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ミネルヴァ・エルヴァ6

ブリーフィングルームはタバコの煙と、苦々しいコーヒーの匂いで充満していた。
「では、今回の悪巧みを説明する。」とアスランは、プロジェクターで映し出された地図の前に立った。

アスランの前にボッシュ、キース、クリス、サイモンが座っていた。
「情勢から説明すれば、元々このゼルバムはフェンティの植民地であった。だが、先の北ゼルバムの攻撃によりフェンティは敗退。休戦協定を結び、北側を手放した。現段階では南側を我が国とフェンティが支援をしている状態ではあるが、ヴァルツ連邦と成王国の連中が律儀にそんな協定を守るとは到底、考えられない。いや、なりふり構わず南下してくるだろう。もしゼルバム全土が掌握された場合、ヴァルツと成王国はさらに周辺国の共産化に乗り出すだろう。そこで、上層部は何とかそれをさせないように先手を打ちたいが、国際世論から考えると先制攻撃は非常に困難だ。」
ボッシュはタバコに火をつけ、キースは前髪を手でかき上げると地図を凝視した。アスランは一呼吸置いた。

「そこで、今回の計画が立案された。南ゼルバムの領海には、南ゼルバム海軍の他に我が国の巡洋艦も警備にあたっている。これを北ゼルバムによって攻撃された事を装う。つまりは紛争の火種を自作自演するのだ。それを口実に報復として、北ゼルバムの中枢、軍事施設を中心に空爆。共産軍の武力を麻痺させる。まあ、ここまでされれば北側も黙ってはいられまい、必ず南側に反撃してくるだろう。そして、戦争状態に突入だ。」

ボッシュは、タバコの灰を灰皿に落とすと、「んで、俺らの役回りは?」と訊いた。

「俺らの役回りは、種火だ。北側の空軍を演じる。作戦は夜間だ。日没を待って、空母から発進。味方には北側を秘密に強行偵察するということで話は通っている。低空飛行で一度、北側の領海に出る。その後北側から南に侵入、そして味方の巡洋艦を攻撃。そして再び北側に入って、空母に戻る。俺たちは敵陣営を偵察に行ったことになっているから、機体に破損箇所があったとしてもなんら不思議には思われないし、強行偵察そのものが機密事項なので外部に漏れる危険性も比較的低い。それに、情報局の奴らがすでに、何人か南側に潜伏していた北側のゲリラと、南側の政権に反対していた兵士や協力者を逮捕している。場合によってはそいつらを殺して、俺らの死体とすり替えればいい。味方になりすましたゲリラがやったことにすればバレれることもないだろう。」

「一重二重にお国の立場は守られるが、俺達の命は守れてはいないな。」とクリスはため息をついた。

アスランは全員を見渡すと「では日没に作戦を開始する。」と言った。

5機の飛行機が日没の後に空母から飛び立った。
彼らは敵のレーダーに捕捉されることを防ぐため、低空で暗闇の海を飛んだ。

北ゼルバムの領海上空に入ると、皆一様に緊張が走った。
もし、この低空飛行の状態でさらに上空から敵の戦闘機が来た場合、格好の標的となってしまう。
独立以来まだ間もない北ゼルバムだが、すでに訓練課程を終えた飛行部隊が配備されている可能性があった。

それに付け加え、戦闘経験も練度も高いヴァルツや成王国の空軍機もそれに加わっていることが十分に考えられた。
アスラン達はいち早く、味方の巡洋艦を発見し南側の空に出ようと、レーダーと計器を交互に見つめた。
この間は数秒が数分に感じられるような、不安と緊張の魔の時間だった。

アスランが見つめるレーダーの座標に味方の巡洋艦が現れた。彼らは即座に南側に進路を取り、北側の海へと出た。
そして一団は低空のまま魚雷を投下した。魚雷は、一筋の軌道を海中に描きながら、暗黒の海を不気味に進むウミヘビのように味方の巡洋艦へと進んで行った。

魚雷の来襲をソナーで捕捉したらしく、その巡洋艦は回避の努力をしながら、対空機銃や機関砲で応戦してきた。

これによりアスランはすでに巡洋艦に自分達が捕捉されていた事を悟った。
「全機に告ぐ。敵はすでにこちら捕捉をしていたようだ。ボッシュとサイモンは船を沈めろ。残りは高度を上げて上空を警戒。きっと、戦闘機がこちらに向かってる。」とアスランは言った。

レーダーに飛行機の機影を見たキースが舌打ちをした。
「7機ですね。それと、他の船も集まって来ました。」
「形勢が不利だ。とにかく巡洋艦を沈めろ。クリスはボッシュ達の加勢に回って、さっさと沈めろ。」
「了解。」
「キースは俺と、攻撃チームをディフェンスだ。」
アスランとキースは7機の戦闘機に向かった。
「乱戦に持ち込めれば、こっちのもんだ。船が沈んだ所で撤退だ。」
アスラン達は先手を打って7機の戦闘機にミサイルを発射した。

7機の戦闘機はそれぞれの方向にブレイクした。アスランとキースは機銃とミサイルで敵機の体制を乱し続けた。
「巡洋艦、撃沈。巡洋艦、撃沈。」とボッシュが全機に言った。
「よし、もうこんな所に用はない。行くぞ。全機、撤収だ。」
ボッシュ達の3機がアスラン達と合流し、敵機を数機撃墜すると、残りの敵機の追撃をかわしながら、再び北側の空へ進路を取った。


翌日のテレビでは、北ゼルバム空軍機によるリヴァイデ海軍の巡洋艦の攻撃が、大々的に報じられていた。

「昨日、ゼルバム湾を巡回中のリヴァイデ海軍の巡洋艦が、北ゼルバムの軍用機と見られる飛行機に攻撃を受けた模様です。攻撃により巡洋艦は大破。乗組員に多数の死傷者や行方不明者が出ており、周辺の海域で海軍が捜索や救助活動を行っております。」
とテレビのアナウンサーが言い、続けざまの「報道官の記者会見です。」の声で画面が切り替わった。

切り替わった画面には政府報道官が映っていた。報道官は、多くを語りたくなさそうな、怪訝そうな表情で「攻撃を受けたことは事実ではあるが、詳細は調査中だ。それによって必要な処置を執る。」と語った。

それに対して記者団の中から「北ゼルバムとの開戦の可能性はありますか?!」という質問が投げかけられた。

「かねてより状況があまりにもセンシティブなため、今の段階でははっきりとした事は言えないが、陸海空の軍全てには、いつでもいかなる状況にも対応出来るよう体制を整えさせている。」と答えた。

質問の嵐に見舞われる記者会見場の様子を、アスラン達はテレビ越しにそれを眺めていた。


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Screamerと牛頭鬼八です。岩手県に生まれ、とりあえず生きてます。

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