和歌山県田辺市の資産家で「紀州のドン・ファン」と呼ばれた野崎幸助さん(当時77歳)を急性覚醒剤中毒で死なせたとして、殺人などの罪に問われた元妻、須藤早貴被告(28)の裁判員裁判の判決で、和歌山地裁(福島恵子裁判長)は12日、無罪(求刑・無期懲役)を言い渡した。
「被告は無罪」。福島恵子裁判長が主文を言い渡した瞬間、被告は前を見つめて落ち着いた様子だった。
この日の法廷には、黒のスーツに白いマスク姿で出廷。判決言い渡しの最中は証言台の前に座り、前を向いて聴き入った。手を顔に当てて涙を拭うような仕草をし、弁護人がハンカチを渡す場面もあった。
約40分間の読み上げが終わると、立ち上がって裁判員らに向かって深々と頭を下げ、法廷を後にした。
9月から始まった公判の終盤、被告は3日間に及んだ被告人質問に臨んだ。金銭への執着や野崎さんへの恨み節を語っていた。
「どちらかというと『無』ですかね」。被告は野崎さんが死亡した際の第一発見者で、その時の心境を一言で表現した。「遺産がもらえるまで時間がかかるので面倒」とも言い放った。
結婚した際、野崎さんから毎月100万円を受け取る約束だったことも明らかにした。「ラッキー。うまく付き合っていこうと思った」と振り返り、「遺産目当てだとは誰にも隠していない」と語った。
一方、覚醒剤を巡っては捜査段階で明かしていなかった供述も。「社長から『買ってきてくれませんか』と言われた」と述べ、20万円を手渡されたと説明。「冗談だと思った。買ったことないから放置した」としたが、野崎さんから促されて購入したという。
野崎さんの死亡に関与していないとしたうえで、「(野崎さんが)死にたいと言っていたから自殺の可能性がある」「(覚醒剤の)量を間違えたんじゃないか」と指摘。事件後に「殺人犯扱いをされた」と繰り返したうえで、「(野崎さんには)もうちょっと死に方を考えてほしかった」と言った。【藤木俊治】