忘れ得ぬ店たち(21)オジンの天ぷら
昼のランチ時のみ営業し、メニューはてんぷら定食1つだけ。
カウンターの奧でてんぷらを揚げるのは、気難しそうなこの店の老店主。
あと店員と言えば、ご飯と天婦羅の出汁を出し下げするおばちゃん一人。
客はカウンターに座ると、目の前の皿に5~6品の天婦羅が順番に出てくる。
老店主は、客と会話することなく黙々と天婦羅を揚げる。
みんなからッと揚がっていて美味だったが、中でも25cmぐらいの穴子の大きな天婦羅が飛びぬけて美味しかった。
初めて食べてから40年以上経つが、あれ以上の穴子の天婦羅にはお目にかかっていない。
店には看板もなかったので店名は分からずじまい。
仲間内では「オジンの天ぷら」と呼んでいた。
1995年の震災を生き延び、商売再開した時はうれしかったなあ。
でもすぐに老店主が、体調を崩し、しばらく店を閉じていたが、やがて廃業した。
この店は父も知っていて「あそこのオヤジは趣味で天ぷら揚げている」と言ってた。
あの頃、オジンの天ぷら食って、ゴムクラブでコーヒーを飲むのが最高の贅沢だった。
忘れ得ぬ店たち(1)ゴムクラブ (2013.12.25)
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