2016年01月05日 12:44
ゲノム編集技術 (Genome Editing Technology)
画期的な発明でノーベル賞間違いなしと言われる技術がゲノム編集を行うCRISPR/CAS9だ。Science誌は2015 breakthrough of the yearとしてCRISPRを選んだ。
ゲノム編集とはゲノムの任意の場所を削除したり置換したり、新たな遺伝子を挿入する技術で医学的、生物学的応用の非常に大きい技術。
ゲノム編集技術は過去にも色々と開発されてきた。その一つがTALENS(transcription activator-like effector nucleases)で、DNAを識別する34アミノ酸が繰り返し構造を持つタンパク質とFokIヌクレアーゼよりなるが 、操作が煩雑でコストがかかる。一方CRISPR/CAS9技術は簡便で安価に誰にでもできる手法で、たちまち応用が広まった。
この技術開発のきっかけは古細菌がウイルスからの感染を防ぐために獲得した免疫防御システムで石野良純氏(現九州大)によって見つけられた。細菌のCRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)システムは侵入したウィルスのDNAをCAS (CRISPR associated) タンパク質ファミリーによって30bp程度の断片に切断し、断片を細菌のCRISPRに挿入する。
その際、CASタンパク質は外来性DNAのproto-spacer adjacent motif(PAM)と呼ばれる塩基配列を認識して、上流の標的部分を切り取ってCRISPR配列に挿入する。そうすることで、それぞれの種類のウィルス特有DNA塩基配列は感染の記憶バンクに貯えられることになる。記憶されたCRISPR 配列はRNAへと転写され、Cas6によって切断され、外来配列を含むRNA断片cr-RNAs となる。
2度目の感染のときに,cr−RNAは外来侵入DNAに結合し、これがガイダンス分子となってCas9ヌクレアーゼをリクルートして外来DNAを切断する。これが細菌のウイルス感染防御のメカニズムである。
本発明は、このアイデアを利用して、従来のゲノム編集技術の困難さ複雑さを取り除いて、哺乳動物をはじめとする高等生物のゲノムの改変(ゲノム編集)をより簡便に行う技術である。このCRISPR/Cas9システムの長所は、ゲノムDNA上の狙った場所の塩基配列をもとに、これに対応する塩基配列をもつRNA鎖を簡単に設計でき、合成できることだ。
従来、ゲノム編集ツールとして使用されていたZFN(zinc finger nuclease)やTALENでは、酵素がDNA塩基配列を認識していた。酵素はタンパク質であり、これを特定のDNA配列を認識するように設計するのは、非常に手間と時間がかかる。CRISPR/Cas9で使われるRNA鎖を設計するのはこれに比べて格段に簡単である。
Jennifer Doudna (Univ California, Berkeley) とEmmanuelle Charpentier (Max Planck Inst. for Infection Biol., Berlin)はこの原理を利用して高等生物の遺伝子の改変ができるように改良とシンプル化を試みた。
CRISPR/Cas9システムを利用してのゲノム編集を実際行うにはPAM配列、ガイドRNAにCasタンパク質(Cas,Cas9)が必要とされる。PAM配列に隣接した標的部位に対し、DNAに相補するガイドRNA(gRNA)を設計し、細胞にCasと一緒にプラスミドやウイルス粒子を用いて導入する。Cas複合体は標的とする遺伝子に結合して、確実に遺伝子を切断する。さらに切断されたゲノムDNAが修復/組み換えされることを利用して、遺伝子のノックアウト(削除)やノックイン(挿入)を行う。
こうして確立されたこのゲノム編集技術CRISPR/Cas9システムは、様々な生物の遺伝子を改変することを可能にした。この技術は植物や動物の改良や難病の治療やガン治療に至るまで応用が非常に大きい。
この技術の開発はより品質のいい植物や動物への改良、難病やがんへの応用と様々な分野への波及効果が望めるが、一方で生命への挑戦とか性の問題やこの世に存在しない動物の創生などに簡単に応用できるようにし、倫理的問題も多く抱えている。
良かれ悪かれ、生命が営々と築いてきた遺伝子を簡単に改変できる時代の到来がそこまで来ている。
図
ゲノム編集(CRISPR/Cas9システム) コスモバイオゲノム編集より
画期的な発明でノーベル賞間違いなしと言われる技術がゲノム編集を行うCRISPR/CAS9だ。Science誌は2015 breakthrough of the yearとしてCRISPRを選んだ。
ゲノム編集とはゲノムの任意の場所を削除したり置換したり、新たな遺伝子を挿入する技術で医学的、生物学的応用の非常に大きい技術。
ゲノム編集技術は過去にも色々と開発されてきた。その一つがTALENS(transcription activator-like effector nucleases)で、DNAを識別する34アミノ酸が繰り返し構造を持つタンパク質とFokIヌクレアーゼよりなるが 、操作が煩雑でコストがかかる。一方CRISPR/CAS9技術は簡便で安価に誰にでもできる手法で、たちまち応用が広まった。
この技術開発のきっかけは古細菌がウイルスからの感染を防ぐために獲得した免疫防御システムで石野良純氏(現九州大)によって見つけられた。細菌のCRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)システムは侵入したウィルスのDNAをCAS (CRISPR associated) タンパク質ファミリーによって30bp程度の断片に切断し、断片を細菌のCRISPRに挿入する。
その際、CASタンパク質は外来性DNAのproto-spacer adjacent motif(PAM)と呼ばれる塩基配列を認識して、上流の標的部分を切り取ってCRISPR配列に挿入する。そうすることで、それぞれの種類のウィルス特有DNA塩基配列は感染の記憶バンクに貯えられることになる。記憶されたCRISPR 配列はRNAへと転写され、Cas6によって切断され、外来配列を含むRNA断片cr-RNAs となる。
2度目の感染のときに,cr−RNAは外来侵入DNAに結合し、これがガイダンス分子となってCas9ヌクレアーゼをリクルートして外来DNAを切断する。これが細菌のウイルス感染防御のメカニズムである。
本発明は、このアイデアを利用して、従来のゲノム編集技術の困難さ複雑さを取り除いて、哺乳動物をはじめとする高等生物のゲノムの改変(ゲノム編集)をより簡便に行う技術である。このCRISPR/Cas9システムの長所は、ゲノムDNA上の狙った場所の塩基配列をもとに、これに対応する塩基配列をもつRNA鎖を簡単に設計でき、合成できることだ。
従来、ゲノム編集ツールとして使用されていたZFN(zinc finger nuclease)やTALENでは、酵素がDNA塩基配列を認識していた。酵素はタンパク質であり、これを特定のDNA配列を認識するように設計するのは、非常に手間と時間がかかる。CRISPR/Cas9で使われるRNA鎖を設計するのはこれに比べて格段に簡単である。
Jennifer Doudna (Univ California, Berkeley) とEmmanuelle Charpentier (Max Planck Inst. for Infection Biol., Berlin)はこの原理を利用して高等生物の遺伝子の改変ができるように改良とシンプル化を試みた。
CRISPR/Cas9システムを利用してのゲノム編集を実際行うにはPAM配列、ガイドRNAにCasタンパク質(Cas,Cas9)が必要とされる。PAM配列に隣接した標的部位に対し、DNAに相補するガイドRNA(gRNA)を設計し、細胞にCasと一緒にプラスミドやウイルス粒子を用いて導入する。Cas複合体は標的とする遺伝子に結合して、確実に遺伝子を切断する。さらに切断されたゲノムDNAが修復/組み換えされることを利用して、遺伝子のノックアウト(削除)やノックイン(挿入)を行う。
こうして確立されたこのゲノム編集技術CRISPR/Cas9システムは、様々な生物の遺伝子を改変することを可能にした。この技術は植物や動物の改良や難病の治療やガン治療に至るまで応用が非常に大きい。
この技術の開発はより品質のいい植物や動物への改良、難病やがんへの応用と様々な分野への波及効果が望めるが、一方で生命への挑戦とか性の問題やこの世に存在しない動物の創生などに簡単に応用できるようにし、倫理的問題も多く抱えている。
良かれ悪かれ、生命が営々と築いてきた遺伝子を簡単に改変できる時代の到来がそこまで来ている。
図
ゲノム編集(CRISPR/Cas9システム) コスモバイオゲノム編集より
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