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JR京葉線「通勤快速廃止」で揺れた沿線 専門家どうみた

鉄道の達人 鉄道ジャーナリスト 梅原淳

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JR旅客6社とJR貨物は2024年(令和6年)3月16日にダイヤ改正を実施する。今回の改正の目玉は北陸新幹線の金沢駅から敦賀駅までの延伸開業だろう。北陸新幹線の「かがやき」で東京駅と福井駅との間は最短2時間51分で結ばれる。ただ話題を集めたのはそれだけではない。たとえば京葉線の通勤快速・快速を巡る変更だ。

JR東日本の千葉支社が23年12月に発表した資料にはこうあった。「日中帯(10〜15時台)を除き、東京〜蘇我駅間はすべての通勤快速および快速を各駅停車に変更します。これにより、朝・夕夜間帯に外房線、内房線と直通するすべての快速も各駅停車に変更となります」

蘇我駅から東京駅方面に向かう平日の午前10時までの列車を見ると、午前4時台は各駅停車だけ1本、5時台は各駅停車だけ4本、6時台は10本でうち特急2本と快速2本、7時台は13本でうち特急1本と通勤快速2本、8時台は11本でうち特急2本と快速1本、9時台は7本でうち特急1本と快速2本である。この時間帯で合わせて通勤快速は2本、快速は5本ともともと多くなかったものの、これらがすべて各駅停車になるのだ。

通勤快速・快速が各停に 沿線からの反発で一部変更

発表を受けて沿線の自治体や住民は一斉に反発する。反対を表明した千葉市の神谷俊一市長のところへJR東日本の千葉支社の土沢壇支社長が説明に訪れる事態にまで発展した。あまりに反響が大きかったのもあるだろう。JR東日本側は24年1月16日にダイヤ改正の一部変更を発表し、朝の上り東京行きの快速2本だけは残ることとなった。

京葉線とは東京駅と千葉市にある蘇我駅との間の43.0キロメートルを結ぶJR東日本の通勤路線である。

途中に16駅が開設されており、東京メトロ日比谷線と乗り換え可能な八丁堀駅、東京臨海高速鉄道りんかい線や東京メトロ有楽町線と乗り換えられる新木場駅、東京ディズニーリゾートの最寄り駅となる舞浜駅、幕張メッセやZOZOマリンスタジアムに近い海浜幕張駅などが主な駅だ。蘇我駅は外房線や内房線との乗換駅でもあり、京葉線と外房線、内房線の直通列車も運行されている。

通勤快速、快速とも東京―蘇我間を通して走っている。途中の停車駅は通勤快速が八丁堀、新木場の両駅。快速は八丁堀、新木場、舞浜、新浦安、南船橋、海浜幕張、検見川浜、稲毛海岸、千葉みなとの各駅で、海浜幕張―蘇我間は各駅に停車している。東京―蘇我間の乗車時間は平日の各駅停車で50分ほどのところ、通勤快速は最速37分、快速は最速41分となる。

ダイヤ改正案への批判が出たのは単に本数が減るからだけではない。朝の通勤時間帯で快速などがなくなり、利用する列車の乗車時間が延びるとしても、到着時刻は同じで出発時刻が繰り上がるのであればまだ仕方がない。だが現在朝2本の通勤快速、具体的には東金・外房線経由の成東6時51分発・勝浦6時25分発―東京8時26分着、内房線経由の上総湊6時56分発―東京8時39分着はダイヤ改正後、東京駅に到着する時間が繰り下げられるそうだ。「JR東日本の都合で会社に着くのが遅くなる」と言って、職場は認めてくれるだろうか。

鉄道会社にもデメリット

乗車時間の増加は利用者だけでなく、鉄道会社にもデメリットをもたらす。運転時間が延びるので車両の回転率が下がり、同じ本数の列車を走らせるのであれば、必然的に車両の数を増やさなくてはならないのである。

もう一つ、どの駅にも平等に停車するので、利用者の少ない駅では過剰に列車がやってくる点も課題になる。このような駅の利用者にとっては列車がたくさん停車するのでありがたいが、大多数の利用者にとっては乗車時間が延びて困るし、鉄道会社側から見ても、車両の運転費が増えて損をしてしまう。駅を通過するよりも、いったん停車して再度加速するほうがエネルギーを消費するからだ。

上記の表は乗り換えを含めた18年度(平成30年度)の京葉線各駅の1日当たりの利用者数を筆者が資料を基に計算したものだ(新習志野―海浜幕張間で23年3月18日に開業した幕張豊砂駅を除いた)。途中駅の1日平均で最も多いのは舞浜駅の16万4334人、最も少ないのは二俣新町駅の9753人で約17倍の開きがある。

二俣新町駅の利用者には恐縮だが、現状でも平日の午前7時30分から午前8時30分までに東京行きの列車が10本停車するのは過剰と言われかねないと筆者は感じる。18年度のデータによると、二俣新町駅で乗車して東京駅方面に向かう人の数は1日平均1883人であった。京葉線で最も混雑する区間は葛西臨海公園駅から新木場駅までで、最も混む午前7時29分から午前8時29分までで5万3740人、終日では19万6830人が移動している。つまり、朝のラッシュ時1時間だけで全体の27.3パーセントを占める。

最混雑時の集中率27.3パーセントを二俣新町駅に当てはめると、朝の1時間に東京方面へ向けて乗車する人たちの数は514人となる。1本の列車に乗る人の数は平均51人、この駅に停車する列車すべてが10両編成なので1両平均では5.1人が乗る計算だ。

ダイヤ改正以後、午前7時30分から午前8時30分までの二俣新町駅には通勤快速から各駅停車へと変更された2本が追加で停車となる可能性が高い。この場合、1時間に12本の列車が停車することとなり、1両平均4.3人と5人を切ってしまう。朝のラッシュ時に全列車が停車するのは二俣新町駅の利用者にはありがたい。けれども、それよりさらに多い南船橋―蘇我間で乗車する人たちの目にはどう映るだろうか。

京葉線ダイヤ見直し、筆者はこう考える

JR東日本によると、今回の京葉線のダイヤ改正の背景として、ラッシュ時における通勤快速・快速と各駅停車との利用者数のアンバランスさを解消させたかった点もあるという。

けれどもこの理由もよくわからない。通勤快速や快速はそもそも利用者の多い駅に停車しているから、各駅停車よりも利用者が多いのは当然だ。ならば今回のダイヤ改正の方向は間違っていて、通勤快速や快速を増やし、各駅停車は通勤快速、快速の補助的な役割に徹すればよい。京葉線では各駅停車が待避や通過待ちできる駅がいくつかある。それらを有機的に結び付ければよいのだ。

このようなダイヤは大手私鉄では当たり前だが、京葉線では難しいらしい。その理由として考えられるのは、各駅停車を減らすと、東京駅に近い東京―舞浜間で特に各駅停車だけが止まる駅が混雑すると懸念されているからであろう。

幸いにも東京―市川塩浜―西船橋間では武蔵野線との直通列車が各駅停車で走っており、西船橋駅では朝の7時台に6本の各駅停車が東京駅に乗り入れていく。武蔵野線への直通列車は京葉線の10両編成よりも2両短い8両編成で、東京―市川塩浜間の各駅停車の主力に据えようとすると輸送力が足りなくなるのではと心配する向きがあるかもしれない。そうであれば、武蔵野線からの直通列車を朝の7時台にもうあと1本か2本増やせばよいだろう。

京葉線は18年度に2億5862万人、1日平均約71万人が利用したJR東日本有数の通勤路線だ。あまりに不便にしてしまうと、リモートワークがさらに進んで利用者が減りかねないと筆者は思うのだが、いかがだろうか。

梅原淳(うめはら・じゅん)
1965年(昭和40年)生まれ。大学卒業後、三井銀行(現三井住友銀行)に入行、交友社月刊「鉄道ファン」編集部などを経て2000年に鉄道ジャーナリストとして活動を開始する。「JR貨物の魅力を探る本」(河出書房新社)、「新幹線を運行する技術」(SBクリエイティブ)、「JRは生き残れるのか」(洋泉社)など著書多数。雑誌やWeb媒体への寄稿、テレビ・ラジオ・新聞等で解説する。NHKラジオ第1「子ども科学電話相談」では鉄道部門の回答者も務める。

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