=映画数珠繋ぎ(17)=大人のおとぎ話2 『ストリート・オブ・ファイアー』

『刑事ナッシュ・ブリッジス』からのつながりで、私も大人のおとぎ話の話をしよう。
ショットガンが快感を呼ぶ『ゲッタウェイ』の脚本家で、80年代のハードボイルド『ザ・ドライバー』の監督、我らの世代が熱狂したアクション映画を作り続けたウォルター・ヒルの『ストリート・オブ・ファイアー』(1984)だ。
ロックンロールの寓話(A ROCK&ROLL FABLE)と出る冒頭から全編大人のおとぎ話。
何度観ても楽しめる数少ない映画。
ダイアン・レイン扮する歌姫エレン・エイムのコンサートで始まり、コンサートで終わる円環構造。
エレンはコンサート中に暴走族の一団に誘拐される。
昔の恋人トム・コーディ(マイケル・パレ)は姉に呼び戻され、エレン救出に向かう。
酒場で知り合った女兵士マッコイ(エイミー・マディガン)を連れて行く。
暴走族のアジトを急襲したトムは、マッコイの活躍よろしく無事エレンを救出。
翌日暴走族が奪い返しに来るが、トムは族のボス(ウィリアム・デフォー)と一騎打ちして勝ち、追い返す。
エレンはトムとよりを戻そうとするが、トムは進む道が違うとエレンのコンサートの最中に立ち去る。
相棒のマッコイと共に。
なんのひねりもない単純なヒーローモノが、なんで再見に耐えるんだろう?
まず、セット・美術の素晴らしさがある。
50年代風だが、どこか80年代も混じっている。
リーゼントとふわっと広がったスカートの若者達がエレンのコンサートを観に劇場に集まる。
ネオンが濡れた路面ににじんで反射する冒頭のショットで、安心して映画の世界にひたることができる。
リッチモンドという設定だが、おそらく現実とは違う、夢の中にだけある街だ。
観客は一時間半の夢を見て、一瞬たりとも醒めたりしない。
次に音楽。
冒頭と最後のコンサートシーンのエレンは、両方ともかっこいい。
歌は吹きかえらしいが、若干19歳のダイアン・レインは見事に歌姫らしく見える。
カットがめまぐるしいので、吹き替えかどうか分からないしね。
特に最後の“Tonight Is What It Means To Be Young”は、意味深な歌詞だ。
夢で見た天使=昔の恋人は、手に入らないから、現実の今夜を踊り明かそう、てな感じで、去っていくマイケル・パレを振り払うように歌う姿にぐっとくる。
昔Kが「この歌手は相当上手い」と言ってたけど、洋楽好きのHからみてどう?
歌詞と映像
http://mettapops.blog.fc2.com/blog-entry-222.html
最後に映画的魅力について。
最初から最後まで、映画っぽいシーンが満載。
それを観ているだけで、幸福になれる。
例えば、トムがふるさとの街の駅に降り立つシーン。
まずマイケル・パレとクレジットが出る。
ホームの横に貼ってあるエレンのコンサートのビラにちらりと目をやる。
次のカットでダイアン・レインのクレジット。
このクレジットが出るタイミングが絶妙。
例えば、トムが街のチンピラをあしらうシーン。
かっこつけてナイフを振り回すチンピラから、あっさりナイフを取り上げ、一発しばいてからナイフを返す。
またナイフを使おうとするとまた取り上げてしばく、また取り上げてしばく、またまた取り上げてしばく。
例えば、救出されたエレンとトムがわだかまりを超えて抱き合う雨の中のキス。
誰だったか忘れたけど「土砂降りの中で抱き合ってキスするシーンなんかやったら女優をやめれない」と言ってた女優がいたっけ。