フェラーリ・テスタロッサ
フェラーリ・テスタロッサは、70年代後半のスーパーカーブームの頃、カウンタックと人気を二分した512BBの後継車として1984年に登場しました。
4.9リッターの180度V12気筒エンジンからは380馬力という当時としては驚異的な高出力を誇り、やっと排ガス規制をモノにした…という時代だけに、その高性能ぶりは、その価格と相まって、正に他を圧倒する存在でした。
因みに同時代、コルベットが5.7リッターV8で205馬力でした。
特に最大のライバルのランボルギーニは、相変わらず旧態依然としたカウンタックであったことからも、正に一人勝ちという印象で、バブル時代と重なったこともあり、日本でも結構見掛けたものです。
70年代にオイルショックと排ガス規制で停滞したスーパーカーの市場に於いて、久々の意欲的なニューモデルであったことも、一層その存在感を引き立てることになったのです。
今改めて見ると、このスタイル、素晴らしいですね…。とても36年前の車には見えませんし、知らない人が見れば、現行モデルに見えても不思議ではありません。
リトラクタブルヘッドライトも、実にいい雰囲気ですし、サイドのエアダクト、そしてスパッと切り落としたリアビューといい、全ての流れに一貫性があり、全く無駄なラインというものが存在しません。
日本初のミッドシップカー、トヨタMR2をテレビ神奈川の「新車情報」で取り上げた時、三本和彦先生がMR2のサイドのエアダクトを「簡易公衆トイレの換気口」と酷評していますが、その時比較に出したのが、このテスタロッサのサイドだったのです。
現在、バンクーバーでは非常によくフェラーリを始めとしたスーパーカーを見掛けますが、現在のフェラーリですらデザインに関してはコレの足元にも及びませんし、現在他社も含めてコレより美しいと思えるスーパーカーは全く存在しません。
そんな世界有数の裕福な街バンクーバーですが、見かけるスーパーカーと言えば現行モデルだけです。
そして旧型のスーパーカーとなると、コレどころか、空冷ポルシェ911ですら全く見掛けません。
バンクーバーの富裕層は、こういう古い車を省みることは無く、興味があるのは現行モデルだけ、ポルシェならカイエンしか売れない…みたいな世界なのです。
バブル時代を知る私から見ると、90年代のバンクーバーでこの手の車を目にすることは、殆ど有りませんでした。日本の方が遥かに目にしたものです。
本来ソレが普通の姿なのでしょうし、逆に今のバンクーバーの状況、そしてバブルの頃の日本の状況こそが異常だというのが正しいと思います。
元々非常に高価な車ですし、タイミングベルトの交換は、エンジンを降ろしての作業になるので、維持費も馬鹿になりません。
バンクーバーの富裕層にとってのスーパーカーは、高いから買う、車のことはよく知らない、飽きれば売る…と正にこんな感じで、こういうクラシックを趣味にする様になるには、もう少し時間がかかるかも知れません。
80年代後半のバブル時代に日本では、家の所有が夢のような話になったことから、せめて好きな車を…という具合に車だけ高級車…という人が増えた時代でした。ポルシェ911に乗って、家は4畳半のアパートみたいに…。
昔、こち亀でソレを皮肉ったエピソードがありました。
家を売って全財産叩いて夢のフェラーリを購入し、一家四人がフェラーリの中に住む…とうう話しでしたが、そのフェラーリも、この時代を象徴するテスタロッサでした。
いくらバブルの時代に頻繁に見掛けたとは言え、フェラーリ全体の価格自体も高騰しており、現在に比べて金銭的に余裕が有ったと言える当時でも、とても一般人に手の届くモノではありませんでした。
ソレ故に、こち亀のそのエピソードは、多くの人に印象に残っていると思いますし、そして、テスタロッサもあの時代を象徴する車の頂点という印象があります。
因みに写真のこの方は、オーナーではなく、車屋の人です。