 「………………」
ネム 「………………」
ディズ 「………………」
固法 「……行きましょうか」
佐天 「そうですね……」
初春 「……なんか、男さん、すごいなぁ」
ネム 「口と口で……男、よくやったわ……」
ディズ 「次は舌ね!」
固法 「そういう生々しい話はやめなさい」
インデックス 「これはとうまが帰ってきたら報告しなきゃなんだよ!」 グッ
固法 「それもやめなさい」
固法 「ほら、あなたたちもいつまで呆けてるの。もう行くわよ」
初&佐 「「ふぁ~~~い」」 ポワーン
固法 「………………」
固法 (『魔術』 ……一度、徹底的に調べてみる必要がありそうね……)
固法 (……明日から忙しくなるわよ? 白井さん、初春さん、男くん……)
631 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:21:03.96 ID:K7FxMv6o
………………
月子 「………………」 スヤスヤ……パチッ 「……むぅ……?」
神裂 「……お目覚めになりましたか?」
月子 「……む。神裂か……。トマルは、まだ……」
神裂 「………………」
月子 「む……?」 チラッ 「……? ベッドが、空……?」
月子 「トマル……?」 キョロキョロ 「トマルは、どこだ?」
神裂 「………………」
月子 「……神裂……? トマルは……ああ、そうか……用を足しに言っておるのだな?」
神裂 「………………」 フルフル
月子 「……違う、とな? で、では……――――」
神裂 「――……彼から、言づてを預かりました」
月子 「……? 言づて……?」
神裂 「『お前は世話子と一緒に、“普通” に戻れ』 ……だ、そうですよ」
632 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:22:05.35 ID:K7FxMv6o
月子 「……? そ、それ、は……?」 フルフル 「どういう、ことだ……?」
神裂 「……彼は、自分は闇に残らなければいけないと……そう、言って去りました」
月子 「……嘘だ……嘘だ!! そんなこと……そんなのは!!」
神裂 「………………」
月子 「だって……トマルは……トマルは……」
月子 「何故……? 何故なのだ? 何故……せっかく、“普通” に、なれる、のに……っ」
グスッ……
月子 「そこに……トマルがいないのでは……」 ポロッ…… 「トマルが、いないの、では……」 ポタッ……
月子 「トマルがいないのでは意味がないではないかっ!!」
神裂 「………………」
世話子 「……うーん……」 パチッ 「……あれ……? 私、寝ちゃって……?」
世話子 「……? 月子ちゃん……? 泣いてるの?」
月子 「世話子……っ、トマルが……トマルが……!!」
世話子 「……!? 止さん……」 ハッ 「……まさかっ!!」
神裂 「………………」 コクッ 「……あなたにも、『通行止め』 からの伝言を」
世話子 「伝言……?」
神裂 「『月子と一緒に、幸せになれ』 と」
633 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:24:01.54 ID:K7FxMv6o
世話子 「そんな……っ」 ポタッ……ポタッ…… 「そんなの……ひど、すぎる……」
神裂 「……彼から、このメモを渡されています。この住所に行けばいいと」
神裂 「メイとイルという方々の家だから、と」
世話子 「あのひとは……私と月子ちゃんまでもを……勝手に……ッ!!」
神裂 「……守りたいのでしょう。あなたたちを」
世話子 「そんなの……勝手すぎる……!!」
月子 「……そうだ……勝手だ……」 グスッ
――――ダッ
世話子 「月子ちゃん……!?」
神裂 「………………」 ギリッ 「…… 『通行止め』 、あなたは、本当に勝手な人だ……」
―――― “悪いな、神裂。こいつらへの伝言、頼んだぜ”
神裂 「あなたは……本当に……ッ!!」
634 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:24:58.13 ID:K7FxMv6o
………………
ハッハッハッ……
月子 「まだ、間に合う、かも、しれない……」 タタタタ……
ズキッ
月子 「っ……傷が……しかし……!!」 タタタタ……――
――ガッ……!!
月子 (!? 段差……!? しまった、われにはもう、『神体』 の力は……!!)
ズザァァァアアアア……!!!
月子 「痛っ……痛い……痛い……」 グスッ 「痛いよ、トマル……」
月子 「痛いよ……お前が、いてくれないと、痛いんだ……」
月子 「トマル……戻ってきてくれ……一緒に、“普通” に行こう?」
月子 「われは、頑張るから……頑張って、“普通” になるから。良い子になるから。駄々をこねたりしないから……」
月子 「勉強もする。友達も作る……だから……だから……」
ポタッ……ポタッ……ポタポタッ……
月子 「だからっ……っ……トマル……一緒に……」
ヒグッ……グスッ
月子 「――――トマルぅぅううううううううううううううううううううううううううう!!!!」
635 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:26:17.74 ID:K7FxMv6o
………………
白井 「………………」
男 「………………」
ギュッ……
白井 「ねぇ、男さん?」
男 「うん?」
白井 「……今度こそ、教えていただけます?」 ジッ 「あの日、何をしていたか」
―――― 『……どこで何をしていらっしゃいましたの? わたくしに言えない用事でも?』
男 「……うん。あのときはごめんね」
白井 「もういいんですの」
男 「………………」 スッ 「……僕はもう、学園都市の暗闇に、白井さんを巻き込みたくなかったんだ」
男 「だから、白井さんに話したくなかった……けど、それは仲間を信じていないってことだったんだね」
男 「……話すよ。僕はあの日、例の遊園地のテロリストに面会に言っていたんだ」
白井 「……そうでしたの」
男 「………………」 グッ 「……やっと、手がかりを見つけたんだ」
白井 「……手がかり……?」
男 「うん……まだ分からないことばかりだけど、いずれ全てを曝いてやる」
男 「……協力、してくれますか?」
白井 「………………」 フッ 「……当たり前ですの。わたくしはあなたの仲間ですのよ?」
男 「……ありがとう、白井さん」
男 「………………」 スッ 「……彼女から伝えられた言葉、それは――」
男 「―――――― 『ドラゴン』」
636 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:27:23.34 ID:K7FxMv6o
………………裏路地
止 「………………」 ズキッ 「ぐっ……身体中が傷だらけってのは、本当みたいだな……」
止 「歩くたびに血が滲みやがる……」
止 「しかしまぁ……四人分の幸せを背負っちまってるしなぁ……」
―――― “そちらのワガママをここまで飲むんですから、少しくらい融通つけてくれてもいいでしょう?”
―――― “だから早速のオーダーです。行ってください 『通行止め』”
―――― “忘れないでくださいよ? あなたは我々に一泡吹かせたというわけではない”
―――― “単純に、我々にとってのあなたの人質を増やしてしまっただけ、ということを”
止 「……分かってるさ。そんくらいはな」
フッ
止 「俺はメイ、イル、月子、世話子……あの四人を守り通す。どんな手段を使ってでも、だ」
フラフラ……
止 「……たとえこの身が朽ち果てようと、あいつらの幸せが確約されるその日まで……」
止 「クソッタレな “人殺し” として戦い抜くと誓っているんだ」
止 「……悪いな、シィ」 フッ 「俺はきっと、幸せにはなれないよ」
――――――ッドン
637 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:29:13.01 ID:K7FxMv6o
?? 「んあ……?」 ギロッ 「……なんだテメェは? いきなりぶつかってきやがって」
止 「……お前が 『スクール』 とやらの下部組織の人間ってことでいいんだな?」 ハァ、ハァ……
下部組織 「!? テメェ何者だ!?」
止 「………………」 フッ 「……残念ながら悪いがは捨てた。ただの人殺しだよ」
下部組織 「ふざけやがって!! 死にかけみてぇだが本当に死にてぇのか!?」
ガチャッ――――
――――ギィィィィィィンン!!!
下部組織 「っあ……!? これ、は……?」 ガクッ
止 「……レベル0だろ、お前。そんなんで俺に立ち向かおうとしたのが運の尽きだな」
―――― “『スクール』 というチームについて探ってください。下部組織のリストを送ります”
止 「……ちょっとした命令でな。お前の知ってることなんてたかが知れているだろうが、喋ってもらうぞ?」
ニヤリ
止 「こっから先は 『通行止め』 だ。残念だったな」
止 「……俺にもお前にも、未来はない」
638 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:35:02.09 ID:K7FxMv6o
>>1です。
エピローグ駆け足という感じですが、これで終わりです。
誤字脱字とかヨミガナ間違えたりとか頭抱えたくなるようなミスを連発してます。
本当にごめんなさい。
とりあえず致命的な「あり得ない呼名」と「フリガナ間違え」だけは脳内補完をお願いします。
具体的に言うと
>>240
>>491
あたりなのですが、まぁどうでもいいか。
オリキャラなんて我ながらアイタタタ……って感じなんですが、
皆さん許容してくださっているようで本当にありがたいです。
っていうか止が人気ですね。
実際、書いてる身としても男よりも書きやすかったりするのですが。
つづきは、需要があるかないかは別にして書きたいです。
なんにせよ>>1による>>1のためのSSなので。悪しからず。
観ていてくださった方ありがとうございます。
半月ほど付き合わせてしまってすみません。
感想など大変励みになりました。
本当に嬉しいです。ありがとう。
それから、お疲れ様でございました。
639 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:45:58.84 ID:L15mL4oo
すげーよかったぜ!
続き超期待してる!!!!
止がかっこよすぎるwwww
640 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 01:40:04.29 ID:dX6c.QDO
お疲れ様でした、凄く面白かった!
続きも期待しています、はい。
------------------
当ブログについて
※欄57さんありがとうです。
クリエイター板が繋がらないです。移転でしょうか?情報求む(;´д⊂)
読み物:禁書目録
お絵かき掲示板
画像掲示板
………………同日 夕方
シスター 「今日はありがとね、男」
男 「ううん。僕も楽しかったし」 ニコッ 「やっぱり姉さんはすごいなって、再確認できたから」
シスター 「あ……」 カァァ 「もっ、もうっ、男ったら……」
男 「へへ、ごめん。……でも、本心だから」
シスター 「ん……」 ニコッ 「ありがと」
男 「………………」
シスター 「………………」
男 「……それじゃ、僕、一度寮に帰るね」 スッ 「すぐに迎えに来るから」
シスター 「……ん」 モジモジ 「……あ、あのね、男」
男 「? どうしたの?」
シスター 「やっぱり……白井さんたちとはすぐに仲直りした方がいいと思うの」
男 「………………」 フルフル 「……またすぐに会ったら、きっと僕はもっと白井さんを傷つけてしまうから」
シスター 「男……」
男 「それに、今はやっぱり、風紀委員のみんなと白井さんを許せそうにないから……」
男 「………………」 フッ 「……僕のことはいいよ。今日は楽しもうね。じゃ、またっ!」 ダッ
シスター 「あっ……!」 ノシ 「車に気をつけるのよーーーー!」
354 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:19:50.91 ID:ygle3h.o
………………寮前
男 「ふぅ……」 トトト…… 「……本当は、白井さんと行くはずだったんだけどな」
男 「!」 ハッ 「ぼ、僕は何を考えてるんだよっ。姉さんと行くのも楽しみじゃないか」
男 「………………」 (僕は……)
―――――― 『……僕は……白井さんのことが、好きです』
―――――― 『わたくしも、貴方のことが大好きですから』
男 「僕、は……」
―――――― 『もちろん。一緒に……歌ってくれますか?』
―――――― 『もちろんですの。……男さんの幸せを運ぶ手伝いができるのなら、わたくしも嬉しいですから』
男 「僕が、守りたかったもの、は……」
―――――― 『……白井さん……ありがとう。僕の大好きなひと』
―――――― 『……どういたしまして、ですの。わたくしの最愛の方』
男 「……それでも……僕は……」
?? 「――安心しました」
男 「ッ……!?」 バッ 「誰!?」
355 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:22:30.49 ID:ygle3h.o
?? 「誰、って、声で気づいてはくれないんですね。少しショックです」
男 「佐天、さん……?」 ギリッ 「ネム、ディズ……!?」
佐天 「どうも、ご無沙汰です」 ペコリ 「……私が何のためにここに来たか分かります?」
男 「……てっきり、来るのは御坂さんあたりだと思ってましたけどね」 プイッ 「安心したというのは何です?」
佐天 「……御坂さんは……」 フルフル 「……ダメです。今は連絡が取れませんから」
佐天 「……だったら、親友のピンチを救えるのはこの佐天涙子しかいませんから」
男 「ピンチ?」 ハッ 「女の子同士は随分と結束が強いようですね。意味が分かりませんけど」
佐天 「そんな態度を取る時点で、理由なんて分かり切ってるもんだと思うけど」
佐天 「当事者よりは冷静に話をするつもりですよ? 私は」
佐天 「……まぁ、少なくとも、悩んではいてくれているようなので安心しました、という意味です」
ネム 「……涙子から全部聞いたわよ」
ディズ 「あんたねぇ……!」
男 「………………」 フッ 「……はは、まさかお前たちまで僕を信じてくれないとはな」
ディズ 「嘘をついて誤魔化して、そうやって白井を傷つけたあんたの何を信じればいいのよ!?」 ガーッ!!
男 「っ……」 ギリッ 「白井さんたちだって……僕に内緒で勝手なことをしただろう!?」
356 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:25:08.78 ID:ygle3h.o
ネム 「風紀委員として当然のことをしたまでだと思うけど?」
佐天 「……それに、白井さんはできるだけ男さんに傷ついてほしくなくて……」
佐天 「だから男さんに何も言わずに調査をしたんじゃないんですか?」
男 「っ……!」 グッ…… 「そ、そんなのっ……僕だってそうだッ!」
佐天 「………………」 フゥ 「……結局、お互いのことを思いやってやったことなんですよ」
佐天 「けど、それがすれ違って、結局お互いを傷つけあってしまっただけのことです」
佐天 「だったらまだ、修復は可能でしょう? 今から、みんなに謝りに行きましょう」
男 「………………」
佐天 「……ねぇ、男さん。私、実はかなり友達想いな人間なんですよ。だから――」
ググッッ……
佐天 「――これ以上私の友達を傷つけるつもりなら、私は殴ってでもあなたの正気を取り戻させる」
男 「………………」 ギリッ 「……――みろ、」
佐天 「……?」
男 「殴りたいのなら……罵りたいのなら……勝手にしてください。けれど僕はそれを受けはしない」
男 「全ていなし、かわし、受け流します。それでもいいのなら、ご随意に」
357 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:26:12.06 ID:ygle3h.o
佐天 「っ……」
男 「僕を悪者にしたいのなら……勝手にしろって言ってるんですよッ!」
佐天 「きゃっ……」 ペタン
ネム 「涙子!」 ニャッ 「大丈夫……?」 スリスリ
ディズ 「ちょっと男! あんたそれでも風紀委員!?」
男 「僕はもう風紀委員じゃないよ。腕章も捨てた」
ザッ
男 「……驚かせてごめんなさい、佐天さん」
佐天 「……何、で……?」 ヒグッ 「……何で? 何で、こんなことになっちゃうんですか?」
男 「………………」
――――……ポロッ……ポタッ……ポタッポタッ……
佐天 「何で……?」 エグッ 「男さん……あなたは、ヒーローなのに……っ」
男 「………………」 ギリッ 「……僕はヒーローなんかじゃないです」
男 「助けてほしいのは、僕だ……。助けてよ、御坂さん。助けてよ、上条くん……」
佐天 「……っ」 キッ 「……ヒーローのくせに……ヒーローに頼るんですね……!」
358 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:27:26.51 ID:ygle3h.o
佐天 「男さんは……誰も彼もを幸せにしたかったんじゃないんですか……?」
佐天 「幸せな唄を、全ての人に聴かせたいって……」
佐天 「自分の能力で世界を幸せにしたいって……そう思ってたんじゃないんですか……?」
男 「……そうだよ。僕は、ずっとそう思ってた……」
佐天 「だったら……」 ギリッ 「……だったら恋人くらいは! 仲間くらいは! 友達くらいは! 幸せにしてくださいよ!」
――ダッ……
ネム 「あっ……涙子っ……!」 タッ
ディズ 「………………」 クルッ 「……よく頭を冷やしなさい、バカ男!」 バサッ
男 「………………」 ハハ…… 「僕は……」
男 「……早く、お祭りに、行かなくちゃ」 フラフラ…… 「姉さんが、待ってる……」
359 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:33:15.42 ID:ygle3h.o
………………祭り会場
男 「………………」
シスター 「わぁぁぁああああ~~~……」 パァア
シスター 「すごいすごいすごいわっ! これが日本のお祭りなのねっ」 ニコッ
男 「あ、ああ……うん、そうだよ」
シスター 「? どうしたの、上の空で?」 ギュッ
男 「あ……ううん。何でもないよ」 ギュッ
男 「……何か食べたい物とかある?」 スッ 「今日は僕が奢るよ」
シスター 「えっ? そ、そんなのダメだよっ。お姉ちゃんが――」
男 「いつもお世話になってるお礼だよ」 ジッ 「……ダメ?」
シスター 「うぅ……その上目遣いは反則だよ」 ポッ 「ええっとね……じゃあ、男のオススメが食べたいな」
男 「オススメ……秋祭りだからさすがにかき氷はないし……」
男 「あ、そうだ」 ニヤッ 「姉さんにきっと似合う食べ物があったよ」
シスター 「似合う? 美味しいとかじゃなくて?」
男 「美味しいことは美味しいよ。大部分が空気だけどね」
トトト……
男 「すみません、綿飴ひとつください」
360 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:34:38.32 ID:ygle3h.o
………………
シスター 「………………」 チマチマモクモク 「……はむはむ」
男 「うん。予想通り可愛いというか可愛らしいというか姉さん本当に18歳?」
シスター 「はむっ……!」 ピョンピョン!! 「失礼だよ男! わたしはれっきとした18歳のレディだよっ」
男 「若いなぁっていう褒め言葉だよ?」
シスター 「えっ……///」 ニヘラ 「そ、そうなの? もう、男は仕方がないんだから」
男 (単純すぎる……)
シスター 「……とはいえ、わたしはもっとすごい若作りを知ってるけどね」
男 「? 若作り?」
シスター 「うん。その鹿角の指輪を贈ってくれたわたしの上司」
シスター 「もういい歳なのに、いまだに “少女” なんて名乗ってるんだから」
男 「それは何というか……イタそうな感じの方だね」
シスター 「はは……わたしの後輩の女の子にセクハラまがいの嫌がらせしてるみたいだしね……」
シスター 「……でも、とってもいい人なんだよ。いつもわたしのことを気にかけてくれてるし」
シスター 「今もきっと、本国でわたしのことを心配してくれているだろうから……」
361 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:35:41.35 ID:ygle3h.o
男 「………………」 フッ 「……本当にいい人なんだね、その上司さん」
シスター 「うん。頼れるわたしたちのリーダーだよ」 ハムハム
シスター 「……うぅ、お腹に溜まらないよう」 グー 「あぅ……///」
男 「はは、姉さんは本当に子どもだなぁ」 クスッ
シスター 「あぅぅ……お姉ちゃんを笑うなぁ……!」
男 「冗談だよ。それじゃ、綿飴を食べ終わったら、何かお腹に溜まる物でも食べようか」
シスター 「はむっ!」 コクッ
男 (なにこの姉メチャクチャかわいい)
シスター 「あ、そうだっ」 スッ 「はい、男もお食べ。……あーん」
男 「わっ……さ、さすがにそれは恥ずかしいというか……」
シスター 「………………」 ウルッ
男 「――あーん!」 ハムッ
シスター 「ふふ……美味しい?」
男 「うん……」 ハムハム 「久々に食べたけど、本当に砂糖と空気だよね、綿飴って」
?? 「――あっ……!?」
男 「ん……?」 クルッ
362 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:57:05.92 ID:ygle3h.o
男 「ッ……!?」
?? 「男、さん……?」
男 「白井、さん……」
初春 「ほぇ? 白井さんどうしたんですか……って、男さん!?」
佐天 「………………」 ジトッ
固法 「………………」 ジッ 「……なるほど、ね」
男 「っ……皆さんもいらしてたんですね……」 バッ
シスター 「? どうかしたの、男?」
男 「……姉さんはいいの。僕の後ろにいて」
白井 「………………」 ズキッ 「……っ」
白井 「………………」
男 「………………」
プイッ
男 「……姉さん、行こう」 ツ……
シスター 「あっ……お、男?」 トト…… 「すみません、皆さん。また今度」 ペコリ
白井 「あっ……」 スッ ―― ピタッ 「………………」
白井 「………………」 (ダメ、ですの。きっと今は、伸ばした手は、届かない……)
白井 (………………) ズキッ 「……男さん……」
363 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:58:44.81 ID:ygle3h.o
………………
シスター 「ふぁー、食べた食べた……お腹いっぱいだわ」
男 「……うん」 ニコッ 「どう? 日本のお祭りは楽しい?」
シスター 「ええ、とっても」 ニコッ 「ねえ、ちょっと疲れちゃった。休まない?」
男 「そうだね。ずっと歩き通しだったし」
シスター 「……こっちがいいわ。行きましょう」 ギュッ……グイッ
男 「? う、うん……」 (姉さん、人混みがあんまり得意じゃないのかな?)
シスター 「………………」 トトト…… 「……ねぇ、男、」
男 「うん?」
シスター 「男は、わたしの味方よね?」
男 「えっ? そんなの当たり前でしょ?」
シスター 「何があっても、わたしを守ってくれるわよね?」
男 「………………」 ギュッ 「……もちろん。僕が姉さんを絶対に守るよ」
シスター 「ん」 ギュッ 「……ありがと」
男 「うん……」 (……? 姉さん、どうしたんだろ?)
364 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 20:59:39.03 ID:ygle3h.o
………………雑木林
シスター 「………………」
男 (……姉さん、どうしたんだろ?) 「……姉さん、気分でも悪い? 大丈夫?)
シスター 「……ええ」 ニコッ 「ごめんなさい。大丈夫よ」
シスター 「たくさん人がいて……少し酔ってしまったみたい」
男 「そっか……」 ギュッ 「大丈夫だよ。僕が、ついてるから」
シスター 「うん……ありがと、男」
男 「………………」
シスター 「………………」
リンリン……ジージー……
シスター 「……虫の声……綺麗ね」
男 「あ、うん。日本にいるとあまり気にならなくなるけど、やっぱり綺麗だと思うよ」
シスター 「そう……。わたしの住んでいた場所は、虫が住めるような暖かい場所じゃなかったから」
男 「そうなんだ」
シスター 「ええ。だからうらやましいわ。もう十月だというのに、こんなに暖かいこの国の気候が」 ギュッ
365 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:00:32.74 ID:ygle3h.o
男 「………………」 (そうだよ……)
――ギュッ
男 (姉さんだって、ただひとりこの学園都市に残されて不安なんだ……)
男 (あんな風に毅然と聖書を読み上げて、シスター然としているけど、心の中は不安でいっぱいなんだ)
男 「……姉さん」
シスター 「うん?」
男 「姉さんの故郷のお話、聞かせてほしいな」
シスター 「え……?」
男 「教えてよ。姉さんの故郷……ロシアのことを」 ニコッ
シスター 「………………」 フッ 「……あなたは本当に優しい子ね」 ナデナデ
男 「あっ……」 カァア 「こっ、子ども扱いしないでよ……」
シスター 「ふふ。冗談よ」 スッ 「そうね……じゃあ、まず何からお話しようかしら」
…………
……………………
366 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:01:43.82 ID:ygle3h.o
………………
シスター 「……はふぅ」 フゥ 「たくさんお話して疲れちゃったわ」
男 「へへ……色々と教えてくれてありがとう」
シスター 「ううん。こちらこそ、聞いてくれてありがとう」
男 「……とりあえず話を聞いた限り、」
男 「姉さんの職場の “サーちゃん” っていう人は、上司さんを殺しにかかってもいいと思う」
シスター 「あなた、可愛い顔して言うことは本当にえげつないわよね……」
シスター 「まぁそもそも、刺そうがバールでぶん殴ろうが、あの人は何のダメージも受けないんだけどね」
男 「本当に何者なんだその上司は……」
男 「っていうか姉さんも変なコスプレ衣装を送ってあげるのやめなよ」
シスター 「……まぁ、サーちゃんも満更じゃなさそうだし?」
男 「満更じゃなかったらバールでぶん殴ったりしないと思うんだけどなぁ」
シスター 「ふふ……」
――チッ……チッ……カチッ!! ……
シスター 「っ……」 ギリッ 「……もう、こんな時間になってしまったのね……」
367 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:06:32.35 ID:ygle3h.o
男 「? 時間って、どうかしたの?」
シスター 「………………」
男 「姉さん?」
シスター 「………………」 スッ 「……ねぇ、男」
男 「……? なぁに?」
シスター 「……知ってるかしら? このお祭り、主賓として貝積継敏が招かれているの」
男 「へぁ……?」 キョトン 「貝積継敏って……あの統括理事の?」
シスター 「ええ」
男 「と、唐突な話題だね。それがどうしたの?」
シスター 「貝積継敏は優秀な学者でありながら、利権や利益を求める統括理事会の中では比較的善人に当たると言われているわ」
シスター 「このお祭りも元々は彼が主催しているチャリティー企画の派生だしね。だから主賓なのだけど」
男 「え……えーと、それがどうしたの?」
シスター 「彼は親船最中とは違う。彼女のように苛烈に善を行き、結果として自らの身を縮めてしまうような愚は犯さない」
シスター 「それでも小さい善の根を張り、その影響力を段々と世界へと広げている」
シスター 「……もちろん軍事を司るどこかのパワードスーツ男に比べれば、それはあまりにも小さなものなのだけど」
男 「だ、だから、その貝積継敏氏がどうし――」
シスター 「――だからこそ、わたしは貝積継敏を殺さなければならないの」
368 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:08:20.58 ID:ygle3h.o
男 「は――?」
シスター 「………………」
男 「ご、ごめん、姉さん……今、何て言ったの?」
シスター 「………………」
男 「ね、姉さん! ちょっとよく聞こえなかったから、もう一度言ってよ」
シスター 「聞こえたままのことよ。学園都市統括理事のひとり、貝積継敏を殺さなければならない」
シスター 「……わたしはそう言ったの」
男 「はは……それは、何の冗談?」
シスター 「ふふ……冗談に聞こえたのならそうなのかもしれないわね?
男 「………………」 ギリッ 「……それは、テロってこと?」
シスター 「ええ。ある勢力の重鎮を殺そうと言うのだから、一般的な殺人ではあり得ないわね」
シスター 「テロといっても間違いではないわ」
男 「な、何で……?」
シスター 「………………」 スッ 「――――……すため……」
男 「へ……?」
シスター 「………………」 フッ
シスター 「…………――戦争を、起こすためよ」 ニコッ
369 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:10:37.69 ID:ygle3h.o
男 「!? せ、戦争……!?」
シスター 「あなただって知らないわけじゃないでしょ? 学園都市が今、戦争の危機に直面していることくらい」
男 「そ、それは……だって、あのローマ正教の攻撃があったから……」
男 「もちろん、知ってるけど……」 ギュッ 「姉さんはそれと何の関係もないでしょ?」
シスター 「………………」 ニコッ 「……本当にそう思う?」
男 「っ……!?」 ゾクッ (なっ……何だ!?)
シスター 「わたしはロシア成教の人間なの。十字教徒なのよ?」
男 「で、でもっ――」
シスター 「――――わたしは学園都市とローマ正教との戦争を望んでいるわ」
男 「ッ……!?」
シスター 「ここまで言えばさすがに分かった? わたしは、ロシア成教に遣わされてここにいるの」
シスター 「学園都市で内部工作を行ない、学園都市を戦争へと導くためにね」
男 「だ、だって! ロシア成教とローマ正教は……」
シスター 「まだ公開されていることではないけれど、昨日未明、ローマ正教とロシア成教との間に同盟が結ばれたわ」
男 「そ、そんな……そんなの……」
370 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:12:37.98 ID:ygle3h.o
男 「………………」
シスター 「……戦争へ進むための一番の邪魔は貝積継敏なのよ」
シスター 「他の統括理事は、戦争を望む者か、もしくはどうでもいいと思う者に分かれるわ」
シスター 「だけど、貝積継敏だけは違う。彼は表向きは無関心を装いながら、秘密裏に各勢力との交渉を進めている」
シスター 「もちろんトップとじゃない。もっとずっと下……現場の人間たちとね」
シスター 「彼の影響力はもう無視できないものとなっているわ」
シスター 「だけど、それは裏を返せば彼さえいなくなれば、世相は順調に戦争に向かっていくということに他ならない」
シスター 「そのきっかけとして、わたしは貝積継敏を殺す」
シスター 「……もちろん、今さら貝積継敏が何をしようと、世界が戦争へ向けて動いていることは事実」
シスター 「彼が生きていようがいまいが、結局戦争は起きる」
シスター 「でもわたしはもう待てない。早く戦争になってほしいの」
男 「な……何で!? 何でそんなに戦争を望むの!?」
シスター 「………………」 ボソッ 「……弟のためよ」
男 「えっ……?」 ゾクッ 「弟って……亡くなった……?」
シスター 「………………」 ニコッ 「……ええ」
371 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:15:30.24 ID:ygle3h.o
シスター 「……弟の話はしていなかったわね」
シスター 「わたしの弟はね、去年亡くなったの。死因は……」
ギリッ
シスター 「……―― “原因不明の発熱”」
男 「原因不明の発熱……?」
シスター 「ロシア政府の医術をもってしても、ロシア成教の御業の全てをもってしても、」
シスター 「……恢復どころか、原因の解明もできなかったわ……っ!」
シスター 「どんどんやつれていく弟に、わたしは誰彼構わず助けを求めたわ」
シスター 「けれど、全部無駄だった……」 ギロッ 「学園都市も、その一つ……ッ!」
男 「!? 学園都市……?」
シスター 「わたしは学園都市に助けを求めたわ。世界最高の医者とされる 『冥土帰し』 を寄越してくれと」
シスター 「……けれど、無駄だった」 ギリッ 「学園都市は、『冥土帰し』 はッ! 弟の治療を断ったッ!」
シスター 「そして弟は、死んだのよ……ッ」
男 「なッ!? そ、そんなわけない! あのひとが誰かの救済を断るなんて……そんなのッ!」
シスター 「だったら何故弟は死んだの!? 何で 『冥土帰し』 は力を貸してくれなかったの!?」
男 「そ……それは……」
372 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:16:56.87 ID:ygle3h.o
シスター 「だからわたしは誓ったの……」 ギリッ 「弟を殺した学園都市の閉鎖性をぶっ壊すってね」
シスター 「もし学園都市の最新医術が…… 『冥土帰し』 の最高の医術が学園都市の外にも広まっていたら、」
シスター 「そうしたら、弟は死ななくても良かったかもしれない……きっと、今も元気に生きていたのよ」
シスター 「だからわたしは、戦争を望む。そのために貝積継敏を殺す」
シスター 「……もうこれ以上、弟のような不幸を作りたくないから。誰にもわたしのような悲しみを背負って欲しくないから」
男 「………………」 ギリッ 「……姉さん……」
――――――……ガサッ
男 「!?」 クルッ
?? 「おや、随分と面白い光景が広がっているものだけど」
男 「な……何で……?」 ギッ 「何で……雲川先輩が、ここに……?」
雲川 「おや? お前がここに呼んだのではないのか?」
男 「そ、そんなこと、僕は……」 ハッ 「ま、さか……」
シスター 「――ええ」 ニコッ 「彼女をここに呼んだのはわたしよ」
雲川 「ふん。私の連絡先を知っている人間に興味が湧いて来てみれば……」
雲川 「これはまた随分と可愛らしい呼び出し主だけど」
373 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:19:09.64 ID:ygle3h.o
シスター 「それはどうも」 トトト…… 「でも、馬鹿正直に来てくれると思っていました」
シスター 「あなたがそういう方であると、事前のプロファイリングで知っていましたから」
雲川 「可愛い顔をして言うことはなかなか怖いけど」
雲川 「それで? 私に一体何の用だ?」
シスター 「ええ、まぁ……」 フッ 「――……ちょっとだけ死んでもらおうと思いまして」
ニコッ ……――サッ
男 「!? 雲川先輩逃げ――――」 ダッ
シスター 「ごめんね、男。ちょっと遅いわ」
――――……ビジッ!!! バヂッ!
雲川 「っ……!?」 フラッ 「なる、ほど……」 バタン
男 「スタンガン……!? 雲川先輩!!」
クルッ
シスター 「――……ねえ、男」 ニコッ
男 「……っ!」 ビグッ
シスター 「姉さんの邪魔をしないで? ね、おねがい」
374 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:21:54.22 ID:ygle3h.o
シスター 「わたしは、あなたのことも本当の弟だと思ってるのよ?」
男 「姉さん……?」
シスター 「あなたはいつでも、わたしのことを気にかけてくれた」
シスター 「“術式” が働いていたとはいえ、本当にわたしのことを想ってくれていた」
シスター 「だから……」 ニコッ 「――ここで、待っていて」
シスター 「そうすれば、すぐに終わるから。全てを終えて、わたしはすぐにここに戻ってくるから」
シスター 「そうしたら、一緒にロシアに行きましょう?」
シスター 「それで、ずっと一緒に暮らすの。きっと楽しいわ」 ニコッ
男 「………………」
シスター 「ああ、心配ならいらないわ。ロシア成教はあなたを温かく迎える準備があるの」
シスター 「少し検査だとかがあるかもしれないけど、それだけ。本物の能力者だもの。丁重に扱うわ」
シスター 「ロシアは……いいえ、ロシア成教は、あなたを手厚く保護します」
シスター 「男なら、きっとあの方とも、サーちゃんとも仲良くなれると思うの」
シスター 「ロシア語だって、男の能力を使ってネコに通訳してもらえばいいじゃない」
シスター 「だから……」 ニコッ 「……だから、一緒に行こう? ロシアへ」
375 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:39:45.25 ID:ygle3h.o
男 「………………」
シスター 「ねぇ、男? 行きましょう?」 ニコッ 「だってあなたは、わたしの弟だもの。ね?」
男 「………………」
スッ……ギュッ
シスター 「わたしはあなたの姉。あなたはわたしの弟。あなたはわたしが守る」
シスター 「――だから、わたしのことは、あなたが守って」
スッ……ギュッ
男 「……姉さん」
シスター 「ん? なぁに、男」
男 「――――……ん、なさい……」
シスター 「えっ……?」
男 「……ごめん、なさい……」
シスター 「は……?」
男 「……ごめんなさい……」 グッ
男 「……僕は、姉さんの悲鳴に、気づくことができなかったんだね」
男 「姉さんがずっとあげていたSOSに、気づいてあげられなかったんだね」
男 「……ごめんね」
シスター 「お、男? 何を言っているの?」
376 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:40:47.92 ID:ygle3h.o
男 「僕は、白井さんたちの想いを疑い、裏切り、そして、姉さんのあげていた悲鳴に、気づいてあげられなかったんだ」
男 「僕は、勝手に姉さんを助けていると思っていただけなんだ」
シスター 「………………」 スッ 「……あなたは、何を言っているの?」
男 「ごめん。本当に申し訳なくてたまらないけど、それでも責任は果たすよ」
男 「僕はもう逃げないって決めたから。ただ謝るだけで逃げるようなことを、したくないから」
男 「……姉さん。そんなことはやめよう。してはいけないことだよ、それは」
男 「たとえどんな理由があるのだとしても、人の命は、幸せは、奪ってはいけないんだ」
シスター 「……あなたらしい答えね、男」 ニコッ 「そうよね。だってあなたはわたしの弟なんだものね」
男 「うん。だから――」
シスター 「――本当に、厄介。そんなところもあの子そっくりだわ」
男 「えっ……? 姉さん?」
シスター 「ねぇ、覚えてる? あなたがまだ小さい頃、修道院の甘いお菓子を主教様に黙って食べようとしたときのこと」
シスター 「あなたはまだ小さかったっていうのに、こう言ったわね。やめよう、お姉ちゃん、って」
シスター 「あなたはあの頃から、全然変わってないのね」
男 「姉、さん……?」
377 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:41:53.67 ID:ygle3h.o
シスター 「あら。そうよね。あなたがこんなことを覚えているはずがなかったわね」
シスター 「だってあなたはわたしの本当の弟ではないのだものね。わたしとしたことが、うっかりしちゃった」 ニコッ
シスター 「ねぇ? 不思議に思わなかったの? 何で出会って数日で、わたしたちはこんなにも仲がよくなっているの?」
男 「えっ……?」
男 (……そういえば……) ゾクッ (何で僕は、こんなにも、目の前の女性を簡単に姉だと思っているんだろう)
男 (何で僕はこんなにも、この人のことを当たり前のように姉さんと呼んでいるんだろう)
男 「ま、さ、か……」 ゾワッ 「…… 『心理操作』 系の能力……!? 洗脳……!」
シスター 「超能力などと一緒にしないで。これは、そんな生易しい異能ではない、本物の 『魔術』 よ」
ニコッ
シスター 「少し術式が強すぎたみたいね。わたしのことを想うあまり、逆にわたしの凶行を止めようとするとはね」
シスター 「……そしてわたし自身も、少しばかり情を寄せすぎてしまったみたい」
シスター 「不覚だったわ。わざわざ、敵対するような子に、こちらの情報を流してしまうなんて」
シスター 「『姉と弟』 の術式、要改善、と。でもまぁ、関係性の強化はその副産物でしかないわけだし」
シスター 「……そう、計画自体に支障はない。わたしが貝積継敏を殺して、そしておしまい」
男 「姉さん……」
378 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:44:19.30 ID:ygle3h.o
シスター 「だから、ごめんね。男」
――ビヂッッ!!
男 「――しまっ……!?」 (左手……!? さっきのスタンガンか……!?)
シスター 「手袋越しだから大したことはないでしょう?」 バヂバヂ 「科学の使徒には、科学のデバイスで十分」
男 「姉、さん……!」 ――ズザッ
シスター 「おやすみなさい。そして、さようなら」
男 「ね……え…………さ、……ん……………………」
パタッ……
男 「………………」
シスター 「これで三時間は目覚めないはずね」
男 「………………」
シスター 「………………」
シスター 「……さて、あとは術式を完成させるだけ、ね」 チラッ
雲川 「………………」
シスター 「ごめんなさい。あなたに恨みはないのですが……」
スッ
シスター 「――あなたには死んで頂きます。雲川芹亜さん」
379 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:45:02.31 ID:ygle3h.o
………………祭り会場
白井 「………………」
初春 「あ、あうあう……」
白井 「………………」
佐天 「あ、あのあの! こういうときだってありますよ! だから元気出してくださいよ」
白井 「………………」
固法 「まったく……男くんは……」
白井 「………………」
プルプルプル
初&佐&固 (((わーーーー! 泣いちゃう!)))
白井 「………………」 ギリッ 「……――っ、の、」
初&佐&固 (((???)))
白井 「あん、の……甲斐性無しがぁぁぁぁああああああああッッッ!!!」
初&佐&固 (((わっ……!?)))
ドンドンドン!!! ガンガンガン!!!
380 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:45:57.13 ID:ygle3h.o
初春 「し、白井さん!? いきなり暴れ出さないでください!」
白井 「何なんですのあの男は! よく考えたら、わたくし何ひとつ悪いことはしていないではありませんの!」
佐天 「ま、まぁ確かに……」 (女子の同族的同情を度外視しても、なんかあの男さん変だったもんね)
白井 「っなぁぁぁああああ! 思い出したらまた腹が立ってきましたの!」
白井 「初春! 佐天さん! 固法先輩! こうなったら食べて食べて食べまくりますわよ!」
白井 「体重なんて知ったことですか! もうヤケですの!」
ズンズンズン……!!
初春 「あ……し、白井さん、ちょっと待ってくださいよ~」
固法 「………………」 ハァ 「……そうね。そもそも白井さんはいつまでもウジウジ悩んでいるような子じゃないもの」
佐天 「まさか当の本人と会うとは思わなかったけど、良い起爆剤になったってとこですかね」
固法 「……あとは、男くんか」 スッ 「……風紀委員を辞めるなんて、本気じゃ、ないわよねぇ……」
381 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:48:55.21 ID:ygle3h.o
佐天 「………………」 ハァ 「男さんといい、御坂さんといい、一体どうしちゃったんでしょうね?」
固法 「御坂さんの方は連絡が取れないんだっけ? あの子はレベル5だけど……心配ね」
佐天 「はい……」
――ドン
固法 「?」 (背中に誰かぶつかった?)
?? 「あう……。ごめんなさいなんだよ」
固法 (白い服の……シスター?)
佐天 「あれ? あなた確か、この前カミジョーさんたちの病室にいた……」
?? 「あたなは確か、“さてんさん” って呼ばれてたよね」
佐天 「あ、う、うん。よく覚えてたね」
?? 「うん。だってわたしは、一度覚えたことは絶対に忘れないから」
?? 「そっちの人とは初めましてだったね」 スッ
インデックス 「初めまして。わたしは、インデックスっていうんだよ」
382 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:51:40.22 ID:ygle3h.o
………………
男 「………………」
ハッ
男 「っ……姉さん……?」 ビリッ 「くそ……身体中が痺れる……」
ディズ 「男! 気がついたわね」
男 「ディズ!?」
ディズ 「心配だから後をつけていたの! ネムサスはあの女を追ってるわ!」
男 (……相当強力なスタンガンだな。時計も携帯もイカれてないのが不思議なくらいだ)
男 (でもおかしいな。大して時間は経っていない)
男 「あっ……」 スッ (……そうか、この手袋。あの人が用意してくれたものだもんな)
男 (電撃のショックを和らげてくれたのか……)
男 「………………」 ギリッ 「……あの人、か」
男 (姉さんの心の不幸を払うには、あの人に話を聞くことが必要不可欠……)
男 「……けど今は、姉さんを止めなきゃ……!」
男 「ディズ、ネムサスと連絡は取れる?」
ディズ 「難しいわね。離れすぎてるわ」
男 「そうか……」
――――キラッ
男 「ん……?」
383 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:53:57.13 ID:ygle3h.o
………………
白井 「……それで、何でこの方も一緒なんですの?」
インデックス 「ほああいほほはいいんはよ!」 (訳:細かいことはいいんだよ!)
固法 「仕方ないじゃない。この子、なんか一人じゃ危なっかしい感じだし」
白井 「殿方さんはどうされたんですの?」
インデックス 「ほえはんはよ!」 プンプン (訳:それなんだよ!)
インデックス 「ほうは、おうひひはえっへほはいんはよ!!」 (訳:とうま、お家に帰ってこないんだよ!!)
インデックス 「ふふぃんふふはほっはいっひゃうひ!」 (訳:スフィンクスはどっか行っちゃうし!)
インデックス 「ははあおはははへっはははひほひひはほはへへいはんはよ!」 (訳:だからニオイに誘われてここまで来たんだよ!)
白井 「いい加減口に物を運ぶのをおやめなさい!」
インデックス 「むぐ……」 ゴックン 「仕方ないんだよ! ここはごちそうの宝庫かも!」 キラキラキラ……
佐天 「あーもう……」 ヤレヤレ 「ほーら、ほっぺにソースついてるよ」 フキフキ
インデックス 「むにゃー」
佐天 (やだこの子メチャクチャ可愛い)
初春 「よくこんなにお腹に入るもんですねー」 ホァー
白井 「まったく。太っても知りませんわよ?」
384 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:56:16.06 ID:ygle3h.o
インデックス 「むぐ……?」 ゴックン 「……でもわたし、体重がすごく変わったことってあんまりないかも」
白井 「………………」 ピキッ
初春 「し、白井さんだって、痩せてますよ。全然大丈夫ですよっ!」 アセアセ
白井 「むきーーーーーーっ!!」 ガッ!! 「わたくしも食べますの!!」 ハグハグハグ
初春 「わーーー! 白井さん~~~~!」
固法 「まったく……」 ハァ 「……ん?」
雲川 「………………」 タッタッタ……
固法 「あれ……? 一瞬何かおかしいなって思ったんだけど、気のせいだったかしら?」
初春 「はえ? どうしたんですか?」 チラッ
インデックス 「……?」 チラッ
――――ジジッ……
インデックス 「!!!? 魔、術……!?」
雲川 「………………」 タタタタタタ……
インデックス 「お、追いかけなくちゃ!」 ダッ――ガシッ
固法 「ちょっと待ちなさい! 一体どうしたって言うの?」
385 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 21:58:03.92 ID:ygle3h.o
インデックス 「放すんだよ、みい! わたしはあの人を追いかけなくちゃいけないの!」
固法 「だからどうしてって聞いてるのよ!」
インデックス 「それは……無関係な人には言えないよ!」
固法 「そう……分かったわ」 スッ 「なら、こっちにも考えがある」
インデックス 「な、何をする気なの? 何をされたって、わたしは口を割らないかも!」
固法 「そんな乱暴なことをする必要はないわ。ただ――」
ニッ
固法 「私も一緒に、あの人を追いかけるってだけのことだから」
ギュッ
固法 「さ、はぐれないようにしっかり掴まってるのよ!」
ダッ――!!
インデックス 「わわっ! こっちの服装も考えて欲しい速度なんだよ!」
初春 「固法先輩!?」
固法 「ちょっとこの子と気になる女性を追いかけるわ。さっきあなたも見た、セーラー服に長髪の子よ!」
固法 「あなたたちは後で白井さんの能力で追いかけてちょうだい!」
初春 「わ、分かりました! その人に関して、外見からデータベースに検索をかけてみます!」
固法 「ありがとう! 頼んだわ!」
386 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:14:35.20 ID:ygle3h.o
学生1 「わっ……危ないな!」
学生2 「気をつけろ!」
固法 「うるさいわね! こっちは風紀委員なんだから、どいたどいた!」 ダッ
固法 「……っ、でも見当たらないわね。もしかして見失った……?」
インデックス 「ううん、違うよ、みい」 フルフル 「露天の間を左に曲がったの。わたしたちの追跡に気づいたみたい」
固法 (左方向……?)
ギン!!
雲川 『………………』 タタタタタ……
固法 「……!? 本当にいた!」 ダッ 「……どうして分かったの?」
インデックス 「わたしとしては、何でみいにあっちにいることが分かるのかが不思議かも」
固法 「わたしの能力。レベル3の 『透視能力』 よ」 ニヤッ 「さて、わたしは教えたんだから、あなたも教えてくれるのよね?」
インデックス 「うぐ……みいは策士かも」 ハフゥ 「……魔術的雰囲気……としか言いようがないけど、それでいい?」
固法 「魔術……?」 ハッ 「魔術!? それってあの、ローマ正教の!?」
インデックス 「ううん。この感じからして……もっとスラブ系の……多分、ロシア成教系列だと思う」
固法 「え……?」 アセアセ 「あの……あなたが何を言っているのか、いまいちよく分からないんだけど……」
387 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:15:36.98 ID:ygle3h.o
インデックス 「みい! 前を見て! 今はとにかく、あの人に追いつくことが先決だよ!」
固法 「あ……それもそうね……」 スッ 「スピード、上げるわよ!」 ダッ!!
インデックス 「合点承知なんだよ、みい!」 ダッ!!
固法 (なんだろう、この変な感じ……)
固法 (まるで、『透視能力』 に不全が起きているような感じね)
固法 (前を走るあの人、さっきから視界でブレてばかり……)
固法 (…… 『透視能力』 で見抜けないものを見抜こうとしている……?)
固法 (ううん…… 『透視能力』 で見抜くための演算がまだ成せていないだけ……?)
固法 「ああもう! 一体何だっていうのよ!」
インデックス (……検索……検索……索引読込……読込……閲覧……解析……解析……)
インデックス (……ロシア民話……? 『うるわしのワシリーサ』 ……ううん、少し違うかも)
インデックス (けど、その系列なのは確かなんだよ!)
インデックス 「とうまがいない今、学園都市の平和はこの 『禁書目録』 が守るんだよ!」
388 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:17:11.35 ID:ygle3h.o
………………
雲川 「………………」 ピタッ 「………………」
雲川 「撒けたわね……いえ」
フルフル
雲川 「――撒けたようだけど」
雲川 「………………」
雲川 (しかしまさか 『禁書目録』 がこんな場所にいるとは……)
雲川 (ただし、所詮はただの魔導書庫。実際に魔神の力を振るえるわけではない)
雲川 「くく……」
雲川 「くくくくく……はははははは!!」
………………物陰
ネムサス 「………………」
ネム (……一体何を企んでいるというの……?)
ネム 「………………」
ネムサス (でも、絶対に逃がさないんだから。夜道で猫から逃げられるなんて思わないで)
389 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:18:12.03 ID:ygle3h.o
………………
貝積 「………………」
ワイワイガヤガヤ
貝積 「……まったく。この歳になって、一人で祭りを歩くことになるとはな」
SP 「………………」
貝積 「いや、一人とはほど遠いか。まったく、無駄口を叩くだけ、雲川の方がまだマシというものだ」
貝積 「……まぁ、それが君らの本質であり義務なのだから、当然といえば当然なのだがな」
SP 「………………」
貝積 「……まったく」
ザッ
貝積 「む……?」 ハァ 「なんだ、お前か」
雲川 「………………」 フッ 「この優秀なブレインに対して 「なんだ」 とは、随分なご挨拶だけど」
390 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:22:34.27 ID:ygle3h.o
SP 「………………」 ザッ
貝積 「構わんよ。彼女は私の知り合いだ」
雲川 「素直に頭が上がらぬ相手だと言えばいいけど」
貝積 「……すまないが、席を外してくれないか?」
SP 「しかし――」
貝積 「ならばこう言おう。席を外せ」
SP 「……かしこまりました」 ザッ……
雲川 「よかったのか? 学園都市統括理事ともあろう者が、こんな群衆の中でSPを外したりして」
貝積 「分かっているだろう。私は誰かに恨みを買うほど苛烈ではないし、弱みを知られるほど大人しくはない」
貝積 「……ともあれ、何故ここに来たのかを聞きたい。人の少ない場所へ移動しよう」
雲川 「くくく。情熱的なお誘いだけど」
貝積 「悪いが、」 フッ 「私は妻と娘を愛している」
391 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:23:35.84 ID:ygle3h.o
………………
貝積 「それで、私に一体何の用だろうか?」
雲川 「分かっているだろう? この街に数件のイレギュラーが発生している」
貝積 「当然分かっている。だがそれは私の管轄ではない」
貝積 「統括理事長の勅命が出ている案件もある。ただのお役所仕事である私のポストに出来ることはないよ」
貝積 「そして、親船最中が身体を張ってまで発したオーダーを壊すほど私は無粋ではない」
雲川 「『幻想殺し』 は稀少かつ、代替不可能な能力のはずだけど」
貝積 「それも含めて、統括理事長には何らかのお考えがあるのだろう」
貝積 「親船の行動にリスクが伴うのであれば、統括理事長はどんな手を弄してでもそのオーダーを止めていただろう」
雲川 「フランスか……また随分と騒動の中心地に飛ばされたものだけど」
貝積 「だから言っているだろう。全て含めて統括理事長の術中だ。イレギュラーはない」
392 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:25:29.49 ID:ygle3h.o
雲川 「……侵入者の件については?」
貝積 「統括理事長から関わるなとのご命令があれば我々は従わざるをえない」
貝積 「それに、そんな物騒なことにいち早く反応するのは私ではなく潮岸あたりの仕事だろう」
雲川 「なるほど。お前もよくよく事なかれ主義だけど」
貝積 「そうでもない。それを言うなら現状の腑抜けた親船だ」
貝積 「今回の身を挺した行動が、何らかの契機になればいいのだがな」
貝積 「いや……」 フッ 「本気の彼女ほど怖いものを私は知らんからな。やはり現状がいいのかもしれん」
雲川 「………………」
貝積 「そもそも、事なかれ主義であればこんな人気のない場所に、君を連れてきたりはしない」
雲川 「何の話だ? 妻と子どもを裏切る覚悟でもできたのか?」
貝積 「はは、そこまで危ない橋を渡るほど私は冒険者ではないよ」
貝積 「――それくらい、本物の雲川なら知っているさ。そうではないかね? 偽物くん」
393 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:26:56.24 ID:ygle3h.o
?? 「………………」 ギリッ 「……何故私が偽物だと?」
貝積 「ふむ、引き際を悟る早さまで雲川そっくりだな。大したものだ」
貝積 「大方、私を怪しませないため、そして私から情報を引き出すためだったのだろうが、」
貝積 「生憎と私のブレインはそこまで馬鹿ではない。こんなところでいらぬ情報は流さぬよ」
?? 「……得た情報では、通っている学校からあなたにコンタクトを取ることもしばしばだとか」
貝積 「秘匿回線だよ。外に漏れることはない」
?? 「……なるほど。対象のプロファイリングが十分ではなかったということですか」
――ガチャッ
?? 「ただし、だからといって計画が失敗するというわけではない」
貝積 「なるほど。物騒なものを持ち出すものだ」
?? 「あわよくばあなたから有益な情報を引き出せれば……と思いましたが、さすがは統括理事」
?? 「そこまで甘くはないということですか」
貝積 「私を殺して得をする人間はこの学園都市にそうはいない。君は外部の人間か」
?? 「よくそこまで分かるものですね。その通りです」
カチリ――
?? 「戦争を望む者……とだけ名乗っておきましょうか」 スッ 「さようなら、貝積継敏」
――ッパァン!!
394 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:29:02.12 ID:ygle3h.o
………………
男 「……!? 雲川先輩!」
雲川 「………………」
男 「雲川先輩!」 ユサユサ 「雲川先輩!!」
雲川 「………………」 スー……スー……
男 「よかった……息はしてる」
ディズ 「……この女、さっきからずっと脳波にまるで淀みがないわ。昏睡状態みたいなの」
男 「スタンガンの影響……? いや、それでも外的刺激があれば目覚めるはず」
男 「何だって言うんだ……?」
男 「くそっ……姉さんを止めなくちゃいけないけど、雲川先輩を放っておくわけにもいかないし……」
――キラッ
男 「ん……雲川先輩の首にかかってるこれ……」 スッ 「……姉さんの十字架と同じものだ」
ディズ 「……その十字架、あのシスターがかけていったの。そして……」
男 「……? どうかしたっていうの?」
ディズ 「……男、これから私が話すこと、信じてくれる?」
男 「当たり前だろ。ディズは僕の大切な相棒の一羽なんだから」
ディズ 「……うん。なら話すけど、」
ディズ 「あのシスターが気絶しているその女に十字架をかけた途端――」
ディズ 「――シスターがその女と全く同じ姿に変わったのよ」
395 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:31:25.67 ID:ygle3h.o
――ッパァン!!
?1 「――危ないッッ……!!」
貝積 「っ……!?」
――――――ッドン!!!……ズザッ!!
?? 「なっ……!?」 (外した……!?)
――フニャッ!! バッ!!
?? 「!?」 (猫が銃に取りついて……ッ!!)
ガブッ!!
?? 「痛っ……!」
――カラン
猫 「落ちた……!」 バッ 「拳銃はいただくわよ!」 ガブッ……タタタタ……
?1 「ふぅ……ネムちゃんと合流できて良かったわ。ギリギリセーフっていうところかしら」
ネム 「こちらこそ。固法と合流できて助かったわ」
?? 「猫が喋った……!?」 ビクッ 「ま、まさか……男!?」
固法 「おあいにく様ね。男くんはここにはいないわ」 スッ 「……大丈夫ですか?」
貝積 「き、君は……?」
396 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:32:39.02 ID:ygle3h.o
固法 「風紀委員です。ご無事なようで何よりです。襲撃者は彼女一人。早く逃げることをオススメします」
貝積 「……そうだな。そうさせてもらおう」 スッ 「感謝するよ、風紀委員くん」
?? 「っ……」
固法 「おっと。動かないでください。あなたの手にはもう拳銃はないんですよ?」
?? 「ぐっ……!」
――――ジジッ……ジジジジッ……
固法 「……?」 (何……? 『透視能力』 を使っているわけでもないのに、彼女の姿が歪――」
――――――ジジッ――ザッ!!!
固法 「!!?」 (っ……!?)
?? 「ぐっ……!? 『姉と弟』 の術式が破壊されたですって……!」
固法 「……なるほど。インデックスさんやネムちゃんが言っていたことは本当だったってことね」
ネム 「だから言ったでしょ! あの女、たぬきみたいに化けたんだって!」
?? 「……そういうことですか。『禁書目録』 があなた方に入れ知恵をしたということですね」
固法 「そういえば彼女もそんな風に自分のことを言っていたわね」
固法 「……この目で見てしまったものは仕方がない。魔術っていうものは本当に存在するのね」
固法 「――ねぇ、赤髪のシスターさん?」
397 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:37:56.54 ID:ygle3h.o
………………数分前
男 「へ……? 姉さんが、雲川先輩と同じ格好に……?」
ディズ 「格好なんて生易しいものじゃないわ。全く同じ。姿形や顔まで、そっくりに変わったのよ!」
ディズ 「それこそ、まるで超能力を使ったみたいに……」
男 「超能力……いや、姉さんは外部の人間で、能力開発は受けていない……それに――」
―――― 『超能力などと一緒にしないで。これは、そんな生易しい異能ではない、本物の魔術よ』
男 「……くそっ」 ギリッ 「『魔術』 ……! 学園都市外部の能力開発……」
――ピッ prrrrrr……
男 「……っ、何で出てくれないんだよ……上条くん!」
男 (『魔術』 について、上条くんなら何か知っているかと思ったけど……)
―――― 『もしこの 『禁書目録』 の力を借りたくなったら、いつでも電話するんだよ!』
男 「あっ……!」
ピッ prrrr……ガチャッ
男 「もしもし!?」
?? 『わわっ! いきなり大声で何だっていうんだよ!』
男 「よかった。出てくれた……!」 グッ 「ごめん、一つ聞きたいことがあるんだ!」
男 「頼む! 君しか心当りがいないんだ、インデックスさん!」
398 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:39:39.97 ID:ygle3h.o
………………
インデックス 『なるほど……事情を聞いて、ようやく合点がいったんだよ』
インデックス 『今、みいとねむさすがシスター ――魔術師に飛びかかろうとしてるから、簡潔に話すね」
インデックス 『いま君の前で寝ているくもかわの命に別状はないよ』
インデックス 『君がお姉さんだと思っているシスターは、きっと 『姉と弟』 の民話を元に術式を作り上げたんだね』
男 「…… 『姉と弟』 ?」
インデックス 『ロシア民話のひとつだよ。『兄と妹』 っていう言われ方もすることがあるけど』
インデックス 『その民話に自己流の解釈を加えて、無理矢理にねじまげた術式を構成してるみたい』
男 「ち、ちょっと待って! 全然話についていけないんだけど……」
インデックス 『今は黙って聞いて、ねこあひるのひと。『姉と弟』 っていうお話について簡単に説明するね』
インデックス 『仲の良い姉と弟が、継母の虐待に耐えかねて逃げ出すところから物語は始まるんだよ』
インデックス 『ところが弟がとある泉で水を飲むと、弟は鹿になってしまったの』
インデックス 『姉は弟の世話をしながら森の小屋で暮らすんだけど、あるとき王様に見初められてお妃様になるの』
インデックス 『姉は王様との間に子どもももうけるんだけれど、それをねたんだ継母とその娘に姉が殺されてしまうんだよ』
インデックス 『そして継母は自分の娘に姉の代わりをさせて、王様を誤魔化すの』
インデックス 『姉は幽霊になって子どもの世話をするんだけれど、あるとき王様と出会って生き返るの』
インデックス 『真実を知った王様は継母とその娘を刑に処し、弟は人間の姿に戻りました。めでたしめでたし』
399 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:41:19.93 ID:ygle3h.o
男 「……その昔話がどうかしたの?」
インデックス 『分からない? そのシスターは、そのくもかわっていう人と同じ姿になったんだよ?』
インデックス 『いま話した昔話でそれに合致する部分はない?』
男 「えっ……? あ、まさか……姉の代わりに妃になって、王様を誤魔化した継母の娘のこと?」
インデックス 『その通りなんだよ。シスターは君と姉弟の契りを結ぶことによって自分自身に姉の属性を付加させ、』
インデックス 『その上でその属性を、自分と同じ十字架をかけさせることによって、くもかわにも付加させた』
インデックス 『そしてその “姉” の属性を持つくもかわを “目覚める死” ――』
インデックス 『すなわち仮死状態にすることで、自分自身に “継母の娘” の属性を付与させたんだよ』
インデックス 『“継母の娘” は “姉” の代わりをする……その魔術的意味を術式に組み込み、姿を変えたっていうことだね』
インデックス 『そして “姉” の属性を付与されたくもかわは、魔術が終わるまで目覚めることはないんだよ』
男 「……そんなことで姿を変えることができるの? 魔術って」
インデックス 『もちろんそれだけじゃないんだよ。そして、それこそがこの魔術を破る鍵なんだよ』
インデックス 『君は、昨日シスターから何をもらったって言ってたっけ?』
男 「えっ……? だから、鹿角の指輪――」 ハッ 「……まさか、“鹿になった弟” って……」
インデックス 『もちろん君なんだよ、ねこあひるのひと。そもそも、“弟” の属性を持っているのは君だけかも』
インデックス 『そして今の君は、“鹿” の属性も付与されているんだよ』
インデックス 『“姉” が生き返ること……つまり “継母の娘” の変装が解けることは、』
インデックス 『逆説的に言えば “鹿になった弟” が人間に戻った状態で成されているんだよ』
インデックス 『――つまりこの魔術を解除してくもかわを目覚めさせるには、その指輪を破壊すればいいんだよ!』
400 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:47:32.56 ID:ygle3h.o
………………
シスター 「……なるほど。男は何のためらいもなくわたしのプレゼントを破壊したということね」
クスッ
シスター 「所詮その程度なのね。わたしと弟の関係なんて」
固法 「……インデックスさんは、あなたと男くんの間に魔術的な繋がりがあると言っていたわ」
固法 「それはとても強固なものだとも、言っていた……」
ギロッ
固法 「それをそんな風に笑うのね、あなたは……!」
固法 「本当に分からないの? きっと男くんは、心を痛めながらあなたのプレゼントを壊したのよ……!?」
シスター 「………………」
シスター 「……あいにくと、あなたと押し問答をする気も暇もないの」
シスター 「残念だけれど、わたしは引かせてもらうわ。一度体勢を立て直す必要がありそうだから」
固法 「あら、そんなことを私がさせると思う?」
固法 「――ううん。正しくは、私たちが、かな」
――――――シュン!! ……スタッ タッ
白井 「……その通りですわね、初春」
初春 「ええ、白井さん」
401 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:48:32.77 ID:ygle3h.o
ネム 「あら、私も忘れてもらっちゃ困るわね」
ズボッ……!!
インデックス 「わたしもいるんだよ!」
固法 「危ないからあなたは大人しく繁みに隠れてなさい!」 ズボッ
インデックス 「あう……」
固法 「……さて、シスターさん? 三人と一匹に取り囲まれて、逃げる自信はおありかしら?」
シスター 「………………」
クスッ
白井 「なっ……何が可笑しいんですの!?」
シスター 「そう怒らないでよ。なに? 恋人を盗られたことがそんなに不満?」
白井 「なッ……!!」
固法 「白井さん! 見え見えな挑発に乗らない!」
白井 「うぐっ……分かってますの」
初春 「……許しません」 ギリッ 「男さんの気持ちや、白井さんの想いを踏みにじったあなたを……!!」
初春 「わたしは絶対に許しません……!!」
402 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:51:36.76 ID:ygle3h.o
シスター 「ふふ……だから滑稽だと言うのよ。あなたたちは」
シスター 「科学という常識に囚われすぎ。だからそんな風に、すでに勝ち誇ったような顔ができる」
固法 「……まだ、あなたは負けていないと?」
シスター 「どこに負ける要素があるのか分からないわ。わたしの負けは、わたしが捕まることによるのみ」
シスター 「ねぇ、何であなたたちがそんなに余裕なのか教えてあげましょうか?」
シスター 「第一に、拳銃がすでに奪われていること」
シスター 「第二に、わたしの魔術がすでに解かれていること」
シスター 「第三に、わたしにはもう打つ手が残されていないと思いこんでいること」
ネム 「……っ、今さらあんたに何ができるっていうのよ!」
シスター 「だからその認識が甘いと言うの。魔術を超能力と同じはかりで量っている、その甘さ」
シスター 「ねぇ、風紀委員の皆さん? 魔術師は能力者とは違うんですよ?」 クスッ
シスター 「――使える魔術がひとつとは限らないっていうことに、何故気づかないんですか?」
固法 「は……?」
シスター 「『リンゴの木さん、リンゴの木さん、お助けを。悪いお婆のお鳥が追ってくるよ』」
インデックス 「!? このフレーズは――!」
ペロッ
――ヴン
403 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 22:54:59.24 ID:ygle3h.o
固法 「なっ……」 初春 「へっ……!?」 白井 「ッ……!!」 ネム 「は……?」
固法 「消え……た……?」
白井 「っ……!? 『空間移動』 能力とでもいうんですの!?」 ダッ
インデックス 「囲いを解いちゃダメ! そのままでいて!」
白井 「えっ――」
ガサガサッ……!!
初春 「!? 今、誰かがあっちの方に逃げていきました!!」
ネム 「な……何だっていうのよ、これは!!」
インデックス 「っ……!」 ダッ!!
固法 「い、インデックスさん!?」
インデックス 「やっぱり、これ以上あなたたちを巻き込めない! これは “こっち” で対処するんだよ!」
白井 「ちょっとお待ちなさい! 一体何が起きたんですの!?」
ネム 「私が追いかけるわ!」 ダッ 「白井たちはあのおっさんに事情でも聞いてなさい!」
初春 「あっ……! ね、ネムちゃんまで!」
インデックス (さっきのフレーズと、手の甲を舐めた仕草から見て間違いないんだよ)
インデックス (空間移動術式なんかじゃない。あのシスターはただ “姿を消した” だけ)
インデックス (それなら、この 『禁書目録』 に相手を捉えられないはずがないんだよ!)
インデックス 「たとえ姿を消そうと、気配を消そうと、関係ない……」
インデックス 「魔術を行使している時点で、このわたしから逃げることなんかできないんだから!」
404 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:05:34.67 ID:ygle3h.o
………………
佐天 「大丈夫ですか?」
雲川 「ああ……少し身体が痺れるが、問題はないようだけど」
男 「………………」 (良かった。僕が指輪を破壊した途端、目が覚めてくれて)
佐天 「もう少しの間安静にしていましょう。私の膝で良ければいくらでも貸しますよ」
雲川 「そうさせてもらおうか。膝枕など初めての経験だしな」
男 「……佐天さんが来てくれて助かりました。まさか僕がそんなことをするわけにもいきませんしね」
佐天 「はは……さすがに犯人のところに私も一緒に行くわけには行きませんからね」
佐天 「でも、こういう形でも役に立てるのなら嬉しいです」
雲川 「おや。私はべつにお前の膝でもいいのだけど。『幸福御手』」
男 「残念ながら、僕から願い下げです」
雲川 「相変わらず顔に似合わず辛辣な奴だけど」
男 「……先輩」
雲川 「ん?」
男 「………………」 ペコリ 「……事件に巻き込んでしまい、申し訳ありません!」
405 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:10:41.99 ID:ygle3h.o
雲川 「………………」 ハフゥ 「……まったく。苛つくくらいの善人だけど」
雲川 「気にしてはいない。むしろ、怪しい連絡に興味本位でヒョコヒョコやって来た私にも問題がある」
雲川 「……それでもお前が気に病むというのなら、」 フッ 「今度フルーツサンドでも奢ってくれればいいけど」
男 「………………」 フッ 「……先輩らしいです。分かりました。約束します」
男 「……佐天さん。ごめんなさい。僕はそろそろ行かなくちゃ」
佐天 「男さん……」
男 「厚顔無恥と笑うのなら笑ってください。罵ってくれても構いません」
男 「僕はもう風紀委員じゃない。けど、守りたい人が、救いたい人が……いるんだ」
佐天 「………………」 フッ 「……行ってらっしゃい、ヒーローさん」
男 「……はい!」 (僕のこと……まだ “ヒーロー” って呼んでくれるんだ……)
ダッ――
雲川 「……ふん。善人め。聞いてるこちらが恥ずかしいセリフを長々と」
ディズ 「それは言わないお約束、よ」 バサッ 「任せたわよ、涙子!」
佐天 「うん」 グッ 「ディズちゃんも気をつけてね!」
佐天 「………………」 フッ 「……良かった。元の男さんに戻って」
ニコッ
佐天 「でもまぁ……私の友達をあんなに悲しませたんだから、」
佐天 「――後でグーパンチ三発は覚悟しておいてくださいね、男さん」
雲川 「……なるほど」 フゥ 「我がことでもあるとはいえ、女とは怖いものだけど」
406 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:16:30.42 ID:ygle3h.o
………………
タタタタタ……
男 (そうだよ……僕は……!)
男 (僕は、いつだって間違えてきたんだよ……!)
男 (今回もまた、間違えてしまった……けれど!)
男 (いつもいつも、そこで止まらなかったから……前に進み続けたからッ!)
男 (だから僕は、今の僕でいられるんだ……)
男 「……責任とか、謝罪とか、そんなのは後でいい……今は……――」
男 「――ただ前に進み、事件を解決するために全力を尽くすだけだッ!!」
男 (ネムサスがパスを残してくれている……それを追えば……!)
男 (だから、そう……) グッ (その後ために必要なことを全てをしておかなければ……!)
男 「ディズ! 君は急いでこの近辺のネコを集めてくれ! できるだけ多く!」
男 「僕の 『幸福御手』 のパスを辿れば、僕に追いつくことができるはずだ!」
ディズ 「………………」 コクン 「……分かったわ。あんたを信じるからね、男!」 ――ビュン!!
男 「……ああ、絶対に応えるよ、その信頼に……!」
スッ……ピッ……prrrrr
男 「それから、もう一つ……」 ギリッ 「“あの人” に、話を聞かなくては……!」
407 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:19:19.90 ID:ygle3h.o
………………放棄された研究所
シスター 「ふぅ。まさかあんな邪魔が入るなんてね。この隠れ家を用意しておいて正解だったわ」
シスター 「……この街の学生を舐めすぎていたってことかしら」
シスター 「いかに大人に搾取されていようと、この街は “学生の街” ということなのね」
シスター 「………………」
シスター 「……忌々しい。所詮大人に利用されるしかできない子どもの分際で」
?? 「――そんなことはないんだよ!」
シスター 「っ…… 『禁書目録』 ! 何故ここが……!?」
インデックス 「簡単なことだよ! その術式で姿を消そうと、魔術の痕跡までは消すことはできないもん!」
インデックス 「それを追うことなんて、『禁書目録』 には造作ないことなんだよ!」
シスター 「っ……どいつもこいつも……化け物やミュータントの分際でッ……!」
インデックス 「あなたは何故そんな酷いことが言えるの! それがロシア成教の教えなの!?」
シスター 「必要悪の魔導書庫が! 何を吠えるというの!」
408 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:20:53.21 ID:ygle3h.o
インデックス 「わたしは知ってるんだよ! この街に住む、たくさんの優しい能力者を!」
インデックス 「ある人は、探し人をしていたわたしに親切にしてくれた」
―――― 『チッ、メンドくせェ』
インデックス 「ある人は、わたしにご飯を食べさせてくれた」
―――― 『シスターシスター、少し食べ過ぎだぞー』
インデックス 「ある人は、わたしの友達になってくれた」
―――― 『あ、あのあの……これ、本当に着るんですか?』
インデックス 「ある人は、助けがほしいときに助けてくれた」
―――― 『早く行きなさいよ。あの連中、私が引き受けるから』
インデックス 「……ある人は、行き倒れたわたしを助けてくれた」
―――― 『もしもし!? もしもし!? 大丈夫ですか!?』
インデックス 「そしてあの人は……わたしを救ってくれた」
―――― 『まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!!』
インデックス 「わたしは、そんな沢山のみんなに助けられて、今ここにいることができるんだよ!」
409 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:24:01.42 ID:ygle3h.o
インデックス 「……みんなみんな、何かに必死になって、何かを成そうとしてて……」
インデックス 「それでもわたしを助けてくれた! わたしに優しくしてくれた!」
インデックス 「わたしは神の教えを信じてる! でもそれと同じくらい、」
インデックス 「――この街の子どもたちも信じているんだよっ!!」
シスター 「ぐっ……」 ギリッ 「……うるさいうるさいうるさい!! 魔導書庫風情がほざくなッ!!」
シスター 「わたしは決めたんだよ! 無念のうちに死んでいった弟のために、そんな弟と同じような状況にいる信徒のために!」
シスター 「この街の科学力を戦争によって解放し、最高の医学を全世界に提供するとッ!!」
インデックス 「そんな方法しかないわけないっ! もっと誰もが幸せで、笑顔でいられる方法があるはずだよ!」
インデックス 「信じて! 我らが父を……そして、この街に住まう230万人の子どもたちをっ!」
シスター 「……うるさい……ッ」 ガシッ 「……馬鹿ね、『禁書目録』。こんな場所に一人で来るなんて……」
シスター 「ここは放棄された研究所……凶器ならたくさんあるわ……」
……ブゥン!!
インデックス 「っ……」 ギュッ
――――――ガッ!!
410 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:26:37.15 ID:ygle3h.o
シスター 「っ……!?」 バッ
インデックス 「へ……?」 ソロリ…… 「とう、ま……?」
?? 「ごめん。生憎と僕は上条くんじゃない」
ポイッ……カランカラン……
?? 「けど、君を守るよ。上条くんと約束したからね」
?? 「君がきっと、上条くんの大切なひと、っていうことだろうから」 ニコッ
インデックス 「ねこあひるのひと!!」
男 「遅くなってごめん。ネムサスの脳波のパスを拾うのに時間がかかったんだ」
ネム 「インデックスがこの場所を割り出してから、付近のネコを電波塔にしてパスを出したんだから仕方ないでしょ」
インデックス 「あっ……」 ハッ 「や、やっぱりダメなんだよ、ねこあひるのひと!」
インデックス 「これはわたしたち魔術サイドの問題だもん! 科学サイドの君をこれ以上巻き込むわけにはいかないかも!」
男 「いや、悪いけどそれは君のワガママだ。聞き入れられないよ」
インデックス 「え……?」
男 「さっきも言っただろう。僕は上条くんと約束してしまったんだ。この街をのすべてを守るってね」
男 「ここで僕だけがすごすご引き下がって、君に危ないことをさせたら、彼に怒られちゃうよ」
411 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:27:35.55 ID:ygle3h.o
インデックス 「ねこあひるのひと……」
男 「それに、」 フッ 「これは、僕個人の事情でもあるしね」
男 「――ねぇ、姉さん?」
シスター 「……まだわたしを姉と呼ぶのね、あなたは」
シスター 「たしかに姉弟の契りを利用した魔術はまだ解いていないけど、それももう意味を成すようななものではない」
シスター 「なに? わたしへの嫌がらせのつもりかしら?」
男 「………………」
ニコッ
シスター 「ッ!?」 ザッ 「な、何!? 何なのよその笑顔は!!」
男 「……そんなの決まってるでしょ?」 フッ 「聞き分けがない姉さんに対する、やれやれって笑みだよ」
シスター 「ッ……!?」
男 「姉さん、僕はね、みんなの幸せを願う者なんだ。そうでなければならないんだ」
男 「今回、僕はたくさんの人を傷つけた。白井さん、固法さん、初春さん、佐天さん、風紀委員のみんな……」
男 「それからクラスメイトのみんな、そして……」 チラッ 「ネムサスとデイジィも」
ネム 「………………」
412 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:28:55.33 ID:ygle3h.o
男 「……そうやって、多くの人を傷つけて、でも姉さんを守ってるつもりだった」
男 「けれど、違った。僕は姉さんの魔術にかかって、姉さんを追い込んでいただけだったんだ」
シスター 「っ……あなたは……っ」 ギリッ 「この期に及んでまだそんなことを言うの!?」
男 「僕は風紀委員だったんだ。姉さんも、しっかりと守ってあげなくちゃならなかったんだよ」
男 「けれど僕は、全てを見失って、姉さんにここまでさせてしまった」
――……グッ
男 「だから、せめて姉さんを止めるよ。そして、その不幸を吹き飛ばしてみせる」
男 「……そのために、真実を教えるよ」
シスター 「……真実?」
男 「一年前、姉さんの本当の弟さんが亡くなった、その真実を」
シスター 「!? し、真実なんてない! 全て起こったことのままよ!」
男 「そうだね。けれど、ねじ曲げられたことがあったんだ……僕はそれを、“あの人” から聞いた」
男 「―― 『冥土帰し』 から、ね」
シスター 「なッ……!?」
413 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:29:56.98 ID:ygle3h.o
………………数分前
タタタタタ……
prrrrrrr……ガチャッ
?? 『もしもし?』
男 「良かった……出てくれた!」 タタタ…… 「先生ですよね!?」
?? 『……いきなり叫ばないでくれないか? 耳が痛い』 フゥ
冥土帰し 『まぁ、僕は多分君がいうところの先生だよ。カエル顔のね』
男 「風紀委員の男です! 突然のお電話すみません!」 タタ…… 「どうしても聞きたいことがあって!」
冥土帰し 『? 走っているのかい? 危ないよ?』
男 「大丈夫です! あの、時間がないので単刀直入にお聞きします」
男 「―― 一年前、ロシアのとある少年の治療を断ったというのは本当ですか!?」
冥土帰し 『………………』 フゥ 『……あの時のことか』
男 「!? やっぱり、憶えがあるんですね……!」
冥土帰し 『………………』 コクッ 『……あるよ。あまり思い出したくはないがね』
男 「……何で……!」 ギリッ 「何で治療を断ったりしたんですか!?」
414 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:31:07.55 ID:ygle3h.o
冥土帰し 『………………』 フゥ 『……君には前に一度だけ話したよね?』
男 「……?」
冥土帰し 『「僕はそれが誰であれ生きている人間ならば絶対に助けてみせる」 ってね』
冥土帰し 『そして僕は今までずっと、とある一件以外の全ての患者を救ってきたつもりだ』
冥土帰し 『けれどね、そもそも “医療” という戦場に立たせてもらえないこともある。胸くそ悪いことだがね』
冥土帰し 『……彼の姉から悲痛なメールが届いたとき、僕は何を考えるより先にロシア行きの航空券を手配した』
冥土帰し 『もちろん、彼の治療をしに、ロシアへ向かうためにね』
冥土帰し 『……けれどそこで邪魔が入った』
男 「学園都市の上層部ですか?」
冥土帰し 『いいや。彼らはいい顔こそしなかったものの、僕にはそれを黙らせるだけのツテがあったからね』
冥土帰し 『問題だったのは、ロシアの方さ』
男 「ロシア……?」
冥土帰し 『ロシア成教の司教……忘れもしない。ニコライ=トルストイという司教がね』
冥土帰し 『あろうことか、国家権力さえ動かして、僕の入国を拒んだんだ』
男 「は……?」 ゾクッ 「な、何で……? だって、その人はロシアの人なんでしょ……?」
415 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:33:42.86 ID:ygle3h.o
冥土帰し 『その旨を伝える文面には簡潔にこう書かれていたよ』
冥土帰し 『――ロシア成教の敬虔なる信徒を行き過ぎた自然科学に預けるわけにはいかない、とね』
男 「ッ……!?」
冥土帰し 『……宗教とは、一体何だろうね?』
冥土帰し 『僕は、患者が良好で健やかな生活を取り戻すための手段として、宗教というものを高く評価している』
冥土帰し 『信じるものがあるというのは素敵なことだよ。それが神であれ、科学であれ、ね』
冥土帰し 『……けれど、あの時ばかりは呪ったよ。宗教そのものが悪くないと分かりつつ、僕は十字教を呪った』
冥土帰し 『ニコライ=トルストイは恐らく、そのとき宗派内での大きな契機の中心にいたんだろう』
冥土帰し 『だから科学を排斥し、宗教の優位性を示したかったのだろうね』
冥土帰し 『そして、ロシア成教内での己の地位を固めようとしたんだ』
冥土帰し 『……けれど、そんな一個人の欲望のために、救うべき少年の命は奪われたんだ』
男 「………………」 ギリッ 「……姉さん……」
冥土帰し 『そしてきっと、ロシア成教はそれを学園都市……僕が突っぱねたのだと伝えたのだろう』
冥土帰し 『僕は所詮ただの医者さ』 ギリッ 『…… “医療” という戦場に立てなければ、何もできない……!』
416 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:34:49.19 ID:ygle3h.o
………………
男 「……これが全部だよ。これが真実だよ、姉さん」
シスター 「……――そ、よ」 ガタガタ 「嘘よ……嘘よッ!!」
男 「嘘じゃないんだ! あの人はそんなくだらない嘘をつくようなひとじゃない!」
男 「ニコライ=トルストイという人を知らない? その人が全て知っているよ!」
シスター 「だ、だって……司教様は……学園都市に、断られたからって……」
シスター 「優しい、笑顔で……弟と、わたしに……祝福を……」 ガタガタガタ……
インデックス 「………………」 グスッ 「……酷い人! 聖職者の風上にも置けないんだよ!」
男 「………………」 ギリッ 「……姉さん、先生から、伝言を預かってある」
シスター 「伝言……?」
―――― “……君がどういう状況にあるのか、僕には分からない。何故君が一年前のことを知っていたのかも”
―――― “けれど、もし君が彼の何かに関わっているというのなら……一つだけ頼みがある”
―――― “彼の遺族に会ったなら伝えてくれ――……”
―――― “……――申し訳なかった、と。ごめんなさい、と”
シスター 「………………」 ガタガタガタ…… 「うそ……そんなの……」
男 「……泣いてたよ。あの人」 グスッ 「……力が及ばず、治療できなかったことを、本気で謝ってたよ」
シスター 「……わたし、は……」 ブルブル…… 「わたしは……」
417 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:37:46.67 ID:ygle3h.o
男 「姉さん……もうやめよう?」
男 「こんなことをしても誰も幸せにならないよ」
シスター 「………………」
男 「姉さん!」
シスター 「………………」 フルフル 「……ダメよ……」
男 「!? 何でだよ……」
シスター 「わたしは、あなたを裏切ったのよ……?」
男 「そんなの関係ないよ! 僕は姉さんを救いたいんだ!」
シスター 「何で……何であなたは、そんなに優しくしてくれるの?」
男 「………………」
フッ
男 「……それはこっちの台詞だよ、姉さん」
シスター 「へっ……?」
男 「だって、姉さんは僕を利用できればそれで良かったんだろう?」
男 「それなのに、何で姉さんはわざわざ僕をロシアに行こうって誘ったりしたのさ?」
418 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:43:36.67 ID:ygle3h.o
シスター 「そっ……それは……」
男 「それ以外にだって不思議なことはあるよ。わざわざクラスメイトとの仲直りを勧めてくれたり、」
男 「あまつさえ、敵であるはずの風紀委員との仲直りまで進言してくれた」
男 「それに、貝積氏を殺すために学園都市に残っていたのなら、わざわざ礼拝を開く必要もなかったはずだよ」
男 「……ロシア成教を信じる人たちのためだよね? そのために、姉さんはムリしてひとりで礼拝を開いていたんだよね?」
シスター 「………………」
男 「……姉さん、改めて僕から聞かせてね?」
男 「何で姉さんは、僕に、そしてこの街のみんなに、そんなに優しくしてくれたの?」
シスター 「っ……」
男 「姉さん……姉さん!」 グッ 「今からなら、やり直せるんだよ!」
男 「貝積氏のところへ行ったって無駄だよ! 警備はきっと厳重になってる!」
男 「行ったって姉さんが殺されるだけだ……ッ!」
シスター 「………………」 フッ 「……ごめんね、男」
シスター 「それでも、わたしは……ロシア成教を裏切ることはできない」
シスター 「今からでも、わたしは貝積継敏を殺しに行く」
シスター 「わたしがやらなきゃ、サーシャやワシリーサに……」
シスター 「…… 『殲滅白書』 のみんなに、迷惑がかかってしまうから……」
男 「姉さん……」
シスター 「……ごめんね、男」 ニコッ 「……ありがとう。もう、いいのよ」
419 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/24(金) 23:48:21.78 ID:ygle3h.o
男 「………………」 ギリッ 「よくなんか、ない……!」
男 「……僕は、」
ギリッ
男 「僕は……もう、風紀委員じゃない」
男 「仲間を信じることが出来ずに酷いことを言ってしまった」
男 「腕章も、誇りも、責務も、何もかも投げ出して、逃げてしまった」
男 「僕はもう、風紀委員じゃない。姉さんを止める義務も、ひょっとしたら権利すらないのかもしれない」
シスター 「………………」
男 「でも、それでも僕は……」
―――― 『幸福御手』
―――― “幸せを作り、育み、守る者”
男 「僕は、もうすでに、姉さんの弟ですらない、ただの、学園都市の一学生だよ」
男 「それでも、僕は……」 ギリッ 「姉さんを、守りたい……!」
男 「――――今まさに死に向かっている命を見逃すことなんてできないッ!!」
グッ……ググッ……!!!
男 「姉さん。あなたがまだ、一年前の不幸から抜け出せていないというのなら……」
男 「――まずはその不幸を吹き飛ばす!!」
427 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 22:56:02.05 ID:FEKlpVYo
シスター 「………………」 ガシッ 「……そう。なら、わたしは今一度あなたを敵として認識するわ」 スッ
シスター 「そして敵として、あなたを殺さない程度に傷つけ、気絶させて、それから貝積継敏の元へ向かう」
インデックス 「ねこあひるのひとに、十字架の霊装を破壊させないためだね?」
男 「………………」
インデックス 「ねこあひるのひとが死んでしまったら、“弟” の属性を持つひとがいなくなり、魔術が行使できなくなる」
インデックス 「そして、ねこあひるのひとが十字架を破壊しても、それは同じ事」
シスター 「……ええ、その通り。だからわたしは、男、」 ギリッ 「あなたを倒し、前へ進む」
男 「………………」 グッ 「……ああ、望むところだよ。僕は姉さんを守るために立ち向かうだけだ」
男 「貝積氏が姉さんに殺され、そして姉さんが学園都市に殺される……」
男 「そんな最悪の状況を回避するために……!!」
シスター 「………………」 ニコッ 「……とてもいい返事だわ。それでこそ、わたしの弟ね」
シスター 「なら、わたしもその覚悟に報い、名乗りましょう……」
シスター 「――……ロシア成教 『殲滅白書』 がメンバー…… 『懺悔を明日へ繋ぐ者(Paenitentia333)』」
シスター 「この、魔法名にかけて……!」
男 「――……学園都市の学生、『幸福御手(ピースメーカー)』」 スッ 「幸せを守る者として……!」
428 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 22:56:48.50 ID:FEKlpVYo
インデックス 「ねこあひるのひと! あのひとがスタンガンや拳銃を使ったことから考えて、」
インデックス 「きっとあのひとには攻撃性の術式は使えないんだよっ!」
インデックス 「だから何としても……何としてもあのひとを止めてあげてっ!」
男 「ありがとう、インデックスさん……! 行くぞネム!」 ダッ!! (僕はなんとしても、姉さんを……!)
ネム 「ええ……!!」 タッ
シスター 「………………」 フッ 「……ええ、そうね。わたしはサーシャやワシリーサのように攻性に優れてはいないわ」
シスター 「けれどね、『禁書目録』 。ならば何故、わたしが 『殲滅白書』 のメンバーに入っていたと思う?」
インデックス 「えっ……?」
シスター 「――……彼女らにはない特性……スパイとしての能力に長けていたからよ」 スッ
シスター 「さっきあなたも見ていたはずだけど?」
インデックス 「!? まさか……同一民話内で、同じ意味づけを行使するなんてこと、できるはずが……!」
シスター 「『ミルクの川さんミルクの川さん、お助けを。悪いお婆のお鳥が追ってくるよ』」
インデックス 「……!!」 (『強制詠唱』 は……ダメっ! 間に合わない……っ)
ペロッ
――ヴン
男 「は……?」 ――ピタッ 「ね、姉さんが……消えた!?」
ネム 「っ……! さっきと同じ……!?」
429 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 22:57:41.38 ID:FEKlpVYo
インデックス 「慌てないで、ねこあひるのひと! そのひとはただ “姿を消している” だけだから」
男 「“姿を消している” ……? どういうこと?」
インデックス 「『姉と弟』 と同じロシア民話…… 『鵞鳥白鳥』 だね?」
?? 『へぇ……さすがは 『禁書目録』 。何もかもお見通しですか』
男 「姉さん……!?」 キョロキョロ 「今の声……どこから……!?」
インデックス 「一度術式を使っていたから、油断していたかも。物語特有の “繰り返し” で術式を構成しているんだね」
インデックス 「……ねこあひるのひと、 『鵞鳥白鳥』 っていうのは、弟を助ける姉のお話だよ」
インデックス 「悪い婆……この国で言う山姥のようなひとにさらわれた弟を姉が助けるの」
インデックス 「姉弟は婆が遣わせた鳥に追われ、けれど色々な物の助けを借りて、姿を隠して逃げきることができた」
インデックス 「……そんな昔話だよ」
男 「なるほど。今度はその昔話の魔術を使って、姿を隠しているっていうことか」
インデックス 「……ロシア民話に関する、『姉弟』 の術式のエキスパートなんだね、あなたは」
シスター 『ふふ…… 『禁書目録』 そこまで言っていただけるとは、光栄です』
インデックス 「手の甲にリンゴやミルクの成分を塗っておいて、それを舐めることで術式を発動してるんだね」
インデックス 「……すごく上手な隠蔽の仕方かも。敬意すら表したいくらい、見事な簡略化だと思うよ」
430 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 22:58:41.01 ID:FEKlpVYo
ネム 「っ……ダメだわ! 音からもシスターの位置が探れない!」 ニャッ
シスター 『それはそうでしょうね。だってこれは魔術だもの。隠すのは視覚的な情報だけじゃないわ』
インデックス 「その通りなんだよ、ねむさす。あらゆる情報を隠すから、姉は弟を連れて逃げることができたんだから」
インデックス 「分かるでしょ? 声だって、どこから聞こえてるのか分からないようになってる」
シスター 『ふふ……そしてあなたの全知識を総動員しても、わたしの位置を完全に把握することはできないでしょう?』
インデックス 「……何もかもお見通しってわけだね。その通りだよ」
インデックス 「大まかな足取りは追えても、さすがに精査まではできないんだよ」
男 「………………」
シスター 『ふふ……どうする、男? あなたにもわたしの姿がまるで見えないはずだけど?』
男 「……そうだね。姉さんがどこにいるのか全く分からない。声も色々な方向から聞こえてくる気がするよ」
シスター 『ええ……』 ニコッ――
――――ブゥン!!
シスター 「――……そうでしょうね……ッ!!」
男 「ッ……!?」 ザッ!! (背後か――――)
――――ドガッ!!
431 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 22:59:58.07 ID:FEKlpVYo
男 「がッ……!!?」 ガクッ (危なかった……反応が遅れたら、後頭部に直撃するところ、だった……)
シスター 「……反射神経が並はずれていいのね」 ニコッ 「さすがはわたしの弟だわ」
シスター 「けれど、鉄パイプが肩に直撃したでしょう? かなりのダメージなのではないかしら?」
男 「そんなこと……ッ!?」 ビキッ!! 「くっ……それでも……ッ!」 ヨロ……
シスター 「……まったく。諦めが悪いところも、あの子そっくりなんだから」 ギリッ
シスター 「わたしはただ、あなたに眠ってもらえればそれでいいだけ。無駄なことはやめてちょうだい」
シスター 「『プディングの岸さんプディングの岸さん、お助けを。悪いお婆のお鳥が追ってくるよ』」
ペロッ
――ヴン
男 「っ……また消えた……!」
インデックス 「ねこあひるのひと! この魔術を破壊するには、あなたが付けている十字架を壊せばいいかも!」
インデックス 「そうすればあなたに備わっている “弟” の属性が解けて、あのひとは魔術が使えなくなるんだよ!」
男 「インデックスさん……」
―――― 『それね、死んじゃった弟の形見なの』
―――― 『いいの。それは、男に持っていてもらいたいから』
男 「……ッ!」 フルフル 「……ダメだよ。これは壊せない。これだけは、壊してはいけないんだ」
432 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:00:45.96 ID:FEKlpVYo
インデックス 「ねこあひるのひと……」
シスター 『………………』 フッ 『……あなたは甘いわね、男』
男 「………………」 ニコッ 「……そうだよ。僕は姉さんに甘いんだ。弟だからね」
男 「けど、大丈夫だよ、インデックスさん」 グッ 「この魔術を破る算段はついた」
インデックス 「!?」 グッ 「さすがはとうまの友達なんだよ!」
シスター 『……そう。なら、やってみるといいわ!』
男 「………………」 (来る……!!)
男 「……ネム!」
ネム 「分かってるわ!!」
シスター 『どうあがこうと、わたしの姿を捉えることはできないのよ!!』
――――ブゥン!!!
インデックス 「――ねこあひるのひとっ!!」
――――――――……ガッ!!!
433 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:01:40.12 ID:FEKlpVYo
インデックス 「………………」 ペタン 「す……すごいんだよ……」
男 「………………」
シスター 「………………」
シスター 「………………」 ギリッ 「……な、何故……?」
シスター 「どうして……攻撃を受け止めることができたの……!?」
男 「……やっぱり。馬鹿正直にまた背後から攻撃してくると思った」
ググッ……
シスター 「た、たとえ背後から攻撃が来ると分かっていても、タイミングまでは分からないはずよ!?」
男 「……たしかに、気配も何もなく、いきなり鉄パイプが振り下ろされるからね。予知のしようがない」
男 「けれどね、姉さん。その魔術には決定的な穴があるんだよ」
シスター 「穴、ですって……?」
男 「まぁ、本来は穴と呼ぶべきではないんだろうね。だって、それは “逃走用” の魔術でしょ?」
シスター 「……?」
男 「『鵞鳥白鳥』 の物語を聞いて思ったんだ。姉と弟が姿を消すのは、逃げているときのことだよね?」
男 「だったら、“逃げ” から “攻撃” に転じたとき、魔術はどうなるんだろうって思ったんだ」
シスター 「!?」
434 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:02:55.93 ID:FEKlpVYo
男 「……そして、一撃目でその疑問は確信に変わったよ」
男 「――その魔術は、逃げているときにしか使えないんだよね?」
シスター 「………………」
男 「だって、一撃目に僕を殴ろうとしたとき、姉さんは姿を現していたから」
男 「それまでは気配も何も感じられなかったのに、突然鉄パイプの風切り音がして、姉さんが背後に現れた」
男 「……それに、ただ姿を消せるっていう便利な魔術があるのなら、わざわざ雲川先輩を利用するまでもなく、」
男 「その魔術で貝積氏のところへ向かえばよかっただろうしね」
シスター 「……さすがね。男。よくそこまで分かるものだわ」 ギリッ
シスター 「けれど、今のは完全にあなたの不意をついたはず……! それをあなたは受け止めた!」
シスター 「たとえ攻撃の瞬間に姿を現すことが予見できたとしても、受け止められる攻撃ではなかったはずよ!」
男 「……まぁ、ね」 フッ 「彼女の助けがなければ、僕は今、きっとここに倒れ伏しているだろうね」
シスター 「彼女……?」 チラッ 「……!? ま、まさか……」
ネム 「――ふん。わたしのことを忘れていたって顔ね」
シスター 「ね、ネコに一体なにができるっていうの……!?」
男 「色々とできるよ? 普通のネコじゃない、僕の脳波がインプットされている彼女なら、」
男 「――――たとえば、そう。僕との “感覚領域の共有” とかもね」
435 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:03:47.77 ID:FEKlpVYo
インデックス 「“感覚領域の共有” ……?」
シスター 「……!? あなた、まさか……!」 ビグッ 「――ネコの視界を借りたっていうの!?」
男 「よく分かったね。その通りだよ」 ニコッ 「僕とネムは常時強力な脳波のパスで繋がっている」
男 「そして、脳波に関してはほぼ同じ。できるかどうかはイチかバチかだったけど……」
ネム 「……ふん。何年も四六時中一緒にいるのよ? わたしたちにできないことなんてないわ」 ニャッ
ネム 「私は男の背後をずっと見続けていた。あんたがいつ現れてもいいようにね」 ニャー
男 「そしてネムサスの網膜で生成された視覚情報を、『猫鶩ネット』 を通じて僕の脳へと運び、映像とする」
男 「……だから僕は、自分の背後の情報を主観的に読み取り、素早く反応することができたんだ」
インデックス 「す、すごいんだよ! お目々が四つってことなのかも!」
男 「……姉さん、その魔術は破ったよ。これでもまだ諦めない?」
シスター 「……ッ」 バッ 「……それでも……それでもわたしは……!!」
男 「っ……!」 ザッ……!! 「姉さん……!」
シスター 「……最後よ。これで、あなたを倒す……!」
シスター 「『ペチカのおばさんペチカのおばさん、お助けを。悪いお婆のお鳥が追ってくるよ』」
ペロッ
――ヴン
436 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:04:47.37 ID:FEKlpVYo
男 「………………」 ギリッ 「……ネムサス!」
ネム 「………………」 コクッ
男 「……姉さん、僕らにはもう一つ奥の手がある」
シスター 『………………』
男 「それでもまだ、戦うっていうんだね」 フッ 「……なら、やろう、ネム!」
ネム 「ええ!!」
キィ……キィィィィンンン!!!
インデックス 「ねこあひるのひと……」 グッ 「がんばって! 負けないで!」
男 「………………」 ニコッ 「……大丈夫。絶対に負けない!」
シスター 『……これが最後よ』
――――――……カンッ!!
男 「……!?」 ビグッ 「石……? 」 ハッ 「しまっ……!?」
……バッ!!
シスター 「――――これで……!!」
ブゥン!!
437 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:05:25.97 ID:FEKlpVYo
シスター (これなら、絶対に……避けることも、受け止めることも……)
シスター (……ごめんね、男……)
男 「………………」
ニコッ
男 「……なんて、ね」
グルッ……ザッ……!!
――――ガギッ!!
シスター 「は、ぁ……!!?」 (あの状態から避けた!? 今の動きは……!)
男 「――――姉さん、」 ザッ……!!
シスター 「っ……!?」
男 「……これで、終わりにしよう……!!」
……ブゥン!!
――――――ドゴォォオオッ!!!
438 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:06:37.43 ID:FEKlpVYo
シスター 「………………」 フッ 「……ごめん、ね……みんな」
――パタン……
男 「………………」 ハァ、ハァ、…… 「……っ」 ガクッ
インデックス 「ねこあひるのひとっ!!」 トト…… 「大丈夫?」
男 「うん……大丈夫だよ」 ニコッ 「僕の……いや、僕らの勝ちだ」
男 「力を貸してくれてありがとう、インデックスさん。それから、ネム」
インデックス 「うん! どういたしまして、なんだよ!」
ネム 「……ふん」
インデックス 「……でも、最後は驚いたんだよ」 グッ 「ねこあひるのひとの動きが凄まじかったかも」
インデックス 「なんか……まるで、ネコみたいな……」
男 「………………」 フッ 「……まぁ、ね。ネコの動作をトレースしたわけだし。ね、ネムサス」
インデックス 「えっ……?」
ネム 「……私の脳の運動領域のアルゴリズムを利用しただけよ」
ネム 「まぁ、あくまで肉体は人間なわけだから、ネコの動作を取り入れて、少しだけ俊敏性を上げるって程度だけど」
男 「それでもあの一瞬がなかったら僕は負けてたよ」 ニコッ 「だからありがと、ネムサス」
ネム 「っ……」 ポッ 「……べっ、べつに、まだあんたのことを許したわけじゃないんだからねっ」
男 「それは、そうだろうね」 フッ 「……みんなにも、しっかりと謝らなきゃ」
439 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:08:40.62 ID:FEKlpVYo
………………
シスター 「っ……!」
男 「あっ……」 スッ 「起きた? 姉さん」 ニコッ
シスター 「男……」 フッ 「負けちゃったのね、わたし……」
男 「……うん」 コクン
シスター 「……そっかぁ」 ハフゥ
男 「………………」 ギュッ 「……したことがしたことだから、もちろん無罪放免というわけにはいかない」
シスター 「……うん」
男 「姉さんは学園都市当局に預けることになるけど……安心して」
男 「信頼のおけるアンチスキルのひとに、しっかりと姉さんのことをおねがいするから」
男 「……そして、刑期を終えたら……」 ギュッ 「今度こそ、ロシアへ行こう?」
男 「僕はそっちに住むことはできないけど、色々と案内してほしいな」
シスター 「ん……」 ニコッ 「ありがと、男。あなたは、本当に――――」
?? 「――――愚かしい、としか言いようがないと思うけどね?」
インデックス 「!!?(いつの間に……!?)」 バッ 「あ、あなたは……」
ネム 「……?」 ジッ 「……赤い髪、タバコ、長身……神父?」
?? 「……やあ」 フッ 「……それから、そちらの二人は初めましてかな」 ジッ
ステイル 「――イギリス清教 『必要悪の教会』 所属……ステイル=マグヌスだ」
440 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:10:21.28 ID:FEKlpVYo
男 「イギリス清教……!?」 バッ
インデックス 「身構えないで! 大丈夫。『必要悪の教会』 はわたしの所属だから」
男 「インデックスさんの?」 ホッ 「……なんだ。ビックリしちゃったよ」
ステイル 「………………」 フン 「……その安心の意味が、僕にはまったく分からないけどね」
インデックス 「……どういう意味?」
ステイル 「本当に分からないのかい? 僕はそちらのシスターをイギリスへ連れていくつもりなんだけどね」
男 「!? ど、どういうことですか!?」
ステイル 「……学園都市上層部の許可も得てある。ほら」 ピラッ
ステイル 「まぁ、魔術師なんて厄介なもの、こちらに押し付けたいというのが上層部の本音だとは思うけどね」
ステイル 「ともあれ、ロシア成教 『殲滅白書』 のシスター。君にはイギリスで色々と喋ってもらうことになる」
シスター 「………………」 フッ 「……わたしが、祖国を…… 『殲滅白書』 を裏切るとでも?」
ステイル 「………………」 スパ……フゥ 「……まぁ、そう言うだろうとは思っていたさ」
男 「な、なら……――」
ステイル 「――そう。ならば無理矢理にでも聞くしかないな。『必要悪の教会』 らしいやり方、」
ステイル 「すなわち」 ニィ 「拷問なりなんなりを用いてでもね」
441 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:11:15.74 ID:FEKlpVYo
インデックス 「なっ……!?」 キッ 「本気なの!?」
ステイル 「おいおい、ほんの数時間前までロンドン塔にいた僕にそれを訊くのかい?」
ステイル 「ローマ正教とロシア成教が手を結んだことが分かったからね」
ステイル 「イギリス清教としても、手段を選んではいられないんだよ」
男 「っ……」 グッ……!!
ステイル 「おっと、それ以上の無茶はやめた方がいい。身体も限界だろう?」
ステイル 「それに、これは僕ら 『魔術師』 の問題だよ? 君たちには関係のないことのはずだ」
ステイル 「学園都市の許可は出ているといっただろう? ヘタに動けばただでは済まないだろうね」
男 「ぐっ……」 ギリッ
インデックス 「………………」 ボソッ 「……――んな、こと……」
ステイル 「ん?」
インデックス 「……そんなこと、わたしが許さないんだよ!」 タッ……
男 「インデックスさん……!?」
トトトト……バッ!
インデックス 「わたしは、ここから先、一歩もあなたを進ませない!」
442 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:12:19.14 ID:FEKlpVYo
ステイル 「………………」 チッ 「……忌々しい。だから嫌だったんだ……」
インデックス 「………………」 ジッ
ステイル 「……っ」 スッ
――――――ットン!
インデックス 「はぇ……?」
……パタン
ネム 「!? インデックス!?」 ギロッ 「何をしたのよ!?」
ステイル 「ちょっと眠ってもらっただけだ。いちいち騒ぐな」
――――ゾッ
男 「!?」 (な……何だ? この、殺気のようなものは……)
ステイル 「僕はこんなことしたくなかったんだ。万が一にも、彼女を傷つけてしまうようなことは……」 ブルブル
ステイル 「……分かるか、ミュータント? 僕はね、この子にこんなことをしたくなかったんだよ……ッ」
男 「っ……」 (何だ……!? 胸が、圧迫されるような、この感覚は……)
男 (何か……何か分からない、圧倒的なものが……ステイルとかいう人の中から、溢れているような……)
443 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:13:29.51 ID:FEKlpVYo
ステイル 「……と、いうわけだ」 スッ 「そこをどけ。彼女は連れて行く」
男 「っ……!」 (たとえ……何であろうとも……! 僕がすることに変わりはない!!)
男 「……――ない……」
ステイル 「……なんだと?」
男 「聞こえなかったのか?」 ギロッ 「僕はどかないと言ったんだ。イギリス清教の魔術師」
ステイル 「………………」
男 「………………」
ステイル 「………………」 フッ 「……正直な話をしようか」
男 「……?」
ステイル 「僕にとって、イギリス清教の権益とか、敵対するローマとかロシアとか、そんなことはどうでもいい」
ステイル 「いけ好かない最大主教にそこまでの義理立てをする気はないし、意味もない」
ステイル 「……だけどね、僕はひとつだけ誓っているんだ」 ――ギリッ
男 「……っ!?」
ステイル 「僕はね……この子が万が一にも損害を受けるような状況を、絶対に良しとはしない」
ステイル 「彼女の安全を保障する……ただそれだけのために、僕はそのシスターを学園都市から連れ出す」
インデックス 「………………」
444 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:14:28.89 ID:FEKlpVYo
男 「インデックスさんのために……?」
ステイル 「そうだ。だからそこをどけ。殺そうというわけじゃない」
シスター 「……わたしはどんな拷問にも屈しませんけどね」
ステイル 「ならばそれ相応の処置を施すまでだ」
男 「………………」
シスター 「……男、どきなさい。これはもう、わたしたち魔術師の問題よ」
シスター 「わたしは敗北し、イギリス清教に引き渡され、信仰を試される」
シスター 「ただ、それだけのことだから」 ニコッ 「だから、そこをどきなさい」
男 「………………」
ギリッ
男 「……お断り、だ」 スッ 「たとえ、姉さんの言うことであったとしてもね」
シスター 「男!?」
ステイル 「………………」 フゥ 「……なるほど。君はまだ、魔術師の本当の怖さを知らないらしい」
ステイル 「ならばそれを教えてあげるのもまた、“必要悪” としての僕の義務なのかな」
……――ゾッ!!!
男 「ぐっ……!?」
ステイル 「安心しなよ。この子が悲しむから、殺しはしないさ」
445 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:15:37.56 ID:FEKlpVYo
シスター 「いけない……! 男、早く逃げなさい!!」
男 「………………」 ギリッ 「……逃げる、もんかッ!!」
ステイル 「……火傷程度で済めば僥倖だと、そう思うんだね」
スッ……ポイッ――
――――ドッッッッ……!!!!
男 「!? ほ、炎……?」 ゾクッ 「炎の、剣……!?」
ステイル 「君たちが大立ち回りをしている間に、この研究所全体にルーンをばらまかせてもらった」
ステイル 「……なんてことを君に言っても無意味か。ともあれ、見ただけでこれの恐ろしさは分かるよね?」
ステイル 「摂氏三千度の炎剣だ。触ればまぁ、簡単に消し炭になるだろうね」
男 「………………」
ステイル 「……戦意喪失、っていうところかな?」 フッ
ステイル 「ならいいさ。どっちみち、君はただの学生で、僕は戦闘のプロだ。君には何もできない」
ステイル 「あまり気落ちしないことだね。これは仕方のないことだから」
男 「………………」 ギリッ 「……何が、気落ちしないことだね、だ……!」
ステイル 「……?」
男 「……誰が諦めるって言った? 誰が戦意を失ったって言った?」
ギロッ
男 「――誰がここをどくと……誰が姉さんを渡すと、そう言った……!!!」
446 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:16:50.74 ID:FEKlpVYo
ステイル 「……っ」
ステイル 「……ふん、大した心意気だ」 スッ 「なら、少しだけ痛い目を見てもらうことにしようか」
男 「………………」 スッ 「……姉さん、少しだけ、待っていてね」
シスター 「男……ダメ……! ダメよ! あなた、殺されてしまう……!」
男 「死なないよ。死にたくないから。生きて、やらなきゃならないこともあるから」
ネム 「男……」
男 「ネムは姉さんについていてあげて。大丈夫。僕は負けない」 ニコッ
――ザッ……
男 「………………」 スッ 「……行くぞ」
ステイル 「……そう凄絶な顔をしなくてもいい」 ニッ 「君如き、殺し名を名乗る意味もないからね」
男 「……ふん」
――――……ダッ!!!
ステイル 「………………」 ハァ 「……まさかこの炎剣を目の前にしながら、真正面から飛び込んでくるとはね」
ステイル 「それは勇気ではない。蛮勇と呼ぶんだ」 スッ 「……前言撤回だ。殺さない方が難しいかもしれない」
447 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:19:19.32 ID:FEKlpVYo
男 「……っ」 (怯むな! 怖がるな! ただ前へ進むんだ!)
男 「うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」
ステイル 「……ふん」
スッ……ゴォォォオオオオッッッ!!!
男 「くっ……!!」 (遊園地の時の炎とは段違いだ……密度が違う……)
男 (当たったらただじゃ済まないな……だけど、今の僕には、) グッ (この “左手” がある……!!)
男 (チャンスは一度きり。けれど、タイミングさえ合わせれば……!!)
――――ザッ!!
ステイル 「……?」
男 「今、だ……ッ!!」
……ブゥン!!
ステイル 「……!?」 (炎剣に拳を合わせるだと!? 死ぬつもりか……!?)
男 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」
――――ボッ……カッ……!!!!
ステイル 「なっ……!?」 (炎剣を……ッ!?)
ステイル 「――炎剣を、左手で受け流しただとッ……!!?」
448 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:20:32.57 ID:FEKlpVYo
―――ズザッ!!!
ステイル 「!?」
男 「姉さんは……」
ググッ……ググググッ……!!!
男 「――姉さんは、僕が守るッッッ!!」
――ドゴォォォオオオオッッッ!!!!!
ステイル 「がッ……!!」 ガクッ 「ぐっ……」
――――……バタッ
男 「………………」 ハァ、ハァ、ハァ、…… 「熱っ……」
男 「……やっぱり、摂氏三千度じゃ、一瞬が限界か……」 グッ 「それでも、炎剣の軌道を変えるくらいはできた……」
スッ……
シスター 「お、男……? 今のは……」
男 「……先生がくれたんだ、この手袋」
男 「“急激な外的変化に対して、苛烈に元の状態を保持しようとする性質を持つナノマシン”」
男 「それが繊維の隅から隅までで働いている、特別製の手袋なんだよ」
男 「……僕が無茶をするからって、モニターも兼ねて先生がくれたものなんだ」
男 「だから姉さんのスタンガンを受けても、すぐに目覚めることができたんだよ」
449 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:21:22.80 ID:FEKlpVYo
ステイル 「………………」
ステイル (僕、は……) グッ…… (やはり僕は、弱い……)
ステイル (術式の構成のために全てを投げ出した……だから、打たれ強くもないし、体力もない)
ステイル (だから、この程度のイレギュラーで、もう立てなくなる……)
ステイル (あの時と同じだ。あの時と違うことは、右手が左手に変わったというだけのこと)
ステイル (………………)
―――― 『ステイル~~~!』
ステイル (ッ……!!)
―――― 『すごいんだね、ステイルは!』
ステイル (僕は……だが、)
―――― 『もうっ! タバコは身体に悪いからダメだって言ったでしょ!』
ステイル (こんなところで……こんなことで……)
ステイル (……誓っただろう。僕は、あの子のために生きて、あの子のために死ぬと)
ステイル (僕は……)
グッ……ググッ……!!
ステイル 「――僕は……こんなところで倒れているわけにはいかないんだッ!!」
450 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:22:11.00 ID:FEKlpVYo
ステイル 「………………」 ザッ
男 「ッ……!?」
ステイル 「……申し訳ないね。少しばかり、己の矜持という奴を忘れていたようだ」 フラッ 「っ……」
男 「もうやめろ! あんた……戦えるような状態じゃないだろう!?」
ステイル 「うるさいな。こんな段になって敵の心配か?」
男 「ぐっ……」 スッ 「なら、もう一度あんたを殴り飛ばすまでだ」 グッ
ステイル 「………………」 フッ 「……やれるものならやってみろ」
スッ……
男 「……?」
ステイル 「もう驕らない。僕は、僕の出せる本気を持って、君を殺してでもあの子のために動く」
ステイル 「……君をあのいけ好かない男と同じものとして見ることにするよ。残念ながら、君は右手でなく左手だったけどね」
ステイル 「だから名乗ろう。僕の殺し名……魔法名、」 スッ 「『我が名が最強である理由をここに証明する』 !!」
――――――ゾッ
男 「……!?」 (な、なんだ……? さっきまでとは段違いの、この圧迫感は……!?)
ステイル 「…………――――――――………………」
男 (何だ……? 呪文……?) ダッ (よく分からないけど……あれを続けさせちゃまずい……!!)
451 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:23:46.19 ID:FEKlpVYo
ステイル 「………………」 フン 「……遅いな」
スッ――――
ステイル 「――――来いッ! 『魔女狩りの王』 !!!』
ドッ……!!!!!!!
男 「なっ……!?」 (炎の……巨人!?)
ブゥン!!
男 「くっ……」 ズサッ……!!
男 (あ、危ない……あれはまずい……よく分からないけど、あれは、“違う” ……!!)
ステイル 「………………」 スッ 「……行け、『魔女狩りの王』 。目の前の敵を排除しろ」
――スルッ
男 「っ……!?」 (音もなく瞬間的に移動する……!?)
……ズザッ!!
シスター 「『魔女狩りの王』 ……」 ギリッ 「そんな強大な術式まで持ち出して、恥ずかしくないの!?」
シスター 「相手は魔術師ですらない、ただの子どもなのよ!?」
ステイル 「関係ないな。僕はあの子のために、あの子の害となる可能性すべてを排除するだけだ」
ステイル 「それを邪魔するというのなら……それは僕の敵だ」
452 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:24:53.56 ID:FEKlpVYo
――――ザッ!!
男 「くっ……姉さん……!」 スッ 「少しだけ我慢してね!」
シスター 「お、男!?(お姫様抱っこ!?)」 アタフタ 「わたしのことなんかどうでもいいの! 早く逃げなさいッ!!」
男 「だから嫌だって言ってるでしょ!!」 ダッ!! 「ネム! 逃げるよ!」
ネム 「分かってるわよ!」
ステイル 「……逃がすと思うか?」
――ブゥン!!
男 「くっ……」 ダンッ……!
……ザザッ!!
男 「ぐっ……」 ビキッ!! (さっきまでのダメージが……ッ)
シスター 「逃げられるわけがないのよ! あれは教皇級の魔術とさえも言われているのよ!?」
男 「魔術のことなんか知らないさ!」 ダッ……!! 「けど簡単に諦められるか!」
シスター 「わたしだって詳しくは知らないけれど、あの魔術は格が違うの!」
シスター 「あの炎の巨人は、ルーンという文字が刻まれたカードがある場所なら、どこでも活動できるの」
シスター 「彼はさっき、そのルーンをこの研究所中にばらまいたと言っていたわ」
シスター 「――つまり逃げ場はないってことなのよ!!」
――――スルッ
男 「ぐっ……!?」 (目の前に……!! クソッ!!) ダンッ!!!
――ブゥン!!
――……ズザザッ……!!!
男 (ぐッ……! ネコの動作アルゴリズムを使っても、確実に追いつかれてきている……!)
453 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:25:52.00 ID:FEKlpVYo
………………
男 「………………」 ハァ、ハァ、ハァ…… 「くそっ……」
ゴォォォオオオオ……!!!
ネム 「男……」 ジッ
ステイル 「鬼ごっこは、もうこれくらいでいいのかな?」
シスター 「………………」 スッ 「男……」
男 「………………」
ステイル 「……ふぅ。壁際に追いつめられてなおそういう殊勝な顔ができるのは大したものだと思うけど」
ステイル 「そろそろ分かっただろう? 君ではこの 『魔女狩りの王』 から逃げることさえできないと」
ステイル 「……最後通牒だ。そのシスターをそこに置いて去れ。君とそのネコの命は保障しよう」
男 「………………」 ギリッ 「くっ……」
ステイル 「……悩む必要はないだろう? 君はただの学生だ。彼女を守る義務も何もない」
ステイル 「ほら、早くしろよ。失敗したクッキーみたいに、黒こげになりたくはないだろう?」
男 「…………僕、は――――」
? 「――……あら? 義務ならあるのではありませんこと?」
クスッ
454 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:26:38.62 ID:FEKlpVYo
男 「は、ぇ……?」
――――――シュン!! トッ、トッ、トン!!
? 「あなたには彼女を守る義務がある。そうですわよね? 男さん」 ニコッ
男 「なっ……」
?? 「あら? こんな状況で暢気に呆けちゃって……まったく、呆れちゃうわ」 クスッ
男 「な、何で……?」
??? 「本当に……とぼけたひとですよね、男さんって」 フッ
男 「何で……?」 ウルッ 「何で、ここに……?」
男 「――白井さん、固法さん、初春さん……」
ステイル 「っ……!!」 ザッ 「何者だ!?」
白井 「まったく……無粋なことを訊く殿方もいらっしゃったものですわね」
ニィ
白井 「何者かと問われるのなら、お答え致しましょう」
白井 「――――風紀委員ですの」
ニコッ
455 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:27:42.26 ID:FEKlpVYo
男 「なぜ……ここに……?」
固法 「ディズちゃんにここの場所を教えてもらったのよ」
男 「そ、そうじゃない! 何でここに来たんですか!?」
初春 「そんなの決まってます。仲間がピンチなら、駆けつけるのは当たり前でしょう?」
男 「仲間……?」 フルフル 「だ、だって……僕は、もう……」
白井 「……男さん」 ニコッ 「――忘れ物、ですのよ」 スッ
男 「えっ……」 スッ 「これ……僕の……僕の、腕章……?」
初春 「男さんったら、投げ捨ててそのまま忘れて行ってしまうんですから、天然さんですよね~」
男 「初春さん……だって、僕は、みんなを……――」
固法 「そういう話は後、よ」 ポン 「話なら後で聞くし、聞かせてもあげるから」
男 「固法さん……」 コクン 「……はい!」
固法 「ん。ようやくいい目に戻ったわね。いつも通りのあなただわ」
シスター 「み、皆さん……?」 フルフル 「な、何で……?」
シスター 「わたしは、皆さんを裏切ったんですよ? 皆さんの想いを、踏みにじって……」
白井 「……それでも、あなたは学園都市の人間ですの」 フッ 「だったら守るのが、わたくしたちの義務ですから」
456 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:28:26.13 ID:FEKlpVYo
男 「………………」 スッ……スチャッ (……そう。僕は、たとえ今だけであったとしても……!)
男 (もう一度……もう一度だけ、風紀委員として……ッ!!)
――トン
固法 「……ほら、シャンとなさい。あなたは風紀委員でしょう?」
男 「……はいっ!」
ネム 「……男、あんたは本当に、良い仲間に恵まれてるわね」
男 「そんなこと……」 ニッ 「言われなくたって分かってるさ」
ステイル 「くっ……子どもが何人集まろうと……!!」 スッ――
固法 「………………」 フッ 「……まだ分かっていないようだから、もう一度名乗ろうかしらね」
初春 「はい!」
白井 「了解ですの!」
男 「………………」 グッ 「……了解です!」
――――ザッ!!!!
固&初&白&男 「「「「――――風紀委員です!!」」」」
457 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:29:14.16 ID:FEKlpVYo
ステイル 「……ふん」 スッ――
白井 「――……動かないでくださいまし」
ステイル 「……?」
白井 「おっと、そちらの巨人を動かすのも無しですわよ?」
ステイル 「……君にそんなことを命令する権限があるとでも?」
白井 「警告致しますわ。それ以上こちらに害意を持って動かれるというのなら、」 チャッ
白井 「……こちらの鉄矢をあなたの身体の中に直接ぶち込みますわよ?」
ステイル 「………………」 フン 「……やってみるといい」
……ザッ
白井 「……っ」 ギリッ 「警告は致しましたわよ?」 スッ……シュン!!
ステイル 「………………」
――――スカッ……カランカラン……
白井 「な……!?」
ネム 「神父の身体をすり抜けたですって……!?」
ステイル 「……君たちが現れた時から警戒していたさ」
ステイル 「人や物を自在に飛ばせる能力者が目の前に現れたんだ……対策を取らないわけがないだろう?」
458 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:30:54.24 ID:FEKlpVYo
シスター 「っ……まさか、蜃気楼……!?」
ステイル 「ご明察。僕は炎のエキスパートだよ? それを利用して相手の視覚をねじ曲げることなんて造作ないことさ」
白井 「っ……」
男 「………………」
ステイル 「……さぁ、そろそろ遊びは終わりだ。僕としたことが、殺し名を名乗ったというのに気を抜いていたようだ」
ステイル 「行け、『魔女狩りの王』。あのシスター以外は殺してもいい」
固法 「ぐっ……」 (ダメ……さっきのシスターと同じ…… 『透視能力』 を使っても相手の位置が探れない……!)
固法 (これが、魔術……科学とはその根本を違える存在……!!)
男 「………………」 スッ 「……固法さんは右へ。初春さんは左へ。それぞれ逃げてください」
初春 「へ……?」
男 「それからネム、君は初春さんについてあげてくれ」
ネム 「お、男……?」
男 「それから白井さん……」
白井 「な、何ですの?」
男 「姉さんを連れて、『空間移動』 でこの研究所内を逃げ回ってください」
459 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:32:07.06 ID:FEKlpVYo
白井 「男さん……? 男さんはどうされると言うんですの?」
男 「ここにいます。ここにいて、彼の監視を」
ステイル 「……? 監視? 君は一体何を悠長なことを――――」
男 「――――動くな、魔術師」
―――ゾワッ!!
ステイル 「……!?」 (な、何だ……!? さっきまでと、気迫が全く違う……)
ステイル 「動くな……? どういうことだい?」
男 「分からないか? 深手を負いたいのなら動けと言っているんだ」
ステイル 「……どういう意味だ」
男 「蜃気楼で視覚を誤魔化しているようだけど……それ以外の情報から居場所を割り出されたいのか?」
ステイル 「!?」
男 「位置を割り出したその瞬間に、白井さんの鉄矢が飛ぶぞ?」
ステイル 「ぐっ……」
男 「だからあんたはそこを動くな」
ステイル 「っ…… 『魔女狩りの王』 !!!」
460 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:33:02.42 ID:FEKlpVYo
男 「白井さん!! 固法さん! 初春さん! ネムサス!」
男 「僕に考えがあります! 今は……僕を信じてください!」
白井 「………………」 ニコッ 「……ようやく、わたくしの大好きな男さんになってきましわね」
シスター 「男……!!」
白井 「……さ、行きますわよ?」 スッ……シュン!!
――――ブゥン!! スカッ……
固法 「ふふ……信じるも何も、いま頼りになるのはあなただけみたいだしね……」 ダッ……!!
初春 「大丈夫です! 私は、今の男さんなら信じられますから!」 タッ!!
ネム 「ムリしたら承知しないんだからねっ」 ダッ
ステイル 「っ……散り散りになったか……」
男 「おっと、動くなよ? 位置が割り出せたその瞬間に、串刺しだぞ?」
ステイル 「ふん……分かっているさ」
ステイル 「……だが残念だったね」 スッ 「行け、『魔女狩りの王』」
――――――スルッ
男 「消えた……!?」
461 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:35:12.09 ID:FEKlpVYo
ステイル 「……ルーンが張り巡らせてある場所なら、『魔女狩りの王』 は瞬間的に場所を移動できる」
ステイル 「そして術式には、最も脅威的な存在を自動追尾するように設定してある」
ステイル 「……この場合、間違いなくあの空間移動能力者が追われているだろうね」
男 「っ……!」 ダッ――
ステイル 「――おっと、動くなよ? 君が隙を見せた瞬間、僕は君を炎剣で消し炭にする」
ステイル 「そうしたら、君が空間移動能力者に僕の位置を伝えることはできなくなるはずだ」
男 「ぐっ……」
ステイル 「………………」 フッ 「……面白いね」
男 「………………」 フッ 「……僕が隙を見せて、この部屋のどこかにいるあんたに殺されれば、こちらの負け」
ステイル 「……君が僕の位置を把握し、それを空間移動能力者に伝えたら、僕の負けだ」
男 「そして……あの 『魔女狩りの王』 とやらに白井さんが追いつかれても、僕らの負け」
ステイル 「…… 『魔女狩りの王』 が破壊されても僕の負けだけれど……」
ステイル 「ふん。それはあり得ないよね。ルーンはこの広い研究所に何万枚とばらまいてある」
ステイル 「ルーンがある限り、『魔女狩りの王』 は決して消滅しない」
ステイル 「あの空間移動能力者に、シスターを外へ逃がすように言えばよかったものを。失敗したようだね」
男 「……いや、これでいいんだ」 フッ 「あんたのような危険人物を、外に出すわけにはいかないからな」
ステイル 「……ふん。『魔女狩りの王』 とただの人間……」 フッ 「鬼ごっこなんて、結果は目に見えているけどね」
男 「……はっ、生憎だったな。あんたの魔術の相手は、僕の最愛の恋人……この街で最高のレベル4だ」
男 「白井さんは負けない……あんたのちんけな魔術なんかに、決して負けはしないさ」
462 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:36:21.37 ID:FEKlpVYo
………………研究所廊下
――――シュン……ストットッ……
白井 「………………」 フゥ……
――――スルッ……ゴォォォオオオオオオ!!!
白井 「っ……まるでわたくしと同じ能力でも使っているかのようですわね……!」
スッ……シュン!! ……ジュッ
白井 「やはり……鉄矢を飛ばしても効果無し、ですわね」
白井 「さ、シスターさん。もう一度飛びますわよ?」 スッ
シスター 「無駄、です……」 フルフル 「……あの教皇級の魔術から逃げることなんて……」
白井 「無駄かどうか、やってみないと分かりませんの」
白井 「それに、わたくしは男さんを信じていますから」
シスター 「………………」 フッ 「……あなたは、本物ね。まるで聖女様みたい」
白井 「そ、それは……ちょっと褒めすぎですの」 カァァ 「さっ、飛びますわよ」
シスター 「……すみません。わたしのために……」 ギュッ
白井 「言いっこなしですの」 ニコッ
――シュン!!
ゴォォオオオオオ……!!!
――――――スルッ……
463 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:37:26.95 ID:FEKlpVYo
………………
男 「………………」
ステイル 「………………」
男 「……あんたは、」
ステイル 「……?」
男 「あんたは、何でそこまで、インデックスさんにこだわるの?」
ステイル 「………………」 フン 「……答える義務はないな」
男 「……そりゃそうか」
ステイル 「………………」 ギリッ 「……無駄だと、気づかないか?」
男 「何が?」
ステイル 「こうしている間にも、君の恋人とやらは死の危険に瀕しているんだぞ?」
男 「………………」
ステイル 「シスターを渡せ。そうすれば終わる。君と君の仲間が傷つく必要もない」
男 「………………」
フッ
464 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:38:25.52 ID:FEKlpVYo
………………研究所一室
白井 「………………」 ゼェ、ゼェ、ゼェ……
――――スルッ……ゴォォォオオオオ!!!!
白井 「っ……もう、追いついて、きましたのね……」 スッ
シスター 「白井さん……! もう……もういいんです!」
シスター 「限界でしょう? 諦めて投降してください! 彼はきっと、あなたたちの命は取りません!」
白井 「………………」 フッ 「……何度、言えば、分かって、いただけます、の?」
ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ…………
白井 「わたくし、たちは……風紀委員、ですのよ……」
ニコッ
白井 「この程度の、ことで……」 スッ 「音を上げるほど、ヤワでは、ありませんの……!」
シスター 「白井さん……」 ギュッ
白井 (それに……あと、少しのはず、ですもの……)
……シュン!!
ゴォォォオオオオ!!!
………………――スルッ
465 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:39:14.87 ID:FEKlpVYo
………………
ステイル 「……!?」 ギリッ 「何が可笑しい!!」
男 「あんた、意外と優しいひとなんだね」
ステイル 「なっ……! 何を……!!」
男 「……本当に、姉さんのことで、インデックスさんに累が及ぶのが嫌なだけなんだ」
ステイル 「っ……だったら何だ!?」
男 「べつに。もう少し話せば、良い友達になれるかもな、って思っただけだよ」
ステイル 「くっ……」 ダン!! 「あの男のような気持ち悪いことを言うな!!」
男 「……そういう物音を立てると、僕に位置を把握されちゃうよ?」
ステイル 「っ……」 ギリッ 「何なんだ……何なんだ君は!!」
男 「……さぁ?」 ニコッ
ステイル 「……何故余裕ぶっているのか分からないが、君の恋人、本当に死ぬぞ?」
ステイル 「超能力だって体力を使うだろう? 無限に空間移動ができるわけではないだろう?」
ステイル 「いずれ 『魔女狩りの王』 に追いつかれ……燃やし尽くされて死ぬ」
ステイル 「それでもいいのか!!?」
男 「……だから言ってるでしょ?」 フッ 「そういうことには絶対にならないよ」
男 「僕は……白井さんたちを信じてるから」
466 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:43:04.98 ID:FEKlpVYo
………………研究所廊下
固法 「………………」 タタタタ……
固法 (……白井さん、男くん、頑張って……!)
固法 (わたしたちが全て終えるまで、保ってよ……!)
固法 「……死んだりしたら」 グッ
固法 「――承知しないんだからねっ!」
………………研究所一室
初春 「………………」 カタタタタ……
初春 (……白井さん……おねがいです……あと少し、逃げてください……)
初春 (男さん……大丈夫。今のあなたなら、わたしも信頼することができるから)
初春 (あと少し……あと、少しだから……)
初春 「……白井さん、男さん……あと、もう少しの辛抱です……!!」 カタカタカタカタ……
ネム 「男……」
467 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:43:48.21 ID:FEKlpVYo
………………
ステイル 「“たち” ……?」
男 「……?」
ステイル 「……まさか、他の仲間がルーンを壊して回っているとでも言うのかい?」
男 「………………」
ステイル 「……ふん、その表情では図星のようだね」
男 「っ……」
ステイル 「そう警戒しなくていい。無駄だからね」
男 「……無駄?」
ステイル 「言っただろう? 何万枚とばらまいた、って。たった二人と一匹でその全てを壊しきる気かい?」
ステイル 「その前に君の恋人が 『魔女狩りの王』 に追いつかれて終わりさ」
男 「………………」
ステイル 「……諦めろよ、能力者! 僕はあの子の友達である君たちを、できることなら殺したくはないんだ!」
男 「………………」 フッ 「……あんたはどうやら、悪人になりきれないひとみたいだ」
ステイル 「……!? 何を……?」
男 「……ねぇ? 何で僕が、あんたとずっとお喋りをしていたんだと思う?」
468 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:44:59.05 ID:FEKlpVYo
ステイル 「……? まさか……声から位置情報を……!?」
男 「違うよ。ネコの演算アルゴリズムを使っても、耳は人間のものだ。指向性には優れていない」
ステイル 「な、なら……」
男 「あんたの注意を僕に向けさせるためさ。それ以外にないだろう?」
ステイル 「そ、そんなことをする必要性が、どこに……」
――――カサッ……カサコソッ……
ステイル 「!? な……!」 バッ 「天井裏……!? この物音は……」
男 「さっきからずっとしていたさ。あんたが気づかなかっただけでね」 フッ
男 「――……みんな、ご苦労様。もう大丈夫だ。これで十分、だそうだよ」
ステイル 「なっ……! 何を言っている!? 誰に向かって、何を言ったんだ!!」
男 「もちろん、動いてくれたみんなに、さ」 ニコッ
男 「固法さん、初春さん、白井さん、ネムサス……」
男 「それから、デイジィと……」 ニッ 「――あと、何百匹というネコのみんなにね」
469 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:45:58.01 ID:FEKlpVYo
ステイル 「な……ん、だと……?」
――――シュン!!
白井 「……まったく……遅い、ですのよ……」 フラッ
――――ダキッ
男 「……ごめんね、白井さん」 フッ 「そして、ありがとう」 ギュッ
白井 「ふふっ……今はきちんと、わたくしのことを受け止めてくださいますのね」 ギュッ……
シスター 「男……?」 ハッ 「ここは……元の、部屋……?」
ステイル 「くっ……」 ギリッ 「空間移動能力者と、シスター……!」
ステイル 「この部屋に戻ってきて、それがどうしたというんだ!!」
――――――スルッ……ゴォォォオオオオ!!!!
ステイル 「『魔女狩りの王』 はどこまででも君たちを追う! まだ分からないのか!!」
男 「ああ、もちろん分かってるよ」 ニッ 「けれど、それももうここまでだ」
男 「ごめんね、白井さん……少し、待っててね」
白井 「……はい、ですの」 ……スッ
――――ダッ!!
ステイル 「なっ……バカが!! 『魔女狩りの王』 に突っ込んで……死ぬ気かっ!?」
――――――――ゴォォォオオオオ……!!!!!
男 「……悪いけど、手袋のナノマシンはもう回復しているんだ」 ザッッ!! 「……邪魔だよ」 ブゥン……!!!
ドゴォォオオ!!!
――――――――――――――――――ドッッッバァン!!!
470 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:47:48.63 ID:FEKlpVYo
ステイル 「は……?」 ガクッ 「な、何、が……?」
ビチャッ……ピチャッ……シュウゥゥ……
ステイル 「『魔女狩りの王』 ……?」 ブルッ 「『魔女狩りの王』 !? 『魔女狩りの王』 !!!?」
男 「……――ルーンとやらが何万枚とあるのなら、」
ステイル 「ッ……!?」 ゾクッ
男 「……何百という仲間で、それを制するまでのことだ」
男 「これが僕の答えだ……僕と、仲間の、信頼の力だ……!!」
ステイル 「ま……まさか……」 ギリッ 「何百匹というネコに、ルーンを破壊させたというのか……!?」
男 「その通り。それを可能にするのが、ネコとアヒルとの念話を可能とする僕の能力、『幸福御手』 だよ」
男 「本当は姉さんにもう一度唄を聴かせるために、ディズに集めてもらったんだけどね」
男 「ディズが気合いを入れてノラネコだけじゃなく飼猫まで集めてくれてよかったよ」
ステイル 「っ……」
男 「……一定領域に大量のネコ……」 フッ 「こんな状況なら、『猫鶩ネット』 は完全な念話を可能とする」
ステイル 「き、君は……何でもないフリをして僕と会話をしながら……ッ! 僕の意識を自分に向けながら……!」
ステイル 「この研究所全体に散らばる何百匹というネコ全てを繋げる、大規模なネットワークを維持し続けたというのか!?」
男 「はは……そろそろ、脳の回路が焼き切れそうなくらい、頭が熱いけどね……」
ステイル 「し、しかし! それだけ大量のネコを一度に統率しきることなど……!」
ステイル 「それも、ルーンを探して壊すなんていう命令……僕と会話をしながらやりきったっていうのか!?」
471 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:49:31.74 ID:FEKlpVYo
男 「………………」 フッ 「……まさか。僕はそこまで演算能力に長けてないよ」
男 「ネットワークの維持だけで精一杯。だから、ネコの統率は彼女に任せていたんだよ」
男 「――情報管制に関してはプロ中のプロである、初春さんにね」
ステイル 「……!?」
男 「『猫鶩ネット』 は、一度繋いでしまえば、無条件にネコとアヒル、そして人間と念話ができる」
男 「現状のネコの密度なら、この施設中の全てのネコと人間とは声の媒介がなくとも念話が可能だよ」
男 「初春さんには施設の中央部で、ずっと情報管制をお願いしていたんだ」
ステイル 「何百匹というネコだぞ……!? あの少女はそれを管制しつくしたというのか……!!」
ステイル 「し、しかし……たとえネコの統率が完璧であったとしても、ルーンは見えない場所にも貼ってあった!」
ステイル 「それを探し出すなんてこと、ネコにできるものか……!!」
男 「うん。それはきっと、普通の人間にもムリだよね」
男 「……けれど、こちらには 『透視能力』 を持っている仲間がいたからね」
ステイル 「っ……!?」
男 「固法さんには研究所中を走り回ってもらって、ルーンの分布や隠された場所を初春さんに伝えてもらっていたんだ」
ステイル 「……っ……彼女は、この広大な研究所内全てを見通したというのか……!?」
472 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:50:26.16 ID:FEKlpVYo
男 「固法さんが研究所内全てのルーンの配置を初春さんに伝える……」
男 「そしてそれを元に、周囲の警戒を完全にネムに任せた初春さんが、ネコたちに指示を出す……」
男 「それを受け取ったネコたちが、ディズを隊長として、効率良く動き、ルーンを破壊して回る……」
男 「……僕はずっと、『猫鶩ネット』 を維持しつつ、念話で情報を交換ながら、あんたを引きつけ続け……」
男 「白井さんは、姉さんを連れて逃げながら、最も危険な 『魔女狩りの王』 を引きつけていた……」
男 「……その結果が、これ、」 グッ 「…… 『魔女狩りの王』 、撃破だ」
ステイル 「だ、だが、たとえネコの手が何百とあろうと、この短時間で全てのルーンを破壊し終えるとはとても思えない!!」
ステイル 「ルーン配置の要所を全て潰すくらいのことをしてのけなければ無理だ!」
男 「……そうだね。その通りだよ」 クスッ 「まだ研究所内に残っているルーンは多くはないが、少なくもない」
男 「けれど、この広い研究所内全域で術式を構築しているんだ。いくつかの要所を潰せば 『魔女狩りの王』 は自壊する」
ステイル 「き、君に……そんな魔術的知識があったとでも……?」
男 「まさか、そんなわけないでしょ?」 フッ 「もうひとり、協力者がいたってだけのことさ」
ステイル 「……!?」 ハッ 「ま、まさか……ッ!!」 クルッ――
インデックス 「………………」 フッ 「……そんなの、わたし以外にいないんだよ」 ニコッ
ステイル 「ッ……!!!!」 ギリッ
473 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:51:28.10 ID:FEKlpVYo
インデックス 「あなた、手加減しすぎかも。わたし、実はあの後すぐに目覚めてたんだよ?」
男 「……彼女を想いすぎることが、仇となったようだね」
ステイル 「く……くそっ……!」
インデックス 「……あなたの気持ちは嬉しいかも。けど……」
インデックス 「――わたしは、あなたが思っているよりずっと、強いんだよ!」
ステイル 「っ……!!」
男 「インデックスさんも 『猫鶩ネット』 から、初春さんに情報をくれていたんだ」
男 「破壊すべきルーンの特徴や、あまり重要でないルーンの場所だとかをね」
ステイル 「くそっ……クソっ!!!」
男 「………………」
……――ザッ……!!
ステイル 「!?」 ビグッ
男 「インデックスさんから念話で聞いたよ。魔術を破られると、その反動が術者に返ってくるんでしょ?」
男 「そんな状態で、魔術による蜃気楼を維持し続ける気力はないよね?」
ステイル 「っ……!!」
474 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:52:10.49 ID:FEKlpVYo
男 「……さぁ、終わりにしようか、ステイル=マグヌス!!」
ダッ……!!!
ステイル 「ぐっ……」 フラッ 「……そ、れ、でもっ……! 守りたいものが、あるんだ!!」
スッ……ゴォォォオオオオ!!!
ステイル 「最後の炎剣だ……これで君を……倒すッ!!」
男 「……うん。僕も多分、これが最後の拳だ」
グッ……グググググッ……!!
男 「だけど僕も……僕も負けないッ!!」
………………
ディズ 「男! 行きなさい!!」 ゼェゼェ…… 「絶対に勝ちなさい!!」
………………
固法 「男くん……!!」 ゼェ、ゼェ、ゼェ…… 「勝って……勝つのよ!!」
………………
初春 「男さん……」 ハァ、ハァ、ハァ…… 「勝って……くださいっ……!!」
ネム 「絶対に……勝たなきゃ承知しないんだからね!」
………………
インデックス 「みんなの声援が、頭に響いてくるんだよ……」 グッ 「ねこあひるのひと! 絶対に勝つんだよ!」
シスター 「男……」 ギュッ 「……勝ちなさい。わたしのためではなく……あなたと、あなたの仲間のために!!」」
白井 「………………」 フッ 「……勝って、くださいですの……!!」
白井 「――――わたくしの、最愛のヒーロー様!!」
………………――――――
男 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」 ブゥン――――
ステイル 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!」 ザンッ――――
――――――――――ドッ!!!
ドゴォォォオオオオオ!!!!!
475 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/27(月) 23:53:18.80 ID:FEKlpVYo
ステイル 「………………」
男 「………………」
――……ガフッ!!
ステイル 「……勘違い、するなよ……?」
男 「………………」
ステイル 「君に、負けたんじゃ、ない……」 ガクッ
ステイル 「“君たち” 、に、……負け、たんだ……」
――バダッ……
男 「………………」
男 「……そんなの、分かってるって……」 フッ
――――バタッ……
白井 「男さん……」 タッ……フラッ 「あっ……」
パタッ……
シスター 「し、白井さん!? 男!!」
男 「………………」
フッ
男 「……良かった」
男 「――――白井さんが……僕の、大好きなひとが……無事、で……」
…………………………………………………………………………………………
476 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:06:27.82 ID:GmDdkNoo
…………………………………………………………………………………………
………………同日 深夜 学園都市第十九学区 広場
宮司 「………………」
フゥ
宮司 「……これはまた、随分と寂れた街並みですねぇ」
宮司 「おおよそ学園都市に似つかわしくない……再開発失敗地域、というわけですか」
宮司 「……まぁ、わざわざ私に 『矢文』 を飛ばし、ここに呼んだ意図は伺えますね」
宮司 「大方が、人気がない場所で戦うため、といったところでしょうか?」
ニヤリ
宮司 「――ねぇ、 『月詠之巫女』 ?」
月子 「っ……」 ……タッ 「……やはり捕捉していたか」
宮司 「もちろんですとも。だからこそ、あなたの誘いにのって、ここに来たのですよ」
宮司 「ここに、あなたがいると分かっていたから」 ニコッ
ザッ……!
宮司 「……?」
?? 「………………」
477 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:07:13.57 ID:GmDdkNoo
宮司 「……蛙の面……?」 フッ 「面白い騎士様ですねぇ」
蛙 「………………」
宮司 「なるほど……何故素顔を隠していらっしゃるのかは分かりませんが、」
宮司 「――あなたが 『ボックス』 の 『通行止め』 ということでよろしいのでしょうか?」
蛙 「……ああ、そうだ」
宮司 「ふぅん……あなたがねぇ」
宮司 「……しかし、蛙の面を着けてくるとは……ふふ、サルタヒコのつもりですか?」
蛙 「サル……? カエルがサルに見えるのか、あんた。目でも悪いのか?」
宮司 「………………」 フゥ 「……なるほど。知識無き者と話すのは疲れますね」
月子 「……不遜な」 ギリッ 「こやつがサルタヒコだとして、貴様はニニギでも騙るつもりか?」
宮司 「ニニギノミコト……いいですね。それくらい強大な存在になりたいものです……」
月子 「ッ……この罰当たりめ……!!」
宮司 「ふっ……カミの力を受け継ぐあなたが、私を罰当たりと糾弾するのですか?」 クスッ
月子 「っ……」 ギロッ
宮司 「おお、怖い怖い……」 ブルッ 「その視線は、まさしくカミとなられる方に相応しい」
478 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:08:18.53 ID:GmDdkNoo
蛙 「………………」 スッ 「……前に出るな」
月子 「む……分かっている」
宮司 「ふむ……まるで本物の騎士……従者のようですねぇ」
蛙 「………………」
宮司 「……さて、『月詠之巫女』 ? 本題に入らせてもらいましょうか」
宮司 「私と一緒に来る気はございますか?」
月子 「………………」 ギリッ 「……あると思うのか貴様は……ッ!!」
宮司 「………………」 フゥ 「……そうですか。それは残念ですね」
宮司 「――ならば、少し痛めつけてでも連れて帰るより仕方がないようです」
月子 「っ……貴様らが……貴様らが……!!」 クワッ!! 「父様と、母様と……神社の皆を……!!」
宮司 「………………」 フッ 「……ええ、そうですよ? ちなみにあなたのお父様を殺したのは私です」
ニコッ
月子 「ッ……!! 貴様……貴様ッッッ!!!!」
スッ……ギュッ
月子 「……っ……」 チラッ
蛙 「………………」 フルフル 「……挑発だ。抑えろ」
月子 「………………」 コクン
479 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:09:19.35 ID:GmDdkNoo
宮司 「……では、致し方ありませんね」
スッ……チャキッ……
月子 「……? その剣は……」
宮司 「ああ、やはりお分かりになりますか。さすが、お目が高い」
月子 「……馬鹿にするな下郎。その程度の、複製とも呼べん剣で何を自慢気に」
宮司 「まぁ、その通りですね」 フッ 「これは、かの剣のレプリカのレプリカのレプリカのレプリカ……」
宮司 「……といったレベルの代物ですから」
月子 「……ふん。当然であろうな。魔導書と同じだ」
月子 「本物に近ければ近いほど、毒素も強まる。故に、常人にはそれくらい薄めたものでないと扱えん」
宮司 「まぁ、だからといって舐めてかかっていいものでもないでしょう?」
月子 「……ふん。かの 『悲劇の英雄』 にでもなったつもりか?」
宮司 「おや、心外ですね。事実、いま私は 『英雄』 になりつつあるのですよ?」
月子 「不遜なことを……!」
宮司 「ならば、試してみますか?」 チャキッ
蛙 「………………」 フルフル 「……悪いが、その機会はない」
宮司 「……? まぁ、いいでしょう」 フッ 「それにしても驚きました」
宮司 「――まさか、『通行止め』 が女性だったとは、思いもよりませんでしたから」
480 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:10:12.03 ID:GmDdkNoo
………………同時刻 近隣の廃ビル
?? 「………………」 チャッ 「……遮蔽物、無し」
?? 「風向き、良好。対象、動く気配無し」
?? 「スコープ、セット……」
フッ
?? 「……世話子と月子、上手い具合に相手を引きつけてくれてるじゃねぇか」
?? 「卑怯と罵るのなら罵ればいい。これが俺のやり方だ」
?? 「……たとえ魔術とかいう正体不明のモンを身につけていたとしたって、」
?? 「純粋な科学の暴力に敵うはずがない……」
?? 「学園都市製、軍用機関銃による狙撃……二百発一斉掃射」
ガチャッ……!!
?? 「……倒れないわけがない。いや、粉々の肉片にならないわけがない」
?? 「………………」 スゥ…… 「……さぁ、やるか。総計170人目の人殺しを……」
?? 「……月子を守るため……そして、月子の居場所を奪った報いだ……」
止 「……ここで 『通行止め』 だよ。お前の人生はな」
――――ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ……………………ッッッ!!!!!
481 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:11:19.15 ID:GmDdkNoo
宮司 「……!?」
――――ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……………………ッッッ!!!!!
世話子 (やった……! さすがは止さん!) グッ (直撃です!)
月子 「………………」
――――ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……………………ッッッ!!!!!
……モクモクモクモク…………
――――ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……………………ッッッ!!!!!
――――――――――ピタッ
…………モクモク…………
世話子 「よし……!」 パッ 「避けた様子はない! これなら……!」
月子 「………………」 ピクッ 「……!?」
月子 「ま、待て! 世話子……!」 ギュッ 「……奴は、まだ……!」
世話子 「えっ……――」
宮司 「――――やれやれ。サブマシンガンの次はガトリングガンですか……」
――――――ザッ
宮司 「まったく、嫌になります……科学の兵器というものは、風情がない」
482 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:13:04.42 ID:GmDdkNoo
世話子 「なっ……!?」
宮司 「おや……?」 ニッ 「どうかされました? せっかく蛙の面をお取りになったというのに、」
宮司 「――まるで、死人を見るかのような目をしていますよ?」
世話子 「っ……」 ゾクッ
月子 「………………」 ギリッ 「……世話子! 作戦通りに、次のすてっぷへ移行だ!」
ギュッ……ダッ!!
宮司 「おやおや……第一段階は失敗、といったところですか」
宮司 「少々驚かされましたが……」 ニヤリ 「所詮は科学の一兵器」
宮司 「私の 『焔薙(ホムラナギ)』 の前には無力です」
宮司 「……ふふ、逃げても無駄ですよ? 『月詠之巫女』」
………………
止 「っ……!? 嘘だろ……?」
止 「傷どころか……服に汚れ一つ付いてないのかよ……!?」
止 「………………」 ギリッ 「……くそっ!」
止 「……大丈夫。まだ手はある」 ガチャッ 「冷静に、次のステップへ移行する……」
ダッ……!!!
止 「……直々に相手をしてやるよ、『通行止め』 がなッ!!」
483 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:14:04.87 ID:GmDdkNoo
………………
宮司 「………………」 タタタタタタ…… 「お待ち下さい、『月詠之巫女』」
月子 「っ……待てと言われて誰が待つものか!」 トトトトト……
宮司 「ふむ……確かにその通りですね」
世話子 「………………」 ハッ、ハッ、ハッ……
月子 「……世話子、大丈夫か?」
世話子 「だ、大丈夫、です……」 タタタタ……
月子 「そこだ……そのビルの角を曲がるぞ」
世話子 「は、はい……!」
宮司 「……まったく。逃げても無駄だと早く気づいてもらいたいところですがね」
ザッ……!!
止 「――よう、初めましてだな」
宮司 「……!?」 (待ち伏せ……?) ザッ……
止 「そしてさようならだ!!」 ガチャッ……!!
――――ドバッ!!! ドバッ!!! ドバッ!!!
484 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:15:16.85 ID:GmDdkNoo
止 「………………」
宮司 「………………」 フッ 「……なるほど。あなたが本物の 『通行止め』 というわけですね?」
世話子 「うそ……」 フルフル 「嘘だ……こんなの……」
月子 「ッ……!!」
止 「……っ……」 ギリッ 「……何の冗談だこれは……!!」
宮司 「……おやおや、人に散弾をぶつけておいて冗談で済ますおつもりですか?」
宮司 「科学の街の子供とは、怖いものですねぇ」
止 「っ……何で……ッ!」 ガチャッ 「何でお前は傷一つ負ってねぇんだよ!!」
宮司 「そして、人様を傷つけることを望むのですか……」
フゥ……
宮司 「度し難いものですねぇ。科学とはここまで子供の心を荒ませますか」
止 「ぐっ……ふざけんのも大概にしろッ!」
止 「一メートル以内の至近から……それも不意をついて、散弾を三発もぶっ放したんだぞ!?」
止 「それなのに何で……何でお前は傷一つ負わずに平然と立っていられるんだよ!!」
宮司 「ふむ……そうですねぇ」 ニッ 「ですがそれを説明する必要があるかどうか、試させてもらってもいいですか?」
485 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:16:18.79 ID:GmDdkNoo
止 「っ……」 バッ
宮司 「……? 飛び退って、距離を取ったつもりですか? たかだか二メートルほど?」
止 「クソッタレが……! 意味不明なことばっかほざくな!」
ガチャッ
止 「時代遅れの骨董品なんか手に持って……そんなの射程はせいぜい一メートルかそこらだろうが!」
宮司 「骨董品、ですか……」 ヤレヤレ 「まぁ、たしかにその通りですね。これは、五百年程前、とある刀匠が作ったものですから」
チャッ……
宮司 「――ならば見せてあげましょう。骨董品の切れ味を」
――――スッ……ザン!!
止 (……? 何もない空を……) ゾワッ (……!? 斬ら、れる……!?)
――ッダン……ズサッ!!
宮司 「おや? よく避けましたね。あなたは勘が鋭いようです」
――――スパッ
止 「……!!?」 ゾクッ 「で、電信柱、が……?」
……ダダン!!!
486 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:17:23.28 ID:GmDdkNoo
世話子 「な……何で……? こんなの……」 ガタガタ 「電信柱が……一刀両断された……?」
世話子 「だ、だって……何メートルも離れてるんだよ!?」
月子 「ッ……」 ギリッ 「貴様……まさか、本当に 『悲劇の英雄』 の術式を……!!」
宮司 「おや、さすがにここまでやれば実感が湧きますか」
ニタリ
宮司 「ええ。成功させたんです。他でもない、この私が。かの英雄の術式の再現を、完全な形で」
宮司 「――即ち、『草薙(クサナギ)』 と 『焔薙(ホムラナギ)』 の術式をね」
止 「『草薙』 ? 『焔薙』 ? ……何だそれは?」
宮司 「おや? もう一度見せてほしいのですか?」 チャッ
月子 「っ……奴が 『草薙』 の術式を完成させているとすれば……ッ」 ギリッ
月子 「離れろトマル!! 奴の剣は、その射程内にある何物をも切断する!」
止 「射程って……あんな刃渡り1000mmかそこらの剣で、何が――」
宮司 「――……ええ、まぁ」 ニヤッ 「言ってしまえば、こういうことができるのですよ」
――――――ザンッッ!!!
止 「……?」 (剣を真横に薙いだ……? ……――ッ!!!?)
487 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:18:07.37 ID:GmDdkNoo
――ズザザザザザ……!!!!
止 「なっ……!!? び、ビルが……」
世話子 「………………」 ペタン
月子 「っ……」 ギリッ
……――ドドドドドドンンンンンッ……!!
止 「ビル、が……」 ガクッ 「……切断、されたっていうのか……?」
世話子 「……ありえない……ありえないです……」 ガタガタガタ……
世話子 「だって……老朽化が進んでいたとはいえ、普通の、何の変哲もないテナントビルですよ……?」
世話子 「それを……真横に切断して、倒壊させたっていうんですか……!?」
止 「……あの剣は建物に触れてすらいない……だというのに、これは……」
宮司 「……おや、まさかここまで驚かれるとは」
宮司 「学園都市の超能力者には、こういった芸当は不可能ということなのでしょうか?」
宮司 「この術式は、射程内にある全てを両断します。それが何であったとしても、一刀の元に両断します」
止 「っ……」 (どう低く見積もったって……コイツは大能力者すら圧倒的に凌駕している……!)
止 (レベル5…… 『超電磁砲』 や 『原子崩し』 クラスの出力がなければ、こんな真似は……)
月子 「………………」 フン 「……恐れるな、トマル、世話子。あんなもの、大したことはない」
488 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:21:00.83 ID:GmDdkNoo
宮司 「ほぅ……? 言ってくれますね、『月詠之巫女』」
月子 「事実を述べたまでだ。力しか誇示するものがない哀れな畜生め」
止 「つ、月子……大したことはないって……アイツは、触れもせずにビルを倒壊させたんだぞ!?」
月子 「……ふん。それがどうした」
止 「ど、どうしたって……――」
月子 「――だからそれがどうしたと問うているのだ」
月子 「建物を一棟破壊した程度が凄まじいのか? お前たち科学はそんなことを四六時中行なっているだろう」
月子 「ただ剣を横に薙いだだけ……それだけで建物が破壊される。なるほど、たしかに凄まじいかもしれん」
月子 「しかし、お前たちはそれを 『科学』 という力で行っているだろう?」
世話子 「月子ちゃん……?」
月子 「呑まれるな。奴の術中に嵌るだけだ」
止 「………………」 フッ 「……そう、だな。ビルの倒壊なんて、ダイナマイトが数百kgあれば事足りる」
止 「……俺としたことが、便利な手品程度に驚かされちまったみたいだ」
世話子 「………………」 コクン 「……そう、ですね。ビルの破壊くらい、わたしにだってできます」
宮司 「ふむ……」 ヤレヤレ 「残念です、『月詠之巫女』 。あなたは心まで科学に汚染されてしまったようですね」
489 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:21:58.35 ID:GmDdkNoo
月子 「くだらぬことを申すな。われは魔術師……日本神道の巫女であることに変わりはない」
月子 「だが、科学を否定する気はない。われは、科学によって守られている “普通” があることを知ったからな」
宮司 「ふん……学園都市に逃げ込んだことにより、大層悪影響が出ているようです」
世話子 「月子ちゃんの変化を悪影響と言うのなら……」 ギリッ
世話子 「あなたの目は節穴です!」
宮司 「おやおや……」
止 「………………」 ガチャッ!! 「…… “弾丸を通常弾へ”」
――――ッパァン!!
止 「………………」
宮司 「………………」 フッ 「……また、突然撃ってくるものですね」 ニコッ
――……ポロッ
止 「……なるほど。彼我の距離は二メートル強……その位置で弾丸を “剣で弾いた” のか」
宮司 「……? ほぅ。冷静に分析をしているということですか。これはすごい」
止 「信じられないが……いや、信じたくはないが……」 ギリッ
止 「先のガトリングガンによる先制も、ショットガンによる不意打ちも……全て……」
止 「――その剣一本で防ぎきったってことか……」
490 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:23:04.58 ID:GmDdkNoo
世話子 「そ、そんなの不可能です! 軍用ガトリングは音速を遥かに凌駕した速度なんですよ!?」
世話子 「それに、至近距離での散弾なんて、それこそ軌道を見切ることすら難しいはずです!」
世話子 「それを全て……一本の剣で弾ききるなんて……」
月子 「……しかし、その無茶を可能とするのが魔術だ。トマルの分析は正しい」
月子 「かの 『悲劇の英雄(ヤマトタケルノミコト)』 が用いたとされる絶対防御術式……」
月子 「…… 『焔薙』 ならばそれも可能なのだ」
止 「だからその 『焔薙』 ってのは……――」
月子 「―― “手に持った武具の射程距離内に入った全ての攻撃を自動防御する”」
月子 「それが 『焔薙』 という魔術だ……」
止 「全ての攻撃を……自動防御する、だと……?」
止 「だからガトリングガンも、ショットガンも……全てを無傷でやり過ごしたというのか……」
世話子 「そ、そんなの……あり得ないよ……」 ガタガタ 「だって、物理的に……人間工学的に……不可能だ……」
月子 「忘れたか、世話子、止? お前たちの言う 『自然科学』 では立ち入れぬ法則があると言っただろう」
月子 「それが魔術だ」 グッ 「だが恐れるな! お前たちの信じる 『科学』 は、いつだってそんな 『魔術』 に光を当ててきた」
月子 「……そうでなければ、魔術はこんなに暗く不毛なものとなってはいない……!!」
月子 「信じろ、お前たちの光を! お前たちが作り上げてきた、科学力という名の圧倒的な光を!!」
491 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:23:57.50 ID:GmDdkNoo
止 「………………」 グッ 「……ああ、分かってるさ。恐れるつもりなんか毛頭ない」
宮司 「ふふ……しかし、恐れなければ何ができるというものでもないでしょう?」
宮司 「私の術式はこの剣を手に持っているというだけでで自動的に起動します。穴はありませんよ?」
止 「方法はある。この 『機械化小銃(スマートライフル)』 ……そして、」
止 「俺の 『斉撃』 なら、『焔薙』 とかいう絶対防御くらい、撃ち貫くことができる!!」
ダッ……!! ガシッ
止 「月子、世話子! パターン、“イレギュラー” だ。体勢を立て直すぞ!」
宮司 「おや……そんなことを私が許すとでも? 『草薙』 で……――」
――――ダンダンダン……!!
宮司 「っ……!」 チッ 「……自動防御の最中は攻撃ができないというこの術式の弱点……」
宮司 「もう見抜かれたということですか……」 ニヤリ 「……やりますね。『通行止め』」
宮司 「……まぁ、そうでなくては面白くありませんか」
ニヤリ
宮司 「鬼ごっこは宗教的な意味合いも多分に含みます。その原型は古く神楽にも通ずると言われます」
宮司 「だから嫌いではありませんが、一つだけ気に入らないのは……」
宮司 「――この私が鬼であるということ、でしょうかねぇ」
――タッ!!
492 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:25:21.47 ID:GmDdkNoo
止 「………………」 タタタタ…… 「月子、もう一つ教えろ。『草薙』 というのは何だ?」
世話子 「あっ……」 ゼェ、ゼェ…… 「それ、私も気になって、ました……」
月子 「ふむ……」 タタタ…… 「お前たちもさっき見ただろう?」
月子 「離れた位置にあるこんくりーとの柱や、建物を切断した術式だ」
止 「やはりか……」 ギリッ 「空を斬っただけの動作で、実際にものが切断されていたからな」
月子 「…… “離れた位置にある存在を、剣を振るうだけで切断する術式“ といったところだ」
月子 「根本は 『焔薙』 と同じ術式だ。『悲劇の英雄』 が用い、敵の術中により迫る炎を切り払ったとされる」
月子 「『焔薙』 が害悪となる炎を薙ぎ払う防御の術式。そして 『草薙』 がその炎を運ぶ草を斬り払う攻撃の術式なのだ」
止 「…… 『焔薙』 ……絶対防御か。もう、科学で計れるような代物じゃないな」
止 「“防ぐ” という意味そのものを体現している……なら、許容量オーバーなんてものは望めないか……」
止 「……月子、『草薙』 の射程距離は分かるか?」
月子 「詳しくは分からぬ……しかし、あの様子ではせいぜいが33尺……10めーとるほどが限界であろう」
止 「……10メートルか……分かった」 ニィ 「……それなら、何とかなる……!!」
――――――ザッ!!
493 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:26:55.08 ID:GmDdkNoo
止 「………………」
ジジ……カチッ……カチャッ
月子 「トマル……?」 ジッ 「何だそれは……?」
止 「光学探知装置だ。不可視光を出し、何者かがその光を遮ったら俺のヘッドセットに信号を送ってくれる」
止 「……さすがは月子だな。息も上がってないのか」 ナデナデ
月子 「なっ……」 カァア 「と、当然である! われは 『神体』 であるからなっ!」
世話子 「………………」 ゼェ、ゼェ、ゼェ……
止 「……世話子を頼む。離れていろ」
止 「俺はこれから擬似的な間接射撃を行う。厳密には正しくはないがな」
月子 「………………」 コクン 「……分かった。トマル、」
止 「あん?」
月子 「……気を、付けるのだぞ?」
止 「はっ……当たり前のことを言うな」
――ダッ
494 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:28:34.38 ID:GmDdkNoo
………………
止 (T字路の直前、左付け根の部分に光学探知装置をセットした……)
止 (俺はT字路の下部、直行する部分から “10メートル以上” 離れた場所で、待機する)
――――ガチャッ!!
止 (カートリッジは変更した……特殊弾頭のセットも終わっている)
止 (あの袴野郎がそこを通ったら、俺はこの引き金を引く)
止 (……それで決着だ。たとえあの野郎が絶対防御能力とやらを持っているのだとしても、負けはしない)
止 (いくら攻撃をあの剣で切り裂いたとしても、それはあの剣の射程内でのこと)
止 (……絶対防御が仇となったな) ギリッ (“攻撃” ……すなわち弾頭自体を切り裂いてから、死ね)
止 (それができる……俺の、『斉撃』 なら…… “特殊弾頭B” ……この小型のナパーム弾頭ならな)
止 (『草薙』 とやらを使わせはしない。曲がり角で体勢を整える前に、この特殊弾頭を撃ち込む……!!)
タタタタタ……ピピッ!!
止 (……! 来たか……ッ!!)
ガゴッ……!!
止 「終わりだ……爆炎にまかれて死ねッ!! 魔術師!」
ガチャッ……ッッッッッドンン!!!!
495 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:29:14.83 ID:GmDdkNoo
宮司 「ッ……!?」 フッ 「……なるほど。今度はナパームですか」
ニィ
止 「……!?」 (あの野郎……笑った……? 気でも違ったのだとしたら哀れなもんだ)
止 (……だが、) フッ 「……悪いな。お前の死に目は見ない。目が焼かれるからな」 プイッ
カッッッ――――――
――――ッッッドオォォオオオオオオン!!! ゴォォオオオオオオ……!!!!
止 (………………) フッ (音からして、直撃か)
チラッ
――ゴォォオオオオオオ……!!!!
止 「ははっ……よく燃えてるな」 クク…… 「摂氏1000度の炎、居心地はどんなもんだ?」
宮司 「――――さぁ? それは実際に入ってみればわかるのでは?」
止 「ッ……!!?」 バッ
――――――――ザンッ!!
止 「炎が……消されていく……!?」
宮司 「いえいえ、そんな便利な能力は私にはありませんよ。ただ、可燃物を切り裂いて炎を散らしているだけのこと」
止 「な……何故……!?」 ギリッ 「何故……何故お前は生きている……!!」
496 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:31:17.28 ID:GmDdkNoo
宮司 「何故……と言われましてもねぇ……」
止 「お前は…… 『草薙』 を使えるような……剣を振るえるような体勢じゃなかったはずだ!!」
止 「自動防御である 『焔薙』 がナパーム弾頭を切り払ったとしたって、爆炎にのみこまれているはず……」
止 「何故……何故だ!!」
宮司 「ふむ…… 『草薙』 については月の姫から聞いたようですが……」
宮司 「――ならば、『草薙』 も 『焔薙』 も元が同じであるということはご存知ではないのですか?」
止 「な……にを……?」
宮司 「『焔薙』 が炎を払う防御術式、そして 『草薙』 が炎を孕む草を払う攻撃術式……」
宮司 「この二つは本来全く同じもの……それを意味づけで分けているだけのこと」
宮司 「しかしそれでは完全ではない。だから私はそれを統合し、完全とした」
宮司 「言ったでしょう? 私はかの 『英雄』 の術式を完全な形で完成させることに成功した、と」
宮司 「つまり、『焔薙』 の効果範囲である “武器の射程” に、“『草薙』 の射程” を加えることにね」
止 「なんだと……?」 ギリッ
止 「絶対防御の効果範囲は、剣の射程に、『草薙』 の射程である10メートルが加えられているということか……」
宮司 「ええ、その通り……」 ニタリ 「私を中心として半径10メートルは、わたしの絶対防御の効果範囲です」
宮司 「体勢を崩していようが何だろうが、自動的に 『草薙』 の射程距離で 『焔薙』 が発動します」
497 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:32:25.01 ID:GmDdkNoo
止 「ッ……」 ギリッ
宮司 「……今の、特殊なナパームのようですね。半径5メートルほどを燃やし尽くす弾頭……」
宮司 「なるほど。学園都市は便利なものを開発するものです」
宮司 「しかし今に限り、その利便性が仇となりましたね」 クスッ
止 (『草薙』 の射程に入った途端に、『焔薙』 が発動……あの野郎から10メートル離れた位置でナパームが爆発……)
止 (そしてナパームはその位置で半径5メートルを焼き尽くしたっていうことか……!) ギリッ
宮司 「本物のナパームクラスの出力があれば、私に火傷くらいは負わせられたかもしれませんけどね」
宮司 「まぁ、その場合はあなたは焼死体となっているでしょうけれど」 クスッ
止 「ぐっ……」 (隙をついたって……不意を打ったって……何をしても、無駄ってことかよ……)
宮司 「……いい加減、諦めてはいただけませんか? 私はただ、月の姫と 『剣』 を手に入れられればそれでいいのです」
宮司 「無益な争いはやめましょう。この戦いはあなたの独断で行っているはずです。益はないでしょう?」
止 「………………」
―――― 『イイなァイイなァイイなァ!!! イイ顔してるぜオマエ!!!』
止 「……はは、」 フッ 「……悪いな。お前ごときで月子を諦められるほど俺はヤワじゃない」
宮司 「……なんです?」
止 「もっと強大で圧倒的で……完璧な悪党と戦ったことがあるってだけのことだ」
498 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:35:43.27 ID:GmDdkNoo
宮司 「………………」
止 「それに、お前は益がないと言ったな? たしかに、俺にとってお前と戦うメリットはない」
止 「……だがな、それでも戦わなきゃならないときがあるんだよ。それが今だ」
宮司 「……正義の味方の真似事ですか?」
止 「胸くそ悪りぃ。どいつもこいつも、人を勝手にヒーロー気取りの野郎にするんじゃねぇよ」
止 「……約束したんだ。アイツを……月子を、“普通” に戻すってな」
止 「俺はもう、誰も失いたくない……正義感からじゃねぇ。ただ、単純な俺のワガママだ」
―――― 『ふふ……リーダーとしての、最後の命令だ……止、あの二人を……守ってくれ』
止 「俺はな……もう、アイツのように、大切な誰かを失いたくないんだよ……!!」
止 「俺は俺のために……ただ俺のワガママを突き通すためだけに……!!」
止 「お前を殺す……ッ!!」
……ザッ……ダッ!!
宮司 「なるほど。面白い覚悟ですね。あくまで自分の善意は否定するのですか」
宮司 「そこまでして自らが悪であると言い続けたい、後ろ暗い過去でもお持ちのようだ」
宮司 「ですが、まぁ覚悟は覚悟です。私もそれ相応の思いでそれを受け止め……そして叩き斬りましょう」
宮司 「――この、『草薙グ剣(クサナグツルギ)』 のレプリカで、ね」
499 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:36:26.27 ID:GmDdkNoo
止 「………………」 (恐れるな……!! たかだか射程が長いというだけの刃物だ……!)
止 (射程が不自然に長いだけの……そして、何もかもを切断するというだけの……ただの剣!)
止 (さっきまでの俺は判断を誤っていた……相手は10メートル圏内の攻撃と絶対防御を持っている)
止 (ならば最前の対抗策は距離を取ることではなく、距離を詰めること……!!)
止 (そして攻撃としての 『草薙』 の発動には、剣を振るモーションが必要不可欠……)
――――ッザンッ!!
止 「ッ……」 ズサッ……!! (そう……こんな風に、相手の動作に合わせて飛び退けば、十分に避けられる……!)
宮司 「………………」
フッ
止 「……!?」 ゾクッ
宮司 「……避けられると、そう思いましたね?」
――――――ゾワッ……!!
宮司 「――それが間違いだと、知ってください」 ピッ――
――――――ッッッドガッ!!!!
止 「がッッ……!!?」 (な……に、が……?)
――――ドガン!!!
止 「ぐはッ……!!」 (壁、まで、吹き……飛ば、された……の、か……?)
グッ……グググッ……
止 (ダメ……だ……背中、叩きつけられて……息が……)
――――――ガクッ
500 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:37:33.19 ID:GmDdkNoo
宮司 「………………」 フゥ 「……たしかに、あなたの予想通り、『草薙』 の発動には剣を動かす必要があります」
宮司 「ですが、その動作は、何も “振るう” だけではありませんよ?」
宮司 「あらゆる剣の動き……たとえば、剣を構え直す動作、などにも 『草薙』 を組み込むことができるのですよ」
宮司 「……まぁ、その場合は切っ先が相手に向いていないですから、必然的に峰打ちとなりますけどね」
宮司 「それでこの威力というのはやや嬉しい誤算ですが……何メートル吹き飛ばされました?」
止 「………………」
宮司 「おや……覚悟の割には呆気ない。もう意識はありませんか」
宮司 「もしくは……」 フゥ 「もう、死んでいるということでしょうか?」
?? 「止さん……!!」
……ザッ!!
宮司 「おや……先ほどの蛙の女性ではありませんか。それから、月の姫も」
世話子 「止さん……!」 ユサユサ 「止さん!! 止さん……!!!」
月子 「トマル!! トマル! しっかりするのだ……!!」
止 「………………」
宮司 「隠れていたのですか? そして、本命が敗れたから思わず出て来たと?」
宮司 「まったく、愚かしい……逃げればいいものを」
501 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:39:31.37 ID:GmDdkNoo
世話子 「……っ」 キッ 「……止さん……」
止 「………………」
宮司 「かなりの衝撃でしたからねぇ。気を失うなという方が無理な話でしょう」
世話子 「………………」 スッ 「……少しだけ、待っていてくださいね。止さん」
止 「………………」
月子 「世話子……?」
世話子 「……へへ」 ニコッ 「月子ちゃんも、ちょっとだけここで待っててね。止さんを頼んだよ?」
月子 「せ、世話子……? お前、一体、何を……」
世話子 「………………」 フッ 「……忘れた、月子ちゃん?」
世話子 「――私もれっきとした、『ボックス』 の一員なんだよ?」
世話子 「……届かなかった止さんの想いは、私が受け継ぐ」
グッ……!!
世話子 「止さんの代わりに……私が月子ちゃんを守る……!! そのためにあなたを殺す!!」
宮司 「……ほぅ?」
502 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:40:33.51 ID:GmDdkNoo
世話子 「私は無能力者――レベル0。何の能力も使えないけど……それでも……」
世話子 「それでも……守りたいものが、あるから……」
―――― 『……謹んで貰い受ける』 『ありがとう』
世話子 「私も、月子ちゃんを……月子ちゃんの笑顔を、守りたいから……!!」
……ダッ!!
宮司 「おやおや……」 フゥ 「リーダーがリーダーなら、その仲間もその仲間、ですか」
宮司 「まるで学習能力がない。彼が距離を詰めようとして失敗したのを見ていたでしょうに」
スッ……
宮司 「ならばあなたのその覚悟もまた、真っ向から斬り捨てさせてもらいましょうか」
――――――ッザン!!
世話子 「………………」 フン 「……この程度ですか」 ボソッ
――ザッ……ササッ……
宮司 「!!?」 (あの身のこなし…… 『通行止め』 よりよほど素早く……そして無駄がない……)
宮司 「しかし……」 ピッ――――
世話子 「……ふん」 ッタン……ザザッ……
宮司 「っ……?」 (また避けられたのですか……)
503 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:41:57.91 ID:GmDdkNoo
宮司 「………………」
宮司 「……あなたは今、『草薙』 の射程内に入っている。それなのに、剣を振っても当てられる気がしない」
宮司 「リーダーよりよほど良い動きをするのですね、あなたは」
世話子 「生憎と、止さんの言葉を借りるのなら 『ボックス』 のリーダーは永久欠番だそうですけどね」
宮司 「その動き……我々の世界にも通じるものがあると見受けますが?」
世話子 「魔術なんてものは知りませんね。けれど昔、少しばかりおイタのしすぎで色々とありまして」 ニコッ
世話子 「――暗殺者なんてものをやっていたことはあります」
宮司 「ほぅ……暗殺者ですか」 フッ 「それは怖い」
世話子 「少しは異名を轟かせたりしたんですよ? まぁ、思い出したくない過去ですけどね」
世話子 「少しスリが上手いだけの子どもだったんですけどね……」
世話子 「ある時、“やらかしてはいけない相手” に対してスリをしてしまいまして」
世話子 「殺されるかとも思ったのですが……そのスリの腕を買われて、暗殺者として訓練されてしまいました」
世話子 「そして学園都市の色々な派閥争いだとかに巻き込まれ……」
世話子 「現在はしがない 『ボックス』 のメンバーですよ。正規メンバーではありませんけどね」
世話子 「………………」 (そんな私を、優しく受け入れてくれた、『ボックス』 のみんな……)
世話子 (シィさん……メイさん……イルちゃん……そして、止さん……)
世話子 (私はみんなに守られて、暗部の下部組織なんかにいるのに、今まで生きながらえることができた……)
世話子 (だから……今は……今は……!!)
世話子 「……今度は、私がその優しさのバトンを……月子ちゃんに渡してあげたい……!!」
世話子 「そのために私はあなたを倒す。忌まわしい暗殺者としての技量、その全てを駆使してでもッ!!」
504 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:42:43.00 ID:GmDdkNoo
………………
月子 「………………」
グッ……
月子 「………………」 ギリッ 「……トマルだけでなく、世話子まで戦っておる」
止 「………………」
月子 「……トマルは、われのせいで、こんなに……」
月子 「こんなに、傷ついてしまった……」
月子 「……われだけが、ただこうして、安穏と眺めておる……」
月子 「われは……」 フルフル 「われは……」
月子 「われは、こうして見ていることしか、できぬのか……?」
スッ……
月子 「……ダメだ。われは…… “そう” したくなかったから、学園都市などに逃げたのだろう?」
月子 「われは、“カミ” でありたくないから、ここまで逃げて、トマルに助けを求めたのだろう?」
月子 「………………」
月子 「……だが……われは……」
月子 「――われは……」
止 「………………」
止 「………………」
505 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:43:32.07 ID:GmDdkNoo
………………
…………ッタンッ!!
宮司 「っ……」 ――ッザン!!
世話子 「そんな大振りの攻撃が当たるものですか!」 ……ズサッ
宮司 「くっ……」 (一歩……また一歩と距離を詰められていますか……)
宮司 (距離を詰められたところで脅威とはなりえない……しかし、)
宮司 (万が一にも剣を取られでもしたら、術式の発動が不可能になる……)
フッ
宮司 「……面白いです。『通行止め』 よりよほど面白い!!」
――――――ピッ
世話子 「っ……」 ザザッ……!! 「そんな子ども騙し! 当たりません!」
宮司 「まるでアメノウズメのような立ち振る舞い……素晴らしい女性ですね! あなたは!」
宮司 「そうです……そうです! だから私はあなたのその動きを評価したいのです!」
宮司 「神楽の雛形とも言える、古代の舞にそっくりなのですよ!! 素晴らしい!!」
世話子 「っ……余裕ですね!!」 ――サッ……シュン!!
宮司 「っ…… 『焔薙』」 ――――ッザン!!
506 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:44:22.16 ID:GmDdkNoo
宮司 「なるほど……暗殺に用いる投擲用のナイフですか」
宮司 「私の 『草薙』 を回避しながら正確無比に心臓を狙い放つとは……素晴らしい技術です」
世話子 「クソくだらない人殺しの手段に他なりませんよ。忌まわしいだけです」
――――サッ……シュシュシュシュンンンッ!!!
世話子 「でも今ばかりはこの技術を教えてくれた連中に感謝します!!」
宮司 「………………」 フッ 「……ですが、その全てを私の 『焔薙』 は防ぎきりますけどね」
……ザザザザンッッッ!!!
世話子 「っ……」 ギリッ 「やはり、どんな角度から、どこを狙って投げても……全てが切断され防がれてしまう……」
宮司 「ふふ……」 スッ…… 「手はもう出し尽くしましたか?」
世話子 「誰がそんなことを……!!」
――――ッッタンッ!!
宮司 「っ……この跳躍力は……ッ!!」 ……ザンッ!!
世話子 「……あなたの動き程度、もう見切っています!!」
ズザッ――……!!
宮司 「ッッ……!!?」 (『草薙』 を避ける動作で、私の至近に……!?)
世話子 (懐に潜り込めた、今なら……ッ!!!)
――――――ガチャッ!!!
宮司 「っ……!?」 (小型の拳銃……どこに隠し持って……!?)
世話子 「………………」 ニコリ 「……袖口に隠すのが、乙女のたしなみというものです」
――――ッダンッダンッダンッダンッダン!!!!!
507 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:45:25.64 ID:GmDdkNoo
世話子 「………………」
宮司 「………………」
世話子 「………………」
ギリッ
世話子 「な……何故……?」
世話子 「全弾を、撃ち尽くしたはず、なのに……」
宮司 「………………」 フッ 「……どうやらあなたはまだ、魔術というものを理解していないらしい」
……パラパラパラパラ……
宮司 「“至近距離から拳銃を撃てば、いくらなんでも当たるだろう”」
宮司 「そんな浅はかな考え、あなた方の常識が通じる 『自然科学』 の人間相手にしか通用しませんよ」
宮司 「私が魔術師であるとあなたも知っていたはずだ。それなのに、そんな常識を私に押し付けてしまった」
宮司 「魔術とは、○○をしたから××となる、というものではないのですよ」
宮司 「因果と結果が逆……すなわち、××であるから○○が実行される、というものなのです」
宮司 「『焔薙』 は武装の射程距離内に入った “攻撃” を切り払う絶対防御である……」
宮司 「……この魔術としての意味づけ、すなわち前提があるから、『焔薙』 は全ての攻撃を防ぐのです」
宮司 「それを見誤った結果が、これですよ」 ニコッ 「『通行止め』 はそれをしっかり理解していたようですがね」
508 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:46:04.40 ID:GmDdkNoo
世話子 「っ……」 ダッ――
宮司 「おっと、もういいでしょう?」
――――――ッザンッ!!
世話子 「あっ……」
……ハラリ――
世話子 「っ……!?」 キッ 「ふ……服を……ッ!!」
宮司 「おやおや、いけませんねぇ。下着などという無粋なものをつけては。嫌な西洋文化です」
世話子 「ぐっ……」
宮司 「あなたの勇ましい舞に免じて、命だけは取りません」
ニタリ
宮司 「ですが、あなたの美しい姿が気に入りました。月の姫と一緒に連れて帰ることに致しましょう」
世話子 「なっ……!!?」
宮司 「あなたには私の子供を孕んでいただきます」
世話子 「……っ」 ゾクッ
宮司 「無能力者……レベル0をひとり持っていくくらい、上層部も何とも思わないでしょうしね」
509 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:46:59.64 ID:GmDdkNoo
世話子 「やっ……いや、だ……そんなの……」
フルフル
世話子 「私は……そんなこと……っ」
宮司 「? 何故嫌がるのです? 私は 『英雄』 の術式を完全な形で再現させた日本神道中最高位の魔術師なのですよ?」
宮司 「対するあなたは能力者の落ちこぼれ……失敗作と言われる無能力者」
世話子 「いやっ……いやっ!」 フルフル 「言わないで……私は……」
宮司 「喜ぶべきでしょう? あなたは欠陥品の分際で 『英雄』 の目に留まったのですよ?」
世話子 「私、は……」 グスッ…… 「私は……失敗作、なんかじゃ……ない……」
宮司 「いいえ、失敗作です。誰にも求められず、誰にも必要とされず、ただ野垂死んでいくだけの、」
宮司 「――――ただの、欠陥品でしょう?」
世話子 「っ……ぁ……」 フルフル 「違う……ちがう……私は……」
世話子 「たすけ、て……誰か……止さん……シィさん……メイさん……」
世話子 「だれか……だれか……」
宮司 「誰も来はしませんよ。誰がただの無能力者であるあなたを助けるものですか」
宮司 「……さぁ、一緒においでなさい。私なら、欠陥品であるあなたを輝かせることができる」
――――――――――ドッッッッッッ!!!!!!!
510 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:49:06.95 ID:GmDdkNoo
宮司 「ッ……!?」 (この、感覚は……!!)
チラッ
?? 「………………」 ブルブル…… 「……――さぬ……」
宮司 「……やはり」 フッ 「力を振るうおつもりですか。『月詠之巫女』」
月子 「――――貴様だけは絶対に許さぬ!!!!!!!」
ドドドドドドドドドドドッッッッッッッ…………!!!!
世話子 「ひっ……!?」 ペタン (な、なに……? 月子ちゃんの周りを、圧倒的な何かが取り巻いている……?)
――ッドン
宮司 「ほぅ……あの小さな体躯の一歩で大地が揺るぎましたね……恐ろしい」
月子 「……貴様は、止を苦しめ、吹き飛ばし、傷つけた……!!」
月子 「貴様は、世話子と戦い、勝利した……!!」
月子 「……それだけならまだいい……戦うつもりで戦い、その結果が現れただけのことだからな」
月子 「しかし貴様は……ッ!! 貴様は世話子を辱め、愚弄し……失敗作と、欠陥品と罵った!!!」
月子 「許さぬ……貴様は絶対に許さぬッッッ!!!!」
世話子 「月子、ちゃん……?」
月子 「……世話子。誇るといい。お前は欠陥品などではない。失敗作などではあり得ない」
ニコッ
月子 「お前は温かく、優しく、人として持つべきを全て持った、素晴らしい人間だ」
世話子 「えっ……?」
511 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:49:59.42 ID:GmDdkNoo
月子 「お前は、頑なにお前たちを拒もうとしたわれに、衣服を買い与えてくれたな」
月子 「お前は、われに温かい茶を、甘い菓子を、出してくれたな」
月子 「お前は、われを風呂にいれようと苦慮してくれたな」
月子 「お前は、われのために、われに届いた手紙を奪い取ったな」
月子 「お前は、われのために、われなどと寝所を共にしてくれたな」
月子 「……お前は、震えるわれを、優しく抱き締めてくれたな」
月子 「お前の身体は温かかったよ」 スッ 「お前が抱き締めてくれて、われは嬉しかったよ」
世話子 「……月子、ちゃん……」 ボロボロ…… 「っ……」
月子 「……お前は欠陥品などではない。お前は、失敗作などではない」
月子 「お前はトマルと共に、われを救おうとしてくれた。われのために、そんなに傷ついた……」
月子 「そんなお前が、欠陥品などであるものか……」
月子 「そんな優しいお前が……温かいお前が……」 ギリッ
宮司 「………………」
月子 「――貴様などに失敗作などと呼ばれる筋合いはないッ!!!」
――――ッゴォォオオオオオオオオ!!!!
512 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:51:05.13 ID:GmDdkNoo
宮司 「………………」
フッ
月子 「……何が可笑しい」
宮司 「……いえいえ。これが可笑しくないわけがないでしょう?」
宮司 「『ボックス』 とは面白い組織ですね。お互いを守るために、全員が戦うのですか」
月子 「ああ、その通りだ。トマル曰く、“ぼっくす” は馴れ合いの組織らしいからな」
月子 「しかし馴れ合いの何が悪い。お互いを想い合い、庇い合い……守り合う。その心地よさを、われは知ったのだ」
宮司 「魔術師の言葉とは…… 『神体』 の言葉とはとても思えませんね」
月子 「安心しろ。自覚はある。だが……それでもいいと、思えるのだ」
宮司 「……あなたはせっかくここまで逃げたというのに……今さらご自分の力に頼ってしまうのですか?」
宮司 「あなたはその力を使いたくないからこそ、我々から逃げたのでしょうに」
月子 「………………」 フッ 「……確かに、貴様の言うとおりだ」
月子 「われは、カミになりたくないから……この化物の力を使いたくないから……」
月子 「だから、学園都市まで必死で逃げた。この力で、もう誰も傷つけたくなかったから」
月子 「……だがな。目の前で大切な者が嬲り物にされているというのに……」
月子 「――貴様などを慮って、力を出し惜しむような情けない真似はせぬ!!」
宮司 「……なるほど」 フッ 「いいでしょう。こちらとしても想定内のことです」
宮司 「あなたのお相手を致しましょう。この、『英雄』 の術式をもってしてね」
月子 「驕るなよ、人の子が。『英雄』 ごときがわれを討ち取るつもりか?」
世話子 「だ、ダメだよ……!」 フルフル 「ダメ……月子ちゃん、あなたに一体何ができるっていうの……?」
513 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:52:43.66 ID:GmDdkNoo
月子 「………………」 フッ 「……下がるのだ、世話子」
月子 「でなければ、われはきっと、お前も巻き込んでしまう」
世話子 「月子ちゃん……?」
月子 「……すまぬ。われは、トマルとお前に、無駄な傷を負わせてしまった」
月子 「この力を恐れ、逃げ、そして父様と母様を失い……危うくお前たちまで失うところだった」
月子 「大丈夫だ。安心しろ、世話子」 スッ……ギュッ
世話子 「あっ……」
月子 「……今だけは、交代してくれ。お前はわれが守る」
月子 「今で、ずっと守ってもらっていたからな。ずっと、抱き締めてもらっていからな」
月子 「今ばかりは、われに守らせてくれ。われに、抱き締めさせてくれ」
世話子 「ダメ……」 グスッ 「……ダメ。だめだよ、月子ちゃん……」
月子 「案ずるな。言ったであろう?」 フッ 「……われは、『化物』 であると」
世話子 「ダメ……だめだよ!」 フルフル 「……そんな、辛そうな顔をして……そんなの……」
月子 「……大丈夫だ。辛いことなど慣れている。だが、これ以上辛いことには耐えられない」
月子 「お前たちが死ぬようなことがあったら、われはきっと、本物の 『化物』 となってしまう」
ザッ……
月子 「だから、今だけは……われに任せてくれ。われは、大丈夫だ」
月子 「われは……お前たちを守るためならば、鬼とも修羅ともなろう。無論、一時の化物にも、なろう」
月子 「………………」 フッ 「……トマルを、頼んだ」
世話子 「………………」 グスッ 「……うん」 コクッ
514 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:53:31.61 ID:GmDdkNoo
………………
月子 「………………」
宮司 「………………」
クスッ
宮司 「……さぁ、見せてください。『神体』 としての力を」
宮司 「西洋の 『聖人』 と同じか、それ以上の力を持つとされる、最凶の力を……!!」
月子 「………………」 スッ 「……驕るな下郎が。簡単に見られると思うな」
月子 「――一撃で死なぬように気をつけろ……!!」
――――――ッドッッッ!!!
宮司 「ッ……!!?」
……カッ――――――ッッッドォオオオオオオン!!!
宮司 「がッ……!!?」 (ぐっ…… 『焔薙』 が……追いつかない……)
月子 「……ふん。その程度か? 『英雄』」 ……スタッ 「われはただ、貴様に突っ込み、蹴りを入れただけであろう?」
宮司 「……簡単に言ってくれますね……」 ガフッ! 「……ガトリングガン以上のスピードでそれをやらかしたというのに」
月子 「すまぬな。われはまだ未熟だ。『神体』 としての力を抑えるには、体技だけで済ますより方法がないのだ」
515 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:54:05.64 ID:GmDdkNoo
………………
世話子 「す、すごい……今の……目で追えなかった……」
世話子 「月子ちゃん……あなたは、本当に……」
グスッ
世話子 「……ごめん、ね」
ポタッ……ポタッ……ポタポタッ……
世話子 「何も、できなくて……」
世話子 「あなたに……そんなに辛そうな顔をさせながら、戦わせてしまって……」
世話子 「ごめんね……」 グスッ 「……ごめんね……!」
世話子 (わたし……本当に卑怯者だ……)
世話子 (戦うこともできず、守るべき女の子に、守ってもらってる……)
世話子 (わたしには……涙を流すことしか、できない……)
止 「………………」
止 「………………」
――――――………………
516 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:55:04.83 ID:GmDdkNoo
………………
宮司 「ふっ……随分な余裕ですね」
月子 「いや、余裕を見せるつもりはない。今の一撃で死ぬことを望んでいたが……」
月子 「さすがにそこまで柔ではないか。仮にも 『悲劇の英雄』 を名乗っているのだったな、貴様は」
宮司 「………………」
月子 「だが、われが未熟であることは変えようもない事実。下手に 『夜統ベル神』 の術式を行使し、」
月子 「――この学園都市全域を壊滅状態に陥らせてもいけないからな」
宮司 「……っ」
月子 「なればこそ……われは今だけ、これを振るおう……」
チャッ……
宮司 「……なるほど。そこで 『剣』 を持ち出すわけですか……」
月子 「ああ。われが最も安定的に行使できる “カミ” の霊装であるからな」
スッ……スルスル……
――――ゾッ!!
517 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:55:48.33 ID:GmDdkNoo
宮司 「っ……!!?」 (なんていう毒素だ……)
月子 「恐れるなよ、『英雄』」 ニヤリ 「貴様が望む物であろう?」
スルスルスル……ハラリ
――――――――――――……
ゾワァァァアッッッ……!!!
宮司 「ぐっ……これは……」 ダラダラ 「……さすがは、本物……これは……」
チャッ……!!
宮司 「っ……!!!!?」 バッ
月子 「………………」 フッ 「……大立ち回りをしてどうした?」
月子 「われは切っ先を貴様に向けただけであろう?」
宮司 「……ええ、その通りです……」 ゼェゼェ…… 「ですが、それだけで死を覚悟させられましたよ……」
月子 「ふん……情けないものだ」 チャキッ
宮司 「……さすがは、『剣』 ――」 ギリッ 「……さすがは、本物の 『十握剣(トツカノツルギ)』 ですね」
月子 「ああ……」
宮司 「『霊荒ラグ神』 が用い、かの 『八岐大蛇』 さえをも斬り殺したとされる、日本神道最高峰の霊装……」
宮司 「そして、当代でそれを唯一扱える…… 『月詠之巫女』 ……」
宮司 「……だから我々は、あなたがほしいのです……」
518 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:56:46.77 ID:GmDdkNoo
月子 「己の利益しか求めぬ、欲深き屑共に渡す身体や剣はない」
チャキッ
月子 「この 『十握剣』 を前にしてもなお退かぬ姿勢は見事だが、自殺行為であるぞ?」
月子 「この霊装を相手に、そんな 『草薙グ剣』 の複製とも呼べぬ玩具で、本気で立ち向かうつりか?」
宮司 「………………」
チャキッ
宮司 「それより他に、私に道はありませんから」
ニヤリ
宮司 「……参ります」
ダッ……!!!
月子 「………………」 フン 「……愚か者が」
月子 「とくとその心に刻みつけろ。そして、恐れ、敬え」
月子 「――これが、太古より人が恐れ、神格化してきた、本物の魔術だ……」
月子 「――――――術式起動、 『天ノ羽羽斬リ(アメノハハキリ)』」
――――ブゥン!!!
宮司 「ッ……!!?」 (これ、は……――――――)
ッッッッゴォォオオオオオオオアァァァァアアアアア!!!!!
宮司 (剣戟などでは、ない……本物の、カミの御業……太古の人々が恐れた……)
宮司 (災害に、他ならない……!!!)
――――ッッッドッッッッバァァァアアアアアアアアンンン!!!!!
519 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:58:16.51 ID:GmDdkNoo
………………
月子 「………………」 フラッ 「ぐっ……」
月子 「……少しばかり、力の制御を誤ったか」
月子 「……見晴らしが随分と良くなったものだ」
フッ
月子 「――まさか、前方のビル群をすべて薙いでしまうとは、われも思わなかった」
月子 「……まぁ、トマルがこの近辺に人はいないと言っていたから大丈夫であろう」
世話子 「………………」 ブルブル 「……い、今、の、は……?」
月子 「………………」 フッ 「……われがやった」
月子 「『天ノ羽羽斬リ』 ……かつて 『霊荒ラグ神』 が持っていたとされる剣の名を冠した術式だ」
月子 「『霊荒ラグ神』 の暴力性……その全てが籠もった、最凶の術式……」
世話子 「………………」
月子 「世話子……」 フッ 「……やはり、怖いか……われが――――――」
世話子 「――やったーーーーーー!!!」
月子 「はっ……?」
世話子 「あのいけ好かない男! 倒したよ月子ちゃん! 倒したんだよ!!」
世話子 「すごいよ! すごいよ月子ちゃん! あんなすごいことができるなんて、ますます見直しちゃった!」
世話子 「ほら、止さん! 気絶なんかしてる場合じゃないですよ!」
520 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:58:47.20 ID:GmDdkNoo
月子 「お……お前は……」 フルフル 「お前は……われが、怖くないのか……?」
世話子 「へっ……? 怖いって、何で?」
月子 「わ、われは……こんな強大で凶悪な魔術を使うことができる、化物なのだぞ?」
月子 「怖くは……ないのか?」
世話子 「………………」 フッ 「……それを言うなら、月子ちゃんは私が恥ずかしくないんですか?」
月子 「は……?」
世話子 「何の能力も使えないレベル0で、月子ちゃんを守ることもできない、グズな私を、恥ずかしいと思いますか?」
月子 「そっ……そんなことあるわけがなかろうがたわけ!!」
月子 「お前はわれの大事な仲間だ! その仲間を愚弄するのは、たとえ本人であったとしても許さぬぞ!!」
世話子 「……じゃあ、私もそれと同じ」
月子 「む……?」
世話子 「月子ちゃん私の大事な仲間。その仲間を化物呼ばわりするのは、たとえ本人であったとしても許さない」
世話子 「……これでいい?」 ニコッ
月子 「世話子……」 グスッ 「……やはり、お前は温かい……」
世話子 「ふふ……知らないようだから教えてあげるけど、月子ちゃんも温かいんだよ?」
世話子 「だから、月子ちゃん……――――――」
――――――……ガザッ……
521 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 00:59:55.22 ID:GmDdkNoo
月子 「……!!!?」 バッ 「瓦礫の、下……?」
ガザッ……ガゴッ……ガタガタガタッ……――――
――ッドバッ!!
世話子 「……!?」 ハッ 「うそ……な、何で……?」
月子 「くっ……伊達に 『英雄』 などと名乗っているわけではないということか……!!」
宮司 「………………」 フッ 「……そういうことです。瓦礫に潰されて、無傷というわけにはいきませんでしたがね」
宮司 「“これら” の御加護のおかげでしょうかね。助かりました」
スッ……
月子 「……それは、三種の神器……」 ギリッ 「――の、玩具か……」
宮司 「ええ。『八咫鏡』 に 『八尺瓊勾玉』 ……それから、この 『草薙グ剣』」
宮司 「……御伊勢で売っていたキーホルダーですよ。霊装とも呼べないただの土産物ですが……」
宮司 「それでも、“あなたの力” に対しては少しは加護が働くようですね」
月子 「……くだらぬ。運が良かっただけであろう」 スッ 「もう一撃、『天ノ羽羽斬リ』 をお見舞いしてやろうか?」
宮司 「……本気ですか?」 ニコッ 「もう、限界なのではありませんか? 『月詠之巫女』 ?」
522 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:00:44.12 ID:GmDdkNoo
月子 「……限界、とな?」
宮司 「先までと比べるまでもなく疲弊していらっしゃるご様子ですね。フラついていらっしゃいますよ?」
月子 「余計なお世話だ」 チャキッ……フラッ 「ぐっ……」
世話子 「月子ちゃん……!?」
宮司 「ほら、やはり」 フッ 「……そもそも、あなたがその剣を振るっていることそのものが無茶なのですからねぇ」
世話子 「えっ……? だ、だって……月子ちゃんは、あの御神体の管理者だって……」
宮司 「それは神社の娘として生まれたからこその義務ですよ」
宮司 「知りませんか? 神話で 『十握剣』 …… 『天ノ羽羽斬リ』 を振るっていたのは、『霊荒ラグ神』 なのですよ?」
宮司 「…… 『月詠之巫女』 とその身体の構造が似ているのは 『夜統ベル神』 ……」
宮司 「本来なら、その剣を振るい 『天ノ羽羽斬リ』 を使うことなど、『月詠之巫女』 にできるはずがないのですよ」
月子 「………………」
世話子 「じ、じゃあ……どうして……?」
宮司 「……ご存知ですか? この日ノ本の国には、その神話を記した書物が二つあるのですよ」
世話子 「二つ……?」
宮司 「その両方が魔導書の原典として名高いですがねぇ…… 『古之記(イニシエノシルシ)』 と 『日本之書(ヒノモトノショ)』 ですよ」
523 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:01:42.16 ID:GmDdkNoo
世話子 「あっ……学校の授業で、聞いたことがあるような……」
宮司 「……まぁ、一般の人間ならその程度の認識でしょうね」
宮司 「基本的には同じこと……この 『葦原中国』 ――日本にまつわる神々の説話が記されています」
宮司 「ですが、『古之記』 と 『日本之書』 にはいくつかの相違点が見られます」
宮司 「たとえばそう、『因幡之素兎』 。かの行は 『古之記』 においては記述が見られますが、」
宮司 「『日本之書』 では何一つ記述がありません。このように、両魔導書には相違点が見られるのです」
宮司 「……そしてその相違点の一つ…… “『食物神』 の殺害”」
月子 「………………」
宮司 「『月詠之巫女』 、あなたはその記述の相違を利用して、自身に 『霊荒ラグ神』 の属性を付与させている」
宮司 「違いますか?」
月子 「………………」 フン 「……たとえそれが分かったところで、どうなるものでもなかろうが」
月子 「その通りだ。われは、古代の神話において往々にして見受けられる 『神の同一視』 を利用し、」
月子 「……この 『夜統ベル神』 の身体に 『霊荒ラグ神』 の力も宿している」
月子 「『日本之書』 において 『食物神(ウケモチ)』 を殺害するのは 『夜統ベル神』 であるが、」
月子 「『古之記』 では 『食物神(オオゲツヒメ)』 を殺すのは 『霊荒ラグ神』 となっている」
524 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:04:22.02 ID:GmDdkNoo
月子 「この相違点から両神は同一視されることもしばしば……」
月子 「そもそも、『夜統ベル神』 は神話においての記述が少なく、不明瞭な点が多い」
月子 「その上に 『霊荒ラグ神』 の術式を被せることなど、『神体』 であるわれには容易いこと」
宮司 「……ふふ、容易い、ですか」 クスッ 「しかし、その割には無駄が多いようですがね」
月子 「なんだと……?」
宮司 「『神力』 …… 『魔力』 の消費も甚大なようだ。そもそも、二柱のカミを無理に同一視させて振るっている術式ですからねぇ」
宮司 「……あなたは、それを最も安定的に行使できる術式だと言った」
宮司 「しかし、それは間違いですね。二柱のカミの力を振るうことができるその同一視の効果……」
宮司 「それはあなたの 『神体』 としての力を確かに底上げしているかもしれません」
宮司 「――しかしそれと同時に、あなたの 『神体』 としての弱点も大きくしてしまっているのですから」
月子 「………………」 フン 「…… 『遍照ラス神』 の術式でも使うつもりか?」
月子 「たしかにわれは今、二柱のカミの属性をその身に宿している」
月子 「そこに両神の弱点である伊勢の最高神…… 『遍照ラス神』 の術式が割り込めば、われはただではすまぬだろう」
宮司 「おや、そんな悠長でいいのですか? こちらには 『遍照ラス神』 を象徴する三種の神器があるのですよ?」
月子 「黙れたわけが。そんなレプリカとも呼べぬ土産物で何ができる」
525 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:05:54.22 ID:GmDdkNoo
月子 「それに貴様は男であろう? 男に 『遍照ラス神』 の術式は行使できぬ」
月子 「万が一にもできたとして、その身にそぐわぬ魔術の行使は命を削る。貴様も死ぬぞ?」
宮司 「その通りです。私は男。古代において太陽……高位にあったのは常に女性」
宮司 「故に私に 『遍照ラス神』 の術式は使えません」 ニヤッ 「……ですが、それはあなたにも言えること」
月子 「………………」
宮司 「二柱のカミの力を無理矢理その身体に宿し、行使しているだけでも不安定だというのに、」
宮司 「それに加えてあなたは女。しかし 『夜統ベル神』 も 『霊荒ラグ神』 も男神です」
宮司 「……あなたは今、綱渡りのような状態にあるはずですよ?」
月子 「………………」 ギリッ 「……勝手なことを。ならばその綱から落としてみるといい」
チャキッ……!!
月子 「……これで終わらせる。術式起動、――――――」
宮司 「――――おっと、もう一度というのはさすがにこちらも辛い」
スッ……ポッ……ポッ……
月子 「……?」 (土産物を投げた……?)
宮司 「三位一体……本来は十字教での意味ですが、古今東西どの神話においても “3” という数字は大きな意味を持つ」
526 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:06:53.61 ID:GmDdkNoo
宮司 「たとえばバラモンにおける三神、たとえば十字教におけるトリニティ……そして、日本神話における三種の神器」
月子 「……何度言えば分かる? こんな霊装でもない玩具で何が――――」
宮司 「――――魔力はいりません。そこに、三種の神器…… 『遍照ラス神』 を象徴するモノがあれば、それでいい」
――――――ッゴゴゴゴゴゴ……!!
月子 「……!?」
世話子 「光……? まるで、太陽のような……」
宮司 「ぐ……ッ」 ガッ……ガハッ!! 「……っ……さすがに……身体が……」
月子 「……貴様、自殺がしたいのなら余所でやれ。男である貴様に 『遍照ラス神』 の術式は使えぬ」
月子 「意味づけだけでここまでやったのは見事だが、これが限界であろう。身体が吹き飛ぶぞ?」
宮司 「……たしかに、『遍照ラス神』 を再現するのはここまでが限界でしょう……」
宮司 「です、が……」 ニッ 「これなら、どうですか……?」
スッ……
月子 「……五輪塔……?」 ハッ 「ま……まさか貴様……!!?」
宮司 「もう遅いですよ……」 フッ 「私は日本神道の原理主義に属する者。本当ならこんなことはしたくありませんけどね」
――――ダッ!!
宮司 「―――― 『神仏習合』 ……!!!」
――――――……ドッッッッッ……!!!!!
527 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:08:04.92 ID:GmDdkNoo
月子 「がッ……!!?」 ゴハッ……!! 「――――ガァァァアアアアアアアアアアアア!!!!」
世話子 「つ……月子ちゃん……?」 バヂッ!! 「きゃっ……!!?」 ドサッ
世話子 「なっ……何が起こってるの!?」
月子 「ァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
宮司 「………………」 ゴハッ……!! 「っ……今ここに滅びなさい、悪しきカミ……」
――――――ドバァァァァァアアアアッ!!!!
月子 「っ………………」 ……パタッ 「……ぐ……が……」
宮司 「………………」 ゼェ、ゼェ…… 「……膨大な神力が暴走する前に、神力を外へ出し切ったということですか」
宮司 「そのセンス、『神体』 であることを差し引いても素晴らしい。さすがは 『月詠之巫女』 です」
世話子 「つ……月子ちゃん……!!?」 ダッ…… 「月子ちゃん……!? 月子ちゃん!!」
月子 「……ぐ……が……」 ハァ、ハァ、ハァ…… 「……す……まぬ……世話子……」
世話子 「月子ちゃん……」 キッ 「月子ちゃんに何をしたんです!!?」
宮司 「そう睨まないでください。私だって宗派違いの術式を使ったので……」
ガフッ……!!!
宮司 「……見ての通り、結構満身創痍なんですよ?」
528 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:09:08.07 ID:GmDdkNoo
月子 「……貴、様……仮に、も……神道を、信奉する、者で、あるというのに……」 ギリッ
月子 「『遍照ラス神』 を……仏と……同一視、したな……!!」
宮司 「だから言ったでしょう? 私は神道の復古を望む者。原理主義者であると」
宮司 「私だって本当ならこんな術式を使いたくはありませんでしたよ」
宮司 「ですが、あなたの唯一の弱点である 『遍照ラス神』 の術式を行使するには、こうするしかなかったのですよ」
宮司 「…… 『遍照ラス神』 を仏教の存在である 『遍照天(ダイニチニョライ)』 と同一視するしか、ね」
世話子 「仏教……? どういうこと……?」
宮司 「学校で習いませんでしたか? 忌まわしき古代の法、『神仏習合』」
宮司 「仏教を日本に取り入れるために、古来の神々を仏などと同化させたことを言いますが」
宮司 「……一般に最高神とされる 『遍照ラス神』 もその例外ではありません」
宮司 「男である私には 『遍照ラス神』 の術式は使えない……しかし、『遍照天』 ならその限りではない」
宮司 「『神仏習合』 によって 『遍照ラス神』 と 『遍照天』 を同一視し、」
宮司 「『遍照天』 を象徴するこの五輪塔のレプリカを使ってその術式を行使する……」
宮司 「……古来、弟神というのは姉神には絶対に敵わないものなのです」
宮司 「あなたのように弟神二柱の力をその身に宿しているのであればなおのこと」
宮司 「ねえ、『月詠之巫女』 ? 私があなたに対する備えもせずに、ノコノコとやって来ると思っていたのですか?」
529 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:10:28.58 ID:GmDdkNoo
月子 「ぐっ……それ……でも」 ……ヨロ 「……がっ……」 ガクッ
宮司 「無理ですよ。今のあなたは自爆を阻止するために膨大な 『神力』 全てを手放した状態でしょう?」
宮司 「『神体』 としての力はおろか、通常の魔術すら……いえ、身体を動かすことすらままならないはず」
宮司 「無理はなさらないでください。あなたは、我々 『神生ミヲ現ス士』 にとって大切な存在なのですから」
ニタリ
世話子 「っ……近づかないでください」 バッ 「あなたなんかに、月子ちゃんを渡すもんか……」
宮司 「おやおや、下着姿ではしたない」 ニヤッ 「……まだ辱めが足りませんか?」
……スピッ
世話子 「っ……」 …………ハラリ 「……っ……くっ……」 フルフル……
宮司 「……やはり上半身に下着などは不要ですね。その姿の方がお綺麗ですよ?」
世話子 「っ……っく……」 フルフル 「……どきません……それでも……」
宮司 「……なら、今度はショーツですかね。それくらいは着けていても構いませんが、」 クスッ
宮司 「……脱がせてほしいと言うのなら仕方ありません」 スッ――――
月子 「――――やめ、ろ……!!」 ググッ…… 「それ、以上……世話子に、狼藉を……はたらくなッ」
世話子 「月子ちゃん、立っちゃダメ……あなた、もう限界でしょう……!?」
530 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:11:16.21 ID:GmDdkNoo
月子 「っ……それ、でも……ッ」 ガシッ
世話子 「えっ……」
――――――ブゥン!!!
世話子 「きゃっ……!!?」 (月子ちゃん……!?)
――ドサッ……
月子 「ぐっ……」 ――パタリ
世話子 「……つ、月子ちゃん……? な、何で、私を……投げ飛ばしたの……?」
月子 「お前、だけ、でも……ッ……」 グッ 「……お前、だけでも……逃げろ……!!」
宮司 「………………」 フゥ 「……最後の力を振り絞ってやったことが、そんな茶番ですか?」
宮司 「残念ながら私は彼女が大層気に入りました。あなたとともに連れて帰りますよ?」
月子 「貴様……などに……!!」 ギリッ 「貴様などに……世話子は、渡さん……!!」
宮司 「………………」
――――――ドガッ!!
月子 「がッ…………!!?」
宮司 「堕ちたカミが偉そうに言ってくれますね? 『英雄』 に敗北したのです。減らず口は慎みなさい」
531 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:11:46.39 ID:GmDdkNoo
世話子 「やっ……やめて……!!」
世話子 「月子ちゃんに酷いことをしないで……!!」
宮司 「ふふ……ご安心を。我々は彼女の身体を求めています。少し痛い目を見てもらっただけですよ」
宮司 「こうすれば、あなたは逃げるに逃げられないでしょうしねぇ?」
ニヤリ
世話子 「っ……」
月子 「世話子……われの、ことは、いい! 早く……お前だけでも……逃げろ!!」
世話子 「………………」 フルフル 「できない……そんなこと、できないよ……」
宮司 「……ええ、それでいいのです」 ニコッ
――――――ドガッ!!
月子 「がはっ……!!」
世話子 「月子ちゃん!!!」
宮司 「ふふ……ねぇ、『月詠之巫女』 ? ご存知ではなかったですか?」
宮司 「古来より、悪しきカミというものは、『英雄』 に討ち取られる運命にあることを」
532 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:12:22.94 ID:GmDdkNoo
ガッ……グイッ
月子 「う……っ……」
宮司 「おやおや、喋ることもままなりませんか。少し強く蹴りすぎましたかね」
月子 「……や……だ……」
宮司 「はい?」
月子 「いや……だ……」
……ツ
月子 「いや、だ……いやだ……」
……ポタ、ポタ、
宮司 「おやおや、この局面で泣き出しますか。ふふ、それではただの子供と変わりませんね」
宮司 「まったく。これから本物の 『夜統ベル神』 になられるという方が情けない」
月子 「いやだ……いやだ……われは……」
宮司 「泣いたって変わりませんよ。あなたは日本神道のための礎となるのですから」
宮司 「カミの力を受け継ぐあなたが、本物のカミとなる……ふふ、素晴らしいではありませんか」
宮司 「子宮を切除し、あなたは完全な中性となる。すなわちカミと同じ存在となるのですよ」
宮司 「それが我々 『神生ミヲ現ス士』 の目指す、本物の 『神生ミ』 です」
533 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:13:23.13 ID:GmDdkNoo
世話子 「なっ……!? なんてことを考えて……!!」
宮司 「そうすれば先のような弱点も解消され、完全な形で 『剣』 を振るうこともできる」
宮司 「そうなれば、北欧魔神の出来損ないにも遅れをとることはないでしょう」
宮司 「カミの領域に足を踏み入れれば、かの 『禁書目録』 をも圧倒することができるのですよ」
宮司 「そうすれば、この国の宗教の正しい有り様を、取り戻すことも造作ないことなのですよ?」
宮司 「それを厭うとは……まったく、度し難いですね」
月子 「そんなこと、われは知らない……われは、もう、いやなのだ……」
月子 「われは……ただの子どもでありたい……われは、ただの、一人の、女子でありたい、だけ……」
宮司 「運命ですよ。そういう星の下に生まれてしまったんです、あなたは」
宮司 「カミとよく似た身体のつくりをしているのですから、それくらいは受け入れてください」
宮司 「ああ、それとも、“女” を散らす前にカミになるのが嫌ということでしょうか?」
ニタリ
宮司 「それならご安心を。このわたしが責任を持ってあなたの初めてを奪ってさしあげましょう」
月子 「……!」
世話子 「なっ……!! あ、あなたは……!!」
宮司 「妬かないでください。あなたは私の正妻です」 ニコッ
534 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:14:13.22 ID:GmDdkNoo
宮司 「そもそも古来より、巫女とは清浄なる存在でありながら不浄な存在でした」
宮司 「カミに仕える身の上であるからこそ、誰の男根を受け入れても文句を言う者はいない」
グイッ
宮司 「綺麗な顔だ。まったく、カミとして生まれたのがもったいないくらいですね」
ニィィ
月子 「う、ぁ……」
宮司 「巫女は近世まで村落での娼婦のような役割を果たしていましたからねぇ」
宮司 「大丈夫。あなたの “女” は、後でゆっくりとわたしが散らして差し上げます」
月子 「……いや……いや……」
宮司 「さて、満六歳の少女の膣に、成人男性の男根が入るのかどうか……」
宮司 「ま、どうせ切除するものですし、少しくらい乱暴にしてもかまいませんかね」
月子 「いやだ……いやだっ……」
世話子 「ダメ……ダメ……そんなの……酷すぎる……」
月子 「助けて……」
世話子 「誰か……」
月子 「誰か……たすけて――」
――――……ザッ……!!!!!
535 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:14:49.65 ID:GmDdkNoo
月子 「へ……?」
世話子 「……えっ……?」
? 「――――おいおい、そこは “誰か” じゃねぇだろ」 フッ
月子 「!」
世話子 「!?」
宮司 「……?」
? 「しっかりと言おうぜ、」 ニヤッ 「『トマル、たすけて』 ってな」
――……ユラリ、
宮司 「へぇ……まだ立ちますか。何というか、難儀なお方ですね」
止 「……ああ、安心しろ。自覚くらいある」
世話子 「止……さん……?」 グスッ…… 「止さん!」
月子 「トマ、ル……」
止 「おう」 ガヂャッ……!! 「……待たせたな、月子、世話子」
536 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:16:20.64 ID:GmDdkNoo
月子 「……だ、駄目だっ……逃げろ……!」
月子 「逃げろ! 今度こそ死ぬ……死んでしまうぞ!!」
止 「死なねぇよ、安心しろ」 フッ 「大丈夫だ。俺は死なない。まだ、死ぬわけにはいかないからな」
止 「俺を信じろ、月子」
月子 「トマル……」
止 「だからもう一度だけ聞かせてくれ。お前がどうしたいのか、その本心を」
止 「俺にどうしてほしいのか、その言葉を、聞かせてくれ。そうすれば俺は戦える。絶対に勝てる」
月子 「われ、は……」
止 「うん。お前はどうしたい? お前がどうしたい? お前は、どうなりたい?」
止 「お前はこれから、何がしたい?」
月子 「われは……」 グスッ 「カミになど、なりたくない……」
月子 「普通に、学校とやらに、行って、勉強をして、科学のことも、知って……」
月子 「“ともだち” というものも、作って……普通の、遊びを、して……」
月子 「そんな、ただの、ひとりの、ちっぽけな、普通の、人間でありたい……」
月子 「カミになど、なりたくない……!」
――……グスッ
月子 「……だから、トマル、」
月子 「――――――――たすけて……っ」
止 「……ああ、それだけ聞ければ十分だ」 ニッ
止 「その願いは叶う。その想いは届く。そのために、俺は今ここにいる」 スッ 「俺がおまえを守るよ」
止 「――……おまえは俺が、守るから」
537 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:18:54.21 ID:GmDdkNoo
宮司 「……おやおや、科学の尖兵は随分と無責任なことを言いますね」
宮司 「守る? 誰が? 誰を? 誰から?」
宮司 「不完全とはいえカミすらも凌駕する私を? あなたごときが倒すと、そう言うのですか?」
宮司 「ふふ、くだらないですねぇ。本当にくだらない。時間の無駄と申しましょうか」
宮司 「ただの人間風情が、『英雄』 の術式を前に勝負になると思っているのですか?」
止 「………………」 スッ 「……一つだけ覚えておけ、クソペド野郎」
宮司 「はい?」
止 「願いってのはな、カミサマなんかに届きはしないんだよ」
止 「どんなに願ったって、望んだって、カミサマは願いを叶えてくれやしない」
止 「そして、都合のいいヒーローも、こんな闇の底には現れてくれやしない」
止 「けどな、真摯な願いは、想いは、誰に届かずとも、カミサマに届かずとも、傍にいる誰かには届くんだよ」
止 「“アイツら” みたいな本物のヒーローに届かなくとも、傍らにいる奴にだけは、絶対に届くんだ」
止 「そして今、月子の傍には俺がいる。俺はヒーローなんかじゃない。『英雄』 とやらでもない。カミサマなんて代物では有り得ない」
止 「だけど覚えておけ。俺は今ここにいて、月子の言葉を聞いて、立ち上がることができるんだ。俺にだけは、月子の言葉が届いたんだよ」
止 「月子のために、おまえの前に立ちはだかることができるんだよ」
止 「……大それた言い方かもしれないが、これは奇跡だ。だから俺は、月子の起こしたこの奇跡を信じる」
止 「カミサマじゃない、ヒーローでもない、ただの人殺しの俺だけど、それだけは心底信じてるんだよ」
宮司 「………………」
止 「だから俺は、今ここに宣言する」
――ガヂャッ……!!
止 「こっから先は 『通行止め』 だ。ついでに命も置いていけ」
止 「――俺はおまえを、殺す」
538 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:19:46.30 ID:GmDdkNoo
宮司 「……ふん」
ブン……ザザッ……!
月子 「っあ……」
止 「月子ッ……!」
宮司 「情けない声を上げないでください、下賤の輩。邪魔だから放っただけのこと」
宮司 「月の姫、あなたはそこで見ていなさい」
宮司 「『英雄』 に対して牙を剥いた、哀れな 『人間』 の末路をね」
宮司 「そして絶望しなさい。あなたを救える者などいない。あなたを救う者などいない」
宮司 「それをしっかりと認識し、理解し、そして絶望してください」
月子 「………………」 キッ 「……われは、信じる」
宮司 「……?」
月子 「われを信じてくれたトマルを、われも信じる……!」
世話子 「月子ちゃん……」 ギリッ 「……そうだよ……そうだよ! 私たちは、止さんを信じてる!!」
止 「………………」 フッ 「……重い言葉だ。だが、背負ってやるよ」
止 「――それが、俺の人殺しとしての、せめてもの矜持だ」
539 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:21:23.42 ID:GmDdkNoo
世話子 「止さん……」
バサッ……
止 「……お前の身体は、夜空に晒しておくには惜しいくらいに美しい。羽織っておけ」
世話子 「……っ///」 カァア 「……止さんからそんなストレートに褒めてもらったの、初めてな気がします」
止 「ああ……。悪いな。生憎と俺は天の邪鬼なんだ」 ニコッ 「……だが、今だけは言わせてもらう」
世話子 「えっ……?」
止 「……世話子、ありがとう。お前が戦ってくれたから、俺はもう一度戦うチャンスを得ることができた」
世話子 「そんなの……だって、私は、何もできなくて……」
止 「何を言ってやがる。お前のおかげで、ようやくあのクソ野郎をぶちのめす算段がついたっていうのに」
世話子 「え……? 私の、おかげで……?」
止 「……確かにお前はレベル0だ。この学園都市において、おそらくは埋もれてしまうような存在だよ」
止 「だがな、お前の温かさは俺も知っている。その優しさを、俺は知っている」
―――― 『願わくは、『コイツら』 ではなく、『俺たち』 と呼んでくれる日が来ることを』
止 「そう……いつだって、お前は俺を支えてくれていた……」
―――― 『メイさん、止さん、早く……!! 早く乗ってください!!』
―――― 『だから守りたい……メイさんも、シィさんも、イルちゃんも、止さんも……』
―――― 『死も覚悟の上です。言ったはずですよ? 皆さんのために死ねるのなら本望です、と』
止 「……お前はいつだって、俺の力になってくれた」
―――― 『あっ、おかえりなさい、止さん』
止 「お前のその明るい笑顔に、温かい言葉に、優しい心にに、俺は何度救われたと思う?」
世話子 「止さん……」 グスッ 「止さん……!」
止 「だから誇れ。お前は月子と俺にとって、かけがえのない存在なんだ……!!」
540 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:22:07.69 ID:GmDdkNoo
宮司 「………………」
止 「……よくもまぁ、俺の 『ボックス』 の奴らを好き勝手に弄んでくれたな」
止 「覚悟しろよ、魔術師? 俺はお前を殺すと言ったんだ」
宮司 「………………」 フッ 「……できるのなら、ご自由にどうぞ?」
止 「……ああ」
――――――ガヂャッ!!!
止 「そうさせてもらう……ッ!!」
……ダッ!!!!
世話子 「止さん……!」 ギュッ
月子 「トマル……!!」 ギュッ
世話子 「勝って……勝って、ください……! 止さん!!」
月子 「勝て……勝つのだ……!! トマル!!」
タタタタタタタタ……!!!
宮司 「……ふん。相も変わらず学習能力のない。距離を詰めたところでどうしようもないと言っているのに」
宮司 「――――10メートル圏内へ進入。『草薙』 で迎撃します」
ザンッ……!!
541 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:23:15.28 ID:GmDdkNoo
止 「………………」 フッ 「……学習能力がないのはどっちだよ」
――――ギィィィィィィンン!!!!
世話子 「へぁ……?」 クラッ 「……何……? 頭が、重い……?」
止 「――――世話子!! お前の脳髄を貸りるぞッッ!!!」
――――――ッタン……ササッ……
宮司 「……!?」 (何です……? 先より動きが……)
―――ッザンッ!!!
止 「……当たらねぇよ、クソが」 ――ザッ……
宮司 「この動き……」 ギリッ 「……まるで、あの娘のような……」
――ッザン!!
止 「へぇ……」 ――ッタン!! 「よく分かったな」 ――ザザッ……!!
宮司 「っ……これは……どういう……!?」 (あの娘と同じ…… 『草薙』 の射程内にいるのに、当てられる気がしない……!)
世話子 「これは……この、感覚は……」 スッ 「……温かい。止さんの、『通行止め』 のパス……!!」
止 「……悪いな、世話子。お前の脳髄の動作演算アルゴリズムを借りさせてもらっている」
止 「お前の身体じゃないから完全ではないが……筋肉の動作の参考にはなる」 フッ 「これもお前の、誇るべき財産だな」
世話子 「止さん……」
宮司 「ぐっ……どういう仕組みかは知りませんが、彼女の動きをトレースしているということですか……ッ」 ギリッ
542 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:24:08.65 ID:GmDdkNoo
宮司 「ですが、どうあがこうと変わりません! 『草薙』 が当たらなくとも、私には絶対防御術式 『焔薙』 がある!」
宮司 「何をしようと、私に攻撃を与えることはできない!!」
――――――ッッッザン!!!
止 「………………」 フン 「……くだらねぇ」 ……ザザッ!!
――ガチャッ!!
止 「―― “弾丸を散弾へ”」
――――――ドバッ!! ドバッ!!! ドバッ!!!!
宮司 「ッ……」
ガガガガガガ……!!!!
宮司 「何度試せば気が済む……!!」 ギリッ 「『焔薙』 は絶対防御なのだと言ったでしょう!!」
宮司 「さっきと同じです。どんな至近で、たとえ散弾を放ったとしても、私の 『焔薙』 は貫けない!!」
宮司 「剣の射程から 『草薙』 の射程まで、全ての “攻撃” は 『焔薙』 に防がれるのですよ!!」
――――ッザン!!
止 「ぐッ……」
――――――――ッタン!! ズザッ……!!
543 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:24:59.76 ID:GmDdkNoo
宮司 「ようやく隙を見せましたね……!!」
――――ッザン!!!
止 「ッ……!!?」 ギリッ 「クソがッ……!!」
――――ブゥン!!! ……ガシャッ!!
――……ッッズザァァァア!!!
宮司 (避けた……!? 小銃を手放すことで重心を無理矢理に変えたのですか……!!)
宮司 (だが、これで彼に武器は……――)
止 「――――何を呆けてやがる、クソが」
宮司 「!!?」 (ッ……さっきの彼女と同じ……避けると同時に肉薄された……!!)
止 「ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
――ブゥン!!
宮司 「………………」 ニヤッ 「……拳は例外だとでも思いました?」
――――――ザン!! ――ボタッ……
宮司 「はははははははははは!!!! 左手首が飛びましたね! 大変愉快です!!」
宮司 「たとえ拳であろうとも、それが “攻撃” であるのなら、『焔薙』 は全てを切り裂き防ぐのですよ!!」
――――――――――ガチャッ!!!
宮司 「……!!!?」 (袖口に拳銃を……!? しかし…… 『焔薙』 ならば……――)
止 「――……悪いな。お前の高説はもう聞き飽きた」
ッダン!!! ッダン!!! ッダン!!! ッダン!!! ッダン!!! ッダン!!!!!!
544 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:26:19.72 ID:GmDdkNoo
宮司 「………………」
止 「………………」
宮司 「………………」
――――――ゴフッッッ!!!
宮司 「がっ……ぐっ……」 ユラッ…… 「な、何、故……?」
宮司 「――――何故、『焔薙』 、が……発動……しない……?」
止 「……馬鹿が。テメェで言ってたんじゃねぇかよ」 フン 「『焔薙』 の効果範囲は、剣と 『草薙』 の射程内だと」
宮司 「だ……だから……何、だと……?」
止 「――――――……お前、剣の射程がゼロからだとでも思ってたのか?」
宮司 「っ……!!?」
止 「どんな剣の達人だって、零距離で剣を振るうことは出来ない。そもそも、剣の射程は刃渡りの半分ほどからだからだ」
止 「お前の防御術式 『焔薙』 は、“剣の射程と 『草薙』 の射程内の全ての攻撃を切り裂く”」
止 「だがな、そもそも前提として零距離は剣の射程じゃねえ。『草薙』 は剣の射程を10メートルにするだけだから関係ない」
止 「……だから俺は、お前に銃口を押し当てて、零距離から発砲した」
止 「“銃口を押し当てる” こと自体は “攻撃” じゃねぇから、『焔薙』 は発動しない」
止 「俺の左手を落としてご満悦だったお前は隙だらけだから、テメェで剣を振ろうとすらしなかった」
止 「お前は自分の絶対防御を過信していたんだよ。それがお前の敗因だ」
545 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:27:24.65 ID:GmDdkNoo
宮司 「ぐっ……こんな……」 ガクッ 「こんな……科学の……尖兵に……ッ」
宮司 「私が……この、『英雄』 が……敗北、する……など……」
止 「はっ……くだらねぇ」 フン 「お前は 『英雄』 なんかじゃねぇよ」
止 「――――ただのロリペドセクハラ野郎だ」
宮司 「ぐ……ごぁ……」 フラッ……
――――――バダッ……!!
止 「………………」 スッ 「……はは、小指と薬指どころじゃねぇなぁ、これは」
止 「今度は左手ごと失くしちまったか。ザマぁねぇな」
フッ
止 「だがまぁ……これくらいで、守りたい者が守れたのなら、僥倖か」
タタタタタ……ダッ!!
世話子 「止さん!!」 ダキッ!!
止 「のわっ……お、お前……!!」 アタフタ 「こっちは左手吹っ飛ばされてんだぞ!?」
世話子 「止さん……止さん!!」 ギュッ 「私、信じてました! 止さんが、勝ってくれるって!!」
止 「ん……ああ……」 ムギュッ 「……ん? って……お前いま裸みたいなもんなんだから抱きつくなッ!!」
世話子 「えっ……あ……!!」 バッ 「と、止さんのえっち!!」
止 「お、俺のせいになるのか、今の……」 フッ 「……月子、」
月子 「………………」
546 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:28:15.69 ID:GmDdkNoo
月子 「………………」 ポーッ
止 「……月子」
世話子 「……月子ちゃん……」
月子 「……われ、は……」 ポーッ…… 「われ、は……」
月子 「われ、は……救われた、のか……?」
止 「………………」 フッ
ギュッ……
止 「ああ。これでもう、お前を狙う者は来ない」
月子 「われ、は……」 グスッ…… 「“普通“ に……」
止 「……おう。いつでも戻れる。だから、安心して眠れ」
月子 「う……む……」 フッ 「……ありがとう……トマル……世話子……」
zzzzz……
世話子 「ふふ……良かった……」 フラッ 「っ……」
――スッ……
止 「……お前も俺に演算領域を貸して疲れているだろう? 眠れ」 スッ…… 「ありがとう。お前のおかげで勝てた」
世話子 「そんなこと……ありません、よ……」 フッ 「私の、ヒーロー……止さん」
世話子 「早く……その、左手の、止血……を……」 カクッ…… 「………………」 zzzz……
止 「………………」 フッ 「……さて……止血より何より先に、やらなきゃならないことがあるな」
スッ……prrrrr
547 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:30:05.76 ID:GmDdkNoo
prrrr……ピッ
?? 『驚きました。本当に勝ってしまったのですね』
止 「その声の様子だと本当に驚いているみたいだな。失礼な野郎だ」
?? 『はは、そう言わないでください。相手はプロの魔術師、プロの人殺しなんですよ?』
?? 『……何にせよ、勝ったのは喜ばしい。さすがは 『通行止め』 ですね』
止 「白々しいことをぬかすなクソが。叩き潰すぞ」
?? 『怖いですねぇ』 クスッ 『ところで、今度は左手を丸ごと切断されたのでしょう? 大丈夫ですか?』
止 「……どっから見てやがるクソ野郎……。ふん、問題ねぇよ」
?? 『さすがにそのケガの程度では、早く止血しないと死にますよ? っていうか、痛くないんですか?』
止 「俺はレベル4の 『通行止め』 だぞ? テメェの不随意運動くらい完全に制御できる」
?? 『……?』
止 「左腕の痛覚は感じないように完全にシャットダウンしている」
止 「それに加えて、患部の筋肉を強制収縮し、出血を最小限に留めている。あと二時間は問題ないだろう」
?? 『はぁ……』 フゥ 『便利な能力ですねぇ』
止 「違うな。本当に便利な能力ってのは、こんな怪我をしなくともクソ野郎をぶちのめせる能力を言うんだよ」
?? 『なるほど。言われてみれば、その通りかもしれませんね』
548 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:30:46.54 ID:GmDdkNoo
止 「……俺が何でお前に電話をしたか分かるか?」
?? 『? 戦勝報告ですか?』
止 「くだらないことをぬかすな」 ギリッ 「……分かってるんだろう? 交渉だよ」
?? 『おや? まさか日本神道の魔術師を倒したことを対価に新しい条件でもつけるつもりですか?』
止 「………………」
?? 『いけませんねぇ、欲張りは。今回のことはあなたの独断でしょう?』
?? 『それで報酬を求めるというのは、少々いただけませんよねぇ』
止 「……分かっているさ。この戦いそのものは、俺のワガママだ」
?? 『なら……――』
止 「――……だが、この魔術師の命は、どうだ?」
?? 『………………』
止 「聞いたよ。魔術師って奴は、科学サイドの人間が殺してはいけないもんなんだろう?」
宮司 「………………」
止 「……この魔術師は、瀕死だがまだ生きている。それを俺が今から殺したら、」
止 「――さて、上層部が危惧していた、魔術結社との関係性はどうなるんだろうなぁ?」
549 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:31:38.08 ID:GmDdkNoo
?? 『………………』
止 「月子を奪う気満々だった魔術結社が、送り出した魔術師が敗北するなんてイレギュラーを考慮に入れていたはずがない」
止 「……学園都市と魔術結社とが結んだ密約とやらに、魔術師の敗北に関する条項はなかっただろう?」
止 「起こってしまったイレギュラーに対して、魔術結社はどう考えるだろうなぁ?」
止 「月子に関しては、一度きりで諦めるという条項を呑ませてある」
止 「しかし敗北した魔術師に関しては何の取り決めもなしていない。魔術結社は返還を要求するだろう」
止 「……そして事を荒立てたくない学園都市上層部も、そうすることを望むだろう」
止 「だったら、この魔術師を殺されたらまずいだろう?」
止 「ローマ正教だけでなく、『神生ミヲ現ス士』とやらとも戦争をしたいのなら別だがな」
?? 『………………』
止 「……それが嫌なら、俺の要求を飲め。月子と世話子を、表へ戻せ」
?? 『………………』 フッ
?? 『……まったく、本当に、えげつないことを思いつくものです』
?? 『たしかに、その魔術師をあなたに殺される事態は、こちらにとって望ましくないですね』
?? 『――……まぁ、前提として 『神生ミヲ現ス士』 なんていう魔術結社があれば、の話ですけどね』
クスッ
550 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:32:38.95 ID:GmDdkNoo
止 「……!? どういう意味だ……?」
?? 『そのまま受け取っていただいて結構ですよ』
?? 『その魔術結社が存在していれば、確かにあなたの脅迫は厄介だと言ったんです』
止 「『神生ミヲ現ス士』 が存在しないとでも言うのか……?」
止 「すぐに看破されるようなはったりをぬかすな! ならばこの魔術師は何だと言うんだ!!」
?? 『ええ、そうです』 ニコッ 『その魔術師が所属していた 『神生ミヲ現ス士』 は存在していました』
止 「……ッ」 ギリッ 「“いました” 、だと……?」
?? 『まぁ……』 クスッ 『もうすでに壊滅してしまいましたけどね』
止 「……!!? だからくだらないはったりを言うな!!」
止 「この魔術師はレベル5クラスの実力を持っていた! こんな奴がゴロゴロいるような魔術結社を、」
止 「そう簡単に壊滅なんてできるものかッ!!」
?? 『………………』
クスッ
?? 『……だからあなたは常識を知らないというんです』
止 「ッ……!?」
551 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:33:22.02 ID:GmDdkNoo
止 「まさかお前……」 ギリッ 「魔術結社に対して、レベル5を投入したっていうのか……!?」
?? 『そんなわけがないでしょう? 魔術に対してそう簡単に超能力者など投入できるはずがない』
止 「な……ならばどうやって――――」
?? 『――――イギリス清教……』
止 「……? 何だと?」
?? 『知りませんか? 英国独自の体系を持つ十字教の宗派です』
止 「っ……それがどうしたと聞いているんだ!!」
?? 『イギリス清教は……まぁ、その中でも主に 『必要悪の教会』 という組織の話になりますが、』
?? 『……主に、異端者や異教徒、背信者を裁くことを仕事としています』
止 「……?」
?? 『現代において、彼らとてさすがに異教徒であるというだけで攻撃をするようなことはありませんが、』
?? 『……民間人に危害を加える可能性のある危険な魔術的存在について、彼らは容赦なくそれを破壊します』
?? 『そして我々学園都市とイギリス清教とは、成り行き上とはいえ、ほぼ同盟状態となっています』
止 「ッ……まさか……!」
552 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:37:58.78 ID:GmDdkNoo
?? 『お察しの通りです』 クスッ 『イギリス清教 『必要悪の教会』 が先ほど、『神生ミヲ現ス士』 を殲滅してくれました』
?? 『彼らは日本神道の原理主義……宗教による独善を良しとする、大変危険な魔術結社でしたから』
?? 『ねえ、『通行止め』 ? なぜ私があなたのワガママにゴーサインを出したんだと思います?』
止 「何だと……?」
?? 『何の益もなく、あなたを魔術師なんかにぶつけるはずがないでしょう? 時間稼ぎのためですよ』
?? 『――『必要悪の教会』 が、『神生ミヲ現ス士』 を殲滅するまでの、時間稼ぎのため、です』
?? 『殲滅前に 『神体』 が魔術結社に渡ってしまうことだけは避けたかったですからねぇ』
?? 『あなたは本当に良い仕事をしてくれました。感謝しますよ、『通行止め』』
止 「馬鹿な……! あんな魔術師がゴロゴロいるような組織を、そんな短時間で……!!」
?? 『まぁ、あなたの前で寝ている魔術師は、『神生ミヲ現ス士』 の中でもとりわけ強力な使い手だったようですがね』
?? 『……それでも、たしかに凄まじいと思いますよ?』 クスッ
?? 『何せ、“彼女” はたったひとりで 『神生ミヲ現ス士』 を壊滅させたのですから』
止 「……!? な……何を言っている!? たったひとりで、一組織を壊滅させただと……!?」
?? 『ええ。それが “彼女” です。敵でなくてよかったと心底思いますよ』
?? 『……ところで、こんなに暢気に私と話していていいのですか?』
止 「……ッ、何の話だ?」
?? 『言ったでしょう? 『必要悪の教会』 は、危険性のある魔術的存在を放ってはおかないと』
止 「ッ……!? ま、まさか……」 ギリッ 「……その、“彼女” とやらが……――――」
――――――……ザッ……
止 「ッ……!!!?」 バッ
?? 『……さてはて、『通行止め』 ?』 クスッ 『今度こそあなたも、終わりかもしれませんよ?』
――――プツッ
553 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:38:56.99 ID:GmDdkNoo
?? 「………………」
止 「………………」 ギリッ 「……お前が……」
月子 「………………」
?? 「………………」 チラッ 「…… 『月詠之巫女』 というのは、そちらの少女ですね?」
止 「お前が……イギリス清教の 『必要悪の教会』 とやらの人間か?」
?? 「………………」
止 「………………」
?? 「………………」
止 「………………」
スッ……
止 「ッ……」 ザッ……!!
?? 「………………」 フッ 「そう警戒をなさらないでください。あなたを傷つけようというわけではありません」
止 「………………」 ギリッ (何だ……この女……優しい、慈愛に満ち溢れた目をしやがる……!!)
?? 「……まずは自己紹介が先でしたね。非礼をお詫びします」 ペコリ 「初めまして。お察しの通り、私は 『必要悪の教会』 所属、」
?? 「――――神裂火織と申します」
554 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:39:27.93 ID:3ui9.bco
かおりん
555 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:39:33.45 ID:GmDdkNoo
止 「………………」 フン 「……道理をわきまえた常識人のようだな」
止 「『通行止め(ドライブキャンセラー)』 だ。他に名前はない」
神裂 「……あなたも、良識を持った賢しい方のようです。助かります」
神裂 「ところで、本題に入る前に一つよろしいですか?」
止 「………………」 ジッ 「……なんだ?」
神裂 「……せめてそちらの左手、」 スッ 「簡単な応急処置だけでもさせてください」
止 「……何だと?」
神裂 「私の教義に誓って、罠などではありません。ただ、私は傷ついたものを放っておけるほど器用ではないのです」
止 「………………」
神裂 「………………」
止 「……気遣い、感謝する」 スッ 「ありがたく世話になろう」
神裂 「………………」 ホッ 「……良かった。断られたらどうしようと気が気ではありませんでした」
ニコッ
止 「………………」 (コイツが魔術結社を壊滅させた……? 嘘だろう?)
止 (こんな、善意と正義しか感じられない、ヒーローのような女が……)
556 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:40:24.07 ID:GmDdkNoo
………………
神裂 「……どうですか? 魔術的な処置になってしまいましたが、違和感はありませんか?」
止 「いや……」 スッ 「……俺の能力を使わなくとも、出血がなくなったようだ」
止 「ありがとう。助かる」 ペコリ
神裂 「いえいえ。私のワガママのようなものですから、お気になさらずに」
止 「………………」 フン 「……そろそろ本題に入らせてもらおうか」
神裂 「……はい」
止 「アンタが 『神生ミヲ現ス士』 を壊滅させたというのは本当か?」
神裂 「……ええ、その通りです」 スッ 「今さっき、この手で……」
神裂 「あなたの左手を治療をしたのと同じ、この手で」
止 「っ……」 (ダメだ……コイツは嘘をつくような人間じゃない……)
止 (……これは、本気なんだ。本当の、ことなんだ……!!)
止 「……ここに来たお前の目的は何だ?」
神裂 「………………」 ジッ 「……あなたもすでに、分かっているのではないですか?」
止 「ッ……」 バッ 「……俺の察した通りだというのなら……ッ!!」 ザッ……!!
――――――ガチャッ!!!
557 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:41:18.67 ID:GmDdkNoo
神裂 「………………」 フッ 「……その小銃で、私を撃ちますか?」
止 「ッ……!」 ギリッ 「な……何故身構えない! 俺はお前に銃口を向けているんだぞ!?」
神裂 「あなたはまだ撃たない。それが分かっているからです」
止 「ぐっ……」 ジリッ 「……お前は……一体……!!」
神裂 「………………」 チラッ 「――それにまだ、殲滅すべき人間が生きているようですので」
止 「な……にを……――――」 チラッ
宮司 「………………」 スッ 「……おや? ばれていましたか?」
止 「ッ……!?」
神裂 「コソコソと姑息な真似を。『神力』 ……魔力をこっそりと回復にあてていたのですね?」
宮司 「ええ、まぁ……」 ニヤッ 「せめて、そのクソガキだけでも殺しておこうかと思いまして」
フラッ……――――ッザン!!
止 「……!?」 (まずっ……避けられな――――)
――――――――ッッッギィン!!!
止 「なっ……!?」 (何だ……? ワイヤー? これが俺への 『草薙』 を弾いたっていうのか……!?)
宮司 「っ………!」 ギリッ 「魔術師のくせに科学の能力者を庇うのですか!?」
558 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:42:00.10 ID:GmDdkNoo
神裂 「くだらないことを。倒すべきが誰かくらい、私は心得ていますよ」
神裂 「……魔術結社 『神生ミヲ現ス士』 、残党」 スッ 「私は殺生を好みませんが、」
シュシュシュシュシュシュッッッ……!!!!
宮司 「なっ……!?」
止 (神裂の手から、大量のワイヤーが……これは……!?)
神裂 「――人々に害なす者であれば、それもやむなしかと」
宮司 「つ、剣が……動かせな……――――」
神裂 「――――せめて安らかに、あなたの信条の赴く先へ、召されてください」
……ッッッッドン!!!
宮司 「がッ……は……」 ガクッ 「……ぐ…………が……」
――――――――パタリ……
止 「……なんだ……何なんだ……これは……?」
止 (俺が……俺と月子と世話子……三人がかりでようやく倒した魔術師を……)
止 (この女は……神裂は……一瞬で、一撃で、倒しちまいやがったっていうのかよ……!!)
559 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:42:50.56 ID:GmDdkNoo
神裂 「………………」 スッ 「……やはり、人を殺すというのは、嫌なものです」
止 「………………」
神裂 「それを主とする組織に身を置きながら、何を言っているのかというような言葉ですけどね」
止 「……納得したよ。お前が、たったひとりで 『神生ミヲ現ス士』 を殲滅したっていうその言葉」
止 「今のを見ただけで信じられる気分だ」
神裂 「……そうですか」
止 「………………」 ギリッ 「お前は……!!」
――――ガチャッ!!
止 「……お前は……それに加えて……」 ギリッ 「……月子まで、殺そうって言うのか……!?」
神裂 「………………」 ジッ 「……ええ。私は彼女、『月詠之巫女』 を、殺しに参りました」
止 「ッ……!!」
止 「月子が強大な 『神体』 という力を持っているから……だから殺すっていうのか!?」
神裂 「………………」
止 「あの子は好きであんな力を持っているわけじゃない! ただ、持って生まれてしまったというだけだ!」
止 「あの子はあの力を悪用することなんか望んではいない! あの子に危険性はない!」
560 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:43:50.45 ID:GmDdkNoo
止 「だから……だから、見逃してくれよ……!!」
止 「あの子はやっと、あんな力に翻弄される運命から逃れることができたんだよ!!」
神裂 「………………」
フルフル
止 「……!?」
神裂 「……それでも、変わりません。『必要悪の教会』 は、『月詠之巫女』 を危険と判断します」
止 「何故……なぜだ!! 何故あの子を殺そうとする……!!」
神裂 「………………」 スッ 「……未来のためです」
止 「……何だと? 未来?」
神裂 「ええ。今回 『神生ミヲ現ス士』 に対しては先手を打ち、私を投入することで潰すことができました」
神裂 「……しかし、もし次があったら?」
止 「次……だと?」
神裂 「日本神道系魔術結社は 『神生ミヲ現ス士』 だけというわけではありません」
神裂 「今は危険ではない結社や神社が、彼女の力を欲するようになったら?」
神裂 「その時に、また今回のように彼女を守り通すことができますか?」
561 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:44:47.09 ID:GmDdkNoo
止 「……!?」 ギリッ 「そんなこと――」
神裂 「――あなたがさせない、ですか?」
神裂 「しかしあなたには、彼女以外にも背負うものがあるようにお見受けしますが?」
止 「っ……」
神裂 「………………」 フゥ 「……正直な話をしましょうか?」
神裂 「彼女が本当に、正真正銘のカミの力を得たとしたら、私でも勝利は難しいでしょう」
止 「………………」
神裂 「……彼女は本当に希有な力をその身に宿しているのです。それこそ、核弾頭のように、強大な力をね」
神裂 「その力が悪用されれば、多くの罪なき人々が蹂躙され、殺戮され、涙を流すこととなるでしょう」
神裂 「……あなたに、その時の責任が取れますか?」
止 「っ……そんなこと……」
神裂 「……我々魔術師には、その覚悟を示す魔法名というものがあります」
神裂 「私はその魔法名に誓って、そんな未来を排除しなければならないのです」
神裂 「多くの人が苦しむような未来を……私は、徹底的に排除します」
神裂 「……それに、その未来が実現したときに、一番苦しむのは誰だと思います?」
神裂 「――――他でもない、カミとなり、望まぬ悲劇をまき散らす彼女でしょう?」
562 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:45:43.12 ID:GmDdkNoo
止 「っ……」 ギリッ 「じゃあ……月子は……」
神裂 「………………」
止 「月子が生まれてきた意味ってのは何なんだよ!!」
神裂 「………………」
止 「あの子は強大な力を持って生まれて、自由もない生活を強いられて、」
止 「その身体を狙う魔術結社に追われて……それからもようやく解放されて、」
止 「……それなのに、今度は殺されるっていうのかよ……!!」
ギリッ
止 「あの子に、幸福な…… “普通” の生活は与えられないのかよ!!」
神裂 「………………」
止 「お前は……お前は……ただ、“普通” を望むあの子を、あくまで殺すっていうんだな……!!」
神裂 「……最大多数を救うためです。それに、これはイギリス清教から正式に下された命令ですから」
止 「……違う。そんなのは、絶対に違う!」
止 「アイツらだったら……ヒーローなら!! そんなクソッタレなことを許すはずがないッ!!」
神裂 「………………」 ギリッ 「……そう、ですね……きっと、“彼” なら……」
神裂 「“彼” なら……違う答えを、出しているでしょう……」
563 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:47:34.02 ID:GmDdkNoo
止 「っ……それを分かっていながら……ッ!!」
止 「お前は、テメェの中のヒーローが否定するような答えしか抱けないっていうのかよ!!」
神裂 「……私は彼とは違う」
止 「俺だって違う……!!」 ギリッ 「だがな……少なくとも、俺の中のヒーローを否定したりしない!!」
―――― 『お前にだって守りたい奴がいるんだろ!? 笑顔にしたい奴がいるんだろう!?』
止 「アイツだったら……絶対にそんな答えを良しとはしない!!」
止 「俺はヒーローじゃない、ただの人殺しだ。だが、それでも……!!」
止 「―― “最悪の未来” なんていうふざけた幻想で殺される命を、諦めることなんてできるかッ!!」
神裂 「ッ……!?」
止 「………………」 グッ 「俺は……」
―――― 『われは信じるぞ! われの未来を。われの望みを。そして、止のことを!』
止 「俺は……、俺は!!」 ギリッ 「あの子の未来を……お前なんかに潰させやしない!」
神裂 「………………」 スッ 「……いいでしょう。相手になります」
神裂 「ご安心を。命は取りません。派手なケガをさせるつもりもありません」
―――― 『――まずはその幻想をぶち壊す!!!』
止 「………………」 スッ 「……悪いな、借りるぜ、上条」
神裂 「……!?」
止 「……いいだろう、神裂。お前が、クソくだらねぇ未来なんかで、あの子の命を奪おうっていうんなら、」
止 「――――まずはその幻想をぶち殺す!!」
564 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:48:33.69 ID:GmDdkNoo
止 「死ぬんじゃねぇぞ神裂!!」
――――ガチャッ……!!
ッダン!! ッダン!! ッダン!!
神裂 「……ふん」 ッタン……!!
止 「……!?」 (単純な反射神経と脚力で、至近距離からの弾丸を避けたっていうのかよ……!!)
神裂 「………………」 ――シュン!! 「『七閃』 ……!!」
シュルルルルルルッッッ……!!
止 (っ……ワイヤーかッ!!) ――ダッ!!
神裂 「……その程度で避けたつもりなら、甘いとしか評価のしようがありません」
シュルルルルルルッッッ……!!!!
止 「ッ……!?」 (なんだ……生きてやがるのか、あのワイヤー……!?)
神裂 「………………」 ……シュン!!
――――――ドバババババババッ……!!!
止 「は、ぁ……!!」 (ワイヤーの網……!? いや、これはそんな生易しいものじゃ――――)
ドガガガガガガガガガガガガガガッッッ!!!!
止 「ごがッ……!!!」
――――――――……ガクッ
565 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:49:18.59 ID:GmDdkNoo
神裂 「………………」
止 「ぐっ……」 ギリッ 「まだ……」 ヨロ……
神裂 「……無駄です。やめてください」
神裂 「私は今の状態で、『七閃』 ……ワイヤーによる攻撃、その半分の技量も出していません」
神裂 「そしてその先には、私の真説の術式が待っています。あなたに私を倒すことはできません」
止 「ッ……うるせぇ……!!」
神裂 「…… 『死ぬんじゃねぇぞ神裂!!』 ……ですか」
神裂 「私も多くの戦場を経験してきましたが、これから戦おうという相手に対して死ぬなと言う人は初めて見ました」
止 「っ……」 フン 「……殺したくないヤツは殺したくない。ただの人殺しのワガママだよ」
神裂 「不殺の精神などを持って私に挑むということですか?」
止 「お互い様だ。メチャクチャな手加減しやがって。今の立ち合いで十回以上は俺を殺すチャンスがあったはずだ」
神裂 「……言ったでしょう。覚悟を示す魔法名というものがある、と」
神裂 「私はそれを名乗らずに、人を殺すことはありません」
止 「………………」 ギリッ 「……やはりお前は善人だ。だから俺はお前を殺したくない」
566 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:50:51.49 ID:GmDdkNoo
神裂 「………………」 スッ 「……ならば、私はあなたの攻撃手段を潰しましょう」
シュルルルルルルッッ……!!
止 「ッ……!?」 (しまっ……機械化小銃を……!?)
――ドガガガガガガッ!!!
……ガコッ……!!
止 「っ……クソが……!!」 バッ……ザザザッ……!!
神裂 「……どうします? あなたの小銃は破壊しました。もう、あなたに攻撃手段はないはずです」
止 「ッ……言っただろうが! 諦めないってなッ!!」
ダッ……!!
止 「オオオオオオオオオオォォォォォォォオオオオオオオオオオオ!!!!!」
神裂 「……そういうところも “彼” と同じですか」
神裂 「拳も片方しかないというのに……それでもまだ、私に立ち向かうのですね」
神裂 「私が圧倒的な力を持っていることを知りながら、それでもなお、」
神裂 「――右手ひとつで、私に向かってくるのですね」
神裂 「………………」 スッ……
神裂 「……ならば私も、真っ向からそれを迎え撃ちましょう」
………………シュルルルルルルッッッッ!!! ザザザザザザザ……!!!!
568 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:51:34.58 ID:GmDdkNoo
止 「ッ……!?」 (さっき以上の数のワイヤーが……!)
止 「……クソッタレ……それでも俺は……!!」
ダッ……!!
止 (怯むな、恐れるな!! アイツらだったら……恐れず立ち向かう!!)
神裂 「……おやすみなさい、」
神裂 「―――― 『通行止め』」
――――――ガガガガガガガガガガ……!!!
止 「ごッッ……!!?」
ガガガガガガ……!!! ――ッタン……
止 「………………」 ガクッ 「ぐっ……が……」
――――――パタリ
止 「………………」
神裂 「………………」 スッ 「……申し訳ありません」 ペコリ
神裂 「………………」 (私だって、本当はこんなことをしたくない……なんていうのは、卑怯ですよね)
神裂 (私は結局 『必要悪の教会』 の手先……その上に、自分の正義を被せることしかできない)
月子 「………………」 zzzz……
神裂 「……未来のために、多くの、救われぬ者を救うために……あなたを……」
スッ…………
569 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:52:42.33 ID:GmDdkNoo
止 (………………) スッ……ガクッ (……あ……だめ、だ……)
止 (身体が……全然、動かない……)
止 (精神論とか、そういうレベルじゃ、ない……)
止 (圧倒的な力の差……これは、きっとどうしようもないこと、なんだ……)
止 (強さが違うとかじゃない。格が……レベルが……次元が違う……)
止 (勝てるわけがない……こんなのに、勝てるわけがない……)
止 (だってそうだろう? 俺は、能力者以外の相手には、『斉撃』 しか対抗手段がないんだぜ?)
止 (そしてその 『斉撃』 は敗北した……機械化小銃はすでに、バラバラに壊された)
―――― 『それでも……そうじゃねぇだろう!? なぜ戦うのかなんて、単純な “強さ” の問題じゃねぇだろう!?』
止 (……無理だよ、上条。だって、俺は、お前とは違うんだ……)
止 (お前のような、不屈のヒーローじゃねぇんだよ。ただの、人殺しなんだよ……)
―――― 『足掻いて、足掻いて……何かがあって、1が増えて、また1が増えて、そして、3に並ぶことを……』
―――― 『そんな奇跡を……待つことが、できるんだよ……!』
止 (無理だよ、103。俺は、お前のようには戦えないよ……俺には、無理だよ……)
止 (俺は、ただの人殺しなんだよ……お前たちみたいな、ヒーローじゃ、ないんだよ)
止 (きっと……きっと、アイツらなら……ヒーローなら……)
止 (こんな状態でも、立ち上がるんだろうな……立ち上がって、もう一度神裂に立ち向かうんだろうな)
止 (ヒーローなら……きっと……。ヒーローなら、絶対に……立ち上がる)
止 (………………) グッ…… (ヒーローなら……)
ギリッ……!!!
止 (……だったら……!! だったら……ッッ!!)
止 (立てよ、『通行止め』 ……!!)
止 (お前が月子を守りたいという人殺しとしてのワガママを貫きたいというのなら……!!)
止 (……立てよ) グッ……ググッ…… (ヒーローなら立ち上がると言うのなら……!!)
止 (―――― “ヒーローになってでも立ち上がれ” ッッッ!!!!)
570 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:54:05.01 ID:GmDdkNoo
………………
神裂 「………………」
…………ザッ……!!
神裂 「……?」 クルッ
止 「………………」 フラッ…… 「………………」 フラッ……
神裂 「………………」 ギリッ 「……やめてください。もう、立っているだけで限界でしょう?」
止 「……まだだ」 フラッ…… 「まだ、俺は……月子の命を、諦めない……」
神裂 「………………」 ギリリッッ 「あなたは……何も分かっていない……!!」
神裂 「イギリス清教があの子を危険だと判断したんです!」
神裂 「そして学園都市もまた、彼女のような魔術的に危険な存在を野放しにしておく気はない!!」
神裂 「両組織にとって邪魔な存在を、一個人で守れるわけがないでしょう!?」
神裂 「私が彼女を見逃しても、彼女はもっと苦しみながら、両組織に殺されるだけのことです!!」
神裂 「それならば……いっそ私が……ッ」
止 「………………」
ククッ……
神裂 「!? な……何が可笑しいッッ!!?」
止 「……何だよ」 フッ 「やっぱりお前も、本当は月子を殺したくないんじゃないか」
神裂 「ッ……! 言葉のアヤです! 私は、最悪の未来で苦しむ人々を救うために、彼女を……!!」
神裂 「彼女を、殺すと決めたのです……!!」
571 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:55:58.63 ID:GmDdkNoo
止 「……お前、迷ってるだろ?」
神裂 「ッ……」
止 「月子の命と、月子の力によって奪われるかもしれない数多の命を天秤にかけて、迷っている」
止 「……なら……迷うくらいなら……!!」 グッ 「両方とも救う道ってのはないのかよ!!」
神裂 「ぐッ……吠えるな能力者ッ!!」 ギリッ 「そんな道があるというのなら、私に示してみせろ!!」
神裂 「私のような下っ端も倒せないのであれば……そんな道は絶対にあり得ない!!」
止 「……ああ、そうだな」 スッ 「なら、俺は俺のもてる最大の力を持って、お前に立ち向かおう」
神裂 「ッ……」 スッ…… 「ならば、名乗りましょう……私の、覚悟も」
神裂 「……イギリス清教 『必要悪の教会』 所属、天草式十字凄教、元女教皇…… 『聖人』」
神裂 「魔法名は、『救われぬ者に救いの手を』 。……参ります」
止 「……学園都市、特殊チーム 『ボックス』 所属、大能力者 『通行止め』 、通り名は “能力殺し” ……」
止 「……こっから先は、『通行止め』 だ。残念ながらな」
止 「――――だが、だからこそ……新しい道は俺が作る……!!」
572 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:56:36.19 ID:GmDdkNoo
神裂 「……あなたの手に武器はない!」
――――――ダッ……!!
神裂 「この一撃でお終いです……!!」
止 「………………」
―――― 『魔術は普通の人間にしか扱うことが出来ぬのだ。だから能力開発を受けたお前には使うことが出来ない』
―――― 『もしお前がそれでも強引に魔術を行使しようとすれば……拒絶反応が起こり、最悪、身体が弾け飛ぶ』
止 「……ふん……構うものか……」 フッ 「ヒーローなら、それくらいやるだろうからな……」
スッ……
神裂 「……?」 ハッ 「ま、まさか……ッ!!?」
―――― 『まぁ、能力の “れべる” とやらが高い方が、魔術を行使したときのダメージはより大きいかもしれんがな』
止 「ただではすまないかもしれないな……まぁ、今さらな話か……」
神裂 「や……やめなさい……!! あなたは死ぬ気ですか……!?」
止 「……お前は本当に優しいな。覚悟とやらを示した後だってのに、敵の心配かよ」
止 「だが……悪いな。もう、止まれないんだ……」
―――― 『私の術式はこの剣を手に持っているというだけでで自動的に起動します。穴はありませんよ?』
止 「その言葉、信じるぜ? クソ野郎」 スッ―― 「『英雄』 とやらの術式を、俺によこせ……!!」
――――――ガシッ!!!
573 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:57:45.74 ID:GmDdkNoo
バヂヂヂヂヂヂヂヂッッッ…………………………!!!!!!
止 「がッ……!?」 (こ……れは……!!?)
神裂 「っ……人が手に持つと自動的に起動する術式が施された霊装……それを能力者が持ったとすれば……ッ!」
神裂 「放しなさい!! それはあなたに扱えるような代物じゃない!! 拒絶反応で死にますよ!!?」
ヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂ……バヂッ!! ブッッシャァァアアアアア……!!
止 「ぐッ……!!」 (身体中の筋肉が、悲鳴を……いや、違うな……)
止 (身体中が、無理矢理に引き裂かれるようだ……だが……それでも……!!)
止 「オォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
――――ギィィィィィィンン!!!!!!!!
神裂 「なっ……出血が、勢いを減じた……!?」
止 「いつまで、も……!!」 スッ…… 「敵の、心配……してんじゃねぇぞ神裂!!!」
ブゥン……!!!
神裂 「ッ……!!?」 ガッ……ザザザザッ……!!
神裂 (何という威力……本当に 『悲劇の英雄』 の術式を使いこなしているというのですか……!?)
止 「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
――――ダッ!!
574 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 01:59:26.55 ID:GmDdkNoo
神裂 「馬鹿な……走れるような状態では……」
止 「痛覚は全てシャットアウトしてある!! 出血は、体表近くの筋組織を無理矢理に収縮させて防いでいる!」
止 「そして右手一本で剣を振るうために、全ての筋肉のリミッターを解いている!!」
止 「これが俺の能力……俺の 『通行止め』 の力だッ!!」
神裂 「ッ……無茶苦茶なことを……!!」
シュルルルルルルッッッ……!!!
止 「ワイヤーごとき……!!」 ザザザザンンンッ……!! 「自動防御術式で防げるんだよ!!」
――――――ブッシャァァァアアアア!!!
止 「がっ……」 グッ…… 「何をふぬけたことをしてやがる!! しっかり止血をしろ 『通行止め』 !!」
神裂 「っ……もうやめなさい!! あなたがその剣を振るうたびに、あなたの身体は壊れていく!!」
神裂 「あなたは能力で表面を取り繕い、刹那的に身体を動かしているだけです!!」
神裂 「死ぬ……本当に死んでしまう……ッ!!!」
止 「うるせぇ!! いつまでも人の心配してんじゃねぇって言ってるだろうがッ!!」
――ブゥン!!!
神裂 「ぐッ……!!?」
――――ドガガガガガガッッッ……!!!
575 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 02:00:01.44 ID:GmDdkNoo
神裂 (相手は右手一本の、半死半生の少年……)
神裂 (こちらの攻撃は完全に防がれ、相手の攻撃は受け流すだけで精一杯……)
神裂 (これが気迫の力……死ぬ直前の人間が持ち得る、本物の覚悟の力……!!)
神裂 (しかし、このまま悠長に切り結んでいては、彼が……)
止 「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
ビチャッ……!! ビチャッビチャッ……バシャッ……
神裂 (彼が死んでしまう……それに……)
グッ
神裂 (……これでは、彼の覚悟に対し、あまりにも失礼……)
ザッ……!!
神裂 「ならば……私は……」 チャッ…… 「私の真説を…… 『唯閃』 をもって……」
神裂 「あなたを一刀の元に討ち倒しましょう……!!」
576 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 02:00:45.96 ID:GmDdkNoo
止 「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
ブゥン――――――
神裂 「………………」 チャキッ…… 「――――……遅い」
――――ッタン……
神裂 「―――――――― 『唯閃』」
止 「……!!!?」
――――――――――ッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッド……!!!!!!
止 (何だ……!? 剣戟が……迫っ――――――)
ドガガガガガガガッッ……!!!!!!!!
止 (っ…… 『焔薙』 の効果が……!!)
ピシッ……ピシピシッ……――――
止 (……!? ま、まさか……剣が……!?)
――――――ピシッ……バギッ!!!
止 (――折、れ――――――………………)
――――――ドガガガガガガガガガッッッッ……!!!!!
止 「ッが……ぁ……」 ガクッ 「これ、が……なるほど……お前の……」
……………………ドサッ……
577 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 02:01:03.92 ID:3ui9.bco
うおああ!
578 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 02:01:28.60 ID:GmDdkNoo
神裂 「………………」
――――スタッ
神裂 「……これが、私の 『唯閃』 です」
止 「………………」
神裂 「………………」 スッ 「……終わりです、『通行止め』」
クルッ……ガシッ
神裂 「!!?」
止 「ま……まだ……だ……」
神裂 「っ……足を……」 ブンブン!! 「決着はつきました。放しなさい、『通行止め』」
止 「まだ……だと……言って、いるんだよ……俺は……」
止 「放す……もの、か……」 ギリッ 「お前、に……月子を……殺させる、もの、か……」
神裂 「っ……往生際の悪い真似を……!!」
神裂 「あなたは私に負けたのです! もう立ち上がる力も無い! ならばそこで――――」
止 「――――俺、は……諦め、ない……」
神裂 「……!!?」
止 「身体、が……動かなく、とも……まだ……脳は、口は……動かせ、る……」
止 「なら……まだ、俺は……諦め……ない……」
止 「意地、汚く……往生際、悪く……アンタに……頼むことが、できる……」
579 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 02:02:05.05 ID:GmDdkNoo
止 「頼、むよ……! 頼む……!」
止 「アンタは……そんなに、強いのに……なんだって、そんな、クソッタレな、ことしか、できないんだよ……」
神裂 「ッ……!?」
止 「そんなに、強いんだろ……そんなすげぇ力を持ってるんだろ……?」
止 「だったら……だったら、守って、くれよ……。あの子、みたいに……苦しんで、苦しんで、苦しんで、」
止 「それでも、まだ……もがき苦しまなきゃ、ならないような奴を、さ……」
止 「救って、やってくれよ……。守って、やって……くれよ……」
止 「なぁ……? アンタの “救われぬ者” って、いうやつには……あの子は入らないっていうのかよ……?」
神裂 「そ……それ、は……」
止 「頼む……頼むよ……」
止 「あの子……を……助けて……やって……くれ……よ……」
――――ガクッ……
止 (ダメ……だ……口が……動かない……)
止 (――――メイ……イル……世話子………………月子……)
止 (ごめん……な……)
…………………………
……………………………………………………………………………………………………………
580 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 02:11:10.23 ID:GmDdkNoo
>>1です。
見ていてくださった方、ありがとうございます。
遅くまでありがとうございます。
今日はここまでです。
これで一応、男と止の本編は終了です。
あとはエピローグになります。
また上がっていたら始まったと思って来ていただけると嬉しいです。
また、今回敵として登場した二人ですが、私なりに彼と彼女の正義を示したつもりです。
もしファンの方が気分を害されていたらすみません。
581 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/28(火) 02:12:57.23 ID:3ui9.bco
気になるとこで・・・!
乙乙
591 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:44:38.51 ID:vI.l3uko
……………………………………………………………………………………………………………
…………………………
止 (……? 何、だ……? ここは……)
パァァァ……
止 (とても……明るくて……とても、温かい……)
止 (夢……いや……)
止 (俺は……死んだのか……?)
………………ル……
止 (……声……?)
…………マル……
止 (……?)
……トマル……
止 (俺を……呼ぶ、声……)
――――サァァアアアア……
? 『――止』
止 (お前、は……) フッ (……久しぶりだな……)
ニッ
止 (――――よう。シィ……)
592 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:45:13.81 ID:vI.l3uko
シィ 『ふふ……久しぶりといっても、あのときからまだ何日と経っていないんだけどね』
止 (はは……光なんかまといやがって……随分と神々しくなっちまったじゃねぇか)
シィ 『言うなよ。結構恥ずかしいんだよ? これ』
止 (ちがいねぇな……本当に、恥ずかしい格好だ……)
シィ 『………………』
止 (………………)
シィ 『………………』
止 (……なぁ……)
シィ 『ん?』
止 (お前が目の前にいるってことは……俺は、死んだってことなのか……?)
シィ 『………………』 フッ 『さぁて、ね。僕にそんなことを訊かれても困るよ』
シィ 『君は死んでいて、天国とか地獄とかそういう場所にいる僕が迎えに来たのか、』
シィ 『それとも、僕は瀕死の君が見ている幻覚でしかないのか、』
シィ 『はたまた、僕のAIM拡散力場の残滓を君が拾って勝手に像としているのか、』
シィ 『……それは、僕には分からない。僕は死んだ人間だよ?』
シィ 『死んだ者に、物語に介入する権利はないんだよ』
止 (……そう、か……)
シィ 『………………』
フッ
シィ 『……それに、僕に聞くまでもなく、物語はもう決まっているようだしね?』
593 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:45:51.76 ID:vI.l3uko
止 (……何だと……?)
シィ 『君のその顔を見ていれば分かるさ』
止 (………………)
シィ 『……君はもうよく戦った。疲れただろう? もう、休んでいいんだよ――』
シィ 『――――なんてことを僕が言った瞬間に、僕を殴り飛ばしでもしそうな顔をしてるからね』
止 (………………) フッ (……何もかもお見通しか。敵わないな、お前には)
シィ 『ふふ……さ、いつまでも油を売ってないで、戻るんだ、止』
シィ 『君を待っている人がいる。君が守らなければならない人がいる』
シィ 『――メイと、イルと、下部組織の方……そして、僕の知らない少女……』
シィ 『僕はもう死んだ人間だ。だから、僕にはもう何もできない』
止 (………………)
シィ 『だから止、生きろ。生きて、彼女たちを守れ。そして……』
シィ 『――そしていつか、君も彼女たちと一緒に幸せになれ』
止 (……幸せになれ、か……)
フッ
止 (これまた重い言葉を背負わせてくれるもんだ)
シィ 『………………』 クスッ 『……僕の愛した女性にキスをしたんだ、それくらい許されて然るべきだろう?』
止 (っ……悪かったよ)
止 (………………)
シィ 『………………』 フッ 『さようなら、止』
止 (………………) フッ (ああ……また、いずれ……シィ)
…………………………………………………………
………………………………………………………………………………………………………………
594 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:46:30.67 ID:vI.l3uko
………………………………………………………………………………………………………………
………………病院
神裂 「………………」
止 「………………」
ピッ……ピッ……ピッ……
神裂 「………………」
――――ピクッ
神裂 「……!?」 スッ 「……聞こえますか? 『通行止め』」
止 「………………」
…………パチッ……
止 「………………」 ジッ 「……神、裂、……?」
神裂 「はい。私です」
止 「……月子と、世話子、は……?」
神裂 「………………」 フゥ 「……全く。生死の境を彷徨っていた人間が、目覚め端に他人の心配ですか」
神裂 「私に聞く前に、足下を見てみなさい」
止 「……?」 ツ…… 「……あ……」
月子 「………………」 スヤスヤ……
世話子 「………………」 zzzz……
595 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:47:03.83 ID:vI.l3uko
止 「……良かった……」 ホッ
神裂 「良くなんかありません。まったく、無茶をして……!!」
止 「……神裂……」
神裂 「……何です?」
止 「………………」 フッ 「……あり、がとう……」
神裂 「………………」
ガクッ
神裂 「……まったく……!! そういうところも “彼” と同じなのですね……」
神裂 「……単刀直入に申し上げましょう」
神裂 「イギリス清教と学園都市は、月子嬢を殺さない方針を固めました」
止 「……お前、が……?」
神裂 「……私個人にできることなどたかが知れています」
神裂 「……ですが、まぁ」 フッ 「双方の組織に脅しをかけるくらいは、できます」
止 「……?」
神裂 「知り合いに、そういうことが大得意な陰陽師がいましてね。彼にも協力していただきました」
596 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:47:41.49 ID:vI.l3uko
神裂 「……まず、学園都市。彼らには正攻法で攻めさせていただきました」
止 「正攻法……?」
神裂 「今回、私が 『神生ミヲ現ス士』 を殲滅したのは、学園都市からの要請があったからです」
神裂 「私はイギリス清教から命を受け、『神生ミヲ現ス士』 を殲滅すべく動きました」
神裂 「――つまり、我々イギリス清教は学園都市に対してひとつ貸しがあるということになります」
止 「………………」
止 「……お前……まさか……」
神裂 「ええ。お察しの通りです」
ニコッ
神裂 「私は、貸しをチャラにしてやるから月子嬢を責任を持って生きさせろと学園都市上層部を脅させてもらいました」
神裂 「さも私が 『必要悪の教会』 を代表しているような素振りでね」
止 「お前……」 フゥ 「……何と、いうか……すごい奴だよ、本当に……」
神裂 「そして、もう一つ、イギリス清教に対しては、少々強引な手を使わせてもらいました」
止 (……こいつは学園都市に対しての脅しを強引とは思わないのだろうか?)
止 (意外と天然なのかもしれないな……)
597 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:48:20.57 ID:vI.l3uko
神裂 「……まず、 『月詠之巫女』 を生存させることに関してのリスクから、説得を試みました」
止 「リスク……?」
神裂 「考えてもみてください。『月詠之巫女』 がカミの力を得たとして、その脅威が一番大きいのは誰でしょう?」
止 「……?」 ハッ 「……なるほど。学園都市か」
神裂 「その通りです。我々イギリス清教は言わずもがな、英国における組織です」
神裂 「日本国でカミという名の魔神が復活したとして、直接的な被害が出る可能性は高くありません」
神裂 「もっとも被害を受ける可能性が高いのは……当然、同じ日本に本拠を置く学園都市でしょう」
神裂 「――ならば 『月詠之巫女』 をイギリス清教が直々に処断する必要があるのかと、問いただしました」
止 「………………」
神裂 「……しかし、最大主教……私たちの上司にあたる老獪なババア――もとい女性ですが、」
止 (相当嫌いみたいだなそいつのこと)
神裂 「……彼女は私の全てを見透かしているのでしょう。関係ないと突っぱねてきましたよ」
神裂 「まぁ、それは予想していたことですけどね」
神裂 「――だからまぁ、強引に脅しをかけました。なら私がイギリス清教を抜けるぞ、と」
止 「……!?」
598 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:48:56.65 ID:vI.l3uko
止 「お、お前……何、考えて……!!」
神裂 「大声を出さないでください。身体に障りますし、お二方が起きてしまいます」
止 「お前……お前がいくら単騎で強かろうと、組織には敵わない……」
止 「イギリス清教は、たったひとりの兵の離反を厭って、方針を変えるような甘い組織ではないだろう?」
神裂 「ええ。綱渡り状態でしたね」 ニコッ 「あんなに恐ろしい最大主教の声を聞いたのは久しぶりです」
神裂 「ですが、驕るつもりはありませんが、私は 『聖人』 です」
神裂 「そしてイギリス清教はそんな強大な戦力を易々と手放せるような悠長な状況にない」
神裂 「……最大主教、悔しそうに歯がみしながら私の要求を飲みましたよ」 クスクス
止 「………………」
止 「……嘘をつくな神裂」
神裂 「………………」 フッ 「嘘、とは何です?」
止 「とぼけるんじゃねぇよクソッタレの善人女」 ギリッ 「……お前……どんな要求を飲まされたんだ?」
神裂 「………………」
ハァ
神裂 「……まるで、異様に勘のいい “彼” と話している気分です。よく分かるものですね」
599 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:49:37.64 ID:vI.l3uko
止 「お前……!!」 ギリッ……!! 「月子のために自分を売りやがったな……!!」
止 「人殺しを易々とやってのけるような組織の長が、たかだか一兵卒の身勝手な要求を飲むはずがない……!」
止 「……お前、その最大主教とかいう奴にどんな条件を飲まされたんだ?」
神裂 「……あなたには関係のないことです。私は、私の教義を全うしただけのこと」
止 「答えろ……!! お前は自分の何を売って、月子を救ったっていうんだ……ッ!!」
神裂 「………………」 フッ 「……いいえ。答えません。あなたに、余計なものを背負わせたくないですから」
止 「っ……んだと?」
神裂 「あなたには他に背負うべきものがあるでしょう? 大丈夫。私は強いですから」
神裂 「あなたに背負っていただかなくとも、自分で歩けるほどには、ね」
止 「お前……」
神裂 「……私のことなどどうでもいいでしょう? 話を続けさせていただきます」
神裂 「もちろん、月子嬢という危険な存在をただ野放しにするわけにはいきません」
神裂 「それは月子嬢が脅威となりえるからというだけでなく、月子嬢自身の保身のためでもあります」
止 「………………」
神裂 「だから、月子嬢には、三つの条件を飲んでいただきました」
600 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:50:38.74 ID:vI.l3uko
神裂 「一つに、霊装 『歩く教会』 を肌身離さず身につけ、一生涯外さないこと」
止 「『歩く教会』 ……?」
神裂 「ケルト十字型の簡易版ですが……身につけた者の特殊な能力を抑え、外部へ洩らさない効果があります」
神裂 「それを常時身につけることにより、彼女の 『神体』 としての能力は身を潜めます」
神裂 「そして二つめ。御神体…… 『十握剣』 をイギリス清教で預かること」
スッ……
止 「それは……月子の……」
神裂 「はい。彼女自身の厳重な封印に加えて、十字教の術式でも封印をしてあります」
神裂 「私はこれをイギリスへ持ち帰り、然るべき場所に封印します」
止 「……しかし……」
神裂 「ええ。その二つの条件は、彼女の自衛能力を著しく削ぐことになります」
神裂 「だからこそ、もう一つの条件があります。それは、学園都市から出ないこと」
止 「………………」 フン 「……なるほどな。学園都市はほぼ全ての魔術師にとっての天敵」
止 「月子が学園都市にいることによって、魔術師が月子に近づくリスクを下げるということか」
神裂 「ええ。学園都市上層部はいい顔をしていませんでしたが、」
神裂 「最終的に折れてくれました。月子嬢がすでに 『ボックス』 の正規メンバーであることも有利に作用したようです」
止 「……月子は 『歩く教会』 とやらを一生涯外さない。それは、あの子にとって苦痛だろう」
神裂 「ええ……ですが、同時に喜ばしことでもあるはずです」
神裂 「ずっと自分を苦しめ嘖み続けてきた力から解放されるということなのですから」
止 「ああ……」
月子 「………………」 スヤスヤ……
止 「どうやら、そのようだな……」 フッ
601 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:51:15.26 ID:vI.l3uko
止 「………………」 スッ…… 「神裂」
神裂 「はい?」
止 「……すまない……」 グッ 「お前は……月子のために、そこまで手を尽くしてくれたんだな……」
止 「……本当に、すまない……!!」 ペコリ
神裂 「あなたが謝ることではありません。言ったでしょう? 私は自分の教義を全うしたまでのことです」
神裂 「むしろ、私はあなたに感謝しているくらいなのですから」
止 「感謝……だと?」
神裂 「……ええ、『通行止め』 。私はあやうく、もう一度同じ過ちを犯してしまうところでした」
神裂 「だから……ありがとうございます」 ペコリ 「私の目を、覚まさせてくれて」
神裂 「……あなたの言うとおりでした。私は、またあのときと、同じ事を……」
神裂 「『救われぬ者に救いの手を』」
止 「………………」
神裂 「何のためにこの魔法名を名乗ったのか……それを、あなたが思い出させてくれたのです」
神裂 「何かを救うために何かを犠牲にするような……そんなことをさせないと誓ったはずなのに……」
神裂 「それなのに私は、彼女を殺そうとしてしまった。彼女の未来を奪おうとしてしまった」
月子 「………………」 スヤスヤ……
602 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:51:56.10 ID:vI.l3uko
神裂 「あなたは私を救ってくれたのです」
止 「……くだらねぇ。俺は俺のワガママを貫くだけの人殺しだ。知ったことじゃねぇな」
止 「……この分は借りておく。いつでも回収に来い」
神裂 「何を言っているのです? 借りができてしまったのは私でしょう?」
止 「……何を馬鹿げたことを言ってやがる。貸したのはお前だ。お前は自分を売ってまで月子を救ってくれた」
神裂 「バカはそちらです。私に月子嬢を救う機会を下さったのはあなたです」
止 「馬鹿が。お前は……お前はとにかく、俺にたくさん貸してるんだ」
神裂 「バカですね。返す言葉もないのではないですか」
神裂 「ですがこちらには借りがもう一つあります。あなたにそんな大怪我を負わせてしまいました」
止 「なっ……お前、それはおかし――――」
神裂 「――――つまり、私はあなたに二つ借りがあるということですね」 ニコッ
止 「ちょっ……お前……お前……なぁ……」
フゥ
止 「……神裂。お前なぁ、善人のくせに悪人の “格好つけ” っていうお株を奪うんじゃねぇよ」
神裂 「どの口がそんなことを言っているのやら」 フゥ 「ヒーローのくせに」
止 「俺はヒーローじゃねぇ。クソッタレの人殺しだ」
神裂 「なら私は善人などではありません。ただの魔術師です」
603 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:52:35.51 ID:vI.l3uko
止 「………………」
神裂 「………………」
フッ……
止 「……お前とはいずれ、こんなくだらない事情を抜きにして話をしてみたいもんだ」
神裂 「おや、嬉しいお誘いですが、恋人さんに怒られそうなので遠慮しておきましょうか」
チラッ
世話子 「………………」 zzzz……
止 「だっ……誰が恋人だ誰が……」 プイッ 「こいつはただの……大切な、仲間だ……」
神裂 「……そうですか。ですが、感謝はしてあげてくださいね?」
止 「……?」
神裂 「あなたが寝ている間……つまり、生死の境を彷徨っている間、ずっと甲斐甲斐しく世話をしていたのですから」
止 「………………」 フン 「……お前に言われなくたって分かっている。俺はこいつに頭が上がらないよ」
神裂 「……それから、月子嬢にも」
止 「月子にも……?」
月子 「………………」 スヤスヤ……
神裂 「……言っておきますが、『通行止め』 。あなた、かなり危険な状態だったんですからね?」
604 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:53:06.27 ID:vI.l3uko
神裂 「魔術の強制行使による拒絶反応。それによる肉体の80パーセントにも及ぶ裂傷……」
神裂 「病院に運ぶ前の応急処置は、私が必死に行いました。『聖人』 の私が全力で恢復魔術を行使し続けました」
神裂 「ですが、それでもあなたの心臓は数度、止りましたよ?」
止 「………………」 フッ 「……改めて言われるとゾッとしないな」
神裂 「笑い事ではありません。こっちはいつ本当に死んでしまうか気が気ではなかったのですよ?」
神裂 「ですが、月子嬢の助力もありましたから、あなたの命を繋げることができました」
神裂 「……神道術式のエキスパートですね、彼女は。自分に魔力が残されていないというのに、」
神裂 「私の天草式の恢復術式を正確に補強する神道術式をいくつも私に教えてくれました」
神裂 「分かりますか? 違う宗派の人間に、自分の宗派の極意とも言える術式を教えたのですよ?」
神裂 「……魔術師にとって、それがどんなに覚悟のいることか……」
月子 「………………」 スヤスヤ……
神裂 「彼女は、そこまでしてあなたの命を救いたかったのですよ」
止 「………………」
止 「……そうか」 フッ 「月子が今まで窮屈に縛られて生きてきた時間も、決して無駄ではなかったということか」
止 「……お前の人生は報われてるよ。良かったな」 ニコッ 「そして、ありがとう」 ナデナデ
月子 「………………」 スヤスヤ……
605 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:53:58.23 ID:vI.l3uko
神裂 「……さて、話を戻しますが、私はあなたに二つの借りがあることになります」
止 「お前……まだそんなくだらない妄言を……」
止 「勝手に借りたことにしてんじゃねぇ。借りてるのは俺だ」
神裂 「――だから、今はひとつだけお返しします」
止 「人の話を聞けコラ。お前が返すものなんか何一つねぇんだよ」
神裂 「もうひとつは、また後ほど、いつでも回収してください」
止 「………………」 (ここまで無視されると口の挟みようがないな……)
止 「……聞くだけは聞いてやる。ありもしない俺の貸しを何で返してくれるってんだ?」
神裂 「………………」 フッ 「学園都市上層部への直接交渉権で、どうですか?」
止 「……!?」 バッ 「――!? 痛ッ……!」
神裂 「独り相撲をしてどうされました?」 ニコッ 「身体に障りますよ?」
止 「お前……直接交渉権なんて、どうやって……――――」
神裂 「――――……考えてもみてください」
神裂 「そもそも 『神体』 ……月子嬢の殺害を私に依頼したのは学園都市です」
神裂 「もちろん 『必要悪の教会』 としての責務もありましたが、」
神裂 「その情報をもたらし、『神生ミヲ現ス士』 の殲滅と月子嬢の殺害を依頼したのは学園都市です」
止 「あ、ああ……まぁ、そうだな……」
606 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:54:27.14 ID:vI.l3uko
神裂 「だというのに、『神体』 を学園都市の人間が守るというのはどういうことでしょう?」
止 「お前、何を言って……」 ハッ 「……まさか、俺のことか?」
神裂 「ええ。学園都市は私にあなたの存在を知らせていませんでした。そして、あなたは私に牙を剥きました」
神裂 「これは明確な学園都市の落ち度です。だから、学園都市上層部にその対価を要求させてもらいました」
ニコッ
止 「お前……お前って……」
―――― 『ええ。それが “彼女” です。敵でなくてよかったと心底思いますよ』
止 「あいつがああ言ってた理由、その本当の意味をようやく理解した気分だ……」
止 「……お前は強いな。本当に、色々な意味で」
神裂 「………………」 フッ 「……強くなど、ありませんよ」
神裂 「私には過ぎた幸運の力しかありません。『聖人』 という、あまりにも大きな力しか、ね」
止 「……くだらねぇ。その力で何かを成し遂げてきたのはお前だろうが」
神裂 「えっ……?」
止 「だったら誇れ。お前が戦ってきたのは、お前が 『聖人』 とやらだからじゃねぇだろうが」
止 「神裂火織っていう魔術師に、偶然 『聖人』 っていう力があった……その方がよほどしっくりくる」
607 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:55:04.79 ID:vI.l3uko
止 「……ともあれこれも借りだ。いくつになるか分からないが、借りておく」
神裂 「あなたも意固地な方ですね」
止 「うるせぇ。もらった分はしっかりと使わせてもらうさ」
スッ……スカッ
止 「んあ……?」
止 「……はは、バカか俺は。左手を吹っ飛ばしたのを忘れていた」
止 「神裂、悪い。携帯電話を取ってもらえないか?」
神裂 「………………」 スッ 「……どうぞ」
止 「ありがとう」 スッ 「……そう悲壮な顔をするな。たかだか左手一本だ」
ピッ……ピピッ……prrrr……ピッ
?? 『……まったく、あなたもよくよく運が良い方ですね』
止 「はは。残念だったなクソ野郎。そっちは大変だったんじゃないか?」
?? 『わざわざ言うまでもないでしょう?』 フゥ 『だから彼女は敵にしたくないと言ったんです』
止 「はっ、いい気味だ」
ニヤリ
止 「――――さて、上層部の使いっ走りよぉ、俺が何を言いたいか、しっかり分かってるよなぁ?」
608 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:56:38.10 ID:vI.l3uko
………………病院別室
男 「………………」
………………ピクッ
?? 「あっ……」 スッ 「男?」
パチッ……
男 「……う……あ……」
――ガバッ
男 「姉さん……!!?」
?? 「きゃっ……!」
男 「ふぁ……?」 チラッ 「あ……あれ……? 姉さん?」
シスター 「も……もう、男ったら……いきなり驚かせないでちょうだい」
男 「あ、ごめん……」 シュン
男 「――って違う! 何で暢気なこと言ってるんだよ!」
シスター 「静かにしなさい、男。ここは病院よ」 メッ
男 「へ……?」 キョロキョロ 「……ホントだ。気づかなかった……」
シスター 「まったく、あなたってば、本当にぬけてるんだから」
609 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:57:03.38 ID:vI.l3uko
シスター 「あれからアンチスキルの方が来て、あなたたちを病院に運んでくれたのよ」
シスター 「外傷も酷かったけれど、それ以上に脳内疲労が異常値を示していたそうよ?」
シスター 「……本当に無茶をしてっ」
男 「ごめん……。でも、必死だったから」 シュン
シスター 「………………」 フッ 「……冗談よ。ありがとう、男」
男 「ううん」 フルフル 「……でも、姉さんは……」
シスター 「……ごめんね、男。せっかく、わたしのために戦ってくれたというのに……」
シスター 「――……やっぱり、わたしはもう学園都市にはいられない」
男 「………………」 コクン 「……それは、きっと、何となく分かってた」
男 「けど……」 キッ 「拷問なんて、そんなことは、絶対に許さない……!!」
シスター 「………………」
ニコッ
シスター 「……大丈夫よ。わたしはもう、大丈夫だから」
男 「大丈夫なんて、そんなわけがない! だって、そんなの……!!」
シスター 「………………」 フルフル 「違うの。違うのよ」
610 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:57:40.81 ID:vI.l3uko
男 「違う、って……?」
?? 「それについては僕から説明しようか」
スッ……
男 「……!?」 バッ 「……ってなんだステイルくんか……」 ホッ
ステイル 「………………」 ギリッ 「……僕としてはもう少し警戒してもらいたいところなんだけどね」
男 「だってステイルくんいい人じゃん」
ステイル 「だから人を勝手に馴れ合いに巻き込むな!! っていうか “くん” って何だ “くん” って!!」
男 「ほらほらステイルくん病院内ではお静かに」
ステイル 「ぐっ……いつか燃やす……! 絶対にいつか燃やす……!!」
コホン
ステイル 「……単刀直入に言わせてもらおう。彼女はイギリス清教で “保護” することとなった」
男 「保護……?」
ステイル 「君が寝ている間に色々と事情が変わってね」
ステイル 「……見せてあげるといい」
シスター 「そうですね……」 ガサゴソ 「男、これを」
611 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:58:36.79 ID:vI.l3uko
男 「……? 何これ?」 スッ 「手紙?」
シスター 「読んでみてそうすれば全部分かるわ」
男 「うん……」 カサカサ 「……ロシア語なんだけど」
シスター 「えっ? だから?」
男 「………………」
ステイル 「………………」 フン 「……これだから一般人は……。仕方ないから僕が要約して説明しよう」
男 「面目次第もございません……」
ステイル 「その手紙はロシア成教 『殲滅白書』 リーダー、ワシリーサから彼女に宛てられて書かれた手紙だ」
ステイル 「君が僕を殴り飛ばしてすぐに教会に届いたらしい」
男 (……あてつけ? 意外と人間味あるんだなぁステイルくんって)
ステイル 「“あなたを学園都市及びイギリス清教に対しての癒着疑惑により裏切り者とみなします”」
男 「へ……?」
ステイル 「“ロシア本土を踏んだ途端に殺されるくらいの覚悟をしてください”」
ステイル 「“なお、あなたには追っ手もかけさせてもらいます”」
ステイル 「“イギリス等に逃げていただいても構いませんが、追っ手は間違いなくあなたを追いつめるでしょう”」
ステイル 「……これが彼女に宛てられた、ワシリーサからの手紙の大まかな内容だ。早い話が絶縁状だね」
612 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/30(木) 23:59:37.33 ID:vI.l3uko
男 「なっ……!!」 ギリッ 「『殲滅白書』 とやらは姉さんを切り捨てるっていうの!?」
ステイル 「………………」
男 「そんなの……! ワシリーサって人……良い上司さんなんじゃなかったのかよ……ッ!」
ステイル 「………………」 フゥ 「……これだから君は一般人だと言うんだ」
男 「……へ?」
ステイル 「……君ねぇ、裏切り者と認定された相手に、こんな丁寧に絶縁状を送ると思うかい?」
男 「……どういうこと?」
ステイル 「君は少し物事を額面通り受け入れすぎるきらいがあるようだ」
ステイル 「それはある意味正しい人間性だろうけどね。魔術師と戦うには不適格だと思うよ?」
男 「話を逸らさないでくれ! 一体なんだって言うんだよ」
ステイル 「つまり、この手紙の内容を意訳すると……」
ステイル 「“こちらのことは気にせずイギリス清教に情報を売って保護してもらいなさい”」
ステイル 「――っていうところかな」
男 「はぇ……?」 アタフタ 「ど、どういうこと?」
シスター 「……そういう人なのよ。ワシリーサは」 フッ 「……組織より何より、部下を想うひとだから」
613 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:00:21.22 ID:K7FxMv6o
ステイル 「……それが一部隊をまとめる長のすべきことかどうかは分からないけどね」
ステイル 「しかし今のロシア成教はどうにも妙だ。動きが釈然としない部分が多すぎる」
ステイル 「……そんな怪しい組織よりは部下を取る。それほどおかしいことではないかな」
ステイル 「だから彼女にはその厚意に甘えてもらうことになった」
シスター 「……今のロシア成教は、わたしの目から見てもおかしいもの」
シスター 「まるでローマの言いなり……付き従って、漁夫の利を得ようとしているだけ」
シスター 「本来、『在らざる者』 を狩るべく存在しているわたしたち 『殲滅白書』 にも戦争をさせようとしている」
シスター 「人間相手の戦闘が得意じゃない構成員だってたくさんいるのに……」
シスター 「……わたしはロシア成教のシスター。そして、『殲滅白書』 の魔術師」
シスター 「ロシア成教改革のために、祖国を売ります」 グッ 「……わたしなりに、『殲滅白書』 を守るために」
ステイル 「……立派な考えだと、僕は思うけどね」
男 「………………」
ステイル 「……安心しなよ。彼女には 『必要悪の教会』 に入って、活動もしてもらう」
ステイル 「絶縁状まで出された彼女には、もうロシアに戻る手段も、連絡を取る方法もない」
ステイル 「建前上とはいえ、彼女は今、明確なロシア成教の敵とされているからね」
ステイル 「僕ら 『必要悪の教会』 はそんな彼女を温かく迎え入れるくらいには、教会然としているつもりだよ」
614 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:00:58.94 ID:K7FxMv6o
男 「あ……うん」 ニコッ 「分かってるよ。ステイルくんは優しいもんね」
ステイル 「なっ……」
男 「それに、インデックスさんもその 『必要悪の教会』 のひとなんでしょ? だったら安心だよ」
ステイル 「君は……まったく……本当に……」
ステイル 「君みたいな人間が治安維持の役職についているとはね……まったく、平和な街だよ、ここは」
男 「はは……」 スッ 「ともあれ、姉さんのこと、よろしく頼みます」
ステイル 「よろしくするのは僕じゃない。僕の仲間のシスターたちだ」
ステイル 「……どうせ人の話を聞かないお節介なシスターたちがしっかりと面倒をみてくれるさ」
男 「……?」
シスター 「ほら、わたしのことなんかより……あなた自身に、何か気づくことはない?」
男 「何か気づくこと……?」
男 「……あっ、僕の手袋――――」 ハッ 「っていうか何だこれ!?」
ステイル 「……今気づいたのか……まったく、本当にぬけた奴だな」
男 「えっ……ちょっと待って! 何で?」
男 「何で左手の火傷が跡形もなく消えてるの!?」
615 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:01:53.78 ID:K7FxMv6o
ステイル 「悪いが僕は火に関しては全般的に精通していてね」
ステイル 「――君の火傷、どこもおかしなところがないように完全に消させてもらった。もちろん、魔術でね」
男 「は……はぁ!?」
ステイル 「勘違いするなよ? べつに君のためを思ってやったとかそういうわけじゃない」
ステイル 「ただ単純に、君に、仲間の力を借りたとはいえ、僕を倒した責任を負ってもらっただけのことだ」
男 「……責任?」
ステイル 「……あの火傷、君なりの覚悟のつもりだったんだろう?」
男 「う、うん……あの痛みを忘れないようにって。そうじゃないと、きっと僕は逃げてしまうから」
ステイル 「……そんなところが甘いというんだ。それは風紀委員とやらとしても不適格な覚悟だよ」
男 「……何だって?」
ステイル 「君なりの覚悟の表わしのつもりなんだろうけど、そんなものを持たなきゃならない時点で二流だよ」
ステイル 「本当に守りたいものがあるのなら、そんなものに頼らずに守ってみせろ」
ステイル 「そんな傷なんかに頼らずに戦って、守れ。傷を背負うなんて甘いことを考えるな」
ステイル 「……僕を倒したんだからそれくらいの覚悟は背負ってもらう。だから傷は消した」
男 「………………」
616 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:02:36.74 ID:K7FxMv6o
ステイル 「………………」 フッ 「怒ったかい? なんならもう一回表で僕と――――」
――――ガシッ
ステイル 「なっ……」
男 「ステイルくんは本当に優しいんだねっ!!」 ギュッ 「僕、感動しちゃったよ!」 キラキラキラ……
ステイル 「ひっ……人の手を取るな!! 目をキラキラさせるな! 気持ち悪い!」 バッ
男 「そんな照れなくてもいいじゃないか」 ニコニコ 「それにしても、わざわざそんな気遣いまでしてくれるなんて……」
ステイル 「だっ、だから気遣いなどではなく! ただ単純に、君に対する嫌がらせとしてだなっ!」
男 「だから照れなくてもいいってば。ありがとう、ステイルくん」
ステイル 「れ、礼を言われる筋合いなどないっ!」
男 「いや、お礼を言わせてもらうよ」 フッ 「……君の思いは、たしかに受け取ったよ」
男 「ありがとう。僕もステイルくんのように、守りたいものをただ守るっていう矜持を持てるように頑張るよ」
ステイル 「………………」 フン 「……君になど、できやしないさ」
男 「そうかもしれない。けど、いつかステイルくんに認めてもらえるように頑張るよ」
ステイル 「……君はあのいけ好かない男以上に頭の中がお花畑だな」
男 「そのいけ好かない男っていうのに心当たりがあるような気がするけど、まぁ黙っておこうか」
スッ
ステイル 「……? なんだい?」
男 「握手、だよ。それくらいはいいだろう?」
ステイル 「………………」 スッ 「……勘違いするなよ? これは、君を甘ちゃんだと見下しているからできることなんだ」
男 「分かってるよ」
ギュッ……
617 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:03:06.77 ID:K7FxMv6o
男 「――と見せかけて!」 スタッ……
ナデナデナデ
ステイル 「……!? なっ……何をする!」
シスター 「……?」
男 「あこら逃げるな」 ガシッ
ステイル 「は、放せ! というか何故頭をなでる!?」
男 「いやね、インデックスさんから念話で聞いたんだよ。ステイルくんって実は14歳なんでしょ?」
ステイル 「あの状況でそんな暢気な話をしていたのか!?」
男 「だから、良いことをしてくれたご褒美? なでなで」
ステイル 「や……やめろ! 気持ちの悪いことをするな!」
男 「あれ? ネムやディズは喜ぶよ?」
ステイル 「ネコやアヒルと一緒にするな!」
男 「ついでに白井さんも」
ステイル 「それは君の恋人だからだろう!? 僕にそんな気持ちの悪いことを――――」
――――ガラッ
618 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:06:58.03 ID:K7FxMv6o
ステイル 「……!?」
男 「あ……」
白井 「………………」
初春 「………………」
固法 「………………」
佐天 「………………」
インデックス 「………………」
ネム 「………………」
ディズ 「………………」
……………………
白井 「……失礼致しましたの」
初春 「お、お邪魔しましたー……」 ゴクリ (低身長童顔×長身不良神父……男さんグッジョブ) ハァハァ
ガラガラガラ……
男 「待った! 待って白井さんとみんな! なんか盛大な勘違いオンパレードが発生している模様ですよ!?」
ステイル 「それは僕の台詞だテレパシスト!! 待て! 妙な勘違いをしたまま出ていくな!!」
シスター 「………………」 ハフゥ 「……まったくもう」
619 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:08:01.69 ID:K7FxMv6o
………………
インデックス 「…… 『黄金練成』 のときも思ったけど、あなたって頭撫でられるのが好きなの?」
インデックス 「――同性に」
白井 「………………」 ジトッ
ステイル 「待て。妙な勘違いをするな。これは彼やこの男が勝手にやったことであって僕は被害者だ」
男 「ひどい……僕のこと遊びだったんだね?」
ステイル 「意味不明なことを言うな!!」 ガッ 「っていうか君、性格が変わってないか!?」
男 「………………」 フッ 「……いや、これが僕だよ。本当は、ずっとこうだったんだ」
男 「けど、風紀委員になってから、真面目であろうとして……その結果が、今回だからね」
白井 「………………」
男 「たくさんの人を傷つけちゃった。だから、僕はもう変に肩肘張ったりしない」
男 「ありのままの僕で、ありのままの気持ちで、学園都市を守るよ」
男 「……まぁ、僕はもう、風紀委員ではいられないでしょうけど」
固法 「……あら? 何の話かしら?」
男 「僕はみんなを信じられずに裏切ってしまった……そんな僕に、風紀委員たる資格はないでしょう?」
男 「――だから僕は、風紀委員をやめます」
620 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:08:43.01 ID:K7FxMv6o
シスター 「そ、そんな……男……」 オロオロ 「それはだって、わたしが……」
男 「違うよ、姉さん。僕は姉さんを止めなきゃいけなかったんだ」
男 「それなのに、僕は姉さんを庇い、追いつめてしまった」
男 「……僕が、姉さんのことを疑い、しっかりと調べていたら、姉さんがあんなことをしなくてもよかったのに」
シスター 「そ……そんなの……――」
インデックス 「『姉と弟』 の術式は姉弟の契りを強化する効果も含んでいるんだよ!」
インデックス 「そんな状況で、“弟” であるあなたに “姉” を疑うことなんてできなくて当たり前なんだよ!」
スッ
ステイル 「……これは彼らの問題だ。僕たちが口を出すべきじゃない」
インデックス 「あぅ……」
シスター 「………………」 コクン 「……はい」
白井 「………………」 フッ 「……男さん、それは本気で仰有っていますの?」
男 「………………」 コクッ 「……本気だよ。僕は、してはいけないことをしてしまったんだ」
白井 「そうですの」 ニコッ 「……では、固法先輩、申し訳ありませんが、」
白井 「――わたくしも、風紀委員をやめさせていただかなければなりません」
621 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:09:27.38 ID:K7FxMv6o
男 「へ……? な……何で白井さんが!?」
白井 「当然ですの。あなたの論理を借りるのなら、ね」
白井 「……わたくしもまた、仲間であるあなたを本気で疑うことができなかった」
白井 「だから、あなたに “魔術による暴走” なんて状態に陥らせてしまったんですのよ」
白井 「だったら、わたくしにも非があるということになりませんか?」
男 「そっ……そんなのおかしいよ! 無茶苦茶だ……!」
固法 「ふふ……そうね。なんなら177支部みんなやめちゃう?」
初春 「そうですね~」
男 「ち、ちょっと待ってください! そんなの、絶対におかしいでしょう!?」
白井 「………………」 ニコッ 「……そんなおかしいことを、あなたは仰有っていたんですのよ?」
男 「なっ……」 グッ 「……でも、僕は……」
白井 「……お互い様ですわ。仲間ですもの。誰かが間違えてしまうこともある」
白井 「けれど、その後に手を取り合って、再出発できるのもまた、仲間というものではありませんこと?」
男 「………………」 フゥ 「……敵わないや、白井さんたちには」
622 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:10:43.14 ID:K7FxMv6o
インデックス 「……うぁぁ」 グスッ 「良いお話なんだよっ!」
ステイル 「ふん……甘いとしか言いようがないと思うけどね」
シスター 「男……あなたは本当に……良い仲間に恵まれているわね」
ネム 「当然よ」
ディズ 「……でも、ありがたいわ、本当に」
ステイル 「………………」
フッ
ステイル 「……さて、僕らはそろそろ行くよ。飛行機が出てしまう」
男 「あっ……」 スッ 「姉さん、これを」
シスター 「? これ……あの子の、十字架……?」
男 「……やっぱり返すよ。僕は十字教徒じゃないし、これは姉さんが持っているべきものだから」
シスター 「………………」
男 「……だけど、僕はこれを姉さんに返しても、姉さんの弟でいたい」
シスター 「えっ……?」
男 「ねえ、姉さん……」 ニコッ 「僕は、これからも姉さんのことを、“姉さん” って呼んでいいかな?」
シスター 「………………」 グスッ 「……男……あなたは……」 ポロッ……ポタッ……
男 「……十字架がなくても、宗教が違ったとしても……僕は、姉さんの弟でいたいから」
シスター 「………………」 コクン 「……ありがとう……男……」
男 「ん。姉さん」
623 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:11:27.12 ID:K7FxMv6o
ステイル 「………………」
クイクイ
ステイル 「……? 何だい?」
インデックス 「お礼が言いたくて。ありがと」
ステイル 「何の話だい?」
インデックス 「あのシスターのことで、『必要悪の教会』 に対して、色々と便宜を図ってくれたみたいだから」
ステイル 「………………」
フン
ステイル 「知らないな。どこかのお節介な 『聖人』 がやったんじゃないか?」
インデックス 「とうまも言ってたけど、あなたって本当に素直じゃないんだよ」 ニコッ 「でも、ありがとう」
ステイル 「余計なお世話だ」 プイッ 「……僕にそんな無防備な笑顔を向けるな」 ボソッ
インデックス 「へ……?」
ステイル 「……さぁ、行こうか」
シスター 「……はい」
624 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:11:58.51 ID:K7FxMv6o
男 「……姉さん、また」
シスター 「ええ……また、いずれ」
ギュッ……
ステイル 「………………」
男 「……ステイルくんも、またね」
ステイル 「……ふん。“また” なんてことが来ないことを祈っているよ」
男 「今度学園都市に来たら連絡ちょうだい。鍋でもやろう」
ステイル 「……絶対に嫌だ」
ステイル 「………………」 ボソッ 「……あの子を頼む」 チラッ
男 「へ……?」
インデックス 「……?」
ステイル 「……あの子の居場所であるこの学園都市を……頼む」
男 「………………」 コクッ 「……任せておいて。僕は、風紀委員だから」
ステイル 「……頼りにならない笑みだ。期待しないことにしておくよ」
男 「酷い言い草だなぁ」 フッ 「……じゃあね、姉さん、ステイルくん」
625 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:12:43.23 ID:K7FxMv6o
………………
固法 「……さて、全部丸く収まったところで、決着をつけておきましょうか」
男 「……決着?」
初春 「あれぇ? 分からないんですか男さん?」
佐天 「……本当に分からないんだとしたら重症だよね」
ネム 「そうね……本当にそうね」
ディズ 「あーあ。こんなんが主人で本当に恥ずかしいわ」
インデックス 「???」
男 「ど、どうしたんです? みなさん……顔が、怖いよ?」
バキボキ
男 「ひっ……!?」
佐天 「……男さん、私、風紀委員とは無関係だけど、今回のこと、けっこー怒ってるんですよ?」
男 「えっ……? だ、だってさっき、仲間だから云々っていい感じに決着ついてましたよね!?」
固法 「それは風紀委員としてのお話よ?」 ニヤァ 「……個人的な感情については発散してないわよねぇ」
初春 「その通りです」 ニコッ 「……あのとき、結構怖かったんですからね? 私」
男 「いや、あの、だって……」 キョロキョロ 「――助けて! インデックスさん!」
インデックス 「えっ、わたし?」 キョロキョロ 「……逃げるが勝ちかもっ!」
ビューン……!!
男 「逃げ足が速い!?」 バッ 「くそっ……こうなったらケガが痛いけど僕も――」
――ガシッ
固法 「………………」 ニコッ 「そう簡単に……」
佐天 「逃げられると、」 ニコッ
初春 「思うなよ、です」 ニコッ
男 「ひっ……!?」
626 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:14:06.12 ID:K7FxMv6o
………………
男 「………………」 ガクッ 「……うぅ……」
男 「グーパンチ三発×3……プラスでネコパンチにアヒルキックが無数……」
男 「……みんな、僕のこと怪我人だと思ってないよなぁ」
男 「殴るだけ殴って意気揚々と遊びに行っちゃうし……」
男 「………………」 スッ 「……ところで、白井さんは僕のことを殴らなくていいんです?」
白井 「………………」 フッ 「そう、ですわね……」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
男 (あ……ヤバイ。何で僕自分で地雷踏んじゃったんだろ)
男 「あ、あのー……お手柔らかに……」
白井 「いいから早く目を瞑って歯を食いしばれ、ですの」 ニコッ
男 (怖い……メチャクチャ怖い……)
ギュッ
男 「つ、つむりました……」
白井 「よろしい、ですの」
627 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:14:51.02 ID:K7FxMv6o
白井 「………………」 スッ 「……男さん、今回の事件、色々とありましたわね」
男 「あー……うん。その、色々と申し訳なかったというか、本当にごめんなさいなんだけど……」
男 「白井さんにひどいこと色々と言っちゃったし……あの、その……」
白井 「………………」
男 「……僕は、今も白井さんの恋人でいていいんですか?」
白井 「……どういう意味ですの?」
男 「……白井さんをいっぱい傷つけちゃったし……その、恋人として、言ってはいけないようなことも……」
男 「僕は……白井さんを信じることが、できなかったし……その……」
男 「……も、もし……僕のことを嫌いになったのなら、構いません……僕を……振って、くださって、も……」
白井 「………………」 ギリッ 「……それはっ……あなたがわたくしと別れたいということですの?」
男 「えっ……? ち、違うよ! 僕は……僕は……だって、白井さんのことが……好き、だもん」
男 「別れたくなんかない……ずっと、一緒に……添い遂げたい……」
白井 「……そうですの。では、これがわたくしの返答です」
スッ……
男 「………………」 ビグッ
――――――ッ……
628 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:16:54.30 ID:K7FxMv6o
男 「へぁ……?」 (ほ、頬に……柔らかい……あ、これは、憶えが……)
男 「――……はぇぇぇえええええ!?」
白井 「へっ……変な声を上げないでくださいましっ!」
男 「な、殴るんじゃないんです!? 何で代わりにちゅうなんです!?」
白井 「ちゅっ……!? 変な言い方をしないでくださいな! わたくしはただ頬に接吻をしただけで……」
カァア……
白井 「なっ、何を恥ずかしいことを言わせるのですか!!」
男 「そこで僕のせい!? 明らかに僕悪くない感じなのに!?」
白井 「わっ……悪いですのよ!」 クワッ 「こんなに……こんなに、わたくしの気持ちを、掻き乱して……」
白井 「本当に……悪い、殿方ですの……あなたは……」 プイッ
男 「白井さん……」 (おいおいなんだこの可愛過ぎる生物は。銀髪シスターとか目じゃないよこれは……)
………………
インデックス 「へくちっ……!」
初春 「あっ、インデックスちゃん静かに! 覗いてるのがバレちゃいますよ」
佐天 「すごいすごい! やっぱり積極的なのは白井さんの方なんだねー」
固法 「この子たちは……まったく……」
ネム 「……男のヘタレ」
ディズ 「まったく……」
629 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:19:14.68 ID:K7FxMv6o
………………
男 「……じゃあ、僕の方もいいかな?」
白井 「何がですの?」
男 「ほら、白井さん、目を瞑って」
白井 「はぇ……? わ、わたくしが、ですの!?」
男 「うん」 ニコッ
白井 「し、仕方ありませんわね……」 プイッ (男さんから……///) ドキドキ
男 「……白井さん、いつもいつも、迷惑ばかりかけてごめんなさい」
男 「まだ白井さんの恋人でいいなんて、嬉しくて嬉しくて、どうにかなりそうです」
―――― 『白井とはどこまでいったのよ? まさか手も繋いでないなんて言うんじゃないでしょうね?』
男 「………………」 グッ 「だから、僕は、そのお礼がしたいなって思うんだ」
白井 (……男さんから……///) ドキドキ
男 「……ごめんね。先に、謝っておくね」
白井 (……? けど、男さんから……///)
ガシッ……グイッ
白井 「えっ……――――――」
――――――クイッ……
男 「……大好きだよ、白井さん」 スッ
――――――――ッ……
630 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:20:12.10 ID:K7FxMv6o
………………
インデックス 「はぇぇぇえ……」 カァア……
固法 「………………」
佐天 「………………」
初春 「………………」
ネム 「………………」
ディズ 「………………」
固法 「……行きましょうか」
佐天 「そうですね……」
初春 「……なんか、男さん、すごいなぁ」
ネム 「口と口で……男、よくやったわ……」
ディズ 「次は舌ね!」
固法 「そういう生々しい話はやめなさい」
インデックス 「これはとうまが帰ってきたら報告しなきゃなんだよ!」 グッ
固法 「それもやめなさい」
固法 「ほら、あなたたちもいつまで呆けてるの。もう行くわよ」
初&佐 「「ふぁ~~~い」」 ポワーン
固法 「………………」
固法 (『魔術』 ……一度、徹底的に調べてみる必要がありそうね……)
固法 (……明日から忙しくなるわよ? 白井さん、初春さん、男くん……)
631 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:21:03.96 ID:K7FxMv6o
………………
月子 「………………」 スヤスヤ……パチッ 「……むぅ……?」
神裂 「……お目覚めになりましたか?」
月子 「……む。神裂か……。トマルは、まだ……」
神裂 「………………」
月子 「む……?」 チラッ 「……? ベッドが、空……?」
月子 「トマル……?」 キョロキョロ 「トマルは、どこだ?」
神裂 「………………」
月子 「……神裂……? トマルは……ああ、そうか……用を足しに言っておるのだな?」
神裂 「………………」 フルフル
月子 「……違う、とな? で、では……――――」
神裂 「――……彼から、言づてを預かりました」
月子 「……? 言づて……?」
神裂 「『お前は世話子と一緒に、“普通” に戻れ』 ……だ、そうですよ」
632 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:22:05.35 ID:K7FxMv6o
月子 「……? そ、それ、は……?」 フルフル 「どういう、ことだ……?」
神裂 「……彼は、自分は闇に残らなければいけないと……そう、言って去りました」
月子 「……嘘だ……嘘だ!! そんなこと……そんなのは!!」
神裂 「………………」
月子 「だって……トマルは……トマルは……」
月子 「何故……? 何故なのだ? 何故……せっかく、“普通” に、なれる、のに……っ」
グスッ……
月子 「そこに……トマルがいないのでは……」 ポロッ…… 「トマルが、いないの、では……」 ポタッ……
月子 「トマルがいないのでは意味がないではないかっ!!」
神裂 「………………」
世話子 「……うーん……」 パチッ 「……あれ……? 私、寝ちゃって……?」
世話子 「……? 月子ちゃん……? 泣いてるの?」
月子 「世話子……っ、トマルが……トマルが……!!」
世話子 「……!? 止さん……」 ハッ 「……まさかっ!!」
神裂 「………………」 コクッ 「……あなたにも、『通行止め』 からの伝言を」
世話子 「伝言……?」
神裂 「『月子と一緒に、幸せになれ』 と」
633 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:24:01.54 ID:K7FxMv6o
世話子 「そんな……っ」 ポタッ……ポタッ…… 「そんなの……ひど、すぎる……」
神裂 「……彼から、このメモを渡されています。この住所に行けばいいと」
神裂 「メイとイルという方々の家だから、と」
世話子 「あのひとは……私と月子ちゃんまでもを……勝手に……ッ!!」
神裂 「……守りたいのでしょう。あなたたちを」
世話子 「そんなの……勝手すぎる……!!」
月子 「……そうだ……勝手だ……」 グスッ
――――ダッ
世話子 「月子ちゃん……!?」
神裂 「………………」 ギリッ 「…… 『通行止め』 、あなたは、本当に勝手な人だ……」
―――― “悪いな、神裂。こいつらへの伝言、頼んだぜ”
神裂 「あなたは……本当に……ッ!!」
634 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:24:58.13 ID:K7FxMv6o
………………
ハッハッハッ……
月子 「まだ、間に合う、かも、しれない……」 タタタタ……
ズキッ
月子 「っ……傷が……しかし……!!」 タタタタ……――
――ガッ……!!
月子 (!? 段差……!? しまった、われにはもう、『神体』 の力は……!!)
ズザァァァアアアア……!!!
月子 「痛っ……痛い……痛い……」 グスッ 「痛いよ、トマル……」
月子 「痛いよ……お前が、いてくれないと、痛いんだ……」
月子 「トマル……戻ってきてくれ……一緒に、“普通” に行こう?」
月子 「われは、頑張るから……頑張って、“普通” になるから。良い子になるから。駄々をこねたりしないから……」
月子 「勉強もする。友達も作る……だから……だから……」
ポタッ……ポタッ……ポタポタッ……
月子 「だからっ……っ……トマル……一緒に……」
ヒグッ……グスッ
月子 「――――トマルぅぅううううううううううううううううううううううううううう!!!!」
635 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:26:17.74 ID:K7FxMv6o
………………
白井 「………………」
男 「………………」
ギュッ……
白井 「ねぇ、男さん?」
男 「うん?」
白井 「……今度こそ、教えていただけます?」 ジッ 「あの日、何をしていたか」
―――― 『……どこで何をしていらっしゃいましたの? わたくしに言えない用事でも?』
男 「……うん。あのときはごめんね」
白井 「もういいんですの」
男 「………………」 スッ 「……僕はもう、学園都市の暗闇に、白井さんを巻き込みたくなかったんだ」
男 「だから、白井さんに話したくなかった……けど、それは仲間を信じていないってことだったんだね」
男 「……話すよ。僕はあの日、例の遊園地のテロリストに面会に言っていたんだ」
白井 「……そうでしたの」
男 「………………」 グッ 「……やっと、手がかりを見つけたんだ」
白井 「……手がかり……?」
男 「うん……まだ分からないことばかりだけど、いずれ全てを曝いてやる」
男 「……協力、してくれますか?」
白井 「………………」 フッ 「……当たり前ですの。わたくしはあなたの仲間ですのよ?」
男 「……ありがとう、白井さん」
男 「………………」 スッ 「……彼女から伝えられた言葉、それは――」
男 「―――――― 『ドラゴン』」
636 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:27:23.34 ID:K7FxMv6o
………………裏路地
止 「………………」 ズキッ 「ぐっ……身体中が傷だらけってのは、本当みたいだな……」
止 「歩くたびに血が滲みやがる……」
止 「しかしまぁ……四人分の幸せを背負っちまってるしなぁ……」
―――― “そちらのワガママをここまで飲むんですから、少しくらい融通つけてくれてもいいでしょう?”
―――― “だから早速のオーダーです。行ってください 『通行止め』”
―――― “忘れないでくださいよ? あなたは我々に一泡吹かせたというわけではない”
―――― “単純に、我々にとってのあなたの人質を増やしてしまっただけ、ということを”
止 「……分かってるさ。そんくらいはな」
フッ
止 「俺はメイ、イル、月子、世話子……あの四人を守り通す。どんな手段を使ってでも、だ」
フラフラ……
止 「……たとえこの身が朽ち果てようと、あいつらの幸せが確約されるその日まで……」
止 「クソッタレな “人殺し” として戦い抜くと誓っているんだ」
止 「……悪いな、シィ」 フッ 「俺はきっと、幸せにはなれないよ」
――――――ッドン
637 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:29:13.01 ID:K7FxMv6o
?? 「んあ……?」 ギロッ 「……なんだテメェは? いきなりぶつかってきやがって」
止 「……お前が 『スクール』 とやらの下部組織の人間ってことでいいんだな?」 ハァ、ハァ……
下部組織 「!? テメェ何者だ!?」
止 「………………」 フッ 「……残念ながら悪いがは捨てた。ただの人殺しだよ」
下部組織 「ふざけやがって!! 死にかけみてぇだが本当に死にてぇのか!?」
ガチャッ――――
――――ギィィィィィィンン!!!
下部組織 「っあ……!? これ、は……?」 ガクッ
止 「……レベル0だろ、お前。そんなんで俺に立ち向かおうとしたのが運の尽きだな」
―――― “『スクール』 というチームについて探ってください。下部組織のリストを送ります”
止 「……ちょっとした命令でな。お前の知ってることなんてたかが知れているだろうが、喋ってもらうぞ?」
ニヤリ
止 「こっから先は 『通行止め』 だ。残念だったな」
止 「……俺にもお前にも、未来はない」
638 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:35:02.09 ID:K7FxMv6o
>>1です。
エピローグ駆け足という感じですが、これで終わりです。
誤字脱字とかヨミガナ間違えたりとか頭抱えたくなるようなミスを連発してます。
本当にごめんなさい。
とりあえず致命的な「あり得ない呼名」と「フリガナ間違え」だけは脳内補完をお願いします。
具体的に言うと
>>240
>>491
あたりなのですが、まぁどうでもいいか。
オリキャラなんて我ながらアイタタタ……って感じなんですが、
皆さん許容してくださっているようで本当にありがたいです。
っていうか止が人気ですね。
実際、書いてる身としても男よりも書きやすかったりするのですが。
つづきは、需要があるかないかは別にして書きたいです。
なんにせよ>>1による>>1のためのSSなので。悪しからず。
観ていてくださった方ありがとうございます。
半月ほど付き合わせてしまってすみません。
感想など大変励みになりました。
本当に嬉しいです。ありがとう。
それから、お疲れ様でございました。
639 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 00:45:58.84 ID:L15mL4oo
すげーよかったぜ!
続き超期待してる!!!!
止がかっこよすぎるwwww
640 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/10/01(金) 01:40:04.29 ID:dX6c.QDO
お疲れ様でした、凄く面白かった!
続きも期待しています、はい。
------------------
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この記事へのコメント
-
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 09:30: :editいちげと
この続きを死ぬほど待ってた -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 09:49: :edit△ ¥ ▲
( ㊤ 皿 ㊤) がしゃーん
( )
/│ 肉 │\ がしゃーん
< \____/ >
┃ ┃
= =
2ゲットロボだよ
自動で2ゲットしてくれるすごいやつだよ -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 10:58: :edit3か…
それにしても長いなオイw -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 12:06: :edit月子のふとももにおにんにんはさみたいよぉ
-
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 13:01: :editロボ...
お前ここにもいたのか -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 13:40: :editイカとアヒルも力を合わせたいゲソ!
-
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 13:51: :editイカルゴさん乙!
ゲット一桁~!! -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 16:16: :editとあるSSに載っててもいいくらい
こう続くと4番目の主人公って感じで良い -
ひとけたげっと。
-
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 19:03: :editこのシリーズ、長いし、もはや設定を流用したほとんどオリジナル小説状態だが、とても好きだ。続き楽しみ!
そして、止は幸せになれば良いと思うの。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 19:55: :edit"フッ"って擬音、多用し過ぎじゃないか?
-
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 20:50: :edit止いいな………
続編wktkしまくって待ってる -
名前: 通常のナナシ #nmxoCd6A: 2010/10/17(日) 21:06: :edit3時間ぐらいかかったかも
おもしろかったんだけどねうん -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 21:19: :editなんか男が非常に誰かとかぶる(主に顔が)
あぁそうそうここから先は『強制通行』だ、とまったら抹殺な
言ってみたかっただけなんだけど -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 22:19: :edit米が少ないな
長いからみんなまだ読めてない?
ともかく作者とぷんた超乙!
感想なんて書くこと無いけど続きを読みたくなってる時点で引き込まれてるんだよ -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 22:45: :edit戦闘シーンが冗長すぎる・・・
媒体が映像だったらひどいことになるぞコレw
まぁおもしろかったよ、乙 -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 22:46: :edit人によるよね、うん
作者乙 -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/18(月) 00:02: :edit待ちに待ってたぜ!
それにしても止かっこよすぎだろ -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/18(月) 00:14: :editまさか続編があるとは!!
止かっこよすぎるわww
続編も楽しみです
作者さんとぷんたさん乙でした -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/18(月) 01:51: :edit今は男より止の方がかっこよくて主人公って感じ!
止メインで書いて欲しい!! -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/18(月) 03:34: :editおもしろいね^^;
-
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/18(月) 10:32: :edit最初にグダグダ言い訳してる時点でスルー余裕なんだけどw
-
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/18(月) 18:37: :edit主人公の能力がネコとアヒルな癖に無駄に設定練ってある、このギャップがすごい。
-
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/18(月) 20:45: :editちょ、まさかこれ今後も続くのかw俺得過ぎるww
作者超がんばれ、オリキャラストーリーなのにここまで素敵なのは他に知らん。
ぷんたもgj -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/18(月) 21:24: :edit続くとしたら時系列的に暗部同士の戦いになるのかな
神裂って敵であっても人殺しはできないし、したことない人じゃなかったっけ? -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/18(月) 22:18: :editうおお、ずっと待ってたかいがあった。
やっぱこのシリーズ好きだわ。
だけど惜しむらくは台本形式SSの形を取ってることかな。
それなりの文章力で普通の小説風に書いて某理想郷辺りに投稿してたらここ以上の大反響大人気だったはず。
向こうはオリキャラを受け入れる土壌がしっかりしてるからね。
まあここで俺が言ったところで何の意味も無いんだが。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/18(月) 22:26: :edit止が戦うたびに身体の一部を失っていく活造り状態な件。
-
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/18(月) 22:33: :editインビジブルさんに見せ場…だと…?
続編に期待。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/18(月) 23:57: :edit※26に同意
オリキャラ作るの上手いし、この人のオリジナル小説も読みたいわあ -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/19(火) 01:19: :editうん、普通に面白いよ
-
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/19(火) 01:55: :editそして次回でまたボックスに人員補給されて、背負うものが増えるトマルさんであった
-
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/19(火) 17:57: :editMary Sueの類は好かないけどこの程度ならなんとか…楽しめたかな
ただ「フッ」って擬音?
みんなが使うから一々気障ったらしいなぁ(笑
無くても特に困らないから続編あるなら削ってほしいところ。期待するよ。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/19(火) 21:08: :editとりあえず最初に言い訳して予防線張るなよ
オリキャラ云々以前に言い訳がましくて気分悪くなるわ -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/19(火) 22:45: :edit止・・・馬鹿野郎ッ・・・!
-
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/20(水) 01:46: :edit※31
そのうち一方さん背負い込むよ -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/20(水) 04:26: :editきもちわるい
-
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/20(水) 05:14: :edit他の人も言ってるけど、"フッ"が多すぎ気持ち悪い。書いてて違和感とかないんだろうか。
-
名前: 通常のナナシ #Z1IwPY76: 2010/10/21(木) 21:20: :edit実に面白かった。続きに期待。
止、一方通行よりも好感度高めな
ダークヒーローっぽくて良いな。
やはり完全無敵の超人よりも
ちょっと弱い位なのが頑張ってる姿は格好いい。
逆に最近、男の主人公としての立場が
どんどん薄くなってるような…? -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/22(金) 19:17: :edit台詞だけで書くってのがそもそも間違ってる
キャラクターも死んでる
はっきり言って下手 -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/24(日) 15:13: :editオリジナル展開&オリキャラがいっぱいっていうかそれが主軸なのに、本家の雰囲気を壊さないで上手く展開出来てる良作だと俺は思うよ。
-
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/24(日) 17:41: :edit描写方法がどうとか、こまけーこたぁわかんないけど
俺は好きだ 続きも読みたいと思うよ がんばれ -
名前: 通常のナナシ #WCSj23LI: 2010/10/24(日) 20:40: :edit拒否反応起こしてるのは一部だけみたいだね
長かったけど今回も面白かったー
話も盛り上げ方も読み手の感情の揺さぶり方も上手いんだから
全部オリジナルでキャラとか設定も作ってどっか持っていけばそこそこ売れると思うんだがなあ
SS止まりで終わらせちゃうのがもったいない気がする -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/25(月) 01:09: :editといあえず、賛成の声が多いから言っとくけどやっぱり普通のSSはまだしもこういうオリキャラが活躍するようなSSは許容されちゃいけないものだと思う。
ギャグSSは仕方ないにしてもシリアスSSではやっぱし作品の世界観を変える、禁書を深く知らない人が読んでしまったときにおかしな印象を与えてしまう可能性があるから。
だけど個人としてはかなり面白いSSだと思うから、一度作者のすべてオリジナルの作品を読んでみたいね。
マジレス、批判的な文章スマソ -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/26(火) 15:54: :edit正直、最初のネガティブ発言とssの長さとオリキャラが出てくる時点で
俺は最初スルーしてたんだよ。
でも、続編がどんどん投下されてくし
とりあえず読んでみるか、と思って読んでみたら
とんでもない良作ssだった。
読めば読むほど面白くなるから
もし、私みたいに読むの躊躇している人がいるのであれば
空いた時間で読んでみてほしい。
きっと損はしないと思うから。
ってかこもえ先生ってもしかして、何らかの複線持ってたりするのかね?
このss読んでそう思ったよ。月詠って出てきたし。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/11/02(火) 20:08: :edit擁護してんの作者だろw
-
名前: 通常のナナシ #-: 2010/11/05(金) 09:27: :edit続きに期待。
-
名前: 通常のナナシ #-: 2010/11/07(日) 21:49: :editすごい面白かった。
だがコレだけは言っておく
俺のねーちんは人殺しはしない!!!!!!!! -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/11/13(土) 10:27: :edit止と男との接点がすっかりなくなって。
2つのSSに分けた方がいいのでは?
あと、まだ続けるなら、そろそろ「男」「世話子」みたいな興ざめのする名前はやめてほしい。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/11/15(月) 11:54: :edit止はまぁいいけど、男はウザい。
優遇されすぎて、何しても許される最強主人公となんも変わらん。
今までは噛ませ犬もオリキャラだったがついに原作キャラまで噛ませ犬にしだした所がもうアレだわ。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/11/23(火) 13:56: :edit能力と設定のインフレはバトルにつき物だが、その“インフレした設定”を巧みに乗りこなす筆力は手放しで褒めていいと思う。
カミやん病街道ばく進中の主人公も、この上なく続きが見たくなる。
問題なのは、止編の悪役たちがこの上なく安っぽかった。
変態性の足りない薄っぺらな犯罪者ばかりで、読む気を大幅に損ねる。
“そういう事”を口にするなら、ムギノンの16%位は過激さを持つべきだと思わないか。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/11/26(金) 06:47: :edit話そのものはけっこう面白かった。ここで書いてみるといいかも。
つttp://nizisosaku.com/
あと男の名前はちゃんとつけてやろうぜ…… -
名前: 通常のナナシ #JalddpaA: 2010/12/10(金) 14:11: :editつーか戦争が始まって重要人物暗殺未遂なんてしでかした人物をかばったとこで結局末路は同じだろうに本来一応味方のはずのステイルと戦いだすわ、それを知ってるだろう風紀委員側もおかしい。つーか「風紀委員です!」て・・・ステイルも馬鹿だが正直やってられんぞ。
相変わらず主人公が物凄くうざい、上条は独善の押し付けで清々しい部分もあるがこいつは独善+偽善も含まれすぎだわ。
でも魔術側をここまで凝った設定で書くってのは凄いと思う。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2011/03/15(火) 11:04: :edit謎コメントが多いけど面倒だからいいや
とりあえず状況をこんだけ台詞に放り込むのなら素直に地の文にしろよwとは思ったけど、一気に読めたし面白かった。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2011/08/12(金) 14:44: :edit『闇』が解体された後の話で続きを
してほしいです! -
名前: #: 2016/02/18(木) 23:48: :editこのコメントは管理者の承認待ちです
俺の妹がこんなに可愛いわけがない 黒猫 白猫Ver.