私たちは死の心配によって生を乱し、 生の心配によって死を乱している。
ミシェル・モンティーニュ
1964年、タンザニアで発見されたホモ・ハビリスは現在分かっている段階で、最も初期のヒト属である。240万年から140万年前に生き、おそらく石と動物の骨から道具を製造したと考えられている。アウストラロピテクスよりも大きな脳を持っていたとされる。
序 章 623戦争
こんばんは。今日のニュースをお伝えします…成王の首都、央京で大規模なクーデターが発生しました…
おはようございます。ニュースをお伝えします…本日未明、央京時間午後7時頃 成王現政権はクーデター軍によって失脚しました。
成王政府はクーデター軍を指揮した陸軍 ホウ上将によって全ての権限を奪われるかたちとなりました…
政権転覆から一週間たちました。ホウ政権は活発な動きを見せています。事実上の新しい指導者 ホウ主席は会見を開き、成王海軍の軍備増強を表明。リヴァイデ合衆国政府は成王軍の太平洋進出を警戒しています…
8時のニュースです。成王軍が海龍側に海軍船籍を複数展開していることが、リヴァイデ合衆国の偵察機によって明らかにされました…
海龍政府は今月6月18日、領海内において、リヴァイデ合衆国、周辺国と合同の軍事演習を行うと発表しました。これは成王との有事を想定したもので期間は2週間と発表されました…
海龍、リヴァイデ合衆国の合同軍事演習が始まりました。この演習により成王政府の反応について、国際社会が注視しています。
夕方6時を回りました。ニュースをお伝えします。海龍の合同軍事演習が行われている海域で、演習中に大爆発が発生しました。これにより演習に参加した海軍船籍3隻が沈没 死傷者、行方不明者については未だ不明 爆発の原因についてもまだ分かっていない様子です…
6月23日に発生した海龍領海内での爆発について新たな事実が判明しました。演習に参加した海軍兵士の証言によると、演習中海上で大きな爆発音と共に巨大な光が発生、その直後に強い突風が吹き荒れキノコ型の雲が見えたとのことです。
リヴァイデ合衆国政府は演習中、上空を飛んでいた偵察衛星のデータを解析し、この証言も含めて原因の追求をしていく方針です…
リヴァイデ合衆国の衛星が先日演習の行われた海域で、非常に高いレベルの放射線を確認しました。また、リヴァイデ合衆国政府は演習が行われていた時刻に同海域で正体不明の潜水艦があったことを衛星によって確認しており、これと合わせた結果、戦術核兵器を使用された可能性が高いと見て調査を続けています。
お昼のニュースをお伝えします。リヴァイデ合衆国政府は、先月23日に海龍領海内で発見した潜水艦は成王海軍の船籍であることが判明したと発表しました。同日発生した爆発についても、その船籍が発射した戦術核によるものであるとして、成王政府に核兵器とその他の大量破壊兵器の武装解除と査察の受け入れを要求しました。
これに対し成王政府は強く反発し、徹底抗戦も辞さぬ考えを示しました…
成王海軍の艦隊が海龍領海内に侵攻しました。海龍政府は陸海空全ての軍を緊急動員し、国民に向け戦時非常事態宣言を発令しました。最初に成王側の砲撃が始まり、これに海龍海軍が反撃。双方とも甚大な被害を出しながらも、戦闘は続いている模様です。
北百新の戦車部隊が非武装地帯を越えて南百新に侵入しようとしています。南百新陸軍は38度線に向かって部隊を緊急配備している模様です…
ザナディスタン政府は成王軍の国境侵犯を警戒し、成王との国境付近の警備を強化する考えを示しました…
リヴァイデ空軍のステルス爆撃機が央京に向かって飛び立ちました…
リヴァイデ政府は海龍領海に展開する成王軍の撃退のため、多国籍軍を組織しました。これには、エルーディア、フェンティ、ガルギー、ガーマと限定的な支援活動を条件に天昇が参加しています…
緊急速報です。リヴァイデ、ガーマ、フェンティ、天昇、エルーディア、ガルギーに向けて成王の核ミサイルが発射されました…
成王の核攻撃を受けた国は成王との徹底抗戦の意志を確認し合い、成海戦争への本格的な介入を決定しました…
多国籍軍にザナディスタン、ユーサウス、サンズネイジアが参加を表明しました…
リヴァイデ合衆国政府はエルーディア、フェンティと協議し報復核の使用は原則控えるということで一致しました。これは、成王との全面核戦争を避ける考えであると見られています…
成王海軍が海龍領海から退却しました。海龍を含めた多国籍軍は、これから成王本土に上陸し、央京を目指す模様です…多国籍軍は塩港に上陸しました…
北百新と南百新の戦闘は依然続いたままです…
多国籍軍が央京を陥落。ホウ国家主席を国際法違反として逮捕しました。…
リヴァイデ合衆国は同盟国と協議の結果、成王を分割しそれぞれの国家として独立させる方針を固めました。今後、成王は央京とその付近の地域まで縮小される見通しです。
成王のホウ元主席は、国際裁判によって有罪となりました。核兵器を使用した一連の大量殺戮行為と海龍への侵攻は、世界中の人々を恐怖に陥れたうえ、あまりに多くの尊い人命を犠牲にしたとして死刑判決が言い渡されました。刑の執行のため、ホウ元主席の身柄は海龍の刑務所に収監されます。
第1章 天昇 赤森市 日ノ内 賢志(ヒノウチ ケンシ)
警備員の日ノ内は、パトカーのサイレンの音を夜間工事の現場で聞いた。時計を見ると午前0時。
まだ、自動車が目の前を通りすぎている。
「おい、日ノ内。また警察が走っているな。」警備仲間から無線が入った。
「はい、そうスっね。」
「今日は随分と出動が多いんじゃね?」
「なんスかねえ?どうせ、酔っ払いじゃないスかねえ?」
「違うんじゃねえか?」
そこで一度無線が切れた。掘り上げた土を積み込んだダンプが動き出した。
「ダンプ、そっち通るぞ。」
「はい、了解。」
日ノ内はそのダンプを見送ると、タバコに火を点けた。普段なら現場監督が口うるさい所なのだが、夜である。誰も気付きはしない。
しばらくすると、またパトカーのサイレンが聞こえてきた。どんどんとこちらに近づいてくる。
「ヒノ!! 緊急車両だ。全止めだ。」
緊急車両を優先的に、工事区画内を通すため誘導棒で「止まれ」の合図をした。一般人の運転する車やタクシーが工事区画に入る数メートル前で停車した。
ドップラー効果を起こしながら、パトカーが通り過ぎて行った。
「ヒノ。やっぱり今日は多いぜ。パトカー。」
「はい。何なんだ?」
日ノ内が一般の自動車に「進め」の合図を出した。
「今まで、こんなに出動しているの見たことあります?」
「いやあ。ねえな。こんなにパトカーが走っているのは初めてだな。」
明け方になり、工事作業が一旦終了する頃も、パトカーはサイレンを鳴らしながらそこかしこを走っていた。
勤務が終わり、日ノ内は仲間の運転する車に乗って、一度、事務所へと行った。事務所にはまだ他の人間はいなかった。日勤の警備員達の出勤時間よりもかなり前だった。
トランシーバーを充電器に収めると、伝票をデスクに置いた。これで、夜勤は終了だ。少しふらつき加減、かすむ目を何とか開いて、帰宅する。さすがに早朝だと他の自動車の通行量は少ない。
家路の途中の歩道に、朝帰りの若いカップルらしい男女が手をつないで歩いていた。彼らはこの時間まで、一体どこにいたのだろう? 日ノ内はそんなことを考えながら車を右折させた。
家に到着する。玄関を開けるとカーテンに遮られて、家の中は暗い。妻はまだ起きていない。家の暗さに多少安心した。日ノ内は暗い部屋でないとなかなか寝付けないのだ。
居間に布団を敷くとパンツとシャツだけになって眠った。
2時間も経った頃、日ノ内の妻が起き出した。彼女は足音もドアを開ける音も乱暴でうるさい。
力を加減する筋肉が弱いらしい。なかなか精密に体を動かすことが得意ではないのだ。だが、自分自身はそれを自覚してはいない。
その音に日ノ内は頭に毛布を被る。それを気にすることなく妻はロールカーテンを開いた。そして、空気を入れ替えるために窓を開けた。
通りを走る車の音がもろに入ってきた。続けざま、また緊急車両のサイレンの音。近くの消防署から出動した救急車の音だった。
たまらず日ノ内は起き上がった。しばらく、辺りを見回すと顔を手で押さえた。睡眠不足による片頭痛だ。
彼は睡眠不足だと目の奥から顔半分が痛むのだ。
「その布団、片付けて。」妻がいう。
日ノ内はその言葉に腹が立ったが、何も言わず、不機嫌そうな顔もしなかった。そんなことをすれば、朝から面倒なことになりかねないからだ。
「頭が痛む。」
「何よ。大袈裟に」
朝から喧嘩腰な言い方だった。彼の妻は朝は毎日、焦燥感にかられて多少機嫌が悪くなるのだ。ここはイエスマンに徹したほうがいい。日ノ内はそう思った。
布団を片付けると、テレビをつけた。まだ、時間的には芸能ニュースよりも前だ。日ノ内はワイドショーや芸能ニュースが好きではないのだ。
「本日未明、死亡が確認された男性がお通夜の最中に急に蘇生し、家族や付近の住民にかみつくなどの暴行を次々と働き、警察に逮捕されました。同様の事件は昨夜より全国で多発しており、警察や消防は対応に追われています。」
日ノ内は夜勤中に頻繁に見たパトカーを思い出した。妻は台所でコーヒーを入れていた。
「賢志、コーヒー飲む?」
「ええ? ああ、ああ。」
日ノ内は台所に行った。
「ニュース見たか?」
「あれでしょ?死体が生き返るんでしょ?メールで見たよ。」
「メールって、誰だ?」
「友達から来たのよ。ニュース見てって。メールが来たのよ。」
「ほう…そういや、昨日の夜。仕事中にパトカーを見たぜ。」
「こっちも夜中じゅう、救急車が走っていたわ。」
「そうか…」
「昨日はもう警察とかもすごかったらしいよ。もう、何十件と通報が来てたって。」
「ああ、なるほど。いや、パトカーが頻繁に走っててよお。もう、耳からサイレンが離れねえぜ。」
「本当、夜はうるさかったよ。今日も夜勤でしょ?」
「ああ、まあな。」
「寝るなら二階で寝てちょうだいね。今日は友達が来るのよ。」
「ああ、昼すぎに一回起きるわ。」
そういって、日ノ内は妻に渡されたコーヒーを一口啜ると、チャンネルを変えた。
また、似たようなニュースをやっていた。
この天昇という国が成王の核攻撃を受けたのはもう10年前のことだった。日ノ内は18歳だった。
高校卒業して自動車学校で小学生の時に想いを寄せていた女の子と、たまたま再開した。
彼女は大学へ進学するために都心に行くらしかった。彼女が都心に行くまでの間、彼女は恋人のいない日ノ内の暫しの間の恋人となってくれたようだった。
といっても1ヶ月するかしないかのうちに彼女は都心へと移っていき、残った日ノ内は家が裕福でなかったことから進学はできず、不況にあえぐ地元で掃除夫として働いていた。
社会の落伍者という絶望感、好意を寄せていた人間との別離、それらに苛まれた毎日だった。休日ともなると夜となく昼となく酒を浴びるように飲み、手元に酒の無い時は死体のように呆然と壁ばかりを見つめてその日を終えていた。
そんな、ある日のことである。海を挟んで向こう側の国から、核ミサイルがこの国に飛んできた。そのミサイルはこの国の主要都市、軍の施設に舞い降りてきた。地獄の業火ほどの灼熱がコンクリートを砕き、鉄骨を捻じ曲げ、多くの人間を蒸発させた。
彼の一時の恋人もその炎に焼かれた。
彼は神を呪った。そして、悪魔をも呪った。全てを呪った。呪って呪って、目に写る全てを呪った。そして、自らを破壊しようともした。心を壊し、頭蓋骨を砕き、心臓を破裂させようとした。
だが、次第に彼は疲れ始め、最後には空虚になった。家となく外となく、彼は地面に寝そべった。
一体、何かが分からぬままに彼はある日、立ち上がった。そして、分からぬままに残りの長いであろう人生を再び生き始めた。右往左往しながら、時には不真面目に、斜に構えてみたり、激情を抱え、そして今に至る。
夜になり、再び夜間の工事現場へと仕事に行った。今日は昼間からパトカーや救急車が走り回っていた。
工事開始までまだ時間があった。
「ヒノさん。何かすげえ事が起こってるみたいですよ。」
「ああ、あれだろ?死んだ奴が生き返って、その辺の奴らをブン殴りまくってるって、あれだろ?」
今日は昨日の相方とは違った。
「殴ってんじゃないですよ。噛み付いてるんですよ。今日の夕方なんか噛み殺された看護師がいるみたいですよ。」
「はっ、一体何のつもりなのかね。」
「何でしょうかね?」
「おい、またパトカーだぜ。全止めだ。」
その夜も緊急車両が頻繁に通り過ぎて行った。翌日は工事は中止になった。どうやら、緊急車両の出動回数が多すぎるため、障害なく通れる道路を確保するための行政の措置のようだった。
日ノ内は別の工事現場に回されるのかと思ったが、県内の工事は全面ストップとなった。そして、暫くの間、安全性への考慮として夜間工事は一時的に禁止となった。
仕事はなくなり自宅待機となった。
日ノ内はニュースを見た。政府機関はこの異常な事件の多発を受けて、緊急の対策委員会を設置したようだったが、何も解決したことのない政府が、一体何の対策やら、と日ノ内は思っていた。
日増しにその蘇生した暴漢達による事件の件数は増え続けていった。最初こそ、警察署の留置所にその蘇生した暴漢達を収監していたが、その数が限界に達すると、大きな医療施設の協力を得て、隔離病棟などに入れた。しかし、それも数週間で満床となり受け入れ先が無くなってしまった。
それでも尚、増え続ける暴漢達を収容するために、公営の体育館などを臨時の収容施設として、そこに精神鑑定を行う医者や周辺を警戒する警察官達が行きかうといった状況になった。
隔離病棟や公的施設を利用した臨時の収容施設の警護のために警官の人手が割かれ、また事件が発生した際に出動する警官の人数も非常に限られた数となってしまった。
そして厄介なことに、見過ごされた死。例えれば孤独死を経て蘇生した人間は、誰に止められることもなく外へと出て、道行く人間を見境なしに襲い、それによって死亡してしまった犠牲者もまた蘇生し、周囲に危害を加えるという事態も発生し、警官のみならず一般の人間たちも「他人の死」に対しても敏感に反応するようになった。
だが、この狂気の暴漢へと変貌するのは明らかなる死を経た者達ばかりではなかった。極度の恐怖や不安感、生への絶望を感じたらしい人間も、生きながらにそれへと豹変していったのだ。
とある若い女性が夜を帰宅中、複数の男達に囲まれ暴行された。そのあまりの凄惨な暴力ゆえに彼女は死を経ることなく狂気の野獣へと姿を変えた。暴行を働いた男達は逆に彼女の文字通りの餌食となり、次々と殺戮されていった。無論、その男達も数時間後には蘇生し、噛み付こうと暴れ始めるのだ。
自宅での待機中の日ノ内は庭仕事をしていた。これから夏にかけて庭の草花を荒らす害虫の駆除のためだ。
自発的にではない。日ノ内は庭仕事は趣味ではないのだ。妻が薔薇を育てている。どうせ、仕事がないのなら家で怠惰に過ごすよりも、庭仕事でもやれとのことだったからだ。
外は相変わらず、緊急車両のサイレンの音が鳴っている。空には以前よりもヘリコプターが飛んでいる数が増えていた。恐らく、消防と報道のヘリであろう。
日ノ内は薔薇が植わっている鉢の横を通る虫を見つけた。毛虫のような芋虫のような形だった。害虫駆除をしている俺の目の前を通るなんざ、運の悪いやつだな。
そう思いながら、殺虫剤を噴射した。苦しみもがいているのか、その虫は暴れた。しばらく暴れると段々と動きが遅くなり、眺めているうちに動かなくなった。虫の死骸を入れるビニール袋を小屋から取って来ると、その虫は緩慢ではあるが再び動き始めた。
死んだ振りをしていたのか、それとも薬がそこまで効かなかったのか、動きは極めて鈍いが動いているのは明らかだった。日ノ内は足を少し上げると、その虫を踏み潰した。恐らく、これで完全に死んだであろう。
足を上げると、靴底にくっつくこともなく地面にそれはあった。緑の体液が出ていた。
しかし、潰れていない部分がまだ蠢いていた。まあ、しばらくすれば死んでしまうだろう。そう思ってそれを見ていた。だが、待てど暮らせどなかなか死なない様子だった。仕方ない。このまま捨ててしまおう。
そう思って、割り箸でその蠢く虫の一部を拾い上げ、ビニールへと入れていった。
晴天の空であった。太陽が眩しい。ビニール袋を簡単に結ぶと、小休止に家の中へと入った。洗面所で手と顔を洗い、居間にいって冷蔵庫からオレンジジュースを出した。戸棚からガラスのコップを出すとそれに注いだ。
テレビをつける。昼間のニュースがやっていた。日ノ内は、実はあまり昼間にテレビを見るのを好まないのだが、のっぴきならない事件が全国で多発しているのである。聞けばこれと同じようなことが、この国だけではなく全世界で発生しているらしいのだ。
「全国で多発する暴行事件を受けて政府は本日、11時に非常事態宣言を発令、国防軍にも対応を要請しました。次のニュースです。同様の事件が多発しているニジェリアの都心では停電が発生しています。原因はいまの所、分かってはいませんが現地では電力の普及が急がれています。」
日ノ内はジュースを飲みながら、画面を無言で眺めていた。
「なんだか、とんでもない事になっているね。」
洗濯物を運びながら、妻が言った。
「ああ、この辺ではまだ死体が飛び跳ねてないけれどな」
「ニジェリアなんてもっとすごいんだろね。」
「そうだなあ。あそこは内戦が頻発してるし、天昇ほど死体の管理は行き届いていないだろうしな。その辺に死んだ奴が転がっているだろうからな。ま、ただでさえ、犯罪率も多いだろう。」
「もう、県立体育館も満杯みたいよ。」
「え、何、見てきたの?」
「違う。友達よ。友達が近くに住んでいるの。今じゃあもう、軍隊の戦車とかが止まっているってよ。」
「戦車かあ、大袈裟じゃねえか?多分、装甲車とか偵察車両じゃないの?」
「知らないわよ。軍隊のことは興味ないし。何でも同じよ。」
「いや、装甲車と戦車じゃあ違うだろ。」
「何でもいいけど、そうなんだってさ。」
「しかしなあ、何かこの事件は異常だよなあ?」
「そうねえ。」
「死んだ奴が生き返るって。あれじゃないの?もしかして、死亡診断書を出した医者がよっぽどバカか何かで診断ミスとかな。でも、それが世界規模でそんなことが起こるわけもないしなあ。」
「でも、生き返った人が人間を襲うなんてねえ。」
「まあ、正常な会話ができないから責任能力があるかどうかも判断できねえって話だしな。まあ、裁判も出来ねえだろうな。でも、いくら凶暴でも人の形してりゃあ人権ってもんもあるだろうしな。遺族だってせっかく生き返った奴を凶暴だからって理由で殺されるのは嫌だろうしな。まあ、それが人情ってもんだろ。」
「困ったもんねえ。増え続けているみたいだし。」
「まあ、大したことにはならねえって。この辺で死人が歩いているのは見たことねえしな。安心しな。」
「まあ、そこまで不安には思ってないわよ。」
「ほお、そうかい。」
日ノ内は椅子から立ち、また庭へと戻っていった。