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株式市場の主役、ヒトから機械に 運用資金1800兆円

無人市場(1)

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米未来学者レイ・カーツワイル氏は2045年にAI(人工知能)がヒトの知能を超えるシンギュラリティー(技術的特異点)が到来すると予測した。その波がいち早く押し寄せたのが金融・証券市場だ。機械やAIが株価の方向性を決め、値動きを増幅し、売買する。デジタル技術の発達でヒトの存在感が急速に薄れる「無人市場」の実像を探る。

世界中で株式市場が乱高下した年末年始。シンガポールの高層ビルで山田岳樹氏は投資家から殺到する上場投資信託(ETF)のオーダーをコンピューター上で淡々とさばいていた。山田氏はオランダに本社がある高速取引業者(HFT)、フロー・トレーダーズのトレーダーを務める。

同社は金融庁にも登録する世界の主要HFTの1社だ。400人弱の社員の4割ほどがテクノロジー関連。数学やコンピューターを専攻した20代の若者が多い。「金融機関というよりIT(情報技術)企業に近いかもしれない」(山田氏)という。

世界の6500銘柄超の上場投資信託(ETF)を中心に、投資家を相手にした「マーケットメーク」と呼ばれる売買で収益を上げる。いくらで売り買いするかの計算から、その価格の投資家への提示、取引の実行まですべてをシステムで完結。「機械でなければとてもできない」(山田氏)ビジネスだ。

フロー社は18年、1~9月だけで6300億ユーロ(約78兆円)の売買を手掛けた。世界のETF市場に占める売買代金シェアは4%近くに達する。

投資家とのETFの売買で得られるわずかな値ざやを積み重ね、18年1~9月期に1億6600万ユーロ(約210億円)のEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)を稼いだ。年間では最高益を更新する勢いだ。

同社が手掛けるマーケットメーク業務はかつて証券会社の役割だった。同社のようなシステムを駆使した高速取引業者が人手に頼った取引から急速に主役の座を奪い取った。

マーケットに流動性をもたらしているのが、HFTのような機械なら、新たに株価の方向性を決める存在に浮上しているのもAIファンドなど機械だ。

米国では求人者数やホテルの予約件数などこれまで投資情報にならなかった「オルタナティブ・データ」をAI(人工知能)が分析し、投資に活用する動きが広がる。米データ調査会社、シンクナムは18年11月、米ゼネラル・モーターズ(GM)が工場閉鎖などの構造改革案を公表する前に同社の求人者数が8割減っていたとの調査を公表した。GM株は構造改革案を発表後に急騰した。AIファンドは求人者数など新しいデータを事前に入手、分析し、株価の方向性変化を狙う。

こうした株価の変化を増幅させているのが、モメンタム型ファンドや商品投資顧問(CTA)などトレンドフォロワーと呼ばれる「順張り」勢だ。

米国で急成長している上場投資信託(ETF)がある。「iシェアーズ エッジMSCI米国モメンタム・ファンド」。2018年末時点の純資産は約79億ドル(約8500億円)と5年前と比べて40倍に膨らんだ。モメンタム(勢い)の名前の通り、株価の勢いに自動で追随し、銘柄を入れ替えるETFだ。10日時点の組み入れ銘柄トップは時価総額世界トップとなったアマゾン・ドット・コム。QUICK・ファクトセットによると、同ETFには18年に約32億ドルの資金が流入した。

こうした投資手法は「モメンタム運用」と呼ばれ、かつては数理分析を駆使するヘッジファンドなどの得意分野だった。ETFとなったことで、誰でも投資可能になり規模が拡大。急落と急上昇を繰り返した年末年始の株式相場のように株価の振幅を大きくする要因と指摘される。

ボストン・コンサルティングやヘッジファンド・リサーチによると、ヒトが指図せずに機械的に運用されている資金は、17年に約17兆ドル(約1800兆円)となった。世界の運用総額に占めるシェアは約21%となる。現在は2000兆円規模に達した可能性がある。

テクノロジーの発展で市場の無人化は急速に進む。一方、AIはヒトによる分析や検証が不可能なブラックボックス化の問題をはらむ。18年12月26日の米株式相場は1000ドルを超える史上最大の上昇幅を記録し、年明け3日には再び急落した。無人市場ではこうした乱高下が「ニューノーマル」なのかもしれない。

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