« 魔法の王国は1日にしてならず | トップページ | Academic Rhapsody~過去を清算しよう(続き) »

2011年8月 3日 (水)

Academic Rhapsody~過去を清算しよう

2011年は、科学研究費補助金の一部が基金化されて、会計年度を超えた研究資金の使用が可能になった画期的な年として記憶されるだろう。数年前に、財務省の協力で、繰り越し明許という手続きを踏むことで、年度を超えた執行を事実上拡大にする手法が導入されたのだが、今回、科学研究費の一部とはいえ、法改正によって、大学の研究者が年度内に研究資金を使い切る必要がなくなったのは、民主党政権による大きな改革成果であったと思う。世の中の進歩を実感するが、かつて大学の研究者には、年度内執行の制約が課せられていたために、業者に架空の発注をして資金を預かってもらう「預け金」という不適当な慣習があったそうである。私自身は研究者ではないので、そうした実態があったことを伝聞で把握しているに過ぎないが、かなり高額の研究資金を獲得している有力な研究者には、業者がこうした便宜を図ることは珍しくなかったようである。不心得な研究者の場合は、この預け金を私的目的に流用することもあったようだが、大半の研究者は真面目で、研究室の活動に必要なものを、後から「購入」していたのである。年度を超えた執行への制約が厳しい我が国で、世界との競争に勝つための、会計ルールの一種の抜け道のようなものと認識され、さほどの罪悪感なしに、預け金システムは普及していたようである。

しかし、昨今は、こうした行為は一般的に研究費の不正使用に該当するとされるようになった。該当すれば、資金の返還はもちろん、競争的資金への応募制限などの罰則や所属機関における人事上の処分も受けることになる。私は、こうした取扱いへの転換について検討に携わったこともあるので、研究費の私的流用などの不正使用に対する国民からの非常に厳しい批判は十分に理解できる。ただ、今になって思うと、過去の預け金の清算を同時に制度化するに至らなかったことに、個人的には悔いが残るところである。なぜならば、2011年の今、過去の清算が完了していないがゆえの問題が表面化しているからである。具体的には、国立大学の学長選考プロセスでの候補者の辞退や現役私立大学学長の責任問題の形で、研究費不正の問題が大きな影を落としているのである。

関係府省の政策転換によって、既に現在においては、預け金が容易にはできない仕組みが各研究機関に整備されている。したがって、専ら過去の負の遺産を社会的にどのように処理するかがポイントであると考えてよい。私は、一定の期間を限定して、研究者が過去のすべての事実を明るみに出し、私的流用がなかった限りにおいて、残金を返還すればいかなる罰則にも問わないという徳政令のようなものを行うしかないと思う。なぜ、そのような特別扱いが必要かと言えば、このまま放置することで、大学を中心とする我が国の学問の世界が大きな脅威にさらされるからである。研究者からこのような主張をすることは、我田引水のようで憚られるところもあろうから、大学職員を始めとする研究者以外の関係者から声を上げて行くしか適当な方法がなさそうである。

« 魔法の王国は1日にしてならず | トップページ | Academic Rhapsody~過去を清算しよう(続き) »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: Academic Rhapsody~過去を清算しよう:

« 魔法の王国は1日にしてならず | トップページ | Academic Rhapsody~過去を清算しよう(続き) »

最近のトラックバック

2024年12月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
無料ブログはココログ