スタバやドールが「バナナ救出」 規格外品、飲料・炭にも?
「もったいないバナナ救出大作戦」
スターバックスEXPASA海老名サービスエリア(上り線)店(神奈川県海老名市)で掲げられたチョークボードに6月ごろ、こんな文言が躍っていた。スターバックスコーヒージャパン(東京・品川)が始めた企画の一幕だ。味には問題がないのに、見た目やサイズのばらつきといった理由で規格を満たさず、捨てられてしまう「もったいないバナナ」を使った商品を期間限定で売り出したのだ。
開発したのは「バナナブリュレフラペチーノ」と2種類のデザート。購入した顧客には「救出ありがとうございます!」とお礼が入ったレシートを渡すなど、細やかな仕掛けも忘れない。「私も救出してきました」。SNS上で盛り上がりを見せていたという。
スタバは、伊藤忠商事グループで青果物の生産や販売を手がけるドール(東京・中央)の「もったいないバナナプロジェクト」に参加している。今回の大作戦はこの一環だ。
主にドールはフィリピンでバナナを生産し、年約20万トンのバナナを日本に輸入・販売している。その過程で規格外品として捨てられるバナナは年約2万トンに上る。そこで2021年、もったいないバナナプロジェクトをスタートした。現在はスタバのほか、ドトールコーヒー(東京・渋谷)やコメダ(名古屋市)といった50社以上が参加しており、各社がドリンクやアイス、菓子などに加工して販売している。
23年度は約900トンのもったいないバナナが使われた。このうち3分の1はスタバが今回の大作戦のために仕入れたものだという。
国連食糧農業機関(FAO)のデータによると、バナナの生産量は世界規模では増えている。ただ約100万トンに上る日本の年間輸入量の8割程度を占めるフィリピン産バナナは4年連続で減っており、22年は約589万トン。気候変動による豪雨や干ばつ、バナナを枯らす病原菌などが影響していると見られる。もったいないバナナプロジェクトのような食品ロスを減らす取り組みは待ったなしだ。
もったいないバナナプロジェクトは3周年を迎え、10月4日に方針発表会が開催された。「エシカルブランドとして認知を確立する」。ドールの青木寛社長最高経営責任者(CEO)は意気込みを語った。食品ロスの削減にとどまらず、環境や社会の持続可能性に配慮した「エシカル消費」のニーズを取り込む狙いだ。
消費者庁が23年に実施したアンケートによると、「エシカル消費を知っている」と回答した割合は29.3%。22年調査の26.9%から上昇した。また「エシカル消費につながる商品・サービスを今後購入したい」と回答した人のうち、食料品については7割以上が割高でも購入したいとしている。
実際に、もったいないバナナも規格外品だからといって買いたたかれることはなく、青木社長CEOも「通常のバナナとほぼ変わらない価格で買い取ってもらっている」と明かす。
バナナ以外のフルーツにも拡大
10月4日の方針発表会では新たな方針も打ち出した。まずは「もったいないフルーツアクション」としてバナナ以外の国内外のフルーツに活動を広げること。気候変動の影響などによって他のフルーツも変形が問題になりつつあって需要が高い。そしてもったいないバナナについては販売量を現状の900トン程度から数年後に5.6倍の5000トン程度に増やすことを掲げた。そのための打ち手はユニークだ。
「フードロスが出ないように発信していかないといけない」と方針発表会に登場したのは「ミスタータイガース」の異名を持つ掛布雅之氏だ。ドールは皮の一部が黒くなったバナナが虎に似ていることから、関西地域では「トラバナナ」とPRすることで売る考え。掛布氏は「むりやり虎とひっつけましたね」と苦笑いするものの、トラバナナPRのアンバサダーとして就任することを明らかにした。
また、ドールが提供するオフィスにバナナを定期配達するサービス「Office de Dole(オフィス・デ・ドール)」は、通常品からもったいないバナナに入れ替えて改めて売り出す。導入した企業は持続可能な開発目標(SDGs)の推進につながり、企業ブランドの向上を見込める。
バナナの新たな使い方も模索しており、説明会では開発中の「バナナ炭」をお披露目した。備長炭やマングローブ炭と比べて軽くて火が付きやすい。バーベキューなどのレジャーで活用できるほか、土壌改良や脱臭での用途を見込んでいる。早ければ25年春にも国内で販売するという。
ドールのように自然の動向に左右される事業を営む企業は少なくない。実際、ドールを傘下に入れる持ち株会社の業績は、近年の豪雨や干ばつといった気象の影響によって低迷した時期があり、青木社長CEOは「気候変動の影響を受けやすい」と危機感を強める。長期的に安定した業績を維持するにはSDGsの推進と、エシカルというブランド価値の確立が求められている。
(日経ビジネス 高城裕太、原田寧々)
[日経ビジネス電子版 2024年10月22日の記事を再構成]
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