2018/04/24

海は国民の財産?

昨年はたくさんの水産関係のシンポジウムや会議に出席した。その中で何度か「海は国民の財産」という声を聞いた。

ほんとうなのだろうか?

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遊びで釣りをやってる人間が資源管理を語るなと言う人がいる。
俺たちは遊ぶために一生懸命働いている。他人の金で遊んでいるわけではない。働いているのだから当然納税の義務も果たしている。まして我々釣り人は補助金や交付金なんて見たこともない。

※補助金や交付金は返済義務のない「貰えるお金」だが、その目的はやがては国や地方のお役に立っていただくということである。いつまでも役立たずなのに補助金や交付金をえんえんと受け取るのは泥棒と言われても仕方ないだろう。元は我々国民が収めた税金なのである。


アメリカやカナダ、ニュージーランドなど、資源管理の先進国と言われている国に毎年釣りに行ってるが、そこで感じることは「海は国民みんなのもの」と言うことだ。
釣りをしていて漁船に邪魔されたことも注意を受けたこともない。逆に漁船に応援していただいたことは何度もある。活性が低いときに獲ったばかりのニシンやホキを海にコマセてくれたり、トロール船が網を上げる時間を教えてくれたり(網を上げるときに中の魚がこぼれるので、マグロなどの大型魚が集まってくる)、港で漁師さんが上げた魚をいただいたりなどだ。


我々釣り人のためにニシンを海にコマセてくれた漁師(カナダ)。
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網を揚げる瞬間が一番のチャンス。トロール船にギリギリまで近づきフックの付いた餌を放り投げる(ニュージーランド)。
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ところが我が国はとなると、実績のある瀬で釣りをしていると、いきなり漁船に出て行けと言われたり、釣りをしているのにも関わらずまき網船に囲まれて追い出されることもある。出て行けと言う権利はないし(地先権と言うのは現在存在しないし、漁業権に浮魚は含まれない)、まき網船が釣船の周りに網を入れたら出て行けという権利もない。網を入れた後にその中に釣り船が入ったなら追い出されても仕方ないが、しかしそんな釣り船はいないだろう。


写真は突然まき網船が遊漁船のど真ん中に入ってきて、出て行けと言わんばかりに遊漁船を囲むように網を入れ始めた。
赤印がまき網船、青印が遊漁船。
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資源管理先進国ではレクリエーショナル(遊漁、スポーツフィッシング)にもいろいろなルールや規制が設けられている。まずレギュレーションであるが、何センチ以下はキープ不可、1日1人何匹まで、1日1ボート何匹まで、といったルールである。監視も厳しく、違反すれば船長と釣り人双方に高額の罰金、悪質なら逮捕もある。俺の知り合いの船長は釣り禁止場所で釣りをして罰金2000万円という判決だったが、罰金が払えないので刑務所送りとなった。すでに2年経つがいまだに服役中である。アメリカでもカナダでも何度も港でチェックを受けたり、洋上で乗り込んできて検査を受けている。


マリーナでチェックを受ける(アメリカ)。
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洋上でファイティングタイムのチェックを受ける(カナダ)
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そんな厳しい国は嫌だと思う人もいるだろう。ところが魚は大きくていっぱい釣れるのだ。日本では大きな魚を釣りたくても小さい魚しか釣れない。大きくなる前に獲ってしまうからだ。そしてどんどん小さくなり、やがて釣れなくなる。釣れなくなると違う場所を探したり、違う魚種を狙い始める。そしてそれもやがて釣れなくなる。次々と場所とターゲットを変えて行く。いつか砂漠のような海になるだろう。


ライセンス制と言うのも先進国では当たり前になっている。ライセンスが無いと釣りができない。だから釣りをしたかったらライセンス料を払うのだが、これは釣り人に利息を付けて返ってくる。払ったライセンス料は魚たちの生息環境の調査、改善。稚魚の放流。回遊や産卵の調査費用などに使われる。結果として環境が改善され、魚たちも増える。ライセンス料は未来への投資なのだ。


先進国ではこのようなレギュレーションブックが無料で配布されている。
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これはノースカロライナ州のライセンス料がどのように使われているかの説明である。
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簡単に訳すと

貴方がノースカロライナ州で沿岸の遊漁ライセンスを買うという事はつまり、健全な水産資源を楽しむ事に投資をすると言う事なのです。
州法により、沿岸の遊漁ライセンスの売り上げ金は、そのライセンスの種類によって2通りに振り分けられます。
そして州法により、その使途は「州の海洋資源の管理、保護、再生、開発、栽培、保護、強化」に使われる事になります。
ノースキャロライナ州海洋資源寄付基金は、州の沿岸遊漁の終身ライセンスの売り上げ金で運営されており、その基金の利子のみを使い運営されています。
使途としては、主に調査研究費、遊漁の漁獲量の調査、人工漁礁等の設置やパブリックランプ(公営の無料で使えるボートのスロープ)の設置等に使われています。
下図のグラフによると、2007年以後、予算の36%が魚の調査、10%が生息環境調査、9%が生息環境造成、21%がパブリックアクセス(誰でも使えるボートランプ等)、2%が周知と教育、22%がライセンス販売や運営に使われています。
要するに、フィッシングライセンスで払ったお金が、その他の用途に使われる事無く、釣り場の環境整備等の、釣り人に関わるところに使われてますよという事です。





これは水産庁の初代釣り人専門官・櫻井政和さんがアメリカの釣りを調査してまとめた報告書です。とても勉強になります。
http://www.suisan-shinkou.or.jp/promotion/pdf/SuisanShinkou_565.pdf

その一部を抜粋

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国民が楽しく釣りができて、なおかつ釣りを普及させるために「レクリエーショナルフィッシングに関する大統領令」というのがあるのだ。アメリカでは釣り人の地位が高い。社会に「釣りは健全なスポーツでありレジャーである」と認められているのだ。



さらにアメリカと日本の違いは、コマーシャル(商業漁業)とレクリエーショナル(遊漁、スポーツフィッシング)の漁獲割り当てが別々に設けられていることだ。


これはヒラメである。コマーシャルの割り当ては3406トン、レクリエーショナルの割り当ては2508トンである。さらに禁漁期も明記されている。
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これはクロマグロであるが、コマーシャルよりレクリエーショナル(スポーツ)の方が多くなっている。
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レギュレーションは毎年のように変わる。それがいろいろなサイトに発表されている。

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そしてコマーシャルもレクリエーショナルもクロマグロを漁獲したら24時間以内の報告が義務付けられている。

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とにかく大西洋クロマグロの監視と規制は厳しい。産卵期のまき網漁の大幅短縮(地中海)、産卵期のまき網の漁獲大幅削減(地中海)、産卵場所の保護(メキシコ湾)などなど、そしてそれらが確実に結果を出している。


確実に資源が回復してきた西部側の大西洋クロマグロ

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急激に資源が回復している東部側のタイセイヨウクロマグロ

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何と大西洋には太平洋の40倍のクロマグロがいるのだ。面積は約半分なのだから密度は80倍である。



今年の3月にノースカロライナにクロマグロを釣りに行ったとき、洋上には漁船が1隻もいなかった。3月1日にコマーシャル(商業漁業)は枠に達して翌日には禁漁となった。ただし遊漁の枠は残っていたので我々は釣りを続けることができたのである。漁船の全くいないナブラだらけのクロマグロ漁場で自由に釣りなんて、日本ではありえない。



さて我が国だが、漁業と遊漁の漁獲枠が別々に設けられてない。漁業には割り当てが決められているが、遊漁には割り当ては決められてない。ではどうなるかと言うと、漁業が枠に達する(厳密には達する直前)と遊漁に自粛要請が発令される。漁獲量は漁業者の百分の1以下のたった10トンくらいしか釣ってない日本中の釣り人が自粛に追い込まれるのだ。
その漁業の規制だが、今年度も前年度も枠をオーバーする事態となっている。ようするに決められたことが守られてないのである。これがマスコミの報道などを見ると漁師が一方的に悪者にされているが、その原因を作ったのは水産庁である。外圧がかかるまで資源管理をほったらかしにしてきたのが原因で資源が激減し、窮地に立たされた漁師が違反するのである。そして現在も水産庁の知らないところで違反は続いている。


赤はすでに超過したところ。オレンジは超過直前。北海道は大幅に超過している。

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※ただし、先進国では釣り人が釣った魚を売ったり、レストランなどに持ち込むことも禁止されている。違反した場合は買った方も売った方も罰せられる。罰則は高額な罰金、悪質なら逮捕である。10万ドル以上の罰金、禁固2年以上の実刑、船の没収などもある。そうやって専業の漁業者を守っているのだ。もしこれだけの漁獲枠を持つ釣り人に売る権利を与えたら、市場の暴落は避けられないだろう。



昨年10月と今年の4月に水産庁で開かれた海面遊漁意見交換会では水産庁側から前向きな意見はまったく出なかった。レギュレーションにしても、ライセンス制にしても、漁獲報告をデジタル化することにも、「予算が無い」「人員がいない」という返事ばかりだった。残念なのは釣り団体からも否定的な意見が出たことだ。海外の現状に詳しいJGFA関係者は2回とも前向きな意見だった。関係者には未来を考えた施策と啓蒙活動を強くお願いしたい。

俺たちは水産庁の言い訳を聞きに行ってるのではない。そんな暇な時間は無いのだ。



SFPC(スポーツフィッシング推進委員会)では2000人規模の釣り人のアンケートを取っているが、資源保護への関心は極めて高く、ライセンス制に関しても賛成が多かった。ただし「わからない」という回答も多かった。今後はさらに啓蒙していくことが必要だろう。

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やる気のない水産庁や釣り団体に知っていただきたいスウェーデンのニュース

「スウェーデンとデンマークでクロマグロのタグ打ちに成功」

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完璧に成功しました!スウェーデン釣り協会の自然保護マネージャーであるMarkus Lundgren氏いわく、タグが打たれたこれらのクロマグロからもたらされる情報は、資源管理の改善と、北部の海域でのマグロ資源の回復に大きく寄与するということです。

この土曜日はスウェーデンの釣り人にとって歴史的な日となりました。スウェーデンの水域では初となるクロマグロにタグが打たれました。 これは、1964年以来初めて竿によって捕らえられたクロマグロでもあります。当日スウェーデン海域でタグを打たれリリースされたクロマグロは合計3匹(全長185センチから227センチ)で、デンマーク海域でも同じ日に2匹のマグロ(247センチと251センチ)がタグを打たれリリースされています。このタグ打ちプロジェクトは、ICCAT(大西洋マグロ類保存国際委員会)の資金援助を受け、スウェーデンの船団はEAA(欧州釣り人連合)の会員によって組織されました。同プロジェクトのスウェーデン側のメンバーは、WWF(とSLU Aqua(スウェーデン農業大学水産資源学科)、およびスペイン・バスク地方のタギングエキスパートであるInigo Onandia氏(Azti-Tecnalia研究所)の協力により編成されました。

タグが打たれた巨魚からは、北クロマグロの移動パターンに関する独自の情報が得られます。また、それぞれのマグロからは遺伝子サンプルも採取されています。このタグ打ちプロジェクトは引き続き数週間に渡って行われる見込みです」

この海域では、1960年代まで大きなマグロが獲れたようですが、それ以降めっきり見られなくなっていました。理由ははっきりしませんが、漁獲圧と海域の環境変化が原因ではないかと推測されています。

実に50年ぶりに戻ってきたクロマグロに対し、スウェーデンとデンマークでは、その背景を調べて将来に残していこうと言う機運が高まっています。」



研究機関、資源管理団体、そして遊漁者が協力してクロマグロの生態調査をやる。日本でもやろうと思えばできることである。




最後に水産庁の天下り先と、まき網団体(一部は天下り先)を紹介する。よくもこんなに作ったと関心する。探せばまだまだあると思うが、忙しくて探す時間がない。


一般社団法人 大日本水産会
全国さんま棒受網漁業協同組合
一般社団法人 日本定置漁業協会
一般社団法人 全国いか釣り漁業協会
一般社団法人 責任あるまぐろ漁業推進機構
公益財団法人 海外漁業協力財団
一般財団法人 海苔増殖振興会
一般社団法人 全国さけ・ます増殖振興会
公益社団法人 全国漁港漁場協会
独立行政法人 国際協力機構
日本かつお・まぐろ漁業協同組合
日本遠洋旋網漁業協同組合
一般社団法人 水産土木建設技術センター
一般社団法人 全日本漁港建設協会
一般社団法人 海洋水産システム協会
公益財団法人 海洋生物環境研究所
一般財団法人 漁港漁場漁村総合研究所
公益財団法人 海と渚環境美化・油濁対策機構
一般社団法人 漁業情報サービスセンター
北部太平洋まき網漁業協同組合連合会
公益社団法人 全国豊かな海づくり推進協会
一般社団法人 全国底曳網漁業連合会
一般社団法人 海外まき網漁業協会
一般社団法人 漁港漁場新技術研究会
全国漁港・漁村振興漁業協同組合連合会
日本漁船保険組合
全国漁業信用基金協会
一般社団法人 漁業信用基金中央会
全国漁業共済組合連合会
公益社団法人 日本水産資源保護協会
一般社団法人 全国水産技術者協会
一般社団法人 全国まき網漁業協会
一般社団法人 マリノフォーラム21
国立研究開発法人 水産研究・教育機構
一般財団法人 日本鯨類研究所
独立行政法人 農林漁業信用基金
国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター
独立行政法人 農林水産消費安全技術センター

まき網関係団体
北海道まき網漁業協会
北部太平洋まき網漁業協同組合連合会
北部日本海まき網漁業協会
静岡県旋網漁業者協会
愛知三重大中まき網協会
中部日本海まき網漁業協会
山陰旋網漁業協同組合
愛媛県まき網漁業協議会
日本遠洋旋網漁業協同組合
大分県旋網漁業協議会
鹿児島県旋網漁業協同組合



そして目を疑う大日本水産会などへの補助金と交付金。平成20年度は大日本水産会へは1000億円近くが渡っている。

水産庁サイトより。平成20年の資料。

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http://www.maff.go.jp/j/aid/kohu_kettei/h20/suisan/pdf/ippan_kaikei.pdf



漁業者はこの70年間で7分の1にまで減少した。漁獲量も資源量も減少する一方である。しかし天下り団体はまったく減らない。これらの団体は国などからの交付金や補助金が運営費の多くを占めるが、ほとんど成果を上げてない。税金泥棒と言われても仕方ないだろう。

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