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北陸新幹線延伸「乗り鉄」見どころは 気になる敦賀の先

鉄道の達人 鉄道ジャーナリスト 梅原淳

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金沢駅(金沢市)と敦賀駅(福井県敦賀市)との間の125.1キロメートルを結ぶ北陸新幹線の延伸区間が2024年(令和6年)3月16日に開業する。営業はJR西日本が担う。途中に開設される駅は石川県内が小松駅(小松市)と加賀温泉駅(加賀市)、福井県内が芦原温泉駅(あわら市)、福井駅(福井市)、越前たけふ駅(越前市)で計5駅だ。

延伸開業で東京―敦賀間には停車駅の少ない「かがやき」が9往復、停車駅の多い「はくたか」が5往復の計14往復が運行される。所要時間は最短で3時間8分だ。ほかに富山・金沢―敦賀間に「つるぎ」も25往復設定された。こちらは北陸地方での都市間の移動を担い、さらには敦賀駅乗り換えで大阪や名古屋方面へ向かう足にもなる。開業によって大阪―金沢間、名古屋―金沢間はともに最短2時間9分で結ばれ、前者は22分、後者は16分短縮される。

JR西日本は東京―敦賀間で50分のスピードアップが達成されたと説明するが、これは北陸新幹線と在来線の特急列車とを乗り継いだ場合と比べた結果である。

筆者が時刻表を見る限り、実は延伸開業後も東京―敦賀間は東海道新幹線と在来線の特急「しらさぎ」とを乗り継ぐと最速2時間42分で移動できる。東京―敦賀間は北陸新幹線経由で575.6キロメートル。東海道新幹線経由のほうが491.8キロメートルと距離が短いからだ。とはいえ、乗り換えなしで行けるメリットは大きく、多くの人が北陸新幹線を利用するようになるだろう。

開業区間の見どころ この橋や駅は要チェック

新たに開業した区間の見どころとして3カ所挙げておきたい。芦原温泉―福井間に架けられた九頭竜川橋りょう、福井駅、敦賀駅だ。

長さ414メートルの九頭竜川橋りょうでは新幹線が真ん中を通り、その両隣に福井県道福井森田丸岡線の新九頭竜橋がある。同じ橋脚を使用していて、このような構造の橋りょうは新幹線としては初めてだ。橋脚の一体化は建設費の節約、そして国の天然記念物に指定されている「アラレガコ」というカジカ科の魚の生息地という河川環境への影響を少なくするために採用された。

新幹線の橋りょうは道路と接近しているので、トラックの積み荷が荷崩れを起こして線路に入らないよう、積荷転落防止柵が設けられている。冬になると道路に塩化物イオンを含む凍結防止剤が散布されるので、塩害対策として表面含浸剤を塗るといった対策が施された。

続いて福井駅は1面のホームの両側にそれぞれ線路が1本ずつ敷かれ、11番線には金沢・東京駅方面、12番線には敦賀駅方面の列車が発着する。このような構造の駅は在来線や私鉄などでは珍しくないが、フル規格の新幹線では筆者の知る限り、他に東海道新幹線の三島駅がある。三島駅はホームに面した線路の外側に通過線が1本ずつ敷かれているので、通過線のない駅としては福井駅が初めてとなる。設備がここまでコンパクトになった理由は他の線路に挟まれて敷地の面積が狭いこと、そして建設費を抑えるためだそうだ。

九頭竜川橋りょう、福井駅と涙ぐましい節約ぶりだが、にもかかわらず、金沢―敦賀間の総事業費は1兆6779億円となる見込み。工事を実施した114.6キロメートルで割ると、線路1キロメートル当たり146億円となる計算だ。12年(平成24年)8月の着工時には1兆1600億円と予想されていたから、けっこうな上昇ぶりだ。鉄道建設・運輸施設整備支援機構によると、物価上昇と工期短縮策の導入が主な要因だという。完成が遅くなってもよいから建設費を節約すればよいという考え方もあるが、その場合、さらに物価上昇などの影響を受けるかもしれず、結果として建設費が余計に高くなりかねない。

敦賀駅での乗り換えは課題

敦賀駅にはホームが2面あり、どちらのホームとも両側に線路が敷かれるという新幹線ではよくあるつくりをもつ。これまで在来線の特急列車で乗り換えなしに大阪・名古屋方面と福井・金沢方面とを移動していた人たちは敦賀駅での乗り換えが新たに必要となる。北陸新幹線のホームと従来の北陸線のホームとは少々離れていて、あまりにも乗り換えが不便と、在来線の特急専用のホームが北陸新幹線の真下に建設された。それでも高低差は30メートルほどあるといい、乗り換えには難儀しそうだ。

上越新幹線の新潟駅、北海道新幹線の新函館北斗駅、西九州新幹線の武雄温泉駅では新幹線と特急列車とが同じホームに発着して乗り換えしやすい。敦賀駅もこのような構造とすればよかったのだろうが、地形や建設費の兼ね合いで実現できなかったと思われる。となると、北陸新幹線本来の目的である大阪市までの建設が待ち遠しいが、まだ着工にすら至っていない。現時点では福井県小浜市を通り、新大阪駅が終点となるとされている。

敦賀から先のルート悩ましく

残る敦賀―新大阪間の開業までには未解決の課題が多い。なかでも人口の多い京都市と新大阪駅との間をどのように通過するかは関係者にとって悩ましいところだ。

ルートはまだ不明ながら、小浜市から山岳トンネルを貫いて京都市の市街地北端に出て、そのまま市街地を縦断して京都駅へ。さらに東海道新幹線の南側を通って新大阪駅に至るのではないかと筆者は考える。

古都京都の市街地内や京都―新大阪間は基本的に地下、それも地下40メートル以上深い大深度となるだろう。だが、地下トンネルの工事は大変なうえ、内閣府によれば地下鉄1キロメートル当たりの建設費は250億円から400億円程度と今回開業の区間よりもさらに増えてしまう。

地図上で測定すると、京都の市街地を縦断して新大阪駅に向かうとおよそ50キロメートル。1キロメートル当たりの建設費を250億円とすると1兆2500億円となる。建設期間も2014年に着工となったJR東海のリニア中央新幹線の大深度地下区間が未完成な点を考えても、完成まで10年以上を要するのは確実で、15年は見ておかなくてはならないだろう。そうすると、今すぐ着工となっても開業は39年(令和21年)。実際のところ40年代後半以降と考えるのが現実的だ。

並行在来線の経営状況には懸念

さて、今回開業する北陸新幹線と並行する北陸線金沢―敦賀間130.7キロメートルは3月16日にJR西日本から経営が分離される。石川県内の金沢―大聖寺(だいしょうじ)間46.4キロメートルは既に金沢―倶利伽羅(くりから)間の旧北陸線を引き継いだ第三セクター鉄道のIRいしかわ鉄道が営業を担当し、福井県内の敦賀―大聖寺間84.3キロメートルは新たに誕生したやはり第三セクター鉄道のハピラインふくいが担う。

JR時代にあった特急列車という収入の柱を失うので、ハピラインふくいの収支予想は厳しい数値となった。収支は24年度(令和6年度)が7億3000万円の赤字、34年度(令和16年度)が6億円の赤字。この間の累積赤字額は約70億円と見込まれる。運賃の引き上げが必要になるなか、沿線の人口は今後減ると予想され、赤字体質からの脱却はかなり難しい。福井県は国からの財政支援措置を求めているという。

「孤立路線」も増加

北陸線金沢―敦賀間の経営分離により、越前花堂(えちぜんはなんどう)駅と九頭竜湖駅とを結ぶ越美北線が他のJR西日本の路線と接続しない離れ小島の路線となる。すでに七尾線(津幡―和倉温泉間)、城端線(高岡―城端間)、氷見線(高岡―氷見間)、高山線(猪谷―富山間)、大糸線(南小谷―糸魚川間)が孤立した状態となっている。JR西日本がいつまで維持できるのか心配になる。

そう思っていたら、2月になってJR西日本は城端線、氷見線を経営分離し、北陸線の一部を引き継いだ第三セクター鉄道のあいの風とやま鉄道に移管する方針を正式に発表した。越美北線もハピラインふくいへと転換されるのだろうか。

さまざまな心配事はあるものの、今回の延伸開業によって沿線には多くの人たちが押し寄せるだろう。特にこれまで首都圏との間を結ぶ直通列車がなかった福井県では「開業ブーム」が見られそうだ。北陸新幹線が沿線の人たちに幸福をもたらすことを期待したい。

<主な参考文献>
鉄道建設・運輸施設整備支援機構 「北陸新幹線(金沢・敦賀間)事業に関する再評価」 2021年3月
福井県並行在来線対策協議会 「福井県並行在来線経営計画」 2021年10月
永利将太郎 「北陸新幹線(金沢・敦賀間)の完成・開業に向けて」 「JREA」2023年12月号、日本鉄道技術協会
髙橋源太郎、吉住一郎、阿部雅史、野田卓史、柳沢義貴、粟津成司 「新幹線初 道路橋と下部構造が一体の7径間連続PC箱桁橋の設計・施工―北陸新幹線九頭竜川橋梁・福井県道新九頭竜橋―」 「橋梁と基礎」2023年3月号、建設図書
梅原淳(うめはら・じゅん)
1965年(昭和40年)生まれ。大学卒業後、三井銀行(現三井住友銀行)に入行、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。「JR貨物の魅力を探る本」(河出書房新社)、「新幹線を運行する技術」(SBクリエイティブ)、「JRは生き残れるのか」(洋泉社)など著書多数。雑誌やWeb媒体への寄稿、テレビ・ラジオ・新聞等で解説する。NHKラジオ第1「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。

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