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ゲーム開発者の平均年収、既婚率は 初の実態調査

ゲームジャーナリスト 新 清士

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財団法人デジタルコンテンツ協会が、「デジタルコンテンツ制作の先端技術応用に関する調査研究委員会報告書」の平成21年度版を3月中に発表する。今回の報告書には、日本のゲーム開発者の就労実態を初めて本格的に調査した「ゲーム開発者の就労意識とキャリア形成の課題」という研究が盛り込まれた。藤原正仁氏(東京大学大学院情報学環研究員)がまとめたデータから見えてくる日本のゲーム開発者の実像とは。

平均年収は518万4995円

調査によると、日本のゲーム開発者の平均像は、年齢33.79歳、年収518万4995円、勤続年数6.59年。給与の中央値は「400万円以上500万円未満」で、年齢構成は30歳代が52.8%を占めている。いずれも現場の開発者の実感にほぼ近い数字といえるのではないか。

これを国税庁の「平成20年分民間給与実態統計調査」と比較すると、ゲーム業界の年収は平均(約429万円)より約89万円高く、年齢も約11歳若い。一方で、平均勤続年数は約5年短くなっている。

職種別の年収では、プロデューサーが最も高く692万5000円。ディレクターが563万6279円、サウンドが559万625円、ネットワークエンジニアが522万5000円、プログラマーが464万1390円、グラフィッカーが423万8588円、プランナーが409万6340円、デバッカーが258万3333円という順になっている。

日本ではプロデューサー、米国ではプログラマーが高い

今回の調査が興味深いのは、米United Business Mediaが、毎年行っている米国の給与調査と比較しやすい点だ。最新の「2009 Fall」によると、米国の平均年収はプログラマーが6万4500ドルと最も高く、サウンドが5万3269ドル、グラフィッカーが4万7692ドル、ゲームデザイナー(日本ではプランナーと呼ばれることが多い)が4万5896ドル、プロデューサーが4万5279ドル、品質管理(デバッガーなどを含む)が2万7894ドルという順になっている。米国は日本と違い、プログラマーの給与水準が一番高い。

これについて藤原氏は、米国では職務の専門性が高いほど給与水準が高くなる傾向がある一方、「日本のプロデューサーは平均勤続年数が高いことが影響している」と分析している。なお、米国の給与水準は総じて日本より高いが、社会保険制度が大きく違うため単純比較は難しいことに留意する必要がある。

転職経験は、「ある」という人が59.1%を占め、転職が日常茶飯事であることを裏付けている。企業規模別でみると、大企業では転職経験者が34.4%であるのに対して、中小企業では65.6%と跳ね上がっている。

転職経験者のうち前職がゲーム産業だった人は66%と多く、ゲーム産業内で開発者がぐるぐると動いていることがわかる。藤原氏は、「(結果的に)人材育成が行われていることが示唆される」としている。

繁忙期が慢性化している日本

日本のゲーム産業の特徴としてしばしば語られてきたのが労働時間の長さだ。今回の調査でそれを初めて定量的に比較できるようになった。

国際ゲーム開発者協会(IGDA)は04年に、米国の開発者の労働・生活を中心に「生活の質白書(Quality of Life White Paper)」をまとめている。両者を比較すると、週の労働時間が55時間以上と応えた人の比率は日本が米国より7.6ポイント高くなっている。

日米の差が特に顕著なのは、「繁忙期」と呼ばれる追い込みの期間だ。日本では、繁忙期の長さが「2ヶ月以上」と答えた人が43.6%に達しているのに対して、米国は「1~2週間未満」という回答が29.1%と最も多い。米国では短期間に集中した労働を要求される傾向がある一方、日本は繁忙期が慢性化していることが見てとれる。

既婚者は30代で47%、40代で67%

調査でもう一つ目を引いたのが、既婚率の低さだ。既婚者は全体の40.7%で、年齢別に既婚率を見ると20代が9%、30代が47.8%、40代が67.9%、50代が62.5%となっている。05年の国勢調査の結果と比べると、各年代とも大幅に低い。子供があると答えた人も20.3%(男性21.6%、女性11.5%)と低く、藤原氏は「とりわけ女性が子供を育てながら働くことが困難な状況が示唆される」と指摘している。

現場を実際に見ても、ゲーム開発者はなかなか結婚できないという印象がある。繁忙期が常態化して長時間労働が続き、生活時間も一般企業とはズレがある。男性の比率が87.2%という調査結果からもわかるとおり男性中心の産業であり、開発の現場はチーム以外のスタッフと出会う機会もそれほど多くない。それが結果的に結婚を難しくしているのだろうと推測される。

満足度は高いが、「生活の質」向上が課題

では、ゲーム開発者はこのような労働実態をどう受け止めているのだろうか。調査では、今の仕事に「満足」という人が46.8%と多く、「生涯、ゲーム産業で働く」と答えた人が59.7%に達している。労働実態はともあれ、クリエーティブな産業として開発者の満足度は高いことがうかがえる。

一方で、いくつかの課題も浮かび上がった。1つは、キャリア形成の方法が見えにくい点だ。藤原氏は、「転職者が多いという事実から、多くのゲーム開発者は、発言オプションを選択せずに、組織を離脱してしまっているのではなかろうか」「多くの開発者が仕事に満足を感じているが、勤続年数の短さや平均年齢の若さをみると、将来的なキャリアを描けないのが実情であろう」としている。

また、藤原氏は「長期労働時間が今後、労務問題として浮かび上がってくる」と予測している。これらは、開発者の主力が40歳代に入り始める今後に、より切実な課題になってくるとみられ、ゲーム産業全体で開発者の「生活の質」を高める必要に迫られている。

この報告書は、2010年3月中にデジタルコンテンツ協会(http://www.dcaj.org/)のサイトで、無償でダウンロードできるPDF形式で公表されることが予定されている。

[IT PLUS 2010年3月19日掲載]

〈筆者プロフィル〉 新清士(しん・きよし) 1970年生まれ。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表、立命館大学映像学部非常勤講師、日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)理事なども務める。

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