日本経済新聞
NIKKEI Primeについて
朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。
グロスバーグ合同会社代表
今回の提携は、パワー半導体ユーザーのデンソーにとって納得できる内容に思えるが、サプライヤーである富士電機が今後パワー半導体事業にどこまで注力できるのか、注視する必要がある。同社はIGBT市場では世界トップ3に名を連ねているが、12インチでの量産計画を持たない唯一の大手サプライヤーである。SiCでも市場を寡占する5社から大きく後れを取っており、その差は開く傾向にある。政府からの補助金を得て巻き返しを図りたいのであれば、社内の人員補強を含め、パワー半導体市場における主要サプライヤーとしてのこだわり、意気込みを見せて頂きたい。
「個別の企業では投資額で負けているが、日本企業同士が勝とうとすれば必ずインフィニオンに追いつく」とは、具体的にどんな戦略をお持ちなのか。失礼を承知で申し上げれば、本当に具体的戦略をお持ちなら、このような安易なコメントを発せずに黙々と準備されていることだろう。日本企業同士の連携が困難なことは、当事者が最もご存じのはずだ。単なるポーズではなく、本気でインフィニオンや世界の競合に立ち向かう気概がおありなら、その方針や戦略を是非とも拝見したいものである。
前回の本コーナーでも述べたが、DRAM価格の下落はあくまでも一時的な現象、と筆者は見ている。PCからの需要は弱いが、AIサーバー向けの需要は強く、DRAMメーカー各社はその生産比率を切り替えている最中である。因みに中国向けDRAM出荷が多いのは、中国が世界の9割以上のPCを量産しているためで、中国経済の動向とは無関係である。仮に米国がPC生産を自国に回帰させたいのであれば、中国産のPCに関税をかける可能性はあるが、そんなことを考えるPCメーカーが米国にいるとは思えない。中国経済の影響とか、中国産PCへの関税引き上げとか、ここで心配する必要はないだろう。
今回のNVIDIA決算内容は、粗利率は会社計画通り、売上は上振れ、というほぼ予想通りの結果だった。粗利率はTSMCとの交渉結果でほぼ想定できる一方、売上はCoWoSの生産能力、またはHBMの供給能力がボトルネックで、毎回同社計画を上振れる結果が続いている。これは同社が保守的な見通しを公表しているためだろう。次回決算も計画(375億ドル前後)を上回る可能性が高い。データセンター向けGPUでは実質的に競合不在なので、390億ドル前後は狙えるのではないだろうか。次々回決算では400億ドル超が確実だろう。詳細は11月末に公開予定の「大山レポート」で解説する。
中国が半導体の国産化を急いでいるのは事実だが、「自給率が2023年に23%に達した」という調査会社の推定には強い違和感を覚える。SEMIなどによれば半導体製造装置の出荷は、中国向けが世界の35%(2023年)、2024年は9月現在で同48%を占めているが、中国産の半導体は世界市場にほとんど出回っておらず、需給バランスにも影響を及ぼしていない。装置を大量に購入しても製品を顧客に認定してもらえない、従って量産できない、という事例が中国内で多発しているためである。この状況がいつまで続くか分からないが、中国の補助金バラマキ政策にも限界が近づいているはずである。。
EV需要の下振れは、同社を含む多くのデバイスメーカーにとって逆風となっている。しかし、クルマの需要そのものが悪化しているわけではないこと、クルマの電動化の流れは今後も継続する見通しであることを考えると、昨今の逆風は一時的な調整期間と見ることが出来るだろう。SiCはそのキーデバイスであることは間違いなく、ロームは欧米大手と渡り合うだけの投資を続けている唯一の日系メーカーである。先日のデンソーとの提携を含め、同社は車載分野での協業相手を増やしている。今後も「攻め」の姿勢に期待している。
同社の7-9月期決算は、メモリ市況が好調に推移しているにも関わらず、デバイス部門が4-6月期から減益になっている点が極めてネガティブに見える。AI向けDRAMに使われるHBMで後れを取っただけでなく、ファウンダリ事業の赤字幅が拡大したことが要因と推察される。同社のファウンダリ顧客がTSMCなど他社に切り替える事例も増えているようだ。先日、Intelがファウンダリ事業を分社することが話題を集めているが、同社にとっても他人事ではないだろう。もはやIDMスタイルでファウンダリを続けること自体、無理があるのではないだろうか。
今回のDRAM価格下落は一時的な現象に終わる可能性が高い、と筆者は見ている。確かにスマホ向けもパソコン向けも需要が盛り上がっていないが、データセンター向けは好調に推移している。データセンター向けは、通常のDRAMだけでなくHBM需要がかなり増える見込みで、DRAMメーカー各社は通常のDRAM生産ラインをHBM生産に切り替える必要がある。現時点は生産ライン切り替えのタイミングの関係で、需要の盛り上がらない通常DRAMがややダブついている、と見るべきだろう。この状況が長期化することは想定しにくい。
ASMLの業績の下振れ要因として、市況の回復の遅れ、Intelの経営不振、中国からの受注減、などが挙げられているが、他の装置メーカーにはこのような下振れが見られない。そもそもIntelの不振も中国からの受注減も、今更驚くべきことではないはずだ。筆者としては、戦略製品であるEUV露光装置の価格設定に問題があると見ている。競合不在とはいえ、500億円超の最新装置は、最大顧客であるTSMCが導入を敬遠しており、同社の従来露光装置の有効活用で対応可能、としている。下振れの最大要因は、同社内の問題と見るべきだろう。
2022年12月、TSMCアリゾナの開設式典において、同社創設者のモリス・チャン氏が「グローバリズムはほぼ死んだ。自由貿易もほぼ死んだ」とネガティブなスピーチを行ったことは有名である。経済的なことだけを考えれば台湾に工場を集中させた方が良い、しかし政治的なことを考慮すると、わざわざコストの高い米国に工場を作らねばならない。米国ハイテク企業には世界中の人材が集まる強みがあるが、これも政治的にはリスクが内在することになる。経済や人材に国境はないが、国境を意識するのが政治であり、特に米国政府は政治活動と経済活動を天秤にかける舵取りが求められる。
日本にはグローバル市場に君臨する電子部品メーカーが多く存在し、弱体化した半導体メーカーとは対照的である。両者のアプリケーションは類似しているが、大手機器メーカーに食い込んでいる電子部品メーカーは情報が豊富で、半導体メーカーにはその情報が入って来ない。日本の半導体産業を再燃させるために、政府は様々な政策を打ち出しているが、電子部品メーカーにもインセンティブを与えながら半導体事業の強化に乗り出してもらうよう、働きかけることが有効と思われる。彼らの持つ顧客情報は、間違いなく強力な武器になるだろう。
この提携は、ロームのSiC技術にデンソーが強い期待を抱いている証左だと思われるが、デンソー自身がこれまで手掛けてきたSiC事業をどうするのか、ロームへの出資まで視野に入れている以上、自社のSiC事業もロームに統合することも考えているのか、興味がある。デンソーに限らず、日本にはSiCに少額・少人数を投じている企業が10社以上存在する。世界のSiC市場はロームを含む5社に寡占されており、この5社と日系各社の格差は広がる一方だろう。今回の提携がこのような事態を見直すきっかけになれば幸いである。
新着
注目
ビジネス
ライフスタイル
大山聡
グロスバーグ合同会社代表
グロスバーグ合同会社代表
【注目するニュース分野】半導体
【注目するニュース分野】半導体