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豪ワーホリに日本の若者殺到 工場で月50万円稼ぎ描く夢

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海外で就業体験するワーキングホリデー(ワーホリ)に若者が殺到している。年齢制限や滞在期限といった制約はあるものの、稼ぎながら異国で生活体験できることが今も昔も変わらぬ魅力だ。かつてと異なるのは、その稼ぐ額。日本国内の大卒者の平均的な初任給を大きく上回る収入を手にする若者は異国の地で何を思うのか。

オーストラリアのワーホリビザ(査証)を持ち、南東部ニューサウスウェールズ州の食肉工場で働く西村恒星さん(27)。羊を刃物でさばいて仕分けし出荷する。安定した収入に魅力を感じ、22年10月からこの仕事に就いている。

農場での収穫、食肉工場での肉の出荷……。通常、豪州のワーホリビザ(有効期間1年)の延長には、移民局が定めた地域で指定された労働に一定期間従事する必要がある。1次産業が中心で肉体労働も多い。過酷な労働環境と見られがちだが、西村さんは意に介さない。

日本の大学を卒業後、器械体操の先生として経験を積んだ。就職前に兄の影響で豪州に短期留学し、海外に漠然とした憧れがあった。ワーホリに挑戦したきっかけも、もう一度海外で生活してみたいという思いだった。

ここで稼ぎ続ければ夢がかなう

現在の給与は月約50万円。仕事は週5日だが、うち1日は午前中勤務のみ。土日は確実に休める。日本で先生をしていた時より勤務時間は減り、収入は逆に増えた。以前には農場でイチゴを収穫する仕事も経験した。作物が実りきっていない時期だったため最盛期ほどは稼げなかったが、それでも多い時には月に約40万円の収入があった。

厚生労働省がまとめた22年の賃金構造基本統計調査によると、日本国内の新規大卒者の所定内給与額は22万8500円。西村さんの稼ぎを大きく下回る。

自分の体操ジムを持って人に教えたい──。英語が流ちょうとは言えないところからのスタートだったが、豪州で働くうちに、ここで稼ぎ続ければ夢がかなうのではないかという考えに至った。今は資金づくりに本腰を入れている。

「日本では想像もつかないくらい稼げる」(西村さん)とビザを延長。50万円ほどの車を2台買ったり、休日には思う存分遊んだりしているが、130万円ほどの貯金ができた。今年10月に予定する帰国までに300万〜500万円まで増やしたいと笑顔を見せる。

ワーホリはもう一つの「出稼ぎ」の選択肢だ。日本人にとって豪州は最大級のワーホリ受け入れ国であり、同国内務省によると日本人へのワーホリビザ発給数は23年6月までの1年間に約1万4000件と過去最多を記録した。

語学留学関連サイトを運営するスクールウィズ(東京・渋谷)の太田英基代表取締役によると「22年の夏以降、留学やワーホリの申し込みが増えた」。今や豪都市部では仕事を得るのに苦労する人が出るほどの人気ぶりだ。現地の関係者によると、少しでも自分を売り込むため、希望の勤務先まで履歴書を自分の手で持っていくのが主流になっているという。

好待遇の理由の一つは最低賃金の高さにある。東京の最低賃金が時給1113円なのに対して、豪州は同約23豪ドル(約2250円)。円換算すると以前から豪州のほうが高かったが、為替レートが今では1豪ドル=約98円と、新型コロナウイルス禍を挟んだ約4年間で3割近く円安に振れたことで、その差は2倍にも広がった。

「日本を脱出できてよかった」

ワーホリが若者を引き付ける理由は、何も収入だけではない。

豪北東部クイーンズランド州の農場で汗を流す神奈川県出身の林香奈さん(仮名、31)。渡豪前は首都圏で会社員として働いていた。だが男性優遇の人事評価や常に笑顔が求められるサービス習慣に限界を感じ、ワーホリの年齢上限ギリギリの30歳で日本を離れた。

農場に併設された作業場で、ライチを箱詰めする担当になった時のこと。昼休みにせっせと段ボール箱を組み立て、午後にすぐ作業に取りかかれるように準備していると、雇用主の男性から思いがけない声をかけられた。「ここは日本ではないのだから、そんなに根を詰めて働かなくてもいい。休憩時間は休んで」

日本との働き方の違いを改めて感じた出来事だった。こうしたオンとオフの切り替えに加え、性別、年齢、見た目などを気にせず雇用してもらえる環境に居心地の良さを感じている。1日7時間、週5日勤務で週給約15万円と稼ぎもいい。「日本を脱出できてよかった」

どこの国でも働ける技能を身に付けたいと考えるようになった。9月からは留学ビザに切り替え、IT(情報技術)系の専門学校でプログラミングを学ぶ予定だ。

ゆくゆくはビジネスビザに切り替えたい。その先は豪州での永住だけでなく、他の英語圏の国に移住したっていいとも考えている。現地で結婚することで配偶者ビザを得るという選択肢もあるが、「配偶者ビザには差別や偏見も多いと聞く。自分の努力で取ったビザで働きたい」と意気込む。

(日経ビジネス 関ひらら、藤田太郎)

[日経ビジネス電子版 2023年2月7日の記事を再構成]

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