胸をほぐす筋膜マッサージ 肩こり解消で効率も上がる
冬の肩こり完全撃退(2)
肩こりは脳への血流を滞らせ、仕事のやる気や能率にも影響
「どうも仕事に集中できなくなってきた」
「やる気が起きず、ぼーっとしている時間が長くなった」
仕事などの能率がだんだん悪くなってきたり、やる気が出なくなってきたと感じたりする人は、実は肩こりを抱えていることが多いという。
「肩こりを自覚している人であれば、こりや痛みが仕事中も気になって効率が落ちるものです。一方、自覚がなかったとしても、頻繁に両腕を伸ばす、回すといった動作や、無意識に肩をもむなどの動作があればこりがあると思われます。どちらの人も、肩や首をすくめたままのデスクワークなどによって、その姿勢がこりを強め、さらに頸動脈にも圧をかけるために、脳への血流が悪くなります。その結果、気持ちをコントロールする力も低下しやすくなると考えられます」(I.P.F.研究所主宰の磯崎文雄さん)
磯崎さんのもとには、肩こりの不調を訴える患者がたくさん訪れるが、原因不明の視覚や聴覚のトラブル、めまい、手のしびれ、統合失調症、うつ病といった疾患を併発していることが多いという。しかも、こりのひどさに比例して、症状も重い傾向があると指摘する。
「肩こりと疾患のどちらが先に起こったかは定かではありませんが、併発しているケースは8割を超えています。ですが、施術によって肩こりが解消していくのに合わせて、西洋医学では原因不明と診断された疾患に改善が見られたり、薬の服用量が減ってきたりする患者さんがほとんどです」(磯崎さん)
肩こりは疾患や心のトラブルにも深く関連する1つのサイン
肩こりは今や「国民病」とも呼べる不調だ。それにとどまらず、「そのほかの疾患や心のトラブルにも深く関連している1つのサインとして意識しておくといい」と磯崎さんは言う。
「人間には、良くも悪くも置かれた状況に慣れてしまう適応能力が備わっています。長年の習慣が蓄積すると、体の中でよく使う筋肉とあまり使わない筋肉の偏りが出てくる。動きが不足したところでは、筋肉と筋膜、さらに筋膜同士でも癒着が生じやすくなり、それによって引き起こされる不調の代表例が肩こりなのです。こりのある患部を強く揉むだけの対症療法では、いつまでも解消しないことは前回の記事(「現代型の肩こりは深部にあり 筋膜マッサージで解消」) でも申し上げた通り。仕事の効率や気持ちを高めていくためにも、たかが肩こりと軽視せず、正しいケアを行うことが大切なのです」(磯崎さん)
そこで今回は、体の背面をほぐす磯崎式「筋膜マッサージ」に続いて、前面(胸側)の筋膜にアプローチするメソッドを2つ紹介しよう。
筋肉はそもそも、骨格を形成する206個の骨を、およそ400に分類される筋肉で支えたり、動かしたりする役割を有している。また、筋肉は、互いに違う働きを担う『主導筋』と『拮抗筋』がセットになって存在する例が多いように、相互に深く連動して影響を与え合っている。
「こりの改善を考える上では、筋肉相互の関係をしっかりと踏まえておく必要があります。例えば、こりが出るのは背中側の筋肉であっても、その原因は胸側にもある。つまり、体の前と後ろの両面をほぐし、どちらにおいても筋膜と癒着していない筋肉を取り戻すことが大切なのです」(磯崎さん)
鎖骨の上下のくぼみを指で押さえて癒着を取る
1.鎖骨押さえ回しエクササイズ
前回紹介した「肩甲骨押さえ回しマッサージ」をアレンジしたメソッド。鎖骨の上と下を指で押さえながら、腕を回す。
「鎖骨のまわりには、首や肩から伸びる小さな筋肉が何層にも重なっていて、筋膜の癒着が起きやすい」(磯崎さん)。鎖骨の上下のくぼみを押さえるようにして、腕をぐるぐる大きく回す。指先で押さえる場所を左右に少しずつずらしながら腕を回すと効果的。鎖骨の上側をほぐしたら、次に下側も同様に行う。ビリビリとしびれる刺激があれば、効いている証拠だ。
マッサージを終えると、肩の周辺がスッキリとほぐれているはずだ。かなり肩がこっていたことに気づくだろう。
肋骨の内側に指をめりこませながら深い呼吸を繰り返す
2.横隔膜ゆるめマッサージ
横隔膜は呼吸にかかわる器官で、息を吸うと下がり、吐くと上がる動きを繰り返す。ところが、背中を丸めがちな姿勢を続ける生活が長くなると、肋骨の間や胸の周りにある筋肉が筋膜と癒着することが多い。
すると、体の前側が縮まりがちになり、呼吸も浅くなるために、横隔膜がしっかり動かせなくなる。そこで、肋骨の一番下部(右の写真参照)から指を内側にめりこませるようにしてつかみ、深い呼吸を繰り返す。指を支点として筋肉全体にテンションがかかるため、大きな呼吸とともに腹部や胸周りにある筋肉と筋膜の癒着がほぐせる。
「深い呼吸ができる理想的な体になれば、姿勢も整い、それが肩こりの解消にもつながります。呼吸を深くするコツは、まず、息をしっかり吐き切ること。『これ以上、吐けない…』というところまで息を吐く習慣をつけていけば、それに呼応して吸う力もだんだん上げていけます」(磯崎さん)。
はじめは指を肋骨下部の内側に押し込めず、やや痛みを感じるかもしれない。だが、深い呼吸を繰り返し、腹部や肋間(ろっかん)にある筋膜がほぐれてくると、指先も深く入るようになるはず。横隔膜がきちんと上げ下げできるようになってきた証拠だ。
*次回は、肩こりを徹底的に撃退するための「生活習慣」について取り上げます。
(ライター 二村高史/写真 村田わかな/モデル 増田雄一=HEADS)
この人に聞きました
I.P.F.研究所主宰。1951年、神奈川県生まれ。筋膜研究家。I.P.F.研究所(磯崎健康研究所)主宰、ainamana(アイナマナ)代表。筋膜マッサージ・ビューティー筋膜マッサージ、磯崎式健康体操創始者。ヨーガ研究・指導家。日本手技療法学会会員、全日本鍼灸マッサージ師会会員。著者に「筋膜マッサージでつらい腰痛が消えた!」(青春出版社) 、『咀嚼筋(そしゃくきん)マッサージ』(実業之日本社)など。
[日経Gooday 2015年11月17日付記事を再構成]
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