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SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象23

「HQ こちらマシン-03 目的地に到着した。マシン-04と共に救出作戦を開始する。」

街に更に装甲車が2台、入ってきた。その後ろに警官隊の武装車両と救急車、側面に「救出車両」とペイントされたバスも入ってきた。バスの窓には簡易的ではあったが、金網が付けられていた。

軍隊、警官、消防そして民間の組織が救出に乗り出していた。

街のバーガー・ショップの前では、歩兵達が迫り来る死人の群れに向けて銃を撃っていた。

バーガーショップの2階の窓からも歩兵が数人、地上の仲間に加勢していた。

「クソッ、群がりやがって!!」

地上の歩兵の一人が舌打ちした。

「撃っても、撃ってもキリがねえ!!」

そこに猛スピードで、装甲車がその死者の群れを蹴散らしながら滑り込んで来た。
「グランド-チャーリー マシン-01到着。」
装甲車の上部に備え付けられた機関銃が火を吹き、辺りを歩き回る死者達を次々となぎ倒していった。

装甲車の後部のハッチが開き、装甲車の乗員が「早く、来い」と手招きしながら出てきた。

地上の歩兵はバーガー・ショップの二階の仲間に「来い」と合図すると、建物の脇から歩兵を先頭に、生存者達が15人ほど降りて来た。

「これに乗って下さい!!」

と歩兵は生存者に言うと、生存者達の全員が装甲車に乗るまでの間、周囲の警戒にあたっていた。

生存者が全員乗り終わると、後部のハッチを閉めて装甲車を発進させた。

「グランド-チャーリー バーガー・ショップ2階 オールクリア!! 生存者捜索続行。」と隊長は無線を入れると、部下達を引き連れて次の生存者の救出に向かった。

「こちら、グランド-アルファ 西側の大きなマンションで待機中 生存者を12名保護している。 装甲車を頼む」
アルファ分隊のエイリアスが無線を入れた。

「マシン-03 了解 そちらに向かう」
それに対し、マシン-03の装甲車が返信した。

それを聞くと、エイリアスは「グランド-ブラヴォー、下りて来い。」とマンションの屋上で待機していたブラヴォー分隊にも無線した。

生存者の中にはまだ幼い子供もいた。その子供がエイリアスの軍装を上から下へとじっくり見ていた。

そんなエイリアスと目が合った子供は「センソーなの?」聞いた。

「War child. It’s get shoot away.(戦争だよ、坊や。土壇場はすぐそこに迫ってる。)」と、どこか虚しそうな笑みを浮かべながら言った。

マンションの廊下の窓から地上を見ると、こちらの方にも死人達が集まりだしてきた。

デイヴィッドはサブマシンガンで数人の死人の頭部を撃った。その弾丸が頭を貫通すると、死人は崩れるように倒れ込んだ。

「マシン-03 到着。 生存者を乗せろ。」

「了解 すぐに乗せる。」

装甲車は機関銃で周囲の死人達を撃っていった。

マンションの外に歩兵達が出ると、グランド-チャーリーと同様、生存者が装甲車に乗るまでの間、周囲の死人達を警戒した。だが、装甲車の銃撃でこの付近の死人は一掃されたようだった。

生存者が全て乗った所で、マシン-03の装甲車は発進して行った。

その様子を見て、アルファ隊のバーニーがエイリアスに聞いた。

「どこに逃げるんです?あいつら…」

「一応、この辺の陸軍第14大隊戦闘団の基地に行くことになっているが…」

「もう、リヴァイデはあっちこっち死人だらけですよ。」

「ああ、とりあえずライフ・スポット(生存区域)に生存者を避難させてる。まあ、このまま行けば死人の数の方が多くなるのも時間の問題だろうぜ。」

エイリアスはヘルメットのゴムバンドに挟められたタバコの箱から一本取り出した。

「死人は大人しく寝ているのに限るぜ。」

エイリアスは、ゆっくりと這いずり回っている死人の一人の眉間に拳銃の弾を見舞った。

「ゆっくり、休んでくれ…」眉間の周辺から頭蓋骨が破壊された動かなくなった死人に呟いた。

MOZ84の10年前の自身へ

10年後の自分に手紙を書いて、10年後まで保管しておくのは、よく聞く話だが、俺はその逆をいってみようと思う。

まあ、10年前の自分に手紙を書くのだ。

諸君らも、試してみてくれ給え。

MOZ84の本日

まあ、今日も被災地域で仕事だった。

明後日もまた 被災地域 大鎚だ。

実はSNRのラスタフィカで出てきた音楽は

ローリング・ストーンズのブラウン・シュガーという歌を参考にして歌詞を書いた。

まあ、興味があればYOU TUBEなどでチェックしてみてくれ。

SNRを楽しんでくれてるなら、深みも出るはず。

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象22

第六章 リヴァイデ合衆国 ニュー・ファスト市 デイヴィッド・グルーム

プロテクターを全身に装着した警官が重たい足取りで、無人となったバーガーショップのウィンドウを通りすぎて行った。

彼の首と腕からは血が滴り落ちていた。

ヘルメットのシールドの中にある目には生きているような力強さは、もはや無かった。

歩きながら深呼吸され、肺の中へと入っていく空気、そして肺から体外へと出て行く空気が彼のの喉の奥の声帯にひっかかり、まるでうめき声のような音を立てていた。

街では至る所で銃声が鳴り響いていた。

力なく歩くき回る人間達には、その銃声に誘われるままに歩くものもいれば、ただ、ただアテどもなく歩いているような、そんな者達もいた。

銃声に混じり、悲鳴や断末魔の叫び声も聞こえる。アパートの屋上から下に向かって銃を撃つ者もいた。

プロテクターの警官は、同様な緩慢さで歩き回る者達が多くいる自動車道へと歩道から出た。

そこに、猛烈な速度と勢いで陸軍の装甲車が走ってきた。

その装甲車はまるで怒り狂ったサイのようにノロノロと歩く緩慢な者達を跳ね飛ばしながら、プロテクターの警官へと近づいていった。

それに気付いたが故のことなのか、どうなのかは定かではないが、顔を上げ、装甲車の正面を見たプロテクターの警官は、その怒りの鉄の塊に跳ね飛ばされた。

彼は十数メートル飛ばされた後、地面へと落下した。

プロテクターをしているとはいえ、その衝撃は凄まじかったらしく、彼の体中の骨がバラバラになったようだった。

そんな彼を装甲車のタイヤと車体が踏み潰していった。それはまるで、外骨格である昆虫を踏み潰したように、潰れたプロテクターから体中の血液が飛び散っていた。

装甲車は、その道を譲らぬ緩慢な者達を次々と跳ね、轢き潰しながら道路を走っていた。

その装甲車の上空を最新のジェット攻撃機が2機飛んできた。

「HQ こちら スーパー6 目的地に到着。」

「スーパー6 地上の様子はどうだ?」

「生存者もいるようだが、地獄だな。」

「了解、マシン-01、02の装甲車が街に入った。歩兵部隊を下ろせ。」

「了解、クリアポイントを発見次第、任務を開始する。」

攻撃機は死者と生存者が入り乱れる街の上空を飛び、高層マンションの屋上の真上に静止した。

「クリアポイント。任務開始。」パイロットが攻撃機の後部に乗っていた歩兵達に向かって言った。

「降下!!」降下の号令と共に歩兵達が次々と、マンションの屋上へと攻撃機から垂らされたロープを滑り降りていった。

最後から2番目あたりにデイヴィッドも降下した。

最後の歩兵が降下すると、攻撃機は屋上の上空から去り、数キロ先の待機ポイントへと飛んでいった。
降下した歩兵達は陣形を組み、屋上のドアからマンションの内部へと入った。

「HQ こちらグランド-アルファ、降下ポイントのマンションに突入。生存者を捜索しながら地上屋外を目指す。グランド-ブラヴォーはそのまま、屋上で待機。」

「こちら HQ グランド-アルファ 了解した。」

歩兵達は素早い足取りで、階段を下りて行った。

階段を下り部屋の並ぶ居住スペースに着くと、兵達はサブマシンガンの銃口を下向きにし、立ち並ぶ数多くのドアの前にそれぞれが散り散りに立ち、インターフォンのボタンの押すのだった。

デイヴィッドもまた、マンションのドアの横にあるインターフォンを鳴らした。
だが、反応がなかった。

「クリア!!」と言うとデイヴィッドは次のドアの前へと立ちインターフォンを鳴らした。

ボタンを押すと、インターフォンから「誰!?」という返事が返ってきた。

「陸軍の者です。救助に来ました。」

デイヴィッドはインターフォンに向かってそう言った。

「今、出るわ!!」とう返事の後、マンションのドアが開いた。

中から片手に小さな子供を抱え、もう片方の手で4歳くらいの子供の手を握ったまだ若い女が出てきた。

「助かったわ。もうダメかと思った。」

「救助のヘリがやってきますので、屋上へどうぞ。」と言ってデイヴィッドはその女達を屋上へ行くよう促した。

再び、デイヴィッドは次のドアのインターフォンを鳴らした。反応は無かった。

「クリア!!」

救出隊の小隊長のエイリアスに無線が鳴った。

「こちら グランド-チャーリー!! 装甲車はどこだ!? こちら生存者15名。キャプテン・バーガーの2階のアパートで立ち往生してる。 周りは死人だらけだ。 こっちの生存者には怪我人もいる。!!」

「こちら、マシン-01 さっき通りすぎた。今、そちらへ戻る。」

エイリアスはその無線の会話に眉をひそめた。

マンションの廊下を避難不能となっていた住人達が数組、歩兵達の指示に従って屋上へと歩いて行った。

部下の一人がエイリアスのそばに来て「このフロアはオール クリアです。」と言った。

エイリアスは「よし、次の階に下りるぞ。」と言い、歩兵達は階下を目指した。

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象21

車が進むにつれ、村人の数もまばらになってきた。道を進めば進むほどに確実にその数は減り、最終的には村人を見なくなった。

「まだ、村を出ていないけれど、化物はいなくなったね。」とポールは言った。

「完全に村を出る前に、ちょっと適当な所で止めてくれ。」

「いいよ。」ポールはしばらく走らせた後、ジープのエンジンを切り、ライトを消した。

アルバートは後部座席の窓を完全に閉めて、携帯電話を取り出し、所長へと電話をかけた。

所長が電話に出るまでに、そう時間はかからなかった。

「アルバート、無事か!?待ってたぞ。電話を。」

「ああ、俺はな。もう、4人死んでるがね。」

「何だって!?」

「デュバル博士とエンリコ、そんでデュバルの部下もだ。」

「死人にやられたのか?」

「まあ、デュバルに関してそうだな。逃げ遅れてかみ殺された。喰われたのかな?」

「他の3人もか?」

「まあ、そうには違いないが、現地の船乗り達に化物のど真ん中に置き去りにされたのさ…」

「どうして…」

「みんなをリヴァイデに連れて帰る、と俺は言ったんだが船乗り達はサンタリコに逃げたがってた。奴ら、麻薬の密輸グループだったのよ。だから、怖くてリヴァイデには行きたがらなかったのよ。」

「では、お前一人か?」

「いや、現地ガイドのポールと一緒だ。2人だ。俺らも船に置き去りにされたんで今、陸路をジープで行ってる。」

「今…どこいるんだ?」

「ラスタフィカの南側、海沿いの辺り。タム・ホイズー村をこれから出ようってとこだ。」

「そうか…」

「そっちはどうだ?軍と連絡はついたか?」

「連絡は出来ることは、出来るのだが、国内のことで手が一杯だそうだ。海軍なんかは、避難民を軍艦に乗せたりもしていて、てんてこ舞いだと…。」

「そうか…。しょうがねえよ。でも、空でも海でも俺達を助けてくれ。」

「ああ、わかってる。必ず、助けるからお前も何とか生きていてくれ。」

「そうそう簡単に死んでたまるかよ。頼んだぜ。」

「ああ、必ずな。」
そういって、アルバートは電話を切った。

「どうだい?アルバートさん。」
運転席からポールが話しかけてきた。

「状況は厳しいの一言だな。リヴァイデも死人どもに参らされてるみたいだな。ま、一応、海と言わず空といわず、助けを呼んでくれるよう、上の人間には頼んだがな。」

「なかなか、来れないわけだね?」

「その通り…」

「これから、どうしよう?」

「どうするかねえ…。助けが海を渡って来るのか、空から来るのか分からないからな。とりあえず、車の燃料の方はどうだ?」

「そうだねえ、まだ大丈夫そうかな?」

「この先に給油所はあるか?」

「この辺りに給油所といえば、さっきの所ぐらいかな?」

「あそこに戻るのはぞっとしねえな。ここを出ればあるのか?」

「隣村かな?サバ村あたりだね。」

アルバートはGPSを起動し、サバ村の情報を見た。

「一応、観光スポットのようだな?」

「ああ、あそこにはよく外国人が来るよ。」

「んじゃあ、そこに行ってみよう。他にも何かあるかも知れない。」

「分かったよ。」
ポールは再びジープのエンジンをかけた。

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象20

船員達の乗った2台のジープが発進して、随分と時間が経った。だが、船員達からの無線連絡は来なかった。

大音量のアットの音楽はもう何曲目に突入したのか分からない。

アルバート達のジープは村人に囲まれたままだった。

正気を完全に失った顔をした村人達は、手で車の窓ガラスを叩いたり、歯を立てようと口を開いたりしていた。
突然、ポールが異変に気付いた。

「船だ…。」

周囲を村人の人影が邪魔をして、なかなか海を見る事が出来なかったが、自分達の車の横を明かりが通り過ぎて行こうとしているのは分かった。

「アット!!どうした?」アルバートは無線を鳴らした。

「大先生、悪く思うな。俺達はリヴァイデには行かない。」

燃料を積むことに成功した船主達は、アルバート達を乗せずに船を出したのだった。

「どういうことだ?戻ってこい!!」

「俺達の現実は、所詮、あんたらには分からないってことさ。」

「なんだと!?」

「俺達の普段の仕事はヤクの密輸だ。リヴァイデに行った所で、あんたは助かるかも知れないが、俺達はどうなるかは分からん。状況が状況なだけにな、追い返されて漂流するはめになるか、よくても刑務所だ。サンタリコには仲間がいる。それに、言っただろ?食い物が足りないって。」

「戻って来い!!この、卑怯者!!」
船のライトにつられた村人達の中には、海に飛び込んで行った者達も何人かいた。

「エンリコ達はどうした!?」

「桟橋に下ろした。でも、今頃はな…精々、祈ってやることだな。」
アルバートは無線をつけたまま、ポールに車を出すように言った。

「アット。今、戻ってきたらお前さんの言うようにサンタリコに行こう。」

「あんたが俺を頼りにしても、俺には頼られてもメリットはないな。じゃあな。」
アットは無線を切った。

アットの船が停泊していた船着場に行くと、エンリコを含めた3人の若者達は、すでに村人の餌食となっていた。

「畜生。ポール、どうする?」

「まず、村を出よう。」

ポールはハンドルを回し、船着場から村の入り口へと入って行った。

村にはまだ、村人が大勢残っていた。もう、こうなってはどれがこの村の人間で、どれが生きた人間を求めて流れてきた人間か知れたものではなかった。

ジープは昼間に見た骸骨の小屋を通り過ぎ、給油所にさしかかった。

ライトに照らし出された村人達が村の奥からどんどんと出てきた。

ジープが進むにつれ、周りに木造の高床式の建物が増えてきた。昼間に食料や使えそうな物を探しに入った、居住域とはまた別な様だった。

「ここは、村の昔のメインだよ。今でも人は住んでいるけどね。」
とポールはハンドルを握りながら言った。

「住んでいた…だろ?」

「今となっちゃあ、そうだね。」
高床の下から村人達がジープのライトに誘われて、ユラユラと歩き出してきた。

ライトに照らし出された村人を正面に見たアルバートが「ここにも、随分といそうだぜ。」と言った。

「ちょっと、気をつけて」とポールはアルバートに言うと、正面の村人をジープで跳ねた。

「化物とは言え、人を跳ねながら走るのはあまり、気分は良くねえな。」アルバートは後部座席からポール言った。

「俺の神様がサムエルじゃなくて、キリストだったら俺は地獄行きだったね…」

「天国に行けるような奴がこの世にいるかよ…」

「そうだね。この村人達も地獄からあぶれたような感じだしね。」

アルバートは胸のポケットからGPSを取り出した。

「村を抜けてどこに行く?」アルバートはGPSをいじりながら言った。

「一度、村を抜けて、そこで考えよう。」ポールはまた一人、村人を跳ねた。

アルバートはその瞬間に走った車内の衝撃が止むと、GPSの電源を切った。電力の節約のためだった。

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象19

「んで、どう勝負に出ようと、あんたが考えているのか聞かせてもらおうか…。」
操舵室から甲板におりたアットが静かに言った。

「そうだな。動物には走光性といって、光に反応を示す性質があるんだ。」

「ほう…」

「んでだ、それにはとりあえず二つのパターンがあって、明かりに向かって進んでくるものと、明かりを避けようとするものがあるんだ。」

「それで、つまり?」

「つまりはだ。明かりを使って奴らを誘導しようって作戦だ。だが、奴らが明かりに対してどんな反応を示すのかは、まだ分からない。明かりに向かって進んでくるか、避けようとするか、反応しないか…3つに1つだ。」

「それがあんたの博打ってわけかい?」

「そうさ。」

「分かったよ。大先生。それで何をすればいい?具体的にな。」

「ああ、まず俺とポールが暗視スコープを付けて、船を離れる。その後にあんたはこの船の照明を全て点けてもらいたい。それで、奴らが船に向かって進んできたら、俺達は村の給油所に燃料を取りに行く。」

「なるほどな…。俺達は囮になるわけだな。」

「それで、この船にはゴムボートか何かあるか?」

「ないな。沈んだらそれまでだ。」

「何だって…」

「作戦の立案には、自分の戦力をよく把握しろよ。将軍。」

「クソッ、何か使えそうな物はないのか?」

「それにあんた、燃料をどうやって運ぶんだ?タンクを二人で4つ持っても足りないぜ?まさか、村に車の一台でもあるなんて、そんなことアテにしてたのか?あんた、タンクを二つ持って走り切れるのかね…」

言われてみればその通りだった。アルバートは目の前の狂乱した村人達のことばかりに気を取られていたのだ。

「ちょっと、その暗視装置を貸しな」
と言って、アットはエンリコから暗視スコープを取った。

「ここには船着場が5つあるんだ。」
と言いながらアットは暗視スコープを覗いた。

昼間に止まった真ん中から右に1つ目の桟橋の付近には、村人達がユラユラと佇んでいた。

「こいつは、どうやってズームにするんだ?」

「右の出っ張りを下に引くとズームになるよ。引いて見る時は上に上げて。」とエンリコが言った。

アットは言われた通りに右のスイッチを引くと、暗視スコープはフォーカスし、「ほお…」と言った。

「最近出来たのが、両端の桟橋だ。鉄筋コンクリートだから、そこからならジープも通れるだろう。ジープは3台使う。先に1台を下ろしてそいつはライトを点けて一番向こう側の船着場まで走る。向こう側についた所で、残りの2台がライトを消したまま走り出す。2台は給油所に行って燃料タンクに油を詰めて戻ってくる。」
とアットは言った。

「んで、囮には一体誰が?」

「ここの給油所のいじり方を知っているのは、ウチの奴らだけだ。俺はここで船の番をする。給油するジープにはウチの若いのが行く。あんたとそこの兄ちゃんが囮だ。」
と言って、ポールを指差した。

「んで、あんたのその暗視装置はいくつあるんだ?」

「二つだ。」

「そうか、じゃあ、まず俺に貸してもらおうか。船を照明無しで停泊せなきゃならん。それが終わったら、ウチの若いのに渡す。ライトなしで走るからな。」

「分かった。」
アルバート達は、準備にとりかかった。


闇しか見えない船着場に船からジープが3台降ろされた。アルバートは甲板から船着場を見回した。この闇のどこか

に村人が隠れていても不自然なことはなかった。

「大先生、頼むぜ。」アットにそういわれたアルバートは船員達と一緒に船を下りた。下ろされたジープまでは月明かりを頼りに歩いた。

その月明かりにアルバートは、「まずいな」と少し思った。月の明かりでこちらもいくらか見えるということは、村人の目にも自分達が見えている事を意味していたからだ。

ポールが運転席に乗り、アルバートは後部座席に乗った。

ポールがジープのエンジンをかけると、アルバートは手に持ったラジカセの音量を最大にし、後部座席の窓を手が入らない程度の幅に開いた。

車が発進すると共に、アルバートは大音量でラジカセを鳴らした。大きな音で後から発進する2台のジープのエンジン音を誤魔化すためだ。

ポールはジープのライトをハイビームにした。ハイビームにした途端、車に衝撃が走った。だが、車は走り続けている。どうやら、村人の一人を轢いたらしかった。

「♪~ 港は奴隷船で一杯だ 奴らは奴隷市場で売られちまった 酷い目にあった年寄り奴隷は
今じゃあ 上手いことやってやがる 夜中に女とパンパンやってらあ 黒砂糖 なかなかいい感じだ 黒砂糖 若い娘はこうでなけりゃあな ~♪」

アットの手持ちの古いCDの歌が大音量で車の中と外にこだました。

その音と車のライトに船着場の村人はフラフラと集まって来た。

実際、それがアルバートの推測であるところの、「走光性」のせいかどうかは分からなかったが、確実に自分達の「存在感」が彼らを引き付けている事は確かだった。

ポールの運転するジープの先に立つ村人は、容赦なくジープのフロント・グリルの餌食となっていった。

「♪~ ベッドでパンスカやってると 冷たい白ん坊達が熱くなる 宿の女将はいつ止むのか悩んでやがる でも丁稚は奴らが上手いことやってるって知ってる やっこさん、一晩中こう言ってらあ
黒砂糖 なかなかいい感じだ 黒砂糖 若い娘はこうでなけりゃあな ~♪」

最後の船着場まではあっという間だった。ここに辿りつくまでに何人の村人をジープのタイヤが踏み潰したことか

「♪~ お前のお袋さんは商売女の女王様だった ダチはみんな男も女も華の16歳ときたもんだ 俺は学校には行ってねえが 好きな事がやめられねえ 夜通し俺は言ってるぜ 黒砂糖 なかなかいい感じだ 黒砂糖 若い娘はこうでなけりゃあな ~♪」

ポールはジープのギアをバックに入れ、コンクリートの船着場を使って車の方向転換をした。

しばらく、待つとアルバートに船員から無線が入った。

「こっちは、もう出るぜ。」

「了解。」というと相手は無線を切った。

車の窓には村人達がまとわり付いて来た。

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象18

考えを想いが邪魔した。目の前で村人達の餌食となってしまったデュバルのことだった。

今は何とか冷静さを保ち、これから何ができるかではなく、何をすべきかを考えなくてはならないのに。

「大先生、そろそろどうするか決めてくれ。でなきゃ、俺たちが勝手に決めるぜ?」
アットがアルバートにつっけんどんに言った。

我に返ったアルバートは「ああ、今、考えてるんだよ。」と言った。

辺りは日が落ち始め、南国の空を紫色の空が被い始めた。

なかなかいい思案の浮かばないアルバートに対して苛立ちを覚えたアットの顔に羽虫が飛んできた。

アットはそれを避けると、操舵室へと入っていった。

船のランプには蛾や名前もよく分からないような羽虫がまとわり付いていた。

しばらく、それを眺めていたアルバートは、ふと何かを思いついたようだった。

「エンリコ、暗視スコープを出せ。」と言い、操舵室を開けて「照明を一切消して、タム・ホイズーの付近に行ってくれ。」とアットに言った。

アットはいぶかしんだ顔をして「電気を消して、船を出せだと?」と聞き返した。

「確かめたいことがあるんだ。音もあまり立てるな。」と言った。

アットはアルバートに言われるままに、船の電気を消してタム・ホイズーの沖合いに出た。

エンジンを止め、照明の切られた甲板の上から、夜行性の動物を観察するために持ち込んだ暗視スコープでタム・ホイズーの船着場を見た。

暗視スコープから見た船着場には、さっきの村人があまり動くことなく佇んでいた。

「これは、賭けだ。」と隣のエンリコに小声で言った。

持っていた暗視スコープをエンリコに預け、操舵室へと入ったアルバートはアットに「イチかバチの勝負だ。」
と言った。

MOZ84の続々ヘミシンク

昨日、ヘミシンクを聞きながら寝たら、非常に変な夢をみた。

変な夢だったということしか覚えていない。

まあ、今日もヘミシンクを聴いて見ることにするかね。

MOZ84被災地域を通る

今日はSNRは書けんな。時間は遅いし。

今日はワケあって大船渡と気仙沼に行って仕事をしてきた。

んで、今帰ってきたのだ。

まあ、その大船渡 気仙沼間 を通った祭、津波にやられた所、しかも海の前を通ってきた。

ところどころに雑草が生えていたんで、まま殺風景な感じはいくらか無くなったようだ。

だが、やはり 建物が全然ないのだ。ひしゃげた鉄骨の骨組みになった建物の残骸みたいなものや、窓と言う窓が割れたアパート。

そんな感じのものは残ってた。まだ、あまり工事も進んでいないらしく、道路標識の類いが見当たらなかった気がする。いや、実際、困ったしな。

ああ、それと一本松を遠巻きに見たな。あれは枯れてるらしい。だから、防腐処理をするのだそうだ。

それと、コンビニとかがプレハブで営業していたなあ。ほんと、工事現場の現場事務所に使うようなプレハブの入り口あたりにコンビニのマーク貼って営業してんだよ。

何も立派に作らなくても、案外、機能が果たせてる一例を見たなあ。

MOZ84の続ヘミシンク

昨日、ヘミシンクのCDを聞きながら寝たのだが、特にナンてことは無かった。

だが、今日もヘミシンクで寝てみよう。俺はあきらめん!!

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象17

「銃声がした…」船主はアルバートに言った。

「村人が…死人が…襲ってきた…デュバル博士が死んだ…食い殺された。」

「そのようだな…」と言って、船主はアルバートの後ろを指差した。

そこには林から船着場になだれ込んできた村人達が歩いてきた。

船主は船員に「船を出すぞ。」と言い、船に乗った。

アルバート達も急いで船に乗った。

「ドミニク、お前は撃て。」と船主は船員にいった。

船員は「わかりやした!!」と言って船首の機関銃で村人達を掃射した。

船は後ろへと後退していった。

船が沖合いに出た所でアルバートは拘束していた船員達が甲板の上を歩いていることに気付いた。

「エンリコ!!」アルバートは大声でエンリコを呼んだ。

エンリコが来ると、「どういうことだ?船員はどうしたんだ?」

「アットが勝手にロープを…」どうやら、船主が開放したらしかった。

「俺が解放した。危険な所で戦える人手が無かったからだ。」
船主、アットは操舵室から出てきた。

「こんな腕の細い学者さんじゃあ、奴らに船を襲われた時にどうにもならんからな。」
と葉巻に火をつけた。

そして、そのマッチを海原に投げ捨てると、「さて、次はどうするね?」
とアルバートに聞いた。

アルバートは船員達を勝手に解放したことに不満を隠せなかったが、あえてその怒りを押し留めた。

それは後になってからいくらでも言えばいい、と思った。確かにアットの言う通りでもあった。

エンリコやデュバルの部下達では、到底、太刀打ち出来そうには無かったからだ。

次のプラン。食料と燃料を求めて、また別の村に行くのは、リスクが非常に高かった。だが、今とりあえず確実な所を言えば、タム・ホイザーには食料こそ見当たら無かったものの、燃料にはありつけそうだった。
だが、その前には凶暴なあの村人達がいる。

「少し考えさせろ。」とアットに言った。

「時間はあまりないぜ。」とアットは言った。

MOZ84のヘミシンク

まあ、今日はヘミシンクを聴きながら寝る。

まあ、何か変わったことがあったら教えるよ。

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象16

サムエルの司祭の小屋を通り過ぎ、村の主要な居住地と思われる場所に三人は出た。

「とりあえず、食い物を探そう。」アルバートはポールとデュバルと一緒に手近な住居の扉を開けた。

その家の中には明らかに人のいる気配がなかったが、アルバートは念のため「誰かいないか?」と声を掛けてみた。

無論、家のどこからもそれに返事もなければ何かしらの反応もなかった。アルバート達は手当たり次第に家の中を食料を求めて探し回った。何も見つからない。

まあ、きっと手に持てる全ての物を持って逃げたに違いない。食料や使えそうな物が残っている望みは極めて薄かった。

三人はそこの家を諦めると、また隣の家へと入っていった。考えてみればこのタム・ホイズーはこのラスタフィカの中でも数少ない漁村の一つである。この熱帯の国ではとりあえず何かしらの漁獲資源がほぼ毎日取れるのだ。食べ物を保存する発想、そのものがあまり一般的では無いのかも知れない。

そう思った二人は、ポールにこの村に食料が残っている可能性について聞いてみた。

それに対してポールは「ここには、何度か寄ったことがあるよ。週に2、3回ぐらいだが、街から小麦粉や加工食品や生活雑貨を積んだトラックが行商に来てる程度だね。缶詰の類なんかは持って逃げたと思うよ。」
と言った。

アルバートは「ここで、食い物を探すのは時間の無駄かもしれないな。」というと、続け様「燃料を工面しよう。」と言った。

「ガソリンなら村のはずれに一つあるよ。」ポールが言った。

そこに「ディーゼル油もあるかな?」とアルバートは聞いた。

「まあ、見てみよう。」ポールはそう言うと、二人と村はずれを目指した。

遠くに燃料タンクが何個か並ぶ小屋が見えてきた所で、脇の林から村人が一人出てきたようだった。

ポールがその村人に声を掛けてみると、その村人はおぼつかない足取りでこちらに向かってきた。

三人は歩みを止め、注意深くその村人を観察した。

その村人は麦わら帽子を被り、顔は全体的に白く、目と口元を黒く塗った死人のメイクをしていた。

ポールは「司祭だ…きっと、さっきの小屋の奴だ。」と静かに言った。
その司祭はゆっくりとした足取りでこちらに近づいてくるが、その目は生気を完全に失っていた。

よく見ると、何かの毛皮で作られたチョッキの中の腹は裂け、ちぎれた内臓が飛び出していた。

「もう、あれは生きてないぞ…」そう言ったアルバートは銃を構えた。

「まあ、待て」とデュバルは言った。

後ろで物音を聞いたポールが振り返ると、大怪我を負った村人達がゆらゆらとこちらに向かって歩いてきた。

「アルバートさん。まずいよ。」と言って後ろの村人達を二人に教えた。

「燃料屋からも何人か出てきたぜ。」と銃を構えたまま、アルバートが言った。

「さあて、どっちに行こうか…」アルバートの銃を構えている手は、じわじわと汗が滲んできた。

「船に戻るぞ!!」とアルバートは振り向き、銃を乱射した。

「やつらを蹴散らしながら、船まで走るぞ!!」アルバートは二人にいうと、銃を撃ちながらさっき来た道を走って戻り始めた。

傷を負った村人達は、林や村の奥から次々と出てきた。

「歩く死体ってのはこいつらの事か!!」アルバートは銃で血路を開き続けた。

アルバートが司祭の小屋にさしかかった所で、デュバルが転んだ。

村人達は転んだデュバルに群がった。

デュバルは村人達の鋭い八重歯の痛みに断末魔の悲鳴を上げた。

「センセー!!」アルバートがデュバルを助けに行こうとすると、ポールがそれを硬く取り押さえた。

「ダメだよ。行こう!!」アルバートはポールの制止を振り切ろうとしたが、ポールは彼の両腕を掴み、
「逃げれなかったのはデュバルさんの自分の責任だ!!」と怒鳴り、アルバートを船に向かって走らせた。

走るアルバートの先に林が見えてきた。その林にも村人達がゆらゆらと歩き回っていた。

二人は林の中を村人達を避けながら、一気に駆け抜けた。

林を抜け、海岸に出た所から船着場へと全力疾走した。
桟橋のあたりにたどり着くと、船主と船員、そしてエンリコが立っていた。

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象15

「タム・ホイズーだぜ。」と操舵室から船主はアルバートに言った。

本土沿い海を渡ってきた船の前に、木造の船着場がいくつか見えてきた。

このタム・ホイズーは、植民地時代は別名を「白い港」と呼ばれ、「黒い港」と対をなす港として扱われた。

南方の国から、黒人の奴隷を連れて来た奴隷船は、一度「黒い港」へ寄航し黒人奴隷達を下ろす。

そして、次にタム・ホイズーの「白い港」で砂糖や綿花を積み、そして本国へとそれぞれに帰って行った。

それから、その船は本国で砂糖や綿花を下ろし、今度は鉛や真鍮、必要があれば工業製品を積んで再び南方を目指す。

またまた、南方で鉛や真鍮を元手に黒人奴隷達と交換して「黒い港」へと舞い戻るのだ。

南方で黒人達を奴隷労働力として、鉛や真鍮と交換するのは実は同じ黒人であるケースが多かった。

海を渡って来た白人達は、その経済的価値については良く分かっていない黒人に、鉛や真鍮、工業製品をちらつかせ、そしてその黒人はそれが欲しいが為に、村の若い黒人達とそれら交換し、それで奴隷労力として交換する黒人の人数に不足が出れば、周辺の別の部族を襲って新たに別の黒人達を獲得して来るという人間狩りをするにまで至ってしまったのだ。黒人が黒人を奴隷貿易していたのだ。

この「黒い港」」「白い港」は当時の奴隷船の船乗り達に「ハエと黒人は黒い港へ、砂糖と綿花を白い港で」などと揶揄されたこともあったようだ。

だが、独立後の現在に至っては、「黒い金が入り、白い麻薬が出る」と言われるようになり、「黒い肌の者が作る麻薬に白い肌の者が大金を払う。」という構図が生まれ、かつては支配されていた存在が、闇でかつて支配していた存在を支配するようになった。

そんな歴史の中でこのタム・ホイズーは、植民地時代は「黒い港」と共に栄えた貿易港であったが、今では海沿いの小さな漁村程度のに成り下がってしまっていた。

船主は船を船着場に停泊させると、「とりあえず、何はなくとも2時間だ。それをすぎたら、あんたらは死んだと思って、ここを発つ。」と言った。

アルバートとデュバル、ポールは銃の弾を確認すると、「2時間以内に帰ってくる。」と言って、船着場の桟橋を歩いて行った。

桟橋を過ぎて岩と砂の海岸を越えると、緑の林の間に簡素な建物がいくつか見えてきた。

「ここがタム・ホイズーか…」アルバートが呟くと、ポールが「そうさ。」と答えた。

ゆっくりと注意深く村の中へと入って行く。だが、村人らしき人影は全く見あたらなった。

泥だらけのあぜ道を行くと、靴に泥がしっかりと抱きついて足が重くなった。三人は足を地面に静かに叩きつけて泥をいくらか落とした。

「やはり、ここも放棄されたか…」とデュバルは樹木の無いスペースに軒を連ねていた、人気の無いあばら家を遠めに眺めた。

まだ、太陽は傾いてそこまで傾いてはいなかった。

海岸の林から村に抜ける道の途中に非常に目を引く小屋があった。

その小屋は屋根も壁もトタンで継ぎあてをしたような粗末な造りに、荒々しく塗られた毒々しい緑とショッキング・ピンクが目障りだった。

その小屋の近づくにつれ屋根の軒先に、首を跳ねられ内臓を取り除かれた、3羽の野鳥が吊るされているのが分かった。

さらに近づくとその小屋の正面に動物の骨が無造作に投げ出され、毒蛇の入ったラム酒のボトルが数個転がっているのが分かった。

小屋の正面に来ると、小屋の入り口の上に人間の頭蓋骨が掛けられているのが見えた。

「何だ?ここは首狩り村なのか?」デュバルはその頭蓋骨を凝視した。

よく見ると、頭蓋骨の額のあたりに赤い何かが付いているのが見えた。よく見ると、それは頭蓋骨の額に描かれた赤い花の絵だった。

ポールは、「違うよ。」と言った。

「これは、司祭の小屋だよ。サムエルの司祭の小屋さ。」とポールが言った。

「この頭蓋骨は?」デュバルが聞いた。

「これは、死んだ司祭の骨さ。この小屋の司祭の師匠か、どこかで死んだ司祭の骨を盗んできたのか、どうかは分からないけれど、サムエルの司祭はこうやって、既に死んだ司祭の骨から霊験を授かって儀式をしたり、まじないをしたりするのさ。それと魔除けにもなるのさ。」

「骨が盗まれることがあるのか?」

「ああ、評判のいい司祭の骨ほど盗まれ易いよ。だから、葬式の間中、銃を持った見張りが死体の横にいることもあるよ。だから、額に絵を描いたりしているのさ。盗まれても分かるようにね。まあ、中にはその司祭の生前のお気に入りの帽子を被せたり、使っていた眼鏡を掛けさせたりして置いてあったりもするけどね。」

「なんと…」

「リヴァイデでは考えられない?でも、こっちじゃあ珍しいことではないよ。俺の田舎なんかだと、司祭に限ったことじゃないよ。俺の死んだ爺さんなんかも骨は全部一族で分けて、玄関に吊るしたり、家の壁に掛けたりしてたよ。そうやって家内安全と子孫の繁栄を願うのさ。まあ、俺の田舎の習慣は古い時代のものだからね。それと、まだ駆け出しの司祭とか呪術師なんかは、司祭の骨が手に入るまでは動物の骨や、その辺で盗んできた人骨を使ってるよ。」

デュバルは言葉が出ない様子だった。

「まあ、先を急ごうよ。この骨は噛み付いたりしないからさ。」
ポールはデュバルの背中を叩いた。

MOZ84のSNR

自作のゾンビ小説ばかり書いてばかりなのだが、どうだろうか?
SNRはお楽しみいただけているだろうか?

まあ、一つここで 今まで出てきたSNRワールドと登場人物について触れておこうかと、まあ、蛇足かもしれないが…

天昇
まあ、これのモデルになっているのは日本ね。「天照大神」の「天照」をもじっただけの安直な名前だね。
旧首都は成王の核攻撃で消滅しちゃってるから、新首都は別な所になってしまったのよ。ちなみに「赤森市」は首都から離れた地方の街で、まあ「東北」に相当するような感じの場所ね。

リヴァイデ合衆国
まあ、合衆国っていえばあそこしかないよね。まあ、モデルはアメリカ。リヴァイデの正式名称もユナイテッド
ステイツ オブ リヴァイデね。リヴァイデの元になってる言葉は、アメリカ人が好んで使う「リヴァティ」から取った。

ラスタフィカ
こいつは正式名称はラスタフィカ共和国。リパブリック オブ ラスタフィカだ。モデルになっているのは、カリブ海側の黒人国家だ。まあ、ハイチ辺りだな。ラスタフィカの元になっている言葉は、ラスタファリっていう、まあ、ラスタファリズムっていうレゲエの思想?だな。この国の国教となっているサムエル教はブードゥー教みたいなもんだ。ちなみに、サムエル教の「サムエル」はこのブードゥーの神の一人である悪霊の総大将「バロン・サムディ」から取った。この「バロン・サムディ」の正体は「サミュエル」という天使らしいが。


日ノ内 賢志
まあ、この人は赤森市のしがない警備員。20代後半で女房の尻に敷かれてるの。元々はハリウッドみたいな映画の都で特殊メイクの職人になりたかったのだけれど、当時の家庭の事情から諦めざるおえなかった残念な人。
自分の身にふりかかった不幸を大袈裟にとらえたりするクセがあって、自分は社会の落伍者みたいに思い込んでいる節がある。一応、世帯持ちなくせに「自分の人生は終わってる」みたいな考えがある困ったちゃんで、しょっちゅう自暴自棄を起こしたりする無責任で無謀な部分もある。幼い時の夢は、「軍隊に入って戦地に行きたい」というもので、大人になった今でも心のどこかにそういう部分がある。だから、土壇場では異様にハッスルする部分もあったりする屈折人間でもあるの。名前の由来は大槻 ケンヂなのよ。

ブレンダ・バンペルト
まあ、この人はリヴァイデの片田舎のテレビ局に勤める、局長兼リポーター。テレビ業界のことはよく分からないから、考証不足な点が否めんね。まあ、彼女の先祖は移民の白人。んで、過去にボーイフレンドを核攻撃後の戦争で失っているの。ボーイフレンドは高卒だったから最前線に送られたのよ。ちなみにカメラマンのブリスコは部下。彼は既婚者で3歳の娘さんがいるの。ブリスコは黒人と白人の混血。まあ、白人といっても人種的にいえば、アングロ・サクソン人じゃないの。ヒスパニックとかそっちね。コングってのはこのグループで最年長の運転手兼周辺機器のエンジニア。白人で歳的には40代後半。あだ名に似合わず細マッチョ。

アルバート・バロウズ
この人もリヴァイデ人なのだけれど、「始祖鳥」の標本を捕まえるためにラスタフィカに来た人間。一応、動物学者なのだけれど、珍しい動物を捕まえる実働部隊が専門。植物学者のデュバル博士とは長い付き合い。歳は40代前半。どちらかというと、学者というより山師ってな雰囲気があるのよ。助手のエンリコは20代後半の青年。
んで、ガイドのポールはラスタフィカでもとりわけ田舎のほうの出身。実家は麻薬農業の小作人もやる狩猟民族。
10代後半で田舎を飛び出し、都心へ行ったが仕事はあまりなく、麻薬の運び屋になったこともある前科者。

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象14

第五章 ラスタフィカ タム・ホイズー村 アルバート・バロウズ

船主を操舵室に連れてくると、船主は

「あんたどうやって、リヴァイデに行くつもりだい?」聞いた。

「ヘリを呼ぶ。」

それだけ言うと、アルバートは操舵室を出た。入り口にはエンリコが立っていた。

アルバートはエンリコにライフルを渡し「あいつを見張ってろ」といってデッキに出た。船尾のジープの助手席に座ると、携帯電話を取り出し、研究所の所長にコールした。

呼び出し音がしばらく鳴ってから所長が出た。

「アルバートだ。ちょっと、トラブった。」

「どうした?」

「今、あんたの命令通り、リヴァイデに帰ろうとしているんだが…」

「何があった?」

「ラスタフィカの国家は機能不全らしい。」

「何だって!?」

「今、船に乗って島は出たんだが、港がダメになってるようだ。話によれば、あんたが昨日言っていた例の死人らしい。」

「そこでも出たのか?」

「ああ、そうらしい。ま、俺はまだ見てないがな。んでだ、とりあえず別の船着場に寄って、燃料と食い物を調達するつもりなんだが、あんたにはヘリでも何でもいいからリヴァイデに帰る足を手配してもらいたい。」

「急だな…」

「ハプニングが人の準備を待ってくれるかよ。こっちには生存者が全部で11人。現地人もいるが、ラスタフィカを出たがっている。」

「本土はどうなってる?」

「だから、本土が崩壊してるんだよ!!」

「そ、そうか。ああ、分かった。やるだけやってみよう。」

「やるだけやられてちゃ、困るンだよ。じゃなきゃ、俺達は陸で死人に喰われるか、船の上で飯をめぐって殺し合いするかのどっちかなんだよ!!」

「ああ、分かってる。だが、」

「だが、何だよ?」

「こちらも段々と雲行きが怪しくなって来た。今日の朝からこの辺にも避難勧告が出てる。」

「何だと、そっちでも死体が歩いてるってのか?」

「そうなんだ。ちょいとリヴァイデもゴタゴタし始めてる。ウチが雇っているヘリのパイロットも警察やレスキューに借り出されている。ヘリが手配出来るかどうか…」

「リヴァイデからここまで飛んで来れるヘリなんかねえよ。軍部にでも連絡してくれ、海軍でも海兵隊でも何でもいい、こっちに助けを寄こすよう言ってくれ。電話番号が分からなければ、沿岸警備隊にでも相談してくれ。」

「ああ、ああ、分かった。とりあえず連絡する。」

「頼むぜ。1時間後にまたかける。」

「分かった。とりあえず、がんばれよ。」
アルバートは携帯電話を切った。

急に船の警笛が唸った。

アルバートは操舵室に駆け込んだ。

「どうした?」と船主に言った。

「見な。ボートだ。」と答えた。

操舵室の正面の窓を見ると、船の前方に数隻のボートが群れを成していた。
船主は操舵室を出ると、船首に行くと

「本土から来たのかー!?」
の大声で叫んだ。

「スラコから来た!!」と返事をした。

ボートの群れがこちらに近づいて来た。船主は船首に固定されている機関銃に近づいた。

「スラコから逃げてきた。」と先頭のボートに乗る男が言った。

「スラコもやられたのか?」

「悪霊どもでいっぱいだ。どこに行くんだ?」

「俺達もスラコに行こうとしてた所だ。」

船主がそう叫ぶと、先頭のボートの後ろのボートから

「行くな!!バチがあたるぞ!!」
という声が聞こえてきた。

「お前達はどこに行くんだ?」

「セント・サンズ島だ。」

「そうか、じゃあな。」

ボートの群れは船から離れ、船の進行方向とは逆の方に進んで行った。
あらかた、ボートがいなくなった所で、船主は操舵室に戻り、「スラコもやられた…。」とアルバートとエンリコに言った。

「じゃあ、どこか他にないのか?」とアルバートは言った。

「この近くなら、スラコより少し先のタム・ホイズー村があるが。」

「そこに行こう。」

「多分、タム・ホイズーもやられてるだろう。」

「その可能性は高いと見るべきだが、この様子じゃあどこ行って同じこった。とりあえず、行くだけ行ってみよう。いくら死人が人を喰うからって、ガソリンまで飲むわけじゃあないだろう。このまま、何もしないでいるよりはマシだろうぜ。」
船主は無言で再び舵を取った。

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象13

時計を見ると午前1時34分になっていた。外に出ていた避難民も車に戻ったようで、外にいた人間も随分と少なくなっていた。

日ノ内は何となく暇つぶしに、この車の行列の最後尾はどうなっているのか、歩いて見に行ってみることにした。

車が延々と続く。車の窓を見ると車のシートのリクライニングを倒し寝ている避難民が多くいた。
外の歩道に寝そべっている者もいた。

音量は小さいがカーナビのテレビを誰かが見ていた。機動隊の防衛ラインは完全に崩壊した事が報道されていた。

日ノ内は横目でそのカーナビの画面をちらりと見た。レポーターは敗走してきた機動隊にインタビューをしようとしていた。「すみません。私達の力が至らないばかりに…」機動隊の一人がヘルメットを脱いで、涙を流しながら頭を下げていた。

日ノ内は延々と続く車の遠く先を見た。遠くでは人影が暴れていた。何だろうと思った日ノ内は急ぎ足で先に進もうとした。人影が徐々に見えてきた。

その人影は悲鳴を上げながらこちらに近づいてきた。その人影は避難民達だった。

それと分かった日ノ内はその避難民達に駆け寄った。

「どうしました?!」

「来たぞ、後ろから来るぞ!!」

日ノ内は逃げ惑う避難民達を搔き分け、遠く見た。

日ノ内は唖然とした。

そこには、口元や体を血だらけにした動きが緩慢な一団が、どんどんとこちらに向かっていた。

「クソ…」日ノ内はそう呟くと、仲間達が守るポジションへと取って返した。

日ノ内は全速力で走りながら、「車に入れ!!ドアを閉めてロックしろ!!」とまだ事に気付いていない避難民達に向かって叫んだ。

それを聞いた避難民達はは大慌てで車に乗り込んだ。

日ノ内は無線機を取った。

「所長、化け物がこっちに向かってる。もう、こっちはダメです!!」

「ごめん。こっちも囲まれてるんだ。そっちで、対応してくれ!!」

「了解!!じゃあ、こちらで対応します!!」

日ノ内は斉藤に無線を切り替えた。

「斉藤くん!!ここはもうダメだ。後ろから死人の大群が来てる!!」

「まじスか!?」

「ああ。皆に言ってくれ!交差点の規制を解除して、車を全部左折で逃がせ!!」

「了解!!」

「それと、死人が来たら、みんなでゴム弾を撃ちまくってくれ!!」

「分かりました!!」

車がゆっくりと次々に走り出した。

全速力で日ノ内がポジションに戻ると、「交差点を守るぞ。」と、斉藤と駆けつけた杉浦の班2人に言った。
4人は交差点の北方面にゴム弾銃を構えた。

規制が解除された交差点を次々と避難民の車が左折していった。他社の警備員たちが「左折せよ」の合図を出していた。

車に乗っていなかった避難民達は歩道を走って来た。

その後ろから、血に飢えた死者の軍勢がゆらゆらと歩いて来た。

死者達の前を避難民達が逃げ惑っていたため、無闇に発砲が出来ないでいた。

「徒歩の避難民が過ぎたら、撃ちますよ!!」

「わがっだ!!」杉浦がいった。

徒歩の避難民が逃げ去った所で、4人は一斉に銃は発射した。

しかし、4人の発射したゴム弾は、どの死人にも当たらなかったようだった。

ひるむ様子も見せず、緩慢な動きではあったがどんどんと前進して来るのであった。

「撃ちまくれぇ!!」杉浦が叫ぶと、4人は銃を乱射した。

弾がようやっと死人の何人かに当たったが、衝撃によろめいた程度で、倒れ込みもしなかった。

「やっぱ、ゴムじゃダメだ。」斉藤が撃ちながら叫んだ。

杉浦が銃を持った4人に「もう、わがねえ!!逃げんぞ!!」と言うと、避難民の車を誘導していた他社の警備員

達に向き「もうここはダメだぁ!!そこのカラーコーン道路脇さなげて、逃げろ!!」
と叫んだ。

他社の警備員達はカーラーコーンを急いで道路脇に除けると、自分達の乗ってきた車へと急いだ。

日ノ内と斉藤は、自分達の車に急いで乗った。

杉浦はまだ、交差点で銃を発砲していた。

日ノ内は窓を開け、「早く逃げてぇ!!」と杉浦に叫んだ。

杉浦は自分の相方に肩を叩かれ、急いで車へと向かった。

日ノ内は窓を閉めると、「行くぞ。」と斉藤に言い、エンジンをかけた。

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象12

日ノ内が歩く死人を見たのはこれが始めてだった。

そのせいか、彼女が本当に蘇生した暴れる死者なのかどうか、今ひとつ実感が持てなかった。

どちらかというと、実は今までは気絶か何かをしていて、意識を取り戻したので立った、といような感じにしか思えなかった。

口から血の混じった涎を垂らし、片手で掴みかかろうとするのは、彼女がホラー映画のマニアでそういった映画に登場する怪物を真似ているだけ、という風に想像することも難しくなかった。

もしかすると、話しかければ我に返って大人しくなるかも知れない。そう思った日ノ内は、
「大丈夫ですか?」と声をかけてみた。

だが、彼女は緩慢とした動きで、日ノ内に掴みかかろうとした。

「ダメだな、こりゃ…」
そう呟くと、日ノ内は一度、その場を離れて、所長に連絡した。

「すみません。あの、轢かれた警備員さんなんですが…」

「どうしたの?」

「生き返って、暴れてます。どうしましょう?」

「ええ!?ちょっと、待って警察に言ってくる。」
しばらく、待ったあと所長が再び、無線を入れた。

「現場で対処してくれって。警察は動けないってさ。」

「どういうことなんです!?救急車もよこしてくれない、死体が生き返れば現場で対処しろって!?どうすればいいんです?拘束するにもロープも何も無いし、撃つにしてもこの銃じゃあ殺せない。まさか、俺にひき殺せっていうんですか!?」

「警察がそれしか言わないんだよ。」

「分かりました。警察はもういい…」
日ノ内は無線を切った。

騒ぎを聞いた避難民達が交差点に集まり出してきた。

「誰か、ロープかヒモ持っている人はいませんか!?」
皆、目の前で起こった事態に気を取られ、返事をする者はいなかった。

「チッ」と舌打ちした日ノ内は自分の車のドアを開け、何か使える物はないかと探した。後部座席を見ると、雨合羽の上下が目についた。

それを掴み、交差点に取って返した。

彼女は鈍い動きで交差点の真ん中を歩き回っていた。その周辺には警備員達が遠巻きにそれを囲んでいた。

日ノ内は雨合羽の上着を広げ、彼女の後ろからそれで頭を包んだ。

そして合羽のズボンを使って首のあたりでそれを巾着のように結んだ。とりあえず、これで噛まれる心配はいくらか無くなった。

そして、日ノ内はヘルメットの下に被っているバンダナを思い出した。ヘルメットを脱ぎ、バンダナと取ると、彼女を羽交い絞めにしながらガードレールへと向かった。

「誰か腕を押さえててくれ!!」と言というと、他社の警備員が一人走ってやってきた。

バンダナを使い、二人がかりでガードレールに彼女の腕を縛りつけた。

だが、どうしても彼女は無理やり立ち上がろうとするので、日ノ内は自分の警笛をつなぐ編み縄を肩から外し、彼女の肩にもかかっている同じ編み縄を取り、その二つを使って何とか足も縛った。

とりあえず、これで下手には動けないだろう。

「あとは…あとは、この人が暴れないように見てて下さい。」とその警備員に言うと、ポジションに戻った。

頭を包んでいる雨合羽から、うめき声が聞こえてきた。

日ノ内はまたしゃがみ込むとタバコを吸った。野次馬見物の避難民たちもまばらに自分達の車の辺りに戻って行った。

そこに斉藤が「よく、出来ましたね。」と言ってきた。

「冗談じゃねえ。あんな事、二度とごめんこうむりてえもんだ。」と日ノ内はタバコの灰を地面に落とした。

「くそ、あのバンダナ、お気に入りだったのによ。」と独り言を言った。

またしばらくすると、主幹道路を繁華街の方向から車がやってきた。日ノ内は見覚えのある車だなと思った。
それもそのはずだった。杉浦が帰って来たのだ。

道路の小脇に車を止めると、ビニール袋を片手に車から降りてきた。

「ヒノ!!市内はもうすげえっけぞぉ。」
といって、日ノ内のポジションにやってきた。

「これ、コーヒーだぁ。」といってそのビニール袋を日ノ内に渡した。

「ありがとうございます。んで、どうでした?」

「いやあ、もう市内は化けモンだらけよ!もう、ありゃあ、わがねぇ。」

「コンビに開いてたんですか?」

「いや、自販機で買ってきたのよ。」

「さっき、あの警備員が生き返りましてね。」

「ンだってかぁ!?」

「まあ、所長に連絡したんですけれど、こっちで善処しろってことになって、んで、結局あっちのガードレールに縛り付けてました。」

「あじゃじゃじゃ、ひんでえモンだなぁ。」杉浦は痛々しそうな表情をしながら、コーヒーを飲んだ。

「ところで、警察はどうでした?」

「市内ではあんま、見ねなぁ。んでもよ、市内から出れば何台か見だったなあ。東警察署も見だども、あそこにはあんま無かったけな。」

「避難って始まってました?」

「すったな雰囲気はねがったな。」

「何だか、、本当何がなんだかさっぱりです。いつまでたっても、指示もなしのつぶてだし。」

「ほんっとによ。おかすけねえ。警察は、化けモン見でるでもねえ、避難させでるでもねえ。なぬすてらんだが…」
あらかた話し終えた杉浦は、交差点を越えて自分のポジションに戻った。

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象11

あれから2時間ほどたったが、一向にこちらの避難は開始される様子がなかった。
警官の一人も来ることがなく、そこには警備員が4人と苛立つ避難民だけが残されたような、そんな雰囲気だった。

斉藤はタバコを吸いながら「最初は、インフルエンザとか食中毒みたいなもんだと思ってました。」
と言った。

「と、いうと?」と日ノ内は斉藤の顔を見た。

「世間では流行ってるみたいだけれど、罹った奴が自分の周りにはいないモンじゃないスか。」

「ああ、そういうことか。俺もその位にしか考えていなかったよ。けどよ、インフルエンザも食中毒もよ、こんなにあからさまに見えるもんじゃあねえしな。それに、現に俺はまだ、死体が歩き出すところを見たわけじゃあねえしな。」

「本当に、北方面はやられたんでしょうかね?」

「まあ、それに関しては本当じゃないか?現にこう、車が並んでるじゃないか。」

「そうですね。」

日ノ内は携帯電話を取り出した。今度はどうかと自宅にかけてみた。やはり、回線がつながらない様だった。

「ああ、高けえ通話料とってる割に、こういう時はだらしねえな。」と日ノ内は愚痴をこぼした。

避難民達の中には車から降り、車外で規制の解除を待つ者もかなりいた。

日ノ内は腕時計で時間を見た。時間は22時05分だった。一向に指示は何も来なかった。

携帯電話のテレビも主要都市の情報が優先されているのか、地方のニュースもなかなかやらなかった。

今、避難は開始されたのか、どこまで進んでいるのか、知る術が殆ど無かった。

日ノ内も段々と足が疲れてきた。指示があるまで、この規制を破られないよう見張るぐらいなので、周囲に目を配りながら、その場にしゃがみ込んだ。緊張感を失いかけた所で、無線が鳴った。

「3班。何か動きがあったか?」

「いえ、誰ですか?」

「2班の吉岡だ。」

「ああ、おつかれさんス。どうですか?そっちは?」

「こっちも動きがねえよ。ずっと車を止めてる。」

「こっちは、2時間くらい前に一人死にました。車に跳ねられたんです。」

「まじで!?誰がやられた!?」

「うちの警備員じゃないです。今、合同でやっている他の会社さんのトコです。」

「救急車は?」

「所長に呼んでもらったんですが、電話がつながらないようで…、もう2時間たっても反応しないみたいだから、恐らく死んじゃってますね…」

「まじかよ…。」

「1班の蔭山だ。」
そこに1班からの無線が割り込んできた。

「ちょっと、厄介な話を聞いたぜ。」

「何スか?」

「今、南西地区から逃げてきた人から聞いたんだが、もう、南西地区はダメだってよ。死人がこっちに向かって歩いてるらしいぜ。」

「参りましたね。板ばさみスね。」

「本当だよ。まだ、警察からも命令は来ねえしよ。ったく…。」

「県内ニュース何かやってませんでした?」

「いや、携帯でテレビ見てたけれど、何にも…。お前、見たの?」

「いえ、何も見てません。そうだ、ラジオは?」

「ラジオも聞いたよ。自分の車で。どっこも首都圏のことしかやってない。」

「何なんスかね…。」

「さあな。まあ、都心もエライ騒ぎだっけな。」

「そうすか…」
日ノ内は一旦無線を切った。主幹道路を数台、一般車両とおぼしき車が通った。日ノ内はようやっと避難が開始されたと思った。

だが、その車が通り過ぎると再びさっきと同様の静かな道路へと戻っていった。

まあ、しばらく待てばまた何かが来るかもしれない。そう考えながら、日ノ内は主幹道路を眺めた。

すると、交差点の向こう側から警備員が一人、こちらに向かって歩いてきた。

「何だべなあ、さっきの車。」
歩いて来たのは、仲間内から「夜勤の王様」と呼ばれてる杉浦だった。

「ああ、おつかれさんス。」日ノ内は会釈した。

「おめえたずのほうも、何も連絡なすか?」

「ええ、まあ。杉浦さんは?」

「聞いでるわげねえべじゃぁ!」

「ですよね…」

「何かよぉ。なんも連絡なすでよぉ。いつんなったら一般車通すていんだがよぉ」
杉浦も多少苛立っていた。

「オラぁ、ぺっこ車乗って見て来る。だぁめだぁ。いずまでもよぉ」

「どこ見て来るンですか?」

「市内と警察よぉ。」

杉浦はポケットから車のキーを取り出した。
「ぺっこ見て来るがらよ。おめたず、頼むぞ。」
と言って自分の車に乗った。そして、その車は静かな主幹道路に出ると、繁華街に向かって走って行った。

日ノ内は所長に無線をかけた。

「つい、今しがた、一般車両が複数台、ここを通りました。避難って始まりました?」

「それが、こっちには何も連絡が来てないんだよ。」

「あれ?今、警察本部にいるんですよね?」

「いや、それがねえ、本部は警察以外立ち入り禁止になってねえ。今、東警察署の玄関にいるんだよ。なんかねえ、南西地区がすごい事になっちゃったみたいでね。」

「ええ、それ、聞きました。蔭山さんに…」

「ああ、そう。まだ、ごめんよ待機中だわ。市内にももう死んだ人達が入って来てるみたいでね。警察も忙しいみたいだ。」

「はあ、了解です。」
日ノ内は無線を切った。

「どうですか?様子は?」
一緒のポジションにいた他社の警備員が日ノ内に訪ねた。

「これは…う~ん。下手すると朝までこの状態かも知れませんね。市内に例の死人が入り込んでるみたいですよ。」

「そうですか…。」
その警備員は溜め息をついた。

「おつかれでしょうから、少し休んで下さい。その間、俺と相方で見てますんで。」

「ああ、ありがとうございます。まあ、適当にやってますんで。そちらも、気にしないで休んで下さい。」

「どうも。」
日ノ内は再び、いつになったら終わるのか分からない規制を見張り始めた。

時計の針が0時を回る頃、交差点の向こう側は騒がしくなった。

その音に日ノ内と斉藤が目をやると、向こうの警備員達があわてた様子で動いていた。日ノ内が交差点を越え、そこへ行くと、恐れていたことが起きてしまっていた。

数時間前に跳ねられ、轢かれた女の警備員が立ち上がっていた。

口からは血の混ざった涎を流しながら、片方の腕が骨折していたのか、もう片方の腕だけを動かし、喜怒哀楽のどれにも当てはまらない表情で掴みかかろうとしていた。

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象10

日ノ内とその相方に割り当てられた現場は、繁華街より離れた赤森市のほぼ外側のポジションだった。

普段なら夜は交通量の少ない田舎道なのだが、今日は車の台数が大幅に増えていた。

緊急車両や軍用車両のために確保された車通りのない主観道路から現場に入った。車を降りると、腰に誘導灯を差し、手にゴム弾銃を持ってポジションに向かった。

そこには、昼間から警備に当たっていた他社の警備員が2人いた。

そこは主観道路と交わる交差点であったが、一般者の車にその道路に入ってこられないように、赤いカラーコーンとコーン・バーで遮られていた。

こんな人の手でいくらでもどかすことが出来る貧弱なバリケードを守るために、ここの警備員達は配置されていた。

どうやら、一般人の男性複数人と揉めているようであった。

「道はガラガラじゃねえか!?何で通さねえんだよ!?」

「早く、開けやがれ!!」

その警備員達は何とか彼らをなだめようと必死だった。

「今、警察の指示で順番に通しますので、どうか落ち着いて待って下さい。」

その時、交差点の向こう側で、エンジンを空ぶかしする音が聞こえてきた。

日ノ内と相方がその車を見た。

その車の前にはライトに照らされてこちら側からはシルエットしか見えない警備員が立っていた。

停止の合図をだしながら「すみません」の会釈をしていた。

日ノ内は何か嫌な予感を感じていた。

その車は空ぶかしを一旦やめると、今度はハイ・ビームにして乱暴に発車し始めた。

力づくで押し通れば、その警備員は道を空けると思ったのかも知れない。

だが、その警備員はどかなかった。

それ故、その車は警備員とカラーコーンを撥ね飛ばした。

警備員を跳ね飛ばした車は一度交差点内で止まり、再びスピードを上げて発車した。

日ノ内は交差点に飛び出し、ゴム弾銃を2発その車に向かって乱射した。

その車は繁華街の方向に走り去っていった。

そのドサクサにまぎれて、その後続に付いていた車が3台交差点に出てきた。

日ノ内は「止まれ!!止まれ!!」と叫び、ゴム弾銃を構えながらその車の助手席の窓に近づいた。

しかし、その3台の車もスピードを上げて繁華街の方向へ走って行った。

慌てふためいた最後の3台目の車は、撥ね飛ばされた警備員の上を乗り上げて走って行ったようだった。

日ノ内の相方がそこに駆け寄り、所長に無線連絡をした。

「3班の斉藤です。警備員が一人、車に轢かれました。他の会社の人です。轢いた車は国道を繁華街に向かって逃走。ナンバーはX●-♪fです。白の乗用です。その後続に3台あります。いずれも繁華街に向かってます。
そのうちの黒い普通車四駆も警備員を乗り上げて走って行きました。ナンバーは確認できず。です。」

「何!?分かった。今、警察に報告して救急車を呼ぶね。」

「3班の日ノ内です。その白の乗用を制止するため、ゴム銃の弾を2発ほど、威嚇射撃に使用しました。」

「了解。」

無線での報告を終えると、日ノ内は跳ねられ、轢かれた警備員を覗き込んだ。その警備員は若い女性であった。仰向けに寝そべって少しも動きそうな様子がなかった。

その彼女の相方らしい警備員と二人で日ノ内は、動かない彼女を道路から歩道に運ぶと、彼に「救急車を呼ぶそうです。」と言った。

そこにもう一組、日ノ内と同じ会社の警備員達が到着した。日ノ内は彼らに状況を説明すると、自分のポジションへと、相方と共に戻った。

さっきまで、警備員と揉めていた男達は、静かに日ノ内達を見ていた。

日ノ内は彼らに「順番にお通ししますので、お待ちいただけますか?それとも…今度はあんた達が俺らを轢き殺すのか?」と言った。

男達は下を向き、無言で車へと戻っていった。

所長から無線が入った。「ダメだ、電話はやっぱりつながらないや。救急車呼べないや。」

「そうスか…。多分、恐らく死んでると思います。ですけど、生き返って暴れ始める可能性があるかな、と」
日ノ内はそう返した。

「とりあえず、今、警察の本部にいるんだよ。ひき逃げのことは伝えてあるから、その…頑張って。」

「ああ、はあ…。分かりました。何かわかったら教えてください。」

「了解」日ノ内は無線を切った。

救急車がこないこの状況を見ると、彼女は助からない若しくはすでに死んでいる事は明らかであった。だが、どちらにしても彼女が跳ねられ、轢かれた所を見た全ての人間達は、一秒でも早く彼女を遠ざけて欲しかった。

彼女が何時間後に蘇生するのか、どのような形で暴れ出すのか、皆、尋常ではない不安を抱えていた。

日ノ内の相方の斉藤は腕時計を見た。先ほどからあまり時間は経っていない。時間の流れが遅くなったような、そんな感覚に囚われた。

同じポジションを守る他社の警備員の一人が、携帯電話でテレビを見た。

「機動隊がやられました!!機動隊が押し倒されていきます!!」というレポーターの悲鳴にも似た声が、その携帯電話からこだました。

斉藤もポケットから携帯電話を取り出し、テレビを見た。

「今、機動隊の煙幕で状況が確認できません。」どうも、生中継で現在襲われているらしい、機動隊の様子をビルの屋上から撮影した画像がそこには映し出されていた。

日ノ内は斉藤に「県内ニュースは?」と聞いた。

斉藤は携帯電話のテレビのチャンネルを変えた。

「国防陸軍南西方面隊基地は、避難民に兵舎と訓練場を開放しました。」

さらにチャンネルを変えた。

「煙幕で視界が悪くなり、機動隊は混乱している様子です。」

日ノ内は「他のチャンネルは?」と言った。

斉藤はまた別なチャンネルに変えたが、どのチャンネルでも県内ニュースはやっていなかった。

「まだ、県内ニュースはやっていないようですね。」

「そうだなあ。」

日ノ内は無線を所長にかけた。

「避難って始まってますか?」

「うん、始まっているみたいだ。順番に道路を開放しているようだけれど…」

「了解。」

「どうして?」

「いえ、ただ。気になっただけです。救急車はどうですか?」

「今、連絡中だよ。つながらないんだよ。」

「警察は?」

「警察は手が回らないって…」

「そうですか…。出来れば生き返る前に来てくれればいいんですが。」

「まず、気をつけて見ててくれ。」

「了解。」
日ノ内は斉藤を見ると、「救急車も警察も来ないぞ。きっとな。下手に怪我は出来ねえって事だな。」と言った。
斉藤は頷いた。

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象9

第四章 天昇 赤森市 日ノ内 賢志(ヒノウチ ケンシ)

日ノ内は日勤を終え、一度、自分の所属する警備事務所へと帰った。自分の車の助手席から、無造作に投げ出されたペットボトルのコーラを取り、伝票を持って事務所へと向かった。

事務所の扉を開けると、そこにはすで勤務を終えて帰ってきた仕事仲間達がいた。
老年のベテランが事務所のテレビを見ていた。

日ノ内は所長のデスクに伝票を置くと、コーラの蓋を開け、テレビの前にしゃがんだ。

「ご苦労、ヒノ!」老年のベテランが日ノ内の肩を叩いた。

「おつかれさんス。」日ノ内はそれに返した。

テレビでは、首都圏からの中継の映像が流されていた。リポーターの後ろには国防陸軍の偵察車両や装甲車が並んでいた。

「はい、こちらでは昨日から、すでに住民の避難が始まっております。都内では蘇生した暴徒による被害が増え続ける一方です。」

日ノ内はコーラを飲み、休憩用のテーブルにある灰皿を近くに寄せた。
しばらくして、ベテランが口を開いた。

「お前、今日何処だった?」

「今日は青田町でした。」

公共工事が全面的にストップしてから数日後、県内の警備員は、蘇生した死者の暴動に対応する緊急車両や軍用車両の道路確保のため、一般者の乗る車を規制するために24時間体制で借り出されていた。

電話対応をしていた所長が電話を切ると、

「みんな、聞いてくれ。」
と言った。

事務所内の人間の目、全てが所長に向いた。

「緊急です。今、県警からの要請があった。もう赤森の北側は壊滅状態だそうです。赤森の住民を避難所に避難させるから、混乱させないように規制を張るそうです。全員に出てもらうので、みんな、帰らないでこの場で待機してて。」と言った。

ベテランは、「北方面がやられたか…。多分、今日は帰れねえぞ。ヒノ、お前カミさんに連絡しとけ。」
「あ、はい。」日ノ内は携帯電話を取り出し自宅に電話した。

しかし、回線の混雑のために一向につながらなかった。また、しばらくしてかけ直してもつながらなかった。

所長が事務所にいなかった隊員達に連絡するも、やはり電話がなかなかつながらない様子だった。

一時間ほど経過して、日ノ内は再び自宅に電話したがつながることは無かった。

事務所の隊員たちはテレビに見入ったり、暴動の噂話をしたりしていた。所長は警察からの指示を仰ごうと何度か警察に連絡したが、つながる気配がなかった。

事務所の隊員たちが自分達の釘付けの状態に苛立ちを覚えた頃、一人の警察官が事務所にやってきた。

所長とその警官がプリントを見ながら話をすると、その警官はいそいそと事務所を出て行った。

どうやら、いつまでたってもつながらない電話に業を煮やした警察が、直接、警備事務所に出向いてきたようだった。

「さあ、説明するよ。みんなコッチに来てくれ。」と所長が全員を呼び寄せた。

二人一組、三人一組のグループに分けられると、それぞれのグループの警備ポジションが割り当てられた。

「とにかく、避難してきた車を順番に通すから、それまでは通行止めにしておいてくれ。それと、現場に行く前に赤森東警察署に寄ってくれ、だそうだ。装備品を渡すそうだ。」所長が説明の最後にそう言った。

説明を聞いた隊員たちは、それぞれに事務所を出た。

日ノ内は自分の車に乗ると、再度、自宅に電話した。やはり、つながらなかった。携帯電話をポケットにしまうと、少し送れて相方が乗ってきた。

「さて、行こうか。」日ノ内はそう言って車を発進させた。さすがに避難命令が出ているだけあり、反対車線の道路はいつもよりもかなりの混み具合だった。

繁華街に差し掛かると人も車も殆どなく、飲食店も明かりが点いている様子はなかった。

「10年前に核ミサイルが降ってきた時だって、ここまで酷くはなかったな。まあ、こっちには被害は無かったがな。」と日ノ内は言った。

「俺まだ、12歳の時でしたよ。」

「そっか。俺は18だった。まあ、最悪な暗黒時代だったよ。」

繁華街を抜けてすぐの所に赤森東警察署はあった。日ノ内は駐車場に車を止めると、相方と一緒に署内へと入って行った。調度、エントランスには事務所にいた老年のベテランともう一人も着いていた。

受付に座っていた、若い警官に「イーグル警備保障の者です。」というと、「二階の交通課にお願いします。」と言われた。

4人が階段を上り、交通課に行くと他の警備会社の人間も多数集まっていた。あまりの多さにそこにいた警官が
「エントランスに出ましょう。そこで装備品を渡します。」と言って、警備員達をエントランスに集め直した。

エントランスでしばらく待っていると、日ノ内達と同じ会社の警備員が6人到着した。

二階から数人の警官たちがダンボールを抱えて降りてきた。「一列に並んで下さい。」

警官にそういわれると、警備員達はエントランスに蛇行しながら一列に並んだ。

警備員達には、警察から装備品が配られた。日ノ内の番になった。大きめな長方形のプラスチックの箱と、ボール紙で出来た小箱を2つ渡された。

列から離れた日ノ内がその長方形の箱を開けると、そこに入っていたのはポンプ装填式の銃だった。
二つの小箱を見てみるとそれはゴム弾だった。一つの箱は単発の通常弾で、もう一つは散弾だった。

一通りそれらが行き渡った所で、警官が話し始めた。

「交通規制に関しましては、各事業所さんで説明されたと思います。説明されましたか?」

それに対し警備員達はまばらに「はい…」と答えた。

「はい、分かりました。一応、状況としましては、かなり厳しいです。今日の昼頃の話ですが、北方面に避難命令が出た際、現場で通行止めをしていた警備員の方が、避難をしようとしていた一般の方に暴行を受けております。その方は今、病院にいますが意識は不明だそうです。避難している住民の方たちも切羽つまっていますので、充分に気を付けて下さい。それと、皆さんにお渡しした装備品。もう、中身をご覧になられた方もいらっしゃるようですが、殺傷性の低いゴム弾と銃です。北方面には暴動の加害者が多数、確認されております。避難民の後を追って中心地に流れ込んで来る危険がありますので、緊急に手配しました。それと、さっきも言いましたが避難される住民の方の中には、こちらに危害を加えようとする方も出てくると思います。そういう事態になりますと、円滑な避難誘導に支障が出るだけでなく、思わぬ事故にも発展しますので、制止しても止まらない車両や、あまりにも酷い人がいましたら、遠慮なく撃って下さい。その後は、必ず警察本部に連絡を下さい。では、以上です。では現場にお願いします。」

多少ざわめきながら、警備員達はそれぞれの現場に向かうべく、エントランスを出て駐車場へと向かった。

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象8

アルバートはGPSを使い、現在の地点から一番近い港を探した。ここから、一番近い港は当初の予定であった「黒い港」以外には表示されなかった。

恐らく、海沿いの漁村あたりにはちょっとした船着場はあるのだろうが、そのGPSにとってはまだ未確認の情報らしく、画面には出ていなかった。

「ポール、奴らを早く警察に突き出したい。近場に船着場があるか?」と訪ねた。

「黒い港の途中にスラコ村があるよ。」

「じゃあ、黒い港はあきらめて、スラコで奴らを警察に引き渡したら、ジープで黒い港に行こう。」

「分かったよ。ただ、スラコから陸路で黒い港に行くとなると、また密林を抜けなきゃいけないね。」

「迂回路は?」

「そこを通ると、海を行くよりも半日ぐらい遅くなるかな。」

「まあ、アクシデントの後だ。そのくらい仕方ないさな。」

「OK。」ポールは笑った。

アルバートはGPSを片手にキャビンへ戻った。そこで、船主に

「スラコ村まで操舵しろ。」と言った。
船主はアルバートを睨み付けた。

「俺は舵を握らんぞ。自分でやるといい。」と言った。

アルバートはエンリコのFA-MASライフルを取り上げると、船主に狙いを定めた。

船主は「俺を殺していいのか?お前に船が動かせるか?」と言った。

「出来る奴がやらないのは、出来ない事と同じだ。それにこの船は俺の船じゃない。お前がやらないのなら、俺の好きにこの船を動かす。この船が壊れても、スラコに着ければ大した問題じゃない。この船を壊されないチャンスを与えてやっているのは俺だと気付くべきだな。」

アルバートは銃を下ろすと、キャビンを出ようとした。すると、

「お前らの行きたい黒い港は悪霊にやられている。」と船主が言った。

その言葉にアルバートは立ち止まった。
「何だって?」

「死体が暴れまくってる。生きている奴は、きっといない。」船主はアルバートの目を真っすぐ見た。

アルバートが船主に向き直ると船主は続けた。

「山ん中にいたあんたらは知らないだろうが、あんたらがいない間に、この国は終わった。俺があんたらをグー島に送り届けた後、麻薬内戦の最前線から大量の避難民が田舎に逃げてきた。最前線で死んだギャング達が生き返って、避難民達を追いかけてきた。二日足らずで全滅した村もある。首都のシャドでも死人が動き出した。奴らも、とにかく手当たり次第に人間も犬も喰い漁ってる。それでも、バロンもサイゼックスも警察も戦争をやめなかった。死人は増え続けて、死人は生き返りまくって、人間を襲いまくって、気付いた時には警察も軍も役に立たない程に死人達が増えて、今はもう警察署にも軍隊の基地にも誰もいない。国営ラジオの放送も止まった。まだ、生きている奴もいるだろうが、そんなの時間の問題だ。この国は終わったんだ。」

「んで、警察がいなくなった所で俺らを殺して、一儲け考えたワケだな。」

「何とでも言え。あんたらをまた迎えに行くまでの間、俺達は次の仕事を探しに黒い港に戻った。着いた時はまだ、静かなもんだった。まだ港にいつも通り荷下ろしの人夫もいた。だが、夕暮れ頃、近くの村から死人達が港の明かりにつられて、どんどんやってきた。もう港は大騒ぎだった。マシンガンや拳銃を乱射しまくった。港はもうダメになった。それで、俺達は一度沖合いに船を出した。そこで、そのまま隣の国、サンタリコに逃げようと考えた。だが、食い物も限られていた。そこまでの燃料もない。そこで、あんたらの乗ってきたジープを思い出した。それを奪って一度陸に上がり、燃料と食い物を集め、それからサンタリコを目指すことにした。あんたらを襲おうとしたのは生き残るためだ。」

「じゃあ、なぜ一言も相談しなかった!?なぜ、殺そうとした!?」
アルバートは強い口調で言った。

「食い物の問題だ。あんたらの分まで食い物を割くつもりはなかった。それが理由だ。食い物が少なくなると、殺し合いになる。」
船主は溜息をついた。

アルバートは暫く、考え込むとエンリコ呼び、船主のロープを解くように言った。

ロープを解かれた船主がゆっくり立ち上がると、
「お前さんが舵を取れ。そうしたら、サンタリコじゃなく、リヴァイデに連れて行ってやる。」
とアルバートは言った。

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象7

アルバートがビールを片手にニュースを見ていると、船主が銃を持った船員2人を連れてやってきた。

船主が拳銃をアルバートに突きつけ
「あんたらにはここで降りてもらう。」と言った。

「何だと!?」
とアルバートは缶ビールをテーブルに置いた。

「無茶を言うな。ここは海の上だぜ。」

「無理なら俺達があんたらの喉を切って、海に投げ捨てるまでだ。さあ、立て。」
と船主はアルバートの頭に銃口を押し付けた。

「お前ら、最初からこれが目的だったんだな。このクズどもが。」
アルバートは船主を睨み付けながら席を立った。

「このジジイも連れて行け。残りの奴らもだ。」といい、船員達にデュバルとポール、そしてエンリコも連れてくるよう命じた。

その時、船尾から「これを見ろ!!」という声がした。

全員が振り向くと、そこにはデュバルの助手の一人が立っていた。ジープのガソリンタンクを横倒しにし、ガソリンでデッキを埋め尽くし、手には火の灯ったジッポライターを持って、見せ付けていた。もう片方の手には別のガソリンタンクを持っていた。

「下手に動いたら、俺はライターを離すぞ。船を丸焼きにするか、銃を置くか選べよ。」
船主はそれを見ると、船員達に銃を下ろすよう命じた。

「先生、奴らから銃を取って下さい。」
そう言われると、アルバートは船主から拳銃を奪い取り、銃口を船主に向けた。

「形勢逆転だな。俺達を軟弱な学者と見くびったのが運の尽きだった。」
ポールとエンリコも船員達から銃を奪い取った。

「お前ら、ここに座れ。」と言ってアルバートは船主と船員達をテーブルにつかせた。

「テーブルに手を置け。いいっていうまで、絶対に手を動かすなよ。」
船主達は渋々とテーブルの上に両手を置いた。

「ポール。一人でも手を動かしたらみんな撃ち殺せ。」

「分かったよ。」といってポールは船員から奪ったAKライフルを構えた。

「デュバル先生、ジープからテントのロープを持ってきてくれ。それで、こいつらをイスに縛りつけよう。」

「分かった。」デュバルはジープへと行った。

ロープを持って戻ってきたデュバルは、エンリコや助手にも手伝わせ、船乗り達を縛り上げた。

「本当なら、お前らが言ったように、喉かっ切って海に投げ捨てたい所だが、まあ、誰もまだ殺されていないしな。警察に突き出してやる。腐敗した警察でも、今、政府が世話になってるリヴァイデの人間に手を出したとなれば、それなりに対応せざる終えないだろうな。」

アルバートは船主の顔にタバコの煙を吹きかけた。

「警察?行っても無駄だ。嘘だと思うなら自分で確かめるといい。」

「警察もお前らとグルだってのか?」

「自分で、確かめると、いい。」
ゆっくりだが、強い口調で船主は言った。

「まあ、いい。精々虚勢を張っているといい。」
吐き捨てるように言うと、アルバートはタバコを海に投げ捨てた。

エンリコを呼び、FA-MASライフルを持たせると、船乗り達を見張らせた。

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象6

アルバートが船員に「電源はあるか?」と訪ねた。
その船員は延長ケーブルの差込口をアルバートにつっけんどんに渡した。

「ありがと…」と言いながら、携帯用のテレビのケーブルをその差込口に差し、小型のパラボラアンテナをテレビの入力端子に入れた。

本土に到着するまでの間、しばしの退屈しのぎになる。

アルバートはテレビのチューニングを回して、リヴァイデの放送にチャンネルを合わせた。

「世界各国で暴動が起こっています。リヴァイデでも先週より暴動が多発しています。中継です。」

ZAC-TVのアナウンサーが画面に出ていた。しかし、その「中継です。」の言葉の直後にスタジオから現場へと変わった。

「こちらオータムフィールドの現場です。今日、午後1時ごろ、ここパーカー農場で、農場主のロバート・パーカーが息子夫婦にかみ殺される事件がありました。管轄の保安官の話によりますと、パーカーを殺害した夫婦は一昨日、飲酒運転による交通事故で死亡したトラビス・パーカーとその妻、レベッカ・パーカーであるとのことです。発見したのはパーカーの妻ですが、とても話の出来る状態ではなく、近くの病院に搬送されています。以上、現場からの中継でした。」

画面が再び、スタジオへと移った。
「次はニューファスト市の現場です。」また、スタジオから現場へと移った。
「はい、こちらニューファストの現場です。昨日より、警官隊の数が増員されています。警官による銃撃も昨日よりも回数が増しています。暴徒の数も依然として減る様子がありません。今から1時間前、警察の記者会見が開かれ、レスキュー隊と協力し、スラム街の屋上に取り残された一般市民の救出作戦とSWAT隊を要請することを発表しました。以上、中継でした。」

アルバートはキャビンのテーブルに頬杖をつき、缶ビールを飲みながらニュースを眺めていた。

「んな、バカな話があってたまるかよ…。死体が人間を殺すなんざな。」と独りごとを言った。

アルバートがテレビを見ていることに気付いた研究員のエンリコが、アルバートの向かい側の席に座って、テレビを見た。

「続いて、テンショー ミヤカミ支局から中継です。」

「はい、こちらミヤカミ支局です。ここテンショーでも暴徒化した死亡者による暴行事件が多発しています。警察署では、24時間常に出動命令が出されており、全国の給油所では緊急車両に優先的に給油するため、燃料統制が敷かれています。暴徒を収容する拘置所、刑務所、病院施設、公的施設がほぼ満員状態となっており、収容限界を迎えた地域が増えています。昨日、スミコウベ市では収容限界を迎えた市営体育館から、警官の不注意で、暴徒を屋外に多数、脱走させてしまうという事故が発生しました。現地ではその対応に追われています。また、暴徒の数に警官の人数の割合が間に合わず、対応が遅れている地域も多数増えています。テンショー政府は首都圏と主要都市に国防陸軍の派遣を決定しましたが、犠牲者の出るスピードに追い着いていない様子です。以上、テンショー ミヤカミ支局からお伝えしました。」

エンリコは眉間にシワを寄せながら、画面を見ていた。

「先生、これって所長の言ってた…」

「まあ、そうだろうな。これであの所長は別段、頭がプッツンじゃないってコトが証明されたワケだ。んで、その代わりにプッツンは俺の方だったのさ。」

「私も俄かにはこんな事は信じられません。と、言うかいきなりこんなニュースを見ても何が何やら理解できません。」

「…俺もそうだったがな、若い奴らはみんなそうだ。理解できるようなアタマを持ってねえのに、そのくせして、見たものを理解した気になる。んで、自分の理屈にそぐわない事に直面すると、複雑なアプローチをかけて理解しようとしやがる。んで、結局、何一つ理解できてねえの。自分が理解できてねえ事を理解してねえし、理解できないことは、どうがんばたって理解できねえってコトを理解できねえ。」

「でも、先生。私たちの仕事は自然を探求し、解明して…」

「エンリコ。そいつが人間のおたごめかしさってなもんだ。人間に理解できねえことはこの世には五万とある。戦争の原因、雨の降るタイミング、大統領選、火山の噴火、気難しい上司、女、挙げ出したらキリはねえぜ。理解できないことは、何も無理して理解する必要はない。そこに下手に屁理屈こねて、理解した気になるのがよっぽど危険じゃねえか?分からねえことってのはあるもんだ。分からねえコトを素直に認め、理解できる力を持ち合わせない事を正直に認める。これは罪悪じゃない。むしろ、理解出来るつもりになって、出来ねえ奴らを断罪するような真似のほうが、よっぽど罪悪だぜ。」

「は、はあ…」

「おうよ。そうだとも。俺は理解できる人間なんだぜって、他人に触れ回ってひけらかしてるだけだ。俺のナニのほうが立派だってみてえにな。一体、俺達のどこの何が原動力となって、この生命ってもんが生きているのか、それすら的を得た説明を出来てねえのがこの世の中だ。電気にしたってそうだぜ。電気の扱い方は心得ていても、電気ってやつの正体については誰も知らねえんだから、お粗末な話さ。」

「先生、んで、この事件は結局?」

「この事件は俺達には理解できねえ事だってことだ。だから、無駄に無い知恵絞ってまで理解する必要はねえってことだ。在るがままに受け入れればいい。そして、感じたままに動けばそれでいい。本当にこの暴動を起こしているのが死体かどうか、何かの間違いか、俺らにはどうだろうと関係ないこったぜ。」
アルバートはしたたかに酔って、多少、説教ぽくなっていた。

「お前が言いたいことは、分かるぜ。俺は学者としては失格かも知れん。」

「いや、先生はそんなことは…」

「いいや、これは俺にもお前にも分からん。きっと、黙示録がやってきて人の世が終わろうとも、結論は出ないかも知れん。俺達、学者はそこに転がっている石が本当に石なのか吟味するのが使命だ。そして、何を以ってしてそれが石であるか証明しなければならん。だが、俺達も人間だ。所詮、人間に把握出来ることなんてたかが知れてる。」
アルバートは缶ビールを握りつぶした。
そこにデュバルが静かにやってきた。

「お弟子さんに講義の最中かね?」

「そんなケチなもんじゃねえぜ。人生ってもんを仕込んでやっているのさ。」

「そうかい、なるほどね。」

「なに、ただエンリコが死体が歩く事件の話をしたからさ。」

「そうか、しかして…」と言ってデュバルはイスに座った。
そして続けた。

「奇妙な話だな。私も君の所の所長から連絡が入った時は、私の聞き間違いだろうと思ったが、まあ、こうしてテレビで報道されている所をみると、あながち冗談というわけではなさそうだな。」

デュバルはアルバートの目を見た。

「さあ、どうだろなあ。俺はまだ実際には見てないから何とも言えないね。テレビでやってる事、全てが真実って考えるのは最近では流行らないと思うぜ。放送局にいるのは神でなくて人間だ。伝え漏れってのはあるもんだ。まあ、死体が動き回ってるってのが事実だろうがヨタ話だろうが、どちらにしても俺達にはさほどには関係ないさ。」

「そうか。」
デュバルは海の水面を眺めた。

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象5

翌日、ベースキャンプを片付け、機材や荷物を3台のジープに積み込むと、グー島から船に乗って本土へと移動するために波止場へと向かって密林を出発した。

「アルバートさん、もうここには来ないのかい?」
ジープを運転しながら黒人の案内人が言った。この案内人とは、この島に3回目に来た時以来の付き合いだった。

「なんだ、急に?」

「あんたには、随分と稼がせてもらったし、もう親戚も同然だぜ。来なくなると思うと寂しいよ。」

「なんだよ。ポール。食いぶちの心配か?」

「それもあるけれどね…」
ポールはラスタ・カラーの帽子の上から、ドレッドヘアの頭を掻いた。

「心配すんな。あのデュバル博士の研究チームはまた来るよ。そしたら、俺がお前さんを推してやるからさ。
それに、そのうち始祖鳥の生態を調査するってんで、またウチの研究所から誰か来るだろうぜ。お前さんはうちの専属の案内人だ。それに、俺はまた来るからよ。今度は仕事抜きでな。」
ポールは笑った。

5時間程、車を走らせると本土へ帰る為の船が停泊していた。
ジープはそのまま船上へと上がっていった。アルバート達はジープを降りるとキャビンへと入って行った。

船の船員達も皆黒人で、肩には銃をかけていた。彼らの持つ銃はまちまちだった。
ポールのようにAKライフルを持つ者もいれば、昔の宗主国であるフェンティ製の古いFA-MASライフルだったり、リヴァイデ製のM-16だったりと、この製造元に一貫性のないこの銃の現実は、ラスタフィカの社会的な事情を如実に現していた。

元々、このラスタフィカという島国は、南方の大陸より連れてこられた黒人奴隷達を積んだ奴隷船の中継地点だったのだ。

リヴァイデのそれぞれの港に運ばれる前に、この流通ターミナルとなっているこの島に一度集められ、そこからまた必要な人数の奴隷をリヴァイデ行きの船に乗せて輸出するという形を取っていた。

その内にこのラスタフィカでも農耕が始まり、サトウキビを主とした農作物を本国のフェンティに輸出するようになった。その際も黒人達がその労働力として使役された。

奴隷となって強制労働をさせられた黒人達は、先祖伝来の独自の信仰を捨てさせられ、カトリックへと強制的に改宗させられた。それに異論を唱える奴隷には厳しい罰が加えられた。

だが、彼らは独自の信仰を完全に捨て去ったわけではなかったのだ。彼らはその独特な信仰をカトリックの習慣に織り交ぜ、巧妙にそれを隠し、後世へと伝えていった。それによって南方のシャーマニズムとカトリックが混ざったサムエル教が出来上がった。

この信者達は夜な夜な奴隷小屋でその祈りの儀式を行い、自分達を理不尽に支配する白人達を呪い、自分達の苦しい状況から楽園へと救い出してくれる救世主の降臨を祈った。

そんなラスタフィカが独立したのは、今から40年前のことだった。奴隷制度は無くなったものの、国内の黒人を経済的に支配する白人という、奴隷という身分は表面上では無くなったが、その構造自体には変化が無かった事に怒り出した黒人達が、支配側の白人達に反乱を起こしたのだ。

これを皮切りに独立運動へと発展し、その1年後にこの国はフェンティより独立を勝ち取ったのだ。

だが、独立後のラスタフィカは彼らの思い描いたような楽園とはほど遠いものだった。

宗主国のフェンティがラスタフィカを去り、フェンティから輸入されていた物資が無くなったことにより、深刻な物資不足に陥ってしまったのだ。物の不足が底なしのインフレを生み出し、独立以前よりも貧困が深刻化した。

貧しさに喘いだ彼らがその打開策として選んだのが「麻薬農業」だった。

フェンティの白人達の残した広大な農地にサトウキビよりも利率が遙かに良い麻薬植物を植え始めたのだ。
ラスタフィカはその麻薬をフェンティやリヴァイデを中心に密輸を始めた。

そして次第にラスタフィカ内の麻薬産業は拡大し、現在では国民の過半数が機械を作らず、魚も獲らず、麻薬農業に従事するか、その麻薬を売ることを生業としている。

国の荒廃は政治や司法の腐敗を招き、国家としてもその財政の大部分を担っている麻薬に関しては見て見ぬふりを決め込んだ。

ラスタフィカの麻薬の拡散を重く見た国際社会に、元宗主国として対応を迫られたフェンティは、物資の輸入を再開したが時は既に遅かった。

そんな中、ラスタフィカの麻薬の全てを支配していたサイラスという男が死んだ。死因については不明な点が多かったが、その座を巡っての抗争が即座に始まった。

それはサイラスの実の弟の通称バロンと、サイラスが一番に信頼していた側近、通称サイゼックス-Lの壮絶な戦いであった。

国内の麻薬産業を二分するようなこの争いは、もはや麻薬ギャング同士の抗争という域を超え、今や半ば内戦状態にまで発展しつつあった。

バロンはサイラスの残したフェンティのシンジケートをフルに活用し、麻薬の輸出とその利益でフェンティの武器を買い漁った。

一方のサイゼックス-Lは海を隔てた隣国であるサンタリコのゲリラからヴァルツや成王で製造された武器を手に入れ、抗争はさらに激化。

双方の戦力は、ラスタフィカの治安機関のそれを上回る程に強化され、政府も事態を収拾することがほぼ不可能となっていった。

世界の警察を自負するリヴァイデは、ラスタフィカの麻薬組織を壊滅する事を条件に、旧式の武器をラスタフィカ政府に支援として送った。

そして、ラスタフィカはバロン、サイゼックス-L、政府の三つ巴の内乱へと突入していった。
その内部紛争は現時点でも続行中である。

彼らの持つ銃は、この国の混乱ぶりを象徴するものであった。

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象4

第3章 ラスタフィカ グー島 アルバート・バロウズ 

「なんだ?ハロウィンのつもりか?まだまだ、先の話だぜ。」

「冗談で言ってるんじゃない!!本気だぞ。」

「そんな、話…どう、信じろっての?」

「とにかく、これは命令だ。何が起こるか分からん。今すぐに引き上げて研究所に戻ってこい。いいな!?」
その言葉で国際電話が切れた。

アルバートは、バカにしたような表情で携帯電話を見た。

「どうでしたか?」とアルバートに部下の若い研究員が不安そうに尋ねてきた。

「お前はどうしたい?」と聞き返した。

「分かりません。」と困惑した表情で首を横に振った。

「まあ、つまりは帰りたいってな事だろ?」

「でも、まだ途中ですし…」

「無理すんな。俺がいくらここに居座るって、言っても所長は許さないよ。どの道、帰らざる終えない。」

「所長は何て言ってたんですか?」

「なんだかなあ…」
と、アルバートは目を手で隠しながら、参ったなあ、といったような雰囲気で笑った。

「何だかなあ。ありゃあ…本気で言っていたら、所長のやつ、プッツンだぜ。」

「あの…。何が?」

「聞いて驚けよ。」
密林の案内役の黒人もアルバートの目を見た。

「所長がなあ。何とよ、リヴァイデで歩く死人がそこかしこで反乱を起こしてるからってよお、空港が機能しているうちに帰って来いとさ。そう言ってたぜ。」

その言葉に一瞬、沈黙したが、

「だぁ~っはっはっはっはっはっはっ!!」と、案内役とアルバートが笑い出した。

「歩く死体が反乱って…!! 腹いてえよお!!」と案内役は真っ白な歯をむき出しにして、発音がたどたどしい英語で爆笑した。

二人の笑い声が密林に轟いた。

「死体が何を反乱なのかねえ、死体が横断幕とプラカード持って、デモでもしてんのか?」
アルバートは地面に転げながら、ゲタゲタと笑っていた。

暫く、二人は笑い続けると「はあ~、笑った、笑った。」と言って目からこぼれた涙を拭いた。

若い研究員は不安そうに二人を眺めていた。

「先生、それで結局…私はどうすれば…」

「どうすれば、いいと思う?」

「はて…」

「まず、荷物をまとめろよ。」
促されるままに、若い研究員は自分の荷物をまとめ始めた。アルバートは水を飲みながら、案内役と話すと、二人でテントを片付けた。

密林の中を案内役の黒人を先頭に二人は歩いて行った。案内役のAKライフルを片手で持ち、もう片方の手で山刀を振るった。

半日ほどかかって、研究員達のベース・キャンプに着いた。だが、密林からはまだ抜けてはいない。

ベース・キャンプには老年のデュバル博士とその助手達が3人、すでに到着していた。デュバル博士はこの密林には、この地の固有種である毒性の植物の採集に来ていた。

「やあ、やっと着いたか。」デュバル博士はアルバートに近寄った。

「よお、デュバル先生。俺はてっきり、ヒョウにでも食われてるもんだと思ってたよ。それとも、骨ばった年寄りの肉は食えたモンじゃなかったのかな?」と笑った。

「言ってくれるねえ。ところで成果はどうだった?Dr ドリトル。」

「調査中断になっちまってさ。でも、まあ当初の目的は果たしたしな。」と言うや、若い研究員に「エンリコ、出せよ。見せてやれ。」と言って背中のバックパックに固定されたプラスチックのケースを下ろさせた。

「何はともあれ、こいつだけはバッチシだぜ。」と言ってデュバルにケースの中を覗かせた。

「こいつが始祖鳥か。」デュバルは驚いた。

「そうさ。絶滅しているはずの前世紀の動物だぜ。まあ、亜種ってなところだろ。本格的な検証は研究所に帰ってからだが、やっぱりちょっと化石とは違う部分もあるぜ。ま、飛び方は下手だがな。」

「これは世紀の大発見になるぞ。君は一躍、時の人だよ。」

「興味ねえな。これが済んだら、次はイスラ・オスタリコで二足歩行の大トカゲを狙うぜ。」

アルバート・バロウズはリヴァイデの研究所に所属する動物学者であった。彼はどちらかというと、研究所に籠もっているよりは、現場でのフィールド・ワークを好んでいた。このラスタフィカのグー島に来たのはこれで12回目であった。

大昔に絶滅したとされる、始祖鳥がまだ生息している痕跡が数年前に発見され、それ以来、何度も、調査研究のために彼はこの島にやって来ていた。

彼はどちらかというと、学者というよりはハンターのような性質のある人間だった。この始祖鳥の捕獲プロジェクトが持ち上がる以前は、南方のサバンナでサファリレンジャーのアドバイザーを勤める傍らで、ユーサウスのジャングルに潜む巨大ムカデの捕獲や、学者仲間に誘われれば海上でサメの捕獲にも携わっていた。

学術的な探究心というよりも、彼は自ら狩猟欲を満たすために研究所に入ったようなものだった。

彼のハンティング癖が始まったのは、学生時代のことだった。リヴァイデのアップル・ローズ市の下水道に離されたアルビノの大ワニの噂を聞いた彼は、仲間達と徒党を組んで下水道へと入ったのが始まりだった。

結局、そのアルビノのワニはただの噂話でしかなく、収穫を得ぬままに計画は終わってしまった。それが、彼の狩猟に対する意欲を燃え上がらせたらしかった。

彼の捕獲に対する執念はこの島でも如何なく発揮され、それが今回の始祖鳥の捕獲を成功させるに至ったのだ。

「しかし、デュバルせんせー。なんか、ウチの研究所から聞いたんだが、死体が暴動を起こしてるってなあ。」

「ああ、私もおたくの所長に聞いたよ。」

「死体がねえ…。」

「まあ、私の専門は毒性植物だ。何とも言えん。だが、お上がすぐに帰れというなら、従うしかないだろう。」

「ま、俺はリヴァイデでしばらく骨休めをしたら、ロンゴリアのサバンナに帰るぜ。5ヵ月後には、イスラ・オスタリコだ。」

「相変わらず、外が好きだね。」

「ああ、研究室は学生の時から性に合わんよ。今じゃあもう、研究室に俺の仕事は無いくらいだぜ。」

「そうか。昔、私は両方やってきたが、きっともう国外での研究は今回で最後だろうなあ。」

「何だい?足が辛い歳かい?」

「ああ、もう老いた体に密林は堪える。それに残りの人生は若手の育成に力を注ぎたいしな。」

「俺は、まだまだ続けるぜ。どうせ死ぬなら外でだ。ベッドで寝たきりになって逝っちまうくらいなら、猛獣に食われたほうが、俺はましだね。」

「それは、頼もしいものだ。そのうち、ウチの若手にも森の歩き方を教えてやってほしいものだよ。」

「おう、いつでもいいぜ。金さえちゃんと払ってくれりゃあ、みっちりとシゴいてやるぜ。」

「ありがとう。」

アルバートは始祖鳥の入ったケースを若い研究員、エンリコに渡すとベースキャンプのテントの中に入っていった。

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象3

キャンセルとなったパーカー農場を後に、三人は途中のダイナーで昼食をとりながら今後の作戦を練ることにした。ブレンダは車で移動中に本社へと連絡を取ったのだ。その結果、代案として別なネタのVTRとして取材することを指示されたのだ。

ダイナーの駐車場に中継車を止めた。三人は車から降りるとダイナーのドアを開けた。ダイナーの壁にはヘラジカの首の剥製が壁に飾られ、店内はブルー・グラスの音楽に満たされていた。

三人はカウンターから離れた壁際のテーブル席に陣取った。
素早く一番最初にメニューに手を伸ばしたのはブリスコだった。メニューを一番手に取り損ねたコングは隣のテーブルからメニューをつまみ上げた。

店には客はまばらだった。カウンターの後ろの棚には酒がずらりと並んでいる所を見ると、夜は酒場として営業しているらしいことが容易に想像出来た。

中年の女の店員が注文を聞きに来た。三人はそれぞれの好きに料理を頼んだ。
「ブレンダ。どうするよ?」

ブリスコが頬杖をつきながら目だけをブレンダにやった。
「そうねえ。一度ミリオフォールズに戻りましょう。局で話題を探しましょう。」

「アテはありそうか?」
コングはタバコの煙を吐きながら、言った。

「まあ、変わり者らしいけれど金属で作品作りをしている芸術家がいるわ。この間、ちょっと聞いたのよ。」
「他には?」
「探してみて、ありそうになければそのアーティストを訪ねましょう。」

ブリスコは髪を撫で付けると
「しかし、牛ってのはそんなにセンシティブなモンなのかね?」

「ブリスコ、知らないのか?ああいう牛小屋には普通、わけの分からない部外者は入れないモンだぜ。人間の体には、牛には致命的なウィルスやら菌がある場合もあるからな。それに感染しちまったら、全滅ってのもありえるからな。」

「なんだよ。俺らが不潔ってことかよ?」

「まあな。俺もそうだしお前もそう。俺らがその辺の牛を清潔とは思わないみてえに、向こう向こうで俺らを清潔とは思ってないのさ。それに、農場主はその牛で商売してんだから。取材が来たなんていう一時の珍事のために、牛に病気が蔓延なんていうリスクは背負えないわな。聞けば、牛が一頭、怪我をしてたわけだろ?そこに俺らが菌を運んできたら、弱り目にに祟り目、まさにこの事だよ。」

ブレンダは携帯電話のメールをチェックしながら
「しかし、妙な感じがしたわね。そんな事、前もって連絡をくれたらよかったのに。」

それにブリスコが
「そうかい?今までもドタキャンが無かったわけじゃあないぜ。」と言った。
「そうだけれど、何かあのパーカーさん。妙な感じがしたわ。言葉の歯切れが悪かったというか…」

コングが灰皿でタバコを消しつつ
「ああ、そうだったな。全部を聞いてたワケじゃあなかったが、そいつは俺も感じたね。」と言うと、またタバコに火を点けた。

「おい、コング。吸い過ぎじゃねえか?チェーンやってこの間、喉を悪くしたのもう忘れたのか?」とブリスコがたしなめた。

そうこうしているうちに注文の料理がやってきた。持ってきたのはさっきの店員だった。

料理の乗った皿が行き渡るとその店員が尋ねた。
「あなた達、見ない顔ねえ。テレビ局の人?」

「ああ、ミリオフォールズのZAC-TVのクルーだよ。ご名算だね。」とブリスコが言った。

「ええ、テレビ局の車に乗ってきたから…。これからどこかで取材?それとも帰りかしら?」

「行ったが断られ、そんで帰りってトコだな。」

「まあ!どこへ取材に?」

ブレンダが「この先のパーカー農場よ。バイオ発電の取材よ。」

「ああ、パーカーの所ね。無理もないわ。」

料理を飲み込んだブリスコが
「何だい?ドタキャンが趣味なのかい?」と皮肉った。

「ブリスコ!!」ブレンダがブリスコを睨んだ。

「何か事情でもあったのかい?」とコングが聞いた。

「そうねえ。一昨日だったかしら?パーカーの息子夫婦が事故にあったみたいなの。夜のことだったらしいわ。パーカーの息子さんは大酒飲みだったのよ。その日も飲酒運転よ。奥さんも酒好きだったわね。道の脇の木に衝突したらしいわ。二人そろって死んだらしいわ。まだ若い夫婦だったのに…」

「なるほど、そういう事情だったか…」コングが料理の皿に目を下ろした。

「まあ、いきなりこんな事聞くのは変だけれど、何かこの辺に珍しい事はない?パーカー農場の穴埋めをしなくちゃならないのよ。」
ブレンダが聞いた。

「ウチの店よ。3年前に他の州のテレビ局が取材に来たわ。ウチのステーキにはちょっと自信があるのよ。勿論、ステーキを取材されたわ。」
と店員は微笑んだ。

缶コーラを飲みながら、ブリスコが
「地域ネタとしては上場じゃないか?なんだったら、メシを喰った後でカメラを回したっていいぜ。喰いたくないなら、俺がそのステーキを食ってもいいんだぜ。」
と言った。

「そうだな、収穫なしで局に帰るよりはいいんじゃないか?」とコングがブレンダの肩を軽く叩いた。

「そうねえ、そうしましょうか?」とブレンダが言った後、店に男が入って来た。

店員がその男に「いらっしゃい。」と言った。
男は店員に「やあ」と手を上げると、店主のいるカウンター席に座った。
店員は「あの人は保安官よ。」と言った。
その保安官はコーヒーを飲みながら、店主と談笑していた。
「あの人が、この間の事故の現場に行ったのよ。」
三人はしばし、彼を見ていた。

店員が保安官に「ウィラード。ちょっと、聞きたいのよ。」

「おお。パット。何だね?」ウィラード保安官は口ひげをぬぐった。

「この人達、テレビ局の人達なのよ。取材の話題を探しているのよ。何か面白いことが無いかしら?」

「この田舎で面白いこと?そりゃあ、随分と難儀な話だな。」ウィラード保安官は考え込んだ。

「おお、そうだ。」と言ってウィラードは顔を上げ「パーカーの農場はどうだ?あそこには最近、最先端の自家発電装置が…」

「そこは、さっき断られたのよ。」とブレンダが言った。

「そうか…。だったら…。うーん。」ウィラードは灰皿を手元に寄せた。

「ああ、あれだ。自然公園だ。あそこにパーカーのやつと同じ発電装置が先月入った。あそこの管理人のカーツ大佐に連絡するといい。」

店員は「それよ。それがいいわ。大佐はもうだいぶ前に退役しているのよ。今は暇な時期だろうから、きっと取材させてくれるわ。」といって指をパチリと鳴らした。

「連絡先はどこかしら?」ブレンダは店員に聞いた。すると保安官が携帯電話を取り出し、アドレスを探し始めた。そこに急に着信音が鳴った。

「ええい。誰だ…。ありゃりゃ、大佐だ。」と呟いて電話に出た。

「おお、大佐。調度、今あんたの噂を…ええ!? 何だって!? 分かった。すぐに行く。」
と電話を切ると、いそいそと立ち上がって財布から紙幣を出した。

「カーツ大佐から通報だ。パーカー農場でちょっと、厄介事があったらしい。また、来るよ。」と店員にいうと、店を出た。

三人も紙幣をテーブルに置き、店員に「終わったら、また来るよ。」と言ってウィラードの後を追った。

ウィラード保安官はパトカーに乗って、無線をかけていた。
「直接、俺の電話に連絡が来た。通報者はカーツ大佐。現場はパーカー農場だ。俺は直接現場に行く。応援をよこしてくれ。」無線を置くと、パトカーのサイレンを鳴らして発進した。

ブレンダ達もそれに続いた。
途中までは三人が通った道と同じ道であったが、途中でわき道に入って行った。

車内ではブリスコがカメラを用意していた。
「一体、何があったんだろうな?」コングがハンドルを握り、ウィラードのパトカーの後を追っていた。

「牛が大暴れしてんのかね?ストレスが溜まってたんだろう?」とブリスコがカメラのスイッチを入れた。

ブレンダはフロントガラスを凝視したまま、「機械に誰かが挟まれたのも知れないわよ。」

「それじゃあ、保安官の出る幕じゃないだろう?レスキューか消防か、どちらかだろ。」コングがタバコを咥えた。

パトカーが木製のゲートを越え、砂利敷きの小道を暫く行くと、家屋の前に到着した。ウィラードはパトカーを降りると、その家屋へと駆け寄った。

家屋から、茶色のテンガロンハットを被った男が出てきた。
「ウィラード!!奥さんは、家の中だ。こっちだ。来てくれ。」と行って手招きしながら、走って行った。

ウィラードは大佐の後を着いて行った。三人も彼の後に続いた。
「ここだよ。」といって、カーツ大佐は、牛舎の前に止まった。「この中だ…。ロバートが大変なんだよ…。」と言って牛舎の閂を外した。

「気をつけろ」そう言いながら牛舎の扉を開けた。

ウィラードは半ば急ぎ足で中へと踏み込んでいった。ブリスコはその後ろからカメラを回した。
牛舎の中は空で牛が一頭もいなかった。「そこの隅だ。」とカーツは指を指した。

ウィラードは覗き込んだ。

「なんてこった…」ウィラードは言葉を失った。

ブリスコがカメラをウィラードの肩の向こうにフォーカスした。

そこには、さっき会ったばかりの農場主、パーカーが血で赤く染まった床の上に倒れ、そのパーカーに下手な縛り方で鎖に繋がれた二人の若い男女が、草食動物に群がる肉食動物のように噛み付き、その肉を食いちぎっていた。
その二人の男女は、パーカーに喰らいつくことに執心しているようだったが、ウィラードに気付くと、血の付いた顔を上げた。

「トラビス…」ウィラードは目を見開いた。
若い男は立ち上がると、片手でウィラードに掴みかかろうとした。
ウィラードは後ろに下がり、腰の銃に手をかけたが、若い男はそれ以上は進んで来れないようだった。鎖で後ろの壁に繋がれていたからだ。

若い女も這いずってウィラードの足を掴もうとしたが、両足に繋がれた鎖のせいで、思うように前には進めない状態だった。

「こんな…バカな…。」
ウィラードは唖然としていた。
それらの様子にブリスコは固唾を飲みながら、カメラを回し続けた。カメラを掴む手の平に汗が滲んできた。
少し遅れて、ブレンダとコングが牛舎にやってきた。ブレンダはそのパーカーの無惨な姿を目にすると手で口を押さえた。

コングは「うあ…。こいつは…」と言って目をそむけた。

ウィラードは我に返ると、
「みんな、ここから出ろ。早く!!」
と言って撮影に夢中になっていたブリスコの背中を叩いた。全員が牛舎を出ると、再び扉を閉めて閂をかけた。

「応援が来てからだ。それまで、ここは何があっても開けるな。」と全員の目を見た。

「大佐、ところで、ネルはどうした?」

「おかみさんは、家だよ。ガタガタ震えてる。」

「行こう。」

ウィラードはカーツと歩き出した。そしてウィラードは振り向き、ただ立ち尽くしているブレンダ達に向かって「行くぞ、そこを離れろ!!」と大声を張り上げた。はっとした三人もパーカーの家へと歩きだした。

家の中ではパーカーの妻であるネルがキッチンの床に座り込んだまま、ガタガタと震えていた。
大佐がその傍らにしゃがみ込み、彼女の肩に手を置いた。

「ネル、もう大丈夫だ。ウィラードが来たよ。」

ネルの顔面の筋肉は恐怖で引きつっているのか、恐らく喉の筋肉までも強張らせてしまっているようで、何かを必死に話そうとしているのは、見て取れるのだが、それがなかなか声にならないようだった。

ウィラードはその様子を伺うと「ダメだな。今どうにも喋れないだろう。」と言った。

外からパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。パトカーが二台、家の前に停車した。ウィラードは窓からそれを見ると、玄関を開けた。
「こっちだ。」
ウィラードの同僚達が玄関に来た。

「トミー、お前さんは大佐と一緒にネルを病院に連れて行ってくれ。」
「了解。」そういうと、家の中に入り、大佐と二人でネルを立ち上がらせ、ゆっくりとパトカーへと乗せた。

その間に、ウィラードは他の保安官達に状況を説明していた。
一通り、説明し終えたウィラードは、ブリスコを向いた。

「どうせ、撮影するなと言っても撮る気だろう?」

ブリスコは無言だった。

「撮ってもいいが、安全の保証はせんぞ。それと、後でそのカメラの動画データを証拠として提出してもらうかも知れんからそのつもりでな…」

ウィラードは同僚達を引き連れて、牛舎へと向かった。ブリスコとブレンダ、コングもその後を付いて行った。

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象2

第2章 リヴァイデ合衆国 ミリオフォールズ  ブレンダ・バンペルト

ブレンダはZAC-TVの支局の報道デスクのソファで寝息をたてていた。ブレンダはこの支局の支局長であった。といっても、相応のキャリアがあったわけではなく入社したのは5年前のことだ。

10年前の核攻撃により、この国の主要都市であったアップルローズ市にあったZAC-TV本社は、市もろとも壊滅し、その後は本社についで二番目の規模の施設をもっていたアトラン市の支局がその後の本社となった。

ブレンダは本社でキャリアを積むことを希望していたのだが、入社後3ヶ月足らずで、テレビ局の機能がストップしていたこのミリオフォールズの手狭な支局へと異動されたのだ。

ここは機能停止状態の無人局であったことから彼女は支局長に任命されてしまったのだ。

この局からテレビ電波を飛ばすことは殆どなかった。業務はもっぱらこの局を根城としてミリオフォールズとその周辺地域での取材をすることであった。そのVTRを本局等に送ったり、ライブ中継も行っている。
場合によっては、遠方での取材を指示されることもある。

カメラマンのブリスコがハンバーガーをかじりながら出社してきた。大学時代よりの愛用のデイパックをデスクの上に置くとテレビのスイッチを入れた。

ソファで眠るブレンダの横にしゃがみ込んだ。
「お姫様、朝でございます。」

ブレンダはふっと、目を覚ました。
「起きなすったかい。ミス・局長。」
「ブリスコ…」ブレンダはゆっくりと上半身を起こした。
「毎日毎日、宿直みたいだぜ。アパートぐらい借りたらどうだい?」
「ブリスコ…。いいのよ。もう、ここが住まいだもの。今さら面倒なだけよ。本社の許可はとっているし。」
「あれだろ。好きに使えとでも言われたんだろう?」
「どうせ、ここからは電波を飛ばすことはほとんどないわ。ここはただの住所みたいなものよ。この町のZACの放送は本社からの電波だし、ライブは中継車で済むもの。」

ブリスコは炭酸入りの缶ジュースを開けた。それを一口飲む。
「今日はあそこか?この間アポ取ってた農場か?」
「そうよ。12時頃の約束だったかしら?ここからじゃあ、ちょっと距離があるから早めに出発する予定よ。」
「まあ、コングが来ないことには車は出せないけれどね。」
「まだ、大丈夫よ。今いっても早すぎだと思うわ。」
ブレンダは立ち上がると、サイフォンのコーヒーをマグカップに入れ、それを電子レンジにかけた。

ブリスコはブレンダが去ったソファに腰掛け、ジュースを飲みながらテレビをしばし眺めた。
「そういえば、知っているか?」
「何かしら?」
「スラム街さ。昨日の夜中のことさ」
「あんな所に行ってきたの?」
「違う。そうじゃない。スラム街の暴動さ。」
「知らないわ。昨日はここに帰ってきてからシャワーだけ浴びてすぐに寝たの。また、警官と衝突でもしていた?」
「う~ん、まあ。警察が来たのには変わりはないがね。何だろうな。変なんだよ。」
「何が?」
「俺もニュースで見ただけなんだが、その暴動を起こしてる奴ら、ちょっとイカれてるようなんだ。人を襲っているらしいが、どうやら人を噛み殺す集団らしいぜ。」
「きっと、麻薬か何かで集団ヒステリーにでもなってるんじゃなのかしら?」
「どうかね…。でも、まあ尋常ではない暴動が起きているらしいぜ。」
「噛み殺すなんて…。」
ブレンダはレンジからコーヒーの温まったマグカップを取り出した。

ブリスコはテレビのニュースを見ていた。画面にはそのスラム街の暴動の生中継が映されていた。まだ、事態の収拾はつかないでいる様子だった。

「よう、お二人さん。おはようさん。」
中継車の運転手のコングが出勤してきた。

「よう、コング。」ちらりとブリスコはコングを見た。
ゆっくりとした足取りで、コングはブリスコの横に位置し、テレビの生中継を見た。
「全く、前代未聞だよな。」
「ああ、暴動やらそういことはいくつもあったが、これはな…」
「知ってるか?この暴動を起こしてる奴ら、みんな死人らしいぜ。」
「何だそりゃ?一体どこでそんなバカな話を?」
「そう思うだろ?」
「誰から聞いた?」
「本社の友達さ。昨日の夜、生中継に行った奴だ。近くに住んでいる住人に聞いたらしいぜ。それに警官も言っていたらしいぜ。頭を狙い撃ちしない限り何度でも立ち上がって来るんだとよ。」
「でも、死人ってどういうことだ?何で死人が暴動を起こす?」
「さあな。前代未聞だって、そういったろ。そういう事だ。」
「いくらなんでも、死人ってのは何かの勘違いだと思うぜ。」
「それはあるかもな。なにせ、スラムだ。死亡届を律儀に出しにくような連中が住んでるとも思えねえわな。」
コングは胸のポケットからタバコを一本出し、火をつけた。

マグカップを片手にブレンダもテレビを見に来た。
他局のリポーターが生中継でスラム街の暴動の状況を説明していた。後ろでは銃声らしい音が何度もなっている。
ブレンダはしばらくすると、思い出したように
「時間だわ。パーカー農場に行くわよ。」
と言った。
「ああ、行くか。」
ブリスコは、コングの肩を叩いた。

「パーカーの農場ねえ…俺はまともに聞いてないが、牛でも取材するのか?」
コングはカーナビをチラチラと見ながらハンドルを握っていた。
「バイオ発電よ。自家発電の装置よ。」
「まったく、呑気なモンだな。片やスラムじゃあ、えらい騒ぎなのにな。」
「ここはあのスラム街から何百キロも離れてるのよ。」
ブレンダは過ぎ行く景色を窓に見ながら言った。
「なんだ?ブリスコ。お前、スラムに取材に行きたいのか?」
「いや、そうじゃあ、ねえけど…」
パーカー農場はミリオフォールズを北にぬけた、昔に深い樹海の樹木を切り倒し、広大な農地として開拓された地域の一画にあった。

ミリオフォールズも片田舎には違いないのだが、パーカー農場の周辺はミリオフォールズよりも開けていない。樹木と森林の動物の世界に人間の生活圏が点在している、そんな感じだ。
道中、ヘラジカやヒグマが道路を塞いだとしても何ら不思議ではない。

「そろそろ、到着だぜ。こんな文明圏の外側じゃあな。自家発電に頼りたくなる気持ちも分かるぜ。」
コングが笑いながら言った。

農場の木製のゲートを抜け、カーナビの指し示す通りに走ると、畜舎の前にたどり着いた。
「どうやら、ここがパーカー農場らしいな。」
車のエンジンを切ると、コングとブリスコは機材を準備し、ブレンダは畜舎の方へと歩いていった。

車のエンジン音に気付いたらしい、一人の老年の男が畜舎のすぐ脇の納屋から出てきた。その顔はどこか疲れ切り、眉間にはシワが寄っていた。
彼はブレンダを見つけると、重たそうな足取りで歩み寄ってきた。
「こんにちは。ZAC-TVのブレンダです。」
「やあ、どうも。パーカーです。」
「この間、お電話でもお話しましたが、バイオ発電の取材を…」
「その事なんだが、お嬢さん。すまないが今日はキャンセルさせてくれ。もっと早くに言えばよかったのだが、なにぶん、色々とトラブルが続いてな。連絡出来なかった。本当に申し訳ない。」
「え!?」
「自家のバイオ発電の設備を色々とお見せしたかったのだが、その…、うちの牛が最近、大怪我をしてな。どうもその傷が四六時中痛むようでな。朝から晩まで牛が悲鳴を上げておった。他の牛達もそれが原因で気が立ったり、ストレスになっているようでな。牛舎はとても危ないし、それに、今は牛をあまり刺激するのは、まずいんだよ。」
カメラや他の機材を持ったブリスコ達が来た。
「どうも、カメラマンと音声係のブリスコとコングです。」
「ああ、こんにちは」
パーカーはブレンダに向き直ると
「また…別の機会にしてくれんかのう?牛は…わしらにはとても大事なんだよ。」
と目を伏せながら言った。

SNR Super Natural Reactivation  超常性再活性化現象1

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私たちは死の心配によって生を乱し、 生の心配によって死を乱している。
ミシェル・モンティーニュ


1964年、タンザニアで発見されたホモ・ハビリスは現在分かっている段階で、最も初期のヒト属である。240万年から140万年前に生き、おそらく石と動物の骨から道具を製造したと考えられている。アウストラロピテクスよりも大きな脳を持っていたとされる。



序 章 623戦争

 こんばんは。今日のニュースをお伝えします…成王の首都、央京で大規模なクーデターが発生しました…

おはようございます。ニュースをお伝えします…本日未明、央京時間午後7時頃 成王現政権はクーデター軍によって失脚しました。

成王政府はクーデター軍を指揮した陸軍 ホウ上将によって全ての権限を奪われるかたちとなりました…

政権転覆から一週間たちました。ホウ政権は活発な動きを見せています。事実上の新しい指導者 ホウ主席は会見を開き、成王海軍の軍備増強を表明。リヴァイデ合衆国政府は成王軍の太平洋進出を警戒しています…

8時のニュースです。成王軍が海龍側に海軍船籍を複数展開していることが、リヴァイデ合衆国の偵察機によって明らかにされました…

海龍政府は今月6月18日、領海内において、リヴァイデ合衆国、周辺国と合同の軍事演習を行うと発表しました。これは成王との有事を想定したもので期間は2週間と発表されました…

海龍、リヴァイデ合衆国の合同軍事演習が始まりました。この演習により成王政府の反応について、国際社会が注視しています。

夕方6時を回りました。ニュースをお伝えします。海龍の合同軍事演習が行われている海域で、演習中に大爆発が発生しました。これにより演習に参加した海軍船籍3隻が沈没 死傷者、行方不明者については未だ不明 爆発の原因についてもまだ分かっていない様子です…

6月23日に発生した海龍領海内での爆発について新たな事実が判明しました。演習に参加した海軍兵士の証言によると、演習中海上で大きな爆発音と共に巨大な光が発生、その直後に強い突風が吹き荒れキノコ型の雲が見えたとのことです。

リヴァイデ合衆国政府は演習中、上空を飛んでいた偵察衛星のデータを解析し、この証言も含めて原因の追求をしていく方針です…

リヴァイデ合衆国の衛星が先日演習の行われた海域で、非常に高いレベルの放射線を確認しました。また、リヴァイデ合衆国政府は演習が行われていた時刻に同海域で正体不明の潜水艦があったことを衛星によって確認しており、これと合わせた結果、戦術核兵器を使用された可能性が高いと見て調査を続けています。

お昼のニュースをお伝えします。リヴァイデ合衆国政府は、先月23日に海龍領海内で発見した潜水艦は成王海軍の船籍であることが判明したと発表しました。同日発生した爆発についても、その船籍が発射した戦術核によるものであるとして、成王政府に核兵器とその他の大量破壊兵器の武装解除と査察の受け入れを要求しました。
これに対し成王政府は強く反発し、徹底抗戦も辞さぬ考えを示しました…

成王海軍の艦隊が海龍領海内に侵攻しました。海龍政府は陸海空全ての軍を緊急動員し、国民に向け戦時非常事態宣言を発令しました。最初に成王側の砲撃が始まり、これに海龍海軍が反撃。双方とも甚大な被害を出しながらも、戦闘は続いている模様です。

北百新の戦車部隊が非武装地帯を越えて南百新に侵入しようとしています。南百新陸軍は38度線に向かって部隊を緊急配備している模様です…

ザナディスタン政府は成王軍の国境侵犯を警戒し、成王との国境付近の警備を強化する考えを示しました…
リヴァイデ空軍のステルス爆撃機が央京に向かって飛び立ちました…

リヴァイデ政府は海龍領海に展開する成王軍の撃退のため、多国籍軍を組織しました。これには、エルーディア、フェンティ、ガルギー、ガーマと限定的な支援活動を条件に天昇が参加しています…

緊急速報です。リヴァイデ、ガーマ、フェンティ、天昇、エルーディア、ガルギーに向けて成王の核ミサイルが発射されました…

成王の核攻撃を受けた国は成王との徹底抗戦の意志を確認し合い、成海戦争への本格的な介入を決定しました…

多国籍軍にザナディスタン、ユーサウス、サンズネイジアが参加を表明しました…

リヴァイデ合衆国政府はエルーディア、フェンティと協議し報復核の使用は原則控えるということで一致しました。これは、成王との全面核戦争を避ける考えであると見られています…

成王海軍が海龍領海から退却しました。海龍を含めた多国籍軍は、これから成王本土に上陸し、央京を目指す模様です…多国籍軍は塩港に上陸しました…

北百新と南百新の戦闘は依然続いたままです…

多国籍軍が央京を陥落。ホウ国家主席を国際法違反として逮捕しました。…

リヴァイデ合衆国は同盟国と協議の結果、成王を分割しそれぞれの国家として独立させる方針を固めました。今後、成王は央京とその付近の地域まで縮小される見通しです。

成王のホウ元主席は、国際裁判によって有罪となりました。核兵器を使用した一連の大量殺戮行為と海龍への侵攻は、世界中の人々を恐怖に陥れたうえ、あまりに多くの尊い人命を犠牲にしたとして死刑判決が言い渡されました。刑の執行のため、ホウ元主席の身柄は海龍の刑務所に収監されます。



第1章 天昇 赤森市 日ノ内 賢志(ヒノウチ ケンシ)

警備員の日ノ内は、パトカーのサイレンの音を夜間工事の現場で聞いた。時計を見ると午前0時。
まだ、自動車が目の前を通りすぎている。
 
「おい、日ノ内。また警察が走っているな。」警備仲間から無線が入った。
「はい、そうスっね。」
「今日は随分と出動が多いんじゃね?」
「なんスかねえ?どうせ、酔っ払いじゃないスかねえ?」
「違うんじゃねえか?」
そこで一度無線が切れた。掘り上げた土を積み込んだダンプが動き出した。
「ダンプ、そっち通るぞ。」
「はい、了解。」
日ノ内はそのダンプを見送ると、タバコに火を点けた。普段なら現場監督が口うるさい所なのだが、夜である。誰も気付きはしない。

しばらくすると、またパトカーのサイレンが聞こえてきた。どんどんとこちらに近づいてくる。
「ヒノ!! 緊急車両だ。全止めだ。」
緊急車両を優先的に、工事区画内を通すため誘導棒で「止まれ」の合図をした。一般人の運転する車やタクシーが工事区画に入る数メートル前で停車した。

ドップラー効果を起こしながら、パトカーが通り過ぎて行った。
「ヒノ。やっぱり今日は多いぜ。パトカー。」
「はい。何なんだ?」
日ノ内が一般の自動車に「進め」の合図を出した。
「今まで、こんなに出動しているの見たことあります?」
「いやあ。ねえな。こんなにパトカーが走っているのは初めてだな。」
明け方になり、工事作業が一旦終了する頃も、パトカーはサイレンを鳴らしながらそこかしこを走っていた。

勤務が終わり、日ノ内は仲間の運転する車に乗って、一度、事務所へと行った。事務所にはまだ他の人間はいなかった。日勤の警備員達の出勤時間よりもかなり前だった。

トランシーバーを充電器に収めると、伝票をデスクに置いた。これで、夜勤は終了だ。少しふらつき加減、かすむ目を何とか開いて、帰宅する。さすがに早朝だと他の自動車の通行量は少ない。

家路の途中の歩道に、朝帰りの若いカップルらしい男女が手をつないで歩いていた。彼らはこの時間まで、一体どこにいたのだろう? 日ノ内はそんなことを考えながら車を右折させた。

家に到着する。玄関を開けるとカーテンに遮られて、家の中は暗い。妻はまだ起きていない。家の暗さに多少安心した。日ノ内は暗い部屋でないとなかなか寝付けないのだ。
居間に布団を敷くとパンツとシャツだけになって眠った。

2時間も経った頃、日ノ内の妻が起き出した。彼女は足音もドアを開ける音も乱暴でうるさい。

力を加減する筋肉が弱いらしい。なかなか精密に体を動かすことが得意ではないのだ。だが、自分自身はそれを自覚してはいない。

その音に日ノ内は頭に毛布を被る。それを気にすることなく妻はロールカーテンを開いた。そして、空気を入れ替えるために窓を開けた。

通りを走る車の音がもろに入ってきた。続けざま、また緊急車両のサイレンの音。近くの消防署から出動した救急車の音だった。

たまらず日ノ内は起き上がった。しばらく、辺りを見回すと顔を手で押さえた。睡眠不足による片頭痛だ。
彼は睡眠不足だと目の奥から顔半分が痛むのだ。
「その布団、片付けて。」妻がいう。
日ノ内はその言葉に腹が立ったが、何も言わず、不機嫌そうな顔もしなかった。そんなことをすれば、朝から面倒なことになりかねないからだ。
「頭が痛む。」
「何よ。大袈裟に」
朝から喧嘩腰な言い方だった。彼の妻は朝は毎日、焦燥感にかられて多少機嫌が悪くなるのだ。ここはイエスマンに徹したほうがいい。日ノ内はそう思った。

布団を片付けると、テレビをつけた。まだ、時間的には芸能ニュースよりも前だ。日ノ内はワイドショーや芸能ニュースが好きではないのだ。

「本日未明、死亡が確認された男性がお通夜の最中に急に蘇生し、家族や付近の住民にかみつくなどの暴行を次々と働き、警察に逮捕されました。同様の事件は昨夜より全国で多発しており、警察や消防は対応に追われています。」

日ノ内は夜勤中に頻繁に見たパトカーを思い出した。妻は台所でコーヒーを入れていた。
「賢志、コーヒー飲む?」
「ええ? ああ、ああ。」
日ノ内は台所に行った。
「ニュース見たか?」
「あれでしょ?死体が生き返るんでしょ?メールで見たよ。」
「メールって、誰だ?」
「友達から来たのよ。ニュース見てって。メールが来たのよ。」
「ほう…そういや、昨日の夜。仕事中にパトカーを見たぜ。」
「こっちも夜中じゅう、救急車が走っていたわ。」
「そうか…」
「昨日はもう警察とかもすごかったらしいよ。もう、何十件と通報が来てたって。」
「ああ、なるほど。いや、パトカーが頻繁に走っててよお。もう、耳からサイレンが離れねえぜ。」
「本当、夜はうるさかったよ。今日も夜勤でしょ?」
「ああ、まあな。」
「寝るなら二階で寝てちょうだいね。今日は友達が来るのよ。」
「ああ、昼すぎに一回起きるわ。」
そういって、日ノ内は妻に渡されたコーヒーを一口啜ると、チャンネルを変えた。
また、似たようなニュースをやっていた。

この天昇という国が成王の核攻撃を受けたのはもう10年前のことだった。日ノ内は18歳だった。

高校卒業して自動車学校で小学生の時に想いを寄せていた女の子と、たまたま再開した。

彼女は大学へ進学するために都心に行くらしかった。彼女が都心に行くまでの間、彼女は恋人のいない日ノ内の暫しの間の恋人となってくれたようだった。

といっても1ヶ月するかしないかのうちに彼女は都心へと移っていき、残った日ノ内は家が裕福でなかったことから進学はできず、不況にあえぐ地元で掃除夫として働いていた。

社会の落伍者という絶望感、好意を寄せていた人間との別離、それらに苛まれた毎日だった。休日ともなると夜となく昼となく酒を浴びるように飲み、手元に酒の無い時は死体のように呆然と壁ばかりを見つめてその日を終えていた。

そんな、ある日のことである。海を挟んで向こう側の国から、核ミサイルがこの国に飛んできた。そのミサイルはこの国の主要都市、軍の施設に舞い降りてきた。地獄の業火ほどの灼熱がコンクリートを砕き、鉄骨を捻じ曲げ、多くの人間を蒸発させた。

彼の一時の恋人もその炎に焼かれた。

彼は神を呪った。そして、悪魔をも呪った。全てを呪った。呪って呪って、目に写る全てを呪った。そして、自らを破壊しようともした。心を壊し、頭蓋骨を砕き、心臓を破裂させようとした。

だが、次第に彼は疲れ始め、最後には空虚になった。家となく外となく、彼は地面に寝そべった。
一体、何かが分からぬままに彼はある日、立ち上がった。そして、分からぬままに残りの長いであろう人生を再び生き始めた。右往左往しながら、時には不真面目に、斜に構えてみたり、激情を抱え、そして今に至る。

夜になり、再び夜間の工事現場へと仕事に行った。今日は昼間からパトカーや救急車が走り回っていた。
工事開始までまだ時間があった。

「ヒノさん。何かすげえ事が起こってるみたいですよ。」
「ああ、あれだろ?死んだ奴が生き返って、その辺の奴らをブン殴りまくってるって、あれだろ?」
今日は昨日の相方とは違った。
「殴ってんじゃないですよ。噛み付いてるんですよ。今日の夕方なんか噛み殺された看護師がいるみたいですよ。」
「はっ、一体何のつもりなのかね。」
「何でしょうかね?」
「おい、またパトカーだぜ。全止めだ。」

その夜も緊急車両が頻繁に通り過ぎて行った。翌日は工事は中止になった。どうやら、緊急車両の出動回数が多すぎるため、障害なく通れる道路を確保するための行政の措置のようだった。

日ノ内は別の工事現場に回されるのかと思ったが、県内の工事は全面ストップとなった。そして、暫くの間、安全性への考慮として夜間工事は一時的に禁止となった。

仕事はなくなり自宅待機となった。
日ノ内はニュースを見た。政府機関はこの異常な事件の多発を受けて、緊急の対策委員会を設置したようだったが、何も解決したことのない政府が、一体何の対策やら、と日ノ内は思っていた。

日増しにその蘇生した暴漢達による事件の件数は増え続けていった。最初こそ、警察署の留置所にその蘇生した暴漢達を収監していたが、その数が限界に達すると、大きな医療施設の協力を得て、隔離病棟などに入れた。しかし、それも数週間で満床となり受け入れ先が無くなってしまった。

それでも尚、増え続ける暴漢達を収容するために、公営の体育館などを臨時の収容施設として、そこに精神鑑定を行う医者や周辺を警戒する警察官達が行きかうといった状況になった。
隔離病棟や公的施設を利用した臨時の収容施設の警護のために警官の人手が割かれ、また事件が発生した際に出動する警官の人数も非常に限られた数となってしまった。

そして厄介なことに、見過ごされた死。例えれば孤独死を経て蘇生した人間は、誰に止められることもなく外へと出て、道行く人間を見境なしに襲い、それによって死亡してしまった犠牲者もまた蘇生し、周囲に危害を加えるという事態も発生し、警官のみならず一般の人間たちも「他人の死」に対しても敏感に反応するようになった。

だが、この狂気の暴漢へと変貌するのは明らかなる死を経た者達ばかりではなかった。極度の恐怖や不安感、生への絶望を感じたらしい人間も、生きながらにそれへと豹変していったのだ。

とある若い女性が夜を帰宅中、複数の男達に囲まれ暴行された。そのあまりの凄惨な暴力ゆえに彼女は死を経ることなく狂気の野獣へと姿を変えた。暴行を働いた男達は逆に彼女の文字通りの餌食となり、次々と殺戮されていった。無論、その男達も数時間後には蘇生し、噛み付こうと暴れ始めるのだ。

自宅での待機中の日ノ内は庭仕事をしていた。これから夏にかけて庭の草花を荒らす害虫の駆除のためだ。

自発的にではない。日ノ内は庭仕事は趣味ではないのだ。妻が薔薇を育てている。どうせ、仕事がないのなら家で怠惰に過ごすよりも、庭仕事でもやれとのことだったからだ。

外は相変わらず、緊急車両のサイレンの音が鳴っている。空には以前よりもヘリコプターが飛んでいる数が増えていた。恐らく、消防と報道のヘリであろう。

日ノ内は薔薇が植わっている鉢の横を通る虫を見つけた。毛虫のような芋虫のような形だった。害虫駆除をしている俺の目の前を通るなんざ、運の悪いやつだな。

そう思いながら、殺虫剤を噴射した。苦しみもがいているのか、その虫は暴れた。しばらく暴れると段々と動きが遅くなり、眺めているうちに動かなくなった。虫の死骸を入れるビニール袋を小屋から取って来ると、その虫は緩慢ではあるが再び動き始めた。

死んだ振りをしていたのか、それとも薬がそこまで効かなかったのか、動きは極めて鈍いが動いているのは明らかだった。日ノ内は足を少し上げると、その虫を踏み潰した。恐らく、これで完全に死んだであろう。
足を上げると、靴底にくっつくこともなく地面にそれはあった。緑の体液が出ていた。

しかし、潰れていない部分がまだ蠢いていた。まあ、しばらくすれば死んでしまうだろう。そう思ってそれを見ていた。だが、待てど暮らせどなかなか死なない様子だった。仕方ない。このまま捨ててしまおう。

そう思って、割り箸でその蠢く虫の一部を拾い上げ、ビニールへと入れていった。
晴天の空であった。太陽が眩しい。ビニール袋を簡単に結ぶと、小休止に家の中へと入った。洗面所で手と顔を洗い、居間にいって冷蔵庫からオレンジジュースを出した。戸棚からガラスのコップを出すとそれに注いだ。

テレビをつける。昼間のニュースがやっていた。日ノ内は、実はあまり昼間にテレビを見るのを好まないのだが、のっぴきならない事件が全国で多発しているのである。聞けばこれと同じようなことが、この国だけではなく全世界で発生しているらしいのだ。

「全国で多発する暴行事件を受けて政府は本日、11時に非常事態宣言を発令、国防軍にも対応を要請しました。次のニュースです。同様の事件が多発しているニジェリアの都心では停電が発生しています。原因はいまの所、分かってはいませんが現地では電力の普及が急がれています。」

日ノ内はジュースを飲みながら、画面を無言で眺めていた。

「なんだか、とんでもない事になっているね。」
洗濯物を運びながら、妻が言った。

「ああ、この辺ではまだ死体が飛び跳ねてないけれどな」

「ニジェリアなんてもっとすごいんだろね。」

「そうだなあ。あそこは内戦が頻発してるし、天昇ほど死体の管理は行き届いていないだろうしな。その辺に死んだ奴が転がっているだろうからな。ま、ただでさえ、犯罪率も多いだろう。」

「もう、県立体育館も満杯みたいよ。」

「え、何、見てきたの?」

「違う。友達よ。友達が近くに住んでいるの。今じゃあもう、軍隊の戦車とかが止まっているってよ。」

「戦車かあ、大袈裟じゃねえか?多分、装甲車とか偵察車両じゃないの?」

「知らないわよ。軍隊のことは興味ないし。何でも同じよ。」

「いや、装甲車と戦車じゃあ違うだろ。」

「何でもいいけど、そうなんだってさ。」

「しかしなあ、何かこの事件は異常だよなあ?」

「そうねえ。」

「死んだ奴が生き返るって。あれじゃないの?もしかして、死亡診断書を出した医者がよっぽどバカか何かで診断ミスとかな。でも、それが世界規模でそんなことが起こるわけもないしなあ。」

「でも、生き返った人が人間を襲うなんてねえ。」

「まあ、正常な会話ができないから責任能力があるかどうかも判断できねえって話だしな。まあ、裁判も出来ねえだろうな。でも、いくら凶暴でも人の形してりゃあ人権ってもんもあるだろうしな。遺族だってせっかく生き返った奴を凶暴だからって理由で殺されるのは嫌だろうしな。まあ、それが人情ってもんだろ。」

「困ったもんねえ。増え続けているみたいだし。」

「まあ、大したことにはならねえって。この辺で死人が歩いているのは見たことねえしな。安心しな。」

「まあ、そこまで不安には思ってないわよ。」

「ほお、そうかい。」
日ノ内は椅子から立ち、また庭へと戻っていった。

プロフィール

moz84

Author:moz84
Screamerと牛頭鬼八です。岩手県に生まれ、とりあえず生きてます。

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