ルイボス茶葉、南アフリカ山岳地帯のみで生育
ナショナルジオグラフィック
コイコイ人やサン人といった南アフリカの先住民にとって、ルイボス茶は母乳のようなものだと、バレンド・サロモ氏は語る。
「私には6人の姉妹と5人の兄弟がいます。みんな母乳で育ちました。母がひとりに乳を飲ませているとき、ほかのきょうだいは哺乳瓶に入ったルイボスを飲んでいました」。サロモ氏は、ルイボス茶の産地ブッパータール村のルイボス協同組合(WORC)の理事を務めている。
「南アフリカの子どもは、清涼飲料水より先に、発酵茶であるルイボス茶にハチミツを入れたものを飲むようになります」と話すのは、ヨハネスブルクに住むアンジェ・ムートン氏だ。「飲むと元気が出ます。あらゆる不調にも効きます」
抗酸化物質が豊富なルイボス(オランダ語で「赤い低木」という意味)は、近年、国外でも熱狂的な人気を集めている。南ア国内でも、お茶を中心とする観光業「ティーツーリズム」が徐々に育ちつつある。
2021年、ルイボスはEUの「原産地名称保護(PDO)」認定を受けた。これは特定の地域において伝統的な製法で生産されワインや食品などの品質を保証し、その名称を保護するものだ。ルイボスはパルミジャーノ・レッジャーノ・チーズやシャンパーニュなどと並んで、アフリカの産品では唯一その登録に加えられた。
しかし、南アフリカを訪れると、ルイボス茶が単なる飲み物ではなく、この国の文化や歴史と深く結び付いていることに気づくだろう。なかでも先住民の努力とは、切り離すことはできない。
最初にこの植物に数えきれない薬効があることを確かめ、お茶にし、オランダ人入植者に教えたのはコイコイ人とサン人(総称してコイサン人と呼ばれることも多い)だった。にもかかわらず、その伝統的な知識が認められ、大規模になったルイボス産業の恩恵を受けられるようになったのは最近のことだ。
10年近くにわたる交渉の末、2018年、コイサンの人々はルイボスに関する伝統的知識の保有者と正式に認められ、この産業の発展に果たした役割に対する報酬の支払いを約束された。それから4年遅れて2022年7月に、ようやく業界団体であるルイボス評議会から彼らに対する最初の支払いが行われた。
ルイボス茶の歴史と健康上の効果
ルイボス(学名Aspalathus linearis)は、低木で、若枝はたいがい赤みがかっている。葉は緑色で針のように細い。春には黄色い花を咲かせる。
この植物が自生し、それを栽培できる場所は、世界でも南アのセダーバーグ地方だけだ。ケープタウンから北東へ車で2時間ほどの距離にあるこの山岳地帯には、ルイボスに適した気候や土壌などの条件が揃っている。多くの農業起業家が他の土地でルイボスの栽培を試みたが、これまで成功したものはない。
ルイボスを茶に加工するには、針状の葉と茎をカットし、押しつぶして水分を絞り出し、積み重ねて発酵させ、天日干しにして乾燥させる。この過程で葉の色は特徴的な赤褐色に変わる。ふるいにかけて等級別に分けられた茶は、殺菌や低温殺菌の後、消費者に提供される。
これまでの科学的研究は多くはないものの、ルイボス茶は心臓の健康を増進し、発がんリスクを低下させ、糖尿病患者の役にも立つらしいことがわかっている。古くからコイサンの人びとは、ルイボスの葉を摘み、獣脂と混ぜて軟膏として使ってきた。
かつてのヨーロッパからの入植者は、このお茶を「貧乏人の飲み物」と呼んだ。ヨーロッパやアジアから輸入する紅茶よりずっと安かったからだ。それでも1930年代には、先住民に教えてもらった伝統的知識をあたかも自身のもののように利用して、ルイボスの輸出を始めた。
現在、南アフリカではルイボス茶の浸出液を年間約2万トンも生産している。これは1990年代の3倍以上だ。毎年少なくとも8000トンが50カ国以上に輸出されている。化粧品、焼き菓子、アルコール飲料など、ルイボスのエキスを使う製品も増えている。
ルイボスの故郷、ブッパータール
「ルイボスはこの土地の文化の一部です」とサロモ氏は言う。「ルイボスを人びとから切り離すことはできません」
サロモ氏はセダーバーグ地方のブッパータール村で生まれ育った。父親からはルイボスの採集方法を、母親からはこれを飲めるようにする方法を習った。
サロモ氏は、村の協同組合で合計3万6000ヘクタール、66戸のルイボス生産者の管理を手伝っている。2018年にコイサンの人々の知識と貢献がようやく認められたと知ったとき、サロモ氏はうれしくて泣いたという。
ルイボス評議会との契約では、南アフリカに住む数千人のコイ族とサン族の人びとに対して毎年約1500万ランド(約1億2000万円)が永久に支払われるとされる。この資金の1%は、教育、青少年育成、技能開発、そして場合によっては医療や土地のために使われる。
「このお金は、私たちにある種の尊厳を取り戻すものです」とサロモ氏は言う。「それでも、これは始まりに過ぎません」
ルイボスの道をたどる旅へ
ルイボスの故郷を訪ねるなら、ケープタウンからセダーバーグ地方の街クランウィリアムまでドライブするといい。「ルイボス茶の中心地」をうたうクランウィリアムでは、ルイボスティー・ハウスや新しくできたハウス・オブ・ルイボスで利き茶に挑戦しよう。
ルイボスの話や先住民とこの植物の関係についてもっと深く知りたいなら、道をさらに進んで、人里離れたブッパータールの村に向かおう。クランウィリアムの東30キロに位置するブッパータールは、古くはヨーロッパのモラビア人が不況のために入植した村で、わらぶきの屋根と白い漆喰壁をもつ建物が並ぶ。サロモ氏によれば、6カ月以内に旅行者用の宿泊施設ができるそうだ。
いずれにしろ、村の生き残りはこの「魔法の」茶にかかっている。サロモ氏自身、普段からルイボス茶を飲むのだろうか、甘いナッツのような独特の風味は好きなのだろうか。
「一日中飲んでいますよ」と、氏は笑顔で答えた。「ホットでもアイスでも。家に帰ると、寝る前に1杯飲みます。リラックスできるんです」
文=Elizabeth Warkentin/訳=山内百合子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2022年9月10日公開)