新潟沖の日本海に浮かぶ粟島の新潟県粟島浦村は4月末、総務省の調査でマイナンバーカードの交付率が100%になった。全国1741市区町村で初めて。マイナカードを巡っては、別人の情報がひも付けされるなどトラブルが相次いでいるが、粟島浦村ではなぜ申請が増えたのか。現地を訪れ、村民に尋ね歩いた。【中津川甫】
6月下旬、県北部の村上市の岩船港から船で北北西に約1時間半。水平線の先に草木の深緑に覆われた箱庭のような粟島に着いた。東西4・4キロ、南北6・1キロで、周囲わずか23キロの漁村。穀物のアワのように小さいため、粟島と名付けられた説が伝わる。
村の人口は6月1日時点で168世帯324人(男159人、女165人)。65歳以上の高齢者は4割を占め、「島民みんなが顔見知り。家族のようだ」(村幹部)というほど人間関係が濃い。
集落は島の東西に1カ所ずつ。東海岸の内浦地区にある観光案内所で自転車を借り、村民にマイナカードを取得した理由を聞いた。
「カードは取ったけれど、使うことがねぇよ」「紛失しないように家のタンスにしまったきりだ」。2日間で30人近くの人に聞いたが、いずれも笑い飛ばす反応が返ってきた。
思い出すように取得して良かったと答えたのは、商店と民宿の経営者や漁師ら。インターネットを使った電子申告システム「e―Tax(イータックス)」で年1回の確定申告をする際、マイナカードがあると手続きが楽になったという。
入力画面で操作が分からなくても村役場に行けば教えてくれる。商店を営む80代の女性は「紙に書いて申請した時よりも早くなった」と感心していた。
ほかにも、運転免許証を取得していない人や自主返納した高齢者からは「マイナカードは写真付きだから、本土に行った時は身分証代わりに使える」(40代の民宿女将)と答える人も複数いた。
マイナカードでは、コンビニで住民票の写しや課税証明書を取得でき便利になるというのが総務省の売りの一つだった。ただ村内にはコンビニはなく、村はそもそもコンビニ取得のサービスを実施していない。「コンビニなどへ支払う手数料が高い」(村幹部)というのが理由だ。マイナカードを持つメリットが村民には現状少ないように思えるが、なぜ手に入れたのだろうか。
きっかけは無料の顔写真撮影
マイナカードの取得時期を聞くと…
この記事は有料記事です。
残り1202文字(全文2169文字)