現代型の肩こりは深部にあり 筋膜マッサージで解消
冬の肩こり完全撃退(1)
昔ながらの「もむ」方法では肩こりは治りにくい
ひどくなると、頭痛や吐き気なども引き起こす肩こり。つらい肩こりを少しでも和らげようと、マッサージやカイロプラクティックなどのお世話になっている人は多いだろう。
ところが、そうした施術を受けて一時的に肩こりが緩和しても、その効果はなかなか長続きしないもの。すぐに元に戻ってしまうどころか、場合によっては、いわゆる「もみ返し」などによって、それまでよりも状態が悪くなってしまうことさえある。
「便利で近代的な生活の中で生じた肩こりは、かつてとは違い、昔ながらの強くもむといった施術が効かなくなっている。その大きな理由は、現代の肩こりが肩や首の周りにある小さな筋肉をはじめとして、特に『筋膜』などにダメージが蓄積しているからだと考えています」
こう指摘するのは、I.P.F.研究所主宰の磯崎文雄さんだ。昔と今とでは、肩こりの質が違う……。これは、一体どういうことなのだろうか。
パソコン、スマホを酷使する生活が"現代型肩こり"を生む
磯崎さんによれば、昔の肩こりは仕事に伴う大がかりな手作業、いわば肉体労働的に大きな筋肉を使ったことで起きていた。対して、現代の場合は、パソコンやスマートフォンなどの操作を伴う、小さな筋肉を酷使し続けることに原因があるという。
デスクワークが中心で同じ姿勢を長時間続けることで、緊張した状態を体に与え続けることになる。たしかに電話1本かけるにしても、腕を伸ばしてボタンを指で押す固定電話を使うより、小さなスマホの画面を指先だけで操作する回数の方が、今では多くなっている。こうした細かく小さな動きの集積が、肩の深部にある筋肉を硬くする"現代型肩こり"を生んでいたのだ。
「ほんの10年、20年前までは、肩の表層にある大きな筋肉群を強くほぐすことでこりは解消できた。ところが深層部にある小さい筋肉群にこりができると、昔ながらの施術ではそこまで刺激が届かず、慢性的なしつこいこりが続いていしまうのです」
実際に、こりや痛みを感じる肩周りを指先で強く押してみると、その深部にゴリゴリとした硬い塊に当たることがある。これこそがこりや痛みを発しているわけだが、ちょっとやそっとのマッサージではほぐれにくく、対処療法で解消したとしても、再び同じところに塊ができることも多い。
こりの元凶は筋肉の動きを鈍らせる「筋膜」との癒着
こうした現代型肩こりを解消するためのキーワードが、「筋膜」にあると磯崎さんは言う。
筋膜とは、筋肉を覆っている薄い膜のこと。こりやすい首や肩の部分には、大小様々な筋肉が重なりあっていて、その一つ一つが筋膜で覆われ、何層にもなっている。スライスした生ハムと生ハムの間に薄いビニールを挟んで何層にも重ねた「ミルフィーユ」のような状態をイメージするといいだろう。生ハムが筋肉で、ビニールが筋膜に当たる。
「正常な体であれば、筋肉と筋膜は互いにスライドして自由に動くことができる。ところが、同じ姿勢や細かい作業を長時間続けたり、繰り返したりすることで、筋膜が筋肉に癒着してしまうのです。さらに筋膜同士で癒着していることもある。すると、筋肉がうまく動かせなくなってくる。こうして周囲にある血管の弾力性が落ち(動きが鈍り)、血流が滞ると、そこに発痛物質を含む老廃物が蓄積していく。これが筋肉の深部に起こることで、こりをどんどんしつこくする悪循環を生むのです」
このように、我々が抱えている現代型肩こりは、今のライフスタイルからも分かるように、とても避けられそうにない厄介な不調にもなっているのだ。
そこで、筋膜と筋肉の癒着を効果的に取り除き、深層のこりを取る磯崎さん独自のメソッド「筋膜マッサージ」を紹介しよう。まずは、体の背部をほぐす3つのメソッドから。
いずれもこった部分とその周囲を指で押さえたまま、腕を大きく回すのがポイント。指で押さえたところが支点となり、腕の動きによって癒着した筋膜が筋肉からはがれていく仕組みだ。オフィスで仕事をしている間でも、わずか1分あればできる簡単なものもある。
「指で支点を作って筋肉を動かすだけで、癒着した筋肉と筋膜が簡単にはがれることがわかっています。痛気持ちいいぐらいの強さを感じる程度で繰り返してください」
基本のマッサージで深部のこりにアプローチ
1.肩甲骨押さえ回しマッサージ
「肩のこりを腕だけ回して解消する人は多いですが、それでは癒着した筋膜と筋肉が固まったまま動くだけ。そこで、こった部分とその周辺を含めたエリアを指先で押さえ、腕を大きく回すのがポイント」。癒着した部分が少しずつはがれてくると、腕も大きく回るようになり、肩の周りがポカポカしはじめ、こりが解消していくのが実感できるはず。
こりがひどいと、最初のうちは腕がスムーズに回せないかもしれない。そのときは、腕を前後に振ることからはじめるといい。徐々に動きがスムーズになっていくはずだ。
頭を前後に倒して首から肩へのこりにアアプローチ
2.うなずき首マッサージ
肩の筋肉がほぐれたら、次は首の周りをほぐそう。ここでは首の前側の付け根から耳のうしろにかけて走る胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)という太い筋肉にアプローチ。
胸鎖乳突筋(右の写真参照)にあるこった部分を、人差し指から薬指までの3本で強く押さえる。押さえるのは筋肉の上。特に耳の裏側にある突起した骨(乳様突起・にゅうようとっき)の下のくぼんだ場所を重点的にほぐそう。
「胸鎖乳突筋をほぐすと、肩や首のこりはもとより、頸動脈にかかる圧も和らげるために脳への血流を上げます。これが同時に緊張状態を続ける自律神経にも働きかける。首の緊張やこりが取れることでリラックス効果も高められます」。
ボールを支点にして深部をほぐす
3.肩甲骨ボールマッサージ
さらに、肩甲骨と背骨との間にある筋肉を深く強く刺激したいという人に向けて、テニスボールなどを使ってほぐすマッサージを紹介しよう。「ボールに体の重みがかかることで、指先だけでは届きにくいより深層分の筋肉まで刺激が届き、筋膜の癒着をとることができる。頑固な肩こりに悩んでいる人に、特にお薦め」と磯崎さん。バスタオルとテニスボールを1つ用意すればOK。バスタオルの代わりにクッションや枕、ボールは野球の軟球で代用してもいい。
これも試そう!~ブリッジマッサージ
肩にテニスボールを当てたまま、両足でブリッジの態勢を作る。こった部位にダイレクトに力が加わり、より深層にアプローチできる。余力があれば、この態勢のまま、先に紹介した腕を回す動きを加えてみよう。
いかがだろうか。少しやっただけでもこりがスッキリ取れ、体が汗ばんだり、肩の周りがポカポカしてきたりした人も多いはずだ。まずはここで紹介したマッサージを1週間続けてみてほしい。今回は、体の裏側を刺激するマッサージを紹介した。次回は、体の表側からこりを撃退する磯崎式マッサージの第2弾をご紹介しよう。
(ライター 二村高史/写真 村田わかな/モデル 増田雄一=HEADS)
この人に聞きました
I.P.F.研究所主宰。1951年、神奈川県生まれ。筋膜研究家。I.P.F.研究所(磯崎健康研究所)主宰、ainamana(アイナマナ)代表。筋膜マッサージ・ビューティー筋膜マッサージ、磯崎式健康体操創始者。ヨーガ研究・指導家。日本手技療法学会会員、全日本鍼灸マッサージ師会会員。著者に「筋膜マッサージでつらい腰痛が消えた!」(青春出版社)、『咀嚼筋(そしゃくきん)マッサージ』(実業之日本社)など。
[日経Gooday 2015年11月16日付記事を再構成]
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