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コロナで進むか脱・都心 転職で高まる「求む!地方」

エグゼクティブ層中心の転職エージェント  森本千賀子

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新型コロナウイルスの影響により、3月以降、多くのビジネスパーソンが在宅でのリモートワークに移行しました。数カ月がたち、このワークスタイルが板についてきた今、これからの働き方・暮らし方を見つめ直す人が増えています。転職相談で「郊外・地方に移住したい(してもいい)」という声が多く聞こえるようになっているのです。今回は、「脱・都心」の動き、「脱・大都市圏」の転職についてお話しします。

「もうオフィスは不要」 リモートワークのしくみが確立

私自身、3月以降、月150件ほどの転職相談対応、求人企業とのミーティング、社内でのスタッフ会議などをすべてオンラインで行っています。オンラインに移行する直前は、不安しかありませんでした。働き方改革をテーマとする講演では「DX(デジタルトランスフォーメーション)待ったなし」なんて熱弁をふるっていたものの、実は私自身はなかなか波に乗れていなかったのです。

営業やコンサルティングは「やはり対面でなければ」という気持ちがありました。いわゆる「ノンバーバルコミュニケーション(非言語コミュニケーション)」――表情やしぐさなど言葉以外の情報から相手の心情を読み取るコミュニケーションを大切にしてきたので、オンラインではそれがままならないのでは……と考えていました。

ところが、いざオンラインで面談を行ってみると、ほとんど支障がないことに気付いたのです。対面時と同じようにコミュニケーションが取れるし、信頼関係だってつくれる。

アポイント場所までの移動がない分、時間を効率的に使うことができ、業務の進捗もスムーズ。空いた時間にはヨガでリフレッシュしたり、家族とコミュニケーションを取ったりと、プライベートも充実しました。

「リモートでも十分できる」「むしろリモートのほうがいいかも」――。私が感じたのと同様に、多くの企業やビジネスパーソンが、リモートワークというスタイルにメリットを感じているようです。

私は多くのベンチャー企業と交流を持っていますが、すでにオフィスを解約した企業、解約を検討している企業が複数あります。

休業による売り上げ減や景気悪化を見越してのコスト削減が一番の目的ですが、リモートワーク体制が定着した結果、「オフィスは必ずしも必要ではない」と気付いたのです。

そこで、これまでのオフィスを出て、法人登記が可能なコワーキングスペースと契約。基本はリモートワークを前提として、週1回、あるいは必要なときだけ社員が集まる際にコワーキングスペースを活用するというスタイルに変える動きが出てきています。

オフィスを解約して固定費が削減された分、社員がリモートワークをしやすいようにカフェ利用チケットを配布したり、小規模なワークスペース複数と契約したりする企業もあります。

また、「週1回集まるだけなら、皆が心地よく過ごせる場所にしようか」と、湘南エリアなど自然に近いロケーションに拠点を構えることを検討するケースも見られます。

必ずしも出社を必要としないビジネス形態の企業や、リモートでも十分に機能する業務内容の場合、コロナが収束した後も、このようにリモートワークを基本としたワークスタイルが広がっていきそうです。

働き方の変化を機に、ライフスタイル全般を見直す人も

一方、働く個人に目を向けると、在宅でのリモートワークに対し、ストレスを感じる人と「快適」と感じる人に分かれています。「コロナ収束後、元の生活に戻るのは嫌だ」という声も少なくありません。

コロナ禍の中、社員の移動やミーティングを最小限に抑えるため、各社で業務の見直しが行われました。そのなかで不要な業務、特に不要な会議が浮き彫りになっています。それらに時間を割くこと、また通勤に時間をかけることに対し、「ムダ」という意識が強くなっているようです。

「出社しての会議は週1回程度で十分。必要なときだけ会社や取引先に出向き、あとはリモートで」――。そんな働き方を望む人が増えていると感じます。

なお、こうした意識の変化に伴い、自分の会社に対してシビアな目を向ける人もいるようです。「コロナの影響が広がるなか、他社に比べて対策が遅かった」「リモートでも差し支えない業務なのに、出社を命じられた」「生産性の低下を招いている要因に対し、改善しようとしない」――。このように、コロナを機に会社の姿勢や経営者の力量に不安感を抱き、それが転職を考えるきっかけになっている人も見受けられます。

コロナ収束後も完全に元通りとはならず、コロナ対策期間中の気付きや経験を踏まえ、さらなる働き方改革が進んでいくでしょう。それに柔軟に対応できる企業かどうかということが、転職を検討する人にとって企業選択の判断材料の一つとなりそうです。

「職住近接」から「リモートワーク前提の住まい」へ

これまでお話ししてきたとおり、今後も「在宅」「リモート」というワークスタイルを望む人が増えています。それに伴い、「住まい」のあり方を見直す動きが見られます。

企業に勤務するビジネスパーソンの場合、自宅は仕事をすることを想定した設計や配置がなされていません。ある人は「ダイニングで仕事をしているが、子供が近くで騒ぐので、オンラインミーティングを行うときにはトイレかバスルームに入る」のだとか。

また、ある独身の人は「家は寝に帰るだけで、食事も外食が中心なので、テーブルもいすもない。地べたに座って仕事をしていると、足腰が痛い」と嘆いていました。

非首都圏、Iターン、「出張+リモート」へ

そうした現状から、今後、リモートワークを中心とした働き方を望む人たちは「住環境を整えたい」と考えています。これまでは通勤時間削減のため、会社に近い都心で最低限のスペースで暮らしてきたけれど、郊外の広々とした家で、自分だけの書斎を持つ。ふらっと散歩に出たら、身近に豊かな自然がある――。そんな暮らしへの憧れが強くなっているようです。

そのようにライフスタイルを見つめ直すうち、「首都圏でなくてもいいのではないか」という考えに至り、地方で働くことを選択肢に加える人もいます。私が転職相談を受けるなかで、選択肢の一つとして地方企業の求人案件を紹介すると、「前向きに検討したい」という反応が返ってくることが以前よりも増えました。

例えば、Aさん(50代)の場合、セカンドキャリアとして「1社でフルタイム勤務より、複数の企業で自分の経験を生かしたい」と考え、転職活動を始めました。そこで、九州の企業をご紹介したところ、「転勤で地方都市に勤務したことがあるので、知らない土地に行くことに抵抗はない」とのこと。1カ月のうち、1週間~10日ほど九州で働き、それ以外は東京の企業で働く、という方向で話が進んでいます。

また、すでにIターン転職を果たした人もいます。歴史のある上場企業の経営企画部門で働いていたBさん(40代)は、コロナへの危機感が広がっていた時期、自社の対応の遅さにもどかしさを感じたといいます。以前にベンチャー企業での勤務経験もあったことから、「やはりスピード感があるベンチャーで働きたい」と、4月末での退職を決意。私からは、Bさんの希望に合う求人の選択肢として中国地方にあるベンチャー企業の経営幹部のポジションを紹介しました。

Bさんは東京出身ですが、地方へのIターンも視野に入れて、応募を決意。2回のオンライン面接を経て、緊急事態宣言が全国に拡大される前に現地を訪れて面接を受け、ゴールデンウイーク明けに入社しました。最初は単身赴任ですが、お子さんが高校を卒業後、奥様も引っ越してこられるそうです。

大学時代に地方で暮らした経験があるBさんは、もともと自然豊かな環境や人々の家族的なつながりに魅力を感じていたとのこと。コロナ禍が自分の望むライフスタイルを見つめ直す転機となり、いち早く実行に移したというわけです。

なお、地方の企業も、幹部クラスの人材採用にあたっては必ずしもフルタイム勤務を求めておらず、「出張+リモート」という働き方も受け入れています。

アフターコロナでは、首都圏へのこだわりを捨てた人と地方企業のマッチング事例がさらに増えるかもしれません。

※「次世代リーダーの転職学」は金曜掲載です。この連載は3人が交代で執筆します。

森本千賀子
morich代表取締役兼All Rounder Agent。リクルートグループで25年近くにわたりエグゼクティブ層中心の転職エージェントとして活躍。2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。最新刊『マンガでわかる 成功する転職』(池田書店)、『トップコンサルタントが教える 無敵の転職』(新星出版社)ほか、著書多数。

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