大失業時代の転職 中高年ホワイトカラーどう生き残る
ミドル世代専門の転職コンサルタント 黒田真行
新型コロナウイルスの感染拡大で企業の採用意欲は急低下しています。厚生労働省が発表した2月の有効求人倍率は1.45倍で前月比0.04ポイント下がり、2年11カ月ぶりの低水準でした。さらに求人減少が見込まれる今、中高年ホワイトカラーの生存戦略を改めて考えたいと思います。
新型コロナウイルスショックの深刻化が止まりません。しかし、コロナ問題以前の2019年10~12月期から国内総生産(GDP)は減速傾向が明らかになっていました。メガバンクをはじめとした優良企業の黒字リストラも19年の大きなトピックでした。ここに、いわゆるコロナショックが重なってきたことで、経済と産業そのものが根底から揺さぶられる状況です。いつまで続くのかまったく先が見えない状況ですが、問題が長期化すればするほど、産業として生き残るかどうかの選別速度が劇的に早まっていくことになります。
一般的には、規模が大きく、変化に時間がかかる企業ほど危険というのが定説です。医薬、医療、医療機器、食品など、ライフラインに近い業種以外は、さらに需要の変化の波を直撃する可能性が高い状況です。
これまで既得権益に阻まれていた、IT(情報技術)を活用した遠隔医療の実現が急速に検討されているように、あらゆる業界でIT化、自動化、無人化はこれまで以上の必然性をもって加速していく情勢です。
あなたがこれまでキャリアを築いてきた業界は、今後どう変化していくと思いますか。自分が関わってきた関係者だというバイアスを壊して、単純に事情をよく知らない一般人だと思って自分の業界を眺めたら、どんな未来が見えるでしょうか。そして現実の未来は、当事者としてみた場合と素人が見た場合のどちらの予想に近い結果になると思いますか。できるだけ自分の経験やスキルが置かれた状況を客観的に把握することに努めていただけたらと思います。
自分の価値を具体的に証明できるか
「ジョブ型」「メンバーシップ型」という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。簡単に説明すると以下のようになります。
・ジョブ型雇用
職務や勤務地が明確に規定され、専門の能力を活用して雇用契約を締結する働き方です。「職務」を中心にした契約で、企業が求める仕事が先にあり、その仕事に必要な人材を募集していく欠員募集が一般的です。ジョブディスクリプション(職務記述書)に仕事の内容が明記されたうえで契約が締結されているため、企業の都合で勝手に仕事を変えたり、異動を命じることができません。報酬は「仕事」が生み出す付加価値に連動して決まります。
・メンバーシップ型雇用
総合職の正社員として採用され、職務や勤務地などが限定されない雇用形態が一般的です。いわゆる「就社」型で、従業員は企業に命じられた仕事に取り組む責任を負っています。新卒一括採用、終身雇用を前提とし、人事異動などのジョブローテーションで様々な職場・業務を経験させることで、その企業で必要とされる能力を向上させていく雇用形態です。「人」を中心としていますが、組織への帰属性を重視した雇用形態ともいえます。異動して職務が変わっても給料は大きく変わらず、年功や役職などが基準となっているケースが多いです。
ジョブ型はいわゆる欧米で主力の働き方で、日本では圧倒的にメンバーシップ型で働く形態が一般的です。そのため皆さんの多くもこの総合職的な働き方をしてこられたのではないでしょうか。この場合、ある職務に特化したスペシャリストとしての自分をPRするのが難しくなる傾向があります。
雇用環境が激変し、「業務委託」「フリーランス」「代理店」など、企業にとっては必ずしも雇用に限らない労働力調達方法が多く生まれている中では、この「なんでも平均的にはできるが、何かの専門家ということではない」というキャリアは不利になってしまいます。
とはいえ、長い社会人生活の中で、特に大きな成功体験や、一番長くかかわったこと、一番貢献できたことなど、メリハリはあるはずなので、もし、キャリアチェンジを考えることになった時のために、過去の経験の中から、「自分の価値」を明確に説明できるような準備を始めておいていただきたいと思います。
ジョブハンティングという考え方
人材採用業界にはヘッドハンティングという分野があります。最も一般的な採用の手法はいわゆる文書募集というスタイルで、「求人票」や「求人広告」を、インターネットサイトや情報誌や折込チラシというメディアに掲載し、求職者が自主的にそれらの求人情報を検索して応募を行う形態です。
ヘッドハンティングは、企業側がぜひうちに来てほしいと考える人材を指名買いするような形で、転職活動すらしていない人にアプローチしていく形態です。企業の代理人として動くのがヘッドハンターです。
最近は求人サイトに登録してスカウトを受信する形態にも「ヘッドハンティング」という言葉が使われますが、これはあくまで転職サイトのオプションのひとつで、実際のヘッドハンティングとは異なります。
このヘッドハンティングの考え方を180度逆にしたものが「ジョブハンティング」です。
45歳を過ぎると、「行きたい会社ややりたい仕事はあるが、募集していない」「募集している企業はすべてアプローチしたが、書類選考すら通過しない」と嘆く人が急増します。応募している企業を選別しすぎているというケースも多いのですが、もう少しさかのぼると、「募集している企業は少ないのだから、募集していなくても自分を売り込みに行く」という能動的な選択があってもいいのではないかということです。
とはいえ、大企業に対してはこのアプローチは現実的にはなかなか難しいですが、中堅中小企業へのアプローチの選択肢としては十分にあり得ます。特にご自身が業界研究や企業研究を通じて知った企業の中に、経営者の創業の想いや独自の戦略や技術などでほれ込める要素のある会社があれば、直接その企業の経営者に「自分がどんな経験スキルを持っていて、貴社でどんな活躍ができそうか」ということを訴える手紙を書くことはできるはずです。
日々深刻化するコロナショックの影響を受けて、中高年の転職活動はかつてないほどに難しくなり始めています。
この壁を突破していくためには、自分自身の質的な優位性を売り込める領域がどこか、自分の過去の経験を振り返って、自分が持つ能力の中で、相対的に強みといえるものは何かを、あらためて掘り下げて考える必要があります。スキルや経験だけではなく、「仕事の進め方」や「周囲の人とのかかわり方」「かかわってきた顧客や市場の特性」など、定性的な観点も含めて、自らの売りになりそうな長所や強みをピックアップし、その強みが求められそうな企業、地域、業界、仕事を探していく能動的なアクションが不可欠になります。
「自分がやってきたことを生かしたい」とか「いまさら新しいことはできない」という思い込みやこだわりは、選択肢を狭めるだけです。あらゆる既成概念にしばられずに、フラットに強みを生かせる場所を探すことで、自分の力で可能性を押し広げていただきたいと思います。
※「次世代リーダーの転職学」は金曜掲載です。この連載は3人が交代で執筆します。
ルーセントドアーズ代表取締役。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。2019年、中高年のキャリア相談プラットフォーム「Can Will」開設。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』、ほか。「Career Release40」 http://lucentdoors.co.jp/cr40/ 「Can Will」 https://canwill.jp/