資源管理改革派の重鎮と釣り大好き博士のお話
漁業資源管理と公平性
6月21日、日本財団ビル2階会議室でアンソン・ハインズ博士(米国スミソニアン環境研究所所長)と小松正之先生(東京財団上席研究員)の講演を拝聴してきた。
まず小松先生だが、アメリカのエール大学でMBAを取得、その後農林省に入省、主に水産庁で働き、国際交渉で活躍してきた。アイスランド、ノルウェー、ニュージーランド、アメリカ、カナダなど資源管理先進国を多数訪問。そのため海外の成功事例に詳しく、それを日本へ取り入れるために尽力している。「海は誰のものか」「日本の食卓から魚が消える日」「世界と日本の漁業管理」など、著書多数。俺も小松先生の本は何冊も買って読んだ。とくに「海は誰のものか」は俺の考えを大きく方向付けた。
会場には200人くらいの人が集まった。
そしてメインスピーカー(講演者)のアンソン・ハインズ博士。米国スミソニアン環境研究所所長であり、アメリカ沿岸地域の生態研究に長年中心的な役割を果たしてきた。書籍や学術ジャーナルに掲載された論文は150以上にわたる。
ハインズ博士が最初に壇上に立ち、話し始めたのだが、まずレクリエーションフィッシング(遊びの釣り)から入ったのに驚いた。日本のシンポジウムや会議、会合で「遊びの釣り(遊漁)」から話し始めた人は過去に俺が知る限り一人もない。子供のころから釣りが大好きで14歳の時に大きなマグロを釣り、そしてストライプトバスなどいろんな魚を釣ってきた。子も孫も釣りが大好きだと話していた。
ハインズ博士は大の釣り好き。子も孫も釣りが大好きだそうだ。
ワシントンDCの目の前にあるチェサピーク湾は日本でいえば東京湾みたいなもの。そこは汚染や乱獲が進み、ストライプトバスなど多くの魚の資源が危機的にまで減少した。そして資源回復のために政府、漁業者、釣り人、科学者、NGOなどが団結して積極的に動き資源管理がスタートした。そして禁漁にすると資源はどんどん回復していった。
アメリカはスポーツフィッシング(レクリエーションフィッシング、遊漁)が盛んである。そしてスポーツフィッシングには大きな経済効果がある。マイアミなどは網を使う漁業は長年禁止である。あの200キロ以上になる巨大ハタ(ゴライアスグルーパー)は1990年から全面禁漁になり、2006年から遊漁だけはOK(ただし、すべて船べりでリリース)となったが、漁業はいまだに禁止である。俺がよく行くノースカロライナやケープコッドなども引き縄か一本釣り、そしてはえ縄か突きん棒(ハプーン)である。まき網船など見たことも聞いたこともない。
このようにスポーツフィッシングが強いのは、遊漁の経済効果が大きいからなのだそうだ。また人口も多いので政治的にも強い。数万人の漁業者に対し、釣り人は3300万人もいる。釣りに行くための交通費(飛行機代など)、現地での宿泊費、船代、そして釣り具購入、船購入などを含めた経済効果は5兆円以上と言われている。
ただし、地域、魚種によっては漁業者の方が経済効果が高いケースもある。アメリカは経済効果、そして人口などに配慮してクオータ(枠)やレギュレーションを決定する。その基本となるのは科学的なデータである。
ノルウエー、アイスランドなど北欧はアトランティックサーモン釣りが大人気。地方のど田舎にシーズンになると世界中からアングラーが押し寄せる。釣りの費用は1日1人20万円以上が当たり前。それでもすべてのフィッシングロッジが予約で満杯になる。その経済効果はど田舎ではとんでもなく大きい。カナダのクロマグロ釣りも同じだ。300キロ以上の巨大クロマグロが毎日ヒットするので、どの船も半年以上前に予約が必要だ。人気船やロッジはは3年先まで予約で埋まっている。そのどれもが都会でなく地方なのだ。そしてどの村も生活レベルは高く、人々の心も豊かである。自然が豊かになれば無駄な争いもなくなる。これこそ地方創生と言えるだろう。
対して、日本はどうだろうか。水産資源の管理に遊漁はほぼ蚊帳の外である。昔から続く「海は漁師のもの」という意識が強く、釣り人が資源に関して何か言おうものなら、多くの場合「お前ら遊びでやってんだろ。俺たちは生活が懸かっているんだ。ガタガタ言うな」となる。国民からも釣り人は低く見られている。確かにマナーの悪い釣り人は多い。そこは改善していかなければならない。しかし、釣り人が経済に与える効果の大きさに関しては、日本人のほとんどは考えてない。そこが欧米やオセアニアと違うところだ。中南米でも釣り人の経済効果が大きいことは認められている。
日本の釣り人口は減ったと言えども700万人である。16万人の漁業者よりは大きな経済効果があるだろうし、納めている税金もはるかに多い。そして釣り人には補助金などというものは一切出てない。遊ぶために日々一生懸命働いているのだ。
しかし国内の現状は魚が釣れなくなるばかりである。このままでは国内で釣りをする人はどんどん減り、海外に出かけて釣りをする人が増えるだろう。その結果、国内の地方創生にはまったく貢献しなくなり、海外の地方創生に貢献するということとなる。これも本末転倒である。
いろいろ言ったが、しかし、変化は感じる。2月に水産研究教育機構の宮原理事長と対談したとき、まず俺はこう聞いた。
俺「宮原さん、海って誰のものですか?」
宮原さんは少し考えて「未来の人たちのもの」と答えた。素晴らしい答えだと思った。だったら我々は未来の人のために豊かな海を残すことは義務である。そこに漁師と釣り人の隔たりはない。
小松さんは「海は国民みんなのもの、世界人類共通の財産」と何度も言っている。
最近は行政主催の会議、会合、シンポジウムに釣り人も参加できるようになった。いままでは漁業者、行政、政治家だけということが多かったが、NGO、釣り人、大学関係者などの参加が増えている。そして先進国で最も重視される透明性、公平性も少しずつ感じるようになってきた(まだまだだが)。
アメリカ大使館のラケル・カントゥ女史が講演終了後に俺に近づいてきた。どうやら4月のISCステークホルダーの会合で俺と会っているらしい。いろいろと話しかけてくるのだが、英語が苦手な俺には8割くらいがチンプンカンプン。そのとき、すぐそばにいた東京財団の平沼さんが通訳をしてくれた。それからは話がトントン拍子に進んだ。日本の水産業があまりにも不透明でデータなどを集めるのが大変なんだそうだ。俺もまったく同じように感じている。アメリカの漁師さんはとても親切であり、港に行けば釣り人の我々が質問しても親切丁寧に答えてくれる。日本は応えないケースが多く、透明性はまったく感じられない。その結果、真面目な人が損をして、違法漁業、密漁者が得をするというおかしな現象を生んでいる。
欧米はずっと昔から海は国民のものという考えが定着している。だから政府、漁業者、釣り人、NGO、学者、主婦、など誰もが海は自分たちで守るものと理解している。そして透明性、公平性が高い。それがIUU(違法、無報告、無規制)漁業撲滅へと繋がっている。透明性が高くなれば違法なことはやりづらくなる(見えてしまう)のだ。
そして豊かな海は人の心も豊かにする。貧しくなれば争いが始まる。
それは歴史が証明している。
ハインズ博士のお話は、それらの基本となる考えを再確認させてくれた。
国内でのシンポジウムや会議に、釣り人はどんどん積極的に参加すべきだ。
自分たちの海だという意識を持てば日本も変わっていくだろう。
アメリカ北東部の海岸で釣り人に大人気のストライプトバス。
ストライプトバスは漁業者にも重要な魚だ。
沿岸に集まるストライプトバスは東京湾のスズキ(シーバス)のように大人気だ。
やがて漁師、釣り人の乱獲が原因でキャッチ数(漁獲)は激減していった。
そして1990年についに禁漁となる、すると資源は突然回復へと転じた。
これはメンハーデンンという釣り人にはなじみの薄い魚だが、魚料理、魚油とうに利用されていて巾着網による乱獲が進んでいた。
最初のころは資源が減っても関心が低かった釣り人だが、「メンハーデン」はストライプトバスの餌」とわかると、「メンハーデンを獲るな」という釣り人の声が一気に盛り上がる。
そしてメンハーデンにもクオータ(枠)が設けられ、資源は比較的安定へと向かった。
以下は小松先生の講演である。科学をマニュピレートしていないお話で実にわかりやすかった。
言い訳、自画自賛ばかりの水産庁、御用学者の講演はとにかくわかりづらい。
「親と子の相関関係はない」「産卵前に獲っても産卵後に獲っても資源への影響は同じ」「日本の資源管理は世界が注目」などなど、素人でも少し勉強すればおかしいと気づくことばかりである。
その点、小松先生のお話は事実を基に話しているのでわかりやすく、説得力があった。
マイワシの漁獲量の推移。最近「マイワシ豊漁」なんて記事を見かけるが、これで豊漁なんて言えるのか。
100万円あった小遣いが1万円に減らされ、それが2万円に増えたようなものだ。喜ぶには超早すぎる。
サバである。これも増えたというにはまだ早い。我が国の漁業者は少し増えると「枠を増やせ」と大騒ぎする。そしてあっという間に元のどん底に戻ってしまう。もう少し我慢して安定水準まで資源を回復させてからTACを決めて計画的に獲るべきである。
太平洋クロマグロである。まだまだ増えたとは言えない。大西洋クロマグロの資源量はなんと太平洋クロマグロの40倍である。そんなに多いのに、大西洋はしっかりと資源を考えながら漁業をやっている。太平洋はいまだに食べても一番美味しくない産卵期を狙った漁が全体の7割以上を占める。挙句に供給過多になり、築地では連日大量に売れ残る(競り不成立)。
北海道はホッケが激減している。10年位前はホッケは簡単にたくさん釣れるので、釣りの外道扱いだった。ところが最近は大本命と聞いている。
サンマである。最近は中国と台湾の漁獲が増えている。しかし、果たして他国の責任にできるだろうか。せっかく世界で6番目の広大なEEZを与えられながら、それを有効に利用できない日本。小型魚乱獲、魚価の低迷、多くの問題は国内にある。
産卵期を狙うのはクロマグロだけではない。ニシン(数の子)もシシャモもスケソウダラ(タラコ)も産卵期を狙う。挙句に資源は危機的にまで減り、スーパーに並ぶのは外国産だらけになった。
スルメイカ。昨年は過去最低記録を更新した。今年もすでに不漁が確実と言われている。日本の食文化はもはや国産だけではまかなえない。外国産だらけの日本の食文化って、何か違うだろ。
その結果、日本の水産業は世界でほぼ一人負けとなった。行政(天下り含む)と漁業者、そして政治家に任せた結果である。金が絡む人が管理すると必ずこうなる。本来なら資源管理は環境省がやるべきだろう。アメリカは海洋大気庁(NOAA)が中心になって資源管理をやっている。
釣り大好きのハインズ博士に写真集をプレゼント。会議の途中、質問をさせていただいたが、とても良い質問ですと誉められた。
質問の内容は「日本は釣り人の地位が低い。アメリカは大きな魚がいっぱい釣れて、釣りにも活気があるし、何よりも釣りが国民に高く評価されている」「日本の漁業には透明性がない。」「釣り人の地位をあげる。そして資源管理に強い影響力を持つためには何をやったらいいのか?」など。
答えは「スポーツフィッシングの経済効果の大きさ、そして釣り人が団結してロビー活動をする」。その結果、多くの地域で漁業より、遊漁のほうが強いんだそうだ。
アメリカ大使館のラケルさん(右)と東京財団の平沼さん。俺は英語がまったく苦手でわからない。途中から平沼さんが通訳を受けてくれて話はトントン拍子に進んだ。ラケルさんは、日本の漁業のデータを集めたいけど、不透明すぎてまったく進まないと嘆いていた。5月の早稲田のシンポジウムでは透明性と言う言葉が海外の研究者から何度も聞かされた。それが日本に一番欠けていることだろう。そんなことだからIUU(違法、無報告、無規制)漁業がいつまで経っても減らないのだ。
やっと会えた小松先生。言い訳は一切なしの真正面トーク。この人の本は何冊も買って読んだ。今でも俺の大切な教科書である。対談を申し込むと喜んで受けてくれた。この耳で直に世界の資源管理を聞くのが今から楽しみである。
土佐の一本釣りで有名な明神丸の明神社長(真ん中)。日本近海でカツオが獲れなくなった理由など、豊富な経験を引き出しながら話してくれた。そして水産業に対して前向きな記事が多い「みなと新聞」の川﨑さん(現在は顧問)。俺も何度か一面で登場させていただいてます。
アイスランドでのアトランティックサーモン釣り。首都レイキャビクから遠く離れたど田舎だが、釣りのシーズンになると世界中からの釣り客で賑わう。
アイスランドでは釣ったサーモンはリリースしないで、あちこちに置かれている生け簀の中に入れておく。定期的に回収車が来て、人工孵化場へと運び、そこで受精、産卵し、ある程度の大きさまで育てられたのち、川に放流する。その管理は完璧と言える。とにかくアイスランドはアトランティックを釣るには最高の場所の一つなのだ。
こんな車や、ヘリコプターで世界中から釣り人が、この田舎に集まる。釣り人の落とすお金は村の経済をとんでもなく豊かにしている。
これはノルウエーの釣り人用のロッジ。1泊30万円ほど(釣りとガイド料込み)。これでも中級であり、高級なところは1泊50万円を超す。それでも毎年予約はすべて埋まるらしい。
こんな小屋が釣り場にあり、スタッフが食べ物やビールを届けてくれる。釣り場はプライベートポンド(私有地)なので、部外者は入ってこない。
ニュージーランド南島。ここでは大きな太平洋クロマグロが釣れる。ポイントはホキを獲っているトロール船の周りだ。網を上げるときにこぼれるホキを狙って海鳥やクロマグロ、アシカが集まる。その網を上げ終わる直前が最大のチャンス。釣り船は一気にトロール船に近づいて餌の付いた仕掛けを船めがけて投げ入れる。こんなに近づいてもトロール船に怒られることはない。逆にホキをごそっとコマセ代わりに巻いてくれるのだ。
これはカナダのプリンスエドワード島。ニシン漁の漁船の周りがクロマグロの最高の釣り場となる。遊漁の船長が「ニシンを巻いてくれ」と言うと、迷わず船員は上げたばかりのニシンを大量に海に蹴とばしてくれる。その数秒後にヒットすることはまったく珍しいことではない。
カナダでは遊漁は原則リリースである。船には上げないで、船べりでリリースする。その際にタグを打つことが多い。リリース後の生存率は96パーセントと聞いている。
世界的に魚食の需要は増えている。今までのような計画性のない漁業は確実に資源の枯渇を招く。これからは持続性(サスティナブル)を考えた漁業を考えなければならない。獲るよりも守る、増やす、育てることを優先する。そして透明性、公平性を高めること。
そして何よりも大切なことは
「魚は美味しいときに必要なだけ獲って(釣って)食べること」である。
そのために必要なのはレギュレーションである。サイズリミット、バッグリミットを定める。禁漁期も必要である。産卵期、産卵場は原則禁止である。厳しい罰則も監視も必要である。ルールを守った者が損をして、守らないものが得をするようなことは絶対にあってはならない。
資源が回復すれば漁師も釣り人もハッピーになれるのだ。
6月21日、日本財団ビル2階会議室でアンソン・ハインズ博士(米国スミソニアン環境研究所所長)と小松正之先生(東京財団上席研究員)の講演を拝聴してきた。
まず小松先生だが、アメリカのエール大学でMBAを取得、その後農林省に入省、主に水産庁で働き、国際交渉で活躍してきた。アイスランド、ノルウェー、ニュージーランド、アメリカ、カナダなど資源管理先進国を多数訪問。そのため海外の成功事例に詳しく、それを日本へ取り入れるために尽力している。「海は誰のものか」「日本の食卓から魚が消える日」「世界と日本の漁業管理」など、著書多数。俺も小松先生の本は何冊も買って読んだ。とくに「海は誰のものか」は俺の考えを大きく方向付けた。
会場には200人くらいの人が集まった。
そしてメインスピーカー(講演者)のアンソン・ハインズ博士。米国スミソニアン環境研究所所長であり、アメリカ沿岸地域の生態研究に長年中心的な役割を果たしてきた。書籍や学術ジャーナルに掲載された論文は150以上にわたる。
ハインズ博士が最初に壇上に立ち、話し始めたのだが、まずレクリエーションフィッシング(遊びの釣り)から入ったのに驚いた。日本のシンポジウムや会議、会合で「遊びの釣り(遊漁)」から話し始めた人は過去に俺が知る限り一人もない。子供のころから釣りが大好きで14歳の時に大きなマグロを釣り、そしてストライプトバスなどいろんな魚を釣ってきた。子も孫も釣りが大好きだと話していた。
ハインズ博士は大の釣り好き。子も孫も釣りが大好きだそうだ。
ワシントンDCの目の前にあるチェサピーク湾は日本でいえば東京湾みたいなもの。そこは汚染や乱獲が進み、ストライプトバスなど多くの魚の資源が危機的にまで減少した。そして資源回復のために政府、漁業者、釣り人、科学者、NGOなどが団結して積極的に動き資源管理がスタートした。そして禁漁にすると資源はどんどん回復していった。
アメリカはスポーツフィッシング(レクリエーションフィッシング、遊漁)が盛んである。そしてスポーツフィッシングには大きな経済効果がある。マイアミなどは網を使う漁業は長年禁止である。あの200キロ以上になる巨大ハタ(ゴライアスグルーパー)は1990年から全面禁漁になり、2006年から遊漁だけはOK(ただし、すべて船べりでリリース)となったが、漁業はいまだに禁止である。俺がよく行くノースカロライナやケープコッドなども引き縄か一本釣り、そしてはえ縄か突きん棒(ハプーン)である。まき網船など見たことも聞いたこともない。
このようにスポーツフィッシングが強いのは、遊漁の経済効果が大きいからなのだそうだ。また人口も多いので政治的にも強い。数万人の漁業者に対し、釣り人は3300万人もいる。釣りに行くための交通費(飛行機代など)、現地での宿泊費、船代、そして釣り具購入、船購入などを含めた経済効果は5兆円以上と言われている。
ただし、地域、魚種によっては漁業者の方が経済効果が高いケースもある。アメリカは経済効果、そして人口などに配慮してクオータ(枠)やレギュレーションを決定する。その基本となるのは科学的なデータである。
ノルウエー、アイスランドなど北欧はアトランティックサーモン釣りが大人気。地方のど田舎にシーズンになると世界中からアングラーが押し寄せる。釣りの費用は1日1人20万円以上が当たり前。それでもすべてのフィッシングロッジが予約で満杯になる。その経済効果はど田舎ではとんでもなく大きい。カナダのクロマグロ釣りも同じだ。300キロ以上の巨大クロマグロが毎日ヒットするので、どの船も半年以上前に予約が必要だ。人気船やロッジはは3年先まで予約で埋まっている。そのどれもが都会でなく地方なのだ。そしてどの村も生活レベルは高く、人々の心も豊かである。自然が豊かになれば無駄な争いもなくなる。これこそ地方創生と言えるだろう。
対して、日本はどうだろうか。水産資源の管理に遊漁はほぼ蚊帳の外である。昔から続く「海は漁師のもの」という意識が強く、釣り人が資源に関して何か言おうものなら、多くの場合「お前ら遊びでやってんだろ。俺たちは生活が懸かっているんだ。ガタガタ言うな」となる。国民からも釣り人は低く見られている。確かにマナーの悪い釣り人は多い。そこは改善していかなければならない。しかし、釣り人が経済に与える効果の大きさに関しては、日本人のほとんどは考えてない。そこが欧米やオセアニアと違うところだ。中南米でも釣り人の経済効果が大きいことは認められている。
日本の釣り人口は減ったと言えども700万人である。16万人の漁業者よりは大きな経済効果があるだろうし、納めている税金もはるかに多い。そして釣り人には補助金などというものは一切出てない。遊ぶために日々一生懸命働いているのだ。
しかし国内の現状は魚が釣れなくなるばかりである。このままでは国内で釣りをする人はどんどん減り、海外に出かけて釣りをする人が増えるだろう。その結果、国内の地方創生にはまったく貢献しなくなり、海外の地方創生に貢献するということとなる。これも本末転倒である。
いろいろ言ったが、しかし、変化は感じる。2月に水産研究教育機構の宮原理事長と対談したとき、まず俺はこう聞いた。
俺「宮原さん、海って誰のものですか?」
宮原さんは少し考えて「未来の人たちのもの」と答えた。素晴らしい答えだと思った。だったら我々は未来の人のために豊かな海を残すことは義務である。そこに漁師と釣り人の隔たりはない。
小松さんは「海は国民みんなのもの、世界人類共通の財産」と何度も言っている。
最近は行政主催の会議、会合、シンポジウムに釣り人も参加できるようになった。いままでは漁業者、行政、政治家だけということが多かったが、NGO、釣り人、大学関係者などの参加が増えている。そして先進国で最も重視される透明性、公平性も少しずつ感じるようになってきた(まだまだだが)。
アメリカ大使館のラケル・カントゥ女史が講演終了後に俺に近づいてきた。どうやら4月のISCステークホルダーの会合で俺と会っているらしい。いろいろと話しかけてくるのだが、英語が苦手な俺には8割くらいがチンプンカンプン。そのとき、すぐそばにいた東京財団の平沼さんが通訳をしてくれた。それからは話がトントン拍子に進んだ。日本の水産業があまりにも不透明でデータなどを集めるのが大変なんだそうだ。俺もまったく同じように感じている。アメリカの漁師さんはとても親切であり、港に行けば釣り人の我々が質問しても親切丁寧に答えてくれる。日本は応えないケースが多く、透明性はまったく感じられない。その結果、真面目な人が損をして、違法漁業、密漁者が得をするというおかしな現象を生んでいる。
欧米はずっと昔から海は国民のものという考えが定着している。だから政府、漁業者、釣り人、NGO、学者、主婦、など誰もが海は自分たちで守るものと理解している。そして透明性、公平性が高い。それがIUU(違法、無報告、無規制)漁業撲滅へと繋がっている。透明性が高くなれば違法なことはやりづらくなる(見えてしまう)のだ。
そして豊かな海は人の心も豊かにする。貧しくなれば争いが始まる。
それは歴史が証明している。
ハインズ博士のお話は、それらの基本となる考えを再確認させてくれた。
国内でのシンポジウムや会議に、釣り人はどんどん積極的に参加すべきだ。
自分たちの海だという意識を持てば日本も変わっていくだろう。
アメリカ北東部の海岸で釣り人に大人気のストライプトバス。
ストライプトバスは漁業者にも重要な魚だ。
沿岸に集まるストライプトバスは東京湾のスズキ(シーバス)のように大人気だ。
やがて漁師、釣り人の乱獲が原因でキャッチ数(漁獲)は激減していった。
そして1990年についに禁漁となる、すると資源は突然回復へと転じた。
これはメンハーデンンという釣り人にはなじみの薄い魚だが、魚料理、魚油とうに利用されていて巾着網による乱獲が進んでいた。
最初のころは資源が減っても関心が低かった釣り人だが、「メンハーデン」はストライプトバスの餌」とわかると、「メンハーデンを獲るな」という釣り人の声が一気に盛り上がる。
そしてメンハーデンにもクオータ(枠)が設けられ、資源は比較的安定へと向かった。
以下は小松先生の講演である。科学をマニュピレートしていないお話で実にわかりやすかった。
言い訳、自画自賛ばかりの水産庁、御用学者の講演はとにかくわかりづらい。
「親と子の相関関係はない」「産卵前に獲っても産卵後に獲っても資源への影響は同じ」「日本の資源管理は世界が注目」などなど、素人でも少し勉強すればおかしいと気づくことばかりである。
その点、小松先生のお話は事実を基に話しているのでわかりやすく、説得力があった。
マイワシの漁獲量の推移。最近「マイワシ豊漁」なんて記事を見かけるが、これで豊漁なんて言えるのか。
100万円あった小遣いが1万円に減らされ、それが2万円に増えたようなものだ。喜ぶには超早すぎる。
サバである。これも増えたというにはまだ早い。我が国の漁業者は少し増えると「枠を増やせ」と大騒ぎする。そしてあっという間に元のどん底に戻ってしまう。もう少し我慢して安定水準まで資源を回復させてからTACを決めて計画的に獲るべきである。
太平洋クロマグロである。まだまだ増えたとは言えない。大西洋クロマグロの資源量はなんと太平洋クロマグロの40倍である。そんなに多いのに、大西洋はしっかりと資源を考えながら漁業をやっている。太平洋はいまだに食べても一番美味しくない産卵期を狙った漁が全体の7割以上を占める。挙句に供給過多になり、築地では連日大量に売れ残る(競り不成立)。
北海道はホッケが激減している。10年位前はホッケは簡単にたくさん釣れるので、釣りの外道扱いだった。ところが最近は大本命と聞いている。
サンマである。最近は中国と台湾の漁獲が増えている。しかし、果たして他国の責任にできるだろうか。せっかく世界で6番目の広大なEEZを与えられながら、それを有効に利用できない日本。小型魚乱獲、魚価の低迷、多くの問題は国内にある。
産卵期を狙うのはクロマグロだけではない。ニシン(数の子)もシシャモもスケソウダラ(タラコ)も産卵期を狙う。挙句に資源は危機的にまで減り、スーパーに並ぶのは外国産だらけになった。
スルメイカ。昨年は過去最低記録を更新した。今年もすでに不漁が確実と言われている。日本の食文化はもはや国産だけではまかなえない。外国産だらけの日本の食文化って、何か違うだろ。
その結果、日本の水産業は世界でほぼ一人負けとなった。行政(天下り含む)と漁業者、そして政治家に任せた結果である。金が絡む人が管理すると必ずこうなる。本来なら資源管理は環境省がやるべきだろう。アメリカは海洋大気庁(NOAA)が中心になって資源管理をやっている。
釣り大好きのハインズ博士に写真集をプレゼント。会議の途中、質問をさせていただいたが、とても良い質問ですと誉められた。
質問の内容は「日本は釣り人の地位が低い。アメリカは大きな魚がいっぱい釣れて、釣りにも活気があるし、何よりも釣りが国民に高く評価されている」「日本の漁業には透明性がない。」「釣り人の地位をあげる。そして資源管理に強い影響力を持つためには何をやったらいいのか?」など。
答えは「スポーツフィッシングの経済効果の大きさ、そして釣り人が団結してロビー活動をする」。その結果、多くの地域で漁業より、遊漁のほうが強いんだそうだ。
アメリカ大使館のラケルさん(右)と東京財団の平沼さん。俺は英語がまったく苦手でわからない。途中から平沼さんが通訳を受けてくれて話はトントン拍子に進んだ。ラケルさんは、日本の漁業のデータを集めたいけど、不透明すぎてまったく進まないと嘆いていた。5月の早稲田のシンポジウムでは透明性と言う言葉が海外の研究者から何度も聞かされた。それが日本に一番欠けていることだろう。そんなことだからIUU(違法、無報告、無規制)漁業がいつまで経っても減らないのだ。
やっと会えた小松先生。言い訳は一切なしの真正面トーク。この人の本は何冊も買って読んだ。今でも俺の大切な教科書である。対談を申し込むと喜んで受けてくれた。この耳で直に世界の資源管理を聞くのが今から楽しみである。
土佐の一本釣りで有名な明神丸の明神社長(真ん中)。日本近海でカツオが獲れなくなった理由など、豊富な経験を引き出しながら話してくれた。そして水産業に対して前向きな記事が多い「みなと新聞」の川﨑さん(現在は顧問)。俺も何度か一面で登場させていただいてます。
アイスランドでのアトランティックサーモン釣り。首都レイキャビクから遠く離れたど田舎だが、釣りのシーズンになると世界中からの釣り客で賑わう。
アイスランドでは釣ったサーモンはリリースしないで、あちこちに置かれている生け簀の中に入れておく。定期的に回収車が来て、人工孵化場へと運び、そこで受精、産卵し、ある程度の大きさまで育てられたのち、川に放流する。その管理は完璧と言える。とにかくアイスランドはアトランティックを釣るには最高の場所の一つなのだ。
こんな車や、ヘリコプターで世界中から釣り人が、この田舎に集まる。釣り人の落とすお金は村の経済をとんでもなく豊かにしている。
これはノルウエーの釣り人用のロッジ。1泊30万円ほど(釣りとガイド料込み)。これでも中級であり、高級なところは1泊50万円を超す。それでも毎年予約はすべて埋まるらしい。
こんな小屋が釣り場にあり、スタッフが食べ物やビールを届けてくれる。釣り場はプライベートポンド(私有地)なので、部外者は入ってこない。
ニュージーランド南島。ここでは大きな太平洋クロマグロが釣れる。ポイントはホキを獲っているトロール船の周りだ。網を上げるときにこぼれるホキを狙って海鳥やクロマグロ、アシカが集まる。その網を上げ終わる直前が最大のチャンス。釣り船は一気にトロール船に近づいて餌の付いた仕掛けを船めがけて投げ入れる。こんなに近づいてもトロール船に怒られることはない。逆にホキをごそっとコマセ代わりに巻いてくれるのだ。
これはカナダのプリンスエドワード島。ニシン漁の漁船の周りがクロマグロの最高の釣り場となる。遊漁の船長が「ニシンを巻いてくれ」と言うと、迷わず船員は上げたばかりのニシンを大量に海に蹴とばしてくれる。その数秒後にヒットすることはまったく珍しいことではない。
カナダでは遊漁は原則リリースである。船には上げないで、船べりでリリースする。その際にタグを打つことが多い。リリース後の生存率は96パーセントと聞いている。
世界的に魚食の需要は増えている。今までのような計画性のない漁業は確実に資源の枯渇を招く。これからは持続性(サスティナブル)を考えた漁業を考えなければならない。獲るよりも守る、増やす、育てることを優先する。そして透明性、公平性を高めること。
そして何よりも大切なことは
「魚は美味しいときに必要なだけ獲って(釣って)食べること」である。
そのために必要なのはレギュレーションである。サイズリミット、バッグリミットを定める。禁漁期も必要である。産卵期、産卵場は原則禁止である。厳しい罰則も監視も必要である。ルールを守った者が損をして、守らないものが得をするようなことは絶対にあってはならない。
資源が回復すれば漁師も釣り人もハッピーになれるのだ。