増える図書館、活性化の核に 高知の施設は100万人集客
データで読む地域再生
本の貸し出しが中心だった公立図書館の役割が変貌している。少子化と人口流出が進む地方で、地域活性化を担う施設と位置づけられ、施設数は全国で増加傾向だ。高知市中心部の図書館は年100万人超が訪れるテーマパーク級の集客力を誇り、高知県は人口あたりの貸出冊数を10年間で84%伸ばした。地域外からも人を呼び込もうと各地でアイデアを競っている。
文部科学省の社会教育調査によると、全国の公立図書館(一般社団法人などの運営を含む)は2021年10月1日時点で3394施設と10年間で120施設増えた。多くの自治体が財政難から公共サービスを手掛ける施設の統廃合を進める中で、「00年代以降、図書館は地域の情報センターとしての機能を強化」(明治大学の青柳英治教授)し、幅広い層の住民の利用を促している。
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一方、書店の数は急速に減少が続く。出版文化産業振興財団(JPIC)の調査で、書店がない市町村は全国で26%(22年9月時点)にのぼる。公立図書館は「地域の知の拠点」としての役割が一段と増す状況だ。
総事業費約146億円をかけて18年にオープンした高知県・市共同運営の図書館を核とする複合施設「オーテピア」(高知市)は、障害者向け図書館やプラネタリウムがある科学館を併設。県民の知的好奇心に応えようと、これまで利用しなかった層にアプローチし、19年度の来館者は100万人を突破した。蔵書は160万冊超と西日本トップクラスを誇る。
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きめ細かなサービスも特徴だ。司書が定期的に教育機関や企業を訪問し、蔵書やデータベースの利用方法を説明するなどして利用者の開拓を続ける。電子書籍の取り扱いも拡充したほか、市町村立図書館への配本の回数を拡大。施設から離れた住民でも県内の最寄り施設でオーテピアの本を読めるようにし、19年度の貸出冊数は106万冊と14年度比で2倍に拡大した。
同県の山あいにある梼原町は観光客の呼び込みに生かす。町立「雲の上の図書館」は世界的な建築家の隈研吾氏が設計を手掛け、建設費約12億円で18年に開館した。地元産木材をふんだんに使った内外装が特徴。同館をコースに加えたツアーも人気で、週末は台湾の団体客らも目立つ。人口約3000人の同町唯一のホテルは22年の宿泊客が17年比4割以上増えた。
鳥取県立図書館(鳥取市)は起業支援に力を入れる。中小企業診断士らによる創業勉強会を毎月開催し、起業や経営改善など相談内容に応じて適切な専門家らを紹介するサービスを拡充中だ。15年から図書館を活用して起業や商品開発に成功した事例を表彰している。小林隆志館長は「新たなビジネスを生むことで地域の役に立つ姿をみせたい」と意気込む。
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地域の特色を全国発信する拠点として活用する例も増える。江戸時代から続く鍛冶技術で知られる新潟県三条市で22年7月に開業した図書館を核とした複合施設「まちやま」は、本だけでなく地元企業が製造に関わった電動ドリルやかんななどを無料で貸し出す全国初のサービス「まちやま道具箱」を6月に始めた。利用者が地元産製品を購入してくれる効果も期待できる。
1人あたりの貸出冊数が全国トップの滋賀県は、1980年ごろから利用を促進しようと選書などを担当する司書の採用・教育に注力してきた。地域それぞれの思いと工夫が詰まった図書館は、子どもから高齢者まで多様な世代を引きつけ、活性化の中核施設として存在感を増している。
(渡部泰成、上林由宇太、グラフィックス 貝瀬周平)
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