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2016年 の代表的サイエンス

2017年01月04日 15:46

2016年 の重要なscienceの多くは技術開発であった

例年年末、年始になると感じるのは一年があっという間に過ぎてしまったということと、何か興味深い発見、発表ができたであろうか? 何も大したことができなかったという後悔の念。

科学研究全般において、2016年の最もインパクトある研究は何だったであろうか? Science誌はScience 2016 breakthrough of the year、Science 354, 1516-1525(2016) を選らんだ。
22万5千名に及ぶScienceの読者からの投票で編集者がまとめた2016年Science ランキングでは
一位がHuman embryo culture (43 %), 2位が Gravitational wave (32 %), 3位がPortable DNA sequencer (13 %), 4位がArtificial intelligence beats Go champ (7%)で5位がWorn-out cells and aging (5%)であった。
2016年を代表する発見として「ヒトembryoを2週間近く研究室で発育させる培養技術の開発」と「重力波の発見」が圧倒的な支持を得た、合わせると全体の75%に達する。
Life science関係に限ると
子宮内でしか発育できなかったヒトembryoを2週間近く培養器で発育できるようになったという技術開発が昨年の最も重要な発見・技術に選ばれた。今日まで研究室での人の胚研究の倫理的制限は、神経系が発達し始める14日であった。今日まではこの制限で理論的にもOKで、7日を超えて杯の培養をできたものはいなかった。これが2週間以上に延長されると、様々な臓器が形成されたembryoを作ることができ、用途が爆発的に拡大する。そこで制限を2-4週間と広げて、様々な器官ができ始める時期にまで延長すべきかどうかの議論が始まっている。
しかし議論を始め、ルールができる以前に、抜き掛けて多くの研究がなされ、既成事実が作られるであろうし、genome editing技術と相まって、ますます神の領域に踏み込む研究者が出てくるであろう。

 様々な病気の治療、予防や個人特定のためゲノム配列を読むことが、今後ますます重要になっていくであろう。そのためのgenome sequencerは今や生物研究での汎用機器になりつつある。それが手で持てるサイズの簡易sequencerとして開発された。このsequencerは nanopore sequencingと呼ぶ画期的な技術を使い, DNA 配列を直接読むことができる。DNA strandをそのまま狭い穴を通すと、塩基がイオン電荷を持ち、読めるようになる。今までのsequencerに比べ、費用も安く、DNAが長くても無限に読め、切断する必要がない。また携帯でき、数時間で読めるので、様々な用途に、臨床診断や感染症の流行の調査などに使用されるであろう。これを使えばEbolaや他のウイルスの同定が数時間で行える。いよいよ個人のDNAが簡単に解読され、この情報を持ち歩き、いざという時に対応可能という時代になるかもしれない。

ニュースでも有名になったが、人工知能(AI)がついに碁のチャンピオンを打ち破った。また将棋でも、竜王戦において挑戦者が将棋ソフトをスマホで見たという疑いをかけられ、失格騒ぎになった。コンピューターもここまできたかという驚きを禁じ得ない。

このように生命科学関係の重要トピックは、embryo cultureの改良、全く新しいsequencerの開発や人工知能の開発と技術開発が圧倒的に優勢となった。このことは重要なほとんどの生命現象やそれを司る、DNA、たんぱく質などの物質の性質が明らかになり、これ以上は大きな発見はできにくく、それらを解析する技術解析研究が盛んになっていることを意味するのかもしれない。
 一昨年ののgenome editing といい画期的な技術開発がその年のランキングのトップとなっている。
基礎生物学・医学を目指して来た者として一抹の寂しさを覚える。


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