韓国大統領「日本すでに数十回謝罪」 反日利用に反論
【ソウル=甲原潤之介】韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は21日の閣議で、元徴用工問題などの歴史問題に対する自らの立場を表明した。「日本はすでに数十回にわたり、私たちに歴史問題について反省と謝罪を表明している」と述べ、反日を政治利用しないよう呼びかけた。
16日の日韓首脳会談で日本から謝罪表明がなかったと国内で反発がある点を意識し「韓国社会には排他的民族主義と反日を叫びながら政治的利益を取ろうとする勢力が厳然と存在する」と言及した。
日本の謝罪表明の具体例として、1998年の日韓共同宣言と、日韓併合から100年にあわせ日本が表明した2010年の菅直人首相(当時)の談話に触れた。16日の会談で岸田政権が1998年の宣言を継承する立場を明確にしたと説明した。
これにあわせ、韓国の歴代政府は元徴用工に対し「痛みを癒やし、適切な補償がされるよう努力してきた」と紹介した。74年に制定した特別法に基づいて92億ウォンを、2007年の特別法で6500億ウォンをそれぞれ政府が補償したと指摘した。
尹政権としても「被害者と遺族の痛みが癒やされるよう最善を尽くす」と表明した。
1965年の日韓請求権協定について「韓国政府が国民の個人請求権を一括して代理し、日本の支援金を受領する」取り決めだとの認識を明言した。そのため、65年の合意と日本企業に賠償を命じた2018年の最高裁判決を同時に満たす折衷案として解決策を決定したと説いた。
1965年の国交正常化は当時の朴正熙(パク・チョンヒ)大統領の決断だったと強調した。「決断のおかげでサムスン、現代、LG、ポスコのような企業が世界的な競争力を備えた企業に成長することができた」と話し、経済成長の原動力になったと主張した。
大統領就任時に「韓日関係の正常化策について悩んだ。まるで出口のない迷路のなかに閉じ込められた気分だった」と明かした。「厳しい国際情勢を前にし、私も敵対的民族主義と反日感情を刺激し国内政治に利用しようとしたら、大統領としての責務を捨てることになると思った」と強調した。
日韓関係を「宿命の隣国関係」と表現し、戦後に関係改善したドイツとフランスのように過去を乗り越えるべきだと主張した。
日韓関係の正常化に向け「韓国が先んじて障害物を取り除けば、きっと日本も呼応してくれる」と期待を示した。
北朝鮮の弾道ミサイル発射に触れ「北朝鮮の核・ミサイルに関する韓日間の完璧な情報共有が急がれる。前提条件をつけず先んじて日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の正常化を宣言した」と語った。韓国外務省は21日、2019年のGSOMIAの終了通知を撤回すると日本に伝えた。
尹氏は日本が輸出管理で優遇する「グループA(旧ホワイト国)」に韓国を再指定するよう対話を続ける意向を示した。韓国がまず、日本を「ホワイトリスト」に戻すための必要な法的手続きに着手するよう関係部局に指示を出すと明かした。
液化天然ガス(LNG)の調達やインフラ建設、スマートシティーなどで連携の余地が大きいと指摘した。半導体やバイオ、宇宙など先端分野の協力も「スピード感を持って進める」と話した。
尹氏は閣議の冒頭、約20分にわたって日韓関係について発言した。冒頭発言を韓国メディアが中継した。
韓国では16日の首脳会談を「亡国外交」などと批判する声があがる。野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は尹氏の対日姿勢を「屈辱的」などと発信し、18日には支持者に集会への参加を呼びかけ反日運動を展開した。
世論調査会社リアルメーターが20日発表した尹氏の支持率は36.8%で、前週から2.1ポイント低下した。不支持率は1.5ポイント上昇し60.4%となった。尹氏はこれ以上の支持率の低下を防ぐため対日政策の発信を強化している。
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