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2013年3月

2013年3月19日 (火)

世界トップ100大学に10校をランクインさせる見込みがあるのか?(3)

大学ランキングを上げることを意識して、英語での授業を増やすという方針に傾くことは危険である。ただし、優れた外国人研究者を増やしていくことは戦略的に有意義であり、結果として英語による授業が多くなることは結構なことである。そのためには、東京大学を始めとする主要な研究大学に置かれているWPI拠点での種々の取組を、計画的に全学化していくことが具体的な目標になるだろう。また、科研費の英語による申請・審査など、研究者が専ら英語で活動できるように、我が国の競争的資金システムをグローバル対応の観点から整備することが先決である。こうしたことは、文部科学省等の努力で実現可能である。

 

私は不満に思うことは、誰の責任で、何を実現するのか、費用はどう賄うのか、手順や体制はどう考えるのか、要するに経営的な思考がすっぽりと抜け落ちていることに在る。例えば、優秀な外国人留学生を獲得するのは国際競争である。勝つためには金が要るのである。海外にアンテナを伸ばして広報宣伝・情報収集活動をするのは良いが、学生に対してどういう経済的条件を提示できるかによって、あるいは、当該大学の特定の専門分野のランキングによって、日本の大学に来る者は来るし、来ない者はどうしても来ないのである。そうした現実を知ってか知らずか、きれいごとばかりでは国際競争に勝てるわけがない。ふわふわとつかみどころがない戦略を提示している文部科学省自身、待ったなしに人材力強化に取り組む必要があるのではなかろうか?

世界トップ100大学に10校をランクインさせる見込みがあるのか?(2)

グローバル人材の育成に関する目標にも、地に足が付いた現実感がない。例えば、「大学で英語で授業を聞き、議論し、論文を書くことができる英語力」を高校卒業までに身に着ける生徒の割合はどれほどと見込んでいるのだろうか?確かに、学部レベルで海外の有名大学に入学する生徒もいるので、日本全体では数百名くらいは候補者がいるだろう。しかし、現在の日本の高校のカリキュラムで、そういうレベルの英語力を養成できるわけではない。学習指導要領を変えろとまでは言わないが、高度の英語力を身に着けられる特別な教育の場を、文部科学省としてはどういう形で用意するつもりなのか?ここで言われているグローバル人材の育成については、規模観も湧かなければ、施策、財源も不明である。本当にやる気があるのならば、SSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)程度の大きな予算を配分する実験校を各県に設置したらよい。せめて同一学年で1万人規模の人材プールを作るくらいでなければ、教育を通じた社会構造の変革にはならないだろう。

 

もっとも、高校卒業段階で英語力が幾らか上がったとしても、我が国の主要な大学において、英語による専門教育にどれほどの需要があるかは分からない。英語力の飛びぬけて高い人材は、経済的な事情が許せば、まずは海外の有名大学を目指すことになるだろう。上記の英語力の養成と関連する施策として、世界と競う大学には重点支援を行うとして、英語で授業を5年で3割に、10年で5割超にするという成果指標が示されている。英語での授業が専門教育の内容を理解するレベルを下げる可能性について、既に専門家からの指摘もあるが、文部科学省はどう考えているのだろうか?そうした問題を検証するために、限られた大学で実験的に英語での専門科目の学修を実行してみたらどうだろう。巷で流布している表現によれば、英語で授業を行えば教員の発信力は6割になり、さらに学生の理解力はその6割になるので、学修レベルはコミュニケーションの低下で4割以下になってしまうとさえ言われている。「聞く、理解する」を超えて、「議論する、記述する」という行為を考えれば、本当に修了者の学力低下をきたさないのか、方法論をよく研究して徐々に進めることが賢明であろう。

世界トップ100大学に10校をランクインさせる見込みがあるのか?(1)

2013315日、産業競争力会議に、下村文部科学大臣から、「人材力強化のための教育戦略」と題する資料が提出された。直ちにインターネット上に公表されたので読まれた方も多いと思うが、多少我が国の大学の現状について知識を持つ者から見れば、いつもは大人しい文部科学省のイメージから懸け離れた驚愕の内容が含まれている。いつもは生真面目なお堅い人物が、急に空高く舞い上がってしまったような印象である。タイトルに掲げた世界大学ランキングのトップ100位以内に10校をランクインさせるという目標は、その最たるものである。

 

総合科学技術会議において、2012年初夏に作成した人材育成に係る工程表において、100位以内に5校という目標が掲げられたと記憶している。これまでの潮流を見る限り、東京大学、京都大学は100位以内を堅持しているものの、東京工業大学、大阪大学、東北大学はやっと200位以内を確保している程度で、アジアを中心とする新興国の台頭によっていずれもランクを落としている状況にある。そういう中では、東北大学までの5校を100位以内に押し上げることができ、それに続く数校が200位以内にランクインできれば、退潮気味の我が国の大学群が国際的に存在感を取り戻せると考えていた。

 

政権交代があったとは言え、1年もたたないうちに法外な目標を、文部科学省自らが持ち出すとは、世の中変わったものだと感じた次第である。その意欲だけでも褒めたいところだが、どうしても気乗りしないのは、目標達成への工程をどのように描いているのか、皆目見当がつかないからである。あえて言えば、文部科学省はこうした目標群に対して当事者意識を持っているのか、些か疑問に思えてくるのである。よもや言いっ放しで責任を負わないつもりではないだろうが、教育や研究に係る質・量のレベルアップには、当然費用が掛かる。その追加費用を、誰が負担するのだろうか?そうしたことには一切言及せずに、達成可能性が乏しいと思われる目標をヒラヒラさせるならば、大学の現場は戸惑うばかりである。そうではないというのであれば、実施主体と財源確保を含む工程表を直ちに明らかにしてもらいたい。

 

2013年3月13日 (水)

危機に瀕している若手研究人材の育成をどう立て直すべきか?(3)

1の退職金制度は、優れた研究人材の流動性を阻害しているので、国際競争に勝ち残っていこうとする大学には既にお荷物になっている。この際、早く精算して組織への貢献に応じたメリハリのある給与体系に移行しようという思い切りには拍手を送りたい。もちろん、学内からも手を替え品を替えての異論がありそうだし、国は満額の財源交付を渋るに違いないので、実現への道は長く曲がりくねったものになるだろうが、考え方の筋道は正しいと思う。

 

2つ目の混合給与に関しては、国の財政状況に鑑みて、運営費交付金による人件費の配分には大きな期待が持てないので、他の財源と併せて必要な人件費を賄っていくという自立した経営体のシステムに転換しようとする意図である。本来、法人の経営責任において、人件費を含む財務全体をコントロールして行くべきであり、世界の大学との人材獲得競争に参加するためには、財務の自主性・自律性を高めることは、遅かれ早かれ不可避である。若手研究者の雇用が任期付きに偏してしまっている状況を変革するために、混合給与を広く認めて、現状を打破するきっかけを作ることには、大きな意味がある。現在の閉塞的な状況から脱するためには、外部資金等の財源確保に加えて、人件費財源の柔軟性は不可欠の要素である。法人化後の推移の中で、大学法人によって運営費交付金が実質的にカバーできる経費の範囲は多様になってきており、もはや正規雇用は交付金財源だけに限ると制約する必要は乏しいのではなかろうか?

 

3の提言である、日本版CNRS方式の研究員制度の創設については、実質的に12000人もの研究者を国の支出で雇用する枠を作る内容であり、教育研究上の意義は認めるとしても、財政的な観点からは容易に実現できるものではなかろう。もしもこれだけの人件費を追加支出できるのであれば、地域の高等教育を担う大学には安定的な財源を少しでも追加し、世界との競争に挑む研究大学には世界標準のシステムを構築するための財源として交付して、ともに結果を評価しながら資源配分を調整する方が、予算の執行上は効率的だと考える。研究独法にも、その性格に応じて資源配分及び評価・調整すればよい。

 

五神副学長の指摘を待つまでもなく、若手研究人材の育成に関して、我が国は失敗しつつある。じり貧状態である。問題を先送りしても、ますます危機が深まるだろう。東京大学からの提言は、すべてが実行可能なものとは思えないが、少なくとも一部には、きちんと検討して実現すれば現状打破のきっかけになると思われる貴重な内容が含まれている。危機から目をそむけずに、大学と連携して、迅速に最善と考えられる手を打つ責任が、文部科学省にはあるのではなかろうか?危機のシグナルは既に明白で、もはや問題解決のための具体的な行動あるのみである。言い訳や問題の先送りは不可である。やっている振りも無用である。これ以上の不作為で時間を浪費することは許されない。大学とともに危機に立ち向かう姿勢を見せてほしい。

危機に瀕している若手研究人材の育成をどう立て直すべきか?(2)

こうした危機的な状況については、これまでもたびたび指摘されてきたが、博士課程の不人気については大学院教育の中身の問題があり、定年延長を含む研究者の雇用に関しては大学法人の経営判断の問題があるために、大学自身が危機を乗り越えるためにどのように身を切るのか明確にすることなしに、問題の処理を専ら国に担ってほしいと期待することはお門違いであろう。確かに国にも責任がないとは言えない。民主党政権時代に、事業仕分けにおいて、グローバルCOEや世界トップレベル国際研究拠点形成促進プログラム(WPI)の間接経費を廃止する措置が取られたことで、大学の自助努力・改革促進の財源が減少したことは事実である。また、博士課程学生への経済的支援を支える機能を担ってきたグローバルCOEについては、後継プログラムが立案されず、制度自体が消滅してしまったのも事実である。相当な規模の予算を引き上げれば現場にどのような影響が及ぶか、想像できなかったわけではなかろう。それでも政治が無駄だと烙印を押して予算を削減したのだから、今日の危機的な状況は織り込み済みのはずである。当然の結果として、科学技術イノベーションの将来を担う人材養成に赤信号が灯ったのである。これまで「賢明な」選択をしてきた責任を、大学法人においても国においても、誰ひとり取らないつもりなのだろうから、我が国は、実に虚しい無責任体制の国である。

 

システムを壊すのは簡単だが、一度壊れたシステムを再構築するのは、よほど骨が折れる仕事になる。面倒な仕事に首を突っ込むお人好しが、どれほど霞が関に居るのか分からない。しかし、五神副学長による研究者の雇用制度改革に関する提言には、政策的に興味深い内容が含まれている。私は、東京大学の学術研究システムの経営を担う人物が、こういうことを正式な場で提案していることに注目したい。彼の提言は、退職金を早急に精算し年俸制とする(例えば50歳以上の東大教授全員を年俸制へ)、混合給与の大幅導入(一律給与制を改める、外部資金を雇用財源化)、大学・研究独法の連携により府省横断で国家雇用研究員制度により優秀人材確保の3点である。

危機に瀕している若手研究人材の育成をどう立て直すべきか?(1)

20133月、自民党の科学技術イノベーション戦略調査会研究開発力強化小委員会(小坂憲次委員長)において、五神(ごのかみ)東京大学副学長から「若手研究人材の育成」と題する講演があった。東京大学においてすら、優秀層が修士で就職し博士課程に進学しない、博士課程学生の視野や興味が狭いという問題を抱えている。例えば、修士修了者の博士課程進学状況の推移をみると、2011年の進学率は25.8%で、10年前に比べて16.1ポイントも減少している。その背景には、若手研究者雇用の不安定化があると考えられる。東京大学の全教員・研究員の内訳を、2006年と2012年で比較すると、全体数は5365人から6349人へと18.3%増加しているものの、任期が付されていない者は3055人から2519人に17.5%も減少している。その結果、2012年においては、実に60%以上が任期付きポストで雇用されており、若手に至っては、任期なしのポストが削減され、任期付きの数が大幅に増加しているために、東京大学において、任期付きの研究者が任期なしのポストを得ることは、文字通り至難である。こうした危機的状況に加えて、この4月から改正労働契約法が施行され、通算5年を超えて有期雇用契約が反復更新された場合には無期(任期なし)労働契約に転換することとなるために、大学法人の経営上の判断により、研究人材及び研究支援人材は5年を超えての任期更新を行わない方針が一般化しつつある。五神副学長は、任期5年ではオリジナルな研究にじっくりと取り組むことは不可能で、研究人材に関しては、特例的に10年まで有期雇用を認めるべきだと指摘している。ただ、厚生労働省が10年というような特例を法制化することは考えにくい。

2013年3月 6日 (水)

国立大学法人等への1800億円の出資で何を実現しようというのか?(3)

このように現実的に考えてみれば、今回の出資金は真面に使いようがないというのが、当面の結論になる。費消は困るというのであれば、基金のように積み立てておいて、利子だけで技術移転に関連する事業を行えば、誰にも文句は言われないだろう。しかし、本質的に出資金を活かすとすれば、制度改革によって国立大学法人の業務範囲を拡大することが必要であろう。特に、この金を大学発の技術を事業化していくためのヴェンチャー・キャピタルのような役割を果たすものとして運用できるようにすることが望ましい。もちろん好い加減なものに投資せよというわけではないが、技術の目利きは、失敗を経て養われるものである。したがって、ある程度の失敗をできる状況を作って、最善と思う選択肢に実際に資金を投じてみて、その結果から学ぶ、目利き人材を育てることが、今回の出資を最大限生かす道である。そうした観点からは、出資先の法人を限定された研究大学に絞らず、大学の規模の大小にかかわらず、競争力のある研究開発力を有する15大学程度には拡大したほうが良いだろう。また、きちんとした目利き集団の養成・確保について、計画・実施の準備できていることを要件とした方が良い。もし、今回の1800億円が、レベルの高い目利き人材の養成につながり、そうした人材の流動による知識経験の蓄積が、我が国社会にもたらされるとすれば、かなり意味のある歳出になると思う。後知恵と言えばそのとおりかもしれないが、とにかく1800億円を最も有効に活用する方策を、文部科学省は、責任を持って立案・実施してほしい。

国立大学法人等への1800億円の出資で何を実現しようというのか?(2)

以上のことから、かりに国立大学法人に出資金が入っても、その使途は、企業に技術移転が可能となるレベルに研究成果を成熟させるために必要な研究開発に支出するくらいしかないことになる。しかし、この手の予算は、既に府省や独立行政法人が多様な形態で持っており、今さら少数の国立大学法人に限定して資金を配分しなければならない理由は何だろうか?出口を見据えての応用・開発研究を進めるための研究費に使えば、近未来に知的財産権を生み、それが企業によって事業化されて、大学法人は知財収入を得るというシナリオだろうか?こうした研究活動は従来からも外部資金を獲得して行われており、その結果、1件で億円単位の知財収入に結びついている例もあるにはあるが、法人全体として特許の実施料収入が維持費用を上回っている例は聞いたことがない。要は、到底黒字にはなっていないのである。

 

やはり、大学という機関は、学術的成果を生み出すことを本来の目的としているが、研究開発に投資して、特許を取得し、事業化し、市場を獲得して、経済的な効果を上げるという企業のような活動を行うようにはできていない。企業人から、大学はプロフィットセンターではなく、コストセンターだと言われるのも、そうした文脈で考えれば当然のことなのである。そのコストセンターの研究費に充てる金を、出資の形式で出すというのは、所詮、辻褄の合わないことではなかろうか?出資金が枯渇するまで事業化有望だと考える研究活動にお使いくださいと言う気前の良い話であれば、いくらでも「適当な」使途はあるだろう。大学という存在は、国の施策に合わせた振りをして研究費を獲得し、自分たちが本当にやりたいことに巧みに充当してきた経験が豊富にあるので、今回も同様に「嘘も方便」で調子を合わせてくれるだろうが、国としては出資金が次々と雲散霧消しても構わないのだろうか?

国立大学法人等への1800億円の出資で何を実現しようというのか?(1)

既に平成24年度補正予算は国会で議決されたので、今さら覆ることはないが、どうにも理解が難しいのは、文部科学省の産学協同の研究開発促進のための大学及び研究開発法人に対する出資1800億円である。特に異様な印象を与えるのは、文部科学省の資料を見ても、1800億円という巨額な国家予算の歳出を説明する内容自体が、他の重点事項に比して極めて貧困だということである。資料によれば、出資の目的は、「成長による富の創出のため、大学や法人による、研究開発成果の事業化・実用化に向けた官民共同の研究開発を推進する」ことである。また、その事業の内容は、「国が大学や独法(JST)に出資し、研究開発成果を経済再生に活用するとともに、利潤に応じて国庫納付を行う」というものである。図解の中では、簡単な使途の説明があり、「インフラ、エネルギー、再生医療などの実用化、事業化に近い案件について、大学と企業の共同研究による事業化や、全国の大学の技術を用いた事業化開発を支援」と記されている。出資先の大学は、中核となる国立大学であり、噂では極めて限定された数か所に過ぎない。一体、国はこの出資で何を実現しようというのだろうか?

 

始めに、国立大学法人の業務範囲を確認しておこう。まず、私立大学を設置する学校法人と異なり、収益事業を行うことができないとされている。したがって、国立大学法人が種々の事業を企業と共同で行うことは、基本的に不可能である。また、国立大学法人の資産を、「当該国立大学における技術に関する研究の成果の活用を促進する事業であって政令で定めるものを実施する者に出資すること」は可能である(第22条第1項第6号)が、政令で定める事業は、「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律 (平成10年法律第52号)第4条第1項 の承認を受けた者(同法第5条第1項 の変更の承認を受けた者を含む。)が実施する同法第2条第1項 の特定大学技術移転事業」のみとされている。すなわち、大学のTLOに出資することは可能だが、それ以外に法人の資産を移転することもできないのである。

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