歌舞伎町で性を売る女性たち 取り締まり、暴力、盗撮の中で

東京・歌舞伎町の路上にスマートフォンを手に立ち続ける女性たちがいる。肌を刺すように寒い冬の日も、蒸し暑い夏の雨の日も。辺りが暗くなった頃、どこからか来て、自分の体を買う客を待つ。2022年の暮れ、その姿が一斉に消えた。
歌舞伎町2丁目にある新宿区立大久保公園の周りは、「立ちんぼ」と呼ばれる売春女性が集まる場所になってきた。12月、連日のように何人もが警察に連れて行かれ、「警視庁が売春する女性を年末までに一掃するらしい」と、うわさが流れた。女性たちがいなくなったのは、大規模な摘発があるとささやかれた日だった。
結局、年末年始も公園の周囲は多くの人が行き交い、道際に立つ女性に目を向けた。彼女たちの姿が消えたのは数日間だけだった。
「だってお金ないもん。ユーチューバーとか警察とか増えて本当に嫌だけど」
女性たちが一斉に消えた日も公園の近くにいたユズ(仮名、27歳)は道の端で言う。相場は「別1」。相手が支払うホテル代とは別に1万円を意味する。暮らしに余裕はない。「今のままでずっといようとは思ってない。捕まるのとか最悪だし」
この街に立つ女性の多くがそう話す。「このままでいいとは思わない」。行政や警察、数々の民間支援団体は手を差し伸べてもいる。それでも、彼女たちはこの街で夜を過ごす。
一晩で10万円以上も
国内最大の歓楽街には、北側の2丁目にホストクラブやキャバクラ、ラブホテルが建ち並び、映画館が入る複合ビルや飲食店がひしめく1丁目とは異なる雰囲気を見せる。大久保公園は、2丁目の一角にある。外周300メートルは柵で囲まれ、夜は出入り口の鉄扉が閉ざされる。
この1年あまり、公園に面した路上には多い日で数十人の女性の姿があった。警視庁関係者は「ほとんどは20代前半で、30代までが中心。10代や40代以上もいる」と話す。「売春が減らないだけでなく、撮影目的のユーチューバーややじ馬が増え、一帯の乱れが激しくなったこともある」として、22年末には実際に集中的な取り締まりをした。だが、逮捕に至ったのはごく一部だった。
女性たちは、声をかけてきた男性と自ら交渉し、金額が折り合えば近くのホテルに向かう。相場は1万~数万円。1日で10万円以上を稼ぐこともある。
この街にたどり着いた事情は、それぞれだ。親の暴力から逃げた末に。ホストクラブで使う金を稼ぎに。昼の仕事だけでは食べていけないシングルマザー。数日でやめる女性もいれば、何年も居続ける者もいる。他に行き場のない境遇が共通する。
ユズたちが歌舞伎町に居続ける理由とは。警察に捕まったり、危険な目に遭ったりするにもかかわらず。ユズの葛藤を追った記事はこちらです。
ホストに誘われ上京
ユズはこの街に立ち始めて3年になる。今の住まいは近くのネットカフェだ。安くても週2万~3万円はかかる。「アパートを借りた方が安い」と頭では分かるが、そうしない理由は自分でもよく分からない。
生まれ育ったのは、札幌から車で何時間もかかる北海道の小さな町だ。地元の高校を卒業して運輸会社の事務やパチンコ店、居酒屋の店…
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