転職で試される「自分の値段」 働く目的は?まず自問
ミドル世代専門の転職コンサルタント 黒田真行
新型コロナウイルスの影響で、それまでは「人手不足」が課題といわれていた求人市場も3月後半から、引き合いがピタリと止まり、人材サービス各社も第1四半期の業績予測を大幅に下方修正するもようです。6月以降には徐々に「ウィズ・コロナ」の時代へ移っていく見込みで、私たちに求められる働き方も大きく変わる可能性があります。求人数が激減する状況下で、労働市場における自分の市場価値をどう高めていけばいいのでしょうか。
3月下旬以降、コロナ・ショックが直撃して、一気に転職市場が混沌としてきました。転職に関する相談も、直接会う形式から、インターネットや電話を介してのものに切り替わりました。
近ごろの相談内容で多いのは、「今、転職すべきかどうか?」というタイミングに関することや、「コロナ・ショック後に転職市場がどう変わるのか?」といったマクロな動向、「景況感や企業を取り巻く環境が激変するなかで、自分自身はどう市場価値を高めていけばいいのか?」という普遍的なテーマです。
特に自分自身の付加価値を高め、市場で必要とされる度合いを高めたいという場合、資格や学位の取得を目指そうとするケースが多くあります。資格取得や知識武装は、目指しているキャリアを実現するために必要なものであれば有効ですが、方向性が決まっていない人が「とりあえずは資格取得しておこう」というケースは、それにかかるコストや労力から考えると、必ずしも割に合う結果になるとは限りません。転職や異動を重ねて、経験の幅を広げるといった考え方もありますが、どちらかというと経験の深さを磨いて、プロフェッショナル性を高めていったほうがよい結果につながりやすいと思います。
市場価値を高めるには、資格や知識を増やしていく方向よりも、むしろ、自分の仕事人生を自分でかじ取りできているかどうかということのほうが重要かもしれません。
・上司と合わないから、もうこの会社ではやっていけない
・本意でない仕事への異動を命じられた
キャリアの相談に来る人の多くは、自分が起点ではなく、ここに挙げた3例のように、会社や環境が起点でアクションを起こさざるを得なくなった人たちです。いわゆる受動的なアクションです。
逆に、キャリア形成に満足している人たちに共通するのは、自分のなかにものさしがあることです。人からの影響で決めたり動いたりするのではなく、自分のために自分で立てた目標に沿って道をひらいていくという態度です。仕事とは「誰かに与えられるもの」ではなく、「自らつくり出すもの」と考えられるかどうかの違いが、その根底にあるのではないでしょうか。
これまでの人生から自分の価値観を知る方法
何をもって市場価値とするか、の定義は重要です。年収の金額が高いことが市場価値だと考える人もいれば、権限の大きさや部下の数が市場価値を表すと考える人もいます。市場での価値というからには、自分だけではなく、誰かがその価値を認めなければ成立しません。
一つの考え方として、選択肢のバリエーションを多く持てる人は市場価値が高いといえるかもしれません。結果的に選ばれるだけでなく、自分が仕事を選ぶ優位性も担保できます。
そして、いくつかの選択肢の中から、何を選ぶかという際に、自分の価値観が登場します。自分自身が働くうえでどんなことを大事にしたいと考えているのか、それを知ることによって、お金や役職以外の環境も含めて、その人の全人格的な仕事選びが実現できます。
仕事への価値観には、大きく分けて、仕事内容そのものか、会社・職場かという分岐があります。仕事内容であれば、その仕事が生み出す意義や目的がどんなものか、その仕事の難易度や価値はどうか、その仕事の進め方にどんな喜びがあるのかといった観点があります。
また、会社・職場という観点であれば、どんな性質・価値観を持った仲間がいるのか、どんな風土や歴史を持った組織なのか、そこにいることで自分が得られる学びはどんなものなのかという視点もあるかもしれません。
これらを自分なりに整理してみることを通して、「どこに行く」ではなく、「何をするか。そして誰と一緒にそれをやるのか?」という本質的な問いに、自分らしい答えを選択することが可能になります。
参考までに転職先探しの観点として、「自分に合った」という言葉を、それぞれに掛け算する形で、自分の意識を整理するのに役立つキーワードを以下に挙げておきます。自分はどのケースが近いかを考えてみてはいかがでしょう。
「自分に合った」×「会社を探す」
「自分に合った」×「仕事を見つける」
「自分に合った」×「一緒に働く人を選ぶ」
「自分に合った」×「お金やポストをとりに行く」
「自分に合った」×「成長する機会を手に入れる」
具体的に明日から変えるべきことを決める
キャリアが豊富な人の転職は、基本的に同業種かつ同職種間で決まることが多いのが現実です。業界や職種によって差はありますが、40歳以上の転職で言えば、業種で7割、職種で7割、結果的に半数の人が同じ業界かつ同じ職種での転職をするイメージです。
求職者からすると、「せっかく長年磨いてきた経験を生かしたい」と思うのは当然です。雇用する企業も「どうせなら業界をよく知っている即戦力に来てもらいたい」と考えるので、このような結果になりやすいわけです。
ただ、2000年代以降の日本では、主要産業の交代がじわじわと進んでいる状況です。特に自分自身があと何年仕事をしていくのかという残り時間を考えた際に、リタイアする時期まで、希望する業界で希望する働き方ができるのか、ということはしっかり見つめておく必要があります。
市場価値を高く維持していくためには、異業種でのチャレンジを視野に入れておくのも重要な要素です。もし、自らが経験してきた業種は時代の栄枯盛衰とは関係なく、今後も人材需要が見込まれるという場合でも、複合的なキャリアを選べる可能性があるのであれば、異業種で経験を積むことで貴重な財産を積むという考え方もあります。
変化の激しい時代には、単色ではなく多色のキャリア、具体的には、たとえば営業だけをやってきた人よりも、営業に加えて経理や財務もわかる人、というように2本か3本の経験の柱を持っている人のほうが評価を受けやすい傾向があります。また、一つの業種で長くやってきた人は、その業種には比較的「いつでも戻りやすい」はずです。もし、今までやってきたことと離れた経験を積めるチャンスがあるのであれば、ぜひその機会を生かしていただきたいと思います。
最後に、変化の激しい時代、逆境に負けない人に共通する行動指針を共有させていただきます。もし判断に迷うことがあれば参考にしてください。
・悲観的に備え、楽観的に動く
・捨てるものと捨てる順番を決める
・既存のルールに縛られずに例外的に動く
・見たくない現実に意識的に目を向ける
・具体的なことを重視する
・他人の意見に振り回されない
・他人の視線に気を使わない
・目的には常に最短距離で進む
※「次世代リーダーの転職学」は金曜掲載です。この連載は3人が交代で執筆します。
ルーセントドアーズ代表取締役。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。2019年、中高年のキャリア相談プラットフォーム「Can Will」開設。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』、ほか。「Career Release40」 http://lucentdoors.co.jp/cr40/ 「Can Will」 https://canwill.jp/