コロナ危機で求人増やす企業も 採用強気業種の共通点
エグゼクティブ層中心の転職エージェント 森本千賀子
求人市場の景色は、「超売り手市場」だった数カ月前とは様変わりしました。マクロでみると、人材採用マーケットは縮小。半面、活発に動いている求人、新たに出てきました。新型コロナウイルスの影響が長期化しそうで、景気の悪化が避けられない状況下で、人材採用は今、どのような動きを見せているのでしょうか。転職エージェントの立場から、「求人市場の現在」をお伝えします。
まず、以前と比較して落ち込みが大きいのが「第二新卒」層の中途採用。つまり、「経験の浅い若手をポテンシャル重視で採用する」という求人です。
ここ数年、新卒採用は売り手市場が続き、大手企業といえども新卒採用に苦戦してきました。新卒採用が充足しない分、新卒から1~3年程度の若手をターゲットとした大量採用が活発でしたが、今は多くの企業で採用がストップ。あるいは慎重になっています。この4月に入社したばかりの新卒社員の研修さえままならない状況ですから、無理もないでしょう。
特に外食や店舗型ビジネスなどは、休業期間がいつまで続くかわからず、採用どころではない状況。コストを削減するために、派遣社員・契約社員・パートタイマー・アルバイトといった非正規雇用社員が雇い止めとなったり、契約期間中に解雇となっていたり。学生の内定取り消しも出てきています。
一方、企業活動を維持するために、また、こんな時期だからこそ売り上げを伸ばすために必要な「即戦力人材」の採用については、継続している求人が多数あります。さらに、コロナの影響を受け、多忙になっている業種・企業からは急募求人も出てきています。実際、私の転職エージェント業務は、コロナ禍が深刻化した3月以降もフル稼働状態が続いています。
では、現在、どんな企業が採用を行っているのか。大きく分けて5つの特徴・傾向があるようですので、それぞれのパターンをご紹介しましょう。
・特徴1 「戦い方」を変えようとしている企業
「戦い方を変える」。この動きは、コロナ以前から見られました。人工知能(AI)・ロボットといった新たなテクノロジーの台頭により、パラダイムシフトの必要性に迫られている企業は多数あります。戦略の転換、ビジネスモデルの変革、既存事業とテクノロジーを融合させるデジタルトランスフォーメーション(DX)といった取り組みを行う企業では、マーケティングや経営企画といった人材を求めていました。これは中長期視点での課題であり、コロナ禍の中でも採用の手を緩められない、というわけです。
一方、コロナの影響に対応するため、戦い方を変えようとしている企業も。例えば、オフラインのみだった事業活動から転換し、オンラインを活用して売上拡大を目指すといったようにです。あるいは、売り上げの減少をカバーしようと、業務効率化を図る企業も。ここでも、マーケティング、企画、バックオフィスなどの分野でノウハウを持つ人材が求められています。資金調達や財務戦略を担う人材へのニーズも高まりそうです。
採用に積極的な企業を転職先候補に
・特徴2 コロナ禍の影響でニーズが高まっている企業
コロナの影響でニーズが高まり、売り上げを伸ばしている企業もあります。マスクや消毒液などのメーカー・販社はもちろん言わずもがなですが、例えば、企業のリモートワークやセミナーのオンライン化が拡大する中で「ウェビナー(=ウェブ+セミナー)」という言葉も生まれています。オンラインミーティングやオンラインセミナーに必要な周辺機器であるパソコン、ウェブカメラ、スピーカー、マイクなどは品薄状態が続いています。
誰もがユーチューバーやウェビナー講師として動画をアップすることに抵抗がなくなったことに伴い、画面上で肌を明るく見せる、いわゆる「女優ライト」と呼ばれるような照明器具なども売れているようです。このように需要が伸びている企業からは、営業、マーケティング、バックオフィスなど、幅広い職種の求人が出てきています。
なお、オンライン採用面接のシステムを開発・販売するIT(情報技術)企業には、対応しきれないほどの受注が殺到。営業やカスタマーサクセスなどの募集を急きょ強化したという例もあります。
このほか、学校の休校を背景に、ゲーム関連、オンライン学習塾、オンライン英語塾などもユーザー登録が増加。お店の休業や外出自粛により、電子商取引(EC)や物流関連の企業も業務が拡大しています。ライブ配信の動画を見ながら商品を購入できる「ライブコマース」といった市場も生まれつつあります。また、こうしたオンライン化のインフラを支える企業からのエンジニアニーズも、以前にも増して高まっており、売り手市場となっています。
コロナ禍は商機や新市場を広げた面も
・特徴3 今の状況を「ビジネスチャンス」ととらえる企業
景気の悪化が懸念される今だからこそ、ビジネスチャンスがあるととらえ、事業拡大を狙う企業もあります。業績が低迷すれば、多くの企業が「コスト削減」に取り組むでしょう。これまで社員や派遣社員が手がけていた業務、アウトソーシングしていた業務などをIT化によって効率化し、コストカットを図る動きが広がると見込まれます。
例えば、ソフトウエアの機能をインターネット経由で提供する「SaaS型」のクラウドサービスを手がける企業は、ユーザー拡大のチャンスととらえ、営業体制の強化に動いています。
コロナ感染拡大防止のため、各社ではリモートワークへの切り替えが進んでいます。これを機に「リモートワークでも十分やれる」「むしろ便利」となれば、コロナ終息後も定着する可能性が大です。リモートワークがさらに広がっていけば、SaaSなどのクラウドサービスは「攻め時」となるでしょう。
・特徴4 体力があり、「採用チャンス」と考えている企業
経済が危機的状況に陥る前に、タイミングよく資金調達を達成した企業もあります。そうした企業をはじめ、景気不安が長期化しても戦える体力を持っている企業では、「他社が採用どころではない今だからこそ、優秀な人材を獲得するチャンス」と考え、積極採用を行っています。採用ターゲットも、若手層からリーダー、マネジャー層まで多様です。
・特徴5 過去の教訓から、「採用を止めてはいけない」と考えている企業
2008年のリーマン・ショックに、11年の東日本大震災と、過去にも何度か経済危機が訪れました。その当時、景気の先行きを不安視して人材採用を控えた企業の中には、後々、組織構成にゆがみが生じたり、景気好転後に人材確保に苦労したりと、苦い思いをした企業が少なくありません。「明けない夜はない。中長期的に見て、人材採用を止めてはいけない」と、あえて採用を継続している企業もあります。
オンライン面接のみで内定 選考がスピードアップ
現在の求人市場の特徴として顕著なのが、「選考のスピードアップ」です。ソーシャルディスタンシングを守るため、企業は採用面接をオンライン上で行っています。一方、応募者側には在宅でリモートワークをしている人が多く、会社からずっと監視されているわけでもないため、業務の合間に1時間程度のオンライン面接を受けられる状況にあります。
通常、企業側と応募者側で面接日程をすり合わせる際、双方の都合がなかなか合わないことも多いのですが、今は面接日程の設定が非常にスムーズです。実際、求人の紹介・応募から1~2週間程度の間に2~3回のオンライン面接が組まれ、採用が決まるケースもあります。
ただ、これだけのスピードで進むのは、やはりベンチャー企業ならではでしょう。大手企業の場合、人事から各採用部門への接続や調整に手間取るなど、時間がかかってしまうことが多いようです。
コロナ禍の先行きはまだまだ予断を許さない状況。しかしながら、ご紹介したとおり、採用に意欲的な企業も存在するので、情報にアンテナを張っておいてはいかがでしょうか。
※「次世代リーダーの転職学」は金曜掲載です。この連載は3人が交代で執筆します。
morich代表取締役兼All Rounder Agent。リクルートグループで25年近くにわたりエグゼクティブ層中心の転職エージェントとして活躍。2012年、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演。最新刊『マンガでわかる 成功する転職』(池田書店)、『トップコンサルタントが教える 無敵の転職』(新星出版社)ほか、著書多数。
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