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朝倉「ただ月が綺麗だったから…」 その1

***
2010/06/15(火)
1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 02:55:10.84 ID:G/UOzDuSO
高校一年の夏

キョン「朝倉…俺と付き合ってくれないか」

朝倉「え…本気…なの?」

キョン「ああ、本気だ。朝倉の事が好きなんだ」


俺は朝倉に恋をした。理由なんて何もない

ただ少し趣味と考え方が合って、告白した

朝倉「…」

キョン「ダメか?」

朝倉「ダメ…じゃないわ。でも私、再来週には転校しちゃうのよ?」

キョン「ああ、知ってる」




3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 02:57:17.71 ID:G/UOzDuSO
朝倉「強制的に遠距離恋愛になっちゃうのよ?」

キョン「それでも俺は、朝倉が好きだ」

朝倉「…ねえ、私が引っ越す場所知ってる?」

キョン「ああ…確か、県を3つ移動したくらいの所だろ?」

朝倉「うん…付き合ったら、その距離をどうするつもり?」

キョン「…会いに行くさ。毎週は無理でも、絶対にさ」

朝倉「…信じていいの?」

キョン「ああ、信じてくれ。俺は朝倉が好きなんだ」




5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 02:59:07.14 ID:G/UOzDuSO
朝倉「うん…わかったわ。私あなたを信じます」

キョン「朝倉…!」

朝倉「私も好きよ…」

俺達は付き合う事になった

今週の日曜日には初デートをして…

来週にはもう離れる挨拶をしていた

朝倉「もうお別れね」

キョン「またすぐ会える。会いに行くさ」




7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 03:02:04.94 ID:G/UOzDuSO
朝倉「うん、ありがとうキョン…お金とか大変だから、無理はしないでね?」

キョン「好きな人のためなら、無茶もするさ」

朝倉「だ~めっ」ペシッ

そう言って彼女は俺の頭を優しく叩く

好きな人の前、自然と笑顔になりながら話してしまう

キョン「なんだよ、会いに行っても嬉しくないのか」


朝倉「嬉しいけど…でも無理はしないでね!」

キョン「ああ、じゃあ無理せず頑張るよ」




9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 03:06:11.32 ID:G/UOzDuSO
朝倉「うん。それじゃあ…私行くね。また連絡するから」

キョン「あ、朝倉…」

朝倉「涼子…」

キョン「え…」

言葉を遮るように、彼女は言う

朝倉「涼子って呼んで…好きな人には名前で呼んでほしいの…」

キョン「…涼子」

朝倉「うふふ…ありがとう。大好きよ…」




10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 03:09:39.61 ID:G/UOzDuSO
キョン「俺も…好きだ」

始めに言おうとしたことは、もう忘れてしまった

それでも、彼女が近くに、この街にいて…一緒に過ごせてる今はとても幸せだった

それからすぐに、彼女は遠くへ行ってしまった




11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 03:15:55.17 ID:G/UOzDuSO
彼女が引っ越したてから…すぐ夏休みに入ってた

しばらくは荷物などの整理があるらしく、あまり連絡も出来なかった

その間もSOS団の活動はあったが、やはり涼子がいないと元気が出ないわけで

…夏休みも終盤に差し掛かった時、彼女から連絡が来た

『会いたい』と

お互いがどちらかの地元に行くのは大変なので、ちょうど中間地点で会う事になった

そして日曜日…




12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 03:19:26.40 ID:G/UOzDuSO
俺は一人電車に乗って、涼子に会いに行った

地元を離れての遠出、見知らぬ駅、変わる風景…

乗り換えなども不安だったが、下調べもあって、乗ってしまえば何とかかなるもんだ

およそ約2時間半後、俺は朝倉が待つ駅に立っていた

朝倉「あ…」

キョン「よ、よう。久しぶりだな」

朝倉「うん…会いたかったよ…」

離れてから2ヶ月も経ってなかったが…久しぶりに会った気がした

彼女は少し目に涙を浮かべている




13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 03:32:18.39 ID:G/UOzDuSO
キョン「じゃあ…とりあえずどうするかな。当然この街の事なんてサッパリなんだが…」

朝倉「私もこの街は初めてだから…一緒に歩いて回りましょうか」

キョン「そうだな…色々探せばいいか」

そう言って俺は歩き出す、が彼女はその場から動かない

キョン「…どうした?」

朝倉「手繋いでくれなきゃ歩けない…」

キョン「わ、わかったから。その上目遣いは反則だ」

朝倉「えへへ…じゃあ今度から使っちゃお♪」

キョン「やれやれ…じゃあ、行くか。時間も勿体無いしな」

そう言って彼女の手を掴む

自分からつかんだくせに、心臓が高く鳴ったのを覚えている

彼女はとても笑顔だった




14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 03:41:12.37 ID:G/UOzDuSO
キョン「この辺りは結構都会なんだな」

駅を出て見渡すと、周りはコンクリートのビルばかり

しかし、少し目線を落とすとカラオケや繁華街など、遊べるような場所も目に入ってくる

朝倉「みたいね。ねえ、ちょっと歩いたらご飯にしない?」

キョン「確かに、もう12時過ぎだもんな…少し歩いたら何か食べるか」

そう言って俺達は歩き出す

手を繋ぎながら、内心ドキドキしながら…好きな人と過ごす休日、それだけでもう胸がいっぱいだ

見慣れない街も、楽しげに景色が広がっている




16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 03:49:29.92 ID:G/UOzDuSO
朝倉「あ…ここがいいな」

涼子が指差した先には、オムライス専門店があった

キョン「涼子がいいなら、ここに入るか」

朝倉「うん!」

そう言って2人、店に入る

席に案内されると、俺たちは早速メニューに目を通す

涼子は食い入るように、何度もページを見返している

朝倉「チーズオムライスかぁ…あ、ビーフシチューベースのやつもいいわね…んー…」

キョン「迷ってるのか?」

朝倉「うん…どっちも食べたいけど、2つなんて食べれないしぃ…」




17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 03:52:27.17 ID:G/UOzDuSO
キョン「俺が片方頼むよ。それで半分こすればいいんじゃないか?」

朝倉「え、いいの?」

キョン「ああ、涼子が食べたいの選べばいいさ」

朝倉「嬉しいなあ…本当キョンは優しいね…」


ピンポーン、と手元のスイッチでコールをする

すぐに店員がやって来る

朝倉「チーズオムライスとビーフシチューオムライスをお願いします」

店員「かしこまりました」

朝倉「えへへ…」

彼女の一挙一動が、たまらなく可愛い




19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 04:00:29.49 ID:G/UOzDuSO
朝倉「えへへ…やっと来たわね」

目の前の皿からは、ビーフシチューとチーズの香ばしい匂いがしている

キョン「…顔がニヤけてるぞ」

朝倉「えっ…そ、そんな事…」

キョン「オムライスで笑顔になるとか、子供みたいだな」

涼子「む~っ…」

頬をふくらませて、むくんでいる

キョン「ははっ、冗談だよ。さて、どっちを先に食うんだ?」

朝倉「…キョンにはあげないから」

キョン「な…」

朝倉「からかった罰よ!」




20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 04:08:02.55 ID:G/UOzDuSO
キョン「…わかった、悪かったよ、ごめんごめん」

朝倉「…」

キョン「ダメか?」

朝倉「…ちょっと冗談言っただけよ。冷めないうちに食べましょう」

キョン「ふぅ…ちょっとびっくりしたぞ」

朝倉「ふふっ…じゃあお詫びに…はい、あーん」

キョン「お…おい、ちょっとそれは…」

朝倉「何恥ずかしがってるのよ、はいあーんして?」

まるで子供に言い聞かせるように、彼女は優しく語りかけてくる

オムライスをのせたスプーンが、優しく俺の口の前に運ばれてくる




22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 04:21:12.87 ID:G/UOzDuSO
朝倉「ほら、はい…あーん」

それに負けて俺は…

キョン「あ、あーん…」

朝倉「ふふっ…」

彼女の笑顔に、また負ける

オムライスがこんなにうまく感じたのは、生まれて初めての事だった

キョン「うん、うまい…」ポンポン

朝倉「ん…ほっぺた叩いてどうしたの?」

キョン「ああ、癖みたいなもんだ。おいしい物食べると…ついな」




23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 04:25:44.72 ID:G/UOzDuSO
―カラン

扉を開け、俺たちはまた外を歩き始めた

朝倉「はあ…美味しかったね」

キョン「そうだな」

朝倉「好きな人とご飯食べてるんだから、当然かな?」

キョン「そ、そんな恥ずかしい事を堂々と言うなよ」

朝倉「だって本当なんだもん。またさっきのお店来たいね」

キョン「ああ…また今度来ような」

彼女の一言一言が、全部体に響いてくる

何を聞いても笑顔になってしまう

朝倉「じゃあ、これからどうしようか?」

彼女も笑顔で、俺に問いかけてくる




24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 04:30:59.61 ID:G/UOzDuSO
キョン「そうだな…またフラフラしながら、遊べる場所でも探すか」

朝倉「うん。でも、あまり駅から離れても…ね。それに…帰る時間、大丈夫?」

時計を見ると、4時近くだ

キョン「確かに…あまり遅くもなれないからな。朝倉も、時間大丈夫か?」

朝倉「私は…なるべくキョンと一緒にいたいから」

キョン「…俺も同じ気持ちだよ。じゃあ早いところ探しにいくか」

その後も2人で歩いたが、あまりいい遊び場所は見つけられなかった




25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 04:36:35.27 ID:G/UOzDuSO
歩き続けて…夕方、夜になった辺り、俺達は駅に戻っていた

俺の脳味噌の一番大事な部分は、決して駅に向かえと命令はしていない

それでも、俺たちは帰らなければならなかった

駅のホームで…電車を待つ

これくらいの時間は、社会人の帰宅の時間だ

そこそこ大きな街の駅なので、人も多い…その中に俺たちは2人だけで…ここにいる

朝倉「…」

キョン「…」

手を握りあっている…今この瞬間だけは、2人きりの時間だ

すぐに終わってしまうけれど…

朝倉「また離ればなれになるのね…」

キョン「もう少ししたら学校も始まるしな。しばらくは会えない…よな」

朝倉「…嫌」

彼女は小さく呟く




26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 04:42:44.12 ID:G/UOzDuSO
キョン「仕方ないだろう。俺たちはまだ学生で…」

朝倉「それでも嫌だよ…また遠くに行っちゃうなんてつらすぎるよ…」

彼女の目には、最初とは違う涙が浮かんでいる

キョン「また絶対会いにくるから…な。その日まで毎日、メールしてればすぐさ」

なだめるように…彼女の頭を撫でる

朝倉「……」

キョン「な…?」

朝倉「…うん、わかった我慢する」

それ以上彼女を見てると、俺も泣いてしまいそうだった

今の俺には、多少の強がりで彼女を慰めるしかできない…

『間もなく2番線に……』

…電車だ




28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 04:48:32.21 ID:G/UOzDuSO
お互いに反対方向なため、この電車に乗ったら俺たちはまた離ればなれだ

キョン「じゃあ、俺はこの電車だから…」

朝倉「うん…わかった…でもその前に…ちょっとだけ甘えさせて…」

涼子は人目も気にせず、俺に抱きついてきた

柔らかい彼女の髪から、優しい匂いがする…

でもその甘い香りに長く浸ってはいられなかった…

キョン「…涼子、電車が…」

朝倉「うん…」

涼子が俺の体から離れる




29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 04:50:57.48 ID:G/UOzDuSO
俺だって離したくはない

でももう電車が…出発する寸前だ

朝倉「またね…キョン…」

キョン「…」

電車が発進する

駅をどんどん離れて行ってしまう






30 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 04:59:18.22 ID:G/UOzDuSO
朝倉「…なんで、乗らなかったのよ」

キョン「ん…次の電車でいいかな、ってな」

朝倉「次の電車30分後だよ…」
乗り換えが悪い駅では、よくある時間だ


キョン「涼子と一緒にいられるなら、少しくらい遅くなってもいいんだよ」

朝倉「キョン…」

その30分間、俺たちはずっとベンチで手を握りあっていた

夏の夜、少し大きな駅、隣には最愛の人…

キョン「もう、夏も終わりだな」

朝倉「ね…次はいつ会えるかな」

キョン「そうだな、学校が始まって…しばらくしたらかな」

朝倉「そうね…9月には一回は会いたいわよね」

次に会う話、俺たちはそんな話ばかりしている

他に何を話したのかは…あまり覚えていない




31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 05:10:38.19 ID:G/UOzDuSO
…すぐに次の30分後がやって来てしまう

朝倉「電車、来ちゃったわね」

キョン「今度は涼子の電車も一緒だしな」

2人は立ち上がり、それぞれのホームに向かっていく

俺たちは電車の中から小さく手を振っていた

ガラス窓の向こうには、彼女がいる

なんだかとても小さく見える

朝倉「……」

窓…涼子が何か唇を動かしているのが見える

キョン(ん…なんだ…)

朝倉(……き)

キョン(ん…)

朝倉(す…き…)

彼女の唇は確かにそう言っていた、俺にはわかる




32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 05:13:30.84 ID:G/UOzDuSO
キョン(おれも…す…き…だ)

涼子「……!」

言葉に気付いてくれたのか…彼女は泣きながら…笑顔を見せてくれた

―ガタン ガタン…

…電車は2人を引き裂くように、動き出す

窓の外は、もう真っ暗になっている

キョン「…ずいぶん遅くなっちまったな」

時計を見ると…8時近くを差していた


今からでは、帰るのは11時過ぎになるだろうか

だが、幸せを感じている今…帰る時間などあまり関係が無かった

…こうして、俺たちの遠距離恋愛は始まった




33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 05:19:01.78 ID:G/UOzDuSO
一年生9月

夏休みも終わり、また学校での毎日が始まった

涼子は新しい学校で頑張っている、とのことだ

ある日の電話で

キョン『学校はどうだ?慣れたか?』

朝倉『ええ。女子高だから、最初は不安だったけどね。うまくやってるわよ』

キョン『そいつはよかった』

朝倉『あ、そう言えばね…私と同じようにそっちから引っ越した人がいたのよ』

キョン『へえ…』

朝倉『佐々木さんっていうんだけどね、ちょっと変わってるけどいい人なんだよ』

キョン『佐々木…?』

その名前は、俺も…聞いたことのある名前だった




37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 07:06:23.24 ID:Qk0niCKo0
なんてことしやがる
胸が苦しくなるじゃないの




39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 07:59:33.15 ID:G/UOzDuSO
その後の朝倉の話から、俺の記憶の中の人間と同一人物だということがわかった

キョン『…うん、俺の知っている佐々木みたいだな』

朝倉『キョンの知り合いだったんだ…ねえ、付き合ってる事佐々木さんに言っちゃだめ?』


キョン『別にダメな事はないよ、涼子の好きにすればいい。佐々木とそういう恋愛話をよくするのか?』

朝倉『よかった! 以前、 恋愛話をした時に、言うべきか迷ってさ…。あまり広まりすぎても、いい事ないしさ…』

キョン『なるほど。佐々木か…あいつも、恋愛なんてするのかな』

朝倉『…』

キョン『ん、朝倉?』

会話が帰って来ない…

朝倉『他の女の子の話しちゃだめ…やだ…』

キョン『…ああ、ごめんごめん。俺は涼子にしか興味ないからさ』

朝倉『本当…?』




40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 08:12:27.46 ID:G/UOzDuSO

朝倉『嬉しい♪その言葉が聞けてよかったわ…。』

キョン『…ご機嫌なおしてくれたか。よかった、でも本当に好きだからさ…』

朝倉『うん、ありがとう…。そろそろ、休みましょう? 親が最近うるさいのよね…嫌になるわ』

キョン『そう…か。じゃあ、おやすみ涼子…』

朝倉『おやすみなさい…好きだよ…』

キョン『ああ、俺も好きだ…おやすみ』




41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 08:17:34.59 ID:G/UOzDuSO
…電話を切ってから、1人布団の中で考え事をする

キョン「佐々木、か…あれからどうしてるんだろうな…」

その名前が、涼子の口から聞けるとは思っていなかった

そして今、自分の恋人と同じ女子高に通っている…らしいのだ

キョン「…まあ、あまり関係ないか。おやすみ、涼子……」

そんな事を呟きながら、俺は眠った…




42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 08:24:43.87 ID:G/UOzDuSO
次の日 朝倉

朝倉「うふふ…昨日はキョンと電話できたから嬉しいな」

軽い足取りで私は通学路を歩く

好きな彼からの電話、それだけで私を今日一日元気にしてくれる

朝倉「今度はいつ電話しよう…メールでもいいけど何か、ね…」

そんな独り言を呟きながら歩いてると、いきなり後ろから声をかけられた

佐々木「おはよう、朝倉さん」

朝倉「ひゃっ! ビックリした…佐々木だったのね」

佐々木「くつくつ。楽しそうに歩いている後ろ姿を見て、つい挨拶してしまったよ」

彼女の笑顔は、いつも愛くるしい…

女の私でも、そこに魅力を感じてしまう




44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 08:28:27.14 ID:G/UOzDuSO
朝倉「そ、そうかしら?」

佐々木「何かいい事でも?」

朝倉「えー…うん、実はね……」



佐々木「なるほど、彼氏とね。しかもあのキョンと付き合ってる、と…」

朝倉「彼から告白してくれて…遠距離でもいいから、って」

佐々木「遠く離れてても…ね。でも普段は浮気し放題じゃないのかい?」

朝倉「キョンはそんな事しないわよ。私だって他の人なんて興味ないし」

佐々木「くつくつ…まあ他人の事にあまり口出しはしないよ」

朝倉「…何かあったら、佐々木さんに相談しちゃうかも」

佐々木「友達の頼みなら、何でも来いだよ。あ…じゃあ私からも一つお願いしたいな」

朝倉「ありがとう。佐々木さんの頼みって…なに?」

佐々木「彼のアドレスだけ教えて欲しいのさ。少し昔話をしたくてね」




45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 08:38:07.07 ID:G/UOzDuSO
朝倉「…」

その一言だけで、私の頭に色んな感情が巻き起こる

朝倉(キョンのアドレス…? 知り合いとは言え、他の女性に教えて…いいのかしら?)

そんな気持ちを見抜かれたように…彼女は言葉を続ける

佐々木「…あ、他の女の子と話すのに抵抗があるなら、無理にとは言わないよ」

屈託の無い彼女の笑顔…本当に眩しい

その笑顔を信じて、私は……

朝倉「…ううん、佐々木さんなら大丈夫よ。じゃあ、これ…」
携帯電話…キョンのアドレス画面を見せる

彼女もポチポチと、電話を操作している

佐々木「…ん、ありがとう。大丈夫、話した事はちゃんと報告するからさ」

朝倉「もう、佐々木さんは信頼してるから平気よ。早く教室に行きましょう」


佐々木「そうだね…くつくつ…」




46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 08:40:50.86 ID:DtAXQR1T0
そんなつもりはないのかもしれないが何かたくらんでる様にしか見えない




47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 08:41:45.07 ID:G/UOzDuSO
同日 キョン

昼休み…北高

キョン「さて…昼はどうするかな…」

谷口「ようキョン。学食行かねえか?」

キョン「…悪いな、金がないんで学食はパスだ」

谷口「なんだ、今日は弁当か?」

キョン「いや、弁当も無いんだ」

谷口「母親とケンカでもしたのかぁ?」

キョン「…そんなんじゃない。ただ節約してるだけだ」

谷口「節約?なんか買いたいもんでもあんのかよ?」

キョン「ああ…ちょっとな」

谷口「ハァ…仕方ねえ、今日はおごってやるよ」

キョン「い、いいのか?」

谷口「気まぐれってやつだ。国木田が席取ってくれてるから、早く行こうぜ」

キョン「すまん谷口…ありがとう」




48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 08:46:19.98 ID:G/UOzDuSO
―学食

友人からおごって貰ったカレーは、そりゃあ美味だった

食事も終わり一段落した頃…

谷口「で、お前何が欲しいんだよ?」

キョン「…まあ、ちょっとな」

国木田「なになに、なんの話?」

谷口「キョンが欲しい物あるから、昼食我慢してるんだと」

国木田「へえ…僕も興味あるな。キョンがそこまでして欲しい物って」


キョン「単純に、旅費だよ。朝倉に会いに行くためにな」

谷口「朝倉…ああ、そう言えば付き合ってたな」


国木田「恋愛もいいけどさ、お昼抜きはつらくない?お弁当作ってもらえば?」

キョン「昼食代という名目で金をもらってるからな…弁当だと金がもらえない」

谷口「それも資金にあててるのかよ!」




49 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 08:53:34.83 ID:G/UOzDuSO
キョン「…小遣いだけじゃあちょっとな。バイトも考えたが…親に反対されたから、手段が無くてな」

谷口「はぁー…よくやるぜ全く。会いに行くって、朝倉のいる街まで?」

キョン「さすがにそこまでは行かないよ。お互いの中間地点の駅で待ち合わせして…遊んでるよ」


国木田「遠距離だと会うのも大変だもんね。移動費、どれくらいかかってるの?」

キョン「その駅までは、3000円程度だ…高校生にはキツい」


谷口「プラス、デート代だもんな。お前相当貢いでるな」

キョン「変な言い方するな。環境が離れてるんだから、仕方ないさ」




50 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 09:02:12.34 ID:G/UOzDuSO
国木田「遠距離恋愛かぁ…ちょっと憧れちゃうな。大変そうだけど」

キョン(大変というか…普段はやっぱり寂しいんだよ、姿が見えない分さ)

谷口「でも、遠距離って浮気し放題だよなぁ」

谷口が意地悪そうに小さく笑う

キョン「…俺は朝倉以外興味ない。向こうも多分、そう思ってるはずだ」

国木田「キョンは一途だね」

谷口「まあ、友人として応援はしてるぜ。ノロケ話はいらないけどな!」


キョン「ああ、適当に見守っといてくれ。何かあったら……」

そこまで言って、俺は言葉を止めてしまった

キョン(何かあったら…相談にのってくれ? 話すのか、俺は友人に恋愛の事を…。多分、話さないな…)

谷口「ま、いくらでも骨は拾ってやるさ!」

国木田「ははっ、じゃあそろそろ戻ろうか。授業始まるよ」

そう言って俺たちは学食を出た




51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 09:18:54.68 ID:G/UOzDuSO
教室に戻る途中…俺は友人2人の背中を見ながら歩いていた

キョン(多分、踏み込んだ相談なんかは、しないんだろうな…友情とは、また別の問題のような気がするよ)

彼らはいい友人だ

でも、涼子の事は…俺が自分できっちり解決しないといけない
今の俺は、そんな風に考えているんだろう

キョン(自分でも気持ちがどう向かってるか…よくわからないが、な)


…そんな事を考えながら歩いていると、ポケットの中の携帯が小さく震えている


そう言えば涼子からのメールを返してなかった事に気付く

キョン(朝倉と…知らないアドレス?誰からだ?)

佐々木『朝倉さんからアドレス聞いたよ。僕を覚えてるかな? 佐々木だよ。また話せて嬉しいよ…』

キョン(…佐々木!)

佐々木『彼女は授業中、ずっと携帯を気にしてそわそわしているよ。その可愛らしい姿を君に見せられなくて残念だよ』

キョン(涼子…普段はそんな様子なのか…)

そんな事を考えながらも、返信をする

…挨拶と無難な言葉を切り詰めて、送信、と




53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 09:25:28.29 ID:G/UOzDuSO
キョン(…佐々木か。本当に久しぶりだな…彼女は彼女で、今どうしてるんだろうな)

頭に浮かんだ佐々木の姿は、昔の頃の姿で俺の脳裏に映し出される

佐々木…ほんの少しだけ、彼女の事を考えてしまった

キョン(…いや、今は必要以上に考える事もないか。どうせ彼女とは会わないんだ。今は…佐々木も遠くにいるんだから)

今の俺には、なんだかそれだけでも罪のような気がしてならなかった

それくらい、今は涼子の事が好きだった

国木田「…どうかした、キョン?」

キョン「いや、何でもないさ」

谷口「早く教室に戻ろうぜ」

友人達に促されながら…俺は教室に入る

座って落ち着いたら…今度は、涼子にメールを返していた




52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 09:20:18.25 ID:j8feA7b30
キョンはSOS団に入ってるの?




54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 09:36:33.40 ID:G/UOzDuSO
>>52
はい、普段通り活動してます
触りとなるイベント(部員の正体告白やら)も普通に起こっている前提です
あくまで、朝倉さんと付き合う描写を抜き出してるだけです



同時刻、佐々木

座りながら…窓の向こうを見ている

とてもきれいな風…花…空…

佐々木(いい天気だね…)

午後のひと時、のんびりとした時間を過ごすのが彼女は好きだった

いつものように、空を見つめていると…

佐々木「ん…」

いつの間にか、携帯に光が点滅している…電話に連絡が入った証拠だった

何となく、彼からの返事だというのがわかる

キョン『久しぶりだな、元気だったか?朝倉と同じ学校だったとは驚きだ。いつでもメールしてくれ。授業だから、またな』

佐々木(くつくつ…とても無難な、普通のメール)

今は…そのメールだけでよかった




55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 09:48:43.24 ID:G/UOzDuSO
静かに携帯を閉じる…彼から別れの挨拶を書かれてる様子だと、会話は弾みそうにないみたいだ

佐々木「ふう……」

携帯をしまった私は…今度は、空の雲ではなく、少し離れた席にいる朝倉涼子を観察する

先ほどメールに書いたように…携帯を気にしてそわそわしている

そこから2~3分もすると…一心に画面を見つめ出した

多分、彼からの返事が来たんだろう

佐々木(くつくつ…分かりやすすぎだよ。キョンからのメール…2人は本当に好きあってるんだね)




56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 09:55:23.44 ID:G/UOzDuSO
笑う、自分の中にある気持ち…

本当は…自分がメールをしたい感情…それを抑えながら、私はまた窓の外を見た

目の前には青空が広がっている

夏とは少し違う光の太陽…

そのまま授業の開始まで、ずっと外を見ていた




58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 10:03:35.71 ID:IM/Zh+340
なんかこのSSどこかで読んだことあるような…
>>1前にも立てた?




59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 10:13:31.61 ID:G/UOzDuSO
>>58
国木田「お互いに嘘を言いあって付き合って、幸せなのかな…」
を、書かせていただきました



放課後

佐々木「朝倉さん、よかったら一緒に帰らない?」

1人の登下校は味気ない…だから彼女に声をかけてみる

朝倉「あ、ごめーん。私今日バイトなのよ」

佐々木「そう言えば、アルバイトをしていたんだね。キョンのためかい?」

我ながら、なんだがバカみたいな質問だ

朝倉「うん。月に一回だけど遠くまで行くから…どうしてもお金が、ね」

彼女はサラリと答えた。その様子が…やっぱり自分には…

佐々木「それなら仕方ないね。どこでバイトを?」

朝倉「家の近くのコンビニよ。時間ギリギリだから、いつも学校から直接行くのよね…」

佐々木「そう…じゃあ、バイト先までご一緒するよ。迷惑かな?」




61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 10:15:53.91 ID:G/UOzDuSO
朝倉「迷惑なんて事はないわよ! こっちこそ、付き合ってもらうのは何だか悪いわ…」

佐々木「…気にしないでいいよ。一人で帰るのも寂しいからね。ほら、急がないと遅れるよ?」

朝倉「そうね…じゃあ、いきましょうか」


―バイト先

佐々木「へえ…ここのコンビニなんだね」

学校からは少し離れた場所にあるコンビニ

そこが彼女の働き場所だった

朝倉「すぐに入れるお店を探してたら、ここがね。お客さんが少ないから結構楽なのよ」

佐々木「くつくつ…暇でも時給は変わらないものね」




60 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 10:15:45.55 ID:WoNW7YbE0
>>59
おーマジか書いてるとこに出会えて幸せ




62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 10:20:26.33 ID:G/UOzDuSO
>>60
ありがとうございます
向こうとは設定が微妙に違いますが…(朝倉さんと付き合った時期やら、引っ越し時期やら)
色々ご愛敬という事でお付き合い下さい


朝倉「従業員も私一人の時があるし、あまりお客さん来ないから…本当暇なのよね」

佐々木「くつくつ…そんなに退屈なら遊びに来るよ」

朝倉「え、来てくれるの?」

佐々木「買い物ついでに、ね。お店に迷惑にならない程度に雑談して帰るよ」

朝倉「…それも楽しいかもしれないわね。じゃあ、私行くから。送ってくれてありがとう」

佐々木「どういたしまして。今日は私も帰るよ、また明日学校で」

朝倉「うん! いつか遊びに来てね」




63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 10:24:18.72 ID:G/UOzDuSO
同日…夜中 キョン

―ピリリリリ

…涼子からのメールだ

真面目に宿題をしていた手が止まる

彼女と勉強…優先順位は比べるまでもない

朝倉『今何してる?私はバイト中で頑張ってるよ♪』

バイト…ああ、そう言えばそんな事を言っていたな

確かコンビニだったか

働いてお金を稼げる彼女が少し羨ましかった

キョン『頑張ってるなら、メールなんてするなよ』

笑う絵文字をつけながら、彼女に返信する

バイト中とはいえ、暇な時間があるらしく…メールはすぐに返ってきた




64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 10:33:33.95 ID:G/UOzDuSO
朝倉『キョンとメールしないと頑張れないもん。メール来るだけで安心する…』

お互い連絡ができる時は話していたい…そういう気持ちは、俺もわかる

朝倉『…ねえ、次はいつ会おっか? やっぱりテストの後になっちゃうかな…?』

10月にはお互いテストがある

これが終わるまでは、安心して出かける事は出来ない

キョン『それくらい…かな。ちょっと遠いけど、今は時期が悪いからな』

朝倉『うん…それまで私頑張るよ。キョンも色々あると思うけど、頑張ってね?』

キョン『ああ、俺も涼子といれば…頑張れるよ』

朝倉『えへへ、嬉しいな…あ、そろそろ、ちょっとだけ忙しい時間だから…また終わったら返事するね?』

…何往復か、彼女とのメールのやり取りを終える

少し待っても、今の時間にはもう返事は来ない

よくわからない気持ちが込み上げてきた

多分これが、寂しいという事なんだろう




65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 10:38:13.51 ID:G/UOzDuSO
10月 土曜日

憂鬱だったテストも終わり、俺たち2人は…また同じ駅に立っていた

朝倉「キョン…会いたかったよ…」

およそ2ヶ月ぶりに見る彼女は…なんだか少し綺麗になっていた気がした


キョン「ああ、久しぶり…長かったな、今日まで」

朝倉「うん…1日1日がすごく遅く感じて…ずっとキョンの事ばかり考えてた…」

潤んだ瞳を見ると、キュンとしてしまう




66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 10:46:40.03 ID:G/UOzDuSO
キョン「ああ…俺も寂しかったよ。今日は時間もあるんだから、2人でゆっくりしよう、な?」

会う時間を増やすために、今回は早くに家を出る約束をしていた

今はまだ朝の9時過ぎだ

以前会った時はこれくらいの時間に出発していたのだが…時間が短かったので、早起き作戦に切り替えたわけだ

朝倉「うん! 今日はね、行きたい場所があるんだ」

キョン「行きたい場所?」

朝倉「うん。前みたいに歩き回るのもいいんだけど…やっぱり2人でゆっくりしたいな、って」

キョン「ふむ…」

朝倉「それで…カラオケならゆっくり座れるからいいかなって思って…」

キョン「確かに、安くて長くいられるな」




67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 10:56:02.73 ID:G/UOzDuSO
朝倉「ずっと歩くよりいいでしょ?だから、ちょっと散歩したらカラオケに入らない?」

キョン「そうだな…そうするか」

朝倉「決まりね♪」

彼女が笑うだけで…笑顔一つだけでこんなにも幸せになれる

差し出した手を何の迷いもなく握ってくれる彼女

朝の街を、俺たちは静かに歩き出す

2人で、ただのんびりと




68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 11:02:32.67 ID:G/UOzDuSO
お昼過ぎ カラオケ

軽い散歩と昼食を済ませ、俺たちはカラオケに入っていた

駅の近くにある、いたって普通のカラオケ屋だ

朝倉「ふぅ…落ち着いたね」

キョン「ああ、何か歌うか?」

彼女はススッ、と俺の隣に近付いてくる

朝倉「ううん…くっついてたい…」

キュッ、と…俺の首もとに抱きついてくる

久しぶりのぬくもり…女性から感じる暖かさ

俺も黙ったまま、涼子を抱き返す

朝倉「あったかい…キョン…」




77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 13:40:44.72 ID:G/UOzDuSO
キョン「涼子だって、あたたかい。いい匂いだ…」

朝倉「もう…ホント匂いと髪の毛好きよね」

涼子は呆れたように優しく笑う

キョン「涼子だから好きなんだよ。涼子の全部が好きだ…」

朝倉「…バカキョン」

どこかで誰かから聞いたようなセリフ

でも今はそんな事を考える暇などなかった

キョン「本当に好きなんだ…」

朝倉「うん……」

朝倉「…」

キョン「…」

長い沈黙

抱き合ったまま、2人動かない




80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 14:07:31.57 ID:G/UOzDuSO
空間が止まったような感覚

彼女の言葉で、時間が動き出す

朝倉「ねえ、キョン…」

キョン「ん、なんだ?」

朝倉「…ス……」

キョン「ん…」

朝倉「キス…したい…」

キョン「…!」

朝倉「したいの…ダメ…?」

キョン「い、いやダメなんかじゃないぞ。いきなりで驚いただけだ…」

朝倉「じゃあ…勝手に奪って…私、目とじてるから…」

彼女の姿勢は抱きついたままだ




82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 14:10:42.18 ID:G/UOzDuSO
体勢を直し、見つめる

目を瞑ったままの姿は…何だか妙に色っぽかった

…グイッ、と肩を掴み彼女の顔を見つめる

もう俺の目には唇しか見えていない

ゆっくりと…お互いの唇を近づけていく

3センチ…2センチ…1センチ…

チュッ

朝倉「ん…」

彼女が小さく声を漏らす

それと同時に、ギュッと手を握ってくれる




81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 14:09:33.14 ID:VOhfPuMG0
前に読んだのは朝倉のいる地域の大学に行ってなんたらかんたらという感じだったかな




83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 14:17:26.81 ID:G/UOzDuSO
>>81
前回はハルヒメイン…今回は朝倉メインなんで、その時に省略した、高校時代と思っていただければ



数秒間、俺たちの唇は同じ場所にあった

でも次の瞬間

朝倉(……)ペロッ

キョン(……!)

彼女の舌が俺の唇に入ってくる

初めての体験、初めての興奮

つられて俺も舌を出し、彼女の舌を舐めるように這わせる

朝倉「ん…ふっ…」

彼女の小さな吐息が溢れてくる

…止まらない




84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 14:22:42.44 ID:G/UOzDuSO
朝倉「ん…ふ……」

朝倉「ふぁ……」

涼子の舌を夢中で舐めてる

味などはないが、えらく官能的なのだけはわかる

朝倉「…ぷはぁ……」

彼女が唇を離す

少し長い初キス…彼女の顔は真っ赤だった

朝倉「えっち…」

キョン「すまん、つい興奮して…」

先に舌を入れられたら、興奮するなという方が無理だ

朝倉「えへへ…でもキスできて嬉しいな…大事なファーストキスだもん、キョンでよかった」

キョン「ああ…俺もだ。なあ涼子、もう一回…」

朝倉「うん…次はもっと長くして…」

その言葉だけで、俺はもう…ただの思春期の男の子だ…

残りの数時間は、ただひたすら唇を合わせ、涼子とくっついていた記憶しかない




86 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 14:30:19.95 ID:G/UOzDuSO
別れの時間はやって来るもので…黄昏時には、俺たちはまた駅にいた

時間よ止まれ、と歌ってる歌詞の気持ちと重さが…今なら少しわかる気がする

朝倉「また…離れちゃうね」

キョン「そうだな…」

朝倉「ねえ…次はいつ会えるかな?」

彼女の目には涙

それを直視することができない

キョン「11月か…12月だな。大丈夫、すぐだよ、すぐ…」

自然と俺も涙が浮かんでくる

以前はそこまで悲しくなかったのに…なぜだろう

気持ちと寂しさが変な形に進化してしまったんだろうか?

朝倉「うん…あ、電車…来ちゃったね…」

駅に電車が到着する

ああ…またこいつか




87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 14:37:23.61 ID:G/UOzDuSO
朝倉「…今日はお別れだね…またメールで話そう?」

キョン「そうだな…」

俺たちはまた別々の電車に乗って、もとの街に帰っていく

ガラス越しに、彼女は手を振ってくれた

彼女は…笑顔だ

泣いて顔をクシャクシャにしながらも…彼女は笑ってくれている

俺もなるべく笑顔で手を振るようにした


だが…自分も電車の中でまた泣いてしまった

笑顔が作れない…自分は彼女より、少しだけ弱いみたいだ

―ガタン ガタン

電車が動き…どんどん彼女が遠くなる

もう彼女の姿は確認出来なくなっていた

涼子に会いたい

別れた瞬間から、もう会いたくなってしまった

電車は夕闇の中を、急ぐように走り出していた




88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 14:47:09.05 ID:G/UOzDuSO
夜 キョン宅

帰る頃には、すっかり遅く…0時近くになっていた

荷物を片付け、風呂に入り…寝る準備をする

明日は日曜日だ…何をして過ごそうか

涼子は明日バイトだそうだ

俺はSOS団の活動も明日は無く…一人で過ごす日曜日だった

キョン「涼子のいない休日、か……」

―ピリリリリ

就寝前のメールが来る

朝倉『明日お昼からバイトだから、そろそろ休むね。またすぐ会えるわよね。じゃあ、おやすみ』

…待ってくれ

おやすみ、の一言が胸をえぐるように響く




89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 14:58:15.35 ID:G/UOzDuSO
キョン「…俺をこのまま一人にしないでくれ」

キョン「涼子とメールできないと眠れないんだ」

急いで返信をする

でも…

キョン『そうだな、おやすみ。明日バイト頑張ってくれ』

寝ないでくれ、なんて言えない

メールしてくれ、なんて言えない

寂しくても、ワガママを押し付ける事は出来ない

今は彼女を休ませてあげる…それだけだ

それ以外は迷惑になってしまう

キョン「仕方ない、よな…俺も寝るか…」




90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 15:06:49.00 ID:G/UOzDuSO
時計は夜中の3時をさしている

あれからずっと布団に入りながら、泣いていた


キョン「なんでたよ…なんで…」

キョン「なんで涼子の事を考えるだけでこんなに眠れないんだ…」

キョン「しかもこの涙はなんだ…なんで泣いてるんだ……!」

会いたい

会いたい

キョン「…涼子に会いたい…抱きしめて欲しい、キスしたい…」

昨日感じた彼女のぬくもりを、思い出す

それだけで、身体中が痺れて…胸がギュッと締め付けられる気持ちになっていた




92 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 15:16:46.75 ID:G/UOzDuSO
どれくらい布団の中で泣いただろう

時計の針は、はもう朝の6時をさしている

…ピリリリリ

そんな時に携帯が鳴る

キョン「…! 涼子…」

朝倉『おはよう。バイトはお昼からだったけど、起きちゃったわ。キョンはまだお寝坊さんよね?』

彼女からの返事…朝一番でメールをくれる

泣いていた、自分を慰めてくれる

キョン「涼子…」


名前を呟きながら、俺は布団から出た




93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 15:25:14.74 ID:G/UOzDuSO
10月後半…そろそろ朝が肌寒くなる時期だ

その寒い中、シャワーを浴びて身だしなみを整える

服を着替え、財布の残金を確認して…玄関を出る

キョン「…行くか」

朝焼けの中…駅に向かって歩いていく

…俺の頭の中の大事な部分は、歩けと命令をしている

涼子がいる街を目指して…俺の日曜日は始まった




94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 15:32:08.41 ID:G/UOzDuSO
朝7時近くには電車に乗っていた

日曜日の割に、早朝から出掛けてる人が意外と多い事に気付く

こうして電車に乗るのは昨日以来…彼女に会いに行くのも昨日以来だ

キョン(涼子…)

電車に揺られながら、返してなかったメールを作成する

キョン『おはよう。今日は俺も早起きだ。なんだか体が軽くてな。まあ適当に過ごすよ』

会いに行く、とはとても言えなかった

今日これから涼子に会う…なんだか、想像ができない

キョン(…とりあえず乗り換えの駅まで2時間程か)

電車の暖かさもあって、俺は居眠りをしてしまった

携帯は震えない

次に俺が気付いたのは、いつも涼子と集合場所にしていた駅に着いた時だった




95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 15:44:20.73 ID:G/UOzDuSO
―乗り換え駅

昨日はここに、朝倉といた…そう思うと不思議なものだ

路線を調べてみると…この駅から1時間移動した後にまた乗り換えて…

そこから更に1時間電車に乗ると、涼子のいる街に着くようだ

つむり『A-B-C-D』と、4つの駅を経由して…地元のA駅から、涼子のいるD駅まで行けるわけだ

電車を待つ時間も考えると…ここからでは、およそ3時間かかる

でも、、今の俺には遠い距離だとは思わなかった

3時間すれば涼子に会える…涼子がいる街に行けるんだ

俺はまた電車に乗る

ここからはまだ行ったことのない、未知の領域だ

電車がゆっくりと走り出す




96 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 15:55:15.57 ID:G/UOzDuSO
駅の周りや、出発してすぐには、ビルや住宅街が見えてたものの…

少し走ると…一気に緑が広る景色に変わった

線路の脇には田んぼや畑

国道や陸橋も途中見えたが、やはり少し走るとまた田畑が広がる景色になった

キョン(少し都心を外れると、もう田舎なんだな…周りに何も無いや)

のんびりとした景観をボーッと見つめながら…電車は進んで行く




97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 15:59:36.22 ID:G/UOzDuSO
知らない景色というのは、慣れてない分時間を長く感じてしまう

今はそれがもどかしくて…焦ってしまう
キョン(急げるわけでもないし…仕方ないか)

俺はまた、ゆっくりと目をとじて眠りについた




98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 16:09:42.63 ID:G/UOzDuSO
―1時間後

電車を降りて、駅に出る

2つ目の乗り換えの駅だ

キョン「ここはもう、全く知らない駅だからな…少し不安でもあるな」

とりあえず、涼子のいる街へ行く電車に乗らなければ…

路線がいくつかあったが、涼子から聞いた事のある街の名前が案内に書かれていたため…迷いはしなかった

ただ、その看板を探すのに手間取って電車を一本逃してしまったが…

キョン「…次は40分後か。少し間隔が開くな」

この駅も、少し乗り換えは悪いようだ




99 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 16:15:11.45 ID:G/UOzDuSO
ふうっ、とベンチに座り携帯を取り出す

涼子からメールが来ていた

朝倉『おはよ。早起きさんだったんだ♪二度寝しちゃった私とは大違いね…今からバイト、行ってくるわね!』

時計は11時過ぎ…あと30分か、長いな

キョン『ああ、気をつけていってらっしゃい。終わったらまたメールしてくれ』

逆に言葉が浮かばない

…30分後、俺はまた電車に乗っていた

これで涼子のいる街まで行ける…




101 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 16:28:08.01 ID:G/UOzDuSO
―電車に乗って、更に1時間後

『次はー……』

涼子がいる街の名前だ…

その名前を聞くだけで、胸がドキドキした

ドアを飛び出し、駅を歩く…結構広い駅だ

キョン「さて、着いたはいいが…どこに行くべきか」

広い駅だけあって、出口も東口と西口がある

どちらの出口から出て、どの方面に向かえばいいのか…

キョン「バイト先も涼子の家も駅から遠くはない、とは聞いていたが…家もバイト先も、方角が全くわからないな…」




103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 16:42:24.53 ID:G/UOzDuSO
キョン「歩くか…」

考えた末、とにかく歩き出す事にした

俺は東口の改札から外へ出る

駅前にはデパートや、居酒屋の連なった3階ビル…

結構人で賑わっている街のようだ

その反面、少しゴタゴタしたような…薄汚さも併せ持った街並みだった

キョン「…とりあえず探すしかないか」

コンビニ、という事は店舗名…つまりブランドがあるわけだ

駅の近くでそのお店の名前を聞けば、地元の人間ならどこにあるかわかるはずだ

キョン「すいません、この辺に○○というコンビニありますかね…」

「ああ、そのコンビニなら…」




105 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 16:50:04.71 ID:G/UOzDuSO
店の場所はすぐにわかった

涼子の言っていたコンビニは、この辺りには1軒しかないらしい


駅からの国道を真っ直ぐ…途中裏路地に入り、少し要り組んだ道を歩いていく

駅から20分程歩いた場所に…そのお店はあった

看板は、確かにブランドと一致している

キョン「よし…」

心臓が高鳴る…

緊張しながら…俺はコンビニのドアを開け中に入っていった




106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 17:03:54.22 ID:G/UOzDuSO
14時近く 朝倉

日差しがさす午後のコンビニ

店内では立ち読みをしてる客が一人

他にお客さんもいない、暇なお店

朝倉(はぁ…やっぱり暇ね。かと言って今の時間はパートさんもいるからサボれないし)

立ち読みしてる客が、雑誌を閉じ外に出てしまう

これでお客さんは本当にいない

朝倉(…キョンに会いたいな…)

寝ても覚めても、考えるのは恋人の事ばかり

昨日会った余韻がまだ胸中に残っている

それが余計に切なかった




108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 17:19:47.50 ID:G/UOzDuSO
朝倉(でも、会えるのはまた一ヶ月だもんね…)

―ピンポーン

その時入店音が鳴る…お客さんだ

朝倉「あ、いらっしゃいま……」

そこには、いるはずの無い人

昨日会ったばかりの最愛の人がそこに立っていた

朝倉「え…キョン……なの?」

キョン「ああ…」

朝倉「何でここにいるのよ…?」

キョン「会いたくって…来ちまったよ」

それを聞いただけで、涙が溢れてしまった

大好きな人が確かにそこにいる

5時間以上かけて、私に会いに来てくれている

朝倉「嘘みたい…嬉しい…ありがとう…」

キョン「ああ…俺も会えてよかった…」




109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 17:29:58.75 ID:G/UOzDuSO
でも、この時間は、会っても触れる事はできない

たまにお客さんも来るので、会話もあまりできない

たまに話せても、パートさんがいるのであまりたくさん会話も出来ない

仕方ないとは言え、やはり寂しい

そんな状態が20分程続いた時…パートさんが口を開いた

「あの、君?」

キョン「…はい?」

「彼女、仕事中なんだよ?あまりお店にいられても…」

私は仕事、それは当然

わかってる

わかってるわよ…

キョン「そう…ですね…」

多分彼もわかっている…




110 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 17:38:58.00 ID:G/UOzDuSO
「仕事であって、遊びじゃないからさ…だから、もう話すのは止めてね?」

…嫌だ。でも言えない

私はバイトの身だ、端から見たら確かにサボりにしか見えないかもしれない

それでも、目の前にいる大切な人と話せなくなるのはやっぱり嫌だ…

でも、私は何も言えない



キョン「…こっち…だってな……」

―え

キョン「こっちだってな! 遊びでここまで来てるわけじゃあねえんだよ!!」

お店に響き渡るような…大きな声…




111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 17:46:51.95 ID:N5zqfZBK0
キョンただのDQNじゃねーかw




112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 17:47:01.86 ID:G/UOzDuSO
キョン「遊びで……大事な人に会いに来るのが遊びなわけない…だろ……っ!」

泣いている…震えている

私も泣いている

キョン「……っ!」

彼はそのまま、お店を出ていってしまう

私は追いかける事もできないで、その場に立ち尽くしていた

「…行ってあげなよ」

朝倉「え…」

「なんだか…彼に悪かったかしら、あんなに必死に言われたら…ね…」

朝倉「…後でちゃんと話しますから、ちょっと行ってきますね…!」

急いで彼を追う…




113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 17:50:55.21 ID:G/UOzDuSO
彼は入り口の近くに立っていた

朝倉「よかった…いてくれて…」

キョン「…ごめんな。大声出して」

朝倉「ううん…後で私から話しておくから大丈夫…それに、嬉しかった…」

キョン「…」

朝倉「本当よ…?」

キョン「今日は会えてよかった…会いたかった…」

朝倉「うん…うん…」

キョン「昨日は寝れなくて…ずっと起きてて…」

朝倉「うん…」

キョン「朝メールが来たら、会いたくなって…気が付いたら電車に乗って…」

朝倉「それだけで十分よ…ありがとう…好き、大好きよ…」

私は彼の唇にそっとキスをする




114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 17:57:25.97 ID:G/UOzDuSO
昨日触れた唇と…全く同じ…やわらかさ…

ゆっくりと2人の唇が離れていく

キョン「…ありがとな。そろそろ俺は帰るよ。時間がかかるからな」

朝倉「うん…30分でも、会えて嬉しかった…」

キョン「帰りが5時間だけどな…でも、会えたから幸せだ」

朝倉「うん…気をつけて。またメールするから…」

キョン「ああ…じゃあ、またな…」




115 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 18:03:47.53 ID:G/UOzDuSO
そう言って彼は走り出した

その後ろ姿を見れただけで、また頑張れる…

朝倉(ありがとう…大好きな人…)

そう想いながら…ゆっくりお店に戻っていく

今はさっきより笑顔でいられる、そんな気がした





佐々木「くつくつ…」




116 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 18:08:41.86 ID:G/UOzDuSO
15時過ぎ 佐々木

ああ、僕はとんでもない現場を見てしまった

かつての友人とその恋人が…逢い引きしてる瞬間を

くつくつ…本当に2人が愛しあってた…それが見れただけで僕は満足だよ

―ピンポーン

朝倉「いらっしゃい…あ、佐々木さん」

佐々木「くつくつ、また来たよ。この時間は一人という事らしいからね」

朝倉「そうなのよ。パートさんが15時までで…夕方まで私一人なの」

確かに、お店には彼女の姿しか見えない




117 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 18:15:00.67 ID:G/UOzDuSO
佐々木「…ところで、目元が赤いけど何かあったのかい?」

理由は知っているのに…私は理由を聞いた

朝倉「え…! あ…じ、実はね……」



佐々木「へえ、キョンがさっきまでこのお店に?」

朝倉「もう、ビックリしちゃったわよ。いきなり来るんだもの…」

佐々木「きっと驚かせたかったんだよ」

朝倉「嬉しかったわ…5時間かけて来てくれて…」

佐々木「帰るのにまた5時間…計10時間かけて、会えるのが30分。まるでロミオとジュリエットだね」

朝倉「遠距離だから、仕方ないわよ…でも会えただけで嬉しいのよ…」

くつくつ…彼女の目は、本当に恋する乙女の目をしているんだね




118 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 18:23:52.14 ID:G/UOzDuSO
佐々木「…そっか、少しキョンに会ってみたかったな。あ、もちろん、友人としてね」

朝倉「佐々木さんが来るちょっと前まではいたんだけど…すれ違いね」

佐々木「くつくつ…」

―ピンポーン

新しいお客さんだ

見ると、2~3人が続けてぞろぞろとお店に入ってくる

佐々木「…あまり長居もできないかな。じゃあ、また明日学校でね」

朝倉「ええ、また明日ね」




119 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 18:34:39.40 ID:HhNEkd2X0
なんでこの>>1はこんな雰囲気のものを書くんだ
悪い予感しかしなくて怖いわ




120 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 18:36:12.96 ID:G/UOzDuSO
僕はお店をあとにした

夕焼け空…日曜日ももう終わりそう

キョンの新しい姿を見る事ができた…朝倉さんの秘密を垣間見る事ができた…

今日はそれだけで、満足だよ、くつくつ…

そして季節は流れて…冬になってゆく




121 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 18:41:48.55 ID:G/UOzDuSO
12月前半 キョン

めっきり冷え込んできたこの季節

ストーブの火が灯る学校の教室で、いきなり声をかけられた

声の震源地は後ろの席…ハルヒからだった

ハルヒ「キョン、あんた24日は暇なんでしょ?」

キョン「なんでしょ、ってお前な…決めつけるなよ」

クリスマスイブ…普通なら恋人と過ごす日だが、涼子がバイトに出なければいけないらしい

終わるのが夕方5時なので、その日は中間地点で会う事もできない

というわけで暇と言えば暇なのだが…




122 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 18:50:16.12 ID:G/UOzDuSO
ハルヒ「SOS団でクリスマス会やるから、参加しなさいよ!」

一人寂しく、よりはマシか


キョン「クリスマス会か…ああ、わかった出席だ」

ハルヒ「決まりね。じゃあ24日の夕方6時に有希のマンション集合よ」


キョン「ああ、わかったよ」

ハルヒ「あ、プレゼント交換もあるんだから、ちゃんと用意しときなさいよね!」

プレゼント交換か…

…クリスマスに会えないとはいえ、俺も涼子に何かプレゼントしないとな

はぁ…会えないのが余計に悲しい




124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 19:09:51.57 ID:G/UOzDuSO
仕方ないとはいえ、やはり恋人と一緒に過ごしたいものだが…考えても、仕方ないか

クリスマスの事を考えたら、余計に寂しくなった気がする

ハルヒ『それとね…先週の日曜日にね……って、ちょっと待ちなさいよ!』

まだ何かを言っていた…気がする、ハルヒを置いて教室を出ていった

これ以上、学校に残るつもりも無かった

プレゼントでも買いに行くか…

あまり気乗りはしなかったが、俺はそのままデパートに向かった




125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 19:15:40.26 ID:G/UOzDuSO
デパート

キョン「さて…何を買うかな」

パッと、SOS団のメンバーが頭に浮かぶ

交換…となると誰か一人に対象をしぼってプレゼントを買う訳にもいかない

キョン「長門なら本…古泉ならボードゲームでも…と、簡単にはいかないよな」

誰に貰われても、ある程度喜んでくれそうな物…

うーん……





126 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 19:27:34.48 ID:G/UOzDuSO
結局、今日のところは下見だけですませてしまった

キョン「まあ、クリスマスまではまだ時間がある…ゆっくり考えればいいさ」

もう暗くなった空を見ながら、俺は歩いていく

涼子がいる街の方向を見ながら…考える

今ごろ、彼女は何をしてるんだろう

気づくと…彼女の事しか頭に無い自分がいる

ああ…涼子に会いたいな




127 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 19:31:59.25 ID:G/UOzDuSO
2日後 佐々木

女子高内教室

佐々木「朝倉さん」

朝倉「…」

佐々木「もしもし、朝倉さん?」

朝倉「あ…ごめん、どうかした?」

佐々木「寝不足かい?ボーッとしちゃって…」

朝倉「ううん…」

落ち込んでいる彼女の姿…とても弱々しい

なんだか心配になってくる

佐々木「…最近彼とうまくいってないとか?」

朝倉「そんなんじゃないわよ、先週も会えたし…でも、再来週に会えないのよ…」

佐々木「再来週…っていうと、クリスマスかな?」

朝倉「うん…イブに会いたかったんだけど24、25日はバイトだから…夕方5時まで」




128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 19:39:08.73 ID:G/UOzDuSO
佐々木「なるほどね…その時間じゃあ身動きできないわね」

朝倉「うん…お互い地元なら夜にでも会えるけど、移動時間が無いんだもの」

移動時間、ね…

佐々木「時間は…仕方ないわよね

朝倉「そうよね…だから、クリスマスは会えないのよ。残念だけど…ね」

彼女の顔が、本当に残念そうに沈んでいる




129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 19:51:45.70 ID:G/UOzDuSO
佐々木「あ…彼と会わないんだったらさ、夕方私と一緒に遊ばない?」

朝倉「佐々木さんと?」

佐々木「夕方からは暇なんだよね?」

朝倉「ええ、それなら…大丈夫よ」

佐々木「よかったら、24日…私と遊ばないかな? 実は最近お菓子作りが趣味でね…」




131 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 19:57:09.44 ID:G/UOzDuSO
朝倉「あら、いいじゃないお菓子! それなら…私も何か作って持ってくわよ」

佐々木「そっか、断られなくてよかったよ。段々作り慣れてくると、誰かに食べて欲しくてね…楽しみだよ」

朝倉「決まりね。少しやる気が出てきたわ♪ あ、時間は…夕方ね…6時で大丈夫かな?」

佐々木「くつくつ、そうだね…バイト後なら、それくらいかな」

朝倉「わかったわ。じゃあ…日が近づいたら、また打ち合わせしましょ! またね佐々木さん」
佐々木「うん…また、ね」




クリスマスだから、ちょっとだけ気まぐれでお節介をさせてもらうよ、くつくつ




133 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 20:05:12.27 ID:G/UOzDuSO
同日 キョン

SOS団部室

キョン「…これで王手だ」

古泉「僕の負けです。相変わらずお強いですね」

長門「…」ペラッ

朝比奈「はい、涼宮さんお茶ですよ」

ハルヒ「ありがとう、みくるちゃん」

いつもの部室…いつもの日常

涼子と付き合ってからも、SOS団の活動を止めた訳ではなかった

月に1度は会いに行くので、たまの休日活動には参加はできてないが…

それでも両立はしていたつもりだ




135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 20:13:02.04 ID:G/UOzDuSO
俺たちが付き合っている事は部員のみんなが知っている

親しい、谷口や国木田にもちゃんと事情は話してある

…聞いた話によると、一部の生徒の間では俺と涼子は遠距離カップルとして人気者…らしい

噂が一人歩きして、どんな話になってるかは知らんが…憧れを抱く人間も多いんだそうだ(谷口談)

まあ、噂はしょせん噂だ

―ピリリリリ

そんな事を考えてると、携帯が鳴る

メール…涼子からだろうか?

しかし今回は違った

メール画面には、佐々木の名前が出ている




137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 20:19:26.93 ID:G/UOzDuSO
佐々木『24日に彼女と遊ぶ約束をしたよ。夕方6時に駅前に集合だよ、くつくつ』

…なんだこれは

疑問に思いながらも、返信をする

キョン『涼子と遊ぶのか。でも俺はそっち行けないから、全く関係ないぞ? クリスマスも、会えないしな』

―ピリリリリ

すぐに返信が来る





138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 20:26:51.45 ID:G/UOzDuSO
佐々木『夕方6時にこっちに来ればいいじゃないか。彼女に会いたいなら、ね』

…確かにその時間に涼子の地元に行けば会う事はできる

佐々木『無理にとは言わないよ。ただ会えるようなセッティングだけ…お節介かもしれないけどね』

とりあえず、時間だけ約束していれば…会う口実と、彼女が駅にいると言う保証は生まれる

キョン『…少し考えてみるよ。しかしなんでこんなことを?』
昔の知り合い…とは言え、ここまでしてくれる事が正直疑問だった


佐々木『クリスマスは一番大切な人と過ごすものだろ? それに、多分彼女が一番そう思ってるからさ』




139 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 20:37:17.82 ID:G/UOzDuSO
…俺だって、本当は会いたいんだ

キョン「みんな、ちょっと聞いてくれ」

ハルヒ「ん…どうしたのよ?」
みんなの目が一斉に俺の方を向く

一息吸ってから…俺は言葉を発する


キョン「…俺は、24日のクリスマス会には参加できない」

長門「…」

古泉「おや…」

朝比奈「ふぇ…」

ハルヒ「な…何言ってるのよ! 欠席なんて許さないわよ!」

キョン「本当にごめん。後でパフェでもなんでも奢る。だから勘弁してくれ」

頭を下げて…必死に頼み込む




142 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 20:47:56.16 ID:G/UOzDuSO
ハルヒ「そんな問題じゃないのよ! 大体、理由は何よ!」

バンッ、とハルヒは机を叩き立ち上がる

その音に負けないよう…俺も力いっぱいに答える

キョン「朝倉涼子に…会いに行くんだ」

ハルヒ「……!」

長門「……」

朝比奈「ふぁ…」

古泉「んっふ…」

キョン「だから、ごめん。みんな」

ハルヒ「…そう、だったらいいわよ。勝手にしなさい」

古泉「涼宮さん…」

怒った様子で椅子に座り…彼女はプイッと、窓の外を向いてしまう

キョン「…悪いな。じゃあ、今日は帰るよ。みんな…またな」

部室の扉を開き…外に出つつ、チョイチョイっと古泉に手招きをする

古泉「…?」




143 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 20:57:26.31 ID:G/UOzDuSO
廊下で男2人、ちょっとした話し合いだ

キョン「すまないな」

古泉「いえ、僕は大丈夫ですけど…」

キョン「また閉鎖空間が発生しちまったら、悪いと思ってな」

古泉「……」

古泉は、何かを考え込むように口を手で押さえている

キョン「古泉…?」

古泉「…いえ、とにかく心配しないで下さい。僕なら平気ですから。涼宮さんも…何とか大丈夫でしょうし」

キョン「あ、ああ…まあ、何かあったら言ってくれ。じゃあな」

古泉「ええ…また」




144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 21:03:16.57 ID:G/UOzDuSO
同時刻 古泉

SOS団部室

彼は帰ってしまった

心なしか部室の空気が重い

涼宮さんにいたっては、無言で窓の外をじっと見つめている

ハルヒ「…」

冬の曇り空…灰色の空

彼女はただ空を見上げている

普段ならば、絶対に問題アリ…な状態なのだが、今は違う

僕の携帯電話は静かに…カバンの中で動かずにいる

つまり、閉鎖空間が発生していないという事だ




145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 21:12:01.94 ID:G/UOzDuSO
古泉(ほら…大丈夫なんですよ)

彼に聞かせるように、心で呟いた

もちろん、彼は何も知らないのだろう

いつもならこういう時に…

こちらに向くかもしれない関心が…今は全部、他の場所に向かってしまっている

古泉(まあ…仕方ないですよね)

ハルヒ「はぁ…仕方ないわよね」

空を見ていた彼女がいきなり口を開く

6つの目が、一斉に彼女に向けられる





147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 21:18:46.05 ID:G/UOzDuSO
ハルヒ「用事なら仕方ないわよね。一人欠席したけど…あ、変わりに妹ちゃんを呼べばいいのよ」

古泉「…それはいいですね。せっかくのクリスマスなんですから、大勢の方がいいですよね」
合わせるように…彼女に言葉を返す


ハルヒ「そうよね…あ! ついでだから国木田君や谷口辺りも誘ってみようかしら?」

長門「…それがいい」

朝比奈「みんな集まったら、それはそれで楽しそうですね」

古泉「元々、彼と妹さんも誘うつもりでしたからね」

ハルヒ「そっか、妹ちゃんには後で電話して…他の人間には明日声をかけて……」




149 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 21:24:28.72 ID:G/UOzDuSO
古泉(…何だかんだで、涼宮さんは彼がいなくても大丈夫なようですね)

古泉(まあ、本当の所はわかりませんけど…ね)

SOS団の部室はちょっとした盛り上がりを見せていた

一つだけあいたイスが、なんだか別世界の物のように思えた

彼女達が今何を思って、何を話しているか…

今の彼には…あまり関係の無い事なのでしょう




150 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 21:31:48.08 ID:G/UOzDuSO
デパート キョン

キョン「ふぅ…最近はここに来てばっかだな」

先日も、クリスマス会のプレゼントため、何度かここには来ていた

そのため色んなお店は見ていたのだが…

キョン「SOS団から、いきなり涼子だもんな…さて、何にするかな…」

ファンシーショップ、洋服、靴、小物…

今まで見たお店を見返してみても、いまいちピンと来ない




151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 21:36:27.81 ID:G/UOzDuSO
さて、どうするか、と考えながら歩いていた時…

目の前に一つのジュエリーショップが見える

キョン「宝石、か…」

店に入ってみると、ショーケースに並んだ眩しい光の数々

ネックレス、指輪、ピアス…それぞれが煌めきながらショーケースを彩っている

キョン「こりゃあまた、豪華なもんだな」

値段も…その輝きに比例してか、かなり高い

キョン「とても、高校生の小遣いじゃあ足りないな……」




152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 21:44:09.70 ID:G/UOzDuSO
しかしよく見てみると、決して手が届かないような値段でも無かった

もちろん高い物は高いが、それでも何とか買える値段の宝石があるのも事実だった

キョン「いいかもな…うん」


そんな事を呟きながら、ケースを見ていく

キョン「ん…これは…」

目に飛び込んで来た一つの光

キョン「これ…似合いそうだな」

値段も決して手が出ないわけでもない…




153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 21:52:17.32 ID:G/UOzDuSO


帰路につく途中、俺は佐々木にメールをした

キョン『24日、そっちに行く事にしたよ。知らせてくれてありがとうな』

―ピリリリリ

佐々木『そうかい、それはよかった。じゃあ24日の夕方6時に駅だから…遅れて、彼女が帰ってしまわないようにね』

今回ばかりは、佐々木に感謝だな

会える機会を一つ作ってくれた

今度お礼でもするよ、と軽く返事をしてメールを終わった

もうすぐ冬休み…そしてクリスマスには涼子に会える




154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 21:55:38.24 ID:G/UOzDuSO
12月20日 ハルヒ

放課後…あと2日で学校も終わり

少し短いながらも楽しい冬休みに入るっていうのに…

私の気持ちはなぜか暗い

冬みたいに凍ったままの気持ち

理由はわからない

前の席のバカが、SOS団のクリスマス会に参加しないとか…

決してそんな理由では無い…と思う




156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 22:03:31.04 ID:G/UOzDuSO
ハルヒ(なんでこんなにモヤモヤしてるのよ…バカみたい)

机で考えいても…答えは見つからない

ハルヒ(やめた…帰ろ)

席を立ち、廊下を歩いていく

下駄箱まで歩くと、すでに靴を履き替えた古泉一樹の姿があった

古泉「おや、涼宮さん。今お帰りですか?」

ハルヒ「ええ。古泉君も?」

古泉「はい。今日はもう何もありませんしね…」

ハルヒ「ふうん…」

今は誰でもいいから、聞いて欲しかった

古泉「…どうかしましたか?」

ハルヒ「ちょっと、お話があるの。よかったら一緒に帰らない?」




157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 22:09:03.53 ID:G/UOzDuSO
古泉「自分の気持ちがわからない?」

ハルヒ「そうなのよ…なんかモヤモヤしっぱなしで。何をしてもスッキリしないの」

古泉「それはそれは…」

ハルヒ「ちょっと、考えるのに疲れちゃってね…」

普段ならこういう話はあのバカキョンによく話していた…気がする

でも今は違う

古泉「ふぅむ…そのモヤモヤの原因を考えた事はおありですか?」


ハルヒ「…あるけど、あまり話したくないわ」

多分わかっている事のに…私は口に出す事が出来なかった




158 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 22:12:37.99 ID:G/UOzDuSO
古泉「それでもいいですよ。原因がはっきりしているなら…それを解決してみては?」

ハルヒ「…それが解決できなかったり、どうしようもない事だったらどうするのよ?」

正直、何をすればいいのかわからない…

何をしたいのかもわからない…

古泉「そういう時はですね、何をどうするかではなく、自分がどうしたいかを考えるんですよ」

ハルヒ「私自身…?」

古泉「はい。今やりたい事を考えて…そのためにはどうすればいいか。それだけで随分違うはずです」

ハルヒ「自分…自分ね…」




160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 22:25:27.57 ID:G/UOzDuSO
古泉「…ある程度、答えは決まってるんじゃないですか?」

ハルヒ「うん…決まってる。本当はキョンと一緒にクリスマス会に参加したいの…」

私は…素直にそう思う

ハルヒ「でも、それはどんなに頑張っても叶わないのよ…」

しばらく…静かに道を歩いていく

今年のクリスマスは…彼と一緒にはいられない…ずっとそう考えていた

古泉「それなら少しだけ…願望を変えてみては?」

ハルヒ「…?」

それでも、彼は口を開いてくれた




162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 22:33:01.23 ID:G/UOzDuSO
古泉「クリスマス会が無理でも、彼に何かの形でクリスマスを残せれば…いいんではないですか?」

ハルヒ「形……」

古泉「当日には会えなくても…彼とクリスマスを記憶に残してもらえるような……」

ハルヒ「あ…プレゼント……」

古泉「…それがあなたの答えならば、渡してあげるのも…いいと思いますよ」

ハルヒ「うん…私、今からデパートに行ってくる…」

古泉「そうですか。答えが…見つかったならよかったですよ」

ハルヒ「うん…ありがとうね古泉君」

古泉「ええ、暗いですから…お気をつけて」

彼は、優しく手を振ってくれた




163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 22:41:56.76 ID:G/UOzDuSO
彼と別れてから、デパートに向かう

素直に考えたら…私はキョンに喜んで欲しかったんだ

恋愛感情なんかは別にして…なんだかずっとキョンの事ばかり考えてしまう

朝倉涼子と付き合ってから、キョンは遠くなってしまった

話しても上の空…

授業中はいつもボーッと何かを考えているか、携帯を見ているか

彼が遠くなってしまったからこそ、何だか気になってしまったのかもしれない

でも今は…そこまでの答えは、わからなかった




164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 22:53:05.19 ID:G/UOzDuSO
ハルヒ「何を買おうかしらね……」

ハルヒ「洋服…んー、何か違う…かな」

ハルヒ「玩具…これは、妹ちゃん向けかしらね」

ハルヒ「宝石…なんて、キョンのガラじゃないわよね…」

お店をいくつか…歩いて彼に合ったプレゼントを探していく…

ハルヒ「えへへ…キョンには、これがピッタリ…かしらね」

小さな紙袋に包まれた…綺麗な灰色をした毛皮の手袋

オシャレ過ぎず、かと言って地味すぎるわけでもない…使いやすい手袋

フワフワ、サラサラした手触りが気持ちいい




165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 23:00:37.92 ID:G/UOzDuSO
足取り軽く、帰って来る途中…

ハルヒ「あ…どうせデパート行ったなら、クリスマス会のプレゼントも買えばよかったかしら?」

でもこの考えは、手に持った紙袋を軽く抱きしめただけで…

ハルヒ「…まあ、いいか。今回はキョンのためにデパート行ったんだし…ね?」

もう一度デパートに行って、プレゼントは買えばいい

明日になったら、クリスマス会の連絡をして…準備もして…

忙しいけれど、やっと自分の冬休みが始まるような…そんな気がした




166 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 23:10:24.96 ID:G/UOzDuSO
12月24日 夕方4時頃

キョン宅前

SOS団のクリスマス会…私は妹ちゃんを迎えに行くため、キョンの家に来ていた

―ピンポーン

ハルヒ「こんにちはー」

ガチャ

キョン妹「あ、ハルにゃんだ。おむかえに来てくれたのー?」

ハルヒ「ええ。一緒に行きましょう」

キョン妹「わかったー♪」

無邪気に手をとってくれる妹ちゃん…

開いたドアから、家の中が少し見えてしまい…思わず、妹ちゃんに訪ねてしまえ

ハルヒ「あ…キョンはもういないの?」

キョン妹「キョンくんはねー、お昼頃出かけちゃったよ。また遠くにいってくるんだってー」

ハルヒ「そう…遠く、ね…」




168 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 23:17:29.90 ID:G/UOzDuSO
ハルヒ「そ、そう。まあいいわ、いきましょう、妹ちゃん」

キョン妹「はーい♪」

ギュッと手を繋いで…有希のマンションまで、妹ちゃんとゆっくり歩く

キョン妹「ケーキケーキ♪」

握った手を、ブンブンと振ってくる妹ちゃんが可愛らしい

―ピンポーン

鍵は開いている、と言われていたので中に入る

相変わらず小綺麗で大きなマンションだ

キョン妹「おじゃましまーす」

長門「…いらっしゃい」

ハルヒ「来たわよ、有希。あれ、みんなまだいないの?」




169 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 23:23:25.03 ID:G/UOzDuSO
長門「古泉一樹と朝比奈みくるは買い出し中…他のみんなは合流して間もなく到着する」

ハルヒ「そう、じゃあ準備しちゃいましょう。手伝うわよ」

長門「問題無い。後は人と食料が集まればいいだけ…ゆっくりしてくれて構わない」

ハルヒ「そう…じゃあ妹ちゃん、遊んで待っていましょうか?」

キョン妹「わーい♪」

それから、20分もすると賑やかな足音とうるさい声が響いてくる

今日は…多分、楽しいクリスマス




170 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 23:29:22.46 ID:G/UOzDuSO
夕方5時過ぎ

ハルヒ「…みんな、集まったわね。じゃあ乾杯しましょうか…乾杯よ!」

カンパーイ

古泉「しかし、これだけ集まると賑やかですね」

谷口「いやあ、モグ俺たちまでモグ呼んでもらえるとは思ってなかったからなモグ」

国木田「食べながら喋るのよしなよ…」

鶴屋「うんうん…めがっさなご馳走が目の前にあるんじゃ、我慢できないよね♪」

朝比奈「ちょうど焼きたてピザのセールをやっていたんで、買ってきたんですよ」

古泉「チキンとピザ、クリスマスには持ってこいでしょう」

長門「…もぐ」




171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 23:36:31.45 ID:G/UOzDuSO
キョン妹「コーンピザだいすきー♪」

鶴屋「お、いい食べっぷりだねえ! …そう言えば、キョン君はいないのかい?」

ハルヒ「キョンは……」

言葉に詰まっていると…

谷口「あいつは…女ですよ、女。全く…クリスマスに彼女と過ごすなんてあいつは…チクショウ!!」

鶴屋「ほうほう!青春だねぇ…確か遠距離恋愛だったかな?あまり知らないけど」

朝比奈「そうですね。確か…県3つほど離れてるとか」

鶴屋「ひゃあ…遠くまで、わざわざ会いに行ってるんだね」




172 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 23:42:19.59 ID:G/UOzDuSO
谷口「でも確か、中間地点の街で会ってるとか言ってたよな」

国木田「うん。お金も時間もかかるから、って」

長門「…」

古泉「…あの、彼から聞いた話なんですけど」

ハルヒ「? どうしたのよ、古泉君」

古泉「今日…つまり今回は中間地点ではなく、朝倉さんの街まで行くそうですよ」

鶴屋「って事は、県3つかい! そんな遠く、想像がつかないにょろ…」

ハルヒ「…あれ、でも妹ちゃん?」

キョン妹「なーにハルにゃん?もぐもぐ」




174 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 23:53:56.64 ID:G/UOzDuSO
ハルヒ「キョン、お昼くらいに出かけたって言ったわよね?」

キョン妹「そうだよー。お昼のハトさんが鳴ったらおでかけしたんだよ」

国木田「じゃあ12時に家を出てから…えっと、彼女のいる街までの時間は?」

古泉「乗り換えを含めて5、6時間かかると言ってましたが」

谷口「多く見て…まあ、6時間か」

ここまで話を聞いて…全員が顔を見合わせる

全員「……?」

谷口「あいつ…今日中に帰って来られるのか?」




175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/28(金) 23:57:42.30 ID:G/UOzDuSO
国木田「そう言えば…終電とかもあるからね。夕方6時に着いたとして…夜7時に乗ればギリギリ終電くらいかな?」

ハルヒ「5時間かけて1時間だけ会って帰ってくるなんて…馬鹿げてるわ」

谷口「今日は帰らないでお泊まりだったりしてな」

ハルヒ「な……!」

キョン妹「キョンくん、お泊まりっておかーさんに言ってなかったよ?夜に帰る、って」

鶴屋「…て事は、本当に1時間足らずで帰りの電車に乗るみたいだね」

長門「…」




176 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 00:03:20.92 ID:0BWwg4HNO
ハルヒ「ふぅ…今度一度、あのバカを尋問する必要があるみたいね」

谷口「おっ、いいなそれ。色々楽しい話が聞けそうだ」

朝比奈「ふぇぇ…あまり聞いちゃあ悪いですよ…」

鶴屋「はははっ、まあそれも青春なんだからいいじゃないかっ! 楽しい話は大歓迎だよ」

古泉「たまにはそういう話も、いいのかもしれませんね」

国木田「彼女がいるのは貴重なサンプルだからね。僕もぜひ聞いてみたいよ」

谷口「くそっ……あの節約野郎が……」

鶴屋「おっ、節約ってなんの事だい?」

国木田「キョンがね、昼食分のお金を貯めてね……」

彼の話で笑いながら…夜は深くなっていく




177 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 00:06:58.25 ID:0BWwg4HNO
夜9時

クリスマス会を始めて数時間…

パーティーもそこそこに盛り上がり、そろそろ帰宅の準備を始めていた頃だった

谷口「じゃあ、帰るか」

国木田「そうだね…今日は誘ってくれて、ありがとね」

鶴屋さん「めがっさ楽しかったよ」

朝比奈「みなさん、よい冬休みを過ごして下さいね」

古泉「では行きますか。女性の方は送る必要がありますね…」

ハルヒ「ほら、妹ちゃん帰るわよ」

キョン妹「う~ん…ねむぃぃ…」




178 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 00:13:23.52 ID:0BWwg4HNO
古泉「…これではおぶって行く必要がありますかね?」

谷口「あいつの家までなら、俺がおぶってくよ」

古泉「わかりました、では行きますか」

みんな準備をすませ、玄関に並んでいる

ハルヒ「じゃあ有希、戸締まりちゃんとするのよ?」

長門「…わかった」

古泉「では、失礼します長門さん」

玄関をあけ、皆外に出ていく

最後に私が家を出ようとした瞬間

長門「…待ってほしい」

ハルヒ「ん…」

私は…彼女に呼び止められる




179 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 00:23:54.14 ID:0BWwg4HNO
…みんなを扉の外で待たせながら、一人玄関に残っている

ハルヒ「どうしたのよ?」

長門「…」

有希は少し戸惑っているようだ

それでも、口ごもりながら…彼女は言葉を話してくれた

長門「今日、彼は…」

彼…キョンの事?

長門「彼は最愛の人に会っている…」

ハルヒ「…そうよね。だからこそ、出かけてるんだものね」

いたって冷静に、受け返したつもりだ

胸の中は、なんだがズキッとしたけれども…




180 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 00:26:25.10 ID:W1rbd69t0
ハルヒ・・・・




181 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 00:30:40.61 ID:0BWwg4HNO
長門「その状態で、私たちが何を言っても、彼には届かない…」

ハルヒ「…そうよね。盲目な人間て、そんなものよね」

長門「それでも…あなたは彼にそれを渡したいの?」

なぜかここに持ってきてしまった、彼へのプレゼント…

静かな玄関に…紙袋が、カサリと鳴る

ハルヒ「だって…せっかく買ったんだもの。彼に喜んで貰えるなら……」

長門「彼の事が…好き?」

好き…?

ハルヒ「わからない…わからないのよ。彼には喜んで欲しい、プレゼントをあげたい…でも…」




182 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 00:42:40.31 ID:0BWwg4HNO
長門「でも?」

ハルヒ「隣にいる事を望まれてるのは…私じゃ無いもの……」

長門「……」

ハルヒ「自分に、どんな気持ちがあってもダメなのよ…! 結局は…相手が認めてくれないと……」

長門「じゃあ、諦める…?」

ハルヒ「それも…嫌、でも…本当に今はわからないの…」

長門「…」



ハルヒ「…変なこと言って、悪かったわね。みんなを待たせてるから、もう行くわ…」

長門「…引き止めてしまって申し訳無い」

ハルヒ「ううん…平気よ。じゃあ、またね」

長門「…おやすみなさい」

―ガチャリ




184 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 00:49:39.29 ID:0BWwg4HNO
古泉「おや、終わりましたか?ではみなさん帰りましょうか」

夜の闇を、みんなで歩いている

歩きながら、有希の言葉を思い返す…

なんだろう…やはり考えてもわからない

ハルヒ(そりゃあ…好きな人と会ってたら幸せに決まってるわよね…)

持っていたカバンの中を探る…
―カサリ

手に触れた…紙袋一つ

彼へのクリスマスプレゼント…

ハルヒ(…私だって、今日会えたら…)

会いたい


ハルヒ(うん…難しい事は考えられないけど、やっぱり私は彼に…会いたいみたい)




185 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 01:00:30.59 ID:0BWwg4HNO
妹ちゃんを送って、みんなそれぞれに帰って行った

まだ、キョンは家には帰っていなかった…

国木田「さて…じゃあ、またね」

谷口「じゃあな」

古泉「お気をつけて」

鶴屋「みんな、よいお年をっさ」

朝比奈「さよなら、風邪ひかないで下さいね」


私も一人…夜道を歩いている

寒い…空気は清みきっていて、星空が綺麗だ

その冷たい空の下で、私はただ星を見ながら歩いている

ハルヒ「あ、もう…着いたのね」




186 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 01:04:03.44 ID:0BWwg4HNO
私が来たのは駅だった

ハルヒ「ここで待っていればキョンに会える」


ここにいれば、キョンの方から私に近付いてきてくれる

ハルヒ「…我ながら、本当よくわからないわね」

待合室のベンチに座る…時計は9時27分…

今、彼はどの辺りにいるんだろうか

あと数時間もすれば会える…

それだけが、今の彼女の支えだった




188 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 01:16:04.47 ID:0BWwg4HNO
12月24日 キョン

少し前…夕方6時頃

電車を乗り換えて向かった…涼子がいる街

これで2度目だ

2ヶ月前に来た時とは、駅の様子も空気も少し違う

まだ慣れていなかった景色をもう一度見た違和感…だろうか

それとも、単純に季節が変わっただけだから…そう感じただけだろうか?


それはとにかく…

俺は東口に行き、彼女の姿を探す。たしかこっちでよかったはずだ

歩いて駅を出ると…すぐに目的の人は見つかった




189 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 01:26:50.51 ID:0BWwg4HNO
駅から一歩外に出ると…それだけで彼女と目が合う

彼女もハッとした様子で俺に気付き…こちらに歩み寄ってくる

朝倉「あのさ…なんでここにいるのよ…?」

キョン「…佐々木が来られなくなったからな。変わりを頼まれたんだよ」

朝倉「……」

キョン「迷惑だったか?」

朝倉「…嬉しすぎるのと、佐々木さんへの怒りで言葉が出ないのよ…」

怒り…とは口ばかりなんだろう

彼女は目から涙を流しながら、俺を見ている




194 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 01:37:27.74 ID:0BWwg4HNO
キョン「さて…行くか。2人だけのクリスマスだ」

朝倉「うん…うん……!」

手を繋いで歩き出す

今ここに2人で一緒にいられる

本当に奇跡のようだ

キョン「それで、どこに行こうか? この街は、涼子のバイト先のコンビニしか知らないからな……」

クリスマス用にライトアップされた…駅前通りを歩く…

とは言っても、落ち着けるお店があるわけではない

居酒屋とデパートくらいで…駅前には、他に何も無いような場所だ




195 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 01:41:22.01 ID:0BWwg4HNO
朝倉「んー…この辺には座れるお店が無いのよね。でも駅から離れすぎても…キョンの帰りが心配だし」

キョン「帰り?」

涼子からその言葉を聞くまで…帰りの電車の事など、あまり考えていなかった

ここからまた約5時間…気が遠くなるが、隣に涼子がいればそれだけで…

キョン「まあ、なんとかなるさ。駅の近くで落ち着ける場所は無いのか?」

朝倉「…あ、そうだわ」

そう言って、彼女に引っ張られて来たのは小さな神社だった




196 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 01:46:40.25 ID:0BWwg4HNO
キョン「神社か…」

朝倉「駅からも近いし、座れるわよ。少し寒いけど…」

キョン「…こうしてれば、暖かいさ」

俺はすぐに涼子に抱きつく

朝倉「あ…」

キョン「会いたかった…」

朝倉「私も……」

ベンチに腰をおとして、2人ずっと抱き合ったまま…

今度は唇を近付ける

朝倉「ん……」

1ヶ月ぶりの彼女の唇は、柔らかく暖かい

しばらく時間が止まる…




198 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 01:57:40.42 ID:0BWwg4HNO
一通りくっついた後…彼女は持っていた袋から…


朝倉「私ね、お菓子作ってきたんだよ」

キョン「お菓子か…そりゃあすごいな」

朝倉「本当は佐々木さんとお互いのお菓子を交換するはずだったんだけどね」

彼女は…フッ、と半目で笑いながら嫌みっぽくこちらを見ている

キョン「…うん、すまない、悪かった」

朝倉「ふふっ、冗談よ。新作だったから、キョンに一番始めに食べて欲しかったの…お願いが叶ってよかったわ」

キョン「涼子…」




199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 02:04:21.75 ID:0BWwg4HNO
彼女は箱を取りだし…開ける

そこには一口サイズの小さなケーキが6つ並んでいた

キョン「すごいな…これ全部手作りなのか?」

朝倉「そうよ。こっちのがチーズケーキで、これがマドレーヌ…ショートケーキに、チョコに……」

キョン「ああ、じゃあ俺はとりあえずショートケーキをもらうかな」

朝倉「うん♪ じゃあ…はい、あーん♪」

何の恥ずかしげも無く、俺は涼子の差し出したフォークにかぶり付く

口の中に生クリームの甘味が広がる




200 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 02:11:07.70 ID:0BWwg4HNO
キョン「うま…すごく美味しい」

朝倉「ふふっ、よかった…あ、口にクリームついてるよ」

キョン「え…?」

―チュッ

朝倉「……」

キョン「……」

朝倉「ぷはぁ…」

キョン「…」

朝倉「ふふっ、クリスマスだから、ね」

唇と舌を、ずっと押し付けられていた感触と…

そんな行動をする大胆な彼女自身が可愛すぎて、俺はしばらく放心していた気がする




201 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 02:23:10.09 ID:0BWwg4HNO
朝倉「ケーキ…どうだった?」
キョン「全部美味しかったよ。おかげで腹もいっぱいだ、ごちそうさま」

クリスマスらしい料理は食べられなくても、彼女が作ってくれたケーキを食べる事ができた

本当に…幸せだ


朝倉「よかった…キョンが幸せなら、私も幸せよ…」

彼女はまた…体をこちらに任せてくる

肩に涼子の頭が寄せられて…また、俺の首筋に彼女の顔が触れ合っている形だ

涼子の肩を抱きながら…俺も、持っていた袋の事を思い出す

キョン「そうだ、涼子…渡すものがあるんだ」




203 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 02:40:21.96 ID:0BWwg4HNO
朝倉「ん…なーに?」

持ってきたカバンから、リボンの巻かれた箱を取り出す

キョン「クリスマスプレゼント…涼子に」

朝倉「あ、ありがとう…嬉しい…でも、私今日プレゼント用意してないのよ…」

元々は佐々木と遊ぶ予定だったんだ

持ってなくて当然だ

キョン「俺はこれを涼子にあげたいだけだからな…プレゼントは、気にしなくていいさ」

朝倉「私だってプレゼント渡したいの! あ、じゃあ…今度! 会う時までに…用意しておくからね…?」

キョン「ああ、わかった。楽しみにしとくよ」

朝倉「うん…あ、開けてもいい?」




205 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 02:44:51.22 ID:0BWwg4HNO
キョン「ああ。気に入るかはわからんがな」

シュッとリボンをほどき、袋を開けていく

中からはプラスチックで覆われた、透明な小さな箱

箱というよりは…スライドする、小さなショーケースだ

そのケースの中には…

朝倉「指輪が…2つ…?」

キョン「何にするか迷ったんだけどな」


朝倉「キョンがくれるなら、何でも嬉しいわ…でも、2つ…?」

キョン「これはお揃いの…ペアリングってやつだ。ほら、指貸してみ」

朝倉「あっ……」




206 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 02:55:50.50 ID:0BWwg4HNO
彼女の左手を掴み…指輪を取り出す

その指輪は、彼女の薬指にスッポリとはまる

キョン「よかった、ピッタリみたいだな」

朝倉「薬指…キョン、これって……」

キョン「あ、ああ…指のサイズがわからなくてな、店員に相談したら薬指で考えるのがいいって言われて…それでな」

さすがに渡す時は緊張して…ドキマギしながら、答えてしまう

朝倉「本当、ぴったり…ね」

キョン「手はよく握ってたから…指の細さや、大体のサイズは覚えていたんだ。涼子の指は、平均よりちょっと細かったみたいだな」

朝倉「そう…なんだ…」

彼女はただうつ向いて…軽く両手を絡めながら、指輪を見つめている




207 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 03:06:17.46 ID:0BWwg4HNO
キョン「もう一つのは俺の、と…」

指輪を取りだし、指にはめようとした時…

朝倉「あ…待って」

キョン「ん…?」

朝倉「もう片方は…私からキョンに付けさせて?」

キョン「そうだな…わかった」

自分の薬指に、彼女がもう一つの指輪をはめてくれた

朝倉「これで…お揃いね」

キョン「ああ…お互い離れているけど、少しでも近くにいられるように、な…?」

朝倉「うん……!」

また彼女はギュッと力強く抱きついてくる

そして俺も…ギューッと彼女を抱き返す




208 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 03:18:27.70 ID:0BWwg4HNO
しばらく抱きついてると、俺の首筋に…ヒヤリとした液体が流れてくる…

キョン「ん…涼子?」

朝倉「……」

彼女は答えない

少しして、これが彼女の涙だと言う事に気付く

キョン「好きだ…本当に、大好きだ…」

朝倉「うん…私も…好きよ、大好き……」

遠い場所で、星が輝く下で、俺たちは長い時間ずっと抱きあっていた

今日この日…彼女と過ごしたクリスマス…

その日は星空がとても輝いて見えて…

流れる時間や冷たい空気…全てが、なんだか…

俺にとって世界が変わった日だったんだと…思う




210 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 03:22:38.09 ID:0BWwg4HNO
…どれくらいの時間、ここにいただろうか

時計を見ると、もう夜中の7時を過ぎている

朝倉「時間、大丈夫…?」

彼女は不安げに、訪ねてくる

キョン「そろそろ電車に乗った方がいいのかもな」

朝倉「うん…」

キョン「じゃあ…行くか」

2人また手を繋ぎながら、駅に向かって歩いていく

朝倉「今日は…ありがとう。ここまで来てくれて嬉しかった」

キョン「…佐々木に感謝だな。俺も会えると思ってなかったからな」

朝倉「うん…お礼、伝えておくね?」

キョン「ああ…頼んだよ」




212 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 03:32:37.57 ID:0BWwg4HNO
彼女とほんの少し話をしただけで、すぐ駅には着いてしまった
近くの神社だ…移動距離も、こんなものだろう


キョン「もう駅か…」

朝倉「うん…」

キョン「…メール、するよ」

朝倉「うん…帰ったら、教えてね…?」

キョン「ああ…またな」

朝倉「今日はね、クリスマスに会えたから…たくさん話せたから寂しくないよ…」

キョン「そうだな…」

朝倉「こんなに素敵なプレゼントも貰ったし…今は、本当に幸せよ…」

キョン「涼子が幸せなら…それでいい。そろそろ…行くよ」

朝倉「うん! またすぐ会えるわよね。その日まで…またね、キョン」

キョン「ああ…またな、涼子」

最後は、2人とも笑顔でバイバイができた




213 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 03:37:58.71 ID:0BWwg4HNO
駅の改札を通って、ホームに行く

案内に目を通すと…20時に次の電車が来るらしい

あと15分程待つようだ

キョン「ふぅ…」

俺はベンチに腰を下ろす

彼女に会えた安堵と、これから帰るという気疲れ…


さっきの出来事の色んな事を考えながらも…15分後には、帰りの電車の中に座っていた




214 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 03:55:44.11 ID:0BWwg4HNO
夜8時

電車に乗り込み…やっと一息つく

足にかかる暖房が温かい…

キョン「ここから5時間か…やっぱり、遠いな」

電車が走りだし…涼子のいた街が、どんどん遠くなっていく

でも今は不思議と悲しくはなかった

好きな人に会えた満足感、プレゼントをあげる事ができた幸福感…

そして左手の薬指についている指輪

そのどれもが、俺の心を満たしてくれる

さっき涼子と…駅で話していた通りだ

そんな事を考えてると…すぐに、一つ目の乗り換えの駅に着いた

ここまでおよそ1時間…遠いようで近い…ここまでは、そんなだ




215 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 04:05:08.89 ID:0BWwg4HNO
キョン「もう着いたか…早いな」

そのまま、駅の中を移動する

目的の路線を見ると…

昼や夕方の時と比べ、乗り換え本数がまた減っている事に気付く

昼間の時間帯なら30分に1本は電車も来ていたのだが…

キョン「…50分ほど、足止めか」

次の電車は10時近くに来るようだ

キョン「ここで…あせっても、仕方ないか」

ベンチに腰をおろし…冷たい風が吹き抜ける駅のホームで俺は…電車を待っていた




217 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 04:14:35.68 ID:0BWwg4HNO
夜10時頃

―ガタン ガタン

待っていると…やっと電車が来る

あれから1時間。寒空の下で待つのも楽ではない

キョン(待った後に…涼子に会えるなら、別だけどな)

心の中でそんな事を思いながら、電車に乗りこむ

そしてまた揺られながら…帰っていく

―ガタン

この電車の先に、誰もいないのかと思うと…憂鬱になる

ただ家に帰って、また涼子のいない毎日が始まる…

キョン(よく考えたら…寂しいもんだな)

悲観的な考えしか浮かんで来ないのは…彼女から離れてしまっているからだろうか?




218 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 04:24:33.38 ID:0BWwg4HNO
50分ほど走った後…電車はまた次の駅に着く

ここは、いつも涼子と会っていた駅だ

人もいない、空気も冷たい…

朝や昼に来るのとは、ずいぶん違った印象だ

キョン「やはり、一人で来ると味気ないもんだな」

真夜中のクリスマスイブだけあって、人は本当にまばらだ

そして、時刻表を見る…

今の時間は11時を過ぎている

キョン「次の電車、この時間は…また1時間か。くそっ、乗り換えがうまくいかないな……」




219 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 04:34:34.98 ID:0BWwg4HNO
この時間では…次に電車に乗る頃には、日付が変わってしまえ

キョン(…日付?そう言えば、終電…大丈夫なのか?)

今さらになってその疑問が浮かんでくる

乗るわけではないが、この駅の時刻表を調べてみる

大体の基準を考えるわけだ

キョン「ここの終電は…夜中の1時8分」

キョン「次の駅でもう一回乗り換えなくちゃならんしな…間に合うのか?」

それを今考えても、電車が早く来る訳ではない

俺は潔く、電車を待つ事にした

もうすぐ、涼子と過ごした今日が終わる




222 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 04:41:06.52 ID:0BWwg4HNO
12月25日0時 ハルヒ

駅で彼を待ってから数時間…

日付はもう変わってしまった

ハルヒ「…来ないわね…」

待合室では小さな電気ストーブが動いているが、やはり冬の空気は冷たい

ハルヒ「はぁ…息真っ白…」

フゥ、とため息を落とす

さっきから、何度同じ動作をしたかわからないくらいだ

ハルヒ「まったく…何やってるのよ、あのバカ…」

悪態をつきながらも、自分は彼の到着を待っている…




223 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 04:47:42.47 ID:0BWwg4HNO
さっきまでの楽しかったクリスマス会が何だか嘘のような…

自分を寂しい気持ちにさせる、この寒い空気がなんだか嫌だった


ハルヒ「でも…キョンに渡さなきゃ…」

そんな寒さも、彼を思えば…何ともなかった

いつまでだって待っていられる…

それでも今はただ、私には座っている事しかできなかった




224 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 04:52:29.99 ID:0BWwg4HNO
12月25日 0時12分 キョン

―ガタン

ああ、やっと電車が来た

しかし、この電車に乗った後にもう一つ乗り換えをしなくてはならない

キョン「終電…間に合うのか?」

考えれば考えるほど、もどかしい

キョン「またここから一時間か…」

改めて考えると、涼子のいる街まで本当に遠い

恋人が…なんでこんなに遠いんだろう

どうして俺は、彼女の近くに住んでいないんだろう

キョン「…こんな事考えるなんて、どうかしてきたな、俺も」




226 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 04:57:39.39 ID:0BWwg4HNO
キョン(やっぱり…近くにいきたいな…涼子…)

電車の中の暖かさと、たまった疲れのせいで、俺はいつの間にか寝てしまった

最後の駅で乗り換えなので、乗り過ごす不安は無かったが…

ただ、帰りの電車に乗れるのかだけが、ちょっと不安だった

どんなに気持ちは焦っても…あと1時間は、どうしようもない時間だ




227 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 05:03:49.84 ID:0BWwg4HNO
12月25日 1時17分

やっと最後の駅に着く

が…案内を見て愕然とする

キョン「電車が…もう無い…」

時刻表では、1時前でこの駅の電車は終わっていた

先ほど俺が乗ってきた電車が最後で…もう、電車は来ないみたいだ

この駅からの電車に乗れなければ、俺は家に帰れない

キョン「どうする…かな……」




230 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 05:11:31.55 ID:0BWwg4HNO
こんな時間だ

高校一年生がうろついていい時間ではない

何かあって、補導でもされたらたまったもんじゃない

キョン「かといって、電車で一時間の距離を歩くわけにもいかないしな…」

漫画喫茶にでも泊まるか?

キョン「いや、未成年だからどちらにしろ危ないか…」

進めない、泊まれない、帰れない…

周りでは、ガラガラ、とシャッターが動く音がする

駅員が駅を閉めるような準備をしている




231 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 05:26:11.70 ID:0BWwg4HNO
キョン「ここにいても…仕方ないか……」

途方にくれながら駅を出る

ここらの街並みは…少し小高いビルが並んだ…ちょっとした都会だ

…しかしそのビルが、今の俺にはとても恐ろしいものに見えた
駅前なのに、明かりが点るような店は何もない…真っ暗だ


街全体に広がる黒が、余計に俺を不安にさせる…




232 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 05:32:46.75 ID:0BWwg4HNO
12月25日 1時49分 ハルヒ

―ガタン、ガタン

ホームに電車が来る

これがこの駅の最後の電車…

今までの電車にキョンはいなかった

この電車に乗っているはずだ

ハルヒ「キョン…よかった、やっと会える…」

改札の方を向きながら、出てくる人々に目をやる

一人…二人…

改札を、まばらになりながら人が通っていく

彼の姿は…まだ見えない




233 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 05:38:29.80 ID:0BWwg4HNO
いつの間にか…改札を通る人はいなくなっていた

それでも、さっきの中に…キョンの姿は無い


ハルヒ「……」

「…そろそろ、駅を閉めますよ」

ハルヒ「…え、あ、はい…」

いつの間にか、時計は2時を過ぎている

駅員に声をかけられて、もう人が来ない事を理解する

「夜中だから、お気を付けて」

ハルヒ「はい…」

駅を出ると、寒い空気が一気に襲ってくる

さっきまでのストーブがあった待合室とはやっぱ違う…

何より、気持ちまで凍ってしまいそうだ…




242 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 08:32:50.97 ID:0BWwg4HNO
ハルヒ「…来なかったじゃない」

ずっと待っていたが、彼は来なかった

ハルヒ「…お泊まりかしら」

嫌な考えばっかり浮かんでくる

ハルヒ「有希が言ってたのは、この事ね…最愛の人と会っている…ってさ……」




244 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 08:39:20.95 ID:0BWwg4HNO
ハルヒ「…もう、帰ってこないのかな」

今日一日会えない…それだけで、これから先もうずっと会えないような…

そんな気がした

真っ暗な空に向かって…ううん、キョンに向かって話しかけるように私は呟く…

ハルヒ「どこにいるのよ…早く…、帰って来なさいよ、バカ……」



ハルヒ(ここで文句を言っても…仕方ないのに、ね…)

ハルヒ「もう…帰ろっかな…」

私はしばらく、その真っ暗で灰色な空を一人で見上げていた…
そのまま空を、ほんの少しの時間…見上げていた……




245 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 08:47:25.55 ID:0BWwg4HNO
12月25日 1時58分 キョン

「なあ、あんた」

キョン「……」

「あんたってば、大丈夫か?」

駅の前で一人座っていると、後ろから声をかけられる

キョン「…」

振り向くと…

白い帽子を被り白い手袋をつけた…初老くらいのじいさんが立っていた

キョン(この格好…タクシーの運転手…か?)

「何やってるんだい、こんな時間に」




254 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 11:58:16.58 ID:0BWwg4HNO
とりあえず…補導の警察官で無かった事に俺は安心した

そして何より…

「家出でもしたのか?」

その人物は不思議な雰囲気で…柔らかく話しかけてくれる

だから俺も…つい、話しをしてしまう

キョン「…電車が無くなって、帰れなくなっただけです」

「そか…家はどこだ?おじさんのタクシーで送ってやるぞ?」

キョン「……」




256 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 12:03:43.06 ID:0BWwg4HNO
「どうした、ほら?」

キョン「場所は……」

電車で一時間の街の名前を、俺は口に出す

「ああ…あの街か。ここからだと高速使わにゃな」

タクシー…か

家まで送ってくれるのなら、確かにありがたい

だが…一番の問題は、また別にある

キョン「いや、でも俺お金が…」

「…いくらもってる?」

キョン「…一万円ちょうどです」

遠距離のタクシーなんて、いくらかかるか想像が全くつかない

みるみる料金メーターがあがるようなイメージしか、俺には無い

そんな乗り物を…選択肢に入れる事は、最初から出来るはずも無かった




257 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 12:10:02.05 ID:0BWwg4HNO
「…そうか。まあ乗りなさい、すぐそこの…ほら、あのタクシーだから」

これで…足りる計算なのだろうか?

こんな深夜に声をかけて来た人物…

一応ちゃんとした身なりをしているとは言え、他人に付いていくなど、確かに危険極まりないだろう

しかし今の俺には何をどうする事もできなくて…

キョン「はい…お願いします」

俺は言われるままに、タクシーに乗るしかできなかった

一人で無い安心感と…ちょっとした車の中の温暖具合が、俺に少しの安らぎを与えてくれる

「さ、行くか」

車は夜の街を走っていく…




258 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 12:16:53.53 ID:0BWwg4HNO
オレンジ色の街灯が流れていく

暗くてビルの向こうまでは見えないが…

それでも、昼は人間がたくさんいて賑やかそうな…そんな、真夜中の都会なのだというのがわかる

「何か約束でも?」

走る窓の外を見ていると、ふいに運転手が話しかけてくる

キョン「あ…出掛けて帰るところです」

「ははは、そういえばさっきもそう言ってたな」

気さくに笑ってくれる運転手が、今はとても優しく感じた

さっきまでの孤独とは違う

意外と、人間の感情とは左右にぶれるものらしい

今は、見ず知らずのこの人物が、俺の不安を少しだけ解消してくれている




259 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 12:22:04.85 ID:0BWwg4HNO
だが…それ以上に料金メーターを見ていると、不安になる

カシャカシャと、どんどん料金があがっている

少し走っただけで、もう千円近くになっている

キョン(…大丈夫なのか、これ?)

「いやー、俺も昔は色んな場所に出かけてなぁ…よく怒られてたもんだよ」

キョン「あ、あの……」

「お、もう高速だからな。大丈夫、高速乗ればすぐだよ、すぐ」

カシャリ、と運転手が手元をいじると前の方に表示されていた文字が『高速』に変わる

キョン(ダメだ、話を聞いこうとしてくれない…)

そして、車は高速を走っていく…




264 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 14:57:11.65 ID:0BWwg4HNO
カシャ

カシャ

カシャ

さっきまでの道とは違って、すごい勢いでメーターがあがっていく

キョン(待て待て…高速に乗るとこんなに早く値段上がるのか…!)

やはり不安だ…たまらず、俺は運転手に話しかけてしまう

キョン「あ、あの……タクシーってお金かかるんですね…」

「ん?ああ、メーターはな、時間と距離で計算してるんだよ」

キョン「そうなんですか…?」

「さっきまでの一般道では走った距離と…時速10キロ以下だったかな。になると、停止時間が加算されるんだ」

キョン「ふむふむ…」





265 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 15:03:18.18 ID:0BWwg4HNO
「その停止時間だと…例えば信号待ちだな。時間が累積されて、停止時間が1分45秒を越えると金額が加算されるんだ」

キョン「ほう…」

「これがタクシーの仕組みだ。で、高速に乗ると、この停止時間は加算されないんだ」

キョン「このカシャカシャすごい勢いであがってるメーターですか?」

この間も料金はどんどんあがる

「高速だと、距離だけで計算されてるんだ。それだけ進んでいるって事だよ」

キョン「はぁ…なるほど」

料金はもう3000円を越えている

まだ見覚えのある街の名前は、高速の案内表示に表れない…

キョン(まだ…遠いみたいだな)

ひたすら、夜の高速道路を車は走っていく

なんだか、時間の流れが遅すぎるような…そんな気がした




266 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 15:08:48.54 ID:0BWwg4HNO
2時22分

…カシャ

走りに走って、とうとうメーターが1万円を越えた

キョン(おいおい…まずいぞこれ…)

「でな、兄さんみたいな長距離移動者をタクシー用語で、おばけって言ってな…」

相変わらず、タクシーの事を一方的に喋っている

「いやあ、あんな時間にあんな場所にいるんだからな。しかも長距離…本当兄さんおばけだよおばけ! ははははっ」

とても嬉しそうに、じいさんは笑っている

客がタクシーに乗ったら、疲れていようがなんだろうが話し掛けるタイプなんだろう…

ここはまだ高速の途中だ…おろしてくれと言った所でどうにもならない

キョン(帰ったら、親を起こして…金を借りるしかないか。なんて説明するかな……)




270 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 15:19:53.06 ID:0BWwg4HNO
その後も、運転手によるタクシートークを聞きながら…なんとか地元まで戻ってくる事ができた

結局時間は…夜中の3時近くになっていた

時計は…3時2分

高速を降りて、少し走ると見慣れた町並みが広がっていく

キョン(ああ…懐かしい…とにかく、帰ってこれてよかった)

「さて、どこまで行けばいいのかな」

この時点で、料金メーターは2万円を軽く越えている

家に着くという事は、すなわちこの料金を支払わなければ降りられない…

キョン「とりあえず家まで…あの、お金が足りないんで親を起こしてから支払いを……」

「ああ、1万円でいいよ。オーバーしてる分はいらないよ」

キョン「え…」

「家はどの辺り?」

キョン「ま、待って下さい。お金はちゃんと払いますよ!」




271 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 15:33:02.77 ID:0BWwg4HNO
「いいよいいよ、帳尻合わせればいいんだから。ほら、気にしないでいいから」

運転手のおじさんは…さらっと、軽い様子で事を伝えてくれる

…俺には、タクシーの仕組みなんてわからない

それでも、この足りない分のお金がどこから出るのかは…俺にだって何となく想像はつく

キョン「本当に…いいんですか…?」

「ああ、大丈夫だよ。おじさんな、客とは殆ど喋らないんだよ…気恥ずかしいっていうか…何て言うかな」

キョン(……)

「こんな日に、兄さんと話せてよかったよ。トークに付き合ってもらったお礼みたいなもんだ」

キョン「ありがとう…ございます……」

俺は運転手の好意を、素直に受けとる事にした

話慣れている様子や、タクシーの仕組みの詳しい説明…

客とあまり話さないなんて嘘に思えて…

駅で拾ってくれた時も、街の名前を聞いてから…料金が1万円を越える事も多分きっと…わかっていたはずだ

キョン(ありがとう、おっちゃん…)

心の中で、もう一度、深く頭を下げ…お礼をした




272 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 15:39:34.94 ID:0BWwg4HNO
「それでな、明日のクリスマスは非番だから、娘とケーキをな……」

こんな日…そう言えば今日はもうクリスマスだったな

さっきまで、涼子と会っていた事も、なんだか少し遠い事のように思えてきた

それくらい、今日の帰り道…タクシーでは色んな事が心の琴線に触れた…そんな体験だった


気付くと…タクシーはいつの間にか駅の近くを走っていた

キョン(駅か…ここから今日はスタートしたんだよな…って、いつもこの場所から、か…)

安心した余裕からか、心の中でも言葉が多くなる

深夜…さすがにもう電気も落ちて、待ち合わせで賑わうような駅の周りに人影も何も……

人影……?




273 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 15:43:25.22 ID:0BWwg4HNO
よく見ると、駅の前に一人誰かがたたずんでいる…ようだった

キョン(こんな時間にか…)

寒空の下、誰かを待っている

その気持ちが、今はよくわかる

でもその姿をよく見ると…知っている人に似ているような…せんな気がする

あれは…

キョン(……! まさか、嘘だろ?)

キョン「運転手さん、ここで止めて下さい!」

「ん…駅の近くなんか?」

キョン「ええ、ここで…本当にありがとうございました」

「そうか。じゃあ、気をつけてな」

メーターはもう3万円間近だ…約束通り、そこを1万円にしてくれた

「これからまた、とんぼ返りさ、はははっ。気をつけてな」




274 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 15:45:30.21 ID:0BWwg4HNO
笑いながら、運転手のじいさんは行ってしまった

キョン「…不思議な人だったな」

タクシーのライトが、来た道を戻っていく

キョン「……」

そして俺の足は、駅に向かっている

もしかしたら知っている人かもしれない、彼女の元へ…




275 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 15:49:40.69 ID:0BWwg4HNO
真夜中3時

私…どれだけここにいたんだろう

体が震えている

ハルヒ「寒い……私、バカみたい……」

駅がしまってからも、私はずっとここにいる

電車に彼は乗っていなかった

今は遠い街に……彼女と一緒にいるんだろう

ハルヒ「…」

もう、独り言も…何も出てこない




276 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 15:52:36.29 ID:0BWwg4HNO
もう、帰ろう…

そう思って歩き出した瞬間

横の路地から一台の…タクシーだ

車はそこから走ると、すぐに止まった

誰かが降りてくる

タクシーはすぐに来た道を引き返していく






278 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 16:00:34.72 ID:0BWwg4HNO
キョン「風邪ひくぞ?」

ハルヒ「……」

キョンだ

ずっと待っていたキョンが…目の前にいる

キョン「こんな時間に…どうしたんだ?」

それは…こっちが聞きたい事

キョン「あのさ…」

ハルヒ「…なんで…ここにいるのよ?」

言葉を遮るように私は問う…

彼がここに…駅にいる今が、信じられない

なんだか、実感がわいてこない…

キョン「ああ…ちょっと色々あってな」




279 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 16:09:13.91 ID:0BWwg4HNO
ハルヒ「なんでタクシーに乗って現れるのよ?」

キョン「電車が無くてな…親切なタクシーの運転手が……」

終電が無くなった事

タクシーに乗せてもらった事

…泊まりではないという事だけを聞いて、私はちょっと安心した

あくまで、自分の中でだけど…

ハルヒ「そ、そう…ともかくよかったじゃない。帰ってこれて…」

安心と嬉しさと不安…その全部が、溶けたチョコレートみたいに混ざっている

気持ちが、何だかザワザワしながら、ドキドキする

キョン「ああ、おかげでな。ハルヒはどうしたんだ、こんな時間に。窓から見て…ビックリしたぞ?」

ハルヒ「私は……」

私はずっとキョンを待っていた
この場所でずっと

今日プレゼントを渡すために

ハルヒ「あ、あのね…クリスマス会がさっき終わって…それでプレゼントが…プレゼント……」




280 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 16:15:58.19 ID:0BWwg4HNO
ハルヒ「プレゼントが…余ったのから……! それで…その…」

キョン「クリスマス会、こんな遅くまでやってたのか…妹は?」

ハルヒ「あ…妹ちゃんは早いうちに送ったから安心して。大丈夫よ」

これは本当だけど…さっきのは嘘ばかり

キョン「そうか…それはよかった。で、プレゼントがどうしたって?」

ハルヒ「あ…うん…えっと……」

ガサガサと、袋を取り出す

ハルヒ「こ、これ…あげる」




282 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 16:28:11.40 ID:0BWwg4HNO
綺麗に包装された袋…震える手

キョン「ああ…ありがとう。わざわざ…このために?」

ハルヒ「う、うん…」

彼が袋を受けとる…よかった、やっと渡せる…

ハルヒ(あ……)

でもその時彼の左手…薬指に、見つけてしまった

一つ…銀色の指輪が彼の指に……

ハルヒ「ま…待って!!」

急いで袋を取り上げ、手を引っ込めてしまう

キョン「な、なんだよ…どうしたんだ?」

ハルヒ「……」




283 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 16:32:02.01 ID:SYq3QZkc0
時々、少し胸が苦しくて




284 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 16:40:37.12 ID:0BWwg4HNO
左手の薬指に指輪…私だって意味くらいは知っている

ハルヒ(最愛の人からの…プレゼント…)

それを見た瞬間、なんだか自分の贈り物がとても小さく…小さく見えた


ハルヒ「…やっぱ、余り物なんて渡したら悪いわよね」

キョン「は?いや、別に構わないぞ。もらえるなら、何でも」

ハルヒ「何でも、じゃあ…ダメなのよ。もうパーティーもおしまい。帰りましょう」


すぐにその場から逃げ出したかった

もう、彼の手を見たくなかった

私は…すぐに彼から離れるように歩き出す

彼の反対方向を向いて…彼を見てしまわないように…

キョン「お、おい待てよハルヒ……」




288 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 16:53:05.73 ID:0BWwg4HNO
ハルヒ「…また学校でね。じゃあ、ね」

そのまま、すぐに走り出す

あんなに、駅から動かなかった足が、今は早く動かす事ができる

とても軽く…とても重く…

キョン「待てって、おい!」

キョンは追いかけてくれる

でも今はそれが痛い

ハルヒ「っ…来ないでよ、バカ!」

キョン「何怒ってるんだよ、ほら帰るなら家まで送るぞ」




289 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 17:09:05.10 ID:0BWwg4HNO
グイッと、腕を引っ張られる

触らないで

ハルヒ「いい! いらない! 一人で帰るの。離してよ」

キョン「落ち着けって、何怒ってるんだ…ほら、夜遅いんだから…送るって」

エスコートしてくれるような…優しい手で私の腕を掴んでくる彼の右手…

どうしても、目は左手を見てしまう…

綺麗な銀、真ん中に黒のラインが一本通った、シンプルで…

それでいて気品を感じさせるようなそのデザイン…

それを見て、また言葉が頭に浮かばなくなってくる

ハルヒ「送るのなんて、いいわよ…あんたは遠くに行ってきて、幸せに帰る……私は…友達と遊んで家に帰る…それだけの事じゃないの」

だから今は、こんな言葉しか、口から生まれない




290 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 17:18:05.32 ID:0BWwg4HNO
キョン「帰る行為は一緒だろ。それに…さっきのプレゼントの事だって…」

ハルヒ「あれは…余り物だから別にいいのよ…もう、その話はやめて」

キョン「ハルヒ…」

ハルヒ「私たちは…帰る場所が違うんだもの…誰と生きているか、違うんだもの…だから、もう帰りましょう? タクシー使うくらいなんだから、あんただって早めに帰らないと…」

キョン「それは…そうだけどさ…」

ハルヒ「じゃあ、それでいいじゃない…私も帰る。キョンも帰る…それだけの事よ」

キョン「……」

彼は少し黙った後…

キョン「そうだな、わかった…とにかく今日は、帰るか」

ハルヒ「ええ。まだ冬休みなんですもの。今度…また話しましょう」

キョン「ああ…でも、本当に気をつけてな」

ハルヒ「うん、キョンも……気をつけて……」




291 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 17:25:46.21 ID:0BWwg4HNO
お互いの言葉を最後に…彼は反対方向に歩いていってしまう

一人になった通り道…私はまた…

ハルヒ(寒い……)

体が、寒いという事を感じ出した

コートの隙間から吹き込む風、頬を刺激するような冷たい空気…

ハルヒ「今は…冬なんだもの…当たり前じゃないの…」


彼と過ごせなかったクリスマス
渡せなかったプレゼント

ハルヒ「…バカみたい」

一人…本当に一人で歩き出す

いつの間にか…道端に落ちたままの、プレゼントの袋

彼女はそれを忘れて、家に帰っていく

それに気付いて…拾い上げる事はできなかった

行き場の無いクリスマスと、袋の中の両手だけが…彼女の中で終わっていった




292 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 17:38:04.36 ID:0BWwg4HNO
1月1日 昼過ぎ キョン

冬休みも半分程を消化し…もう今日から、新しい年が始まっていた

元旦…正月だというのに、俺の気分は暗い

クリスマスの朝帰りが親にばれてしまい、外出禁止を言い渡されたからだ

涼子に会いにいけないのはもちろん…とりあえず、学校が始まるまでは動く事ができない

それに、クリスマスでのハルヒの態度も…ほんの少しだけ気になる

―ピリリリリ

そんな事を考えていると…電話だ

キョン(古泉…?)

キョン『もしもし?』

古泉『あけましておめでとうございます』

キョン『よう、おめでとさん』
古泉『体調など、お変わりありませんか?』

キョン『ああ、体は何ともないさ。特に何もなく…平和な正月を送っているよ』

古泉とも…久しぶりに電話をした気がする




293 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 17:44:22.07 ID:0BWwg4HNO
古泉『それでですね…今から初詣に行きませんか?みんな集まりますよ』

キョン『悪いんだが実はな……』


古泉『ふむ、外出禁止ですか…』

キョン『あの日、朝近くに帰った事がバレてな…そう言えば、そっちのクリスマスも盛り上がってたみたいだな』

古泉『…ええ、人が多かったですからね、何だかんだで皆さん、楽しんでましたよ』

キョン『夜中3時近くまでやってたんだろ?そりゃあ盛り上がるよなぁ…』

古泉『…? クリスマス会は9時には終わりましたよ。夜中の3時なんてとても…』

キョン『え…だって俺パーティー帰りのハルヒに駅で会ったぞ?夜中の3時に』




295 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 17:56:14.00 ID:0BWwg4HNO
古泉『…涼宮さんが、その時間駅にいたんですか?』

キョン『ああ…俺も帰りがずれたから、その時間になってな…』

古泉『彼女は、なんと言ってました?』

キョン『えっと…確か、プレゼントが余ったから…渡す、って…』

古泉『交換用のプレゼントですか?それならちゃんと全員で交換しましたよ。それに、交換というシステム上、余りなど出るはずがありません…』

考えてみれば、確かにそうだ…


古泉『それに、電車が来ない駅で人を待つはずが無いでしょう』

キョン『そう…だよな……』

じゃあなんでハルヒはあの場所にいたんだ

駅が閉まった午前3時に…プレゼントを持って待っていたんだ…

会える保証なんて無いのに…

古泉『でも、会えたなら渡せたみたいですね。時間はともかく…少し安心しましたよ』




297 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 18:08:20.17 ID:0BWwg4HNO
―ズキッ

キョン『…もらってない』

古泉『…今、なんと言いましたか?』

キョン『ハルヒから…プレゼントは貰ってない。渡す瞬間…袋を取り上げられた……』

古泉『……』

キョン『古泉…?』

受話器越し…沈黙が流れてくる

古泉『あなたは……』

キョン『え…』

古泉『馬鹿ですか! あなたは!!』

ビリビリと…電話が震える

古泉のこんな声は…初めて聞いた

古泉『そんな夜中に、なんで彼女がそこにいたか…少し考えればわかるでしょう!』




299 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 18:24:21.34 ID:0BWwg4HNO
キョン(これは…怒られているのか?)

古泉『…彼女が、プレゼントを持っていた理由が…わからないんですか?』

キョン『ま、待てよ古泉…俺には付き合ってる人がいて……』

古泉『そんなのは、僕も彼女も知っていますよ。付き合ってる人がいたら、プレゼントを渡しちゃいけないんですか?』

キョン『そんな事は…無い…』

古泉『どうして…受けとってあげなかったんですか』

キョン『それは…さっきも言っただろう、取り上げられたって……』

古泉『…取り上げられた?』






301 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/05/29(土) 18:34:01.64 ID:0BWwg4HNO
キョン『だから…俺には何もできなかったんだ』

古泉『…態度が、何か気にさわったとか?』

キョン『いや…特には何も…本当に、受けとる瞬間だったからな……』

古泉『…それなら彼女の中で、何かが変わったんでしょう。あなたの姿を見て…考えてしまって』

キョン『…俺にはわからない。これ以上は、ハルヒ本人に聞いてくれ』

古泉『……』

キョン『…少しは、納得してくれたか?』

古泉『ちょっと…感情的になりすぎてしまいましたね…すいません』

キョン『いや…古泉がそんなに声を荒くするのも珍しいな…』
古泉『僕らしくなかったですね…すいません。学校が始まったら、また少し話しましょう』

キョン『ああ、またで詳しく話すよ』

古泉『では、僕はこれで…失礼しますね』







その2へ



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コメント
この記事へのコメント
  1. 名前: 通常のナナシ #SFo5/nok: 2010/06/15(火) 15:03: :edit
    1げt♪
  2. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/06/15(火) 15:17: :edit
    02getだぜ!
  3. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/06/15(火) 15:24: :edit
    3げと
    以下ゲッター眉毛
  4. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/06/15(火) 15:24: :edit
    1桁?
  5. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/06/15(火) 15:28: :edit
    ハルヒのふとももにおにんにんはさみたいよぉ
  6. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/06/15(火) 15:31: :edit
    1桁か。。
  7. 名前: 通常のナナシ #SFo5/nok: 2010/06/15(火) 16:22: :edit
    ふん、ひとけたか!
  8. 名前: 通常のナナシ #.cDvGj4Q: 2010/06/15(火) 16:26: :edit
    その1しか読んでないが
    キャラ付けがそれぞれ微妙に違うし
    細かな突っ込み所が多々あっていまいち乗れない
    全体的にハルヒっぽさがない
    秒速5cmに肉付けしたみたいなストーリー

    ハルヒSSにする必要性を感じない
  9. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/06/15(火) 16:30: :edit
    好きなのに
    届かない思いをあたしの胸に隠して
    苦しくて 息ができなくて
    どれくらいあなたを思い続けられるかな
    好きになってくれる人だけを好きになれたらいいのに
  10. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/06/15(火) 16:39: :edit
    これは・・・
  11. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/06/15(火) 16:43: :edit
    ちょっとハルヒ慰めてくる
  12. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/06/15(火) 17:29: :edit
                     , -‐ァ‐- 、
                        />:<´  ..:ヽ
                , -‐ヤ .:rt:ァ;゙´ ,」:\
                ` ̄`ヾ"`ヾ:::7 シ.: : :ヽ
                      ト-、 ` ツ:.: : : : :\
                     l    ㍉:、 : : : :.:.、\
                    ',    .: :ヾ、:.:.、:.:㍉ミゝ、
                     '、      ` ‐㍉ミミミミ、
                       ヽ.      _,`''=ミミミミ:、
                          `7>- ニ..ミ三彡ヘヽ\ `
                          /´       /  ヾ:\ヽ
                        、,/       /    ヾ.:ヾ\
                     ̄/         __/      ヾ:.ヽヾ、
                              / ヽ
             ヒョウロンカキドリ  山梨県 富士樹海

       他の鳥が作った巣に難癖をつけ、攻撃する習性を持つ
       しかし自分では巣を作らない
  13. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/06/15(火) 18:12: :edit
    長すぎて
  14. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/06/15(火) 22:36: :edit
    キョンのキャラって難しいのかな・・・
  15. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/06/15(火) 22:58: :edit
    なぜアマゾンが4畳半なのかが気になる
  16. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/06/15(火) 23:28: :edit
    別にキョンと朝倉じゃなくてよくね?って思ってしまった……
    個性なくなってると言うか、他の名前入れても別に成り立つと言うか
    なんかこうしっくりこない感
  17. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/06/15(火) 23:41: :edit
    ハルヒ知らんが、世間一般の噂やこれまでのSS見てるとこーいうキャラ達じゃないというのは何となく解る
  18. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/06/16(水) 05:00: :edit
    ~してしまえ、が気になった。
    まぁでも、自然と引き込まれる文章でなかなか面白い。
    ナイフさえ無ければ、朝倉さんも良いよなぁ。
  19. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/06/17(木) 02:32: :edit
    確かにキャラは変わってるし、
    それぞれのとんでも設定(願望実現とか超能力とか)は出てこないけど、
    素直にいいストーリーだなぁと思ったから
    あんまり気にならなかったな。

    しんみりした感じのSSっていうのもなかなかいいですなぁ
  20. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/06/18(金) 00:36: :edit
    届かぬひとの名を呼んで

    明けてはかない朝の露
  21. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/06/22(火) 11:25: :edit
    面白い。
    確かに面白いんだが、
    ハルヒSSを使ってただ単に
    小説披露してるだけにしか見えん。
    もうちょい作品を生かして欲しかった
  22. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/06/26(土) 02:53: :edit
    なんだか切なくて読むのを途中で止めてしまった
    いい作品だと思うんだけど引き込まれすぎて耐えられない
    でもこれはかなり好きな感じなんだ
  23. 名前: 日米1 #-: 2010/08/09(月) 19:06: :edit
    何か凄いな。最後まで見るぜ、俺は。
    期待しています。
    この朝倉×キョン+佐々木+ハルヒのssはとても面白いです。
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俺の妹がこんなに可愛いわけがない 黒猫 白猫Ver.
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