「金利ある世界」で考える投資への一歩
知っ得・お金のトリセツ(131)
資産形成の心強い味方が久しぶりに家計に戻ってきた。そう、金利。元本が利息を生み元手に加わることで、雪だるまのようにお金が増える利殖のエンジンだ。これまでのように「どうせゼロ」と無視せず、比較検討する「金利コンシャス」が差を生む時代の到来だ。さらに一歩、踏み出せばそこは投資の世界。貯蓄と投資を断崖で隔てず、地続きの世界として見渡す心構えも有用だ。
100万円預けて20円か、2000円か
年利で普通預金0.001%、定期預金0.002%――。長年、ゼロやマイナスに抑えられた政策金利の下、小数点以下第3位が定番だった主要行の預金金利が一気に100倍の水準に戻りつつある。
まず動いたのが三菱UFJ銀行だ。6日以降、それまで一律0.002%だった期間5〜10年の定期預金金利を引き上げ、期間10年では100倍の0.2%とした。100万円を1年間預けた時の利息が税引き前で20円か、2000円か。その差は小さくない。
10年間0.2%で固定していい?
三井住友銀行、みずほ銀行も追随しメガバンクの10年物定期預金金利はそろって0.2%になった。朗報だが商品性の理解も必要だ。いつでも引き出し自由な普通預金と比べ、高めに設定された定期預金の金利は、一定期間引き出せない条件と引き換えだ。
期日前に解約すると中途解約利率が適用され、当初利率より格段に低くなるのが普通だ。ディスカウント率はそれぞれ異なるが、三菱UFJ銀のスーパー定期の場合「1年以上2年未満」で解約すると「 預入日(または継続日)における1年物の店頭表示利率×70%」になる。
そもそも10年後の世界でも引き続き0.2%の金利が魅力的かどうかを考えた上で、他に預け替えたくなって解約する場合の条件も知っておこう。
ネット銀行は戦略的に高金利
土台には日銀の政策金利があるとはいえ、預金金利は各社の戦略を反映して決まるもの。以前から預金獲得に積極的なネット銀行を中心に、メガバンク比ではるかに高い金利は存在していた。
ソニー銀行の10年定期は0.4%とメガバンクの2倍の水準だし、SBI新生銀行は新規口座開設者を対象に1年物で0.3%の金利を提示している。出し入れ自由の普通預金でも、一定の条件付きで東京スター銀行が0.25%、auじぶん銀行が最大0.3%など定期預金並みの金利は珍しくない。
「元本さえ減らなければいい」と預けっぱなしの預金がある人は、預金金利比べがまず第一歩。一手間で100倍のリターンが得られる時代だ。
その先の一歩 「ある利回り」との比較
次のステップは、貯蓄から投資の世界に進み「ある利回り」と比較すること。それが投資金額に対して何%のリターンが配当としてもらえるかを示す、配当利回りだ。
例えば三菱UFJ銀を傘下に持つ三菱UFJフィナンシャル・グループの例で見てみよう。13日の終値は1253円なので最低投資単位である100株を購入するには12万5300円が必要。一方、2024年3月期の予想一株配当は41円なので、計画通りなら来春以降4100円が配当金としてもらえる。配当利回りは3.27%と預金金利の16倍の水準だ。
無論、単純比較はナンセンス。預金と違い、株式投資に元本保証はない。株価は常に上下に動き、経営破綻など万一の場合は紙くずになるのが株券だ。
安全な預金先は投資先としても有望
だが、潰れると思うなら預金もしないはず。「預け先として『安心だから』と預金で寝かせているのなら、投資先としても考えられるはずだ」。ファイナンシャルプランナーの菱田雅生氏はアドバイスする。株価次第で含み損を抱えることはあるが、「預金同様に長期間寝かせるつもりなら株価を気にする必要はない」
かつて「日本一の個人投資家」と呼ばれた故・竹田和平氏は配当目的で株式を保有していた。株を畑、配当を収穫物になぞらえ「畑は毎年の収穫を得るために買うのだから、畑の値段の上げ下げは気にならない」と語っていた。配当にも減配や無配のリスクがあることは覚悟した上で、「預金並みに寝かせる」投資のハードルは高くない。
1993年日本経済新聞社入社。証券部、テレビ東京、日経ヴェリタスなど「お金周り」の担当が長い。2020年からマネー・エディター、23年から編集委員兼マネー・エディター。「1円単位の節約から1兆円単位のマーケットまで」をキャッチフレーズに幅広くカバーする。
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