2011年11月18日 17:29
基礎研究はいらない?
生物学、生命科学分野の公的資金の投入には強い傾向が最近はっきりと見えてきた。公的資金は世の中の役に立つような研究、つまり医学応用研究へと多くのお金がつぎ込まれている。世界中を通して研究をサポートする様々な機関はエリート科学者にのみ理解されるような詳細な研究にうんざりしている。そして病気で悩んでいる者を救う結果をほしがっている。基礎研究を乗り越えるのはそう容易ではない。だから基礎科学のイノベーションを支援する代わりに、ライオンの分け前は治療薬を作り出す大型のさきがけ研究へと移っている。しかし必要な臨床研究は基礎研究よりも更に難しい。治療に応用する道筋を示すことが必要だ。これこそ政府や援助機関が我々の研究をサポートする主な理由だ。そのため生命科学研究者のほとんどは否応無く基礎医学分野へと研究対象を移さざるを得ない。そうしなければ公的資金もとれなければポジションも得られない。
この傾向は世界中同じだ。日本も何らかの形で病気の解明や治療法と言わなければお金が取れず、基礎研究だけでは研究を続けられない事態になって久しい。
しかしだからといって研究費の大部分を新薬開発に再配分しようとするのは間違いであろう。我々はすでに一兆ドルもの金を病気を治す事につぎ込み、グロバル製薬企業と呼ばれる会社が新薬の研究開発を進めて来た。そのような膨大な努力にも関わらず、そしてお金をどんどんとつぎつぎ込んだにもかかわらず、治療への応用は遅々として進まない。明らかに、(私もこの情報を大手製薬企業の幹部から得たが)たった4個の新薬が毎年世界で認可されるに過ぎない。知ってのように多くの新薬があまり効かない。明らかに、何かまちがったことをやっている。しかしこれは研究への援助が無いからではない。多くの基礎研究者と違い、これらの企業はただ応用に成功する事だけに興味があるのだ。プロジェクトは規則的に製品を産み出せそうも無いと分かったら即終了させられる。そして全ての努力は成功しそうな物へと向けられる。しかし年にたった4つしか成功しない。新薬の開発には莫大なお金が投入されているが、それに似合う開発が出来ていない。それでも尚より医薬品に開発し易い生物製剤などの開発へと方向を変えて熾烈な開発競争が行なわれている。またもっと大きいグローバル製薬企業は自社でリスキーな新薬を開発するより、有望そうな薬剤候補を持っているベンチャー企業を買収して乗り切ろうとしている。また創薬とは関係ない財テクにより利益をあげようとした企業もあるが、世界的な景気後退により逆に損がかさむ結果になっている。事態はここ数十年全く変わっていない。
現在の研究への大きな影響の一つはは数年前、お金を動かす事で多くのお金を得た多くの人が経済をめちゃくちゃにして経済のメルトダウンを起こした事である。政府は破産状態で、その負債は莫大である。そのため、今や何故お金をあるものに使うのか世論に説明する立場にある。そして医学研究はそれにぴったりの有望な事項である。例外もある。ヨーロッパやアメリカと違って、経済の崩壊していない国は中国と同じ道を採り続けている。中国政府は現在お金を研究にどんどん注ぎ込んでいるけれど、主には臨床移行に的を絞られている。プロジェクトは急速に臨床に移り、終了しなければならない。
二つ目は、製薬会社が決定権をにぎり、政府や財団にロビー活動を行い、開発費を得ている。このようなロビー活動はうまく働いている、中国に於いてもしかり。
三つ目、政策決定に携わるごく少数の研究者がいて、その人の影響力が強い。数年前、このような非常に影響力のある、人が基礎研究の深い質問、深いだけではなく革新的なアプローチや技術の質問を受けた。そして非常な努力により、これらの質問にうまく答えられた。その結果、彼の存在は大きくなり、そして科学的成功の象徴となった。そしてVIF(very influential folks)へとなった。このような大きな問題が数年に渡り答えられるに従い、VIFはVIF的仕事で忙しくなり、他の新たな問題への興味が失せて来た。
また大方の実際に興味のある事が解決され、当面の努力は些細なものになってしまった。大きな石は全て取り除いてしまった。そして全ての時間を今や小石を見つけるために使っている。今はもうチップを現金化する時だろう。残された唯一の疑問には大きな努力や金を要するので、我々のこれまでの知識を治療へと向けた方が得策であろう。個々の研究者は論文が欲しい、しかし現実には誰が基礎的な論文なんかに興味があるであろうか? そんな事より国民は実際は売れる役立つ製品が欲しいと思っている。
日本でも同じような事が言える。日本の経済状態はまさに最悪。それに追い討ちをかけるように東北の大災害。研究費といえどもお金を投入するにあたって、どのように役にたつか、何の病気の予防、診断、治療に使えるかを説明する必要がある。個人の興味から出発した研究でも、これを解明すればどんなことに役立ち、病気の治療に繋がるかを説明しなければ、なかなか大きなお金を貰う事は難しい。酵母の研究をやっていても、線虫の研究をやっていてもこれは人の病気のモデルだとこじつけでもしなければ大きな研究費ももらえないし、マスコミも飛びつかない。
当分は世界的にも経済の閉塞状態が続き、研究費もますます獲得が難しくなるであろうし、少子高齢化を受けて、大学の需要も減って、ポジションも得られにくくなることが予想され、一般サラリーマン同様、研究者といえども受難の時代を迎える。まずは世界の景気が一日も速く回復する事を待つばかり。まさに科学者を任じている者も神にすがるしか手はないのであろうか?
参考文献 「Revolution I Takin it to the street, JCS 124, 2679-2680 (2011)」
生物学、生命科学分野の公的資金の投入には強い傾向が最近はっきりと見えてきた。公的資金は世の中の役に立つような研究、つまり医学応用研究へと多くのお金がつぎ込まれている。世界中を通して研究をサポートする様々な機関はエリート科学者にのみ理解されるような詳細な研究にうんざりしている。そして病気で悩んでいる者を救う結果をほしがっている。基礎研究を乗り越えるのはそう容易ではない。だから基礎科学のイノベーションを支援する代わりに、ライオンの分け前は治療薬を作り出す大型のさきがけ研究へと移っている。しかし必要な臨床研究は基礎研究よりも更に難しい。治療に応用する道筋を示すことが必要だ。これこそ政府や援助機関が我々の研究をサポートする主な理由だ。そのため生命科学研究者のほとんどは否応無く基礎医学分野へと研究対象を移さざるを得ない。そうしなければ公的資金もとれなければポジションも得られない。
この傾向は世界中同じだ。日本も何らかの形で病気の解明や治療法と言わなければお金が取れず、基礎研究だけでは研究を続けられない事態になって久しい。
しかしだからといって研究費の大部分を新薬開発に再配分しようとするのは間違いであろう。我々はすでに一兆ドルもの金を病気を治す事につぎ込み、グロバル製薬企業と呼ばれる会社が新薬の研究開発を進めて来た。そのような膨大な努力にも関わらず、そしてお金をどんどんとつぎつぎ込んだにもかかわらず、治療への応用は遅々として進まない。明らかに、(私もこの情報を大手製薬企業の幹部から得たが)たった4個の新薬が毎年世界で認可されるに過ぎない。知ってのように多くの新薬があまり効かない。明らかに、何かまちがったことをやっている。しかしこれは研究への援助が無いからではない。多くの基礎研究者と違い、これらの企業はただ応用に成功する事だけに興味があるのだ。プロジェクトは規則的に製品を産み出せそうも無いと分かったら即終了させられる。そして全ての努力は成功しそうな物へと向けられる。しかし年にたった4つしか成功しない。新薬の開発には莫大なお金が投入されているが、それに似合う開発が出来ていない。それでも尚より医薬品に開発し易い生物製剤などの開発へと方向を変えて熾烈な開発競争が行なわれている。またもっと大きいグローバル製薬企業は自社でリスキーな新薬を開発するより、有望そうな薬剤候補を持っているベンチャー企業を買収して乗り切ろうとしている。また創薬とは関係ない財テクにより利益をあげようとした企業もあるが、世界的な景気後退により逆に損がかさむ結果になっている。事態はここ数十年全く変わっていない。
現在の研究への大きな影響の一つはは数年前、お金を動かす事で多くのお金を得た多くの人が経済をめちゃくちゃにして経済のメルトダウンを起こした事である。政府は破産状態で、その負債は莫大である。そのため、今や何故お金をあるものに使うのか世論に説明する立場にある。そして医学研究はそれにぴったりの有望な事項である。例外もある。ヨーロッパやアメリカと違って、経済の崩壊していない国は中国と同じ道を採り続けている。中国政府は現在お金を研究にどんどん注ぎ込んでいるけれど、主には臨床移行に的を絞られている。プロジェクトは急速に臨床に移り、終了しなければならない。
二つ目は、製薬会社が決定権をにぎり、政府や財団にロビー活動を行い、開発費を得ている。このようなロビー活動はうまく働いている、中国に於いてもしかり。
三つ目、政策決定に携わるごく少数の研究者がいて、その人の影響力が強い。数年前、このような非常に影響力のある、人が基礎研究の深い質問、深いだけではなく革新的なアプローチや技術の質問を受けた。そして非常な努力により、これらの質問にうまく答えられた。その結果、彼の存在は大きくなり、そして科学的成功の象徴となった。そしてVIF(very influential folks)へとなった。このような大きな問題が数年に渡り答えられるに従い、VIFはVIF的仕事で忙しくなり、他の新たな問題への興味が失せて来た。
また大方の実際に興味のある事が解決され、当面の努力は些細なものになってしまった。大きな石は全て取り除いてしまった。そして全ての時間を今や小石を見つけるために使っている。今はもうチップを現金化する時だろう。残された唯一の疑問には大きな努力や金を要するので、我々のこれまでの知識を治療へと向けた方が得策であろう。個々の研究者は論文が欲しい、しかし現実には誰が基礎的な論文なんかに興味があるであろうか? そんな事より国民は実際は売れる役立つ製品が欲しいと思っている。
日本でも同じような事が言える。日本の経済状態はまさに最悪。それに追い討ちをかけるように東北の大災害。研究費といえどもお金を投入するにあたって、どのように役にたつか、何の病気の予防、診断、治療に使えるかを説明する必要がある。個人の興味から出発した研究でも、これを解明すればどんなことに役立ち、病気の治療に繋がるかを説明しなければ、なかなか大きなお金を貰う事は難しい。酵母の研究をやっていても、線虫の研究をやっていてもこれは人の病気のモデルだとこじつけでもしなければ大きな研究費ももらえないし、マスコミも飛びつかない。
当分は世界的にも経済の閉塞状態が続き、研究費もますます獲得が難しくなるであろうし、少子高齢化を受けて、大学の需要も減って、ポジションも得られにくくなることが予想され、一般サラリーマン同様、研究者といえども受難の時代を迎える。まずは世界の景気が一日も速く回復する事を待つばかり。まさに科学者を任じている者も神にすがるしか手はないのであろうか?
参考文献 「Revolution I Takin it to the street, JCS 124, 2679-2680 (2011)」
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