世界トップの「バイク生産国」日本でなぜ人気低迷?
Motorcycle 東京モーターサイクルショーは、バイクメーカー各社や販売店の業界団体、パーツ・アクセサリー、バイク雑誌など関連メディア、レース関係、海外メーカーなど約100社が出展する年に1度の総合的な展示会。期間中、会場は若者から中高年まで幅広い来場者で熱気があふれていました。
その会場のコーナーで来場者に懸命に署名を呼びかけていたのは全国オートバイ協同組合連合会。全国の二輪車販売店1500社で構成する身近なバイク店の全国組織です。署名を訴えていた内容は8項目に上ります。まとめてみると……。
警察庁に対し、(1)現実に即した二輪車駐車違反の取り締まり
(2)二輪車の高速道路路側帯の渋滞時、悪天候時の避難利用
(3)小型二輪(125CC未満)免許の取得簡便
国交省に対し、(1)有料(高速)道路における二輪車通行料金の引き下げ
(2)二輪駐車場の建設促進
(3)二輪ETC車載器購入に対する助成金の復活
経産省に対し、(1)2サイクル二輪車からの乗り替え、エコ助成金の支援
文科省に対し、(1)交通教育の義務化
4つの省庁にまたがるこれらの要望はいずれもバイクの販売に直結する問題として連合会は重視。これらの問題が解決されないため、「バイクに乗りにくい環境」が放置されたり助長されたりしていると見ています。例えば、首都圏を中心に厳しい駐車違反の取り締まりが行われたが、大都市では駐車料金も高く、また二輪の駐車場自体が不足しており、バイクを手放したり購入を控えることにつながったと見ます。
また、高速道路では路側帯の通行はできませんが、渋滞や悪天候の際はバイクの路側帯通行を許してスムーズな交通の回復に寄与させてほしいとの要望。特に強い風雨などの悪天候時は渋滞で長時間にわたりノロノロ運転を続けることは疲労とストレスでライダーを危険にさらし、転倒などすれば交通の混乱に拍車をかけることになると指摘するライダーも少なくありません。
高速道路などでバイクは軽自動車と同じ料金になっていることに対しても「700~800キログラムから1トン近い軽自動車に比べ100数十から200~300キログラム前後の車重のバイクは道路への負担も少なく、占有面積の差から見ても同一料金はおかしい」とかねて指摘されています。
これらの要望の背景には、最盛期の8分の1まで落ち込んだバイク販売の惨状があります。署名を呼び掛けていた連合会の土居光夫副会長は「バイクブーム最盛期の30数年前には全国で年間320万台も売れたが、昨年は国内で39万台しか売れていない」と話し、バイクに乗りやすい環境をつくり出すにはこうした障壁をなくしていくことが迫られている強調します。
ただ、その多くは法律絡みの問題になるため、土居副会長は「がんじがらめの状態で簡単にはいかない。しかし何とかしないといけない。多くの皆さんの協力を得ることが大事です」と決意を語ります。自民党や公明党などのバイク議員連盟などにも何回も働きかけ、「2020年までには国内のバイク販売100万台回復を目指し頑張っています」。
バイク人気の不振につながった大きな要因の一つとして、業界が挙げるのが「三ない運動」。暴走族などの問題をきっかけに免許を取らせない、バイクを買わせない、バイクを運転させないという3原則を徹底させる高校などが現れ、30数年前からはPTAの全国組織なども提唱。その後、「禁止より安全教育こそ大切ではないか」といった反省や批判もあって「数年前には三ない運動の宣言文は出されなくなった」(土居副会長)。しかしこの間の打撃は大きく、いまだに業界では「三ない運動」の決定的な影響が語られています。
このため文科省への要望として挙げた「交通教育の義務化」も、車やバイクの正しい乗り方や安全な運転法をしっかり指導することによって、バイクへの認識を改めてもらい、ほかの多くの改善事項とともに社会的に認知される存在としてバイク利用を広げてもらう狙いです。連合会も独自にバイクの魅力を伝えるフェスティバルなどを催しています。
このほか、バイク免許は排気量400CC以下の普通二輪免許が取りやすいものの、「海外では600CCが標準的」(連合会)とされるため、メーカーも海外向けに力を入れ、国内向けの400CCバイクは盛り上がりに欠けるとも見られています。このため現在のバイクの免許制度を変えて、普通二輪免許で600CCまで運転できるよう変更すべきだとの意見も出ています。
こんな日本の事情をくみ取ってBMWは普通二輪免許で乗れる313CCのバイク「310R」を会場に展示。「BMWが普通免許で乗れるバイクを出した」と関心を集めていました。これまでBMWのバイクは、ハーレーなどとともに外車の中でも特別のブランド力を持ち、排気量1000CC以上の車種が注目されることが多かったため、普通二輪免許所持者には遠い存在。それだけに実際にバイクにまたがってうれしそうな来場者もいました。
多くの課題を抱えたバイクの世界ですが、会場に来ていたBMWのバイクに乗る千葉県の社長男性(66)は「若い人たちの趣味が多様化したこともバイク人口の減少につながっているのではないか」と話します。さまざまな要因が重なって続いてきたバイク不振ですが、会場の関係者たちは「これだけ多くの来場者がいるので、核になるバイクファンはちゃんといることは間違いない。若者も中高年も含め、よりバイクに乗りやすい環境整備を進めるため販売業界、メーカー、政府の協調を期待したい」と話していました。
ブースを設けた株式会社スズキ二輪の村上茂・販売促進課長は「今回はスポーツをテーマにブースを出しました。MotoGP(ロードレース世界選手権)をフィードバックした車を近く出したい。電子装備も含め扱いやすく楽しんでもらえるようにしたい」と意欲的。ほかのメーカーも含め国内はもとより世界戦略をうかがいます。
日本メーカーのバイクは「世界シェアの50%弱を占める」(連合会)とされ、圧倒的な力で海外に展開しています。その一方でさまざまな規制や負担にさらされている国内のバイク事情。「世界中で国産バイクの人気を集めながら、こんな国内事情でいいのか疑問ですよ」という関係者もおり、国内の「バイク文化」を今後どうつくり上げていくのか。バイクの販売台数の問題にとどまらず、地域社会にバイクをどう位置付けていくのか、この時期だからこそ問われているようです。
結局何処にもターゲットが向いていないだけなんです。