SNR Super Natural Reactivation 超常性再活性化現象3
キャンセルとなったパーカー農場を後に、三人は途中のダイナーで昼食をとりながら今後の作戦を練ることにした。ブレンダは車で移動中に本社へと連絡を取ったのだ。その結果、代案として別なネタのVTRとして取材することを指示されたのだ。
ダイナーの駐車場に中継車を止めた。三人は車から降りるとダイナーのドアを開けた。ダイナーの壁にはヘラジカの首の剥製が壁に飾られ、店内はブルー・グラスの音楽に満たされていた。
三人はカウンターから離れた壁際のテーブル席に陣取った。
素早く一番最初にメニューに手を伸ばしたのはブリスコだった。メニューを一番手に取り損ねたコングは隣のテーブルからメニューをつまみ上げた。
店には客はまばらだった。カウンターの後ろの棚には酒がずらりと並んでいる所を見ると、夜は酒場として営業しているらしいことが容易に想像出来た。
中年の女の店員が注文を聞きに来た。三人はそれぞれの好きに料理を頼んだ。
「ブレンダ。どうするよ?」
ブリスコが頬杖をつきながら目だけをブレンダにやった。
「そうねえ。一度ミリオフォールズに戻りましょう。局で話題を探しましょう。」
「アテはありそうか?」
コングはタバコの煙を吐きながら、言った。
「まあ、変わり者らしいけれど金属で作品作りをしている芸術家がいるわ。この間、ちょっと聞いたのよ。」
「他には?」
「探してみて、ありそうになければそのアーティストを訪ねましょう。」
ブリスコは髪を撫で付けると
「しかし、牛ってのはそんなにセンシティブなモンなのかね?」
「ブリスコ、知らないのか?ああいう牛小屋には普通、わけの分からない部外者は入れないモンだぜ。人間の体には、牛には致命的なウィルスやら菌がある場合もあるからな。それに感染しちまったら、全滅ってのもありえるからな。」
「なんだよ。俺らが不潔ってことかよ?」
「まあな。俺もそうだしお前もそう。俺らがその辺の牛を清潔とは思わないみてえに、向こう向こうで俺らを清潔とは思ってないのさ。それに、農場主はその牛で商売してんだから。取材が来たなんていう一時の珍事のために、牛に病気が蔓延なんていうリスクは背負えないわな。聞けば、牛が一頭、怪我をしてたわけだろ?そこに俺らが菌を運んできたら、弱り目にに祟り目、まさにこの事だよ。」
ブレンダは携帯電話のメールをチェックしながら
「しかし、妙な感じがしたわね。そんな事、前もって連絡をくれたらよかったのに。」
それにブリスコが
「そうかい?今までもドタキャンが無かったわけじゃあないぜ。」と言った。
「そうだけれど、何かあのパーカーさん。妙な感じがしたわ。言葉の歯切れが悪かったというか…」
コングが灰皿でタバコを消しつつ
「ああ、そうだったな。全部を聞いてたワケじゃあなかったが、そいつは俺も感じたね。」と言うと、またタバコに火を点けた。
「おい、コング。吸い過ぎじゃねえか?チェーンやってこの間、喉を悪くしたのもう忘れたのか?」とブリスコがたしなめた。
そうこうしているうちに注文の料理がやってきた。持ってきたのはさっきの店員だった。
料理の乗った皿が行き渡るとその店員が尋ねた。
「あなた達、見ない顔ねえ。テレビ局の人?」
「ああ、ミリオフォールズのZAC-TVのクルーだよ。ご名算だね。」とブリスコが言った。
「ええ、テレビ局の車に乗ってきたから…。これからどこかで取材?それとも帰りかしら?」
「行ったが断られ、そんで帰りってトコだな。」
「まあ!どこへ取材に?」
ブレンダが「この先のパーカー農場よ。バイオ発電の取材よ。」
「ああ、パーカーの所ね。無理もないわ。」
料理を飲み込んだブリスコが
「何だい?ドタキャンが趣味なのかい?」と皮肉った。
「ブリスコ!!」ブレンダがブリスコを睨んだ。
「何か事情でもあったのかい?」とコングが聞いた。
「そうねえ。一昨日だったかしら?パーカーの息子夫婦が事故にあったみたいなの。夜のことだったらしいわ。パーカーの息子さんは大酒飲みだったのよ。その日も飲酒運転よ。奥さんも酒好きだったわね。道の脇の木に衝突したらしいわ。二人そろって死んだらしいわ。まだ若い夫婦だったのに…」
「なるほど、そういう事情だったか…」コングが料理の皿に目を下ろした。
「まあ、いきなりこんな事聞くのは変だけれど、何かこの辺に珍しい事はない?パーカー農場の穴埋めをしなくちゃならないのよ。」
ブレンダが聞いた。
「ウチの店よ。3年前に他の州のテレビ局が取材に来たわ。ウチのステーキにはちょっと自信があるのよ。勿論、ステーキを取材されたわ。」
と店員は微笑んだ。
缶コーラを飲みながら、ブリスコが
「地域ネタとしては上場じゃないか?なんだったら、メシを喰った後でカメラを回したっていいぜ。喰いたくないなら、俺がそのステーキを食ってもいいんだぜ。」
と言った。
「そうだな、収穫なしで局に帰るよりはいいんじゃないか?」とコングがブレンダの肩を軽く叩いた。
「そうねえ、そうしましょうか?」とブレンダが言った後、店に男が入って来た。
店員がその男に「いらっしゃい。」と言った。
男は店員に「やあ」と手を上げると、店主のいるカウンター席に座った。
店員は「あの人は保安官よ。」と言った。
その保安官はコーヒーを飲みながら、店主と談笑していた。
「あの人が、この間の事故の現場に行ったのよ。」
三人はしばし、彼を見ていた。
店員が保安官に「ウィラード。ちょっと、聞きたいのよ。」
「おお。パット。何だね?」ウィラード保安官は口ひげをぬぐった。
「この人達、テレビ局の人達なのよ。取材の話題を探しているのよ。何か面白いことが無いかしら?」
「この田舎で面白いこと?そりゃあ、随分と難儀な話だな。」ウィラード保安官は考え込んだ。
「おお、そうだ。」と言ってウィラードは顔を上げ「パーカーの農場はどうだ?あそこには最近、最先端の自家発電装置が…」
「そこは、さっき断られたのよ。」とブレンダが言った。
「そうか…。だったら…。うーん。」ウィラードは灰皿を手元に寄せた。
「ああ、あれだ。自然公園だ。あそこにパーカーのやつと同じ発電装置が先月入った。あそこの管理人のカーツ大佐に連絡するといい。」
店員は「それよ。それがいいわ。大佐はもうだいぶ前に退役しているのよ。今は暇な時期だろうから、きっと取材させてくれるわ。」といって指をパチリと鳴らした。
「連絡先はどこかしら?」ブレンダは店員に聞いた。すると保安官が携帯電話を取り出し、アドレスを探し始めた。そこに急に着信音が鳴った。
「ええい。誰だ…。ありゃりゃ、大佐だ。」と呟いて電話に出た。
「おお、大佐。調度、今あんたの噂を…ええ!? 何だって!? 分かった。すぐに行く。」
と電話を切ると、いそいそと立ち上がって財布から紙幣を出した。
「カーツ大佐から通報だ。パーカー農場でちょっと、厄介事があったらしい。また、来るよ。」と店員にいうと、店を出た。
三人も紙幣をテーブルに置き、店員に「終わったら、また来るよ。」と言ってウィラードの後を追った。
ウィラード保安官はパトカーに乗って、無線をかけていた。
「直接、俺の電話に連絡が来た。通報者はカーツ大佐。現場はパーカー農場だ。俺は直接現場に行く。応援をよこしてくれ。」無線を置くと、パトカーのサイレンを鳴らして発進した。
ブレンダ達もそれに続いた。
途中までは三人が通った道と同じ道であったが、途中でわき道に入って行った。
車内ではブリスコがカメラを用意していた。
「一体、何があったんだろうな?」コングがハンドルを握り、ウィラードのパトカーの後を追っていた。
「牛が大暴れしてんのかね?ストレスが溜まってたんだろう?」とブリスコがカメラのスイッチを入れた。
ブレンダはフロントガラスを凝視したまま、「機械に誰かが挟まれたのも知れないわよ。」
「それじゃあ、保安官の出る幕じゃないだろう?レスキューか消防か、どちらかだろ。」コングがタバコを咥えた。
パトカーが木製のゲートを越え、砂利敷きの小道を暫く行くと、家屋の前に到着した。ウィラードはパトカーを降りると、その家屋へと駆け寄った。
家屋から、茶色のテンガロンハットを被った男が出てきた。
「ウィラード!!奥さんは、家の中だ。こっちだ。来てくれ。」と行って手招きしながら、走って行った。
ウィラードは大佐の後を着いて行った。三人も彼の後に続いた。
「ここだよ。」といって、カーツ大佐は、牛舎の前に止まった。「この中だ…。ロバートが大変なんだよ…。」と言って牛舎の閂を外した。
「気をつけろ」そう言いながら牛舎の扉を開けた。
ウィラードは半ば急ぎ足で中へと踏み込んでいった。ブリスコはその後ろからカメラを回した。
牛舎の中は空で牛が一頭もいなかった。「そこの隅だ。」とカーツは指を指した。
ウィラードは覗き込んだ。
「なんてこった…」ウィラードは言葉を失った。
ブリスコがカメラをウィラードの肩の向こうにフォーカスした。
そこには、さっき会ったばかりの農場主、パーカーが血で赤く染まった床の上に倒れ、そのパーカーに下手な縛り方で鎖に繋がれた二人の若い男女が、草食動物に群がる肉食動物のように噛み付き、その肉を食いちぎっていた。
その二人の男女は、パーカーに喰らいつくことに執心しているようだったが、ウィラードに気付くと、血の付いた顔を上げた。
「トラビス…」ウィラードは目を見開いた。
若い男は立ち上がると、片手でウィラードに掴みかかろうとした。
ウィラードは後ろに下がり、腰の銃に手をかけたが、若い男はそれ以上は進んで来れないようだった。鎖で後ろの壁に繋がれていたからだ。
若い女も這いずってウィラードの足を掴もうとしたが、両足に繋がれた鎖のせいで、思うように前には進めない状態だった。
「こんな…バカな…。」
ウィラードは唖然としていた。
それらの様子にブリスコは固唾を飲みながら、カメラを回し続けた。カメラを掴む手の平に汗が滲んできた。
少し遅れて、ブレンダとコングが牛舎にやってきた。ブレンダはそのパーカーの無惨な姿を目にすると手で口を押さえた。
コングは「うあ…。こいつは…」と言って目をそむけた。
ウィラードは我に返ると、
「みんな、ここから出ろ。早く!!」
と言って撮影に夢中になっていたブリスコの背中を叩いた。全員が牛舎を出ると、再び扉を閉めて閂をかけた。
「応援が来てからだ。それまで、ここは何があっても開けるな。」と全員の目を見た。
「大佐、ところで、ネルはどうした?」
「おかみさんは、家だよ。ガタガタ震えてる。」
「行こう。」
ウィラードはカーツと歩き出した。そしてウィラードは振り向き、ただ立ち尽くしているブレンダ達に向かって「行くぞ、そこを離れろ!!」と大声を張り上げた。はっとした三人もパーカーの家へと歩きだした。
家の中ではパーカーの妻であるネルがキッチンの床に座り込んだまま、ガタガタと震えていた。
大佐がその傍らにしゃがみ込み、彼女の肩に手を置いた。
「ネル、もう大丈夫だ。ウィラードが来たよ。」
ネルの顔面の筋肉は恐怖で引きつっているのか、恐らく喉の筋肉までも強張らせてしまっているようで、何かを必死に話そうとしているのは、見て取れるのだが、それがなかなか声にならないようだった。
ウィラードはその様子を伺うと「ダメだな。今どうにも喋れないだろう。」と言った。
外からパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。パトカーが二台、家の前に停車した。ウィラードは窓からそれを見ると、玄関を開けた。
「こっちだ。」
ウィラードの同僚達が玄関に来た。
「トミー、お前さんは大佐と一緒にネルを病院に連れて行ってくれ。」
「了解。」そういうと、家の中に入り、大佐と二人でネルを立ち上がらせ、ゆっくりとパトカーへと乗せた。
その間に、ウィラードは他の保安官達に状況を説明していた。
一通り、説明し終えたウィラードは、ブリスコを向いた。
「どうせ、撮影するなと言っても撮る気だろう?」
ブリスコは無言だった。
「撮ってもいいが、安全の保証はせんぞ。それと、後でそのカメラの動画データを証拠として提出してもらうかも知れんからそのつもりでな…」
ウィラードは同僚達を引き連れて、牛舎へと向かった。ブリスコとブレンダ、コングもその後を付いて行った。
ダイナーの駐車場に中継車を止めた。三人は車から降りるとダイナーのドアを開けた。ダイナーの壁にはヘラジカの首の剥製が壁に飾られ、店内はブルー・グラスの音楽に満たされていた。
三人はカウンターから離れた壁際のテーブル席に陣取った。
素早く一番最初にメニューに手を伸ばしたのはブリスコだった。メニューを一番手に取り損ねたコングは隣のテーブルからメニューをつまみ上げた。
店には客はまばらだった。カウンターの後ろの棚には酒がずらりと並んでいる所を見ると、夜は酒場として営業しているらしいことが容易に想像出来た。
中年の女の店員が注文を聞きに来た。三人はそれぞれの好きに料理を頼んだ。
「ブレンダ。どうするよ?」
ブリスコが頬杖をつきながら目だけをブレンダにやった。
「そうねえ。一度ミリオフォールズに戻りましょう。局で話題を探しましょう。」
「アテはありそうか?」
コングはタバコの煙を吐きながら、言った。
「まあ、変わり者らしいけれど金属で作品作りをしている芸術家がいるわ。この間、ちょっと聞いたのよ。」
「他には?」
「探してみて、ありそうになければそのアーティストを訪ねましょう。」
ブリスコは髪を撫で付けると
「しかし、牛ってのはそんなにセンシティブなモンなのかね?」
「ブリスコ、知らないのか?ああいう牛小屋には普通、わけの分からない部外者は入れないモンだぜ。人間の体には、牛には致命的なウィルスやら菌がある場合もあるからな。それに感染しちまったら、全滅ってのもありえるからな。」
「なんだよ。俺らが不潔ってことかよ?」
「まあな。俺もそうだしお前もそう。俺らがその辺の牛を清潔とは思わないみてえに、向こう向こうで俺らを清潔とは思ってないのさ。それに、農場主はその牛で商売してんだから。取材が来たなんていう一時の珍事のために、牛に病気が蔓延なんていうリスクは背負えないわな。聞けば、牛が一頭、怪我をしてたわけだろ?そこに俺らが菌を運んできたら、弱り目にに祟り目、まさにこの事だよ。」
ブレンダは携帯電話のメールをチェックしながら
「しかし、妙な感じがしたわね。そんな事、前もって連絡をくれたらよかったのに。」
それにブリスコが
「そうかい?今までもドタキャンが無かったわけじゃあないぜ。」と言った。
「そうだけれど、何かあのパーカーさん。妙な感じがしたわ。言葉の歯切れが悪かったというか…」
コングが灰皿でタバコを消しつつ
「ああ、そうだったな。全部を聞いてたワケじゃあなかったが、そいつは俺も感じたね。」と言うと、またタバコに火を点けた。
「おい、コング。吸い過ぎじゃねえか?チェーンやってこの間、喉を悪くしたのもう忘れたのか?」とブリスコがたしなめた。
そうこうしているうちに注文の料理がやってきた。持ってきたのはさっきの店員だった。
料理の乗った皿が行き渡るとその店員が尋ねた。
「あなた達、見ない顔ねえ。テレビ局の人?」
「ああ、ミリオフォールズのZAC-TVのクルーだよ。ご名算だね。」とブリスコが言った。
「ええ、テレビ局の車に乗ってきたから…。これからどこかで取材?それとも帰りかしら?」
「行ったが断られ、そんで帰りってトコだな。」
「まあ!どこへ取材に?」
ブレンダが「この先のパーカー農場よ。バイオ発電の取材よ。」
「ああ、パーカーの所ね。無理もないわ。」
料理を飲み込んだブリスコが
「何だい?ドタキャンが趣味なのかい?」と皮肉った。
「ブリスコ!!」ブレンダがブリスコを睨んだ。
「何か事情でもあったのかい?」とコングが聞いた。
「そうねえ。一昨日だったかしら?パーカーの息子夫婦が事故にあったみたいなの。夜のことだったらしいわ。パーカーの息子さんは大酒飲みだったのよ。その日も飲酒運転よ。奥さんも酒好きだったわね。道の脇の木に衝突したらしいわ。二人そろって死んだらしいわ。まだ若い夫婦だったのに…」
「なるほど、そういう事情だったか…」コングが料理の皿に目を下ろした。
「まあ、いきなりこんな事聞くのは変だけれど、何かこの辺に珍しい事はない?パーカー農場の穴埋めをしなくちゃならないのよ。」
ブレンダが聞いた。
「ウチの店よ。3年前に他の州のテレビ局が取材に来たわ。ウチのステーキにはちょっと自信があるのよ。勿論、ステーキを取材されたわ。」
と店員は微笑んだ。
缶コーラを飲みながら、ブリスコが
「地域ネタとしては上場じゃないか?なんだったら、メシを喰った後でカメラを回したっていいぜ。喰いたくないなら、俺がそのステーキを食ってもいいんだぜ。」
と言った。
「そうだな、収穫なしで局に帰るよりはいいんじゃないか?」とコングがブレンダの肩を軽く叩いた。
「そうねえ、そうしましょうか?」とブレンダが言った後、店に男が入って来た。
店員がその男に「いらっしゃい。」と言った。
男は店員に「やあ」と手を上げると、店主のいるカウンター席に座った。
店員は「あの人は保安官よ。」と言った。
その保安官はコーヒーを飲みながら、店主と談笑していた。
「あの人が、この間の事故の現場に行ったのよ。」
三人はしばし、彼を見ていた。
店員が保安官に「ウィラード。ちょっと、聞きたいのよ。」
「おお。パット。何だね?」ウィラード保安官は口ひげをぬぐった。
「この人達、テレビ局の人達なのよ。取材の話題を探しているのよ。何か面白いことが無いかしら?」
「この田舎で面白いこと?そりゃあ、随分と難儀な話だな。」ウィラード保安官は考え込んだ。
「おお、そうだ。」と言ってウィラードは顔を上げ「パーカーの農場はどうだ?あそこには最近、最先端の自家発電装置が…」
「そこは、さっき断られたのよ。」とブレンダが言った。
「そうか…。だったら…。うーん。」ウィラードは灰皿を手元に寄せた。
「ああ、あれだ。自然公園だ。あそこにパーカーのやつと同じ発電装置が先月入った。あそこの管理人のカーツ大佐に連絡するといい。」
店員は「それよ。それがいいわ。大佐はもうだいぶ前に退役しているのよ。今は暇な時期だろうから、きっと取材させてくれるわ。」といって指をパチリと鳴らした。
「連絡先はどこかしら?」ブレンダは店員に聞いた。すると保安官が携帯電話を取り出し、アドレスを探し始めた。そこに急に着信音が鳴った。
「ええい。誰だ…。ありゃりゃ、大佐だ。」と呟いて電話に出た。
「おお、大佐。調度、今あんたの噂を…ええ!? 何だって!? 分かった。すぐに行く。」
と電話を切ると、いそいそと立ち上がって財布から紙幣を出した。
「カーツ大佐から通報だ。パーカー農場でちょっと、厄介事があったらしい。また、来るよ。」と店員にいうと、店を出た。
三人も紙幣をテーブルに置き、店員に「終わったら、また来るよ。」と言ってウィラードの後を追った。
ウィラード保安官はパトカーに乗って、無線をかけていた。
「直接、俺の電話に連絡が来た。通報者はカーツ大佐。現場はパーカー農場だ。俺は直接現場に行く。応援をよこしてくれ。」無線を置くと、パトカーのサイレンを鳴らして発進した。
ブレンダ達もそれに続いた。
途中までは三人が通った道と同じ道であったが、途中でわき道に入って行った。
車内ではブリスコがカメラを用意していた。
「一体、何があったんだろうな?」コングがハンドルを握り、ウィラードのパトカーの後を追っていた。
「牛が大暴れしてんのかね?ストレスが溜まってたんだろう?」とブリスコがカメラのスイッチを入れた。
ブレンダはフロントガラスを凝視したまま、「機械に誰かが挟まれたのも知れないわよ。」
「それじゃあ、保安官の出る幕じゃないだろう?レスキューか消防か、どちらかだろ。」コングがタバコを咥えた。
パトカーが木製のゲートを越え、砂利敷きの小道を暫く行くと、家屋の前に到着した。ウィラードはパトカーを降りると、その家屋へと駆け寄った。
家屋から、茶色のテンガロンハットを被った男が出てきた。
「ウィラード!!奥さんは、家の中だ。こっちだ。来てくれ。」と行って手招きしながら、走って行った。
ウィラードは大佐の後を着いて行った。三人も彼の後に続いた。
「ここだよ。」といって、カーツ大佐は、牛舎の前に止まった。「この中だ…。ロバートが大変なんだよ…。」と言って牛舎の閂を外した。
「気をつけろ」そう言いながら牛舎の扉を開けた。
ウィラードは半ば急ぎ足で中へと踏み込んでいった。ブリスコはその後ろからカメラを回した。
牛舎の中は空で牛が一頭もいなかった。「そこの隅だ。」とカーツは指を指した。
ウィラードは覗き込んだ。
「なんてこった…」ウィラードは言葉を失った。
ブリスコがカメラをウィラードの肩の向こうにフォーカスした。
そこには、さっき会ったばかりの農場主、パーカーが血で赤く染まった床の上に倒れ、そのパーカーに下手な縛り方で鎖に繋がれた二人の若い男女が、草食動物に群がる肉食動物のように噛み付き、その肉を食いちぎっていた。
その二人の男女は、パーカーに喰らいつくことに執心しているようだったが、ウィラードに気付くと、血の付いた顔を上げた。
「トラビス…」ウィラードは目を見開いた。
若い男は立ち上がると、片手でウィラードに掴みかかろうとした。
ウィラードは後ろに下がり、腰の銃に手をかけたが、若い男はそれ以上は進んで来れないようだった。鎖で後ろの壁に繋がれていたからだ。
若い女も這いずってウィラードの足を掴もうとしたが、両足に繋がれた鎖のせいで、思うように前には進めない状態だった。
「こんな…バカな…。」
ウィラードは唖然としていた。
それらの様子にブリスコは固唾を飲みながら、カメラを回し続けた。カメラを掴む手の平に汗が滲んできた。
少し遅れて、ブレンダとコングが牛舎にやってきた。ブレンダはそのパーカーの無惨な姿を目にすると手で口を押さえた。
コングは「うあ…。こいつは…」と言って目をそむけた。
ウィラードは我に返ると、
「みんな、ここから出ろ。早く!!」
と言って撮影に夢中になっていたブリスコの背中を叩いた。全員が牛舎を出ると、再び扉を閉めて閂をかけた。
「応援が来てからだ。それまで、ここは何があっても開けるな。」と全員の目を見た。
「大佐、ところで、ネルはどうした?」
「おかみさんは、家だよ。ガタガタ震えてる。」
「行こう。」
ウィラードはカーツと歩き出した。そしてウィラードは振り向き、ただ立ち尽くしているブレンダ達に向かって「行くぞ、そこを離れろ!!」と大声を張り上げた。はっとした三人もパーカーの家へと歩きだした。
家の中ではパーカーの妻であるネルがキッチンの床に座り込んだまま、ガタガタと震えていた。
大佐がその傍らにしゃがみ込み、彼女の肩に手を置いた。
「ネル、もう大丈夫だ。ウィラードが来たよ。」
ネルの顔面の筋肉は恐怖で引きつっているのか、恐らく喉の筋肉までも強張らせてしまっているようで、何かを必死に話そうとしているのは、見て取れるのだが、それがなかなか声にならないようだった。
ウィラードはその様子を伺うと「ダメだな。今どうにも喋れないだろう。」と言った。
外からパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。パトカーが二台、家の前に停車した。ウィラードは窓からそれを見ると、玄関を開けた。
「こっちだ。」
ウィラードの同僚達が玄関に来た。
「トミー、お前さんは大佐と一緒にネルを病院に連れて行ってくれ。」
「了解。」そういうと、家の中に入り、大佐と二人でネルを立ち上がらせ、ゆっくりとパトカーへと乗せた。
その間に、ウィラードは他の保安官達に状況を説明していた。
一通り、説明し終えたウィラードは、ブリスコを向いた。
「どうせ、撮影するなと言っても撮る気だろう?」
ブリスコは無言だった。
「撮ってもいいが、安全の保証はせんぞ。それと、後でそのカメラの動画データを証拠として提出してもらうかも知れんからそのつもりでな…」
ウィラードは同僚達を引き連れて、牛舎へと向かった。ブリスコとブレンダ、コングもその後を付いて行った。