国立大学経営力戦略は役に立つのか?(3)
「経営力を強化するための方策」については、運営費交付金の改革について、既に公表されている以上の情報が示されず、制度の全体像が依然として不明なことが残念である。文部科学省は、当事者として仕切る力を失っているのではなかろうか?重点支援の規模感が全くないので、大半の国立大学関係者は、この先も運営費交付金の総額は漸減になると悲観している。肝心の文部科学省に、予算を死守する戦う姿勢がないからである。この戦略に価値が出るとすれば、そうした姿勢を打ち出すこと以外にはなかったと考えるが、虚勢も張れないほど体に力が入らないのだろうか?また、大学の個性に応じて支援すると言いつつ、大学間の連携・連合の促進ばかりを強調している点にも疑問を感じる。私自身は、複数大学を1法人の傘下に置く方式による改革を進めるべきだったと考えているので、業務の連携には反対ではないが、入試業務や教養教育を共同実施するくらいならば、大学自体を統合したらどうか?うがった見方かもしれないが、文部科学省から統合を勧められたくないと思えば、そういう可能性がある相手との共同実施は避けるだろう。これまでの経験からも、枝葉末節の協力は予算目当てに進むかもしれないが、本質的な組織再編が、大学任せのボトムアップで進むわけがない。さらに、具体的な施策に関しては、個別的な検討スケジュールばかりで、経営の前提となる施策の全体像が明確に示されていない。特定研究大学・卓越大学院・卓越研究員という施策も、中身が分かるような記述にならない状態が数ヶ月も続いているので、本気で実現しようとしているとは思えない。大学法人に自立を促したいとの趣旨は理解しないわけではないが、結局、国の財政事情で従来レベルの運営費交付金の予算が計上できないために、それぞれの法人が縮小均衡の地点を探して、経営的に不時着せよと言うことなのだろう。国際的競争力がどうのこうのと言っても、所詮は国による資源投入を絞るので、相対的に順位が下がるに決まっている。そうした当たり前の事実から目を背けて、国立大学法人の経営力が乏しいために、国際競争力に後れを取ったと責任転嫁の布石を打っているのではないかと勘ぐっている。
最後に、「経営力戦略の具体化に向けて」という章には、中身らしいものがなく、タイトルと中身が全く符合していない。競争的資金改革と運営費交付金改革は一体で行うのが国の方針だと理解していたが、この文書からは、別々のところで、別々の視点から検討されており、誰も主体的にまとめようとしていないとしか感じられない。タイトルと中身が符合していないのは、ここばかりではなく、特定研究大学以下の3つの施策も、「未来の産業・社会を支えるフロンティアの形成」という節に記述があり、どういうロジックなのか、タイトルの付け方がさっぱり分からない。この戦略を書き下ろした人から、タイトルと中身の関係について、詳しく説明を聞きたいものである。結論として、この戦略は、まるで役に立たないと断じざるを得ない。寂しい限りである。
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